説明

断熱浴槽の製造方法

【課題】多種の浴槽に対して、極めて安価な設備投資で対応可能な断熱浴槽の製造方法を提供する。
【解決手段】断熱浴槽の製造方法は、溜水可能な槽体部と、前記槽体部の上端縁から外方側に延出したリム部とを有する浴槽を裏面側が上方に向くように設置し、前記リム部裏面の前記槽体部よりも外方側に枠状、且つ上方が解放されるように型枠30を立設し、前記浴槽の裏面と前記型枠との間の空間内に未発泡状態の断熱性材料を所定量入れ、前記断熱性材料が自己発泡することにより前記槽体の裏面全体に断熱層41が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱浴槽の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浴槽の保温性を向上させるために、浴槽の裏側に断熱層を形成したものが知られている。特許文献1には、浴槽の裏面形状に合わせて成形した保温材を浴槽の裏面側に後貼りする工法が開示されている。一方、特許文献2には、浴槽本体の成形金型で浴槽本体を成形した後に、浴槽成形金型のキャビティーの密閉状態を保ちつつ型開きして空間を形成し、当該空間内に発泡性樹脂を注入して発泡させる製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−196458号公報
【特許文献2】特開2010−42518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、浴槽は多種のサイズ、形状が存在する。そのため、特許文献1のように各々の浴槽に対して、保温材の成形金型を用意することは、設備投資が大きくなり、特に多品種少量生産の浴槽の場合には、採用が困難であった。また、浴槽裏面には補強用のリブなどが形成され複雑な形状となっているため、浴槽裏面形状に合わせて保温材を成形することは、設計が複雑になるという課題もあった。一方、特許文献2のように、浴槽成形金型内で、浴槽成形に続いて発泡層を形成する方法では、多種の浴槽成形金型を改良する必要があるため、これもまた設備投資が大きくなるという課題があった。
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、多種の浴槽に対して、極めて安価な設備投資で対応可能な断熱浴槽の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係る断熱浴槽の製造方法は、溜水可能な槽体部と、前記槽体部の上端縁から外方側に延出したリム部とを有する浴槽を裏面側が上方に向くように設置し、前記リム部裏面の前記槽体部よりも外方側に枠状、且つ上方が解放されるように型枠を立設し、前記浴槽の裏面と前記型枠との間の空間内に未発泡状態の断熱性材料を所定量入れ、前記断熱性材料が自己発泡することにより前記槽体の裏面全体に断熱層が形成されることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、断熱層を形成するために高価な成形金型を用意する必要がないため、極めて安価に断熱浴槽を製造できるという効果を奏する。特に、型枠を槽体部の裏面よりも外方側に枠状に配置したため、槽体部の形状に影響を受けることなく、槽体部の裏面全体に断熱層を形成することができる。また、周状に立設される型枠は上方が大気開放されているため、断熱性材料が自己発泡する際に、浴槽および型枠に対して大きな圧力がかからないようになっている。このため、浴槽の槽体部内に補強型を用意しなくとも、浴槽が破損したりすることもない。また、型枠に求められる強度も小さくなるため、型枠代も比較的安価で済ませることも可能となる。尚、型枠の上方が大気解放しているというのは、枠の上部全体が全開放されているものだけではなく、自己発泡時の圧力を逃がす貫通孔が形成された上枠を用いても良い。
【0008】
更に本発明では、前記槽体部に対してメンテナンス必要部品または現場取付け部品が接続される部分には、前記未発泡状態の断熱性材料を注入する前に、内部に断熱性材料が流入しないようにする中空状のマスキング部材を取付けることが好ましい。
【0009】
この好ましい態様によれば、メンテナンス必要部品や現場取付け部品を接続する部分には、断熱層が形成されていないため、後加工で切削する断熱層を極めて少なくできる。尚、ここで言うメンテナンス必要部品や現場取付け部品とは、例えば、ジェットバスや水中照明などの電気機器や、浴槽排水口に取付けられる排水栓部材などが挙げられる。
