説明

新規オキサゾリジン誘導体及び新規オキサゾリジン誘導体塩、並びに該オキサゾリジン誘導体塩を不斉有機分子触媒とした光学活性化合物の製造方法

【課題】新規オキサゾリジン誘導体及びその塩、並びに不斉有機分子触媒として有用なオキサゾリジン誘導体塩を用いた光学活性化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(2)で表わされるオキサゾリジン誘導体塩とする。


(式(2)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基、アリール基、シリル基のいずれかであり、Xはオキサゾリジン誘導体骨格と塩を形成する有機酸を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規オキサゾリジン誘導体及び新規オキサゾリジン誘導体塩、並びに該オキサゾリジン誘導体塩を不斉有機分子触媒とした光学活性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品などの生体関連化合物は、不斉中心を含むものが少なくなく、可能な2つの鏡像異性体がそれぞれ生体に対して異なる作用を示すことが多い。従って、一方の鏡像異性体のみを選択的に得るための不斉合成反応の開発は重要である。
【0003】
ごく少量の触媒により、原理的には無限の光学活性化合物を供給することが可能な高度プロセスである触媒的不斉合成反応は、その省エネルギー・環境調和の観点からも現代の有機合成化学の重要な研究課題の1つである。不斉触媒としては、従来より多くの有機金属触媒が開発されているものの、高価であったり、残存する金属の除去が困難であったりする課題もあった。このため、近年、安価・安全・環境負荷が少ないなどの理由で、金属を含有しない有機分子を触媒として用いる、有機分子触媒反応の研究が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特許文献1及び非特許文献1には、タミフルなどの様々な生理活性化合物群の鍵合成中間体であるイソキヌクリジン誘導体を、有機分子触媒であるマクミラン触媒を使用した不斉Diels−Alder反応によって合成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−50336号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.46巻、5734〜5736頁、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1で得られるイソキヌクリジン誘導体の化学収率は低く、後の工程で再結晶化することにより光学純度は向上するが、化学収率は更に低下する。また、ポリマーの生成も伴うことから、生成物の分離精製も容易ではない。そのため、高い化学収率及び高い光学収率で目的物を得ることのできる不斉有機分子触媒が求められている。
【0008】
そこで本発明は、新規オキサゾリジン誘導体及びその塩、並びに不斉有機分子触媒として有用な該オキサゾリジン誘導体塩を用いた光学活性化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有するオキサゾリジン誘導体を塩として用いると不斉有機分子触媒として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明の第一の態様は、下記式(1)で表わされるオキサゾリジン誘導体を提供して前記課題を解決するものである。
【0011】
【化1】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基(イソプロピル基は除く)、アリール基、シリル基のいずれかである。)
【0012】
また、本発明の第二の態様は、下記式(2)で表わされるオキサゾリジン誘導体塩を提供して前記課題を解決するものである。
【0013】
【化2】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基、アリール基、シリル基のいずれかであり、Xはオキサゾリジン誘導体骨格と塩を形成する有機酸を表わす。)
【0014】
本発明の第三の態様は、下記式(2)で表わされる不斉有機分子触媒を提供して前記課題を解決するものである。
【0015】
【化3】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基、アリール基、シリル基のいずれかであり、Xはオキサゾリジン誘導体骨格と塩を形成する有機酸を表わす。)
【0016】
本発明の第四の態様は、前記第三の態様の不斉有機分子触媒を用いて不斉反応を行うことを特徴とする、光学活性化合物の製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0017】
この態様において、不斉反応は不斉Diels−Alder反応であることが好ましく、また、該不斉Diels−Alder反応において、製造される光学活性化合物がイソキヌクリジン誘導体であり、下記式(3)で表わされる1,2−ジヒドロピリジン誘導体を共役ジエンとし、下記式(4)で表わされるアクロレイン誘導体をジエノフィルとするものであることが好ましい。
【0018】
【化4】

