説明

新規な芳香環水酸化酵素及びその遺伝子

【課題】シングルポリペプチド鎖の単純な蛋白質からなる新規芳香環水酸化酵素、及びその遺伝子を見い出し、生物学的な手法によって芳香環の水酸化を工業的に行うための手段を新たに提供する。
【解決手段】環境DNAから芳香環水酸化酵素をコードする遺伝子を採取し、該遺伝子を使用して、遺伝子光学的手法により芳香環水酸化酵素を得る。該芳香環水酸化酵素はシングルポリペプチドからなり、容易かつ効率的に芳香環の水酸化を行いうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の芳香族化合物(芳香環)の分解において最も重要な役割を果たす酵素の1つである芳香環水酸化酵素、及び該酵素をコードする遺伝子、並びにこの遺伝子群を導入・発現した微生物を利用した水酸化された芳香族化合物の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の多くは細胞に対し毒性を示し環境中において汚染物質となる。これらを分解資化する微生物は自然界に多く分離しており、これまでに数多く分離されている。好気的な条件において芳香族化合物の分解は初発酸素添加反応により開始され、共通の中間代謝産物であるカテコールを経て水と二酸化炭素にまで分解されるが、中でも初発酵素である芳香環水酸化酵素は芳香族化合物の分解において最も重要な役割を果たすことが明らかにされている(非特許文献1、2)。
【0003】
微生物を活用する低分子化合物の製造や分解といった物質変換プロセスは、従来の化学的な変換プロセスに比べ、反応特異性(基質特性や立体特性や位置特異性)が高いこと、温和な条件(常温常圧)で反応可能であること、有害な副産物が生成しにくいことなどの特徴を有している。とりわけ酸化反応は、苛酷な化学プロセスに代替可能な酵素プロセスへの転換が求められており、酸化酵素の探索が盛んに行われている。
【0004】
芳香族化合物は、医薬品原料、化学原料として広く利用されている。芳香環に水酸基を導入することは、芳香族化合物に様々な官能基を導入する起点でもあり、芳香族化合物の物質変換プロセスの中でもとくに重要なプロセスである。現在までに芳香環水酸化酵素に関する研究が広く行われてきたが、芳香環水酸化酵素は、通常、水酸化本体酵素(α−サブユニットとβ−サブユニットとγ−サブユニットの3つのサブユニットからなる)以外にフェレドキシン(ferredoxin)及びフェレドキシンレダクターゼ(還元酵素)(ferredoxin reductase)という非常に複雑な多成分複合酵素(multicomponent enzyme)として機能を発揮することが一般的である(非特許文献3及び特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、このように複雑なサブユニット構成、分子複合体は、一般に工業利用に適しておらず、シングルポリペプチド鎖からなる単純な蛋白質で同等の機能を発揮しうる蛋白質が強く求められている。そのため、これまでに知られている多成分複合酵素とは異なる単一の成分からなる新規な水酸化酵素は、水酸化された芳香族化合物の製造において非常に有用である。
【0006】
【非特許文献1】Harayama et al., (1997) Polycyclic aromatic hydrocarbon bioremediation design. Curr. Opin. Biotechnol. 8, 268-273.
【非特許文献2】Furukawa et al., (2004) Biphenyl dioxygenases: Functional versatilities and directed evolution. J. Bacteriol. 186, 5189-5196.
【非特許文献3】Gibson et al., (2000) Aromatic hydrocarbon dioxygenases in environmental biotechnology. Curr. Opin. Biotechnol. 11, 236-243.
【特許文献1】WO2004/050875
【特許文献2】特開2000-69968
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消する点にあり、シングルポリペプチド鎖の単純な蛋白質からなる新規芳香環水酸化酵素、及びその遺伝子を見い出し、生物学的な手法によって芳香環の水酸化を工業的に行うための手段を新たに提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、新規な単一成分の水酸化酵素を取得し、これを適切なベクターを用いて微生物に導入し、菌体内にこの遺伝子の保持する形質転換体を得ることが出来れば、微生物触媒による芳香族化合物の水酸化反応を簡便に行えると考え、これについて鋭意検討した結果、活性汚泥を環境試料としたDNAライブラリより、単一の成分からなる新規水酸化酵素をコードするDNA断片を取得することに成功した。そして、このDNA断片を含む組換えベクターを用いて微生物を形質転換し、得られた形質転換体を培養することにより、水酸化された芳香族化合物が生産されることを見いだして、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質。

