説明

新規なフィチンクエン酸塩化合物および該化合物の製造方法

本発明は、下記の式(I)の化学式を有する化学化合物またはその塩を提供する:
【化1】


(式中、Rは、Hまたはクエン酸塩であり;少なくとも1つのRは、クエン酸塩である)。
上記化学化合物の塩は、上記化学化合物のNa+、K+、Mg2+またはCa2+塩である。上記化学化合物は、ナトリウム、カリウムまたはリチウム;マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、鉛、亜鉛、アルミニウム、水銀、カドミウムまたはクロムをキレート化するキレート剤である。また、上記化学化合物は、動脈プラークの溶解剤としておよび/またはアルツハイマー病のような加齢関連変性疾患を治療するために使用する。また、本発明は、上記フィチンクエン酸塩化合物および/またはその塩の製造方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本発明は、2004年7月19日に出願された米国特許出願第10/894,919号の優先権を主張する一部継続出願であり、該出願は、参考として本明細書に合体させる。
(技術分野)
本発明は、下記の化学式を有する化学化合物群(以下、“フィチンクエン酸塩化合物”)および/またはその塩に関する:
【化1】

(式中、Rは、Hまたはクエン酸塩であり、少なくとも1つのRは、クエン酸塩である)。
上記フィチンクエン酸塩化合物としては、フィチンクエン酸塩化合物のNa+、K+、Mg2+および/またはCa2+塩がある。上記フィチンクエン酸塩化合物は、ナトリウム、カリウムまたはリチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、鉛、亜鉛、アルミニウム、水銀、カドミウムまたはクロムを有効にキレート化する優れた金属キレート剤である。また、これらの化合物は、アルツハイマー病のような加齢関連変性疾患(age-related degenerative disorders)の治療に使用し得る良好な動脈プラーク溶解剤(plaque dissolvers)でもある。また、本発明は、上記フィチンクエン酸塩化合物および/またはその塩の製造方法も提供する。
【0002】
(背景技術)
キレート剤は、金属イオンに極めて緊密に結合する小分子である。ある種のキレート剤は、容易に製造される単純な分子である(例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸[EDTA])。他のキレート剤は、生きた生物体が産生する複合タンパク質である(例えば、トランスフェリン)。全てのキレート剤が共有する重要な特性は、キレート剤に結合する金属イオンが化学的に不活性であるということである。従って、キレート剤の1つの重要な役割は、金属イオンを解毒し、被毒を防ぐことである。例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)は、極めて致命的な高カルシウム血症を有する患者を治療するために使用し、また、鉄キレート剤のデスフェリオキサミンは、慢性輸血によって蓄積する過剰の鉄を除去するのに使用する。多くの種々のタイプのキレート剤が存在するけれども、殆どが危険な副作用を有するので、ほんのわずかしか臨床的に有用ではない。EDTAは、長い間、有意なキレート化剤として考えられていた。しかしながら、有意の量および濃度が脈管系に入ると、EDTAの既知の毒物学的関連が存在する(米国特許第5,114,974号および第6,114,387号を参照されたい)。
一方、医学界におけるフィチン酸は、キレート剤としてのEDTAの代替物として知られている。フィチン酸は、全ての植物種子の成分であり、多くの穀類および種子類において見出される。フィチン酸は、水、アルコール(95容量%)およびアセトンに極めて可溶性であるものの、水性プロピレングリコールおよび水性グリセリンには比較的わずかしか可溶性でなく、エーテル、ベンゼンおよびヘキサンには事実上不溶性である。フィチン酸の水溶液は、超強酸性である:66グラム/リットルでpH 0.9。フィチン酸は、安定な生物活性成分で且つ金属キレート化能力を有し強い緩衝特性および酸化防止特性を有するフリーラジカル抑制剤であるが、専用的(proprietary)な主要製品として利用することはできない。
【0003】
以下で説明する本発明においては、1群の新規な化学化合物(以下、「フィチンクエン酸塩化合物」)を提起する。これらの新規化合物は、クエン酸のヒドロキシル基においてフィチン酸塩分子のリン酸塩に結合した少なくとも1個のクエン酸塩分子を有する。上記の新規な化合物は、EDTAよりも優れたキレート作用を示しており、これら化合物の生分解特性および無毒性故にヒトにおいて使用する利点を有する。
(本発明の概要)
本発明は、1群の新規の化学化合物(「フィチンクエン酸塩化合物」)および/またはこれら化合物それぞれの塩を提供する。これらの新規化学化合物は、下記の式によって示される:
【化2】

