説明

新規なフルクトシルペプチドオキシダーゼとその利用

本発明は、植物由来の脱フルクトシル化酵素、これを用いたフルクトシル化ペプチド又はタンパク質からの脱フルクトシル化方法、及びフルクトシル化ペプチド及びタンパク質の測定方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質から、酵素により脱フルクトシル化する方法及びその作用を有する新規酵素、並びに該方法により得られた反応生成物を測定することによる、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質の測定方法に関する。
【背景技術】
ヘモグロビン(Hb)A1cは、そのβ鎖N末端バリンのアミノ基とグルコースのアルデヒド基が、非酵素的にシッフ塩基を形成した後、アマドリ転移を生じて安定化したアマドリ転移生成物であり、結果的にバリン残基にフルクトースが結合した構造を有する糖化タンパク質である。かかるHbA1cは、臨床的に過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映することから、糖尿病管理の指標として重要であり、迅速、簡便かつ正確で実用的な定量法が求められている。
IFCC(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine)は、ヘモグロビンをエンドプロテアーゼGlu−Cにより加水分解して得られる、フルクトシルバリンの存在が疑われるβ鎖N末端の6ペプチドフラグメントをHPLCにより分離した後、キャピラリー電気泳動法又は質量分析法で定量する方法をHbA1cの実用基準法(Kobold U.,et al;Candidate reference methods for hemoglobinA1c based on peptide mapping.Clin.Chem.,43,1944−1951(1997))としているが、この方法は、特別な装置を必要とするため、操作が煩雑で経済性が悪く、実用には不向きな方法である。
現在、実用に供されているHbA1cの測定方法は、疎水基あるいは陽イオン交換基をもった特殊な硬質ゲルを担体として使用するHPLC法や抗HbA1c抗体を使用するラテックス免疫凝集法などであるが、高価な機器を必要としたり、多段階の免疫反応を必要とするなど、迅速性、簡便性、正確性を必ずしも満足する方法ではなかった。
近年、糖化タンパク質をプロテアーゼで分解し、糖化アミノ酸に作用するフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)などの酵素を使用して、HbA1cやグリコアルブミンなどの糖化タンパク質を酵素法により測定しようとする方法が報告されている(特開平5−192193号、特開平7−289253号、特開平8−154672号、特開平6−046846号、特開平8−336386号、WO97/13872、WO02/06519、特開2001−054398号)。
これらの方法は、糖化タンパク質がHbA1c及びグリコアルブミンのいずれの場合であっても、FAODなどの酵素が、糖化タンパク質のままでは作用することが困難であるため、それぞれの糖化タンパク質に特徴的な糖化アミノ酸(HbA1cにおけるフルクトシルバリン、グリコアルブミンにおけるフルクトシルリジン)を糖化ペプチドあるいは糖化タンパク質より切り出して、FAODなどの基質とする方法である。したがって、FAODなどの基質となりうるように糖化アミノ酸を効率的に切り出す必要がある。
上記の目的のため、糖化タンパク質から糖化アミノ酸を効率的に切り出すプロテアーゼの探索が試みられ、多数のプロテアーゼが報告されているが、これらが実際に、糖化アミノ酸あるいは糖化アミノ酸を含むペプチドをどのように糖化タンパク質から切り出しているか、例えば、糖化タンパク質から、どのような長さのペプチド鎖が切り出されているかについては記載がなく、その意味から、前記記載が実用的なものであるか否かは不明であった。
一方、試料をプロテアーゼ処理し、遊離した糖化ペプチドに、糖化ペプチドオキシダーゼを作用させて、糖化タンパク質を測定しようとする方法が報告されている(特開2001−095598号)。しかしながら、この方法に使用されている糖化ペプチドオキシダーゼは、実質的には、フルクトシルジペプチドに対して作用するものであり、ジペプチドよりも長いフルクトシルペプチドに対しては有効でなく、従来のFAODなどを使用する場合と同様、基質となりうるフルクトシルジペプチドを効率よく切り出す必要があるという課題が残っていた。
