断熱ガラスとその製造方法
【課題】単純な積層構造でありながら、可視光領域に近い短波長の近赤外領域から赤外線を反射できる断熱ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス基板2上に、透明導電層4と、近赤外線領域における屈折率が透明導電層4の屈折率より相対的に高い高屈折率層3とが交互に複数周期で積層されている。高屈折率層3は屈折率に波長依存性が殆ど無いが、透明導電層4は屈折率に波長依存性があり、可視光線領域では高屈折率層3と透明導電層4の屈折率は同レベルであるが、近赤外線領域においては高屈折率層3と透明導電層4の屈折率に差が生じている。周期構造の光入射側最表面は透明導電層4aとする。光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚は、これ以外の他の層3・4の膜厚と比べて最も大きくし、且つ他の層3・4の膜厚もしくは光学膜厚は全て同じとすることが好ましい。
【解決手段】ガラス基板2上に、透明導電層4と、近赤外線領域における屈折率が透明導電層4の屈折率より相対的に高い高屈折率層3とが交互に複数周期で積層されている。高屈折率層3は屈折率に波長依存性が殆ど無いが、透明導電層4は屈折率に波長依存性があり、可視光線領域では高屈折率層3と透明導電層4の屈折率は同レベルであるが、近赤外線領域においては高屈折率層3と透明導電層4の屈折率に差が生じている。周期構造の光入射側最表面は透明導電層4aとする。光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚は、これ以外の他の層3・4の膜厚と比べて最も大きくし、且つ他の層3・4の膜厚もしくは光学膜厚は全て同じとすることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を反射し且つ放射率が低い断熱ガラスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽からは、紫外線(波長10〜400nm程度)、可視光線(波長400〜800nm程度)、赤外線(波長800nm〜1mm程度)など種々の波長の電磁波が到達する。赤外線は、波長0.8〜2.5μm(800〜2500nm)程度の近赤外線と、波長2.5〜4μm程度の中赤外線と、4〜1000μm程度の遠赤外線とに分けられる。紫外線は化学的な作用が著しいことに対し、赤外線は熱的な作用を及ぼす。したがって、夏季において室内冷房等を使用していても、赤外線が窓ガラスを透過することで室内が暖められ、冷却効果を阻害する。一方、物体は赤外線を放射する作用(黒体放射)があり、例えば冬場の室内の暖気が窓材に伝わった場合、窓材表面の放射率が高いとその表面から遠赤外線となって放射されることによって伝熱が起こってしまう。そのため、室内の保温性を高め空調機器の負荷を軽減するなどのためには、夏季には赤外線を反射し、冬季には放射率を低減することが求められる。これを前提として、従来から、居住空間の快適性向上、エネルギーコスト削減、環境問題対策などに有効な断熱性ガラスが開発されている。
【0003】
例えば、Agを主体成分とする膜の赤外線反射及び低放射率特性を主に利用した断熱ガラスとして、特許文献1や特許文献2がある。具体的には、ガラス基板上に、Agを主体成分とする層と、金属酸化物層とを交互に複数積層することで、穏やかな外観色調を有し、かつ基体側から見た反射光の色調が、入射角度を変えても変化が少ない断熱ガラスとしている。特許文献1では、金属酸化物層として酸化亜鉛(ZnO)層やAlを添加した酸化亜鉛(ZnO・Al)層などを使用可能とされており、特許文献2では、金属酸化物層としてZnOにAlを添加したZnO・Al層が好ましいとされている。なお、特許文献1及び特許文献2では、各層の厚みを異ならせている。
【0004】
特許文献1や特許文献2でも利用され得る、ZnOにAlを添加したZnO・Al膜などの透明導電膜(層)も、可視光線は透過するが赤外線は反射し、かつ放射率が低いことが知られている(非特許文献1及び非特許文献2参照)。赤外線の反射は膜中の自由電子に起因しており、消衰係数の増加に伴い赤外線が透過し難くなる。下式(1)は、反射を生じさせる波長の目安となるプラズマ波長λPを示す式であり、Nは自由電子密度、m*は電子の有効質量、eは電子の電荷量、ε0は真空中の誘電率、ε∞は物質の比誘電率である。この式(1)から、自由電子密度Nの増大によりプラズマ波長λpを近赤外領域まで低減させ、赤外線を反射できると定性的に説明できる。
【数1】
【0005】
また、第一のポリマー種を含む層と第二のポリマー種を含む層との交互層を有する赤外光反射多層フィルムと、硬化したポリマーバインダー中に分散させた多数の金属酸化物ナノ粒子を含み、かつ1〜20μmの範囲の厚さを有する赤外光吸収ナノ粒子層とを備える太陽光制御多層フィルムが、特許文献3に記載されている。ここでの金属酸化物ナノ粒子は、酸化スズまたはドープト酸化スズとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-104547号公報
【特許文献2】特開平11-34216号公報
【特許文献3】特表2008―528313号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optical Properties of Aluminum Doped Zinc Oxide ThinFilms Prepared by RF Magnetron Sputtering、T. Minami, H. Nanto and S.Takata, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 24No.8, L605-L607 (1985)
【非特許文献2】ZnO系透明導電膜、南内嗣、応用物理 第16巻 第12号、1255-1258 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ZnO・Al膜(層)やAgを主体成分とする膜(層)のような透明導電膜は、赤外線反射作用を奏する。しかしながら、ZnO・Al膜において、赤外線反射現象が発現する波長は凡そ1500nm程度以上であり、この1500nmから可視光の長波長端である約800nmまでの近赤外領域については反射が小さい。また、Ag膜では800nm程度の近赤外線を反射させるためには膜厚を増加させる必要があり、その場合には可視領域の透過率が低下してしまう。太陽光の放射強度スペクトルは、可視光領域の約500nmをピークとして波長の増加とともに減少するスペクトルであるため、可視光領域より長波長側では800nm程度の近赤外領域の放射強度が高く、長波長になるにしたがって放射強度は低下する。したがって、Ag膜では得られない可視光透過率を確保しつつ、ZnO・Al膜では反射できない800〜1500nm程度の近赤外線を如何に反射させるかが太陽光の熱線をカットする上で重要となる。
【0009】
そこで、本発明者らは、ガラス表面に形成する被膜において、式(1)に示した自由電子による赤外反射(波長1500nm以上)に加えて、近赤外領域における屈折率の異なる被膜を互いに積層することで、800〜1500nm程度の近赤外線の反射も発現できないかと考えた。ここで、光学特性(屈折率)の異なる膜を積層することで反射現象を発現させるためには、異なる膜A・B同士の屈折率差が重要となる。その反射波長λおよび反射率Rmaxは、一般的に次の式(2)および式(3)で与えられる。nは屈折率、dは膜厚、nmは膜表面に接する媒質の屈折率、nsは基板の屈折率である。
【数2】
【数3】
【0010】
特許文献1や特許文献2では、Agを主体成分とする層とZnO・Al層などの金属酸化物層とを交互に積層しているが、両層の屈折率差には特に注目しておらず、これを有効利用できる構成ともなっていない。具体的には、特許文献1では複数種の金属酸化物層を積層しているので各層間の屈折率差が一定でなく、屈折率差に基づく反射現象を有効利用できない。当然、屈折率差に基づく近赤外線の反射現象も有効利用できない。金属酸化物層として1種のみ(例えばZnO層)使用した例もあるが、各層の厚み(膜厚)が異なるので、周期性(屈折率差)に起因して反射が生じる波長を制御することはできない。
【0011】
特許文献2では金属酸化物層としてZnO・Al層が好ましいとされているが、これとAgを主体成分とする層との周期構造では、可視光線領域では屈折率差を生じさせず近赤外線領域において屈折率差を生じさせることはできない。しかも、特許文献2でも各層の厚み(膜厚)が異なるので、やはり周期性(屈折率差)に起因して反射が生じる波長を制御することはできない。
【0012】
特許文献3では、屈折率の異なる2種類の膜を交互に積層させているので、反射波長の制御はある程度可能である。しかしながら、特許文献3における第一のポリマー種を含む層及び第二のポリマー種を含む層の屈折率は、波長に対して変動せずほぼ一定であり、透明導電膜のような波長依存性がない。屈折率差が全ての波長で不変の場合、反射させたい波長の整数分の1の波長(nAdA=nBdB=λ/4のときは1/3)に別の反射ピークが発現する。例えば1200nmの波長を反射させたい場合でも、可視光領域である400nmの波長も同時に反射してしまい、膜が着色してしまう。また、屈折率が異なるだけで導電性を有していない場合、自由電子に起因する反射は期待できない。そのため、特許文献3では、屈折率の異なる膜を交互に積層させることに加えて、金属酸化物ナノ粒子(自由電子)を含む層も設けている。しかしながら、これでは、周期構造のための2種類の異なる層と、自由電子を含む層との、合計3種類もの膜が最低限必要となる。
【0013】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、単純な積層構造でありながら、可視光の透過率を維持しつつ、より可視光領域に近い短波長の近赤外領域から赤外線を反射できる断熱ガラスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の断熱ガラスは、ガラス基板上に、透明導電層と、近赤外線領域における屈折率が前記透明導電層の屈折率と比べて相対的に高い高屈折率層とが積層されている。高屈折率層は透明導電層の屈折率と比べて相対的に高ければよく、一般的な種々のガラス被膜と比べて極めて高い必要はない。具体的には、前記高屈折率層として屈折率が波長に応じて大きく変動しない層を使用することに対し、前記透明導電層としては、屈折率が波長に応じて変動し、可視光線領域では前記高屈折率層の屈折率と同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率が低下する特性を有する層を使用する。これにより、透明導電層と高屈折率層との間では、可視光領域では屈折率差が生じていないが、近赤外線領域において屈折率差が生じることになる。なお、高屈折率層の屈折率が波長に応じて変動しないとは、厳密には屈折率が若干変動することはあるが、殆ど変動せず実質的にほぼ一定であることを意味する。
【0015】
前記透明導電層と高屈折率層とは交互に積層されている。当該透明導電層と高屈折率層とが交互に積層された周期構造は、複数周期(2周期以上)繰り返すことで多層構造となっている。このとき、前記周期構造の光入射側最表面は高屈折率層としても構わないが、前記透明導電層とすることが好ましい。また、前記光入射側最表面の透明導電層の膜厚は他の層の膜厚と比べて同じでも構わないが、最も大きく設定することが好ましい。さらに、前記光入射側最表面層以外の他の層は、全て同じ膜厚若しくは同じ光学膜厚とすることが好ましい。なお、光学膜厚は屈折率と膜厚との積である。
【0016】
このような関係を有する透明導電層と高屈折率層とは、大きく分けて3つの形態で形成することができる。まず、第1の形態として、前記透明導電層に、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3、Zn2SnO4、Cd2SnO2、InSbO4、CdIn2O4、MgInO4、CaGaO4、CdO、TiN、ZrN、HfN、LaB6、V2O3,VO2からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を使用し、前記高屈折率層として、ZnO、TiO2、In2O3、SnO2、SrTiO3、BaTiO3、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgO、PbO、Y2O3、ZnAl2O4、GaAl2O4、LiNbO3、CaCO3、MgF2、SiC、Ag2S3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を使用する。これら透明導電層用の材料と高屈折率層用の材料との組み合わせは、高屈折率層の屈折率が透明導電層よりも相対的に高くなる限り、種々の組み合わせができる。なお、光入射側最表面層以外の他の層を全て同じ膜厚とする場合は、透明導電層や高屈折率層に使用する材料はそれぞれ1種のみとする。光入射側最表面層以外の他の層の光学膜厚が全て同じであれば、透明導電層や高屈折率層に使用する材料はそれぞれ2種以上を組み合わせることもできる。
【0017】
第1形態の断熱ガラスでは、前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜される。そして、添加元素用ターゲットのシャッターを定期的に開閉することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層できる。添加元素用ターゲットのシャッターを開けば、ZnOなどの金属酸化物にAlなどの添加元素が添加されて透明導電層となる。逆に、添加元素用ターゲットのシャッターを閉じれば、Alなどの添加元素が添加されずZnOなどの金属酸化物のみからなる高屈折率層となる。
【0018】
また、第2の形態として、前記透明導電層を、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上とし、前記高屈折率層も前記透明導電層と同種の層としながら、前記透明導電層よりも添加元素量が多く導電性を有しない層とする。
【0019】
第2の形態の断熱ガラスでも、前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜される。ここでは、添加元素用ターゲットへの印加電力量を定期的に増減することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層できる。添加元素用ターゲットへの印加電力量を適正に調整することで、ZnOなどの金属酸化物にAlなどの添加元素が適量添加された透明導電層となる。逆に、添加元素用ターゲットへの印加電力量を透明導電層のときよりも増大させれば、ZnOなどの金属酸化物にAlなどの添加元素が多量に添加されて高屈折率層となる。
【0020】
