説明

断熱パネル及び環境試験装置

【課題】断熱パネル内での圧力変動を緩和することにより、断熱パネルの断熱性能の劣化を抑制する。
【解決手段】本体部40aには、連通孔42bが設けられ、本体部40a内を断熱材40bが配設された断熱室SIと連通孔42bを通して外部に連通するバッファ室SBとに仕切り、断熱室SI内の圧力変化に応じてバッファ室SB内の容積を変化させることで断熱室SI内の圧力変化を緩和する袋体50aを備えている断熱パネルである。袋体50aは、断熱材40bに接した状態で配設されていてもよく、あるいは本体部40a内が仕切り板55によって仕切られることにより、断熱材40bとは接しないように配設されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱パネル及び環境試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1及び2に開示されているように、板金等の複数のパネル材を中空状に組み付け、その内部に断熱材が設けられた断熱パネルが知られている。この断熱パネルは、パネル材を、その端部同士で繋ぎ合わせた構成のものである。より具体的には、パネル材の端部を折り曲げ、この折り曲げられた端部同士を重ね合わせてリベットによって締結し、これにより中空状に構成している。この断熱パネルは、冷却貯蔵庫の外壁として用いられており、断熱パネルで囲まれた庫内の圧力が変動すると、断熱パネル内外に圧力差が生ずるので、パネル材同士の接合部を通して空気が流通し得る。そして、庫内の圧力が低下したときには、庫外から断熱パネル内に外気が侵入し、外気に含まれる水分が断熱パネル内で結露して蓄積されることがある。特許文献2では、その対策として、庫外側のパネル材の接合部に水蒸気透過率の低いシール材を設ける一方、庫内側のパネル材の接合部に開口部を設けるようにしている。これにより、庫外側からの外気の侵入を抑制する一方、外気の侵入があったとしても、その外気を庫内側へ放出し、断熱パネル内で結露することを抑制するようにしている。なお、特許文献1のものでも、庫内側のパネル材に開口部を設けることにより、断熱パネル内に侵入した外気を庫内側へ放出するようにしている。
【特許文献1】特開2007−17144号公報
【特許文献2】特開2007−17145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1及び2に開示された従来の断熱パネルにおいては、パネル材の接合部を通して庫外から侵入した外気を庫内側へ放出するので、断熱パネル内を外気が通過することとなる。このため、庫内側のパネル材の接合部に開口部を設けることにより、外気が庫内側に放出され易いようにしているとはいえ、少なからず断熱パネル内に水分が残留することは避けられない。特に、庫内側の温度が低温であれば、断熱パネル内で結露することは避けられないため、それが繰り返されて水分が蓄積することにより、断熱パネルの断熱性能が劣化するという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、断熱パネル内での圧力変動を緩和することにより、断熱パネル内の結露を低減させるとともに断熱性能の劣化や水漏れの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、本発明は、複数のパネル材が組み付けられた構成の中空状の本体部と、この本体部の内側に設けられた断熱材とを備えている断熱パネルであって、前記本体部には、連通孔が設けられ、前記本体部内を前記断熱材が配設された断熱室と前記連通孔を通して外部に連通するバッファ室とに仕切り、前記断熱室内の圧力変化に応じて前記バッファ室内の容積を変化させることで前記断熱室内の圧力変化を緩和する圧力調整部を備えている断熱パネルである。
【0006】
