説明

斜接玉軸受

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、組み立て状態で全構成要素が互いに連係して非分離となる斜接玉軸受に係り、特に相互結合に関連する部位を改良したものに関する。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種の斜接玉軸受として、本願出願人は例えば図4に示すような複列斜接外向き玉軸受を提案している。図中、51,51は二つの内輪、52は単一の外輪、53・・・は複数の玉、54,54は二つの冠形の保持器である。
【0003】内輪51,51の外周面にはそれぞれ一つずつの軌道溝55,55が設けられており、外輪52の内周面には二つの軌道溝56,56が設けられている。そして、内輪51,51はそれぞれ軌道溝55,55の片側のみに鍔がある形状になっており、外輪52は二つの軌道溝56,56の間のみに鍔が有る形状になっている。
【0004】図例の軸受は組み立て状態で、外輪52に保持器54,54で保持された玉53群が、また、保持器54,54が内輪51,51にそれぞれ係止されることにより、全構成要素が互いに連係して非分離となる。この非分離のための構成を説明する。まず、外輪52と玉53群の係止は、その軌道溝56,56において鍔なし部分側の端縁56a,56aの内径寸法を玉53群の外接円径寸法よりも若干小さく設定することにより行い、また、内輪51と保持器54の係止は、保持器54の内周部に設けてある環状の係止片57を、内輪51の鍔なし部分に設けてある環状の係合溝58に係合させることにより行っている。なお、組み立て状態から内輪51を図5の矢印のように引っ張ると、内輪51の係合溝58の内部で保持器54の係止片57が突っ張り棒のようになるので、内輪51と保持器54とが一体化して非分離となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来例では、外輪52の軌道溝56と玉53群との引っ掛かり代および、内輪51の係合溝58と保持器54の係止片57との引っ掛かり代をそれぞれ管理することにより、構成要素相互の分離と非分離の臨界点を任意に設定できるようにしている。
【0006】ところで、内輪51と保持器54との間での臨界点を高めるためには係止片57と係合溝58との引っ掛かり代を大きくすればよいのであるが、係合溝58を深くすればする程、内輪51の強度低下を余儀なくされるため、実際には引っ掛かり代をあまり大きくできず、臨界点を高めに設定するにも限度があった。
【0007】これに対しては、係止片57の剛性をアップさせることで対処できるけれども、係止片57の剛性をアップすればする程、引っ掛かり代を小さくかつ高精度に管理しなければ、内輪51と保持器54との組み立てが困難になってしまう。
【0008】このように、従来では、臨界点を高く設定することと、組み立てを支障なく行えるようにすることとが相反しているから、引っ掛かり代をシビアに管理して臨界点を少しでも高く設定するしか手立てはなかった。ちなみに、内輪51の係合溝58を形成した鍔なし部分の外周面は旋削仕上げのままだと精度的に不十分であるから、研磨仕上げまで行う必要があり、そのために製作コストアップを余儀なくされる。
【0009】本発明は、このような事情に鑑み、内輪と保持器との非分離に関連する部位の寸法をシビアに管理しなくても、内輪と保持器との組み立てが支障なく行えてかつ分離と非分離の臨界点を高く設定できる構造とすることを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、内・外輪と、それらの間に介装される複数の玉と、玉群を保持する保持器とが組み立て状態で互いに連係して非分離となる斜接玉軸受において、次のような構成をとる。
【0011】本発明では、保持器の内周に可撓性の係止片が、また、内輪の薄肉部外周に前記係止片が係合される係合溝がそれぞれ設けられ、かつ、前記係止片が、組み立て状態から保持器と内輪とを分離方向に相対的に動かしたときに、撓んだ状態で係合溝と玉との間に挟まれるものである。
【0012】
【作用】保持器に設けてある可撓性の係止片が内輪の係合溝と玉との間で挟まれると、保持器と内輪とが一体化して非分離となる。すなわち、保持器と内輪とを分離方向に相対的に動かしたときに、まず、保持器の係止片が内輪の係合溝に当たり、それ以上動かすと係止片は係合溝によって撓まされるが、背後の玉によってそれ以上の撓み度合いが規制され、係合溝との係合状態を保ち、保持器と内輪とが一体化して非分離となる。この場合、分離と非分離の臨界点を高く設定するには、例えば係止片の肉厚を厚くして係止片を係合溝と玉との間から抜け出にくくさせればよい。
【0013】ところで、係止片が撓みうるので、内輪と保持器との組み立てが何の支障もなく行えるようになる。このように組み立て面の問題をクリアにしているから、前述のように臨界点を高く設定する場合でも、非分離に関連する部位の寸法精度を従来のようにシビアに管理する必要がなくなる。
【0014】
【実施例】図1および図2に本発明の一実施例の複列斜接外向き玉軸受を示している。本実施例では自動車のハブユニット用軸受を例に挙げているが、その基本的な構成は図4に示す従来例と同じにしてある。図中、1,1は二つの内輪、2は単一の外輪、3・・・は複数の玉、4,4は二つの冠形の保持器である。