(2)上記(1)に記載のタンパク質をコードする遺伝子。

(3)配列番号2で示される塩基配列を含むか、あるいは配列番号2で示される塩基配列において、1又は数個のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を有する塩基配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。

(4)配列番号2で示される塩基配列又は該塩基配列と相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ芳香環水酸化酵素を有するタンパク質をコードする遺伝子。

(5)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号3で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質。

(6)上記(5)に記載のタンパク質をコードする遺伝子。

(7)配列番号4で示される塩基配列を含むか、あるいは配列番号4で示される塩基配列において、1又は数個のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を有する塩基配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。

(8)配列番号4で示される塩基配列又は該塩基配列と相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ芳香環水酸化酵素を有するタンパク質をコードする遺伝子。

(9)上記(2)から(4)あるいは(6)から(8)のいずれかに記載の遺伝子を含む組換えベクター。

(10)上記(9)に記載の組換えベクターを含有する微生物。

(11)微生物が大腸菌であることを特徴とする上記(10)に記載の微生物。

(12)上記(10)又は(11)に記載の微生物を、芳香族化合物を含む培地で培養して培養物又は菌体から水酸化された芳香族化合物を採取することを特徴とする、水酸化された芳香族化合物の製造法。

【発明の効果】
【0010】
通常、芳香環水酸化酵素は非常に複雑な多成分複合酵素として機能を発揮することが一般的である。これらの遺伝子を組換え微生物に導入して発現させる場合においては、その全ての成分遺伝子が発現する必要があり、何らかの理由で何れかの遺伝子のひとつでも発現が低下した場合にはそれに伴い水酸化能力が低下し、全く発現しない成分遺伝子が存在した場合には水酸化能力は完全に失われる。また、各種成分酵素はそれぞれ至適の反応条件(温度、pH等)を保有しているので、全ての成分酵素が至適である反応条件を設定することは困難であり、効率的な水酸化反応のための条件設定は非常に困難である。本発明で提供する芳香環水酸化酵素タンパク質は、シングルポリペプチド鎖からなる単純な蛋白質のため、遺伝子発現及び水酸化反応の最適化のための条件設定が飛躍的に容易になる。さらに芳香環水酸化酵素遺伝子の全長も短縮されるため、プラスミド構築や微生物導入といった遺伝子工学実験の作業においても高効率化が期待できる。以上の理由により、該タンパク質をコードする遺伝子を保持する微生物は、種々の作業や最適化のための条件設定が飛躍的に容易になり、芳香族化合物の水酸化がより簡便化、効率的になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の芳香環水酸化酵素タンパク質の具体例は、活性汚泥から構築した環境DNAライブラリーをスクリーニングして得られたDNA由来のタンパク質であって、芳香環水酸化酵素として機能するシングルポリペプチド鎖の397あるいは512アミノ酸からなるタンパク質である。そのアミノ酸配列は配列表の配列番号1および3に示される。
また、本発明の芳香環水素酵素タンパク質は、上記配列番号1および3に示されるもののみではなく、該配列番号1および3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を有し、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するような軽微な変異を有するタンパク質であっても良い。このような変異としては、自然変異のみではなく、突然変異あるいは例えば遺伝子工学的手法を用いた変異等の人為的変異も含まれる。
【0012】
本発明の芳香環水酸化酵素タンパク質の遺伝子は、上記配列番号1および3で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質あるいはその上記変異タンパク質をコードするものであれば特に制限はないが、その具体的なものとしては、配列表の配列番号2および4に示され塩基配列を有するか、あるいは上記配列番号2および4に示される塩基配列において、1または数個のヌクレオチドが付加、欠失又は置換された塩基配列を有し、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするものが挙げられ、さらに、上記配列番号2および4で示される塩基配列あるいはその相補配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするものであって、芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。
【0013】
このような遺伝子は、タンパク質はDNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより、例えば、細菌由来の遺伝子をスクリーングすることにより得られる。本発明において「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、配列番号2の1位から1194位までの塩基配列と相同性が60%以上、好ましくは90%以上であるDNAとが特異的にハイブリダイズする条件である。ストリンジェントな条件としてより具体的には、42℃において、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS溶液中でハイブリダイゼーションを行い、次いで、42℃において、2×SSC、0.1%SDSで洗浄を行う条件が挙げられる。
