説明

新規なトランスポーターペプチド配列による生物学的エフェクターの細胞内送達

【課題】以下のアミノ酸配列:a)(XRXRX);b)(XRRRX);c)(XRRXRX);およびd)(XRXRRX)、からなる群より選択される、少なくとも一つのアミノ酸配列を含む輸送体ペプチドであって、ここで、Xは非塩基性アミノ酸であり、mは、0から14の整数であり、nは、mとは独立した、0と14の間の整数であり、oは、mおよびnとは独立した、0と5の間の整数であり、ここで該輸送体ペプチドは、生物学的膜を横切って移動することが可能である、輸送体ペプチドを提供すること。
【解決手段】明細書中に記載される輸送体ペプチドに対してファージライブラリーをスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、分子生物学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
細胞外媒体から細胞への、特に細胞の核への、目的の物質の効率的な輸送を可能にする技術は、バイオテクノロジーの分野で、かなり興味深い。これらの技術は、タンパク質またはペプチドの産生にとって、遺伝子の発現の調節にとって、細胞内シグナル伝達チャネルの解析にとって、そして種々の異なる物質が細胞内(または細胞の核)への輸送による効果の解析にとって、有用であり得る。そのような技術の1つの重要な適用は、遺伝子治療である。しかし、宿主のゲノムに作用することなく処置されるか、または活性物質の生物学的性質を変えることなく処置される、宿主中の細胞質または細胞の核に生物学的に活性な物質を輸送することは、遺伝子輸送ベクターの無能によって限定される。
【0003】
いくつかの技術は、細胞内にDNAを効率的に輸送するための試みにおいて開発されてきた。代表的な例は、リン酸カルシウムまたはDEAE−デキストランを用いるDNAの共沈降あるいはエレクトロポーレーションを含む。これらの両方の方法は、DNAが細胞膜を貫き、次いで、細胞および/または核に入ることを可能にする。これらの技術の両方が、低輸送効率および高率の細胞死という欠点を持つ。他の方法は、DNAおよび核酸に対して強い親和性を有するウイルス関連物質の複合体を使用する。しかし、ウイルス複合体は、使用するのが困難であり、そしてウイルス成分の使用に関するいくつかの危険性が存在する。例えば、特許文献1を参照のこと。レセプター媒介性エンドサイトーシスはまた、細胞への治療剤の標的化された送達のための、実験系で広く利用されている(36)。リガンド含有複合体は、リガンドに対して特異的な細胞膜に位置するレセプター、または、膜構成物中に位置する特定の抗体のいずれかによって、選択的に内部移行される。エンドサイトーシス活性は、IgG、Fc、ソマトスタチン、インスリン、IGF−IおよびIGF−II、トランスフェリン、EGF、GLP−1、VLDLレセプターまたはインテグリンレセプターを含む、多くのレセプターについて記載されてきた(35;37〜43)。
【0004】
プロタンパク質コンベルターゼもまた、レセプター媒介性エンドサイトーシスを通して内在化される、細胞表面レセプターの例である。これらのタンパク質は、ペプチドホルモン、神経ペプチド、および多くの他のタンパク質がこれらの生物学的に活性形態に転換することに寄与することが示されてきた。プロタンパク質コンベルターゼファミリーについての全ての切断部位は、コンセンサスR−X−X−Rに従う。哺乳動物プロタンパク質コンベルターゼは、それらの組織分布に基づいて、三つの群に分類され得る。フリン(Furin)、PACE4、PC5/PC6およびLPCIPC7/PC8/SPC7は、広範な組織および細胞株中で、発現されている。それと対照的に、PC2およびPC1/PC3の発現は、膵島、下垂体、副腎髄質および多くの脳領域のような、神経内分泌組織に限定される。PC4の発現は、精巣の精子形成細胞に高度に限定されている。神経内分泌系特異的コンベルターゼ、PC2およびPC1/PC3は、分泌性顆粒中に主に局在している。PC5/PC6Aもまた、分泌性顆粒に局在していることが報告されてきた。さらに、間接的な証拠によって、プロタンパク質コンベルターゼ分子の集団は、細胞表面上に存在することが示唆され、フリンがTGNと細胞表面との間で循環するということが示された((1)中に総説される)。一緒にすると、これらの特性は、プロタンパク質コンベルターゼが細胞内空間に細胞外リガンドを輸送することを示す。
【0005】
効率的なレセプター媒介性エンドサイトーシスを指向するペプチド配列の単離は、ファージディスプレイ技術(44)の使用によって大いに促進される。ファージディスプレイライブラリーは、細胞レセプター(45)への天然のリガンドおよび短いペプチド(46)の修飾を含んだ分子改変体の事実上限定されない供給源を提供する、極めて強力なツールである。類似のライブラリーもまた、ネズミに直接注射され、13倍の選択性を脳および腎臓に対して示すペプチド配列は、首尾よく単離された(48;49)。
【0006】
当該分野において、薬物および治療剤の細胞内輸送のために種々の細胞型を標的化するための、効率的な、生物学的変化に変化させない、低危険性の手段の必要性が未だ存在している。従って、特異的な細胞型を選択的に標的化する輸送体小ペプチドは、大きなファージディスプレイライブラリー由来のものであり得る。ファージディスプレイを使用して得られたペプチドのような小さなペプチドキャリアの利点は、高品質ならびに高純度、低い免疫源性および生体内ですべての細胞に高効率で送達するための潜在能力を含む(26)。従って、ペプチドキャリアは、多くの巨大分子の効率的な送達のためのリポソームまたはウイルスのような慣用的な輸送体に対して改善する能力を有する(例えば、50;51を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,521,291号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、生物学的膜を横切って移動し得る輸送体ペプチドを提供する。本発明はまた、生物学的膜を横切ってエフェクターを移動させるような輸送体ペプチドを使用する方法に関する。
【0009】
一つの局面において、本発明は、(XRXRX);(XRRRX);(XRRXRX);および(XRXRRX)から選択されるアミノ酸配列を少なくとも1つ有する輸送体ペプチドを含む。ここで、Xは非塩基性アミノ酸であり;mは、0〜14の整数であり;nは、mとは独立した、0と14の間の整数であり;oは、mおよびnとは独立した、0と5の間の整数であり;そして輸送体ペプチドは、生物学的膜を横切って移動し得る。
【0010】
1つの実施形態において、本発明は、アミノ酸配列R−X−X−Rを有する輸送体ペプチドを提供する。他の実施形態において、本発明は、配列番号1〜34のいずれか1つのアミノ酸配列を有する輸送体ペプチドを提供する。他の種々の実施形態において、輸送体ペプチドは、タンパク質コンベルターゼリガンド由来である。さらに他の実施形態において、輸送体ペプチドは、タンパク質コンベルターゼ切断部位由来である。
【0011】
本明細書中で使用される場合、輸送体ペプチドは、生物学的膜を横切って物質が移動することを容易にするペプチドである。
【0012】
いくつかの実施形態において、輸送体ペプチドは、エフェクターに融合される。その「エフェクター」は、任意の適切な分子であり得、DNA,RNA,タンパク質、ペプチド、あるいは例えば、毒素、抗生物質、抗病原性因子、抗原、抗体、抗体フラグメント、免疫調節因子、酵素、または治療剤のような薬学的に活性な因子を含む。
【0013】
用語「融合」または「融合した」は、いくつかの第三の分子に関して互いに対してある性能を示す、2つ以上の分子を生じるような特異的な相互作用を全て含むことが意味され
る。これは、共有結合、イオン結合、疎水性結合、および水素結合のようなプロセスを含むが、溶媒選択性のような非特異的結合は、含まない。
【0014】
種々の実施形態において、輸送体ペプチドは50よりも少ない、25よりも少ない、または15よりも少ないアミノ酸長であり得る。
【0015】
さらなる実施形態において、移動は、膵臓B細胞、肝細胞、結腸細胞、筋細胞および/または肺細胞中で生じる。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、生物学的膜を横切って輸送体ペプチドを移動させる方法を含む。例えば、配列番号1〜6のペプチドを、膵臓B細胞の膜を横切って移動し得、配列番号7〜10のペプチドを、肝細胞の膜を横切って移動し得、配列番号11のペプチドを、結腸細胞の膜を横切って移動し得、配列番号12〜20のペプチドを、筋細胞の膜を横切って移動し得、および配列番号21〜34のペプチドを、肺細胞の膜を横切って移動し得る。
【0017】
さらに別の実施形態において、本発明は、エフェクターに結合した輸送体ペプチドである輸送体ユニットを含む。種々の他の実施形態において、そのエフェクターは、核酸、ペプチド、または薬学的活性剤であり得る。
【0018】
