放電灯
【課題】長期間にわたり安定した放電を行うことを可能にする。
【解決手段】水素を含む放電用ガス12が封入された外囲器2と、外囲器内に設けられ、陰極支持体6、陰極支持体の表面に設けられたダイヤモンドの電子放出膜7、および陰極支持体に接するとともに電子放出膜に近接して設けられた水素含有膜8をそれぞれ有する一対の陰極5a、5bと、を備えている。
【解決手段】水素を含む放電用ガス12が封入された外囲器2と、外囲器内に設けられ、陰極支持体6、陰極支持体の表面に設けられたダイヤモンドの電子放出膜7、および陰極支持体に接するとともに電子放出膜に近接して設けられた水素含有膜8をそれぞれ有する一対の陰極5a、5bと、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯に関し、特に冷陰極放電灯に関する。
【背景技術】
【0002】
放電灯は、全照明光源の約半数を占める産業上、生活上重要な技術であり、近年、特に冷陰極型の放電蛍光灯が液晶ディスプレイのバックライト光源として、急激に生産が拡大している。
【0003】
冷陰極型の放電灯は、熱陰極型の放電灯に比べて、発光効率が低いという問題がある。しかし、Ni、Mo等の金属電極の換わりに導電性を有するダイヤモンド電極を用いることで、発光効率の改善を図ることが可能であり、消費電力の低減に寄与することができる。
【0004】
ダイヤモンドはワイドバンドギャップの半導体であるため、ダイヤモンド/真空界面におけるエネルギー差(=電子親和力)が小さい。そのため、ダイヤモンドは他材料と比べて高い電子放出能を有する。ダイヤモンドの表面を水素で終端すると、電子親和力が負となる負性電子親和力を示し、さらに高い電子放出能を持つようになる。長期間にわたり、水素で終端したダイヤモンド電極の高い電子放出能を維持するためには、放電ガス中へ微量の水素ガスを添加し、そのガス分圧を一定に保持しておく必要がある。
【0005】
従来、放電灯の外囲器内に水素吸蔵合金を設置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合、水素放出量が温度、圧力に大きく依存すること、および放電灯の状態如何にかかわらず常に水素放出が起きることなど、制御性に欠け、長期間にわたり安定した放電を行うことができないという問題がある。
【特許文献1】特開2005−108564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、長期間にわたり安定した放電を行うことのできる放電灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による放電灯は、水素を含む放電用ガスが封入された外囲器と、前記外囲器内に設けられ、陰極支持体、前記陰極支持体の表面に設けられたダイヤモンドの電子放出膜、および前記陰極支持体に接するとともに前記電子放出膜に近接して設けられた水素含有膜をそれぞれ有する一対の陰極と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による放電灯を図1に示す。本実施形態の放電灯1は、冷陰極を用いた放電灯であり、内面に蛍光体4が塗布された透明な細長いガラス管(外囲器)2と、このガラス管2内に封入された一対の冷陰極5a、5bと、これらの冷陰極5a、5bと外囲器2の外部の電源とを電気的に接続されるリード線10a、10bと、ガラス管2内に封入された封止ガス12と、を備えている。
【0011】
冷陰極5a、5bはそれぞれ、リード線10a、10bと電気的に接続する金属例えばタングステン(W)からなる陰極支持体6と、この陰極支持体6の表面に設けられる単結晶または多結晶のダイヤモンドからなる電子放出膜7と、陰極支持体6に接するとともに電子放出膜7に近接して設けられた水素含有膜8と、を備えている。本実施形態に係るこれらの冷陰極の平面図および断面図を図2(a)、2(b)に示す。図2(a)、2(b)に示すように、陰極支持体6は、円板形状の本体部61と、本体部61をリード線10a、10bに接続する接続部62と、を備えている。本体部61の、接続部62が設けられた側と反対側の面の中央部に電子放出膜7が形成され、この電子放出膜7の周囲を取り囲むように水素含有膜8が形成されている。
【0012】
本実施形態においては、水素含有膜8として水素含有炭素系材料(例えば、水素化アモルファスカーボン等)が用いられる。また、封止ガス12として、希ガス(アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)等)またはこれらの混合希ガスと、水銀と、微量の水素を含むガスが用いられる。水素はガス分圧が200ppm程度であることが望ましく、1%以上含む場合は放電効率が小さくなる。
【0013】
本実施形態の放電灯において、リード線10a、10bを交流電源に接続し、交流電圧を印加すると、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の表面に強い電界が発生し、この電界によりガラス管2内の残存電子がガラス管2内を高速に移動するとともに、電子放出膜7の表面から電子が放出される。そして、残存電子が、正の電位が印加された側の冷陰極に引かれて高速に移動する間に希ガスあるいはこれらの混合ガスに衝突する。この衝突により増殖した陽イオンが冷陰極5a、5bに衝突し、冷陰極5a、5bから2次電子が放出されてプラズマが発生し、放電が開始する。この放電により流れる電子および陽イオンは水銀原子と衝突する。これらの衝突により水銀原子はエネルギーを受け、紫外線を放出する。この紫外線により蛍光体4が励起され可視光線を発生する。発光色は蛍光体の種類によって異なり、白色、昼光色、青色など数々の色種の光が放電灯1から放射される。
【0014】
次に、本実施形態の放電灯の効果を図3(a)乃至3(c)を参照して説明する。
【0015】
放電灯の動作時、ガラス管2内の水素ガス分圧が規定値であれば、図3(a)に示すように、陰極グロー放電プラズマ20は、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の直上にのみ発生し、水素含有膜8のエッチングは起きず、水素含有膜8からの水素放出も発生しない。しかし、ガラス管2内の水素ガス分圧が減少すると、ダイヤモンドからなる電子放出膜7からの電子放出量が減少するため、その減少量を補填するためにプラズマ20が拡がっていく。そして、図3(b)に示すように、プラズマ20が水素含有膜8の直上にまで達すると、水素含有膜8のプラズマ20によるエッチングが始まり、水素含有膜8から水素が矢印21に示すように放出される。この水素放出により、ガラス管2内の水素のガス分圧が規定量まで回復していくと、ダイヤモンドからなる電子放出膜7からの電子放出量も回復し、プラズマ20も小さくなっていくため、水素含有膜8のエッチングが止まり、水素含有膜8からの水素放出も停止する(図3(c)参照)。
【0016】
以上説明したように、本実施形態においては、ガラス管2内の水素のガス分圧が低下したときのみ水素含有膜のエッチングが起き、ガラス管2内の水素の減少量を補填する。このため、ガラス管2(外囲器2)内における水素のガス分圧を一定に保持することが可能となり、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0017】