(式中、Rは、Hまたはクエン酸塩であり;少なくとも1つのRは、クエン酸塩である)。即ち、上記の特定した化合物としては、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩およびフィチンヘキサクエン酸塩がある。最も好ましい化合物は、フィチンヘキサクエン酸塩である。それぞれのフィチンクエン酸塩化合物の塩としては、これら化合物のNa+、K+、Mg2+またはCa2+塩がある。最も好ましい塩は、これら化合物のCa2+、Mg2+およびCa2+Mg2+塩である。
上記フィチンクエン酸塩化合物は、各々、結晶形、好ましくは結晶粉末形にある。さらに、上記フィチンクエン酸塩化合物は、水性溶液中で、好ましくは水溶液中で可溶性である。
上記フィチンクエン酸塩化合物は、ナトリウム、カリウムまたはリチウム;マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、鉛、亜鉛、アルミニウム、水銀、カドミウムおよび/またはクロムのような一価、二価および三価のイオンをキレート化することのできる有効な金属キレート剤である。
また、上記フィチンクエン酸塩化合物は、動脈プラークを溶解するのにおよび/またはアルツハイマー病のような加齢関連変性疾患を治療するのに治療効果を有する。
【0004】
また、本発明は、上記フィチンクエン酸塩化合物またはその塩と製薬上許容し得る担体とを含有する製薬組成物も提供する。
また、本発明は、上記フィチンクエン酸塩化合物の製造方法も提供する。上記方法は、次の工程を含む:(1)フィチン酸の塩を水溶液に溶解させる工程;(2)クエン酸および/またはクエン酸塩を上記フィチン酸の溶解塩に添加し及び撹拌して、クエン酸化フィチン酸塩溶液を調製する工程;および、(3)上記クエン酸化フィチン酸塩溶液を結晶化し、上記フィチンクエン酸塩化合物および/またはその塩を形成する工程。
上記反応において使用するNa-フィチン酸塩およびクエン酸/クエン酸塩の各種の量に基づき、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩またはフィチンヘキサクエン酸塩を生成させる。例えば、それぞれ約1:1、1:2、1:3、1:4、1:5または1:6のモル比のNa-フィチン酸塩とクエン酸(またはクエン酸塩)により、それぞれ、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩またはフィチンヘキサクエン酸塩を生成させ得る。
上記フィチンクエン酸塩化合物の製造において使用するフィチン酸の塩としては、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸マグネシウム、フィチン酸カルシウムおよび/またはフィチン酸カルシウムマグネシウムがある。フィチン酸塩は、好ましくは水に溶解させる。溶解クエン酸化フィチン酸塩溶液は、好ましくは加熱するが100℃未満までである。上記フィチンクエン酸塩化合物は、いかなる通常の乾燥方法によって、好ましくは40℃未満、最も好ましくは10℃未満で結晶化させ得る。
【0005】
(発明の詳細な説明)
本発明は、フィチンクエン酸塩化合物として知られる1群の新規な化学化合物および/またはこれらの化合物の塩を提供する。また、本発明は、これらの化合物および/またはこれら化合物の塩の製造方法も提供する。上記フィチンクエン酸塩化合物は、クエン酸の3個のカルボキシル分枝を3個のヒドロキシル基に変換することによって、1〜6個のクエン酸塩分子を1個のフィチン酸塩分子に結合させており、それによって、親水性ヒドロキシル基の存在により上記の新規化合物を水溶性にしている。
上記フィチンクエン酸塩化合物においては、クエン酸は、分子当り3個のヒドロキシル基を有するクエン酸塩に変換している。上記クエン酸塩の6個の炭素の各々は、クエン酸塩分子に結合した酸素原子を有し、上記3個のヒドロキシル基は、クエン酸塩分子の各炭素原子に結合している。これらの新規化合物の化学構造、とりわけ、多くのヒドロキシル基を有する大きな極性分子故に、これらの化合物は、高い溶解性とキレート化特性を有する。これらの新規なフィチンクエン酸塩化合物は、クエン酸のヒドロキシル基においてフィチン酸塩分子のリン酸塩に結合した1〜6個のクエン酸塩分子を有する。得られるフィチンクエン酸塩化合物は、下記の一般式を有する:
【化3】

