説明

断熱容器及びその製造方法

【課題】内部空間における温度分布を均一にする設計が可能な断熱容器を提供する。
【解決手段】内部空間の外径をr1、比熱をc1、密度をρ1、体積をV1とし、断熱壁の外径をr2、比熱をc2、密度をρ2、体積をV2としたとき、下記の式(1)を満たすように各諸元を設定した。
【数1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部空間を断熱壁で外部と遮断する断熱容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱容器は、内部空間を外部と断熱壁で遮断する用途に使用され、例えば恒温槽(例えば特許文献1)や、火力炉・原子炉などの発電炉の炉壁(例えば特許文献2)、あるいは住宅の外壁(例えば特許文献3)として幅広い用途で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−185285号公報
【特許文献2】特開2000−338284号公報
【特許文献3】特開2003−96940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者は、特願2008−44552において、外壁に囲まれた内部空間における発熱量をP、内部空間から外部への放熱量をW1としたとき、K=W1/Pで表されるK値が小さければ内部空間の温度は発散傾向にあり、K値が大きければ内部空間の温度は収束傾向にあることを示した。
【0005】
さらに本発明者は、内部空間における最高温度(中心温度)と最低温度(端部温度)との温度差θBmaxと、上記K値との関係を検証するため、以下のような測定を行った。その結果を図1に示す。
【0006】
図1に示すグラフから、θBmaxが大きいほどK値は小さく(すなわち内部空間の温度が発散傾向にあり)、θBmaxが小さいほどK値は大きい(すなわち内部空間の温度が収束傾向にある)ことがわかる。このことから、密閉容器の内部空間の温度分布は、内部空間における温度差θBmaxを小さくし、なるべく均一にすることが好ましいと言える。
【0007】
しかし、断熱容器における断熱壁の設計は、上記特許文献1〜3のように、専ら断熱性の向上のみに着目して行われており、内部空間の温度分布を均一にするための具体的手法は提案されていない。このため、断熱壁の設計は実験結果に依存せざるを得ず、明確性に欠けている。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、内部空間における温度分布を均一にする設計が可能な断熱容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、図2に示すような多重層の球体モデルに基づいて、以下に示すような解析を行った。
【0010】
第n層(最外層を第1層としたときのn番目の層)における熱の出入を考えると、第n層における発生熱ΔPnと、第(n+1)層から第n層に流入する熱量Wn+1とが、第n層における温度上昇に用いられる熱と、第n層から第(n−1)層に流出する熱Wnとなる。すなわち、以下の式(1)が成り立つ。ここで、ΔCnは第n層における熱容量、Δθnは第n層における温度差、tは時間を示す。
【数1】

【0011】
また、第n層における熱抵抗をΔRnとすると、以下の式(2)及び式(3)が成り立つ。尚、式(3)中のΔRn’は、式(4)で表されるパラメータである。
【数2】

【数3】

【数4】

【0012】
一方、第n’層(中心層を第1層としたときのn’番目の層)の熱容量ΔCn'及び熱抵抗ΔRn'は、以下の式(5)及び式(6)で表される。尚、cは比熱、ρは密度、Ψは単位体積あたりの熱抵抗、ΔVn'は第n’層の体積を示す。
【数5】

【数6】

【0013】
以上の式(1)〜(6)より、下記の式(7)が成立し、第n’層の時定数τn'が表され、この時定数τn'は球体モデル全体の時定数に等しい。尚、rmaxは、多重層球体モデルの外径である。また、ΨCは定数であり、後述の式(15)で示される。
【数7】

【0014】
次に、第n’層からの流出熱量Wn'を表す式を求める。まず、第n’層における温度θは、次の式(8)で表される。尚、θmaxは球体モデル内の最高温度(中心温度)、mは球体モデルの分割総数である。
【数8】

