説明

新規な(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素、その製造方法、及びこれを利用したアルコールの製造方法

【課題】アルコール、特に、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造に有用な新規な(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を提供する。
【解決手段】ジオトリカム・カピテイタムの生産する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。該酵素は(1)から(2)に示す質を有する;(1)作用:NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。(2)補酵素特異性:酸化反応の補酵素としてNADを利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール、特に、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造に有用な新規なNAD依存性(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素、該酵素の製造方法、該酵素を用いたアルコール、特に(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールは、抗生物質、ジヒドロピリジン系化合物など医薬品の原料として有用な化合物である。酵素および微生物菌体など用いる光学活性(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの生化学的製造方法としては、リパーゼ、エステラーゼなどを用いて光学分割する方法(例えば特許文献1 、特許文献2)、N−ベンジル−3−ピロリジノンを酵素あるいは微生物で不斉還元する方法(特許文献3〜5)が知られている。
【0003】
特許文献1、2等に記載のリパーゼ、エステラーゼなどを利用した光学分割法は、原理的に最大収率は50%となり産業上不利である。微生物などを用いた不斉還元法は原理的に最大収率100%が可能であるため、光学分割法に比較して産業上の優位性を有する。微生物、特に、野生株を用いた特許文献3などに記載の方法は、微生物の還元活性が低い、還元反応に付随して酸化された補酵素を還元する補酵素再生系が効率的に機能しない、夾雑する複数の酵素が作用するため生成物の光学純度が安定しない、などの欠点を有する。
【0004】
N−ベンジル−3−ピロリジノンを不斉還元し(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する酵素を単離し、更にその遺伝子を異種の宿主で高発現させた組換え微生物を利用して、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを製造する方法も知られている(特許文献4〜5)。
【特許文献1】特開平5−227991号公報
【特許文献2】特開平1−141600号公報
【特許文献3】特開平6−141876号公報
【特許文献4】特開平10−150998号公報
【特許文献5】特開2004−350625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、NADHを補酵素としてN−ベンジル−3−ピロリジノンを不斉還元し(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する新規な酵素を提供することを課題とする。補酵素NADは、微生物内の濃度がNADPに比較して高く、化学安定性が高く、反応液に添加する場合にはその価格が安いこと、補酵素再生にギ酸脱水素酵素などが利用可能であり、一般にグルコース脱水素酵素を利用する場合に比較して生成物の単離、精製が容易であること、などの利点を有しているが、このような性質を有する酵素としては、特許文献5に記載の酵素しか報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、N−ベンジル−3−ピロリジノンを不斉還元し(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する微生物をスクリーニングし、不斉還元能を有する微生物から無細胞抽出液を調製し、不斉還元反応を担う酵素の解析を行った結果、ジオトリカム属に属する微生物、特に、ジオトリカム・カピテイタムが、NADHを補酵素としてN−ベンジル−3−ピロリジノンを不斉還元し(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する酵素を産生することを見出した。
【0007】
また、本酵素を精製し、その諸性質を解析した結果、既知の酵素とは酵素科学的性質を異にする新規な酵素であること、N−ベンジル−3−ピロリジノン不斉還元活性を有するだけではなく、様々なカルボニル化合物を不斉還元すること、更に、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールなどの光学活性アルコールを立体選択的に酸化する活性も併せ持つことを見出した。
さらに、塩基配列およびアミノ酸配列を特定し、該塩基配列を含むDNAを大腸菌により高発現させ、得られた組換え大腸菌を用いて N-ベンジル-3-ピロリジノンを効率よく不斉還元し、(S)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生産することに成功した。
【0008】
すなわち本発明は、以下を含む。
〔1〕次の(1)から(4)に示す理化学的性質を有する、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素;
(1)作用
NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。
(2)補酵素特異性
酸化反応の補酵素としてNADを利用し、NADPを実質的に利用しない。還元反応の補酵素としてNADHを利用し、NADPHを実質的に利用しない。
(3)基質特異性
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには作用するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しない。エタノール、グリセロールには実質的に作用しない。シクロヘキサノンに対する還元活性が、2−ヘキサノンに対する還元活性よりも高い。
(4)分子量
ゲル濾過における分子量が78,000であり、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)における分子量が39,000〜41,000である。
【0009】
〔2〕さらに次の(5)、(6)に示す理化学的性質を有する、〔1〕に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素;
(5)最適pH
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適pHが6.0〜7.0である。
(6)最適温度
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適温度が25〜40℃である。
【0010】
〔3〕ジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物が生産する酵素である、〔1〕又は〔2〕に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。
【0011】
〔4〕前記ジオトリカム属に属する微生物が、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)であることを特徴とする、〔3〕に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。
【0012】
〔5〕下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a) 配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;および
(e) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;
(1)作用
NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。
(2)補酵素特異性
酸化反応の補酵素としてNADを利用し、NADPを実質的に利用しない。還元反応の補酵素としてNADHを利用し、NADPHを実質的に利用しない。
(3)基質特異性
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには作用するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しない。エタノール、グリセロールには実質的に作用しない。シクロヘキサノンに対する還元活性が、2−ヘキサノンに対する還元活性よりも高い。
【0013】
〔6〕ジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物由来である〔5〕に記載のポリヌクレオチド。
【0014】
〔7〕前記ジオトリカム属に属する微生物が、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)である〔6〕に記載のポリヌクレオチド。
【0015】
〔8〕〔5〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。
【0016】
〔9〕〔5〕に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【0017】
〔10〕〔5〕に記載のポリヌクレオチド、または〔5〕に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを導入された形質転換細胞。
【0018】
〔11〕〔1〕〜〔4〕、〔8〕のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を生産するジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物を培養して、〔1〕〜〔4〕、〔8〕のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を回収することを含む、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の製造方法。
【0019】
〔12〕前記ジオトリカム属に属する微生物が、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)であることを特徴とする、〔11〕に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の製造方法。
【0020】
〔13〕〔5〕に記載のポリヌクレオチド、または〔5〕に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを導入された形質転換細胞を培養し、その培養物から〔5〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を回収する工程を含む、〔5〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質の製造方法。
【0021】
〔14〕〔1〕〜〔4〕、〔8〕のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をカルボニル化合物に接触させる工程、および生成される光学活性アルコールを回収する工程を含む、光学活性アルコールの製造方法。
【0022】
〔15〕前記カルボニル化合物が、N−ベンジル−3−ピロリジノンであり、光学活性アルコールが(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールである、〔14〕に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【0023】
〔16〕〔1〕〜〔4〕、〔8〕のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を、光学活性アルコールの混合物に接触させ、いずれかの光学活性アルコールを選択的に酸化し、残存する他方の光学活性アルコールを得る工程を含む、光学活性アルコールの製造方法。
【0024】
〔17〕前記光学活性アルコールの混合物が(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノール及び(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの任意の比率の混合物であり、残存する他方の光学活性アルコールが(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールである、〔16〕に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【0025】
[発明の実施の形態]
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素
本発明に係る(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素は、以下の(1)−(6)の理化学的性質を有する蛋白質である。
(1)作用
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(本発明において「NAD 」ということがある)を補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(本発明において「NADH」ということがある)を補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。
