説明

新規な抗癌性化合物

本発明は、新規な抗癌性化合物、特に中性子捕捉治療等の核種活性化治療に用いられる新規な化合物に関する。特に、本発明は、一般式:P−(L−NAT)(ここで、Pは分子量5〜6000kDaを有するN−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリレートコポリマーを示し、NATは核種活性化治療剤を示し、Lは該ポリマーを該中性子捕捉治療剤と結合可能な結合分子部を示し、nは1〜1000の整数を示す)で表わされる共役体を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗癌性化合物、特に中性子捕捉治療等の核種活性化治療に用いられる新規な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
核種活性化治療においては、核種が活性化され、核開裂を起し、生体細胞を破壊可能な高イオン化放射線を放出する。その方法は、核種が中性子により活性化されるときには、中性子捕捉治療と呼ばれる。癌の治療のための中性子捕捉治療(NCT)の原理は、米国の科学者ロッカー(Locker)により1936年にはじめて記述された。本質において、NCT元素(例えば安定核種ホウ素−10)を非イオン化性の遅い中性子で照射すると、開裂反応が起り7〜9μmの範囲の高イオン化放射線を放出する。1951年に最初の患者が治療され、それ以来、その原理は臨床において成功裡に証明されてきたが、これまで効果的なNCT薬剤については解明困難であった。
【0003】
ホウ素中性子捕捉治療は、中性子と薬剤の空間的および時間的重複を必要とする二モード治療である。生物学的効果を達成するためには、遅い中性子とホウ素担持剤の相互作用が必要である。10Bと中性子とのBNCT反応は次式で要約される。
【0004】
10B+thLi+α粒子(He)+2.4MeV
その2.4MeVのエネルギーは、LiおよびHe2+イオンに取り上げられる。この二つの粒子は充分に活性化され、最大で9μmの射程の強いイオン化軌跡を生ずる。したがって損傷は腫瘍細胞径、すなわち10μmに限定される。従って10Bを含む細胞のみが損傷を受け、10Bを含まない(健康な)細胞は損なわれずに残される。10B核種は安定かつ非放射性であり、その核は、遅い中性子に対し、水素の2700倍という非常に大きな中性子吸収断面積を有する。これは、生体組織を構成する水素、酸素および炭素等の元素よりも数千倍も良好な中性子吸収能を有することを意味する。
【0005】
BNCTは、通常放射線治療により処置されるリンパ腫および皮ふ癌の治療、ならびに脳、胸、肺、頭および首、骨、前立腺、すい臓および頚部の癌の治療に用いられる。加えて、腫瘍の外科的除去が計画される際には、BNCTは腫瘍寸法の減小および関連正常組織の損失の低減を助けるためにも用いられる。BNCTは選択的な「局部(in situ)」での放射線治療の利益の可能性ならびに従来のX線照射療法に代替する可能性により促進されている。世界的には500人を超える患者が、脳および皮ふ腫瘍の実験的NCT治療を受けている。多くは、二つの実験化合物、すなわち4−ジヒドロキシボリルフェニルアラニン(BPA)およびナトリウム・メルカプトウンデカハイドロドデカデカーボネート(BSH)、が臨床試験に用いられている。
【0006】
従来の放射線治療においては、生物学的効果は、被照射領域の全域に拡がるのに対して、BNCTでは、10B担持分子を含む細胞に特定される。放射線治療において、生物学的効果のための破壊的イオン化軌跡を発生させるためには、比較的高い放射線量が必要である。これは、この治療法の有効性を制約する要因となる。放射線治療は、電子(β−粒子)あるいは光子(X−線およびγ−線)からなる低いLET(直線エネルギー転移性)を有する放射線束の使用という本来の特性により制約される。BNCTによれば、短い射程で高いエネルギーのαおよびLi粒子が生成される。これら粒子は高LET粒子であり、強いイオン化性およびはるかに大きな能力の破壊特性を示す。従って、放射線治療の場合に比べて、同等な照射治療生物学的効果を発揮するのに要求されるBNCT線量ははるかに小さい。
【0007】
放射線治療と対称的に、BNCTは、薬剤の特性により目標組織を与える。致死線量は、10Bが局在化する所、すなわち腫瘍組織内、にのみ発生される。一連の治療は、2〜4日内に完了する。遅い中性子は非イオン化性である。BNCTは、また通常明瞭な境界を持たない拡散性腫瘍を破壊することもできる。
【0008】
BNCTは、多くが低酸素状態を示し、癌治療が解剖学と妥協されることのある腫瘍中の酸素濃度に依存しない。4〜8cm程度あるいはそれを超える深部腫瘍の治療も可能である。
【0009】
BNCTは、従来の放射線治療が6週間にわたって30回も処置される必要があるのに対して、2〜4日間にわたって数回の処置を行えるので、従来の放射線治療に比べて、患者を傷つけることが少ない。
【0010】
二次系であるので、各要素は他とは独立して操作可能である。10B剤の投与と中性子照射の間隔は、正常組織と腫瘍組織との間に最高の10B濃度差を与えるように時間最適化される。同様に、中性子束を収束して、照射領域を腫瘍部位に限定して、ある程度残留10B濃度を有する正常組織を治療容積部から除くことも行われる。
【0011】
しかしながら、NCTの「局部」細胞放射線治療という利点を可能とするためには、いくつかの前提要件がある。中性子は、NCT核種、例えば10B原子のみが開裂反応を起す範囲のエネルギーを有さなければならない。NCT剤は、目標組織に選択的に局在化されねばならない。例えば、10/秒/cmの中性子流出量を与える核反応炉からの中性子束を用いてBNCTを効果的に行うために必要な10B量として、腫瘍組織1g当り、15〜35μg(ホウ素原子10個と等しい)が広く引用されている。
【0012】
しかしながら、腫瘍組織当り10個のホウ素原子を実現するためには、高濃度のホウ素含有薬剤を投与する必要がある。この点を説明するために、下記表1に多くの前臨床および臨床研究の主題とされた三つのBNCT化合物を要約する。BPAおよびBSHは臨床利用されており、第3の化合物は、前臨床開発において実験的に使用されている化合物である。