また、第3の形態として、前記透明導電層及び前記高屈折率層を、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜し、前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜され導電性を有しない層とする。なお、第2の形態及び第3の形態において、導電性を有しないとは、僅かに電気は伝導するが透明導電層に比べて十分導電性が低く、実質的に非導電性と同視できる程度の場合を含む。
【0021】
第3の形態の断熱ガラスでも、前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜される。ここでは、前記透明導電層と高屈折率層とは、雰囲気ガス中の酸素割合を変更することで分けられる。具体的には、前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、これの大前提として、ガラス基板上に透明導電層を形成していることで、可視光線を良好に透過しながら赤外線を良好に反射し、且つ放射率が低い。このため、夏季においては赤外線を反射することで室内冷房効率が向上すると共に、冬季においては放射率が低いことで室内暖房効率が向上する。そのうえで、近赤外線領域における屈折率が透明導電層の屈折率と比べて相対的に高い高屈折率層を積層し、近赤外線領域において両層間に屈折率差が生じることで近赤外線を反射させることができる。この透明導電層が本来有する赤外反射と、屈折率差に起因する近赤外反射を組み合わせることにより、従来の断熱ガラスよりも、より断熱効果が向上する。また、本発明によれば、周期構造の膜そのものが透明導電層由来の自由電子の効果を有しているため、2種類の層のみからなる単純な構成にできる。
【0023】
透明導電層の屈折率は波長依存性を有することに対し、高屈折率層の屈折率が波長依存性がほとんどなく、可視光線領域では透明導電層と高屈折率層の屈折率が同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率差が生じる関係となっていれば、赤外線領域においては屈折率差により赤外線が反射されるが、可視光領域において屈折率差がほとんどなければ、当該可視光領域での反射現象は発現せず着色することがない。このため、反射させる近赤外波長を任意に選択でき、その波長を近赤外線領域の中でもより可視光領域に近い波長に移行させることができる。
【0024】
透明導電層と高屈折率層とがそれぞれ1層のみ形成されているだけでも、透明導電層の自由電子に起因する反射と屈折率差による反射とは発現し得る。そのうえで、透明導電層と高屈折率層と交互に積層された周期構造を複数繰り返す多層構造としていれば、確実に赤外線を反射できる。このとき、周期構造の光入射側最表面を透明導電層としていれば、基本となる自由電子に起因する反射を発揮でき、また、気体と触れる最表面を透明導電層としていれば、膜から気体側への赤外放射を低減でき、効率的に断熱できる。
【0025】
光入射側最表面の透明導電層の膜厚が他の層の膜厚と比べて最も大きければ、透明導電層に起因する赤外線反射と低放射率とを効率的に強められるので、屈折率差による短波長領域の反射を発現させながら、従来の断熱ガラスと同様に赤外線の中でも長波長領域の反射率を確実に高め、かつ良好な低放射率を担保できる。
【0026】
光入射側最表面層以外の他の層を全て同じ膜厚もしくは同じ光学膜厚としていれば、これらの膜厚を調整することで交互に積層した周期性(屈折率差)に起因して反射が生じる波長を制御することができる。
【0027】
透明導電層と高屈折率層とを、同じターゲットを利用した基本的に同種の組成からなる層としながら、添加元素の有無、添加元素量、又は雰囲気ガス中の酸素割合によって透明導電層とするか高屈折率層とするかで成膜し分ければ、容易かつ効率的に透明導電層と高屈折率層との周期構造を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】断熱ガラスの断面図である。
【図2】ZnO・Al膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図3】ZnO膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図4】ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図5】ZnO膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図6】全ての膜厚が150nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図7】内層部の膜厚が100nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフある。
【図8】内層部の膜厚が125nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図9】内層部の膜厚が150nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図10】内層部の膜厚が200nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図11】内層部の膜厚が250nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図12】Al過剰添加ZnO・Al膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図13】Al過剰添加ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図14】Al過剰添加ZnO・Al膜とAl適量添加ZnO・Al膜との周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図15】酸素供給不足ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図16】酸素供給不足ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図17】酸素供給不足ZnO・Al膜と酸素適量ZnO・Al膜との周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図18】通常の窓ガラスに使用されるフロートガラスの遠赤外領域における放射率を示すグラフである。
【図19】ZnO・Al膜の放射率を示すグラフである。
【図20】ZnO膜の放射率を示すグラフである。
【図21】透明導電層と高屈折率層とを交互に積層した積層膜の放射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、本発明の基本的な構成について説明する。本発明の断熱ガラス1は、図1に示すように、ガラス基板2上に、透明導電層4と、高屈折率層3とが交互に積層されて成る。高屈折率層3は、少なくとも波長800〜2500nm程度の近赤外線領域における屈折率が透明導電層4の屈折率と比べて相対的に高い層であり、高屈折率層3自体の屈折率が極めて高くなっている訳ではない。詳しくは、高屈折率層3は、屈折率が波長に応じて変動せず(波長依存性がほとんど無い)、全波長に対してほぼ一定となっている。一方、透明導電層4は、屈折率が波長に応じて変動し(波長依存性を有し)、波長400〜800nm程度の可視光線領域では高屈折率層3の屈折率と同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率が低下する傾向を有する。これにより、透明導電層4と高屈折率層3との間には、可視光線領域では屈折率差が生じていないが、近赤外線領域では屈折率差が生じている。
【0030】
透明導電層4と高屈折率層3とが交互に積層された周期構造は、複数繰り返されている。具体的には、透明導電層4と高屈折率層3との周期構造は2周期以上とし、好ましくは3周期以上とする。但し、あまりに積層周期が多いと、可視光領域を含めて透過率を低下させるとともにコストの無駄となるので、透明導電層4と高屈折率層3とが交互に積層された周期構造は8周期以内とすることが好ましい。より好ましくは、4〜6周期である。周期構造の光入射側最表面は透明導電層4aとすることが好ましい。自由電子による赤外線反射と低放射率とを光入射側最表面において効率的に発現させるためである。周期構造の光入射側最表面を高屈折率層3としても構わないが、最初の自由電子による赤外線反射や低放射率が内層部において生じる点において効率性が劣る。また、太陽光が膜面側ではなくガラス基板側から入射される窓ガラスの構造の場合には、ガラス基板と膜の界面に透明導電層を設けてもよい。
【0031】
また、光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚は、これより内層部にある他の層3・4の膜厚と比べて最も大きく設定することが好ましい。自由電子に由来する赤外線反射を確実に発現させるためである。光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚は、これより内層部にある他の層3・4の膜厚と比べて大きければ、具体的な膜厚は特に限定されないが、内層部にある他の層3・4の膜厚に対して、1.25〜4倍(125〜400%)程度とすればよい。好ましくは、内層部にある他の層3・4に対して、1.75〜3.5倍程度である。なお、光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚がこれより内層部にある他の層3・4の膜厚と同じでも、機能的には問題ない。さらに、光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚がこれより内層部にある他の層3・4の膜厚より小さくても、断熱ガラスとしての機能は担保できる。
【0032】
光入射側最表面の透明導電層4a以外の他の層3・4は、全て同じ膜厚とするか、もしくは同じ光学膜厚(屈折率nと膜厚dとの積=nd)とすることが好ましい。周期構造において屈折率の差が一定間隔で繰り返され、各層3・4の膜厚を制御することで赤外線反射発現波長の制御が容易となるからである。内層部にある他の層3・4の膜厚をそれぞれ異ならしても構わないが、光学膜厚が同じでなければ、赤外線反射発現波長の制御が難しくなると共に、屈折率差に基づく反射作用が生じ難くなるおそれがある。内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は、当該透明導電層4及び高屈折率層3の屈折率に応じて適宜調整すればよい。ある特定の波長を反射させたい場合に、上記式(2)に従って、透明導電層4及び高屈折率層3の屈折率が大きければ、透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は比較的薄くする。逆に、透明導電層4及び高屈折率層3の屈折率が小さければ、透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は比較的厚くする。例えば、800〜1500nm程度の波長を選択的に反射させたい場合に、透明導電層4の屈折率が1.3、高屈折率層3の屈折率が1.8の場合、当該透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は100〜250nm程度とする。内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚が110nm未満では、屈折率差に起因する反射波長が可視光線領域において発現してしまう。逆に、内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚が250nmを超えると、屈折率差に起因する反射波長が長波長側へ移行し過ぎる。これでは、近赤外線領域におけるできるだけ短波長(可視光線領域側)で反射させたい本発明の効果から離れてしまう。つまり、透明導電層4のみでも1500nm程度から赤外線を反射できるので、周期構造に基づく屈折率差に起因する反射作用の効果が意味を成さなくなる。好ましくは、内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚を120〜180nm程度とし、より好ましくは120〜160nm程度とする。内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚が120〜160nm程度であれば、周期構造に基づく屈折率差に起因する反射が、波長1000nm前後において発現する。
【0033】
透明導電層4や高屈折率層3は、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着などのPVDのほか、化学蒸着(CVD)などによってガラス基板2上に積層することができる。
【0034】
このような透明導電層4と高屈折率層3との周期構造を有する断熱ガラス1は、一般住宅やビルなどの建築物、及び自動車や列車などの車両など、断熱性が求められる窓ガラスとして好適に使用できる。次に、本発明の具体的な形態について説明する。
【0035】
[第1の形態]
第1の形態は、内層部にある透明導電層4と高屈折率層3との膜厚を、上記基本的形態における膜厚条件に基づいて制御することで、反射波長を制御する形態である。ここでの透明導電層4としては、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3、Zn2SnO4、Cd2SnO2、InSbO4、CdIn2O4、MgInO4、CaGaO4、CdO、TiN、ZrN、HfN、LaB6、V2O3,VO2からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を例示できる。内層部にある全透明導電層4や全高屈折率層3の膜厚をそれぞれ同一とする場合は、当該透明導電層4や高屈折率層3に使用する材料はそれぞれ1種のみとする。透明導電層4や高屈折率層3に使用する材料として2種以上を組み合わせる場合は、内層部にある全透明導電層4や全高屈折率層3の光学膜厚をそれぞれ同一とする。
【0036】
