説明

新規なヘルパーT細胞抗原決定基(THD)ペプチド

本発明は、HLA-DR分子の少なくとも1つの対立遺伝子型に結合することができるキメラペプチドに関する。本発明はまた、前記ペプチドを含有する医薬組成物ならびにその様々な使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルパーT細胞応答(Thl)を刺激することができる抗原性ペプチドを決定する分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ヘルパーTリンパ球(Thl)は、病原体に対する免疫において様々な重要な働きを行う。第一に、体液性応答または細胞傷害性の細胞応答のいずれかの効果的なエフェクター免疫反応を誘導するには、Thl、より具体的にはThlの特定の亜集団(Th1、Th2、Th0)の活性化が必要である。第二に、Thlはエフェクター細胞として直接作用することも可能であり、その活性は細胞の直接的接触、またはリンホカイン(IFN-γ、TNF-αなど)の放出によって仲介される。このように、ヘルパーT細胞(Th)応答の刺激は、ワクチンの開発と非常に関連性のある局面の1つである。
【0003】
刺激作用を達成するために、Thlが、その表面上に位置する特異的レセプター(TCR)を介して、クラスII MHC分子と抗原性ペプチド間に形成された複合体を認識することはよく知られている。クラスII MHC分子に結合するこれらのペプチドは、ThエピトープまたはTh抗原決定基(Thd)としても知られており、典型的には11から22アミノ酸、より頻繁には13から16アミノ酸の大きさを有する。
【0004】
近年、新しいワクチンの開発および免疫治療戦略における潜在的なツールとして、エピトープに基づくワクチンにかなりの関心が起こっている。BおよびT細胞に対するエピトープを注意深く選択することにより、配列多様性が高いことを特徴とする特定の病原体(例えばマラリア、C型肝炎ウイルス、HIVなど)に保存的なエピトープに対して免疫応答を起こさせることができるはずである。
【0005】
さらに、エピトープに基づくワクチンを用いると、主要組織適合複合体、MHC分子との結合能を増大させる、またはT細胞のTCRレセプターとの接触残基を改変する、または両方の特性を改変することによってワクチンの刺激作用強度を調節するために生産されたキメラThdを、ワクチンに含ませる機会が得られる。これらのペプチドはキメラであるため、その配列が体内の抗原に含まれることはほとんどなく、この理由から、その配列を用いた後にそのペプチドに対して抗体が誘導されても、体内の抗原に対する望ましくない応答を誘導する可能性はほとんどないであろう。
【0006】
しかしながら、適切なエピトープの予測および選択には以下の重要な障害が立ちはだかる:エピトープ結合領域およびThl認識に非常に著しく影響する非常に多数の多形がMHC分子に存在すること。この多形性は、MHC組織適合性の多遺伝子性およびこれらの各遺伝子座について存在する多数の対立遺伝子多形の結果として生じる。このように、例えば、ヒトクラスII MHCは、HLA-DR、HLA-DPおよびHLA-DQと呼ばれる3対の遺伝子(各対はそれぞれのα鎖およびβ鎖を有する)を含み、これにより4つの基本的なタイプのクラスII HLA分子が生じる。一般的な概説は、入門書「Immunobiology−The immune system in health and disease(免疫生物学−健康および疾患状態の免疫系)」;Janeway CA JrおよびTravers P編;Current Biology Ltd / Garland Publishing Inc., London, 1997第3版に見ることができる。この多形性により、多数の異なるMHC分子の発現が引き起こされ、エピトープの結合についてそれぞれが異なる特異性の範囲を有する(MHC拘束性)。
【0007】
エピトープへの結合溝周囲の特定の対立遺伝子多形の残基により、特定のペプチドセットへの結合能がMHC分子に生じるが、同じペプチドがMHC分子の2以上の対立遺伝子型へ結合できる場合がいくつかある。このことは特にHLA-DR分子について検証されており、特定のペプチドが異なるHLA-DR分子に認識されることが確認されているので、様々な対立遺伝子型のHLA-DRが同様のペプチドモチーフを同時に認識し得る。これにより、特定のペプチドが乱交雑性または汎用性のエピトープを表し得るという考えが導かれた。
【0008】
こうして、種々のアルゴリズムを用いることでエピトープの選択に有用な様々なモチーフを規定することが可能となり、HLA分子、より具体的にはHLA-DRのかなり多数のイソ型により認識される、いくつかの汎用性エピトープが同定された(国際公開第95/07707号パンフレット;Alexander J et al. Immunity, 1994, 1:751-761;国際公開第98/32456号パンフレット)。
【0009】
この最後のタイプのより乱交雑性のペプチドは、多種多様な健常個体において体液性および細胞性応答を誘導するのに非常に有用であり得、各個体のHLA-DRに応じて特別なペプチドを選択する必要がなくなる可能性がある。
【0010】
これらの乱交雑性PADREペプチドのセットは既に入手可能であるが(Alexander J et al. Immunity, 1994, 1:751-761)、新規な乱交雑性キメラペプチドの同定に対する関心は続いている。これらのペプチドは全ていくつかのHLA-DRにより認識されるモチーフを共有するのではあるが、一部のペプチドは特定のHLA-DRに対して他のペプチドよりも適している可能性があるために、この関心は生じている。結果として、HLA-DR全体と比較して応答誘導をより良好にカバーする、より広範囲の乱交雑性ペプチドを得ることは非常に有用であると考えられる。さらに、他のHLA-DPおよびHLA-DQアイソタイプによって結合、認識され得るペプチドを同定することも望ましい。これにより、広範な個体に対するワクチンおよび免疫治療製剤を作製することが可能となるであろう。
【発明の開示】
【0011】
[発明の詳細な説明]