(式中、Rは、Hまたはクエン酸塩であり、少なくとも1つのRは、クエン酸塩である)。
【0006】
以下、実施例により、上記フィチンクエン酸化合物の製造方法および上記フィチンクエン酸塩化合物の特徴を具体的に説明する。しかしながら、これらの例は、例示を目的とする。これらの実施例は、本発明の範囲の限定とみなすべきでない。相応の熟練者が思い付く変形のような相応の変形は、本発明の範囲を逸脱することなく本発明においてなし得ることである。
(実施例1)
フィチンクエン酸塩化合物の製造方法
フィチン酸ナトリウムは、商業的に入手し得た。フィチンクエン酸塩化合物は、フィチン酸ナトリウムを水に溶解することによって調製した。必要に応じて、熱および還流を使用して、フィチン酸ナトリウムの溶解を容易にすることができる。上記溶液の加熱を、100℃よりも高くなく30分を越えないように制御することが好ましかった。その後、適量のクエン酸またはクエン酸ナトリウムを、溶解フィチン酸塩溶液に添加した。混合物を十分に撹拌し、その後、40℃を越えないで、好ましくは冷蔵環境(即ち、約4〜10℃)内でおよそ6〜8時間放置して新たに形成されたフィチンクエン酸塩化合物を結晶化せしめるか或いは結晶化が終了するまで放置する。フィチンクエン酸塩化合物を、限定するものではないが、真空乾燥、凍結乾燥または室温での乾燥のようないかなる通常の方法によって室温で乾燥させた。添加するクエン酸/クエン酸塩の量に基づき、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩またはフィチンヘキサクエン酸塩を生成させた。例えば、それぞれ約1:1、1:2、1:3、1:4、1:5または1:6のモル比のNaフィチン酸塩とクエン酸(またはクエン酸塩)により、それぞれ、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩またはフィチンヘキサクエン酸塩を生成させ得た。
【0007】
(実施例2)
フィチンヘキサクエン酸塩の製造方法
また、フィチンヘキサクエン酸塩化合物を、以下の方法によって製造した:先ず、0.33kgの炭酸カルシウムを、0.1kgずつ、0.87kgのフィチン酸液にゆっくり添加した。混合物を加熱し、約1時間約90℃で還流させた。2つの固形物を分離し、濾過した。フィチン酸カルシウムである白色固形物を集めた。約1kgのフィチン酸カルシウムを、2.0リットルの水に溶解し、約89℃に、フィチン酸カルシウムが水溶液に完全に溶解するまでの約10〜15分間加熱した。その後、約0.9kgのクエン酸を添加し、クエン酸が完全に溶解するまでフィチン酸カルシウム溶液中で撹拌した。熱源を取り除き、得られた混合物を、40℃を越えないでまたは約5〜10℃の温度の冷蔵環境内で約6〜8時間放置して、新たに形成されたフィチンヘキサクエン酸塩を結晶化せしめるか或いは結晶化が終了するまで放置した。混合物を、室温で、液体が見えなくなるまで乾燥させた。結晶を、乾燥鍋内で、40℃を越えない温度でおよそ24時間広げ、約1.2kgのヘキサクエン酸塩化フィチン酸塩を得た。
【0008】
(実施例3)
フィチンクエン酸塩化合物のキレート化作用
下記の表1および図1〜2に示すように、上記フィチンクエン酸塩化合物は、極めて有効な経口キレート剤であり、血液の食塩水中に金属およびメタロイド類を維持し得ていた。また、上記の新規化学化合物は、動脈プラークを溶解するのに、さらにまた、脳組織中の過剰の銅、亜鉛、アルミニウムおよび鉄を除去するのに極めて有効であり、従って、患者の脳組織中の金属類の蓄積によって生じることが知られているアルツハイマー病を有する患者を治療するための治療手段を提供する。
キレート化とは、イオン、原子または分子の可溶性(溶解)状態の維持を称する用語である。キレート剤は、固形物(沈降物)として溶液中で懸濁または沈降している固形物質を再溶解し得る添加剤である。強力なキレート剤は、固形沈降物を溶解するのみならず粒状固形物の溶解状態を強力に維持する能力も有する。キレート剤は、工業用途においては、重金属が溶液から沈降または離脱するのを防止するのに使用されている。種々の水処理用途のための或いは溶液の成分が無限に溶解状態を継続するのを維持するための商業的に入手可能な多くの工業用キレート剤が存在する。キレート剤がそうでなければ固体である物質の溶解性を維持するメカニズムは、以下のとおりである:キレート剤は、通常水に溶解し得ない原子、イオンまたは分子を取り囲む。その後、キレート剤は、固形物にその疎水性末端で結合する。次いで、キレート剤分子は、固形物を完全に取囲んだ時点で、キレート剤の親水性末端の外部シェルを直ぐに生じて、固形物粒子が、以前は沈降固形物として存在していた場合でさえも、溶液中に完全に溶解するのを可能にする。
【0009】
フィチン酸は、水銀、カドミウム、クロム、鉄、鉛およびアルミニウムのような二価および三価の重金属の極めて強力なキレート剤である。他方のクエン酸は、ナトリウム、カリウムおよびリチウムのような一価のイオンに対する極めて有効なキレート剤である。多くの種々の栄養補助食品およびバルク食料品を検討した後、数え切れない実験とコンピュータモデル化後に、クエン酸の分子構造をフィチン酸と組合せてフィチン酸とクエン酸の有益な性質の殆どを有する新規な化合物を調製し得ることを見出した;これらの化合物を、フィチンクエン酸塩化合物と命名した。これらの化合物としては、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩および/またはフィチンヘキサクエン酸塩がある。これらの化合物のうちでは、ヘキサクエン酸化フィチン酸塩が最良のキレート作用を有する。ヘキサクエン酸化フィチン酸塩の優れたキレート化作用を、EDTA、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸およびポリリン酸のような他の既知のキレート剤と対比して、下記の表に示す:

