説明

新規な味覚受容体T1R3

【課題】味覚受容体細胞において発現し、苦味および甘味の知覚に関連する、TIR3受容体タンパク質の発見、同定および特性決定の提供。
【解決手段】TIR3ヌクレチオド、宿主細胞発現系、TIR3タンパク質、融合タンパク質、TIR3導入トランスジェニック動物、およびTIR3「ノックアウト」動物。さらに、TIR3媒介味覚反応のモジュレーターを同定する方法、および苦味または甘味の知覚を阻害または促進するモジュレーターの、食品、飲料および薬剤における調味料としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味覚受容体細胞において発現し、甘味の知覚に関連する、本明細書においてT1R3と称するGタンパク質結合受容体の発見、同定および特徴付けに関する。本発明は、T1R3ヌクレオチド、宿主細胞発現系、T1R3タンパク質、融合タンパク質、ポリペプチドおよびペプチド、T1R3タンパク質に対する抗体、T1R3トランス遺伝子を発現するトランスジェニック動物およびT1R3を発現しない「ノックアウト」動物を含む。本発明はさらに、T1R3媒介味覚反応のモジュレーターを同定する方法および甘味の知覚を阻害または促進するそのようなモジュレーターの使用に関する。T1R3活性のモジュレーターは、食品、飲料および薬剤における調味料として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
味覚は、ヒトおよび他の生物の生活および栄養状態に重要な役割を果たしている。ヒトの味覚は、4つのよく知られ、広く受け入れられている記述子である甘味、苦味、塩味および酸味(特定の味覚の質または様相に対応する)ならびに2つのより異論の多い質である脂肪およびアミノ酸味に従って分類することができる。甘みのある食べ物を識別する能力は、脊椎動物に高い栄養価を有する必要な炭水化物を捜し出す手段を与えるため、特に重要である。苦味の知覚は、他方で、ヒトが多血症または潜在的に極めて有害な植物アルカロイドならびにエルゴタミン、アトロピンおよびストリキニーネのような他の環境毒素を回避することを可能にするという、防護上の価値があるために重要である。過去数年の間に多くの分子研究で、α−ガストデューシン(α−gustducin)(1、2)、Gγ13(3)およびT2R/TRB受容体(4〜6)のような苦味応答変換カスケードの構成要素が確認された。しかし、甘味変換の構成要素はそのように明確には確認されておらず(7、8)、とらえがたい甘味応答受容体はクローンされておらず、また物理的特徴付けもなされていない。
【0003】
味覚細胞の生化学的および電気生理学的研究に基づいて、次の2つの甘味変換モデルが提案され、広く受け入れられている(7、8)。第1は、GPCR−Gs−cAMP経路であり、糖は、Gに結合する1つまたは複数のGタンパク質結合受容体(GPCRs)に結合し、活性化すると考えられていて、受容体により活性化されたGαは、アデニリルシクラーゼ(AC)を活性化して、cAMPを発生させ、cAMPは、側底Kチャンネルをリン酸化するタンパク質キナーゼAを活性化して、チャンネルの閉鎖、味覚細胞の脱分極、電位依存性Ca++流入および神経伝達物質の放出をもたらす。第2は、GPCR−G/Gβγ−IP経路であり、人工甘味料は、おそらく、GのαサブユニットまたはGβγサブユニットによりPLCβ2に結合する1つまたは複数のGPCRsに結合して、活性化し、活性化されたGαまたは放出されたGβγは、PLCβを活性化して、イノシトール三リン酸(IP)とジアシルグリセロール(DAG)を発生させ、IPとDAGは、内部貯蔵からのCa++の放出を誘発して、味覚細胞の脱分極と神経伝達物質の放出をもたらす。甘味応答受容体をクローンすることできないことが、この分野の進歩の制約となっていた。
【0004】
マウスにおける遺伝学的試験で、マウスの甘味感受性および甘味非感受性系統の間の差の主因となっている2つの遺伝子座であるsac(サッカリン、ショ糖および他の甘味料に対する行動的および電気生理学的応答性を決定する)およびdpa(D−フェニルアラニンに対する応答性を決定する)が同定された(9〜12)。sacは、マウス第4染色体の遠位端にマップされ、dpaはマウス第4染色体の近位部にマップされた(13〜16)。オーファン味覚受容体T1R1は、第4染色体の遠位部に暫定的にマップされたことから、sacの候補であると提案された(17)。しかし、F2マウスにおけるT1R1と、sacに近接したマーカーとの組換え頻度の詳細な解析により、T1R1は、sacから離れていることが示されている(Liら(16)の遺伝学的データによれば、約5cm離れており、また、sacに最も近いマーカーであるD18346から百万塩基対以上離れている)。他のオーファン味覚受容体T1R2もマウス第4染色体にマップされているが、これは、T1R1よりもD18346/sacからさらに離れている。
【非特許文献1】Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、第1巻、Green Publishing Associates,Inc.およびJohn Wiley & Sons,Inc.、New York、2.10.3頁
【非特許文献2】Creughton、1983年、「Protein:Structure and Molecular Principles」、W.H.Freema & Co.、NY
【特許文献1】米国特許第4,873,191号
【非特許文献3】Sambrookら(1989年)による技術
【非特許文献4】Van der Puttenら、1985年、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、第82巻、6148〜6152頁
【非特許文献5】Thompsonら、1989年、「Cell」、第56巻、313〜321頁)
【非特許文献6】Lo、1983年、「Mol Cell.Biol.」、第3巻、1803〜1814頁)
【非特許文献7】Lavitranoら、「Cell」、 1989年、第57巻、717〜723頁
【非特許文献8】Gordon、1989年、「Transgenic Animals Intl.Rev.Cytol.」、第115巻、171〜229頁
【非特許文献9】Lasko M.ら、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、第89巻、6232〜6236頁
【非特許文献10】Kohler and Milstein、1975年、「Nature」、第256巻、495〜497頁
【特許文献2】米国特許第4,376,110号
【非特許文献11】Kosborら、1983年、「Immunology Today」、第4巻、72頁
【非特許文献12】Coleら、1983年、「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、第80巻、2026〜2030頁)
【非特許文献13】Coleら、1985年、「Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy」、Alan R.Liss,Inc.、77〜96頁
【非特許文献14】Morrisonら、1984年、「Proc.Natl.Acad.Sci.」、第81巻、6851〜6855頁
【非特許文献15】Neubergerら、1984年、「Nature」、第312巻、604〜608頁
【非特許文献16】Takedaら、「Nature」、第314巻、452〜454頁)
【特許文献3】米国特許第5,585,089号
【特許文献4】米国特許第4,946,778号
【非特許文献17】Bird、1988年、「Science」、第242巻、423〜426頁
【非特許文献18】Hustonら、1988年、「Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA」、第85巻、5879〜5883頁、
【非特許文献19】Wardら、1989年、「Nature」、第334巻、544〜546頁
【非特許文献20】Bronstein I.ら、1994年、「Biotechniques」、第17巻、172〜177頁)
【非特許文献21】KomuroおよびRakic、1988年、In:「The Neuron in Tissue Culture」、L.W.Haymes編、Wiley、New York
【非特許文献22】Ming D.ら、1998年、「Proc.Natl.Sci.U.S.A.」、第95巻、8933〜8938頁
【非特許文献23】Hoon M.R.ら、1999年、「Cell」、第96巻、541〜551頁
【非特許文献24】Ninomiya Y.ら、1997年、「Am.J.Physiol.(London)」、第272巻、R1002〜R1006頁
【非特許文献25】Lam K.S.ら、1991年、「Nature」、第354巻、82〜84頁
【非特許文献26】Houghten R.ら、1991年、「Nature」、第354巻、84〜86頁
【非特許文献27】Sonyang Z.ら、1993年、「Cell」、第72巻、767〜778頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
味覚の基礎をなす分子的メカニズムを十分に理解するためには、味覚信号変換経路における各分子成分を同定することが重要である。本発明は、味覚変換に関与すると考えられており、甘味感覚に関連する味覚細胞の応答の変化に関与している可能性があるGタンパク質結合受容体T1R3のクローニングに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、味覚信号変換経路に関与する、以後T1R3と称する新規のGタンパク質結合受容体の発見、同定および特徴付けに関する。T1R3は、ファミリー3 Gタンパク質結合受容体(以後GPCR)と高度な構造的類似性を有する受容体タンパク質である。ノーザンブロット分析により示されているように、T1R3転写の発現は厳格に制御されており、最高レベルの遺伝子発現が味覚組織に認められる。in situハイブリッド形成により、T1R3は、味覚受容体細胞において選択的に発現するが、周囲の舌上皮、筋肉または結合組織には存在しないことが示されている。さらに、T1R3は、茸状、葉状および有郭乳頭の味蕾において高度に発現する。
【0007】
本発明は、T1R3ヌクレオチド、そのようなヌクレオチドを発現する宿主細胞およびそのようなヌクレオチドの発現産物を含む。本発明は、T1R3タンパク質、T1R3融合タンパク質、T1R3受容体タンパク質に対する抗体およびT1R3トランス遺伝子を発現するトランスジェニック動物またはT1R3タンパク質を発現しない組換えノックアウト動物を含む。
【0008】
さらに、本発明はまた、T1R3活性および/または発現を変調する、すなわち、その作用物質または拮抗物質として作用する化合物の同定のための標的としてT1R3遺伝子および/またはT1R3遺伝子産物を用いるスクリーニング方法に関する。甘味料と同様な味覚応答を刺激する化合物は、甘味の知覚を増加することにより、食品、飲料または薬剤中の調味料として作用する添加物として使用することができる。T1R3受容体の活性を阻害する化合物は、甘味の感覚を遮断するために用いることができる。
【0009】
本発明は、味覚受容体細胞において高レベルで発現したGPCRの発見に一部、基づいている。味覚変換においては、甘味化合物は、PLCβ2とIPを用いる二次メッセンジャーカスケードを介して作用すると考えられる。1サブセットの味覚受容体細胞へのα−ガストデューシン、PLCβ、Gβ3およびGγ13ならびにT1R3の同時局在化は、それらが同じ変換経路で機能する可能性があることを示している。
【0010】
定義
