説明

新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物および該化合物を用いた不斉合成

【課題】
高い活性を有し、高い光学収率を与える光学活性な新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物および該化合物を用いた不斉合成反応を提供することにある。
【解決手段】
次式



(Rは、水素、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる基である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。RおよびRは、フェニル基およびシクロヘキシル基であり、同一でも異なっていてもよい。)
で示され、(S)−体である、新規な光学活性N,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシッフ塩基配位子化合物に関する。より詳しくはN,N,P−三座のシッフ塩基配位子化合物であり、該化合物およびニッケル化合物ならびに銅化合物の存在下、2−シクロアルケン−1−オンとジアルキル亜鉛とから高エナンチオ選択的な(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オンを製造することができる。
高エナンチオ選択的な(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オンは、例えば、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性なビナフトールから誘導された光学活性なホスホロアミダイト配位子と銅トリフラートからなる錯体の存在下、2−シクロへキセノンとジエチル亜鉛とが円滑に反応して、高選択的に光学活性な(S)−3−アルキルシクロヘキサノンを与えることが見出されている。(非特許文献1)
これらの配位子では、不斉収率は98% eeと満足出来るものではあるが、銅塩(2mol%)や配位子(4mol%)の使用量が多く、反応温度も−30℃と低い温度で不斉合成しなければならない。
あるいは、次式で示されるN,N,P−三座配位子と銅錯体の存在下、2−シクロへキセノンとジエチル亜鉛とが円滑に反応して、高選択的に光学活性な(S)−3−アルキルシクロヘキサノンを与えることも見出されている。(非特許文献2)
【0003】
【化1】


(ここで、Rは水素またはメチル基)
【0004】
しかしながら、これらの配位子では、不斉収率が72〜92% eeと十分に満足できるものではない。
また、ピリジン骨格にシッフ塩基を備えたN,N,P−三座のシッフ塩基配位子化合物と銅錯体の存在下、2−シクロへキセノンとジエチル亜鉛とを反応させて、高選択的に光学活性な(S)−3−アルキルシクロヘキサノンを与えることも見出されている。(非特許文献3)
しかしながら、これらの配位子でも、不斉収率が高くて91% ee止まりであり、十分に満足できるものではなく、反応で使用する銅錯体量や配位子量も多い。
【0005】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1997,36,2620
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1999,38,3518
【非特許文献3】Tetrahedron Lett. 2000,41,10025
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、高い活性を有し、高い光学収率を与える光学活性で新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物および該化合物を用いた不斉合成反応を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、一般式(1)
【0008】
【化2】

(Rは、水素、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる基である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。RおよびRはフェニル基およびシクロヘキシル基であり、同一でも異なっていてもよい。)
で示され、(S)−体である、光学活性で新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物である。
【0009】
さらには、該化合物とニッケル化合物ならびに銅化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物の存在下、2−シクロアルケン−1−オンとジアルキル亜鉛を反応させて高エナンチオ選択的な(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オンを得る製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、光学活性で新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物並びに該化合物を用いた、光学純度が高い(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オン化合物を高活性かつ高収率で得る製法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物は、下記一般式(1)で示され、(S)−体である。
【0012】
【化3】

(Rは、水素、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる基である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。RおよびRはフェニル基およびシクロヘキシル基であり、同一でも異なっていてもよい。)
【0013】
は、水素、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる基であるが、具体的には水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基およびフェニル基が挙げられ、構造異性体も含まれる。好ましくは、水素、メチル基、フェニル基である。より好ましくは水素である。
は、炭素数1〜6のアルキル基であるが、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基(i−プロピル基またはi−Prと略記することもある。)、ターシャリーブチル基(t−ブチル基またはt−Buと略記することもある。)、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、構造異性体も含まれる。好ましいRは、エチル基,i−プロピル基、t-ブチル基が挙げられ、より好ましくは、i−プロピル基およびt−ブチル基である。
およびRは、フェニル基およびシクロへキシル基が挙げられ、同一でも異なっていても何ら問題はない。好ましくは、少なくとも1つはフェニル基を含むものであり、より好ましくはRおよびRがともにフェニル基の場合である。
【0014】
以下に、Rが水素、Rがi−プロピル基であり、RおよびRがフェニル基であるN,N,P−三座シッフ塩基配位子の合成方法を次式に示した。
なお、Rがt−ブチル基の場合も本製法に準じて合成することができる。
【0015】
【化4】