本発明では、断熱室内の空気が高温になって膨張すると、断熱室内の圧力が上昇し、これに応じてバッファ室内の容積が小さくなるように圧力調整部が機能する。このとき、断熱室内の空気の膨張の度合いに応じてバッファ室内の空気が連通孔を通して断熱パネルの外部へ放出される。すなわち、断熱パネル内においてバッファ室の占める容積が小さくなるとともに断熱室の占める容積が大きくなる。したがって、断熱室内が昇温したときでも断熱室内の圧力変動を緩和することができる。一方、断熱室内の空気が低温になって収縮すると、これに応じてバッファ室内の容積が大きくなるように圧力調整部が機能する。すなわち、断熱室内の空気の収縮の度合いに応じて断熱パネルの外部の空気(外気)が連通孔を通してバッファ室に流入する。このとき見かけ上は、断熱パネル内に外気が流入しているが、断熱室がバッファ室と気密状に仕切られているため、断熱室内に外気が侵入することはない。これにより、断熱パネル内においてバッファ室の占める容積が大きくなるとともに断熱室の占める容積が小さくなる。このため、断熱室内が降温したときでも断熱室内の圧力変化を緩和することができる。したがって、この断熱パネルでは、本体部を構成するパネル材同士の接合部やシール部などを通して外気が断熱室内に侵入することを抑制することができるので、断熱室内において結露を抑制することができ、断熱材の濡れや水分の蓄積を抑制することができる。これにより、断熱性能の劣化や水漏れの発生を抑制することができる。
【0007】
ここで、前記圧力調整部は、変形自在な袋体によって構成されていてもよい。この態様では、本体部内での圧力変化に容易に追従して袋体が変形する。すなわち、断熱室内の圧力が上昇するとバッファ室との間に圧力差が生ずるため、その差圧によってバッファ室の容積が低減するように袋体が変形し、断熱室内の圧力が低下するとバッファ室内との差圧によってバッファ室の容積が増大するように袋体が変形する。したがって、断熱室内の温度変化量が小さい場合でも、断熱室内の圧力変動を抑制することができる。
【0008】
前記圧力調整部は、変形自在な膜体によって構成されていてもよい。この態様では、本体部内での圧力変化に容易に追従して膜体が自然に変形する。すなわち、断熱室内の圧力が上昇するとバッファ室との間に圧力差が生ずるため、その差圧によってバッファ室の容積が低減するように膜体が変形し、断熱室内の圧力が低下するとバッファ室内との差圧によってバッファ室の容積が増大するように膜体が変形する。したがって、断熱室内の温度変化量が小さい場合でも、断熱室内の圧力変動を抑制することができる。
【0009】
圧力調整部が袋体又は膜体によって構成される態様において、断熱パネルを厚み方向に貫通する貫通部が設けられている場合には、前記袋体又は膜体に、前記貫通部を挿通させるように配置されるとともに周縁が封止された貫通孔が設けられていてもよい。この態様では、断熱室内への外気の侵入防止を確保しつつ、断熱パネルの貫通部を通してケーブル等の配線が可能である。
【0010】
この態様において、前記連通孔が多数設けられているのが好ましい。この態様では、膜体が変形自在となっているが、本体部の連通孔が多数設けられているので、膜体が連通孔を塞いでしまって空気の流通が阻害されるという事態を回避することができる。
【0011】
前記圧力調整部は、前記断熱材に接した状態で配設されていてもよい。この態様では、断熱材の復元力で圧力調整部を押圧できるので、断熱材の復元力を利用してバッファ室内の空気を外部へ押し出すことができる。
【0012】
前記断熱室に、貫通孔を有する仕切り板が配設されており、前記断熱室は、前記断熱材が配設された第1室と、前記断熱材が配設されずに前記圧力調整部が配設された第2室とに仕切られていてもよい。この態様では、断熱室内の空気が収縮し、バッファ室内の容積が大きくなるように圧力調整部が機能するときでも、仕切り板の存在によって圧力調整部が断熱材の力を直接受けないので、断熱室内での圧力変化に容易に追従することができる。
【0013】
前記バッファ室は上下方向に長い形状に形成されて、前記本体部の側壁内面に沿うように配設されていてもよい。この態様では、断熱パネルが上下に長くなる姿勢で配置されて使用される場合に、圧力調整部が断熱パネルの長手方向に沿って配置される。このため、断熱パネルの長手方向で断熱材の厚みが均等になるので、断熱パネルの断熱性能の偏りを防止することができる。
【0014】
この態様において、前記連通孔は、前記圧力調整部の最下部に位置していてもよい。この態様では、バッファ室内の結露水を連通孔を通して排水することができる。
【0015】
前記バッファ室に向けて送風可能なブロアを備え、このブロアの送風路によって前記連通孔が形成されていてもよい。この態様では、ブロアの送風路を通してバッファ室内と外部とが連通しているので、ブロアが駆動していないときにはこの送風路を通して空気がバッファ室と外部との間で流通する。そして、断熱室内の空気が収縮したときには、ブロアによってバッファ室に空気を強制的に流入させて圧力を加えることでバッファ室内の容積を大きくさせる。これにより、断熱室内の圧力が高まり、空気が断熱室内により侵入し難くすることができる。