【0026】
(2)補酵素特異性
酸化反応の補酵素としてNADを利用し、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(本発明において「NADP」ということがある)を実質的に利用しない。還元反応の補酵素としてNADHを利用し、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(本発明において「NADPH」ということがある)を実質的に利用しない。
【0027】
本発明において前記「実質的に利用しない」とは、本発明の酵素のN−ベンジル−3−ピロリジノンまたは(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに対する酸化活性または還元活性が、NADまたはNADHを用いたときを100として、NADPまたはNADPHを用いた場合、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下であることを意味する。
【0028】
(3)基質特異性
2−プロパノール、2−ブタノールには作用するが、エタノール、1−ブタノール、グリセロールには実質的に作用しない。(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには作用するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しない。
【0029】
本発明において前記「実質的に作用しない」とは、基質に対する本発明の酵素の酸化活性が、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに対する酸化活性を100としたときに、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である場合を意味する。
【0030】
(4)分子量
ゲル濾過における分子量が78,000であり、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)における分子量が39,000−41,000である。
【0031】
(5)最適pH
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適pHが6.0〜7.0である。
【0032】
(6)最適温度
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適温度が25〜40℃、好ましくは30℃である。
【0033】
本発明において、前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性は、N−ベンジル−3−ピロリジノンに対する還元活性で表され、次のようにして確認することができる。
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに対する還元活性測定法
50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、0.2mM NADH、3mM N−ベンジル−3−ピロリジノン及び酵素を含む反応液中25℃で反応させ、NADHの減少にともなう340nmの吸光度の減少を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADHの減少を触媒する酵素量とする。また、タンパク質の定量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により行う。
【0034】
本発明に係る(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の酵素活性は、好ましくは1U/mg以上、さらに好ましくは5U/mg以上、特に好ましくは10U/mg以上である。
【0035】
上記のような理化学的性状を持つ(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素は、たとえばジオトリカム属酵母の培養物から精製して得ることができる。ジオトリカム属酵母としては、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)が、特に高活性で、立体選択性の高い、前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の産生能に優れる。
【0036】
本発明の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を得るために利用することができるジオトリカム属の微生物として、例えば、ジオトリカム・カピテイタム NBRC 0743、NBRC 1197、JCM 3908、ジオトリカム・エスピー JCM 5223、などが挙げられ、NBRC株は独立行政法人製品評価技術基盤機構、JCM株は理化学研究所より入手することができる。
【0037】
上記微生物は、YM培地(2%グルコース、0.5%ペプトン、0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキスを含むpH6.0の培地)等の真菌の培養に用いられる一般的な培地で培養することができる。
これらの培地を用いて培養した後、対数増殖期から定常期の菌体を回収することで酵素活性の高い菌を調製することができる。
通常は、培養開始時のpHを2〜9、好ましくは4〜7に調節し、15〜40℃、好ましくは20〜35℃の温度条件下で培養することが望ましい。培養時間は通常は1日から7日、好ましくは1日から3日である。
【0038】
培養した菌体から無細胞抽出液を調製し、さらに、無細胞抽出液を精製することにより、本発明に係る(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を得ることができる。
【0039】
具体的には、前記のようにして得られた菌体から、2−メルカプトエタノール(2−mercaptoethanol)等の還元剤や、フェニルメタンスルホニルフルオリド(phenylmethansulfonyl fluoride;PMFS)やエチレンジアミン4酢酸(以下、EDTAと略す)、ペプスタチン、ロイペプチン、ホスホラミドンのようなプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中でガラスビーズとの物理的な衝撃やミニラボ、フレンチプレスなどの高圧を利用するなどして破砕し、無細胞抽出液を得ることができる。
【0040】
無細胞抽出液から、蛋白質の溶解度による分画(アセトンやジメチルスルホキシドなどの有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など)や、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより本発明の酵素を精製することができる。例えば、無細胞抽出液をブルー−セファロース、フェニル−セファロース、Resource Q(いずれもファルマシア製)などのカラムクロマトグラフィーを組み合わせることにより、電気泳動的にほぼ単一バンドにまで精製することができる。
【0041】
本願発明者らは、本発明の過程において、前記ジオトリカム属の微生物には、4種類以上という、種々雑多な脱水素酵素が存在していることを確認した。本願発明者らは、微生物中に存在した種々雑多な脱水素酵素を分析したところ、上記(1)〜(6)のような特異な性質及び効果を有する酵素が存在していることを見出した。
【0042】
ポリヌクレオチド
本発明は、下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにも関する。
(a) 配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;および
(e) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;
(1)作用
NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。
(2)補酵素特異性
酸化反応の補酵素としてNADを利用し、NADPを実質的に利用しない。還元反応の補酵素としてNADHを利用し、NADPHを実質的に利用しない。
(3)基質特異性
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには作用するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しない。エタノール、グリセロールには実質的に作用しない。シクロヘキサノンに対する還元活性が、2−ヘキサノンに対する還元活性よりも高い。
【0043】
本発明のポリヌクレオチドは、前記性状(1)-(3)に加えて、好ましくは次の(4)、(5)および/または(6)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチドを含む。すなわち本発明のポリヌクレオチドは、前記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドであって、(1)-(6)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0044】
(4)分子量
ゲル濾過における分子量が78,000であり、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)における分子量が39,000〜41,000である。
【0045】
(5)最適pH
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適pHが6.0〜7.0である。
【0046】
(6)最適温度
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適温度が25〜40℃である。
【0047】
前記「(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素」の活性の確認方法は上記の通りである。
【0048】
本発明において、ポリヌクレオチドは、DNAおよびRNA等の天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であることもできる。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA-RNAのキメラ分子であることもできる。また、本発明のポリヌクレオチドは、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするコード鎖のみからなる一本鎖であっても、該コード鎖とその相補鎖とからなる二本鎖構造を持つものであってもよい。
【0049】
本発明の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチドは、微生物から得ることができる。微生物としては、ジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物が好ましい。より具体的には、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)は、本発明のポリヌクレオチドを得るための微生物として好ましい。例えば、配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドは、ジオトリカム・カピテイタム JCM 3908株からクローニングされた。配列番号:1に示す塩基配列は、配列番号:2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、本発明における好ましいポリヌクレオチドである。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドには、ジオトリカム・カピテイタム JCM 3908株からクローニングされた遺伝子に加え、該遺伝子のホモログも含まれる。このような遺伝子のホモログとしては、配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。その他、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチドに加え、その読み枠に影響しないよう適当な制御配列を含むポリヌクレオチド、適当なペプチド配列により修飾された(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、好適な例として挙げることができる。
【0051】
また、本発明のポリヌクレオチドに含まれるホモログとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。このようなポリヌクレオチドには、配列番号:1に示す塩基配列を含む遺伝子に加え、遺伝暗号の縮重により配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするが、配列番号:1の塩基配列とは異なる塩基配列からなるポリヌクレオチドが包含される。
【0052】
今回、配列番号:1の塩基配列を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードする遺伝子が得られた。ホモログは、例えば、配列番号:1の塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとしてスクリーニングすることができる。あるいは、配列番号:1の塩基配列から選択された塩基配列をプローブとすることもできる。プローブを使ったスクリーニング方法として、次のような公知のハイブリダイゼーション法を利用することができる。
コロニーハイブリダイゼーション、
プラークハイブリダイゼーション、
サザンブロット法
スクリーニングには、酵素生産株であるジオトリカム・カピテイタム、ジオトリカム属の微生物、あるいはその他の生物種等の染色体DNA、またはcDNAライブラリーを利用することができる。
