説明

新規グルカン及びその製造方法

【課題】糸状菌よりβ-1,3-グルカンの混入の無いα-1,3-グルカンとα-1,3-グルカンの混入の無いβ-1,3-グルカンを製造する方法、該製造方法により得られるα-1,3-グルカンとβ-1,3-グルカンを提供すること。
【解決手段】糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:500〜99,000を有する、実質的にα-1,3結合のみから成るα-1,3-グルカン;糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:5,000〜990,000、β-1,3/1,6 分岐度:0〜20%を有する、β-1,3-グルカンを主体とするβ-グルカン;及びそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌培養物由来の新規なα-1,3-グルカンおよびβ-1,3-グルカン及びそれらの製造法等に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコースがα-1,3-グルコシド結合したオリゴ糖は、近年、生理活性を有するオリゴ糖として価値が見出されている。またα-1,3-グルコシドの二糖であるニゲロースは低甘味で上品な甘味を有し、耐熱性や保湿性を有し、麹菌を用いた食品である清酒・味醂・味噌などの芳醇なコク味の要因としても認識され、さらには免疫賦活作用・抗う蝕性の機能性が注目されている。またニゲロースから誘導される糖アルコールであるニゲリトールは、消化吸収されにくい低カロリー甘味料であり、非う蝕性でもある。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1ではニゲラン(α-1,3結合とα-1,4結合で交互に結合した直鎖状グルカン)やエルシナン等を基質として、酵素又は酸などを用いて加水分解することでニゲロースをはじめとするニゲロオリゴ糖を製造する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2では、4個のグルコースがα-1,3及びα-1,6結合により交互に連なった構造を有する環化四糖を加酸分解してニゲロース酢酸エステルを製造する方法が記載されている。又、特許文献3では、ムタンにムタナーゼを作用させて重合度が2〜4のα-1,3-グルコオリゴ糖を製造する方法が開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献3において、ヒト感染性二型性の酵母であるヒストプラズマ・キャプシュラタム(Histoplasma capsultum)、パラコクシオイデス・ブラジリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis)、ブラストマイセス・デルマチディス(Blastomyces dermatitidis)においては、α-1,3-グルカンが減少すると病原性の低下が認められている。この事は細胞表層がα-1,3-グルカンで覆われてβ-1,3-グルカンがマスクされている際には、ヒト免疫システムに認識されずに体内で増殖するためと考えられている。この点からもα-1,3-グルカンとβ-1,3-グルカンは異なる機能を持った多用途の多糖であり、それらを安価に大量に分離して得ることが望まれているが、生物より安定且つ大量にそのような多糖を製造する方法は確立されていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭55-19004号公報
【特許文献2】特開2004-23887号公報
【特許文献3】特開2005-185182号公報
【非特許文献1】エス・エー・ベーカー(S. A. Baker)等、「ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソザイティ」(Journal of Chemical Society)」2448頁〜2454頁、1957年
【非特許文献2】ケンイチ・イシバシ(K. Ishibashi)等、「フェムス・イミュノロジー・アンド・メディカル・マイクロバイオロジー」(FEMS Immunology and Medical Microbiology)第42巻、155頁〜166頁、2004年
【非特許文献3】エー・ビューバイス (A. Beauvais)等、「アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー」(Applied and Environmental Microbiology)第71巻、1531頁〜1538頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ニゲロースを含むα-1,3-グルコオリゴ糖の有用性は広く認識されるところであるが、これらオリゴ糖の製造には純度の高いα-1,3-glucanであるニゲランが必要であり、基質としてのニゲランやエルシナンが非常に高価で少量しか得られないのが工業的な課題である。更に、ニゲランやα-1,3-glucanを主体としてα-1,6結合を含むムタンやエルシナンの場合も、他の多糖との混合物で存在することが殆どで、α-1,3-glucanのみを多量に容易に精製することは困難であった。
【0008】
一方で、非特許文献2及び3に示されるようにアスペルギルス(Aspergillus)属を含む糸状菌β-1,3-グルカンはα-1,3-グルカンなど他の多糖成分との混合物であることが知られているが、それらの分離精製は容易ではない。
【0009】
