説明

新規に単離された細胞の治療組成物の操作および送達

本発明は、細胞の一過的な改変に関連する。特定の態様において、細胞はPBMC、PBL、T(CD3+および/またはCD8+)細胞、ならびにナチュラルキラー(NK)細胞等の免疫系細胞である。改変された細胞は、患者に治療的に投与され得る、遺伝学的に操作されたキメラ受容体を発現する細胞集団を提供する。本発明は、刺激されていない休止PBMC、PBL、T(CD3+および/またはCD8+)細胞、ならびにNK細胞にキメラ受容体をコードするmRNAを送達する方法、および形質移入された細胞にmRNAを効率的に送達し、かつ標的細胞の有意な死滅を促進する方法にさらに関連する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
この出願は、2008年4月9日出願の米国特許仮出願第61/043,653号に対する優先権を主張する。上記参照の開示全体は、参照により組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
1.発明の分野
本発明は、細胞生物学、がん生物学および免疫学の分野に、一般的に関連する。より具体的に、化学物質および生物物質と共にローディングすることにより操作された細胞、および結果として得られる実体であって、がんを含む複合的な徴候の処置の際に、治療剤として使用される実体に関連する。
【0003】
2.関連技術の説明
例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞、血管内皮前駆細胞、脂肪由来幹細胞および末梢血単核細胞(PBMC)等を包含する単核細胞は、免疫疾患の処置のための複合的な適用において、および再生医療的な適用において使用されている(Passweg J and Tyndall A., Semin Hematol. 2007 Oct. 44(4):278−85/非特許文献1;Le Blanc K and Ringden O. Intern Med. 2007 Nov. 262(5):509−25/非特許文献2;Ward et al. Catheter Cardiovasc Interv. 2007 Dec. 1 70(7):983−98/非特許文献3;Mimeault et al., Clin Pharmacol Ther. 2007 Sep. 82(3):252−64 Epub 2007 Aug 1/非特許文献4)。
【0004】
末梢血単核細胞(PBMC)は、骨髄細胞系譜およびリンパ球系譜の細胞から構成される。単球、マクロファージ、樹状細胞(DC)等の骨髄細胞は、抗原と共にローディングされる場合、腫瘍抗原特異的な免疫応答の生成に関して、がんの処置に関して、または自己免疫の制御の際の自己抗原特異的T細胞および制御性T細胞の調節に関して、効果的な抗原提示細胞であることが実証されている(Gilboa E., J Clin Invest. 2007 May 117(5):1195−203/非特許文献5)。T細胞、NK細胞、B細胞、リンパ系DC等のリンパ系細胞は、免疫応答の効果的なメディエーターであり、かつ抗原を提示し、かつナイーブ応答および記憶応答を刺激するためにもさらに利用され得る(Hong C and Park SH. Crit Rev Immunol. 2007 27(6):511−25/非特許文献6;Martino A and Poccia F, Curr Mol Med. 2007 Nov. 7(7):658−73/非特許文献7)。
【0005】
抗原提示細胞(APC)は、抗原を検出し、かつ免疫エフェクター細胞に抗原を提示するための重要な見張り役である。効果的な治療剤となるように、それらは広範に研究されている。エフェクター細胞を係合させるAPCの成熟状態の脈絡における、抗原ローディング、抗原プロセス、および抗原提示の因子は、APCベースの免疫治療、およびワクチンの設計ならびに開発における主要な事項である。ヌクレオチド(DNA、mRNA)、またはタンパク質/溶解産物、または多量体抗原製剤の形態において提供される腫瘍抗原の電気的なローディングは、APC抗原取り込みメカニズムの効率的な成熟を要することなく、新規に単離された細胞における効果的な取り込み、および抗原のプロセシングを可能にする。さらに、他の化学物質および/または生物物質は、対象/患者における抗原プロセシング、プロセスされた抗原の提示、または免疫調節環境に影響を及ぼすよう、APCに電気的にローディングされ得て、電気的にローディングされたAPCの効果的な生物活性が、新規に単離されたナイーブAPCのものより優れるように操作される。そのような抗原ローディング、または新規に単離された(ナイーブ)APCに関する生物活性の向上と組み合わせた抗原ローディングは、ローディングされたPBMC組成物の固有の特性であり、したがって、迅速な製剤、および対象/患者への産物の迅速な送達を可能にする。そうでなければ、そのような生物学的活性は、綿密な細胞培養、増殖、分化、病院/医師の診察環境で対象/患者に投与するための臨床的に妥当な時間枠における、APC免疫治療の治療組成物の送達、およびワクチン産物の送達に適さない他の操作プロセスの成熟を必要とするプロセス後にのみ、供与されると考えられる。
【0006】
NK細胞およびT細胞は、ウイルス応答および腫瘍免疫応答の重要なメディエーターである。それらは、効率的な治療剤となるよう広範に研究されている。効率的かつ特異的な標的細胞死滅の因子、手法の単純性、細胞の利用可能性および低い移植片対宿主病(GvHD)が、主要な事項である。免疫系の細胞中で発現される場合、キメラ受容体構築物は、腫瘍細胞に対する特異的免疫応答を増強し得て、かつそれによりがん患者に臨床的利益をもたらすことが記載されている。キメラ受容体を発現する増殖性NK細胞および増殖性T細胞は、増殖性NK細胞死滅のHLA型関連性の阻害、および標的される腫瘍細胞のT細胞受容体(TCR)要求性のT細胞の死滅を克服し得る(Imai et al. 2004)。しかしながら、休止NK細胞または休止T細胞を使用する単純性を考慮すると、自己もしくは同種のいずれかの休止NK細胞または休止T細胞が、効率的な標的細胞の死滅、および特異的な標的細胞の死滅の双方を有するよう操作され得る場合、腫瘍治療に関して望ましいと考えられる。さらに、休止末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)でさえも、効率的な標的細胞の死滅、および特異的な標的細胞の死滅の双方を有するよう操作され得る場合、手法の単純性および細胞の利用可能性のため、腫瘍治療に関して最も望ましいと考えられる。通常のレトロウイルスベクターは、休止NK細胞または休止T細胞に感染することができない。レンチウイルスベクターは、休止末梢血リンパ球を形質移入するために使用されている(Simmons et al. 2006)。残念なことに、ウイルスベクターの使用は、臨床的適用に関する安全性および実際的な問題が必然的に伴う。
【0007】
エレクトロポレーションは、ローディングされた細胞の形質移入を達成する、核酸を細胞中にローディングするためのよく認知された方法である。エレクトロポレーション、電気的に形質移入および電気的にローディングという用語は、各々、この技術の一般的な意味、導入遺伝子発現および細胞質への分子の移動に重点を置いて、文献中で互換的に使用されている。以下、細胞を形質移入するこの方法は、いかなる形質移入試薬、またはウイルスベクターもしくはウイルス様粒子等の、ローディングされる核酸の生物学的ベースのパッケージングを伴わない、エレクトロポレーションを使用する方法である電気的なローディングと称され、細胞のローディングを促進するために細胞に適用される一過的な電場のみに依存する。エレクトロポレーションの中でも、ヌクレオフェクションは、細胞質中に移されたDNAの、核への移動を促進する形質移入試薬を包含する特別なものである。ヌクレオフェクションは、独自のヌクレオフェクション剤で処置されたプラスミドDNAを使用して、休止T細胞および休止NK細胞を形質移入することが報告されている(Maasho et al., 2004)。キメラ受容体の休止T細胞ヌクレオフェクションは、特異的な標的細胞の死滅をもたらし得ることも実証されている(Finney, et al, 2004)。多数の報告によって、DNAを用いたヌクレオフェクションまたは電気的なローディングは、リンパ球、樹状細胞およびNK細胞を含む、休止造血細胞に細胞毒性をもたらしたことが示されている(Trompeter et al. 2003;Li et al. 2006;Li et al. 2001;Li et al. 1999;Landi et al., 2007;Van De Parre et al. 2005;Maasho et al., 2004;Abbott et al. 2006)。ヌクレオフェクションされた休止NK細胞、または電気的に形質移入された休止造血細胞は、形質移入後数時間以内に、良好な一過的生存率および効率的な導入遺伝子発現を示し、かつヌクレオフェクション後およそ28時間後および52時間後には、低い生存率を示し、かつこれらの時点で導入遺伝子の発現は、極度な減少を示した(Trompeter et al. 2003)。したがって、この一過的なDNA形質移入の方法は、一過的に改変された休止NK細胞および休止T細胞の、臨床的に有用な調製物を提供しないと考えられる。さらに、新規の休止NK細胞の形質移入効率は、増殖中のNK細胞株の約半分であった。
【0008】
mRNAを用いた細胞のローディングは、いくつかの利点をもたらし、かつDNA形質移入に関連する問題、とりわけ休止細胞および患者に注入される細胞に関連する問題を潜在的に克服し得る。第一に、とりわけ電気的なローディングによってローディングされる場合、プラスミドDNAを用いたローディングと比較して、mRNAは最小限の細胞毒性をもたらし、かつこれは、休止NK細胞および休止末梢血単核細胞(PBMC)等の休止細胞の電気的なローディングに関して特に当てはまる。また、mRNAは、発現されるように細胞核に入る必要がないため、休止細胞はローディングされたmRNAを容易に発現する。さらに、mRNAは核に輸送される必要がなく、または転写される必要がなく、またはプロセシングされる必要がないため、細胞の細胞質中へ入り実質的にすぐ後に翻訳が開始され得る。これによって、mRNAによりコードされる遺伝子の、迅速な発現が可能になる。また、mRNAは複製せず、または細胞の遺伝性の遺伝物質を改変せず、かつmRNA調製物は、ローディングされた細胞中で発現が望まれるタンパク質をコードする、単一のタンパク質コード配列を典型的に含む。mRNAの電気的なローディングに関して、様々な研究が報告されている(Landi et al., 2007;Van De Parre et al. 2005;Rabinovich et al. 2006;Zhao et al., 2006)。
【0009】
いくつかの医学的理由のため、刺激されていない休止NK細胞、T細胞、PBLおよびPBMCを用いた自己免疫治療、および刺激されていない休止NK細胞に関する同種免疫治療は、がんの治療のために有利であり得る。この脈絡において、最小限の時間で、最小限の介在的手法で、かつ最小限の外来性試料の添加、とりわけ複製する遺伝情報を含むか、または抗原性の試料の添加で、患者からの細胞の除去、体外での細胞の処置、および後に続く患者への注入を可能にする方法が、安全性、ならびに費用および効率的な理由のために望ましい。大規模な細胞培養の必要なく、より具体的には、細胞が体外で細胞分裂を起こす必要なくして、これらの細胞の改変を可能にする方法は、治療タンパク質のみをコードし、かつ細胞内で複製することができないか、または患者から除去された細胞のゲノムを改変することができず、かつ患者に戻され、かつさらにいかなる他の生物学的もしくは免疫学的に活性な要素の使用を包含しない核酸のみをローディングする段階を含み、かつ望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Passweg J and Tyndall A., Semin Hematol. 2007 Oct. 44(4):278−85
