説明

新規な二段発酵茶の製造方法

【課題】二段発酵茶は、従来自然の成り行きに任せて製造していたが、微生物を管理し、制御することで、作業性を改善し、速やかな発酵を促し、におい、味の改善を行うこと。
【解決手段】二段目の発酵に用いる乳酸菌を茶葉によく生育するものとする。さらには、ガス発生のない乳酸菌を用いること。予備的に増殖させた乳酸菌を二段発酵時の種菌として使用すること。培養物と空気とを水封することにより遮断することで乳酸菌の速やかな増殖が図れ、雑菌の繁殖がなく、素材の膨張のない安定した製造が可能となった。その結果、香りの良い、雑味のない美味しい製品の製造を行った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段発酵茶の製造に当たり二段目の発酵に用いる乳酸菌をあらかじめ茶葉によく生育するものを選抜し、培養し培養液を加えることで、殆どガスを発生せず、速やかな乳酸発酵を促し、製造の安定化を図り、味が良い二段発酵茶の製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国に於ける、二段発酵茶は、伝統的発酵法による伝承により製造されてきた。平成18年、河野及び有田は、二段発酵茶の製造に関与する微生物の分離同定を試み、夫々がカビと乳酸菌について発表している。特に有田が分離した乳酸菌について述べれば、従来製造されていた二段発酵茶から分離した乳酸菌を培養し、これを素材に添加して、製造工程での乳酸菌の生育を盛んにするという発想であった。すなわち、これまでは、自然発生的に生育する乳酸菌を期待するか、発酵に用いる樽に付着する乳酸菌の生育を期待する方法であった。したがって、乳酸菌が他の微生物の生育を抑え優勢な状況にいたるまでに、発酵過程で素材が膨張し、重石として用いた重石が滑落する事故が発生し田、又、これに伴い空気との接触面が増大し、雑菌の生育が認められ、味や衛生状態で問題を起こすことがあった。 乳酸菌の絶対数を確保し、雑菌の繁殖を抑えようとする有田の発想は、優れたものである。しかしながら、通常の乳酸菌培養基を用いているため、お茶に中に茶成分以外の成分が混入すること。実際の製造現場では、シールが不完全であったため、生成するガスのため発酵過程において、素材が膨張し、仕込み茶葉重量の二倍程度の重石が樽の縁よりも高く持ち上げられ、樽から滑落するために作業上も不安全であった。又、素材が空気にさらされ、乳酸菌以外の有害微生物の生育も認められ製造方法を改善するまでには至らなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】 第1回玄徳茶研究会≪学術報告≫2007年 岡山県立大学発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
わが国においては、四国地方等で、二段発酵茶の製造が行われているが、製造に使用する微生物の制御については、伝統的手法によっており、微生物に対する制御が不完全である。又、岡山県下においても製造されており、背景技術の項で述べた様に、発明者らは、発酵に関与する微生物を分離し、これを培養して工程に利用する方法の研究を進めているが、これまでの研究では、完全に目的を果たしてはいなかった。解決すべきは、茶葉煮沸浸出液及び茶葉に室温でよく生育する乳酸菌を分離すること、製造中にガスが発生して、仕込んだ茶葉が膨れ上がることが無いようにすること。そのために、シールを完全に施すこと。可及的速やかに、素材のpHを低下せしめ、雑菌の繁殖を防ぐことである。そして、茶葉に生育が良く、ガス発生の無い乳酸菌を選抜することが必須であり、培養物と外気との完全な遮断が必須である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
室温で茶葉によく生育する乳酸菌の選抜
茶葉成分を含有する培養基に室温で生育が順調な乳酸菌を分離するために、茶葉煮沸浸出液に、従来法で製造された二段発酵茶を乳酸菌の給源として稙菌して、静置培養で強化培養を繰り返し、その培養液の中から室温で茶葉煮沸液によく生育する菌を分離する。更にこの中からから炭酸ガスを発生することなく生育できる乳酸菌を分離する。 茶葉成分を含有する培養基で生育が順調な乳酸菌を分離するために、茶葉煮沸浸出液に、二段発酵終了時の茶葉を植菌し、20℃で強化培養を繰り返した。炭酸カルシウムを加えた平板培地に培養し、透明環を示す菌を10株分離しNo.1からNo.3株と名づけた。これらの菌は、ガスを発生するものと(No.1とNo.2)、ガスを発生しないもの(No.3)とに更に区別できた。夫々を分離し、穿刺培養して保存し、これを種菌株とした。