様々なHLA-DR分子に強く結合する能力を持ち、その結果抗体ならびに細胞傷害性T細胞応答の誘導を促進することができる新規なキメラペプチドを同定するために、13アミノ酸のペプチドセットを合成した。このために、発明者ら自身が出発参照配列として報告した8アミノ酸モチーフを用いて案出した配列式またはテンプレートを確立した(Borras-Cuesta F. et al.; Specific and general HLA-DR binding motifs: comparison algorithms(特異的および一般的HLA-DR結合モチーフ:比較アルゴリズム);Human Immunol., 2000; 61:266-278)。
【0012】
まず初めに、以下の式に適合する配列のペプチドを合成した:
I) a1−a2−Y−R−a5−M−a7−R−a9−R−A−A−A;
ここで、YはTyrであり;RはArgであり;MはMetであり;AはAlaであり;a1はPheまたはTyrであり;a2はLysまたはArgであり;a5、a7およびa9は20の天然アミノ酸のいずれかである。
【0013】
全ての場合において、3位の残基において初めのアンカーとしてチロシンを用いた(上記モチーフの初めに説明した残基)。さらに、Thdのほとんどにおいて典型的な13アミノ酸長に達するように(Chicz R.M. et al.; Predominant naturally processed peptides bound to HLA-DR1 are derived from MHC-related molecules and are heterogeneous in size(HLA-DR1に結合する主な自然に処理されたペプチドは、MHC関連分子に由来し、サイズが不均一である); Nature, 1992; 358: 764-768)、核となる8アミノ酸のC末端に3つのアラニンを付加し、N末端にさらに2アミノ酸を以下のように付加した:1位の残基に芳香族性アミノ酸(フェニルアラニンまたはチロシン)、2位の残基に正電荷を有するアミノ酸(リシンまたはアルギニン)。1位の残基にフェニルアラニンまたはチロシンを用いると、さらなるアンカーポイントが得られる。
【0014】
さらに、前記の式において4、6、8および10位のペプチドを占めるアミノ酸を固定した。
【0015】
ペプチドの合成および評価のための他の式を第1式から確立し、ここでは前述の4、6、8および10位に固定された4アミノ酸のうち2つを可変として可能性を残した。試験した式は以下であった:
II) a1−a2−Y−R−a5−M−a7−a8−a9−a10−A−A−A;
III) a1−a2−Y−a4−a5−M−a7−a8−a9−R−A−A−A;
IV) a1−a2−Y−R−a5−a6−a7−a8−a9−R−A−A−A;
ここで、YはTyrであり;RはArgであり;MはMetであり;AはAlaであり;a1はPheまたはTyrであり;a2はLysまたはArgであり;a4は20の天然アミノ酸のいずれかであり;a5、a7およびa9は20の天然アミノ酸のうちArgを除いたいずれかであり;a6は20の天然アミノ酸のうちMetを除いたいずれかであり;a8は20の天然アミノ酸のうちArgを除いたいずれかであり;a10は20の天然アミノ酸のうちArgを除いたいずれかである。
【0016】
また、以下の配列のペプチドも合成した:
V) 配列番号21
ここで、アミノ酸は、初めに固定した位置のうち、6位のメチオニンはそのままに、3つを変化させた。
【0017】
比較のために、同様に初めのアンカーとしてチロシンを有し、核の残りの位置の大部分にHLA-DRへの結合に向くアミノ酸を有する、8および9アミノ酸の短いペプチドをさらに合成した。
【0018】
合成した後、HLA-DR分子の様々な対立遺伝子型に強く結合する能力について評価した結果、その大多数が少なくとも1つの対立遺伝子型に強く結合することが可能であった。
【0019】
一般的な配列は上記の配列を用いた。従って、第1の態様において、本発明は、HLA-DR分子の少なくとも1つの対立遺伝子型への結合能を有し、以下から選択される式に適合するアミノ酸配列であることを特徴とするキメラペプチドに関する:
a) a1−a2−Y−a4−a5−a6−a7−a8−a9−a10−A−A−A;および
b) 配列番号21;
ここで、YはTyrであり;AはAlaであり;a1はPheまたはTyrであり;a2はLysまたはArgであり;a4はArgであり、ただしa6およびa10がそれぞれMetおよびArgである場合、a4はいずれの天然アミノ酸であってもよく;a5、a7およびa9は20の天然アミノ酸のいずれかであり;a6はMetであり、ただしa4およびa10がArgである場合、a6はいずれかの天然アミノ酸であり;a8はArgであり、ただしa4がArg、TyrまたはHisであり、a6がMetまたはValであり、a10がMet、HisまたはArgである場合、a8はいずれかの天然アミノ酸であり;a10はArgである、ただしa4がArgまたはHisであり、a6がMetである場合、a10はいずれかの天然アミノ酸である。
【0020】
従って、本発明の第2の局面は、HLA-DR分子の少なくとも1つの対立遺伝子型への結合能を有する、前記式I)、II)、III)およびIV)の1つに適合するアミノ酸配列のキメラペプチドに関する。以後、このペプチドを「本発明のキメラペプチド」または「本発明のペプチド」と称する。特定の態様において、HLA-DR対立遺伝子型は、HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8またはHLA-DR11血清型と対応する。
【0021】
特定の態様において、本発明のキメラペプチドは、異なる血清型のHLA-DRの少なくとも2つの対立遺伝子型、好ましくはこれらの3、4、5、6またはさらに7つの対立遺伝子型と強く結合する。
【0022】
いくつかの場合において、本発明のキメラペプチドは、クラスII HLA分子の他のアイソタイプ、例えばHLA-DPまたはHLA-DQとも結合することができる。特定の態様において、それらはHLA-DQのいくつかの対立遺伝子型とも結合する。
【0023】