本明細書で使用されているように、T1R3の名称のイタリック体での表記は、T1R3遺伝子、T1R3 DNA、cDNAまたはRNAを示すのに対して、イタリック体で表記されていないT1R3の名称は、そのコードされたタンパク質産物を示す。たとえば、「T1R3」はT1R3遺伝子、T1R3 DNA、cDNAまたはRNAを意味するのに対して、「T1R3」はT1R3遺伝子のタンパク質産物を示すものとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】ヒト1p36.33とマウスSac遺伝子座の近くのマウス4pter染色体領域との間のシンテニー(synteny)を示す図である。陰影をつけた円形のものは各遺伝子の予測される開始コドンのおおよその位置を示し、矢印はイントロンとエキソンを含む各遺伝子の全長を示し、矢じりはポリアデニル化シグナルのおおよその位置を示す。小文字で示した遺伝子は、Genscanにより予測され、それらの最も近い相同遺伝子に従って命名した。大文字で示した遺伝子(T1R3およびDVL1)は、実験的に同定され、立証された。図に示すマウスマーカーD18346は、Sac遺伝子座に近接して結合していて、予測されるプソイドウリジンシンターゼ様遺伝子内にある。示す領域は、約45,000bpに相当する。下部のスケールマーカーは、キロ塩基(K)を示す。
【図1B】ヒトT1R3のヌクレオチドおよび予測されるアミノ酸配列を示す図である。イントロンの末端は、強調小文字で示す。
【図1C】ヒトT1R3の予測される二次構造を示す図である。T1R3は、7つの膜貫通らせんと大きいN末端ドメインを有すると予測される。膜貫通セグメントの位置は、TMpredプログラムに従った。二量体化およびリガンド結合ドメインならびにシステインに富むドメインの位置は、mGluR1受容体および他のファミリーの3つのGPCRに基づいている(19)。
【図2A】マウス組織およびマウス味覚細胞中のT1R3 mRNAの分布を示す図である。マウスT1R3 cDNAとハイブリッド形成させたノーザンブロットのオートラジオグラム。各レーンは、次のマウス組織から分離された25μgの全RNAを含む。有郭および葉状乳頭に富む舌組織(味覚)、味蕾を欠く舌組織(非味覚)、脳、網膜、嗅上皮(Olf Epi)、胃、小腸(Small Int)、胸腺、心臓、肺、脾臓、骨格筋(Ske Mus)、肝臓、腎臓、子宮および精巣。7.2kbの転写が味覚組織においてのみ検出され、わずかにより大きい転写が精巣に検出された。ブロットをX線フィルムに3日間曝露させた。同じブロットをはがし、β−アクチンcDNAで再探査し(下のパネル)、1日曝露させた。RNAマーカーの大きさ(キロ塩基単位)を右端に示す。
【図2B】マウスのSac領域のゲノム配列をマウス発現配列標識(est)データベースを検索するクエリーとして用いた図である。estデータベースとの一致は、赤色実線で示し、エキソンを示す。特定のest一致におけるギャップは、黒色破線で示し、イントロンを示す。est一致の密集性は、この領域内の遺伝子のそれぞれの範囲を区別している。T1R3の位置にestがほぼ存在しないことは、図2aで認められる発現の高度に限定されたパターンと一致する。
【図3A】味覚受容体細胞におけるT1R3発現を示す図である。T1R3およびα−ガストデューシンの33P標識アンチセンスRNAプローブとハイブリッド形成したマウス味覚乳頭の凍結切片の顕微鏡写真。アンチセンスRNAプローブとハイブリッド形成した有郭(a)、葉状(b)および茸状(c)乳頭の高輝度像は、T1R3の味蕾特異的発現を示す。センスT1R3プローブとハイブリッド形成した有郭(e)、葉状(f)および茸状(g)乳頭の対照高輝度像は、非特異的結合を示さなかった。味蕾におけるT1R3発現のレベルと広い分布は、アンチセンスα−ガストデューシンプローブとハイブリッド形成した有郭乳頭の高輝度像(d)と同等であった。センスα−ガストデューシンプローブとハイブリッド形成した有郭乳頭の高輝度像(h)は、非特異的結合を示さなかった。
【図3B】味覚組織および味覚細胞におけるT1R3、α−ガストデューシン、Gγ13およびPLCβ2の発現を示す図である。左パネル:マウス味覚組織(T)および対照非味覚舌組織(N)のRT−PCR産物とのサザンハイブリッド形成。T1R3、α−ガストデューシン(Gust)、Gγ13、PLCβ2およびグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)の3’領域プローブを用いて、ブロットを探査した。T1R3、α−ガストデューシン、Gγ13およびPLCβ2は、すべてが味覚組織において発現したが、非味覚組織では発現しなかったことに注意すること。右パネル:個別に増幅した24味覚受容体細胞のRT−PCR産物とのサザンハイブリッド形成。19細胞はGFP陽性(+)で、5細胞はGFP陰性(−)であった。α−ガストデューシン、Gγ13およびPLCβ2の発現は完全に一致していた。T1R3の発現は、α−ガストデューシン、Gγ13およびPLCβ2の発現と部分的に重複していた。G3PDHは、産物の増幅の成功を立証するための陽性対照とした。
【図4】ヒト有郭乳頭の味覚受容体細胞におけるT1R3、PLCβ2およびα−ガストデューシンの同時局在化を示す図である。(a、c)ヒト有郭乳頭の縦断切片をヒトT1R3のC末端ペプチドに対して誘導したウサギ抗血清ならびにCy3結合抗ウサギ第2抗体で標識した。(b)ヒト乳頭の縦断切片におけるT1R3免疫反応性は、T1R3抗体と同族体ペプチドとのプレインキュベーションにより阻害された。(d)T1R3(h)およびα−ガストデューシン(i)に対して二重免疫染色したヒト茸状乳頭の切片と隣接した縦断切片。2つの像の重ね合わせを(j)に示す。倍率は、200倍(a〜d)または400倍(e〜j)であった。
【図5A】mT1R3対立遺伝子の差を示す図である。8つのマウス同系繁殖系間のmT1R3対立遺伝子の差。すべての非味覚系統は、同じ配列を示したので、1つの行にまとめた。下部の行においては、位置番号の直前のアミノ酸は常に非味覚系統からのものであるが、位置番号の直前のアミノ酸は、その位置において非味覚系統と異なっているいずれかの味覚系統からのものである。太字の2種の列は、すべての味覚系統が非味覚系統と異なり、ヌクレオチド配列の差がアミノ酸置換をもたらす位置を表す。コードされるアミノ酸を変化させないヌクレオチドの差は、s、すなわちサイレントと示す。イントロン内のヌクレオチドの差は、i、すなわちイントロンと示す。
【図5B】(a)で分析したマウス同系繁殖系の系統学を示す図である。系統が開発された年を系統名の後ろの括弧内に示す。これらのマウスが樹立された施設を示す。
【図6】マウスT1R3のアミノ酸配列を他の2つのラット味覚受容体(rT1R1およびrT1R2)、マウス細胞外カルシウム感知(mECaSR)および代謝調節型グルタメートタイプ1(mGluR1)受容体のアミノ酸配列とともに配列させることを示す図である。5種の受容体すべての間で同一である領域は、黒色の地に白色文字で示し、これらの受容体の1つまたは複数がT1R3と同一である領域は、灰色の地に黒色文字で示す。破線の枠は、二量体化に関与すると予測される領域(mGluR1のアミノ末端ドメインの溶解構造に基づく)を示し、中塗りの円は、mGluR1に基づいて予測されたリガンド結合残基を示し、システイン残基を結ぶ青色の線は、mGluR1に基づいて予測された分子間ジスルフィド架橋を示す。上記のアミノ酸配列の配列は、非味覚マウスのすべての系統で認められる多形性を示している。5種の受容体すべてにおいて保存されている予測されるN結合グリコシル化部位は、黒色のくねった線で示す。非味覚系統のマウスにおけるT1R3に特異的な予測されるN結合グリコシル化部位は、赤色のくねった線で示す。
【図7】Modellerプログラムを用いてモデル化したT1R3のアミノ末端の予測される3次元構造で、mGluR1(19)の構造に基づいて予測したものを示す図である。モデルは、T1R3のホモ二量体を示す。(a)細胞外空隙から膜方向に見おろした二量体の「上」からの像。(b)側面から見たT1R3二量体。この像では、膜貫通領域(示されていない)は二量体の下部に達していると思われる。(c)2つの二量体が離れて広がっていて(2つの矢尻の矢印で示す)、接触面が明らかになっていることを除いて、T1R3二量体を(b)と同様に側面から見たものである。3つのグリコシル部分(N−アセチルガラクトース−N−アセチルガラクトース−マンノース)の塗りつぶし表示(赤色)を非味覚mGluR3の新規の予測されるグリコシル化部位に加えた。この部位におけるさらに3つの糖部分の付加は二量体化と立体的に不適合であることに注意すること。二量体化に関与するmGluR1の領域に対応するT1R3の領域を塗りつぶしたアミノ酸で示す。予測される二量体化表面を形成している4種のセグメントを図5の破線枠と同じ方法で色分けする。二量体化領域の外側の2つの分子の部分は、骨格の追跡(backbone tracing)により表わされる。マウスの味覚系統と非味覚系統で異なっているT1R3の2つの多形性アミノ酸残基は、アミノ末端に最も近い予測される二量体化境界内(淡青色)にある。T1R3の非味覚型に固有のaa58における他のN−グリコシル化部位を各パネルに直線の矢印により示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
T1R3は、受容体媒介味覚信号変換に関与する新規の受容体であり、ファミリー3 Gタンパク質結合受容体に属する。本発明は、T1R3ヌクレオチド、T1R3タンパク質およびペプチドならびにT1R3タンパク質に対する抗体を含む。本発明はまた、T1R3受容体を発現もしくは動物の内因性T1R3の発現を阻害または「ノックアウト」するように遺伝子工学的に処理した宿主細胞および動物に関する。
本発明はさらに、T1R3活性の作用物質および拮抗物質のような変調物質の特定のために計画されたスクリーニング検定を提供する。T1R3を自然に発現する宿主細胞もしくは遺伝子工学的に処理した宿主細胞および/または動物の使用は、T1R3受容体タンパク質により変換される信号に影響を及ぼす化合物を特定することを可能にするという点で有利である。
【0013】
本発明の種々の態様を以下の細別の項に詳細に記述する。
T1R3遺伝子
ヒトT1R3のcDNA配列および推理されたアミノ酸配列を図1Bに示す。本発明のT1R3ヌクレオチド配列は、以下の配列を含む。すなわち、(a)図1Bに示すDNA配列、(b)図1Bに示すアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、(c)(i)(a)または(b)に示すヌクレオチド配列と厳密条件下でハイブリッド形成し、たとえば、68℃の0.5M NaHPO、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTA中でのフィルター結合DNAとのハイブリッド形成(Ausubelら編、1989年、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、Green Publishing Associates,Inc.およびJohn Wiley & Sons,Inc.、New York、2.10.3ページ)、(ii)機能が同等な遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列、および(d)図1Bに示すアミノ酸配列をコードするDNA配列と、中程度の厳密条件、たとえば、0.2×SSC/0.1%SDS中42℃での洗浄(Ausubelら、1989年、前記)のようなより程度の低い厳密条件下でハイブリッド形成し、なおも機能が同等なT1R3遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列。T1R3タンパク質の機能的同等物は、ヒト以外の種に存在する天然に産出するT1R3を含む。本発明はまた、配列(a)〜(d)の同義性変異型を含む。本発明はまた、たとえば、(T1R3遺伝子核酸配列の増幅反応のための、および/またはその増幅反応におけるアンチセンスプライマーとしての)T1R3遺伝子調節に有用なT1R3アンチセンス分子をコードする、またはそれとして作用する核酸分子を含む。
【0014】