また、FAODを他の酵素と組み合わせて使用した報告もある(特開2000−333696号)。しかし、この方法は、プロテアーゼで切り出した糖化アミノ酸にFAODを作用させた時に発生する過酸化水素と、同時に生成する糖化アミノ酸分解産物であるグルコソンにグルコースオキシダーゼを作用させて生成する過酸化水素の両方の過酸化水素を測定することによって、測定感度を向上させるものであり、長さの異なる糖化ペプチドについて、脱フルクトシル化を図るものではない。
【発明の開示】
したがって、本発明の目的は、HbA1c等のフルクトシル化タンパク質や当該フルクトシル化タンパク質をプロテアーゼにより分解させた時に切り出される種々の長さのフルクトシル化されたペプチドに対して、脱フルクトシル作用を有する酵素、当該酵素を用いた脱フルクトシル化方法及び当該脱フルクトシル化反応を利用したフルクトシル化されたペプチド又はタンパク質の測定方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、酵素を自然界から探索した結果、今までに報告されているFAODなどの脱フルクトシル作用を有する酵素が微生物由来であったのに対して、植物中にも脱フルクトシル作用を有する酵素が存在し、かつ当該植物由来の酵素は、フルクトシルペプチドのペプチド鎖の長さに係わらず脱フルクトシル作用を発揮することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質に、植物から抽出された脱フルクトシル作用を有する酵素を作用させることを特徴とする脱フルクトシル化方法を提供するものである。
また本発明は、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質に対して、脱フルクトシル作用を有する酵素であって、植物由来である酵素を提供するものである。
さらに本発明は、前記の脱フルクトシル化方法により得られた反応生成物の1種又は2種以上を測定することを特徴とするフルクトシル化されているペプチド又はタンパク質の測定方法を提供するものである。
本発明の脱フルクトシル化酵素により、N末端のバリンがフルクトシル化されているペプチド又はタンパク質から脱フルクトシル化することができる。さらに、反応生成物を定量することによって、N末端のバリンがフルクトシル化されているペプチド、タンパク質、タンパク質のサブユニット等、例えばHbA1c等が正確に定量できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ショウガ科植物由来脱フルクトシル化酵素をフルクトシルトリペプチド(f−VHL)に作用させた反応液1のキャピラリー電気泳動結果を示す図である。
図2は、精製水をフルクトシルトリペプチド(f−VHL)に作用させた対照液1のキャピラリー電気泳動結果を示す図である。
図3は、ショウガ科植物由来酵素の各pHにおける相対活性を示す図である。
図4は、ショウガ科植物由来酵素の各pH安定性を示す図である。
図5は、ショウガ科植物由来酵素の各温度における相対活性を示す図である。
図6は、ショウガ科植物由来酵素の温度安定性を示す図である。
図7は、本発明植物由来の脱フルクトシル化酵素を用いたフルクトシルペプチドの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本明細書において「脱フルクトシル」とは、フルクトシルアミノ酸又はフルクトシルペプチド(即ち、フルクトシル化されているアミノ酸又はペプチド)から、フルクトシル部分が酸化分解等を起こし、その結果、フルクトシル化されていないアミノ酸又はペプチドを生成することを意味する。
本発明に用いられる酵素(「脱フルクトシル化酵素」という)としては、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質に対して、脱フルクトシル作用を有する酵素であれば、特に制限されないが、様々な長さのフルクトシルペプチドに作用することから、植物由来の脱フルクトシル化酵素が好ましい。また、本発明の脱フルクトシル化酵素としては、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質からグルコソン及び脱フルクトシルペプチド又はタンパク質を生成する酵素が好ましい。さらに、本発明酵素が含まれている植物としては、特に制限はないが、ショウガ科に属する植物が、特に好ましい。ショウガ科に属する植物としては、生姜、茗荷、ウコンなどが挙げられる。また、本発明酵素の植物からの抽出に際しては、脱フルクトシル化酵素が含まれている部位であれば特に制限されず、葉、茎、花、根茎、根などの部位が利用できる。また、これらの植物の加工品、例えば、抽出液のジュースや凍結乾燥製剤なども利用できる。