なおさらなる実施形態において、本発明は、輸送体ペプチドとエフェクターとの間の移動可能な複合体を産生して、輸送体ペプチド−エフェクター複合体を形成する方法を含む。本明細書中で使用される場合、「複合体」または「複合体化」は、エフェクターと輸送体ペプチドとの間の物理的結合を可能にする任意の型の相互作用を意味する。結合は、天然では共有結合的または非共有結合的であり得、そして細胞を貫通する前またはその間にベクターが解離しないように十分に強くあるべきである。複合体化は、化学的、生化学的、酵素的または当業者に既知である遺伝子的カップリングのいずれかを使用して達成され得る。目的のエフェクターは、輸送体ペプチドのN末端またはC末端へ連結され得る。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、真核生物細胞の細胞質および核内へエフェクターを移動させる方法を含む。これによって、エフェクターを輸送体ペプチドに結合体化し、そして真核生物細胞へ導入する。例えば、輸送体ペプチド−エフェクター複合体は、この複合体の存在下で細胞培養物をインキュベートすること、または細胞へこの複合体を注入することによって、細胞内へ導入され得る。
【0020】
種々の他の実施形態において、本発明は、真核生物細胞内のエフェクターの細胞内濃度を増加させる方法を含み、これによってエフェクターを輸送体ペプチドに結合体化し、そして細胞の活性な代謝を促進する条件下にある細胞中でインキュベートした。本発明の好ましい実施形態は、真核生物細胞としてのヒト細胞の使用を含む。
【0021】
なおさらなる実施形態において、本発明は、輸送体ユニットおよび薬学的に受容可能なキャリアの治療的有効量または予防的有効量を含む薬学的組成物を含む。
【0022】
好ましい「薬学的組成物」は、a)希釈液(例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン);b)滑剤(例えば、シリカ、滑石、ステアリン酸、そのマグネシウム塩もしくはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール)とを一緒に含む活性成分を含む錠剤およびゼラチンカプセルであり;錠剤についてはまた、c)結合剤(例えば、珪酸マグネシウムアルミニウム、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドンが挙げられ、所望ならば、d)崩壊剤(例え
ば、澱粉、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩または沸騰性混合物;ならびに/あるいは、e)吸収剤、着色料、香味料および甘味料を含む。注入可能な組成物は、好ましくは等張の水溶液または懸濁液であり、そして坐剤は、脂肪乳化液または懸濁液から都合の良く調製される。組成物は、滅菌され得、ならびに/あるいは保存料、安定剤、湿潤剤もしくは乳化剤、溶液促進剤、浸透圧を調節するための塩および/または緩衝液のようなアジュバントを含み得る。さらに、これらはまた、他の治療上価値のある物質を含み得る。その組成物は、それぞれ慣用的な混合方法、粒状化方法またはコート方法に従って調製され、約0.1%〜75%、好ましくは、約1%〜50%の活性成分を含む。
【0023】
なおさらなる実施形態において、本発明は、治療有効量または予防的有効量の薬学的組成物を含む1つ以上の容器を含む、キットを含む。
【0024】
本発明の別の実施形態は、このような治療または予防を所望される被験体へ投与することによって、疾患を治療または予防する方法、疾患を治療または予防するために十分な量の化学療法的構成物を含む。例えば、治療されるべき疾患としては、糖尿病、結腸癌、呼吸器病、神経変性障害、心臓麻痺および/またはウイルス感染が挙げられ得る。
【0025】
別の局面において、本発明は、輸送体ペプチドに対するファージライブラリーをスクリーニングする方法を含み、それによって、ファージライブラリーが特定の細胞型に対してスクリーンされ、次いで、どの細胞がファージを内部移行させたかが決定される。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、内部移行したファージのDNAを同定することおよび発現されたペプチドを推定することを含む。
【0027】
なおさらなる実施形態において、本発明は、スクリーニング工程を含み、それによって、ファージライブラリーは、少なくとも3サイクル選り分けられる。
【0028】
なお、さらなる実施形態において、本発明は、ペプチドの多価の提示を有するファージを含む。
上記に加えて、本発明は、以下を提供する:
(項目1) 以下のアミノ酸配列
a)(XRXRX);
b)(XRRRX);
c)(XRRXRX);および
d)(XRXRRX)、
からなる群より選択される、少なくとも一つのアミノ酸配列を含む輸送体ペプチドであって、
ここで、Xは非塩基性アミノ酸であり、
mは、0から14の整数であり、
nは、mとは独立した、0と14の間の整数であり、
oは、mおよびnとは独立した、0と5の間の整数であり、
ここで該輸送体ペプチドは、生物学的膜を横切って移動することが可能である、輸送体ペプチド。
(項目2) 前記アミノ酸配列がR−X−X−Rである、項目1の輸送体ペプチド。
(項目3) 前記輸送体ペプチドがエフェクターに結合した、項目1の輸送体ペプチド。
(項目4) 前記エフェクターが核酸である、項目3の輸送体ペプチド。
(項目5) 前記核酸がDNAである、項目3の輸送体ペプチド。
(項目6) 前記核酸がRNAである、項目3の輸送体ペプチド。
(項目7) 前記エフェクターがペプチドである、項目3の輸送体ペプチド。
(項目8) 前記エフェクターが薬学的に活性な薬剤である、項目3の輸送体ペプチド。
(項目9) 前記薬学的に活性な薬剤がトキシン、抗生物質、抗病原性薬剤、抗原、抗体フラグメント、免疫調節剤、酵素、および治療剤からなる群より選択される、項目8の輸送体ペプチド。
(項目10) 前記ペプチドが50アミノ酸長未満である、項目1の輸送体ペプチド。
(項目11) 前記ペプチドが25アミノ酸長未満である、項目1の輸送体ペプチド。
(項目12) 前記ペプチドが15アミノ酸長未満である、項目1の輸送体ペプチド。
(項目13) 移動が膵臓B細胞、肝細胞、大腸細胞、筋細胞、および肺細胞からなる群より選択される組織内で起こる、項目1の輸送体ペプチド。
(項目14) 輸送体ペプチドが、配列番号1〜6からなる群より選択される、膵臓B細胞の膜を横切る、項目1の輸送体ペプチドを移動する方法。
(項目15) 項目1の輸送体ペプチドを肝細胞の膜を横切って移動する方法であって、該輸送体ペプチドが、配列番号7〜10からなる群より選択される、方法。
(項目16) 項目1の輸送体ペプチドを大腸細胞の膜を横切って移動する方法であって、該輸送体ペプチドが、配列番号11である、方法。
(項目17) 項目1の輸送体ペプチドを筋細胞の膜を横切って移動する方法であって、該輸送体ペプチドが、配列番号12〜20からなる群より選択される、方法。
(項目18) 項目1の輸送体ペプチドを肺細胞の膜を横切って、移動する方法であって、該輸送体ペプチドが、配列番号21〜34からなる群より選択される、方法。
(項目19) エフェクターに結合した、項目1の輸送体ペプチドを含む、輸送体ユニット。
(項目20) 前記エフェクターが、核酸、ペプチド、および薬学的に活性な薬剤からなる群より選択される、項目19の輸送体ユニット。
(項目21) 項目19に記載の輸送体ユニットの治療的なまたは予防的な有効量および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(項目22) 項目1の輸送体ペプチドとエフェクターとの間の移行可能な複合体を産生する方法であって、該方法は、該エフェクターを該輸送体ペプチドに結合体化して、輸送体ペプチド−エフェクター結合体を形成する工程を包含する、方法。
(項目23) エフェクターを真核生物細胞の細胞質および核へ移行する方法であって、該方法は、
a)該エフェクターを項目1の輸送体ペプチドへ結合体化して、輸送体ペプチドーエフェクター結合体を形成する工程、および
b)該輸送体ペプチドーエフェクター結合体を細胞に導入する工程、
を包含する、方法。
(項目24) 前記導入工程は、前記輸送体ペプチドーエフェクター結合体の存在下で細胞培養液をインキュベートすることによって、または項目22に記載の細胞へ該輸送体ペプチドーエフェクター結合体を注入することによって、達成される、項目23に記載の方法。
(項目25) 前記真核生物細胞がヒト細胞である、項目23に記載の方法。
(項目26) 真核生物細胞内でエフェクターの細胞内濃度を増加する方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該エフェクターを項目1の輸送体ペプチドに結合体化して、輸送体ペプチドーエフェクター結合体を形成する工程、
b)該真核生物細胞の活性な代謝を促進する条件下で、該輸送体ペプチドーエフェクター結合体の存在下で該細胞をインキュベートする工程、
を包含する、方法。
(項目27) 前記真核生物細胞がヒト細胞である、項目26に記載の方法。
(項目28) 1以上の容器中に、治療的または予防的に有効量の項目21に記載の薬学的組成物を含む、キット。