本発明は、かかる従来技術に鑑みてなされたものであって、糸状菌よりβ-1,3-グルカンの混入の無いα-1,3-グルカンとα-1,3-グルカンの混入の無いβ-1,3-グルカンを製造する方法、該製造方法により得られるα-1,3-グルカンとβ-1,3-グルカンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題の解決に向けて鋭意研究を重ねた結果、大量培養可能で食経験が有り安全な麹菌菌体培養物より、両グルカンの簡便精製法を鋭意検討した結果、菌体を含む培養物より熱水抽出と弱アルカリ抽出により、可溶性タンパク質や可溶性多糖を除去し、強アルカリ可溶抽出画分に精製α-1,3-グルカンを、強アルカリ抽出2回目の上清(抽出物)と残渣区分に精製β-1,3-グルカンを得ることに成功し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、以下の各態様に係るものである。
[1]糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:500〜99,000、好ましくは、30,000〜35,000、例えば、約32,580を有する、実質的にα-1,3結合のみから成るα-1,3-グルカン。
[2]以下の各工程を含む、上記α-1,3-グルカンの製造方法:
(a)糸状菌の培養物を熱水抽出処理する工程、
(b)(a)で得られた残渣を弱アルカリ抽出処理する工程、
(c)(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を強アルカリ抽出処理する工程、及び
(d1)(c)で得られた強アルカリ可溶部(抽出液)を中和し、透析し、濃縮して、α-1,3-グルカンから成る沈殿物(AS-2画分)を調製する工程。
[3]糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:5,000〜990,000、好ましくは、230,000〜280,000、例えば約253,000、β-1,3/1,6 分岐度:0〜20%、好ましくは、1〜10%、例えば約6%を有する、β-1,3-グルカンを主体とするβ-グルカン。
[4]以下の各工程を含む、上記β-1,3-グルカンの製造方法:
(a)糸状菌の培養物を熱水抽出処理する工程、
(b)(a)で得られた残渣を弱アルカリ抽出処理する工程、
(c)(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を強アルカリ抽出処理する工程、
(d2)(c)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を、再度、強アルカリ抽出処理する工程、及び
(e)(d2)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を水中に懸濁させ、中和し、透析して、β-1,3-グルカンから成る残渣(AI 画分)を調製する工程。
【0012】
本発明において、「実質的にα-1,3結合のみから成るα-1,3-グルカン」とは、本明細書中の実施例に記載された各種の分析結果において1,3-グリコシド結合以外の結合が検出されず、β-1,3-グルカンが実質的に混在しない直鎖グルカンであることを意味する。又、「β-1,3-グルカンを主体とするβ-グルカン」とは、同様に、本明細書中の実施例に記載された各種の分析結果に基づき、上記に示した程度の少ない割合のβ-1,3/1,6 分岐度を有することを意味する。尚、かかるβ-グルカン中のα-1,3-グルカンの混入割合は、10%以下、望ましくは5%以下である。
【0013】
本発明において、「糸状菌の培養物」とは、培養された糸状菌の菌体そのものの他に、米麹、酒粕、醤油粕、焼酎粕、味噌、小麦ふすまを用いた糸状菌培養物の酵素抽出残渣、糸状菌液体培養物等の糸状菌の培養を利用して生産され糸状菌を含む各種の発酵物(食品・原料)、即ち、糸状菌由来産物も含むものである。又、本発明の製造方法に供される糸状菌の培養物は、例えば、凍結乾燥菌体などの任意の状態(形態)をとりえる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、真菌細胞壁よりの多糖の抽出条件を検討した結果、実質的にα-1,3結合のみから成る、高純度のα-1,3-グルカン、及び、α-1,3-グルカンが有意に除去された、β-1,3-グルカンを主体とするβ-1,3-グルカンの調製が可能となり、これら両グルカンを実質的に分離して安定に供給することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用される糸状菌の種類に特に制限はなく、当業者に公知の任意の菌を使用することができる。両グルカンを著量する含有すること、食経験が有り安全かつ大量生産が可能であること等を考慮すると、その代表的な例として、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachi)、アスペルギルス・シロウサミ(Aspergillus shirousami)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、並びに、これら糸状菌の自然変異株、人工的突然変異株、及び遺伝子操作による変異株を挙げることが出来る。尚、人工的突然変異株及び遺伝子操作による変異株は、当業者に公知の任意の方法・手段を用いて作製することが可能である。又、これら糸状菌の培養も当業者に公知の任意の方法・手段を用いて行うことが出来る。
【0016】
以下の、本発明の製造方法の各工程の条件等について詳しく記載する。尚、本発明の製造方法の概要を図1に示す。
【0017】
(a)における糸状菌の培養物の熱水抽出処理は、糸状菌の培養物に粉砕等の適当な前処理に施した後に、例えば、0.1Mリン酸、及び水等の適当な緩衝液中に懸濁させ、50〜150℃、好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上で、0.5〜2時間行うことが好ましい。例えば、オートクレーブ中で、約120℃、約60分間とすることができる。可溶性タンパク質や可溶性多糖をより多く除去するために、このような熱水抽出処理は複数回行うことが好ましい。尚、工業用のアミラーゼ、グルコアミラーゼやキシラナーゼの併用により、培養基に含まれる澱粉などの多糖類の効率的除去も可能である。
