説明

断層撮影装置及び断層撮影方法

【課題】 エアーデータに煩わされること無く被検体の断層撮影を行うことにある。
【解決手段】 被検体4に向けてX線を照射するX線管1と、被検体4の透過X線を検出する2次元検出チャンネルのX線検出器2と、X線と被検体4とを相対的に回転させる回転手段8と、被検体4をX線検出器視野に入れ、X線条件を設定する撮影条件設定部15aと、エアーデータが飽和していないかを判定する判定部15cと、被検体をX線検出器視野から外し、設定したX線条件から管電流を変更して飽和しないエアーデータを得た後、被検体とX線条件を元に戻して断層撮影を実施する撮影制御部15bと、このときX線検出器2で検出した透過データに対し、エアーデータにて感度補正を行い、被検体の断層像を再構成する再構成部15dとを設けた断層撮影装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トモシンセシス(Tomosynthesis)装置やラミノグラフ(Laminograph)などの断層撮影装置及び断層撮影方法に係り、特に被検体に対し放射線照射方向を円錐に沿って変化させる円軌道タイプの断層撮影装置及び断層撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円軌道タイプの断層撮影装置は、放射線源から発生する放射線(X線)を被検体に向けて照射するが、このとき被検体を、放射線の光軸に対し傾斜した回転軸で放射線に対して相対的に回転させ、一回転中の所定回転位置ごとに被検体から透過してくる放射線を2次元検出チャンネルを有する放射線検出器で検出し、この検出器出力から被検体の断層像ないし3次元データを得るものである。
【0003】
この断層像ないし3次元データを得るための再構成の方法は、フィルタ処理及び逆投影処理を行う方法や逐次近似法(ART:Algebraic Reconstruction Techniques法)などが使用されている(特許文献1)。
【0004】
この円軌道タイプの断層撮影装置は、放射線検出器に検出チャンネルごとの感度の違いがあるとアーチファクトなどが発生し断層像が劣化するため、放射線検出器の出力である透過のデータに対して感度補正を行った後、断層像を再構成する必要がある。
【0005】
特許文献1の技術では、予め被検体の無い状態で収集した検出チャンネルごとのエアーデータを記憶しておき、後に断層撮影を実施して被検体の透過データを収集したとき、エアーデータを用いて検出チャンネルごとに感度補正を行っている。
【0006】
また、エアーデータは断層撮影のX線条件と同じX線条件(管電圧、管電流)で収集したデータを用いている。
【特許文献1】特開2004−108990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した円軌道の断層撮影装置では、予め記憶したエアーデータと同じX線条件を用いて、被検体の断層撮影を行う。そして、この断層撮影で得られた被検体の透過データに対し、エアーデータを用いて感度補正を行うことになる。
【0008】
その結果、X線吸収の大きい被検体を断層撮影する場合、エアーデータが飽和しないX線条件を前提として断層撮影を行う必要があることから、X線強度が十分に上げられず、断層像のノイズが大きくなるという問題がある。
【0009】
また、断層撮影のX線条件を決定する際、透過像を確認しながら管電圧・管電流を調整するが、常にエアーデータが飽和しないことを確認しながら断層撮影のX線条件を決定する必要がある。このことは、X線検出器の視野から被検体を外したり、入れたりしながら、両者間で飽和しないX線条件を探索していくことから、繰り返し回数が多くなり、条件設定作業が煩わしいといった問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、エアーデータに煩わされること無く被検体の断層撮影を行える断層撮影装置及び断層撮影方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 