表1:キレート化作用の比較

【0010】
上記各種キレート剤のキレート化作用は、当業者にとって既知の通常方法によって測定した。キレート剤によるキレート化イオンの濃度は、二価のカチオン電極(例えば、Orion Research Incorporated社製のModel 93-32)およびイオンアナライザー(例えば、Orion Research Incorporated社製のModel EA 920)を使用して測定した。
表1の結果は、フィチンクエン酸塩が他のキレート剤に対して優れたキレート作用を有することを実証している。
図1は、フィチン酸およびEDTAの溶解速度と比較したときのフィチンクエン酸塩(図1)の溶解速度(Kd)を示す。結果は、フィチン酸が、動脈内のプラークを溶解するのに、他のキレート剤に対して優れた溶解能力を有することを実証している。
図2は、フィチンクエン酸塩、フィチン酸およびEDTAにおける(脳組織内の)Fe2+の再溶解速度を示す。脳組織内の鉄イオンを再溶解するフィチン組織の優れた能力は、アルツハイマー病のような加齢関連変性疾患を治療する方法を提供する。
【0011】
(実施例4)
フィチンクエン酸塩化合物の結晶特性
下記の表2は、フィチン酸、フィチン酸カルシウムおよびフィチン酸カルシウムマグネシウムと対比したときのフィチンクエン酸塩の結晶特性を示す:

表2:フィチンクエン酸塩、フィチン酸、フィチン酸Ca、フィチン酸Ca Mgおよびフィチン酸Naの特性

ND*:測定せず

表2に示した結果は、フィチンクエン酸塩(フィチンヘキサクエン酸塩)が結晶形であることを実証している。上記フィチンクエン酸塩は、水に極めて可溶性であり、極めて低量の重金属(鉛)、ヒ素および硫酸塩を含有していた。これらの結果は、フィチンクエン酸塩が溶解するのが容易であり、低量の毒素物質しか含有してなく、結果として、上記フィチンクエン酸塩はヒトが安全に使用できることを裏付けている。
【0012】
(実施例5)
フィチンクエン酸塩の生分解性
フィチンクエン酸塩の生分解性を、“301 A DOC Die-Away Test”(1993), OECD Guidelines for Testing of Chemicalsの方法に従い評価した。7日間および14日間双方での分解の結果を、下記の表3に示す。