好ましい態様において、本発明のキメラペプチドは、Th抗原性エピトープまたは抗原決定基(Thd)として働く。ThまたはThd決定基なる用語は、明確な区別なく用いられ、HLA分子と結合した前記ペプチドがThリンパ球に認識され、そのThリンパ球またはヘルパーT細胞の活性化(Th応答)を誘導することができることを意味する。この活性化は、Thリンパ球の増殖を誘導する能力およびこれらのThリンパ球の特定のリンホカイン、例えばIL-4、IFN-γまたはTNF-αの産生を誘導する能力によって証明される。誘導されたTh応答は、Th1もしくはTh2応答、またはTh0混合応答であり得る。本発明のペプチドのThdとして働く能力は、示されたHLA-DR、HLA-DPまたはHLA-DQの少なくとも1つの型と作用することにより可能となる。
【0024】
好ましくは、本発明のキメラペプチドは、効果的な体液性応答または細胞傷害性T細胞応答を誘導することも可能である。一態様において、その応答はCT応答である。
【0025】
特定の態様において、本発明のキメラペプチドは、配列番号1、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号20または配列番号22の配列のペプチドである。
【0026】
本発明のキメラペプチドは、従来法によって、例えば、固相化学合成技術;高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による精製によって得ることができ;必要であれば、従来技術を用いて、例えばシーケンシングまたは質量スペクトル分析法、アミノ酸解析、核磁気共鳴などによって分析することができる。あるいは、本発明のペプチドは組換えDNA技術によっても得ることができる。
【0027】
本発明のキメラペプチドは、対象(男性、女性または他のいずれかの哺乳動物)へ免疫予防または免疫療法の目的で投与するために用いることができる。従って、別の局面において、本発明は、1つの(または複数の)本発明のキメラペプチドおよびおよび製薬的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物にも関する。
【0028】
特定の態様において、1つの(または複数の)本発明のキメラペプチドは、本発明のキメラペプチドとは異なる別のまたは他の免疫原と免疫賦活的に組み合わせて投与することができる。この組み合わせは単一医薬組成物の形態、あるいは同時投与または同じ投与経路もしくは異なる投与経路による逐次投与による組み合わせ投与のための別個の医薬組成物の形態に含ませることができる。従って、本発明は、本発明のキメラペプチドおよび別の免疫原を含むことを特徴とする医薬組成物にも関する。
【0029】
「免疫原」なる用語は、その免疫原への特異的免疫学的応答(体液性:抗体の産生;または細胞性:Thリンパ球の活性化、CTリンパ球の活性化など)を誘導することができる分子に関する。免疫原は、化学的性質に応じて、たいてい以下のいずれかの分子であり得る:例えば、ポリペプチド、リポペプチド、オリゴ糖、多糖、核酸、脂質または薬物のような他の化学物質。免疫原は、起源に応じて、例えば病原体(ウイルス、細菌、真菌、寄生虫など)に由来する、腫瘍細胞から生じる、合成により生じる(薬物または他の合成化合物)、または他のいずれかの起源(例えばアレルゲン)から生じるものがあり得る。いくつかの場合、免疫原はタンパク質性(proteic)抗原決定基、例えばTh抗原決定基またはCT抗原決定基である。
【0030】
より具体的な態様において、本発明の医薬組成物は、細胞傷害性T細胞決定基(CTd)、およびヘルパーT細胞決定基(Thd)として働く1つの(または複数の)本発明のキメラペプチドを含有する。
【0031】
医薬組成物が本発明のキメラペプチドおよび別のまたは他の免疫原を含有する場合、これらは、別個の分子として、または例えば共有結合によるコンジュゲート形態として存在し得る。コンジュゲーションは例えば以下に記載されている様々な従来法により行うことができる:「The current protocols in protein chemistry(タンパク質化学の最新プロトコール)」、John Wiley&Sons出版(定期的に更新される;最後の更新は2005年5月1日);「Immobilized affinity ligand Techniques(リガンド固定化アフィニティー技術)」、GT Hermanson、AK MalliaおよびPK Smith、Academic Press, Inc. San Diego, CA, 1992;欧州特許第0876398号明細書;その他。
【0032】
本発明のキメラペプチドを含む医薬組成物は、担体、賦形剤および他の製薬的に許容される成分をさらに含有し得る。
【0033】
別のさらなる局面において、本発明はさらに、免疫賦活性の医薬組成物の調製における1つの(または複数の)本発明のキメラペプチドの使用に関する。この医薬組成物は、前述のように同じ組成物または別個の組成物において、キメラペプチドと組み合わせて投与される免疫原に対する特異的免疫応答を誘導するために用いられ得る。この方法において、本発明のキメラペプチドは、医薬組成物を投与する対象においてTh応答(Thリンパ球活性化)を誘導するために用いられる。この応答はTh 1もしくはTh2応答またはTh0混合応答であり得る。
【0034】
特定の態様において、このTh応答はBリンパ球の活性化に貢献し、それゆえ、本キメラペプチドを含む医薬組成物は体液性免疫応答の誘導に有用である。
【0035】
別の態様において、Th応答はCTリンパ球の活性化に貢献し、それゆえ、本医薬組成物は細胞傷害性T細胞応答(CT)の誘導に有用である。
【0036】
さらに、本発明のキメラペプチドを含む免疫賦活性の医薬組成物は、例えば治療目的のための樹状細胞のイン・ビトロ処置または前条件付けのような、他の用途もあり得る。
【0037】
結果として、本発明のキメラペプチドを含有する免疫賦活性の医薬組成物は、感染(細菌、ウイルス、真菌または寄生虫感染)、腫瘤またはアレルギー性疾患の治療および予防に有用である。
【0038】