上記課題を解決するために、本発明は、テーブル上に載置された被検体に向けて放射線を照射する放射線源と、この放射線源の管電圧と管電流を制御する放射線制御手段と、前記被検体を透過した放射線を2次元検出チャンネルで検出する放射線検出手段と、前記放射線と前記被検体とを相対的に回転させる回転手段と、前記被検体を前記放射線検出手段の視野から外し、または当該視野内に設定するように前記テーブルを移動させるテーブル移動手段と、前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に設定し、操作者の入力指示に従って、少なくとも断層撮影放射線条件を含む断層撮影条件を設定する撮影条件設定手段と、前記被検体を前記放射線検出手段の視野から外し、前記設定された断層撮影放射線条件から前記管電流を変更した条件のもとに前記放射線源から放射線の照射によって前記放射線検出手段から出力されるエアーデータを収集するとともに、この収集されたエアーデータが飽和しないことを条件とし、前記撮影条件設定手段で設定された断層撮影条件で前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に戻し、前記回転手段を介して相対的な回転を行いつつ、複数の回転位置での前記放射線検出手段の出力である被検体の透過データを得る撮影制御手段と、前記複数の回転位置で得られた透過データに対し、前記収集したエアーデータを用いて感度補正を実施した後、前記被検体の断層像を再構成する再構成手段とを備えた断層撮影装置である。
【0012】
なお、前記撮影条件設定手段としては、前記断層撮影放射線条件及び断層撮影幾何条件を含む断層撮影条件を設定する場合、前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に設定し、操作者の入力指示に従って選択的に制御指令を送出し、前記放射線制御手段を介して放射線源に管電圧及び管電流を設定し、前記テーブル移動手段により前記被検体の断層撮影位置を設定し、かつ、前記被検体の放射線吸収に応じて飽和しない範囲で放射線強度を上げるように変更を加えながら前記断層撮影放射線条件及び前記断層撮影幾何条件を設定する構成とする。
【0013】
また、前記撮影制御手段としては、収集されたエアーデータが飽和しているか判定するエアーデータ判定手段と、この判定手段によってエアーデータが飽和していると判定されたとき、前記断層撮影放射線条件から前記管電流を繰り返し変化させつつ、収集したエアーデータが飽和しない判定結果を得るように制御する手段とを設けた構成としてもよい。
【0014】
なお、前記エアーデータ判定手段は、前記放射線検出手段の複数検出チャンネル間のエアーデータの平均値と標準偏差とを求め、この求めた平均値と標準偏差に所定係数を掛けて得られた値とを加算し、この加算値が飽和値を超えているときに前記エアーデータが飽和していると判定するものである。
【0015】
(2) また、本発明は、テーブル上に載置された被検体に向けて放射線を照射する放射線源と、この放射線源の管電圧と管電流を制御する放射線制御手段と、前記被検体を透過した放射線を2次元検出チャンネルで検出する放射線検出手段と、前記放射線と前記被検体とを相対的に回転させる回転手段と、前記放射線に対し前記テーブルを移動させるテーブル移動手段と、前記回転手段を介して相対的な回転を実施し、複数の回転位置での前記放射線検出手段の出力である透過データから被検体の断層像を得る再構成部とを有する断層撮影装置において、
前記テーブル移動手段により前記被検体の断層撮影位置を設定するとともに、少なくとも断層撮影放射線条件を設定する条件設定ステップと、前記テーブル移動手段により前記被検体を前記放射線検出手段の視野から外すステップと、前記条件設定ステップによって設定された断層撮影放射線条件から前記管電流を変更した条件のもとに前記放射線源から放射線の照射によって前記放射線検出手段から出力されるエアーデータを収集するとともに、この収集されたエアーデータが飽和しているか判定するエアーデータ判定ステップと、この判定ステップで飽和していると判定されたとき、前記断層撮影放射線条件から前記管電流を繰り返し変化させつつ、収集したエアーデータが飽和しない判定結果を得るように制御する管電流可変制御ステップと、前記エアーデータ判定ステップ及び管電流可変制御ステップのもとに、収集したエアーデータが飽和しない状態になったとき、前記条件設定ステップで設定された断層撮影条件で前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に戻し、前記回転手段を介して相対的な回転を行いつつ、複数の回転位置での前記放射線検出手段の出力である被検体の透過データを得るステップと、前記複数の回転位置での透過データに対し、飽和していない前記エアーデータを用いて感度補正を行い、得られた補正後の透過データを用いて前記被検体の断層像を再構成する前記再構成部である再構成ステップとを有する断層撮影方法である。
【0016】
