説明

放電加工用電源装置

【課題】極間へのエネルギーの注入と極間状態に応じた電極間の電圧調整を独立に制御することができ、安定した加工状態を得ながら極間状態をモニタリングすること。
【解決手段】スイッチング素子SW1〜SW4を各辺とするフルブリッジのインバータにおいて、エネルギー規定用リアクトルL1の一端をスイッチング素子SW1のソース端子に接続し、エネルギー規定用リアクトルL1の他端をスイッチング素子SW3のソース端子に接続するとともに、エネルギー規定用リアクトルL1の一端は直列共振用リアクトルL2を介して電極2に接続し、エネルギー規定用リアクトルL1の他端は被加工物3に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電加工用電源装置に関し、特に、共振を利用して極間に印加される電圧を制御することが可能な放電加工用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工装置はワイヤ電極と被加工物との間のアーク放電を利用して加工する装置である。比較的加工電流の大きな(例えばパルス幅数マイクロ秒程度)荒加工条件から順々に加工電流を小さくしていき、最終的には電流パルス幅が数十ナノ秒程度になるような仕上げ加工条件を利用して面粗度を向上させる。
【0003】
仕上げ加工条件に用いられる仕上げ電源は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された構成では、電極と被加工物とで形成される極間に並列にコンデンサを設け、電極間と直列にリアクトルを接続している。交流正弦波を用いることで、電極間に存在する浮遊キャパシタンスとリアクトルとに直列共振を誘発させ、高周波電流パルスを電極間に生じさせて面粗度の向上を図る。
【0004】
ただし、電極間隙の浮遊キャパシタンスの値はオープン(非放電)、放電、短絡のそれぞれの状態により変化し、直列共振が得にくくなる。共振から外れると、電極間の電圧は低下し、安定な放電が得られなくなる。
【0005】
特許文献2には、直流電圧を出力する直流電源と、各辺の半導体スイッチング素子からなるブリッジ回路と、電極間隙に並列に接続されたインダクタンス素子とを設けた構成が開示されている。インバータにより交流パルスを印加すると、インダクタンス素子に蓄えられたエネルギーは電極間へと放出され、インダクタンス素子と電極間隙の浮遊キャパシタンスとの間に並列共振が生じる。
【0006】
インダクタンス素子と浮遊キャパシタンスとで並列共振が得られることで、インバータの出力が浮遊成分に影響を受けることなく、直接電極間隙に伝わる。すなわち、電源電圧とほぼ同等の電圧を電極間隙に発生させることができる。また、電極間隙と並列にインダクタンス素子を挿入することで、電極間の平均的な電圧を0Vにできる。電極間に発生する電圧の極性が偏ると、加工液に水を用いる場合には電蝕が生じて加工に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0007】
さらに、被加工物の面粗度の向上を目的として、被加工物が陰極として働く時と、陽極として働く時とで印加電圧や加工電流を異ならせる技術が特許文献1に開示されている。特許文献1では、上記目的のために電流制限用の抵抗値を非対称にしている。
【0008】
特許文献1、2のいずれの方法も共振を利用して高周波パルスを電極間隙に印加し、仕上げ面精度の向上を図るものである。この共振は直列共振でも並列共振でもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−49824号公報
【特許文献2】特開平11−347842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に開示された方法では、直列共振を利用する場合には電極間のインピーダンスの値が変化するため、十分な電圧が電極間隙に印加できないという問題があった。また、十MHz〜数十MHzで動作する高周波電源の多くが、水晶発振器の発振を多段に増幅して高出力化するもので、極間状態が不安定になると、各段の整合が順次崩れるため、電源自体の動作が不安定になるという問題があった。
【0011】
一方、並列共振を利用する場合は、特許文献2に開示される構成ではインバータ出力にインダクタンス素子が挿入され、スイッチング素子のオン時間や直流電源電圧に応じてインダクタンス素子にエネルギーが注入される。このため、インダクタンス素子は電源構成に応じて制約事項が生じるため、電極間の浮遊容量から計算される値をそのまま利用できない可能性があった。
【0012】