上述のT1R3ヌクレオチド配列に加えて、他の種に存在するT1R3遺伝子の同族体は、当技術分野でよく知られている分子生物学的技術により、必要以上の実験によることなく、同定し、容易の分離することができる。たとえば、問題の生物由来のcDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリーは、本明細書でハイブリッド形成または増幅プローブとして記載するヌクレオチドを用いるハイブリッド形成により、スクリーニングすることができる。
【0015】
本発明はまた、突然変異体T1R3s、T1R3のペプチド断片、切断型T1R3およびT1R3機能タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。これらは、リガンド結合および二量体化に関与すると考えられているATD(アミノ末端ドメイン)、システインに富むドメインおよび/またはT1R3の膜貫通ドメインまたはこれらのドメインの一部、すなわち、T1R3の1または2つのドメインが欠失している切断型T1R3、たとえば、ATD領域のすべてまたは一部を欠失している機能的T1R3を含むが、これらに限定されない、T1R3の機能ドメインに対応するポリペプチドまたはペプチドを含むが、これらに限定されない。ヌクレオチドコード融合タンパク質は、全長T1R3、切断型T1R3、もしくは、マーカーとして用いることができる酵素、蛍光タンパク質、発光タンパク質等の無関係のタンパク質またはペプチドに融合したT1R3のペプチド断片を含むが、これらに限定されない。
【0016】
T1R3の構造のモデルに基づいて、T1R3が二量体化して、機能的受容体を形成すると予測される。したがって、これらの特定の切断型または突然変異T1R3タンパク質は、天然T1R3タンパク質の優性陰性阻害物質として作用する可能性がある。T1R3ヌクレオチド配列は、当業者に知られている種々の方法を用いて分離することができる。たとえば、T1R3を発現することが知られている組織からのRNAを用いて構成されたcDNAライブラリーは、標識T1R3プローブを用いてスクリーニングすることができる。あるいは、ゲノムライブラリーをスクリーニングして、T1R3受容体タンパク質をコードする核酸分子を導き出すことができる。さらに、T1R3核酸配列は、本明細書に開示するT1R3ヌクレオチド配列に基づいてデザインされた2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを実施することにより得ることができる。反応の鋳型は、T1R3を発現することが知られている細胞系または組織から調製されたmRNAの逆転写により得られるcDNAであってよい。
【0017】
本発明はまた、前述のT1R3配列および/またはそれらの相補的配列(すなわち、アンチセンス)のいずれかを含むDNAベクター、(b)T1R3コード配列の発現を誘導する調節エレメントと機能できるように結合した前述のT1R3配列のいずれかを含むDNA発現ベクター、(c)宿主細胞におけるT1R3コード配列の発現を誘導する調節エレメントと機能できるように結合した前述のT1R3配列のいずれかを含む遺伝子工学的に処理した宿主細胞、および(d)前述のT1R3配列のいずれかを含むトランスジェニックマウスまたは他の生物を含む。本明細書で用いるように、調節エレメントは、誘導および非誘導プロモーター、エンハンサー、オペレーターおよび発現を誘導し、調節する、当業者に知られている他のエレメントを含むが、これらに限定されない。
【0018】
T1R3タンパク質およびポリペプチド
T1R3タンパク質、T1R3および/またはT1R3融合タンパク質のポリペプチドおよびペプチド断片、突然変異型、切断型または欠失型は、抗体の発生、T1R3媒介味覚変換の調節に関与する他の細胞遺伝子産物の同定ならびに新規の甘味料および味覚変革物質のような味覚を調節するのに用いることができる化合物のスクリーニングを含むが、これらに限定されない、様々な用途のために調製することができる。
【0019】
図1Bに、ヒトT1R3タンパク質の推理されたアミノ酸配列を示す。本発明のT1R3のアミノ酸配列は、図1Bに示すアミノ酸配列を含む。さらに、他の種のT1R3sは、本発明に含まれる。実際、上の5.1項に記載されているT1R3ヌクレオチド配列によりコードされるT1R3タンパク質は本発明の範囲内にある。
【0020】
本発明はまた、味覚受容体細胞からシナプスへの伝達物質の放出と求心性神経の活性化をもたらす、味覚受容体細胞におけるT1R3を活性化する甘味料の能力を含むが、これに限定されない多くの基準のいずれかにより判断される、5.1項に記載されているヌクレオチド配列によりコードされるT1R3と機能が同等であるタンパク質を含む。そのような機能が同等なT1R3タンパク質は、上の5.1項に記載されているT1R3ヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列内のアミノ酸残基の付加または置換を有するが、サイレント変化であり、したがって、機能が同等な遺伝子産物をもたらすタンパク質を含むが、これに限定されない。
【0021】
T1R3の1つまたは複数のドメイン(たとえば、アミノ末端ドメイン、システインに富むドメインおよび/または膜貫通ドメイン)、切断型または欠失型T1R3s(アミノ末端ドメイン、システインに富むドメインおよび/または膜貫通ドメインが欠失しているT1R3)に対応するペプチドならびに全長T1R3、T1R3ペプチドまたは切断型T1R3が無関係のタンパク質に融合している融合タンパク質も、本発明の範囲内にあり、本明細書に開示するT1R3ヌクレオチドおよびT1R3アミノ酸配列に基づいてデザインすることができる。そのような融合タンパク質は、マーカー機能を備えた酵素、蛍光タンパク質または発光タンパク質との融合を含む。
【0022】
T1R3ポリペプチドおよびペプチドは化学的に合成することができる(たとえば、Creighton、1983年、Proteins:Structure and Molecular Principles、W.H.Freeman & Co.、NYを参照)が、T1R3から誘導される大きいポリペプチドおよび全長T1R3自体は、T1R3遺伝子配列および/またはコード配列を含む核酸を発現するための当技術分野でよく知られている技術を用いて組換えDNA技術により有利に生産することができる。そのような方法は、5.1項に記載されているT1R3ヌクレオチド配列ならびに適切な転写および翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築するのに用いることができる。これらの方法は、たとえば、in vitro組換えDNA技術、合成技術およびin vivo遺伝的組換えを含む。(たとえば、Sambrookら、1989年、前出およびAusubelら、1989年、前出を参照に記述された技術)
【0023】
本発明のT1R3ヌクレオチド配列を発現させるために、種々の宿主発現ベクターを用いることができる。T1R3ペプチドまたはポリペプチドが可溶性誘導体(たとえば、アミノ末端ドメイン、システインに富むドメインおよび/または膜貫通ドメインに対応するペプチド)として発現し、分泌されない場合、ペプチドまたはポリペプチドは、宿主細胞から回収することができる。あるいは、T1R3ペプチドまたはポリペプチドが分泌される場合、ペプチドまたはポリペプチドは、培地から回収することができる。しかし、発現システムは、細胞膜に固定されているT1R3または機能的同等物を発現する工学的に処理された宿主細胞も含む。そのような発現システムからのT1R3の精製又は濃縮は、適切な界面活性剤および脂質ミセルならびに当業者によく知られている方法を用いて実現することができる。そのような工学的に処理された宿主細胞自体は、T1R3の構造および機能特性を保持するためだけでなく、すなわち薬剤スクリーニング検定において、生物学的活性を評価するためにも重要である場合に、用いることができる。
【0024】
本発明の目的のために用いることができる発現システムは、T1R3ヌクレオチド配列を含む組換えバクテリオファージで形質転換した細菌のような微生物、プラスミドまたはコスミドDNA発現ベクター、T1R3ヌクレオチド配列を含む組換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母もしくは哺乳類細胞のゲノムまたは哺乳類ウイルス由来のプロモーターを含む組換え発現構成体を有する哺乳類細胞系を含むが、これらに限定されない。
【0025】
適切な発現システムは、T1R3タンパク質の正しい修飾、処理および細胞下局在化が起こることを保証するために、選択することができる。この目的のために、T1R3タンパク質を適切に修飾し、処理する能力を有する真核生物宿主細胞が好ましい。スクリーニング目的のための細胞系の開発で望まれるような組換えT1R3タンパク質の長期の高収量生産のために、安定な発現が好ましい。複製起点を含む発現ベクターを用いるよりも、適切な発現制御エレメントおよび選択可能マーカー遺伝子、すなわち、tk、hgprt、dhfr、neoおよびhygro遺伝子等により制御されるDNAを用いて宿主細胞を形質転換することができる。外来DNAの導入の後に、工学的に処理された細胞を富化培地で、次いで、選択培地に切り替えて、1〜2日間増殖させることができる。そのような工学的に処理された細胞系は、T1R3遺伝子産物の内因性活性を変調する化合物のスクリーニングと評価に特に有用であると思われる。
【0026】
トランスジェニック動物
T1R3遺伝子産物は、トランスジェニック動物においても発現させることができる。マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、ミニブタ、ヤギ、ならびにヒト以外の霊長類、たとえば、ヒヒ、サルおよびチンパンジーを含むが、これらに限定されない、あらゆる種の動物を用いて、T1R3トランスジェニック動物を発生させることができる。
【0027】
当技術分野で知られている技術を用いてT1R3トランス遺伝子を動物に導入し、トランスジェニック動物の創始ラインを生産することができる。そのような技術は、前核マイクロインジェクション(Hoppe P.C.およびWagner T.E.、1989年、米国特許第4,873,191号)、生殖系列へのレトロウイルス媒介遺伝子移入(Van der Puttenら、1985年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第82巻、6148〜6152頁)、胚幹細胞における遺伝子ターゲッティング(Thompsonら、1989年、Cell、第56巻、313〜321頁)、胚のエレクトロポレーション(Lo、1983年、Mol Cell.Biol.第3巻、1803〜1814頁)および精子媒介遺伝子移入(Lavitranoら、1989年、Cell、第57巻、717〜723頁)等を含むが、これらに限定されない。そのような技術の総説については、その全部が参照により本明細書に組み込まれている、Gordon、1989年、Transgenic Animals、Intl.Rev.Cytol.第115巻、171〜229頁を参照のこと。
【0028】
本発明は、そのすべての細胞においてT1R3トランス遺伝子を有するトランスジェニック動物ならびにその細胞の一部においてであるが、すべてにおいてではない、トランス遺伝子を有する動物、すなわち、モザイク動物を提供する。トランス遺伝子は、たとえば、Laskoら(Lasko M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第89巻、6232〜6236頁)に従って、特定の細胞型に選択的に導入し、活性化することもできる。そのような細胞型特異的活性化に必要な調節配列は、問題の特定の細胞型に依存し、当業者に明らかであろう。T1R3トランス遺伝子を内因性T1R3遺伝子の染色体部位に組み込むことが望まれる場合、遺伝子ターゲッティングが好ましい。概要を述べると、そのような技術を用いる場合、内因性T1R3遺伝子と相同のいくつかのヌクレオチド配列を含むベクターは、染色体配列との相同的組換えにより、内因性T1R3遺伝子のヌクレオチド配列に組み込まれて、その機能を阻害する目的のためにデザインされている。