【0015】内輪1,1の外周面にはそれぞれ一つずつの軌道溝5,5が設けられており、外輪2の内周面には二つの軌道溝6,6が設けられている。なお、内輪1,1はそれぞれ軌道溝5,5の片側のみに鍔がある形状になっており、外輪2は二つの軌道溝6,6の間のみに鍔が有る形状になっている。
【0016】図例の軸受は組み立て状態で、外輪2に保持器4,4で保持された玉3群が、また、保持器4,4が内輪1,1にそれぞれ係止されることにより、全構成要素が互いに連係して非分離となる。このうち、外輪2と玉3の係止は、従来と同様に、軌道溝6において鍔なし部分側の端縁6aの内径寸法を玉3の外接円径寸法よりも若干小さく設定することにより行っているが、内輪1と保持器4の係止に関連する構成は、下記詳述するように従来例と異なる。
【0017】すなわち、本実施例において従来例と異なる構成は、保持器4に設けられる環状の係止片7が可撓性であること、係止片7の形状が断面ほぼ「く」の字形に形成されていることである。なお、保持器4および係止片7は、例えば66ナイロンを基材とした合成樹脂(BASF社製の商品名:ウルトラミッドA3HG5)を用いて樹脂注入成形することにより得ることができる。
【0018】この構成によれば、図2(a)に示す組み立て状態から内輪1を図2(b)の矢印のように引っ張ると、内輪1の係合溝8でもって保持器4の係止片7が引っ張られるために、この係止片7が倒れるように撓みながら、玉3群に圧接されることになり、ひいては係合溝8と玉3群との間に挟まれる。こうなると、内輪1が外輪2に係止されてある玉3および保持器4に一体化することになるので、内輪1をさらに矢印方向へ引っ張っても内輪1は動かなくなって保持器4に対して非分離となる。
【0019】ところで、内輪1と保持器4との間での分離と非分離の臨界点は、内輪1の係止片7を係合溝8と玉3との間から抜け出やすくするか抜け出にくくするかで調整できる。ちなみに、係止片7の肉厚を厚くすれば臨界点を高くできるようになるが、そのように設定した場合でも、内輪1と保持器4とを組み立てる際に係止片7が撓みうるから、組み立てが何の不都合もなく行える。したがって、引っ掛かり代を従来のように高精度に管理する必要がなくなり、従来に比べて製作の手間が省けるようになって製作コストを低減できるようになる。
【0020】なお、本発明は上記実施例のみに限定されない。まず、保持器4に設けてある係止片7の形状は、例えば図3(a)に示すようにしてもよい。要するに、係止片7は、図3(b)に示すように、少なくとも、係合溝8に引っ掛かけられた状態で玉3に当接するような形状であればよい。また、実施例では自動車のハブユニット用の複列斜接外向き玉軸受を例に挙げているが、複列に限らず単列の斜接玉軸受の他、軌道輪ところとが非分離構造の円筒ころ軸受や円錐ころ軸受にも本発明の構成を適用できる。
【0021】
【発明の効果】以上のように、本発明では、従来の係止片の突っ張りによる非分離形態を、係止片を係合溝と玉とで挟むという形態に発想転換することによって、係止片を撓みうるものとし、それにより、内輪と保持器との組み立てを何の支障もなく行えるようにしている。このようにして組み立て面の問題をクリアしているから、内輪と保持器との間での分離と非分離の臨界点を高く設定する場合でも、非分離に関連する部位の寸法精度を従来のようにシビアに管理する必要がなくなり、製作コストを低減できるようになる。
【0022】したがって、本発明によれば、特に内輪と保持器とに関し、組み立て面および非分離に関する機能面で信頼性の高い低廉な斜接玉軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の複列斜接外向き玉軸受の縦断面図。
【図2】同実施例の動作説明に用いる図1の要部拡大図。
【図3】本発明の他の実施例で、動作説明に用いる図1の要部拡大図。
【図4】従来例の複列斜接外向き玉軸受の上半分の縦断面図。
【図5】従来例の動作説明に用いる図4の要部拡大図。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 保持器
7 保持器の係止片
8 内輪の係合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内・外輪と、それらの間に介装される複数の玉と、玉群を保持する保持器とが組み立て状態で互いに連係して非分離となる斜接玉軸受であって、保持器の内周に可撓性の係止片が、また、内輪の薄肉部外周に前記係止片が係合される係合溝がそれぞれ設けられ、かつ、前記係止片が、組み立て状態から保持器と内輪とを分離方向に相対的に動かしたときに、撓んだ状態で係合溝と玉との間に挟まれるものである、ことを特徴とする斜接玉軸受。

【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【特許番号】第2850182号
【登録日】平成10年(1998)11月13日
【発行日】平成11年(1999)1月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−87273
【出願日】平成5年(1993)4月14日
【公開番号】特開平6−300036
【公開日】平成6年(1994)10月25日
【審査請求日】平成9年(1997)6月20日
【出願人】(000001247)光洋精工株式会社 (7,053)
【参考文献】
【文献】実開 昭59−163220(JP,U)