(項目29) 疾患を処置または予防する方法であって、該方法は、そのような処置または予防が所望される被験体に、項目21に記載の薬学的構組成物を該被験体における該疾患を処置または予防するに十分な量で投与する工程を包含する、方法。
(項目30) 前記疾患が、糖尿病、大腸癌、呼吸器病、神経変性障害、心臓麻痺、およびウイルス感染からなる群より選択される、項目29に記載の方法。
(項目31) 輸送体ペプチドに対してファージライブラリーをスクリーニングする方法であって、該方法は、以下:
a)ファージディスプレイライブラリーを提供する工程、
b)特定の細胞型に対する前記ライブラリーをスクリーニングする工程、および
c)内在化したファージを有する細胞を決定する工程、
を包含する、方法。
(項目32) 項目31に記載の方法であって、さらに、
d)内在化したファージ由来のDNAを同定する工程、および
e)発現されたペプチドを推定する工程、を含む、方法。
(項目33) 前記スクリーニング工程が少なくとも3サイクルのパニングを含む、項目31に記載の方法。
(項目34) 前記ファージディスプレイライブラリーが多価ファージディスプレイライブラリーである、項目31に記載の方法。
(項目35) アミノ酸配列が、配列番号1〜34をからなる群より選択される、輸送体ペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
本発明は、薬物および治療剤の細胞内送達について、種々の細胞型を特異的に標的化するペプチド輸送系を提供する。当該分野において存在する輸送系は、あまりに限定されているので、一般的な適用ではない。なぜなら、これらは不十分であるか、宿主ゲノムへの影響を与えるか、活性物質の生物学的性質を変化させるか、標的細胞を殺すか、または、ウイルス複合体の使用のために、あまりに高い危険率が提示するので、ヒト被験体に使用することはできないかのいずれかであるからである。本発明のペプチド輸送系は、当該分野における輸送系の制限を克服するために、プロプロテインコンベルターゼ、および潜在的治療剤の細胞内送達に特異的なリガンドを使用する。本発明の系は、変化していない生物学的活性物質の効率的な送達を示す。この物質は、宿主のゲノムに影響せず、さもなければ非侵略性である。
【0030】
例えば、輸送体ペプチドには、糖尿病を処置する際の用途を有する。β細胞量は、厳密に調節されていて、その結果、インシュリン分泌が正常血糖を維持する。β細胞量を未熟な組織または成熟した組織の必要性に合わせること、特に、特定の生理学的条件および生理医学的条件において、β細胞死と、未成熟β細胞の分化および既存のインシュリン分泌細胞の増殖から生じる再生との間の動的なバランスによって、本質的に達成される(54、55)。I型糖尿病において、損なわれたバランスは、膵臓β細胞を標的化する免疫系の特異的な攻撃によって開始されたプロセスである、促進したβ細胞の破壊から生じる。したがって、β細胞の破壊速度の阻害または減少は、糖尿病の安定化を補助し得るだけでなく、β細胞量不足を修正するために、小島の再生を可能にし得る。
【0031】
いくつかの分子は、I型糖尿病の実験モデルにおけるβ細胞の損失の速度を減少させるために、強力なツールとして、確立された。これら分子の多くは、天然においてペプチジルであり、よって、ペプチドキャリアに容易に連結させられる。本明細書中に記載される
ペプチドは、治療上の「荷物(cargo)」(すなわち、キャリア(「輸送体ペプチド」)を治療剤(「エフェクター」)と連結)の設計に対する基本を提供する。
【0032】
従って、本発明の輸送系の好ましい実施形態は、I型糖尿病の処置のためのβ細胞細胞内機構を標的化する。I型糖尿病は、免疫系の分泌による膵臓β細胞の破壊に続く(1)。ヒトおよび齧歯類の両方における、決定的なデータは、マクロファージおよびT細胞によって分泌された、TNFαおよびIFNγと組合わせたサイトカイン(インターロイキン−1β(IL−1β))が、β細胞機能不全および破壊ならびにI型糖尿病を導く最終的な結果に対して原因となる主要な構成成分である(2−4)。これらの分泌されたサイトカインは、シグナル伝達の高度に複雑なネットワークおよび膵臓β細胞中のエフェクター分子に係合される。シグナル伝達は、細胞の組成物を改変し、そして細胞の運命に決定的な影響力を与える。蓄積してきている証拠は、この調節細胞内ネットワークが、新規の治療アプローチの開発のための、有望な標的を表すことを示す(5−11)。処置および細胞内サイトカインシグナル伝達の統合に関与する各々の分子は、輸送体−薬物を設計するための標的を表し得る。
【0033】
ほとんどの著名なシグナル伝達分子の間で、セラマイド、プロスタグランジン、熱ショックタンパク質、誘導性NO合成酵素(iNOS)、転写因子NF−κB、および3つのMAPキナーゼERK1/2、p38ならびにJNKが、β細胞中のIL−1βによって漸増される。これらの分子の多くは、β細胞の生存および機能の改善を導いた、現存するインヒビターでブロックするための標的である。iNOS KOマウスは、IL−1β細胞毒性に抵抗性であり(12)、iNOS活性のブロッカーは、NO細胞毒性の異なる側面を阻害する((6)中に総説される)。小島および細胞株の研究によって、Ca2+チャネルのブロッカーまたはカスパーゼインヒビターは齧歯類のβ細胞死を防ぐことが示された(13;14)。p38インヒビターは、グルコース誘導性インシュリン放出のIL−1β媒介性阻害を減弱させる(15)。アンチセンスGADトランスジェニックNODマウス中での、GAD発現のβ細胞特異的抑制は、自己免疫糖尿病を防ぐ(16)。膵臓β細胞株中で、JBD(c−Jun N末端キナーゼJNKの優性なインヒビター)同様に、bcl−2、IL−1Raの発現は、アポトーシスに抵抗性の細胞の生成を導いた(17−20)。まとめると、これらのデータは、特定のツールを用いる細胞内事象の操作が、I型糖尿病の処置についての大きな保証を維持することを示す。
【0034】
疾患の処置に対する一つの主要な挑戦は、生物学的に重要な分子を、インビボで使用可能である、生物活性であり細胞浸透性である化合物に転換することである(21)。例えば、β細胞の損失を阻止するための最も有望なツールは、組織および膵臓β細胞を含む細胞株へ、インビボで現在のところ送達され得ない、多くの巨大タンパク質(例えば、Bcl−2(8)、MyD88、TRAF、FADDまたはIRAKの優勢劣勢型のようなサイトカインシグナル伝達のインヒビター(22;23)、あるいはJNKインヒビターJBD280(24))である。
【0035】
最近の研究は、細胞および器官へ容易に送達され得る、生物活性な小さな化合物へ巨大タンパク質を転換するための試みにおける進歩を示す(25)。これらの技術は、実質的に2つの条件を必要とする:1)特定の輸送体またはその化学修飾を、細胞内への効率的な送達のための分子に連結する(例えば、(26〜28)に記載される効率的な短いペプチド輸送体を参照のこと)、および2)タンパク質の活性部分は、縮減されるべきで、その結果、小ペプチドの配列をこの輸送体に直結し得る。簡単には、これらの条件は、一般に、3〜30アミノ酸長で、双極性のペプチドを規定し、これは、細胞内に入り得るが、由来するタンパク質の重要な生物学的特徴を保存する。癌の研究(32)にあるように、β細胞内に多くの細胞内事象が存在し、その操作は、薬物設計のための有望な目標であるような、サイトカイン誘導性アポトーシス操作から、β細胞を保護する。
【0036】
レセプター媒介性エンドサイトーシスは、細胞内へ治療剤の標的化された送達のための実験系において、広範に活用されている(36)。エンドサイトーシス活性は、IgG Fc、ソマトスタチン、インシュリン、IGF−IおよびIGF−II、トランスフェリン、EGF、GLP−I,VLDL、またはインテグリンレセプターを含む、多くのレセプターに対して記載された、共通の性質である(35、37−43)。最近、効率的なレセプター媒介性エンドサイトーシスを指向するペプチド配列の単離は、ファージディスプレイ技術を使用することによって、かなり高められた(44)。ファージディスプレイライブラリーは、細胞レセプター(45)および短いペプチド(46)への天然のリガンドの改変を含む、分子の改変体の実質的に制限のない供給源を提供する、極めて強力なツールである。この技術を使用して、細胞型特異的レセプターがエンドサイトーシスを媒介するという証拠は、報告された(47)。同様のライブラリーが、直接ネズミに注入されて、脳および腎臓に対して13倍の選択性を示すペプチド配列は、首尾よく単離されてきた(48;49)。
【0037】
有力な実験背景が、選択的に膵臓β細胞を標的化する輸送体ペプチドが、大きなファージディスプレイライブラリーから導かれ得たことを示しているにもかかわらず、そのような試みは、報告されてこなかった。ファージディスプレイライブラリーを利用することによって得られるもののような小さなペプチドキャリアの利点は、多数性であり、そして化学合成による生成の簡便性、高品質ならびに高純度、低い免疫原性、生物体中のすべての細胞への高効率の送達の可能性を含む(26)。結果的に、本発明のペプチドキャリアは、多くの高分子の効率的な送達において、リポソームまたはウイルスのようなより従来の輸送体よりも良好に機能する可能性を有する(例えば、50;51を参照のこと)。
【0038】