【非特許文献2】Le Blanc K and Ringden O. Intern Med. 2007 Nov. 262(5):509−25
【非特許文献3】Ward et al. Catheter Cardiovasc Interv. 2007 Dec. 1 70(7):983−98
【非特許文献4】Mimeault et al., Clin Pharmacol Ther. 2007 Sep. 82(3):252−64 Epub 2007 Aug 1
【非特許文献5】Gilboa E., J Clin Invest. 2007 May 117(5):1195−203
【非特許文献6】Hong C and Park SH. Crit Rev Immunol. 2007 27(6):511−25
【非特許文献7】Martino A and Poccia F, Curr Mol Med. 2007 Nov. 7(7):658−73
【発明の概要】
【0011】
さらなる合成的な形質移入試薬、またはウイルスベクターを要することなく、核酸(DNA、mRNA、microRNAまたはRNAi)、タンパク質および小型分子のみを利用する方法を使用して、新規に調製された刺激されていない休止PBMCをローディングできることにより、免疫治療産物の開発への輸血医療アプローチが提供され、それによってPBMCが患者または同種のドナーから除去され、本明細書において電気的に形質移入として定義されるプロセスで電気的にローディングされ、かつそのすぐ後に、PBMC細胞集団における生物活性の向上を引き起こすように患者に自己輸血され、患者の治療に関する治療効果の向上がもたらされる。この治療アプローチは、そうでなければ、培養、活性化、増殖および増殖性細胞の遺伝的改変を含む大規模な操作後にのみ得ることが可能な、細胞の治療組成物を得る手法を簡略化する。本明細書において使用される、末梢血単核細胞(PBMC)とは、リンパ球または単球等の、一つの核を有する血液細胞を指す。「刺激されていない」PBMCとは、サイトカイン、または抗原等によって活性化されていないPBMCに言及する。
【0012】
本発明の特定の態様は、その方法によって、核酸にコードされるキメラ受容体を発現する、一過的に形質移入されたNK細胞を提供する電気的なローディングの手段によって、遺伝学的に操作された受容体をコードするDNAまたはmRNA等の核酸が、休止初代NK細胞を含むNK細胞中にローディングされる方法を提供する。また、一つより多いキメラ受容体、または他の化学物質および/もしくは生物物質とキメラ受容体との組み合わせをコードするDNAまたはmRNA等の核酸を用いる、NK細胞の形質移入のための方法も開示される。いくつかの態様において、本発明はまた、がんまたは免疫系の疾患の処置のための、免疫治療的な細胞治療として使用され得るキメラ受容体をコードする、DNAまたはmRNA等の核酸でローディングすることによって、NK細胞を操作する段階も提供する。
【0013】
一つの態様において、本発明は、表面にキメラ受容体を発現させるように、休止初代末梢血単核細胞(PBMC)を一過的に改変する方法であって、該方法が、休止初代PBMCを単離する段階;およびキメラ受容体をコードするDNAまたはmRNA等の核酸でPBMCを電気的にローディングする段階であって、それによって電気的にローディングされたPBMCが、その表面にキメラ受容体を発現する段階、を含む方法を提供する。本発明の特定の局面において、PBMCは単球である。本発明のいくつかの局面において、PBMCは末梢血リンパ球(PBL)である。いくつかの態様において、リンパ球はナチュラルキラー(NK)細胞、CD3+T細胞、および/またはCD8+T細胞である。休止PBMCは、末梢血から直接収集されたPBMC、または末梢血からの収集後に直接凍結された解凍したPBMCである。休止PBMCは、細胞数増加のために細胞活性化を刺激する特定のサイトカイン、もしくはリガンドの刺激の存在下または非存在下で、短期間に渡って(例えば、2日未満等)培養されてもよい。
【0014】
一つの態様において、本発明は、表面にキメラ受容体を発現させるように、ナチュラルキラー(NK)細胞を一過的に改変する方法であって、該方法が、NK細胞を単離する段階、およびキメラ受容体をコードするDNAまたはmRNA等の核酸でNK細胞を電気的にローディングする段階であって、それによって電気的にローディングされたNK細胞が、その表面にキメラ受容体を発現する段階、を含む方法を提供する。
【0015】
NK細胞は、休止NK細胞、または増殖中のNK細胞株であってもよい。休止NK細胞は、末梢血から直接収集されたNK細胞、または末梢血からの収集後に直接凍結された解凍したNK細胞である。休止NK細胞は、細胞数増加のために細胞活性化を刺激する特定のサイトカイン、もしくはリガンドの刺激の存在下または非存在下で、短期間に渡って(例えば、2日未満等)培養されてもよい。増殖中のNK細胞は、細胞数を増加させるために細胞を活性化するサイトカインおよびリガンドで、細胞刺激/活性化を受けた細胞である。
【0016】
「単離された」NK細胞またはNK細胞を「単離する段階」とは、赤血球細胞、単球、T細胞およびB細胞等の非NK細胞から、NK細胞を分離する段階を指す。NK細胞の単離に関して様々な方法が公知であり、かつこの目的のためのキットが市販されている。NK細胞が全血から単離される場合、免疫系細胞から赤血球細胞を最初に(例えば、遠心分離によって)分離し、続いて他の種類の免疫系細胞からNK細胞をさらに分離することが望ましい場合がある。他の細胞からNK細胞を分離する一つのアプローチは、異なる細胞種の異なる表面マーカーの発現に基づく。例えば、ポジティブセレクションに関して、NK細胞の表面に発現されるCD56またはCD16に結合する抗体を用いて、NK細胞が選択され得る。したがって、本発明の一つの局面において、NK細胞を単離する段階は、CD56−細胞からのCD56+細胞の分離を含む。本発明の別の局面において、NK細胞を単離する段階は、CD16−細胞からのCD16+細胞の分離を含む。本発明のさらなる局面において、NK細胞を単離する段階は、CD56−細胞およびCD16−細胞からの、CD56+細胞およびCD16+細胞の分離を含む。NK細胞を単離するために使用される抗体は、一般的に、抗体に結合しなかった細胞からの、捕捉された細胞の分離を促進するため、固形担体および/または磁性粒子(例えば、磁性ビーズ)等に付着させられる。NK細胞の単離はまた、NK細胞の表面に発現されないCD14、CD3および/またはCD19等の表面マーカーへの結合によって、試料からの非NK細胞の除去(すなわち、ネガティブセレクション)を含む場合もある。したがって、本発明の一つの局面において、NK細胞を単離する段階は、試料からのCD14+、CD3+および/またはCD19+細胞を除去する段階を含む。
【0017】
「単離された」T細胞またはT細胞を「単離する段階」とは、赤血球細胞、単球、NK細胞およびB細胞等の非T細胞から、T細胞を分離する段階を指す。T細胞の単離に関して様々な方法が公知であり、かつこの目的のためのキットが市販されている。T細胞が全血から単離される場合、免疫系から赤血球細胞を最初に(例えば、遠心分離によって)分離し、続いて、他の種類の免疫系細胞からT細胞をさらに分離することが望ましい場合がある。他の細胞からT細胞を分離するための一つのアプローチは、異なる細胞種の異なる表面マーカーの発現に基づく。例えば、ポジティブセレクションに関して、T細胞の表面に発現されるCD3に結合する抗体を用いて、T細胞が選択され得る。T細胞の単離はまた、T細胞の表面に発現されないCD56およびCD16等の表面マーカーに結合させることによって、試料からの非T細胞の除去(すなわち、ネガティブセレクション)を含む場合もある。容器中(例えば、フラスコ等)でPBMCを培養し、約1〜2時間後に容器の表面に付着する細胞を除去することによって、PBLは他の非PBL PBMCから単離され得る。
【0018】
単離された細胞の純度は、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって決定され得る。本発明の一つの態様において、NK細胞またはT細胞を単離する段階は、赤血球細胞および単球等の他の細胞から、末梢血リンパ球(PBL)を単離する段階を含む。特定の局面において、PBLは、少なくとも70%、80%、90%、95%、97%、99%または99.5%の細胞を組成物中に含む。本発明の別の態様において、NK細胞を単離する段階は、他のPBLを含む全ての他の種類の細胞から、NK細胞を単離する段階を含む。特定の局面において、NK細胞は、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%または99.5%の細胞を組成物中に含む。本発明の別の態様において、T細胞を単離する段階は、他のPBLを含む全ての他の種類の細胞から、T細胞を単離する段階を含む。特定の局面において、T細胞は、少なくとも90%、95%、97%、99%または99.5%の細胞を組成物中に含む。
【0019】
「一過的な形質移入」および「一過的に改変する」という用語は、導入される核酸分子の核ゲノム中への挿入を、通常はもたらさない形質移入プロセスを使用する、細胞中への核酸分子の導入を指し、したがって、導入される核酸分子は、細胞が有糸分裂を起こす際に失われる。対照的に、「安定な形質移入」とは、導入された核酸分子を、それらのゲノム中に組み込んだ細胞が選択される形質移入プロセスを指す。この様式において、安定に形質移入された核酸は、細胞のゲノム中および有糸分裂後の娘細胞のゲノム中に留まる。「一過的に発現する」という用語は、一過的に形質移入された細胞における、核酸分子の一過的な発現を指す。
【0020】
一つの態様において、本発明は、対象において過剰増殖性疾患を処置する方法であって、該方法が、単離された休止初代末梢血単核細胞(PBMC)を得る段階;キメラ受容体をコードするDNAまたはmRNA等の核酸を用いて、PBMCを電気的にローディングする段階であって、それによって電気的にローディングされたPBMCが、その表面にキメラ受容体を発現する段階;および対象において過剰増殖性疾患を処置するため、形質移入されたPBMCを対象に投与する段階を含む方法を提供する。特定の態様において、PBMCは、処置される対象以外のドナーから得られる。他の態様において、PBMCは、過剰増殖性疾患を患う患者から得られる。
【0021】
一つの態様において、本発明は、対象において過剰増殖性疾患を処置する方法であって、該方法が、過剰増殖性疾患を患う対象またはドナーから、単離されたNK細胞を得る段階、キメラ受容体をコードするDNAまたはmRNA等の核酸を用いてNK細胞を電気的にローディングする段階であって、それによって電気的にローディングされたNK細胞が、その表面にキメラ受容体を発現する段階、および対象において過剰増殖性疾患を処置するために、形質移入されたNK細胞を対象に投与する段階、を含む方法を提供する。特定の態様において、NK細胞は、新規に収集される初代NK細胞である。一つの局面において、新規に収集される初代NK細胞は単離され、それらが対象から得られた直後に、電気的にローディングされる。
【0022】
いくつかの態様において、新規に収集される初代PBMCは、収集され、単離され、かつ約0.5〜3時間以内、0.5〜2時間以内、または0.5〜1時間以内に形質移入される。いくつかの態様において、新規に収集される初代PBMCは、患者から収集された直後に凍結される。PBMCは末梢血中で凍結されてもよく、またはそれらは単離され、その後凍結されてもよく、または、それらは単離され、形質移入され、その後凍結されてもよい。したがって、本発明の特定の局面において、新規の初代PBMCは、患者/ドナーからの収集直後に凍結されたか、または収集後の単離の直後に凍結された解凍した細胞であってもよい。いくつかの態様において、形質移入された細胞は、細胞が患者またはドナーから当初得られた時点から、約1〜48時間以内、1〜24時間以内、1〜15時間以内、1〜10時間以内、または1〜5時間以内に患者に投与される。いくつかの局面において、新規に収集される細胞は、対象から収集されたが、対象の外部で細胞分裂を起こしていない細胞であり、したがって、新規に収集される細胞を対象に投与する段階とは、対象の外部で細胞分裂を起こしていない細胞を投与する段階を指すと考えられる。
