説明

断熱構造体及びこれに使用する締結具並びにその施工方法、断熱構造体の施工に使用するドリル

【課題】予め成形された断熱パネルで断熱層を施工するにおいて、作業性や断熱性を向上させる。
【手段】成形された断熱パネル7を縦横に整列して配置し、次いで、胴縁2を断熱パネル7の表面に取り付ける。次いで、胴縁2に設けた取り付け穴からドリルを断熱パネル7に進入させて、断熱パネル7とコンクリート壁Wとに下穴14,15を空ける。次いで、ロッド10のねじ11をコンクリート壁Wの下穴15にねじ込む。ロッド10の基端には座金13が固定されており、胴縁2は座金13で押さえ保持されている。墨入れ作業やアンカーナットの取り付けや断熱パネル7の予備加工は不要であるため、抜群の作業性を発揮する。ロッド10の下穴14にきっちり嵌まっているため断熱性にも優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば保冷倉庫のような断熱構造体、この断熱構造体に使用する締結具、この断熱構造体の施工方法、この断熱構造体に施工に使用するドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の壁や床、天井などに断熱層を設けて断熱構造とすることは広く行われている。断熱層の材料には一般に無数の独立気泡を有する発泡樹脂が使用されており、断熱層は、板状又はブロック状に成形された断熱パネルの多数個を縦横に整列配置して構成されている場合と、材料の樹脂を現場で発泡させて構成される場合とがある。
【0003】
前者の断熱パネルを使用する方式では、断熱パネルの群はその表面に重なった押さえ部材で躯体に押さえ保持されており、押さえ部材は締結具で躯体(例えばコンクリート壁)に固定されている。
【0004】
さて、高い断熱性が要求される構造体として保冷倉庫(冷蔵倉庫、冷凍倉庫)がある。この保冷倉庫の壁を断熱パネルの群で断熱構造と成す場合は、上下に適宜間隔で配置した横長でコ字形の胴縁を断熱パネルの群に重ねて、胴縁をコンクリート壁に締結具で固定し、更に、胴縁には、荷やパレットが当たる平面視凹凸形状の折板(キーストンプレート)からなる荷擦りをビスで固定している。荷擦りに平面視凹凸形状の折板を使用しているのは、荷と断熱パネルとの間に空気層を確保して荷の保冷機能を確保するためである。
【0005】
そして、押さえ部材を固定するための締結具としては、一般に、アンカーナット、両切りボルト、樹脂ロッド、頭付きボルトが使用されており、断熱層は次のような工法で施工されていた。
【0006】
すなわち、割り付け図に基づいてコンクリート壁に墨入れしてアンカーナットの位置を記入する、多数のアンカーナットを取り付ける、断熱パネルにも割り付け図に基づいて予め樹脂ロッドが嵌まる穴を空けておく、各アンカーナットに両切りボルトを介して樹脂ロッドを取り付ける、断熱パネルの群を並べてその穴に樹脂ロッドを開通させる、断熱パネルの群の表面に胴縁を重ねて、頭付きボルトを樹脂ロッドの端面にねじ込むことで胴縁を樹脂ロッドに固定する、という工法が採用されていた。樹脂製のロッドを使用するのは断熱性を確保するためである。
【0007】
他方、締結具としてビスを使用し、ビスで断熱パネルをビスで躯体に締結することは特に一般住宅において広く行われている(例えば特許文献1,2参照)。また、保冷倉庫においても、ビスや釘を使用して断熱パネルを押さえ保持することが提案されており、その一例として特許文献3には、隣り合った断熱パネルの端面に形成した溝に雇いざねを嵌め込み、この雇いざねをビスや釘でコンクリート壁に締結することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−23654号公報
【特許文献2】特許第3831715号公報