また、酵素生産株の染色体DNAまたはcDNAライブラリーを鋳型としてPCRによって、本発明のポリヌクレオチドを得ることもできる。PCR用のプライマーは、配列番号:1の塩基配列を元にデザインすることができる。PCRによって得られたDNAが断片であれば、DNA断片の塩基配列に基づいて更にその全長配列を決定することができる。たとえば、逆PCR(inverse PCR; Genetics(1988)120: 621-3)を利用して、断片配列情報に基づいて、全長配列を決定することができる。逆PCRは、部分的に塩基配列が不明なDNAを適当な制限酵素で消化後、自己環化反応により環化されたDNAを鋳型として利用するPCRである。断片配列内部にアニールするプライマーを利用して、その前後に連続する塩基配列が未知の領域を増幅することができる。
あるいはRACE法(Rapid Amplification of cDNA End;「PCR実験マニュアル」HBJ出版局,p25-33)によって本発明のポリヌクレオチドを得ることもできる。
【0053】
また、本発明におけるポリヌクレオチドのホモログは、配列番号:1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドであって、かつ、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも含む。
【0054】
本発明において、ストリンジェントな条件とは、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)においてハイブリダイズすることを言う。より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、 0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1% SDSの条件である。これら温度、塩濃度に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間を含む複数の要素がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する。当業者であればこれら要素を適宜選択することでストリンジェンシーを調節することができる。
【0055】
たとえばハイブリダイゼーションに使用するプローブの塩基配列は、配列番号:1に記載の塩基配列から選択することができる。たとえば、少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとすることができる。あるいは、配列番号:1に記載した塩基配列の全長を有するポリヌクレオチドをプローブとすることもできる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47-9.58)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987-1997)、特にSection6.3-6.4)、「DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995)、特にSection2.10)等を参照することができる。
【0056】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列をコードしている可能性が高い。具体的には、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%あるいは98%、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、本発明における好ましいポリヌクレオチドに含まれる。このような高い同一性を有するタンパク質同士は、同じまたは類似した活性を有する可能性が高い。
本発明において、塩基配列、あるいはアミノ酸配列の同一性は、 Lipman-Pearson法(Science (1985)227:1435-41)によるプログラムを用いて計算した値を表す。タンパク質の同一性は、アミノ酸配列に関するデータベースを利用して検索することができる。例えばSWISS-PROT、PIR、DAD等のタンパク質のアミノ酸に配列情報を蓄積したデータベースを利用することができる。あるいはDNAの同一性は、塩基配列情報を蓄積したデータベースを利用して検索することができる。DDBJ、EMBLまたはGenBank等のDNAに関するデータベースが公知である。これらのデータベースにおいては、DNAの塩基配列を元に予想されたアミノ酸配列情報を利用することもできる。各種の配列情報は、これらのデータベース等を対象に、BLAST、FASTA等のプログラムを利用して検索することができる。ここに例示したデータベースは、いずれもインターネット(例えば、 http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)を通じて利用することができる。
【0057】
さらに、本発明のポリヌクレオチドのホモログとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。当業者は、ある塩基配列を元に、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、このようなポリヌクレオチドのホモログを得ることができる。たとえば、配列番号:1記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに、部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res (1982) 10:6487;Methods in Enzymol (1983) 100:448;Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);PCR A Practical Approach, IRL Press(1991) pp.200)などを用いて、任意の変異を導入することができる。
【0058】
タンパク質においてアミノ酸残基を置換する場合、特に、側鎖の化学的性質が類似したアミノ酸による置換、いわゆる保存的なアミノ酸置換を行うことが好ましい。アミノ酸は、それらの側鎖の化学的性質に従い、例えば、次のように分類される:
(1)中性疎水性側鎖(アラニン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、ロイシン);
(2)中性極性側鎖(アスパラギン、グリシン、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、トレオニン);
(3)塩基性側鎖(アルギニン、ヒスチジン、リシン);
(4)酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸);
(5)脂肪族側鎖(アラニン、イソロイシン、グリシン、バリン、ロイシン);
(6)脂肪族水酸基側鎖(セリン、トレオニン);
(7)アミン含有側鎖(アスパラギン、アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、リシン);
(8)芳香族側鎖(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン);および
(9)硫黄含有側鎖(システイン、メチオニン)。
【0059】
すなわち、これらの各群を構成するアミノ酸残基の相互の置換を、保存的置換と言う。本発明において、「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加」するアミノ酸の数や場所は、上記DNAがコードするタンパク質が(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を有する限り、制限されない。変異が許容されるアミノ酸残基の数は、典型的には全アミノ酸の10%以内、好ましくは全アミノ酸の5%、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。より具体的には、配列番号:2のアミノ酸配列において、通常50以内、たとえば20以内、より好ましくは5以内のアミノ酸残基の変異は、許容される。
【0060】
本発明のポリヌクレオチドのホモログには、上述のように、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失されたアミノ酸配列からなり、かつ、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。このような欠失を含むポリヌクレオチドには、配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質の「一部分」をコードするポリヌクレオチドが包含される。
【0061】
ポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質が、元のタンパク質の生物学的活性を維持している限り、アミノ酸配列におけるアミノ酸残基の欠失・置換・付加及び/または挿入は許容される。ここで、生物学的活性の維持とは、元の酵素が触媒する少なくとも一つの反応を触媒する能力が維持されることを言う。「活性の維持」には、同じ活性レベルのみならず、より高い活性も含まれる。また、活性のレベルが低下する場合であっても、実質的に同等の活性であれば、活性の維持に含まれる。実質的に同等とは、元の活性に対して、たとえば50%〜100%、通常70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは90、あるいは95〜100%の活性を言う。本発明におけるタンパク質の生物学的活性、すなわち(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性の評価方法は既に述べた。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドには、天然よりクローニングされたゲノムDNA、及びcDNAの他、合成によって得られるポリヌクレオチドも含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号:1に記載の配列情報を元に、周知の手法により合成することができる。
【0063】
また、本発明の酵素は遺伝子工学的な手法、あるいは化学的な合成法によっても得ることができる。例えば、細胞を含まない試験管内でのタンパク質の製造方法としてin vitroトランスレーション(Dasso and Jackson, Nucleic Acids Res(1989)17:3129-44)が知られている。また、本発明のポリヌクレオチドを適当な発現ベクターに組込み、該発現ベクターが発現される宿主に形質転換し、該宿主細胞より所望のタンパク質を得ることもできる。このような宿主-ベクター系によりタンパク質を産生する方法については、以下の「組換えベクター及び形質転換体」の項において具体的に述べる。これら公知のタンパク質の製造方法は、本発明のタンパク質を得るための方法として利用することができる。
【0064】
遺伝子工学的な手法により製造されたタンパク質は、当該タンパク質を含む生物材料から回収される。たとえば、タンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には、当該細胞を培養した培地からタンパク質が回収される。宿主がトランスジェニック生物の場合にはその体液から目的のタンパク質を回収できる。あるいは細胞内に産生される場合には細胞を溶解した溶解物よりタンパク質を回収する。
【0065】
回収されたタンパク質は、該タンパク質を天然において産生する細胞から精製する場合と同様の手段により精製することができる。すなわち、公知の塩析、蒸留、各種クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、ゲル濾過、限外濾過、再結晶、酸抽出、透析、免疫沈降、溶媒沈澱、溶媒抽出、硫安またはエタノール沈澱等の精製手法を組み合わせて、目的とするタンパク質を精製することができる。当業者は、たとえば次のような各種のクロマトグラフィーを組み合わせて利用することができる。これらのクロマトグラフィーには、HPLC及びFPLC等の液相クロマトグラフィーシステムを用いることができる。
アフィニティークロマトグラフィー、
アニオンまたはカチオン交換等のイオン交換クロマトグラフィー、
逆相クロマトグラフィー、
吸着クロマトグラフィー、
ゲル濾過、
疎水性クロマトグラフィー、
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー
【0066】
また、本発明のタンパク質((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素)をタグとの融合タンパク質として発現させれば、タグに結合するカラムを利用して回収することができる。たとえばGSTタグを有する融合タンパク質は、グルタチオンカラムを用いて容易に分離することができる。あるいはヒスチジンタグとの融合タンパク質は、ニッケルカラムを用いて精製することができる。タグとタンパク質((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素)の間にプロテアーゼ認識配列を挿入することができる。プロテアーゼには、たとえばトロンビンやファクターXa等を利用することができる。融合タンパク質をカラムに結合させた後、必要に応じてカラムを洗浄する。次いでこれらのプロテアーゼを作用させると、目的とするタンパク質がタグから切断される。その後、切断されたタンパク質を回収することによって、目的とするタンパク質を容易に精製することができる。
【0067】
組換えベクター及び形質転換体
本発明のポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに挿入することにより、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素発現ベクターが提供される。即ち本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。本発明の好ましいベクターとしては、これに限定されるわけではないが、例えば、大腸菌における発現ベクターpSE420Dに(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードする遺伝子を発現可能に挿入したpK4EC等が挙げられる。