【表1】

【0013】
しかしながら上記の化合物は、例えばBPAの場合、1200/kg(30mg/ml−静脈液)にも達する非常に高濃度で投与する必要がある。これは、病気の患者にとっては大きな懸念および不利である。何故なら、やせた腫瘍(meager tumour)/血液比として3:1を達成するためには、数時間に数リットルの薬剤を投与する必要があるからである。その結果、患者は心臓血管ショックにさらされる。この腫瘍/血液比を達成するためには、1、2、4、6および8時間の輸液プロトコルが必要である。BPAおよびBSHはまた腫瘍に対する選択性がない。CuTCPHは、より高い腫瘍/血液比を有するが、200mg/kgを投与する悩みがあり、これはやはり非常に多く且つ10〜1000mlの液中に約15gの化合物を必要とすることになろう。これらの不利を克服するために、明らかに新しい化合物が要求されている。しかしながら、50年を超える研究・開発の後にも、わずかに理想的ではないが二つの化合物(BPAおよびBSH)が臨床試験に入っているに過ぎない。
【0014】
〔発明の開示〕
従って、本発明は、一般式:P−(L−NAT)(ここで、Pは分子量5〜6000kDaを有するN−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリレートコポリマーを示し、NATは核種活性化治療剤を示し、Lは該ポリマーを該中性子捕捉治療剤と結合可能な結合分子部を示し、nは1〜1000の整数を示す)で表わされる共役体を提供するものである。
【0015】
本発明はかくして、従来利用可能な化合物よりも改良された腫瘍指向性を有する共役体を提供する。
【0016】
本発明は、また上記共役体を含む薬剤組成物を提供するものである。
【0017】
本発明は、更に上記共役体の癌治療用薬剤の調製のための使用、および上記共役体の癌治療への使用を提供するものである。本発明は、好ましくは、固体腫瘍、例えば脳、胸、頭、および首、前立腺、肺、骨、すい臓および肝臓、ならびに結腸癌、の治療に関する。加えて、本発明は、上記共役体の患者への投与に続いて、腫瘍部位におけるNAT剤を活性化することを特徴とする癌の治療方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の化合物は、非経口投与に適した水性媒体に溶解する大分子である。該ポリマー−NAT共役体は、従来の薬剤が200〜500Daであるのに対し、5kDaを超える分子量を有する。化合物は、それ自体では抗−腫瘍活性を有さないが、活性化源、例えば中性子、の存在により、NTA反応を起し毒性のある高LET粒子(α粒子およびLiイオン)を生成する。
【0019】
該ポリマー−NAT共役体は、三成分、すなわち、ポリマー、NAT剤およびリンカーを含む。該ポリマーは、生物適合性(例えば、非免疫〔抗〕原性および非血栓性、すなわち血小板および凝固因子と干渉しない)であり、典型的には水溶性の天然あるいは合成ポリマーである。共役体は、0.1mg/mlを超える水溶性を有し、より好ましくは1〜100mg/ml、最も好ましくは10〜50mg/mlの水溶性を有する。ポリマーは、薬学的には不活性である。
【0020】
ポリマーは、血液−プラズマ半減期が0.1〜24時間、好ましくは0.2〜12時間、特に好ましくは1〜6時間である。飲細胞運動(pynocytosis)により分子が細胞中に侵入するために、充分な半減期が必要である。飲細胞運動は遅い過程であり、これにより細胞外液体(薬剤分子を含む)が細胞質中に取り込まれる。
【0021】
分子の分子量および形状(例えばひも状あるいは球状)が胃からの透過速度を決定する。ポリマーの分子量は、5〜6000kDaであり、好ましくは5〜100、より好ましくは10〜70、最も好ましくは20〜40kDaである。
【0022】
ポリマーは水溶性であり、好ましくは水溶性が0.1mg/mlより大、より好ましくは50mg/mlより大、最も好ましくは100mg/mlより大である。このような溶解性は、NAT活性剤(通常は貧水溶性である)が共役するときに必要であり、これにより通常該化合物の溶解性に対する影響が全体として無視できるようになる。水溶性であることにより、また、患者に投与されることが必要な薬剤溶液容積が有意に減少可能となる。また、これにより、薬剤調製において潜在的に毒性な共溶媒が不要となる。
【0023】
しかしながら、低水溶性ポリマー(溶解度が0.1mg/mlより低い)も有用ではある。しかし、この場合は、油、表面活性剤および/または乳化剤等の薬学的希釈成分を用いて、充分に濃縮された注入可能な液体系を生成する必要がある。
【0024】
ポリマーは、酸素的劣化を起さないようなアミノ酸あるいは人造糖分を導入して変性することにより、ポリマーの安定性および半減期を増大することがある。
【0025】
コポリマーを形成する二つのモノマーの量は可変である。ヒドロキシプロピルメタクリルアミド/メタクリレートの比は、好ましくは100:1〜1:1、最も好ましくは20:1〜1:1である。
【0026】
NAT活性核種は、核開裂を起して、腫瘍細胞を破壊するに充分なエネルギーを有し、しかし、細胞損傷を腫瘍の半径、すなわち10μm、に限定することのできる粒子を生成可能なものでなければならない。このような核種は当業界に公知であり、例えば、Li,10B,22Na,58Co,113Cd,126I,135Xe,148mPm,149Sm,151Eu,155Gd,157Gd,164Dy,184Os,199Hg,230Pa,235Uおよび241Puが挙げられる。より好ましい核種は、Li,10B,22Na,58Co,113Cd,126I,135Xe,148mPm,149Sm,151Eu,155Gd,157Gd,164Dy,または184Osである。典型的には、特定の元素について、NAT活性核種が富化される。NAT活性核種は、これを担持する化合物を介してポリマーに付着される。そのような化合物は当業界に公知であり、以下に例示する。
【0027】