【0016】
本発明は、試験室内の温度を変えることによって当該試験室内の試料に熱負荷を与え得る環境試験装置であって、前記断熱パネルによって構成される壁体を備え、前記断熱パネルのバッファ室が断熱室に対して前記壁体の外壁側に位置するように配置されている環境試験装置である。
【0017】
本発明では、試験室内の温度が上昇すると、その熱がパネル材を通して断熱室に伝わり、断熱室内の空気が加熱されて膨張する。これにより断熱室内の圧力が上昇し、これに応じてバッファ室内の容積が小さくなるように圧力調整部が機能する。このとき、断熱室内の空気の膨張の度合いに応じてバッファ室内の空気が連通孔を通して断熱パネルの外部へ放出されるので、断熱室内が昇温したときでも断熱室内の圧力変動を緩和することができる。一方、試験室内の温度が低くなると、断熱室内の空気が低温になって収縮する。これに伴い、断熱室内とバッファ室内との差圧が生じて、バッファ室内の容積が大きくなるように圧力調整部が機能する。これにより、断熱パネル内においてバッファ室の占める容積が大きくなるとともに断熱室の占める容積が小さくなる。このため、断熱室内が降温したときでも断熱室内の圧力変化を緩和することができる。したがって、この環境試験装置によれば、断熱パネルの本体部を構成するパネル材同士の接合部やシール部などを通して外気が断熱室内に侵入することを抑制することができるので、断熱室内において結露を抑制することができ、断熱材の濡れや水分の蓄積を抑制することができる。これにより、断熱性能の劣化や水漏れの発生を抑制することができる。
【0018】
ここで、前記試験室の内壁となる前記断熱パネルのパネル材の少なくとも一部には、吸湿材によって構成される水分脱着層が設けられていてもよい。この態様では、断熱室内で結露が生じた場合において、水分脱着層によって低温時に水分を吸着し、結露の発生を抑制する一方、試験室内が高温になると、水分脱着層に吸着されている水分が離脱される。このため、水分脱着層がリフレッシュされて新たに水分の吸着が可能となる。したがって、試験室内の高温、低温を利用して吸湿材の吸湿作用を長持ちさせることができる。吸湿材としては、例えばシリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ、活性化アルミナを例示することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、断熱パネル内での圧力変動を緩和することができるので、断熱パネル内での結露を抑制することができ、これによって断熱パネルの断熱性能の劣化や水漏れの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る環境試験装置10は、試料Wを収納可能な試験室12を備えており、この試験室12に収納された試料Wに熱負荷を与えることができるものである。すなわち、この環境試験装置10は、試料Wを低温と高温に交互に曝して試料Wに熱ストレスを与える熱衝撃試験装置、あるいは試料Wを所定条件の雰囲気に曝し続けて試料Wに熱負荷を与える恒温槽又は恒温恒湿槽として構成されている。試料Wとしては、例えば半導体チップが実装されたプリント基板等を挙げることができる。
【0022】
環境試験装置10は、加熱室14、冷却室16、及び前記試験室12を画定する壁体18と、この壁体18に取り付けられた開閉扉22とを有している。加熱室14は、試験室12との間で循環する空気を加熱するための部屋で、試験室12内を昇温させるために使用される。加熱室14には、ヒータ24と送風機26とが配設されている。冷却室16は、試験室12との間で循環する空気を冷却するための部屋で、試験室12内を降温させるために使用される。冷却室16には、冷却器28と送風機30と補助加熱器32とが配設されている。補助加熱器32は、試験室12に供給される空気が目標温度よりも低温になった場合に駆動される。
【0023】