なお、前記エアーデータ判定ステップとしては、前記放射線検出手段の複数検出チャンネル間のエアーデータの平均値と標準偏差とを求め、この求めた平均値と標準偏差に所定係数を掛けて得られた値とを加算し、この加算値が飽和値を超えているときに前記エアーデータが飽和していると判定するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エアーデータに煩わされること無く、断層撮影独自の断層撮影放射線条件を設定して被検体の断層撮影を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第一の実施の形態)
図1は本発明に係る断層撮影装置における第一の実施の形態を説明する概念構成図(正面図)である。
【0019】
図1において、1は放射線源であるX線管、2は放射線検出手段であるX線検出器である。X線管1のX線焦点Fから発生した放射線であるX線ビーム3は図示斜め下方の被検体4に向けて照射され、その一部となるX線ビーム5が被検体4を透過し、X線検出器2で検出される。
【0020】
X線管1は、例えば透過型マイクロフォーカスX線管が用いられ、1μm程度の小さなX線焦点Fを持つものである。
【0021】
X線検出器2は、被検体4から透過してくるX線ビーム5を2次元検出チャンネル(2次元分解能)で構成される検出面2aで検出するものであって、例えばX線I.I.(X線イメージ.インテンシファイア)とテレビカメラとを組み合わせたもの、FPD(フラットパネル型検出器)等が用いられる。
【0022】
被検体4は、試料テーブル6に載置され、試料テーブル6の下部には移動設置台の役割を有するXY機構7、回転機構8及びxz機構9が設けられている。これら機構7〜9は、外部からの指令に基づき所定の方向に移動しつつ、X線ビーム5に対して所定位置に位置設定する構成となっている。
【0023】
なお、XY機構7、回転機構8及びxz機構9は、図1の積み重ね順序に限定されるものでなく、任意の順序で積み重ね可能である。XY機構7は請求項に記載されるテーブル移動手段に相当する。
【0024】
被検体4は、試料テーブル6とともにXY機構7によりテーブル面6aに沿って2方向X,Yに平行移動され位置設定される。また、被検体4は、xz機構9により、回転軸RAとともにテーブル面6aと直交する平面(検出器傾動面10=紙面)に沿って2方向x,zに平行移動されつつ所要位置に設定される。
【0025】
なお、X線ビーム5は、被検体4と試料テーブル6のみ交差し、他のX線吸収の強い機構構成要素とは交差しないように工夫されている。例えば、回転機構8は大口径の中空軸とX線ビーム5から外れた部分での軸受けとを有し、X線ビーム5はその中空軸の中を通過する。XY機構7及びxz機構9についても、同様にX線吸収の強い機構構成要素とは交差しないように工夫されている。試料テーブル6はX線透過のよい材料で作られている。
【0026】
X線検出器2は、検出器移動機構11により、検出器傾動面10(=紙面)に沿ったxd方向に移動され、かつ首振りされ、常に検出面2aがX線焦点Fを向くように位置設定される。
【0027】
検出器移動機構11は、X線ビーム3内でX線検出器2を移動させることにより、90度より小さな範囲(0度ないし約70度)でラミノ角αを変えることができる。ラミノ角αは回転軸RAとX線光軸Lとの成す角度である。
【0028】
その結果、回転軸RAは、X線焦点F(X線源)とX線検出器2の検出面2aの中心Dとを結ぶX線光軸Lに対し、90度より小さなラミノ角αで傾斜されている。そして、X線光軸Lは回転軸RAと一点(C点)で交わるように設定される。
【0029】
XY機構7は、回転軸RA上のC点を中心とする撮影領域に被検体4の所望の検査領域が位置するように、回転軸RAと直交する2方向であるX,Y方向に試料テーブル6を移動させるために使用される。
【0030】
また、XY機構7は、エアーデータ収集の際に被検体4をX線検出器2の視野、すなわちX線ビーム5から外すために用いられ、断層撮影時には被検体4を元の位置に戻すために用いられる。
【0031】
回転機構8は、断層撮影時、被検体4をテーブル面6aに沿って回転させるために使用される。
【0032】
xz機構9は、検査倍率(拡大率)の設定と、ラミノ角(傾斜角)αが変化したときに検査領域がC点を中心とする撮影領域からずれないようにする、いわゆる視野ずれ補正に使用される。
【0033】