【0029】
トランスジェニック動物を発生させたならば、組換えT1R3遺伝子を標準的技術を用いて分析することができる。最初のスクリーニングは、トランス遺伝子の組込みが起こっていたかどうかを試験する目的での動物組織を分析するためのサザンブロット分析またはPCR法により遂行することができる。トランスジェニック動物の組織におけるトランス遺伝子のmRNA発現のレベルは、動物から得られた組織サンプルのノーザンブロット分析、in situハイブリッド形成分析およびRT−PCRを含むが、これらに限定されない技術を用いて評価することもできる。T1R3遺伝子発現組織のサンプルを、T1R3トランス遺伝子産物に対して特異的な抗体を用いて免疫組織化学的に評価することもできる。
【0030】
T1R3タンパク質に対する抗体
T1R3の1つまたは複数のエピトープ、またはT1R3の保存変異型のエピトープ、またはT1R3のペプチド断片を特異的に認識する抗体も、本発明に含まれている。そのような抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(nAbs)、人化またはキメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーにより産生されたフラグメント、抗イディオタイプ(抗Id)抗体および上記のいずれかのエピトープ結合断片を含むが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の抗体は、たとえば、T1R3遺伝子産物の発現および/または活性に対する試験化合物の影響の評価のための下の5.5項に記載のような化合物スクリーニングスキームとともに用いることができる。
【0032】
抗体の産生のために、様々な宿主動物をT1R3タンパク質またはT1R3ペプチドの注射により免疫化することができる。そのような宿主動物は、ウサギ、マウスおよびラット等を含むが、これらに限定されない。免疫応答を増大させるために、宿主動物種に応じて、フロイントアジュバント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムのような鉱物ゲル、リゾレシチンのような界面活性物質、プルロンポリオール、多価陰イオン、ペプチド、油性乳濁液、カサガイ(key limpet)ヘモシアニン、ジニトロフェノールならびにBCG(カルメット−ゲラン桿菌) およびCorynebacterium parvumのような潜在的に有用なヒトアジュバントを含む様々なヒトアジュバントを用いることができる。
【0033】
抗体分子の異種集団からなるポリクローナル抗体は、免疫化動物の血清から得ることができる。モノクローナル抗体は、連続細胞系培養により抗体分子の生産をもたらす技術により得ることができる。これらは、KohlerおよびMilsteinのハイブリドーマ法(1975年、Nature、第256巻、495〜497頁、および米国特許第4,376,110号)、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kosborら、1983年、Immunology Today、第4巻、72頁、Coleら、1983年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第80巻、2026〜2030頁)およびEBV−ハイブリドーマ法(Coleら、1985年、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、77〜96頁)を含むが、これらに限定されない。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDおよびそれらのサブクラスを含む免疫グロブリンクラスのものであってよい。本発明のmAbを産生するハイブリドーマは、in vitroまたはin vivoで培養することができる。高力価のmAbをin vivoで生産できることから、現在、これが好ましい生産方法となっている。
【0034】
さらに、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子と、適切な生物活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子とをスプライシングすることにより「キメラ抗体」を生産するために開発された技術を用いることができる(Morrisonら、1984年、Proc.Nat’l.Acad.Sci.、第81巻、6851〜6855頁、Neubergerら、1984年、Nature、第312巻、604〜608頁、Takedaら、Nature、第314巻、452〜454頁)。あるいは、人化抗体(米国特許第5,585,089号)または単鎖抗体(米国特許第4,946,778号、Bird、1988年、Science、第242巻、423〜426頁、Hustonら、1988年、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA、第85巻、5879〜5883頁、およびWardら、1989年、Nature、第334巻、544〜546頁)の生産のために開発された技術を用いて、T1R3の1つまたは複数のエピトープを特異的に認識する抗体を生産することができる。
【0035】
味覚の調節における有用な薬物および他の化合物のスクリーニング検定
本発明は、T1R3活性またはT1R3遺伝子発現を変調し、したがって、甘味の知覚の変調に有用である可能性のある化合物または組成物を特定するためにデザインされたスクリーニング検定に関する。
【0036】
本発明によれば、細胞を用いる試験系を用いて、T1R3の活性を変調し、それにより、甘味の知覚を変調する化合物をスクリーニングすることができる。この目的のために、T1R3を内因的に発現する細胞を用いて化合物をスクリーニングすることができる。あるいは、T1R3を発現するように遺伝子工学的に処理した、293細胞、COS細胞、CHO細胞、線維芽細胞等の細胞系をスクリーニングの目的のために用いることができる。機能的T1R3を発現するように遺伝子工学的に処理された宿主細胞は、味覚受容体細胞のような、甘味料による活性化に応答するものであることが好ましい。さらに、T1R3を発現するように工学的に処理された卵母細胞またはリポソームを、T1R3活性のモジュレーターを特定するために開発された試験に用いることができる。
【0037】
本発明は、(i)T1R3受容体を発現する細胞を試験化合物と接触させ、T1R3の活性化量を測定する段階と、(ii)別の実験において、条件を(i)と本質的に同じとして、T1R3受容体タンパク質を発現する細胞を溶剤対照と接触させ、T1R3の活性化量を測定する段階と、(iii)(i)で測定したT1R3の活性化量を(ii)におけるT1R3の活性化量と比較する段階とを含み、試験化合物の存在下での活性化T1R3のレベルの増加が試験化合物がT1R3活性化物質であることを示す、甘味の知覚を誘発する化合物(甘味活性化物質)を特定する方法を提供する。
【0038】
本発明はまた、(i)T1R3受容体タンパク質を発現する細胞を甘味料の存在下で試験化合物と接触させ、T1R3の活性化量を測定する段階と、(ii)別の実験において、条件を(i)と本質的に同じとして、T1R3受容体タンパク質を発現する細胞を甘味料と接触させ、T1R3の活性化量を測定する段階と、(iii)(i)で測定したT1R3の活性化量を(ii)におけるT1R3の活性化量と比較する段階とを含み、試験化合物の存在下でのT1R3の活性化量の低下が試験化合物がT1R3阻害物質であることを示す、甘味の知覚を阻害する化合物(甘味阻害物質)を特定する方法を提供する。
【0039】
本明細書で定義される「甘味料」は、対象において甘味の知覚を誘発する化合物または分子複合体である。特に、甘味料は、以下の1つまたは複数のことをもたらす、T1R3タンパク質の活性化をもたらすものである。すなわち、(i)細胞内へのCa+2の流入、(ii)内部貯蔵からのCa+2の放出、(iii)Gsおよび/またはガストデューシンのような結合Gタンパク質の活性化、(iv)アデニリルシクラーゼおよび/またはホスホリパーゼCのような2次メッセンジャー調節酵素の活性化。甘味料の例は、サッカリンまたはショ糖または他の甘味料を含むが、これらに限定されない。
【0040】
そのような細胞系を使用するに際して、T1R3受容体を発現する細胞を試験化合物または溶剤対照(たとえば、プラセボ)に曝露させる。曝露後、細胞を検定して、T1R3のシグナル変換経路の構成要素の発現および/または活性を測定することができ、あるいは、シグナル変換経路それ自体も検定することができる。
【0041】
試験分子がT1R3の活性を変調する能力は、標準的生化学的および生理学的技術を用いて測定することができる。T1R3および/または他のタンパク質の触媒活性の活性化または抑制、リン酸化または脱リン酸化、2次メッセンジャーの産生の活性化または変調、細胞イオンレベルの変化、シグナル伝達分子の会合、解離または転移、もしくは特定の遺伝子の転写または翻訳のような反応をモニターすることができる。本発明の非限定的実施形態において、細胞内Ca2+レベルの変化をindo、fura等の指示色素の蛍光によりモニターすることができる。さらに、cAMP、cGMP、IPおよびDAGレベルも検定することができる。他の実施形態において、T1R3シグナル変換を変調する化合物を特定するために、アデニリルシクラーゼ、グアニリルシクラーゼ、プロテインキナーゼAおよび神経伝達物質のCa2+感受性放出を測定することができる。さらに、T1R3チャンネルタンパク質の変調に起因する膜電位の変化は、電位固定法またはパッチレコード法を用いて測定することができる。本発明の他の実施形態において、微小生理機能測定機を用いて細胞活性をモニターすることができる。
【0042】
たとえば、試験化合物への曝露後に、Ca2+の細胞内濃度の増加とアデニリルシクラーゼ、プロテインキナーゼAまたはcAMPのようなカルシウム依存性下流メッセンジャーの活性化について検定することができる。溶剤対照で処理した細胞で認められるレベルと比較して、Ca2+の細胞内濃度を増加し、プロテインキナーゼAを活性化し、あるいはcAMP濃度を増加させる試験化合物の能力は、試験化合物が作用物質(すなわち、T1R3活性化物質である)として作用し、宿主細胞が発現するT1R3によって媒介されるシグナル変換を誘導することを示している。溶剤対照で認められるレベルと比較して、甘味料誘発性カルシウム流入を阻害し、プロテインキナーゼAを阻害し、あるいはcAMP濃度を低下させる試験化合物の能力は、試験化合物が拮抗物質(すなわち、T1R3阻害物質である)として作用し、T1R3により媒介されるシグナル変換を阻害することを示している。
【0043】
本発明の特定の実施形態において、cAMPのレベルは、種々のリポーター遺伝子のいずれかに連結されたcAMP応答性エレメントを含む構成体を用いて測定することができる。そのようなリポーター遺伝子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、β−グルクロニダーゼ(GUS)、増殖ホルモンまたは胎盤性アルカリホスファターゼ(SEAP)を含むが、これらに限定されない。そのような構成体をT1R3を発現する細胞に導入して、T1R3活性のモジュレーターを特定するために計画されたスクリーニング検定に有用な組換え型細胞を得ることができる。
【0044】
細胞を試験化合物に曝露させた後に、リポーター遺伝子の発現のレベルを定量して、試験化合物がT1R3活性を調節する能力を測定することができる。アルカリホスファターゼ検定は、この酵素が細胞から分泌されるので、本発明の実施上、特に有用である。したがって、組織培養上清を、分泌されたアルカリホスファターゼについて検定することができる。さらに、Bronstein I.ら(1994年、Biotechniques、第17巻、172〜177頁)に記載されているように、アルカリホスファターゼ活性を熱量測定、生物発光または化学発光定量法により測定することができる。その検定法は、薬剤の単純で、感度が高く、容易に自動化可能な検出システムとなる。