【0006】
茶葉に良く生育するに乳酸菌の培養と、使用
茶葉に対する生育性の高い乳酸菌を増殖させ二段発酵時にこれを加えた
二段発酵茶の二段目の種菌として用いる乳酸菌を培養するための方法を検討し、収穫した茶葉を加熱した水道水90部に10分を加えて15分間煮沸し、茶葉の煮沸浸出液とした。これを室温まで冷却して、培養基とした。この培養基に分離した乳酸菌を培養して、工程で使用した。
【0007】
茶葉浸出液の茶葉濃度の異なる各種の茶葉浸出液の乳酸菌生育度を検討し、茶葉濃度1%以上の区で生育が認められた。最も生育がよいと認められたのは、5〜15%の区であった。
亦、茶葉を蒸したものを培養基とし嫌気条件下に培養した時、分離株は、乳酸菌は、よく生育した。
【0008】
保存した3株のいずれかを定法通りあらかじめ液体培地で増殖させ、二段発酵始発時に1%植菌することで、目的を達成できた
【発明の効果】
【0009】
二段発酵茶製造において、培養中に発酵物が膨れ上がり、重石がづれ落ちる事は、危険であり、作業性が悪いという事に留まらず、素材が空気と接触し好気的条件が発生して、嫌気発酵条件を維持できず、雑菌の繁殖を促し、製品品質に悪影響を及ぼす。本発明では、添加した乳酸菌の生育が良く、発酵中の素材野の膨張がなく、これらの短所を防ぐことが可能である。発明者らは、予め分離した3種類の生育形態の異なる乳酸菌を夫々単独で培養し二段発酵時に用いた。期待通り、発酵中素材の膨張は認められず、臭い、味ともに良好な製品を得た。亦、茶葉由来培養基で生育させた適量の種菌を添加することで,茶以外の物質を添加することなく速やかに製品化することが可能となった。
【実施例1】
【0010】
常法通りカビ付けの終了した1000Kgの茶葉を二段発酵の材料として樽詰する時、凡そ15分割し1次醗酵終了後の茶葉約70Kgづつを清浄な樽に詰めた。このとき分離した乳酸菌No.1株を5%茶葉浸出液に2日間常法どおり培養した培養液1Lを振掛けつつ踏み込んだ。上部に0.9mmのポリシートを被せ、その上面に水を加えてシールを施し、約1000Kgの重石をした。3日後 発酵物のpHは、4.8を示した。 又、通常仕込み後1から2日の間に発生する培養物の膨潤も殆どなく、安定した培養が行われた。1ヵ月間発酵を続け、其の後樽から出し、乾燥して製品を得た。製品は、香り、味とも良好なものであった。
【実施例2】
【0011】
常通り1次発酵の終了した茶葉1500Kg.を2次発酵に付す時、15分割し、1分割毎に乳酸菌No.3の10%茶場浸出液培養物を1Lづつ振り撒きながら詰め込んだ。上面をポリシーとで覆いその上に水を加えてシールして空気と遮断し、約1000Kgの重石を載せた。3日目培養物は、pH4.9を示し順調に発酵が推移していることが分った。更に10日間発酵を続け、樽出し乾燥して、製品とした。製品は香り味とも良好であった。仕込み後1から2日目に起きる膨張はまったく認められず、安定した培養が行われた。
【産業上の利用可能性】
【0012】
空気から水封により遮断すること、茶葉に対してよく生育する乳酸菌や、ガス発生のない乳酸菌を予め茶葉煮沸液に培養した培養液を使用することで、雑菌の増殖を抑え、発酵中の素材の膨張がなくなり作業性の安全が確保できたことのみならず、雑味のない美味しい製品を得ることが可能となった。この事は、これまで伝統的製法によって製造されていた二段発酵茶の品質の安定化に役立ち、食品工業としての将来に明るい展望をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉蒸煮浸出液に良く増殖する乳酸菌を予め培養し、当該培養物を二段発酵茶の二段目の発酵種菌として供すること。発酵物と空気とを水封して遮断することにより、ガス発生のため膨れ上がることがなく、雑菌の生育を抑えて雑味の少ない新規な二段発酵茶を製造する方法

【公開番号】特開2011−223973(P2011−223973A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110625(P2010−110625)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(510131225)
【Fターム(参考)】