なお、水素含有膜8は必ずしも炭素系材料である必要はないが、放電灯1内の汚染、水銀や水素との化合物形成等を勘案すると、炭素系材料が望ましい。また、水素含有膜8として炭素系材料を用いた場合、炭素原子同士の結合様式(sp2およびsp3)の比を比較的容易に変化させることができ、これによりプラズマによるエッチング速度、すなわち水素放出速度、を制御することが可能であるという利点がある。
【0018】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極の製造方法の第1の例を図4(a)乃至図4(e)を参照して説明する。
【0019】
まず、Wからなる陰極本体部6aを、ダイヤモンド微粉を懸濁させた有機溶媒32中で超音波処理し(図4(a))、陰極支持体6aの表面にいわゆるダイヤ成長核34の種付け処理をする(図4(b))。なお、図4(a)において、符号30は、有機溶媒32が入る容器30を示す。
【0020】
続いて、マイクロ波CVD等により陰極本体部6a上にダイヤモンドからなる電子放出膜7を形成する(図4(c))。この形成の際に、メタン、水素などの通常ガスに加えて、ボロン或いはリン等のドーピングガスを加えることによって、導電性を付与された電子放出膜7とすることが望ましい。また、窒素ガスを高濃度に加えること等によって、電子放出膜7に加えて、グラファイトのような導電性介在物相を意図的に生成させ、膜としての導電性を向上させることも有効である。
【0021】
次に、別途用意した、ドーナツ形状の陰極本体部6b上に、成膜条件を変えて炭素系材料からなる水素含有膜8を形成する(図4(d))。水素含有量30%〜50%、sp3/sp2比〜1、膜厚が0.1μm〜1μm程度の水素化アモルファスカーボンが典型的な水素含有炭素系材料である。その後、二つの陰極本体部6a、6bを、それぞれの底面が同一面となるように、例えば溶接等で接合することで、本体部61が完成する。どの後、この本体部61にリード線との接続するための接続部(図示せず)を形成して陰極支持体6を完成する。
【0022】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極の製造方法の第2の例を図5(a)乃至図5(d)を参照して説明する。
【0023】
まず、Wからなる本体部61を、ダイヤモンド微粉を懸濁させた有機溶媒32中で超音波処理し(図5(a))、本体部61の表面にいわゆるダイヤ成長核34の種付け処理をする(図5(b))。なお、図5(a)において、符号30は、有機溶媒32が入る容器30を示す。
【0024】
続いて、マイクロ波CVD等により本体部61上にダイヤモンドからなる電子放出膜35を形成する(図5(c))。この形成の際に、メタン、水素などの通常ガスに加えて、ボロン或いはリン等のドーピングガスを加えることによって、導電性を付与された電子放出膜35とすることが望ましい。また、窒素ガスを高濃度に加えること等によって、電子放出膜35に加えて、グラファイトのような導電性介在物相を意図的に生成させ、膜としての導電性を向上させることも有効である。
【0025】
その後、図5(d)に示すように、遮蔽板36を用いて、電子放出膜35の外周部のみに水素イオン38の注入を行い、中央部にダイヤモンドの電子放出膜7を形成するとともに、この電子放出膜7の周囲に水素が含有された炭素のアモルファス膜8を形成する。
【0026】
これらの製造方法によって製造された冷陰極を放電灯に用いれば、ガラス管2内の水素のガス分圧が低下したときのみ水素含有膜のエッチングが起き、ガラス管2内の水素の減少量を補填することができる。このため、ガラス管2(外囲器2)内における水素のガス分圧を一定に保持することが可能となり、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の放電灯を、図6を参照して説明する。図6は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Aの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図6に示す冷陰極5Aに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Aは、図2に示す第1実施形態に係る冷陰極5a、5bにおいて、本体部61の、電子放出膜7が形成される領域の周囲の領域上に、電子放出膜7から本体部の外周に向かって傾斜した金属(例えば、W)からなる傾斜部63が設けられた陰極支持体6Aを有し、この傾斜部63上に水素含有膜8を形成した構成となっている。
【0028】
本実施形態のように、電子放出膜7が形成される領域の周囲の領域上に傾斜部63を設けたことにより、プラズマによる水素含有膜8のエッチングがある程度進行している状況においてもプラズマとの接触面積が変化せず、水素放出量が一定に保持される。これにより、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0029】
なお、傾斜部63の傾斜角度は、45度以上90度以下であることが好ましい。
【0030】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の放電灯を、図7(a)、7(b)を参照して説明する。図7(a)および図7(b)は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Bの平面図および断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図7(a)、7(b)に示す冷陰極5Bに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Bは、図2に示す第1実施形態に係る冷陰極5a、5bにおいて、本体部61を円柱状の金属(例えば、W)からなる本体部6a1に置き換えた陰極支持体6Bを有し、この本体部6a1の上面に電子放出膜7を設けるとともに本体部6a1の側面に水素含有膜8を形成した構成となっている。
【0031】
一般に、プラズマは陰極の本体部の形状に沿う形で拡がるという性質を有しているので、本実施形態のように構成することにより、プラズマが水素含有膜8を上部から順次エッチングするようになる。このため、水素含有膜8の膜厚により水素放出量を厳密に制御することが可能となり、ガラス管2内の水素のガス分圧を一定に保持することができる。これにより、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0032】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Bの製造方法を説明する。
【0033】