各機構7,8,9は機構制御部13から電力の供給を受け、かつ、制御指令のもとに位置決め制御される。すなわち、機構制御部13は、必要とする機構7(または8,9)に制御指令を送出し、当該機構7に取り付けられているエンコーダ(図示せず)から制御結果の位置データを受け取り、所望とする位置に設定するように制御する。
【0034】
また、X線管1にはX線制御部14が接続されている。X線制御部14は、所望のX線条件となる管電圧、管電流となるようにX線管1を制御する。
【0035】
15はコンピュータを備えたデータ処理部である。このデータ処理部15は、外部的には表示部16、キーボード,マウス等の入力部17が設けられ、また、X線検出器2、機構制御部13、X線制御部14と接続され、X線検出器2の検出出力の取り込み、各種制御指令の発信その他後記する各種の処理を実行する。
【0036】
また、データ処理部15は、ソフトウエア的な機能構成としては、撮影条件設定部15a、撮影制御部15b、エアーデータ判定部15c及び再構成部15dが設けられている。
【0037】
撮影条件設定部15aは断層撮影条件(X線条件と幾何条件等)を設定する際に用いられる。撮影制御部15bは、エアーデータ収集及び断層撮影を行うとき、一連のシーケンスプログラムを実行する機能を有する。エアーデータ判定部15cはエアーデータが所定値(最終的に飽和しない値)であるかを判定する機能を有する。再構成部15dは断層撮影の際に得られた透過データ(透過像)に対し、得られたエアーデータを用いて感度補正を行った後、被検体4の断層像を作成する機能を持っている。
【0038】
ここで、断層撮影とは、設定されたラミノ角αで、1回転中に一定角度回転毎の回転位置ごとにX線検出器2で透過データ(透過像)を検出する撮影である。
【0039】
その他、図1に図示されていないが、X線管1,xz機構9、検出器移動機構11等を支持する構成要素、X線を遮蔽するための筐体などが設けられている。
【0040】
次に、以上のように構成された断層撮影装置の作用について、図2を参照して説明する。図2は第一の実施の形態における断層撮影時の一連の処理フローを示す図である。
【0041】
先ず、ステップS1においては、断層撮影に先立ち、X線検出器2の視野内に被検体4を入れた状態で飽和しない断層撮影条件を見つけ出し、当該断層撮影条件の設定を行う。ここで、断層撮影条件は、X線管1の管電圧,管電流等の断層撮影X線条件と、ラミノ角α、被検体4中の撮影位置(拡大率を含む)等の断層撮影幾何条件及び回転速度、透過像撮影枚数その他の条件等がある。
【0042】
このステップS1では、被検体4を試料テーブル6に載置した後、操作者が入力部17から起動指示を入力し、撮影条件設定部15aを起動する。
【0043】
撮影条件設定部15aは、操作者が入力部17から入力するX線条件指定入力と幾何条件指定入力とを受け付けると、X線条件指定入力に基づき、X線制御部14に制御指令を送出し、X線条件を設定する。
【0044】
また、撮影条件設定部15aは、幾何条件指定入力に基づき、機構制御部13に制御指令を送出し、幾何条件を設定する。
【0045】
以上のようにして両条件を設定した後、X線管1からX線ビーム3を発生し、被検体4に向けて照射開始する。このとき、X線検出器2で検出した被検体4の透過像を取り込んで表示部16に表示する。操作者は、表示部16の透過像を目視しながら撮影条件を変更し、最終的な断層撮影条件を設定する。この設定した断層撮影条件は適宜な記憶部(図示せず)に記憶される。
【0046】
具体的には、ステップS1では、機構制御部13からの制御指令に基づいて検出器移動機構11が移動してラミノ角αを所定の角度に設定する。同様に、機構制御部13からの制御指令に基づき、XY機構7が移動して被検体4中の撮影位置を回転軸RA上に設定する。さらに、機構制御部13からの制御指令に基づき、xz機構9が移動して拡大率を設定するとともに、C点に撮影位置中央を合わせる視野あわせを行う。X線条件は、前述したような要領で設定するが、透過像が暗すぎや飽和する部分が無いように管電圧と管電流とを設定する。
【0047】
次に、設定された断層撮影条件の下に、操作者は入力部17から断層撮影開始指令を入力すると、撮影制御部15bは、以下のステップS2乃至ステップS10の処理フローに従って断層撮影を実行する。
【0048】
ステップS2では、X線管1からのX線放射を停止し、X線検出器2の検出チャンネルごとのオフセットデータを収集し、データ処理部15内の適宜な記憶部(図示せず)に記憶する。
【0049】
ステップS3では、撮影制御部15bからの指令に基づき、機構制御部13がXY機構7を介して試料テーブル6を予め定めたエアー位置に移動させ、被検体4をX線検出器2の視野からはずす。