また、放電加工装置においては、サーボ送り機構が一般的に使用される。これは極間状態に応じてワイヤ電極を被加工物に接近あるいは退避させ、極間距離が一定の保たれるように設定する。この指標として電極間電圧を平均化した値を用いることが多いが、並列共振を利用すると、極間電圧値の変動が小さくなるため、オープン、放電および短絡の状態を判別しにくくなり、サーボ送り機構が十分に動作できないという問題があった。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電極間へのエネルギーの注入と極間状態に応じた電極間の電圧調整を独立に制御することができ、安定した加工状態を得ながら極間状態をモニタリングすることが可能な放電加工用電源装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の放電加工用電源装置は、電極と被加工物との間の極間にパルス電圧を印加する放電加工用電源装置であって、直流電源と、半導体スイッチング素子が各辺に設けられたブリッジ回路と、前記極間間隙を介することなく前記ブリッジ回路の出力端の間に接続された第1のインダクタンス素子と、前記極間間隙を介して前記ブリッジ回路の出力端の間に接続された第2のインダクタンス素子とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、電極間へのエネルギーの注入と極間状態に応じた電極間の電圧調整を独立に制御することができ、安定した加工状態を得ながら極間状態をモニタリングすることが可能という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態1の概略構成を示す回路図である。
【図2】図2は、図1のスイッチング素子SW1〜SW4の制御信号SC1〜SC4と極間電圧Vgの波形の一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態1の概略構成のその他の例を示す回路図である。
【図4】図4は、短絡、放電およびオープン時の制御信号SC1〜SC4、極間電圧および極間電流の波形を、エネルギー規定用リアクトルL1がない時の波形と比較して示す図である。
【図5】図5は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態2の制御信号SC1〜SC4と極間電圧Vgの波形の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態3の制御信号SC1〜SC4と極間電圧Vgの波形の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態4の概略構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態1の概略構成を示す回路図である。図1において、放電加工用電源装置1は、電極2と被加工物3との間の極間に加工パルスを供給し、被加工物3を加工する。放電加工用電源装置1と極間とはケーブルで接続することができる。
【0019】
放電加工用電源装置1には、直流電源V1、スイッチング素子SW1〜SW4、エネルギー規定用リアクトルL1および直列共振用リアクトルL2が設けられている。なお、直列共振用リアクトルL2は電極2と被加工物3との間の極間の電圧を跳ね上げるように動作し、エネルギー規定用リアクトルL1は電極2と被加工物3との間の極間にエネルギーを注入するように動作することができる。
【0020】
電極2と被加工物3との間の極間間隙は、等価的には浮遊容量Cgと極間抵抗Rgとで模擬することができる。非加工(オープン)状態において、加工液に水を用いる場合は、水が支配的な極間抵抗となり、代表的な値は1kΩ〜数MΩである。放電状態であれば極間にアーク電圧が生じるため、極間抵抗は数mΩから数百Ω程度に変化する。電極2と被加工物3とが接触する短絡状態であれば、電極2と被加工物3との接触抵抗に依存し、数mΩから数Ω程度と考えて良い。一方で、浮遊容量Cgはワイヤ電極2と被加工物3との対向面積や極間距離に依存し、数百pF〜数nF程度である。
【0021】
スイッチング素子SW1〜SW4は、例えばFET(電界効果トランジスタ)またはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を用いることができ、スイッチング素子SW1〜SW4を各辺とするフルブリッジのインバータが構成される。ここで、スイッチング素子SW1、SW4はフルブリッジの一方の対角アームを構成し、スイッチング素子SW2、SW3はフルブリッジの他方の対角アームを構成することができる。
【0022】
エネルギー規定用リアクトルL1はフルブリッジの出力端に設けられており、具体的にはスイッチング素子SW1のソース端子(およびスイッチング素子SW2のドレイン端子)を一端に、スイッチング素子SW3のソース端子(およびスイッチング素子SW4のドレイン端子)を他端に接続する。
【0023】