試験室12と加熱室14との間の高温側仕切り壁35には、吸入口35aと吹出し口35bが設けられており、これら吸入口35a及び吹出し口35bにはそれぞれ開閉ダンパー35cが配設されている。吸入口35aは、試験室12内の空気を加熱室14に導入するための開口部である。吹出し口35bは、加熱室14で加熱された高温の空気を試験室12に流入させるための開口部である。開閉ダンパー35cは、試験室12内を昇温させるときに吸入口35a及び吹出し口35bを開放する一方、試験室12内を降温させるときに吸入口35a及び吹出し口35bを閉じる。
【0024】
試験室12と冷却室16との間の低温側仕切り壁36には、吸入口36aと吹出し口36bが設けられており、これら吸入口36a及び吹出し口36bにはそれぞれ開閉ダンパー36cが配設されている。吸入口36aは、試験室12内の空気を冷却室16に導入するための開口部である。吹出し口36bは、冷却室16で冷却された低温の空気を試験室12に流入させるための開口部である。開閉ダンパー36cは、試験室12内を降温させるときに吸入口36a及び吹出し口36bを開放する一方、試験室12内を昇温させるときに吸入口36a及び吹出し口36bを閉じる。
【0025】
壁体18は、試験室12を構成する壁体20と、加熱室14を構成する壁体19と、冷却室16を構成する壁体21とからなるが、これら壁体19,20,21は何れも、図2に示すように、断熱パネル40によって構成されている。この断熱パネル40は、複数のパネル材42が組み付けられた構成の中空状の本体部40aと、この本体部40aの内部に設けられた断熱材40bとを備えている。パネル材42は例えばステンレス板等の板金からなり、断熱パネル40の本体部40aは、例えば折り曲げ加工したパネル材42や平板状のままのパネル材42の縁部同士を接合することによって中空状に形成されている。具体的に、室外側のパネル材42については、パネル材42の縁部を折り曲げ、その折り曲げられた縁部同士を重ね合わせて溶接し、接合部42aとしている。ここでの溶接は例えばスポット溶接とすることができる。このパネル材42同士の接合部42aには、シール材45が施されており、外部の空気が接合部42aを通して本体部40a内になるべく侵入しないようにしている。一方、室内側のパネル材42についても、縁部を折り曲げ、その折り曲げられた縁部同士を重ねて溶接している。この溶接部42cでの溶接は例えばアルゴン溶接とすることができる。アルゴン溶接により全周シールとなる。断熱材40bは、グラスウール等の繊維状の断熱材40bである。パネル材は板金等の金属製のため、パネル材42を通して室内の熱が伝達し易く、その影響で、本体部40a内の空気が膨張、収縮し易い。なお、冷却室16を構成する断熱パネル40の断熱材40bは、ウレタン発泡剤等の連続気泡を有する樹脂で構成してもよい。
【0026】
前記開閉扉22は、試験室12を構成する壁体20に設けられた試料Wの出し入れ口を開閉可能に設けられている。この開閉扉22も壁体20と同様に断熱性を有している。すなわち、開閉扉22は、複数のパネル材44を中空状に組み付けるとともにその内部に断熱材22aが配設された構成となっている。この断熱材22aは、グラスウール等の繊維状の断熱材22aである。
【0027】
試験室12を構成する壁体20には、外壁20aを構成するパネル材42に連通孔42bが設けられている。連通孔42bは、壁体20の内部空間STと壁体外部とを連通させる。また、壁体20には、内部空間STの圧力変化を緩和するための圧力調整部50が設けられている。
【0028】
本実施形態では、圧力調整部50は、ポリエチレン、ビニル樹脂等の軟質材によって構成される変形自在な袋体50aによって構成されている。袋体50aは、上下方向に長い形状に形成されており、外壁20aを構成するパネル材42の内面に沿うように内部空間ST内に配設されている。この状態で袋体50aは、断熱材40bに接している。
【0029】
袋体50aの口は、壁体20の連通孔42bを囲むように気密状にパネル材42に取り付けられている。したがって、試験室12の壁体20の内部空間STは、袋体50aの内側空間によって形成されるバッファ室SBと、袋体50aの外側空間である断熱室SIとに仕切られている。そして、この断熱室SIに断熱材40bが配設されている。連通孔42bは、袋体50aの最下部に位置しているので、袋体50aの中が結露したときには、その結露水を連通孔42bを通して外部に排出することができる。
【0030】