上記植物から、脱フルクトシル化酵素を抽出する方法としては、上記植物を直接破砕して、圧搾等の処理により抽出液を得ることもできるが、適当な緩衝液等を加えてから破砕し、抽出することもできる。本発明においては、抽出液を用いることも可能であるが、精製した方がより好ましい。精製方法としては、公知の方法が利用でき、硫安分画やイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトゲル、ゲル濾過等のカラムクロマトグラフィーを適宜組み合わせて使用することが出来る。また、植物抽出液中のポリフェノールの影響を除く為に、還元剤の添加や高分子吸収体での処理などを組み合わせることも可能である。
本発明の酵素の一つであるショウガ科植物由来酵素は、以下の(a)〜(g)の理化学的性質を有する。
a)作用:酸素の存在下で、フルクトシルバリン及びフルクトシルペプチド(少なくとも、配列番号1〜5)に作用し、対応するバリン或いは非フルクトシルペプチドとグルコソン及び過酸化水素を生成する反応を触媒する。
b)至適pH:8.0〜9.0。
c)安定pHの範囲:pH6.0〜7.0。
d)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値が、1.2mMである。
e)至適温度の範囲:60℃以上。
f)温度安定性:50℃、15分間の熱処理で80%以上の活性が残存。
g)分子量:27kDa付近(ゲル濾過法)。
これらの性質から、この酵素はフルクトシルペプチドオキシダーゼであると考えられる。
本発明酵素の活性測定方法としては、フルクトシルペプチドを基質とし、酵素反応によって生成する非フルクトシルペプチドとグルコソン及び過酸化水素の内、いずれか1つの生成量を測定する方法が挙げられる。以下に一例として、グルコソン量を測定する方法について示す。以下、本発明酵素の酵素活性測定には、断わりのない限り、フルクトシルバリルヒスチジンを基質として用いる。尚、酵素力価は、フルクトシルバリルヒスチジンを基質として測定したとき、1分間に1μmolのグルコソンを生成する酵素量を1単位(U)と定義する。
酵素の活性測定方法
(グルコソンの生成)
200mMリン酸緩衝液(pH8.0)150μL、精製水360μL及び基質として10mMフルクトシルバリルヒスチジンを60μL混和し、本発明酵素液を30μL加えて、37℃で5〜60分間加温する。
(グルコソンの測定)
予め用意した、200mM酢酸緩衝液(pH6.0)750μL、4000u/mLグルコースオキシダーゼ(東洋紡社)450μL、0.15%4−アミノアンチピリン300μL、0.3%TOOS(同仁化学社)300μL、500u/mLパーオキシダーゼ(東洋紡社、TypeIII)300μL及び1%アジ化ナトリウム300μLを混和した液を加え、37℃で10分間加温後、550nmにおける吸光度を測定する。基質の代わりに精製水を加える以外は、上記と同様の操作を行い対照とする。生成色素量のグルコソン量への換算は、グルコースの希釈系列を基質とし、本発明酵素液の代わりに精製水を加えて、上記操作を行い作成した検量線より、1分間当たりに生成されるグルコソンのマイクロモルを計算し、この数値を酵素液中の活性単位とする。
本発明の脱フルクトシル化酵素によれば、例えば糖化タンパク質をプロテアーゼ分解した際に、様々な長さのフルクトシルペプチドが生成されたとしても、本発明酵素はこれらのすべてに作用する為、細断するための別のプロテアーゼの追加や処理時間を費やすことがなくなり、糖化タンパク質測定の効率化が図れる。また、臨床検査だけでなく、医療など様々な分野に応用が可能である。尚、本発明の脱フルクトシル化酵素は、基質であるフルクトシルペプチドから脱フルクトシル化する際に、FAODのように酸化分解を行い、過酸化水素やグルコソン等を発生させる作用を有しているので、生成する過酸化水素を、公知のペルオキシダーゼ等を用いた酵素的測定系に導けるため、特に好ましい。本発明の脱フルクトシル化方法に用いるフルクトシル化ペプチド又はフルクトシル化タンパク質は、脱フルクトシル化酵素が作用するものであれば特に制限されないが、ヘモグロビンのβ鎖N末端バリンがフルクトシル化されているフルクトシルペプチド及びHbA1cであることが特に好ましい。また、N末端のバリンがフルクトシル化されているペプチドとしては、アミノ酸数には限定されないが、そのアミノ酸配列が配列番号1〜5で表されるものが特に好ましい。
上記N末端のバリンがフルクトシル化されているペプチドは、かかる配列を有するペプチド又はタンパク質、例えばHbA1cを、適当なエンドプロテアーゼ又はエキソプロテアーゼ等を用いて処理することにより、調製することができる。これらプロテアーゼとしては、例えばエラスターゼ、プロテイナーゼK、ペプシン、アルカリプロテアーゼ、トリプシン、プロリン特異エンドプロテアーゼ、V8プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB等が挙げられる。上記調製のためのこれらプロテアーゼの活性量としては、0.05〜10000U/mL、特に10〜2000U/mLが好ましい。
フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質に、本発明のショウガ科植物由来の脱フルクトシル化酵素を作用させる条件のうち処理温度は、20〜60℃、特に30〜50℃が好ましい。また、処理時間は、3分〜100時間、特に5分〜20時間が好ましい。かかる処理により、過酸化水素、グルコソン及び脱フルクトシルペプチドを含む反応生成物を得ることができる。従って、当該生成物の1種又は2種以上を測定すれば、フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質を測定することができる。
また、本発明のショウガ科植物由来の脱フルクトシル化酵素活性の確認並びにフルクトシル化されているペプチド又はタンパク質の測定方法としては、生成した脱フルクトシルペプチドを、HPLCやキャピラリー電気泳動により分離同定することによって検出してもよいが、脱フルクトシルペプチドに適当なカルボキシペプチダーゼを作用させ、遊離してくるアミノ酸を検出、測定してもよい。例えば、N末端のバリンがフルクトシル化された配列番号5のペプチドを使用した場合には、カルボキシペプチダーゼの作用により、グルタミン酸(Glu)、プロリン(Pro)、スレオニン(Thr)、ロイシン(Leu)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)を生成させることが出来るが、その中で、Gluはグルタミン酸脱水素酵素、Leuはロイシン脱水素酵素、Valはバリン脱水素酵素を用いて、
NADH又はNADPHの生成量を測定することによって検出、測定することも可能である。さらに、同時に生成するグルコソンに関しては、グルコースオキシダーゼを使用して、発生する過酸化水素を、公知のペルオキシダーゼ発色系を用いて、検出、測定することが出来る。また、脱フルクトシル反応の際に、過酸化水素が生成する脱フルクトシル化酵素を用いた場合は、直接生成した過酸化水素を、ペルオキシダーゼ発色系を用いて、検出、測定することも可能である。
ペルオキシダーゼ(POD)発色系は、特に制限はないが、反応系に色原体及びPODを添加し、該色原体を酸化して発色物質を生成させ、これを測定する方法が好適である。この色原体としては、4−アミノアンチピリンと、フェノール系化合物、ナフトール化合物又はアニリン系化合物との組み合わせ、MBTH(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン)とアニリン系化合物との組み合わせ、ロイコメチレンブルー等が用いられる。また、特許第2516381号に記載されているように、POD存在下にて過酸化水素と2価のコバルトイオンとの反応により生じた3価のコバルトイオンを、3価のコバルトイオンに特異的な指示薬、例えばTASBB(2−(2−チアゾリルアゾ)−5−ジスルフォブチルアミノ安息香酸三ナトリウム塩)と組み合わせ、発色キレート化合物を生成させ、これを測定する方法も利用できる。これによれば、上記方法の5〜10倍の測定感度を得ることができる。また、過酸化水素を検出する試薬として、高感度に測定可能なTPM−PS(N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサ(3−スルフォプロピル)−4,4’,4”−トリアミノトリフェニルメタン)(同仁化学社製)等も利用できる。
本発明方法を用いれば、N末端のバリンがフルクトシル化されているペプチド又はタンパク質、例えばHbA1cを極めて高精度で定量することができる。ここでHbA1cの定量に使用される被験試料としては、例えば全血、赤血球等が挙げられる。
【実施例】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
ショウガ科植物由来脱フルクトシル化酵素の調製
生姜根茎を、直接ジューサーにて破砕し、放置の後、遠心分離により固形物を除去し、粗抽出液を得た。この粗抽出液に、濾過助剤としてセライト545(商標名、ナカライテスク社製)を添加して攪拌後、濾紙を用いて吸引濾過を行った。濾液を再度、遠心分離し、抽出液を得た。得られた抽出液に、冷エタノールを等量添加し、沈殿を形成させた。得られた沈殿を、少量の20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させ、DEAEトヨパールカラム(東ソー社製)に添加し、その非吸着画分を集めた。必要により、限外濾過濃縮を行い、これを粗精製酵素とした。
【実施例2】
フルクトシルペプチドの脱フルクトシル化方法