まず、本体部6a1の全面にマスク材を成膜する。マスク材として1000℃程度の耐熱性、水素、ドーピングガスに対する耐性、および後工程の化学エッチング時における本体部6a1との十分な選択比などを有する材料、例えばSiO2等が望ましい。本体部6a1の上面のマスク材のみ化学エッチングで除去し、本体部6a1の上面を露出させる。その後、第1実施形態で説明したと同様の工程を用いて、本体部6a1の上面にダイヤモンド成長核の種付け処理を行う。続いて、本体部6a1の側面のマスク材を除去することで、上面にのみダイヤモンドからなる電子放出膜7を形成させることができる。
【0034】
次に、形成したダイヤモンドからなる電子放出膜7上にマスク材を再度成膜し、成膜条件を変えて、本体部6a1の側面に水素含有炭素系材料からなる膜8を形成する。このとき、マスク材上にも水素含有炭素系材料からなる薄膜が形成されるが、マスク材を化学エッチングすることで水素含有炭素系材料からなる上記薄膜をリフトオフで除去する。最後に水素プラズマ処理を短時間行い、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の表面を水素終端し、冷陰極5Bを完成する。
【0035】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の放電灯を、図8を参照して説明する。図8は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Cの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図8に示す冷陰極5Cに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Cは、円板状の金属(例えば、W)からなる本体部61と、この本体部61と図1に示すリード線10a、10bとを電気的に接続する金属(例えば、W)からなる接続部62と、接続部62が設けられた側と反対側の本体部61の面上に設けられた円筒状の側壁部64とを有する陰極支持体6Cを備えている。本体部61と側壁部64とでカップの形状を構成し、本体部61の上面が上記カップの底面でかつ側壁部64が上記カップの側壁となっている。なお、側壁部64は本体部61の上面に実質的に垂直な方向に延在するように形成されている。そして、冷陰極5Cは、上記カップの側壁の内面すなわち円筒状の側壁部64の内面にダイヤモンドからなる電子放出膜7が形成され、上記カップの側壁の底面すなわち、本体部61の上面に、例えば水素含有炭素系材料からなる水素含有膜8が形成された構成を有している。なお、本実施形態において、ガラス管2内の水素のガス分圧が規定量のときにプラズマが底部まで拡がらないようにダイヤモンドからなる電子放出膜7の長さ(カップの深さ方向の長さ)を調整しておく。
【0036】
このよう構成としたことにより、水素のガス分圧が規定値より低下すると、プラズマはダイヤモンドからなる電子放出膜7に沿って底部方向に拡がっていき水素含有炭素系材料からなる水素含有膜8をエッチングする。すると、水素含有膜8から水素が放出される。ガラス管2内の水素のガス分圧の回復後は、プラズマは水素含有膜8に接触しなくなる。このため、カップの底部に水素含有膜8を配置することにより、プラズマの接触面積を常に一定にすることが可能になる。これにより、ガラス管2内の水素のガス分圧を一定に保持することができる。これにより、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0037】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極の製造方法を説明する。
【0038】
まず、陰極支持体6Cの外側の全面に第3実施形態と同様のマスク材を成膜したあと、ダイヤモンド成長核の種付け処理を行う。マスク材を化学エッチング除去し、ダイヤモンド膜を形成する。その後、カップの内径(側壁部64の内径)よりわずかに小さい遮蔽板をカップの直上に配置し、プラズマCVDを用いて水素含有炭素系材料からなる膜8を成膜する。この際、イオン引き出し電極を用いてイオンを加速し直進性を持たせることで、カップの底部にのみ成膜させることができる。このとき、カップの底部に形成されていたダイヤモンド膜はアモルファス膜となり水素含有炭素系材料からなる膜の一部となる。また水素含有炭素系材料からなる膜の他の製法は、同様の遮蔽板を用いて、水素イオン注入により水素含有炭素系材料からなる膜8を形成してもよい。最後に水素プラズマ処理を短時間行い、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の表面を水素終端し、冷陰極5Cを完成する。
【0039】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態の放電灯を、図9を参照して説明する。図9は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Dの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図8に示す冷陰極5Dに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Dは、第4実施形態に係る冷陰極5Cのカップ形状の陰極支持体6Cを有し、この冷陰極6Cのカップの底面および内側面にダイヤモンドからなる電子放出膜7が形成され、カップの外側面に水素含有膜8が形成された構成を備えている。
【0040】
このような構成としたことにより、通常の状態(ガラス管2内の水素のガス分圧が規定値の状態)では、プラズマはカップ内に発生するが、電子放出膜7からの電子放出量が減少すると、プラズマは外壁面へと拡がる。これにより水素含有膜8を上部から順次エッチングし、水素含有膜8から水素が放出され、ガラス管内の水素のガス分圧は一定に保たれる。このため、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る冷陰極の製造方法を説明する。
【0042】
まず、カップ状の陰極支持体6Cの内側の面全面に、選択的にダイヤモンド成長核の種付け処理を行い、ダイヤモンドからなる電子放出膜7を形成する。次に、カップ状の陰極支持体6C内をマスク材で満たす、或いはカップ状の陰極支持体6Cを逆に置いた状態で、成膜条件を変えてカップ状の陰極支持体の外側の面に水素含有炭素系材料からなる膜8を形成する。なお、上記マスク材は化学エッチングで除去する。
【0043】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態の放電灯を、図10を参照して説明する。図10は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Eの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図8に示す冷陰極5Eに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Eは、第4実施形態に係る冷陰極5Dにおいて、カップ形状の陰極支持体6Cの外側面と水素含有膜8との間にもダイヤモンドからなる電子放出膜7を設けた構成となっている。
【0044】
