説明

整流子電動機

【課題】界磁極に対するブラシ6の位置ずれを抑制して安定した性能を確保できると共に、部品点数の削減により、組み付け性を向上できるモータを提供する。
【解決手段】ブラシ保持器7は、複数のブラシ6を個々に格納する複数のブラシホルダ部15と、この複数のブラシホルダ部15が一体に設けられた板状のホルダプレート部16とで構成され、樹脂により一体成形されている。このブラシ保持器7は、エンドフレーム10に設けられた2ヶ所の係合突起13と、4ヶ所の位置決めピン14とを利用して軸方向及び周方向の動きが固定される。この場合、ブラシ保持器7をエンドフレーム10に固定するために金具やスクリュ等の別部品を使用する必要がないので、部品点数を少なくできる。その結果、公差の積み上げが小さくなるため、磁石の取付け位置に対するブラシ6の位置ずれを抑制でき、モータ性能を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子とブラシを有する整流子電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に記載されたブラシ保持装置がある。
このブラシ保持装置は、複数個のブラシを個々に格納する複数個のブラシホルダと、これらのブラシホルダを保持するホルダ保持器とを有し、このホルダ保持器が一組の金具を介してスクリュによりエンドフレームに締め付けて固定されている。
【特許文献1】特開2000−312458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、整流子に摺接するブラシを介して電機子に通電される整流子電動機では、界磁極に対するブラシの位置がモータの特性に大きく影響するため、ブラシの位置は非常に重要である。
しかし、上記のブラシ保持装置は、ブラシホルダとホルダ保持器とが別体であり、そのホルダ保持器を直接エンドフレームに固定するのではなく、一組の金具を介して固定しているため、公差の累積が問題となる。つまり、公差が余分に積み上がることで、ブラシの位置ずれが大きくなり、その結果、性能のばらつきが大きくなると言う問題があった。
【0004】
また、特許文献1に示される従来技術の構成では、部品点数が多くなるため、材料費および組み付け費が高くなる要因となっていた。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、界磁極に対するブラシの位置ずれを抑制して安定した性能を確保できると共に、部品点数の削減により、組み付け性を向上できる整流子電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1の発明)
本発明は、整流子に摺接する複数のブラシと、この複数のブラシを保持するブラシ保持器とを有し、このブラシ保持器がエンドフレームに固定される整流子電動機であって、エンドフレームには、鉤状の係合突起が複数設けられ、ブラシ保持器は、複数のブラシを個々に収納する複数のブラシホルダ部と、この複数のブラシホルダ部が一体に設けられたホルダプレート部とを有し、このホルダプレート部がエンドフレームに対し周方向に位置決めされると共に、ホルダプレート部の端部を係合突起の内側に挿入して係合させることにより、ブラシ保持器の軸方向の動きが固定されることを特徴とする。
【0006】
本発明のブラシ保持器は、複数のブラシホルダ部がホルダプレート部と一体に設けられており、且つ、エンドフレームに固定するのに金具やスクリュ等を使用する必要がないので、上記の特許文献1に記載されたブラシ保持装置と比較して部品点数を少なくできる。その結果、公差の積み上げが小さくなるため、界磁極に対するブラシの位置ずれを抑制でき、性能を安定させることができる。また、部品点数の低減により、組み付け性が向上すると共に、コストダウンを図ることが可能である。
なお、ホルダプレート部の端部を係合突起の内側へ挿入する時は、ホルダプレート部を弓状に撓ませた状態で行うことにより、容易にホルダプレート部の端部を係合突起の内側へ挿入できる。
【0007】
(請求項2の発明)
請求項1に記載した整流子電動機において、ホルダプレート部は、係合突起に係合する端部の外周を凹状に切り欠いた係合凹部が形成され、ブラシ保持器は、ホルダプレート部の端部を係合突起の内側に挿入すると共に、係合凹部の内側に係合突起を嵌め入れることにより、エンドフレームに対し周方向の動きが固定されることを特徴とする。