ホウ素化アミノ酸およびペプチド、例えばボロノフェニルアラニン(BPA)。参照:Soloway Chem. Rev. (1998) Vol 98, No.4, 1531-1534頁;およびSnyder, H R et al, J. Am. Chem. Soc. (1958) 80,835;
変性カルボランケージ化合物、例えば[B10102−(デカヒドロデカボレート)および[B12122−(ドデカヒドロドデカボレート)、例えばC1212;参照:Hawthorn, M F et al, J. Am. Chem. Soc. (1959) 81, 5519およびGrimes, R. N. in“Carboranes”Academic Press NY(1970);
メルカプトホウ酸塩、例えばメルカプトウンデカヒドロドデカボレート(B1211SH2−)(BSH)。そのジナトリウム塩の構造を以下に示すが、これは二量体(BSSB)の形態も採る。参照:Soloway, A. H. et al J. Med. Chem. (1967) 10,714;
【化1】

【0028】
ポリフィリンおよびフタロシアニン、例えばBOPPおよびLTCP類(NiTCP、CuTCP、NiTCPHおよびCuTCPH)。このうちポルフィリンは、カルボランケージを4個有する。参照:Ozawa, T., Pro. Am. Ass. For Cancer, March 1998, 39, 586頁およびMiura, M., Radiation Research (2001) 155, 603-610(下記構造参照)、
ホウ素含有核酸前駆体、例えばホウ素化およびカルボラン含有ピリミジンおよびプリン、例えば5−(ジヒドロキシボリル)ウラシル、5−カルボラニルウラシル。参照:Liao, T.K J. Am. Chem Soc. (1964)86, 1869, Schinazi, R. F. J. Org. Chem. Soc. (1985) 50, 841, およびNemoto, H. J. Chem. Soc. Chem. Commun. (1994) 577;ならびに葉状成長因子、ホルモン、放射線増感剤、ホスフェート、ホスホネート、アミド燐酸塩、環状チオウレア誘導体、アミン、プロマジン、ヒダントイン、バルビツル酸塩。参照:Soloway Chem. Rev. (1998) Vol 98, No.4, 1545-1550頁。
【0029】
【化2】

【0030】
Rは、更にハロゲン(好ましくは、BrまたはCl)、またはニトロ基(NO)であってもよい。
【0031】
他の核種も同様にして含まれる。例えばBNCTおよびGdNCTの結合化合物で、Gd核種とカルボランケージが同一分子上にあるものが知られている。参照:Soloway (1998), Chem. Rev. Vol 98, No.4, 1519頁。
【0032】
NAT剤は、好ましくは、ポリマー−NAT共役体の全質量の1〜30%、より好ましくは5〜10%を占める。
【0033】
NAT剤は、公知の技法、例えば電磁放射線(例えばX線、光、マイクロ波、ガンマ線)または中性子、または超音波、プロトン、カーボイオンの照射、π中間子治療法、電子線治療法、反陽子治療法、光子治療法、光力学治療法等、により活性化される。中性子の場合には、この技法を中性子捕捉治療と呼び、薬剤は中性子捕捉治療(NCT)剤と呼ぶ。
【0034】
リンカーは、ポリマーとNCT剤を結合し、ポリマー−NAT共役体の生体内(in vivo)溶解性および毒性に影響しない任意の基であり得る。該リンカーには、カルボニル、アミド、ヒドロキシルもしくはハロゲンで置換されてもよい飽和または不飽和の直鎖または分岐C1−15アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、1−メチルブチルおよびメチルフェニル;およびアミノ、チオ、カルボキシル、カルボキシアミドもしくはイミダゾール基で置換されてもよい、好ましくは1〜10のアミノ酸長さを有するペプチド、が含まれる。
【0035】
好ましいペプチドは、Gly−Gly,Gly−Phe−Gly,Gly−Phe−Phe,Gly−Leu−Gly,Gly−Val−Ala,Gly−Phe−Ala,Gly−Leu−Phe,Gly−Leu−Ala,Ala−Val−Ala,Gly−Phe−Leu−Gly,Gly−Phe−Phe−Leu,Gly−Leu−Leu−Gly,Gly−Phe−Tyr−Ala,Gly−Phe−Gly−Phe,Ala−Gly−Val−Phe,Gly−Phe−Phe−Gly,Gly−Phe−Leu−Gly−PheおよびGly−Gly−Phe−Leu−Gly−Pheである。特に好ましいペプチドは、Gly−GlyおよびGly−Phe−Leu−Glyである。
【0036】
ペプチド・リンカーのいくつかは、リソソマル(lisosomal)酵素により劣化されて、NAT化合物が腫瘍細胞中に放出される。
【0037】
リンカーは、当業者には周知の慣用合成法により、ポリマーおよびNAT剤に結合される。下記の結合によりNAT剤はポリマーに結合される、すなわちアミノ結合、エステル結合、ヒドラジド結合、ウレタン(カーバメート)結合、イミン(シッフ塩基)結合、チオエーテル結合、アゾ結合あるいは炭素−炭素結合である。代りに、NAT剤は、ポリマー自体に結合され得る、すなわちこの場合のリンカーは共役結合である。
【0038】
アミド結合は、アミノ基(−NH)およびカルボン酸基(COOH)により形成される。後者は、酸塩化物(COCl)等のより反応性の中間体に変換される、あるいはカルボニルジイミダゾール(CDI)もしくはジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いて、より反応性の中間体に変換される。アミノ基の他の基剤には、酸無水物およびエステルがある。エステル結合はヒドロキシル基(OH)と、上記した活性化カルボン酸および酸無水物とから形成される。ヒドラジド結合は、ハロゲン化アシル(例えば上記酸塩化物)とヒドラジン(NHNHR)とから形成される。カーバメート結合は、ホスゲン(ClCOCl)または、より好ましくはトリクロロメチルクロロホーメート(CClOCOCl)から、アルコールおよびアミンと反応させることにより形成される。カーボネート結合も、ホスゲンまたはトリクロロメチルクロロホーナートから、二つのアルコール基と反応させることにより形成される。イミン(またはシッフ塩基)は、アルデヒド(RCHO)もしくは、ケトン(RCOR)とアミンとの間での縮合により形成される。アルデヒドは、一級アルコールの酸化により容易に形成され、ケトンは二級アルコールの酸化により形成される。チオエーテルは、まずアルコール等の基を、例えばトシレート、メシレート、トリフレートあるいはハロゲン化物等の離脱性の良い基に変換し、それをメルカプチド(RS)と反応させ、上記離脱性基をRSに変換することにより形成される。参照:例えばSchacht E (1987): Illum L, Davis SS (eds) “Polymers in drug delivery”, Wright, Bristol, 131頁。
