説明

放電発生位置推定装置及び放電発生位置推定装置を備えた静止誘導器

【課題】簡易な演算で放電発生位置を推定できる放電発生位置推定装置他を得る。
【解決手段】変圧器本体3は、外鉄形の鉄心4に巻回されたコイル5を有し、鉄心4が下部タンク2aのフランジ部に載置され、コイル5の下部渡り部5aが下部タンク2aに収容され、上部渡り部5bが上部タンク2cに収容されている。アンテナ6,8は、それぞれ支持装置7,9にて下部タンク2a、上部タンク2cの内部の図2(b)における手前側の左右方向の中央部付近の同じ座標(x1,y1)上でz軸の座標のみが異なる位置に支持されている。コイル5で発生した放電による電磁波Bをアンテナ6,8にて検出して検出信号SD1,SU1を出力し、位置推定手段10は検出信号SD1,SU1の強度(例えば波高値の最大値)の比に基づき放電発生位置を推定する。検出信号の強度の比によれば、演算が簡易になり、容易に放電発生位置を推定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静止誘導器、例えば油入変圧器のコイルの放電発生位置を推定する放電発生位置推定装置及び放電発生位置推定装置を備えた静止誘導器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の放電発生位置推定装置として、静止機器のタンク本体外面に配置した1個の電流パルス検出器及び複数の超音波センサを設けて、静止機器内部で発生した放電位置を、電流パルス検出器で検出した電流パルスと超音波センサで検出した音響パルスとの時間差及び絶縁媒体内の音速度から標定(推定)する放電発生位置標定方法において、超音波センサ2個を1組として3組備え、静止機器のタンク本体外面の対面で対称の位置になるよう配置し、超音波センサから放電発生位置までの検出時間差と絶縁媒体内の音速度より求めた1組の超音波センサの距離データから放電発生位置の座標軸上の座標を計算し、その計算を3組の超音波センサに対して実行することにより、静止機器内で発生した放電位置を容易に標定できるとするものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−054862号公報(例えば、段落番号0022,0023、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の放電発生位置推定装置は以上のように構成され、電流パルスと超音波センサで検出した音響パルスとの時間差及び絶縁媒体内の音速度から放電位置を標定しなければならず、複雑な演算を要するという問題点があった。
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、簡易な演算で放電発生位置を推定できる放電発生位置推定装置及び放電発生位置推定装置を備えた静止誘導器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る放電発生位置推定装置においては、
第1及び第2の検出センサ並びに位置推定手段を有し、タンクとこのタンク内に収容されたコイルとを有する静止誘導器内の上記コイルにおける放電発生位置を推定する放電発生位置推定装置であって、
上記第1及び第2の検出センサは、上記タンク内の所定の位置に配置され、上記放電にともない発生する放電信号を受信してそれぞれ第1及び第2の検出信号を発するものであり、
上記位置推定手段は、上記第1及び第2の検出信号の強度に基づいて上記放電の発生位置を推定するものである。
【0006】
また、この発明に係る静止誘導器においては、放電発生位置推定装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る放電発生位置推定装置は、第1及び第2の検出センサ並びに位置推定手段を有し、タンクとこのタンク内に収容されたコイルとを有する静止誘導器内の上記コイルにおける放電発生位置を推定する放電発生位置推定装置であって、
上記第1及び第2の検出センサは、上記タンク内の所定の位置に配置され、上記放電にともない発生する放電信号を受信してそれぞれ第1及び第2の検出信号を発するものであり、
上記位置推定手段は、上記第1及び第2の検出信号の強度に基づいて上記放電の発生位置を推定するものであるので、
簡易な演算で放電発生位置を推定できる。
【0008】
また、この発明に係る静止誘導器は、放電発生位置推定装置を備えたものであるので、簡易な放電発生位置推定装置にて放電発生位置を推定できる静止誘導器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】外鉄形の変圧器の構成を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1である放電発生位置推定装置を備えた外鉄形の変圧器を示すものであり、図(a)は構成を示す斜視図、図(b)はアンテナの取付位置を示す平面断面図、図(c)は側断面図である。