【0068】
本発明の組換えベクターは、分子生物学、生物工学及び遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて構築することができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。微生物等を宿主として、本発明のポリヌクレオチドを発現させるためには、まず、当該微生物中において安定に存在するプラスミドベクターまたはファージベクター中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、通常、プロモーターを本発明のポリヌクレオチドの5’側上流に配置する。プロモーターは、転写・翻訳を制御するユニットである。
【0069】
そして発明のポリヌクレオチドの3’側下流には、ターミネーターを配置するのが好ましい。プロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能するものを選択することができる。各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーター等の制御配列は、「微生物学基礎講座8遺伝子工学」(共立出版)などで参照することができる。また特に酵母の制御配列について、Adv Biochem Eng (1990) 43:75-102及びYeast (1992) 8:423-88等に詳細に記述されている。その他、必要に応じて、エンハンサー、オペレーター配列、開始シグナル、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位等の転写及び/または翻訳に必要な制御配列を組込むことができる。
本発明のベクターは、好ましくは、挿入された本発明のポリヌクレオチドの発現に必要とされる制御配列の全ての構成成分を含むものである。さらに、本発明のベクターは、該ベクターが導入された宿主細胞を選択するための選択マーカーを含むことができる。
【0070】
本発明においては、本発明のポリヌクレオチドに、シグナルペプチドをコードする配列を付加することもできる。シグナルペプチドの付加によって、宿主細胞内で発現されたタンパク質を小胞体内腔に移行させることができる。あるいは、グラム陰性菌を宿主とする場合には、シグナルペプチドによって、宿主細胞内で発現されたタンパク質を、ペリプラズム内、または細胞外へと移行させることができる。利用する宿主細胞において機能することができる任意のシグナルペプチドを利用することができる。したがって、宿主にとって異種由来のシグナルペプチドを利用することもできる。さらに必要に応じ、本発明のポリヌクレオチドのベクターへの導入に当たって、リンカー、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)等を付加することもできる。
【0071】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるための宿主は、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターによって形質転換することができ、かつ(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を有するタンパク質を発現することができる生物であれば特に制限されない。本発明は、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターにより形質転換された形質転換体を提供する。本発明の形質転換体の対象となる微生物としては、例えば以下のような微生物を示すことができる。
(1)宿主ベクター系の開発されている細菌
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など
(2)宿主ベクター系の開発されている放線菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など
(3)宿主ベクター系の開発されている酵母
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属など
(4)宿主ベクター系の開発されているカビ
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属など
【0072】
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌(Escherichia coli) においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、 tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PR等に由来するプロモーターが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターを用いることができる。特に、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D (特開2000-189170に記載)は、エシェリヒア属細菌を宿主とした場合の好適なベクターである。
【0073】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等が利用可能であり、これらのベクターを利用した場合、本発明のポリヌクレオチドを宿主染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしては、apr(アルカリプロテアーゼ)、 npr(中性プロテアーゼ)、amy(α-アミラーゼ)等が利用できる。
【0074】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia) 等で宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240等が利用可能であり、プロモーター・ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子由来のものが利用できる。
【0075】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene (1985) 39:281)等のプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター・ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0076】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol Gen Genet (1984)196:175)等のプラスミドベクターが利用可能である。
【0077】
ストレプトコッカス属においては、pHV1301(FEMS Microbiol Lett (1985) 26:239)、pGK1(Appl Environ Microbiol (1985) 50:94)等がプラスミドベクターとして利用可能である。
【0078】
ラクトバチルス属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J Bacteriol (1979) 137: 614)等がベクターとして利用可能であり、プロモーターとしては、大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0079】
ロドコッカス属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である (J Gen Microbiol (1992) 138:1003)。
【0080】
ストレプトマイセス属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) においては、pIJ486 (Mol Gen Genet (1986) 203: 468-78)、pKC1064(Gene (1991) 103:97-9)、pUWL-KS (Gene (1995) 165:149-50)が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol (1997) 11:46-53)。
【0081】
サッカロマイセス属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae) においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能である。また、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP537456等)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、 ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β-ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)等のプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
【0082】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis) においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J Bacteriol (1981) 145:382-90)、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソーム DNA等との相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP537456等)等が利用可能である。また、ADH、PGK等に由来するプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
【0083】
シゾサッカロマイセス属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe) 由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol Cell Biol (1986) 6:80)。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーター等が利用できる(EMBO J (1987) 6:729)。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0084】
チゴサッカロマイセス属においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii) 由来のpSB3(Nucleic Acids Res. 13:4267(1985))等に由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーター、及びチゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri Biol Chem (1990) 54:2521)等が利用可能である。
【0085】
ピキア属においては、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta;旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))を用いた宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast (1991) 7:431-43)。また、メタノール等で誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーター等が利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等について、ピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、 PARS2)等を利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol Cell Biol (1985) 5:3376)、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOX等の強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res (1987) 15:3859)。
【0086】
キャンディダ属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス(Candida utilis) 等について宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいては、キャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri Biol Chem (1987) 51:1587)、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターでは、強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
【0087】
アスペルギルス属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae) 等が最もよく研究されている。これらを宿主とするプラスミドが利用可能であり、染色体への所望遺伝子のインテグレーションを行うことができる。菌体外プロテアーゼ及びアミラーゼ由来のプロモーターも利用可能である(Trends in Biotechnology (1989) 7:283-7)。