【0023】
特定の態様において、対象はヒトである。一つの態様において、過剰増殖性疾患は、がんである。例えば、乳がん、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、脳がん、肝臓がん、子宮頚がん、結腸がん、腎臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、骨がん、食道がん、膀胱がん、子宮がん、リンパ性がん、胃がん、膵臓がん、精巣がんまたは白血病を含む任意の種類のがんが、本明細書において開示される方法および組成物で処置され得ることが考慮される。例えば、白血病は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)またはマントル細胞リンパ腫(MCL)である可能性がある。
【0024】
形質移入された細胞は、当業者に周知の方法によって対象に投与されてもよい。例えば、形質移入された細胞は、静脈内注射、動脈内注射、リンパ内注射、筋肉内注射、腫瘍内注射または皮下注射によって投与されてもよい。形質移入された細胞が、腹腔内投与され得ることも、考慮される。形質移入された細胞は、対象における腫瘍の場所もしくは近傍で、または対象から腫瘍が外科的に除去された場所に対して、対象に投与され得る。しかしながら、治療効果を達成するために、形質移入された細胞が腫瘍部位で投与されることは必要でない。したがって、特定の態様において、形質移入された細胞は、腫瘍部位から遠方の部位で投与され得る。医療実務者は、過剰増殖性疾患の種類および部位に基づいて、ある程度、特定の対象に関する適切な投与経路を決定することができると考えられる。形質移入された細胞は、疾患部位に対して局所的に、疾患部位に対して全域的に、または全身的に投与されてもよい。一つの態様において、細胞は、静脈注射またはリンパ内注射によって投与される。別の態様において、形質移入された細胞は、腫瘍内注射等によって腫瘍部位に対して局所的に投与される。いくつかの態様において、形質移入された細胞は、末梢血がドナーから収集される時点から48時間未満、24時間未満、または12時間未満に患者に戻し投与される。本発明の特定の局面において、形質移入された細胞は、NK細胞がドナーから当初得られた時点から約1〜48時間以内、1〜24時間以内、1〜15時間以内、1〜12時間以内、1〜10時間以内、または1〜5時間以内に患者に戻し投与される。ドナーおよび処置される対象は、同一人物または異なる人物であってもよい。したがって、いくつかの態様において、細胞は対象の自己由来であり、かつ他の態様において、細胞は対象の同種である。
【0025】
キメラ受容体は、死滅の標的となる細胞に基づいて、一般に選択されると考えられる。したがって、本発明の一つの態様において、キメラ受容体は、腫瘍抗原に結合するキメラ受容体である。CD19は、B系譜の細胞で発現される。したがって、白血病性B細胞を死滅させるために、抗CD19キメラ受容体が、NK細胞等のPBMCの表面に発現され得て、改変されたNK細胞とB細胞との相互作用を増強させると考えられる。したがって、本発明の一つの態様において、キメラ受容体は、抗CD19キメラ受容体である。一つの局面において、抗CD19キメラ受容体は、4-1 BB細胞内ドメインおよびCD3ζドメインにコンジュゲートされた単鎖抗体をコードする、抗CD19BBzである。特定の態様において、キメラ受容体は、抗CD20、抗FBP、抗TAG−72、抗CEA、抗カルボキシアンヒドラーゼIX、抗CD171、抗IL−13受容体、抗G(D)2、抗PSMA、抗メソセリン(mesothelin)、抗Lewis−Y、または抗CD30キメラ受容体である。これらの抗原に向けられているCARは、これらの抗原を発現する細胞に関連する疾患を処置するために使用されてもよい。例えば、これらの抗原は、少なくとも以下の腫瘍に関連付けられている:CD−19(白血病)、FBP(卵巣)、TAG−72(結腸直腸)、CEA(結腸直腸、乳房、胃)、カルボキシアンヒドラーゼIX(腎臓)、CD171(神経芽細胞腫)、IL−13受容体(グリア芽細胞腫)、G(D)2(神経芽細胞腫)、PSMA(前立腺)、メソセリン(膵臓)、Lewis−Y(骨髄腫)またはCD30(皮膚リンパ腫)。本発明の特定の局面において、キメラ受容体は、細胞内ドメインを含まない。特定の態様において、キメラ受容体は、CD28細胞内ドメインを含まない。
【0026】
別の態様において、本発明は、組成物であって、該組成物が、キメラ受容体をコードするDNAまたはmRNA等の核酸によってコードされる導入遺伝子を、一過的に発現する電気的にローディングされたPBMCであって、それによって、キメラ受容体が電気的にローディングされたPBMCの表面に発現されるPBMC、および薬学的に許容される担体、を含む組成物を提供する。本発明の一つの局面において、PBMCは休止PBMCである。本発明の別の局面において、組成物は凍結される。キメラ受容体は、例えば、抗CD19キメラ受容体であってもよい。いくつかの態様において、組成物は、キメラ受容体をコードするDNAプラスミド等のDNAを含まない。特定の態様において、組成物には、ウイルスベクターおよびウイルス様粒子が存在しないか、または実質的に存在しない。
【0027】
一つの態様において、本発明は、組成物であって、該組成物が、キメラ受容体をコードするmRNAによってコードされる導入遺伝子を、一過的に発現する電気的に形質移入されたNK細胞であって、それによって、キメラ受容体が電気的に形質移入されたNK細胞の表面に発現されるNK細胞、および薬学的に許容される担体、を含む組成物を提供する。本発明の一つの局面において、NK細胞は、休止NK細胞である。本発明の別の局面において、組成物は凍結される。キメラ受容体は、例えば、抗CD19キメラ受容体であってもよい。いくつかの態様において、組成物は、キメラ受容体をコードするDNAプラスミド等のDNAを含まない。特定の態様において、組成物には、非NK細胞が存在しないか、または実質的に存在しない。特定の局面において、組成物中の少なくとも60%、80%、90%、95%、96%、96%、98%、99%、99.5%または99.9%の細胞は、NK細胞である。
【0028】
本発明はまた、新規に単離され(ナイーブ)、かつ電気的にローディングされたPBMCの、がんおよび免疫疾患の処置のための治療組成物ならびに方法としての使用を促進するために、PBMC、かつとりわけ抗原提示細胞(APC)に抗原をローディングする段階、または抗原プロセシング、抗原提示、細胞輸送および細胞局在の効率、ならびに対象/患者における免疫調節環境の制御を増強する他の化学物質または生物物質と共に、当該抗原をローディングする段階を提供する。
【0029】
当業者は、エレクトロポレーションの方法に精通している。エレクトロポレーションは、例えば、流動型エレクトロポレーション、または固定型エレクトロポレーションであってもよい。一つの態様において、がん細胞を形質移入する方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/225,446号に記載されるように、エレクトロポレーション装置の使用を含む。エレクトロポレーションに関する方法および装置はまた、例えば、全てが参照により本明細書に組み入れられる、公開PCT出願第WO 03/018751号および同WO 2004/031353号;米国特許出願第10/781,440号、同第10/080,272号および同第10/675,592号、ならびに米国特許第5,720,921号、同第6,074,605号、同第6,773,669号、同第6,090,617号、同第6,485,961号、同第6,617,154号、同第5,612,207号にも記載されている。
【0030】
本明細書に記載される任意の方法または組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法または組成物との関連で実施され得ることが、考慮される。
【0031】
本方法、装置およびシステムのいずれもの任意の態様は、記載される段階および/もしくは特徴を含む/包含する/含有する/有するよりもむしろ、それらからなるか、または本質的になる可能性がある。したがって、特許請求の範囲のいずれにおいても、「からなる」または「から本質的になる」という用語は、そうでなければオープンエンドの連結動詞を使用すると考えられるものから、所定の特許請求の範囲を改変するために、上に記載されるオープンエンドの連結動詞のいずれとも置換され得る。
【0032】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物のみに言及すると他に明確に示されない限り、または代替物が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物および「および/または」のみを指す定義を支持する。
【0033】
本出願を通して、「約」という用語は、値を決定するために利用されている装置または方法に関する誤差の標準偏差を、値が包含することを示すために使用される。
【0034】
積年の特許法に従って、特許請求の範囲または明細書において「含んでいる」という語と共に使用される場合、具体的に記載されない限り、「a」および「an」という語は一つまたは複数を表す。
【0035】
本発明の他の目標、特徴および利点は、以下に続く詳細な記載から明確になると考えられる。しかしながら、本発明の精神および範囲内での様々な変更ならびに改変は、この詳細な説明から当業者に明らかになると考えられるため、詳細な説明および具体例は、本発明の具体的な態様を示しているが、例示のためのみに提示されることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下に続く図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本発明の特定の局面をさらに実証するために包含される。本発明は、本明細書に提示される特定の態様の詳細な説明との組み合わせにおいて、これらの図面の一つまたは複数の参照によって、より良好に理解され得る。
【図1A】増殖性NK細胞における高分子ローディング/形質移入を示す。FITC−デキストラン(500 k MW)は、増殖性NK細胞中に効率的にローディングされ得ることを示す。
【図1B】増殖性NK細胞における高分子ローディング/形質移入を示す。FITC−siRNA(21 mer)は、増殖性NK細胞中に効率的にローディングされ得ることを示す。
【図1C】増殖性NK細胞における高分子ローディング/形質移入を示す。CMVプロモーターにより誘導されるeGFPをコードするDNAプラスミドは、6日間増殖されたNK細胞に形質移入され得ることを示す。
【図1D】増殖性NK細胞における高分子ローディング/形質移入を示す。eGFPをコードするmRNAは、いかなる有意な生存率の損失もなく、増殖性NK細胞中に効率的に形質移入され得ることを示す。
【図1E】増殖性NK細胞における高分子ローディング/形質移入を示す。eGFP−mRNAで形質移入された細胞の増殖を示す。
【図2A】増殖性NK細胞における、抗CD19キメラ受容体をコードするmRNAの形質移入を示す。生存細胞の65%は、抗CD19キメラ受容体を発現し得ることを示す。
【図2B】増殖性NK細胞における、抗CD19キメラ受容体をコードするmRNAの形質移入を示す。抗CD19キメラ受容体発現は、mRNA濃度依存的であって、かつ4〜5日目まで発現し得ることを示す。
【図3A】休止NK細胞は、mRNAで効率的に形質移入され得ることを示す。ミルテニー(Miltenyi)ビーズ単離後の、NK細胞の表現型を示す。
【図3B】休止NK細胞は、mRNAで効率的に形質移入され得ることを示す。休止NK細胞は、eGFPまたは抗CD19キメラ受容体をコードするmRNAで、効率的に形質移入され得ることを示す。
【図3C】休止NK細胞は、mRNAで効率的に形質移入され得ることを示す。休止NK細胞における、抗CD19キメラ受容体の発現持続期間を示す。
【図3D】休止NK細胞は、mRNAで効率的に形質移入され得ることを示す。2人のドナー由来の、休止NK細胞の生存率および発現レベルの概要を示す。