プラズマは導電体に沿って拡がる性質をもっているので、本実施形態のような構成とすることによって、陰極支持体6Cの外側面へのプラズマの拡がりが更に促進される。これにより水素含有膜8を上部から順次エッチングし、水素含有膜8から水素が放出され、ガラス管内の水素のガス分圧は一定に保たれる。このため、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0045】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態の放電灯を、図11を参照して説明する。図11は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Fの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図11に示す冷陰極5Fに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Fは、図8に示す第4実施形態に係る冷陰極5Cにおいて、カップ形状の陰極支持体6Cの外側面にもダイヤモンドからなる電子放出膜7を設けた構成となっている。
【0046】
このような構成とすることにより、陰極支持体6Cの外側面へのプラズマの拡がりが更に促進される。これにより水素含有膜8を上部から順次エッチングし、水素含有膜8から水素が放出され、ガラス管内の水素のガス分圧は一定に保たれる。このため、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0047】
上記第1乃至第7実施形態においては、陰極支持体の表面に、単結晶または多結晶のダイヤモンドからなる電子放出膜を形成し、さらに上記陰極支持体に接するとともに電子放出膜7に近接して、水素を含む炭素系材料(水素化アモルファスカーボン、カーボンナノチューブなど)からなる水素含有膜を形成した構成を備えている。このような構成を備えていることにより、放電プラズマにより水素含有膜がエッチングされることで水素が供給され、ガラス管内の水素の分圧を一定に保つことが可能となる。これにより、ダイヤモンドからなる電子放出膜の陰極としての高い電子放出能を維持することが可能となり、放電灯の低消費電力化および長寿命化を実現することができる。
【0048】
また、水素とともに放出される炭素はガラス管の壁面に付着した場合はガスバリア性を有する薄膜となり、ダイヤモンドからなる電子放出膜上に付着した場合も、ダイヤモンドと同元素であるため、汚染物にはならない。さらに、希ガスとともに多くの放電管において用いられている水銀蒸気と炭素系はアマルガムなどの合金を作ることがなく、取り込みによる水銀蒸気の消耗も少ない。これらが相まって、長寿命或いは水銀封入量の低減などの効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態による放電灯の断面図。
【図2】第1実施形態の放電灯に係る冷陰極を示す図。
【図3】第1実施形態の放電灯の効果を説明する図。
【図4】第1実施形態の放電灯に係る冷陰極の第1の製造方法を説明する図。
【図5】第1実施形態の放電灯に係る冷陰極の第2の製造方法を説明する図。
【図6】第2実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図7】第3実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図8】第4実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図9】第5実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図10】第6実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図11】第7実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 放電灯
2 ガラス管(外囲器)
4 蛍光体
5a 冷陰極
5b 冷陰極
5A 冷陰極
5B 冷陰極
5C 冷陰極
5D 冷陰極
5E 冷陰極
5F 冷陰極
6 陰極支持体
6A 陰極支持体
6B 陰極支持体
6C 陰極支持体
61 本体部
62 接続部
63 傾斜部
64 側壁部
7 電子放出膜
8 水素含有膜
10a リード線
10b リード線
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯に関し、特に冷陰極放電灯に関する。
【背景技術】
【0002】
放電灯は、全照明光源の約半数を占める産業上、生活上重要な技術であり、近年、特に冷陰極型の放電蛍光灯が液晶ディスプレイのバックライト光源として、急激に生産が拡大している。
【0003】
冷陰極型の放電灯は、熱陰極型の放電灯に比べて、発光効率が低いという問題がある。しかし、Ni、Mo等の金属電極の換わりに導電性を有するダイヤモンド電極を用いることで、発光効率の改善を図ることが可能であり、消費電力の低減に寄与することができる。
【0004】
ダイヤモンドはワイドバンドギャップの半導体であるため、ダイヤモンド/真空界面におけるエネルギー差(=電子親和力)が小さい。そのため、ダイヤモンドは他材料と比べて高い電子放出能を有する。ダイヤモンドの表面を水素で終端すると、電子親和力が負となる負性電子親和力を示し、さらに高い電子放出能を持つようになる。長期間にわたり、水素で終端したダイヤモンド電極の高い電子放出能を維持するためには、放電ガス中へ微量の水素ガスを添加し、そのガス分圧を一定に保持しておく必要がある。
【0005】
従来、放電灯の外囲器内に水素吸蔵合金を設置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合、水素放出量が温度、圧力に大きく依存すること、および放電灯の状態如何にかかわらず常に水素放出が起きることなど、制御性に欠け、長期間にわたり安定した放電を行うことができないという問題がある。
【特許文献1】特開2005−108564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、長期間にわたり安定した放電を行うことのできる放電灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による放電灯は、水素を含む放電用ガスが封入された外囲器と、前記外囲器内に設けられ、陰極支持体、前記陰極支持体の表面に設けられたダイヤモンドの電子放出膜、および前記陰極支持体に接するとともに前記電子放出膜に近接して設けられた水素含有膜をそれぞれ有する一対の陰極と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による放電灯を図1に示す。本実施形態の放電灯1は、冷陰極を用いた放電灯であり、内面に蛍光体4が塗布された透明な細長いガラス管(外囲器)2と、このガラス管2内に封入された一対の冷陰極5a、5bと、これらの冷陰極5a、5bと外囲器2の外部の電源とを電気的に接続されるリード線10a、10bと、ガラス管2内に封入された封止ガス12と、を備えている。
【0011】