【0015】
一方、実験値から、物体の温度が収束する時、温度θは次の式(9)で表されることが知られている。
【数9】

【0016】
以上の式(8)及び(9)の係数を比較することにより、次の式(10)及び式(11)が求められる。
【数10】

【数11】

【0017】
ここで、複数層分Δrの体積ΔVは、次の式(12)で表される。
【数12】

【0018】
この式(12)から、第n’層の体積ΔVn'は次の式(13)で表される。
【数13】

【0019】
従って、Wn'は次の式(14)で表される。
【数14】

ここで、Ψはrの関数であり、次の式(15)で表される。
【数15】

【0020】
上記の式(14)及び式(15)より、Wn'は次の式(16)で表される。
【数16】

【0021】
ここで、解析条件を簡略化して、図3に示すような2重層モデルを考える。この2重層モデルにおいて、2重層モデル全体の時定数τは、第1層(1)の時定数τ1、及び第1層(1)と第2層(2)とをまとめた系の時定数τ2のうち、大きい方の時定数に従う。従って、例えばτ1<τ2の場合、第1層(1)の時定数τ1は、ΨC1とm1が変化することで、第2層(2)までをまとめた系の時定数τ2に従う(τ=τ1=τ2)。このことから、上記の式(7)に基づいて、以下の式(17)が成立する。尚、ここでは、第1層(1)の外径をr1、比熱をc1、密度をρ1、体積をV1、熱抵抗Ψに関する定数をΨC1とし、第2層(2)の外径をr2、比熱をc2、密度をρ2、体積をV2、熱抵抗Ψに関する定数をΨC2とする。
【数17】

【0022】
さらに、各層で分割数n’に対して熱流Wが連続であることから、Wn'を表す式(16)に基づいて、以下の式(18)が成り立つ。
【数18】

【0023】
上記の式(17)及び式(18)から、θmax、r1、r2、c1ρ1、τ、ΨC2が既知の場合、m1及びΨC1は以下の式(19)及び式(20)で表される。尚、時定数がτ2に従うことからm2=1とみなすことができ(上述の特願2008−272208参照)、これによりm1が算出可能となる。
【数19】

【数20】

【0024】
第1層において、0≦r≦r1ではn’=0、r=0ではθ=θmax、r=r1ではn’=m1、且つ、θ=θmax(1−m1/m2)となる。この境界値と上記の式から、第1層における温度分布は以下の式(21)で表される。
【数21】

【0025】
また、第2層において、r1<r≦r2ではn’=m1、r=r2ではn’=m2、且つ、θ=0となる。この境界値と上記の式から、第2層における温度分布は以下の数(22)で表される。
【数22】

【0026】
上記の式(21)から、rの係数m1/m2が1より十分に小さければ、θ≒θmaxとなり、内部空間(第1層)における温度分布が均一に近づくことが分かる。m2/m1は、上記の式(17)及び式(18)からΨc1及びΨc2を消去することにより、以下の式(23)で表される。従って、内部空間(第1層)を断熱壁(第2層)で外部と遮断する断熱容器の場合、下記の式(24)を満たすように内部空間及び断熱壁の各諸元を設定すれば、内部空間の温度を均一に近づけることができる。
【数23】

【数24】

【0027】
また、上記の式(17)及び式(18)からm1及びm2を消去することにより、以下の式(25)が得られる。第1層から流出する熱流を少なくするためには、式(25)から得られるΨC1が固有のΨC1よりも大きくなればよいことから、下記の式(26)を満たせば良いことが分かる。すなわち、内部空間及び断熱壁の各諸元が、上記の式(24)を満たし、且つ、下記の式(26)を満たせば、内側空間における温度分布が均一で、且つ、冷めにくい断熱容器を得ることができる。
【数25】