【0088】
トリコデルマ属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用した宿主ベクター系が開発されており、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター等が利用できる(Biotechnology (1989) 7:596-603)。
【0089】
また、微生物以外でも、植物及び動物を宿主とする様々な宿主ベクター系が開発されている。例えば、大量に異種タンパク質を発現させる系として、蚕を用いた昆虫ベクター系(Nature (1985) 315:592-4)、並びに、菜種、トウモロコシ及びジャガイモ等の植物ベクター系が開発されており、好適に利用できる。
【0090】
ベクターへの本発明のポリヌクレオチドの導入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987) Section 11.4-11.11; Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989) Section 5.61-5.63)。また、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮し、必要に応じ本発明のポリヌクレオチド配列の改変を行い、発現効率の高いベクターを設計するようにしてもよい(Grantham et al., Nucleic Acids Res (1981) 9:r43-74)。
【0091】
上述のように、様々な細胞が宿主細胞株として確立されている。そして、各細胞株に適した発現ベクターの導入法も公知であり、当業者であれば、各選択した宿主細胞に好適な導入法を選択することができる。例えば、原核細胞については、カルシウム処理、エレクトポレーションによる形質転換等が知られている。また、植物細胞については、アグロバクテリウムを用いた方法が公知であり、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示することができる。本発明は特にこれらの方法に限定されるわけではなく、選択した宿主に応じ、その他公知の核マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、DEAE-デキストラン法、細胞融合、電気パルス穿孔法、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法をはじめとする種々の公知の方法により発現ベクターの導入を行うことができる。
【0092】
以上のようにして本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養することにより、本発明の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を有するタンパク質を製造することができる。よって、本発明の好ましい一態様として、本発明の上記形質転換体を培養し、その培養物から前記ポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を回収する工程を含む、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の製造方法が提供される。形質転換体の培養方法は特に限定されず、選択した各宿主細胞の生育に適し、かつ、本発明の酵素の生産に最も適した培地、温度、時間等の条件を選択することが望ましい。
【0093】
光学活性アルコールの製造方法
本発明の第1の光学活性アルコールの製造方法は、前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素のカルボニル化合物の還元によるアルコールの製造方法、特に好ましくは(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造方法である。
【0094】
具体的には、本発明に係る第1の光学活性アルコールの製造方法は、前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を、カルボニル化合物に接触させる工程、および生成される光学活性アルコールを回収する工程を含む。
上記還元反応では、NADHを補酵素として加えることが好ましい。
【0095】
これは、本発明に係る(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素が、NADHを補酵素として、たとえばN−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成するという作用を有するからである。
【0096】
前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の使用形態は、前記酵素分子、その処理物、前記酵素分子を含む培養物、前記酵素を生成する形質転換体等の微生物またはその処理物の形態で使用できる。
前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を生成する形質転換体の微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したもの、高度に精製したもの、各種固定化担体に固定化したものなどが含まれる。
【0097】
このような(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を反応溶液中、カルボニル化合物と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせ、光学活性アルコールを得ることができる。なお、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0098】
反応溶液は、好ましくは、基質や酵素反応に必要な補酵素であるNADHを酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。このような溶媒としては、たとえば、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルエステルなどの有機溶媒、もしくは、水性媒体との2相系、もしくは水に溶解する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシドなどとの混合系が挙げられる。
【0099】
本発明によるアルコールの製造方法におけるカルボニル化合物としては、様々なケトンだけではなく、アルデヒドも含まれる。たとえば、前記カルボニル化合物としては、N−ベンジル−3−ピロリジノン、n−C1−10アルキルケトン、n−C1−10アルキルジケトン、C5−7シクロヘキシルケトン、n−C1−10アルキルアルデヒド、ヒドロキシ−n−C1−6アルキルケトン、フェニル−n−C1−6アルキルケトン、フェニル−C1−6アルキルアルデヒドなどが挙げられる。
【0100】
ここで、n−C1−10アルキルケトンとは、炭素原子数1〜10のn−アルキル化合物の一つの炭素がカルボニル基であるケトンを意味する。n−C1−10アルキルジケトンとは、炭素原子数1〜10のn−アルキル化合物の2つの炭素がカルボニル基であるジケトンを意味する。C5−7シクロヘキシルケトンとは、炭素原子数5〜7のシクロアルキル化合物の一つの炭素がカルボニル基であるケトンを意味する。n−C1−10アルキルアルデヒドとは、炭素原子数1〜10のn−アルキル化合物の末端の炭素がカルボニル基であるアルデヒドを意味する。ヒドロキシ−n−C1−6アルキルケトンとは、炭素原子数1〜6のn−アルキル化合物の一つの炭素がカルボニル基であるケトンであって、水素原子の一つがヒドロキシ基で置換された化合物を意味する。フェニル−n−C1−6アルキルケトンとは、炭素原子数1〜6のn−アルキル化合物の一つの炭素がカルボニル基であるケトンであって、水素原子の一つがフェニル基で置換された化合物を意味する。フェニル−C1−6アルキルアルデヒドとは、炭素原子数1〜6のn−アルキル化合物の末端の炭素がカルボニル基であるアルデヒドであって、水素原子の一つがフェニル基で置換された化合物を意味する。
【0101】
本発明では、カルボニル化合物としては、特に好ましくは、N−ベンジル−3−ピロリジノンであり、この場合、前記酵素による不斉還元により(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを得ることができる。
【0102】
さらに、本発明に係る前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素は、選択的にアルコールを酸化して、ケトンもしくはアルデヒドを製造することもできる。したがって、本発明の第2の光学活性アルコールの製造方法は、前記(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を、光学活性アルコールの混合物に接触させ、いずれかの光学活性アルコールを選択的に酸化し、残存する他方の光学活性アルコールを得る工程を含む。上記酸化反応は、NADの存在下に行うことが好ましい。
【0103】
これは、本発明に係る(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素が、たとえば、NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しないからである。
【0104】
当該第2の光学活性アルコールの製造方法においても、前記と同様の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の使用形態、すなわち、前記酵素分子、その処理物、前記酵素分子を含む培養物、前記酵素を生成する形質転換体等の微生物またはその処理物の形態で使用できる。なお、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0105】
第2の光学活性アルコールの製造方法において、反応溶液は、好ましくは、基質や酵素反応に必要な補酵素であるNADを酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。このような溶媒としては、たとえば、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルエステルなどの有機溶媒、もしくは、水性媒体との2相系、もしくは水に溶解する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシドなどとの混合系が挙げられる。
【0106】
本発明の第2の光学活性アルコールの製造方法におけるアルコールとしては、N−ベンジル−3−ピロリジノールの(R)体、(S)体の任意の比率の混合物などが挙げられ、この場合、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを合成することができる。混合比率(R体:S体)としては、好ましくは1:99〜99:1であり、ラセミ体(50:50)であってもよい。
【0107】
上記還元反応に付随してNADHから生成するNADの、NADHへの再生は、微生物の持つNAD還元能(解糖系、メチロトローフのC1化合物資化経路など)を用いて行うことができる。これらNAD還元能は、反応系にグルコースやエタノール、ギ酸などを添加することにより増強することが可能である。また、NADからNADHを生成する能力を有する微生物やその処理物、酵素を反応系に添加することによっても行うことができる。たとえば、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などを含む微生物、その処理物、ならびに部分精製もしくは精製酵素を用いてNADHの再生を行うことができる。これらのNADH再生に必要な反応を構成する成分は、本発明によるアルコールの製造のための反応系に添加する、固定化したものを添加する、あるいはNADHの交換が可能な膜を介して接触させることができる。
【0108】
上記酸化反応に付随してNAD+から生成するNADHの、NAD+への再生は、微生物の持つNADH酸化能(呼吸活性など)を用いて行うことができる。これらNADH酸化能は、反応液への通気量を増加させることにより増強することが可能である。また、NADHからNADを生成する能力を有する微生物やその処理物、酵素を反応系に添加することによっても行うことができる。たとえば、NADHオキシダーゼ、NADH脱水素酵素などを含む微生物、その処理物、ならびに部分精製もしくは精製酵素を用いてNADの再生を行うことができる。これらのNAD再生に必要な反応を構成する成分は、本発明によるアルコールの製造のための反応系に添加する、固定化したものを添加する、あるいはNADの交換が可能な膜を介して接触させることができる。
【0109】
本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。
【0110】
前記第1または第2の光学活性アルコールの製造方法においては、反応温度が好ましくは4〜60℃、さらに好ましくは15〜37℃、pHが好ましくは4〜11、さらに好ましくはpH5〜9、基質濃度が好ましくは0.01〜90%、さらに好ましくは0.1〜30%で行うことができる。
【0111】
反応系には必要に応じて補酵素NADもしくはNADHを、好ましくは0.001mM〜100mM、さらに好ましくは、0.01〜10mM添加できる。
また、基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。
【0112】
NADH再生のために反応系に添加される化合物、たとえば、グルコース脱水素酵素を利用する場合のグルコース、ギ酸脱水素酵素を利用する場合のギ酸、アルコール脱水素酵素を利用する場合のエタノールもしくはイソプロパノールなどは、基質ケトンに対してモル比で好ましくは0.1〜20、さらに好ましくは1〜5倍過剰に添加することができる。NADH再生用の酵素は、たとえば、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素などは、本発明のNADH依存性カルボニル脱水素酵素に比較して酵素活性で好ましくは0.1〜100倍、さらに好ましくは0.5〜20倍程度添加することができる。