冷陰極5a、5bはそれぞれ、リード線10a、10bと電気的に接続する金属例えばタングステン(W)からなる陰極支持体6と、この陰極支持体6の表面に設けられる単結晶または多結晶のダイヤモンドからなる電子放出膜7と、陰極支持体6に接するとともに電子放出膜7に近接して設けられた水素含有膜8と、を備えている。本実施形態に係るこれらの冷陰極の平面図および断面図を図2(a)、2(b)に示す。図2(a)、2(b)に示すように、陰極支持体6は、円板形状の本体部61と、本体部61をリード線10a、10bに接続する接続部62と、を備えている。本体部61の、接続部62が設けられた側と反対側の面の中央部に電子放出膜7が形成され、この電子放出膜7の周囲を取り囲むように水素含有膜8が形成されている。
【0012】
本実施形態においては、水素含有膜8として水素含有炭素系材料(例えば、水素化アモルファスカーボン等)が用いられる。また、封止ガス12として、希ガス(アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)等)またはこれらの混合希ガスと、水銀と、微量の水素を含むガスが用いられる。水素はガス分圧が200ppm程度であることが望ましく、1%以上含む場合は放電効率が小さくなる。
【0013】
本実施形態の放電灯において、リード線10a、10bを交流電源に接続し、交流電圧を印加すると、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の表面に強い電界が発生し、この電界によりガラス管2内の残存電子がガラス管2内を高速に移動するとともに、電子放出膜7の表面から電子が放出される。そして、残存電子が、正の電位が印加された側の冷陰極に引かれて高速に移動する間に希ガスあるいはこれらの混合ガスに衝突する。この衝突により増殖した陽イオンが冷陰極5a、5bに衝突し、冷陰極5a、5bから2次電子が放出されてプラズマが発生し、放電が開始する。この放電により流れる電子および陽イオンは水銀原子と衝突する。これらの衝突により水銀原子はエネルギーを受け、紫外線を放出する。この紫外線により蛍光体4が励起され可視光線を発生する。発光色は蛍光体の種類によって異なり、白色、昼光色、青色など数々の色種の光が放電灯1から放射される。
【0014】
次に、本実施形態の放電灯の効果を図3(a)乃至3(c)を参照して説明する。
【0015】
放電灯の動作時、ガラス管2内の水素ガス分圧が規定値であれば、図3(a)に示すように、陰極グロー放電プラズマ20は、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の直上にのみ発生し、水素含有膜8のエッチングは起きず、水素含有膜8からの水素放出も発生しない。しかし、ガラス管2内の水素ガス分圧が減少すると、ダイヤモンドからなる電子放出膜7からの電子放出量が減少するため、その減少量を補填するためにプラズマ20が拡がっていく。そして、図3(b)に示すように、プラズマ20が水素含有膜8の直上にまで達すると、水素含有膜8のプラズマ20によるエッチングが始まり、水素含有膜8から水素が矢印21に示すように放出される。この水素放出により、ガラス管2内の水素のガス分圧が規定量まで回復していくと、ダイヤモンドからなる電子放出膜7からの電子放出量も回復し、プラズマ20も小さくなっていくため、水素含有膜8のエッチングが止まり、水素含有膜8からの水素放出も停止する(図3(c)参照)。
【0016】
以上説明したように、本実施形態においては、ガラス管2内の水素のガス分圧が低下したときのみ水素含有膜のエッチングが起き、ガラス管2内の水素の減少量を補填する。このため、ガラス管2(外囲器2)内における水素のガス分圧を一定に保持することが可能となり、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0017】
なお、水素含有膜8は必ずしも炭素系材料である必要はないが、放電灯1内の汚染、水銀や水素との化合物形成等を勘案すると、炭素系材料が望ましい。また、水素含有膜8として炭素系材料を用いた場合、炭素原子同士の結合様式(sp2およびsp3)の比を比較的容易に変化させることができ、これによりプラズマによるエッチング速度、すなわち水素放出速度、を制御することが可能であるという利点がある。
【0018】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極の製造方法の第1の例を図4(a)乃至図4(e)を参照して説明する。
【0019】
まず、Wからなる陰極本体部6aを、ダイヤモンド微粉を懸濁させた有機溶媒32中で超音波処理し(図4(a))、陰極支持体6aの表面にいわゆるダイヤ成長核34の種付け処理をする(図4(b))。なお、図4(a)において、符号30は、有機溶媒32が入る容器30を示す。
【0020】
続いて、マイクロ波CVD等により陰極本体部6a上にダイヤモンドからなる電子放出膜7を形成する(図4(c))。この形成の際に、メタン、水素などの通常ガスに加えて、ボロン或いはリン等のドーピングガスを加えることによって、導電性を付与された電子放出膜7とすることが望ましい。また、窒素ガスを高濃度に加えること等によって、電子放出膜7に加えて、グラファイトのような導電性介在物相を意図的に生成させ、膜としての導電性を向上させることも有効である。
【0021】
次に、別途用意した、ドーナツ形状の陰極本体部6b上に、成膜条件を変えて炭素系材料からなる水素含有膜8を形成する(図4(d))。水素含有量30%〜50%、sp3/sp2比〜1、膜厚が0.1μm〜1μm程度の水素化アモルファスカーボンが典型的な水素含有炭素系材料である。その後、二つの陰極本体部6a、6bを、それぞれの底面が同一面となるように、例えば溶接等で接合することで、本体部61が完成する。どの後、この本体部61にリード線との接続するための接続部(図示せず)を形成して陰極支持体6を完成する。
【0022】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極の製造方法の第2の例を図5(a)乃至図5(d)を参照して説明する。
【0023】
まず、Wからなる本体部61を、ダイヤモンド微粉を懸濁させた有機溶媒32中で超音波処理し(図5(a))、本体部61の表面にいわゆるダイヤ成長核34の種付け処理をする(図5(b))。なお、図5(a)において、符号30は、有機溶媒32が入る容器30を示す。
【0024】
続いて、マイクロ波CVD等により本体部61上にダイヤモンドからなる電子放出膜35を形成する(図5(c))。この形成の際に、メタン、水素などの通常ガスに加えて、ボロン或いはリン等のドーピングガスを加えることによって、導電性を付与された電子放出膜35とすることが望ましい。また、窒素ガスを高濃度に加えること等によって、電子放出膜35に加えて、グラファイトのような導電性介在物相を意図的に生成させ、膜としての導電性を向上させることも有効である。
【0025】
その後、図5(d)に示すように、遮蔽板36を用いて、電子放出膜35の外周部のみに水素イオン38の注入を行い、中央部にダイヤモンドの電子放出膜7を形成するとともに、この電子放出膜7の周囲に水素が含有された炭素のアモルファス膜8を形成する。