以上のように構成された環境試験装置10の運転動作について説明する。以下に説明する運転動作は、試験室12内の試料Wを高温雰囲気と低温雰囲気に交互に繰り返して曝す熱衝撃試験を行うときの運転動作である。
【0031】
試験室12内に試料Wをセットした状態で高温雰囲気に曝すときには、高温側仕切り壁35の吸入口35a及び吹出し口35bを開放する一方、低温側仕切り壁36の吸入口36a及び吹出し口36bを閉じる。そして、ヒータ24及び送風機26を駆動して、加熱室14で空気を加熱するとともにこの高温に加熱された空気を加熱室14と試験室12との間で循環させる。これにより試験室12内が所定の温度まで昇温し、この所定の温度に一定時間維持され、試料Wの高温曝しが行われる。
【0032】
この高温曝しの際には、試験室12を構成する壁体20の内壁20bが高温空気によって加熱され、その熱が壁体20(断熱パネル40)内の断熱室SIに伝わる。これに伴い、断熱室SI内の空気が昇温するとともに膨張するが、その圧力変化に応じて袋体50aが押し縮められる。すなわち、袋体50aが内壁20bとの間に断熱材40bを挟むようにして配設され、かつ袋体50aの内側空間(バッファ室SB)が連通孔42bを通して外部と連通しているので、袋体50aに外から力がかかると、内側空間SBの空気が連通孔42bを通して外部に放出されて、袋体50aは収縮する。これにより、壁体20内の圧力上昇が緩和される。この結果、断熱室SI内の空気が、パネル材42同士の接合部42aを通して外部に漏れるのが抑制される。
【0033】
一定の時間が経過すると、今度は高温側仕切り壁35の吸入口35a及び吹出し口35bを閉じる一方、低温側仕切り壁36の吸入口36a及び吹出し口36bを開放する。そして、冷却器28及び送風機30を駆動して、冷却器28で空気を冷却するとともにこの低温に冷却された空気を冷却室16と試験室12との間で循環させる。これにより試験室12内が所定の温度まで低下し、この所定の温度に一定時間維持され、試料Wの低温曝しが行われる。以降、高温曝しと低温曝しを交互に繰り返すことにより、試料Wに熱的ストレスを付加することができる。
【0034】
低温曝しの際には、壁体20の内壁20bが低温空気によって冷却され、その熱が壁体20(断熱パネル40)内の断熱室SIに伝わり、断熱室SI内の空気が冷却されるとともに収縮する。これに伴い、断熱室SI内の圧力と外気圧との差圧が発生し、これにより袋体50aが外気を吸い込みながら膨張し、バッファ室SBの容積が拡大するので、断熱室SI内の圧力低下が緩和される。このため、室外側のパネル材42同士の接合部42aを通して壁体20内に外気が流入することが抑制される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態では、断熱室SI内の空気が高温になって膨張すると、それに応じてバッファ室SB内の容積が小さくなるように圧力調整部50が機能する。このとき、断熱室SI内の空気の膨張の度合いに応じてバッファ室SB内の空気が連通孔42bを通して断熱パネル40の外部へ放出される。すなわち、断熱パネル40内においてバッファ室SBの占める容積が小さくなるとともに断熱室SIの占める容積が大きくなる。したがって、断熱室SI内が昇温したときでも断熱室SI内の圧力変動を緩和することができる。一方、断熱室SI内の空気が低温になって収縮すると、それに応じてバッファ室SB内の容積が大きくなるように圧力調整部50が機能する。すなわち、断熱室SI内の空気の収縮の度合いに応じて断熱パネルの外部の空気(外気)が連通孔42bを通してバッファ室SBに流入する。このとき見かけ上は、断熱パネル40内に外気が流入しているが、断熱室SIがバッファ室SBと気密状に仕切られているため、外気は断熱室SI内には侵入していない。これにより、断熱パネル40内においてバッファ室SBの占める容積が大きくなるとともに断熱室SIの占める容積が小さくなる。このため、断熱室SI内が降温したときでも断熱室SI内の圧力変化を緩和することができる。したがって、この断熱パネル40では、本体部40aを構成するパネル材42同士の接合部42aを通して外気が断熱室SI内に侵入することを抑制することができるので、断熱室SI内において結露を抑制することができ、断熱材40bの濡れや水分の蓄積を抑制することができる。これにより、断熱性能の劣化や水漏れの発生を抑制することができる。
【0036】