【0016】
以下、上記反応式を簡単に説明する。
(第一ステップ)
光学活性であるバリン((S)−バリン)1当量を、濃硫酸およびジエチルエーテル溶媒(体積比=1:2)に添加し、水素化ホウ素ナトリウム(またはテトラヒドロホウ酸ナトリウム)2.8当量を加えて、0℃で24時間反応させ、(S)−バリノール(化合物(2))が54%の収率で得られた。
得られた化合物(2)の光学活性は保たれていた。
なお、(S)−バリノールは、市販されており、市販品をそのまま使用しても何ら問題はない。
【0017】
(第二ステップ)
次に、1当量の化合物(2)に対して、2.2当量のp−TsCl(p−トルエンスルホニルクロリド)をピリジン溶媒(化合物(2)1gあたり5ml)に加えて、0〜25℃(室温)で24時間攪拌し、水酸基およびアミノ基をトシル基(Ts基)で保護した化合物(3)を74%の収率で得た。
【0018】
(第三ステップ)
得られた化合物(3)をベンゼン(化合物(3)1mmolあたり5ml)に溶解させ、20%の水酸化カリウムを体積でベンゼンの半量加えて室温下(およそ25℃)で2時間攪拌反応させた。その結果、環化反応が定量的に進行し、化合物(4)が99%以上の収率で得られた。
【0019】
(第四ステップ)
化合物(4)をテトラヒドロフラン(化合物(4)1mmolあたり2ml)に溶解させ、1当量のカリウムジフェニルホスフィド(0.5Mテトラヒドロフラン溶液)を加えて室温下(およそ25℃)で2時間攪拌し、開環反応させて化合物(5)を80%の収率で得た。
【0020】
(第五ステップ)
得られた化合物(5)は、濃硫酸(化合物(5)1mmolあたり6ml)に添加して100℃で5時間反応させてアミン化合物(6)を88%の収率で得た。
【0021】
(第六ステップ)
得られたアミン化合物(6)と当量の化合物(7)である2−キノリンカルバルデヒド(2−Quinolinecarbaldehyde)を共にベンゼン(化合物(6)1mmolあたり10ml)に溶解させ、脱水剤として無水の硫酸ナトリウムを加え、室温下(およそ25℃)で6時間攪拌しながら反応させた。その結果、新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物(8)が54%の収率で得られた。
【0022】
この場合の化合物は、一般式(1)では、R=水素、R=i−プロピル基、R=R=フェニル基に相当する。
得られた化合物の元素分析値は、以下の通りであった。
C:78.79、H:6.63およびN:6.85
なお、上記配位子(化合物(8))の分子量をC2727Pとして計算すると、その値は
C:79.00、H:6.63およびN:6.82となり、一致することが確認できた。
【0023】
その他の光学活性を有する新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物は、上記の各ステップの方法に準じて合成することができる。
たとえば、第一ステップにおいて(S)−バリンのi−プロピル基の代わりに、t−ブチル基を有する(S)−t−ロイシンを用いた場合では、i−プロピル基の代わりにt−ブチル基の配位子化合物が得られる。
【0024】
ケトイミン型の配位子は、第六ステップの2−キノリンカルバルデヒドをケトン型のキノリン化合物に変えて使用すればよい。具体的な化合物は、前述したRが炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基を有するケトン型のキノリン化合物が挙げられる。
【0025】
本発明で使用する2−シクロアルケン−1−オンは一般式(2)で示される構造式の化合物であり、nの値は1〜8までの整数を表す。
【0026】
【化5】