【0113】
NAD再生用の酵素は、たとえば、NADHオキシダーゼ、NADH脱水素酵素などは、本発明の脱水素酵素に比較して酵素活性で好ましくは0.1〜100倍、さらに好ましくは0.5〜20倍程度添加することができる。
【0114】
本発明のケトンの還元により生成する光学活性アルコールの単離精製は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理などによる分離、溶媒抽出、蒸留、晶析などを適当に組み合わせることにより行うことができる。
【0115】
たとえば、得られるアルコールが、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール、あるいは、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールでは、反応液を遠心分離し、たとえば微生物菌体を用いた場合はこれを除いた後、限外濾過によりタンパク質を除去し、その濾液に無機塩基を添加してpHをアルカリ側にした後、酢酸エチル、1−ブタノールなどの溶媒を添加して(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール、あるいは、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを溶媒層に抽出することができる。これを相分離後、減圧濃縮することにより純度の高い(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール、あるいは(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを単離することができる。
【0116】
本発明における「光学活性アルコール」とは、ある光学異性体が別の光学異性体より多く含まれるアルコールをいう。本発明において、好ましい光学活性アルコールは、通常90%ee以上、好ましくは97%ee以上、より好ましくは99%ee以上の光学純度(enantiomeric excess;ee)を有する。光学活性アルコールの光学純度は、たとえば光学分割カラムなどを用いて確認することができる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明における、光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノールおよびN−ベンジルー3−ピロリジノンの分析はキラルセルOB−Hカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより行い、溶離液Hexane/2−propanol=19/1、1 mL/min、40℃の条件で分析した(保持時間;(R)体は6分、(S)体は8分、ケトン体は11分)。
【0118】
実施例中、「BPN」は「N−ベンジル−3−ピロリジノン」を意味し、「SPOB」は「(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール」を意味し、「RPOB」は「(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノール」を意味し、「KPB」は「リン酸緩衝液」を意味する。
【0119】
[実施例1]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の精製)
ジオトリカム・カピテイタム JCM 3908株をYM培地中30℃で培養し、遠心分離により湿菌体を調製した。得られた湿菌体約180gを50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)、1mM 2−メルカプトエタノール(以下、緩衝液Aと略す)−600mLに澱懸し、ビードビーター(Biospec社製) により破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。
この無細胞抽出液には、少なくとも4種類の脱水素酵素が含まれていることが、活性染色により確認できた。
【0120】
この無細胞抽出液に硫安を添加し50%飽和にした後、遠心分離により沈殿を除去した。遠心分離の上清に更に硫安を添加して70%飽和とし、遠心分離により沈殿を回収した。
【0121】
得られた50〜70%飽和硫安沈殿画分を少量の緩衝液Aに溶解し、同緩衝液に対して24時間透析した。透析後の酵素液を遠心分離し、その上清を、緩衝液Aで平衡化したDEAE−トヨパール(2.2cmx20cm)に添加し、緩衝液Aで洗浄した後、0から0.5M塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出し、活性画分を回収した。この活性画分には、少なくとも4種類の脱水素酵素が含まれていることが、活性染色により確認できた。このうち、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性があり、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性が検出できない酵素を、本発明に係る酵素として分画した。
【0122】
濃縮した酵素液を40%硫安飽和とし、40%硫安飽和緩衝液Aで平衡化したブチル−トヨパール(1.6cm×10cm)に添加した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、40%から0%硫安飽和の勾配溶出を行った。溶出した活性画分を回収し、限外濾過により濃縮した。
【0123】
濃縮酵素液を0.1M塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで平衡化したスーパーデックス200(アマシャム・バイオサイエンス製、1.6x60cm)に添加し、同緩衝液で溶出した。
【0124】
溶出した活性画分を濃縮し、10mMリン酸カリウム(pH7.0)−1mM 2−メルカプトエタノールに対して透析した後、同緩衝液で平衡化したヒドロキシアパタイトカラム(バイオラッド製、0.64x3.0cm)に添加し、10mM−500mMリン酸カリウムの勾配溶出を行い、得られた活性画分を精製酵素とした。
【0125】
【表1】

【0126】
[実施例2]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の分子量測定)
実施例1で得られた酵素のサブユニットの分子量をSDS−PAGEにより求めた結果、2本のバンドが得られ、それらの分子量は約41,000、約39,000と算出された(図1)。また、スーパーデックスG200のゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約78,000であった。41kDaと39kDaのサブユニットからなるヘテロダイマーの可能性もあるが、39kDaのバンドが41kDaのバンドに比較して薄いことから39kDaのバンドは41kDaのタンパク質が一部プロテアーゼなどによる分解を受けた可能性が高い。
【0127】
[実施例3]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の至適pH )
McIIvaine緩衝液、2−(N−Morpholino)ethanesulfonic acid(MES)−水酸化ナトリウム緩衝液、2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)−水酸化ナトリウム緩衝液、Tris(hydroxymethyl)aminomethane(Tris)−塩酸緩衝液を用いてpHを変化させて、実施例1で得られた酵素のN−ベンジル−3−ピロリジノン還元活性を調べ、最大活性を100とした相対活性で表し、図2に示した。反応の至適pHは7.0であり、6.0〜7.0の範囲で最大活性の80%以上を有していた。
【0128】
[実施例4]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の作用至適温度)
実施例1で得られた酵素を標準反応条件のうち温度だけを変化させてN−ベンジル−3−ピロリジノン還元活性を測定し、最大活性を100とした相対活性で表し、図3に示した。至適温度は30℃であり、25−40℃の範囲で最大活性の80%以上を有していた。
【0129】
[実施例5]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の温度安定性)
実施例1で得られた酵素をpH8.0で20分間放置した後、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を測定した。結果は、未処理の活性を100とした残存活性で表し、図4に示した。本発明による(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素は、50℃まで80%以上の残存活性を有していた。
【0130】
[実施例6]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の補酵素特異性)
実施例1で得られた酵素のN−ベンジル−3−ピロリジノンに対する還元活性をNADH、NADPHを用いて測定した結果、NADHでのみ活性を発現し、NADPHでは活性を有しなかった。
【0131】
[実施例7]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の補酵素特異性)
実施例1で得られた酵素の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに対する酸化活性をNAD、NADPを用いて測定した結果、NADでのみ活性を発現し、NADPでは活性を有しなかった。
【0132】
[実施例8]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の還元反応の基質特異性)
実施例1で得られた酵素を種々のカルボニル化合物10mMと反応させ、その還元活性を測定した。結果は、NADHを補酵素としたN−ベンジル−3−ピロリジノン還元活性を100とした相対活性で表し、表2に示した。
【0133】
【表2】

【0134】
[実施例9]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の酸化反応の基質特異性)
実施例1で得られた酵素を種々のアルコール化合物10mMと反応させ、その酸化活性を測定した。結果は、NADを補酵素とした(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール酸化活性を100とした相対活性で表し、表3に示した。
【表3】

【0135】
[実施例10]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の反応速度定数)
実施例1で得られた酵素を用いて、脱水素反応における(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール、NAD、還元反応におけるN−ベンジル−3−ピロリジノン、NADHに対するKm値をLineweaver−Burk plotにより求めた結果、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに対して8.47mM、NADに対して0.79mM、N−ベンジル−3−ピロリジノンに対して0.13mM、NADHに対して0.87mMであった。
【0136】
[実施例11]((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の各種試薬に対する挙動)
種々の試薬中で25℃、3分間処理した後、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素活性を測定し、試薬を含まない条件で30℃、3分間処理した後の残存活性を100とした残存活性で表し、表4に示した。本発明による(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素は、パラクロロ水銀安息香酸 (PCMB)、o−フェナンスロリン、2,2’−ジピリジル、塩化銅、塩化水銀、硫酸亜鉛、塩化ニッケルによって顕著に阻害され、エチレンジアミン4酢酸 (EDTA)では阻害されなかった。
【0137】
【表4】

【0138】
[実施例12] ((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素による(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造)
実施例1で得られた精製酵素を用いて10mM N−ベンジル−3−ピロリジノンを含む、100mMリン酸カリ緩衝液(pH6.5)、1mM NADH、1U/mLグルコース脱水素酵素、20mMD−グルコースを含む試験管中で25℃で4時間反応させた。得られたN−ベンジル−3−ピロリジノールは収率90%であり、立体構造は(S)体であり、光学純度は98%ee以上であることが確認できた。
【0139】
[実施例13] ((S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素による(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造)
実施例1で得られた精製酵素を用いて、ラセミ体の10mM N−ベンジル−3−ピロリジノールを含む、100mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)、1mM NAD、NADHオキシダーゼ(1U/mL)を含む試験管中で25℃で4時間反応させた。得られたN−ベンジル−3−ピロリジノールは収率45%であり、立体構造は(R)体であり、光学純度は98%ee以上であることが確認できた。
【0140】
[実施例14]Geotrichum capitatumからの染色体DNAの調整