また本実施形態では、圧力調整部50が変形自在な袋体50aによって構成されているので、本体部40a内での圧力変化に容易に追従して袋体50aが変形する。すなわち、断熱室SI内の圧力が上昇するとバッファ室SBとの間に圧力差が生ずるため、その差圧によってバッファ室SBの容積が低減するように袋体50aが変形し、断熱室SI内の圧力が低下するとバッファ室SB内との差圧によってバッファ室SBの容積が増大するように袋体50aが変形する。したがって、断熱室SI内の温度変化量が小さい場合でも、断熱室SI内の圧力変動を抑制することができる。
【0037】
さらに本実施形態では、袋体50aが断熱材40bに接した状態で内部空間STに配設されているので、低温雰囲気のときに断熱材40bの復元力で袋体50aを押圧することができる。すなわち、断熱材40bの復元力を利用してバッファ室SB内の空気を外部へ押し出すことができる。
【0038】
また本実施形態では、袋体50aが上下方向に長い形態を有し、壁体20の外壁20a内面に沿うように配設され、断熱パネル40の長手方向に沿って配置されている。このため、断熱パネル40の長手方向(上下方向)で断熱材40bの厚みを略均等にすることができるので、断熱パネル40の断熱性能の偏りを防止することができる。
【0039】
また本実施形態では、連通孔42bが袋体50aの最下部に位置しているので、バッファ室SB内の結露水を連通孔42bを通して排水することができる。
【0040】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、壁体18の内部空間Sが、加熱室14を構成する壁体19の内部空間SHと、試験室12を構成する壁体20の内部空間STと、冷却室16を構成する壁体21の内部空間SLとに仕切られる構成について示したが、この構成に限られるものではない。すなわち、壁体18の内部空間Sが、加熱室14を構成する壁体19の内部空間SHと、試験室12を構成する壁体20の内部空間STと、冷却室16を構成する壁体21の内部空間SLとに亘る1つの空間として形成される構成であってもよい。この場合、圧力調整部50は、試験室12の壁体20の内部空間STにとどまらず、加熱室14を構成する壁体19の内部空間SHや冷却室16を構成する壁体21の内部空間SLに亘る範囲に設けるようにしてもよい。そうすれば、できるだけ大きなバッファ室SBを得ることができる。
【0041】
また、袋体50aを左右に折り曲げた構成として、試験室12を構成する左右の側壁に亘るように配設してもよい。
【0042】
また、図3(a)に示すように、試験室12を構成する壁体20が、その厚み方向に貫通する貫通部20cを有する場合には、袋体50aは、図3(b)に示すように、貫通孔50bが設けられるようにしてもよい。この貫通孔50bは、壁体20の貫通部20cを挿通可能な大きさを有し、その周縁部が封止されている。したがって、袋体50aに貫通孔50bが設けられているとしても、袋体50a内(バッファ室SB内)の空気が断熱室SIに流入することはない。この態様では、断熱室SI内への外気の侵入防止を確保しつつ、壁体20(断熱パネル40)の貫通部20cを通してケーブル等の配線が可能である。
【0043】
また袋体50aの下端部に傾斜を付けて、その最下部が連通孔42bに繋がる構成としているので、袋体50a内の結露水を確実に排出することができる。なお、図3(a)(b)では袋体50aを示しているが、後述するような膜体50cによる態様も可能である。
【0044】
前記実施形態では、袋体50aが断熱材40bに接した状態で壁体20の内部空間STに配設される構成としたが、これに代え、図4に示すように、断熱室SIが仕切り板55によって仕切られ、断熱材40bとは直接接しない状態で袋体50aが配設される構成としてもよい。すなわち、断熱室SIが、貫通孔55aを有する仕切り板55により、断熱材40bが配設された第1室SIと、断熱材40bが配設されることなく袋体50aが配設された第2室SIとに仕切られている。貫通孔55aは多数設けられているのが好ましく、例えば網板等を用いることができる。第2室SIは、断熱室SI内の空気の収縮に応じて袋体50aが膨張できるような容積となっている。この態様では、断熱室SI内の空気が収縮し、バッファ室SB内の容積が大きくなるように圧力調整部50が機能するときでも、仕切り板55の存在によって袋体50aが断熱材40bの力(復元力)を直接受けないので、断熱室SI内での圧力変化に容易に追従することができる。