(i)100mMリン緩衝液(pH8.0)100μLに、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するN末端のバリンがフルクトシル化されているペプチド(f−VHL:バイオクエスト社製)の500μM水溶液40μL、精製水20μLおよび実施例1で得られたショウガ科植物由来の粗精製酵素の溶液40μLを加え、混和後、37℃で16時間反応させた。この反応液を、分子量10000の限外濾過を行い、濾液を分取した(反応液1)。この反応液1を、キャピラリー電気泳動装置CAPI−3200(大塚電子社製)にて、泳動緩衝液:150mMリン酸緩衝液(pH2.0)、電圧:15kv、検出波長:210nmの条件で分析を行い、ピーク位置およびピーク面積を測定した。
(ii)対照試験
対照として、粗精製酵素溶液の代わりに、精製水を加え、同じ条件にて反応させ濾液を得た(対照液1)。この対照液1の分析結果を反応液1の結果と比較した。
尚、酵素反応及び対照試験に用いたフルクトシルペプチドには、非フルクトシルペプチドが含まれており、2種のピークの変化で、酵素活性の有無を検出した。
反応液1の結果を図1に示す。対照液の結果を図2に示す。図2では、f−VHLに由来するピーク(面積:32mABU×sec)及びVHLに由来するピーク(面積:22mABU×sec)が認められているが、図1では、f−VHLのピークが消失し、VHLのピークが増加(面積:32mABU×sec)しているのが確認された。
この結果から、ショウガ科植物由来脱フルクトシル化酵素を使用することにより、フルクトシルペプチドから脱フルクトシル化することができることが分かった。
【実施例3】
本発明の酵素の一つであるショウガ科植物由来酵素の理化学的な性質は、下記の通りであった。
a)作用及び基質特異性
基質としてフルクトシルアミノ酸(フルクトシルバリン)溶液及びフルクトシルペプチド溶液(少なくとも、配列番号1〜5)を用いて、酵素活性を測定した結果、フルクトシルバリン及び少なくとも、配列番号1〜5のフルクトシルペプチドに作用することが認められた。
b)至適pH
前述した酵素の活性測定方法におけるグルコソンの生成工程の緩衝液として、200mM酢酸緩衝液(pH4.0〜6.0)、200mMリン酸緩衝液(pH6.0〜8.0)、200mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0〜9.0)を用い、各pHにおいて、酵素活性を測定した。その結果を図3に示す。ショウガ科植物由来の本発明酵素活性は、リン酸緩衝液のpH8.0及び、トリス塩酸緩衝液のpH9.0で最も高い活性を示したことから、ショウガ科植物由来酵素の至適pHは、8.0〜9.0であると判断した。
c)安定pHの範囲
50mM酢酸緩衝液(pH4.0〜6.0)、50mMリン酸緩衝液(pH6.0〜8.0)、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0〜9.0)の各条件下で、60℃、15分間処理した後の残存酵素活性を測定した。結果を図4に示す。最も高い残存活性を示したpHは、6.0〜7.0である。以上のことから、ショウガ科植物由来酵素の安定pH範囲は、pH6.0〜7.0であると判断した。
d)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値
前述した酵素の活性測定方法において、基質であるフルクトシルバリルヒスチジン濃度を変化させて活性測定を行い、ラインウェーバー・バークプロットから、ミカエリス定数(Km)を求めた。この結果、フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値は、1.2mMであることが判明した。
e)至適温度の範囲
前述した酵素の活性測定方法において、反応温度0℃〜60℃にて活性測定を行った。その結果を図5に示す。検討した温度範囲において、活性は反応温度の上昇に伴い増加傾向を示し、低下が認められなかったことから、ショウガ科植物由来酵素の至適温度は、60℃以上とした。
f)温度安定性
50mMリン酸緩衝液(pH8.0)の条件下で、各温度で15分間処理した後の残存酵素活性を測定した。結果を図6に示す。50℃、15分間の熱処理で80%以上の活性が残存しており、50℃付近までは安定であった。
g)分子量
実施例1で得られた粗酵素液に対して、Sephacryl S−200(Amersham Bioscience社)を用いるゲル濾過クロマトグラフィーを実施した。溶離液には、150mMのNaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH6.0)を使用し、Sephacryl S−200カラムの分子量較正はGel filtration calibration Kit(Amersham Bioscience社)を用いて行った。その結果、ショウガ由来酵素の分子量は、27kDa付近と算出された。この27kDa付近の酵素液を用いて、以下の検討を行った。尚、酵素反応は、前述した活性測定法のグルコソンの生成工程において、酵素液として1.6単位/mLのものを用い、反応は37℃で60分間行った。