(式(3)及び式(4)において、R〜R10、R12〜R14は水素原子又は一価の置換基を表わし、R11はアルキル基又はアリール基を表わす。)
【発明の効果】
【0019】
本発明のオキサゾリジン誘導体塩は、不斉有機分子触媒として有用であり、本発明のオキサゾリジン誘導体は、この前駆体化合物として有用である。本発明のオキサゾリジン誘導体塩である不斉有機分子触媒は、従来の有機金属触媒と比べて安価かつ容易に合成することが可能であるのみならず、これを不斉反応に用いることで、高い化学収率及び高い光学収率で光学活性化合物を得ることができる。
【0020】
また、本発明のオキサゾリジン誘導体塩は、特に、不斉Diels−Alder反応による光学活性イソキヌクリジン誘導体合成のための不斉有機分子触媒として好適であり、高い化学収率及び高い光学収率で選択的に目的物を得ることができる。光学活性イソキヌクリジン誘導体や、その開環生成物である光学活性多置換ピペリジン誘導体は、オセルタミビル、ビンブラスチン、レセルピン、アルカルイド類などの医薬品や生理活性物質の重要な合成中間体であることから、本発明は、ひいては低コストかつ高効率に、様々な医薬品や生理活性物質を得るために非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のオキサゾリジン誘導体は、下記式(1)で表わされる化合物であり、本発明のオキサゾリジン誘導体塩は、下記式(2)で表わされる化合物である。
【0022】
【化5】

【0023】
式(1)及び式(2)中、R、Rはアリール基であり、互いに同じでも異なっていてもよい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基等が挙げられる。アリール基上の炭素原子は更に任意の置換基を有していてもよい。また、式(1)及び式(2)中、Rはアルキル基又はアリール基であり、アリール基としてはR、Rと同じものを例示できる。アルキル基としては、炭素数1〜13のものが好ましく、直鎖でも分岐でもよく、また環状のものでもよい。また、アルキル基上の炭素原子が、更にアリール基などの他の置換基によって置換されていてもよい。直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等を挙げることができる。分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基等を挙げることができる。シクロアルキル基としては、分岐構造を有していてもよい炭素数3〜8のものが好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロプロピル基、アダマンチル基等を挙げることができる。また、アリール基によって置換されているアルキル基としては、ベンジル基等が挙げられる。また、式(1)及び式(2)中、Rは水素原子又はアルキル基であり、アルキル基としてはRと同じものを例示できる。また、式(1)及び式(2)中、Rはアルキル基、アリール基、シリル基のいずれかであり、アルキル基やアリール基としてはRと同じものを例示できる。シリル基としては、シリル基の水素原子の1〜3個がアルキル基、アリール基、アラルキル基等に置換されたものが挙げられ、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルヘキシルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、tert−ブチルメトキシフェニルシリル基、tert−ブトキシジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、ジメチルクメニルシリル基、トリベンジルシリル基が挙げられる。
【0024】
式(2)において、R、Rはアルキル基で置換されていてもよいフェニル基であることが好ましく、特にはフェニル基であることが好ましい。また、Rとしては、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基であることが好ましく、特にはフェニル基であることが好ましい。また、Rとしては水素原子が好ましく、Rとしては、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基、又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であることが好ましく、イソプロピル基、tert−ブチル基であることが特に好ましい。
【0025】
式(2)中、Xは、オキサゾリジン誘導体骨格と塩を形成する酸であり、そのような酸としては、有機酸が好ましく、有機酸としては、ピクリン酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸、脂肪族及び芳香族カルボン酸等が挙げられる。中でも脂肪族モノカルボン酸及びそのハロゲン置換体が好ましく、具体的には、酢酸、酪酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等が挙げられる。中でも脂肪族モノカルボン酸のハロゲン置換体が好ましく、特にトリフルオロ酢酸が好ましい。
【0026】
式(1)及び式(2)で表わされる化合物は、公知の方法で合成することができる。例えば、下記スキームに示すように、式(d)で表わされる光学活性アミノアルコール類と式(e)で表わされるケトン類(又はアルデヒド類)とを適当な溶媒中、脱水縮合することにより、式(1)で表わされるオキサゾリジン誘導体を選択的に合成することができ、更にこれを有機酸と反応させることにより、式(2)で表わされるオキサゾリジン誘導体塩をほぼ定量的に得ることができる。
【0027】
【化6】