【0050】
ステップS4においては、設定した断層撮影X線条件のもとにX線管1からX線ビーム3を放射開始する。
【0051】
ステップS5では、被検体4をX線検出器2の視野から外した状態にて、放射されたX線ビーム3に基づき、X線検出器2の各検出チャンネルからエアーデータを収集する。このエアーデータは、通常,均質な板状の試料テーブル6を透過した透過像である。また、エアーデータは、ノイズの影響を除くために透過像を複数のフレーム分を取り込み、これら複数のフレームの透過像を平均し、各検出チャンネルのエアーデータとして収集する。
【0052】
ステップS6では、「エアーデータは飽和状態か?」を判定する。具体的には、エアーデータ判定部15cが各検出チャンネル間におけるエアーデータの最大値が飽和レベルに達しているとき、飽和状態と判定する。
【0053】
ここで、エアーデータが飽和状態と判定されたとき、ステップS7に進む。このステップS7では、飽和状態の判定結果を受け、X線制御部14を介してX線管1の管電流を予め定める所定値だけ下げた状態に変更してX線放射を続行し、ステップS5に戻って同様にエアーデータを収集し(ステップS5)、ステップS6にて「エアーデータは飽和状態か?」を判定する。
【0054】
このとき、ステップS7、ステップS5,S6を繰り返すことにより、いつかはエアーデータが飽和状態でなくなる。ここで、エアーデータが飽和状態でなくなったとき、ステップS8に進み、当該エアーデータをデータ処理部15内の適宜な記憶部に記憶してステップS9に進む。
【0055】
飽和しないエアーデータを収集した後、ステップS9では、被検体4をX線検出器2の視野内に入れ、かつ、ステップS1で設定した断層撮影条件の管電流にもどす。つまり、既にステップS1にてX線検出器2の視野内に被検体4を入れた状態で飽和しない断層撮影条件を得ているので、その断層撮影条件の状態に戻す。
【0056】
さらに、ステップS10では、断層撮影を実施する。この断層撮影は、撮影制御部15eから機構制御部13を介して回転機構8を回転駆動させることにより、被検体4を回転軸RAに対して回転させる。通常、X線管1からX線ビーム3を放射させた状態において、1回転にわたって一定角度ごとに被検体4を通ってくるX線ビーム5をX線検出器2で検出した透過データ(透過像)を取り込み、データ処理部15内の適宜な記憶部に記憶する。
【0057】
なお、ハーフスキャン、オーバースキャン、ヘリカルスキャンなどの場合には1回転ではない。
【0058】
引き続き、再構成部15dは、ステップS11とステップS12を実行し、断層像の再構成を行う。
【0059】
ステップS11では、X線検出器2における各検出チャンネルごとの感度の補正であるエアー補正を行う。詳しくは、エアー補正と一緒に、オフセット補正と対数変換処理を行う。
【0060】
エアー補正はエアーデータによる除算であり、補正後の透過データPは、各検出チャンネル毎に下記の補正式により求める。
P=LOG((IA−Ioff)/(I−Ioff)) ……(1)
ここで、Iは透過データ、IAはエアーデータ、Ioffはオフセットデータである。すなわち、補正後の透過データPは、エアー補正、オフセット補正及び対数変換した値となる。
【0061】
次に、ステップS12では、1回転にわたって一定角度ごとにX線検出器2で得たエアー補正後の透過データ(透過像)から断層像を再構成する。再構成方法は、従来周知の方法を採用する。例えば、特許文献1に記載するように、フィルタ掛けと逆投影とを用いて再構成する。ここで、フィルタ掛けは、透過像上に投影した回転軸の方向と直交する方向にいわゆる重みデータ|ω|のフィルタ掛けが行われる。そして、逆投影により被検体4の断層像が得られる。
【0062】
さらに、連続的に複数毎の断層像を再構成することにより、3次元データを取得することができる。
【0063】
<エアーデータ収集時に管電流を下げることの再構成上の影響について>
X線管1の管電流を下げると、X線のエネルギー分布は変化せずに光子数のみが変化する。従って、管電流を下げてエアーデータを収集すると、オフセットデータを引いたエアーデータ(IA−Ioff)は、正規の管電流の場合とくらべ、全検出チャンネルに同じ係数が掛かった値となる。対数変換後の値Pとしては、全検出チャンネルに同じ値が加わった値となる。
【0064】
すなわち、対数変換後の透過像Pは、正規の管電流の場合にくらべ、一定値が加算された点だけが違いとなる。この加算された成分は、DC成分であるので、再構成時の|ω|のフィルタ掛けにより完全に0になる。このため、理論的にも管電流を下げることは再構成処理に全く影響しない。
