説明

新しい水煮竹の子の製造方法

【課題】従来の水煮竹の子は、乳酸発酵やpH調整剤の添加により、pHを4.6以下に低下させることにより保存性を高めているが、生の竹の子と比べ味の質や栄養成分が低下し、また、酸味を呈することが問題である。本発明は、加圧加熱殺菌を行うことにより、pH調整剤や保存料などの食品添加物を使用することなしに、常温で長期間保存可能なおいしい水煮竹の子の製法を提供する。
【解決手段】竹の子の水煮缶詰製造において、水さらし工程を短縮してpH4.6〜6.2に調整した水煮竹の子を使用して、真空パック後加圧加熱殺菌することにより、竹の子の食感と色を劣化させることなく、生の竹の子に近い味と香り、栄養価を有し、常温で長期間保存可能なレトルト水煮竹の子の製造方法を確立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト水煮竹の子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水煮竹の子は、例えば、図1に示す工程に沿って製造されている。すなわち、まず原料となる竹の子を皮がついたまま、蒸気あるいは沸騰水中でボイル(ボイル工程)した後、流水で冷却(冷却工程)する。次に、竹の子の皮をむき(皮むき工程)流水で洗浄し(洗浄工程)、竹の子のpHが4.6以下になるまで2〜4日間水さらしを行う(水さらし工程)。pHが4.6以下になった竹の子を缶詰(缶詰工程)にした後、加熱殺菌(加熱殺菌工程)して竹の子の水煮缶詰を製造する。次に、竹の子水煮缶詰を開け(開缶工程)水煮竹の子を洗浄(洗浄工程)した後、自動包装機で真空包装(包装工程)した後、加熱殺菌(加熱殺菌工程)を行い、水煮竹の子商品が製造される。
【0003】
上記の工程で製造された水煮竹の子は、水さらし工程において乳酸菌による自然発酵が進みpH4.6以下になっているため、真空包装後90℃で約1時間殺菌することにより常温で流通、保存することが可能となる。しかし、生の竹の子と比べ味や香り、栄養成分が低下し、中には酸味を呈するものが発生することが問題となっている。
【0004】
一方、水さらしによる自然発酵を行わない方法として、クエン酸などのpH調整剤を添加することにより竹の子のpHを4.6以下に調整し、常温で流通、保存することができる水煮竹の子を製造する方法もあるが、クエン酸など有機酸の添加により竹の子の味が損なわれたり、また酸味を感じることがある。
【非特許文献1】缶詰時報第52巻346−349(1973)
【非特許文献2】REFRIGERATION Vol.74,No.861,62−64 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
竹の子は収穫後の品質劣化が早いため、収穫期以外に販売するには缶詰などに加工しなければならない。缶詰加工した竹の子は小分け包装し、水煮の形態で年間を通して製造販売されているが、常温で3〜4ヶ月間保存できるよう乳酸菌による自然発酵やクエン酸などのpH調整剤の添加によってpHを4.6以下に低下させ、80〜90℃で殺菌して製造される。竹の子のpHを低下させることにより保存性は高くなるが、生の竹の子と比べ味の質や栄養成分が低下し、また、酸味を呈することが問題である。
【0006】
一方、自然発酵やpH調整剤を使用せずに長期間保存を可能にする方法として冷凍する方法があるが、冷凍処理により竹の子の物性が変化し食感が低下するため、小さくカットした竹の子にしか適用できない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、常温での保存性が高く、竹の子本来の味を損なわないレトルト水煮竹の子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のレトルト水煮竹の子の製造方法は、竹の子の水煮缶詰を製造する場合、水さらし工程を短縮し竹の子のpHが4.6〜6.2の値になった時点で缶詰にし加熱殺菌する。次に、pH4.6〜6.2の竹の子水煮原料を真空包装して、120〜130℃で20〜30分間加圧加熱殺菌を行い、レトルト水煮竹の子を製造する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は水煮竹の子の製造工程において、pH4.6〜6.2の竹の子を加圧加熱殺菌ことにより、pH調整剤や保存料などの食品添加物を使用することなく常温で長期間保存可能であり、かつ、生の竹の子が有する味、香り、食感を損なわない水煮竹の子を製造する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のレトルト水煮竹の子の製造方法は、例えば、図2に示す工程に沿って行なわれる。すなわち、まず従来と同様に原料となる皮付きの竹の子を蒸気または沸騰水中で約1時間ボイル(ボイル工程)した後、流水で冷却(冷却工程)する。次に、竹の子の皮をむき(皮むき工程)、水で洗浄(洗浄工程)した後、18L缶に竹の子11kgを入れ水を加え常温で1〜2日間水さらしを行う(水さらし工程)。乳酸菌の自然発酵により竹の子のpHが4.6〜6.2になった時点で水さらしを終了し、18L缶の蓋を閉めた後(缶詰工程)100℃で約1時間加熱殺菌(加熱殺菌工程)を行い、竹の子の水煮缶詰を製造する。従来の竹の子の水煮缶詰の製造は、水さらしを2〜4日間行い竹の子のpHが4.0〜4.6になった時点で缶詰とするが、本発明のレトルト水煮竹の子の製造に使用する水煮竹の子はpH4.6〜6.2の段階で缶詰とすることが特徴であり、さらに好ましくはpH5.2〜6.0である。
【0011】
pH4.6〜6.2の水煮竹の子の缶詰を開缶(開缶工程)し、水煮竹の子を流水で洗浄(洗浄工程)した後、自動包装機で真空包装(包装工程)する。最後に、真空包装した水煮竹の子を120〜130℃で20〜30分間加圧加熱殺菌(加圧加熱殺菌工程)することにより、レトルト水煮竹の子の商品が得られる。
【0012】
なお、水さらしを行わない皮むき後の竹の子を同様に真空包装して加圧加熱殺菌した場合、竹の子に含まれる遊離糖が遊離アミノ酸とアミノカルボニル反応して竹の子が褐変するため商品価値が低下する。さらに、竹の子に含まれるチロシンが竹の子表面に析出して商品とした場合商品価値が低下する。
【0013】
このようにして得られたレトルト水煮竹の子はpH調整剤や保存料などの食品添加物を使用することなく、常温で長期間保存可能であり、かつ、生の竹の子が本来有する味、香り、食感を損なわない水煮竹の子である。
【実施例1】
【0014】
1000リットルタンクに皮付きの竹の子500kgを投入し、蒸気で1時間加熱した。加熱処理した竹の子を流水で1時間冷却した後、皮をむき形を整え、流水で洗浄することにより270kgの竹の子を得た。18リットル缶に1本120〜180gの竹の子をそれぞれ11kg入れ、水を加えた後常温で1日間水さらしを行った。竹の子のpHが5.2〜6.0であることを確認した後、缶の蓋を閉め100℃で1時間加熱殺菌を行い、竹の子の水煮缶詰を製造した。次に、竹の子の水煮缶詰の缶を開け、pHが5.2〜6.0の水煮竹の子を包装材(180mm×240mm)に入れ真空包装後、125℃、30分間の加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)を行なった。一方、3日間水さらしを行い従来の方法で製造した水煮竹の子(pH4.2〜4.6)を調製し、22人による官能試験により味、香り、食感、色を比較評価してその結果を表1に示した。また、レトルト水煮竹の子を35℃のふ卵器で14日間保存した後、容器包装詰加圧加熱殺菌食品の無菌試験の方法に従い無菌試験を行った結果、陰性であることを確認した。
【0015】
【表1】