【0039】
典型的には、リンカーは、好ましくはアミド結合を介して、ポリマーのメタクリレート・モノマーの位置に結合される。ぶら下がっているNAT剤(あるいは他の薬学的活性剤)を有さないメタクリレート・モノマーは、なおリンカーを有することができ、このリンカーは、例えば2−アミノ−1−プロパノールなどのキャッピング剤でキャッピングされていてもよい。
【0040】
効果的な治療計画およびBNCT投与量計算のためには、腫瘍中の薬剤の位置および濃度を知ることが重要である。従って、治療計画の一部としての臨床の設定においては、臨床中性子投与量を計算するために、腫瘍部中のNAT剤の部位および量を知ることが重要である。例えば、巨大分子には、PET、SPECT、MRI等の診断技法により像化可能な金属を担持させることができる。例えば親油性カルボラニルテトラフェニルポルフィン(LTCP)はメタルイオンを担持可能である。このような金属は、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、テクネチウム(Tc)、クロム(Cr)、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)、金(Au)、バリウム(Ba)、タングステン(W)、ガドリニウム(Gd)およびガリウム(Ga)から選ばれる。最も好ましい金属は、CuとNiである。
【0041】
陽電子放出トモグラフィー(PET)もまた、腫瘍中のポリマー−NAT共役体の位置および濃度の表示を得るために用いることができる。PETにおいては、18F(半減期:約2時間)または11C(半減期:20分)等の放射性核種が好ましく用いられる。1つのフッ素原子を、ポリマー主鎖または理想的にはリンカー鎖中のアミノ酸、好ましくはPheに含ませる。これにより、診断および治療計画のために強力な手段が与えられ、個人に対し適合されたポリマー−NAT共役体薬剤投与が可能になる。フッ素原子が存在することにより、周知のPET像化化学を用いて診断する際に、放射性核種18Fを該F原子で置きかえる手段が与えられる。
【0042】
次に、本発明のポリマー−NAT共役体の好ましい例のいくつかについて述べる。
【0043】
好ましくは、ポリマーはN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)とメタクリル酸とのコポリマーであり;リンカーは、Gly−Phe−Leu−Gly等のペプチドであり;NAT剤は、O−カルボラニルアラニンB10−CHCHCONH、カルボラン・ブタミンB10−(CHCHCONH、BPA(p−ボロノフェニルアラニン)、B1211SH(BSH)(メルカプトウンデカヒドロドデカカーボレート)、ホウ素化ポリフィリン、BSH−グルタチオン・ジスルフィド、および水溶性テトラカルボニルフェニルポルフィリン(例えばNiTCP)から選ばれる。
【0044】
特に好ましい共役体は以下の通りである。
HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−BSH
HPMA−co−MA−Gly−BPA−Leu−Gly−BPA
HPMA−co−MA−Gly−BPA−Leu−Gly−Gly−BPA
HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−カルボラン・ブタミン(B1011(CHCHCONH
HPMA−co−MA−Gly−BPA−Leu−Gly−カルボラン・ブタミン(B1011−(CHCHCONH
HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−CuTCPH
HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−CuTCPHBr。
【0045】
本発明のポリマー−NAT共役体は、腫瘍を選択的に目標付けられ、腫瘍特性のいくつかを利用する。例えば、腫瘍は、リンパ排液がないので負の浸透圧を有し、その結果ポリマー−NAT共役体を捕捉する(いわゆる、強化された透過保持(EPR)効果)。かくして、小化合物の大多数は拡散により腫瘍に入り、腫瘍床内に止まり、ギャップ接合部を通って細胞間を移動する。化合物は、通常細胞質へのエンドーサイトーシス(endocytosis)により細胞に入り、リソソーム区画に止まる。ポリマー−NAT共役体は、細胞膜、細胞質小器官(例えばミトコンドリア、内皮小網あるいはゴルジ装置)、および/または核に目標付けられる。核または細胞質小器官により近いポリマー−NAT共役体は、NAT剤の開裂により生ずるイオン化性粒子(例えばαおよびLiイオン)による不可逆なDNAないし細胞損傷の確率を増する。
【0046】
ポリマー−NAT共役体のポリマー成分も、体の特定領域に目標付けられるように変性することができる。例えば、肝細胞のアシアロ糖蛋白受容体は、ガラクトースおよびN−アセチルガラクトサミンを認識可能である。従って、これらの化合物をポリマー中に導入することにより本発明のポリマー−NAT共役体を肝臓に指向させることができる。
【0047】