【0018】
(b)における(a)で得られた残渣を弱アルカリ抽出処理する工程は、例えば、0.5M NaOH等の弱アルカリ条件(pH11以上)下、4〜15℃、例えば、約4℃、12〜36時間、例えば、12時間行うことが好ましい。
【0019】
(c)における(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を強アルカリ抽出処理する工程は、例えば、2M NaOH等強アルカリ条件(pH11以上)下、4〜15℃、例えば、約4℃、12〜36時間、例えば、約12時間行うことが好ましい。
【0020】
(d2)における(c)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を、再度、強アルカリ抽出処理する工程(2度目強アルカリ抽出処理工程)は、基本的に工程(c)と同じ条件で行うことが出来るが、好ましくは、より長時間、例えば、約24時間とすることが出来る。又、この工程を複数回行うことも可能である。
【0021】
(d1)及び(e)工程における、中和操作は、例えば、酢酸等の適当な酸を用いて行うことができる。透析操作は、Milli-Q等の精製水を用いて行うことが好ましい。濃縮操作は、遠心及びろ過等の当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。
【0022】
尚、各アルカリ抽出工程の後に行われるアルカリ不溶部とアルカリ可溶部との分離は、例えば、10,000 x g、20分間等の適当な条件の遠心操作、及び、濾過等の当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。
【0023】
以下、実施例に則して本発明を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載に限定されるものではなく、本明細書の記載に基づき当業者が容易に想到し得る様々な変型又は修飾された態様も本発明に含まれるものである。
【実施例1】
【0024】
(1)麹菌気中菌糸細胞壁からのα-1,3-グルカン及びβ-1,3-グルカンの取得
Czapek-Dox 寒天培地に滅菌済みのナイロンフィルターネット (Nippon Rikagaku Kikai Co.,LTD., ポアサイズ : 63 μm ) を、滅菌ピンセットを用いて、プレートに密着するように重ねた。そのナイロンフィルターネットに 1 x 104 個となるように調製した分生子懸濁液をスポット植菌し、30℃で105 時間培養した。
【0025】
培養後、ピンセットを用いて菌糸の貼り付いているナイロンフィルターネットを剥がし、液体窒素中に入れて瞬時に凍結させた。このとき、凍結するのは菌体のみでナイロンフィルターネットは凍らない。凍結した菌体をネットからスパーテルを用いてかきとり、500 ml 容ビーカーに集めた。分生子を除くため、菌糸の入っているビーカーに滅菌水を 200 ml 程度注ぎ超音波処理装置 (Iuchi) で 20 分間処理した後、ミラクロス (CALBIOCHEM) を装着した漏斗で濾過し、数回滅菌水で洗浄した。ミラクロス上に残った菌糸を凍結乾燥して、凍結乾燥菌体とした。
【0026】
凍結乾燥菌体 5 g を乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで粉砕した。粉砕した菌体を 200 ml の 0.1 M phosphate buffer (pH 7.0) に懸濁し、これを 80 ml 遠心管チューブ 4 本に移した後、オートクレーブ中で 120℃、1 時間熱水抽出を行った。抽出物を 10,000 x g、20 分間遠心し、熱水可溶部 (Hot water-soluble : HW)と熱水不溶部に分画した。熱水不溶部に対し、同様の操作を再度行った。
【0027】
熱水可溶部は、Milli-Q 水に対して透析して HW-1画分とした。熱水不溶部は 200 ml の 0.5 N 冷 NaOH 水に懸濁し、4℃で12 時間撹拌し希アルカリ抽出した。抽出後、80 ml 遠心管チューブ 4 本に移し、10,000 x g、20 分間遠心により希アルカリ可溶部 (dilute alkali-soluble fraction : DA) と希アルカリ不溶部に分画した。希アルカリ不溶部は、さらに 200 ml の 2 N 冷 NaOH 水に懸濁し、4℃で 12 時間撹拌し強アルカリ抽出した。抽出後、80 ml 遠心管チューブ 4 本に移し、10,000 x g、20 分間遠心により強アルカリ可溶部 (alkali-soluble fraction : AS) と強アルカリ不溶部に分画した。強アルカリ不溶部は、再度 200 ml の 2 N 冷 NaOH 水に懸濁し、4℃で 24 時間撹拌し強アルカリ抽出した。抽出後、80 ml 遠心管チューブ 4 本に移し、10,000 x g、20 分間の遠心により 2 回目の強アルカリ可溶部 (second alkali-soluble fraction : SAS) とアルカリ不溶部に分画した。
【0028】
アルカリ不溶部は、200 ml の冷 Mill-Q で懸濁後、氷中で冷やしながら酢酸にて中和後、Milli-Q 水に対し透析し、アルカリ不溶部 (alkali-insoluble fraction : AI) とした。各アルカリ可溶部は、氷中で冷やしながら酢酸にて中和後 Milli-Q 水に対して透析し、10,000 x g、10 分間遠心により、各々の上清を DA-1, AS-1, SAS-1 画分、沈澱を DA-2, AS-2, SAS-2 画分とした。
【0029】