【0045】
また、図5に示すように、圧力調整部50は、変形自在な膜体50cによって構成されていてもよい。膜体50cの周縁部は、壁体20の外壁20aを構成するパネル材42の内面に気密状に接続されている。そして、連通孔42bは、パネル材42において、膜体50cの接続部に囲まれるように配設されている。これにより、第2室SIがバッファ室SBと断熱室SI(の一部)とに区画されている。この態様では、本体部40a内での圧力変化に容易に追従して膜体50cが変形するので、断熱室SI内の温度変化量が小さい場合でも、断熱室SI内の圧力変動を抑制することができる。
【0046】
連通孔42bは、1つでもよく、あるいは複数、多数でもいい。膜体50cの場合には、袋体50aと異なり、連通孔42bを多数設けることができる。膜体50cは変形自在であるので、連通孔42bが多数設けられていれば、膜体50cによって連通孔42bが塞がってしまい空気の流通が阻害されるという心配がなくなる。
【0047】
また、図6に示すように、バッファ室SBに向けて送風可能なブロア57が設けられ、このブロア57の送風路によって連通孔42bが形成されているようにしてもよい。この態様では、ブロア57の送風路を通してバッファ室SB内と壁体20の外部とが連通しているので、ブロア57が駆動していないときにはこの送風路を通して空気がバッファ室SBと外部との間で流通する。そして、断熱室SI内の空気が収縮したときには、ブロア57によってバッファ室SBに空気を強制的に流入させて圧力を加えることでバッファ室SB内の容積を大きくさせる。これにより、断熱室SI内の圧力が外気よりも若干高められ、空気が接合部42a等から断熱室SI内により侵入し難くすることができる。図6は、膜体50cによる場合を示しているが、袋体50aによる場合でもブロア57を設けることができる。
【0048】
また、図7に示すように、壁体20の内壁20bとなるパネル材42に、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ、活性化アルミナ等の吸湿材によって構成される水分脱着層59が設けられるようにしてもよい。この態様では、断熱室SI内で結露が生じた場合において、水分脱着層59によって低温時に水分を吸着する一方、試験室12内が高温雰囲気になると、水分脱着層59に吸着されている水分が離脱される。このため、水分脱着層59がリフレッシュされて新たに水分の吸着が可能となる。したがって、試験室12内の高温、低温を利用して吸湿材の吸湿作用を長持ちさせることができ、これによって断熱室SI内に水分が溜まることをさらに抑制することができる。図7は、袋体50aによる場合を示しているが、膜体50cによる場合にも適用することができる。
【0049】
また、前記実施形態では、壁体18によって区画される室内空間が断熱壁35,36によって3つの空間(試験室12、加熱室14、冷却室16)に仕切られた3ゾーン構成としたが、これに限られるものではない。例えば図8に示すように、壁体18によって区画される室内空間が断熱壁によって仕切られていない一槽構造の環境試験装置70としてもよい。この環境試験装置70では、室内空間が試験室12として構成されるが、この試験室12は、仕切り板72により、試料Wがセットされる試料室12aと、試験室12内の空気を加熱又は冷却する空調室12bとに仕切られている。仕切り板72には試料室12aと空調室12bとを連通させる連通孔が設けられている。空調室12bには、送風機26、ヒータ24、冷却器28等が配設されている。そして、送風機26を駆動することにより、試料室12aと空調室12bとの間で空気が循環し、ヒータ24を駆動することにより、試験室12内の空気を加熱する一方、冷却器28を駆動することにより試験室12内の空気を冷却する。袋体50aは、試験室12(室内空間)を構成する壁体18内部に配設されている。この環境試験装置70においても、試験室12内の空気の加熱又は冷却に伴う断熱室SI内の昇温又は降温により、断熱室SI内の圧力とバッファ室SB内の圧力との差圧が生じて、袋体50aが収縮又は膨張する。したがって、3ゾーン構成の環境試験装置10と同様に、断熱性能の劣化や水漏れの発生を抑制することができる。なお、この一槽構造の環境試験装置70においても、前述した種々の形態を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る環境試験装置の全体構成を概略的に示す断面図である。
