説明

新規な微生物BS−UE9株、ポリウレタンの微生物分解方法

【課題】ポリウレタンを分解できる新規な微生物およびポリウレタンを微生物分解する新たな方法を得ることが本発明の課題である。
【解決手段】本発明により、Rhodococcus sp.に属する新規な細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)が与えられた。BS−UE9株はエステル系及びエーテル系のポリウレタンを分解する活性を有する。また、細菌BS−UE9株とPseudozyma sp.に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)の共生系でも、エステル系のポリウレタンを微生物分解することができた。よって本発明により、ポリウレタンを微生物分解する新たな方法が与えられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンを分解する作用を有するRhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)に関する。更に本発明は、ポリウレタンを、細菌BS−UE9株(FERM P−20954)で微生物分解する方法に関する。更に本発明は、Rhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)とPseudozyma sp.に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)の共生系で微生物分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは分子中にウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、ポリオールとイソシアネートの重付加反応により合成される。ウレタンフォームはポリウレタンと二酸化炭素から成る多泡体であり、冷蔵庫、自動車、建材などに断熱材やクッション材などとして広く使用されている。しかしウレタンフォームは、三次元の網目構造を持つ熱硬化性樹脂であるため、熱可塑性樹脂のように加熱して再利用できず、焼却や埋め立てによる処理しか方法がないのが現状である。
【0003】
一方、ウレタンフォームのリサイクルは従来から研究されており、現在では、加水分解法、グリコール分解法やアミノ分解法などによって、再架橋可能な原料に戻す方式でのリサイクルが技術的には可能であることがわかっている。しかし、ウレタンフォームの多くは断熱材やクッション材として使用されるため、比重が軽く、熱伝導率も極めて小さい。そのため、ウレタンフォームの分解効率は悪くて経済的採算が取れず、実用化されていない。よって、コンポストのように低温でウレタンフォームを分解する省エネルギー型の方法が求められている。
【0004】
このような省エネルギー型の方法として、すなわち低温でウレタンフォームを分解する方法として、微生物による分解処理が考えられる。微生物分解は低温での処理なので、エネルギー消費は最も少ない処理法といえる。また、ウレタンフォームを微生物分解した後、分解物を再利用することも考えられる。例えば、分解されたポリオールやアミンをイソシアネートと反応させ再利用することも考えられる。ウレタンフォームの微生物分解については、従来様々な微生物がスクリーニングされている。しかしウレタンフォームの微生物分解は検討されているものの、その分解効率が低いために、いまだに実用化されているものは殆どない。
【0005】
ところで本発明者らはウレタンフォームを微生物分解する技術の一環として、ポリウレタンを分解できる酵母であるBS−UE5株について特許出願をしている(特開2006−180811号公報)。しかしウレタンフォームを微生物分解する更なる技術に対するニーズがある。
【0006】
なお上記のBS−UE5株は酵母であるが、細菌と酵母の共生系による分解の報告はない。また従来の微生物分解では、ポリウレタン以外に酵母抽出物などの炭素源を加えた例が多く、ポリウレタンを唯一の炭素源とする微生物分解の例は少ない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−180811号公報
【非特許文献1】金原ら 自動車技術論文集 29 (4) 135, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、ポリウレタンの微生物分解に利用することができる、新規な微生物を得ることが本発明の課題である。更に、BS−UE5株などの酵母との共生系において、ポリウレタンの分解の効率を更に高めることができる細菌を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するために発明者らはポリウレタン分解菌について鋭意換討した結果、ウレタンフォームを高い分解率で分解できるRhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株を見いだし、本発明を完成させるに至った。更に該細菌BS−UE9株は、酵母BS−UE5株との共生系でウレタンフォームを高い分解率で分解できることを見いだした。BS−UE9株単独の系、あるいはBS−UE9株とBS−UE5株の共生系によれば、ウレタンフォームを分解することが可能であるので、本発明により上記課題を解決することが可能である。よって本発明はポリウレタンフォームの廃棄及び再利用に有用である。
【0010】
本発明は次(1)〜(9)からなる。
(1)ポリウレタンを分解する作用を有し、Rhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)。