なかでも、高屈折率層3と透明導電層4とを同種の基本素材として、これに不純物元素を添加するか否かによって高屈折率層3と透明導電層4とに分けることが好ましい。これによれば、後述のように、同じターゲットを用いた反応性スパッタリングによって容易に製造できるからである。具体的には、高屈折率層3をZnOとする場合、これにAl、Ga、Sc、Y、B、F、Ti、Zr、Hf、Si、Ge、In、又はVを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をTiO2とする場合、これにNbを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をIn2O3とする場合、これにSn、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をSnO2とする場合、これにSb、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をSrTiO3とする場合、これにSb、V、La、又はNbを添加することで透明導電層4とする。なお、高屈折率層3と透明導電層4には必ずしも同種の基本素材を使用する必要もない。この場合は、高屈折率層3として、BaTiO3、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgO、PbO、Y2O3、ZnAl2O4、GaAl2O4、LiNbO3、CaCO3、MgF2、SiC、Ag2S3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を使用することもできる。
【0037】
ガラス基板2上に形成する透明導電層4と高屈折率層3とが交互に積層された周期構造は、反応性スパッタリングによって形成することが好ましい。反応性スパッタリングによる成膜方法は、基本的には公知の方法と同様である。具体的には、真空チャンバー内に薄膜として形成したい元素をターゲットとして設置し、高電圧をかけてイオン化させたアルゴンなどの希ガス元素や窒素を衝突させて、ターゲット表面の原子が弾き飛ばされて基板上にターゲット金属からなる薄膜を成膜できる。反応性スパッタリングは、真空チャンバー内に希ガスと共に反応ガスを導入し(本発明では酸素)、これをはじき飛ばされた元素と反応させることによって化合物を製膜する。使用する元素(蒸着材料)の数に応じて2極・3極・4極としたり、RF(高周波)、マグネトロン、対向ターゲット、ミラートロン、イオンビーム、やデュアルイオンビームなどとすることができる。
【0038】
そのうえで、例えば高屈折率層3をZnOとし、透明導電層4をZnO・Alとするように、高屈折率層3と透明導電層4とを同種の基本素材(ZnO)として、これに不純物元素(Al)を添加するか否かによって高屈折率層3と透明導電層4とに分ける場合は、基本元素となるZnなどの金属ターゲットと、添加元素用のAlなどの金属ターゲットを併設し、添加元素用ターゲットの前面に開閉可能なシャッターを設けておく。そして、高屈折率層3を成膜する場合はシャッターを閉じておき、透明導電層4を成膜する場合はシャッターを開けばよい。このように、シャッターを開閉するのみによって高屈折率層3と透明導電層4とを分けられれば、周期構造の形成が容易となる。又は、単に添加元素用のターゲットへ電圧を印加するか否かのみによって高屈折率層3と透明導電層4とを成膜することもできる。
【0039】
各層3・4の膜厚は、成膜時間によって制御できる。また、添加元素の添加量は、添加元素用ターゲットへの印加電圧の強弱によって制御できる。本第1の形態では、基本元素用のターゲットへの印加電力50〜70Wに対して、添加元素用ターゲットへの印加電力を20〜30Wとする。基本元素用のターゲットへの印加電力対して、添加元素用ターゲットへの印加電力が上記範囲から外れると、添加元素の添加量が少なすぎ又は多すぎて良好な導電性を確保できず、赤外線反射機能が低下する。好ましくは、基本元素用のターゲットへの印加電力50〜70Wに対して、添加元素用ターゲットへの印加電力を25〜30Wとする。
【0040】
(実施例1)
先ず、透明導電層をZnO・Al層とし、高屈折率層をZnOとして、両層の屈折率差に基づく反射の発現性について評価した。透明導電層及び高屈折率層は、反応性スパッタリング法により成膜した。成膜させる基板には30×30mm合成石英を用い、基板温度を200℃とした。成膜時には基板を15rpmにて回転させることで膜厚の均一化を図った。この基板を設置した後、チャンバー内を9×10-9Torr以下の超高真空としてから、雰囲気ガスとしてArおよび酸素を導入し、その合計流量を20sccmで一定とし、その流量比の調整によって酸素供給量を制御した。成膜時の全圧は3mTorrに設定した。Zn金属(純度99.999%以上)およびAl金属(純度99.999%以上)をターゲットとして、ZnターゲットにはRF電源にて60W、AlターゲットにはDC電源を接続して28W程度を与えてプラズマを発生させた。
【0041】
最初に、透明導電層であるZnO・Al層のみをガラス基板上に堆積させた。Arの流量を18.2sccm、酸素の流量を1.85sccmとし、成膜時間を1時間として膜厚750nmの透明導電層をガラス基板上に形成した。このZnO・Alからなる透明導電層の透過率及び反射率の波長依存性を図2に示す。図2の結果から、可視光領域(380〜780nm程度)では、透過率は約80%以上、反射率は約10%程度であった。それぞれのスペクトルが波長によって上下変動しているのは、膜厚に応じた干渉現象のためである。波長800nm以上の近赤外領域では、透過スペクトルにおいて約1000nm以上から大きく透過率が減少し、1700nm以上ではほとんど近赤外光を透過させないことが確認できる。反射スペクトルにおいても、約1300nm以上より反射率が増加し始め、2500nmでは約80%の反射率を示した。このZnO・Al膜(層)の抵抗率は3×10−4Ωcm以下であり、そのキャリア濃度(自由電子密度N)は約1×1021cm−3、ホール移動度は約25cm2/Vsにまで高められていた。
【0042】
次に、上記と同じ条件で、Alを添加せずにZnO層のみを、膜厚を500nmとしてガラス基板上に堆積させた。このZnO膜の透過率及び反射率の波長依存性を図3に示す。図3の結果から、ZnO膜では、可視光領域での透過率は80%程度あるものの、上記のZnO・Al膜とは異なり近赤外領域の反射現象は現れていない。このZnO膜の抵抗率は2×10−2Ωcm以下であり、そのキャリア濃度(自由電子密度N)は2×1019cm−3、ホール移動度は15cm2/Vsであり、抵抗率および自由電子密度NともにAlを添加した場合に比べて2桁ほど低下していた。つまり、上式(1)にしたがって、自由電子密度Nの低下がλPの増加をもたらし、それが近赤外よりも長波長側にまで押し出したと説明できる。
【0043】
そこで、図2および図3に示したZnO・Al膜およびZnO膜を交互に積層させることで、800〜1300nmの近赤外線を反射させることを試みた。まず、図4および図5に、透明導電層となるZnO・Al膜と、高屈折率層となるZnO膜それぞれについて分光エリプソメータによって計測した屈折率nおよび消衰係数kの波長依存性を示す。図5の結果から、ZnO膜の屈折率nおよび消衰係数kは500nm以上では波長にほとんど依存せず、n=1.8、k=0であった。一方、図4の結果から、ZnO・Al膜の屈折率nおよび消衰係数kは波長に依存し、波長の増加とともに屈折率nはプラズマ波長付近まで減少し、消衰係数kはプラズマ波長付近から増加する傾向を示した。
【0044】
ここで、図4および図5の屈折率差に着目すると、ZnO・Al膜およびZnO膜の屈折率は波長500nm以下ではほぼ同等であるが、それより波長が長くなるにつれてZnO・Al膜の屈折率が低下するため屈折率差が生じてくる。この屈折率差を利用することで、透明導電層/高屈折率層の積層構造における周期性に起因した近赤外反射を発現させることとした。
【0045】
1000nmにおけるZnO・Al膜の屈折率n=1.3、および1000nmにおけるZnO膜の屈折率n=1.8であることから、上式(2)によれば、ZnO・Al膜およびZnO膜の膜厚を150nm程度に設定すれば、反射波長を波長1000nm程度にできると算出できる。そこで、本実施例では、ZnO・Al膜及びZnO膜をそれぞれ5層ずつ交互に積層して合計10層の積層膜を作製した。Arと酸素の流量はそれぞれ18.2sccmおよび1.85sccmとし、Znターゲットに与えるRF電力を60Wと固定したまま、Alターゲットに与えるDC電力を0Wと28Wとに交互に切り替えることで積層膜を得た。成膜時間は、ZnO・Al膜12分、ZnO膜18分として共に約150nmの膜厚となるように設定した。この積層膜の透過率及び反射率の波長依存性を図6に示す。図6の結果から、可視光領域では透過率が70〜80%程度であり、ZnO・Al単層膜に比べて若干低下したものの、ほぼ透明であった。一方、反射率スペクトルには約1000nm付近に50%強の反射ピークが現れ、周期性に起因した反射現象の発現が確認できた。さらに、それよりも長波長側の2000nm以降においても自由電子に起因する反射が現れていることが確認できる。
【0046】
次に、積層させる各層の膜厚を変えた場合に、周期性に起因する反射の波長の動向について評価した。具体的には、各光入射側最表面のZnO・Al層をそれぞれ400nmに統一設定し、その下層(内部層)にあるZnO層およびZnO・Al層を、それぞれ全て100nm(積層膜1)、125nm(積層膜2)、150nm(積層膜3)、200nm(積層膜4)、250nm(積層膜5)に設定したときの透過・反射スペクトルを測定した。積層膜1の結果を図7に、積層膜2の結果を図8に、積層膜3の結果を図9に、積層膜4の結果を図10に、積層膜5の結果を図11に、それぞれ示す。図7〜図11の透過・反射スペクトル形状に一定の傾向が確認され、周期構造における各層の膜厚の増加とともに周期性に起因する反射波長が長波長側へシフトする様子がわかる。
【0047】
詳しく見ると、図7の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が100nmの場合、周期性に起因する反射波長は約700nmであり、可視光領域において反射していた。図8の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が125nmの場合、周期性に起因する反射波長は約900nmであった。図9の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が150nmの場合、周期性に起因する反射波長は約1050nmであった。図10の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が200nmの場合、周期性に起因する反射波長は約1400nmであった。図11の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が250nmの場合、周期性に起因する反射波長は約1700nmであり、かなり長波長側において反射していた。これにより、透明導電層及び高屈折率層の膜厚によって反射波長を制御する場合、可視光線領域に近い800〜1500nm程度の近赤外線領域において屈折率差に起因して反射させるには、光入射側最表面層以外の各層の膜厚を少なくとも110〜210nm程度とする必要があり、好ましくは120〜180nm程度、より好ましくは120〜160nm程度であることがわかった。
【0048】
また、光入射側最表面に位置する透明導電膜の厚さを変えることで、周期性に起因した反射と自由電子に起因した反射の大小関係を制御することも可能である。図6の結果では、光入射側最表面の透明導電膜の膜厚は150nmであるが、これを400nmに増加させることによって、図9のように1000nm付近の周期性に起因する反射は10%弱低下するものの、2000nm以上の近赤外線の反射率を高めることができ、2500nmでの反射率は30%程度向上する。逆に、透明導電膜の厚さを小さくすれば、2000nm以上の近赤外線の反射率が低下するものの、周期性に起因する反射を高めることも可能である。
【0049】
なお、上記実施例1における特性(傾向)は、高屈折率層3をZnOとして、これにGa、Sc、Y、B、F、Ti、Zr、Hf、Si、Ge、In、又はVを添加することで透明導電層4とする場合、高屈折率層3をTiO2として、これにNbを添加することで透明導電層4とする場合、高屈折率層3をIn2O3として、これにSn、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする場合、高屈折率層3をSnO2として、これにSb、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする場合、及び高屈折率層3をSrTiO3として、これにSb、V、La、又はNbを添加することで透明導電層4とする場合でも同様である。
【0050】
[第2の形態]
上記第1の形態では、基本的には高屈折率層3として他の不純物元素を添加していない金属酸化物膜を用いることが好ましいとしたが、添加元素量を透明導電層4よりも多量に添加することでも、高屈折率膜として利用できる。この場合、透明導電層4としては、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上とする。そして、高屈折率層3も、透明導電層4と同種の組成からなる層としながら、透明導電層4よりも添加元素量を多くする。透明導電層4は、金属酸化物に適量の不純物元素が添加されていることで、良好な導電性を有する。これに対し、高屈折率層3への添加元素量の目安としては、高屈折率層3が導電性を有しなくなる程度とする。例えば、高屈折率層3の添加元素量を、透明導電層4の添加元素量に対して1.1〜15倍程度、好ましくは5〜12倍程度とすればよい。周期構造を有する積層膜としてのその他の条件は、上記基本的形態や第1の形態と同様である。
【0051】
この場合、透明導電層及び高屈折率層は、基本的には第1の形態と同様に反応性スパッタリングにより成膜すればよい。第1の形態の場合と異なる点は、透明導電層及び高屈折率層は、共に同一の金属ターゲットを使用して、添加元素用ターゲットへの印加電力量を定期的に増減することのみによって交互に積層することができる。高屈折率層3を成膜するときは、添加元素用ターゲットへの印加電力量を、透明導電層4を成膜するときに対して、1.1〜1.5倍程度、好ましくは1.1〜1.3倍程度とすればよい。その他の製造条件は、上記基本的形態や第1の形態の場合と同様である。
【0052】
(実施例2)
Al適量添加ZnO・Al透明導電膜とAl過剰添加ZnO・Al高屈折率膜を、反応性スパッタリング法により交互に積層させることで、実施例1と同様の効果が得られるかを評価した。先ず、それぞれの単層膜を成膜した。成膜させる基板には30×30mm合成石英を用い、基板温度を200℃とした。成膜時には基板を15rpmにて回転させることで膜厚の均一化を図った。この基板を設置した後、チャンバー内を9×10-9Torr以下の超高真空としてから、雰囲気ガスとしてArおよび酸素を導入し、その合計流量を20sccmで一定として、Arと酸素の流量はそれぞれ18.1sccmおよび1.90sccmとした。成膜時の全圧は3mTorrに設定した。Zn金属(純度99.999%以上)およびAl金属(純度99.999%以上)をターゲットとして、ZnターゲットにはRF電源にて60W、AlターゲットにはDC電源を接続して、適量添加ZnO・Al層用に28W程度、過剰添加ZnO・Al層用には32Wを与えてプラズマを発生させた。