さらに、エネルギー規定用リアクトルL1の一端は直列共振用リアクトルL2を介して電極2に接続され、エネルギー規定用リアクトルL1の他端は被加工物3に接続される。なお、直列共振用リアクトルL2の挿入位置は電極2とエネルギー規定用リアクトルL1との間である必要はなく、被加工物3とエネルギー規定用リアクトルL1との間でも良い。また、直列共振用リアクトルL2の挿入位置はスイッチング素子SW1のソース端子とエネルギー規定用リアクトルL1の一端との間またはスイッチング素子SW3のソース端子とエネルギー規定用リアクトルL1の他端との間に接続してもよい。
【0024】
スイッチング素子SW1〜SW4は、制御回路(図示せず)から出力される制御信号SC1〜SC4がゲートに入力されることで、制御信号SC1〜SC4に従ってオン/オフ動作を行うことができる。
【0025】
図2は、図1のスイッチング素子SW1〜SW4の制御信号SC1〜SC4と極間電圧Vgの波形の一例を示す図である。図2において、オン時間t1では、スイッチング素子SW1、SW4をオンし、直流電源V1からエネルギー規定用リアクトルL1に電流が流れる。スイッチング素子SW1をオフした瞬間にエネルギー規定用リアクトルL1に蓄えられたエネルギーは極間に出力される。
【0026】
この時のエネルギーは、エネルギー規定用リアクトルL1のインダクタンス値Lとオン時間t1と直流電源V1の電圧値で規定され、通常の非絶縁型昇圧チョッパと同様と考えて良い。ただし、加工面粗度は放電周波数に依存するので、オン時間t1やオフ時間s1は極力短くすることが望ましいし、スイッチング素子SW1〜SW4の耐圧を考慮すれば直流電源V1の電圧値を大きくし過ぎることはできない。すなわち、周波数と直流電源V1の電圧値を定めたときには、出力電圧パルスの形状はエネルギー規定用リアクトルL1のインダクタンス値Lを調整することで行う。
【0027】
図2の例では、インバータの対角アームが同期するように制御信号SC1〜SC4の波形が設定されている。ここで、スイッチング素子SW1〜SW4のオン/オフを複数回連続して繰り返す動作(図2の例では5回)が、インバータの対角アームごとに交互に行われるように、制御信号SC1〜SC4がスイッチング素子SW1〜SW4のゲートに印加される。すなわち、スイッチング素子SW1、SW4のオン/オフが複数回連続して繰り返し行われた後、スイッチング素子SW2、SW3のオン/オフが複数回連続して繰り返し行われている。
【0028】
このような動作を行わせることにより、直列接続されているスイッチング素子同士でアーム短絡となる電流が流れにくくすることができ、スイッチング素子の発熱を抑制することができる。このような動作を行ったとしても、エネルギー規定用リアクトルL1は極間に対して並列に接続されていることから極間に交流パルスが発生し、平均的な極間電圧は0Vに保たれる。
【0029】
なお、スイッチング素子のオン動作が対角アームごとに1回行われるごとに、オン動作する対角アームを交互に入れ替えるようにしてもよい。だだし、高周波で対角アームを交互に切り替えると、直列に接続しているスイッチング素子同士でアーム短絡となる電流が流れやすくなるが、平均的な極間電圧は瞬時に0Vになるため、極間の平均電圧制御が行いやすくなる。
【0030】
また、スイッチング素子SW2、SW3を動作させる時に、スイッチング素子SW2、SW3のオン時間t2およびオフ時間s2は、スイッチング素子SW1、SW4のオン時間t1およびオフ時間s1と異ならせてもよい。あるいは、スイッチング素子SW2、SW3については必ずしも動作をさせる必要はない。
【0031】
つまり、図1の例では、スイッチング素子SW1〜SW4を各辺に配置するフルブリッジ構成としているが、対角だけを利用する構成でもよい。図3のようにスイッチング素子SW2、SW3を取り外して、スイッチング素子SW1、SW4のみを動作させても良い。また、スイッチング素子は1素子だけで放電加工用電源装置1を構成するようにしてもよい。ただし、迅速且つ確実に回路出力と電極間隙とを切り離すには、電極間隙の電極2側と被加工物3側に接続されるスイッチング素子の両方を同時にオン/オフさせることが望ましい。
【0032】
図1において、エネルギー規定用リアクトルL1の両端に発生する電圧は、直列共振用リアクトルL2を介して電極間隙に印加され、エネルギー規定用リアクトルL1および直列共振用リアクトルL2と浮遊容量Cgとの間で共振状態に入る。
【0033】
図4は、短絡、放電およびオープン時の制御信号SC1〜SC4、極間電圧および極間電流の波形を、エネルギー規定用リアクトルL1がない時の波形と比較して示す図である。なお、図4(a)は直列共振用リアクトルL2の値を2μHとした時、図4(b)は直列共振用リアクトルL2の値を0μHとしたときの動作波形を示す。0μHは直列共振用リアクトルが挿入されていない時を想定している。この波形の計算は、浮遊容量Cgを2nFと仮定して放電状態に応じて極間抵抗Rgが適宜変化するものとして行った。
【0034】