【特許文献3】特許第2665546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、断熱層を現場発泡で形成する方式は、発泡に使用したフロン等のガスが大気に放散されるため環境負荷が大きい点や、建物の解体や改修に際して断熱層を取り外す場合にその作業が非常に厄介であるという問題がある。他方、予め成形された断熱パネルを張り付ける方式は、仮に発泡にガスを使用してもその管理は工場で適切に行えるため環境負荷が小さく、また、解体や改修に際しての断熱パネルの取り外しも容易に行える利点がある。
【0010】
このように断熱パネルを張り付ける方式は現場発泡方式にはない優れた利点を有するが、アンカーナット等を使用した従来工法は、墨入れ作業が面倒である問題や、アンカーナットを正確な位置に取り付けるのが面倒である問題、予め断熱パネルに穴を空けるのに多大がかかる問題、多数枚の断熱パネルを正確に割り付けるのに多大の手間がかかる問題、ロッドの位置と断熱パネルの穴の位置との誤差を吸収するため穴の径をロッドよりも大きめに空けておくと断熱性が低下する問題など、作業の能率や正確性、断熱性の確保などの点で多くの問題があった。
【0011】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、断熱パネルを使用することの利点を享受しつつ、従来の問題を解消することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、断熱構造体とその施工方法、及び、断熱構造体に使用する締結具、施工方法に使用するドリルを含んでいる。請求項1の発明は断熱構造体に関するものであり、この発明は、躯体とその内面又は外面に張られた断熱層とを有しており、前記断熱層は、板状又はブロック状に成形された断熱パネルの群を縦横に整列して配置することで構成されており、前記断熱パネルの群は、押さえ部材と締結具とで前記躯体に押さえ保持されている、という基本構成になっている。
【0013】
そして、請求項1の発明では、前記締結具は、前記押さえ部材と断熱層とに貫通した樹脂製のロッドと、前記ロッドの先端から突出して前記躯体にねじ込まれたねじと、前記ロッドの基端に設けられていて前記押さえ部材の表面に重なったフランジ部とを有している。
【0014】
請求項2の発明は請求項1の発明を保冷倉庫に適用したものであり、この発明では、前記前記躯体はコンクリート壁を有しており、前記壁の内面に前記断熱層が張られている一方、前記押さえ部材は金属板製であって前記断熱層に重なる細長い帯板部を有しており、前記帯板部には前記断熱層に食い込む嵌入部が形成されており、更に、前記押さえ部材には、荷又はパレットの側面が当接し得る平面視凹凸形状の金属板製内装材を固定している。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1に記載した断熱構造体の施工方法である。この工法では、前記断熱パネルの群と、ロッドにねじとフランジ部とを設けた前記締結具と、前記断熱層に重なる帯状部と断熱層に食い込む嵌入部を有すると共に前記帯板部には前記ロッドが貫通する取り付け穴が空いている前記押さえ部材と、前記断熱層及び躯体に下穴を空けるためのドリルとを用意しておく。
【0016】
そして、前記断熱パネルを縦横に整列して躯体に配置する工程、前記押さえ部材の嵌入部を断熱層に食い込ませることにより、前記押さえ部材を前記断熱層の表面に仮保持する工程、前記押さえ部材の取り付け穴からドリルを前記断熱層に進入させて当該断熱層と躯体とに下穴を空ける工程、前記断熱層に空けられた下穴に前記締結具のロッドを挿入して、前記ねじを躯体に空けられた下穴にねじ込むことにより、前記押さえ部材を前記締結具のフランジ部で押さえる工程、が採られる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1の発明に使用する締結具であり、前記押さえ部材及び断熱層に貫通する樹脂製のロッドと、前記躯体にねじ込まれるように前記ロッドの先端から突出したセルフタッピングねじと、前記ロッドの基端に設けられていて前記押さえ部材の表面に重なるフランジ部とを有している。
【0018】