全ての画分は凍結乾燥後、各画分の重量を測定した。こうして得られた各画分の乾燥重量比を表1に示した。その結果、麹菌気中菌糸の細胞壁は主にAS-2 画分 (24.9%)、AI 画分 (49.8%) に分画されることが明らかになった。以後、この画分に含まれる構成糖の定量及び、多糖構造を解析した。
【0030】
【表1】

【0031】
AS-2, AI 画分の全糖 (ヘキソース) 量の測定を行った。試料中の全糖量はフェノール硫酸法 [デュボア・エム(Dubois M)等「ネイチャー」(Nature. 168 巻:167頁 1951 年 ) ] を改変して測定した。試料約 1 mg を 500 μl の Milli Q 水に懸濁した後、2.5 % (w/v) フェノールを 1 ml 加え、続いて濃硫酸 2.5 ml を直接液面に滴下するように加えてボルテックスにてよく混ぜた。30 分間放置後、適宜希釈して 490 nm における吸光度を測定した。標準糖としてグルコース溶液を用いて標準曲線を作成し、これをもとに試料中の全糖量を算出した。
【0032】
細胞壁の主要構成糖のうち、中性糖であるグルコース・ガラクトース・マンノースは以下の方法により定量した。
【0033】
AS-2, AI 画分の試料 25 mg を中試験管に秤り取り 25 N H2SO4 0.5 ml に溶解させ、4℃で一晩放置した。酸濃度が 1 N になるように 12 ml の水を加えて混和し、100℃、12 時間完全加水分解した。加水分解液に過剰量の炭酸バリウムを加えて中和し、生じた硫酸バリウムの沈澱を 16,500 x g、5 分間の遠心により除いた。上清を TOYO paper No. 5C で濾過した後、陽イオン交換樹脂 Dowex 50W-X2 (H+ 型, 室町化学工業) を用いて脱塩した。この脱塩操作の段階で、キチンなどの加水分解により生じるヘキソサミンは樹脂に吸着して除かれる。脱塩操作後、樹脂は濾過により除き、濾液を中性糖画分とした後、HPLC を用い中性糖画分中のグルコース、ガラクトース、マンノースの定量を行った。標準糖としてグルコース、ガラクトース、マンノースを 60, 80, 100μg、各々アプライし、保持時間、およびピーク面積を求めて標準曲線を作成した。試料は Millex-LG (MILLIPORE 社製) フィルターで前処理を行ってからアプライした。ピークの溶出時間、およびピーク面積を標準糖と比較し、試料中の中性糖の種類、量を算出した。測定は以下の条件で行なった。
【0034】
【表2】

【0035】
AS-2, AI 画分の全糖 (ヘキソース) 量の測定結果及び全糖量に含まれるグルコース、ガラクトース、マンノースの割合を表3に示した。その結果、AS-2 画分に含まれる中性糖は全てグルコースであることが明らかになった。また、AI 画分は 88% がグルコースであった。
【0036】
【表3】

【0037】
細胞壁の主要構成糖であるキチンは、塩酸加水分解によって生じるヘキソサミン量として、Elson-Morgen 法の改良法であるBlix 法 [ブリクス・ジー (Blix G) 「アクタ・ケミカ・スカンジナビア」(Acta chemica Scandinavica 2 巻: 467頁〜473頁 1948 年)] にて定量した。約 5 mg の AS-2, AI 画分をエッペンドルフチューブに秤り取り、400 μl の 4 N HCl に懸濁しヒートブロックで 96℃、12時間加水分解した。加水分解後、 400 μl の水を加え室温で 1 時間放置した。分解しなかった細胞壁残渣は遠心分離により沈澱させた。
【0038】
遠心後の上清 2-20 μl を滅菌水で 200 μl にフィルアップし試料とした。各試料にアセチルアセトン試薬(アセチルアセトン:1.25 N Na2CO3 = 3:100)を 400 μl加え 90℃で 1 時間反応させた。流水にて冷却後、4 ml 特級エタノールの入った試験管移し、400 μl の Ehrlich 試薬(p-ジメチルアミノベンズアミド 1.6 g, conc. HCl 30 ml, 特級エタノール 30 ml)を入れよく撹拌した。1 時間以上放置した後、530 nm の吸光度を測定した。標準糖としてグルコサミン塩酸塩を用いて標準曲線を作成し、これをもとに試料液中のヘキソサミン量を算出した。AS-2, AI 画分のヘキソサミン量(キチン量)の割合を表4に示した。
【0039】
【表4】

【0040】
AS-2, AI 画分の多糖構造を検討するために、AS-2 画分においては、メチル化分析、13C-NMR 解析、β-1,3-グルカナーゼ酵素処理法を、AI 画分においては、メチル化、β-1,3-グルカナーゼ酵素処理法を行った。
【0041】
AS-2 画分の解析 (メチル化分析)
メチル化の方法は箱守法に従った [ハコモリ・エス (Hakomori S) 「ジャーナル・オブ・バイオケミトリー(トーキョー)」(J. Biochem [Tokyo]. 55 巻:205頁〜208頁 1964 年]。また、濃縮乾固は全て Concenrator TC-8 (TAITEC) を用いて行なった。試料多糖 10 mg に対して、DMSO 1 ml を入れ、sonic bath 中で溶解させた。次に、予め調製した Methyl sulfinyl carbanion (MSC) 1 ml を加え窒素置換し、時々撹拌しながら sonic bath 中で 50℃以下に保って 5 時間反応させた。この後、冷水中でヨウ化メチル 1 ml を加え、Sonic bath 中で 30℃以下に保って、同様に 2 時間反応させ、流水に対して一晩透析し、油状部分を濃縮乾固した。オリゴ糖の場合は、反応液を水で希釈後、クロロホルムで抽出し、少量の水で数回洗浄後濃縮乾固した。以上の操作を計 3 回行った。
【0042】