表3:フィチンクエン酸塩の生分解性


表3に示した結果は、フィチンクエン酸塩が容易に生分解し得、結果として、フィチンクエン酸塩は、ヒトにおいて使用するのが安全であることを実証している。
【0013】
結論:
本発明のフィチンクエン酸塩化合物は、共にヒトの食餌における極めて有益な添加剤で且つ無毒であるとみなされているクエン酸とフィチン酸双方の幾つかの特性によって進展する。即ち、上記フィチンクエン酸塩化合物は、EDTAよりも優れたキレート作用を示すだけではなく(表1に示すように)、無毒性であり(表2に示すように)、さらに、生分解性でも有り得(表3に示すように)、従って、上記フィチンクエン酸塩化合物は、毒性および発がん性を示すEDTAよりも優れている。
さらに、クエン酸塩をフィチン酸とその芳香環の炭素原子の各々上の炭素酸素結合において結合させているので、フィチン酸の酸素原子とクエン酸塩複合体間の結合は、分子の不安定性を阻止する助けとなる極めて強力な共有結合を形成している。さらに、上記フィチンクエン酸塩化合物は、(表2において示しているように)その高い分子量にもかかわらず、極めて可溶性である。その多数のヒドロキシル基故に、上記フィチンクエン酸塩化合物は、イノシトール、フィチン酸およびクエン酸のような他の通常のキレート剤の溶解性およびキレート化特性をはるかに超える究極の極性分子である。
【0014】
上記フィチンクエン酸塩化合物の1つの基本的な使用は、その優れた金属溶解/キレート化速度(図2に示しているような)により、動脈プラーク溶解剤として作用させることである。多くが承知しているように、血液は、動脈および細動脈を急速に循環している溶解固形物および懸濁固形物の双方を含有する濃厚食塩溶液として作用する。血液中の溶解固形物としては、結腸および/または腸管から吸収された栄養素がある。懸濁固形物としては、血小板、赤血球および白血球がある。時間とともに、ある種の溶解固形物は、循環系の内壁に付着する固形沈降物を形成して、主要血管内の重篤な閉塞に至り得る固形動脈プラークを形成する。しかしながら、上記フィチンクエン酸塩化合物は、その多くの化学特性故に、動脈および細動脈からプラークを剥ぎ取るのにとりわけ功を奏している。例えば、上記フィチンクエン酸塩化合物は、疎水性および親水性の双方を有する高度に可溶性の分子である。そのような特性は、上記フィチンクエン酸塩化合物が、その親水性によって水中に溶解したままであるのを可能にし、同時に、それ自体が、その疎水性の結果として接触してくる固形物に結合または付着することも可能にする。そのようなものとして、上記フィチンクエン酸塩化合物は、界面活性剤と同様に作用して、動脈および細動脈からのプラークの除去剤として、心臓血管系を迅速に流れながら作用するのを可能にする。
【0015】
さらに、上記のフィチンクエン酸塩化合物は、沈降固形物を再溶解する極めて強力なキレート化特性を有する。これらの再溶解物質は、これら物質が腎臓系から最終的に排出されるまで、その可溶性形に維持される。図2に示しているように、上記フィチンクエン酸塩化合物は、脳組織内の鉄イオンを再溶解するのにとりわけ有効であった;これらの化合物は、アルツハイマー病のような変性疾患を有する患者の治療において使用し得る。
最後に、上記のフィチンクエン酸塩化合物は、通常のキレート剤との幾つかの新規且つ有意な差異を有する。先ず、上記の化学化合物は、迅速且つ容易に溶解することを可能にする迅速な溶解定数を有する。この増強されたキレート化能力故に、金属およびメタロイド類と上記コンジュゲート生成物との結合により、血液の食塩溶液中でその可溶性形を高濃度で維持する可用性のイオン性生成物が生成する。そのようなものとして、上記化学化合物は、極めて低濃度において、動脈硬化症治療のための動脈プラークの溶解能力、並びにアルツハイマー病および他の加齢関連変性疾患の治療のための脳組織内の銅、亜鉛および鉄沈着物の除去能力を有する。
【0016】
上記の説明は多くの特異性を含むけれども、これら特異性は、本発明の範囲を限定するものとしてではなく、本発明の現在のところ好ましい実施態様の例示として解釈すべきである。多くの他の選択枝および変更は、本発明の教示内で可能である。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその合法的等価物によって決定すべきであって、提示した実施例によるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フィチン酸(■)およびEDTA(◆)の溶解速度と比較した本発明のフィチンクエン酸塩化合物(フィチンヘキサクエン酸塩)(●)の溶解速度を示す。結果は、フィチンクエン酸塩が、フィチン酸およびEDTAに対して優れた溶解能力を示すことを実証している。
【図2】フィチン酸(■)およびEDTA(◆)の再溶解速度と比較した本発明のフィチンクエン酸塩化合物(フィチンヘキサクエン酸塩)(●)のFe2+の再溶解速度を示す。結果は、フィチンクエン酸が、フィチン酸およびEDTAに対して優れた再溶解能力を示すことを実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式によって示されることを特徴とする化学化合物またはその塩:
【化1】