本発明の免疫賦活性の医薬組成物は、いずれかの動物またはヒト対象に適用することができる:例えば哺乳類(ヒトその他)、鳥類など。このために、当分野の既知の従来法に従って、いずれかの適切な投与経路を用いることができる。薬物投与の種々の製薬形態およびその医薬組成物の製造に必要な種々の賦形剤の概説は、例えば以下に見ることができる:「Tecnologia farmaceutica(製薬技術)」、J.L. Vila Jato編、1997、第I巻および第II巻、Synthesis、Madrid;または「Handbook of pharmaceutical manufacturing formulations(医薬製造処方ハンドブック)」、S.K. Niazi、2004、第I巻から第VI巻、CRC Press, Boca Raton。特定の態様において、本医薬組成物は、非経口経路(例えば静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内)、経皮、粘膜などにより投与する。
【0039】
本発明はまた、1つの(または複数の)本発明のキメラペプチドを含む医薬組成物を対象へ投与することを含む治療法および/または予防法を提供する。この方法により対象においてThリンパ球が活性化され、Th応答が誘導され、免疫原に対して抗体を産生する体液性応答の刺激、または免疫原に対する特異的CTリンパ球の活性化による細胞傷害性応答の刺激によく貢献する。この方法は、感染性疾患(細菌、ウイルス、真菌または寄生虫感染)、腫瘤、またはアレルギー性疾患の治療的または予防的処置法であり得る。
【実施例】
【0040】
[実施例1]ペプチド合成
HLA分子への結合、およびヘルパーT細胞(Th)および細胞傷害性T細胞(CT)応答の誘導のアッセイのためのペプチドを、Merrifieldの固相法によりFmoc技術を用いて手作業によって合成した[(Merrifield RB; Solid phase synthesis(固相合成). I. J Am Chem Soc, 1963; 85:2149);(Atherton E Procedures for solid phase synthesis(固相合成法). J Chem Soc Perkin Trans, 1989; 1:538)]。試験ペプチドおよび対照として用いるペプチドの両方を同じ方法を用いて合成した(表1)。
【0041】
【表1】

【0042】
ビオチン化ペプチドもいくつかのアッセイに用いた:Fluウイルスの血球凝集素のHA(306-320)(APKYVKQNTLKLATG)ペプチドおよびp45。これらのペプチドを手作業により合成しビオチンとコンジュゲートさせた(EZ-Linkスルホ-NHS-LC-ビオチン;Pierce Biotechnology, Inc, Rockford, USA)。この工程において、ペプチド合成が完了した時、ペプチドは樹脂と結合したままであり、DMF-水混合液(7.5:2.5)により10回洗浄してこの新たな溶媒に樹脂を馴染ませた。この溶媒に溶解したビオチンを初めの樹脂にミリ当量の1:1の割合で加えた。混合物を1時間半反応させた。次に、樹脂をDMFにより20回洗浄し、反応工程を3回まで繰り返した。ペプチドがビオチン化されたことを確認するため、Kaiser試験を行った(Kaiser, 1970;Color test for detection of free terminal amino groups in the solid-phase synthesis of peptides(ペプチドの固相合成における遊離末端アミノ基を検出するための色試験). Anal Biochem. 1970; 34:595-598)。樹脂をカットし、凍結乾燥し(liophilise)前項のようにHPLCにより解析した。[(Merrifield RB; Solid phase synthesis(固相合成). I. J Am Chem Soc, 1963; 85:2149);(Atherton E Procedures for solid phase synthesis(固相合成法). J Chem Soc Perkin Trans, 1989; 1:538)]。
【0043】
PADREペプチドを比較のために合成した。これは、多種多様なHLA-DR分子においてヘルパーT細胞応答を誘導するために先に開発された別のペプチド(Alexander J et al. Immunity, 1994, 1:751-761)と同様のペプチドである。このPADREペプチドは、元のシクロヘキシルアラニンの代わりにアミノ酸のフェニルアラニンを用いて合成されている点で、先に報告されたペプチドとは異なる。
【0044】
[実施例2]種々のHLA分子へのペプチドの結合アッセイ
HLA-DR分子への結合
ペプチドの結合はBuschらの報告のように測定した(Busch R, Rothbard J: Degenerate binding of immunogenic peptides to HLA-DR proteins on B cell surfaces(B細胞表面上のHLA-DRタンパク質への免疫原ペプチドの変性結合). Int Immunol, 1990; 144:1849)。
【0045】
本発明の実験において、Epstein-Barrウイルス(EBV-BLCL)により形質転換した、それぞれが種々のHLA-DR分子についてホモ接合の以下のBリンパ球細胞株を用いた:
【表2】

【0046】
細胞株は全てEuropean Collection of Animal Cell Cultures(欧州動物細胞培養物コレクション)(ECACC, PHLS, Salisbury, UK)から入手した。
【0047】
手短に説明すると、種々のHLA-DR分子を有するBリンパ球(2.5x105細胞/ウェル)を、一方ではビオチン化HA(306-320)(10μM)および非ビオチン化HA(306-320)(100μM)とともに、または他方ではビオチン化HA(306-320)(10μM)および試験ペプチド(100μM)とともに一晩インキュベートした。インキュベーションは完全MC培地(10%ウシ胎仔血清、2mMグルタミン、100 U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、5x10−5 M 2βメルカプトエタノールおよび0.5%(v/v)ピルビン酸ナトリウムを含むRPMI 1640)において行った。翌日、FACS培地(2.5%ウシ胎仔血清PBS)200μl;5μg/mlストレプトアビジン−フルオレセイン(Pierce)を含むFACS培地100μlにより2回洗浄し、4℃にて30分間インキュベートした。次いで、2回洗浄し、細胞をFACS培地200μlに再懸濁した。