メチル化したサンプルに 2 M TFA 1 ml を加え、Sonic bath 中で 5 min 反応させた後、オートクレーブにて 120℃, 90 min 加水分解し、濃縮乾固した。次に 0.2 M アンモニアを 1 ml 加えて弱アルカリ性とし、10 mg の NaBH4 を加えて 10 min Sonic をかけた後放置し、室温で一晩還元反応を行った。
【0043】
Dowex-50w x2 (H + 型) を泡が出なくなるまで加えて中性にし、TOYO paper No. 5C で濾過した。この濾液を濃縮乾固し、99% メタノールを約 0.5 ml ずつ加えながら、濃縮乾固した。この濃縮乾固を 5 回繰り返した後、無水酢酸とピリジンを 0.5 ml ずつ加え、100℃, 1 時間反応させてアセチル化し、濃縮乾固後、トルエン 0.5 ml を加え、2 回濃縮乾固した。これをアセトン 100 μl に溶かし、そのうちの 2 〜10 μl をガスクロマトグラフィーに供し、分析した。以下の表5に示した条件でガスクロマトグラフィーに供した。
【0044】
【表5】

【0045】
標準物質としてシゾフィラン (スエヒロタケ由来 )をシダ・エム(Shida M.)等「ジャーナル・オブ・バイオケミトリー(トーキョー)」(J. Biochem [Tokyo]. 90巻:1093頁〜1100頁)の方法で調製したもの、マルトヘプタオース (生化学工業)、デキストラン T70 (アマシャムファルマシア) のクロマトグラムを用いて、各部分メチル化アルジトールアセテートの溶出時間を決定した。シゾフィランは、メチル化すると部分メチル化糖の比が、2,3,4,6-テトラメチル体 : 2,4,6- トリメチル体 : 2,4-ジメチル体 = 1 : 2 : 1 となる化学構造を持ったβ-1,3/β-1,6-グルカンである。得られたチャートのピーク面積の比に、シゾフィランのピーク面積を考慮したレスポンスファクターによる補正を行い、各結合の量比を求めた。
【0046】
[MSC (methyl sulfinyl calbanion) の調製]
キャップ付き試験管に 300 mg の NaH を秤りとり、3 ml の DMSO を加えて N2 置換した後、sonic bath 中で 50℃に加温し溶液が淡緑色になるまで約 1 時間反応させた。反応中は、時々キャップを緩めて発生する水素を逃がした。調製した MSC は、暗所で −20℃で保存した。
【0047】
メチル化分析の結果を表6に示した。この結果から、AS-2 画分は 1,3-グリコシド結合からなる直鎖グルカンであることが示された。また、テトラメチル体とトリメチル体の比率に、シゾフィランのピーク面積を元にしたレスポンスファクター (Rf) を乗じ、アルカリ可溶グルカン (AS-2 画分) の平均鎖長を 311 x Rf = 311 x (2/3.1) = 201と算出した。
【0048】
【表6】

【0049】
AS-2 画分の解析(13C-NMR 解析)
AS-2 画分の 1,3-グリコシド結合がα結合かβ結合かを検討するために、AS-2 画分の 13C-NMR 解析を行った。AS-2 画分 8 mg を DMSO-d6 (Wako) 0.6 ml に溶解し、よく懸濁した後、3,000 x g, 5 分間遠心した。その上清に対して以下の表7に示した条件で 13C-NMR による解析を行った。その結果を図2に示した。
【0050】
【表7】

【0051】
AS-2 画分からはグルコースの 6 個の炭素由来の 6 つのシグナルのみが検出され、化学シフトは 100.36, 83.49, 72.57, 71.47, 70.02, 60.80ppm であった(A)。これは分裂酵母 (S. pombe) の細胞壁から分画して精製されたα-1,3 グルカンの化学シフトの 99.49, 82.96, 71.85, 70.72, 69.43, 60.30 ppm という値 [スガワラ・ティー (Sugawara T)等「カーボハイドレィト・リサーチ」(Carbohydrate research 339 巻: 2255頁〜2265頁2004 年)](B) とほぼ一致していた。参考として、TFA 処理カードラン(β-1,3-グルカン)からも 6 つのシグナルのみが検出され、化学シフトは103.02, 86.31, 76.32, 72.83, 68.39, 60.87ppm であった。これは、S. pombe の細胞壁から得たβ-1,3 グルカンの化学シフト 102.82, 86.110, 76.24, 72.67, 68.30, 60.80 ppm という値とほぼ一致していた。以上の結果から、AS-2 画分は主にα-1,3-グルカンから成ることが示された。
【0052】
AS-2 画分の解析 (エンド-β-1,3-グルカナーゼ処理)
AS-2 画分にβ-1,3-グルカンの存在量を検討するために、エンド-β-1,3-グルカナーゼ処理を行った。エンド-β-1,3-グルカナーゼは、特開2005−43146号公報の記載に従って金沢工業大学、佐野博士が調製したものを用いた。
【0053】
乳鉢上ですりつぶした粉末状の AS-2 画分を終濃度 3 mg/ml となるように50 mM 酢酸ナトリウム buffer (pH 5.0) に懸濁した。そこに、精製エンド-β-1,3-グルカナーゼ 50μl (1mg/ml) を添加し、撹拌後、37℃にて一定時間反応させた。反応後、16,500 x g で 1 分間遠心分離し、上清 100 μl 中に含まれる遊離還元糖量を、Nelson-Somogyi 法 [ネルソン・エヌ (Nelson N)「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」(The Journal of biological chemistry 153 巻: 375頁〜380頁1944 年、ソモギ・エム (Somogyi M) 「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」(The Journal of biological chemistry 195 巻: 19頁〜22頁1952年)]により測定した。コントロールとして等量の TFA 分解カードラン(β-1,3-グルカン)を基質として使用した。