保護ヒドロキシル基を有するHPMAモノマーにガラクトースを導入することができる。例えば、1,2,3,4−ジ−O−イソプロピリデン−6−O−メタクリロイル−α−D−ガラクトピラノースを合成して、HPMAと共重合し、その後、保護基イソプロピリデンをギ酸により除く。参照:Chytry, V. et al New Polymer Material (1987)1,21.N−アシル化ガラクトサミンを、p−ニトロピリジン末端側鎖を有する反応性HPMAコポリマー前駆体を用いて結合する。これらを、室温および圧力下、DMSO中でガラクトサミンとのアミノリシスに付す。
【0048】
更に、ポリマー−NAT共役体の非選択的取り込みを、正電荷(例えばメタクリロキシルエチルトリメチルアンモニウム・クロライドを用いて)あるいは疎水性コモノマー(例えばN−[2−(4−ヒドロキシフェニルエチル)]アクリルアミドまたはN−メタクリロイルチロシナミドを用いて)をポリマー中に導入することにより、促進することができる。
【0049】
NATの必要性からは、ポリマー−NAT共役体を体重1kg当り、0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mg、特に好ましくは1〜30mg投与する。投与により、湿潤腫瘍組織1g当り、活性核種(例えば10B原子)の10μg以上、好ましくは25μg以上、より好ましくは、80μg以上、更に好ましくは160μg以上、最も好ましくは200μgより大なる量で、与えるべきである。
【0050】
なお、本発明のポリマー−NAT共役体は、公知のNAT剤に比べて全身毒性が有意に減少しており、従って、より大なる腫瘍細胞中NAT剤濃度をもたらすように投与量を増加することができる。毒性が減少しているのは、ポリマー−NAT共役体中のNAT剤が生物学的環境と相互作用しないからである。更に、ポリマー−NAT共役体は、長時間、すなわち数時間ないし数日にわたって、腫瘍に保持されるので、くり返して投与して臨床治療窓を拡げる必要がない。
【0051】
NAT剤に加えて、他の薬剤あるいは予見プロドラッグを、本発明のポリマー−NAT共役体に導入することにより、抗癌作用を増大することもできる。すなわち一般式:P−(L−NAT)(L−化学療法剤)(ここでP,L,NATおよびnは前記定義した意味を有する)を有するポリマー−NAT共役体を用いることができる。ここでLは同じでも異なってもよく;mは1〜1000、好ましくは1〜500、より好ましくは1〜100、最も好ましくは1〜20、の整数である。そのような化学療法剤には、例えば下記の任意のものが含まれる:すなわち、5−(アズルダブ−1−イル)−4−ジヒドロキシルアミノ−2−ニトロベンズアミド、フェニルジアミン・マスタード、安息香酸マスタード、ガンシクロビル・トリホスフェート、アデニン・アラビノヌクレオチド・トリホスフェート(araTAP)、過酸化水素、シアン化物、超酸化物、メトトレキサート、マイトマイシン・アルコール、エトポシド、パリトキシオン、メルファラン、5−(アジリジン−1−イル)−4−ヒドロキシルアミノ−2−ニトロベンズアミド、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、タキサン類(例えばタキソールおよびタキソテーレ)、トポイソメラーゼ抑制因子(例えばカンプトテシンおよびトポテカンシクロホスファミド)、カルムスチン、5−フルオロウラシル、シトラビン、メルカプトプリン、アントラサイクリン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ビンカ・アルカロイド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ダクチノマイシン、マイトマイシンC、ラスパラジナーゼ、G−CSF、シスプラチンおよびカルボプラチン、である。
【0052】
この型の好ましい共役体には、式:HPMA−co−MA−[(Gly−Phe−Leu−Gly−BSH)(Gly−Phe−Leu−Gly−Y)](ここでYは抗癌剤を示す)で表わされるものがあり、例えば以下の通りである:
HPMA−co−MA[(Gly−Phe−Leu−Gly−BSH)(Gly−Phe−Leu−Glyドキソルビシン)]
HPMA−co−MA[(Gly−Phe−Leu−Gly−BSH)(Gly−Phe−Leu−Glyエリプチシン)]
HPMA−co−MA[(Gly−Phe−Leu−Gly−BSH)(Gly−Phe−Leu−Glyシスプラチン)]
【0053】
本発明のポリマー−NAT共役体の一つの特徴は、ポリマーに結合した目標化分子部を必要とすることなく、腫瘍中に蓄積することである。しかしながら、ポリマーには、抗癌化学療法剤を伴うか否かに拘わらず、該ポリマーに結合した目標化分子部を含むことができる。このような目標化分子部により、選択性を持たせて、共役体の生体内分布を有意に変化させることができる。このような目標化分子部には、(N−アシル化)ガラクトサミン、(6−O−結合)ガラクトース、(N−アシル化)フコーシルアミン、メラニン細胞刺激ホルモンおよびセクレチン、が含まれる。
【0054】
以下、本発明を、現行のBNCT剤の不都合を克服する新規なポリマー−NAT共役体のいくつかの例により説明する。
【実施例】
【0055】
ポリマーは、ポリマー・ラボラトリース・リミテッド(Polymer Laboratories Ltd.)より入手した。分析証明はバターヮース(Butterworth)より得た。
【0056】
以下の実施例1および2では、4−ボロノフェニルアミン(BPA)とポリマーのp−ニトロフェニルエステル基と反応させることにより、以下の反応式に示すように、p−ニトロフェノールを排除することにより、ホウ素含有ポリマーを形成する。
【化3】

【0057】
ポリマー・ラボラトリース・リミテッドより市販されるポリ(HPMA−co−MA−GG−ON)は、平均分子量が28,100であり、重量平均分子量/数平均分子量比Mw/Mn=1.31の広い分子量分布を示し、平均値としてx=153、y=17(MW=27,624)となる。ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−ON)は、平均分子量が47,200(Mw/Mn=1.53)であり、平均分子量から、xおよびyの平均値はx=225、y=25(MW=47,131)と計算される。これらの値を、ホウ素置換フェニルアラニンの添加量を計算するのに用いている。