具体的には、オープン状態のときは加工液である水の抵抗を考慮して1kΩ、放電時には20Ω、短絡時には5Ωとして、4μsの間隔でそれぞれが切り替わるものとした。オープン時の極間電圧は放電開始電圧を超える必要があることから、100V前後となるように直流電源V1の電圧値を調整した。また、オン時間t1およびオフ時間s1はそれぞれ200nsとして、2.5MHzのパルスを連続して印加することとした。
【0035】
図4(a)において、オープン時には極間電圧は高くなるとともに、放電時および短絡時には極間電圧が低下している。面粗度向上の観点から鑑みた理想的な加工とは、放電した瞬間に電極間電圧が低下し、また放電電流が小さい状態である。オープン時では直列共振状態にあるため、極間電圧は高くなり、放電状態や短絡状態では直列共振が得られなくなるため、電極間電圧が低下し、極間電流も低減する。このため、被加工物3は良好な面粗度が期待できる。
【0036】
また、放電状態からオープン状態への切り替えの際には、極間電圧が定常状態に達するまでに数周期必要である。これは直列共振の成長期間であり、直列共振用リアクトルL2の値で調整することができる。放電加工は単発放電現象の集積であるが、それぞれの放電現象は一発一発が独立していることが望ましい。高周波を印加してもアーク放電が切れずに連続すれば、見かけ上、低周波のパルスを印加しているのと等価である。これは面粗度悪化につながる。従って、確実に一発一発の放電を発生させたり終了させたりする必要がある。放電状態や短絡状態からオープン状態の極間電圧が定常状態に達するまでに数周期の時間を見込んで設計することで、放電が連続しにくくなるため、良好な加工状態が得られる。
【0037】
なお、本実施の形態では、高周波パルスの発生方法として水晶発振を増幅させるものでなく、インバータ回路によるスイッチング動作を利用している。水晶発振を基にしたアナログアンプでは、電極間隙のインピーダンスの変動が各増幅段の整合状態に影響を与えて、大きく出力変動が発生するのに対し、本実施の形態であれば、加工が不安定になったとしても、直流電源V1の値やスイッチングタイミング、エネルギー規定用リアクトルL1の値が規定されているため、比較的安定である。
【0038】
また、共振状態の要素であるインダクタンス値はエネルギー規定用リアクトルL1と直列共振用リアクトルL2との合成で決まる。このため、極間状態が変動した時の影響は直列共振用リアクトルL2とエネルギー規定用リアクトルL1とに分散し、エネルギー規定用リアクトルL1の両端に発生する電圧(電流)の極間状態による変動を小さくすることができる。
【0039】
一方、図4(b)において、直列共振用リアクトルL2の値が0μHの場合、エネルギー規定用リアクトルL1と極間の浮遊容量Cgとの間で並列共振が生じる。極間電圧は極間インピーダンスの影響を受けにくく、電圧変動幅は小さい。これはサーボ送り機構のための極間状態のセンシングの観点から不利である。サーボ送り機構は極間がオープン状態であれば極間距離を狭めるように動作し、極間が短絡状態であれば極間距離を広げるように動作する。この極間状態の指標には極間電圧を平均化した値を用いることで、構成を簡便化することができる。従って、図4(a)の直列共振を利用することで、図4(b)の直列共振を利用しない方法に比べて、放電状態の電圧変動幅を短絡状態の電圧変動幅より大きくし、さらにオープン状態の電圧変動幅を放電状態の電圧変動幅より大きくすることができる。
【0040】
また、並列共振では電圧が一定のまま、電流が共振状態として変化する。図4(b)はこの状態を示しており、短絡時に流れる電流は大きい。この状態は加工面を荒らすため加工品質の低下につながる。例えば、スラッジを介して電極間隙が短絡している場合、大きな短絡電流により電極間隙中のスラッジがジュール加熱されてプラズマ化し、被加工物3の表面が不必要に荒らされる可能性がある。従って、短絡電流は放電電流と同等か、それ以下にすることが望ましい。図4(a)の直列共振を利用することで、図4(b)の直列共振を利用しない方法に比べて、短絡電流値を小さくすることができ、加工品質を向上させることができる。
【0041】
放電開始は極間電圧で決まり、加工エネルギーは放電電流で決まる。このため、オープン状態では電圧が大きく、放電(短絡)状態では電流が小さくなることが、面粗度が向上し、放電が安定に発生する条件である。上述のことから、直列共振の要素を少なからず含めることが良好な加工品質を得るための加工電源の要素である。本実施の形態で示すように、加工エネルギーを規定するためのエネルギー規定用リアクトルL1と直列共振を誘起するための直列共振用リアクトルL2を分離し、電源構成や印加周波数からエネルギー規定用リアクトルL1の値を定めると共に、放電の発生と極間状態の安定性、極間状態のモニタリングの観点から直列共振用リアクトルL2の値を選定すれば、並列共振の加工電源の安定性と直列共振の加工状態の安定性を両立させることができる。
【0042】
実施の形態2.