【0048】
細胞表面の蛍光をFACScanアナライザー(Becton Dickinson Immunocytochemistry System, Mountain, USA)においてフローサイトメトリーにより測定した。5,000の標識化細胞の平均蛍光を測定した。細胞の外側に露出したHLA-DR分子数と比例して蛍光シグナルが得られた。
【0049】
以下の式を用いて各ペプチドの結合能を定量化した(結合比率ペプチド(%)):
結合比率ペプチド(%)=100 x((Fペプチド−Fブランク)/(Fビオチン化対照−Fブランク))
ここで、Fペプチドは試験ペプチドにより測定された蛍光であり、Fブランクはペプチドを加えずに測定された蛍光であり(ブランク);Fビオチン化対照はビオチン化対照ペプチド[HA(306-320)]について測定された蛍光である。
【0050】
この方法において、試験ペプチドとして非ビオチン化対照ペプチド[HA(306-320)]を用いて結合比率を算出した(結合比率対照(%)):
結合比率対照(%)=100 x((F非ビオチン化対照−Fブランク)/(Fビオチン化対照−Fブランク))
【0051】
NH2末端のシステインを介して起こり得るジスルフィド架橋の形成を防ぐために、先に報告されているCPKYVKQNTLKLATGペプチド(Rothbard JB;Degenerate binding of immmunogenic peptides(免疫原ペプチドの変性結合). Int Immunol 1990; 2:443-451)の代わりにHA(306-320)を参照対照として用いた。
【0052】
以下の式に従って相対結合比率(BR(%))も算出した:
BR(%)=100 x(結合比率ペプチド(%)/結合比率対照(%))
ここで、結合比率ペプチド(%)は試験ペプチドの結合比率であり;結合比率対照(%)は非ビオチン化対照ペプチドであるHA(306-320)対照ペプチドの結合比率である。
【0053】
アッセイは全て3回重複して行った。3回分の蛍光強度の偏差は常に5-10%の範囲内であった。
【0054】
こうして、HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR11分子への各ペプチドの結合能の評価が可能となり、非ビオチン化HAペプチド:APKYVKQNTLKLATGの結合との相対値として表した(図1)。図1から以下を結論することができる:
− ほとんどのペプチドが少なくとも2つのHLA-DR分子に良好な親和性をもって結合する;
− 特に、p45、p61およびp62ペプチドは、調べたほとんど全てのHLA-DR分子と良好な親和性をもって結合する。
【0055】
p45、p61およびp62ペプチドは、試験したPADREペプチドに匹敵する、またはさらに高い結合能を示した。
【0056】
HLA-DR、HLA-DPおよびHLA-DQ分子へのp45の結合
p45はかなり難溶性であった。その結合能のさらなる特徴付けを行うため、またペプチドの潜在的な毒性効果を取り除くために、ビオチン化p45を用いて相補的な検査をいくつか行うことにした。
【0057】
まず初めに、各濃度のビオチン化p45とともにインキュベートした種々の細胞株においてHLA-DRへの結合について試験を行った。ペプチドの可能性ある結晶化を避けるために、超音波処理器を用いてペプチドを可溶化させた。実施例2に示したように、細胞表面の蛍光をFACScanアナライザーにおいてフローサイトメトリーにより測定したが、非ビオチン化p45ペプチドとの競合は見られなかった。図2はHLA-DR4発現細胞株における結合試験において測定された蛍光を示す。図から確認できるように、ペプチドの結合は試験した濃度範囲において用量依存的である。
【0058】
第2に、HLA-DR4細胞株を、ビオチン化P45ペプチド、ならびにHLA-DR、HLA-DP、HLA-DQおよびHLAクラスIそれぞれへの特異性によって選択した抗体の存在下においてインキュベートした(図3)。
【0059】
U型底の96ウェルプレートに、HLA-DR4細胞株を播種し(予め規定);(2x105/ウェル)ビオチン化P45ペプチド(10μM)を単独で、またはGhislaine Sterkers博士ご提供のハイブリドーマ:L243抗HLA-DR(ATCC番号:HB-55)、またはW6/32抗クラスI(ATCC番号:HB-95)または抗体33.1抗HLA-DQまたは抗HLA-DP B7/21の上清とともに加えた。全て2.5%FBSを含むRPMIに最終体積100μlになるよう希釈した(1/500)。翌日、FACS培地200μl、5μg/mlストレプトアビジン-フルオレセインコンジュゲート(Pierce)を含むFACS 100μlにより2回洗浄し、4℃にて30分間インキュベートした。次いで、2回洗浄し、細胞をFACS培地200μlに再懸濁した。細胞表面の蛍光をFACScanアナライザーにおいてフローサイトメトリーにより測定した。5,000の標識化細胞の蛍光の平均を測定した。細胞の外側に露出したHLA-DR分子数と比例して蛍光シグナルが得られた。
【0060】
以下の式を用いて、抗体を加えた際の結合能の減少を定量化した:
抑制率(%)=100 x((Fp45+aHLA−Fブランク)/(Fp45−Fブランク))
ここで、Fブランクはペプチドまたは抗体を加えずに細胞を培養した場合に測定された蛍光であり(ブランク)、Fp45はビオチン化P45ペプチド単独とともにインキュベートした場合に測定された蛍光であり、Fp45+aHLAはビオチン化p45および対応するHLA抗体とともにインキュベートした場合に測定された蛍光である。
【0061】
アッセイは全て3回重複して行った。3回分の蛍光強度の偏差は常に5-10%の範囲内であった。
【0062】
図3に見られるように、抗HLA-DRまたは抗HLA-DQ抗体とのインキュベーションにより強い結合阻害が生じ、このことは、p45はHLA-DRおよびHLA-DQの両方に結合するが、HLA-DPには結合しないことを示している。
【0063】