Geotrichum capitatumを5 mLの酵母用培地(2% グルコース、0.5% ポリペプトン、0.3% 酵母エキス、0.3% 麦芽エキス:pH6.0)で一晩30℃、300spmで培養した。遠心分離で集菌し、滅菌超純水で洗浄した。これにSolution A(1% SDS、2% Triton X-100、1mM EDTA、10mM Tris-HCl pH8.0)を200 μL加えて懸濁した。この懸濁液にフェノール/クロロホルム(1:1)を200 μL、ガラスビーズ(直径0.5mm)を0.3gを加え、5分間ボルテックスミキサーで撹拌した。次にTE緩衝液を200 μL加え室温で16000×gの遠心分離を10分行った。上清をエッペンドルフチューブに移し、フェノールクロロホルム処理後、エタノール沈殿をしてTEバッファーに溶解し、染色体DNAを調製した。
【0141】
[実施例15]
実施例1で得た精製酵素のSDS-PAGEの結果、2本のバンドが得られ、それらの分子量は約41,000、約39,000と算出された。これらのバンドを切り取り、プロテアーゼにより分解後、それぞれのバンド由来の断片について内部アミノ酸配列を決定した。約41,000の分子量のバンドからはAFGSYVIAVDP(配列番号:3)、ITFDLNHLAF(配列番号:4)、約39,000の分子量のバンドからはFGSYVIAVDP(配列番号:5)、LIVPVGLQ(配列番号:6)と内部配列が決定された。この結果から、分子量約39,000のサブユニットは分子量約41,000のサブユニットが分解を受けたものである可能性が高い。
【0142】
配列番号:3と配列番号:4の2つのアミノ酸配列を元に以下に示す6つのdegenerate primerを作製した。
【0143】
GcSADH-AS1 TTYGGNAGYTAYGTNATHGCNGT(配列番号:7)
GcSADH-AS2 TTYGGNTCNTAYGTNATHGCNGT(配列番号:8)
GcSADH-BA AANGCNARRTGRTTNARRTCRAA(配列番号:9)
GcSADH-AA1 TGNCGHTANTGYATYGANGGYTT(配列番号:10)
GcSADH-AA2 TGNCGHTANTGYATNCTNGGYTT(配列番号:11)
GcSADH-BS TGNAARCTRRANTTRGTRRANCGNAA(配列番号:12)
【0144】
これらのプライマーを用い、染色体DNAを鋳型として以下の条件でPCRを行った。染色体DNA<200ng、各プライマー5μM、dNTP各0.2mM、ExTaq(タカラバイオ製)0.5U, ExTaq用緩衝液を含む20μlの反応液を用いPCRを行った。アニーリング温度は55℃、PCR条件は94℃で3分の熱処理後、94℃で1分、55℃で1分、72℃で2分を30サイクル行い、最後に72℃で3分保持した。
【0145】
その結果、配列番号:3が配列番号:4のN末側にあると仮定した条件でPCRを行った時、ネガティブコントロールでは見られない約250 bpのバンドが確認できた。
得られたバンドを分離精製後、TAクローニングによってpCR2.1-TOPO(Invitrogen製)に挿入し、挿入DNA断片の塩基配列を解析した。得られたコア領域(プライマー部位を除く)は196bpからなり、DNA配列を以下に示した。
【0146】
コア領域の塩基配列(配列番号:13)
CGATCCAAAGGAATCTTCCCGTGACCTTGCTAAGCAATACGGTGCCAACGAAGTTTACGCCAAACTCCCAGAAGAATCTCTCGACGTCGACGTTGCTGCTGATTTCTACGGTTCCCAAGGTACCTTTGACTTGTGCCAAAAGCACGTCAAGGCCCAAGGTATTCTTCTCCCAGTCGGTCTCCAAGATCCAAAGATC
【0147】
[実施例16](S)-N-ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素をコードする遺伝子コア領域の5’-隣接領域のクローニング
コア領域の5’-隣接領域の遺伝子クローニングをTAKARA LA PCR In vitro Cloning Kit (タカラバイオ製)を用いて行った。
コア領域の配列から以下のプライマーを作製した。
【0148】
GcSADH-UP1 AAGTCAAAGGTACCTTGGGAAC(配列番号:14)
GcSADH-UP2 AGTTTGGCGTAAACTTCGTTG(配列番号:15)
【0149】
染色体DNAを制限酵素XbaIで消化し、キット添付のXbaIカセットとライゲーションした。得られたDNAを鋳型としてキット添付のカセットプライマーC1とプライマー GcSADH-UP1を用いて以下の条件でPCRを行った。ライゲーションDNA 1μL、各プライマー0.2μM、dNTP各0.2mM、LATaq(タカラバイオ製)2.5U、LA Taq用緩衝液を含む50μlの反応液を用い、94℃で3分の熱処理後94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で4分を30サイクル行った。
【0150】
プライマーC1 GTACATATTGTCGTTAGAACGCGTAATACGACTCA(配列番号:16)
【0151】
増幅された約2000bpのDNA断片を鋳型にしてNested PCRを行った。PCRプライマーはキット添付のカセットプライマーC2とプライマーGcSADH-UP2を用い、PCR条件はLA Taqの上記条件で行った。
【0152】
プライマーC2 CGTTAGAACGCGTAATACGACTCACTATAGGGAGA(配列番号:17)
【0153】
約2000bpのDNA断片が増幅され、挿入DNAの塩基配列をプライマーGcSADH-UP2を用いて解析した。
【0154】
[実施例17](S)-N-ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素をコードする遺伝子コア領域の3’-隣接領域のクローニング
(S)-N-ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素をコードする遺伝子コア領域の3’-隣接領域のクローニングを5’-隣接領域のクローニングと同様にTAKARA LA PCR In vitro Cloning Kit (タカラバイオ製)を用いて行った。
コア領域の配列から以下のプライマーを作製した。
【0155】
GcSADH-DN1 AACGAAGTTTACGCCAAACTC(配列番号:18)
GcSADH-DN2 GTTCCCAAGGTACCTTTGAC(配列番号:19)
【0156】
染色体DNAを制限酵素EcoRIで消化し、キット添付のEcoRIカセットとライゲーションした。得られたDNAを鋳型としてキット添付のカセットプライマーC1とプライマーGcSADH-DN1を用いて同様にPCRを行った。
【0157】
増幅された約400bpのDNA断片を鋳型にしてNested PCRを行った。PCRプライマーはキット添付のカセットプライマーC2とプライマーGcSADH-DN2を用い、PCR条件はLA Taqの上記条件で行った。
【0158】
約400bpのDNA断片が増幅され、挿入DNAの塩基配列を解析した。コア領域及び3’-、5’-隣接領域をアッセンブルした結果、(S)-N-ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素の全オープンリーディングフレーム(ORF)が明らかになった。
得られたORFの塩基配列を配列番号:1に示した。ORFは1023 bpからなり、340アミノ酸残基からなる36,000 Daの蛋白質をコードしていた。
【0159】
(S)-N -ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素のORFの塩基配列(配列番号:1)
ATGGCCGAAATCCCCGAAAAGCAAACCGCCTTTGTCTTCAAGAACGGATCCTTTGCATTGGAAAAGAAGGAAATCGAAGTTCCTAAACCAGATGCTGGCAAAGTTCTCTTAAAGGTCGCCGCCGCTGGTGTCTGCCACTCAGATCTCCACGTCCTCCACGGAGGTCTCCCATACCCAGACGGTCTCATTTTGGGACACGAAATTGCTGGTCACATTGTCGCTTACGGTGACGGTGTCGACAAGGCCGCTTTCCCATCAGACGCTCTCTACGCTGTTGTCGGACCAAATCCATGCGGTATGTGCAAGGCATGCCGAACTGGCGCTGACAATGTCTGTGAAGACCCCTCCCGTACTCACATGGGTCTCGGTTCCCCAGGTGGATACGAACAATACACACAAGTCTCAGCACGCAATATTACCAAAGTACCAGAAGGTATTCCAGCAGCTGTAGCCGCTGCCTCTACTGACGCAGTTCTTACTCCATACCACGCTCTCAAGCGTGCCGGTATTAACGGTATGACCAGACTCTTGATTGTTGGTCTCGGAGGTCTCGGTATCAACGCCGTTCAAATTGCAAAGGCTTTTGGCAGTTACGTCATTGCTGTCGATCCAAAGGAATCTTCCCGTGACCTTGCTAAGCAATACGGTGCCAACGAAGTTTACGCCAAACTCCCAGAAGAATCTCTCGACGTCGACGTTGCTGCTGATTTCTACGGTTCCCAAGGTACCTTTGACTTGTGCCAAAAGCACGTCAAGGCCCAAGGTATTCTTCTCCCAGTCGGTCTCCAAGATCCAAAGATCACTTTTGACTTGAACCACCTTGCTTTCAGAGAATACACAATCATTGGTAACTTCTGGGGTACTTCCCAAGATCAAACTGAAGTCTTTGAATTGGTCAAGAAGGGATTGGNCACTCCACAAGTCGAAACCACTTCTTGGTTGAACGTTAACAAGGTTCTTAAGGATTTGGATGAAGGAAAGATCAAATCTCGTATGGTTTTGGTCCACAATGAAGATAACTAA
【0160】
得られた塩基配列から予想されるアミノ酸配列を配列番号:2に示した。
【0161】
(S)-N -ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素の予想アミノ酸配列(配列番号:2)
MAEIPEKQTAFVFKNGSFALEKKEIEVPKPDAGKVLLKVAAAGVCHSDLHVLHGGLPYPDGLILGHEIAGHIVAYGDGVDKAAFPSDALYAVVGPNPCGMCKACRTGADNVCEDPSRTHMGLGSPGGYEQYTQVSARNITKVPEGIPAAVAAASTDAVLTPYHALKRAGINGMTRLLIVGLGGLGINAVQIAKAFGSYVIAVDPKESSRDLAKQYGANEVYAKLPEESLDVDVAADFYGSQGTFDLCQKHVKAQGILLPVGLQDPKITFDLNHLAFREYTIIGNFWGTSQDQTEVFELVKKGLXTPQVETTSWLNVNKVLKDLDEGKIKSRMVLVHNEDN
【0162】
得られたアミノ酸配列をBLASTを用いて検索した結果、最も高い同一性が得られたのは、Candida parapsilosis 由来の secondary alcohol dehydrogenase (AC= O42703)の45% 同一性であり、50%を超える同一性を有する遺伝子は見られず、新規な遺伝子であることが分かった。
【0163】
[実施例18] (S)-N-ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素とグルコース脱水素酵素を共発現するプラスミドの構築
【0164】
バシラス・サブチリス由来のグルコース脱水素酵素遺伝子と(S)-N-ベンジル-3-ピロリジノール脱水素酵素遺伝子とを共発現するプラスミドpSG-POBSの構築を行った。PCRプライマーとして、以下を作製した。
【0165】
GcSADH-ATG1 CATGCCATGGCCGAAATCCCC(配列番号:20)
GcSADH-TAA1 GCTCTAGATTAGTTATCTTCATTGTGGACCAAAA(配列番号:21)
【0166】
以下の条件でPCRを行った。染色体DNA<200ng、各プライマー5μM、dNTP各0.2mM、ExTaq(タカラバイオ製)0.5U, ExTaq用緩衝液を含む20μlの反応液を用い94℃で3分の熱処理後94℃で1分、55℃で1分、72℃で2分を30サイクル行った。得られた増幅DNA断片を制限酵素NcoI及びXbaIで二重消化し、制限酵素NcoI及びXbaIで二重消化したpSE−BSG1(特願2000-374593)とライゲーションしてpSG-POBLを構築した。
【0167】
酵素活性の測定
得られたプラスミド pSG-POBS により大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体をアンピシリンを含む5 mLの LB培地中でOD660=0.5(約6時間)まで培養し、IPTGを0.1 mMとなるように加え、更に3時間培養後に集菌した。得られた菌体を50 mM KPB (pH 7.0) で洗浄後、1.2 mLの同緩衝液に懸濁し、マルチビーズショッカー(YASUI KIKAI)で菌体を破砕(beads 0.5mm、2700rpm ON:30s OFF:30s 15times)後、遠心上澄(15,000 rpm、30min)を無細胞抽出液とした。
タンパク質濃度の測定にはBradford法(BIO-RAD)を用い、BSAを検量線の作成に用いた。
【0168】
BPN還元活性測定条件
50 mM KPB (pH 6.0), 3 mM N-benzyl-3-pyrrolidinone, 0.2 mM NADH 25℃
【0169】
RPOBおよびSPOB酸化活性測定条件
50 mM KPB (pH 8.0), 10 mM (R) もしくは (S)-N-benzyl-3-pyrrolidinol, 2 mM NAD+ 25℃
【0170】