【0053】
まず、Alを過剰添加した高屈折率層となるZnO・Al層のみを、成膜時間を1時間として、ガラス基板上に190nm堆積させた。組成分析の結果、このAl過剰添加ZnO・Al膜ではAl適量添加ZnO・Al膜に比べて約10倍のAlが添加されていた。この透明導電膜の透過率及び反射率の波長依存性を図12に示す。また、過剰添加ZnO・Al膜の屈折率及び消衰係数の波長依存性を図13に示す。Al適量添加ZnO・Al層の透過率及び反射率の波長依存性は図2を、同じく屈折率及び消衰係数の波長依存性は図4を参照。図12の結果から、Al過剰添加ZnO・Al膜では、近赤外領域での反射現象は示さなかった。電気的にも導電性を有しておらず、図13の屈折率にみられるように、図4における屈折率に比べて近赤外領域では高屈折率となっている。また、同じ高屈折率層である、Al無添加ZnO膜とAl過剰添加ZnO・Al膜とでは、図12と図3の比較において、紫外領域から可視光領域に明確な違いがある。図3のAlを添加していないZnO膜では、700nm以下の波長領域から透過率が低下し始めて350nm以下の光を透過せず、これによって黄色く着色して見えていた。このため、図7〜図11に示した積層膜も黄色く着色した膜であった。一方、Al過剰添加ZnO・Al膜は、図12より約300nm以上では高い透過率を示すため、ZnO膜のような黄色い着色ではなくほぼ透明である。この膜を用いて積層構造を形成させることにより、着色を低減させた積層膜が得られた。
【0054】
次に、膜厚200nmのAl適量添加ZnO・Al透明導電膜5層、同じく膜厚200nmのAl過剰添加ZnO・Al高屈折率膜5層を、透明導電膜が光入射側最表面となるように交互に積層した。この積層膜の透過・反射スペクトルを図14に示す。図14の結果から、周期性に起因する反射ピークは1200nm付近に現れており、それより長波長側においても自由電子に起因して反射が増大するスペクトルが確認できた。積層構造が光学特性に及ぼす効果としては、基本的に第1形態の積層膜と同じである。違いとしては、可視光領域における透過率が高く、ある色に着色するという影響を抑えられているという点である。積層構造の製造プロセスとしては、Alターゲットに与えるDC電力を僅かに変化させるだけで周期構造が積層可能であり、同一のターゲットを用いながら電気信号の変調のみによって積層膜の合成が可能である点において有利である。
【0055】
なお、上記実施例2における特性(傾向)は、透明導電層4及び高屈折率層3を、共にGa添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、又はNb添加SrTiO3などの同種の組成とした場合でも同様である。
【0056】
[第3の形態]
上記第1及び第2の形態では、他の不純物元素を添加しない金属酸化物膜や、不純物元素を過剰に添加したZnO・Al膜など、不純物元素の有無ないし添加量の制御によって高屈折率膜を得ていた。これに対して、添加元素用ターゲットへの供給電力を適量値で一定としながらも、成膜雰囲気における酸素割合(流量比)を変えることでも、透明導電膜と高屈折率膜の両者を成膜することができる。
【0057】
この場合、透明導電層4及び高屈折率層3は共に同種の組成として、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上とする。透明導電層4は、成膜時に酸素流量が適量に設定されていることで、良好な導電性を有する。これに対し、高屈折率層3成膜時における酸素流量の目安としては、高屈折率層3が導電性を有しなくなる程度とする。例えば、高屈折率層3成膜時の酸素流量を、透明導電層4成膜時の酸素流量に対して0.85〜0.95倍程度、好ましくは0.90〜0.95倍程度とすればよい。この場合も、透明導電層4及び高屈折率層3は、基本的には第1の形態と同様に反応性スパッタリングにより成膜すればよい。周期構造を有する積層膜としてのその他の条件や製造条件は、上記基本的形態や第1の形態と同様である。
【0058】
(実施例3)
酸素流量が適量な雰囲気で成膜したZnO・Al透明導電膜と、酸素流量を不足させた雰囲気において成膜したZnO・Al高屈折率膜を、反応性スパッタリング法により交互に積層させることで、第1の形態の積層膜と同様の効果が得られるかを評価した。
【0059】
先ず、それぞれの単層膜の成膜を試みた。成膜させる基板には30×30mm合成石英を用い、基板温度を200℃とした。成膜時には基板を15rpmにて回転させることで膜厚の均一化を図った。この基板を設置した後、チャンバー内を9×10-9Torr以下の超高真空としてから、雰囲気ガスとしてArおよび酸素を導入した。Arと酸素の流量は、酸素流量が適量な雰囲気で成膜する場合、それぞれ18.1sccm及び1.90sccmとし、酸素流量を不足させた雰囲気において成膜する場合は、それぞれ18.2sccm及び1.75sccmとした。成膜時の全圧は30mTorrに設定した。Zn金属(純度99.999%以上)およびAl金属(純度99.999%以上)をターゲットとして、ZnターゲットにはRf電源にて60W、AlターゲットにはDC電源を接続して28Wを与えてプラズマを発生させた。
【0060】
最初に、雰囲気ガス中の酸素流量を不足させた透明導電膜のZnO・Al層のみを、成膜時間を1時間として、ガラス基板上に190nm堆積させた。この酸素供給不足ZnO・Al膜の透過率及び反射率の波長依存性を図15に示し、同じく屈折率及び消衰係数の波長依存性を図16に示す。酸素適量ZnO・Al層の透過率及び反射率の波長依存性は図2を、同じく屈折率及び消衰係数の波長依存性は図4を参照。図15の結果から、酸素供給不足ZnO・Al膜では、近赤外領域での反射現象は示さなかった。電気的にも導電性を有しておらず、図16の屈折率にみられるように、図4における屈折率に比べて近赤外領域では高屈折率となっている。また、同じ高屈折率層である、Al無添加ZnO膜と酸素供給不足ZnO・Al膜とでは、図15と図3の比較において、紫外領域から可視光領域に明確な違いがある。図3のAlを添加していないZnO膜では、700nm以下の波長領域から透過率が低下し始めて350nm以下の光を透過せず、これによって黄色く着色して見えていた。このため、図7〜図11に示した積層膜も黄色く着色した膜であった。一方、酸素供給不足ZnO・Al膜は、図15より約300nm以上では高い透過率を示すため、ZnO膜のような黄色い着色ではなくほぼ透明である。この膜を用いて積層構造を形成させることにより、着色を低減させた積層膜が得られた。
【0061】
次に、膜厚200nmの酸素適量ZnO・Al透明導電膜5層、同じく膜厚200nmの酸素供給不足ZnO・Al高屈折率膜5層を、透明導電膜が光入射側最表面となるように交互に積層した。この積層膜の透過・反射スペクトルを図17に示す。図17の結果から、周期性に起因する反射ピークは1400nm付近に現れており、それより長波長側においても自由電子に起因して反射が増大するスペクトルが確認できた。なお、シミュレーション上では、図14と同様の結果が得られるはずであるが、図17に示す実験結果では近赤外領域の反射率が若干低く、可視光領域の透過率も低い結果となった。この原因は、おそらくZnターゲットの劣化によりスパッタリングレートが変わり、ZnとAlの最適なバランス、Znと酸素の最適なバランスから僅かにずれが生じたためと考えられる。しかしながら、酸素量を制御することによって周期構造を与えることができ、透明導電膜における光学特性をコントロールして断熱性能の向上に活用できるという本質的な点について明らかにできた。
【0062】
積層構造が光学特性に及ぼす効果としては、基本的に第1形態の積層膜と同じである。違いとしては、可視光領域における透過率が高く、ある色に着色するという影響を抑えられているという点である。積層構造の製造プロセスとしては、雰囲気ガス中の酸素流量を僅かに変化させるだけで周期構造が積層可能であり、同一のターゲットを用いながら酸素流量の増減のみによって積層膜の合成が可能である点において有利である。
【0063】
なお、上記実施例3における特性(傾向)は、透明導電層4及び高屈折率層3を共に同種の組成として、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3などとした場合でも同様である。
【0064】
(実施例4)
実施例1〜3では、太陽光からの熱線を反射させるという断熱性能について評価した。そこで、次に、断熱という観点においてもう1つ重要な、本発明における透明導電膜と高屈折率膜の積層膜における遠赤外領域における放射率について評価した。ここでは、第1〜3の形態の断熱ガラスの内、代表的な第1の形態の断熱ガラスの評価試験で使用した、図5の結果に示す積層膜を使用して評価した。
【0065】
図18に、通常の窓ガラスに使用されるフロートガラスの遠赤外領域における放射率を示す。図19に、図2の結果に示すZnO・Alからなる透明導電層の遠赤外領域における放射率を示す。図20に、図3の結果に示すZnOからなる高屈折率層の遠赤外領域における放射率を示す。図21に、図5の結果に示す透明導電層と高屈折率層とを交互に積層した積層膜の遠赤外領域における放射率を示す。前提として、室温付近の黒体放射(物体が放射する赤外線)エネルギーは波長10μm付近をピークに5〜25μmまで広く分布し、この放射率データの5μm以上において放射率が低いことが望ましい。そのうえで、図18の結果を見ると、窓ガラスの放射率はほぼ全波長域において90%程度という高い放射率を示し、断熱性能が低い。これに対して、図19に示した透明導電層の放射率は20%以下であり、断熱において有利となる。この低い放射率は、透明導電層中における高い密度の自由電子によってもたらされる。一方、図20に示した高屈折率層は、自由電子の寄与が期待できないため80%程度という高い放射率を示す。この放射率が高い高屈折率層と、放射率が低い透明導電性層を交互に積層させた場合、低放射率な透明導電層を最表面とすることで、図21のように20%程度の放射率に抑えることが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0066】
1 断熱ガラス
2 ガラス基板
3 高屈折率層
4 透明導電層
4a 光入射側最表面の透明導電層
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を反射し且つ放射率が低い断熱ガラスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽からは、紫外線(波長10〜400nm程度)、可視光線(波長400〜800nm程度)、赤外線(波長800nm〜1mm程度)など種々の波長の電磁波が到達する。赤外線は、波長0.8〜2.5μm(800〜2500nm)程度の近赤外線と、波長2.5〜4μm程度の中赤外線と、4〜1000μm程度の遠赤外線とに分けられる。紫外線は化学的な作用が著しいことに対し、赤外線は熱的な作用を及ぼす。したがって、夏季において室内冷房等を使用していても、赤外線が窓ガラスを透過することで室内が暖められ、冷却効果を阻害する。一方、物体は赤外線を放射する作用(黒体放射)があり、例えば冬場の室内の暖気が窓材に伝わった場合、窓材表面の放射率が高いとその表面から遠赤外線となって放射されることによって伝熱が起こってしまう。そのため、室内の保温性を高め空調機器の負荷を軽減するなどのためには、夏季には赤外線を反射し、冬季には放射率を低減することが求められる。これを前提として、従来から、居住空間の快適性向上、エネルギーコスト削減、環境問題対策などに有効な断熱性ガラスが開発されている。
【0003】
例えば、Agを主体成分とする膜の赤外線反射及び低放射率特性を主に利用した断熱ガラスとして、特許文献1や特許文献2がある。具体的には、ガラス基板上に、Agを主体成分とする層と、金属酸化物層とを交互に複数積層することで、穏やかな外観色調を有し、かつ基体側から見た反射光の色調が、入射角度を変えても変化が少ない断熱ガラスとしている。特許文献1では、金属酸化物層として酸化亜鉛(ZnO)層やAlを添加した酸化亜鉛(ZnO・Al)層などを使用可能とされており、特許文献2では、金属酸化物層としてZnOにAlを添加したZnO・Al層が好ましいとされている。なお、特許文献1及び特許文献2では、各層の厚みを異ならせている。
【0004】
特許文献1や特許文献2でも利用され得る、ZnOにAlを添加したZnO・Al膜などの透明導電膜(層)も、可視光線は透過するが赤外線は反射し、かつ放射率が低いことが知られている(非特許文献1及び非特許文献2参照)。赤外線の反射は膜中の自由電子に起因しており、消衰係数の増加に伴い赤外線が透過し難くなる。下式(1)は、反射を生じさせる波長の目安となるプラズマ波長λPを示す式であり、Nは自由電子密度、m*は電子の有効質量、eは電子の電荷量、ε0は真空中の誘電率、ε∞は物質の比誘電率である。この式(1)から、自由電子密度Nの増大によりプラズマ波長λpを近赤外領域まで低減させ、赤外線を反射できると定性的に説明できる。
【数1】
【0005】
また、第一のポリマー種を含む層と第二のポリマー種を含む層との交互層を有する赤外光反射多層フィルムと、硬化したポリマーバインダー中に分散させた多数の金属酸化物ナノ粒子を含み、かつ1〜20μmの範囲の厚さを有する赤外光吸収ナノ粒子層とを備える太陽光制御多層フィルムが、特許文献3に記載されている。ここでの金属酸化物ナノ粒子は、酸化スズまたはドープト酸化スズとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-104547号公報
【特許文献2】特開平11-34216号公報
【特許文献3】特表2008―528313号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optical Properties of Aluminum Doped Zinc Oxide ThinFilms Prepared by RF Magnetron Sputtering、T. Minami, H. Nanto and S.Takata, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 24No.8, L605-L607 (1985)
【非特許文献2】ZnO系透明導電膜、南内嗣、応用物理 第16巻 第12号、1255-1258 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ZnO・Al膜(層)やAgを主体成分とする膜(層)のような透明導電膜は、赤外線反射作用を奏する。しかしながら、ZnO・Al膜において、赤外線反射現象が発現する波長は凡そ1500nm程度以上であり、この1500nmから可視光の長波長端である約800nmまでの近赤外領域については反射が小さい。また、Ag膜では800nm程度の近赤外線を反射させるためには膜厚を増加させる必要があり、その場合には可視領域の透過率が低下してしまう。太陽光の放射強度スペクトルは、可視光領域の約500nmをピークとして波長の増加とともに減少するスペクトルであるため、可視光領域より長波長側では800nm程度の近赤外領域の放射強度が高く、長波長になるにしたがって放射強度は低下する。したがって、Ag膜では得られない可視光透過率を確保しつつ、ZnO・Al膜では反射できない800〜1500nm程度の近赤外線を如何に反射させるかが太陽光の熱線をカットする上で重要となる。