【図3】図2の位置推定手段の構成を示すブロック図である。
【図4】放電発生位置推定装置の動作を説明するための説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2である放電発生位置推定装置を備えた変圧器の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1〜図4は、この発明を実施するための実施の形態1を示すものであり、図1は外鉄形の変圧器の構成を示す斜視図、図2は放電発生位置推定装置を備えた外鉄形の変圧器を示すものであり、図2(a)は構成を示す斜視図、図2(b)はアンテナの取付位置を示す平面断面図、図(c)は側断面図である。図3は位置推定手段の構成を示すブロック図、図4は放電発生位置推定装置の動作を説明するための説明図である。図1は変圧器のタンクの一部を取り去って内部構造を示した斜視図であるが、図1において、静止誘導器としての外鉄形の変圧器1は次のように構成されている。タンク2は、直方体の箱状の下部タンク2a、中部タンク2b、上部タンク2cにて構成されている。
【0011】
変圧器本体3は、三相外鉄形の鉄心4、鉄心4に巻回されたR,S,Tの三相分のコイル5を有し、鉄心4が下部タンク2aのフランジ部に載置され、鉄心4から所定方向である下方に突出したコイル5の第1の渡り部としての下部渡り部5aが第1の収容部としての下部タンク2aに収容され、鉄心4から上記所定方向と逆方向である上方に突出した第2の渡り部としてのコイル5の上部渡り部5b(図1及び図2)参照)が第2の収容部としての上部タンク2cに収容され、内部に図示しない絶縁油が入れられている。なお、分かり易くするために、図1においては一番手前のR相用の鉄心4及びR相用のコイル5は一部を切断して示している。
【0012】
図2において、第1の検出センサとしてのアンテナ6は、広帯域の特性を有し、無指向性のものである。アンテナ6は、支持装置7により下部タンク2a内の所定の位置(後述)に位置するようにして支持されている。第2の検出センサとしてのアンテナ8は、広帯域の特性を有し、無指向性のものである。アンテナ8は、支持装置9により上部タンク2c内の所定の位置(後述)に位置するようにして支持されている。なお、アンテナ6,8は、同じ仕様で、検出感度も同じである。支持装置7は、図2(c)に示すように円筒状のアームの一方の端部にフランジが設けられ、当該フランジが下部タンク2aの内壁に固定され、上記アームの他方の端部にアンテナ6が固定支持されているものである。支持装置9は支持装置7と同様のものであるが、アームの図2(c)における左右方向の長さが支持装置7のアームの長さよりも所定寸法長くされており、上部タンク2cの内面に固定されている。
【0013】
そして、図2(a)に示すように、アンテナ6は下部タンク2a内であって下部タンク2aを図2(a)の前方右寄りから見たとき下部タンク2aの手前側の壁面の上記所定方向と直交する方向である左右方向の中央部付近に位置し、アンテナ8は上部タンク2c内であって上部タンク2cを図2(a)の前方右寄りから見たとき上部タンク2cの手前側の壁面の左右方向の中央部付近に位置し、かつアンテナ6,8が図2(b),(c)に示すようにxyz直交座標系における同じ座標(x1,y1)上に位置するようにしてそれぞれ支持装置7,9にて支持されている。すなわち、アンテナ6,8は、タンク2内の所定方向である上下方向(z方向)に所定の間隔を設けてかつ上下方向からみたとき直線N(図1、図2参照)の上にあって互いの位置が重なるようにして配置されている。また、アンテナ6,8の出力側は、位置推定手段10に接続されている。位置推定手段10は、図3に示すように、トリガー手段10a、第1ピークホールド手段10b、第2ピークホールド手段10c、比率演算手段10e、位置決定手段10fを有する。
【0014】
次に、動作を説明する。例えば、図2における位置Aにおいて発生した放電によって放電信号としての電磁波Bが発生する。電磁波Bは変圧器1のタンク2内を伝搬しアンテナ6及び8にて検出され、第1及び第2の検出信号としての検出信号SD1,SU1が出力され、位置推定手段10へ送信される。トリガー手段10aは、検出信号SD1,SU1のいずれかが、あるレベル以上になると第1及び第2ピークホールド手段10b,10cにトリガー信号を発し、検出信号SD1,SU1の波高値の最大値SD1Pmax,SU1Pmaxを記憶させる。比率演算手段10eは、第1及び第2ピークホールド手段10b,10cに保持された最大値SD1Pmaxと最大値SU1Pmaxとの比SD1Pmax/SU1Pmaxを演算する。位置決定手段10fは、次に述べるような予め決められた手順により、放電の発生位置を推定する。