ファージペプチドライブラリーは、繊維状ファージM13の誘導体中で、伝統的に構築されてきた。ペプチドライブラリーを、ペプチドモチーフ(46)の1〜5コピーを提示するキャプシドのマイナーコートタンパクpIIIに融合した。あるいは、高価での提示が、メジャーコートタンパク質pVIIIを使用することによって達成される。
【0039】
ライブラリーのこれらの型は、レセプター媒介性エンドサイトーシスのペプチド配列の単離に対して最適化されてはこなかった。以下の考察が、最高の内在化効率でのキャリアの回収に関連する。
【0040】
1)ペプチドの一価または低結合価の提示は、繊維状ファージのような大きな構造物の効率的な取り込みには、実質的に不十分である。しかし、高価での提示は、効率的な取り込みを可能にする(44);および、
2)レセプター結合性リガンドの内在化は、形質膜の特定の領域上の細胞表面レセプターの濃縮およびクラスリン被覆小胞の引き続く形成を含む(52)。
【0041】
M13誘導体の大きなサイズ(1μm〜1.5μm)は(53)、古典的なクラスリン被覆小孔(150nM)の一般的なサイズを超えている。クラスリン被覆小孔は、形質膜上で陥入した構造で、膜表面の約2%を占めている。これらの特殊化された構造は、毎分10%〜50%の極端に速い速度で、細胞外タンパク質または、インシュリンあるいはEGFのようなペプチドを取り除く、高度に効率的なレセプター媒介性内在化プロセスを導く(43)。そのようにして、これらの特殊化された、高度に効率的な構造による、レセプター媒介性内在化は、従来のM13ファージと共に起こることは、期待されない。
【0042】
結果的に、公表された試みは、ペプチドを保有するファージが高い内在化速度を示すようなペプチドを生成することに失敗してきた。現在まで、特定の細胞型に対して特異的なコンセンサス内在化モチーフは、これらの研究から現れてきていない(44;47〜49
)。
【0043】
特定の局面において、本明細書中に記載されている本発明は、ペプチドを保有するファージの内在化を促進する輸送体ペプチドの同定に関連する。いったん、ペプチド配列が決定されると、生物学的膜を横切ってエフェクター分子を輸送するために、そのペプチドはエフェクター分子に結合される。
【0044】
本明細書中において使用される場合、用語「結合した」(「bound」)あるいは「結合する」(「bind」)、または「会合する」(「associate」)あるいは「相互作用する」(「interact」)は、いくつかの第三の分子と比較して、お互いに選択性を示す二つまたはそれ以上の分子を生じさせる、すべての特異的な相互作用を含むことを意味する。これは、共有結合、イオン結合、疎水結合、および水素結合のようなプロセスを含むが、溶媒選択性のような非特異的な結合は含まない。
【0045】
輸送体ペプチドは、生物学的膜を横切った、特に細胞の細胞質または核への、物質の通過またはトランスロケーションを容易にするペプチドである。トランスロケーションは、例えば、PCT出願番号第WO97/02840に記載されているような細胞貫通アッセイを含む、様々な手順によって検出され得る。一般的に、細胞貫通アッセイは、a)トランスロケーションするペプチドと共に細胞培養液をインキュベーションすること;b)細胞を固定し、透過化すること;およびc)細胞内部のペプチドの存在を検出することによって、行われる。検出工程は、固定され、透過化された細胞をペプチドに対する標識化抗体と共にインキュベーションすることによって、続いて、ペプチドと標識化抗体との間の免疫学的反応の検出によって、実行され得る。あるいは、検出はまた、検出可能なように標識化されたペプチドを用いることによって、および、細胞内画分中の標識の存在を直接検出することによって、達成され得る。その標識は、例えば、放射性標識、蛍光標識、または色素であり得る。
【0046】
本発明はさらに、エフェクターに連結されたトランスロケーションペプチドの複合体である、輸送ユニットを含む。本明細書で使用される場合、「連結した」(「coupled」)は、エフェクターとペプチドとの間の物理的な結合を可能にする任意の型の相互作用を意味する。その結合は、本質的に共有結合または非共有結合であり得、ベクターが移動の前または移動中に解離しないように、結合は十分に強くなければならない。連結は、当業者に公知の化学的、生化学的、酵素的または遺伝子的連結のどれを用いても達成され得る。目的のエフェクターは、ペプチドベクターのN末端またはC末端へ連結され得る。
【0047】
「エフェクター」(「effector」)は、例えば、生化学的目的、薬学的目的、診断上の目的、追跡上の目的、または食品加工上の目的のすべての分子または化合物をいう。エフェクターは、様々な起源、特にヒト、ウイルス、動物、真核生物あるいは原核生物、植物、合成起源など由来の核酸(リボ核酸、デオキシリボ核酸)から成り得る。目的の核酸は様々な大きさであり得、例えば単純にとってきたヌクレオチドから、ゲノムフラグメントまたはゲノム全体に及ぶ。エフェクターは、ウイルスのゲノムまたはプラスミドでもあり得る。あるいは、目的のエフェクターは、例えば、酵素、ホルモン、サイトカイン、アポリポタンパク質、成長因子、抗原、または抗体などのような、タンパク質でもあり得る。さらにエフェクターは、例えば、トキシン、治療剤、または、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌薬、もしくは抗寄生生物剤のような抗病原薬のような、薬学的に活性な薬剤であり得る。目的のエフェクターは、それ自身、そのままで活性であり得るか、または、ペプチドによって、別個の物質によって、もしくは環境の条件によって、インサイチュで活性化され得る。
【0048】
用語「薬学的に活性な薬剤」は、本明細書中で、それらが、生物体(ヒトまたは動物)
へ投与された場合、検出できる薬理学的および/または生理学的効果を誘導する、化学物質または化合物をいうために使用される。
【0049】
用語「治療剤」は、本明細書中で、それらが、生物体(ヒトまたは動物)へ投与された場合、望ましい薬理学的および/または生理学的効果を誘導する、化学物質または化合物をいうために使用される。
【0050】
本発明による輸送体ペプチドは、それらの貫通能が、それと連結された目的の物質(エフェクター)の性質とは、実質的に独立である、という事実によって特徴付けられる。
【0051】
本発明はまた、細胞または細胞核への目的の物質の導入法を含む。本方法は、細胞内への十分な貫通を可能にするのに十分な量の輸送体ペプチド−エフェクター複合体と細胞とを接触することを含む。一般的には、本方法は、複合体のインビボまたはインビトロでの内在化のために使用され得る。例えば、その複合体は、インビトロ、エキソビボ、またはインビボにおいて提供され得る。さらに、本発明に従う輸送体ペプチドは、連結された物質の生物学的活性の可能性をもたせる能力があるということが示された。従って、本発明の他の目的は、それが連結されているエフェクターの生物学的活性を増加する、輸送体ペプチドの使用方法である。インビトロでの方法によって、エフェクターはまず輸送体と連結され、複合体は細胞の活発な代謝を可能にする温度で、細胞とインキュベーションされる。いくつかの場合において、輸送体−エフェクター複合体は特定の細胞に注入される。当業者は、細胞に複合体を導入する他のどんな方法でもまた使用され得る、ということを認識する。
【0052】
ペプチド−エフェクター複合体に加えて、本発明はまた、薬学的に受容可能な塩基または酸付加塩、水和物、エステル、溶媒和物、プロドラッグ、代謝産物、立体異性体、またはそれらの混合物を提供する。本発明はまた、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤とあわせてペプチド−エフェクター複合体を含む、薬学的処方物もまた、含む。
【0053】
用語「薬学的に受容可能な塩」に含まれる塩は、本明細書中に記載されている化合物の「薬学的に受容可能な酸付加塩」を生成するために適切な有機酸または無機酸と遊離塩基を反応させることによって、一般的に調製される、本発明の化合物の無毒性塩をいう。これらの化合物は、遊離塩基の生物学的効力および特徴を保持する。そのような塩の代表は、水溶性および非水溶性の塩であり、酢酸塩、アムソネート(4,4−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホネート)、ベンゼンスルホネート、ベンゾネート、炭酸水素塩、重硫酸塩、酒石酸水素塩、ホウ酸塩、臭化物、ブチレート、カルシウムエデテート、カンシラート、カーボネート、塩化物、クエン酸塩、クラブラリエート、ジヒドロクロリド、エデテート、エジシレート(edisylate)、エストレート(estolate)、エシレート(esylate)、フマル酸塩、グルセプテート、グルコナート、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニレート、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシネート、ヒドラバミン、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、ヒドロキシナフトエート、ヨウ化物、イソチオネート、乳酸塩、ラクトビオネート(lactobionate)、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシレート、メチルブロミド、硝酸メチル、硫酸メチル、ムコ酸塩(mucate)、ナフシレート(napsylate)、硝酸塩、N−メチルグルコサミンアンモニウム塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエート、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモエート(1,1−メチレン−ビス−2−ヒドロキシ−3−ナフトエート、エンボネート(embonate))、パントテン酸塩、ホスフェート/ジホスフェート、ピクリン酸塩、ポロガラクツロネート、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホネート、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリクレート(sulfosaliculate)、スラメー