(式中、Rは、Hまたはクエン酸塩であり;少なくとも1つのRは、クエン酸塩である)。
【請求項2】
上記化学化合物の上記塩が、Na+、K+、Ca2+、Mg2+およびCa2+Mg2+からなる群から選ばれる1つである二価イオンを含有する、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項3】
前記化学化合物が、結晶形にある、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項4】
前記化学化合物が、水溶液中に溶解している、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項5】
前記水溶液が、水である、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項6】
前記化学化合物が、キレート剤である、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項7】
前記化学化合物が、ナトリウム、カリウムまたはリチウム;マグネシウム、カルシウム、銅、鉄、鉛、亜鉛、アルミニウム、水銀、カドミウムまたはクロムをキレート化する、請求項6記載の化学化合物またはその塩。
【請求項8】
前記化学化合物またはその塩が、動脈プラーク溶解剤である、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項9】
前記化学化合物またはその塩が、宿主における加齢関連変性疾患の治療に対して治療効果を有する、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項10】
前記加齢関連変性疾患が、アルツハイマー病である、請求項1記載の化学化合物またはその塩。
【請求項11】
請求項1記載の化学化合物またはその塩と製薬上許容し得る担体とを含む製薬組成物。
【請求項12】
下記の工程、
フィチン酸の塩を水溶液に溶解させる工程、
クエン酸および/またはクエン酸塩を前記フィチン酸の溶解塩に添加し及び撹拌して、クエン酸化フィチン酸塩溶液を調製する工程、及び
前記クエン酸化フィチン酸塩溶液を結晶化して、前記化合物またはその塩を形成する工程、
を含むことを特徴とする、請求項1記載の化学化合物の製造方法。
【請求項13】
前記化学化合物が、フィチンモノクエン酸塩、フィチンジクエン酸塩、フィチントリクエン酸塩、フィチンテトラクエン酸塩、フィチンペンタクエン酸塩またはフィチンヘキサクエン酸塩である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記フィチンモノクエン酸塩、前記フィチンジクエン酸塩、前記フィチントリクエン酸塩、前記フィチンテトラクエン酸塩、前記フィチンペンタクエン酸塩または前記フィチンヘキサクエン酸塩が、それぞれ、フィチン酸の塩とクエン酸/クエン酸塩が、それぞれ、約1:1、1:2、1:3、1:4、1:5または1:6のモル比である場合に生成する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記フィチン酸の塩が、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸マグネシウム、フィチン酸カルシウムまたはフィチン酸カルシウムマグネシウムである、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記水溶液が、水である、請求項12記載の方法。
【請求項17】
前記クエン酸化フィチン酸塩を、加熱によって調製する、請求項12記載の方法。
【請求項18】
前記化学化合物またはその塩を、乾燥によって結晶化する、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−522286(P2009−522286A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548740(P2008−548740)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/049477
【国際公開番号】WO2007/079177
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(508196209)アイピー−6 リサーチ インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】