【0014】
本発明の遺伝子は、例えば以下の手順で得ることができる。
本発明の芳香環水酸化酵素遺伝子は、芳香環を含むと考えられる土壌、河川および海洋の水または堆積物、活性汚泥等の環境試料からDNAを採取し、物理的あるいは酵素的あるいは化学的に剪断した当該DNAをプラスミド、ファージ、フォスミド等のベクターに連結し、該ベクターにより宿主微生物を形質転換し、当該組換えベクターを含む微生物ライブラリーを作製する。ここで、芳香環水酸化酵素の近傍には、連続する代謝反応を触媒するカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子が存在していることが知られていることに着目し、目的の遺伝子を保持するクローンの選択を行うことが出来る。すなわち、微生物ライブラリーにカテコールを噴霧し、黄色を呈するクローンを選択すれば、そのクローン中にカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子が含まれることが判明する。これを指標にライブラリーをスクリーニングし、近接する芳香環水酸化酵素を取得することが可能である。
【0015】
また、このほか、配列番号2および4で示される塩基配列を基に化学合成することもできる。
さらに、上記したように、このようにして得られた遺伝子と他の遺伝子とがストリンジェント条件下、ハイブリダイズするか否かを指標としてスクリーニングすることにより、芳香環水酸化酵素遺伝子を得ることもでき、あるいは上記得られた遺伝子にそれ自体周知の変異導入法を用いて、変異体タンパク質からなる芳香環水酸化酵素遺伝子を得ることもできる。
【0016】
本発明の芳香環水酸化酵素遺伝子は適当な発現ベクターに挿入し、微生物に導入して発現させることにより、芳香環水酸化能力を保持する微生物を作製することが可能である。使用できるベクターとしてはpUCベクターなどが例示でき、また、宿主とする微生物については大腸菌JM109などを例示できる。
上記の芳香環水酸化酵素遺伝子を大腸菌等の微生物に導入し、発現させた組換え微生物を用いて種々の芳香族化合物と混合培養することで、これらの芳香族化合物に特異的に水酸基を導入することができる。
本発明の方法により、例えばフェノールを基質として用いた際に変換産物としてカテコールが得られるが、本発明の方法によって製造される芳香族化合物はカテコールに限定されるわけではなく、基質としては、トルエン、スチレン、クレゾール、クロロベンゼン等の芳香族化合物の他、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン等の多環芳香族化合物、2−フェニルインドール、1−フェニルピラゾール等の複素芳香環化合物等を挙げることができる。
以下に、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
〔実施例1〕
芳香環水酸化酵素遺伝子の単離及び解析
(1)環境DNAライブラリーの作製
活性汚泥より抽出した環境DNAを、CopyControl Fosmid Library Production Kit(EPICENTRE社)に添付のEnd−Repair Enzymeを用いて末端の平滑化を行った。その後パルスフィールド電気泳動により平均鎖長33−48kb付近の大きさのDNAをゲルから分画した。β−アガラーゼ(NEB社)を用いて切り出した断片からDNAを精製した。
【0018】
次いで調製したインサートDNA断片とpCC1FOSフォスミドベクター(EPICENTRE社)とで、T4DNAリガーゼを用いてライゲーション反応を行った。ベクターライゲーション後、MaxPlank Lambda Packaging Extracts(EPICENTRE社)を用いて、in vitro packagingを行った。宿主大腸菌としてEPI300(EPICENTRE社)を使用した。12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地で、λファージにより形質転換した大腸菌をクロラムフェニコール耐性により選択した。
【0019】
大腸菌のコロニーを取り、12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含む2×YT培地1mL中で、37℃で18時間、1200rpmで培養した。ついで、このコロニーを採取した大腸菌の培養液のうち200μLを新しい800μLの2×YT培地に移して混合し、250rpmで振とうしながら37℃で30分間培養した後、1μLのCopy Control Induction Solution(EPICENTRE社)を添加し、宿主大腸菌EPI300が保有するフォスミドベクターのコピー数を増加させた。さらに大腸菌を37℃で2時間、1200rpmで激しく振とうしながら培養した後、遠心分離により菌体を回収し、50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。その後、150μLのBugBuster Plus Benzoate Nuclease(Novagen社)を添加して、大腸菌の細胞を溶解させた。続いて、遠心分離により分離された上清を細胞抽出液として得た。
【0020】
次に、カテコール(東京化成社)を最終濃度が0.5mMとなるように、5μLずつ、100μLの細胞抽出液に添加し、25℃において250rpmで混合しながら反応を行った。1時間および16時間後に、カテコールの分解により、2−ヒドロキシムコネート セミアルデヒドの形成により黄色を示すフォスミドクローンを選択した。
【0021】
(2)塩基配列の決定