【0065】
その他、フィルタ処理と逆投影以外の再構成、例えば逐次近似法(ART法)を採用する場合、管電流変化係数q(<=1)を用いて、
P´=P−LOG(q) ……(2)
なる補正式により管電流変化補正を行った後に再構成すれば、理論的に、管電流を下げることは再構成処理に全く影響しない。< >終了。
【0066】
従って、以上のような実施の形態によれば、エアーデータ収集時、既に設定済みの断層撮影条件から被検体4を外して管電流を所定値ずつ下げて飽和しない状態とした後にエアーデータを収集するので、既に設定済みとなった飽和しない断層撮影条件に戻して断層撮影を実施できる。その結果、エアーデータの飽和に制約されることなく、X線強度が十分大きくなるような最適な断層撮影条件に設定できる。
【0067】
その結果、断層撮影においては、被検体4がX線検出器2の視野全体を覆っている場合がほとんどあって、透過像に空気が無い状態となっているので、断層撮影時のX線強度を大きくでき、ノイズを大幅に低減化した断層像を撮影できる。このことは、特にX線吸収の大きい被検体4の断層撮影などにとって、効果が大きい。
【0068】
また、エアーデータの飽和に制約されずに断層撮影のX線条件を決定でき、従来のようにX線検出器の視野から被検体を外したり入れたり繰り返しつつ、両者の飽和しないX線条件を探索していくといった繰り返し操作が不要となり、迅速に被検体4の断層撮影を行うことができる。
【0069】
さらに、エアーデータの収集を含む一連の処理を全自動的に実行でき、エアーデータに煩わされることなく断層撮影ができる。
【0070】
(その他の実施の形態)
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
【0071】
(1) 上記実施の形態では、ステップS6にて各チャンネルのエアーデータから「エアーデータは飽和状態か?」を判定しているが、このような判定方法には限らない。すなわち、各チャンネルのエアーデータから直接飽和を判定する代わりに、間接的に飽和を示すパラメータを用いて判定してもよい。
【0072】
例えば、各チャンネルのエアーデータの平均値を求めた後、当該平均値が所定値以下、例えば飽和値の80%以下の場合、飽和状態でないと判定してもよい。所定値は、過去の経験に照らして十分飽和状態でないとする値が選択される。この判定を採用した場合、検出チャンネルの中に常に飽和値を出力する不良チャンネルが存在する場合でも、不良チャンネルを除いた正常チャンネルに対して飽和を正しく判定できる。
【0073】
また、例えば、エアーデータの所定範囲のチャンネルについて複数チャンネル間の平均値mと標準偏差σを求めた後、この平均値mと標準偏差σに所定係数kを掛けた値とを加算し、この加算値(m+k・σ)が飽和値を超えたとき、飽和状態であると判定してもよい。ここで、所定係数kは3〜5が望ましい。また、平均値mと標準偏差σを求めるチャンネル範囲は、例えば全チャンネルとしても、周辺部を除いた中央部としてもよい。
【0074】
因みに、以上の加算値及び係数値を用いた理由は、エアーデータの検出チャンネル間のばらつきが正規分布に近いことを利用し、例えば3σを超える検出チャンネル数が急減することを利用している。
【0075】
このような判定方法を採用した場合、検出チャンネルの中に常に飽和値を出力する不良チャンネルが有った場合でも、不良チャンネルの出力の影響を抑えて正常に判定できるほか、飽和しない最大のエアーデータとすることができ、断層像のノイズが減らせる。
【0076】
(2) 上記実施の形態では、ステップS4において、ステップS1で設定した断層撮影X線条件でX線照射しているが、ここでは、必ずしも設定した断層撮影X線条件と同じにする必要はなく、管電流については変更した値,例えば5%低い値、あるいは5%高い値等に設定しても構わない。
【0077】
また、ステップS7では、管電流を下げているが、エアーデータが小さい場合には管電流を下げる方向に変化させてもよい。すなわち、エアーデータの大小に応じて管電圧を下げたり、上げたりすることで、エアーデータが飽和しないで大きな値となるように調整することができる。
【0078】
(3) 上記実施の形態では、機構制御部13が検出器移動機構11を図示xd方向に直線的に移動させているが、例えば図示(イ)の円弧状に首振り移動させてもよい。
【0079】