【図4A】形質移入されたNK細胞による、OP−1死滅に対するCD3+細胞の効果を示す。CD3+細胞は、ダイナル(Dynal)ビーズを用いて、28%から0.4%まで効率的に除去され得る。
【図4B】形質移入されたNK細胞による、OP−1死滅に対するCD3+細胞の効果を示す。増殖性NK細胞からのCD3+細胞の除去あり、または除去なしのいずれも、OP−1細胞のNK細胞死滅に影響を及ぼさなかったことを示す。
【図5A】NK細胞死滅の特異性を示す。適切な形質移入によって、導入遺伝子の発現がもたらされたことを示す。
【図5B】NK細胞死滅の特異性を示す。GFPを発現させたNK細胞が、CD19−PE+のOP−1細胞を死滅させなかった典型的なFACSデータを示す(左から3番目のパネル)。抗CD19キメラ受容体を発現させたNK細胞のみが、有意にOP−1を死滅させた(左から4番目のパネル)。
【図5C】NK細胞死滅の特異性を示す。抗CD19キメラ受容体特異的なOP−1死滅の概要を示す。エレクトロポレーション単独(カルセイン−AM法)、およびGFPで形質移入されたNK細胞(抗体染色)は、OP−1を死滅させなかった。抗CD19キメラ受容体を発現させたNK細胞は、有意にOP−1を死滅させた。
【図6A】抗CD19キメラ受容体で形質移入された増殖NK細胞による、死滅の持続期間を示す。死滅はカルセイン−AM法によって解析され、形質移入後3時間で引き起こされ、かつ4時間または1日の死滅後に解析された。
【図6B】抗CD19キメラ受容体で形質移入された増殖NK細胞による、死滅の持続期間を示す。死滅は、カルセイン−AM法によって解析され、形質移入後1日で引き起こされ、かつ4時間または1日の死滅後に解析された。
【図6C】抗CD19キメラ受容体で形質移入された増殖NK細胞による、死滅の持続期間を示す。死滅は、カルセイン−AM法によって解析され、形質移入後2日で引き起こされ、かつ4時間または1日の死滅後に解析された。
【図6D】抗CD19キメラ受容体で形質移入された増殖NK細胞による、死滅の持続期間を示す。死滅は、カルセイン−AM法によって解析され、形質移入後3日で引き起こされ、かつ4時間または1日の死滅後に解析された。
【図7A】2人の異なるドナー由来のNK細胞による、OP−1細胞の死滅を示す。2人の異なるドナーから増殖されたNK細胞は、類似でかつ有意なOP−1細胞の死滅をもたらしたことを示す。
【図7B】2人の異なるドナー由来のNK細胞による、OP−1細胞の死滅を示す。2人の異なるドナー由来の休止NK細胞は、類似でかつ有意なOP−1細胞の死滅をもたらしたことを示す。
【図8A】抗CD19キメラ受容体を発現させたNK細胞による、同種初代B−CLL細胞の死滅を示す。ナイーブ増殖性NK細胞によるものよりも、抗CD19キメラ受容体発現を有する増殖性NK細胞による、有意により高いB−CLLの細胞の死滅を示す。B−CLL細胞は2人のドナー由来であった。
【図8B】抗CD19キメラ受容体を発現させたNK細胞による、同種初代B−CLL細胞の死滅を示す。B−CLL細胞は、抗CD19キメラ受容体発現を有する休止NK細胞によって特異的に死滅され得る。死滅は、形質移入後少なくとも2日間に渡って効率的であった。
【図9A】DNA取り込みは、休止PBLに対して毒性である。CMVプロモーター下でeGFPをコードするプラスミドDNAの存在下、eGFPをコードするmRNAの存在下、および高分子FITC−デキストラン(500 kD)の存在下で、休止PBLをエレクトロポレーションした。生存率および発現レベルを、トリパンブルー色素排除およびフローサイトメトリー解析によって、形質移入後7日目までモニタリングした。典型的なFACS解析データを示す。
【図9B】DNA取り込みは、休止PBLに対して有毒である。CMVプロモーター下でeGFPをコードするプラスミドDNAの存在下、eGFPをコードするmRNAの存在下、および高分子FITC−デキストラン(500 kD)の存在下で、休止PBLをエレクトロポレーションした。生存率および発現レベルを、トリパンブルー色素排除およびフローサイトメトリー解析によって、形質移入後7日目までモニタリングした。形質移入後の時間に対する、生存率の依存性を示す。
【図9C】DNA取り込みは、休止PBLに対して有毒である。CMVプロモーター下でeGFPをコードするプラスミドDNAの存在下、eGFPをコードするmRNAの存在下、および高分子FITC−デキストラン(500 kD)の存在下で、休止PBLをエレクトロポレーションした。生存率および発現レベルを、トリパンブルー色素排除およびフローサイトメトリー解析によって、形質移入後7日目までモニタリングした。形質移入後の時間に対する、生存細胞数の依存性を示す。
【図9D】DNA取り込みは、休止PBLに対して有毒である。CMVプロモーター下でeGFPをコードするプラスミドDNAの存在下、eGFPをコードするmRNAの存在下、および高分子FITC−デキストラン(500 kD)の存在下で、休止PBLをエレクトロポレーションした。生存率および発現レベルを、トリパンブルー色素排除およびフローサイトメトリー解析によって、形質移入後7日目までモニタリングした。形質移入後の時間に対する、発現の依存性を示す。
【図10A】DNA取り込みは、休止PBLにおいてアポトーシスの増加をもたらした。CMVプロモーター下でDsRedをコードする200μg/mlのプラスミドDNAを用いて、休止PBLを形質移入し、形質移入後1日目に解析した。製品使用説明に従い、アポトーシス指標であるFITC−VAD−FMK(Promega、Madison, WI)を用いて、形質移入された細胞を標識した。形質移入された細胞のアポトーシスおよび導入遺伝子発現を、FACSによって解析した。
【図10B】EP、DNAまたはカスパーゼ阻害剤(Enzyme System Product, Livermore, CA)の非存在下で(−E−D−I)、EPの存在下であるがDNAまたはカスパーゼ阻害剤の非存在下で(+E−D−I)、EPおよびカスパーゼ阻害剤の存在下であるが、DNAの非存在下で(+E−D+I)、EPおよびDNAの存在下であるが、カスパーゼ阻害剤の非存在下で(+E+D−I)、およびEP、DNAおよびカスパーゼ阻害剤の存在下で(+E+D+I)、Cell Death Detection ELISAPLUSキット(Roche, Indianapolis, IN)を用いて、形質移入された細胞を解析した。カスパーゼ阻害剤は、DNAで形質移入された休止PBLの細胞死を遅延させ得るのみであり、それを阻止することはできなかった(データは示していない)。
【図11A】休止PBMCにおける、αCD19キメラ発現を示す。−Eまたは+Eは、形質移入あり、またはなしの試料を示す。−CD19または+CD19は、5X104/ml(培養液中の全細胞の約3%)の自己CD19+CLL細胞の添加あり、またはなしの試料を表す。100 IU/mlのhIL−2を、細胞培養中に添加した。
【図11B】休止NK細胞における、αCD19キメラ発現を示す。−Eまたは+Eは、形質移入あり、またはなしの試料を示す。−CD19または+CD19は、5X104/ml(培養液中の全細胞の約3%)の自己CD19+CLL細胞の添加あり、またはなしの試料を表す。100 IU/mlのhIL−2を、細胞培養中に添加した。
【図11C】休止PBLにおける、αCD19キメラ発現を示す。−Eまたは+Eは、形質移入あり、またはなしの試料を示す。−CD19または+CD19は、5X104/ml(培養液中の全細胞の約3%)の自己CD19+CLL細胞の添加あり、またはなしの試料を表す。100 IU/mlのhIL−2を、細胞培養中に添加した。
【図11D】CLL患者由来の休止PBMCにおける、αCD19キメラ発現を示す。−Eまたは+Eは、形質移入あり、またはなしの試料を示す。−CD19または+CD19は、5X104/ml(培養液中の全細胞の約3%)の自己CD19+CLL細胞の添加あり、またはなしの試料を表す。100 IU/mlのhIL−2を、細胞培養中に添加した。
【図11E】CLL細胞由来の休止T細胞における、αCD19キメラ発現を示す。−Eまたは+Eは、形質移入あり、またはなしの試料を示す。−CD19または+CD19は、5X104/ml(培養液中の全細胞の約3%)の自己CD19+CLL細胞の添加あり、またはなしの試料を表す。100 IU/mlのhIL−2を、細胞培養中に添加した。
【図12A】αCD19キメラ受容体で形質移入された、休止PBLの特性を示す。形質移入されたPBLの、形質移入後の時間に対する生存率の依存性を示す。
【図12B】αCD19キメラ受容体で形質移入された、休止PBLの特性を示す。形質移入後の時間に対する、生存細胞回復の依存性を示す。
【図12C】αCD19キメラ受容体で形質移入された、休止PBLの特性を示す。CFSEで解析された、形質移入されたPBLの増殖を示す。
【図12D】αCD19キメラ受容体で形質移入された、休止PBLの特性を示す。CFSEで解析された、CD3+細胞の増殖を示す。
【図13A】αCD19キメラ受容体を形質移入された休止PBLによる、同種標的細胞/細胞株の死滅の特異性を示す。OP−1細胞株死滅の典型的なFACS解析結果を示す。
【図13B】αCD19キメラ受容体を形質移入された休止PBLによる、同種標的細胞/細胞株の死滅の特異性を示す。2人のドナー由来の形質移入されたPBLによる、特異的なOP−1死滅を示す。
【図13C】αCD19キメラ受容体を形質移入された休止PBLによる、同種標的細胞/細胞株の死滅の特異性を示す。形質移入されたPBLによる、非特異的なK562細胞の死滅を示す。
【図13D】αCD19キメラ受容体を形質移入された休止PBLによる、同種標的細胞/細胞株の死滅の特異性を示す。特異的なCLL細胞の死滅を示す。
【図14A】αCD19キメラ受容体を用いた形質移入後の、休止NK細胞による自己B CLL細胞の特異的な死滅(形質移入後1日目)を示す。
【図14B】αCD19キメラ受容体を用いた形質移入後の、休止PBMCによる自己B CLL細胞の特異的な死滅(形質移入後3日目)を示す。
【図14C】αCD19キメラ受容体を用いた形質移入後の、休止PBLによる自己B CLL細胞の特異的な死滅(形質移入後1日目)を示す。
【図14D】αCD19キメラ受容体を用いた形質移入後の、CLL患者由来の休止PBMCによる、精製されたCD19+CLL細胞の特異的な死滅(形質移入後2日目)を示す。
【図14E】αCD19キメラ受容体を用いた形質移入後の、CLL患者由来の休止CD3+細胞による、精製されたCD19+CLL細胞の特異的な死滅(形質移入後3日目)を示す。
【図15A】αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる、自己B細胞の特異的な死滅の持続期間を示す。形質移入後1日目で、4時間の死滅アッセイを遂行した。
【図15B】αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる、自己B細胞の特異的な死滅の持続期間を示す。形質移入後2日目で、4時間の死滅アッセイを遂行した。
【図15C】αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる、自己B細胞の特異的な死滅の持続期間を示す。形質移入後3日目で、4時間の死滅アッセイを遂行した。
【図15D】αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる、自己B細胞の特異的な死滅の持続期間を示す。形質移入後7日目で、4時間の死滅アッセイを遂行した。
【図16】CAR−形質移入されたPBMCによる、HS−スルタン(Sultan)リンパ芽球性細胞のインビトロでの死滅を示す。
【図17】CAR−形質移入されたPBMCによる、HS−スルタンリンパ芽球性細胞のインビボでの死滅を示す。CAR−形質移入されたPBMC(各々、0.7e6、2.3e6、6.7e6および20e6)と混合されたHS−スルタン細胞(1e6細胞)を、ベージュSCIDマウスに皮下注射した。表示された時点で、腫瘍容量を測定した。