この方法において、これらの試験をHLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR11細胞株について繰り返した。得られた抑制率を表2に記す。表から分かるように、抗HLA-DRまたは抗HLA-DQの存在下においてビオチン化p45とともに細胞をインキュベートすると、全ての場合において強い阻害が起こり、このことは全ての細胞株においてHLA-DRおよびHLA-DQへのビオチン化p45の結合能が高いことを示している。
【0064】
ビオチン化P45ペプチドはHLA-DR1に結合したが、非ビオチン化p45はこのHLA分子に検出可能に結合しない(図1を参照)。このビオチン化ペプチドがより強く結合する現象は、非ビオチン化HA(306-320)に対するビオチン化HAペプチド(306-320)においても見られる。このことは、ビオチンがHLA分子への結合をさらなる形態をとって安定化させること、または非ビオチン化ペプチドとの競合の測定において、ビオチンが結合の検出感度を増大させることを示唆している可能性がある。今回の研究における他のペプチドは非ビオチン化ペプチドであり、これらもHLA-DQと結合する可能性があることを意味している。
【0065】
【表3】

注:各分子への結合の度合を、抗体との競合について測定した(aDR:抗-HLA-DR;aDP:抗-HLA-DP;aDQ:抗-HLA-DQ;aClI:抗クラスI)。
【0066】
[実施例3]ヘルパーT細胞(Th)応答の誘導
合成ペプチドがイン・ビボにおいてTh応答誘導能を有するかどうかを調べるために、トランスジェニックマウスを、様々なHLA-DR分子への結合能を示したいくつかのペプチドとともに、HLA-DR4分子について免疫化した。このために、p37、p45、p61およびp62を選択し、対照としてPADREペプチド用いた。これらのペプチドは全て、いくつかのHLA-DR分子に結合能を示したが、HLA-DR4には様々な程度の結合を示した。ペプチドの、免疫化マウスから抽出されたリンパ球における細胞増殖能およびIFN-γおよびIL4産生誘導能を測定してTh誘導能を評価した。
【0067】
免疫化
Taconic(Germantown, NY, USA)から入手したメスのHLA-DR4トランスジェニックマウスを採用し、病原体不含条件下にて維持し、発明者らの施設の基準に従って飼育した。
【0068】
Th応答を誘導するために、3匹からなる各グループのマウス(4-6週齢)を、50ナノモルの対応ペプチドを含む、完全フロイントアジュバントと生理食塩水の1:1エマルジョン200μlにより免疫化した。免疫化した動物を免疫化の2週間後に屠殺し、膝窩、鼠径部および大動脈周囲リンパ節を摘出した。リンパ節をシリンジを用いてホモジナイズし、洗浄培地(RPMI 1640培地)において4℃にて3回洗浄した。次いで、5x107細胞/mlをMCにおいて10μMの対応ペプチドとともに37℃にて2時間パルス処理した。
【0069】
その後、それらを遠心分離して再懸濁し、5%CO2を含む37℃の乾燥器(oven)において、2x106細胞/mlを2ml体積にて24ウェルプレート上で培養した。7日後、細胞を洗浄し、各ウェルにおいて5x105 T細胞を2x105細胞/ウェルのシンジェニックな脾臓とともに培養し、対応抗原の存在下または非存在下においてマイトマイシンCにより処理した。50μlの上清を回収し、前項のようにIFN-γおよびIL-4を測定した。細胞増殖を測定した。
【0070】
細胞増殖の測定
培養を始めてから48時間後、細胞を0.5μCiのトリチウム標識したチミジンにより18時間パルス処理し、収集し、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンター(Top-count;Packard, Meridan, CT, USA)にて測定した。
【0071】
IFN-γおよびIL-4産生の測定
IFN-γおよびIL-4の量を市販のELISA(OPTEIA Mouse IFN-γ Set, Pharmingen, San Diego, USAおよびOPTEIA Mouse IL-4 Set, Pharmingen, San Diego, USA)を用いて製造指示書に従って測定した。結果は、既知量のサイトカインの検量線を用いてpg/mlにて表した。
【0072】
結果
結果(図4)から、最も多く増殖し(トリチウム標識化チミジンの取り込みがより多い)、IFN-γの産生が最も多いのはp45およびPADREペプチドにより免疫化したマウスであることが分かる。P45ペプチドはIFN-γの産生を顕著に刺激し、IL-4の産生はわずかのみまたは全く刺激せず、一方、PADREペプチドはIFN-γおよびIL-4の両方の産生を刺激した。これらの所見から、HLA-DR4拘束性については、p45およびPADREはそれぞれTh1およびTh0のサイトカインの特性に対応するヘルパーT細胞応答を誘導することが結論づけられる。p37、p61およびp62ペプチドからは増殖またはIFN-γの産生は起こらなかった。しかしながら、p37およびp62からはIL-4の産生が起こった。
【0073】
[実施例4]細胞傷害性T細胞(CT)応答の誘導
ペプチドの、CTエフェクター応答の誘導に貢献する能力を調べるために、マウス(HLA-DR4についてのトランスジェニック)を、p37、p45、p61、p62により、またはPADRE対照ペプチドにより、SIINFEKLペプチド[OVA(257-264)]とともに免疫化した。SIINFEKLはクラスI H-2 Kb分子に結合する細胞傷害性T細胞決定基(CTd)である。
【0074】
免疫化および溶解の測定
細胞傷害性応答を誘導するために、4から6週齢の2匹のマウスを、50ナノモルの対応ペプチドを含有するフロイント不完全アジュバントと生理食塩水の1:1エマルジョン200μlにより皮下経路にて免疫化した。
【0075】
動物を免疫化後10から12日の間に屠殺し、膝窩、鼠径部および大動脈周辺リンパ節を摘出した。これらのリンパ節をシリンジを用いてホモジナイズして、細胞懸濁液を得、RPMI 1640において3回洗浄した。
【0076】