(2)ポリウレタンをBS−UE9株(FERM P−20954)で微生物分解する方法。
(3)前記ポリウレタンがエステル系のポリウレタンであることを特徴とする(2)に記載の方法。
(4)前記ポリウレタンがエーテル系のポリウレタンであることを特徴とする(2)に記載の方法。
(5)前記ポリウレタンがポリウレタンフォームであることを特徴とする(2)、(3)および(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)ポリウレタンをバクテリアと酵母の共生系で微生物分解する方法。
(7)ポリウレタンをRhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)とPseudozyma sp.に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)の共生系で微生物分解する方法。
(8)前記ポリウレタンがエステル系のポリウレタンであることを特徴とする(7)に記載の方法。
(9)前記ポリウレタンがポリウレタンフォームであることを特徴とする(7)又は(8)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新規な微生物であるBS−UE9株(FERM P−20954)が与えられた。BS−UE9株はポリウレタンを分解する活性を有する。また細菌BS−UE9株と酵母BS−UE5株の共生系も、ポリウレタンを分解する活性を有する。よって本発明により、ポリウレタンを分解する新たな方法が与えられた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明の実頑の形態を具体的に説明する。
本発明者は多くの土壌からポリウレタンの分解菌を鋭意スクリーニングした結果、高効率でポリウレタンを分解可能な、Rhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株を見出した。よって本発明は新規微生物であるバクテリアBS−UE9株である。また本発明はポリウレタンを上記微生物で分解する方法である。なおBS−UE9株は独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−20954株として2006年7月10日に寄託されている。
【0013】
なお本発明者はポリウレタンを分解できる酵母BS−UE5株を見出しており、特許出願をしている(特開2006−180811号公報)。このBS−UE5株は独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−20243株として2004年10月8日に寄託されている。本発明者は、細菌BS−UE9株と酵母BS−UE5株の共生系により、高い効率でポリウレタンを分解できることを更に見出した。よって本発明は細菌BS−UE9株と酵母BS−UE5株の共生系でポリウレタンを分解する方法である。
【0014】
本発明においてBS−UE5株とBS−UE9株は無機塩の液体培地中でポリウレタンを資化しながら増殖する。無機塩としては窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどを含むものがあげられる。
【0015】
微生物、すなわちBS−UE9株の同定は、近年主流となっている16SrRNA遺伝子の比較に基づいて行った。以下に方法の詳細を述べる。菌株をnutrient agar(Oxford,Hampshire.England)に植菌し、30℃で2日間培養した。その後、この菌体からInstaGene Matrix(BIORAD,CA,USA)により、BIORAD社のプロトコルによりゲノムDNAの抽出を行った。抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCRにより16S Ribosomal RNA遺伝子(16S rDNA)のうち、5‘末端側約500bpの領域を増幅した。その後、増幅した塩基配列をシーケンスし、検体の16S rDNA部分塩基配列を得た。得られた16S rDNAの塩基配列から、検体について近縁と考えられる種の相同性検索を行い、下記に示す上位3株を決定した。このようにBS−UE9株はRhodococcusと相同性が高いことから、Rhodococcus sp.に属する細菌であると同定された。
【0016】
相同性 菌株
94.25% Rhodococcus zopfii
93.85% Rhodococcus coprophilus
93.44% Rhodococcus Rhodochrous
【0017】
ポリウレタンとしてエステル系及びエーテル系があるが、BS−UE9株の系による微生物分解法はエステル系及びエーテル系のポリウレタンの分解に好適である。またBS−UE5株とBS−UE9株の共生系による微生物分解法は、エステル系のポリウレタンの分解に好適である。エステル系のポリウレタンの具体例としては、TDI、MDI、NDI、HDI、XDI、H6XDI、IPDI、H12MDI、TMXDI、DDI、TMDI、NBDIなどのイソシアネートとポリジエチレンアジペートなどのアジペート系ポリオールの付加重合物が例示される。しかし、本発明の対象となるエステル系のポリウレタンはその範囲内に限定されるものではない。
【0018】
また、エーテル系のポリウレタンの具体例としては、TDI、MDI、NDI、HDI、XDI、H6XDI、IPDI、H12MDI、TMXDI、DDI、TMDI、NBDIなどのイソシアネートと、PEG、PPG、PTMG、1,4−ブタンジオール、ポリカプロラクトンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンタジオール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、メチルペンタジオールなどのポリオールとの付加重合物が例示される。しかし、本発明の対象となるエステル系のポリウレタンはその範囲内に限定されるものではない。