ト(suramate)、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクレート(teoclate)、トシレート、トリエチオジド、および吉草酸塩のような塩である。
【0054】
本発明の方法に従って、ヒト患者はペプチドまたは複合体の薬理学的有効量で治療され得る。用語「薬理学的有効量」は、研究者または医師が探究する、組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発する薬物または薬学的薬剤(エフェクター)の量を意味する。
【0055】
本発明はまた、細胞または細胞核への目的のエフェクターの導入に適切な薬学的組成物を含む。その組成物は、好ましくは、体内での使用に適切であり、単独または組合わせにおいて、一つまたは多くの薬学的に受容可能なキャリアと共に、本発明の薬理学的に活性な化合物の有効量を含む。この化合物は、毒性があるとしても、極めて低い毒性を有するという点で、特に有用である。
【0056】
好ましい薬学的組成物は、a)希釈剤、例えば、ラクトース、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン、b)滑沢剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムもしくはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール;錠剤用にはまたc)結合剤、例えば、珪酸アルミニウムマグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン;所望される場合にはd)崩壊剤、例えば、デンプン、寒天、アルギン酸あるいはそのナトリウム塩もしくは発泡性混合物、および/またはe)吸収剤、着色料、香味料および甘味料、と一緒になった活性成分を含む錠剤およびゼラチンカプセルである。注入可能な組成物は、好ましくは等張水溶液または懸濁水溶液であり、坐薬は脂肪乳化剤または懸濁液から有利なように調製される。その組成物は、滅菌され得、および/または保存料、安定化剤、湿潤剤または乳化剤、溶液促進剤、浸透圧を制御するための塩および/または緩衝液のようなアジュバントを含み得る。加えて、それらはまた、他の治療上有効な物質を含み得る。その組成物は、従来の混合方法、顆粒化方法またはコーティング方法それぞれに従って調製され、約0.1%〜75%、好ましくは、約1%〜50%の活性成分を含む。
【0057】
活性な化合物および本明細書中に記載されている塩の投薬は、治療剤の投薬の受容可能な様式のいずれかをとおしてであり得る。これらの方法は、経口の、経鼻の、非経口の、経皮的な、皮下的な、または局所的な投薬様式のような、全身投与または局所的な投与を含む。
【0058】
意図された投薬様式に依存して、その組成物は、好ましくは単位投薬における、例えば、注射可能物質、錠剤、坐薬、丸剤、徐放性のカプセル、粉末、液体、懸濁物などのような、固体投薬形態、半固体投薬形態または液体投薬形態であり得る。その組成物は、活性な化合物またはその薬学的に受容可能な塩の有効量を含む。そして、薬学において慣習的に使用されているような、従来の任意の薬学的賦形剤および他の医学的または薬学的な薬物または薬剤、キャリア、アジュバント、希釈剤などもまた含み得る。
【0059】
固体組成物について、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウムなどを含む賦形剤が、使用され得る。上で定義した活性な化合物はまた、キャリアとして、例えば、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコールを使用することによって、坐薬として、処方され得る。
【0060】
液体、特に注射可能な組成物は、例えば、溶解、分散などによって調製され得る。活性な化合物は、例えば、水、生理食塩水、水溶液のブドウ糖、グリセロール、エタノール、
およびその種などのような、薬学的に純粋な溶媒に溶解されるか、または薬学的に純粋な溶媒と混合され、それによって、注射可能な溶液または懸濁物を形成する。
【0061】
所望される場合、投薬される薬学的組成物はまた、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化薬剤、および例えば、酢酸ナトリウム、オレイン酸トリエタノールアミンなどのような、他の物質のような無毒性の補助物質を少量含み得る。
【0062】
非経口的な(parental)注射可能な投薬は、一般的に皮下的な、筋内的なまたは静脈内的な注射および注入のために使用される。注射可能物質は、液状溶液あるいは懸濁液または注射前に液体中に溶解するのに適切な固体形態のいずれかのような、従来の形態中に調製され得る。
【0063】
非経口の投薬のための一つのアプローチは、本明細書中で参考として援用される、米国特許第3,710,795号に従って、一定レベルの投薬量が維持されることを保証する、緩徐放出性または徐放性の系の移植を使用する。
【0064】
本発明の化合物は、錠剤、カプセル(時限放出性または徐放性処方を各々含む)、丸剤、粉末、顆粒、エリキシル、チンキ剤、懸濁物、シロップおよび乳化物のような経口投薬形態で、投与され得る。同様に、それらはまた、静脈内の(ボーラスおよび注入両方を含む)、腹腔内の、皮下形態のまたは筋肉内の形態、薬学分野の当業者に周知である全ての使用形態で投与され得る。望ましい化合物の有効であるが非毒性である量は、抗男性ホルモン薬剤として使用され得る。
【0065】
化合物を使用した投薬レジメンは、患者の型、種、年齢、体重、性別、および医療状態;治療される状態の重篤度;投与経路;患者の腎臓および肝臓の機能;ならびに使用される特定の化合物またはその塩を含む、様々な因子に従って選択される。普通に熟練した医師または獣医は、状態の進行を阻害し、逆らい、または阻止するために必要な薬物の有効量を容易に決定し得、処方し得る。
【0066】
本発明の経口投薬量は、指示された効果のために使用される場合、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100.0、250.0、500.0または1000.0mgの活性成分を含む、スコア付けされた錠剤の形態で、提供され得る。
【0067】
本発明の化合物は、一日あたり一回の投薬で、投与され得るか、または一日の全投薬量が、一日に二回、三回または四回の分割された用量で投与され得る。さらに、本発明について、好ましい化合物は、鼻腔内用形態において鼻腔内での適切なビヒクルの局所的な使用をとおして、または経皮的な経路で、当業者に周知の経皮的皮膚パッチの型を使用することによって、投与され得る。経皮的送達系の形態において投与されるためには、もちろん、投薬量の投与は、投薬レジメンの間中ずっと、断続的ではなく連続的である。他の好ましい局所的な調製は、クリーム、軟膏、ローション、エアロゾルスプレーおよびゲルを含む。ここで活性成分の濃度は、W/WまたはW/Vで、0.1%〜15%の範囲である。
【0068】
本明細書中に詳細に記載されている化合物は、活性成分を形成し得、一般的に、投与の意図される形態、すなわち、経口錠剤、カプセル、エリキシル、シロップなど、および通常の薬学的な実施に一致させるという観点で、適切に選択された、適切な薬学的希釈剤、賦形剤またはキャリア(ひとまとめにして、「キャリア」物質として本明細書中でいう)との混合物において投与される。
【0069】
例えば、錠剤またはカプセルの形態での経口投薬の場合、活性な薬物成分は、エタノール、グリセロール、水などのような経口的で無毒性の薬学的に受容可能な不活性なキャリアと合わせられ得る。さらに、所望される場合または必要な場合、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤および着色剤もまた、混合物中に組み込まれ得る。適切な結合剤は、テンプン、ゼラチン、グルコースまたはβラクトースのような天然の糖、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガカントゴムまたはアルギン酸ナトリウムのような、天然または合成のガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ろうなどが挙げられる。これらの投薬形態で使用される滑沢剤は、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。崩壊剤として、限定はないが、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0070】