【実施例2】
【0016】
実施例1と同様の方法で缶詰加工処理(pH5.2〜6.0)した一本180〜250gの竹の子、半分にカットした200〜250gの半割竹の子、スライス加工、乱切り加工した各種規格の竹の子を真空包装し、125〜130℃で30分間の加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)を行い、レトルト水煮竹の子を製造した結果、味、香りは従来の水煮竹の子と比べ良好であり、加圧加熱殺菌による食感、色の劣化は認められなかった。
【実施例3】
【0017】
実施例1で製造したレトルト水煮竹の子の遊離アミノ酸、遊離糖、有機酸を分析し、生の竹の子、従来の水煮竹の子と比較した結果を表2に示した。各竹の子をフードプロセッサーで破砕した後、75%のエタノールで抽出し分析サンプルとした。アミノ酸の分析は日立高速アミノ酸分析装置8500型(日立製作所製)、糖と有機酸は島津高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)を用いそれぞれShim−packSCR−102Hカラム(島津製作所製、300mm×8mmID)、CAPCELL PAK NH280(資生堂製、250mm×4.6mmID)で分析した。分析の結果レトルト水煮竹の子は生竹の子に近いアミノ酸を含有していた。一方、従来の水煮竹の子はチロシン以外のアミノ酸はほとんど消失していた。また、レトルト水煮竹の子の遊離糖は生竹の子の半分以下に減少していたが、従来の水煮竹の子より多く残存していた。有機酸量はクエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸が減少し、乳酸が増加し構成比が変化したが、従来の水煮竹の子と比べ乳酸が半分以下であった。
【0018】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0019】
レトルト水煮竹の子は従来の水煮竹の子と同様に常温で流通、販売が可能であり、また、原料コストも従来とほとんど変わらないため適切な価格で提供可能である。一方、竹の子の味、香り、栄養価は従来の水煮竹の子より高く、おいしいため、今後本製造法によるレトルト竹の子が従来品に替わる可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】水煮竹の子製造の手順を示すフローシートである。
【図2】レトルト水煮竹の子製造の手順を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトルト水煮竹の子を製造するにあたり、pH4.6〜6.2の水煮竹の子を原料として使用することを特徴とするレトルト水煮竹の子の製造方法。
【請求項2】
pH4.6〜6.2の水煮竹の子を加圧加熱殺菌することにより、従来の水煮竹の子と比べ食感と色の劣化なしに、生の竹の子に近い味と香り、栄養価を有する水煮竹の子を製造することを特徴とするレトルト水煮竹の子の製造方法。
【請求項3】
pH4.6〜6.2の水煮竹の子を加圧加熱殺菌することにより、pH調整剤や保存料などの食品添加物を使用することなしに、常温で長期間保存可能な水煮竹の子を製造することを特徴とするレトルト水煮竹の子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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