【0045】
さらに、細胞内cAMP濃度を測定するために、シンチレーション近接定量法(SPA)を用いることができる(SPAキットがAmersham Life Sciences、Illinoisにより供給されている)。この定量法では、125I標識cAMP、抗cAMP抗体および第2抗体を被覆したシンチラント組込みミクロスフェアを用いる。標識cAMP抗体複合体を介してミクロスフェアに極めて近接した状態になったとき、125Iがシンチラントを励起して、光を放射させる。細胞から抽出された非標識cAMPは、抗体への結合を125I標識cAMPと競合し、それにより、シンチレーションを減弱させる。定量は、高処理量スクリーニングを可能にするために96ウエルプレートを用いて実施し、読み出しには、WallecまたはPackardにより製造されたような96ウエルを用いるシンチレーション計数機器を用いることができる。
【0046】
本発明の他の実施形態において、細胞内Ca2+の濃度をKomuroおよびRakic、1988年、In:The Neuron in Tissue Culture、L.W.Haymes編、Wiley、New Yorkに記載されているような方法を用いてFluo−3およびFura−RedのようなCa2+指示色素を用いてモニターすることができる。
【0047】
上記の方法のいずれかにより特定された、T1R3の活性を活性化する試験活性化物質は、甘味の知覚を誘発させるそれらの能力を確認するためにさらなる試験に供することができる。上記の方法のいずれかにより特定された、甘味料によるT1R3の活性化を阻害する阻害物質は、それらの阻害活性確認するためにさらなる試験に供することができる。試験化合物がT1R3受容体の活性を変調する能力は、行動的、生理学的方法またはin vitro法により評価することができる。
【0048】
たとえば、試験動物に推定上のT1R3活性化物質を含む組成物と化合物を添加していない同じ組成物を摂取する選択権を与える、行動試験を実施することができる。たとえば、摂取量がより多いことから証明される試験化合物を含む組成物に対する好みは、T1R3活性の活性化と正の相関があるであろう。さらに、甘味料の存在下でのT1R3の推定上の阻害物質を含む食物に対する動物の好みの欠如は、甘味阻害物質の特定と正の相関があるであろう。
【0049】
細胞を用いる検定に加えて、細胞を用いない検定システムを用いて、T1R3と相互作用する、たとえば、結合する化合物を特定することができる。そのような化合物は、T1R3活性の拮抗物質または作用物質として作用する可能性があるので、甘味知覚を調節するのに用いることができる可能性がある。
【0050】
この目的のために、可溶性T1R3を組換えにより発現させて、細胞を用いない検定に用いて、T1R3に結合する化合物を特定することができる。以下の5.2項で述べるように調製したT1R3の1つまたは複数のドメインを含む組換えにより発現するT1R3ポリペプチドまたは融合タンパク質を細胞を用いないスクリーニング検定に用いることができる。たとえば、T1R3のリガンド結合および二量体化に関与すると考えられているアミノ末端ドメイン、システインに富むドメインおよび/または膜貫通ドメインに対応するペプチド、もしくはT1R3の1つまたは複数のドメインを含む融合タンパク質を、細胞を用いない検定システムを用いて、T1R3の一部に結合する化合物を特定することができる。そのような化合物は、T1R3のシグナル変換経路を変調するのに有用であると思われる。細胞を用いない検定において、組換えにより発現するT1R3を、当業者によく知られている手段(Ausubelら、前記を参照)により、試験管、ミクロタイターウエルまたはカラムのような基体に付着させることができる。次いで、試験化合物をT1R3に結合する能力について検定する。
【0051】
T1R3タンパク質は、他の分子から完全または部分的に分離されたものであってよく、あるいは、粗または半精製抽出物の一部として存在していてもよい。非限定的な例において、T1R3タンパク質は、味覚受容体細胞膜の標本に存在する。本発明の特定の実施形態において、そのような味覚受容体細胞膜は、参照により本明細書に組み込まれているMing D.ら、1998年、Proc.Natl.Sci.U.S.A.第95巻、8933〜8938頁に記載のように調製することができる。具体的には、ウシ有郭乳頭(「味覚組織」、味覚受容体細胞を含む)を用手切開し、液体窒素で凍結し、使用前に−80℃で保存する。収集した組織を、10mMトリス pH7.5、10容量%グリセロール、1mM EDTA、1mM DTT、10μg/μlペプスタチンA、10μg/μlロイペプチン、10μg/μlアプロチニンおよび10μM 4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホイルフルオリド塩酸塩を含む緩衝液中でPolytronホモジナイザー(各25,000RPMで20秒間の3サイクル)を用いてホモジナイズする。1,500×gで10分間遠心分離して粒子状物質を除去した後、45,000×gで60分間遠心分離して、味覚膜を収集する。次いで、ペレット状の膜を2回洗浄し、プロテアーゼインヒビタを欠くホモジナーゼーション緩衝液に再懸濁し、25ゲージ針に20回通してさらにホモジナイズする。次いで、分割量をフラッシュ凍結するか、使用時まで氷上で保存する。他の非限定的な例として、味覚受容体を組換えクローンから得ることができる(Hoon M.R.ら、1999年、Cell、第96巻、541〜551頁を参照)。
【0052】
検定法はまた、T1R3発現を転写または翻訳レベルで調節する化合物をスクリーニングするようにデザインすることができる。1実施形態において、リポーター分子をコードするDNAをT1R3遺伝子の調節エレメントに連結させて、適切な無処理の細胞、細胞抽出物または溶解産物に用いて、T1R3遺伝子発現を変調する化合物を特定することができる。適切な細胞または細胞抽出物は、通常、T1R3遺伝子を発現する細胞型から調製し、それにより、細胞抽出物がin vitroまたはin vivo転写に必要な転写因子を含むようにする。スクリーニングを用いて、リポーター構成体の発現を変調する化合物を特定することができる。そのようなスクリーニングにおいては、リポーター遺伝子の発現のレベルを試験化合物の存在下で測定し、試験化合物の非存在下での発現のレベルと比較する。
【0053】
T1R3翻訳を調節する化合物を特定するために、T1R3転写物を含む細胞またはin vitro細胞溶解産物を、T1R3 mRNAの翻訳の変調について試験してもよい。T1R3翻訳の阻害物質について検定するために、in vitro翻訳抽出物中のT1R3 mRNAの翻訳を変調する試験化合物の能力を検定する。
【0054】
さらに、T1R3活性を調節する化合物を動物モデルを用いて特定することができる。行動的、生理学的または生化学的方法を用いて、T1R3の活性化が起こったかどうかを検討することができる。行動的および生理学的方法は、in vivoで実施することができる。行動測定の例として、試験活性化物質の存在下または非存在下での動物が組成物を自発的に摂取する傾向を測定することができる。もし試験活性化物質が動物におけるT1R3活性を誘導するならば、動物は、より多くの組成物を摂取することを促進すると思われる甘味を経験すると予想される。もし動物に甘味料のみ(T1R3を活性化する)を含む組成物または試験阻害物質と甘味料とを含む組成物を摂取するかどうかの選択権を与えるならば、動物は甘味料のみを含む組成物を摂取することを好むと予想される。したがって、動物が示す相対的好みは、T1R3受容体の活性化と逆相関する。
【0055】
生理学的方法としては、味覚細胞を含む組織にin vivoまたはin vitroで機能できるように接合された神経を用いて実施することができる神経応答試験がある。T1R3活性化をもたらす甘味料への曝露は味覚受容体細胞における活動電位を生じさせ、それが末梢神経を経て伝播されるので、甘味料に対する神経応答の測定は、とりわけ、T1R3活性化の間接的な測定である。舌咽神経を用いて実施された神経応答試験の例が、Ninomiya Y.ら、1997年、Am.J.Physiol.(London)、第272巻、R1002〜R1006頁に記載されている。
【0056】
上述の検定法は、T1R3活性を変調する化合物を特定することができる。たとえば、T1R3活性に影響を及ぼす化合物は、T1R3に結合し、シグナル変換を活性化(作動物質)または活性化を阻害(拮抗物質)する化合物を含むが、これらに限定されない。T1R3遺伝子活性に影響を及ぼす化合物(T1R3遺伝子発現に影響を及ぼすことによる、全長または切断型のT1R3の発現を変調することができるように転写に影響を及ぼす、またはスプライシング事象を妨害する分子、たとえば、タンパク質または小有機分子を含む)も本発明のスクリーニングを用いて特定することができる。しかし、記載した検定法も、T1R3シグナル変換を変調する化合物を特定することができる(たとえば、その受容体への味覚物質(tastant)の結合により活性化されたシグナルの変換に関与するGタンパク質の活性の阻害物質または促進物質のような、下流のシグナル伝達事象に影響を及ぼす化合物)ことに留意すべきである。T1R3の下流のシグナル伝達事象に影響を及ぼし、それにより、味覚に対するT1R3の影響を変調するそのような化合物の特定と使用は、本発明の範囲内にある。
【0057】
本発明によりスクリーニングすることができる化合物は、T1R3に結合し、天然味覚物質リガンドにより誘発された活性を模擬(すなわち、作用物質)、または、天然リガンドにより誘発された活性を阻害(すなわち、拮抗物質)する小有機または無機分子、ペプチド、抗体およびその断片、ならびに他の有機化合物を含むが、これらに限定されない。そのような化合物は、たとえば、発酵ブロス、チーズ、植物および菌類に存在するような天然に存在する化合物であってよい。
【0058】
化合物は、たとえば、ランダムペプチドライブラリーのメンバー(たとえば、Lam K.S.ら、1991年、Nature、第354巻、82〜84頁、Houghten R.ら、1991年、Nature、第354巻、84〜86頁を参照)を含むが、これらに限定されない可溶性ペプチドのようなペプチド、ならびにDおよび/またはL立体配置アミノ酸からなるコンビナトリーケミストリーにより得られる分子ライブラリー、リンペプチド(ランダムまたは部分的に縮重し、誘導されたリンペプチドのメンバーを含むが、これらに限定されない)(たとえば、Sonyang Z.ら、1993年、Cell、第72巻、767〜778頁を参照)、抗体(ポリクローナル、モノクローナル、人化、抗イディオタイプ、キメラまたは単鎖抗体ならびにFAb、F(ab’)2およびFAb発現ライブラリー断片ならびにそのエピトープ結合断片を含むが、これらに限定されない)および小有機または無機分子を含むが、これらに限定されない。
【0059】
本発明によりスクリーニングすることができる他の化合物は、T1R3遺伝子またはT1R3シグナル変換経路に関与する他のいくつかの遺伝子の発現に影響を及ぼす(たとえば、遺伝子発現に関与する調節領域または転写因子と相互作用することにより)小有機分子、もしくはT1R3の活性またはたとえば、T1R3結合Gタンパク質のようなT1R3シグナル変換経路に関与する他のいくつかの細胞内因子の活性に影響を及ぼすような化合物を含むが、これらに限定されない。
【0060】
T1R3のモジュレーターを含む組成物およびそれらの使用
