説明

新規イオン液体、及びその用途

【課題】 耐磨耗性、耐蒸発性に優れ、さらに安定した流動性を示し、広い温度範囲、使用条件で安定した潤滑性能を有する合成潤滑油として有用なイオン液体を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されることを特徴とするイオン液体。
【化1】


(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキル基、R2は、置換基を有していてもよい炭素数4〜16のアルキル基、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基である。
ただし、R1がn−プロピル基であり、かつR2がn−ブチル基である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で溶融状態にある新規イオン液体に関し、とりわけ潤滑油として有用なイオン液体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械装置、動力伝達装置、金属加工油などに用いられる潤滑油としては、ポリαオレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、シリコン油などの基油の中から最も目的物性に近い種類の基油を選択し、必要に応じて組合せて、さらに適切な添加剤などを加えて用いられていた。しかし、これらの潤滑油は、高温や真空度が高いといった特殊な環境下において引火または蒸発の危険性があり、より好適な潤滑油が望まれている。
また、装置の高性能化、高効率化に伴い、より優れた耐酸化性、耐蒸発性や、長期間にわたって優れた潤滑性能を有する潤滑油が求められている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、例えば、非特許文献1には、有機カチオンと無機アニオンの組合せからなる化合物(イオン液体、常温溶融塩)が潤滑油として適用できることが報告されており、現在では、イオン液体は、不揮発性、広い温度範囲における安定性および難燃性に優れるだけでなく、粘度指数が高く、潤滑剤に求められる摩擦係数、磨耗痕径についても満足する物性を有するものもあるため、潤滑油の材料として可能性があることが知られている。
しかし、代表的なアニオン種であるヘキサフルオロホスフェートアニオン、テトラフルオロボレートアニオンは、水存在下で分解し、フッ化水素が発生してくることが知られており、安全上、密閉下以外での使用は困難である。
また、特許文献1においては、疎水性のイオン液体として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体を含む制動性潤滑油があげられているが、このアニオンからなるイオン液体は、粘度が低く耐熱性が高いという物性を有している。
【0004】
しかし、潤滑油には、金属加工用潤滑油、内燃機関用潤滑油、グリース等多くの種類があり、各用途ごとに融点や最適粘度範囲などの必要物性も異なるものであるため、イオン液体を潤滑油として用いるためには、用途に応じたイオン液体を選択する必要があった。 例えば、軸受け用潤滑油のひとつを例にあげても、特殊な用途、例えば、動圧軸受け用潤滑油として使用する場合には、粘度は低いものが望ましく、通常30mPa・s以下であるのに対し、一般的にボールベアリングとよばれる転がり軸受け用潤滑油として使用する場合には、粘度が低すぎると回転体から潤滑油が乖離してしまい潤滑の用をなさなくなるために、ある程度高い粘度、通常30〜2000mPa・s程度の粘度が必要である。
【0005】
このように、両用途の最適粘度範囲は異なり、それに伴い最適なイオン液体も異なるものであり、例えば、上記特許文献1で記載されているビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体では、転がり軸受け用潤滑油としては、市販されているカチオン種(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン〜1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン)での粘度範囲が約30〜150mPa・sと限られている点で不十分であった。
また、非特許文献2には、アルキル鎖の短い1,3−ジアルキルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド系化合物の合成例が記載されているが、粘度等の物性の記載が無く、イオン液体単独で低融点を示すものは記載されてはいなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−89667号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Society of Tribologists and Lubrication Engineers, July 2003,p.16−21
【非特許文献2】Tetrahedron vol62 3137p (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、このような背景下において、広い温度範囲で安定した潤滑性能を示し、潤滑油の代替として用いることが可能なイオン液体を提供することを目的とするものであり、更にはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイオン液体では達成されない粘度範囲を持ち、軸受け用潤滑油の中でも転がり軸受け用潤滑油として最適なイオン液体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者は、上記事情を鑑み鋭意研究を重ねた結果、カチオン部として特定のイミダゾリウムカチオンを有し、アニオン部がビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンであるイオン液体が、低温においても溶融状態を保つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするイオン液体に関するものである。
【0011】
【化1】