【0010】
更に本発明では、前記型枠は、前記断熱層が形成された後に取り外し可能に取付けられていることが好ましい。
【0011】
この好ましい態様によれば、使用した型枠を取り外して再度利用することができるため、更に設備投資を抑制することができる。
【0012】
更に本発明では、前記型枠は、枠方向に複数分割されており、複数の分割された型枠を連結することで周状に形成されることが好ましい。
【0013】
この好ましい態様によれば、分割形成された型枠を組み合わせて連結することで多種サイズの浴槽に対して型枠を共用できる。例えば、四方の各辺を分割形成しておくことで、長辺、短辺いずれかのサイズが異なる浴槽であっても、同じサイズの辺の型枠は共有できる。また、型枠取り外し時に型枠連結部を分離することで、その取り外しが容易になる。
【0014】
さらに本発明では、前記型枠を取り外した後、前記リム部の外周端付近に形成された前記断熱層を切削することで浴槽把持部を形成することが好ましい。
【0015】
この好ましい態様によれば、リム部の外周端部分に断熱層がないため、浴槽施工者は浴槽把持部を手で掴んで浴槽の持ち運びがしやすくなる。
【0016】
さらに本発明では、前記型枠の下端部は、前記リム部の外周端よりも内方側に配置されており、前記リム部の外周端と前記型枠の下端部との間には、前記断熱層の存在しない浴槽把持部が形成されていることが好ましい。
【0017】
この好ましい態様によれば、リム部の外周端部分に断熱層がないため、浴槽施工者は浴槽把持部を手で掴んで浴槽の持ち運びがしやすくなる。特に、断熱層を後から切削する必要もないため、極めて容易に浴槽把持部を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多種の浴槽に対して、極めて安価な設備投資で対応できる断熱浴槽の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1工程に係る浴槽の外観斜視図である。
【図2】本発明の第1工程に係る浴槽の断面図である。
【図3】本発明の第1工程において、型枠を取付けた状態を示す浴槽の断面図である。
【図4】本発明の第2工程において断熱性材料を注入した状態を示す浴槽の断面図である。
【図5】本発明の第2工程において断熱層が形成された状態を示す浴槽の断面図である。
【図6】本発明の第3工程において型枠を取り外した後の状態を示す浴槽の断面図である。
【図7】本発明の第4工程において、浴槽部品を取り付けた状態を示す浴槽の断面図である。
【図8】本発明の第3工程における別実施形態を示す浴槽の外観斜視図である。
【図9】本発明の第2工程において断熱性材料を注入した状態を示す浴槽の断面図の第2実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながらの本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に関しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る浴槽の外観斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る浴槽の断面図である。
図1および図2に示すように、本実施形態における浴槽10には、浴槽水を溜水可能な槽体部11と、槽体部11の上端縁から水平方向外方側に延出したリム部12と、リム部12先端から下方に垂下形成された垂下部13とが形成されている。槽体部11の底面には、排水口14が形成されており、その裏面側には浴槽10の荷重を支持するための支持脚15が取り付けられている。
【0022】
まず、上記のように構成された浴槽10を裏面側が上方に向くように設置する。次いで、リム部12の上に型枠30を4辺隙間がないように立設する。型枠30は槽体部11の外面を取り囲むように枠状に構成されている。立設した状態において型枠30の上端は、少なくとも浴槽10の底面よりも高い位置であって、且つ支持脚15の先端よりも低い位置に配置されている。一方、型枠30の下端は、リム部12の裏面に対してパッキン等を介して水密的に取り付けられている。また、型枠30の下端は、垂下部13よりも間隔を空けて内側に配置されており、且つ型枠30の全体が槽体部11よりも外方側に配置されている。