図5は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態2の制御信号SC1〜SC4と極間電圧Vgの波形の一例を示す図である。なお、以下の説明では、放電加工用電源装置として図1の構成を用いた場合を例にとる。
【0043】
図5において、電極間隙への電力調整は直流電源V1の電圧値で行うことができるが、エネルギー規定用リアクトルL1へのエネルギーの投入は1/2*L*Iで定まる。また、電流Iは抵抗成分を無視すればV*t/Lで規定することができる。ただし、Lはエネルギー規定用リアクトルL1のインダクタンス値、Iはエネルギー規定用リアクトルL1に流れる電流、tはスイッチング素子SW1〜SW4のオン時間、Vは直流電源V1の電圧値である。
【0044】
このようにスイッチング素子SW1〜SW4のオン時間を変えれば、エネルギー規定用リアクトルL1から放出されるエネルギーを調整することができる。このため、電極間の状態検出速度が十分に速ければ、放電1回ごとの極間状態に応じてエネルギーの調整も可能である。
【0045】
本実施の形態では、オープン状態が長く続いた時にスイッチング素子SW1〜SW4のオン時間を短くすることで、極間電圧を低くする方法について説明するが、スイッチング素子SW1〜SW4のオン時間の制御はこれ以外の方法にも適用することができる。例えば、加工環境に応じてオープン状態が長く続いた時に極間電圧を高めてもよいし、短絡状態や放電状態を検出してスイッチング素子SW1〜SW4のオン時間を制御するようにしてもよい。
【0046】
例えば、仕上げ加工時において、非放電時に高電圧を印加すると、静電引力により被加工物3の側面にワイヤ電極が引っ張られ、加工形状が悪化することがある。ワイヤ電極の進行方向に対して放電しないのであれば、高電圧を不要に印加せず、極間電圧を下げ、放電開始とともに元の極間電圧に戻すことで、ワイヤ電極の進行方向に対する有効放電率を高めることができる。
【0047】
図5の例では、対角アームのオン動作を半周期ごとに交互に切り替える方法について示した。ここで、期間Aとはオープン状態が連続した時である。この時の極間電圧の平均値、あるいはその微分値を検出することでオープン状態が連続していることを検知することができる。期間Bでは、この検知結果を受けてスイッチング素子SW1〜SW4のオン時間をt1からt2へと移行させる。なお、スイッチング素子SW1〜SW4のオン時間の変化は数段階を経るようにしてもよい。周波数は直列共振周波数で定めているため、周期を一定のままオンパルス幅のみを変化させる。
【0048】
この結果、期間Bにおける極間電圧Vgは期間Aに比べて低下する。ここで、期間B’において放電を検出する。放電検出は放電電流を検出してもよいし、極間電圧の微分変化を検出してもよい。放電が開始すると、極間電圧Vgを高めるために、期間A’へと移行し、オン時間はt2からt1へと戻る。なお、期間A’では放電が連続している様子を示している。
【0049】
スイッチング素子SW1〜SW4のオン時間の制御は、極間の短絡時に行うようにしてもよい。例えば、期間Aにおけるオン時間t1で過大な短絡電流を検出し、期間Bにおいてオン時間をt1からt2に変化させることでオンパルス幅を狭め、エネルギー規定用リアクトルL1への投入電力を小さくすれば、短絡電流を回避し、不要な面粗度悪化を防ぐことができる。
【0050】
このように、ワイヤ材質やワイヤ径、被加工物3の材質や板厚、加工形状などの加工環境や加工状態により、求められる最適な加工制御動作は異なるが、本実施の形態1で示した回路構成を用いることで、本実施の形態2で説明したように、直流電源V1の電圧値を一定に維持したまま、スイッチング素子SW1〜SW4のパルス幅を制御することができ、加工品質を向上させることができる。
【0051】
実施の形態3.