請求項5の発明は請求項3に記載した施工方法に使用する前記ドリルであり、この発明は、前記断熱層に下穴を空けるための大径の本体部と、前記躯体に下穴を空けるための小径の先端部とを有しており、前記先端部は前記本体部に空けた穴に嵌まっており、かつ、前記本体部の先端面には放射方向に延びる切り歯が形成されていると共に、前記本体部の外周面には切り粉を逃がすための溝が形成されている。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の断熱構造体及び施工方法では、樹脂製ロッドの先端にねじを設けて基端にはフランジ部を設けているため、断熱パネルの群を躯体に張り付けてから断熱パネル及び躯体に下穴を空けて、ロッドの先端のねじを躯体の下穴にねじ込むことにより、押さえ部材を断熱パネルの群に締結することができる。
【0020】
そして、本願発明は、墨入れ作業が不要になる、アンカーナットを取り付ける手間や断熱パネルに予め穴を空けておく手間を省くことができる、断熱パネルは正確に割り付ける必要はなくて単純に張っていくだけで良い、例えば断熱パネルの穴がロッドに嵌まらずに穴を加工し直すといった手間は皆無である、押さえ部材の位置は任意に設定できる、といった多くの利点があり、その結果、作業能率を格段に向上できる。
【0021】
しかも、断熱パネルは躯体に張られた状態で下穴を空けるものであるため、下穴とロッドとの位置ずれという問題は皆無であり、このため、下穴はロッドがきっちり嵌まる状態に空けることができる。従って、断熱パネルの下穴とロッドとの間に隙間ができて断熱性が低下するという問題は生じず、高い断熱性能を確保できる。
【0022】
本願発明は様々の断熱構造体に適用できるが、高い断熱性能を発揮するため、請求項2のように保冷倉庫に適用すると真価が強く発揮されると言える。断熱パネルと躯体とに下穴を空ける方法としては、小径のドリルでまず断熱パネルと躯体とに下穴を空けて、それから大径のドリルで断熱パネルに穴を空けるという方法も採用できるが、請求項5のように本体部と小径の先端部とを有するドリルを使用すると、1回の作業で断熱パネルと躯体との両方に下穴を空けることができるため作業能率が良い。
【0023】
そして、建物(構造体)の躯体はコンクリートや鋼材から成っていて硬いため、これに穴を空けるドリルは折れたり磨耗したりしやすいという問題があるが、請求項5のように先端部(躯体用ドリル)を本体に対して着脱式に構成すると、先端部が磨耗等したら交換できるため経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)は本実施形態に係る断熱壁の断面斜視図、(B)は断熱壁の正面図である。
【図2】(A)は図1(B)の IIA-IIA視断面図、(A)は図1(B)の IIB-IIB視断面図である。
【図3】本実施形態に係る締結具の一部破断分離図、(B)は胴縁の斜視図、(C)は別例に係る胴縁の平面図である。
【図4】(A)は施工の第1段階を示す断面図、(B)は(A)のB−B視正面図、(C)は施工の第2段階を示す断面図である。
【図5】(D)は施工の第3段階を示す断面図、(E)はドリルの一部破断分離図、((F)ドリルにおける本体部の部分図、(G)は(F)のG−G視図、(H)は下穴を空けきった状態の断面図である。
【図6】施工の第4段階を示す図である。
【図7】他の実施形態に係る締結具を示す図である。
【図8】他の実施形態に係る断熱構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図6では保冷倉庫に適用した実施形態を示しており、この実施形態では断熱壁に適用している。
【0026】
(1).構造
まず、断熱壁の構造を説明する。この断熱壁は、図1から理解できるように、躯体を構成するコンクリート壁Wと、コンクリート壁Wの内面に張った断熱層1と、断熱層1の表面に重ね配置した横長の胴縁2と、胴縁2をコンクリート壁Wに取り付けるための締結具3とを有している。胴縁2は請求項に記載した押さえ部材の一例であり、この胴縁2に折板製の荷擦り(内装材)4がドリルねじ等のねじ5で固定されている。