【0009】
そこで、本発明者らは、ガラス表面に形成する被膜において、式(1)に示した自由電子による赤外反射(波長1500nm以上)に加えて、近赤外領域における屈折率の異なる被膜を互いに積層することで、800〜1500nm程度の近赤外線の反射も発現できないかと考えた。ここで、光学特性(屈折率)の異なる膜を積層することで反射現象を発現させるためには、異なる膜A・B同士の屈折率差が重要となる。その反射波長λおよび反射率Rmaxは、一般的に次の式(2)および式(3)で与えられる。nは屈折率、dは膜厚、nmは膜表面に接する媒質の屈折率、nsは基板の屈折率である。
【数2】
【数3】
【0010】
特許文献1や特許文献2では、Agを主体成分とする層とZnO・Al層などの金属酸化物層とを交互に積層しているが、両層の屈折率差には特に注目しておらず、これを有効利用できる構成ともなっていない。具体的には、特許文献1では複数種の金属酸化物層を積層しているので各層間の屈折率差が一定でなく、屈折率差に基づく反射現象を有効利用できない。当然、屈折率差に基づく近赤外線の反射現象も有効利用できない。金属酸化物層として1種のみ(例えばZnO層)使用した例もあるが、各層の厚み(膜厚)が異なるので、周期性(屈折率差)に起因して反射が生じる波長を制御することはできない。
【0011】
特許文献2では金属酸化物層としてZnO・Al層が好ましいとされているが、これとAgを主体成分とする層との周期構造では、可視光線領域では屈折率差を生じさせず近赤外線領域において屈折率差を生じさせることはできない。しかも、特許文献2でも各層の厚み(膜厚)が異なるので、やはり周期性(屈折率差)に起因して反射が生じる波長を制御することはできない。
【0012】
特許文献3では、屈折率の異なる2種類の膜を交互に積層させているので、反射波長の制御はある程度可能である。しかしながら、特許文献3における第一のポリマー種を含む層及び第二のポリマー種を含む層の屈折率は、波長に対して変動せずほぼ一定であり、透明導電膜のような波長依存性がない。屈折率差が全ての波長で不変の場合、反射させたい波長の整数分の1の波長(nAdA=nBdB=λ/4のときは1/3)に別の反射ピークが発現する。例えば1200nmの波長を反射させたい場合でも、可視光領域である400nmの波長も同時に反射してしまい、膜が着色してしまう。また、屈折率が異なるだけで導電性を有していない場合、自由電子に起因する反射は期待できない。そのため、特許文献3では、屈折率の異なる膜を交互に積層させることに加えて、金属酸化物ナノ粒子(自由電子)を含む層も設けている。しかしながら、これでは、周期構造のための2種類の異なる層と、自由電子を含む層との、合計3種類もの膜が最低限必要となる。
【0013】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、単純な積層構造でありながら、可視光の透過率を維持しつつ、より可視光領域に近い短波長の近赤外領域から赤外線を反射できる断熱ガラスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の断熱ガラスは、ガラス基板上に、透明導電層と、近赤外線領域における屈折率が前記透明導電層の屈折率と比べて相対的に高い高屈折率層とが積層されている。高屈折率層は透明導電層の屈折率と比べて相対的に高ければよく、一般的な種々のガラス被膜と比べて極めて高い必要はない。具体的には、前記高屈折率層として屈折率が波長に応じて大きく変動しない層を使用することに対し、前記透明導電層としては、屈折率が波長に応じて変動し、可視光線領域では前記高屈折率層の屈折率と同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率が低下する特性を有する層を使用する。これにより、透明導電層と高屈折率層との間では、可視光領域では屈折率差が生じていないが、近赤外線領域において屈折率差が生じることになる。なお、高屈折率層の屈折率が波長に応じて変動しないとは、厳密には屈折率が若干変動することはあるが、殆ど変動せず実質的にほぼ一定であることを意味する。
【0015】
前記透明導電層と高屈折率層とは交互に積層されている。当該透明導電層と高屈折率層とが交互に積層された周期構造は、複数周期(2周期以上)繰り返すことで多層構造となっている。このとき、前記周期構造の光入射側最表面は高屈折率層としても構わないが、前記透明導電層とすることが好ましい。また、前記光入射側最表面の透明導電層の膜厚は他の層の膜厚と比べて同じでも構わないが、最も大きく設定することが好ましい。さらに、前記光入射側最表面層以外の他の層は、全て同じ膜厚若しくは同じ光学膜厚とすることが好ましい。なお、光学膜厚は屈折率と膜厚との積である。
【0016】
このような関係を有する透明導電層と高屈折率層とは、大きく分けて3つの形態で形成することができる。まず、第1の形態として、前記透明導電層に、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3、Zn2SnO4、Cd2SnO2、InSbO4、CdIn2O4、MgInO4、CaGaO4、CdO、TiN、ZrN、HfN、LaB6、V2O3,VO2からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を使用し、前記高屈折率層として、ZnO、TiO2、In2O3、SnO2、SrTiO3、BaTiO3、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgO、PbO、Y2O3、ZnAl2O4、GaAl2O4、LiNbO3、CaCO3、MgF2、SiC、Ag2S3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を使用する。これら透明導電層用の材料と高屈折率層用の材料との組み合わせは、高屈折率層の屈折率が透明導電層よりも相対的に高くなる限り、種々の組み合わせができる。なお、光入射側最表面層以外の他の層を全て同じ膜厚とする場合は、透明導電層や高屈折率層に使用する材料はそれぞれ1種のみとする。光入射側最表面層以外の他の層の光学膜厚が全て同じであれば、透明導電層や高屈折率層に使用する材料はそれぞれ2種以上を組み合わせることもできる。
【0017】
第1形態の断熱ガラスでは、前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜される。そして、添加元素用ターゲットのシャッターを定期的に開閉することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層できる。添加元素用ターゲットのシャッターを開けば、ZnOなどの金属酸化物にAlなどの添加元素が添加されて透明導電層となる。逆に、添加元素用ターゲットのシャッターを閉じれば、Alなどの添加元素が添加されずZnOなどの金属酸化物のみからなる高屈折率層となる。
【0018】
また、第2の形態として、前記透明導電層を、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上とし、前記高屈折率層も前記透明導電層と同種の層としながら、前記透明導電層よりも添加元素量が多く導電性を有しない層とする。
【0019】
第2の形態の断熱ガラスでも、前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜される。ここでは、添加元素用ターゲットへの印加電力量を定期的に増減することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層できる。添加元素用ターゲットへの印加電力量を適正に調整することで、ZnOなどの金属酸化物にAlなどの添加元素が適量添加された透明導電層となる。逆に、添加元素用ターゲットへの印加電力量を透明導電層のときよりも増大させれば、ZnOなどの金属酸化物にAlなどの添加元素が多量に添加されて高屈折率層となる。
【0020】
また、第3の形態として、前記透明導電層及び前記高屈折率層を、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜し、前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜され導電性を有しない層とする。なお、第2の形態及び第3の形態において、導電性を有しないとは、僅かに電気は伝導するが透明導電層に比べて十分導電性が低く、実質的に非導電性と同視できる程度の場合を含む。
【0021】
第3の形態の断熱ガラスでも、前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜される。ここでは、前記透明導電層と高屈折率層とは、雰囲気ガス中の酸素割合を変更することで分けられる。具体的には、前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、これの大前提として、ガラス基板上に透明導電層を形成していることで、可視光線を良好に透過しながら赤外線を良好に反射し、且つ放射率が低い。このため、夏季においては赤外線を反射することで室内冷房効率が向上すると共に、冬季においては放射率が低いことで室内暖房効率が向上する。そのうえで、近赤外線領域における屈折率が透明導電層の屈折率と比べて相対的に高い高屈折率層を積層し、近赤外線領域において両層間に屈折率差が生じることで近赤外線を反射させることができる。この透明導電層が本来有する赤外反射と、屈折率差に起因する近赤外反射を組み合わせることにより、従来の断熱ガラスよりも、より断熱効果が向上する。また、本発明によれば、周期構造の膜そのものが透明導電層由来の自由電子の効果を有しているため、2種類の層のみからなる単純な構成にできる。
【0023】
透明導電層の屈折率は波長依存性を有することに対し、高屈折率層の屈折率が波長依存性がほとんどなく、可視光線領域では透明導電層と高屈折率層の屈折率が同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率差が生じる関係となっていれば、赤外線領域においては屈折率差により赤外線が反射されるが、可視光領域において屈折率差がほとんどなければ、当該可視光領域での反射現象は発現せず着色することがない。このため、反射させる近赤外波長を任意に選択でき、その波長を近赤外線領域の中でもより可視光領域に近い波長に移行させることができる。
【0024】
透明導電層と高屈折率層とがそれぞれ1層のみ形成されているだけでも、透明導電層の自由電子に起因する反射と屈折率差による反射とは発現し得る。そのうえで、透明導電層と高屈折率層と交互に積層された周期構造を複数繰り返す多層構造としていれば、確実に赤外線を反射できる。このとき、周期構造の光入射側最表面を透明導電層としていれば、基本となる自由電子に起因する反射を発揮でき、また、気体と触れる最表面を透明導電層としていれば、膜から気体側への赤外放射を低減でき、効率的に断熱できる。
【0025】
光入射側最表面の透明導電層の膜厚が他の層の膜厚と比べて最も大きければ、透明導電層に起因する赤外線反射と低放射率とを効率的に強められるので、屈折率差による短波長領域の反射を発現させながら、従来の断熱ガラスと同様に赤外線の中でも長波長領域の反射率を確実に高め、かつ良好な低放射率を担保できる。
【0026】
光入射側最表面層以外の他の層を全て同じ膜厚もしくは同じ光学膜厚としていれば、これらの膜厚を調整することで交互に積層した周期性(屈折率差)に起因して反射が生じる波長を制御することができる。
【0027】
透明導電層と高屈折率層とを、同じターゲットを利用した基本的に同種の組成からなる層としながら、添加元素の有無、添加元素量、又は雰囲気ガス中の酸素割合によって透明導電層とするか高屈折率層とするかで成膜し分ければ、容易かつ効率的に透明導電層と高屈折率層との周期構造を構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】断熱ガラスの断面図である。
【図2】ZnO・Al膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図3】ZnO膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図4】ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図5】ZnO膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図6】全ての膜厚が150nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図7】内層部の膜厚が100nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフある。
【図8】内層部の膜厚が125nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図9】内層部の膜厚が150nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図10】内層部の膜厚が200nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図11】内層部の膜厚が250nmの周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図12】Al過剰添加ZnO・Al膜の透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図13】Al過剰添加ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図14】Al過剰添加ZnO・Al膜とAl適量添加ZnO・Al膜との周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図15】酸素供給不足ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図16】酸素供給不足ZnO・Al膜の屈折率・消衰係数波長依存性を示すグラフである。
【図17】酸素供給不足ZnO・Al膜と酸素適量ZnO・Al膜との周期構造における透過率・反射率波長依存性を示すグラフである。
【図18】通常の窓ガラスに使用されるフロートガラスの遠赤外領域における放射率を示すグラフである。