【0058】
(実施例1)
・ポリ(HPMA−co−MA−GG−F[4−B(OH)])のg量レベルでの調製
粉末ポリ(HPMA−co−MA−GG−ON)(1.1g、40.0μmol)および(10B−富化)4−ボロノフェニルアラニン(0.15g、740μmol)を乾燥フラスコ中に入れ、隔膜でシールし、アルゴンで置換した。無水DMSO(11ml)を加え、混合物を攪拌して全物質を溶解して濁った溶液を得た。トリエチルアミン(4滴)を触媒として加えることにより、溶液を黄色化させた。溶液をアルゴン下20〜22℃(油浴温度)で一夜攪拌した。溶液をジエチルエーテル(200ml)で希釈し、溶媒を傾斜により除いて、粘稠な固体沈殿を残した。この粘稠な固体沈殿を、追加のジエチルエーテルで、粘稠性でなくなるまで洗浄した。残留溶媒は、減圧(約0.4mmHg)、36℃で3時間かけて留去した。生成物ポリ(HPMA−co−MA−GG−F[4−B(OH)])がベージュないし黄味がかった固体として得られた(1.20g、104%)。H−NMR分析により、残留ジエチルエーテルおよびDMSOの若干量が見出された。
【0059】
バターワース(Butterworth Laboratories Ltd.)によりホウ素分析を行った。ポリ(HPMA−co−MA−GG−F[4−B(OH)])中のホウ素含量は0.47%(予期値は0.59%)であった。低い値は、ポリマーと4−ボロノフェニルアラニンとの反応の不完全性および残留溶媒の存在によるものと解される。
【0060】
(実施例2)
・ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−F[4−B(OH)])のg量レベルでの調製
粉末ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−ON)(1.1g、23.3μmol)および(10B−富化)4−ボロノフェニルアラニン(0.13g、625μmol)を乾燥フラスコ中に入れ、隔膜でシールし、アルゴンで置換した。無水DMSO(11ml)を加え、混合物を攪拌して全物質を溶解して濁った溶液を得た。トリエチルアミン(4滴)を触媒として加えることにより、溶液を黄色化させた。溶液をアルゴン下20〜22℃(油浴温度)で一夜攪拌した。溶液をジエチルエーテル(200ml)で希釈し、溶媒を傾斜により除いて、粘稠な固体沈殿を残した。この粘稠な固体沈殿を、追加のジエチルエーテルで、粘稠性でなくなるまで洗浄した。残留溶媒は、減圧(約0.4mmHg)、36℃で3時間かけて留去した。生成物ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−F[4−B(OH)])がベージュないし黄味がかった固体として得られた(1.23g、102%)。H−NMR分析により、残留ジエチルエーテルおよびDMSOの若干量が見出された。
【0061】
バターワース(Butterworth Laboratories Ltd.)によりホウ素分析を行った。ポリマー中のホウ素含量は0.40%(予期値は0.48%)であった。わずかに低い値は、ポリマーと4−ボロノフェニルアラニンとの反応の不完全性および残留溶媒の存在によるものと解される。
【0062】
実施例1および2で得たポリマー−NAT共役体の化学構造は、以下の通りである:
【化4】

【0063】
実施例1と2のポリマー−NAT共役体は、それらのペプチド・リンカーにおいてのみ相違する。実施例1のポリマー−NAT共役体は、ペプチド・リンカーGly−Phe−Leu−Glyを有し、これは細胞のリソソマル区画において酵素的に劣化ないし分解されてBPAを放出する。これに対し、実施例2のポリマー−NAT共役体はペプチドGly−Glyを有し、これは分解せずに全体分子をそのまま残す。生分解性ポリマーは、ホウ素含有分子を細胞質中に放出することができ、細胞小器官および最も重要には核に拡散する機会を有する。BNATにおいては、ホウ素担持分子がDNAに近ければ近いほど、細胞が死ぬ。しかしながら、非劣化性のポリマー−NAT共役体では、分子は無傷で残り、一旦内在化されると細胞を離れない。これにより、くり返し投与によりホウソ化ポリマーの非常に高濃度での細胞中蓄積が起こり得る。もし、そうでない場合には、くり返し投与はホウソ化ポリマーの全身毒性のために不可能となり得る。
【0064】
(実施例3)
・ポリ(HPMA−co−MA−GG−F BSMel)(出願人コード:PP403)の調製
ポリ(HPMA−co−MA−GG−F BSMel)を、市販のナトリウム・ボロカプテートを用いて合成した。US6,017,902号公報に記載の方法により、ナトリウム・ボロカプテートを、まず「ステップ1」で、フェニルアラニン誘導体、ナトリウム・ボロノカプテート・メルファラン(BSMel)に転換した。次いで、「ステップ2」でBSMelをポリ(HPMA−co−MA−GG−F−ON)と反応させて、ポリ(HPMA−co−MA−GG−F BSMel)を生成する。
【0065】
【化5】

【0066】
ナトリウム・ボロカプテート(0.95g、4.32mmol)を5%炭酸水素ナトリウム溶液(30ml)中に溶解した。黄色味がかった固体のメルファラン(0.22g、0.72mmol)を添加し、懸濁液を室温で48時間攪拌した。黄色調の固体メルファランは完全に溶解し、微細な白色沈殿物が生成した。生成固体を加熱(浴温約100℃)して、水(30ml)に溶解した。生成した溶液を室温まで冷却し、ろ過した。濃塩酸を注意深く滴下して、溶液のpHを2.7に調整することにより、微細固体を沈殿させた。一夜冷却(約4℃)した後、生成物をろ過により回収し、冷水で洗浄した。残留溶媒を真空(約0.4mmHg)下、30℃で5時間蒸発させた。生成物は、薄い黄褐色の固体(0.19g、65%)として得られた。
【0067】
<ステップ2:BSMelポリマーの調製>