カテコール分解活性を示すクローンより、FosmidMAX DNA Purification Kit(EPICENTRE社)を用いてフォスミドDNAを抽出した。次いで、当該DNAをDNA断片化装置(Gene machines社)を用いてランダムに断片化し、アガロースゲル電気泳動により分画後、約2kb−3kbのDNAを含むアガロース断片を切り出した。切り出したアガロース断片よりDNAを精製後、T4DNA Polymerase(タカラバイオ社)を用いてDNA断片の平滑化を行った。平滑化したDNA断片は、脱リン酸化処理を行った50ngのpUC118/HincII/BAPとベクターライゲーション反応を行った後、エタノール沈殿を行い、10μLの滅菌水に溶解した。
【0022】
作製したライブラリーの一部をライゲーション溶液1μL、宿主大腸菌DH10B(Invitrogen社)25μLを用いて、エレクトロポレーション法(Gene pulser、BIO RAD社)により大腸菌に導入した。100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、40μg/mLのX−galを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。
【0023】
Q−Bot(GENETIX社)を用いて288個の大腸菌白コロニーをランダムにピッキングした。96穴のプレートに分注した120μLの100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地にそれぞれ植菌し、37℃で終夜培養を行った。上記培養液にTempliPhiDNA Sequencing Template Amplification Kit(GEヘルスケア社)を使用して、シーケンス用鋳型を調製した。TempliPhiの反応は付属の取扱説明書に従った。
【0024】
次に、TempliPhiにより調製したDNAを鋳型として塩基配列の解析を行った。BigDye Terminator V3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystem社)によりシークエンス反応を行った。付属の取扱説明書に従いPCR、精製を行い、ABI3730XL(Applied Biosystem社)を用いて解析を行った。塩基配列の解析にはArtemis(Sanger Center)を用いた。
【0025】
塩基配列のホモロジー解析を行った結果、図1に示すように、カテコール分解活性を示すフォスミドクローンの挿入断片中にはカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子の他に、芳香環水酸化酵素遺伝子が存在した。芳香環水酸化酵素遺伝子のアミノ酸配列を配列番号1および3に、DNA塩基配列を配列番号2および4にそれぞれ示す。
【0026】
〔実施例2〕
芳香環水酸化酵素の発現及びその活性の確認
上記実施例1で得られた配列番号2のDNAが水酸化酵素をコードすることを確認する実験を行った。まず芳香環水酸化酵素遺伝子およびカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子を含むDNA断片をPCRにより増幅した。5’末端のプライマーとしてPHE−F(配列番号5)、及び5’末端のプライマーとしてPHE−R(配列番号6)を合成した。PCRは98℃で10秒、60℃で5秒、72℃で2分の処理を1サイクルとして合計25サイクル行った。PCR産物を精製し、さらに制限酵素XbaIで処理した。このインサートDNAと、HincIIとXbaIで処理したpUC19ベクターを合計10μLになるように混合し、ライゲーション反応を行った。DNAを回収し、ヒートショック法で大腸菌JM109株に挿入し、100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、40μg/mLのX−galを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。
【0027】
得られた大腸菌形質転換体を100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、さらに100μMのフェノールを含むLB寒天培地にストリークし37℃で終夜培養した結果、黄色を呈するコロニーが得られた。分光光度計により解析を行い、得られた黄色化合物は、375nmに最大吸収波長を持つ2−ヒドロキシムコネート セミアルデヒドであることを確認した。従って配列番号2の遺伝子は、単一の成分からなる芳香環水酸化酵素をコードし、当該水酸化酵素はフェノールをカテコールに変換し、下流に存在するカテコール2,3−ジオキシゲナーゼによりカテコールが2−ヒドロキシムコネート セミアルデヒドに変換されていることを確認した。
【0028】
比較として、5’末端のプライマーとしてEDO−F(配列番号7)、及び3’末端のプライマーとしてPHE−R(配列番号6)を用いて、カテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子のみを含むDNA断片をPCRにより増幅した。上記記載の手順と同様にして得られた大腸菌形質転換体を100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、さらに100μMのフェノールを含むLB寒天培地にストリークし37℃で終夜培養した結果、黄色を呈するコロニーは得られなかった。一方、カテコールを噴霧した結果、黄色を呈するコロニーが得られた。
以上のことより、配列番号2の遺伝子が、新規な単一の成分からなる芳香環水酸化酵素をコードしていることが明らかになった。さらに、この芳香環水酸化酵素をコードする遺伝子を導入することにより、水酸化された化合物が生産されることが明らかになった。
【0029】
〔実施例3〕
芳香環水酸化酵素の発現及びその活性の確認