【図19】ZnO・Al膜の放射率を示すグラフである。
【図20】ZnO膜の放射率を示すグラフである。
【図21】透明導電層と高屈折率層とを交互に積層した積層膜の放射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、本発明の基本的な構成について説明する。本発明の断熱ガラス1は、図1に示すように、ガラス基板2上に、透明導電層4と、高屈折率層3とが交互に積層されて成る。高屈折率層3は、少なくとも波長800〜2500nm程度の近赤外線領域における屈折率が透明導電層4の屈折率と比べて相対的に高い層であり、高屈折率層3自体の屈折率が極めて高くなっている訳ではない。詳しくは、高屈折率層3は、屈折率が波長に応じて変動せず(波長依存性がほとんど無い)、全波長に対してほぼ一定となっている。一方、透明導電層4は、屈折率が波長に応じて変動し(波長依存性を有し)、波長400〜800nm程度の可視光線領域では高屈折率層3の屈折率と同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率が低下する傾向を有する。これにより、透明導電層4と高屈折率層3との間には、可視光線領域では屈折率差が生じていないが、近赤外線領域では屈折率差が生じている。
【0030】
透明導電層4と高屈折率層3とが交互に積層された周期構造は、複数繰り返されている。具体的には、透明導電層4と高屈折率層3との周期構造は2周期以上とし、好ましくは3周期以上とする。但し、あまりに積層周期が多いと、可視光領域を含めて透過率を低下させるとともにコストの無駄となるので、透明導電層4と高屈折率層3とが交互に積層された周期構造は8周期以内とすることが好ましい。より好ましくは、4〜6周期である。周期構造の光入射側最表面は透明導電層4aとすることが好ましい。自由電子による赤外線反射と低放射率とを光入射側最表面において効率的に発現させるためである。周期構造の光入射側最表面を高屈折率層3としても構わないが、最初の自由電子による赤外線反射や低放射率が内層部において生じる点において効率性が劣る。また、太陽光が膜面側ではなくガラス基板側から入射される窓ガラスの構造の場合には、ガラス基板と膜の界面に透明導電層を設けてもよい。
【0031】
また、光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚は、これより内層部にある他の層3・4の膜厚と比べて最も大きく設定することが好ましい。自由電子に由来する赤外線反射を確実に発現させるためである。光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚は、これより内層部にある他の層3・4の膜厚と比べて大きければ、具体的な膜厚は特に限定されないが、内層部にある他の層3・4の膜厚に対して、1.25〜4倍(125〜400%)程度とすればよい。好ましくは、内層部にある他の層3・4に対して、1.75〜3.5倍程度である。なお、光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚がこれより内層部にある他の層3・4の膜厚と同じでも、機能的には問題ない。さらに、光入射側最表面の透明導電層4aの膜厚がこれより内層部にある他の層3・4の膜厚より小さくても、断熱ガラスとしての機能は担保できる。
【0032】
光入射側最表面の透明導電層4a以外の他の層3・4は、全て同じ膜厚とするか、もしくは同じ光学膜厚(屈折率nと膜厚dとの積=nd)とすることが好ましい。周期構造において屈折率の差が一定間隔で繰り返され、各層3・4の膜厚を制御することで赤外線反射発現波長の制御が容易となるからである。内層部にある他の層3・4の膜厚をそれぞれ異ならしても構わないが、光学膜厚が同じでなければ、赤外線反射発現波長の制御が難しくなると共に、屈折率差に基づく反射作用が生じ難くなるおそれがある。内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は、当該透明導電層4及び高屈折率層3の屈折率に応じて適宜調整すればよい。ある特定の波長を反射させたい場合に、上記式(2)に従って、透明導電層4及び高屈折率層3の屈折率が大きければ、透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は比較的薄くする。逆に、透明導電層4及び高屈折率層3の屈折率が小さければ、透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は比較的厚くする。例えば、800〜1500nm程度の波長を選択的に反射させたい場合に、透明導電層4の屈折率が1.3、高屈折率層3の屈折率が1.8の場合、当該透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚は100〜250nm程度とする。内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚が110nm未満では、屈折率差に起因する反射波長が可視光線領域において発現してしまう。逆に、内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚が250nmを超えると、屈折率差に起因する反射波長が長波長側へ移行し過ぎる。これでは、近赤外線領域におけるできるだけ短波長(可視光線領域側)で反射させたい本発明の効果から離れてしまう。つまり、透明導電層4のみでも1500nm程度から赤外線を反射できるので、周期構造に基づく屈折率差に起因する反射作用の効果が意味を成さなくなる。好ましくは、内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚を120〜180nm程度とし、より好ましくは120〜160nm程度とする。内層部にある透明導電層4及び高屈折率層3の膜厚が120〜160nm程度であれば、周期構造に基づく屈折率差に起因する反射が、波長1000nm前後において発現する。
【0033】
透明導電層4や高屈折率層3は、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着などのPVDのほか、化学蒸着(CVD)などによってガラス基板2上に積層することができる。
【0034】
このような透明導電層4と高屈折率層3との周期構造を有する断熱ガラス1は、一般住宅やビルなどの建築物、及び自動車や列車などの車両など、断熱性が求められる窓ガラスとして好適に使用できる。次に、本発明の具体的な形態について説明する。
【0035】
[第1の形態]
第1の形態は、内層部にある透明導電層4と高屈折率層3との膜厚を、上記基本的形態における膜厚条件に基づいて制御することで、反射波長を制御する形態である。ここでの透明導電層4としては、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3、Zn2SnO4、Cd2SnO2、InSbO4、CdIn2O4、MgInO4、CaGaO4、CdO、TiN、ZrN、HfN、LaB6、V2O3,VO2からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を例示できる。内層部にある全透明導電層4や全高屈折率層3の膜厚をそれぞれ同一とする場合は、当該透明導電層4や高屈折率層3に使用する材料はそれぞれ1種のみとする。透明導電層4や高屈折率層3に使用する材料として2種以上を組み合わせる場合は、内層部にある全透明導電層4や全高屈折率層3の光学膜厚をそれぞれ同一とする。
【0036】
なかでも、高屈折率層3と透明導電層4とを同種の基本素材として、これに不純物元素を添加するか否かによって高屈折率層3と透明導電層4とに分けることが好ましい。これによれば、後述のように、同じターゲットを用いた反応性スパッタリングによって容易に製造できるからである。具体的には、高屈折率層3をZnOとする場合、これにAl、Ga、Sc、Y、B、F、Ti、Zr、Hf、Si、Ge、In、又はVを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をTiO2とする場合、これにNbを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をIn2O3とする場合、これにSn、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をSnO2とする場合、これにSb、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする。高屈折率層3をSrTiO3とする場合、これにSb、V、La、又はNbを添加することで透明導電層4とする。なお、高屈折率層3と透明導電層4には必ずしも同種の基本素材を使用する必要もない。この場合は、高屈折率層3として、BaTiO3、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgO、PbO、Y2O3、ZnAl2O4、GaAl2O4、LiNbO3、CaCO3、MgF2、SiC、Ag2S3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上を使用することもできる。
【0037】
ガラス基板2上に形成する透明導電層4と高屈折率層3とが交互に積層された周期構造は、反応性スパッタリングによって形成することが好ましい。反応性スパッタリングによる成膜方法は、基本的には公知の方法と同様である。具体的には、真空チャンバー内に薄膜として形成したい元素をターゲットとして設置し、高電圧をかけてイオン化させたアルゴンなどの希ガス元素や窒素を衝突させて、ターゲット表面の原子が弾き飛ばされて基板上にターゲット金属からなる薄膜を成膜できる。反応性スパッタリングは、真空チャンバー内に希ガスと共に反応ガスを導入し(本発明では酸素)、これをはじき飛ばされた元素と反応させることによって化合物を製膜する。使用する元素(蒸着材料)の数に応じて2極・3極・4極としたり、RF(高周波)、マグネトロン、対向ターゲット、ミラートロン、イオンビーム、やデュアルイオンビームなどとすることができる。
【0038】
そのうえで、例えば高屈折率層3をZnOとし、透明導電層4をZnO・Alとするように、高屈折率層3と透明導電層4とを同種の基本素材(ZnO)として、これに不純物元素(Al)を添加するか否かによって高屈折率層3と透明導電層4とに分ける場合は、基本元素となるZnなどの金属ターゲットと、添加元素用のAlなどの金属ターゲットを併設し、添加元素用ターゲットの前面に開閉可能なシャッターを設けておく。そして、高屈折率層3を成膜する場合はシャッターを閉じておき、透明導電層4を成膜する場合はシャッターを開けばよい。このように、シャッターを開閉するのみによって高屈折率層3と透明導電層4とを分けられれば、周期構造の形成が容易となる。又は、単に添加元素用のターゲットへ電圧を印加するか否かのみによって高屈折率層3と透明導電層4とを成膜することもできる。
【0039】
各層3・4の膜厚は、成膜時間によって制御できる。また、添加元素の添加量は、添加元素用ターゲットへの印加電圧の強弱によって制御できる。本第1の形態では、基本元素用のターゲットへの印加電力50〜70Wに対して、添加元素用ターゲットへの印加電力を20〜30Wとする。基本元素用のターゲットへの印加電力対して、添加元素用ターゲットへの印加電力が上記範囲から外れると、添加元素の添加量が少なすぎ又は多すぎて良好な導電性を確保できず、赤外線反射機能が低下する。好ましくは、基本元素用のターゲットへの印加電力50〜70Wに対して、添加元素用ターゲットへの印加電力を25〜30Wとする。
【0040】
(実施例1)
先ず、透明導電層をZnO・Al層とし、高屈折率層をZnOとして、両層の屈折率差に基づく反射の発現性について評価した。透明導電層及び高屈折率層は、反応性スパッタリング法により成膜した。成膜させる基板には30×30mm合成石英を用い、基板温度を200℃とした。成膜時には基板を15rpmにて回転させることで膜厚の均一化を図った。この基板を設置した後、チャンバー内を9×10-9Torr以下の超高真空としてから、雰囲気ガスとしてArおよび酸素を導入し、その合計流量を20sccmで一定とし、その流量比の調整によって酸素供給量を制御した。成膜時の全圧は3mTorrに設定した。Zn金属(純度99.999%以上)およびAl金属(純度99.999%以上)をターゲットとして、ZnターゲットにはRF電源にて60W、AlターゲットにはDC電源を接続して28W程度を与えてプラズマを発生させた。
【0041】
最初に、透明導電層であるZnO・Al層のみをガラス基板上に堆積させた。Arの流量を18.2sccm、酸素の流量を1.85sccmとし、成膜時間を1時間として膜厚750nmの透明導電層をガラス基板上に形成した。このZnO・Alからなる透明導電層の透過率及び反射率の波長依存性を図2に示す。図2の結果から、可視光領域(380〜780nm程度)では、透過率は約80%以上、反射率は約10%程度であった。それぞれのスペクトルが波長によって上下変動しているのは、膜厚に応じた干渉現象のためである。波長800nm以上の近赤外領域では、透過スペクトルにおいて約1000nm以上から大きく透過率が減少し、1700nm以上ではほとんど近赤外光を透過させないことが確認できる。反射スペクトルにおいても、約1300nm以上より反射率が増加し始め、2500nmでは約80%の反射率を示した。このZnO・Al膜(層)の抵抗率は3×10−4Ωcm以下であり、そのキャリア濃度(自由電子密度N)は約1×1021cm−3、ホール移動度は約25cm2/Vsにまで高められていた。
【0042】
次に、上記と同じ条件で、Alを添加せずにZnO層のみを、膜厚を500nmとしてガラス基板上に堆積させた。このZnO膜の透過率及び反射率の波長依存性を図3に示す。図3の結果から、ZnO膜では、可視光領域での透過率は80%程度あるものの、上記のZnO・Al膜とは異なり近赤外領域の反射現象は現れていない。このZnO膜の抵抗率は2×10−2Ωcm以下であり、そのキャリア濃度(自由電子密度N)は2×1019cm−3、ホール移動度は15cm2/Vsであり、抵抗率および自由電子密度NともにAlを添加した場合に比べて2桁ほど低下していた。つまり、上式(1)にしたがって、自由電子密度Nの低下がλPの増加をもたらし、それが近赤外よりも長波長側にまで押し出したと説明できる。
【0043】
そこで、図2および図3に示したZnO・Al膜およびZnO膜を交互に積層させることで、800〜1300nmの近赤外線を反射させることを試みた。まず、図4および図5に、透明導電層となるZnO・Al膜と、高屈折率層となるZnO膜それぞれについて分光エリプソメータによって計測した屈折率nおよび消衰係数kの波長依存性を示す。図5の結果から、ZnO膜の屈折率nおよび消衰係数kは500nm以上では波長にほとんど依存せず、n=1.8、k=0であった。一方、図4の結果から、ZnO・Al膜の屈折率nおよび消衰係数kは波長に依存し、波長の増加とともに屈折率nはプラズマ波長付近まで減少し、消衰係数kはプラズマ波長付近から増加する傾向を示した。