本発明の化合物はまた、小さな単一層状小胞、大きな単一層状小胞、および多層状小胞のようなリポソーム送達系の形態で、投与され得る。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン、またはホスファチジルコリンを含む、様々なリン脂質から形成され得る。いくつかの実施形態において、脂質成分のフィルムは、米国特許第5,262,564号に記載されているように、薬物をカプセルに内包する脂質層を形成するように薬物の水溶液で水和される。
【0071】
本発明の化合物はまた、標的化可能な薬物キャリアとしての可溶性ポリマーとともに連結され得る。そのようなポリマーは、ポリビニルピロリドン、ピラン共重合体、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミドフェノール、ポリヒドロキシエチルアスパンアミドフェノール、またはパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリジンを含み得る。さらに、本発明の化合物は、例えば、ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレートおよびヒドロゲルの架橋されたブロック共重合体または両親媒性のブロック共重合体のような、薬物の制御された放出を達成するにおいて有用な、一クラスの生分解性のポリマーと連結され得る。
【0072】
上記の薬学的組成物はいずれも、0.1%から99%、好ましくは1%から70%の活性な化合物、特に、活性成分としての式Iの化合物を含み得る。
【0073】
(等価物)
本発明の特定の実施形態についての前記の詳細な説明から、生物学的膜を横切るトランスロケーションの独特な方法が、記載されてきたことは、明らかである。特定の実施形態が、詳細に本明細書中に開示されてきたが、これは、説明のみの目的で例としてなされ、そして、以下に続く添付された特許請求の範囲に関して、限定されることを意図されない。特に、様々な置換、変化、および改変は、特許請求の範囲で定義されるような、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、本発明に対してなされ得ることが本発明者らにより意図される。例えば、細胞の特定の型またはトランスロケーションされるべき特定のエフェクターの選択は、本明細書中に記載されている実施形態の見識とともに当業者にとって慣用的事柄であると考えられる。
【0074】
本発明の一つまたはそれ以上の実施形態の詳細は、付随されている上記の説明中に述べられてきた。本明細書中に記載された方法および材料と類似または等価な任意の方法も材料が、本発明の実施または試験において使用され得る。好ましい方法および材料が、ここに記載される。本発明の他の特徴、目的および利点は、明細書および特許請求の範囲から明らかである。明細書および添付された特許請求の範囲中で、文脈が明らかに他を示していない限り、単数形は複数への参照を含む。他に定義されない限り、本明細書中で使用されている全ての専門用語および科学技術用語は、本発明が属している技術分野の当業者に
よって、一般に理解されているのと同じ意味を持つ。本明細書中で引用された全ての特許および刊行物は、参考として援用される。
【0075】
以下の実施例は、本発明の好まれる実施形態をより十分に説明するために提示される。これらの実施例は、添付された特許請求の範囲によって定義されるような、本発明の範囲を、いかようにも限定するように解釈されるべきではない。
【実施例】
【0076】
(実施例I:内在化ペプチドモチーフの同定)
以下の基準を満足する新規のファージ系中のファージディスプレイライブラリーは、本発明に含まれる:4マー〜50マーのペプチド(>400コピー/ファージ)の多価提示;小さなサイズ(50nM);内在化ファージの効率的な回収;非内在性結合ファージの除去;および多数の個々のペプチド配列(10より多くのヘプタペプチド配列を提示している3×10個の独立したクローン)。
【0077】
このライブラリーを、高分子の効率的なおよび特異的な細胞内送達をβTC−3細胞モデルに向けるペプチドモチーフの単離に首尾よく使用した。さらにこのライブラリーを、5つの異なった(非βの)細胞株を用いて使用した。そして、それぞれの場合において、それぞれの細胞型に対して特異的なペプチドモチーフの富化を観測した。この手順の一般的な概観は、以下のとおりである。
【0078】
(選択/富化手順)
ファージディスプレイライブラリーを、多くのインシュリン分泌性細胞株、齧歯類およびヒトの単離された小島、ならびにFACS精製β細胞に対して、選り分け、そして、最後に小島の抽出および内在化ファージの回収の前に、動物(マウス、ラット、ブタ)へ直接注射する。パニング手順は、ファージ添加、回収および増幅の少なくとも三つのサイクルからなる。あるいは、最も選択的なリガンドを単離するために、他の細胞型に結合するファージを、β細胞に対するライブラリーを選り分ける前に、異なった非インシュリン分泌性細胞とともにそのライブラリーをインキュベーションすることによって減じる。リソソーム分解を止めるためのクロロキンを含んだ実験を、(44)に記載されているように実行する。これらの実験は、異なるペプチドキャリアを産生することを期待される。
【0079】
(ファージ特異性の決定)
パニングされたファージを単離し、多くの異なった細胞および器官とともにインキュベーションする。例えば、ある特定の実験において、パニングされたファージを、インシュリン分泌細胞および器官ならびに非インシュリン分泌細胞および器官と共にインキュベーションする。取り込みを、回収されたファージの数を数えることによって決定する。免疫細胞学の研究を、抗ファージ抗体を用いて行う。
【0080】
(ファージ保有ペプチドの特徴づけ)
単離されたファージ由来のDNAを、シークエンスし、発現されたペプチドが推定される。内在化を導くペプチドおよびこれらペプチドの変異バージョンを、化学的に合成し、N末端をFITCで標識するかまたはヨウ素化する。標識されたペプチドを、異なる細胞型に添加し、齧歯類およびヒトの小島を単離し、直接マウスに注射する。取り込みの特異性、細胞内の局在化、クリアランスおよび安定性を見積もる(56)。
【0081】
(生化学的アッセイ)
インシュリン分泌性細胞および非インシュリン分泌性細胞の解析のために、特徴付けられたペプチドを以下の3つの既知の配列に連結する:YVAD(カスパーゼ阻害剤(29)、配列番号35)、VQRKRQKLMP(NF−κB核局在化阻害剤(30)、配列
番号36)またはRPKRPTTLNLFPQVPRSQDT(JNK阻害剤(17)、配列番号37)。これらのペプチドを、化学的に合成し、インシュリン分泌性細胞および非インシュリン分泌性細胞に添加する。カスパーゼ、NF−κBおよびJNKを、一般的な活性化剤、エトポシド(57)またはアニソマイシン(58)によって活性化する。ペプチドによるカスパーゼ、NF−κBおよびJNKの阻害を、β細胞および非β細胞で、研究した。これらの実験は、ペプチドキャリアが、活性コンフォメーションの潜在的な薬剤をβ細胞内に特異的に輸送するか否かを示す。
【0082】
(GLP−1レセプターによる潜在的な治療剤の取り込み)
GLP−1レセプター(GLP−1R)の発現は、主に脳および膵臓に限定される(66)。レセプターは、アゴニストの結合に続いて内在化される(56)。これらの特性は、GLP−1Rを、膵臓β細胞中への治療剤の優先的な送達を媒介するための魅力的なツールにする。この特性は、上述のように評価される。例えば、GLP−1Rを用いて集められた情報は、強化された選択性を有する二重特異性二量体の設計を補助する。
【0083】
(GLP−1レセプターに対する他の内在化モチーフの同定)
GLP−1RでトランスフェクトされたCOS−7細胞は、上述の富化実験のための基質として作用する。新しく同定されたモチーフを、それらの特異性およびエンドサイトーシスを導く能力について評価する。
【0084】
(全D−レトロインベルソ(retro−inverso)ペプチドの産生)
いくつかの実施形態において、ペプチドを、レトロインベルソペプチドとして合成し得る。増強された安定性および低い免疫原性を有する、全D−レトロインベルソペプチドを上記のように解析する。
【0085】
進化は、天然に存在するタンパク質におけるL−アミノ酸のほぼ排他的な存在を確実にしてきた。従って、実質的に全てのプロテアーゼは隣接するL−アミノ酸の間でペプチド結合を切断する;従って、人工的なタンパク質またはD−アミノ酸から構成されるペプチドは、たいていタンパク質分解による分解に耐性である。この耐性は、ドラッグデザイナーにとって魅力的なものであったが、L−アミノ酸から作製されたタンパク質に対する生物学的な系の排他性は、そのようなタンパク質が、エナンチオマーのタンパク質によって形成された鏡像面と相互作用できないということを意味している。従って、全てD−アミノ酸のタンパク質はたいてい、生物学的効果または活性を持たない。