具体的には、2−シクロペンテン−1−オン、2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロヘプテン−1−オン、2−シクロオクテン−1−オン、2−シクロノネン−1−オン、2−シクロデセン−1−オン、2−シクロウンデセン−1−オン、2−シクロドデセン−1−オンが挙げられる。
好ましくは、2−シクロペンテン−1−オン、2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロヘプテン−1−オン、2−シクロオクテン−1−オン、2−シクロドデセン−1−オンが挙げられ、より好ましくは2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロペンテン−1−オン、2−シクロヘプテン−1−オンが挙げられ、さらに好ましくは2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロペンテン−1−オンであり、最も好ましくは2−シクロヘキセン−1−オンである。
本発明で使用する2−シクロアルケン−1−オンは、市販品をそのまま使用しても何ら問題はないが、脱水操作を施したものを使用するのが好ましい。
脱水操作としては、通常の方法が使用される。
具体的には、モレキュラシーブと接触させる方法や、無水の無機塩(例えば硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム)を添加後、蒸留あるいは、ろ過する方法、さらには脱水剤を添加後、精密蒸留する方法が挙げられる。
【0027】
本発明の不斉合成反応において使用するジアルキル亜鉛は、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基を有する亜鉛化合物が挙げられる。好ましくはジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛およびジブチル亜鉛が挙げられ、より好ましくはジメチル亜鉛およびジエチル亜鉛である。
【0028】
前記ジアルキル亜鉛の使用量は、特に制限はないが、2−シクロアルケン−1−オン1モルに対して、好ましくは0.9〜3モル、より好ましくは1〜2モルであり、さらに好ましくは1.1〜1.8モルである。
【0029】
本発明で使用する金属化合物、すなわち、ニッケル化合物ならびに銅化合物は、特に制限はなく、通常のニッケル化合物と銅化合物が用いられる。好ましくは銅化合物である。 具体的な銅化合物としては、[(CuOTf)・C]、[Cu(CHCN)]BF、CuTC、Cu(OAc)、CuCl、CuBr、CuBr・MeS、CuCN、CuSPh、[Cu(CHCN)]PF、[(CuOTf)・toluene]、CuIなどの銅1価化合物、Cu(OTf)、Cu(OAc)、Cu(OAc)・HO、CuCl、CuBr、CuSO・5H0、Cu(ClO・6H0、Cu(BF・6HO、Cu(SbF、Cu(trifluoroacetonylacetate)、Cu(cyclohexanebutyrate)、Cu(2−ethylhexanoate)、Cu(acac)、Cu(naphthenate)などの銅2価化合物が挙げられる。
具体的なニッケル化合物としては、Ni(OTf)、Ni(OAc)、Ni(OAc)・HO、NiCl、NiBr、NiSO・5H0、Ni(ClO・6H0、Ni(BF・6HO、Ni(SbF、Ni(trifluoroacetonylacetate)、Ni(cyclohexanebutyrate)、Ni(2−ethylhexanoate)、Ni(acac)、Ni(naphthenate)などのニッケル2価化合物が挙げられる。
好ましい化合物は、Ni(acac)およびCu(OTf)、[Cu(OTf)・C]、CuTC、Cu(naphthenate)であり、さらに好ましくは、Cu(OTf)である。なお、上記のニッケル化合物ならびに銅化合物は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
また、配位子の略号は、以下のとおりである。
OTf:trifluoromethanesulfonate
TC:thiophene−2−carboxylate
acac:acetylacetonato
【0030】
金属化合物(すなわち、ニッケル化合物ならびに銅化合物)の使用量は、2−シクロアルケン−1−オン1モルに対して、特に制限はないが、好ましくは0.01モル%〜10モル%であり、より好ましくは0.01モル%〜3モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%〜1モル%であり、最も好ましくは0.15モル%〜0.8モル%である。
【0031】
一般式(1)の新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物の使用量は、金属化合物1モルに対して、特に制限はないが、好ましくは0.8倍モル〜5倍モル、より好ましくは0.9倍モル〜4倍モルであり、さらに好ましくは1倍モル〜3倍モルである。
【0032】
本発明の不斉合成反応は、溶媒の存在下又は非存在下において行われるが、溶媒を使用する場合には、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類(分岐状及び環状のものも含む);塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素類(分岐状及び環状のものも含む);ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはハロゲン化脂肪族炭化水素類およびハロゲン化芳香族炭化水素類が使用される。さらに好ましくはハロゲン化脂肪族炭化水素類である。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0033】
前記溶媒の使用量は、反応の均一性や攪拌性により適宜調節するが、2−シクロアルケン−1−オン1gに対して、好ましくは10〜100g、更に好ましくは15〜60gである。
【0034】
本発明の反応温度は、特に限定はされないが、好ましくは−50〜30℃、更に好ましくは−40〜20℃、特に好ましくは−25〜10℃である。
反応圧力は特に制限されない。
反応時間は、金属化合物の使用量や、原料の濃度および反応温度等の条件により大きく変わるが、通常は0.5時間〜24時間である。
好ましくは1時間〜12時間であり、さらに好ましくは2時間〜10時間である。
なお、本発明の合成態様としては、特に制限はされないが、金属化合物、配位子および溶媒(例えば塩化メチレン)を加えて室温下で攪拌し、次に、反応基質である2−シクロアルケン−1−オンを加え攪拌する。その後、所定の温度に設定し、ジアルキル亜鉛を一定量滴下し、一定時間所定の温度にて反応させる手順が好ましい。
あるいは、金属化合物と配位子を前もって反応させて、金属配位子錯体とし、該錯体を溶媒に加えて同様の反応を実施しても何ら問題はない。
所定時間が経過した後、塩酸にて反応をクエンチし、反応系を室温に戻す。
なお、上記反応は、不活性ガスの雰囲気下にて実施する。
不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンが挙げられるが、好ましくは、窒素およびアルゴンである。
【0035】
本発明によって、対応する光学活性な(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オン化合物が得られるが、これは、例えば、加水分解、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、上述した合成方法により得られた本願発明の光学活性で新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物の同定には以下に示す各種分析機器を用いた。
【0037】
(1)H−NMR:JNM−LA400(日本電子社製)
(2)IR:FT−IR SPECTRUM1000(Perkin Elmer社製)
(3)旋光度:SEPA−300旋光計(堀場社製)
(4)MS:LCQ DECA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
(5)元素分析:CHN CORDER MT−5(ヤナコ分析工業社製)
を使用した。
【0038】
次に、本発明の反応によって得られる(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オン化合物の光学純度は、光学活性カラムを用いたガスクロマトグラフィーにより、以下の条件で測定した。
【0039】
ガスクロマトグラフィー装置名:G−5000(日立社製)
カラム:Supelco(商標)γ−DEX−225(30m×0.25mm(i.d.)(ALDRICH社製)
ただし、(S)−3−アルキルシクロヘプタン−1−オンでは、Supelco(商標)β−DEX−225(30m×0.25mm(i.d.)(ALDRICH社製)を使用した。
カラム温度:80℃(30分保持)⇒120℃(10℃/min昇温)
キャリアーガス:He
ガス流速 :1.2mL/min
INJ(注入)温度:250℃
DET(検出)温度:300℃
検出器 :FID
【0040】
が水素、Rがイソプロピル基であり、RおよびRがフェニル基である新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子の物性値は以下の通りである。
【0041】
【化6】