【0023】
次いで、図3に示すように、浴槽10の槽体部11のジェットバスが取り付けられる部分には、中空状のマスキング部材20が取付けられる。その他、図示しないが、水中照明器具が取り付けられる場合にも同様の中空状マスキング部材20を取り付ける。これら中空状マスキング部材20の一側面には、槽体部11の外面と水密的に当接している。また、その一側面にのみメンテナンス必要部品または現場取付け部品を取り付けるための開口が形成されている。
また、排水口14には、上下に開口が形成された筒状の中空状のマスキング部材21が取り付けられる。このマスキング部材21の下端は、槽体部11の外面と水密的に当接している。一方、マスキング部材21の上端は、型枠の上端よりも上方に配置されている。
【0024】
図4は中空状マスキング部材20、21を取付け後、未発泡の断熱性材料40を型枠30内に注入した浴槽10断面を示す。このように本実施例では、浴槽10の裏面と型枠30の内側面との間に形成される空間の上部が大気開口した状態で未発泡の断熱性材料40を注入している。こうして注入された未発泡の断熱性材料40は支持脚上端付近まで自己発泡する。
【0025】
図5は発泡後の浴槽10の断面を示す。このように中空状のマスキング部材20、21を取り付けた部分には発泡体は侵入しない。
【0026】
図6は型枠30を外した浴槽10断面を示す。このように自己発泡が終了した後に型枠30を取り外す。取り外した型枠30は洗浄した後、繰り返し使用することができる。
また、ジェットバスを動作させるための電気ケーブル51を外部に通すために、断熱層41およびマスキング部材20に穴あけ工具で通し穴加工をする。水中照明器具が取り付けられる場合も同様に、断熱層41およびマスキング部材20に穴あけ工具で通し穴加工をすることになる。
【0027】
図7は槽体部にジェットバス用ポンプ、排水金具を取付けた断面を示す。このように断熱層41および中マスキング部材の通し穴から電気ケーブル51を通し、外部電源に接続する。水中照明器具が取り付けられる場合も同様に、断熱層41およびマスキング部材の通し穴から電気ケーブルを通し、外部電源に接続する。また、図示しないが、排水口には、排水栓部材を取り付ける。
【0028】
図8は型枠30の構造を示した斜視図である。四方の各辺が分割形成されており、図示しない型枠連結部を分離することで、各辺の型枠30を独立して取り外すことができる。尚、型枠30を断熱層から分離するために、型枠30には離型処理が施されている。
【0029】
以上のように構成された断熱浴槽の製造方法によれば、以下の効果がある。
【0030】
本実施例によれば、断熱層41を形成するために高価な成形金型を用意する必要がないため、極めて安価に断熱浴槽を製造できるという効果を奏する。特に、型枠30を槽体部11の裏面よりも外方側に枠状に配置したため、槽体部11の形状に影響を受けることなく、槽体部11の裏面全体に断熱層41を形成することができる。また、枠状に立設される型枠30は上方が大気開放されているため、断熱性材料40が自己発泡する際に、浴槽10および型枠30に対して大きな圧力がかからないようになっている。このため、浴槽10の槽体部11内に補強型を用意しなくとも、浴槽10が破損したりすることもない。また、型枠30に求められる強度も小さくなるため、型枠代も比較的安価で済ませることも可能となる。
【0031】
また、本実施例によれば、未発泡状態の断熱性材料40を注入する前に、内部に断熱性材料が流入しないようにする中空状のマスキング部材20を槽体部11に取付けるようにしたため、メンテナンス必要部品や現場取付け部品を接続するために切削する断熱層41を極めて少なくできる。
【0032】
また、本実施例によれば、使用した型枠30を取り外して再度利用することができるため、更に設備投資を抑制することができる。
【0033】
また、本実施例によれば、分割形成された型枠30を組み合わせて連結しているため、多種サイズの浴槽10に対して型枠30を共用できる。例えば、四方の各辺を分割形成しておくことで、長辺、短辺いずれかのサイズが異なる浴槽10であっても、同じサイズの辺の型枠30は共有できる。また、型枠30取り外し時に型枠連結部を分離することで、その取り外しが容易になる。
【0034】