上記実施例1で得られた配列番号4のDNAが水酸化酵素をコードすることを確認する実験を行った。まず芳香環水酸化酵素遺伝子およびカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子を含むDNA断片をPCRにより増幅した。5’末端のプライマーとしてPHE2−F(配列番号8)、及び5’末端のプライマーとしてPHE2−R(配列番号9)を合成した。PCRは98℃で10秒、60℃で5秒、72℃で2分の処理を1サイクルとして合計25サイクル行った。PCR産物を精製し、さらに制限酵素KpnIで処理した。このインサートDNAと、KpnIで処理したpUC19ベクターを合計10μLになるように混合し、ライゲーション反応を行った。DNAを回収し、ヒートショック法で大腸菌JM109株に挿入し、100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、40μg/mLのX−galを含むLB寒天培地で、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。
【0030】
得られた大腸菌形質転換体を100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、さらに100μMのフェノールを含むLB寒天培地にストリークし37℃で終夜培養した結果、黄色を呈するコロニーが得られた。分光光度計により解析を行い、得られた黄色化合物は、375nmに最大吸収波長を持つ2−ヒドロキシムコネート セミアルデヒドであることを確認した。従って配列番号2の遺伝子は、単一の成分からなる芳香環水酸化酵素をコードし、当該水酸化酵素はフェノールをカテコールに変換し、下流に存在するカテコール2,3−ジオキシゲナーゼによりカテコールが2−ヒドロキシムコネート セミアルデヒドに変換されていることを確認した。
【0031】
比較として、5’末端のプライマーとしてEDO−F(配列番号7)、及び3’末端のプライマーとしてPHE2−R(配列番号9)を用いて、カテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子のみを含むDNA断片をPCRにより増幅した。上記記載の手順と同様にして得られた大腸菌形質転換体を100μg/mLのアンピシリン、100μM/mLのIPTG、さらに100μMのフェノールを含むLB寒天培地にストリークし37℃で終夜培養した結果、黄色を呈するコロニーは得られなかった。一方、カテコールを噴霧した結果、黄色を呈するコロニーが得られた。
以上のことより、配列番号4の遺伝子が、新規な単一の成分からなる芳香環水酸化酵素をコードしていることが明らかになった。さらに、この芳香環水酸化酵素をコードする遺伝子を導入することにより、水酸化された化合物が生産されることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】環境DNAより得られた芳香環水酸化酵素遺伝子とカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ遺伝子の位置関係及びフェノールの変換様式を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
配列番号2で示される塩基配列を含むか、あるいは配列番号2で示される塩基配列において、1又は数個のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を有する塩基配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項4】
配列番号2で示される塩基配列又は該塩基配列と相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ芳香環水酸化酵素を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項5】
配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むか、あるいは配列番号3で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するアミノ酸配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質。
【請求項6】
請求項5に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項7】
配列番号4で示される塩基配列を含むか、あるいは配列番号4で示される塩基配列において、1又は数個のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を有する塩基配列を含み、かつ芳香環水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項8】
配列番号4で示される塩基配列又は該塩基配列と相補の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ芳香環水酸化酵素を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項9】
請求項2から4および6から8のいずれかに記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項9に記載の組換えベクターを含有する微生物。
【請求項11】
微生物が大腸菌であることを特徴とする請求項10に記載の微生物。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の微生物を、芳香族化合物を含む培地で培養して培養物又は菌体から水酸化された芳香族化合物を採取することを特徴とする、水酸化された芳香族化合物の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−254342(P2009−254342A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214862(P2008−214862)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】