上記の構成によれば、エンドフレームに対しホルダプレート部を周方向に位置決めするための突起等をエンドフレームに設ける必要はなく、ホルダプレート部の端部をエンドフレームに設けられた係合突起の内側に挿入する際に、ホルダプレート部の端部に形成された係合凹部の内側に係合突起を嵌め入れることで、ブラシ保持器の軸方向の動きと周方向の動きを同時に固定できる。
【0008】
(請求項3の発明)
請求項1に記載した整流子電動機において、エンドフレームには、ホルダプレート部を周方向に位置決めするための突起部が設けられ、ブラシ保持器は、ホルダプレート部の周方向側辺を突起部に当接させることにより、エンドフレームに対し周方向の動きが固定されることを特徴とする。
エンドフレームに設けられた突起部にホルダプレート部の側辺を当てることで、エンドフレームに対しホルダプレート部が周方向に位置決めされて、ブラシ保持器の周方向の動きを固定できる。
【0009】
(請求項4の発明)
請求項1に記載した整流子電動機において、エンドフレームには、ホルダプレート部を周方向に位置決めするための突起部が設けられ、ブラシ保持器は、ホルダプレート部に位置決め孔が形成され、この位置決め孔を突起部に嵌め合わせることにより、エンドフレームに対し周方向の動きが固定されることを特徴とする。
エンドフレームに設けられた突起部にホルダプレート部に形成された位置決め孔を嵌め合わせることで、エンドフレームに対しホルダプレート部が周方向に位置決めされて、ブラシ保持器の周方向の動きを固定できる。
【0010】
(請求項5の発明)
請求項4に記載した整流子電動機において、ホルダプレート部には、位置決め孔が周方向に角度をずらして複数形成されていることを特徴とする。
これにより、突起部に嵌め合わされる位置決め孔を変更することで、界磁極に対するブラシの位置(ブラシ移動角)を容易に変更できる。
【0011】
(請求項6の発明)
請求項1〜5に記載した何れかの整流子電動機において、鉤状の係合突起は、エンドフレームの径方向に対向する2カ所に設けられていることを特徴とする。
この場合、ホルダプレート部の端部を係合突起の内側へ挿入する際に、ホルダプレート部を弓状に撓ませた状態で行うことができる。
【0012】
(請求項7の発明)
請求項1〜6に記載した何れかの整流子電動機において、ブラシ保持器は、樹脂製であることを特徴とする。
本発明のブラシ保持器は、複数のブラシホルダ部がホルダプレート部と一体に設けられているので、樹脂成形により容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
実施例1では、本発明の整流子電動機(以下、モータと呼ぶ)をスタータ1に用いた一例を説明する。
図3はモータ部分の一部断面を含むスタータ1の側面図である。
スタータ1は、モータ2が発生する回転トルクをピニオンギヤ3からエンジンのリングギヤ(図示せず)に伝達してエンジンを始動させる周知の働きを有する。
モータ2は、電機子4が一定方向に回転できる様に、電機子4に流れる電流を回転位相に応じて切り替えるための整流子5とブラシ6とを有する整流子電動機である。
【0015】
整流子5は、電機子コイルのコイルエンドを利用して構成され、ブラシ6との当接面が電機子軸4aと略直交して設けられている。
ブラシ6は、後述するブラシ保持器7により保持され、図示しないブラシスプリングにより整流子5の表面に押圧されている。なお、電機子4に対し高電位側に配置される正極側ブラシ6は、図3に示す様に、ブラシ6に取り付けられるピグテール6aを介して電磁スイッチ8のモータ端子9に接続されている。一方、電機子4に対し低電位側に配置される負極側ブラシ6は、図示しないピグテールを介して、例えば、金属製のエンドフレーム10にアース接続されている。
【0016】
エンドフレーム10は、モータヨーク11のエンド側(反エンジン側)開口部に嵌合して組み付けられると共に、径方向の中央部に設けられた軸受部10a(図1参照)の内周にメタルブッシュ12が圧入固定され、このメタルブッシュ12を介して電機子軸4aの後端部を回転自在に支持している。