【0015】
ここで、図4(a)は、実際の変圧器1の上部タンク2c内のコイル5内部にて放電を発生させて、すなわち放電源をコイル5の内部に設定してアンテナ6及び8aにて検出した検出信号SD1,SU1の一例を示すものである。図4(a)によれば、放電源を上部タンク2c内のコイル5内部に設定した場合は、放電源に近い上部タンク2c内のアンテナ8にて検出された検出信号SU1が下部タンク2a内のアンテナ6にて検出された検出信号SD1よりも大きく、かつ電磁波Bはアンテナ6に到達するよりも早くアンテナ8に到達している。この場合では検出信号SD1とSU1との波高値の最大値の比SD1Pmax/SU1Pmaxは1/12〜1/13程度であり、下方のアンテナ6に到達する電磁波は上方のアンテナ8に到達する電磁波に比し1/10以下に減衰している。
【0016】
また、図4(b)は放電源が完全に上部タンク2c内にある場合に放電による電磁波をアンテナ6,8にて検出した検出信号を正規化して示すものであり、下部タンク2a内でのアンテナ6の検出信号SD2と上部タンク2c内でのアンテナ8による検出信号SU2とを示す。なお、放電源が完全に下部タンク2a内にある場合は、図4(b)に示した検出信号SD2とSU2との大小関係が逆になる。図4(b)によれば、放電源が完全に上部タンク2cまたは下部タンク2aのどちらか一方のみにあれば、検出信号SD2とSU2との強度例えば波高値の最大値の比SD1Pmax/SU1Pmaxは1/100以下になることが分かる。なお、図4(b)におけるアンテナNo.は、使用したアンテナの番号を表す。この場合、No.1〜No.5の計5台のアンテナを上部タンク2cに、No.6のアンテナを下部タンク2aに設置している。アンテナNo.1〜No.5で検出した信号強度がグラフ上で右肩上がりとなっているのは、アンテナの設置位置による検出感度の変化によるものである。
【0017】
従って、位置決定手段10fにより、下部タンク2aまたは上部タンク2cのアンテナ6,8で検出した図4(a)及び(b)に示したような検出信号SD1,SU1やSD2,SU2等の強度例えば波高値の最大値からコイル5の上下どのあたりの位置に放電源があるかを推定することができる。また、検出信号SD1,SU1やSD2,SU2等の強度の比較方法としては、上記のような波高値の最大値によるものに限らず、実効値やある期間の平均値等の比やこれらの差によることもできる。
【0018】
以上のように、この実施の形態によれば、タンク2内に設けた二つのアンテナ6,8による検出信号の強度を比較するのみで、迅速に放電の発生位置がコイル5の上方側か下方側か判断できる。また、アンテナ6,8をタンク2内に設けるので下部タンク2aと中部タンク2b、上部タンク2cのように段付きの箱形形状のタンクであってもアンテナ6,8の配置に制限を受けず、アンテナ6,8を取り付ける場所も容易に確保することができ、アンテナ6,8の配置が容易である。さらに、2つのアンテナ6,8にて検出された放電信号の強度に基づいて放電発生位置を推定するので、従来の放電発生位置推定装置のように2つの超音波センサによる検出信号の時間差や絶縁媒体内の音速度を用いることを要せず、簡易な演算で放電発生位置を容易に推定できる。
【0019】
さらに、アンテナ6,8をxy平面上の同じ位置に設置したので、タンク2内の放電発生による放電信号の減衰、反射等による時間遅れの影響を、アンテナ6,8を互いにxy平面上の違う位置に配置した場合と比較して低減できる。そのため、放電発生位置の演算による推定が容易となる。また、アンテナ6,8を下部タンク2a、上部タンク2cの図2(b)における左右方向の中央部付近に配置することで、下部タンク2a及び上部タンク2cの図2(b)における左右方向の各隅部に配置した場合と比較して、高感度に放電信号を検出でき、放電位置の推定を容易に行うことができる。また、高感度に放電信号を検出でき、放電位置の推定を容易に行うことができる変圧器を得ることができる。
なお、鉄心4と中部タンク2bとの間、コイル5と下部タンク2aとの間、コイル5と上部タンク2cとの間、等に比較的間隙がある場合は、必要な検出感度に応じてアンテナ6,8を上記のような下部及び上部タンク2a,2cの図2(b)における左右方向の中央部付近に配置しないで中央部付近以外の位置に配置してもよい。
【0020】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2である放電発生位置推定装置を備えた変圧器の構成を示す構成図である。この実施の形態においては上部タンク2cの位置D近傍においてコイル5の放電が発生する確率が高いと分かっている場合、図5に示すように、位置D近傍にアンテナ16,18を配置するものである。なお、アンテナ16,18にて検出された検出信号SS1及びSS2は、実施の形態1の図2における場合と同様に位置推定手段10に送信され、実施の形態1で説明したのと同様の方法により放電位置の推定が行われる。