得られた細胞を細胞傷害性決定基SIINFEKL(10μM)とともに37℃にて2時間インキュベートし、2回洗浄し、24ウェルプレートにおいて7.5x106細胞/ウェルの濃度にて培養した。2日後、2.5 U/mlのIL-2を培養物に加え、5日後、細胞障害活性をBrunnerにより示された方法論に従って測定した(Brunner KT;「Quantitative assay of the lytic action of immune lymphoid cells on 51-Cr-labelled allogeneic target cells in vitro; inhibition by isoantibody and by drugs(イン・ビトロにおける51-Cr-標識化同種異系間標的細胞に対する免疫性リンパ球細胞の溶解作用の定量的アッセイ;同種抗体および薬物による抑制)」; Immunology, 1968; 14:181)。
【0077】
細胞傷害性活性を、予め標識しておいた標的細胞からの51Crの放出の測定によってアッセイした。用いた標的細胞は、ティモン(timon)細胞(H-2b)El-4(ATCC番号:TIB-39)であった。それらを標識化するために、50μCiの51CrO4Na2を各106標的細胞に加えて最終体積を100μlとし、SIINFEKLペプチド(濃度10μM)の存在下または非存在下において2時間37℃にてインキュベートした。RPMI 1640において3回洗浄した後、MC 1mlに再懸濁した。U型底の96ウェルプレートにおいてアッセイを行った。エフェクター細胞および標的細胞(3000/ウェル)を別個に加えた。標的細胞に対して、連続希釈により異なる比率にした(100、33、11および3)エフェクター細胞をアッセイした。アッセイはそれぞれ3回行った。各ウェルの最終体積は200μlであった。
【0078】
プレートを4時間37℃にてインキュベートした。次いで、各ウェルから上清50μlを抽出し、放射能をシンチレーションカウンターによりカウントした。
【0079】
以下の式に従って特異的溶解比率を算出した:
特異的溶解比率(%)=100 x((cpm実験−cpm自発)/(cpm最大−cpm自発))
【0080】
5%Triton X-100とともにインキュベートした3000標的細胞のcpm(カウント/分)およびエフェクター細胞の非存在下においてインキュベートした細胞からの自発性の溶解を測定して最大の溶解を決定した。
【0081】
示した溶解比率は正味の溶解に相当する:免疫化動物細胞における溶解から免疫化していない動物細胞において観察された溶解を差し引いた値。
【0082】
結果
図5に示された結果は、p61およびPADRE以外の全てのペプチドにより、SIINFEKL特異的CTリンパ球誘導についてThの貢献が生じることを示している。さらに、各ペプチドが各用量においてより良好に作用する用量反応効果が観察できた。
【0083】
[実施例5]イン・ビトロにおけるドナーのヘルパーT細胞応答の誘導
p37、p45およびp62ペプチドが様々な集団のヒトThリンパ球により認識され得るかどうかを判定するために、ドナーの臍帯から抽出した末梢血単核細胞を用いて実験を行った。
【0084】
抽出した細胞をFicoll法を用いて精製した(Noble PB, Cutts JH, Carroll, KK; Ficoll flotation for the separation of blood leukocyte types(血液の白血球型を分別するためのFicoll浮選); Blood, 1968; 31:66-73)。精製した後、細胞(3x106細胞/ml)を10μMの試験ペプチドとともに2時間パルス処理した。パルス処理した細胞を洗浄し、平底の96ウェルプレートに蒔いた(105細胞/ウェル)。3日目および7日目にIL-2を加えた。15日後、各ウェルの細胞をさらに2つに分け、それぞれ、p37、p45、p62またはPADREペプチドのいずれかを加えてまたは加えずにマイトマイシンCにより処理し、その細胞(105細胞/ウェル)同士を対比した。2日後、それぞれの上清を50μl回収し、ELISAによりIFN-γの量を定量化する時まで−20℃にて凍結しておいた。3日目に細胞を0.5μCiのトリチウム標識化チミジンにより18時間パルス処理した。その後細胞を収集し、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンターにより測定した。
【0085】
ドナーのHLA-DR型決定
まず、各ドナーからの末梢血単核細胞からDNAを抽出した。QIAmp DNA Mini Kit (Qiagen, Valencia, USA)を製造者が記したプロトコールに従って用いた。
【0086】
抽出DNAからの型決定の態様においては、Inno-Lipa HLA-DRB1 Plus kit (Innogenetics, Ghent, Belgium)を製造者が記したプロトコールに従って用いた。
【0087】
結果
表3は、各ペプチドおよびドナーについての陽性ウェルの数を示す。3と同等のまたは3より高い刺激指数を示したウェルのみを陽性と判断した。刺激指数(SI)は、ペプチドを含むウェルとペプチドを含まないウェル間のカウント/分の商として表した。
【0088】
【表4】

表3をまとめると、以下のことが言える:
− p45およびPADREペプチドは16ドナーのリンパ球により最も良好に認識された;そして、
− 全てのペプチドが少なくとも50%の個体により認識される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】キメラペプチドの種々のHLA-DR分子への結合能。非ビオチン化HA対照ペプチド(306-320):APKYVKQNTLKLATGの結合に対する相対結合比率(%BR)として表す。格子の密度は、図の足元の凡例に従って比率の増加の段階を表す。
【0090】
【図2】ビオチン化P45ペプチドのHLA-DR4細胞株への結合。HLA-DR4細胞を各濃度のビオチン化ペプチドとともにインキュベートし、その蛍光を測定した(任意蛍光単位として表す)。蛍光は結合したビオチン化P45ペプチドの濃度に直接的に比例する。
【0091】
【図3】特定の抗HLA抗体:aDR、抗HLA-DR;aDP、抗HLA-DP;aDQ、抗HLA-DQ;およびクラスI抗HLAの存在下における、ビオチン化P45ペプチドのHLA-DR4発現細胞への結合の阻害率。
【0092】