本発明は、上の5.5項に示すようにT1R3の活性化を測定することにより特定されるT1R3活性化物質のような、有効な量のT1R3活性化物質を対象に投与することを含む、対象の味覚組織を甘味料と接触させることによる甘味を誘発する方法を提供する。本発明はまた、有効な量のT1R3阻害物質を組成物に混入することを含む、組成物の甘味を阻害する方法を提供する。T1R3阻害物質の「有効な量」とは、甘味の知覚を主観的に低下させる、かつ/または、上述の検定法のうちの1つにより測定されるT1R3の活性化の検出可能な低下を伴う量である。
【0061】
本発明はさらに、上の5.5項に示すように特定される甘味活性化物質のようなT1R3活性を活性化する化合物を含む組成物を投与することを含む、対象による甘味の知覚をもたらす方法を提供する。組成物は、対象により甘いと認識される味覚をもたらすのに有効な量の活性化物質を含んでいてよい。
【0062】
したがって、本発明は、甘味活性化物質および甘味阻害物質を含む組成物を提供する。そのような組成物は、食品、飲料、薬剤、歯科用品、化粧品ならびに封筒および切手に使用される水和糊を含むが、これらに限定されない、対象の味覚組織と接触する可能性のある物質を含む。
【0063】
本発明の一連の実施形態において、T1R3活性化物質は、食品または飲料甘味料として使用される。そのような例においては、本発明のT1R3活性化物質を食品または飲料に混入し、それにより、食品の炭水化物含量を増加させることなく、食品または飲料の甘味を増大させる。
【0064】
本発明の他の実施形態において、甘味活性化物質は、共存する苦味物質に伴う苦味の知覚をうち消すために使用される。これらの実施形態において、本発明の組成物は苦味物質および甘味活性化物質を含み、甘味活性化物質が苦味の知覚を阻害する濃度で存在する。たとえば、組成物中の苦味物質の濃度および組成物中の甘味活性化物質の濃度を上の5.5項に開示するように検定に供する。
【0065】
本発明は、甘味の知覚を増大させることにより、もしくは、苦味物質の忌避的効果を減弱または除去することにより、食品の味を改善するのに用いることができる。苦味物質が食品保存料である場合、本発明のT1R3活性化物質は、食品へのそれの混入を可能または促進し、それにより、食品の安全性を改善する。栄養補助食品として投与する食品については、本発明のT1R3活性化物質の混入により、摂取が促進され、それにより、対象への栄養またはカロリーの供給の点で、これらの組成物の有効性が増大する。
【0066】
本発明のT1R3活性化物質は、医療用および/または歯科用組成物に混入することができる。造影剤や局所口腔麻酔薬のような、診断処置に用いられるある種の組成物は、不快な味を有している。本発明のT1R3活性化物質は、組成物の味を改善することにより、そのような処置を受ける対象の快適さを改善するのに用いることができる。さらに、本発明のT1R3活性化物質は、錠剤および液剤を含む薬剤組成物に混入して、それらの味を改善し、患者の遵守(特に、患者が小児またはヒト以外の動物である場合)を改善するために用いることができる。
【0067】
本発明のT1R3活性化物質は、味の特徴を改善するために化粧品に含めてもよい。たとえば、限定の意図はないが、本発明のT1R3活性化物質は、美顔用化粧クリームおよび口紅に混入することができる。さらに、本発明のT1R3活性化物質は、在来の食品、飲料、薬剤または化粧品ではなく、味覚膜と接触する可能性がある組成物に混入することができる。例は、石けん、シャンプー、義歯接着剤、切手の表面および封筒用の糊および病害虫防除に用いられる有毒組成物(たとえば、ラットまたはゴキブリ毒物)を含むが、これらに限定されない。
【実施例】
【0068】
T1R3遺伝子のクローニングおよび特徴付け
以下に示すデータは、新規の味覚受容体T1R3のSacとしての同定を記述している。この同定は、以下の所見に基づいている。T1R3は、Sacに最も緊密に結合したD18346マーカーに中心を置くヒトゲノムDNAの百万bp領域に存在する唯一のGPCRである。T1R3の発現は狭く限定されており、味覚受容体細胞のサブセットにおいて高度に発現する。味覚受容体細胞におけるT1R3の発現は、甘味変換経路の既知および提唱されている要素(すなわち、α−ガストデューシンおよびGγ13)と大部分、重複している。T1R3は、プロテアーゼに対して感受性の高い、大きい細胞外ドメイン(甘味受容体の既知の性質)を有するファミリー3 GPCRである。非常に明らかなことに、マウスのすべての味覚系統を非味覚系統と区別するT1R3の多形性が特定された。非味覚系統のT1R3は、その二量体化を妨げると予想されるT1R3の構造のモデリングに基づくN末端グリコシル化部位を含むと予測される。したがって、T1R3は、sacと同定されるだけでなく、T1R3のモデルとこの多形性変化に基づいて、甘味応答性(すなわち、甘味をリガンドとする)味覚受容体でもある。
【0069】
遺伝子の同定
D18346マーカーを含むマウス遺伝子(プソイドウリジンシンターゼ様)を同定するために、D18346配列を、マウス発現配列標識(est)データベースのBlastNスクリーニングにおける検索配列として用いた。得られた各オーバーラップ配列の整合を反復的に用いて、ほぼ全長の遺伝子が決定されるまで、配列を延長した。得られたコンティグを翻訳し、予測された読み枠を、高処理能力ゲノム配列(High Throughput Genomic Sequence)(HTGS)データベースのTBlastN検索における検索配列として用いた。この検索により、ヒト相同分子種を含むヒトBACクローンAL139287が位置決めされた。Genscanを用いて、このクローンにおける遺伝子およびエキソンを予測した。NRまたはestデータベースのBlastNまたはTBlastN検索を用いて、このクローンおよび他のクローンにおける既知または未知遺伝子をさらに定義した。得られた予測される各遺伝子を、HTGSのTBlastNまたはBlastN検索に用いて、重複BACまたはPACクローンを発見した。重複配列の各々をHTGSのBlastN検索に用いて、この領域の非定序コンティグの構築を継続した。この検索から得られた予測遺伝子およびエキソンを用いて、D18346マーカーを含むプソイドウリジンシンターゼ様遺伝子に中心を置くゲノム配列の百万塩基にわたり部分的に配列させた。2つのヒトクローンがT1R3、前述のAL139287およびAC026283を含むことが認められた。ヒトT1R3遺伝子は、最初にGenscanにより予測され、その後、ヒト茸状味蕾RNAのRT−PCRおよび/またはヒト味覚ライブラリーのスクリーニングにより確認された。上記の操作および検索に加えて、我々はアルゴリム(ゲノム配列における膜貫通スパンを認識するように設計された)を用いて、ヒト第1染色体のpアーム上の1pterから1p33までのヒトゲノムクローンのすべてを検索した(Sanger Center第1染色体マッピングプロジェクト、FCおよびHW、未公表)。このスクリーニングにより、T1R3ならびにT1R1およびT1R2が予測された。ヒトT1R1は、20,000bpのD18346マーカーおよびプソイドウリジンシンターゼ様遺伝子の範囲内にあり、この百万塩基領域における予測された唯一のGPCRである。
【0070】
次いで、予測されたヒト遺伝子をCeleraマウス断片ゲノムデータベースのTBlastNスクリーニングに用いた。一致した各断片を用いて、ギャップを埋め、反復BlastN検索においてマウスT1R3相同分子種をさらに延長した。以下のマウス断片を用いて、マウスT1R3ゲノム配列を構築し、精密にした。GA_49588987、GA_72283785、GA_49904613、GA_50376636、GA_74432413、GA_70914196、GA_62197520、GA_77291497、GA_74059038、GA_66556470、GA_70030888、GA_50488116、GA_50689730、GA_72936925、GA_72154490、GA_69808702。Genscanを用いて、得られたゲノムコンティグからマウス遺伝子を予測した。予測されたマウスT1R3遺伝子は、マウス味蕾RNAのRT−PCRにより確認された。D18346に中心を置くヒトゲノム領域の他の遺伝子を用いて、Celeraマウス断片データベースを検索した。これらの検索による配列を用いて、この領域のマウスゲノムコンティグを構築し、マウスゲノムにおけるD18346とT1R3との連鎖ならびにこの領域におけるヒトおよびマウス遺伝子のマイクロシンテニーを確認した。T1R3の5’末端と糖脂質転換酵素様遺伝子の3’末端との間のゲノム配列の1つのギャップをPCRにより架橋し、配列分析により確認した。
【0071】
ノーザンハイブリッド形成
いくつかのマウス組織からTrizol試薬を用いて総RNAsを分離し、レーン当たり25μgの各RNAを6.7%のホルムアルデヒドを含む1.5%アガロースゲル上での電気泳動にかけた。サンプルをナイロン膜に移し、UV照射により固定した。ブロットを、7%SDSおよび40μg/mlヘリング精子DNAを含む0.25Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中、65℃で5時間撹拌しながら前ハイブリッド形成した。32P−放射性標識マウスT1R3プローブを用いた20時間にわたるハイブリッド形成を同じ溶液中で行った。膜を5%SDSを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)で65℃で40分間にわたり2回洗浄し、1%SDSを含む同じ緩衝液(pH7.2)で65℃で40分間にわたり2回、0.1×SSCおよび0.1%SDSで30分間にわたり1回洗浄した。ブロットを二重増感板を用いてX線フィルムに80℃で3日間曝露させた。32P−標識マウスT1R3プローブは、(α−32P)−dCTPの存在下でエキソ(−)クレノウポリメラーゼを用いた5’末端コード配列に対応するマウスT1R3の1.34kb cDNAのランダム9量体プライミングにより、発生させた。
【0072】
in situハイブリッド形成
33P−標識RNAプローブT1R3(2.6kb)およびα−ガストデューシン(1kb)をマウス舌組織の凍結切片(10μm)のin situハイブリッド形成に用いた。ハイブリッド形成および洗浄は、(2)に記載の通りであった。スライド標本をKodak NTB−2核飛跡乳剤で被覆し、4℃で3週間曝露させた後、現像し、固定した。
【0073】
遺伝子発現プロファイル作成
単一味覚受容体細胞RT−PCR産物(5μl)を1.6%アガロースゲル上でサイズ別に分別し、ナイロン膜に移した。分離細胞の発現パターンを、マウスT1R3、α−ガストデューシン、Gγ13、PLCβ2およびG3PDHの3’末端cDNAプローブを用いてサザンハイブリッド形成により測定した。ブロットは、80℃で5時間曝露させた。単一有郭乳頭および非味覚上皮の同様の大きさの断片からの総RNAsも分離し、逆転写し、増幅し、個々の細胞の場合と同様に分析した。
【0074】
免疫細胞化学
ヘモシアニン結合T1R3ペプチド(T1R3−A、aa 829−843)に対するポリクローナル抗血清をウサギにおいて産生させた。PLC β2抗体は、Santa−Cruz Biotechnologiesから入手した。ヒト舌組織の10μmの厚さの凍結切片(あらかじめ4%パラホルムアルデヒドで固定し、20%ショ糖で凍結保護した)をPBS中3%BSA、0.3%Triton X−100、2%ヤギ血清および0.1%アジ化ナトリウムで室温で1時間ブロックし、次いで、α−ガストデューシンに対する精製抗体またはT1R3に対する抗血清とともに4℃で8時間インキュベートした(1:800)。第2抗体は、T1R3に対するCy3結合ヤギ抗ウサギIgおよびPLC β2に対するフルオレセイン結合ヤギ抗ウサギIgであった。PLC β2およびT1R3免疫反応性を、抗血清のそれぞれ対応する10μMおよび20μMの合成ペプチドとのプレインキュベーションによりブロックした。免疫前血清は、免疫反応性を示さなかった。いくつかの切片を(46)に記載の通りにT1R3およびPLC β2で二重免疫染色した。その概要を述べると、切片をT1R3抗血清、抗ウサギIg−Cy3結合物、正常抗ウサギIg、PLCβ2抗体とともに順次、そして最後に抗ウサギIg−FITC結合物とともに、各段階の間に間欠的な洗浄の段階を設けて、インキュベートした。PLCβ2抗体を除く上記のすべてのものとともにインキュベートした対照切片は、緑色チャンネルにおいて蛍光を示さなかった。