【0019】
実用上、本発明で分解の対象となるポリウレタンの多くはポリウレタンフォームである。本発明で分解の対象となるポリウレタンフォームの製品中には、発泡剤、整泡列などの通常に使用される配合剤が配合されていてもよい。しかし配合剤の中にBS−UE5株又はBS−UE9株の増殖を阻害する配合剤が配合されている場合は、ポリウレタンフォームを溶剤抽出し、これを除去する必要がある。以下実施例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
シリコーン栓付きのガラス容器に準備した表1の組成の培地に、5mm角に切ったTDIとポリジエチレンアジペートの付加重合物からなるエステル系ポリウレタンフォーム片10g/Lを入れ、オートクレープ中で90℃の滅菌処理した。これに同様のポリウレタンフォームを唯一の炭素源として前培養したBS−UE9株の菌液を加え、30日間30℃、50rpmで振とう培養し、121℃でオートクレープ滅菌し、ポリウレタンフォーム片を取り出した。取り出したポリウレタンフォーム片をアセトンで数回洗浄後、純水で数回洗浄し、十分に乾燥した事を確認後、重量測定を行った。
【0021】
【表1】

【0022】
(実施例2)
実施例1と同一の実験を、TDIとPPGの付加重合物からなるエーテル系ポリウレタンフォーム片に対して行った。
【0023】
(実施例3)
実施例1と同様の実験を、酵母BS−UE5株及び細菌BS−UE9株の共生系を用いて、TDIとポリジエチレンアジペートの付加重合物からなるエステル系ポリウレタンフォーム片に対して行った。
【0024】
(比較例)
実施例1と同様の実験をBS−UE9株の代わりに土壌から分離した細菌を用いて行った。
【0025】
BS−UE9株による重量減少はエステル系ポリウレタンフォームを分解した実施例1では23%であり、エーテル系ポリウレタンフォームを分解した実施例2では9%であった。一方比較例では重量減少は0%であった。よってBS−UE9株が、エステル系及びエーテル系の両方のウレタンフォームを唯一の炭素源として分解することが確認された。
【0026】
また、酵母BS−UE5株及び細菌BS−UE9株の共生系を用いた微生物分解によるエステル系ポリウレタンフォーム重量減少は、28%であった。よって酵母BS−UE5株及び細菌BS−UE9株の共生系もまた、エステル系ウレタンフォームを唯一の炭素源として分解することが確認された。なお、酵母BS−UE5株及び細菌BS−UE9株の共生系による微生物分解によるエステル系ポリウレタンフォームの重量減少は、BS−UE9株単独の系による微生物分解よりも大きな値となった。
【0027】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の新規の微生物であるBS−UE9株(FERM P−20954)は、エステル系及びエーテル系のポリウレタンを分解する作用を有する。よって本発明によりポリウレタンを微生物分解する新たな手段が提供された。また細菌BS−UE9株と酵母BS−UE5株(FERM P−20243)の共生系でも、エステル系のポリウレタンを微生物分解することができた。よって微生物を用いた本発明による微生物分解方法は、ポリウレタンの廃棄及び再利用に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンを分解する作用を有し、Rhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)。
【請求項2】
ポリウレタンをBS−UE9株(FERM P−20954)で微生物分解する方法。
【請求項3】
前記ポリウレタンがエステル系のポリウレタンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリウレタンがエーテル系のポリウレタンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリウレタンがポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項2、請求項3および請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ポリウレタンを細菌と酵母の共生系で微生物分解する方法。
【請求項7】
ポリウレタンをRhodococcus sp.に属する細菌であるBS−UE9株(FERM P−20954)とPseudozyma sp.に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)の共生系で微生物分解する方法。
【請求項8】
前記ポリウレタンがエステル系のポリウレタンであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリウレタンがポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の方法。

【公開番号】特開2008−125486(P2008−125486A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317274(P2006−317274)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】