【0021】
実施の形態1では、下部タンク2a、上部タンク2cの図2(b)における手前側の壁面の左右方向の中央部付近にそれぞれアンテナ6,8を配置したものを示したが、放電が発生する確率の高い場所(例えば高圧コイルの近傍)が予め把握できている場合においては、この実施の形態のように必要な検出感度に応じて下部タンク2aと上部タンク2cとに分けて配置しないで放電が発生する確率の高い位置(例えばこの実施の形態においては位置D)近傍にアンテナ16,18を配置するとよい。この実施の形態によれば、アンテナ16,18や位置推定手段10に過大な検出性能が要求されることなくおのおのの性能を適正に設定でき、装置費用を低減できる。
【0022】
なお、上記各実施の形態においては放電により発生する電磁波を検出するものを示したが、放電により発生する超音波や光を検出するものであっても同様の効果を奏する。また、静止誘導器は、外鉄形の変圧器に限られるものではなく、外鉄形のリアクトル、内鉄形の変圧器やリアクトル等であっても同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0023】
1 変圧器、2a 下部タンク、2c 上部タンク、5 コイル、
5a,5b 下部及び上部渡り部、6,8,16,18 アンテナ、7,9 支持装置、
10 位置推定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の検出センサ並びに位置推定手段を有し、タンクとこのタンク内に収容されたコイルとを有する静止誘導器内の上記コイルにおける放電発生位置を推定する放電発生位置推定装置であって、
上記第1及び第2の検出センサは、上記タンク内の所定の位置に配置され、上記放電にともない発生する放電信号を受信してそれぞれ第1及び第2の検出信号を発するものであり、
上記位置推定手段は、上記第1及び第2の検出信号の強度に基づいて上記放電発生位置を推定するものである
放電発生位置推定装置。
【請求項2】
上記第1及び第2の検出センサは、上記タンク内の所定方向に間隔を設けてかつ上記所定方向から見たとき互いの位置が重なるようにして配置されるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の放電発生位置推定装置。
【請求項3】
上記第1及び第2の検出センサは、上記タンクの上記所定方向と直交する方向の中央部付近に配置されるものである
ことを特徴とする請求項2に記載の放電発生位置推定装置。
【請求項4】
上記静止誘導器は、外鉄形のものであって、鉄心を有し、上記コイルは上記鉄心から上記所定方向に突出した第1の渡り部及び上記鉄心から上記所定方向と逆方向に突出した第2の渡り部を有するものであり、
上記タンクは、第1及び第2の収容部を有し、上記第1の収容部に上記コイルの上記第1の渡り部を収容するとともに上記第2の収容部に上記コイルの上記第2の渡り部を収容するものであり、
上記第1及び第2の検出センサは、上記タンク内の上記第1の収容部及び上記第2の収容部にそれぞれ配置されるものである
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の放電発生位置推定装置。
【請求項5】
上記静止誘導器は、上記コイルにおける放電が発生する確率の高い位置が予め予想可能なものであり、
上記第1及び第2の検出センサは、上記放電が発生する確率の高い位置の近傍に配置されるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の放電発生位置推定装置。
【請求項6】
上記位置推定手段は、上記第1及び第2の検出信号の強度の比または差に基づいて上記放電発生位置を推定するものである
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の放電発生位置推定装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の放電発生位置推定装置を備えた静止誘導器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154753(P2012−154753A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13520(P2011−13520)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】