【図18】抗CD19−BBzをコードするmRNAで形質移入されたサイトカイン誘導性NK細胞(LAK)は、抗CD19−BBzをコードするmRNAで形質移入されなかった刺激されたLAKよりも、HS−スルタン細胞に対してより強い細胞毒性を提示する。
【図19】増殖性T細胞中のCAR発現に対する、細胞内ドメインの効果を示す。CAR発現パーセントは、y軸上に示される。形質移入後の時間は、x軸上に示される。
【図20】増殖性T細胞中のCAR発現に対する、細胞内ドメインの効果を示す。MFIは、y軸上に示される。形質移入後の時間は、x軸上に示される。
【図21】異なる細胞内ドメインに連結されたCARで形質移入された増殖性T細胞による、K562の死滅を示す。
【図22】CD28細胞内ドメインは、刺激されていない休止PBMCにおけるよりも、T細胞においてより迅速にCARの発現を停止させる。
【図23】ss1−28z CARで形質移入された刺激されていない休止PBMCは、形質移入後4日目で、K562+細胞の死滅を維持した。
【発明を実施するための形態】
【0037】
例示的な態様の説明
本発明は、がんおよび他の過剰増殖性疾患等の、疾患の予防および処置のための方法ならびに組成物を提供する。特定の態様において、本発明は、以前に達成されていないレベルの、形質移入後の細胞生存率を提供する、一過的に改変されたNK細胞、T細胞、PBLおよび/またはPBMCの調製のための方法、改変された細胞による、特異的な抗腫瘍活性を向上させるキメラ受容体の発現、自己免疫治療レジメおよび同種免疫治療レジメにおける、簡便性ならびに臨床適用性、ならびに一過的改変における正確性の改善、ならびに形質移入された細胞の操作リスクの観点における安全性を、提供する。本方法は、広範なキメラ受容体構築物および治療タンパク質に適用可能である。
【0038】
影響を受ける生物活性が、新規に単離された(ローディングされていない)細胞組成物と比較して向上され、かつ操作された細胞の組成物が、病院および/または医師の診療所設備内で、臨床的に妥当な時間枠の範囲内において、細胞の培養、増殖、分化または操作の大規模なニーズを必要とせずに患者に安全に送達され得る、新規に単離された細胞集団内で所望の細胞の生物活性に影響を及ぼすように、例えば、ヌクレオチド(DNA、mRNA、microRNAまたはRNAi)、タンパク質および小型分子等の化学物質ならびに/または生物物質の、脂質二重層を横断する輸送を促進する一過的なエネルギー送達を利用する方法を使用して、例えば、末梢血、骨髄、脂肪または他の器官/組織起源等の起源由来の、新規に得られた刺激されていない休止細胞をローディングできることは、新規の治療産物の開発および送達へのアプローチと同様に、融合医療の脈絡における複合的な免疫疾患のための効果的な処置として、固有の細胞治療組成物を提供する。
【0039】
具体的に、免疫治療産物の開発へのアプローチであって、それによって末梢血由来の刺激されていない単核細胞が患者から得られ、新規に単離された単核細胞の生物活性に影響を及ぼすように、電気的、光、音、熱、波動、ならびに化学媒介および/または生物媒介等の一過的なエネルギーの送達を使用して、関連の化学物質または生物物質と共にローディングされ、かつ新規に単離された細胞に含まれる特異的な単核細胞集団における生物活性の向上をもたらすように、そのすぐ後に患者に自己輸血される、患者の処置のための治療効果の向上をもたらす。この治療アプローチは、生物活性(効力)に強く影響を及ぼすために、増殖され/活性化され、かつ形質転換されねばならない精製細胞、単離細胞、または濃縮細胞の使用に対する代替物を提供する可能性があり、かつしたがって医療介入を要する複合的な状況において好ましい可能性がある。
【0040】
複数起源(末梢血、骨髄穿刺液、脂肪吸引物、組織特異的灌流液/単離物)から得られた単核細胞は、分子経路の調節の所望のレベルおよび持続期間を得るように、以下電気的なローディングと称される電気エネルギーを使用し、制御された様式において、化学物質および/または生物物質を用いて効果的にローディングされ得る。分子経路の介入の制御は、対象/患者に戻し投与される場合、細胞の生物活性に影響を及ぼすための手段を提供し、したがって、そうでなければ、新規に単離された未改変の細胞の投与においては提供されない、効力および効率を緩和する能力が増強される。
【0041】
A.ナチュラルキラー細胞
特定の態様において、本発明は、過剰増殖性疾患の処置において、遺伝学的に改変されたナチュラルキラー細胞を利用する。ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、細胞毒性リンパ球の一種である。NK細胞は、インターフェロンまたはマクロファージ誘導性サイトカインに応答して活性化され、かつそれらは、腫瘍およびウイルスにより感染を受けた細胞の拒絶反応において、主要な役割を担う。NK細胞は、パーフォリンと称される小型細胞質顆粒、および標的細胞に致死をもたらすグランザイムを放出することによって、がん細胞およびウイルス感染を受けた細胞を死滅させる。
【0042】
NK細胞は、T細胞受容体(CD3)の欠如、およびその表面でのCD56の発現によって特徴付けられる。したがって、これらの特徴は、NK細胞を他の細胞種から分離するために使用され得る。細胞毒性Tリンパ球(CTL)と対照的に、NK細胞は、抗原活性化を必要とせず、かつMHC拘束性でない。
【0043】
がん細胞の自己HLA分子は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)に結合し得て、かつNK細胞の死滅を阻害し得るため、がん細胞は、NK細胞による死滅を回避することが可能である。本発明は、この阻害を克服する方法および組成物を提供し、かつNK細胞のがん細胞死滅を促進する。
【0044】
B.T細胞
いくつかの態様において、本発明は、過剰増殖性疾患の処置において、遺伝学的に改変されたT細胞を利用する。T細胞は、細胞媒介性免疫において役割を担う。T細胞が、B細胞およびNK細胞等の他のリンパ球と識別され得る一つの様式は、その細胞表面でのT細胞受容体(TCR)の存在による。CD8+T細胞の活性化およびCD4+T細胞の活性化は、抗原提示細胞(APC)上の主要組織適合性複合体(MHC)ペプチドおよびB7ファミリーメンバーによる、T細胞上でのT細胞受容体およびCD28の双方の係合によって生じる。CD28共刺激の非存在下におけるT細胞受容体(TCR)の抗原への嵌入は、クローンアネルギーと称される長期の低応答状態をもたらし得る(Schwartz, 2003)。アネルギー性T細胞は、不完全なIL−2産生、ならびにTCRおよびCD28を介する再刺激後の不完全な増殖を示し、かつ減少したレベルで他のサイトカインを産生する。アネルギーは、末梢性トレランス(Ramsdell et al., 1989)の一つの機構を表し得て、かつインビボの非産生的抗腫瘍免疫の状況において生じることが報告されている(Staveley−O’Carroll et al., 1998)。
【0045】
C.キメラ受容体
キメラ受容体は、標的細胞表面上の特異的抗原に対する細胞外ドメイン、および細胞質中の活性化/刺激ドメインを一般的に含む。NK細胞、T細胞、PBLまたはPBMCにおけるキメラ受容体の発現は、NK細胞、T細胞、PBLまたはPBMCを標的細胞に直接的に結合させ、かつ結果として、NK細胞またはT細胞が標的細胞を死滅させることを可能にする。この機構の下で、標的細胞の死滅は、HLA型関連性のNK細胞の死滅阻害、およびT細胞誘導性の標的細胞の死滅に関するT細胞受容体(TCR)要求性を回避し得る。本発明の一つの態様において、キメラ受容体は、4-1 BB細胞内ドメイン、およびCD3ζドメインにコンジュゲートされた単鎖抗体を含む、抗CD19キメラ受容体である。キメラ受容体分子は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第2004/0038886号に記載されている。
【0046】
D.過剰増殖性疾患
本発明は、がんを含むが、これに限定されない過剰増殖性疾患の処置および予防において使用され得る。過剰増殖性疾患は、その症状の一部として、細胞数の異常な増加を含む任意の疾患または状態である。良性の前立腺肥大および卵巣嚢胞等の良性疾患は、そのような疾患に包含される。扁平上皮過形成等の前癌病変も包含される。過剰増殖性疾患の対極にあるのは、がんである。過剰増殖性疾患は、任意の細胞種の細胞を包含し得る。過剰増殖性疾患は、正常細胞と比較して、個々の細胞の寸法の増加に関連するか、またはしない場合がある。
【0047】
別の種類の過剰増殖性疾患は、過剰増殖性病変であって、細胞数の異常な増加によって特徴付けられる病変である。この細胞数の増加は、病変の寸法の増加に関連するか、またはしない場合がある。処置に関して考慮される過剰増殖性病変の例は、良性腫瘍および前癌病変を包含する。例として、扁平上皮過形成的病変、前癌上皮病変、乾癬病変、皮膚疣贅、爪周囲疣贅、肛門性器疣贅、疣贅状表皮発育異常症、上皮内腫瘍病変、局所性上皮過形成、結膜乳頭腫、結膜がん腫、または扁平上皮がん腫病変を包含するが、これらに限定されない。病変は、任意の細胞種の細胞を包含し得る。例として、ケラチノサイト、上皮細胞、皮膚細胞および粘膜細胞を包含する。
【0048】
E.がん
本発明は、がんの処置および予防のための、方法ならびに組成物を提供する。がんは、米国で、毎年およそ526,000人の死亡原因となっている主要な死因の一つである。本明細書において使用される「がん」という用語は、腫瘍等の、制御できない組織の増殖または細胞増殖と定義される。
【0049】
がんは、遺伝的改変の蓄積によって発症し(Fearon and Vogelstein, 1990)、かつ正常な周辺細胞を上回る増殖利点を獲得する。正常細胞の腫瘍性細胞への遺伝的形質転換は、一連の進行段階によって生じる。遺伝的進行モデルは、頭頸部がん等の一部のがんにおいて研究されている(Califano et al., 1996)。任意の種類のがんの処置および予防が、本発明によって考慮される。本発明はまた、がんの病歴を有する対象におけるがんの予防の方法も考慮する。がんの例は、上に列挙されている。
【0050】
F.エレクロトポレーション
特定の態様は、一つまたは複数の核酸分子が、ナチュラルキラー(NK)細胞等の免疫系の細胞中に入るのを促進するために、エレクトロポレーションの使用を包含する。
【0051】
本明細書において使用される、「エレクトロポレーション」とは、核酸分子が細胞中に入るのを促進するために、細胞に対する電流または電場の適用を指す。当業者は、任意のエレクトロポレーションの方法および技術が、本発明によって考慮されることを理解すると考えられる。しかしながら、本発明の特定の態様において、エレクトロポレーションは、その全体の開示が参照により本明細書に具体的に組み入れられる、2002年8月21日出願の米国特許出願第10/225,446号に記載されるように実施されてもよい。
【0052】
本明細書の他の態様において、米国特許第5,612,207号(参照により本明細書に具体的に組み入れられる)、同第5,720,921号(参照により本明細書に具体的に組み入れられる)、同第6,074,605号(参照により本明細書に具体的に組み入れられる)、同第6,090,617号(参照により本明細書に具体的に組み入れられる)、および同第6,485,961号(参照により本明細書に具体的に組み入れられる)に記載されるように、電気的にローディングが実施されてもよい。
【0053】
本発明の脈絡において使用され得る、電気的なローディングに関する他の方法および装置はまた、例えば、全てが参照により組み入れられる、公開PCT出願第WO 03/018751号および同WO 2004/031353号;米国特許出願第10/781,440号、同第10/080,272号および同第10/675,592号;ならびに米国特許第6,773,669号、同第6,090,617号、同第6,617,154号にも記載されている。
【0054】
G.薬学的調製物
1.製剤
対象への投与のために、形質移入された細胞の薬学的調製物が、本発明によって考慮される。当業者は、対象への細胞の投与のための技術に精通していると考えられる。さらに、当業者は、対象への投与に先立ち、これらの細胞の調製に必要な技術および薬学的試薬に精通していると考えられる。