【0086】
線状の修飾されたレトロペプチドの構造は、長期にわたって研究されてきた(Goodman,10M,ら、「On the Concept of Linear Modified Retro−Peptide Structures」、Accounts of Chemical Research、12(1)、1−7(1979年1月))。そして、用語「レトロ異性体」は配列の方向が親ペプチドに比べて逆になっている異性体を含むように意図された。「レトロインベルソ(retro−inverso)異性体」は、その中で配列の方向が逆になっていて、各々のアミノ酸残基のキラリティーが逆である、線状ペプチドの異性体を意味する。従って、末端基の相補性が存在し得ない。
【0087】
より最近、Jamesonらは、伝えるところによれば、これら二つの特性:逆合成(reverse synthesis)およびキラリティーの変化(a change in chirality)を組合わせることによって、CD4レセプターのヘアピンループのアナログを、操作した(Jamesonら、A rationally designed CD4 analogue inhibits experimental allergic.encephalomyelitis、Nature、368、744−746(1994)およびBradyら、Reflection on a Pep
tide、Nature、368、692−693(1994))。D−エナンチオマーと逆合成とを組合せた最終的な結果は、各々のアミド結合中のカルボニル基およびアミノ基の位置が交換され、一方、各々のα炭素での側鎖の基の位置は保存されていることである。Jamesonらは、伝えるところによれば、それら逆向きのDペプチドについて生物学的活性の増加を実証した。それは、普通の全Lエナンチオマーのインビボでの限定された活性(タンパク質分解への感受性による)と対照的である。
【0088】
部分的に修飾されたレトロインベルソ偽ペプチドは、ヒトクラスI組織適合性分子HLA−A2に対する非天然リガンドとしての使用が報告されてきた(Guichardら、Partially Modified Retro−Inverso Pseudopeptides as a Non−Natural Ligands for the
Human Class I Histocompatibility Molecule HLA−A2、1.Med.Chem.39、2030−2039(1996))。その著者らは、そのような非天然リガンドが、増強された安定性および高いMHC結合能力を有していたことを報告する。
【0089】
レトロインベルソペプチドを、以下のような方法で、既知の配列のペプチドに対して調製する。既知の配列を有するペプチド(例えば、腫瘍抗原ペプチド)を、レトロインベルソペプチドアナログを設計し、合成するためのモデルペプチドとして選択する。レトロインベルソペプチドアナログ中のアミノ酸の配列が、モデルとして作用する選択されたペプチド中の配列と、正確に逆であるように、ペプチド鎖中のアミノ酸を結合することによって、Dアミノ酸を使用してそのアナログを合成する。例示のために、ペプチドモデルが配列ABCを有するLアミノ酸から成るペプチドである場合、Dアミノ酸から成るレトロインベルソペプチドアナログは、配列CBAを有する。レトロインベルソペプチドを形成するためにDアミノ酸の鎖を合成する手順は、当該技術分野において既知であり、上記参考文献中で説明されている。
【0090】
天然のペプチドに固有の問題は、天然のプロテアーゼによる分解であるので、本発明のペプチドは、所望のペプチドの「レトロインベルソ異性体」(retro−inverso isomer)を含むように調製され得る。従って、天然のタンパク質分解からペプチドを保護することは、特異的なヘテロ二価化合物またはヘテロ多価化合物の有効性を増大するはずである。
【0091】
天然のプロテイナーゼによる分解から保護するための非レトロインベルソ含有アナログと比較する場合、より高い生物学的活性は、レトロインベルソ含有ペプチドに対して予想される。
【0092】
(修飾ペプチドの産生)
いくつかの実施形態において、ペプチドを、修飾ペプチドとして合成し得る。修飾ペプチドは上記のように解析される。
【0093】
アナログは、アミノ酸配列で、または配列に影響しない修飾で、またはその両方で、天然のペプチドと異なり得る。好ましいアナログは、その配列が野生型の配列(すなわち、天然に存在するペプチドの相同部位の配列)と、保存的アミノ酸置換でのみ、好ましくは、一つのみ、二つのみ、または三つのみの置換、例えば、一つのアミノ酸の他の似た性質を持つアミノ酸への置換(例えば、バリンからグリシン、アルギニンからリジンなど)または、ペプチドの生物学的活性を完全に破壊しない、一つ以上の非保存的アミノ酸置換、欠失、もしくは挿入だけ、異なるペプチドを含む。
【0094】
修飾(通常、一次配列を変えない)は、インビボまたはインビトロでのペプチドの化学
的誘導体化(例えば、アセチル化またはカルボキシル化)を含む。グリコシル化の修飾体、例えば、その合成および処理過程中またはさらなる処理工程において、ペプチドのグリコシル化のパターンを改変することによって、例えば、ペプチドをグリコシル化に影響を与える酵素(例えば、哺乳類のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)にさらすことによって、作られた修飾体もまた含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基(例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニン)を有する配列もまた含まれる。
【0095】
本発明は、一つ以上のペプチド結合が、ペプチダーゼによる切断に感受性ではない、共有結合の代替型で置換されたアナログ(ペプチド模倣物)を含む。被験体への注射後に、ペプチドのタンパク質分解が問題になる場合、特に感受性のペプチド結合を切断性のないペプチド模倣物に置換することは、得られるペプチドを、より安定でそして治療剤としてより有用にする。そのようなミメティックス、およびそれらをペプチドに組込む方法は、当該技術分野において周知である。t−ブチルオキシカルボニル、アセチル、テノイル(theyl)、スクシニル、メトキシスクシニル、スベリル、アジピル、アゼライル、ダンシル、ベンジルオキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、メトキシアゼライル、メトキシアジピル、メトキシスベリル、および2,4−ジニトロフェニルのような、アミノ末端ブロック基もまた有用である。ペプチドの荷電したアミノ末端およびカルボキシ末端をブロックすることは、疎水性の細胞膜を介した細胞内へのペプチドの増強された通過という追加の利点を有する。
【0096】
(多価ペプチドの産生)
多価リガンドは、数オーダーの大きさにまで増大されたアビディティを示す(60)。その親和性は、増大された速度の内在化で翻訳する(42)。単一特異的な二量体は高いアビディティを示し、二重特異的な二量体は特異的な細胞標的化剤としての、実施上の可能性を強化し得るより高度な選択性を有しそうである(61)。多価のペプチド(単一特異的および多数特異的の両方)を、例えば、柔軟なペプチジル骨格または糖ベースの骨格のいずれかを有する、ペプチド模倣物として合成する(61−63)。
【0097】
(細胞内局在化)
単離された異なるペプチド配列は、異なった細胞区画(例えば、核、ミトコンドリア、細胞質など)に局在化し得る。これは、ヨウ素化ペプチドおよびFITC標識ペプチドを用いて注意深く見積もられる。この情報は、機能の研究の設計に使用される。例えば、細胞質に蓄積しているペプチドは、NF−κB核移行を阻害されるために好まれるのに対して、核に入るペプチドは、JNKの阻害に最も適している。いくつかの実施形態において、核局在化モチーフのような配列を、キャリアを適切な区画に向けなおすために加える。
【0098】
(機能の研究)
カスパーゼ阻害剤、NF−κB阻害剤またはJNK阻害剤に連結した、β細胞標的化ペプチド(例えば、LエナンチオマーまたはDエナンチオマー、多価のペプチド)を、β細胞株、FACS精製β細胞および単離されたヒト小島ならびに齧歯類小島に加えた。アポトーシスを、IL−β(TNFαおよびIFNγとともに)によって誘導し、アポトーシス耐性を評価する。
【0099】
(インビボ実験)
NODマウスに、糖尿病前状態および糖尿病後状態中にエフェクターペプチド(カスパーゼ阻害剤、NF−κB阻害剤またはJNK阻害剤に連結したβ細胞標的化ペプチド)を注射する。注射の投薬量および頻度を、上記のとおり決定する。その後、糖尿病の発生を測定する。
【0100】
(免疫原性アッセイ)
ペプチドの免疫原的可能性を、齧歯類およびウサギで評価する。
【0101】
(クローニング)