【0075】
T1R3における配列多形性の同定
Celeraマウス断片データベースから得られたマウスT1R3の配列に基づいて、読み取り枠を含む領域をコードするDNAを増幅するようにオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。味覚乳頭から分離した総RNAまたは1味覚(C57BL/6J)および1非味覚(129/Svev)マウス系統から分離した各尾部ゲノムDNAをそれぞれRT−PCRおよびPCRを用いてマウスT1R3 cDNAおよびゲノムDNAを増幅するための鋳型として用いた。PCR産物をABI 310自動シークエンサで完全に配列決定した。得られた配列に基づいて、4組のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、2系統のマウス間で多形性が認められたT1R3領域を増幅した。マウスの系統DBA/2、BALB/c、C3H/HeJ、SWRおよびFVB/NのゲノムDNAを鋳型として用いた。アンプリコンを精製し、直接配列決定した。これらの系統のマウスの系統樹は、Hoganら(47)およびJackson laboratoryウエブサイト(http://www.jax.org)に基づくものであった。
【0076】
T1R3の構造のモデリング
マウスT1R3およびマウスGluR1のアミノ末端ドメイン(ATDs)をClusta1Wプログラム(48)を用いて一列に並べた。配列を手作業で編集し、構造および機能に関する考察に基づいて、最適の配列を発生させた。mGluR1 ATD結晶構造の原子座標(19)をタンパク質データベースから得て、配列とともにモデリングの空間的制約の源として用いた。マウスT1R3の構造モデルは、MODELLER(49)プログラムを用いて発生させた。図7のオリジナルの画像をInsight IIおよびWeblab Viewerプログラム(Molecular Simulation Inc.)を用いて作製し、Photoshopに導入し、そこで開いた像を作製し、ラベルを加えた。
【0077】
結果
マウスおよびヒトSac領域のマッピング
マウスSac遺伝子は、ショ糖、サッカリン、アセスルファム(acesulfame)、ズルチン、グリシンおよび他の甘味料に対する系統内優先反応の主要な決定因子である(9〜12)が、Sac遺伝子産物の分子的性質は不明である。味覚系統のマウスと非味覚系統マウスとで甘味料および甘味アミノ酸に対する味覚神経の異なる電気生理学的応答を示し、このことがSacが末梢における甘味経路に対してその作用を及ぼすことの証拠となっている(14、18)。これらの差異の最も有力な説明は、甘味シグナル伝達経路の受容体、Gタンパク質サブユニット、エフェクター酵素または他のメンバーのような甘味応答性味覚変換エレメントをコードする遺伝子における対立遺伝子の差異である。甘味応答性受容体を修飾したSac遺伝子産物(12)は、それ自体味覚受容体(17)またはGタンパク質サブユニット(14)であったと推測された。Sac遺伝子の性質の確認の第1段階として、我々はこの領域におけるヒトゲノムの近接マップを作製した。
【0078】
4pterのsac遺伝子座に最も近接して位置するマウスマーカーD18346(16)を初めとして、estデータベースから新規のマウス遺伝子が同定された。すなわち、D18346は、プソイドウリジンシンターゼと相同性を有する新規のマウス遺伝子の3’非翻訳領域(UTR)に認められる。この研究を開始した時点では、ヒトゲノムの配列はほぼ完全であった(わずかに部分的に構成されたが)のに対して、マウスの配列はかなり不完全であり、したがって、完成したヒトゲノム配列とヒト染色体1pter(1p36.33)(マウス4pterとシンテニック)に位置することが知られている細菌人工染色体(BAC)およびP1人工染色体(PAC)クローンの未完成配列を、D18346マーカーを含む新規のプソイドウリジンシンターゼ様遺伝子の相同分子種についてスクリーニングした。TblastNプログラムを用いて高処理能力ヒトゲノム配列(HTGS)データベース(NCBI)を検索して、プソイドウリジンシンターゼ様遺伝子のヒト相同分子種を含むPACクローンを同定した。これと重複PACおよびBACクローンの配列の部分を含むヒトHTGSの反復Blast検索により、我々はヒトゲノムDNA配列の約百万bpに及ぶ6重複BACまたはPACクローンの近接マップ(「コンティグ」)を作製することができた。
【0079】
Genscan遺伝子予測プログラムを用いて、我々はこのコンティグ内の予測されたエキソンおよび遺伝子を同定した。「プソイドウリジンシンターゼ様」、「切断およびポリアデニル化様」および「糖脂質転移様」を含む23種の遺伝子がこの領域において予測された(図1A)。この領域内のいくつかの遺伝子は、他者により以前に同定および/または実験的に立証された(たとえば、disheveled 1、dvl1)。Celeraマウスゲノムデータベースを検索し、この領域内の遺伝子のマウス相同分子種を同定し、マウスコンティグの全容を明らかにした(図1A)。
【0080】
Sac領域内の新規の受容体T1R3の同定
Sac領域における百万bpのゲノムDNA配列のスクリーニングにおいて、予測された1つのGPCR遺伝子のみが認められた。T1R3と称するこの遺伝子(味覚受容体については、メンバー3ファミリー)は、それがコードする予測されたタンパク質が味覚細胞内で発現する2つのオーファンGPCRsである(17)、T1R1およびT1R2と非常に類似しており、以下に示すように、味覚細胞内で特に発現することから、特に興味深いものであった。ヒトT1R3(hT1R3)は、D18346マーカーを含むマウス遺伝子のヒト相同分子種であるプソイドウリジンシンターゼ様遺伝子から約20bpの位置にある(図1A)。もしT1R3がSacならば、それがD18346に近接していることが、F2交雑および共通遺伝子マウスにおける以前に観察された、このマーカーとSac遺伝子座との間の交差型の確率が非常に低いこと(16)と一致している。
【0081】
T1R3遺伝子のコード部分のイントロン/エキソン構造は、Genscanにより4kbにわたり、7エキソンを含むと予測された(図1B)。予測されたhT1R3タンパク質の推測されるアミノ酸配列を確認し、さらに正確にするために、ヒト味覚cDNAライブラリーから得られた、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅hT1R3cDNAsからの複数の独立した生成物をクローンし、配列を決定した。ゲノムDNAおよびcDNAsのヌクレオチド配列、膜スパンニング領域の疎水性プロファイルおよびTMpred予測(図1C)に基づいて、hT1R3は、7つの膜貫通らせんを含む843アミノ酸のタンパク質と大きい558アミノ酸長の細胞外ドメインをコードすると予測される。
【0082】
対応するマウスT1R3(mT1R3)ゲノム配列をCeleraマウスゲノム断片データベースから構成した。種々のマウス系統の味蕾mRNA由来の、いくつかの逆転写酵素(RT)−PCR発生マウスT1R3 cDNAsもクローンし、配列を決定した。C57BL/6のマウスT1R3遺伝子のコード部分は、4kbにわたり、6エキソンを含む。コードされるタンパク質は858アミノ酸長である。味覚系統と非味覚系統との多形性の差異とそれらの機能上の意義は、以下に述べる(図5および6ならびに関連する本文を参照)。
【0083】
T1R3は、すべてが大きい細胞外ドメインを含む、GPCRsのファミリー3サブタイプのメンバーである。他のファミリー3サブタイプGPCRsとしては、メタボトロピックグルタミン酸受容体(mGluR)、細胞外カルシウム感知受容体(ECaSR)、鋤鼻器において発現する候補フェロモン受容体(V2R)ならびにリガンド特異性が不明の2つの味覚受容体であるT1R1およびT1R2などがある。T1R3は、T1R1およびT1R2と最も密接に関連しており、これらのオーファン味覚受容体のそれぞれと約30%のアミノ酸配列の同一性を共有している(T1R1とT1R2は互いに約40%同一である)。アミノ酸レベルでは、hT1R3は、mGluRと約20%同一で、ECaSRと約23%同一である。ファミリー3 GPCRsの大きいアミノ末端ドメイン(ATD)は、リガンド結合および二量体化と密接に関連づけられた(19)。他のファミリー3 GPCRsと同様に、mT1R3は、アミノ末端シグナル配列、573アミノ酸の広範なATD、複数の予測されるアスパラギン関連グリコシル化部位(そのうちの1つは高度に保存されている)およびいくつかの保存システイン残基を有する。これらのシステインの9つは、ATDを膜貫通ドメインを含む受容体の部分に連結している領域内にある。マウスの味覚および非味覚系統間の表現型の差異に対するmT1R3のATDの関連性の有無については、以下に詳細に示す(図5および6ならびに関連する本文を参照)。
【0084】
味覚組織および味蕾におけるT1R3 mRNAおよびタンパク質の発現
味覚および非味覚組織におけるマウスT1R3の一般的分布を検討するために、マウスmRNAsのパネルを用いてノーザンブロット分析を行った。7.2kb mRNAとハイブリッド形成したマウスT1R3プローブは、味覚組織に存在するが、味蕾を欠いている対照舌組織(非味覚)および検査した他のいくつかの組織においては発現しない(図2A)。いくぶん大きい(約7.8kb)mRNA種が精巣で中程度のレベルで、脳で非常に低いレベルで発現した。より小さい(約6.7kb)mRNA種が胸腺で非常に低いレベルで発現した。7.2kbの味覚発現転写物は分離cDNAsまたはGenscan予測エキソンよりも長く、付加的な非翻訳配列が転写物に存在している可能性があることが示唆される。
【0085】
種々の組織におけるT1R3の発現のパターンの他の尺度として、T1R3およびSac領域における他の予測される遺伝子との強い一致について、発現配列標識(est)データベースを検討した(図2B)。dvl1、糖脂質変換酵素様、切断およびポリアデニル化様ならびにプソイドウリジンシンターゼ様遺伝子はそれぞれ、数種の組織のestsと多数の高度に有意な一致を示したが、T1R3は結腸のestと単一の強い一致を示したにすぎなかった。ノーザンブロット分析と一致したこの結果は、T1R3の発現は高度に限定されており、estデータベースにおけるそのような過小表示のパターンは、T1R3が味覚受容体であることと一致していることを示唆している。
【0086】
味覚組織におけるT1R3発現の細胞パターンを検討するために、in situハイブリッド形成を実施したところ、T1R3は味覚受容体細胞において選択的に発現したが、周囲の舌上皮、筋肉または結合組織には存在しなかった(図3A)。感覚プローブ対照は、舌組織との非特異的ハイブリッド形成を示さなかった(図3A)。T1R3のRNAハイブリッド形成シグナルは、α−ガストデューシンのそれよりも強かった(図3A)。このことから、T1R3 mRNAが味覚受容体細胞において極めて高度に発現することが示唆される。これは、明らかにα−ガストデューシンよりも低いレベルで発現するT1R1およびT1R2 mRNAに関する結果(17)と対照的である。さらに、T1R3は茸状、葉状および有郭乳頭の味蕾において高度に発現するのに対して、T1R1およびT1R2 mRNAはそれぞれ局所的に異なる発現パターンを示す(T1R1は茸状乳頭およびgeschmacksstreifen(「味覚線(‘taste stripe’」)の味覚細胞において選択的に発現し、葉状乳頭の味覚細胞においてより少ない程度に発現するが、有郭乳頭の味覚細胞においてはほとんど発現せず、T1R2は一般的に有郭および葉状乳頭の味覚細胞において発現するが、葉状乳頭またはgeschmacksstreifenの味覚細胞においてはほとんど発現しない)(17)。