【0055】
本発明の特定の態様において、薬学的調製物は、遺伝学的に操作された受容体を発現するよう改変された形質移入細胞を包含する、水溶性組成物であると考えられる。特定の態様において、形質移入された細胞は、対象から得られる細胞(すなわち、自己細胞)を使用して調製される。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体または水溶性培地中に、有効量の形質移入細胞溶液を含む。本明細書において使用される、「薬学的調製物」または「薬学的組成物」は、任意で、かつ全ての溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を包含する。薬学的活性物質に関するそのような培地および物質の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来型培地または物質が、形質移入されたがん細胞と不適合である場合を除き、治療組成物中でその使用が考慮される。補助活性成分も、組成物中に組み入れられ得る。ヒトへの投与に関して、調製物は、米国食品医薬品局生物製剤センター(FDA Center for Biologics)により要求される無菌性、発熱原性、一般的な安全性基準および純度基準を満たされねばならない。
【0057】
形質移入されたがん細胞は、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腫瘍内注射等の任意の公知の経路による投与、または任意の他の経路による適用のために製剤され得る。当業者は、注射または任意の他の経路による適用のための、無菌溶液を生成する技術に精通していると考えられる。投与される細胞数の決定は、当業者によってなされ、かつ、がんの程度および重度、ならびに形質移入された細胞が既存のがんの処置のためか、またはがんの予防のために投与されるか否かに、ある程度依存すると考えられる。形質移入された細胞を含む薬学的組成物の調製は、本開示を鑑みて当業者に公知であると考えられる。形質移入された細胞は、他の免疫治療または化学治療等の、対象の治療レジメの一部である他の物質と共に投与され得る。いくつかの態様において、約1e7、1e8、1e9もしくは1e10、またはそこで推論可能な任意の範囲の形質移入された細胞が、用量当たり投与される。特定の局面において、数日間、数週間、数ヶ月または数年に渡って、複数用量が投与され得る。対象は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20用量を受ける可能性がある。
【実施例】
【0058】
H.実施例
以下に続く実施例は、本発明の特定の態様を実証するために包含される。以下に続く例において開示される技術は、本発明の実践において良好に機能するよう本発明者によって見出された技術を代表することが、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、本開示を鑑みて、当業者は、開示される特定の態様において多数の改変がなされ得て、かつ本発明の精神および範囲を逸脱することなく、依然として同様または類似の結果が得られることを理解するべきである。
【0059】
実施例1
マーカー遺伝子をコードするDNAプラスミドを用いた、NK細胞の電気的なローディング
eGFPマーカー遺伝子を保持するDNAプラスミドを用いたエレクトロポレーションを使用して、NK細胞を形質移入した。形質移入後一日目に、生存NK細胞および形質移入されたNK細胞を解析し、図1Cに示されるように、各々約50%および30%であることを見出した。形質移入されていない対照細胞に標準化される場合、このプラスミドDNAを使用して形質移入されたNK細胞の生存率は、約60%であった。およそ50%の生存NK細胞が、eGFPマーカー遺伝子を発現した。表現型においていかなる有意な変化も観察されなかった。NK細胞は、形質移入後1日目で良好に形質移入され得るが、形質移入されたNK細胞は、DNA取り込みに媒介される細胞毒性のため、増殖能力および生存力を喪失した。したがって、NK細胞のDNA形質移入は、有意義な臨床的適用をもたらさないと考えられる。
【0060】
実施例2
マーカー遺伝子をコードするmRNAを用いた、増殖性NK細胞の電気的なローディング
図1Dに示されるように、eGFPをコードするmRNAを、増殖性NK細胞中に電気的に形質移入した。約80%の生存細胞が、GFPを発現した。同時に、NK細胞の生存率は、形質移入されていない対照において67%、および形質移入された細胞において60%であった。形質移入されていない対照細胞に標準化される場合、形質移入された細胞の生存率は90%であった。mRNAを形質移入された細胞は、形質移入後1日間に渡って、細胞分裂の速度減少を示したが、後に、正常な細胞分裂速度を取り戻した。形質移入されたNK細胞は、形質移入後4日目で、形質移入されていない対照の細胞と比較して、およそ半分の細胞数を維持した(図1E)。
【0061】
実施例3
キメラ受容体をコードするmRNAを用いた、増殖性NK細胞の電気的なローディング
抗CD19キメラ受容体をコードするmRNAを、電気的なローディングによってNK細胞中にローディングした。図2Aに示されるように、形質移入後1日目のフローサイトメトリーによって解析されるように、全生存細胞の65%が抗CD19キメラ受容体を発現した。抗CD19キメラ受容体の発現は、電気的なローディングにおいて使用されるmRNA濃度の増加に伴い増加した。200μg/mlの濃度のmRNAを使用して、電気的なローディング後4日間に渡って、抗CD19キメラ受容体の発現を観察した(図2B)。抗CD19キメラ受容体で改変されたNK細胞の回復は、マーカー遺伝子eGFPをコードするmRNAで電気的に形質移入された細胞のものと類似していた。
【0062】
実施例4
刺激されていない休止NK細胞の電気的なローディング
磁性ビーズ(Miltenyi Biotec, CD56+NK細胞単離キット)への免疫吸着を使用して、末梢血単核細胞(PBMC)集団から、新規に収集された休止NK細胞を単離した。最小限のCD3+細胞によって表される>90%の純度を達成し、NK細胞をネガティブセレクションした(図3A)。抗CD19キメラ受容体をコードするmRNAの電気的なローディングは、形質移入後1日目の50〜60%の電気的にローディングされた休止NK細胞において、抗CD19キメラ受容体の発現をもたらした(図3B)。形質移入後2日目の電気的に形質移入されたNK細胞において、抗CD19キメラ受容体の発現に、形質移入後1日目からいかなる有意な減少も観察されなかった(図3C)。エレクトロポレーションされなかった対照細胞の生存率、および形質移入後1日目の電気的に形質移入されたNK細胞の生存率は、各々、75%および60%であって、かつエレクトロポレーションされなかった対照細胞に標準化される場合、形質移入細胞に関して約80%であった(図3D)。eGFPをコードするmRNAで電気的に形質移入された場合、休止NK細胞のGFP発現(>80%)、および増殖性NK細胞のGFP発現(約80%、上記実施例2を参照のこと)は、eGFPをコードするDNAプラスミドで電気的に形質移入された増殖NK細胞のGFP発現(約50%)と比較して、極めてより効率的であった。
【0063】
実施例5
キメラ受容体をコードするmRNAを用いて電気的に形質移入されたNK細胞による、白血病細胞の死滅
キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAによって電気的に形質移入されたNK細胞による、白血病細胞の特異的な死滅をアッセイするため、標的細胞として、細胞株OP−1を使用した。CD3+細胞の存在下または非存在下で溶解を実施した。製造者のプロトコールに従い、ポジティブセレクションによるCD3+細胞の除去に関して設計された、抗CD3抗体にコンジュゲートされたダイナルビーズ(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して、キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAでの電気的なローディングの直前に、増殖性NK細胞集団中のCD3+細胞の除去を実施した(図4A)。図4Bは、CD3+細胞の除去あり、またはなしのいずれかの試料に由来する、類似の死滅曲線を示す。
【0064】
キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞による死滅を、マーカー遺伝子eGFPをコードするmRNAを使用して電気的に形質移入し、それ以外は同一のNK細胞、またはいかなる外来性mRNAもない同一のエレクトロポレーション処置を受けた細胞と比較することによって、白血病細胞の死滅に関する抗CD19キメラ受容体の特異性を確認した。外来性mRNAの非存在下でエレクトロポレーションされたNK細胞、eGFPをコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞、およびキメラ抗CD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞は、電気的なローディング後に類似の細胞生存率を提示した(図5A)。外来性mRNAの非存在下でエレクトロポレーションされたNK細胞、およびeGFPをコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞の双方は、カルセイン標識されたOP−1白血病細胞を死滅させることができなかった(図5Bおよび5C)。キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞は、カルセイン標識されたOP−1細胞と混合された場合、標的標識されたOP−1細胞の有意な溶解をもたらした(図5Bおよび5C)。
【0065】
キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞による、標識されたOP−1細胞の特異的な溶解は、キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAの濃度に比例していた。細胞の死滅は、形質移入後、早ければ3時間で観察された(図6A)。4時間の共培養によって、1:2の比率(エフェクター:標的(E:T))でおよそ80%のOP−1細胞の溶解がもたらされた。一晩の共培養によって、同一の1:2の比率で、ほぼ100%のOP−1細胞の溶解がもたらされた。図6A〜6Dに示されるように、抗CD19キメラ受容体で形質移入された細胞は、形質移入後3日間に渡って、特異的な死滅活性を維持した。形質移入後3日目で、抗CD19キメラ受容体で形質移入された細胞は、2:1および4:1のE:T比率で4時間の共培養後、各々80%および100%の標的OP−1細胞を溶解させた(図6D)。図7Aは、2人の異なるドナー由来の初代NK細胞の細胞毒性結果を要約する。抗CD19キメラ受容体で電気的に形質移入された、双方のドナー由来のNK細胞は、類似の標的細胞溶解効率および動態を示した。
【0066】
電気的なローディング後1日目に、休止NK細胞による標的細胞株OP−1の特異的な死滅をアッセイした。図7Bに示されるように、抗CD19キメラ受容体で電気的にローディングされた休止NK細胞は、OP−1細胞を効率的に死滅させることができた。8:1のE:T比率で、4時間の共培養死滅アッセイにおいて、約80%の標的細胞が溶解した。ナイーブNK細胞およびGFPを発現する休止NK細胞は、標的OP−1細胞を溶解させなかった。双方のドナー由来の休止NK細胞は、類似の溶解活性を実証した。
【0067】
実施例6
キメラ抗CD19をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入された休止NK細胞は、同種の初代B細胞性白血病細胞の特異的な死滅を示した
キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞、eGFPをコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞、および外来性mRNAの非存在下でエレクトロポレーションされたNK細胞を、標識されたB−CLL標的細胞を特異的に溶解させる能力に関してアッセイした。eGFPをコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞、または外来性mRNAの非存在下で電気的に形質移入されたNK細胞と比較して、キメラ抗CD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞によって、有意なパーセンテージのB−CLL細胞が溶解した。これらのアッセイにおいて、2人のドナー由来の標的B−CLLを使用し、かつ結果を図8Aに要約した。キメラCD19受容体をコードするmRNAを使用して電気的に形質移入された休止NK細胞は、形質移入後少なくとも2日間に渡ってB−CLL細胞を死滅させることができ(図8B)、かつこれらの標識されたB−CLL細胞の死滅は、eGFPをコードするmRNAを使用して電気的に形質移入されたNK細胞、または外来性mRNAの非存在下で電気的に形質移入されたNK細胞のいずれによるものよりも、有意により高かった。
【0068】
実施例7
DNAの取り込みは、休止PBLに対して毒性である
CMVプロモーター制御下でeGFPをコードするプラスミドDNAの存在下、eGFPをコードするmRNAの存在下、および高分子FITC−デキストラン(500 kD)の存在下で、休止PBLをエレクトロポレーションした。トリパンブルー色素排除およびフローサイトメトリー解析によって、形質移入後7日目までに渡って、生存率および発現レベルをモニタリングした。図9Aは、典型的なFACS解析データを示す。図9Bおよび9Cに示されるように、DNAの存在下でエレクトロポレーションされた細胞の生存率は、mRNAまたはFITC−デキストランを用いてエレクトロポレーションされた細胞と比較して、極めてより低かった。さらにmRNA−GFP(図9D)と比較して、DNA−GFPを用いて形質移入された細胞において、GFP発現は極めてより低かった。
【0069】
DNAの取り込みはまた、休止PBLにおいてアポトーシスの増加ももたらした。CMVプロモーターの制御下でDsRedをコードする、200μg/mlのプラスミドDNAを用いて休止PBLを形質移入し、形質移入後1日目に解析した。製品説明書に従い、アポトーシス指標のFITC−VAD−FMK(Promega, Madison, WI)で形質移入された細胞を標識した。形質移入された細胞のアポトーシスおよび導入遺伝子発現を、FACSによって解析した(図10A)。アポトーシス性細胞のパーセンテージは、対照細胞と比較して、形質移入された細胞において2倍超多かった(図10A)。エレクトロポレーション、DNAまたはカスパーゼ阻害剤(Enzyme System Product, Livermore, CA)なしで(−E−D−I)、エレクトロポレーションを用いるが、DNAまたはカスパーゼ阻害剤なしで(+E−D−I)、エレクトロポレーションおよびカスパーゼ阻害剤を用いるが、DNAなしで(+E−D+I)、エレクトロポレーションおよびDNAを用いるが、カスパーゼ阻害剤なしで(+E+D−I)、かつエレクトロポレーション、DNAおよびカスパーゼ阻害剤を用いて(+E+D+I)形質移入された細胞を、Cell Death Detection ELISAPLUSキット(Roche, Indianapolis, IN)を用いて解析した(図10B)。カスパーゼ阻害剤は、DNAで形質移入された休止PBLの細胞死を遅延させ得るのみで、阻止することはできなかった。
【0070】
実施例8
健康なドナー由来の休止PBMC、NK細胞、PBL、ならびにCLL患者由来のPBMCおよびCD3+T細胞におけるキメラ受容体発現
健康なドナー由来の休止PBMC(図11A)、休止NK細胞(図11B)、休止PBL(図11C)、ならびにCLL患者由来のPBMC(図11D)およびCD3+細胞(図11E)において、αCD19キメラ発現を評価した。図12Aは、形質移入後少なくとも7日間に渡って、αCD19キメラ受容体をコードするmRNAで形質移入されたPBLの、高い生存率を示す。図12Bは、形質移入後の時間に対する、生存細胞回復の依存性を示す。図12Cは、CFSEで解析される、形質移入されたPBLの増殖を示す。図12Dは、CFSEで解析されるCD3+細胞の増殖を示す。
【0071】
実施例9
αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる、同種標的細胞/細胞株の死滅の特異性
本研究において、αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる、同種標的細胞/細胞株の死滅の特異性を評価した。図13Aは、OP−1細胞株死滅の典型的なFACS解析結果を示す。図13Bは、ナイーブPBLまたはGFPで形質移入されたPBLは特異的にOP−1細胞を死滅させないが、2人のドナー由来の形質移入されたPBLによるOP−1の特異的な死滅を示す。図13Cは、形質移入されたPBLによる、K562細胞の非特異的な死滅を示す。図13Dは、CLL細胞の特異的な死滅を示す。
【0072】
実施例10
健康なドナー由来のαCD19キメラ受容体で形質移入された休止NK細胞、休止PBMC、休止PBL、ならびにCLL患者由来の休止PBMCおよびCD3+細胞による、自己B細胞の死滅または精製されたCD19+CLL細胞の死滅の特異性
図14A〜14Dは、αCD19キメラ受容体を用いた形質移入後の、休止NK細胞(形質移入後1日目)(図14A);休止PBMC(形質移入後3日目)(図14B);休止PBL(形質移入後1日目)(図14C);CLL患者由来の休止PBMC(図14D)およびCLL患者由来の休止CD3+T細胞(図14E)による、自己B細胞またはCD19+CLL細胞の特異的な死滅を示す。図15A〜15Dは、αCD19キメラ受容体で形質移入された休止PBLによる自己B細胞の特異的な死滅の持続期間を示す。形質移入後1日目で(図15A)、形質移入後2日目で(図15B)、形質移入後3日目で(図15C)、かつ形質移入後7日目で(図15D)、4時間の死滅アッセイを遂行した。
【0073】
材料および方法
細胞
CD19+ヒトB系譜ALL細胞株、OP−1(St. Jude Children’s Research Hospitalで開発)、および、これもまたSt. Jude Children’s Research Hospitalで開発された4 1BBリガンドおよび膜結合IL−15(K562−4−15)を共発現する、遺伝学的に操作された骨髄性白血病細胞株K562を、10%ウシ胎児血清および抗生剤が添加されたRPMI−1640中で維持した。B−CLLを患う2人の患者由来の初代白血病細胞を、フィコールプラーク密度勾配遠心分離後の界面層中の細胞を直接収集することにより得て、2回のPBS洗浄後、使用まで凍結した。健康なドナー由来の初代末梢血単核細胞(PBMC)を、BRT Laboratories, Inc.(Baltimore, MD)から購入した白血球搬出産物から調製した。標準的なフィコール密度勾配遠心分離における界面層からPBMCを得て、リン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、凍結し、使用まで液体窒素中で貯蔵した。使用する場合は常に、10%ウシ胎児血清および抗生剤が添加されたRPMI−1640中で、初代細胞を培養した。ミルテニーキットを使用するネガティブ精製法によって、CD3+細胞を得た。
【0074】
ミルテニーキット(Auburn, CA)に添付されるプロトコールに従って、休止NK細胞をネガティブセレクションし、使用まで液体窒素中で凍結した。Imaiらによって以前に記載されたように、初代NK細胞を増殖させた。St. Jude Children’s Research Hospital により提供され、かつNK細胞との培養に先立ち10,000〜20,000ラドで放射線照射された、4−1BBリガンドおよび膜結合IL−15(K562−4−15)を発現する解凍したK562を用いて、末梢血単核細胞を培養した。標的細胞と共にNK細胞を培養することによって、NK細胞の死滅を10 IU/ml〜100 U/mlのIL−2、10%FBSおよび抗生剤の存在下で遂行することが可能になる。
【0075】
解凍後30分間に渡って、遠心チューブ中で解凍したPBMCを保温し、遠心分離によって全ての細胞を収集することによって、PBMCを調製した。組織培養フラスコ中で1〜2時間に渡って解凍したPBMCを培養し、懸濁された細胞のみを収集することによって、PBLを調製した。
【0076】
電気的なローディングのための分子
4−1BB細胞内ドメイン、およびCD3ζドメインにコンジュゲートされた単鎖抗体をコードする元のプラスミドpMSCV抗CD19BBZ(St. Jude Children’s Research Hospitalで生成)およびpVAX1(Invitrogen, Carlsbad, CA)ベクターを、EcoR IおよびXho Iで消化することによって、pVAX1ベクター中への抗CD19キメラ受容体のクローニングを遂行し、T4 DNAリガーゼを使用して連結した。抗CD19キメラ受容体を含むpVAX1ベクターのクローン化された鋳型を用いて、Ambion mMESSAGE mMACHINE T7 Ultraキット(Ambion, Austin, TX)を使用して、抗CD19キメラ受容体をコードするmRNAを、T7ポリメラーゼを用いてインビトロで転写した。mRNA変性バッファー(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で、70℃で15分の変性後に、1%アガロースゲル、およびOD260/280測定によって、mRNAの質および量を解析した。CMVプロモーター下でpCI(Promega, Madison, WI)バックボーン上にeGFPをコードするプラスミドDNAを、DNA形質移入のために使用した。pCI−eGFP、および上に記述されたものと同一のAmbionキットを使用して、GFPをコードするmRNAを産生した。FITC−デキストランを、Sigma(St. Luis, MO)から購入した。FITCコンジュゲートされた対照siRNAを、Qiagen(Valencia, CA)から購入した。
【0077】
形質移入
凍結培地(FBS中の10%DMSO)中の休止NK細胞を37℃湯煎中で解凍し、凍結培地容量の10Xの容量を用いて、事前保温された新規の完全培地(RPMI−1640+10%FBS+抗生剤)中で、37℃で0.5〜1時間に渡って保温し、形質移入に備えた。形質移入に関して表示された時点で、増殖性NK細胞を収集した。形質移入前に、増殖性NK細胞をMXCT EPバッファーで一回洗浄した。0.5%FBSおよび2 mM EDTAを含むPBS中で刺激されていない休止細胞を2回洗浄し、0.1%BSAをさらに含むMXCT EPバッファー中で3回洗浄した。洗浄後、増殖性NK細胞、休止NK細胞、PBL細胞、PBMC、T細胞およびCD8+細胞をMXCT EPバッファー中に懸濁し、ローディング/形質移入される分子と混合し、MXCTチャンバー中に移し、MXCT GTシステム(Maxcyte Gaithersburg, MD)の各々、増殖性NK細胞および休止NK細胞のための、「増殖性NK細胞#3」および「休止NK#1」プログラムで形質移入し、保温チューブに移し、37℃で20分間に渡って保温し、培養培地に戻した。ローディング効率または発現効率を、フローサイトメトリーによって解析した。
【0078】
キメラ受容体の発現の検出、および免疫表現型決定
形質移入されたNK細胞を、ビオチンコンジュゲートされたヤギ抗マウス(Fab)2ポリクローナル抗体(Jackson immuno Research labs, West Grove, PA)で染色し、続いてペリジニン−クロロフィルタンパク質(PerCp;Becton Dickinson, San Jose, CA)で標識されたストレプトアビジンで染色した。ヤギビオチンコンジュゲートされたIgG、続いてストレプトアビジン−PerCpを用いたバックグラウンド細胞に従い、陽性細胞を選別した。
【0079】
