説明

新規エステル化合物

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、高フッ素含量の新規なエステル化合物に関する。
[従来の技術]
近年、需要の成長している耐熱性の熱可塑性樹脂の成形に際しては、その熔融温度が高いため、特別な滑動を必要としており、現在、フッ化エチレンのオリゴマーが多く用いられている。
[発明が解決しようとする課題]
しかし、上記の化合物は極性に乏しく、溶解性等の特性上問題があった。このため、フッ素化アルコールのエステル化合物が検討されているが、フッ素含量、分子量等の不足のため、期待する物性は得られていない。
本発明者らは、上記問題を解決するために種々検討の結果、当該エステル化合物の酸成分として1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(以下「BTC」と略称する。)に着目した。
BTCは4つのカルボキシル基をほぼ最小の分子量で有する有機酸である。これにフッ素化アルコールを作用させてエステル化合物とすれば、分子量が充分に大きく、かつ高フッ素含量のエステルとなる。
更に、酸成分に対するフッ素化アルコールの配合比率を適宜選択することにより、分子量及びフッ素含量を必要に応じた数値に設定でき、所望の特性を得ることができる。
即ち、本発明は、耐熱性滑剤や繊維処理剤等として有用な文献未記載の新規なフッ素含有エステル化合物を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
本発明に係るエステル化合物は、一般式(I)で表わされることを特徴とする。


(式中、k、l、m、nは0〜3の整数を表わし、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。ただし、それらのすべてが0であることはない。a、b、c、dは0又は1を表わし、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、ただし、それらのすべてが0であることはない。)
尚、下記のエステルは、一般式(I)で表されるエステル化合物から除外される。