【0027】
コンクリート壁Wの内面には防水シート6が接着等によって固定されている。断熱層1は、正面視四角形で板状に形成された多数の断熱パネル7から成っており、本実施形態では、断熱パネル7の群より成る層が3層重なっている。もとより、断熱パネル7の層数は必要な断熱性能に応じて任意に設定できるのであり、従って、1層又は2層でもよいし4層以上とすることも可能である。また、断熱パネル7の厚さも任意に設定できる。断熱パネル7はウレタン系やスチレン系などの合成樹脂発泡板から成っている。
【0028】
胴縁2は各段の断熱パネル7に対応して水平状に配置されている。横長の胴縁2に加えて(又はこれに代えて)縦長フレームを使用することも可能である。図3(B)に示すように、胴縁2は、断熱層1の表面に重なる帯板部2aとその長手縁に折り曲げ形成した嵌入部2bとでコの字状(チャンネル状)の形態を成しており、嵌入部2bには多数の食い込み歯8が連続的に形成されている。このため、嵌入部2bを断熱パネル7に打ち込むことができる。
【0029】
この場合、食い込み歯8は、一つの辺は胴縁2の長手線と直交して他の一辺は胴縁2の長手線に対して傾斜している。すなわち、各食い込み歯8は直角三角形になっており、くい込み歯8の群は全体として鋸歯状の形態になっている。このように鋸歯形態にすると食い込みが良好であった。
【0030】
食い込み歯8は(C)に示すように二等辺三角形状に形成することも可能である。(C)では食い込み歯8の開き角度θを鋭角に設定しているが、θは直角でもよいし鈍角でもよい。胴縁2は単なる平板状や断面L字形とすることも可能であるが、本実施形態のようにコ字形にすると断面係数が高くなるため強度において優れている。また、食い込み歯8を形成して断熱パネル7に対して打ち込み可能とすると、断熱パネル7に溝を形成しておく必要がないため断熱パネル7の加工コストを抑制できる利点がある。
【0031】
胴縁2の帯板部2aには取り付け穴9が飛び飛びに空いている。取り付け穴9は円形でもよいし、図3(B)に一点鎖線で示すように長穴とすることも可能である。取り付け穴9は各断熱パネル7に対応して空けているが、複数の断熱パネル7に対応して1つの取り付け穴9を空けたり、3つの断熱パネル7に対応して2つの取り付け穴9を空けるといったことも可能である。
【0032】
締結具3は、断熱パネル7の群に貫通する円形のロッド10と、ロッド10のうちコンクリート壁Wに向いた先端に取り付けたねじ(ビス)11と、ロッド10のうちコンクリート壁Wと反対側に向いた基端面に六角ボルト12で固定された金属板製の座金13とで構成されている(図1(B)では座金は省略している。)。ロッド10はポリアセタールのような樹脂からなっており、その先端面と基端面とに雌ねじ穴14,15が形成されている。両端の雌ねじ穴14,15は同じ内径で同じ深さに設定されている。このためロッド10には方向性がない。
【0033】
ねじ11は、コンクリート壁Wにねじ込まれるタッピングねじ部11aと、ロッド10の先端側の雌ねじ穴14にねじ込まれるメートルねじ部11bとを有しており、両者の間にはリング状の突起(フランジ)11cが形成されている。なお、突条11cは無くてもよい。また、突条11cをロッド10の内部に隠すことも可能である。
【0034】
詳細は省略するが、タッピングねじ部11aはいわゆるコンクリートねじの構造になっている。すなわち、リード角が大きい2条のねじ山からなっており、かつ、2条のねじ山は高さと山形状とが相違している。本実施形態では、タッピングねじ部11aとメートルねじ部11bとは同じ呼び径(例えば6mm)に設定しているが、呼び径を異ならせてよいことは勿論である。
【0035】
座金13は請求項に記載したフランジ部を構成するものであり、ロッド10に向いて突出した椀状(断面大径状)の膨出部10aを有しており、膨出部10aの底板がボルト12でロッド10に締結されている。膨出部10aの最大外径はロッド10の外径よりも若干大径になっている。座金13の外径寸法は胴縁2の幅寸法よりも大きい寸法に設定しているが、胴縁2の幅寸法と同じ寸法又は小さい寸法であってもよいことはいうまでもない。