増殖性NK細胞および形質移入されたNK細胞の免疫表現型決定に関して、以下の抗体を使用した:フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲートされた抗CD3、フィコエリスリン(PE)コンジュゲートされた抗CD19、抗CD16−PEおよび抗CD56−PE。FACSCalibur(Becton Dickinson)によって、抗体染色を解析した。
【0080】
細胞死滅アッセイ
多数の細胞死滅の研究を促進するため、アセトキシメチル−カルセイン(カルセイン−AM、Molecular Probes, Eugene, OR)染色およびフローサイトメトリーに基づいて、細胞死滅アッセイを開発した。簡単に、カルセイン−AMで事前標識された標的細胞(100μl)を、96ウェルU底組織培養プレート(Costar, Cambridge, MA)の各ウェル中で、様々なエフェクター対標的(E:T)比率で、100μlの形質移入されたNK細胞、非形質移入初代NK細胞、または新規の培地のみのいずれかと共培養した。37℃、5%CO2インキュベータでの細胞培養に先立ち、96ウェルプレートを400gで5分間に渡って遠心した。元の培養培地で細胞を懸濁し、表示された時点でのFACS解析のために、FACSチューブに移した。
【0081】
いくつかの研究において、Imaiらにおいて記載される細胞死滅アッセイが続いた。簡単に、100μl中の原標的細胞の105細胞を、96ウェルU底組織培養プレート(Costar, Cambridge, MA)の各ウェル中で、様々なエフェクター対標的(E:T)比率で、100μlの形質移入されたNK細胞、非形質移入初代NK細胞または新規の培地のみのいずれかと共培養した。400gX5分間の遠心後、細胞を所望の細胞死滅時間に渡って培養した。細胞を収集し、抗CD19−FITCおよび抗CD56−PE抗体と、氷上で20分間に渡って共染色した。PBS中で洗浄後、細胞を200μlのPBSで再懸濁し、フローサイトメトリーにより解析した。
【0082】
外来性IL−2の非存在下で培養を遂行した。15秒の収集でFACSCaliburを使用して、FACS解析を遂行した。特異的な細胞溶解率(%)を100-Ntarget/NControlX100により算出し、ここでNtargetは、NK細胞と共培養された生存標的細胞の数であり、かつNControlは、単独で培養された生存標的細胞の数である。
【0083】
実施例11
CARを発現するPBMCは、HS−スルタン細胞をインビトロかつインビボで死滅させる
抗CD19−BBzをコードするmRNAで、ヒトPBMCを電気的にローディングした。形質移入後4日目又は7日目に、様々なエフェクター:標的(E:T)比率で、カルセインAMで事前標識された、CD19+白血病細胞株であるHS−スルタン細胞とPBMC(形質移入されたか、または非形質移入の(ナイーブ))を、インビトロで混合した。混合後4時間で、FACSによる細胞の細胞毒性試験を遂行した。図16に示されるように、形質移入されたPBMCは、試験された全てのE:T比率で、4日目および7日目にHS−スルタン細胞を死滅させることができ、7日目より4日目で死滅はより効率的であった。さらに、より高いE:T比率で、死滅の増加が達成された。
【0084】
CARを発現するPBMCが、インビボで腫瘍細胞を死滅させ得ることを実証するため、ベージュSCIDマウスにおけるHS−スルタン皮下共混合モデルを使用した。抗CD19−BBzをコードするmRNAを用いた、mRNA形質移入後1日目のPBMC(形質移入されたか、または非形質移入の)を異なる比率でHS−スルタン細胞と混合し、表1に示されるように、マウスに皮下注射した(5マウス/群)。
【0085】
【表1】

【0086】
マウスの腫瘍容量を、0日目、14日目、18日目および26日目に測定した。図17に示されるように、研究群3、4、および5において、いかなる測定可能な腫瘍も発症しなかった。PBMC対照におけるものと類似の測定可能な腫瘍が、最低用量のCARを発現するPBMCを受ける研究群において見られた(0.7e6)。
【0087】
さらなるインビボの研究において、サイトカイン誘導性NK細胞(LAK)を、抗CD19−BBzをコードするmRNAを用いて形質移入し、細胞毒性研究のためHS−スルタン細胞と混合した。LAK細胞は、腫瘍細胞に対して細胞毒性であるよう、インターロイキン2により刺激されたNK細胞である。図18に示されるように、対照LAK細胞(従来型)は、HS−スルタン細胞に対して細胞毒性であったのに対し、形質移入されたLAK細胞(操作されたLAK細胞)は、有意により細胞毒性であった。
【0088】
実施例12
CAR発現に対する細胞内ドメインの効果
キメラ抗原受容体中の細胞内ドメインの効果を、ss1−28−BBz、ss1−28z、ss1−BBzまたはss1−zの4つの抗メソセリンCARを用いて評価した。41BBおよびCD28に由来する3つの細胞内活性化ドメインの組み合わせを含む、抗メソセリン(ss1)マウス単鎖Fv結合ドメイン、およびTcRz鎖の細胞内部分から構成されるCARをコードするRNAを調製した。
【0089】
ss1−myc−28−BBz、ss1−28z、ss1−BBzまたはss1−z mRNAを用いて、増殖性T細胞を電気的にローディングした。図19および20に示されるように、CD28細胞内ドメイン(ss1−myc−28−BBzおよびss1−28z)を含むmRNAで形質移入されたT細胞において、CAR発現はより迅速に減少した。CAR発現の減少は、がん細胞を死滅させるT細胞の能力の減少と関連付けられた。図21に示されるように、ss1−BBzおよびss1−z(すなわち、CD28細胞内ドメインを有しないmRNA)で形質移入されたT細胞のみが、形質移入後3日間、K562細胞死滅の能力を維持した。
【0090】
PBMCおよび増殖性T細胞において、ss1−28zの発現を比較した。図22に示されるように、ss1−28zの発現は、PBMCにおいてよりも、T細胞において、より迅速に減少する。これは、T細胞が、PBMCより迅速に倍加する結果であり得る。ss1−28zで形質移入されたPBMCは、形質移入後4日目で、K562+細胞死滅の能力を維持した(図23)。
【0091】
本明細書において開示され、かつ特許請求される全ての組成物および方法は、本開示を鑑みて、過度の実験なくなされ得て、かつ遂行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい態様の観点において記載されているが、組成物および方法に対して、ならびに本明細書に記載される方法の段階、または一連の段階において、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく変動が適用され得ることは、当業者に明確であると考えられる。より具体的に、同一または類似の結果が達成されると考えられる限り、化学的、かつ生理学的の双方で関連する特定の物質は、本明細書に記載される物質と置換され得ることが、明確であると考えられる。当業者に明確な、全てのそのような類似の置換および改変は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【0092】
以下の参考文献は、例示的な手順、または本明細書に示される内容に補足的な他の詳細をある程度提供するが、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、刺激されていない休止末梢血単核細胞(PBMC)を、その表面にキメラ受容体を発現するように一過的に改変するための方法:
(a)休止PBMCを単離する段階;
(b)キメラ受容体をコードするmRNAを用いて、PBMCを電気的にローディングする段階であって、それによって電気的にローディングされたPBMCが、その表面に一過的にキメラ受容体を発現する、前記段階。
【請求項2】
PBMCが、末梢血リンパ球(PBL)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
PBLが、ナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
PBLが、T細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
NK細胞を単離する段階が、血液からのCD56+細胞の分離を含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
NK細胞を単離する段階が、血液からCD3+細胞を除去する段階を含む、請求項3記載の方法。
【請求項7】
キメラ受容体が、抗CD19キメラ受容体である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
以下を含む、対象においてがんを処置する方法:
(a)刺激されていない休止末梢血単核細胞(PBMC)を得る段階;
(b)キメラ受容体をコードするmRNAを用いて、PBMCを電気的にローディングする段階であって、それによって電気的に形質移入されたPBMCが、その表面にキメラ受容体を一過的に発現する、前記段階;および
(c)対象のがんを処置するために、形質移入されたPBMCを該対象に投与する段階。
【請求項9】
PMBCが、末梢血リンパ球(PBL)である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
PBLが、ナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
対象が、ヒトである、請求項8記載の方法。
【請求項12】
PMBCが、対象に対して自己細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
PMBCが、対象の同種異系である、請求項8記載の方法。
【請求項14】
単離されたPMBCを得る段階が、ドナーから末梢血を収集する段階、および血液中の非PMBCから血液中のPMBCを分離する段階を含む、請求項8記載の方法。
【請求項15】
ドナーが、処置される対象でもある、請求項14記載の方法。
【請求項16】
末梢血がドナーから収集される時間から、形質移入されたPMBCが対象に投与される時間までが、48時間未満である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記時間が、12時間未満である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
がんが、白血病である、請求項8記載の方法。
【請求項19】
キメラ受容体が、抗CD19キメラ受容体である、請求項8記載の方法。
【請求項20】
形質移入されたPMBCが、静脈内注射によって投与される、請求項8記載の方法。
【請求項21】
形質移入されたPMBCが、腫瘍内注射によって投与される、請求項8記載の方法。
【請求項22】
(a)キメラ受容体をコードするmRNAを一過的に発現する、電気的に形質移入された刺激されていない休止末梢血リンパ球(PBL)であって、それによってキメラ受容体が、電気的に形質移入されたPBLの表面で発現される、前記PBLと
(b)薬学的に許容される担体と
を含む、組成物。
【請求項23】
PBLが、ナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
キメラ受容体が、抗CD19キメラ受容体である、請求項22記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2011−517944(P2011−517944A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504171(P2011−504171)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/040040
【国際公開番号】WO2009/126789
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(505311928)マックスサイト インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】