(4) また、ラミノ角αの可変手段としては、X線焦点FとX線検出器2の何れか一方あるいは両方を移動させて、X線光軸Lを傾けるようにしてもよく、あるいは回転軸RAを傾けるようにしてもよい。また、回転に関しては、X線焦点FとX線検出器2とを回転させてもよい。
【0080】
(5) さらに、上記実施の形態においては、エアーデータの収集の際にXY機構7を介して被検体4をX線検出器2の視野から外しているが、当該XY機構7の代わりに、xz機構9を用いて被検体4をX線検出器2の視野から外す構成としてもよい。この場合には、xz機構9は請求項に記載されるテーブル移動手段に相当する。
【0081】
また、前述したようにエアーデータの収集の際にXY機構7を介して被検体4をX線検出器2の視野から外しているが、当該XY機構7の代わりに、X線焦点FとX線検出器2の何れか一方あるいは両方を移動させてもよい。この場合には、X線焦点FとX線検出器2を移動させる手段が請求項に記載されるテーブル移動手段に相当する。
【0082】
(6) さらに、上記実施の形態では、ラミノ角αは90度より小さな角度に設定したが、例えば90度に設定することもできる。この場合には、本発明の断層撮影装置はコンビームCT(Computer Tomography)装置となる。すなわち、本発明の断層撮影装置はコンビームCT装置にも適用できる。
【0083】
(7) さらに、上記実施の形態では、透過型マイクロフォーカスX線管を用いたが、X線管はこれに限られることなく、反射型でも、非マイクロフォーカス型でもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、連続放射のX線管を用いたが、パルス放射でもよい。パルス放射の場合は、管電流を変化させるかわりに、パルス幅やパルス周期を変えるようにしてもよい。その理由は、パルス幅やパルス周期を変えることで時間平均の管電流が変わっており、管電流の変更と同じ機能を果すためである。
【0085】
(8) また、上記実施の形態では、エアーデータが飽和しないように管電流を下げたが、管電流を変更するかわりに次のような変更方法を用いてもよい。
(イ) X線検出器2の積分時間を変更する。
(ロ) X線検出器2のゲインを切換える。
(ハ) X線ビーム5にX線フィルタを切換えて挿入する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る断層撮影装置の第一の実施形態を説明する概念構成図。
【図2】第一の実施形態における断層撮影時の一連の処理フロー図。
【符号の説明】
【0087】
1…X線管、2…X線検出器。2a…検出面、3…X線ビーム、4…被検体、5…検出される一部のX線ビーム、6…試料テーブル、7…XY機構、8…回転機構、9…xz機構、10…検出器傾動面、11…検出器移動機構、13…機構制御部、14…X線制御部、15…データ処理部、15a…撮影条件設定部、15b…撮影制御部、15c…エアーデータ判定部、15d…再構成部、16…表示部、17…入力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブル上に載置された被検体に向けて放射線を照射する放射線源と、
この放射線源の管電圧と管電流を制御する放射線制御手段と、
前記被検体を透過した放射線を2次元検出チャンネルで検出する放射線検出手段と、
前記放射線と前記被検体とを相対的に回転させる回転手段と、
前記被検体を前記放射線検出手段の視野から外し、または当該視野内に設定するように前記テーブルを移動させるテーブル移動手段と、
前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に設定し、操作者の入力指示に従って、少なくとも断層撮影放射線条件を含む断層撮影条件を設定する撮影条件設定手段と、
前記被検体を前記放射線検出手段の視野から外し、前記設定された断層撮影放射線条件から前記管電流を変更した条件のもとに前記放射線源から放射線の照射によって前記放射線検出手段から出力されるエアーデータを収集するとともに、この収集されたエアーデータが飽和しないことを条件とし、前記撮影条件設定手段で設定された断層撮影条件で前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に戻し、前記回転手段を介して相対的な回転を行いつつ、複数の回転位置での前記放射線検出手段の出力である被検体の透過データを得る撮影制御手段と、
前記複数の回転位置で得られた透過データに対し、前記収集したエアーデータを用いて感度補正を実施した後、前記被検体の断層像を再構成する再構成手段と