【0054】
Nelson-Somogyi 法は、以下の表8に示したように行った。試料液 100 μl にアルカリ性銅試薬を 100 μl 加えて沸騰水中で 10 分間加熱した。急冷して ヒ素モリブデン試薬を100 μl加え、30 分以上放置した後、500 nmの吸光度を測定した。標準曲線はグルコースを用いて作製した。
【0055】
【表8】

【0056】
AS-2 画分のエンド-β-1,3-グルカナーゼ処理の結果を表9に示した。直鎖 β-1,3-グルカンであるカードランからは分解により還元糖が遊離したのに対し、A-2 画分からは還元糖の遊離は起こらなかった。以上から、AS-2 画分はβ-1,3-グルカンが実質的に混在しない、実質的にα-1,3-グルカンのみからなることが明らかになった。以上から、糸状菌気中菌糸細胞壁からβ-1,3-グルカンの混在しないα-1,3-グルカンが高純度で得られることがわかった。また、平均鎖長が 201 より、このα-1,3-グルカンの平均分子量は、32,580 となることが示された。
【0057】
【表9】

【0058】
AI 画分の解析 (メチル化分析)
AI 画分を、AS-2 画分と同様の要領でメチル化分析に供した。その結果を表6に示した。AI 画分は、1,3 グリコシド結合を示す 2, 4, 6 -トリメチル体のピークがメインであることから、AI 画分のグルカンは 1,3 グルカンであることが明らかとなった。さらに 1,3/1,6 分岐グルコースを示す2, 4 -ジメチル体のピークが確認され、この分岐グルコースと直鎖グルコースの比率から、AI 画分に存在する 1,3-グルカンは平均 17 グルコース残基に1 個の割合で分岐度が存在する事が示された。すなわち、AI 画分に含まれる 1,3-グルカンは 6% の1,3/1,6 分岐度を持つことが示された。
【0059】
AI 画分の解析 (エンド-β-1,3-グルカナーゼ処理)
AI 画分に存在するグルカンが、1,3-グリコシド結合がα結合かβ結合かを検討するために、エンド-β-1,3-グルカナーゼ処理による検討を行った。
酵素が作用しやすいように AI 画分に含まれるキチンを除くため キチナーゼ(chitinase) 処理を行った。キチナーゼは、ワタナベ・ティー(Watanabe T.)等、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol. )172巻:4017頁〜4022頁 1990年.記載のBacillus circulansの chitinase A1を発現するプラスミド pHT012を新潟大学農学部、渡邊剛志教授より分譲いただき、E. coli JM109 株を形質転換した株から、同論文に従って粗精製を行ったものを用いた。
【0060】
AI 画分の キチナーゼ処理は、以下のように行った。AI 画分を乳鉢に入れ、液体窒素を注ぎながら乳棒を使ってパウダー状になるまで粉砕した。この粉砕した AI 画分を凍結乾燥した後、300 mg を 50 ml 容ファルコンチューブに測りとり、キチナーゼA1 800 μg、0.05 % アジ化ナトリウムを含む 0.1 M Sodium Phosphate buffer (pH 6.0) 中で 37℃、2 日間 キチナーゼ 処理を行なった。処理後、10,000 x g、4℃で20 分間遠心し、沈澱に対して同様の chitinase 処理をさらに 2 回行なった。キチナーゼ 処理後の沈澱は、40 ml の MQ に懸濁し遠心するという洗浄操作を 5 回繰り返すことで、塩とキチナーゼを除き、沈澱を凍結乾燥した。
【0061】
キチナーゼ 処理した AI 画分を、AS-2 画分と同様の要領でエンド-β-1,3-グルカナーゼ処理を行った。その結果を表9に示した。反応液上清に遊離還元糖が確認されたことから、AI 画分の 1,3-グルカンは主に、β-1,3-グルカンであることが示された。
【0062】
AI 画分の解析 (平均重合度の測定)
β-1,3-グルカンの平均重合度は、多糖の還元末端基を定量し、試料に含まれるグルコース量との比を求めることにより測定した。還元末端基の定量は、還元末端グルコースを水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4) でソルビトールに還元し、このソルビトール量を酵素法により測定することで求めた。[マナーズ・ディジェー (Manners DJ)等「カーボハイドレィト・リサーチ」(Carbohydrate research 17 巻:109頁〜114頁 1971 年)]
【0063】
キチナーゼ 処理をした AI 画分 40 mg を 5ml の 0.05 M NaOH に懸濁し、80 mg の NaBH4 を加えて 10 分間 sonic をかけ、室温にて一晩放置した。過剰の NaBH4 を分解するため 0.2 ml の 濃塩酸を加えて pH 4 以下に調整し、濃縮乾固した。3 ml の メタノールを加えて濃縮乾固を 5 回くりかえしたあと、蒸留水に対して一晩透析した。透析後、凍結乾燥して、還元末端グルコースがソルビトールに還元されたグルカンを調製した。NaBH4 による還元は 2 回行ない、NaBH4 による還元をそれ以上繰り返しても還元力の減少が起こらないことを Nelson-Somogyi 法で確認した。この還元グルカンに対し、上述の方法で完全加水分解を行ない、HPLC でグルコース量を定量し、還元末端由来のソルビトールは F-キット (Roche 社製) で定量することにより、平均重合度 (DPn) = グルコース / ソルビトール (μmol)のように平均重合度を求めた。
【0064】