また、本実施例によれば、型枠30の下端部が、リム部12の外周端よりも内方側に配置されるようにしたため、リム部12の外周端(垂下部13)と型枠30の下端部との間に、断熱層41の存在しない浴槽把持部50を形成でき、浴槽10の持ち運びがしやすくなる。
【0035】
また、リム部12の外周端と型枠30の下端部との間に、断熱層41の存在しない浴槽把持部50を形成することで、型枠30を取り外しする際に垂下部13と干渉しないため、取り外し性を向上させることもできる。
【0036】
尚、上記実施例では、型枠30の下端部をリム部12の外周端よりも内方側に配置することで浴槽把持部50を形成したが、型枠30を取り外した後、リム部12の外周端付近に形成された断熱層41を切削することで浴槽把持部50を形成するようにしても良い。
【0037】
尚、図9に示すように、未発泡状態の断熱材料を注入した後、型枠30の上部に上枠32を設置するようにしても良い。この上枠32には、貫通孔33が複数個所形成されており、貫通孔33から自己発泡時の圧力を逃がすことができる。このようにすることで、発泡後に上部からあふれ出た断熱性材料を切削する手間を軽減でき、尚且つ上面にスキン層ができる事で美観性が向上し、液体が容易に侵入できない断熱層を形成する事ができる。この上枠32を設置するタイミングは、断熱材料を注入する前ではなく、断熱材料を注入し、自己発泡初期に発生する大きな圧力を抜いた後の自己発泡が完結する前に上枠32を設置することが好ましい。
【0038】
また、上記上枠32に設けられた貫通孔33に浴槽の支持脚15が配置されるようにしてもよい。この場合、貫通孔33を予め支持脚15よりも大径に形成しておき、貫通孔33と支持脚15との間の隙間から圧力を逃がすようにしても良い。
【0039】
また、浴槽の機種によって、支持脚15の位置は多少変化することがあるが、多種の浴槽の支持脚位置に対応可能なように、貫通孔33のサイズを設計しても良い。
【符号の説明】
【0040】
10…浴槽、11…槽体部、12…リム部、13…垂下部、14…排水口、15…支持脚、20、21…マスキング部材、30…型枠、32…上枠、33…貫通孔、40…断熱性材料、41…断熱槽、50…浴槽把持部、51…電気ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溜水可能な槽体部と、前記槽体部の上端縁から外方側に延出したリム部とを有する浴槽を裏面側が上方に向くように設置し、
前記リム部裏面の前記槽体部よりも外方側に枠状、且つ上方が解放されるように型枠を立設し、
前記浴槽の裏面と前記型枠との間の空間内に未発泡状態の断熱性材料を所定量入れ、
前記断熱性材料が自己発泡することにより前記槽体の裏面全体に断熱層が形成されることを特徴とする断熱浴槽の製造方法。
【請求項2】
前記槽体部に対してメンテナンス必要部品または現場取付け部品が接続される部分には、前記未発泡状態の断熱性材料を注入する前に、内部に断熱性材料が流入しないようにする中空状のマスキング部材を取付けることを特徴とする請求項1記載の断熱浴槽の製造方法。
【請求項3】
前記型枠は、前記断熱層が形成された後に取り外し可能に取付けられていることを特徴とする請求項1記載の断熱浴槽の製造方法。
【請求項4】
前記型枠は、周方向に複数分割されており、
複数の分割された型枠を連結することで周状に形成されることを特徴とする請求項3記載の断熱浴槽の製造方法。
【請求項5】
前記型枠を取り外した後、前記リム部の外周端付近に形成された前記断熱層を切削することで浴槽把持部を形成することを特徴とする請求項3または4記載の断熱浴槽の製造方法。
【請求項6】
前記型枠の下端部は、前記リム部の外周端よりも内方側に配置されており、前記リム部の外周端と前記型枠の下端部との間には、前記断熱層の存在しない浴槽把持部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の断熱浴槽の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−16945(P2012−16945A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59323(P2011−59323)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】