【図4】種々のペプチド(50ナノモル):p37、p45、p61、p62およびPADREにより免疫化したトランスジェニックHLA-DR4マウスにおけるヘルパーT細胞応答の誘導。15日後に各ペプチドに対する応答を以下について評価した:リンパ球増殖、IFN-γの産生およびIL-4の産生。
【0093】
【図5】CTdペプチド[50ナノモルのOVA(257-264)]単独またはThdとしての以下の試験ペプチドの1つとともに免疫化したトランスジェニックHLA-DR4マウスにおける細胞傷害性T細胞の誘導:p37、p45、p61、p62またはPADRE。以下の各濃度の試験ペプチドについてアッセイを繰り返した:A)50ナノモル;B)5ナノモル;C)0.5ナノモル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-DR分子の少なくとも1つの対立遺伝子型への結合能を有するキメラペプチドであって、アミノ酸配列が以下から選択される式に適合することを特徴とするキメラペプチド:
a) a1−a2−Y−a4−a5−a6−a7−a8−a9−a10−A−A−A;および
b) 配列番号21;
ここで、YはTyrであり;AはAlaであり;a1はPheまたはTyrであり;a2はLysまたはArgであり;a4はArgであり、ただしa6およびa10がそれぞれMetおよびArgである場合、a4はいずれの天然アミノ酸であってもよく;a5、a7およびa9は20の天然アミノ酸のいずれかであり;a6はMetであり、ただしa4およびa10がArgである場合、a6はいずれかの天然アミノ酸であり;a8はArgであり、ただしa4がArg、TyrまたはHisであり、a6がMetまたはValであり、a10がMet、HisまたはArgである場合、a8はいずれかの天然アミノ酸であり;a10はArgである、ただしa4がArgまたはHisであり、a6がMetである場合、a10はいずれかの天然アミノ酸である。
【請求項2】
請求項1に記載の、HLA-DR分子の少なくとも1つの対立遺伝子型への結合能を有するキメラペプチドであって、式が以下から選択されることを特徴とするキメラペプチド:
I) a1−a2−Y−R−a5−M−a7−R−a9−R−A−A−A;
II) a1−a2−Y−R−a5−M−a7−a8−a9−a10−A−A−A;
III)a1−a2−Y−a4−a5−M−a7−a8−a9−R−A−A−A;および
IV) a1−a2−Y−R−a5−a6−a7−a8−a9−R−A−A−A;
ここで、YはTyrであり;RはArgであり;MはMetであり;AはAlaであり;a1はPheまたはTyrであり;a2はLysまたはArgであり;a4は20の天然アミノ酸のうちArgを除いたいずれかであり;a5、a7およびa9は20の天然アミノ酸のいずれかであり;a6は20の天然アミノ酸のうちMetを除いたいずれかであり;a8は20の天然アミノ酸のうちArgを除いたいずれかであり;a10は20の天然アミノ酸のうちArgを除いたいずれかである。
【請求項3】
HLA-DRの対立遺伝子型が以下から選択される、請求項1または2に記載のペプチド:HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8またはHLA-DR11。
【請求項4】
HLA-DRの少なくとも2つの対立遺伝子型と結合することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
ヘルパーT細胞(Th)の活性化を誘導することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
細胞傷害性T細胞(CT)の活性化を誘導することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のペプチド。
【請求項7】
配列番号1、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号20および配列番号22から選択される配列を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の少なくとも1つのペプチドおよび製薬的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項9】
別の免疫原をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
細胞傷害性T細胞決定基(CTd)およびヘルパーT細胞決定基(Thd)を含み、決定基Thdが請求項1から7のいずれかに記載のペプチドであることを特徴とする、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
免疫応答の刺激に有用な医薬組成物の調製における、請求項1から7のいずれかに記載のペプチドの使用。
【請求項12】
医薬組成物がヘルパーT細胞Th(Th1、Th2またはTh0)活性化の誘導に有用であることを特徴とする、請求項11に記載のペプチドの使用。
【請求項13】
医薬組成物が細胞傷害性T細胞(CTL)免疫応答の誘導に有用であることを特徴とする、請求項11に記載のペプチドの使用。
【請求項14】
医薬組成物が体液性免疫応答の誘導に有用であることを特徴とする、請求項11に記載のペプチドの使用。
【請求項15】
ヘルパーT細胞の活性化を刺激および促進する方法であって、治療上有効量の請求項9または10に記載の医薬組成物を対象に投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
細胞傷害性T細胞の活性化を刺激および促進する方法であって、治療上有効量の請求項9または10に記載の医薬組成物を対象に投与することを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−520772(P2009−520772A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546494(P2008−546494)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000695
【国際公開番号】WO2007/074188
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】