(R=水素、R=i−Pr、R=R=フェニル基:yellow−brown oil)
【0042】
(1)水素核磁気共鳴スペクトル(H−NMR測定結果)
H−NMR(400MHz,溶媒:CDCl):δ 0.95(d,J=6.8Hz,6H),2.08(m,1H),2.53(d,J=8.0Hz,2H),3.23(m,1H),7.19−7.25(m,3H),7.30−7.32(m,3H),7.39−7.46(m,4H),7.55(dd,J=8.0,8.0Hz,1H),7.72(dd,J=8.0,8.0Hz,1H),7.81(d,J=8.0Hz,1H),7.95(d,J=8.8Hz,1H),8.08(d,J=8.0Hz,1H),8.11(d,J=8.8Hz,1H),8.37(s,1H)
なお、測定値の解析については、ケミカルシフトはテトラメチルシランを基準に算出し、上記の各ピークに記載の略号は以下の内容である。
(s=singlet、d=doublet、t=triplet、q=quartet、quint=quintet、m=multiplet、dt=doublet of triplets、dd=doublet of doublets、ddd=doublet of doublet of doublets;coupling constant(s) in Hz;integration)
【0043】
(2)赤外吸収スペクトル(IR測定結果)
IR (thin film):νmax(cm−1)3053,2958,2870,1712,1643,1596,1559,1502,1481,1433,1368,1113,1067,1026,999,895,834,788,749,696
(3)旋光度

(4)質量分析(MS測定結果)
MS:m/z 411(M+H
(5)元素分析
EA:Anal.Calcd.For C2727P:C,79.00;H,6.63;N,6.82.
Found: C,78.79;H,6.63;N,6.85.
【0044】
が水素、Rがt−ブチル基であり、RおよびRがフェニル基である新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子の物性値は以下の通りである。
【0045】
【化7】


(R=水素、R=t−Bu、R=R=フェニル基:yellow−brown oil)
【0046】
(1)水素核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR測定結果)
H−NMR (400MHz,溶媒;CDCl):δ 0.94(s,9H),2.50(d,J=7.2Hz,2H),3.09(m,1H),7.13−7.19(m,3H),7.33−7.37(m,5H),7.44−7.49(m,2H),7.55(dd,J=8.0,8.0Hz,1H),7.72(dd,J=8.0,8.0Hz,1H),7.81(d,J=8.0Hz,1H),8.00(d,J=8.8Hz,1H),8.08(d,J=8.8Hz,1H),8.12(d,J=8.0Hz,1H),8.35(s,1H)
【0047】
(2)赤外吸収スペクトル(IR測定結果)
IR (thin film): νmax(cm−1)3053,2957,2867,1713,1645,1596,1559,1503,1479,1433,1393,1365,1112,1000,960,890,834,750,738,696
(3)旋光度