このエンドフレーム10には、ブラシ保持器7の軸方向の動き固定するための係合突起13と、ブラシ保持器7の周方向の動き固定するための位置決めピン14(図2参照)とが設けられている。係合突起13は、エンドフレーム10の径方向に対向する2カ所に設けられ、それぞれL字に曲がった鉤型に形成されている。位置決めピン14は、図2(a)に示す様に、ブラシ保持器7を周方向に位置決めできる位置に合計4カ所、それぞれ、エンドフレーム10の端面から軸方向に突出して設けられている〔図2(b)参照〕。
【0017】
ブラシ保持器7は、複数(本実施例では2個)のブラシ6を個々に格納する複数のブラシホルダ部15と、この複数のブラシホルダ部15が一体に設けられた板状のホルダプレート部16とで構成され、樹脂により一体成形されている。
ブラシホルダ部15は、ブラシ6を摺動自在に保持できる筒形状を有し、ホルダプレート部16に対し直立して設けられている。
ホルダプレート部16は、略長方形状を有し、その長手方向〔図2(a)の上下方向〕の両側にそれぞれブラシホルダ部15が1個ずつ設けられている。また、長手方向の中央部には、エンドフレーム10に形成された軸受部10aの外周に嵌まる中心孔16aが形成されている(図1参照)。なお、ホルダプレート部16の長手方向の長さは、エンドフレーム10に設けられた2カ所の係合突起13(エンドフレーム10から立ち上がっている部分)の間の距離より若干小さく設定されている。
【0018】
このブラシ保持器7は、図1(a)に示す様に、ホルダプレート部16を弓状に撓ませた状態でエンドフレーム10に組み付けられる。つまり、弓状に撓ませたホルダプレート部16の長手方向の両端部を、それぞれエンドフレーム10に設けられた係合突起13の内側へ挿入しながら、ホルダプレート部16の中心孔16aにエンドフレーム10の軸受部10aを嵌め合わせて、図1(b)に示す様に、ホルダプレート部16の撓みを元に戻す(平板状に戻す)ことにより、エンドフレーム10に組み付けられる。この時、図2(a)に示す様に、ホルダプレート部16の周方向両側辺(短手方向の両側辺)が、それぞれ位置決めピン14に当接して周方向に位置決めされる。これにより、ブラシ保持器7の軸方向の動き、および、周方向の動きが固定される。
【0019】
(実施例1の効果)
本実施例のブラシ保持器7は、エンドフレーム10に設けられた2ヶ所の係合突起13と、4ヶ所の位置決めピン14とを利用して、ブラシ保持器7の軸方向および周方向の動きを固定できる。また、ブラシ保持器7は、複数のブラシホルダ部15がホルダプレート部16と一体に設けられており、且つ、ブラシ保持器7をエンドフレーム10に固定するために金具やスクリュ等の別部品を使用する必要がないので、従来のブラシ保持装置(特許文献1参照)と比較して部品点数を少なくできる。上記の結果、公差の積み上げが小さくなるため、界磁極17(図3参照)に対するブラシ6の位置ずれを抑制でき、モータ性能を安定させることができる。また、部品点数の低減により、組み付け性が向上すると共に、コストダウンを図ることが可能である。
【実施例2】
【0020】
図4(a)はブラシ保持器7の平面図である。
本実施例のブラシ保持器7は、図4(a)に示す様に、ホルダプレート部16の両端部に外周を凹状に切り欠いた係合凹部16bが形成されている。
このブラシ保持器7は、図4(b)に示す様に、ホルダプレート部16の両端部をそれぞれエンドフレーム10に設けられた係合突起13の内側へ挿入する際に、係合凹部16bの内側に係合突起13(エンドフレーム10から立ち上がっている部分)を嵌め入れることにより、エンドフレーム10に対し軸方向及び周方向の動きが固定される。
上記の構成によれば、実施例1に記載した位置決めピン14が不要である。
【実施例3】
【0021】
図5はブラシ保持器7をエンドフレーム10に組み付けた状態を示す平面図である。
本実施例のブラシ保持器7は、図5に示す様に、エンドフレーム10に設けられた1本の位置決めピン18と、ホルダプレート部16に形成された1個の位置決め孔16cとの嵌合により、周方向の動きが固定される。なお、ブラシ保持器7の軸方向の動きは、実施例1と同じく、エンドフレーム10に設けられた係合突起13の内側にホルダプレート部16の端部を挿入することで固定される。