を備えたことを特徴とする断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の断層撮影装置において、
前記撮影条件設定手段は、前記断層撮影放射線条件及び断層撮影幾何条件を含む断層撮影条件を設定する場合、前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に設定し、操作者の入力指示に従って選択的に制御指令を送出し、前記放射線制御手段を介して放射線源に管電圧及び管電流を設定し、前記テーブル移動手段により前記被検体の断層撮影位置を設定し、かつ、前記被検体の放射線吸収に応じて飽和しない範囲で放射線強度を上げるように変更を加えながら前記断層撮影放射線条件及び前記断層撮影幾何条件を設定するものであることを特徴とする断層撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の断層撮影装置において、
前記撮影制御手段は、収集されたエアーデータが飽和しているか判定するエアーデータ判定手段と、この判定手段によってエアーデータが飽和していると判定されたとき、前記断層撮影放射線条件から前記管電流を繰り返し変化させつつ、収集したエアーデータが飽和しない判定結果を得るように制御する手段とを設けたことを特徴とする断層撮影装置。
【請求項4】
請求項3に記載の断層撮影装置において、
前記エアーデータ判定手段は、前記放射線検出手段における複数検出チャンネル間のエアーデータの平均値と標準偏差とを求め、この求めた平均値と標準偏差に所定係数を掛けて得られた値とを加算し、この加算値が飽和値を超えているときに前記エアーデータが飽和していると判定することを特徴とする断層撮影装置。
【請求項5】
テーブル上に載置された被検体に向けて放射線を照射する放射線源と、この放射線源の管電圧と管電流を制御する放射線制御手段と、前記被検体を透過した放射線を2次元検出チャンネルで検出する放射線検出手段と、前記放射線と前記被検体とを相対的に回転させる回転手段と、前記放射線に対し前記テーブルを移動させるテーブル移動手段と、前記回転手段を介して相対的な回転を実施し、複数の回転位置での前記放射線検出手段の出力である透過データから被検体の断層像を得る再構成部とを有する断層撮影装置において、
前記テーブル移動手段により前記被検体の断層撮影位置を設定するとともに、少なくとも断層撮影放射線条件を設定する条件設定ステップと、
前記テーブル移動手段により前記被検体を前記放射線検出手段の視野から外すステップと、
前記条件設定ステップによって設定された断層撮影放射線条件から前記管電流を変更した条件のもとに前記放射線源から放射線の照射によって前記放射線検出手段から出力されるエアーデータを収集するとともに、この収集されたエアーデータが飽和しているか判定するエアーデータ判定ステップと、
この判定ステップで飽和していると判定されたとき、前記断層撮影放射線条件から前記管電流を繰り返し変化させつつ、収集したエアーデータが飽和しない判定結果を得るように制御する管電流可変制御ステップと、
前記エアーデータ判定ステップ及び管電流可変制御ステップのもとに、収集したエアーデータが飽和しない状態になったとき、前記条件設定ステップで設定された断層撮影条件で前記被検体を前記放射線検出手段の視野内に戻し、前記回転手段を介して相対的な回転を行いつつ、複数の回転位置での前記放射線検出手段の出力である被検体の透過データを得るステップと、
前記複数の回転位置での透過データに対し、飽和していない前記エアーデータを用いて感度補正を行い、得られた補正後の透過データを用いて前記被検体の断層像を再構成する前記再構成部である再構成ステップと
を有することを特徴とする断層撮影方法。
【請求項6】
請求項5に記載の断層撮影方法において、
前記エアーデータ判定ステップでは、前記放射線検出手段における複数検出チャンネル間のエアーデータの平均値と標準偏差とを求め、この求めた平均値と標準偏差に所定係数を掛けて得られた値とを加算し、この加算値が飽和値を超えているときに前記エアーデータが飽和していると判定することを特徴とする断層撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−139337(P2009−139337A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318875(P2007−318875)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】