キチナーゼ 処理をした AI 画分を NaBH4 還元により生じたソルビトール量を測定する方法で平均重合度を求めた結果、平均重合度 (DPn) は、DPn = 1000/0.64 +1 = 1564 であった。よって AI 画分に含まれる β-1,3-グルカンは、6% の分岐度を有し、平均分子量は、253,000 となった。
【実施例2】
【0065】
(2)麹菌由来産物からのα-1,3-グルカン及びβ-1,3-グルカンの製造
麹菌由来産物の例として、味噌作成時に用いる米麹からα-1,3-グルカン及びβ-1,3-グルカンの取得を示した。
米麹を 100 g を計り取り、凍結乾燥を行った。凍結乾燥後、米麹に液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで破砕した後、再度凍結乾燥を行った。凍結乾燥サンプルを 500 ml の0.1 M phosphate buffer (pH 7.0) に懸濁し、オートクレーブ中で 120℃、1 時間熱水抽出を行った。抽出物を 10,000 x g、20 分間遠心し、熱水可溶部と熱水不溶部に分画した。熱水不溶部に対し、同様の操作を再度行った。熱水不溶部は 500 ml の 0.5 N 冷 NaOH 水に懸濁し、4℃で 12 時間撹拌し希アルカリ抽出した。抽出後、10,000 x g、20 分間の遠心により希アルカリ可溶部と希アルカリ不溶部に分画した。希アルカリ不溶部は、さらに 500 ml の 2 N 冷 NaOH 水に懸濁し、4℃で 12 時間撹拌し強アルカリ抽出した。抽出後、10,000 x g、20 分間の遠心により強アルカリ可溶部と強アルカリ不溶部に分画した。
【0066】
強アルカリ可溶部は、氷中で冷やしながら酢酸にて中和後 Milli-Q 水に対して透析し、10,000 x g、10 分間遠心により、上清と沈殿に分画した。沈殿画分を凍結乾燥し、α-1,3-グルカンを取得した。
【0067】
得られた α-1,3-グルカンに対して β-1,3-グルカンの混在がないことを確認するために、実施例1と同様に、この画分の13C-NMR 解析を行った。
【0068】
得られた化学シフトは 99.75, 82.88, 78.69, 73.08, 71.95, 70.86, 69.44, 60.19 ppm であり、これら化学シフトの中の 99. 75, 82. 88, 71.95, 70.86, 69.44, 60.19 ppm は、実施例1で得られた AS-2 画分が示した化学シフト(段落番号「0051」に記載)とほぼ一致した。また、β-1,3-グリコシド結合の C1 及び C3 位の特徴的な 103 及び 86 ppm 付近の化学シフトは検出されなかったことから、米麹から調整された α-1,3-グルカンは NMR 解析レベルにおいて β-1,3-グルカンが混在しないことが示された。78.69 ppm 及び 73.08 ppm は、米麹中に含まれる澱粉に由来すると示唆された。
この結果から 段落番号「0017」に記載したように、培養基に含まれる多糖をより多く除去するために、熱水抽出処理を複数回行うこと、または、アミラーゼ等の酵素を併用することで効率的に除去することが可能と考えられることから、このα-1,3-グルカン画分に混入している澱粉をここでは熱水抽出によって除去することを試みた。
【0069】
50 mg の α-1,3-グルカン画分を秤量し、50 ml の Milli-Q 水によく懸濁させ、120℃、1 時間オートクレーブにて熱水抽出を行った。抽出物を濾過し、熱水可溶部と熱水不溶部に分画した。得られた熱水不溶画分を Milli-Q 水を用いてよく洗浄し、凍結乾燥を行った。
【0070】
得られた熱水可溶部に対してヨウ素澱粉反応を行った所、呈色反応を示したことから、α-1,3-グルカン画分に澱粉の混入が明らかになった。さらに、混入率を調べるために、熱水可溶部 140μl に対して、300μl のヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.15% ヨウ素、1.5% ヨウ化カリウム溶液)を加え、よく撹拌し、700 nm における吸光度を測定した。また、市販の澱粉を用いて標準曲線を作成し、これをもとに試料中の澱粉量を算出した。その結果、熱水可溶部 140μl 辺り 15.1μg の澱粉が存在することが明らかになった。すなわち、α-1,3-グルカン画分に対する澱粉の混入率は 10.8% であった。
【0071】
凍結乾燥を行ったα-1,3-グルカン画分の熱水不溶画分を再度、実施例1と同様に、サンプルを調整して同条件で13C-NMR による解析を行った。
【0072】
その結果、6 つのシグナルのみが検出され、化学シフトはそれぞれ 99.80, 82.96, 71.98, 70.90, 69.46, 60.23 ppm であった。米麹中に含まれる澱粉に由来すると考えられた 78 及び 73 ppm 付近の化学シフトは観察されなかった。以上から、熱水抽出によりα-1,3-グルカン画分に混入していた澱粉の除去が示された。すなわち、AS−2画分の再熱水抽出により、澱 粉およびβ-グルカンの混入しないα-1,3-グルカン を得ることが可能であることが示された。
【0073】
強アルカリ不溶部は、再度 500 ml の 2 N 冷 NaOH 水に懸濁し、4℃で 48 時間撹拌し強アルカリ抽出した。抽出後、10,000 x g、20 分間の遠心により 2 回目の強アルカリ可溶部と強アルカリ不溶部に分画した。アルカリ不溶部は、500 ml の冷 Mill-Q で懸濁後、氷中で冷やしながら酢酸にて中和後、Milli-Q 水に対し透析した後、凍結乾燥し、β-1,3-グルカンを取得した。
α-1,3-グルカン画分及びβ-1,3-グルカン画分の重量比を表10に示した。
【0074】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の製造方法の各工程を含む概要を示す。