特定の細胞による、効率的な取り込みを方向付けるペプチドモチーフを、実施例IIIに記載する。これらのペプチドを、確立された手順を用いて、例えば、INS−1、βTC−3およびヒト小島cDNAライブラリー由来の同起源のレセプターのクローニングおよび特徴づけに使用する(64;65)。
【0102】
(特徴づけ)
クローン化されたレセプターの組織分布を、インシュリン分泌性細胞ならびに器官およびインシュリン非分泌性細胞ならびに器官のノーザンブロットおよびウエスタンブロットによって評価する。結合の動力学、クリアランスおよび取り込みの特異性を、COS−7細胞中のレセプターの一時的なトランスフェクションによって評価する。コントロールペプチドは、変異した配列および例えば、GLP−1、GIP、グルカゴン、セクレチンなどのような、公知のペプチドである。これらのレセプターに対する代替の内在化モチーフを、上記のように、トランスフェクトしたCOS−7細胞でライブラリーを選り分けることによって特徴付ける。
【0103】
(実施例II:実験の手順の方法)
(ファージの調製および富化手順)
キャプシドの表面にランダムな15マーのエピトープを提示している3×10の独立したファージのライブラリーを、標準の手順を使用することによって生成した(67)。ファージを増幅し、その後、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿によって精製し、最後に、記載されているように(67)、Tris−EDTA緩衝液(10:1 mM、TE)中に1マイクロリットルあたり1010の感染粒子の濃度に再懸濁した。ファージ(1012)を、1時間から24時間の間、培養培地中の細胞に加えた。より長いインキュベーション時間は、エンドサイトース小胞中でタンパク質分解を逃れたファージの単離を有利にするために好適であった。結合および内在化に続いて、細胞を洗浄し、非内在化ファージをズブチリシン(3mg/ml)(44)による消化によって破壊した。広範囲の洗浄に続いて、その後、内在化したファージを2%デオキシコレート、10mM Tris−HClおよび2mM EDTA、pH8.0を含む緩衝液中で細胞を溶解することによって、回収した。回収したファージを、最後にE.coli細胞(XL−1−Blue)で増幅し、上記のとおり精製した。その後、この富化されたファージの調製物を、2回目の富化に使用する。3回から5回連続して、特定のファージ保有ペプチド配列の富化を得るために実行した。
【0104】
(免疫細胞化学および蛍光の研究)
上記富化スキームに沿って単離された単一のファージを、増幅し、培養培地中の細胞に24時間加えた。その後、培地を洗い落とし、細胞を5分間、冷メタノール−アセトン(1:1)で固定した。ファージキャプシドに対して方向付けられた抗体を、フルオレセイン結合体化二次抗体とともに使用した。古典的な蛍光顕微鏡的研究アッセイおよび共焦点顕微鏡アッセイを実行した。組織を、処理前にパラフィン中に埋め込んだ。
【0105】
(ペプチド)
ペプチドを、C末端アミド基と共におよび、必要ならば、FITCで標識するかまたはヨウ素化して、古典的なF−moc化学(Auspep、Australia)を使用することによって合成した。すべてのペプチドを、HPLCで精製し、質量分析法で解析した。
【0106】
(生化学的研究)
JNK、NF−κBおよびカスパーゼが、異なる細胞株(例えば、βTC−3、INS−1、HeLa、WiDr、HepG2、NIH3T3、COS−7)中で、エトポシド(VP−16、Alexis)で1時間かけて、活性化される1時間前に、ペプチドを加える。細胞抽出物を、JNK活性(基質として、c−Junを用いた固相JNKアッセイを用いて(68))、NF−κB核移行(電気泳動的移動度シフトアッセイ(30))およびカスパーゼ活性(入手可能な市販のキットおよび(Upstate Biochemicals)抗体を用いて)について処理する。
【0107】
(アポトーシスの測定)
アポトーシスを、Hoechst33342および前述のような(68;69)ヨウ素化プロピジウムを組合わせて使用することによって測定する。
【0108】
(小島)
小島をGotohら(70)の方法で単離する。ヒト小島を「Insel Spital」(Bern、Switzerland)から得る。
【0109】
(マウス)
注射の正確な投薬量および時間枠を、各々のペプチドに対して最適化する。しかし、JNK1ペプチドを用いた以前の実験は、2日毎に投薬される、PBS中の1mMペプチド溶液100μlが、妥当なスタート地点であることを示す。
【0110】
(λZAP発現ライブラリー)
λZAP発現性原核生物/真核生物発現ベクター中のINS−1 cDNAライブラリーは、IB1 cDNAおよびIB2 cDNA(71,72)をクローニングするために使用されてきた。このライブラリーは、単純なヘルパーファージの除去(Stratagene)によって、真核生物のCMVプロモーターの制御下で、容易にプラスミドライブラリーへ転換される。
【0111】
(実施例III:ファージディスプレイライブラリーのパニングおよび内在化したペプチドモチーフの特徴づけ)
薬物送達のためにβ細胞を特異的に標的化する能力は、I型糖尿病の処置において、絶大な影響を有する。本質的にβ細胞の機能(すなわち、インシュリン分泌)を変えないβ細胞破壊のブロッカーは、すでに存在(例えば、JBD、bcl−2)し、これらの分子のうちの1つ(JBD)の小さなペプチドへの変換は、完全な生物学的活性を保持することが示されてきた。
【0112】
膵臓β細胞株βTC−3を、本明細書中に記載されるファージディスプレイライブラリーによってパニングした。回収されたファージの数を選択的に富化することは、以下の表1中に見られるように、選択の各々のサイクルで観測された。βTC−3細胞を使用するパニング実験を、富化手順の各々の工程で使用される10個のファージを用いて実行した。0度で回収されたファージの数(エンドサイトーシスなし)は、100未満であり、これは、細胞外にあるが内在化せずに結合したファージのバックグラウンドが、本明細書中に記載されている条件下で極端に低いことを示す。
【0113】
【表1】



βTC−3細胞株中での3段階のパニングの後、回収されたファージの出現率は、表2に見られる。
【0114】
【表2】



滴定実験を、表3に示された時間、βTC−3細胞とともにインキュベーションされたファージP1(配列番号1)を用いて実行した。投入ファージ/回収ファージの比もまた、示される。滴定実験は、最初のP1 ファージ投入の10%ほどが回収され得るということを示した。
【0115】
【表3】



取り込みの特異性の決定を、5個の異なる細胞株で回収されたファージの数を滴定することによって、実行した。ファージ(10)を、指示された細胞株とともに16時間インキュベーションし、内在化したファージおよび回収したファージの数を表4に見られるように計算した。インテグリン内在化モチーフを提示するコントロールファージは、すべての細胞株に対して回収されたファージと似た数(1〜3×10)を示した。これは、P1(配列番号1)がβTC−3細胞によって、テストされた他のどの細胞株よりも、10,000から1,000,000倍効率的に取り込まれることを示す。
【0116】
【表4】



次いで、ペプチドをファージP1に提示されたペプチドの配列から合成した。P1 5マーペプチドの配列を、FITCで標識した10アミノ酸のランダム配列と連結した。コントロール配列は、P1 5マー配列を(Ala)で置き換えたことを除いて、同一である。ペプチド(10μM)を、1時間細胞に加え、細胞を洗浄し、冷メタノール−アセトン(1:1)で固定した。FITCで標識したP1ペプチドは、βTC−3細胞中で可視化され得たが、他の細胞型では可視化されなかった。
【0117】
富化の最終サイクルでの、20の回収されたファージの配列解析を、表5に示す。重要なことに、すべての配列は、5アミノ酸の同一の保存されたコンセンサス配列を厳密にもった。このことは、ファージの効率的な取り込みを導く、保存されたモチーフの特異的な選択/富化を示唆する。このようにして得られたペプチドモチーフの大部分は、プロタンパク質コンベルターゼコンセンサスR−X−X−Rをもつ。この観察は、強力な薬物および巨大分子の特定の細胞型への細胞内送達のためのビヒクルとしてプロタンパク質コンベルターゼを使用する提唱の基礎を築く。
【0118】
【表5】



参考文献
【0119】


【表6】

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載される輸送体ペプチドに対してファージライブラリーをスクリーニングする方法。

【公開番号】特開2009−195253(P2009−195253A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137749(P2009−137749)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2008−147345(P2008−147345)の分割
【原出願日】平成13年10月15日(2001.10.15)
【出願人】(507045085)ザイジェン エス.アー. (17)
【Fターム(参考)】