図6は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態3の制御信号SC1〜SC4と極間電圧Vgの波形の一例を示す図である。なお、以下の説明では、放電加工用電源装置として図1の構成を用いた場合を例にとる。
【0052】
図6において、放電加工においては、アーク熱は陰極と陽極とで異なるため、同一材質の電極であれば陽極の消耗が大きく、陰極の消耗は小さいことが知られている。つまり、陽極の方が陰極に比べて加工されやすい。このため、交流パルスを印加する放電加工機において、被加工物3の面粗度を向上するためには、被加工物3が陽極として働く時の電圧値を高く、陰極として働くときの電圧値を低く設定すればよい。ただし、これらはあくまでも陰極と陽極が同一材質の場合であり、実際に同一材質を用いることは少ない。すなわち実際の加工環境に応じて陰極として働く時の電圧と陽極として働く時の電圧を適宜異ならせることが望ましい。
【0053】
本実施の形態4では、スイッチング素子SW1、SW4の対角アームとスイッチング素子SW2、SW3の対角アームとでオンパルス幅を異ならせるような動作を行う。例えば、スイッチング素子SW1、SW4のオン期間をt1、スイッチング素子SW2、SW3のオン期間をt2とすると、t1>t2となるように設定することができる。エネルギー規定用リアクトルL1に蓄えられるエネルギーはオン期間t1とオン期間t2とでは異なるため、出力波形も非対称となる。
【0054】
ただし、極間の浮遊容量Cgに対してエネルギー規定用リアクトルL1は並列に接続されていることから平均的な極間電圧は0Vである。図6では、低電圧長パルスと高電圧短パルスの波形として、正負の面積が同一となるように調整された例を示しているが、平均的に0Vとなる周期は、エネルギー規定用リアクトルL1および直列共振用リアクトルL2のインダクタンス値に依存する。
【0055】
このように、スイッチング素子SW1、SW4の対角アームとスイッチング素子SW2、SW3の対角アームとでオンパルス幅を異ならせることにより、電流制限抵抗を用いることなく、電極間電圧Vgを非対称にすることができ、簡単な構成で放電加工特性を向上させることができる。
【0056】
実施の形態4.
図7は、本発明に係る放電加工用電源装置の実施の形態4の概略構成を示す回路図である。図7において、放電加工用電源装置11には、直流を交流に変換するスイッチング素子SW11が1素子だけ設けられている。また、エネルギー規定用リアクトルL11は一端がスイッチング素子SW11のソース端子に接続され、他端が直流電源V11の低電圧側に接続され、直列共振用リアクトルL12を介して極間と並列接続されている。また、直列共振用リアクトルL12は、一端がエネルギー規定用リアクトルL11の一端に接続され、他端が電極2に接続されている。なお、直列共振用リアクトルL12を被加工物3側に接続するようにしてもよい。
【0057】
このような回路構成とすることで、スイッチング素子SW11の個数を低減しつつ、加工エネルギーをエネルギー規定用リアクトルL11で定め、放電の安定性や極間状態のモニタリングの容易性を直列共振用リアクトルL12で定めることができ、加工電源の安定性と加工状態の安定性を両立させることができる。
【0058】
なお、本実施の形態4では、スイッチング素子SW11のドレイン端子が直流電源V11のプラス端子と接続された構成を例にとったが、スイッチング素子SW11のソース端子を直流電源V11のマイナス端子に接続するようにしてもよい。この場合は、スイッチング素子SW11のドレイン端子がエネルギー規定用リアクトルL11の一端と接続される。この回路構成であれば、スイッチング素子のゲートを制御するゲート回路がGND電位(直流電源V11と同電位)を基準として設計することができ、回路の低コスト化を図ることができる。
【0059】
また、上述した実施の形態1〜4のエネルギー規定用リアクトルL1、L11および直列共振用リアクトルL2、L12は、特定のインダクタンス値を持つものであればどのような素子を用いてもよく、トランスを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように本発明に係る放電加工用電源装置は、電極間へのエネルギーの注入と極間状態に応じた電極間の電圧調整を独立に制御することができ、良好な面粗度の加工を安定して行う方法に適している。
【符号の説明】
【0061】
1、11 放電加工用電源装置
2 電極
3 被加工物
V1、V11 直流電源