【0026】
これらの製造方法によって製造された冷陰極を放電灯に用いれば、ガラス管2内の水素のガス分圧が低下したときのみ水素含有膜のエッチングが起き、ガラス管2内の水素の減少量を補填することができる。このため、ガラス管2(外囲器2)内における水素のガス分圧を一定に保持することが可能となり、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の放電灯を、図6を参照して説明する。図6は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Aの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図6に示す冷陰極5Aに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Aは、図2に示す第1実施形態に係る冷陰極5a、5bにおいて、本体部61の、電子放出膜7が形成される領域の周囲の領域上に、電子放出膜7から本体部の外周に向かって傾斜した金属(例えば、W)からなる傾斜部63が設けられた陰極支持体6Aを有し、この傾斜部63上に水素含有膜8を形成した構成となっている。
【0028】
本実施形態のように、電子放出膜7が形成される領域の周囲の領域上に傾斜部63を設けたことにより、プラズマによる水素含有膜8のエッチングがある程度進行している状況においてもプラズマとの接触面積が変化せず、水素放出量が一定に保持される。これにより、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0029】
なお、傾斜部63の傾斜角度は、45度以上90度以下であることが好ましい。
【0030】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の放電灯を、図7(a)、7(b)を参照して説明する。図7(a)および図7(b)は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Bの平面図および断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図7(a)、7(b)に示す冷陰極5Bに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Bは、図2に示す第1実施形態に係る冷陰極5a、5bにおいて、本体部61を円柱状の金属(例えば、W)からなる本体部6a1に置き換えた陰極支持体6Bを有し、この本体部6a1の上面に電子放出膜7を設けるとともに本体部6a1の側面に水素含有膜8を形成した構成となっている。
【0031】
一般に、プラズマは陰極の本体部の形状に沿う形で拡がるという性質を有しているので、本実施形態のように構成することにより、プラズマが水素含有膜8を上部から順次エッチングするようになる。このため、水素含有膜8の膜厚により水素放出量を厳密に制御することが可能となり、ガラス管2内の水素のガス分圧を一定に保持することができる。これにより、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0032】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Bの製造方法を説明する。
【0033】
まず、本体部6a1の全面にマスク材を成膜する。マスク材として1000℃程度の耐熱性、水素、ドーピングガスに対する耐性、および後工程の化学エッチング時における本体部6a1との十分な選択比などを有する材料、例えばSiO2等が望ましい。本体部6a1の上面のマスク材のみ化学エッチングで除去し、本体部6a1の上面を露出させる。その後、第1実施形態で説明したと同様の工程を用いて、本体部6a1の上面にダイヤモンド成長核の種付け処理を行う。続いて、本体部6a1の側面のマスク材を除去することで、上面にのみダイヤモンドからなる電子放出膜7を形成させることができる。
【0034】
次に、形成したダイヤモンドからなる電子放出膜7上にマスク材を再度成膜し、成膜条件を変えて、本体部6a1の側面に水素含有炭素系材料からなる膜8を形成する。このとき、マスク材上にも水素含有炭素系材料からなる薄膜が形成されるが、マスク材を化学エッチングすることで水素含有炭素系材料からなる上記薄膜をリフトオフで除去する。最後に水素プラズマ処理を短時間行い、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の表面を水素終端し、冷陰極5Bを完成する。
【0035】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の放電灯を、図8を参照して説明する。図8は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Cの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図8に示す冷陰極5Cに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Cは、円板状の金属(例えば、W)からなる本体部61と、この本体部61と図1に示すリード線10a、10bとを電気的に接続する金属(例えば、W)からなる接続部62と、接続部62が設けられた側と反対側の本体部61の面上に設けられた円筒状の側壁部64とを有する陰極支持体6Cを備えている。本体部61と側壁部64とでカップの形状を構成し、本体部61の上面が上記カップの底面でかつ側壁部64が上記カップの側壁となっている。なお、側壁部64は本体部61の上面に実質的に垂直な方向に延在するように形成されている。そして、冷陰極5Cは、上記カップの側壁の内面すなわち円筒状の側壁部64の内面にダイヤモンドからなる電子放出膜7が形成され、上記カップの側壁の底面すなわち、本体部61の上面に、例えば水素含有炭素系材料からなる水素含有膜8が形成された構成を有している。なお、本実施形態において、ガラス管2内の水素のガス分圧が規定量のときにプラズマが底部まで拡がらないようにダイヤモンドからなる電子放出膜7の長さ(カップの深さ方向の長さ)を調整しておく。
【0036】
このよう構成としたことにより、水素のガス分圧が規定値より低下すると、プラズマはダイヤモンドからなる電子放出膜7に沿って底部方向に拡がっていき水素含有炭素系材料からなる水素含有膜8をエッチングする。すると、水素含有膜8から水素が放出される。ガラス管2内の水素のガス分圧の回復後は、プラズマは水素含有膜8に接触しなくなる。このため、カップの底部に水素含有膜8を配置することにより、プラズマの接触面積を常に一定にすることが可能になる。これにより、ガラス管2内の水素のガス分圧を一定に保持することができる。これにより、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0037】
次に、本実施形態の放電灯に係る冷陰極の製造方法を説明する。
【0038】