【0044】
ここで、図4および図5の屈折率差に着目すると、ZnO・Al膜およびZnO膜の屈折率は波長500nm以下ではほぼ同等であるが、それより波長が長くなるにつれてZnO・Al膜の屈折率が低下するため屈折率差が生じてくる。この屈折率差を利用することで、透明導電層/高屈折率層の積層構造における周期性に起因した近赤外反射を発現させることとした。
【0045】
1000nmにおけるZnO・Al膜の屈折率n=1.3、および1000nmにおけるZnO膜の屈折率n=1.8であることから、上式(2)によれば、ZnO・Al膜およびZnO膜の膜厚を150nm程度に設定すれば、反射波長を波長1000nm程度にできると算出できる。そこで、本実施例では、ZnO・Al膜及びZnO膜をそれぞれ5層ずつ交互に積層して合計10層の積層膜を作製した。Arと酸素の流量はそれぞれ18.2sccmおよび1.85sccmとし、Znターゲットに与えるRF電力を60Wと固定したまま、Alターゲットに与えるDC電力を0Wと28Wとに交互に切り替えることで積層膜を得た。成膜時間は、ZnO・Al膜12分、ZnO膜18分として共に約150nmの膜厚となるように設定した。この積層膜の透過率及び反射率の波長依存性を図6に示す。図6の結果から、可視光領域では透過率が70〜80%程度であり、ZnO・Al単層膜に比べて若干低下したものの、ほぼ透明であった。一方、反射率スペクトルには約1000nm付近に50%強の反射ピークが現れ、周期性に起因した反射現象の発現が確認できた。さらに、それよりも長波長側の2000nm以降においても自由電子に起因する反射が現れていることが確認できる。
【0046】
次に、積層させる各層の膜厚を変えた場合に、周期性に起因する反射の波長の動向について評価した。具体的には、各光入射側最表面のZnO・Al層をそれぞれ400nmに統一設定し、その下層(内部層)にあるZnO層およびZnO・Al層を、それぞれ全て100nm(積層膜1)、125nm(積層膜2)、150nm(積層膜3)、200nm(積層膜4)、250nm(積層膜5)に設定したときの透過・反射スペクトルを測定した。積層膜1の結果を図7に、積層膜2の結果を図8に、積層膜3の結果を図9に、積層膜4の結果を図10に、積層膜5の結果を図11に、それぞれ示す。図7〜図11の透過・反射スペクトル形状に一定の傾向が確認され、周期構造における各層の膜厚の増加とともに周期性に起因する反射波長が長波長側へシフトする様子がわかる。
【0047】
詳しく見ると、図7の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が100nmの場合、周期性に起因する反射波長は約700nmであり、可視光領域において反射していた。図8の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が125nmの場合、周期性に起因する反射波長は約900nmであった。図9の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が150nmの場合、周期性に起因する反射波長は約1050nmであった。図10の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が200nmの場合、周期性に起因する反射波長は約1400nmであった。図11の結果より、透明導電層及び高屈折率層の膜厚が250nmの場合、周期性に起因する反射波長は約1700nmであり、かなり長波長側において反射していた。これにより、透明導電層及び高屈折率層の膜厚によって反射波長を制御する場合、可視光線領域に近い800〜1500nm程度の近赤外線領域において屈折率差に起因して反射させるには、光入射側最表面層以外の各層の膜厚を少なくとも110〜210nm程度とする必要があり、好ましくは120〜180nm程度、より好ましくは120〜160nm程度であることがわかった。
【0048】
また、光入射側最表面に位置する透明導電膜の厚さを変えることで、周期性に起因した反射と自由電子に起因した反射の大小関係を制御することも可能である。図6の結果では、光入射側最表面の透明導電膜の膜厚は150nmであるが、これを400nmに増加させることによって、図9のように1000nm付近の周期性に起因する反射は10%弱低下するものの、2000nm以上の近赤外線の反射率を高めることができ、2500nmでの反射率は30%程度向上する。逆に、透明導電膜の厚さを小さくすれば、2000nm以上の近赤外線の反射率が低下するものの、周期性に起因する反射を高めることも可能である。
【0049】
なお、上記実施例1における特性(傾向)は、高屈折率層3をZnOとして、これにGa、Sc、Y、B、F、Ti、Zr、Hf、Si、Ge、In、又はVを添加することで透明導電層4とする場合、高屈折率層3をTiO2として、これにNbを添加することで透明導電層4とする場合、高屈折率層3をIn2O3として、これにSn、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする場合、高屈折率層3をSnO2として、これにSb、F、又はZnを添加することで透明導電層4とする場合、及び高屈折率層3をSrTiO3として、これにSb、V、La、又はNbを添加することで透明導電層4とする場合でも同様である。
【0050】
[第2の形態]
上記第1の形態では、基本的には高屈折率層3として他の不純物元素を添加していない金属酸化物膜を用いることが好ましいとしたが、添加元素量を透明導電層4よりも多量に添加することでも、高屈折率膜として利用できる。この場合、透明導電層4としては、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上とする。そして、高屈折率層3も、透明導電層4と同種の組成からなる層としながら、透明導電層4よりも添加元素量を多くする。透明導電層4は、金属酸化物に適量の不純物元素が添加されていることで、良好な導電性を有する。これに対し、高屈折率層3への添加元素量の目安としては、高屈折率層3が導電性を有しなくなる程度とする。例えば、高屈折率層3の添加元素量を、透明導電層4の添加元素量に対して1.1〜15倍程度、好ましくは5〜12倍程度とすればよい。周期構造を有する積層膜としてのその他の条件は、上記基本的形態や第1の形態と同様である。
【0051】
この場合、透明導電層及び高屈折率層は、基本的には第1の形態と同様に反応性スパッタリングにより成膜すればよい。第1の形態の場合と異なる点は、透明導電層及び高屈折率層は、共に同一の金属ターゲットを使用して、添加元素用ターゲットへの印加電力量を定期的に増減することのみによって交互に積層することができる。高屈折率層3を成膜するときは、添加元素用ターゲットへの印加電力量を、透明導電層4を成膜するときに対して、1.1〜1.5倍程度、好ましくは1.1〜1.3倍程度とすればよい。その他の製造条件は、上記基本的形態や第1の形態の場合と同様である。
【0052】
(実施例2)
Al適量添加ZnO・Al透明導電膜とAl過剰添加ZnO・Al高屈折率膜を、反応性スパッタリング法により交互に積層させることで、実施例1と同様の効果が得られるかを評価した。先ず、それぞれの単層膜を成膜した。成膜させる基板には30×30mm合成石英を用い、基板温度を200℃とした。成膜時には基板を15rpmにて回転させることで膜厚の均一化を図った。この基板を設置した後、チャンバー内を9×10-9Torr以下の超高真空としてから、雰囲気ガスとしてArおよび酸素を導入し、その合計流量を20sccmで一定として、Arと酸素の流量はそれぞれ18.1sccmおよび1.90sccmとした。成膜時の全圧は3mTorrに設定した。Zn金属(純度99.999%以上)およびAl金属(純度99.999%以上)をターゲットとして、ZnターゲットにはRF電源にて60W、AlターゲットにはDC電源を接続して、適量添加ZnO・Al層用に28W程度、過剰添加ZnO・Al層用には32Wを与えてプラズマを発生させた。
【0053】
まず、Alを過剰添加した高屈折率層となるZnO・Al層のみを、成膜時間を1時間として、ガラス基板上に190nm堆積させた。組成分析の結果、このAl過剰添加ZnO・Al膜ではAl適量添加ZnO・Al膜に比べて約10倍のAlが添加されていた。この透明導電膜の透過率及び反射率の波長依存性を図12に示す。また、過剰添加ZnO・Al膜の屈折率及び消衰係数の波長依存性を図13に示す。Al適量添加ZnO・Al層の透過率及び反射率の波長依存性は図2を、同じく屈折率及び消衰係数の波長依存性は図4を参照。図12の結果から、Al過剰添加ZnO・Al膜では、近赤外領域での反射現象は示さなかった。電気的にも導電性を有しておらず、図13の屈折率にみられるように、図4における屈折率に比べて近赤外領域では高屈折率となっている。また、同じ高屈折率層である、Al無添加ZnO膜とAl過剰添加ZnO・Al膜とでは、図12と図3の比較において、紫外領域から可視光領域に明確な違いがある。図3のAlを添加していないZnO膜では、700nm以下の波長領域から透過率が低下し始めて350nm以下の光を透過せず、これによって黄色く着色して見えていた。このため、図7〜図11に示した積層膜も黄色く着色した膜であった。一方、Al過剰添加ZnO・Al膜は、図12より約300nm以上では高い透過率を示すため、ZnO膜のような黄色い着色ではなくほぼ透明である。この膜を用いて積層構造を形成させることにより、着色を低減させた積層膜が得られた。
【0054】
次に、膜厚200nmのAl適量添加ZnO・Al透明導電膜5層、同じく膜厚200nmのAl過剰添加ZnO・Al高屈折率膜5層を、透明導電膜が光入射側最表面となるように交互に積層した。この積層膜の透過・反射スペクトルを図14に示す。図14の結果から、周期性に起因する反射ピークは1200nm付近に現れており、それより長波長側においても自由電子に起因して反射が増大するスペクトルが確認できた。積層構造が光学特性に及ぼす効果としては、基本的に第1形態の積層膜と同じである。違いとしては、可視光領域における透過率が高く、ある色に着色するという影響を抑えられているという点である。積層構造の製造プロセスとしては、Alターゲットに与えるDC電力を僅かに変化させるだけで周期構造が積層可能であり、同一のターゲットを用いながら電気信号の変調のみによって積層膜の合成が可能である点において有利である。
【0055】
なお、上記実施例2における特性(傾向)は、透明導電層4及び高屈折率層3を、共にGa添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、又はNb添加SrTiO3などの同種の組成とした場合でも同様である。
【0056】
[第3の形態]
上記第1及び第2の形態では、他の不純物元素を添加しない金属酸化物膜や、不純物元素を過剰に添加したZnO・Al膜など、不純物元素の有無ないし添加量の制御によって高屈折率膜を得ていた。これに対して、添加元素用ターゲットへの供給電力を適量値で一定としながらも、成膜雰囲気における酸素割合(流量比)を変えることでも、透明導電膜と高屈折率膜の両者を成膜することができる。
【0057】
この場合、透明導電層4及び高屈折率層3は共に同種の組成として、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上とする。透明導電層4は、成膜時に酸素流量が適量に設定されていることで、良好な導電性を有する。これに対し、高屈折率層3成膜時における酸素流量の目安としては、高屈折率層3が導電性を有しなくなる程度とする。例えば、高屈折率層3成膜時の酸素流量を、透明導電層4成膜時の酸素流量に対して0.85〜0.95倍程度、好ましくは0.90〜0.95倍程度とすればよい。この場合も、透明導電層4及び高屈折率層3は、基本的には第1の形態と同様に反応性スパッタリングにより成膜すればよい。周期構造を有する積層膜としてのその他の条件や製造条件は、上記基本的形態や第1の形態と同様である。
【0058】
(実施例3)
酸素流量が適量な雰囲気で成膜したZnO・Al透明導電膜と、酸素流量を不足させた雰囲気において成膜したZnO・Al高屈折率膜を、反応性スパッタリング法により交互に積層させることで、第1の形態の積層膜と同様の効果が得られるかを評価した。
【0059】
先ず、それぞれの単層膜の成膜を試みた。成膜させる基板には30×30mm合成石英を用い、基板温度を200℃とした。成膜時には基板を15rpmにて回転させることで膜厚の均一化を図った。この基板を設置した後、チャンバー内を9×10-9Torr以下の超高真空としてから、雰囲気ガスとしてArおよび酸素を導入した。Arと酸素の流量は、酸素流量が適量な雰囲気で成膜する場合、それぞれ18.1sccm及び1.90sccmとし、酸素流量を不足させた雰囲気において成膜する場合は、それぞれ18.2sccm及び1.75sccmとした。成膜時の全圧は30mTorrに設定した。Zn金属(純度99.999%以上)およびAl金属(純度99.999%以上)をターゲットとして、ZnターゲットにはRf電源にて60W、AlターゲットにはDC電源を接続して28Wを与えてプラズマを発生させた。
【0060】
最初に、雰囲気ガス中の酸素流量を不足させた透明導電膜のZnO・Al層のみを、成膜時間を1時間として、ガラス基板上に190nm堆積させた。この酸素供給不足ZnO・Al膜の透過率及び反射率の波長依存性を図15に示し、同じく屈折率及び消衰係数の波長依存性を図16に示す。酸素適量ZnO・Al層の透過率及び反射率の波長依存性は図2を、同じく屈折率及び消衰係数の波長依存性は図4を参照。図15の結果から、酸素供給不足ZnO・Al膜では、近赤外領域での反射現象は示さなかった。電気的にも導電性を有しておらず、図16の屈折率にみられるように、図4における屈折率に比べて近赤外領域では高屈折率となっている。また、同じ高屈折率層である、Al無添加ZnO膜と酸素供給不足ZnO・Al膜とでは、図15と図3の比較において、紫外領域から可視光領域に明確な違いがある。図3のAlを添加していないZnO膜では、700nm以下の波長領域から透過率が低下し始めて350nm以下の光を透過せず、これによって黄色く着色して見えていた。このため、図7〜図11に示した積層膜も黄色く着色した膜であった。一方、酸素供給不足ZnO・Al膜は、図15より約300nm以上では高い透過率を示すため、ZnO膜のような黄色い着色ではなくほぼ透明である。この膜を用いて積層構造を形成させることにより、着色を低減させた積層膜が得られた。
【0061】