【0028】
式(1)で表わされるオキサゾリジン誘導体を合成する際の反応溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどが挙げられる。式(d)で表わされる化合物の使用量は、式(e)で表わされる化合物1モルに対し通常等モル程度であり、塩を形成させる際の有機酸の使用量は、式(1)で表わされるオキサゾリジン誘導体1モルに対し通常等モル程度である。生成した式(2)で表わされるオキサゾリジン誘導体塩は、抽出、クロマトグラフィー、再結晶などにより単離、精製することができる。
【0029】
上記得られた式(2)で表わされるオキサゾリジン誘導体塩は、不斉合成反応のための触媒、すなわち不斉有機分子触媒として有用である。該オキサゾリジン誘導体塩を触媒とすることで、高い光学収率で光学活性化合物を得ることができる。オキサゾリジン誘導体塩を不斉有機分子触媒として用いることのできる不斉合成反応としては、例えば、Diels−Alder反応、アルドール反応、マイケル付加反応等が挙げられる。本発明のオキサゾリジン誘導体塩は、中でも、光学収率の観点から、不斉Diels−Alder反応における不斉有機分子触媒として有用である。
【0030】
不斉Diels−Alder反応の原料となるジエンとしては、特に限定するものではないが、オキサゾリジン誘導体塩を不斉有機分子触媒とすることによる効果、すなわち高いエンド/エキソ選択性やエナンチオ選択性を最大限に生かすことができるため、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジヒドロピリジンなどの環状ジエンを原料とすることが好ましい。また、ジエノフィルも特に限定するものではなく、アクロレイン、メタクロレイン、桂皮アルデヒドなど通常のDiels−Alder反応に用いることのできるジエノフィルを用いることができる。
【0031】
不斉Diels−Alder反応におけるオキサゾリジン誘導体塩の使用量は特に限定されるものではないが、通常原料のジエノフィルに対して5〜20mol%が好ましく、5〜10mol%がより好ましい。ジエノフィルに対して5mol%未満ではDiels−Alder反応の化学収率やエナンチオ選択性が低下するおそれがあるため好ましくなく、一方、20mol%を超えても効果に差が生じず、経済的な観点から好ましくない。
【0032】
不斉Diels−Alder反応における反応溶媒としては、ニトリル系溶媒を使用することが好ましい。ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなどが挙げられる。また、溶媒には、上記溶媒に対して5体積%程度の水を存在させることも好ましい。また、反応温度は特に限定されるものではなく、通常、0〜25℃程度の範囲で行われる。エナンチオ選択性の観点からは、0〜10℃が好ましい。
【0033】
本発明のオキサゾリジン誘導体塩を不斉有機分子触媒とする不斉Diels−Alder反応は、特に下記式(3)で表わされる1,2−ジヒドロピリジン誘導体(ジエン)と下記式(4)で表わされるアクロレイン誘導体(ジエノフィル)とを原料とする、下記式(5)で表わされるイソキヌクリジン誘導体の合成に有用であり、目的とする光学異性体を非常に高い化学収率かつ光学収率で目的物を合成することができる。また、式(5)で表わされるイソキヌクリジン誘導体は、開環することで下記式(6)で表わされる多置換ピペリジン誘導体に容易に変換することができる。
【0034】
【化7】

【0035】
式(3)、式(4)、式(5)、式(6)において、R〜R10、R12〜R14はそれぞれ水素原子又は一価の置換基であり、R11はアルキル基又はアリール基ある。R〜R10、R12〜R14で表わされる一価の置換基としては、直鎖又は分岐のアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基などが挙げられ、それぞれの置換基は更に他の置換基で置換されていてもよい。R11のアルキル基又はアリール基としては、上述の式(1)及び式(2)におけるRと同様の置換基を例示できる。
【0036】
式(3)、式(4)、式(5)、式(6)において、R〜R10としては水素原子が好ましく、R11としてはベンジル基が好ましい。また、R12〜R14としてはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アシル基、アシロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基などが好ましい。
【0037】
上記不斉Diels−Alder反応によって合成される光学活性イソキヌクリジン誘導体(5)は、オセルタミビル、カサランチン、レセルビン、ビンブラスチンなどの前駆体となる物質である。また、光学活性イソキヌクリジン誘導体を開環して得られる、上記式(6)で表わされる多置換ピペリジン誘導体は、アザ糖、ピペリジンアルカロイド、キノリジンアルカロイド糖の前駆体となる。これらの化合物を高い化学収率かつ高い光学収率で合成することのできる本発明は、ひいては低コストかつ高効率に、様々な医薬品や生理活性物質を得るために非常に有用である。
【実施例】
【0038】
以下に示すスキームで、オキサゾリジン誘導体塩(g1)〜(g3)を合成した。
【0039】
【化8】