粉末状ポリ(HPMA−co−MA−GG−O−N)(1.1g、40.0μmol)を乾燥フラスコ中に入れ、隔膜でシールし、アルゴンで置換した。無水DMSO(11ml)を加え、全量が溶解するまで混合物を攪拌した。上記ステップ1からのBSMel(0.069g、169μmol)を添加した。全固体を溶解後、トリエチルアミン(2滴)を滴下して、溶液を黄色化した。溶液を、アルゴン20〜22℃(油浴温)で一夜攪拌した。3−アミノ−1−プロパノール(41μl、536μmol)を添加し、溶液を更に3時間攪拌した。溶液をジエチルエーテル(200ml)で希釈し、溶媒を傾斜により除いて、粘稠な沈殿物を得た。この黄色調固体を、粘稠でなくなるまで、更に追加のジエチルエーテルにより洗浄した。残留溶媒を真空蒸発した。収量:1.10g。
【化6】

【0068】
この非生分解性のホウ素含有ポリマーは、ホウ素担体当り、12のホウ素原子を供給可能であり、ポリマー分子当り3〜4個のBSMel分子が存在する。従って、BSMelポリマーは、実施例1および2と比べて、ポリマー分子当り30〜40倍多くのホウ素を供給できる。これは、比較的低濃度のポリマーで高濃度のホウ素を供給する強力な方法を与えるものである。
【0069】
(実施例4)
・ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−BSMel)(PP404)の調製
粉末状ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−O−N)(1.1g、23.3μmol)を乾燥フラスコ中に入れ、隔膜でシールし、アルゴンで置換した。無水DMSO(11ml)を加え、全量が溶解するまで混合物を攪拌した。BSMel(0.062g、152μmol)を添加した。全固体を溶解後、トリエチルアミン(2滴)を滴下して、溶液を黄色化した。溶液を、アルゴン20〜22℃(油浴温)で一夜攪拌した。3−アミノ−1−プロパノール(35μl、456μmol)を添加し、溶液を更に3時間攪拌した。溶液をジエチルエーテル(220ml)で希釈し、溶媒を傾斜により除いて、粘稠な沈殿物を得た。この非白色固体を、粘稠でなくなるまで、更に追加のジエチルエーテルにより洗浄した。残留溶媒を真空蒸発した。収量:0.95g。
【0070】
【化7】

【0071】
(実施例5)
・ポリ(HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−BSMel)−Gly−Phe−Leu−Glyパクリタキセル(PP405)の調製
粉末状ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−ON)(2.15g、45.6μmol)を乾燥フラスコ中に入れ、隔膜でシールし、アルゴンで置換した。無水DMSO(22ml)を加え、全量が溶解するまで混合物を攪拌した。BSMel(0.146g、366μmol)を添加した。全固体を溶解後、トリエチルアミン(52μl、366μmol)を添加して、溶液を黄色化した。溶液を、アルゴン下、20〜22℃(油浴温度)で5時間攪拌した。パクリタキセル(0.313g、366μmol)および4−ジメチルアミノピリジン触媒(0.015g、123μmol)を添加した。20〜22℃で一夜攪拌後、3−アミノ−1−プロパノール(35μl、456μmol)を添加し、溶液を更に4時間攪拌した。溶液を、ゆっくり攪拌されているジエチルエーテル(500ml)中に注ぎ、次いで溶媒を傾斜除去して、粘稠な沈殿物を残した。黄色調の固体を、粘稠でなくなるまで追加のジエチルエーテルで洗浄し、残留溶媒を真空蒸発した。収量:2.44g(98%)。
【0072】
【化8】

【0073】
(実施例6)
・ポリ(HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−BSMel)−Gly−Phe−Leu−Glyドキソルビシン(PP406)の調製
粉末状ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−ON)(2.15g、45.6μmol)を乾燥フラスコ中に入れ、隔膜でシールし、アルゴンで置換した。無水DMSO(22ml)を加え、全量が溶解するまで混合物を攪拌した。BSMel(0.146g、366μmol)を添加した。全固体を溶解後、トリエチルアミン(52μl、366μmol)を添加して、溶液を黄色化した。溶液を、アルゴン下、20〜22℃(油浴温度)で5時間攪拌した。塩酸ドキソルビシン(0.212g、366μmol)およびトリエチルアミン(52μl、456μmol)を添加した。20〜22℃で一夜攪拌後、3−アミノ−1−プロパノール(35μl、456μmol)を添加し、溶液を更に4時間攪拌した。溶液を、ゆっくり攪拌されているジエチルエーテル(500ml)中に注ぎ、次いで溶媒を傾斜除去して、粘稠な沈殿物を残した。赤色の固体を、粘稠でなくなるまで追加のジエチルエーテルで洗浄し、残留溶媒を真空蒸発した。収量:2.55g(105%)。
【0074】
【化9】

【0075】
(生体内分布の検討)
EMT−6癌腫を有する雌のBALB/cマウス(20〜25g)を用いた。1ケージ当り4匹のマウスを温度制御室内に収容し、自由に食物および水が取れるようにした。マウスを、制御した明/暗サイクルに維持し、700〜1900時間点灯した。全ての検討実験において、ケタミン(120mg/kg)およびキシラジン(20mg/kg)により感覚麻痺状態を維持した。マウスは、一般健康状態について毎日モニターした。マウスは、必要な場合、感覚麻痺状態で安楽死させた。
【0076】
上記実施例3および4で合成した二つのホウ素化ポリマー、すなわち、PP403およびPP404を、EMT−6腫瘍を有するマウスの尾の静脈から注入した。化合物は、50mg/ml(0.5mgホウ素/ml)濃度で塩水溶液として注入した。投与容積は、一度投与(a single bolus injection)で、0.01ml/gbwとし、約5mgホウ素/kgの投与量を供給した。
【0077】
組織試料内のホウ素濃度は、直流プラズマ原子発光分析法(DCP−AES)により決定した。参照:Coderre, J.A., Button, T.M., Micca, P.L. Fisher, C., Nawrocky, M.M., およびLiu, H.B., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. (1994)30, 643-652.