次に、膜厚200nmの酸素適量ZnO・Al透明導電膜5層、同じく膜厚200nmの酸素供給不足ZnO・Al高屈折率膜5層を、透明導電膜が光入射側最表面となるように交互に積層した。この積層膜の透過・反射スペクトルを図17に示す。図17の結果から、周期性に起因する反射ピークは1400nm付近に現れており、それより長波長側においても自由電子に起因して反射が増大するスペクトルが確認できた。なお、シミュレーション上では、図14と同様の結果が得られるはずであるが、図17に示す実験結果では近赤外領域の反射率が若干低く、可視光領域の透過率も低い結果となった。この原因は、おそらくZnターゲットの劣化によりスパッタリングレートが変わり、ZnとAlの最適なバランス、Znと酸素の最適なバランスから僅かにずれが生じたためと考えられる。しかしながら、酸素量を制御することによって周期構造を与えることができ、透明導電膜における光学特性をコントロールして断熱性能の向上に活用できるという本質的な点について明らかにできた。
【0062】
積層構造が光学特性に及ぼす効果としては、基本的に第1形態の積層膜と同じである。違いとしては、可視光領域における透過率が高く、ある色に着色するという影響を抑えられているという点である。積層構造の製造プロセスとしては、雰囲気ガス中の酸素流量を僅かに変化させるだけで周期構造が積層可能であり、同一のターゲットを用いながら酸素流量の増減のみによって積層膜の合成が可能である点において有利である。
【0063】
なお、上記実施例3における特性(傾向)は、透明導電層4及び高屈折率層3を共に同種の組成として、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3などとした場合でも同様である。
【0064】
(実施例4)
実施例1〜3では、太陽光からの熱線を反射させるという断熱性能について評価した。そこで、次に、断熱という観点においてもう1つ重要な、本発明における透明導電膜と高屈折率膜の積層膜における遠赤外領域における放射率について評価した。ここでは、第1〜3の形態の断熱ガラスの内、代表的な第1の形態の断熱ガラスの評価試験で使用した、図5の結果に示す積層膜を使用して評価した。
【0065】
図18に、通常の窓ガラスに使用されるフロートガラスの遠赤外領域における放射率を示す。図19に、図2の結果に示すZnO・Alからなる透明導電層の遠赤外領域における放射率を示す。図20に、図3の結果に示すZnOからなる高屈折率層の遠赤外領域における放射率を示す。図21に、図5の結果に示す透明導電層と高屈折率層とを交互に積層した積層膜の遠赤外領域における放射率を示す。前提として、室温付近の黒体放射(物体が放射する赤外線)エネルギーは波長10μm付近をピークに5〜25μmまで広く分布し、この放射率データの5μm以上において放射率が低いことが望ましい。そのうえで、図18の結果を見ると、窓ガラスの放射率はほぼ全波長域において90%程度という高い放射率を示し、断熱性能が低い。これに対して、図19に示した透明導電層の放射率は20%以下であり、断熱において有利となる。この低い放射率は、透明導電層中における高い密度の自由電子によってもたらされる。一方、図20に示した高屈折率層は、自由電子の寄与が期待できないため80%程度という高い放射率を示す。この放射率が高い高屈折率層と、放射率が低い透明導電性層を交互に積層させた場合、低放射率な透明導電層を最表面とすることで、図21のように20%程度の放射率に抑えることが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0066】
1 断熱ガラス
2 ガラス基板
3 高屈折率層
4 透明導電層
4a 光入射側最表面の透明導電層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に、透明導電層と、近赤外線領域における屈折率が前記透明導電層の屈折率より相対的に高い高屈折率層とが積層されて成り、
前記高屈折率層は、屈折率が波長に応じて変動せず、
前記透明導電層は、屈折率が波長に応じて変動し、可視光線領域では前記高屈折率層の屈折率と同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率が低下することで前記高屈折率層と屈折率差が生じており、
前記透明導電層と高屈折率層とは交互に積層され、当該透明導電層と高屈折率層とが交互に積層された周期構造が複数繰り返されている、断熱ガラス。
【請求項2】
前記周期構造の光入射側最表面が前記透明導電層となっている、請求項1に記載の断熱ガラス。
【請求項3】
前記光入射側最表面の透明導電層の膜厚が他の層の膜厚と比べて最も大きい、請求項2に記載の断熱ガラス。
【請求項4】
前記光入射側最表面層以外の他の層が、全て同じ膜厚もしくは同じ光学膜厚である、請求項2又は請求項3に記載の断熱ガラス。
【請求項5】
前記透明導電層が、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3、Zn2SnO4、Cd2SnO2、InSbO4、CdIn2O4、MgInO4、CaGaO4、CdO、TiN、ZrN、HfN、LaB6、V2O3,VO2からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項6】
前記高屈折率層が、ZnO、TiO2、In2O3、SnO2、SrTiO3、BaTiO3、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgO、PbO、Y2O3、ZnAl2O4、GaAl2O4、LiNbO3、CaCO3、MgF2、SiC、Ag2S3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上である、請求項1ないし請求項5いずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項7】
前記透明導電層が、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上であり、
前記高屈折率層も、前記透明導電層と同種の層としながら、前記透明導電層よりも添加元素量が多く導電性を有しない、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項8】
前記透明導電層及び前記高屈折率層は、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されて同じ組成となっているが、
前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜されて導電性を有しない、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項9】
ガラス基板上に、金属酸化物に他の元素を添加した透明導電層と、該透明導電層と同じ金属酸化物からなり、前記透明導電層よりも近赤外線領域における屈折率が相対的に高い高屈折率層とが交互に複数周期で積層された断熱ガラスの製造方法であって、
前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されており、
添加元素用ターゲットのシャッターを定期的に開閉することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層させる、断熱ガラスの製造方法。
【請求項10】
ガラス基板上に、金属酸化物に他の元素を添加した透明導電層と、該透明導電層と同じ金属酸化物に前記透明導電層よりも多量の元素を添加してなり、前記透明導電層よりも近赤外線領域における屈折率が相対的に高い高屈折率層とが交互に複数周期で積層された断熱ガラスの製造方法であって、
前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されており、
添加元素用ターゲットへの印加電力量を定期的に増減することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層させる、断熱ガラスの製造方法。
【請求項11】
ガラス基板上に、金属酸化物に他の元素を添加した透明導電層と、該透明導電層と同じ組成であるが、前記透明導電層よりも近赤外線領域における屈折率が相対的に高い高屈折率層とが交互に複数周期で積層された断熱ガラスの製造方法であって、
前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されており、
前記透明導電層と高屈折率層とは、雰囲気ガス中の酸素割合を変更することで分けられ、前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜される、断熱ガラスの製造方法。
【請求項1】
ガラス基板上に、透明導電層と、近赤外線領域における屈折率が前記透明導電層の屈折率より相対的に高い高屈折率層とが積層されて成り、
前記高屈折率層は、屈折率が波長に応じて変動せず、
前記透明導電層は、屈折率が波長に応じて変動し、可視光線領域では前記高屈折率層の屈折率と同レベルであるが、近赤外線領域において屈折率が低下することで前記高屈折率層と屈折率差が生じており、
前記透明導電層と高屈折率層とは交互に積層され、当該透明導電層と高屈折率層とが交互に積層された周期構造が複数繰り返されている、断熱ガラス。
【請求項2】
前記周期構造の光入射側最表面が前記透明導電層となっている、請求項1に記載の断熱ガラス。
【請求項3】
前記光入射側最表面の透明導電層の膜厚が他の層の膜厚と比べて最も大きい、請求項2に記載の断熱ガラス。
【請求項4】
前記光入射側最表面層以外の他の層が、全て同じ膜厚もしくは同じ光学膜厚である、請求項2又は請求項3に記載の断熱ガラス。
【請求項5】
前記透明導電層が、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3、Zn2SnO4、Cd2SnO2、InSbO4、CdIn2O4、MgInO4、CaGaO4、CdO、TiN、ZrN、HfN、LaB6、V2O3,VO2からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項6】
前記高屈折率層が、ZnO、TiO2、In2O3、SnO2、SrTiO3、BaTiO3、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgO、PbO、Y2O3、ZnAl2O4、GaAl2O4、LiNbO3、CaCO3、MgF2、SiC、Ag2S3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上である、請求項1ないし請求項5いずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項7】
前記透明導電層が、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sc添加ZnO、Y添加ZnO、B添加ZnO、F添加ZnO、Ti添加ZnO、Zr添加ZnO、Hf添加ZnO、Si添加ZnO、Ge添加ZnO、V添加ZnO、In添加ZnO、Nb添加TiO2、Sn添加In2O3、F添加In2O3、Zn添加In2O3、Sb添加SnO2、F添加SnO2、Zn添加SnO2、Sb添加SrTiO3、V添加SrTiO3、La添加SrTiO3、Nb添加SrTiO3からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上であり、
前記高屈折率層も、前記透明導電層と同種の層としながら、前記透明導電層よりも添加元素量が多く導電性を有しない、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項8】
前記透明導電層及び前記高屈折率層は、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されて同じ組成となっているが、
前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜されて導電性を有しない、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱ガラス。
【請求項9】
ガラス基板上に、金属酸化物に他の元素を添加した透明導電層と、該透明導電層と同じ金属酸化物からなり、前記透明導電層よりも近赤外線領域における屈折率が相対的に高い高屈折率層とが交互に複数周期で積層された断熱ガラスの製造方法であって、
前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されており、
添加元素用ターゲットのシャッターを定期的に開閉することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層させる、断熱ガラスの製造方法。
【請求項10】
ガラス基板上に、金属酸化物に他の元素を添加した透明導電層と、該透明導電層と同じ金属酸化物に前記透明導電層よりも多量の元素を添加してなり、前記透明導電層よりも近赤外線領域における屈折率が相対的に高い高屈折率層とが交互に複数周期で積層された断熱ガラスの製造方法であって、
前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されており、
添加元素用ターゲットへの印加電力量を定期的に増減することのみによって、透明導電層と高屈折率層とを交互に積層させる、断熱ガラスの製造方法。
【請求項11】
ガラス基板上に、金属酸化物に他の元素を添加した透明導電層と、該透明導電層と同じ組成であるが、前記透明導電層よりも近赤外線領域における屈折率が相対的に高い高屈折率層とが交互に複数周期で積層された断熱ガラスの製造方法であって、
前記透明導電層と高屈折率層とは、共に同一のターゲットを使用した反応性スパッタリングにより成膜されており、
前記透明導電層と高屈折率層とは、雰囲気ガス中の酸素割合を変更することで分けられ、前記高屈折率層は、前記透明導電層の成膜時と比べて雰囲気ガス中の酸素割合が少ない雰囲気で成膜される、断熱ガラスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−202465(P2010−202465A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50707(P2009−50707)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、革新的部材産業創出プログラム・省エネルギー技術開発プログラム「マルチセラミックス膜新断熱材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、革新的部材産業創出プログラム・省エネルギー技術開発プログラム「マルチセラミックス膜新断熱材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
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