【0040】
(オキサゾリジン誘導体塩(g1)の合成)
100mLナス型フラスコにアミノ酸メチルエステル塩酸(a1)(500mg,2.8mmol)を入れ、HO(5mL)に溶解した。更に、炭酸水素ナトリウム(504mg,6.0mmol)を加え溶解させた。氷冷下、クロロギ酸ベンジルのトルエン溶液(1.8mL,3.2mmol)を滴下し、除々に室温に戻しながら24時間撹拌した。撹拌終了後、反応溶液をエーテルで抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を減圧留去することによって、淡黄色液状のアミノ基が保護されたアミノ酸メチルエステル(b1)が定量的に得られた。
【0041】
アミノ酸メチルエステル(b1)(765mg,2.7mmol)を200mLのナス型フラスコに入れ、エーテル(30mL)に溶解させ、氷冷下フェニルマグネシウムブロミド(10.8mL,10.8mmol)を滴下し、徐々に室温に戻しながら12時間撹拌した。反応終了後、氷冷下で塩酸を滴下して反応を停止させ、反応溶液は酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和NaCl水溶液と水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物を再結晶(n−ヘキサン:EtO=10:1)することによって白色結晶のジフェニルエタノールアミノアルコール(c1)を60%の収率で得た。
【0042】
100mLのナス型フラスコに(c1)(646mg,1.6mmol)をとり、メタノールに溶解させ、更に10%パラジウム炭素(650mg)を加えてH(バルーン)存在下で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をろ過し、溶媒を減圧留去することによって、白色結晶のアミノアルコール(d1)を定量的に得た。
【0043】
50mLのナス型フラスコに(d1)(300mg,0.84mmol)をとり、蒸留したジクロロメタン(5mL)に溶解させ、ベンズアルデヒド(e)(0.09mL,0.84mmol)を加えて室温で2時間撹拌した。反応溶液を減圧留去し、得られた粗生成物をプレパラティブTLC(SiO2,n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で分離精製することによって、白色結晶のオキサゾリジン誘導体(f1)を得た(収率80%)。
【0044】
50mLのナス型フラスコにオキサゾリジン誘導体(f1)(0.54mmol)を蒸留したジクロロメタン(5mL)に溶解し、氷冷下トリフルオロ酢酸(0.54mmol)を加え、5分間撹拌した。反応溶液を減圧留去することによって、粉末状のオキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g1)を定量的に得た。
【0045】
(オキサゾリジン誘導体塩(g2)の合成)
出発原料をそれぞれ(a2)に代えた以外は(f1)の合成条件と全く同じ反応条件で反応を行い、白色結晶のジフェニルエタノールアミノアルコール(c2)(収率70%)及び白色結晶のオキサゾリジン誘導体(f2)を得た(収率85%)。また、これらを(g1)の合成条件と全く同じ反応条件でトリフルオロ酢酸と反応させ、それぞれ定量的に粉末状のオキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g2)を得た。
【0046】
(オキサゾリジン誘導体塩(g3)の合成)
30mLのナス型フラスコに(d2)(50mg,0.20mmol)をとり、モレキュラーシーブ4A(MS4A)を50mg加え、脱水アセトン(e’)(3mL)に溶解させ、室温で2時間撹拌した。反応液からMS4Aを除去し、溶媒を減圧留去後、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO,n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で分離精製することによって、無色液体のオキサゾリジン誘導体(f3)を得た(収率85%)。
【0047】
30mLのナス型フラスコに(f3)(0.15mmol)をとり、これを(g2)の合成条件と全く同じ反応条件でトリフルオロ酢酸と反応させることによって、定量的に粉末状のオキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g3)を得た。
【0048】
得られたオキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g1)〜(g3)のH−NMRデータを以下に示す。これらのデータから、オキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g1)〜(g3)の立体構造は下記構造式のとおりであることが確認された。
【0049】
【化9】

【0050】
オキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g1);H−NMR(400MHz,CDCl,δ(ppm)):0.89(s,9H),4.76(s,1H),5.62(s,1H),7.31−7.73(m,15H)
【0051】
オキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g2);H−NMR(400MHz,CDCl,δ(ppm)):0.76(d,3H),0.81(d,3H),1.99(m,1H),4.49(d,1H),5.62(s,1H),7.28−7.65(m,15H)
【0052】
オキサゾリジン誘導体トリフルオロ酢酸塩(g3);H−NMR(400MHz,C,δ(ppm)):0.51(d,3H),1.07(d,3H),1.10(s,3H),1.78(s,3H),1.91(m,1H),4.25(d,1H),6.54(d,1H),7.02−7.20(m,5H),7.33(m,2H),7.37(d,2H)
【0053】
(オキサゾリジン誘導体塩(g1)を触媒としたイソキヌクリジン誘導体(j)及び(k)の合成)
以下に示すスキームで、イソキヌクリジン誘導体(j)及び(k)を合成した。
【0054】
【化10】