(4)質量分析(MS測定結果)
MS:m/z 425(M+H
(5)元素分析
EA:Anal.Calcd.For C2829P:C,79.22;H,6.89;N,6.60.
Found:C,79.21;H,6.99;N,6.60.
【0048】
実施例1
(銅化合物による(S)−3−エチルシクロヘキサン−1−オンの合成)
30mlの反応容器(アンプル管)に、マグネット、銅化合物としてCu(OTf)0.01mmol、新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子(R=水素、R=イソプロピル基、R=R=フェニル基の化合物)0.025mmolおよびジクロロメタン1.5mLを加えて、十分にアルゴン置換した後、室温下(20〜30℃)で30分攪拌した。
次に、2−シクロヘキセン−1−オン96mg(1.0mmol)を添加して、さらに10分間攪拌した。その後、0℃に冷却してジエチル亜鉛溶液1.5mL(1.5mmol:ALDRICH社製1.0Mヘキサン含有溶液)加えて5時間反応させた。反応後、1Nの塩酸水溶液を加えて、反応をクエンチし、有機溶剤にて生成物を抽出したのち、ガスクロマトグラフィーにて分析した。分析結果から、2−シクロヘキセン−1−オンの添加率はほぼ100%(>99%)であり、(S)−3−エチルシクロヘキサン−1−オンが97% eeの光学収率で得られた。
【0049】
実施例2〜6
(銅化合物による(S)−3−エチルシクロヘキサン−1−オンの合成)
銅化合物および新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子の使用量および反応温度を表1に記載の条件に変えて、実施例1に準じて反応をおこなった。
その結果を表1に合わせて示した。
【0050】
【表1】

【0051】
上記反応式に用いた配位子8は、新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子(R=水素、R=イソプロピル基(i−Prと記載することもある)、R=R=フェニル基の化合物)である。
【0052】
実施例7〜9
(銅化合物による(S)−3−エチルシクロヘキサン−1−オンの合成)
新規な新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子(R=水素、R=ターシャリーブチル基(t−Buと記載することもある)、R=R=フェニル基の化合物)を用いた以外は実施例1に順じて反応をおこなった。その反応条件および反応結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例10〜15
(銅化合物による(S)−3−エチルシクロアルカン−1−オンの合成)
反応基質を2−シクロヘキセン−1−オンも含め、2−シクロペンテン−1−オンおよび2−シクロヘプテン−1−オンに拡大して実施例1に準じて反応を行った。
その反応条件および反応結果を表3にまとめて示す。
用いた配位子は、R=水素、R=i−Pr、R=R=フェニル基の化合物およびR=水素、R=t−Bu、R=R=フェニル基の化合物である。
【0055】
【表3】

【0056】
実施例16
(ニッケル化合物による(S)−3−エチルシクロヘキサン−1−オンの合成)
30mlの反応容器(アンプル管)に、マグネット、ニッケル化合物としてNi(acac)0.07mmol、新規なN,N,P−三座シッフ塩基配位子(R=水素、R=イソプロピル基、R=R=フェニル基の化合物)0.16mmolおよびアセトニトリル1.5mLを加えて、十分にアルゴン置換した後、室温下(20〜30℃)で30分攪拌した。
次に、2−シクロヘキセン−1−オン96mg(1.0mmol)を添加して、さらに10分間攪拌した。その後、−25℃に冷却してジエチル亜鉛溶液1.5mL(1.5mmol:ALDRICH社製1.0Mヘキサン含有溶液)加えて16時間反応させた。反応後、1Nの塩酸水溶液を加えて、反応をクエンチし、有機溶剤にて生成物を抽出したのち、ガスクロマトグラフィーにて分析した。分析結果から、2−シクロヘキセン−1−オンの収率は82%であり、(S)−3−エチルシクロヘキサン1−オンが78% eeの光学収率で得られた。
【0057】
実施例17
(銅化合物による(S)−3−アルキルシクロヘキサン−1−オンの合成)
銅化合物およびN,N,P−三座シッフ塩基配位子を含む条件を以下のように変えて、実施例1に準じて反応をおこなった。
その結果を表3に合わせて示した。
【0058】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示され、(S)−体であるN,N,P−三座シッフ塩基配位子化合物。
【化1】

(Rは、水素、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる基である。Rは、炭素数1〜6のアルキル基である。RおよびRは、フェニル基およびシクロヘキシル基であり、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
一般式(1)の配位子化合物と、
ニッケル化合物ならびに銅化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物の存在下、
2−シクロアルケン−1−オンとジアルキル亜鉛とを反応させることを特徴とする、
(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オンの製造方法。
【請求項3】
2−シクロアルケン−1−オンが2−シクロヘキセン−1−オンである請求項2に記載の
(S)−3−アルキルシクロアルカン−1−オンの製造方法。

【公開番号】特開2009−242304(P2009−242304A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91179(P2008−91179)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】