また、本実施例では、図6に示す様に、ホルダプレート部16に複数の位置決め孔16cを形成して、その何れか一つの位置決め孔16cに位置決めピン18を嵌め入れることもできる。例えば、図7に示す様に、複数(図7では3個)の位置決め孔16cを周方向に角度をずらして形成し、同図(a)〜(c)に示す様に、位置決めピン18に嵌め合わされる位置決め孔16cを変更することにより、界磁極17に対するブラシ6の位置(=ブラシ移動角)を容易に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)ブラシ保持器をエンドフレームに組み付ける過程を示す断面図、(b)組み付け後の断面図である(実施例1)。
【図2】(a)ブラシ保持器をエンドフレームに組み付けた状態を示す平面図、(b)ブラシ保持器の動きを固定した状態を示す一部側面図である(実施例1)。
【図3】モータ部分の一部断面を含むスタータの側面図である。
【図4】(a)ブラシ保持器の平面図、(b)ブラシ保持器をエンドフレームに組み付けた状態を示す平面図である(実施例2)。
【図5】ブラシ保持器をエンドフレームに組み付けた状態を示す平面図である(実施例3)。
【図6】ブラシ保持器をエンドフレームに組み付けた状態を示す平面図である(実施例4)。
【図7】突起部と位置決め孔との嵌合状態を示す平面図である(実施例4)。
【符号の説明】
【0023】
2 モータ(整流子電動機)
5 整流子
6 ブラシ
7 ブラシ保持器
10 エンドフレーム
13 エンドフレームに設けられた鉤状の係合突起
14 エンドフレームに設けられた4本の位置決めピン(突起部)
15 ブラシホルダ部
16 ホルダプレート部
16b ホルダプレート部の端部に形成された係合凹部
16c ホルダプレート部に形成された位置決め孔
18 エンドフレームに設けられた1本の位置決めピン(突起部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流子に摺接する複数のブラシと、
この複数のブラシを保持するブラシ保持器とを有し、
このブラシ保持器がエンドフレームに固定される整流子電動機であって、
前記エンドフレームには、鉤状の係合突起が複数設けられ、
前記ブラシ保持器は、前記複数のブラシを個々に収納する複数のブラシホルダ部と、この複数のブラシホルダ部が一体に設けられたホルダプレート部とを有し、このホルダプレート部が前記エンドフレームに対し周方向に位置決めされると共に、前記ホルダプレート部の端部を前記係合突起の内側に挿入して係合させることにより、前記ブラシ保持器の軸方向の動きが固定されることを特徴とする整流子電動機。
【請求項2】
請求項1に記載した整流子電動機において、
前記ホルダプレート部は、前記係合突起に係合する端部の外周を凹状に切り欠いた係合凹部が形成され、
前記ブラシ保持器は、前記ホルダプレート部の端部を前記係合突起の内側に挿入すると共に、前記係合凹部の内側に前記係合突起を嵌め入れることにより、前記エンドフレームに対し周方向の動きが固定されることを特徴とする整流子電動機。
【請求項3】
請求項1に記載した整流子電動機において、
前記エンドフレームには、前記ホルダプレート部を周方向に位置決めするための突起部が設けられ、
前記ブラシ保持器は、前記ホルダプレート部の周方向側辺を前記突起部に当接させることにより、前記エンドフレームに対し周方向の動きが固定されることを特徴とする整流子電動機。
【請求項4】
請求項1に記載した整流子電動機において、
前記エンドフレームには、前記ホルダプレート部を周方向に位置決めするための突起部が設けられ、
前記ブラシ保持器は、前記ホルダプレート部に位置決め孔が形成され、この位置決め孔を前記突起部に嵌め合わせることにより、前記エンドフレームに対し周方向の動きが固定されることを特徴とする整流子電動機。
【請求項5】
請求項4に記載した整流子電動機において、
前記ホルダプレート部には、前記位置決め孔が周方向に角度をずらして複数形成されていることを特徴とする整流子電動機。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れかの整流子電動機において、
前記鉤状の係合突起は、前記エンドフレームの径方向に対向する2カ所に設けられていることを特徴とする整流子電動機。
【請求項7】
請求項1〜6に記載した何れかの整流子電動機において、
前記ブラシ保持器は、樹脂製であることを特徴とする整流子電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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