【0055】
10mLのナス型フラスコに触媒(g1)(5mg,0.01mmol)をとり、アセトニトリル(0.5mL)に溶解させ、更に水(0.03mmol)を加えた。氷冷下、蒸留したアクロレイン(i)(0.07mL,0.01mmol)及び1,2−ジヒドロピリジン(h)(43mg,0.2mmol)を加え、0℃で撹拌した。反応終了後、反応溶液に氷水を加えてエーテルで抽出した。有機層を飽和NaCl水溶液と水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することによってイソキヌクリジン誘導体(7S)−(j)(82%)が得られた。得られた粗生成物は精製することなく次の反応に用いた。
【0056】
10mLナス型フラスコに前の反応で得られたイソキヌクリジン誘導体(j)をとり、エタノール(2mL)に溶解させ、水素化ホウ素ナトリウム(2mg,0.05mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を減圧留去し、水を加えて酢酸エチルで抽出した。有機層を減圧蒸留し、得られた粗生成物をプレパラティブTLC(SiO,n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で分離精製することによって、イソキヌクリジン誘導体(7S)−(k)を定量的に得た。
【0057】
(オキサゾリジン誘導体塩(g2)、(g3)を触媒としたイソキヌクリジン誘導体(j)及び(k)の合成)
触媒をそれぞれ(g2)、(g3)にしたこと以外は(g1)を用いて合成したのと全く同様にして、イソキヌクリジン誘導体(j)及び(k)を合成した。それぞれの触媒を用いた時のイソキヌクリジン誘導体(j)のendo/exo比はアルコール体(k)のH−NMRのデータから決定した。また、それぞれの触媒を用いた時のイソキヌクリジン誘導体((7S)−endo−(j)、(7R)−exo−(j))の光学収率は、アルコール体(k)のHPLCデータ(ダイセル化学社製キラルパックAS−H,n−ヘキサン:2−プロパノール=93:7)により決定した。各触媒(g1)〜(g3)を用いてイソキヌクリジン誘導体(j)を合成した際の収率、光学収率について表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
いずれの触媒を用いた場合も非常に高いエンド/エキソ選択性を示し、エンド体のみを選択的に得ることができた。また、エナンチオ選択性にも優れており、高い光学収率で(7S)−endo−(j)を得ることができた。特に、触媒(g1)及び(g2)を用いた場合は、化学収率も80%以上と非常に良好であった。
【0060】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うオキサゾリジン誘導体及びその塩、並びにオキサゾリジン誘導体塩を用いた光学活性化合物の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のオキサゾリジン誘導体塩を不斉有機分子触媒、特に不斉Diels−Alder反応の触媒として用いることで、医薬品や生理活性物質の中間体となるイソキヌクリジン誘導体をはじめとした光学活性物質を高い化学収率と高い光学収率で得ることができる。そのため、本発明オキサゾリジン誘導体塩及びこれを触媒として用いた反応は、医薬品や生理活性物質の効率的な合成に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされるオキサゾリジン誘導体。
【化1】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基(イソプロピル基は除く)、アリール基、シリル基のいずれかである。)
【請求項2】
下記式(2)で表わされるオキサゾリジン誘導体塩。
【化2】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基、アリール基、シリル基のいずれかであり、Xはオキサゾリジン誘導体骨格と塩を形成する有機酸を表わす。)
【請求項3】
下記式(2)で表わされる不斉有機分子触媒。
【化3】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ置換されていてもよいアリール基であり、Rはアルキル基又はアリール基であり、Rは水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基、アリール基、シリル基のいずれかであり、Xはオキサゾリジン誘導体骨格と塩を形成する有機酸を表わす。)
【請求項4】
請求項3に記載の不斉有機分子触媒を用いて不斉反応を行うことを特徴とする、光学活性化合物の製造方法。
【請求項5】
前記不斉反応が不斉Diels−Alder反応であることを特徴とする、請求項4に記載の光学活性化合物の製造方法。
【請求項6】
前記光学活性化合物がイソキヌクリジン誘導体であり、前記不斉Diels−Alder反応が下記式(3)で表わされる1,2−ジヒドロピリジン誘導体を共役ジエンとし、下記式(4)で表わされるアクロレイン誘導体をジエノフィルとするものであることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【化4】

(式(3)及び式(4)において、R〜R10、R12〜R14は水素原子又は一価の置換基を表わし、R11はアルキル基又はアリール基を表わす。)

【公開番号】特開2010−229097(P2010−229097A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79482(P2009−79482)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月2日 インターネットアドレス「http://nenkai.pharm.or.jp/129/pc/isearch.asp」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】