【実施例4】
フルクトシルペプチドの測定方法
200mMリン酸緩衝液(pH8.0)150μL、精製水360μL及び反応時の終濃度が0〜40μMとなるようにフルクトシルバリルヒスチジン水溶液60μLをそれぞれ加え、さらにショウガ由来の酵素液(1.6u/mL)30μLを加え、混和後、37℃で16時間反応させた。次に、予め200mM酢酸緩衝液(pH6.0)750μL、4000u/mLグルコースオキシダーゼ(東洋紡社)450μL、0.15%4−アミノアンチピリン300μL、0.3%TOOS(同仁化学社)300μL、500u/mLパーオキシダーゼ(東洋紡社、TypeIII)300μL及び1%アジ化ナトリウム300μLを混和した液を用意し、上記反応液に加え、37℃で10分間加温後、550nmにおける吸光度を測定した(図7)。フルクトシルバリルヒスチジンの濃度依存的な吸光度増加が観察されたことから、本発明のショウガ由来酵素作用により、フルクトシルペプチドから、グルコソンが生成することが確認され、さらに、本実施例の方法により、フルクトシルペプチドを測定することが出来ることも分かった。
【実施例5】
終濃度で0.5mM DA−64(和光純薬工業社製)、200u/mL POD、0.1%アジ化ナトリウム及び1mMフルクトシルバリン或いはフルクトシルペプチド(配列番号1〜5)を含有する50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に、ショウガ酵素液を終濃度として0.3u/mLを添加し、50℃で30分間加温後、精製水を対照にして700nmの吸光度を測定したところ、DA−64の発色が認められた(表1)ことから、過酸化水素が生成していることを認めた。

【配列表】



【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質に、植物から抽出された脱フルクトシル作用を有する酵素を作用させることを特徴とする脱フルクトシル化方法。
【請求項2】
植物から抽出された脱フルクトシル作用を有する酵素が、ショウガ科に属する植物から抽出されたものである請求項1記載の脱フルクトシル化方法。
【請求項3】
フルクトシル化されているペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1〜5のいずれかで表されるものである請求項1又は2記載の脱フルクトシル化方法。
【請求項4】
フルクトシル化されているタンパク質が、ヘモグロビンA1cである請求項1〜3のいずれか1項記載の脱フルクトシル化方法。
【請求項5】
フルクトシル化されているペプチド又はタンパク質に対して、脱フルクトシル作用を有する酵素であって、植物由来である酵素。
【請求項6】
植物が、ショウガ科に属する植物である請求項5記載の酵素。
【請求項7】
次のa)〜h)の理化学的性質を有するものである請求項5又は6記載の酵素。
a)作用:酸素の存在下で、フルクトシルバリン及びフルクトシルペプチド(少なくとも、配列番号1〜5)に作用し、少なくとも対応するバリン或いは非フルクトシルペプチドとグルコソン及び過酸化水素を生成する反応を触媒する。
b)至適pH:8.0〜9.0。
c)安定pHの範囲:pH6.0〜7.0。
d)フルクトシルバリルヒスチジンに対するKm値が、1.2mMである。
e)至適温度の範囲:60℃以上。
f)温度安定性:50℃、15分間の熱処理で80%以上の活性が残存。
g)分子量:27kDa付近(ゲル濾過法)。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項記載の脱フルクトシル化方法により得られた反応生成物の1種又は2種以上を測定することを特徴とするフルクトシル化されているペプチド又はタンパク質の測定方法。
【請求項9】
脱フルクトシル化方法により得られた反応生成物が、過酸化水素、グルコソン及び脱フルクトシルペプチドである請求項8記載のフルクトシル化されているペプチド又はタンパク質の測定方法。

【国際公開番号】WO2004/038034
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546460(P2004−546460)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013548
【国際出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【Fターム(参考)】