【0036】
胴縁2の取り付け穴9は、座金13の膨出部10aが嵌入する内径に設定されている。従って、図2(A)に示すように、座金13の膨出部13aは断熱パネル7に食い込んだ状態になっている。座金13は膨出部13aのリブ効果によって高い強度を発揮しており、その結果、胴縁2の押さえ強度も高い。
【0037】
なお、ロッド10の製造方法としては、丸棒を切断してからドリル加工とタップ加工とによって雌ねじ穴14,15を空ける方法も、射出成形法によって雌ねじ穴14,15を有する状態に成形する方法もいずれも採用可能である。ロッド10を射出成形法で製造する場合は、ねじ11やボルト12をインサート成形法で取り付ける(一体成形する)ことも可能である。
【0038】
(2).施工方法
次に、図4〜図6を参照して断熱壁の施工方法を説明する。本実施形態では、まず、予備段階として、コンクリート壁Wの内面に防水シート6を接着剤で接着し、次いで、図4(A)に示すように、第1段階として、断熱パネル7の群を張り付けていく。この場合、奥層の断熱パネル7は防水シート6に接着剤で接着し、中間層の断熱パネル7は奥層の断熱パネル7に接着剤で接着し、表層の断熱パネル7は中間層の断熱パネル7に接着剤で接着している。接着剤は断熱パネル7の表面全体に塗布してもよいし、散点状のように部分的に塗布することも可能である。
【0039】
また、図4(B)に示すように、表裏方向に重なった断熱パネル7は、先行した断熱パネル7の接合面が後続した断熱パネル7の広幅面で覆われるように千鳥配列にするのが好ましい。これによって空気の漏れを防止して断熱性能を一層向上できる。
【0040】
断熱パネル7を張り終わったら、第2段階として、図4(C)に示すように、表層の断熱パネル7に胴縁2を打ち込みで取り付ける。胴縁2は各段の断熱パネル7に対応して配置するのが一般的であるが、必ずしもこれに拘泥する必要はなく、上下間隔は必要な押さえ強度を考慮して任意に設定できる。
【0041】
次いで、第3段階として、図5(D)に示すように、ドリル17(及び回転工具)を使用して断熱パネル7とコンクリート壁Wとに下穴18,19を空ける。ドリル17は胴縁2の取り付け穴9の箇所から断熱パネル7に進入させる。
【0042】
このドリル17は、断熱パネル7に下穴18を空けるための本体部20と、コンクリート壁Wに下穴19を空けるための先端部21とからなっており、先端部21は本体部20よりも小径になっている。先端部21は一般的なコンクリート用ドリルであり、基端にはテーパ状のボス部21aを設けている。本体部20の基端には工具に取り付くボス部20aを一体に設けている。
【0043】
他方、本体部20の前端面には先端部21のボス部21aが嵌まるテーパ状のボス穴22を空けている。また、本体部20の外周には切り粉を排出するための2条の逃がし溝23が形成されている。逃がし溝23は大部分が螺旋状になっているが、前部23aは本体部20と同じ方向に直線状に延びている。このように逃がし溝23の前部23aを直線状に形成しているのは、ボス穴22の加工を阻害しないようにするためである。本体部21の前端には放射方向に延びる2本の切り刃24を設けている。この切り刃24の存在により、断熱パネル7を軽快に切削できる。
【0044】
コンクリートは硬いので、ドリル17の先端部21は振動式工具で使用できる振動ドリルを使用するのが好ましい。ドリル17の本体部20がコンクリート壁Wに当たると押し込み抵抗が大きくなってそれ以上の進入はできなくなるので、ドリル17を抜き外す。それから、例えば圧縮空気を細長いノズルで下穴18,19に噴出させて、切り粉を除去する(掃除機等で真空吸引することも可能である。)。
【0045】
次いで、第4段階として、図6に示すように、締結具3のロッド10を断熱パネル7に下穴18に挿入し、動力ドライバを使用して締結具3のねじ5をコンクリート壁Wの下穴19にねじ込む。これによって図2の状態になる。なお、コンクリート壁Wの下穴19には、必要に応じて接着剤25を注入しておくことが可能である。なお、ALC壁の場合は下穴は必ずしも空ける必要がない。