無細胞抽出液の酵素活性は、NADH依存的な還元活性が 0.71 U/mg 検出されたが、NADPH 依存的な還元活性は検出されなかった。また、NAD+依存性の酸化活性では(S)体に対して 0.37 U/mg の活性が検出されたが、(R)体に対する活性は検出されなかった。また、同時にコントロールとして行った グルコース脱水素酵素遺伝子のみを含むプラスミド pSE-BSG1で形質転換された大腸菌では、NADH依存性の還元活性、NAD+依存性の(S)体酸化活性共に検出されなかった。
【0171】
[実施例19] 単独発現プラスミド (pSE-POBS) の構築
プライマー GcSADH-ATG1, GcSADH-TAA1を用い、pSG-POBS構築と同様にPCRを行った。得られた増幅DNA断片を制限酵素NcoI及びXbaIで二重消化し、制限酵素NcoI及びXbaIで二重消化したpSE420DとライゲーションしてpSE-POBSを構築した。
【0172】
[実施例20] ギ酸脱水素酵素との共発現プラスミド (pSF-POBS) の構築
プライマー GcSADH-ATG2, GcSADH-TAA2を用い、以下の条件でPCRを行った。染色体DNA 200 ng、各プライマー5μM、dNTP各0.2 mM、ExTaq(タカラバイオ製) 0.5 U, ExTaq用緩衝液を含む20μlの反応液を用い94℃ 3分の熱処理後94℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 2分を30サイクル行った。得られた増幅DNA断片を制限酵素EcoRI及びHindIIIで二重消化し、制限酵素EcoRI及びHindIIIで二重消化したpSE-MF26とライゲーションしてpSF-POBSを構築した。
【0173】
GcSADH-ATG2: ACCGGAATTCTAAAATGGCCGAAATCCCC(配列番号:22)
GcSADH-TAA2: GGCCCAAGCTTATTTAGTTATCTTCATTGTGGACC(配列番号:23)
【0174】
[実施例21] 組換え大腸菌の調製
それぞれの形質転換体を5 mL アンピシリン含有LB培地で37 ℃、150 rpmで一晩振盪培養した。この培養液500μlを500 mLのアンピシリン含有LB培地に接種し、660nmの吸光度が0.5になるまで培養した後、0.1 mM IPTGを加え、更に3時間培養後集菌した。
【0175】
[実施例22] pSE-POBSを含有する組換え大腸菌を用いた不斉還元反応
BPNを不斉還元してSPOBを生成する菌体反応は次の条件で行った。30 mM BPN、50 mM グルコース、菌体10mg (乾燥菌体重量)、50mM KPB (pH 7.0) を含む1 mLの反応液を30 ℃, 300 spmで振盪した。pSE-POBSによるBPNの還元の結果を図5に示す。
【0176】
[実施例23] pSG-POBSを含有する組換え大腸菌を用いた不斉還元反応
BPNを不斉還元してSPOBを生成する菌体反応は次の条件で行った。30 mM BPN、50 mM グルコース、菌体10mg (乾燥菌体重量)、50mM KPB (pH 7.0) を含む1 mLの反応液を30 ℃, 300 spmで振盪した。pSG-POBSによるBPNの還元の結果を図6に示す。
【0177】
[実施例24] pSF-POBSを含有する組換え大腸菌を用いた不斉還元反応
BPNを不斉還元してSPOBを生成する菌体反応は次の条件で行った。30 mM BPN、50 mMギ酸ナトリウム、菌体10mg (乾燥菌体重量)、50mM KPB (pH 7.0) を含む1 mLの反応液を30 ℃, 300 spmで振盪した。pSF-POBSによるBPNの還元の結果を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、立体選択性の高い(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素、該酵素をコードするポリヌクレオチドを提供するとともに、これを利用した光学活性アルコール、たとえば環状アルコールの生産、特に、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの効率のよい生産が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】図1は、ジオトリカム・カピテイタムに由来する本発明の酵素のSDS−PAGEにより測定した分子量のパタンを示す写真である。1のレーンはマーカータンパク質を示し、2のレーンは精製した酵素を示す。
【図2】図2は、本発明の酵素のN−ベンジル−3−ピロリジノン還元活性のpH依存性を、最大活性を100とした相対活性で示すグラフである。黒三角はMcIIvaine緩衝液、白四角はMES−NaOH緩衝液、白三角はHEPES−NaOH、黒四角はTris−HCl緩衝液を用いた場合を示す。
【図3】図3は、本発明の酵素のN−ベンジル−3−ピロリジノン還元活性の作用至適温度を、最大活性を100とした相対活性で示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の酵素の温度安定性(残存活性)を、最大活性を100とした相対活性で示すグラフである。
【図5】図5は、pSE-POBSによるBPN還元の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、pSG-POBSによるBPN還元の結果を示すグラフである。
【図7】図7は、pSF-POBSによるBPN還元の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)から(4)に示す理化学的性質を有する、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素;
(1)作用
NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。
(2)補酵素特異性
酸化反応の補酵素としてNADを利用し、NADPを実質的に利用しない。還元反応の補酵素としてNADHを利用し、NADPHを実質的に利用しない。
(3)基質特異性
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには作用するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しない。エタノール、グリセロールには実質的に作用しない。シクロヘキサノンに対する還元活性が、2−ヘキサノンに対する還元活性よりも高い。
(4)分子量
ゲル濾過における分子量が78,000であり、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)における分子量が39,000〜41,000である。
【請求項2】
さらに次の(5)、(6)に示す理化学的性質を有する、請求項1に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素;
(5)最適pH
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適pHが6.0〜7.0である。
(6)最適温度
N−ベンジル−3−ピロリジノン還元反応の最適温度が25〜40℃である。
【請求項3】
ジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物が生産する酵素である、請求項1又は2に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。
【請求項4】
前記ジオトリカム属に属する微生物が、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)であることを特徴とする、請求項3に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。
【請求項5】
下記(a)-(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a) 配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(c) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;および
(e) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、かつ下記(1)-(3)に記載の理化学的性質を有する(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をコードするポリヌクレオチド;
(1)作用
NADを補酵素として、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールに作用し、N−ベンジル−3−ピロリジノンを生成する。NADHを補酵素として、N−ベンジル−3−ピロリジノンに作用し、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールを生成する。
(2)補酵素特異性
酸化反応の補酵素としてNADを利用し、NADPを実質的に利用しない。還元反応の補酵素としてNADHを利用し、NADPHを実質的に利用しない。
(3)基質特異性
(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには作用するが、(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールには実質的に作用しない。エタノール、グリセロールには実質的に作用しない。シクロヘキサノンに対する還元活性が、2−ヘキサノンに対する還元活性よりも高い。
【請求項6】
ジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物由来である請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記ジオトリカム属に属する微生物が、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)である請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項5に記載のポリヌクレオチドによってコードされる(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素。
【請求項9】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項10】
請求項5に記載のポリヌクレオチド、または請求項5に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを導入された形質転換細胞。
【請求項11】
請求項1〜4、8のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を生産するジオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物を培養して、請求項1〜4、8のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を回収することを含む、(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の製造方法。
【請求項12】
前記ジオトリカム属に属する微生物が、ジオトリカム・カピテイタム(Geotrichum capitatum)であることを特徴とする、請求項11に記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素の製造方法。
【請求項13】
請求項5に記載のポリヌクレオチド、または請求項5に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを導入された形質転換細胞を培養し、その培養物から請求項5に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質を回収する工程を含む、請求項5に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜4、8のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素をカルボニル化合物に接触させる工程、および生成される光学活性アルコールを回収する工程を含む、光学活性アルコールの製造方法。
【請求項15】
前記カルボニル化合物が、N−ベンジル−3−ピロリジノンであり、光学活性アルコールが(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールである、請求項14に記載の光学活性アルコールの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜4、8のいずれかに記載の(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノール脱水素酵素を、光学活性アルコールの混合物に接触させ、いずれかの光学活性アルコールを選択的に酸化し、残存する他方の光学活性アルコールを得る工程を含む、光学活性アルコールの製造方法。
【請求項17】
前記光学活性アルコールの混合物が(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノール及び(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの任意の比率の混合物であり、残存する他方の光学活性アルコールが(R)−N−ベンジル−3−ピロリジノールである、請求項16に記載の光学活性アルコールの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−109922(P2008−109922A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27487(P2007−27487)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】