【0087】
T1R3 mRNAが味覚受容体細胞の特定のサブセットにおいて発現するかどうかを検討するために、発現プロファイル作成を用いた(3)。最初に、T1R3、α−ガストデューシン、Gγ13、PLCβ2およびG3PDH cDNAsのマウスクローンの3’領域のプローブを単一有郭乳頭のRT−PCR増幅cDNAsとハイブリッド形成させ、非味覚舌上皮の同様な大きさの断片を用いた場合と比較した。この方法により、マウスT1R3は、α−ガストデューシン、Gγ13およびPLCβ2と同様に、味蕾を含む組織において発現するが、非味覚舌上皮では発現しないと判断された(図3B左)。個々の味覚細胞におけるこれらの遺伝子の発現のパターンを次にプロファイルした。すなわち、単一細胞RT−PCR生成物を上で用いたのと同じ組のプローブとハイブリッド形成させた。以前に検討したように(3)、19種のα−ガストデューシン陽性細胞のすべてがGβ3およびGγ13を発現し、これらの19種の細胞のすべてがPLCβ2も発現した(図3B右)。これらの19種の細胞のうちの12種(63%)がT1R3も発現した。α−ガストデューシン/Gβ3/Gγ13/PLCβ2陰性であった5種の細胞のうちの1種のみがT1R3を発現した。このことから、T1R3およびα−ガストデューシン/Gβ3/Gγ13/PLCβ2の発現は、完全には一致しないが、大いに重複していると結論された。これは、α−ガストデューシン陽性細胞の約15%がT1R1およびT1R2陽性であった葉状乳頭の味覚受容体細胞に関する以前のin situハイブリッド形成結果(17)と対照的である。
【0088】
抗hT1R3抗体を用いた免疫細胞化学試験により、ヒト有郭(図4AC)および茸状(図4EH)乳頭における味覚受容体細胞の1/5がhT1R3陽性であったことが示された。hT1R3免疫反応性がhT1R3抗体の同族体ペプチドとのプレインキュベーションにより阻害された(図4B)。hT1R3陽性味覚細胞の縦断切片は、いわゆる明細胞に特有な細長い双極の形態を示し(多くがα−ガストデューシン陽性)、免疫反応性は味孔またはその近傍で最も顕著であった(図4ACEH)。hT1R3およびPLCβ2に対する抗体で隣接切片を標識することにより、hT1R3よりもPLCβ2に対して陽性の細胞が多いことがわかった(図4CD)。hT1R3およびPLCβ2(図4EFG)またはhT1R3およびα−ガストデューシン(図4HIJ)に対する2重標識により、すべてではないが、多くの細胞が2重に陽性(より多くの細胞がhT1R3に対してよりもPLCβ2またはα−ガストデューシンに対して陽性であった)であることが示され、発現プロファイル作成の結果と一致していた。要約すると、T1R3 mRNAおよびタンパク質は、味覚受容体について予想されるように、α−ガストデューシン/PLCβ2陽性味覚受容体細胞のサブセットにおいて選択的に発現する。
【0089】
T1R3の1つの多形性の差異がSac非味覚表現型の説明となり得る
Sac遺伝子座を有するC57BL/6マウスおよび他のいわゆる味覚系統のマウスは、DBA/2マウス(sac)および他の非味覚系統と比較して、ヒトが甘いと特徴づけるいくつかの化合物(たとえば、ショ糖、サッカリン、アセスルファム、ズルチンおよびグリシン)に対して強い好みと大きい鼓索神経応答を示す(10〜12、14、15、18)。味覚および非味覚系統のマウスのT1R3の推測されたアミノ酸配列を検討して、これらの表現型の差異の説明となり得る変化を探索した(図5Aを参照)。検討した4つの非味覚系統のすべて(DBA/2、129/Svev、BALB/cおよびC3H/HeJ)が、それらの最新の共通祖先が1900年代初期またはそれ以前にさかのぼる(図5Bを参照)にもかかわらず、同じヌクレオチド配列を有していた。4つの味覚系統のすべて(C57BL/6J、SWR、FVB/NおよびST/bj)が非味覚系統との4つのヌクレオチドの差異を共有していた。すなわち、nt135A→G、nt163A→G、nt179T→Cおよびnt652T→C(味覚系統のntを最初に示す)。C57BL/6Jは、他のすべての系統と異なっていた多くの位置も有していた(図5Aを参照)が、これらの差異の多くはタンパク質コード領域における「サイレント」な交互のコドン変化か、顕著な影響を及ぼす可能性がないようなイントロン内の置換であった。2つのコード変化(特定の残基における単一文字のアミノ酸の変化として記述、味覚系統aaを最初に示す)は、T55AおよびI60Tであった。I60T変化は、T1R3のATDに新規のN−結合グリコシル化部位を導入すると予測されるので、特に興味をそそる差異である(以下を参照)。
【0090】
味覚系統と非味覚系統とのT1R3タンパク質におけるこれらの2つのアミノ酸の差異の機能面の関連性を考察するために、T1R3のATDをGPCRsのタイプ3サブセットの他のメンバーのATDと配列させ(図6)、関連mGluR1受容体の最近解明されたATDの構造(19)に基づいてT1R3のATDをモデル化した(図7)。T1R3のATDは、T1R1、T1R2、CaSRおよびmGluR1のATDとそれぞれ、28、30、24および20%の同一性を示す(図6)。ATDにおける約570残基のうちの55残基が5つの受容体すべてにおいて同一であった。これらの保存残基には、予測されたN−結合グリコシル化部位がT1R3のN85に含まれている。mGluR1との相同性に基づいて、二量体化に関与すると予測された領域は、aa 55〜60、107〜118、152〜160および178〜181である(図6の破線枠内に示す)。I60T味覚系統の非味覚系統への置換は、5つの受容体すべてに存在する保存N−結合グリコシル化部位から27アミノ酸上流の新規のN−結合グリコシル化部位を導入すると予測される。N58における新規のN−結合グリコシル化部位は、N85における保存部位の正常なグリコシル化を妨害し、リガンド結合ドメインの構造を変化させ、受容体の二量体化の可能性を妨害するか、あるいは、T1R3機能に対して他のなんらかの影響を及ぼす可能性がある。
【0091】
mT1R3の非味覚変異体のN58におけるグリコシル化がタンパク質の機能を変化させると予想されるかどうかを検討するために、我々はmGluR1のATDに基づいてそのATDをモデル化した(図7)。T1R3における二量体化の可能性のある領域は、mGluR1のそれと非常に類似しており、これらの領域におけるアミノ酸は、T1R3において二量体化が実際に起こる可能性があることを示唆するぴったりと合った接触表面を形成している。T1R3のATDの3次元構造のモデルから、我々は、N58における新規のN−結合グリコシル化部位がT1R3の二量体化する能力に対して著しい影響を及ぼす可能性があることがわかる(図7C)。N58におけるたとえ短い炭水化物基の付加(図7Cのモデルに三糖類部分が付加された)でさえも二量体の安定性に必要な少なくとも1つの接触表面を破壊すると思われる。したがって、もしT1R3が、mGluR1と同様に、二量体の形態(ホモ二量体またはヘテロ二量体)をとるならば、N58における予測されるN−結合グリコシル基が、T1R3が自己ホモ二量体またはT1R3と同時発現する他のGPCRsとの同じ二量体化界面を用いたヘテロ二量体を形成することを妨げると予想される。もし非味覚系統T1R3のN58における新規の予測されるN−結合グリコシル化部位が利用されないならば、予測される二量体化の表面におけるT55AおよびI60T置換それ自体が二量体を形成するT1R3の能力に影響を及ぼす可能性がある。
【0092】
参考文献
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【0093】
本発明は、本明細書に記載されている特定の実施形態により範囲を限定されないものである。実際、本明細書に記載されている形態に加えて、前記の説明と添付図面とから、本発明の様々な修正形態が当業者に明らかになるであろう。そのような修正形態は、添付の特許請求の範囲内に入るものとする。様々な参考文献が本明細書に引用されているが、その開示は、それらの全部が参照により組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIR3誘導物質を特定する方法であって、
(i)TIR3受容体チャンネルタンパク質を発現する単離された細胞を試験化合物と接触させ、TIR3の活性化量を測定する段階であって、該TIR3受容体タンパク質は『 ID No.:1−No.:6のヌクレオチド配列によりコードされるか、(ii)SEQ ID No.:1−No.:6のヌクレオチド配列と厳密条件下でハイブリッド形成するヌクレオチド配列によりコードされるものであり、味覚受容体細胞内に存在するとき甘味料によって活性化されて該味覚受容体から神経伝達物質をシナプスに放出して求心性神経を活性化させる段階と、
(ii)別の実験において、条件を(i)と本質的に同じとして、該TIR3受容体タンパク質を発現する単離された細胞を溶剤対照と接触させ、TIR3の活性化量を測定する段階と、
(iii)(i)で測定したTIR3の活性化量を(ii)における活性化量と比較する段階を含み、試験化合物の存在下での活性化TIR3の増加量が、試験化合物がTIR3誘導物質であることを示す方法。
【請求項2】
TIR3阻害物質を特定する方法であって、
(i)TIR3受容体タンパク質を発現する単離された細胞を甘味料の存在下で試験化合物と接触させ、TIR3の活性化量を測定する段階であって、該TIR3受容体タンパク質は(i)SEQ ID No.:1−No.:6のヌクレオチド配列によりコードされるか、(ii)SEQ ID No.:1−No.:6のヌクレオチド配列と厳密条件下でハイブリッド形成するヌクレオチド配列によりコードされるものであり、味覚受容体細胞内に存在するとき甘味料によって活性化されて該味覚受容体から神経伝達物質をシナプスに放出して求心性神経を活性化させる段階と、
(ii)別の実験において、条件を(i)と本質的に同じとして、該TIR3受容体タンパク質を発現する単離された細胞を甘味料と接触させ、TIR3の活性化量を測定する段階と、
(iii)(i)で測定したTIR3の活性化量を(ii)で測定したTIR3の活性化量と比較する段階を含み、
試験化合物の存在下でTIR3の活性化量の低下が、試験化合物がTIR3阻害物質であることを示す方法。
【請求項3】
TIR3の阻害物質である可能性を有する物質をin vivoで特定する方法であって、
(i)ヒトを除く試験動物に(a)甘味料を含む組成物または(b)甘味料ならびに試験阻害物質を含むいずれかを摂取する選択権を与える段階と、
(ii)(a)または(b)による組成物の摂取量を比較する段階とを含み、
(a)による組成物のより大きな摂取量が、試験化合物がTIR3を阻害する能力を有する可能性を有することと正の相関関係を有する方法。
【請求項4】
TIR3の活性化物質である可能性を有する物質をin vivoで特定する方法であって、
(i)ヒトを除く試験動物に(a)対照組成物または(b)試験活性化物質を含む組成物のいずれかを摂取する選択権を与える段階と、
(ii)(a)または(b)による組成物の摂取量を比較する段階とを含み、
(b)による組成物のより大きな摂取量が、試験活性化物質がTIR3を活性化する能力を有する可能性を有することと正の相関関係を有する方法。

【図1A】
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【図1C】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−115201(P2010−115201A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280365(P2009−280365)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願2002−583594(P2002−583594)の分割
【原出願日】平成14年4月22日(2002.4.22)
【出願人】(503381497)
【Fターム(参考)】