(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキル基、R2は、置換基を有していてもよい炭素数4〜16のアルキル基、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基である。
ただし、R1がn−プロピル基であり、かつR2がn−ブチル基である場合を除く。)
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン液体は、疎水性であって、かつ低温下でも溶融状態を保ち、更に流動性、耐磨耗性、耐蒸発性に優れた効果を有するものであり、広い温度範囲の使用条件で安定した潤滑性能を有する合成潤滑油として有用である。
【0013】
なお、低温下での溶融状態については、得られるイオン液体が容易に融点測定ができる場合は低融点であることを意味し、融点測定が容易でない場合は一旦イオン液体を結晶化した後、昇温して溶融状態となる温度が低温であることを意味するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
なお、本発明におけるイオン液体とは、100℃において溶融状態にあるイオン性物質のことを示す。
【0015】
本発明における一般式(1)で示されるイオン液体(以下、単に「イオン液体(A)」と略すことがある。)は、カチオン部とアニオン部からなり、下記の構造を有するものである。
【0016】
【化2】


(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキル基、R2は、置換基を有していてもよい炭素数4〜16のアルキル基、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基である。
ただし、R1がn−プロピル基であり、かつR2がn−ブチル基である場合を除く。)

【0017】
上記、一般式(1)中のR1は、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキル基であり、かかる置換基としては、通常、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、スルファニル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられる。
【0018】
上記、一般式(1)中のR2は、置換基を有していてもよい炭素数4〜16のアルキル基であり、かかる置換基としては、通常、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、スルファニル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられる。
かかるアルキル基の炭素数としては、炭素数4〜16であり、好ましくは炭素数4〜14、特に好ましくは炭素数4〜12のものが用いられる。
【0019】
上記、一般式(1)中のR3およびR4としては、水素原子あるいは置換基を有していてもよいアルキル基であり、かかる置換基としては、通常、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、スルファニル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられる。
かかるアルキル基の炭素数としては、通常、炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜4のものが用いられる。
【0020】
本願発明の一般式(1)を満たすイオン液体(A)としては、具体的には、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−トリデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−テトラデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ペンタデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ヘキサデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−オクチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ノニル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−プロピル−1−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−プロピル−1−トリデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−プロピル−1−テトラデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンタデシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキサデシル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンチル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘプチル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−オクチル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ノニル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−デシル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−イソプロピル−1−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ドデシル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−イソプロピル−1−トリデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−イソプロピル−1−テトラデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ペンタデシル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、1−ヘキサデシル−3−イソプロピルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ノニルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−デシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ウンデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ドデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−トリデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−テトラデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ペンタデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−ブチル−1−ヘキサデシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、3−エチル−1−ペンチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンルホニル)イミド、3−エチル−1−ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンルホニル)イミド、3−エチル−1−ヘプチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンルホニル)イミド、3−エチル−1−オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドが特に好ましく用いられる。
【0022】
本発明で用いられるイオン液体(A)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、アニオン交換法、酸エステル法、中和法などの公知の方法を適用することができる。例えば、N−アルキルイミダゾールと、アルキルハライドなどのアルキル化剤とを用いてアルキル化した後、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドの金属塩を用いてアニオン交換反応を行う方法を用いて製造することができる。
【0023】
本発明のイオン液体(A)は、潤滑油として有用に用いられるものであり、潤滑油として用いる際には、イオン液体(A)を単独で用いてもよいし、異なる構造のイオン液体(A)を2種以上併用してもよい。
【0024】
また、イオン液体(A)は単独で潤滑油としてもよいが、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で任意のイオン液体(B)(イオン液体(A)を除く。)を配合したり、通常用いられる潤滑油基油を含んでいても良く、また、必要に応じて、防錆剤、流動点降下剤などの添加剤を配合してもよい。
これらの添加剤の使用量は、本発明の効果を妨げない程度であれば特に限定されるものではなく、例えば前記イオン液体組成物100重量部に対して通常0.001〜50重量部である。
【0025】
かかるイオン液体(B)としては、例えば、アニオン部として、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、BF4-、BF325-、PF6-、NO3-、CF3CO2-、CF3SO3-、(CF3SO22-、(FSO22-、(CN)2-、(CF3SO23-、(C25SO22-、AlCl4-、Al2Cl7-などを含有するイオン液体である。これに対応するカチオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムなどのアルキルイミダゾリウムカチオンが挙げられ、イミダゾリウムカチオン以外では、4級アンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、4級ホスホニウムカチオンなどを含有するイオン液体が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0026】
また、かかるイオン液体(B)の配合量としては、通常全イオン液体を100重量部とした場合に、0〜20重量部であることが好ましく、更に好ましくは0〜10重量部であることが好ましい。
【0027】
一般的に合成潤滑油として使用することが可能な粘度範囲としては、使用する用途により最適な範囲が異なるため一概には規定できないが、通常25℃における粘度で2mPa・s〜3000mPa・s程度である。
【0028】
また、上述のように軸受け用潤滑油として使用するにあたり、動圧軸受け用潤滑油(ハードディスク用潤滑油)として使用する場合は、粘度が低ければ低いほどシャフトと軸受けの摩擦が減少するので、粘度(25℃)としては通常30mPa・s以下であることが要求されるのに対し、ボールベアリングとよばれる転がり軸受け用潤滑油として使用する場合は、粘度が低すぎると回転体から潤滑油が乖離してしまい潤滑の用をなさなくなるために、粘度(25℃)としては通常30〜2000mPa・s、好ましくは50〜1500mPa・s、特に好ましくは100〜1000mPa・sであることが要求される。
【0029】
また、本発明の潤滑油の低温下での溶融状態としては、通常10℃以下において溶融状態を示すものであり、好ましくは5℃以下において溶融状態を示し、特に好ましくは0℃以下において溶融状態を示すものである。
【0030】
潤滑油は用途により絶対粘度の高さが重視される用途や、絶対粘度より金属との接触角など他の物性が重視される用途が考えられる。その際、必要な物性に応じて有機カチオンを窒素数1〜3個の5乃至6員環化合物のオニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンおよび第四級ホスホニウムカチオンから選択し、さらに必要なら置換基を変えて物性を調節することができる。
【0031】
かくして得られる本発明のイオン液体は、疎水性であって、低粘度であり、かつ低温においても溶融状態を保ち、不揮発性、不燃性、熱安定性等の諸物性が優れるために、自動車、電気製品等の機械装置、動力伝達装置、精密機械向けの潤滑油、金属加工油や電池、キャパシタ、コンデンサーなどの電解質・電解液材料として幅広く利用可能である。また、有機合成における反応溶媒、抽出溶媒としても利用することが可能である。中でも、特に合成潤滑油や電解液用途、とりわけ合成潤滑油用途、更には転がり軸受け用合成潤滑油用途に非常に有用である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」「%」となるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0033】
[実施例1]