【0046】
(3).まとめ
以上のように、本願発明では、断熱パネル7は割り付けを気にすることなく単純に張っていけばよく、しかも、アンカーナットの取り付けのような手間は不要となる。また、張った後の断熱パネル7に対して胴縁2を重ね保持してから、下穴18,19の穿孔と締結具3のねじ込みという簡単な手順を踏めば足りるため、断熱壁の施工の手間を従来に比べて格段に軽減できる。
【0047】
また、ロッド10は現場で空けた下穴18に嵌め込むものであるため、ロッド10と下穴18との位置ずれといった問題は皆無であり、このため、ロッド10は断熱パネル7の下穴18にきっちりと嵌入する。このため高い断熱性を確保できる。また、締結具3はロッド10とねじ11とボルト12と座金13とが一体に組み込まれているため、取り扱いに便利でありしかも施工も楽である。更に、ドリル17の先端部21を本体部20に着脱式とすると、先端部21の交換も簡単に行える。
【0048】
更に、本実施形態の座金13は膨出部13aを有していてこのため強度に優れでいるが、本実施形態ではボルト12の頭は膨出部13aに隠れているため、荷擦り4を取り付けるに際して、ボルト12の頭が邪魔にならない利点がある。また、締結具3はボルト12の頭に回転工具のレンチを嵌め込こむことで回転操作されるものであり、ボルト12が座金13の締結と締結具3の回転操作との2つの機能を有しているため、それだ構造を簡素化することができる。
【0049】
また、本実施形態では、ロッド10の雌ねじ14,15を同径で同じ深さに設定されているため、ねじ11におけるメートルねじ部11bの呼び径及び長さとボルト12の呼び径及び長さとを同じに設定されており、このためロッド10の方向性がなくて締結具3の組み立ての手間を軽減できる。この点も本実施形態の利点の一つである。
【0050】
胴縁2には多数の取り付け穴9を空けているが、全ての取り付け穴9の箇所で締結具3を使用する必要はないのであり、必要な強度に応じて締結具3の本数を選択したらよい。逆に述べると、多数の取り付け穴9を空けておいて、使用する取り付け穴9を選択できるのであり、これにより、取り付け穴9の数が異なる胴縁2を多種類用意しておかなくても、1種類の胴縁2で対応できる。
【0051】
(4).他の実施形態・その他
図7では締結具3の他の実施形態を示している。このうち(A)では、ねじ11は素材径のねじ無し部11dを有しており、突条は備えていない。このためロッド10の前端面をコンクリート壁Wに密着させることができる。また、(A)ではフランジ部27をロッド10に一体成形している。そして、回転操作のため、ボルト12をロッド10に取り付けている。ねじ11とボルト12はロッド10にイッサート成形で取り付けることも可能である。
【0052】
図7(B)に示す例では、ロッド10の基端にフランジ部27を一体成形した場合において、ロッド10の基端面に六角穴28を形成している。敢えて述べるまでもないが、六角穴28には六角レンチが挿入される。このような構成すると、構造がより簡単になる。
【0053】
図8に示す例は、例えばプレハブ住宅のような建物の外断熱に適用している。この例では、躯体はチャンネル材よりなる支柱29になっており、この支柱29の外面に断熱パネル7の群が縦フレーム30と締結具3とで固定されている。断熱パネル7よりなる断熱層1の外に壁材31が配置されている。支柱20の外面には防水シート6を張っているが、コンパネ材や鋼板を張ることも可能である。
【0054】
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば断熱パネルの素材は必要に応じて選定できるのであり、例えばグラスウールのような無機質のものも採用できる。複数の素材が積層されたものを使用することも可能である。
【0055】