まず、陰極支持体6Cの外側の全面に第3実施形態と同様のマスク材を成膜したあと、ダイヤモンド成長核の種付け処理を行う。マスク材を化学エッチング除去し、ダイヤモンド膜を形成する。その後、カップの内径(側壁部64の内径)よりわずかに小さい遮蔽板をカップの直上に配置し、プラズマCVDを用いて水素含有炭素系材料からなる膜8を成膜する。この際、イオン引き出し電極を用いてイオンを加速し直進性を持たせることで、カップの底部にのみ成膜させることができる。このとき、カップの底部に形成されていたダイヤモンド膜はアモルファス膜となり水素含有炭素系材料からなる膜の一部となる。また水素含有炭素系材料からなる膜の他の製法は、同様の遮蔽板を用いて、水素イオン注入により水素含有炭素系材料からなる膜8を形成してもよい。最後に水素プラズマ処理を短時間行い、ダイヤモンドからなる電子放出膜7の表面を水素終端し、冷陰極5Cを完成する。
【0039】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態の放電灯を、図9を参照して説明する。図9は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Dの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図8に示す冷陰極5Dに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Dは、第4実施形態に係る冷陰極5Cのカップ形状の陰極支持体6Cを有し、この冷陰極6Cのカップの底面および内側面にダイヤモンドからなる電子放出膜7が形成され、カップの外側面に水素含有膜8が形成された構成を備えている。
【0040】
このような構成としたことにより、通常の状態(ガラス管2内の水素のガス分圧が規定値の状態)では、プラズマはカップ内に発生するが、電子放出膜7からの電子放出量が減少すると、プラズマは外壁面へと拡がる。これにより水素含有膜8を上部から順次エッチングし、水素含有膜8から水素が放出され、ガラス管内の水素のガス分圧は一定に保たれる。このため、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る冷陰極の製造方法を説明する。
【0042】
まず、カップ状の陰極支持体6Cの内側の面全面に、選択的にダイヤモンド成長核の種付け処理を行い、ダイヤモンドからなる電子放出膜7を形成する。次に、カップ状の陰極支持体6C内をマスク材で満たす、或いはカップ状の陰極支持体6Cを逆に置いた状態で、成膜条件を変えてカップ状の陰極支持体の外側の面に水素含有炭素系材料からなる膜8を形成する。なお、上記マスク材は化学エッチングで除去する。
【0043】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態の放電灯を、図10を参照して説明する。図10は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Eの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図8に示す冷陰極5Eに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Eは、第4実施形態に係る冷陰極5Dにおいて、カップ形状の陰極支持体6Cの外側面と水素含有膜8との間にもダイヤモンドからなる電子放出膜7を設けた構成となっている。
【0044】
プラズマは導電体に沿って拡がる性質をもっているので、本実施形態のような構成とすることによって、陰極支持体6Cの外側面へのプラズマの拡がりが更に促進される。これにより水素含有膜8を上部から順次エッチングし、水素含有膜8から水素が放出され、ガラス管内の水素のガス分圧は一定に保たれる。このため、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0045】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態の放電灯を、図11を参照して説明する。図11は本実施形態の放電灯に係る冷陰極5Fの断面図である。本実施形態の放電灯は、図1に示す放電灯において、冷陰極5a、5bを図11に示す冷陰極5Fに置き換えた構成を有している。この冷陰極5Fは、図8に示す第4実施形態に係る冷陰極5Cにおいて、カップ形状の陰極支持体6Cの外側面にもダイヤモンドからなる電子放出膜7を設けた構成となっている。
【0046】
このような構成とすることにより、陰極支持体6Cの外側面へのプラズマの拡がりが更に促進される。これにより水素含有膜8を上部から順次エッチングし、水素含有膜8から水素が放出され、ガラス管内の水素のガス分圧は一定に保たれる。このため、長期間にわたり安定した放電を行うことができる。
【0047】
上記第1乃至第7実施形態においては、陰極支持体の表面に、単結晶または多結晶のダイヤモンドからなる電子放出膜を形成し、さらに上記陰極支持体に接するとともに電子放出膜7に近接して、水素を含む炭素系材料(水素化アモルファスカーボン、カーボンナノチューブなど)からなる水素含有膜を形成した構成を備えている。このような構成を備えていることにより、放電プラズマにより水素含有膜がエッチングされることで水素が供給され、ガラス管内の水素の分圧を一定に保つことが可能となる。これにより、ダイヤモンドからなる電子放出膜の陰極としての高い電子放出能を維持することが可能となり、放電灯の低消費電力化および長寿命化を実現することができる。
【0048】
また、水素とともに放出される炭素はガラス管の壁面に付着した場合はガスバリア性を有する薄膜となり、ダイヤモンドからなる電子放出膜上に付着した場合も、ダイヤモンドと同元素であるため、汚染物にはならない。さらに、希ガスとともに多くの放電管において用いられている水銀蒸気と炭素系はアマルガムなどの合金を作ることがなく、取り込みによる水銀蒸気の消耗も少ない。これらが相まって、長寿命或いは水銀封入量の低減などの効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態による放電灯の断面図。
【図2】第1実施形態の放電灯に係る冷陰極を示す図。
【図3】第1実施形態の放電灯の効果を説明する図。
【図4】第1実施形態の放電灯に係る冷陰極の第1の製造方法を説明する図。
【図5】第1実施形態の放電灯に係る冷陰極の第2の製造方法を説明する図。
【図6】第2実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図7】第3実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図8】第4実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図9】第5実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図10】第6実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【図11】第7実施形態の放電灯に係る冷陰極の断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 放電灯