還流管を付けたフラスコに1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムブロミド23.3g(0.1mol)と水250ml、塩化メチレン50mlを加えた後、さらにノナフルオロブタンスルホネートのカリウム塩61.9g(0.1mol)を加え60℃で5時間攪拌した。反応終了後、塩化メチレンを50ml加えて十分攪拌し、水層を分液した。イオン液体層をさらに水125mlで5回水洗後、イオン液体層を減圧下濃縮し、1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド[BEI・NfN]67.8g(収率92.4%)を得た。
得られたイオン液体のNMRデータは次のとおりである。
【0034】
1H NMR(300MHz、DMSO−d):δ0.91(3H,t)、1.27(2H,6th)、1.40(3H,t)、1.78(2H,5th)、4.18(4H,m)、7.80(2H,m)、9.19(1H,s).
・ESI−MS m/z (%):153(100)[BEI] ,580(100)[NfN]
【0035】
[実施例2]
上記実施例1の1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムブロミド23.3gを3-エチル-1-ヘキシルイミダゾリウムブロミド26.1g(0.1mol)に変更し同様の操作を実施したところ、3-エチル-1-ヘキシルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド[HEI・NfN]75.5g(収率99.2%)を得た。
得られたイオン液体のNMRデータは次のとおりである。
【0036】
1H NMR(300MHz、DMSO−d):δ0.86(3H,t)、1.27(6H,m)、1.42(3H,t)、1.79(2H,m)、4.15(4H,m)、7.80(2H,s)、9.18(1H,s).
・ESI−MS m/z (%):181(100)[HEI] ,580(100)[NfN]
【0037】
[実施例3]
上記実施例1の1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムブロミド23.3gを3-エチル-1-オクチルイミダゾリウムブロミド28.9g(0.1mol)に変更し同様の操作を実施したところ、3-エチル-1-オクチルイミダゾリウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド[EOI・NfN]76.3g(収率96.7%)を得た。
得られたイオン液体のNMRデータは次のとおりである。
【0038】
1H NMR(300MHz、DMSO−d):δ0.83(3H,t)、1.23(10H,m)、1.40(3H,t)、1.76(2H,m)、4.14(4H,m)、7.77(2H,dd)、9.16(1H,s)
・ESI−MS m/z (%):209(100)[EOI] ,580(100)[Nf2N]
【0039】
実施例1〜3で得られたイオン液体について、下記測定方法に従い物性を測定し、その結果を表1に示す。
【0040】
<粘度>
測定条件は以下の通りである。
<使用機器>:AR−1000型回転レオメーター(TA Instruments社製)
<測定方法>:装置を25℃に設定し、サンプル0.6mlを試料台上に載せ、コーンを設置し、かかるコーンを一定の力(200Pa)で回転させた時の粘度値を読みとった。
【0041】
<溶融状態>
実施例1〜3のイオン液体は融点が測定できないものであったため、以下の方法により低温下での溶融状態を評価した。
<測定方法>:サンプルを2g入れた5mlのガラス性サンプル瓶を−80℃のフリーザーに入れ、2日以上放置した後、目視で結晶化を確認した。その後、結晶化したサンプルを(1)0℃、(2)5℃のバスに入れ、サンプルの温度がそれぞれの温度になるまで待ち、各温度での溶融状態を目視で確認した。なお評価基準は以下の通りである。
<評価>
◎・・・0℃において溶融状態であるもの
○・・・5℃において溶融状態であるもの
×・・・5℃においても結晶化状態であるもの
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果より、実施例1及び3のイオン液体は5℃において、実施例2のイオン液体は、0℃において溶融状態を示しており、低温においても溶融状態を保つことができるため潤滑油用途に有用に用いることができ、更にはその粘度領域から、転がり軸受け用潤滑油としての特性に非常に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のイオン液体は、疎水性であって、かつ低温下でも溶融状態を保ち、更に流動性、耐磨耗性、耐蒸発性に優れた効果を有しており、自動車、電気製品等の機械装置、動力伝達装置、精密機械向けの潤滑油、金属加工油や電池、キャパシタ、コンデンサーなどの電解質・電解液材料、合成反応の反応溶媒、抽出溶媒としても使用可能であり、特には潤滑油の中でも軸受け用潤滑油、中でも転がり軸受け用潤滑油として有用に用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするイオン液体。
【化1】


(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキル基、R2は、置換基を有していてもよい炭素数4〜16のアルキル基、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基である。
ただし、R1がn−プロピル基であり、かつR2がn−ブチル基である場合を除く。)
【請求項2】
一般式(1)中の、R1がエチル基、、R2は、置換されてもよい炭素数4〜10のアルキル基、R3およびR4は水素原子であることを特徴とする請求項1記載のイオン液体。
【請求項3】
融点が5℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載のイオン液体。
【請求項4】
融点が0℃以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のイオン液体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のイオン液体からなることを特徴とする合成潤滑油。
【請求項6】
請求項5記載の合成潤滑油を用いた転がり軸受け用合成潤滑油。




【公開番号】特開2011−26296(P2011−26296A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128709(P2010−128709)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】