【図2】AS-2 画分の解析(13C-NMR 解析)の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:500〜99,000を有する、実質的にα-1,3結合のみから成るα-1,3-グルカン。
【請求項2】
糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:30,000〜35,000を有する、請求項1記載のα-1,3-グルカン。
【請求項3】
糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:約32,580を有する、請求項2記載のα-1,3-グルカン。
【請求項4】
糸状菌が、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachi)、アスペルギルス・シロウサミ(Aspergillus shirousami)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、並びに、これら糸状菌の自然変異株、人工的突然変異株、及び遺伝子操作による変異株から成る群から選択される、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のα-1,3-グルカン。
【請求項5】
以下の各工程を含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のα-1,3-グルカンの製造方法:
(a)糸状菌の培養物を熱水抽出処理する工程、
(b)(a)で得られた残渣を弱アルカリ抽出処理する工程、
(c)(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を強アルカリ抽出処理する工程、及び
(d1)(c)で得られた強アルカリ可溶部(抽出液)を中和し、透析し、濃縮して、α-1,3-グルカンから成る沈殿物を調製する工程。
【請求項6】
以下の各工程を含む、請求項5記載のα-1,3-グルカンの製造方法:
(a)糸状菌の培養物を、50〜150℃、0.5〜2時間の熱水抽出処理する工程、
(b)(a)で得られた残渣を、4〜15℃、12〜36時間の弱アルカリ抽出処理する工程、
(c)(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を4〜15℃、12〜36時間の強アルカリ抽出処理する工程、及び
(d1)(c)で得られた強アルカリ可溶部(抽出液)を中和し、透析し、遠心させて、α-1,3-グルカンから成る沈殿物を調製する工程。
【請求項7】
糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:5,000〜990,000、β-1,3/1,6 分岐度:0〜20%を有する、β-1,3-グルカンを主体とするβ-グルカン。
【請求項8】
糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:230,000〜280,000、β-1,3/1,6 分岐度:1〜10%を有する、請求項7記載のβ-グルカン。
【請求項9】
糸状菌の培養物より得られ、平均分子量:約253,000、β-1,3/1,6 分岐度:約6%を有する、請求項8記載のβ-グルカン。
【請求項10】
糸状菌が、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachi)、アスペルギルス・シロウサミ(Aspergillus shirousami)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、並びに、これら糸状菌の自然変異株、人工的突然変異株、及び遺伝子操作による変異株から成る群から選択される、請求項7ないし9のいずれか一項に記載のβ-1,3-グルカン。
【請求項11】
以下の各工程を含む、請求項7ないし10のいずれか一項に記載のβ-1,3-グルカンの製造方法:
(a)糸状菌の培養物を、熱水抽出処理する工程、
(b)(a)で得られた残渣を弱アルカリ抽出処理する工程、
(c)(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を強アルカリ抽出処理する工程、
(d2)(c)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を、再度、強アルカリ抽出処理する工程、及び
(e)(d2)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を水中に懸濁させ、中和し、透析して、β-1,3-グルカンから成る残渣を調製する工程。
【請求項12】
以下の各工程を含む、請求項11記載のβ-1,3-グルカンの製造方法:
(a)糸状菌の培養物を、50〜150℃、0.5〜 2時間の熱水抽出処理する工程、
(b)(a)で得られた残渣を、4〜15℃、12〜36時間の弱アルカリ抽出処理する工程、
(c)(b)で得られた弱アルカリ不溶部(残渣)を、4〜15℃、12〜36時間の強アルカリ抽出処理する工程、
(d2)(c)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を、再度、4〜15℃、24〜72時間の強アルカリ抽出処理する工程、及び
(e)(d2)で得られた強アルカリ不溶部(残渣)を水中に懸濁させ、中和し、透析して、β-1,3-グルカンから成る残渣を調製する工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−75075(P2008−75075A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212588(P2007−212588)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】