2 ガラス管(外囲器)
4 蛍光体
5a 冷陰極
5b 冷陰極
5A 冷陰極
5B 冷陰極
5C 冷陰極
5D 冷陰極
5E 冷陰極
5F 冷陰極
6 陰極支持体
6A 陰極支持体
6B 陰極支持体
6C 陰極支持体
61 本体部
62 接続部
63 傾斜部
64 側壁部
7 電子放出膜
8 水素含有膜
10a リード線
10b リード線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む放電用ガスが封入された外囲器と、
前記外囲器内に設けられ、陰極支持体、前記陰極支持体の表面に設けられたダイヤモンドの電子放出膜、および前記陰極支持体に接するとともに前記電子放出膜に近接して設けられた水素含有膜をそれぞれ有する一対の陰極と、
を備えていることを特徴とする放電灯。
【請求項2】
前記水素含有膜は、炭素系材料であることを特徴とする請求項1記載の放電灯。
【請求項3】
前記外囲器の内面に蛍光体膜が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の放電灯。
【請求項4】
前記陰極支持体は対向する第1および第2表面を有し、前記電子放出膜は前記第1表面の中央部に設けられ、前記水素含有膜は前記第1表面上に前記電子放出膜を取り囲むように設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項5】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられ前記第1表面の中心から半径方向に沿って傾斜した傾斜部とを有し、
前記電子放出膜は前記第1領域に形成され、前記水素含有膜は前記傾斜部上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項6】
前記陰極支持体は柱の形状を有しており、前記電子放出膜は前記柱の上面に設けられ、前記水素含有膜は前記柱の側面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項7】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられた壁状の側壁部とを有し、
前記電子放出膜は前記側壁部の内側の側面に形成され、前記水素含有膜は前記本体部の前記第1表面上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項8】
前記水素含有膜は前記側壁部の外側の側面にも形成されていることを特徴とする請求項7記載の放電灯。
【請求項9】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられた壁状の側壁部とを有し、
前記電子放出膜は前記側壁部の内側の側面および前記本体部の前記第1表面に形成され、前記水素含有膜は前記側壁部の外側の側面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項10】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられた壁状の側壁部とを有し、
前記電子放出膜は前記側壁部の内側および外側の側面ならびに前記本体部の前記第1表面を覆うように形成され、前記水素含有膜は前記側壁部の外側の側面に、前記電子放出膜を挟むように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項1】
水素を含む放電用ガスが封入された外囲器と、
前記外囲器内に設けられ、陰極支持体、前記陰極支持体の表面に設けられたダイヤモンドの電子放出膜、および前記陰極支持体に接するとともに前記電子放出膜に近接して設けられた水素含有膜をそれぞれ有する一対の陰極と、
を備えていることを特徴とする放電灯。
【請求項2】
前記水素含有膜は、炭素系材料であることを特徴とする請求項1記載の放電灯。
【請求項3】
前記外囲器の内面に蛍光体膜が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の放電灯。
【請求項4】
前記陰極支持体は対向する第1および第2表面を有し、前記電子放出膜は前記第1表面の中央部に設けられ、前記水素含有膜は前記第1表面上に前記電子放出膜を取り囲むように設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項5】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられ前記第1表面の中心から半径方向に沿って傾斜した傾斜部とを有し、
前記電子放出膜は前記第1領域に形成され、前記水素含有膜は前記傾斜部上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項6】
前記陰極支持体は柱の形状を有しており、前記電子放出膜は前記柱の上面に設けられ、前記水素含有膜は前記柱の側面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項7】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられた壁状の側壁部とを有し、
前記電子放出膜は前記側壁部の内側の側面に形成され、前記水素含有膜は前記本体部の前記第1表面上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項8】
前記水素含有膜は前記側壁部の外側の側面にも形成されていることを特徴とする請求項7記載の放電灯。
【請求項9】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられた壁状の側壁部とを有し、
前記電子放出膜は前記側壁部の内側の側面および前記本体部の前記第1表面に形成され、前記水素含有膜は前記側壁部の外側の側面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【請求項10】
前記陰極支持体は、対向する第1および第2表面を有する本体部と、前記第1表面の中央部に位置する第1領域を取り囲む前記第1表面の第2領域に設けられた壁状の側壁部とを有し、
前記電子放出膜は前記側壁部の内側および外側の側面ならびに前記本体部の前記第1表面を覆うように形成され、前記水素含有膜は前記側壁部の外側の側面に、前記電子放出膜を挟むように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電灯。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−152096(P2009−152096A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329764(P2007−329764)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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