また、押さえ部材の形態も任意に設定できるのであり、例えば断熱層の全体を覆う板材を使用することも可能である。保冷倉庫に適用する場合、折板を押さえ部材と成して、折板を締結具で断熱層に固定することも可能である。締結具のフランジ部は円形である必要はないのであり、例えば四角形や楕円形とすることも可能である。断熱パネルは正六角形に形成することも可能であり、また、大きさが相違するものを組み合わせて使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明は保冷倉庫のような断熱構造体に適用して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0057】
W 躯体の一例であるコンクリート壁
1 断熱層
2 押さえ部材の一例としての胴縁
3 締結具
4 内装材の一例としての荷擦り(折板)
7 断熱パネル
10 ロッド
11 ねじ
12 ボルト
13 座金
17 ドリル
18,19 下穴
20 ドリルの本体部
21 ドリルの先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体とその内面又は外面に張られた断熱層とを有しており、前記断熱層は、板状又はブロック状に成形された断熱パネルの群を縦横に整列して配置することで構成されており、前記断熱パネルの群は、押さえ部材と締結具とで前記躯体に押さえ保持されている、という構成であって、
前記締結具は、前記押さえ部材と断熱層とに貫通した樹脂製のロッドと、前記ロッドの先端から突出して前記躯体にねじ込まれたねじと、前記ロッドの基端に設けられていて前記押さえ部材の表面に重なったフランジ部とを有している、
断熱構造体。
【請求項2】
前記躯体はコンクリート壁を有しており、前記壁の内面に前記断熱層が張られている一方、
前記押さえ部材は金属板製であって前記断熱層に重なる細長い帯板部を有しており、前記帯板部には前記断熱層に食い込む嵌入部が形成されており、更に、前記押さえ部材には、荷又はパレットの側面が当接し得る平面視凹凸形状の金属板製内装材を固定している、
請求項1に記載した断熱構造体としての保冷倉庫
【請求項3】
請求項1に記載した断熱構造体の施工方法であって、
前記断熱パネルの群と、ロッドにねじとフランジ部とを設けた前記締結具と、前記断熱層に重なる帯状部と断熱層に食い込む嵌入部を有すると共に前記帯板部には前記ロッドが貫通する取り付け穴が空いている前記押さえ部材と、前記断熱層及び躯体に下穴を空けるためのドリルとを用意しておき、
前記断熱パネルを縦横に整列して躯体に配置する工程、
前記押さえ部材の嵌入部を断熱層に食い込ませることにより、前記押さえ部材を前記断熱層の表面に仮保持する工程、
前記押さえ部材の取り付け穴からドリルを前記断熱層に進入させて当該断熱層と躯体とに下穴を空ける工程、
前記断熱層に空けられた下穴に前記締結具のロッドを挿入して、前記ねじを躯体に空けられた下穴にねじ込むことにより、前記押さえ部材を前記締結具のフランジ部で押さえる工程、
を有している、断熱構造体の施工方法。
【請求項4】
請求項1の断熱構造体に使用する締結具であり、
前記押さえ部材及び断熱層に貫通する樹脂製のロッドと、前記躯体にねじ込まれるように前記ロッドの先端から突出したセルフタッピングねじと、前記ロッドの基端に設けられていて前記押さえ部材の表面に重なるフランジ部とを有している、
断熱構造体に使用する締結具。
【請求項5】
請求項3に記載した施工方法に使用する前記ドリルであって、
前記断熱層に下穴を空けるための大径の本体部と、前記躯体に下穴を空けるための小径の先端部とを有しており、前記先端部は前記本体部に空けた穴に嵌まっており、かつ、前記本体部の先端面には放射方向に延びる切り歯が形成されていると共に、前記本体部の外周面には切り粉を逃がすための溝が形成されている、
断熱構造体の施工に使用するドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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