【0078】
マウスの外見、行動レベルおよび一般的挙動の目視観察からは、毒性の徴候は見られなかった(参照:Miura, M., Micca, P.L., Fisher, C.D., Gordon, C.R., Heinrichs, J.C. et al. Brit. J. Radiol. (1998) 847, 773-781)。ホウ素分析のための注入後、6、24、48および72時間において、腫瘍、血液、脳および肝臓試料を採取した。試料採取の1時点あたり4匹のマウス(合計16匹)を使用した。ホウ素の生体分布データの詳細を下表2に示す。
【0079】
PP403からの腫瘍ホウ素濃度は、PP404からのそれに比べて約3倍の大きさを示す。これはPP403中の非分解性リンカーによるものと解される。肝臓:腫瘍ホウ素比は、PP403の全点において2:1〜3:1の範囲であり、PP404について4.5:1〜6:1であった。腫瘍:血液ホウ素比は、PP403の場合72時間の時点になるまでは1:1未満であり、PP404の場合48時間の時点になるまでは1:1未満であった。腫瘍ホウ素濃度の絶対値は低いが、供給ホウ素投与量も低かった。CRMにおけるCuTCPHを用いる同様のホウ素投与による生体分布データに比べて、腫瘍取り込み量は2.3倍低いが肝臓取り込み量は5倍低い。
【0080】
【表2】

【0081】
表2は、共役体が腫瘍に目標付けられ、生分解性リンカーのある場所でNAT剤を放出可能であることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:P−(L−NAT)(ここで、Pは分子量5〜6000kDaを有するN−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリレートコポリマーを示し、NATは核種活性化治療剤を示し、Lは該ポリマーを該中性子捕捉治療剤と結合可能な結合分子部を示し、nは1〜1000の整数を示す)で表わされる共役体。
【請求項2】
該ポリマーが2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリレートコポリマーである請求項1に記載の共役体。
【請求項3】
該ポリマーが、5〜100、好ましくは10〜70、より好ましくは15〜45、最も好ましくは20〜40kDaの分子量を有する請求項1または2に記載の共役体。
【請求項4】
ヒドロキシプロピルメタクリルアミドとメタクリレートとの比が20:1〜1:1である請求項1〜3のいずれかに記載の共役体。
【請求項5】
核種活性化治療剤が中性子捕捉治療剤である請求項1〜4のいずれかに記載の共役体。
【請求項6】
中性子捕捉治療剤が、Li,10B,22Na,58Co,113Cd,126I,135Xe,148mPm,149Sm,151Eu,155Gd,157Gd,164Dy,184Os,199Hg,230Pa,235Uおよび241Puから選ばれた少なくとも1の核種を中性子捕捉反応を起すに充分な量で含む請求項5に記載の共役体。
【請求項7】
核種が10Bである請求項6に記載の共役体。
【請求項8】
NATが、ホウ素化アミノ酸もしくはペプチド、変性カルボランケージ化合物、メルカプトホウ酸塩、ホウ素含有ポルフィリンもしくはフタロシアニン、ホウ素含有核酸前駆体、ホウ素含有葉状成長因子、ホルモン、放射線増感剤、ホスフェート、ホスホネート、アミド燐酸塩、環状チオ尿素誘導体、アミン、プロマジン、ヒダントインまたはバルビツル酸塩である請求項5〜7のいずれかに記載の共役体。
【請求項9】
NATが、共役体の全質量の1〜30%、好ましくは5〜10%を占める請求項1〜8のいずれかに記載の共役体。
【請求項10】
該リンカーが、カルボニル、アミド、ヒドロキシルもしくはハロゲンで置換されてもよい飽和または不飽和の直鎖または分岐C1−15アルキル;アミノ、チオ、カルボキシル、カルボキシアミドもしくはイミダゾール基で置換されてもよい、好ましくは1〜10のアミノ酸長さを有するペプチド;または共有結合である請求項1〜9のいずれかに記載の共役体。
【請求項11】
nが、1〜500、好ましくは1〜100、特に好ましくは1〜20の整数である請求項1〜10のいずれかに記載の共役体。
【請求項12】
該リンカー分子部を介して該ポリマーと結合される化学療法剤を更に含む請求項1〜11のいずれかに記載の共役体。
【請求項13】
ポリ(HPMA−co−MA−GG−BSMel)。
【請求項14】
ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−BSMel)。
【請求項15】
ポリ(HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−BSMel)Gly−Phe−Leu−Gly−パクリタキセル。
【請求項16】
ポリ(HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−BSMel)Gly−Phe−Leu−Gly−ドキソルビシン。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の共役体を含む薬剤組成物。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の共役体の癌治療用薬剤の調製への使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:P−(L−NAT)(ここで、Pは分子量5〜6000kDaを有するN−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリレートコポリマーを示し、NATは核種活性化治療剤を示し、Lは該ポリマーを該中性子捕捉治療剤と結合可能な結合分子部を示し、nは1〜1000の整数を示す)で表わされ、且つ更に該結合分子部Lを介して該ポリマーに結合した化学療法剤を含む共役体。
【請求項2】
該ポリマーが2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリレートコポリマーである請求項1に記載の共役体。
【請求項3】
該ポリマーが、5〜100、好ましくは10〜70、より好ましくは15〜45、最も好ましくは20〜40kDaの分子量を有する請求項1または2に記載の共役体。
【請求項4】
ヒドロキシプロピルメタクリルアミドとメタクリレートとの比が20:1〜1:1である請求項1〜3のいずれかに記載の共役体。
【請求項5】
核種活性化治療剤が中性子捕捉治療剤である請求項1〜4のいずれかに記載の共役体。
【請求項6】
中性子捕捉治療剤が、Li,10B,22Na,58Co,113Cd,126I,135Xe,148mPm,149Sm,151Eu,155Gd,157Gd,164Dy,184Os,199Hg,230Pa,235Uおよび241Puから選ばれた少なくとも1の核種を中性子捕捉反応を起すに充分な量で含む請求項5に記載の共役体。
【請求項7】
核種が10Bである請求項6に記載の共役体。
【請求項8】
NATが、ホウ素化アミノ酸もしくはペプチド、変性カルボランケージ化合物、メルカプトホウ酸塩、ホウ素含有ポルフィリンもしくはフタロシアニン、ホウ素含有核酸前駆体、ホウ素含有葉状成長因子、ホルモン、放射線増感剤、ホスフェート、ホスホネート、アミド燐酸塩、環状チオ尿素誘導体、アミン、プロマジン、ヒダントインまたはバルビツル酸塩である請求項5〜7のいずれかに記載の共役体。
【請求項9】
NATが、共役体の全質量の1〜30%、好ましくは5〜10%を占める請求項1〜8のいずれかに記載の共役体。
【請求項10】
該リンカーが、カルボニル、アミド、ヒドロキシルもしくはハロゲンで置換されてもよい飽和または不飽和の直鎖または分岐C1−15アルキル;アミノ、チオ、カルボキシル、カルボキシアミドもしくはイミダゾール基で置換されてもよい、好ましくは1〜10のアミノ酸長さを有するペプチド;または共有結合である請求項1〜9のいずれかに記載の共役体。
【請求項11】
nが、1〜500、好ましくは1〜100、特に好ましくは1〜20の整数である請求項1〜10のいずれかに記載の共役体。
【請求項12】
ポリ(HPMA−co−MA−Gly−Phe−Leu−Gly−BSMel)Gly−Phe−Leu−Gly−ドキソルビシン。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の共役体を含む薬剤組成物。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の共役体の癌治療用薬剤の調製への使用。

【公表番号】特表2006−502993(P2006−502993A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−522288(P2004−522288)
【出願日】平成15年7月4日(2003.7.4)
【国際出願番号】PCT/GB2003/002919
【国際公開番号】WO2004/009136
【国際公開日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(505028130)シメイ ファーマスーティカルズ ピーエルシー (1)
【Fターム(参考)】