SW1〜SW4、SW11 スイッチング素子
L1、L11 エネルギー規定用リアクトル
L2、L12 直列共振用リアクトル
Cg 浮遊容量
Rg 極間抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と被加工物との間の極間にパルス電圧を印加する放電加工用電源装置であって、
直流電源と、
半導体スイッチング素子が各辺に設けられたブリッジ回路と、
前記極間間隙を介することなく前記ブリッジ回路の出力端の間に接続された第1のインダクタンス素子と、
前記極間間隙を介して前記ブリッジ回路の出力端の間に接続された第2のインダクタンス素子とを備えることを特徴とする放電加工用電源装置。
【請求項2】
前記ブリッジ回路は、フルブリッジ回路であり、
前記スイッチング素子のパルスオン時間は、前記フルブリッジ回路の対角アームごとに異なることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電源装置。
【請求項3】
前記ブリッジ回路は、フルブリッジ回路であり、
前記スイッチング素子のオン動作は、前記フルブリッジ回路の対角アームごとに交互に行われることを特徴とする請求項1または2に記載の放電加工用電源装置。
【請求項4】
前記ブリッジ回路は、フルブリッジ回路であり、
前記スイッチング素子のオン/オフを複数回連続して繰り返す動作が、前記フルブリッジ回路の対角アームごとに交互に行われることを特徴とする請求項1または2に記載の放電加工用電源装置。
【請求項5】
電極と被加工物との間の極間にパルス電圧を印加する放電加工用電源装置であって、
第1のスイッチング素子と、
第2のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との間に直列に接続された第1のインダクタンス素子と、
前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子と前記第1のインダクタンス素子との直列回路に並列に接続された直流電源と、
前記極間間隙と直列になるように一端が接続され、第1のインダクタンス素子の一端または他端に他端が接続された第2のインダクタンス素子とを備えることを特徴とする放電加工用電源装置。
【請求項6】
電極と被加工物との間の極間にパルス電圧を印加する放電加工用電源装置であって、
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子に直列接続された第1のインダクタンス素子と、
前記スイッチング素子と前記第1のインダクタンス素子との直列回路に並列に接続された直流電源と、
前記極間間隙と直列になるように一端が接続され、前記スイッチング素子と前記第1のインダクタンス素子との接続点に他端が接続された第2のインダクタンス素子とを備えることを特徴とする放電加工用電源装置。
【請求項7】
電極と被加工物との間の極間にパルス電圧を印加する放電加工用電源装置であって、
直流電源と、
スイッチング素子のスイッチング動作に基づいて、前記直流電源からの直流を交流に変換するインバータと、
前記極間の容量との間で直列共振を発生させる第1のインダクタンス素子と、
前記極間の容量との間で並列共振を発生させる第2のインダクタンス素子を備えることを特徴とする放電加工用電源装置。
【請求項8】
前記第1のインダクタンス素子は前記極間の電圧を跳ね上げるように動作し、前記第2のインダクタンス素子は前記極間にエネルギーを注入するように動作することを特徴とする請求項6に記載の放電加工用電源装置。
【請求項9】
放電開始時に直列共振状態にあり、放電開始後に直列共振から並列共振に移行することを特徴とする請求項6に記載の放電加工用電源装置。
【請求項10】
前記極間の放電状態に応じて前記スイッチング素子のパルスオン時間を変更することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の放電加工用電源装置。
【請求項11】
前記極間のオープン状態が所定時間以上続いた時に前記パルスオン時間を長くし、放電開始時に前記パルスオン時間を元に戻すことを特徴とする請求項9に記載の放電加工用電源装置。
【請求項12】
前記極間の短絡時に前記パルスオン時間を放電時に比べて短くすることを特徴とする請求項9に記載の放電加工用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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