当該化合物は、例えば以下の方法により調製される。即ち、(1)酸成分としてのBTC類と、アルコール成分としての一般式(II)で表わされるフッ素化アルコールとを常法に従ってエステル化する。
H(CH2CF2pCH2OH (II)
(式中、pは1〜3の整数を表わす。)
ここで、BTC類とは、BTC及び当該一無水物もしくは二無水物、並びにそれらとメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等に例示される炭素数1〜4の低級アルコールとのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル等の総称である。
(2)BTCの低級アルコールエステルを当該フッ素化アルコールを用いてエステル交換する。
フッ素化アルコールの添加量は、いずれの方法においても、目的とするエステル中のエステル基の数に応じて適宜選択され、具体的にはBTC類中のカルボキシル基当り1.0〜3.0倍当量程度、好ましくは1.05〜2.0倍当量程度用いて、反応を行う。
触媒としては、一般にエステル化触媒若しくはエステル交換触媒として用いられる化合物であれば足り、具体的にはアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭素塩、硫酸、塩酸、リン酸等の鉱酸類、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、酸性白土、硫酸バンド、シリカアルミナ、γ−アルミナ、リンタングステン酸、リンモリブデン酸等の固体酸触媒、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化スズ等のルイス酸や、酸化スズ、酸化チタン、ジブチルスズオキシド等の金属酸化物及びこれらの低級アルコールとのアルコキシド、Na、K、Ca、Mg、Zn、Pb等の脂肪酸カルボン酸塩及びその低級アルコールとのアルキシド等が有効である。
触媒の添加量は、BTC類に対し0.001〜50重量%程度、好ましくは0.01%〜10%程度である。
反応温度は、一般的に約30〜300℃、好ましくは約60〜200℃である。
反応は、常圧下のみならず、必要に応じて減圧下若しくは加圧下で進行させることができ、通常、1〜20時間で完結する。
エステル化反応の場合には生成水を、又、エステル交換反応の場合には低級アルコールを留出除去しながら反応を進行させることが望ましい。この場合、必要に応じてベンゼン、トルエン、キシレン等のエントレーナーを使用することは有効である。
反応終了後、触媒を中和、水洗、濾過等の適切な処理により除き、更に過剰のアルコールを減圧下トッピングして目的生成物を得る。
かくして得られたエステル化合物は、耐熱性滑剤、磁気記録媒体用潤滑剤、防水、防汚性繊維等各種繊維の繊維処理剤、紙、皮革等の表面処理剤、防汚性塗料、カーワックス等の各種ワックス類、印刷インキ添加物、粘着テープの背面処理剤、離型剤、プラスチック類用の流動性改良剤、耐煮沸性向上剤、防曇性付与剤等として有用である。又、部分エステル類は、上記用途に加え、エポキシ樹脂硬化剤、含フッ素系界面活性剤としての一般的用途、例えば、消泡剤、乳化剤、金属又は顔料の表面処理剤等として用いられる。
[実施例]
以下に実施例を掲げ、本発明を詳細に説明する。
実施例1 デカンターで取り付けた1■四フッ口フラスコに、BTC23.4g(0.1モル)と1H,1H,7H−ドデカフルオロ−1−プペタノール160g(0.48モル)及びp−トルエンスルホン酸2gを入れ、加熱しながら撹拌した。液温190℃において還流し、生成水を除去しつつ反応を継続すると、当初分散状態であった液は均一な液となった。更に、加熱しながら理論量の水が生成するまで反応を継続した。このときの溶液の酸価は2.1であった。斯かる反応混合物にトルエンと酸価に対して1.1倍当量の水酸化カリウムのメタノール溶液を加え、60〜70℃で30分間撹拌し中和した。これに熱水を加え、3回水洗した後、トッピングして目的とするエステル142g(収率95%)を得た。当該エステルはケン化価149.5(理論値150.6)、酸価0.5、融点86.5〜88.0℃であった。このものの元素分析値を以下に示す。又、NMR(d6−アセトン)及び赤外吸収スペクトル(KBr法)を第1図、第2図として夫々掲げる。
実測値(%) 理論値(%)
C 29.1 29.02 H 1.2 1.21 O 8.7 8.59 F 61.0 61.18 C36H18O8F48実施例2 実施例1と同様の四ッ口フラスコにBTCのテトラメチルエステル29.0g(0.1モル)と1H,1H,7H−ドデカフルオロ−1−ヘプタノール160g(0.48モル)及びナトリウムメチラート2gを入れ、100℃に加熱しながら撹拌した。留出するメタノールを留去しつつエステル交換反応を行ない、メタノールの留出が遅くなった後は若干減圧してメタノールの除去を促進した。反応の追跡はNMRのメチル基のピークの消失により行なった。こうして得られた反応物をトルエンで希釈し、熱水にて3回水洗後、トッピングして目的とするエステル144g(収率97%)を得た。このもののケン化価は152(理論150.6)、酸価は0.1以下、フッ素含量は60.9%(理論61.2%)であった。
実施例3 フッ素化アルコールとして、1H,1H,3H−テトラフルオロ−1−ペンタノール127g(0.98モル)を用い、反応温度を90℃とした以外は実施例2と同様にしてエステルを調製した。このときの収量は62g(収率90%)であった。又、得られた目的物のケン化価は327(理論値325.2)、酸価0.1以下であった。このものの元素分析値を以下に示す。
実測値(%) 理論値(%)
C 34.7 34.80 H 2.7 2.61 O 18.6 18.55 F 44.0 44.04 C20H18O8F16実施例4 BTC二無水物19.8g(0.1モル)及び1H,1H,7H−ドデカフルオロ−1−ヘプタノール66.4g(0.2モル)を原料として、160℃の温度条件下、30分間攪拌して半エステル化し、均一に溶融したジカルボキシジエステル化合物を93%の収率で得た。当該生成物のケン化価は258(理論値260.3)、中和価は132(理論値130.1)であった。このものの元素分析値を以下に示す。
実測値(%) 理論値(%)
C 30.7 30.65 H 1.8 1.62 O 14.9 14.85 F 52.6 52.88 C22H14O8F24
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1で得られたエステル化合物のNMR(d6−アセトン)スペクトルを、第2図は、当該化合物の赤外吸収スペクトル(KBr法)を夫々示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式(I)で表されることを特徴とする新規エステル化合物。


(式中、k、l、m、nは0〜3の整数を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。ただし、それらのすべてが0であることはない。a、b、c、dは0又は1を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。ただし、それらのすべてが0であることはない。)
尚、下記のエステルは、一般式(I)で表されるエステル化合物から除外される。


【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2604186号
【登録日】平成9年(1997)1月29日
【発行日】平成9年(1997)4月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−7245
【出願日】昭和63年(1988)1月16日
【公開番号】特開平1−186843
【公開日】平成1年(1989)7月26日
【出願人】(999999999)新日本理化株式会社
【参考文献】
【文献】J.Phys.Chem.,Vol.66(1962),P.328−336