【図2】前記環境試験装置の壁体の一部を概略的に示す断面図である。
【図3】(a)壁体に貫通部が設けられる場合の環境試験装置の一部を概略的に示す断面図であり、(b)この環境試験装置に設けられる袋体の概略正面図である。
【図4】壁体の内部空間が仕切り板によって仕切られる態様の環境試験装置の一部を概略的に示す断面図である。
【図5】圧力調整部が膜体によって構成される態様の環境試験装置の一部を概略的に示す断面図である。
【図6】ブロアを備えている態様の環境試験装置の一部を概略的に示す断面図である。
【図7】水分脱着層を備えている態様の環境試験装置の一部を概略的に示す断面図である。
【図8】一槽構造の態様の環境試験装置を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
SB バッファ室
SI 断熱室
W 試料
10 環境試験装置
12 試験室
18 壁体
19 壁体
20 壁体
20a 外壁
20b 内壁
20c 貫通部
21 壁体
40 断熱パネル
40a 本体部
40b 断熱材
42 パネル材
42b 連通孔
44 パネル材
50 圧力調整部
50a 袋体
50b 貫通孔
50c 膜体
55 仕切り板
55a 貫通孔
57 ブロア
59 水分脱着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパネル材が組み付けられた構成の中空状の本体部と、この本体部の内側に設けられた断熱材とを備えている断熱パネルであって、
前記本体部には、連通孔が設けられ、
前記本体部内を前記断熱材が配設された断熱室と前記連通孔を通して外部に連通するバッファ室とに仕切り、前記断熱室内の圧力変化に応じて前記バッファ室内の容積を変化させることで前記断熱室内の圧力変化を緩和する圧力調整部を備えている断熱パネル。
【請求項2】
前記圧力調整部は、変形自在な袋体によって構成されている請求項1に記載の断熱パネル。
【請求項3】
前記圧力調整部は、変形自在な膜体によって構成されている請求項1に記載の断熱パネル。
【請求項4】
断熱パネルを厚み方向に貫通する貫通部が設けられ、
前記袋体又は膜体には、前記貫通部を挿通させるように配置されるとともに周縁が封止された貫通孔が設けられている請求項2又は3に記載の断熱パネル。
【請求項5】
前記連通孔が多数設けられている請求項3に記載の断熱パネル。
【請求項6】
前記圧力調整部は、前記断熱材に接した状態で配設されている請求項1から5の何れか1項に記載の断熱パネル。
【請求項7】
前記断熱室には、貫通孔を有する仕切り板が配設されており、
前記断熱室は、前記断熱材が配設された第1室と、前記断熱材が配設されずに前記圧力調整部が配設された第2室とに仕切られている請求項1から5の何れか1項に記載の断熱パネル。
【請求項8】
前記バッファ室は上下方向に長い形状に形成されて、前記本体部の側壁内面に沿うように配設されている請求項1から7の何れか1項に記載の断熱パネル。
【請求項9】
前記連通孔は、前記圧力調整部の最下部に位置している請求項8に記載の断熱パネル。
【請求項10】
前記バッファ室に向けて送風可能なブロアを備え、このブロアの送風路によって前記連通孔が形成されている請求項1から9の何れか1項に記載の断熱パネル。
【請求項11】
試験室内の温度を変えることによって当該試験室内の試料に熱負荷を与え得る環境試験装置であって、
請求項1から10の何れか1項に記載の断熱パネルによって構成される壁体を備え、
前記断熱パネルのバッファ室が断熱室に対して前記壁体の外壁側に位置するように配置されている環境試験装置。
【請求項12】
前記試験室の内壁となる前記断熱パネルのパネル材の少なくとも一部には、吸湿材によって構成される水分脱着層が設けられている請求項11に記載の環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−257679(P2009−257679A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107844(P2008−107844)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】