【数26】

【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、内部空間の温度分布が均一な断熱容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】θmaxとK値との関係を示すグラフである。
【図2】多重層の球体モデルを概念的に示す図である。
【図3】2重層の球体モデルを概念的に示す図である。
【図4】断熱容器の断面図である。
【図5】比較例に係る2重層モデルの温度分布を示すグラフである。
【図6】実施例に係る2重層モデルの温度分布を示すグラフである。
【図7】比較例に係る2重層モデルの流出熱量を示すグラフである。
【図8】実施例に係る2重層モデルの流出熱量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0031】
本発明の一実施形態にかかる断熱容器1は、例えば図4に示すように、断熱壁20で囲まれた内部空間10を有し、恒温槽や発電炉(原子炉・火力炉等)、あるいは住宅の外壁等として使用される。図示例では、内部空間10が円柱状に形成され、その外周を円筒状の断熱壁20の側部21で囲み、内部空間10と外部とを断熱壁20で遮断している。尚、図示例では、内部空間10が円柱状であるが、これに限らず、角柱状や他の形状であってもよい。同様に、断熱壁20は円筒状に限らず、内部空間10と外部とを遮断する形状であればよい。尚、断熱壁20は、内部空間10を完全に密閉するものに限らず、内部空間10を外部と遮断して保温する役割を果たすものであればよい。また、断熱壁20は、図示例のように単層であっても良いし、複数層(図示省略)であっても良い。
【0032】
例えば、断熱容器が図3に示すような球体モデルである場合、すなわち、内部空間及び断熱壁の外径が共に一定である場合、内部空間及び断熱壁の諸元(内部空間の外径r1、比熱c1、比重ρ1、熱抵抗ΨC1、断熱壁の外径r2、比熱c2、比重ρ2、熱抵抗ΨC2)は、上記の式(24)及び式(26)を同時に満たすように設定される。一方、図4に示すように、断熱容器1の内部空間10及び断熱壁20の外径が一定でない場合は、内部空間10の外径r1を断熱容器1の中心(重心)からの距離とし、断熱壁20の外径r2を断熱容器1の中心からの距離として、上記の式(24)及び式(26)を満たすように設定される。例えば、r1<<r2、c1ρ1<<c2ρ2、且つ、Ψc1<<Ψc2となるように、内部空間10及び断熱壁20の諸元が設定される。これにより、内部空間10の温度分布が均一で、且つ、断熱性に優れた断熱容器1を得ることができる。
【実施例】
【0033】
本発明による効果を確認するために、上記の式(21)及び式(22)に基づいて、2重層モデルの温度分布をシミュレーションした。図5は、下記の表1の実施例に示す諸元からなる2重層モデル(比較例)の温度分布を示し、図6は、下記の表1の比較例に示す諸元からなる2重層モデル(実施例)の温度分布を示している。各表に示す諸元は、内側層となる第1層の材料は同じであり、外側層となる第2層の材料が異なっている。すなわち、実施例では、第2層のc2ρ2が第1層のc1ρ1よりも十分に大きく(100倍程度)設定されているのに対し、比較例では、第2層のc2ρ2が第1層のc1ρ1とほぼ同程度に設定されている。このため、実施例は、m2/m1が1より十分に大きく(100以上)、上記の式(24)を満たすことは明らかであるが、比較例は、m2/m1が2以下であり、1より十分に大きいとは言えず、上記の式(24)を満たしていない。
【表1】

【0034】
このシミュレーション結果から、上記の式(24)を満たす断熱容器によれば、内部空間(第1層)の温度を均一にできることが分かる(図5参照)。尚、m2/m1が1よりどの程度大きければ良いかは内部空間や外部温度等によって異なるが、例えばm2/m1を10より大きく、好ましくは100より大きくしておけば、おおよそ内部空間を均一にできる。このとき、各層の諸元を式(21)及び式(22)に代入して温度分布をグラフ化することにより、内部空間の温度分布が十分に均一化されているかどうかを確認することができる。
【0035】
また、表1に示すように、実施例はΨC2が大きく、且つ、式(26)を満たしているが、比較例はΨC2が小さく、且つ、式(26)を満たしていない。一方、比較例及び実施例の2重層モデルにおける流出熱量のシミュレーション結果を図7(実施例)及び図8(比較例)に示す。この図から、比較例の流出熱量はおよそ1200Wであるのに対し、実施例の流出熱量はおよそ120Wであることが分かる。従って、上記の式(26)を満たし、且つ、ΨC2が大きい実施例は断熱性が高く、式(26)を満たさず、且つ、ΨC2が小さい比較例は断熱性が低いと言える。
【符号の説明】
【0036】
1 断熱容器
10 内部空間
20 断熱壁
21 側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を断熱壁で外部と遮断する断熱容器であって、
内部空間の外径をr1、比熱をc1、密度をρ1、体積をV1とし、断熱壁の外径をr2、比熱をc2、密度をρ2、体積をV2としたとき、下記の式(1)を満たすように各諸元を設定した断熱容器。
【数1】

【請求項2】
内部空間の熱抵抗をΨC1、断熱壁の熱抵抗をΨC2としたとき、下記の式(2)を満たすように各諸元を設定した請求項1記載の断熱容器。
【数2】

【請求項3】
内部空間を断熱壁により外部と遮断する断熱容器を製造するための方法であって、
内部空間の外径をr1、比熱をc1、密度をρ1、体積をV1とし、断熱壁の外径をr2、比熱をc2、密度をρ2、体積をV2としたとき、下記の式(1)を満たすように各諸元を設定する断熱容器の製造方法。
【数1】

【請求項4】
内部空間の熱抵抗をΨC1、断熱壁の熱抵抗をΨC2としたとき、下記の式(2)を満たすように各諸元を設定する請求項1記載の断熱容器の製造方法。
【数2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−33182(P2011−33182A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189493(P2009−189493)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】