説明

新規シリルアセトアルデヒドアセタール

【課題】中性条件下でより簡便に脱保護が可能な1.2−ジオールおよび1,3−ジオールの保護剤を提供する。
【解決手段】アセトアルデヒドアセタールのα−位にトリイソプロピルシリル基を有する新規なトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドアセタール。このアセタールを1,2−ジオール,1,3−ジオールと反応させることにより得られる環状アセタールは,テトラフルオロボレートアニオンの存在下,中性条件で容易に脱保護が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα位にトリイソプロピルシリル基を有するアセトアルデヒドアセタールに関するもので,有機合成等の属する分野および他の分野において要求されている1,2−ジオール,1,3−ジオールの保護剤に供するものである。
【背景技術】
【0002】
有機合成において保護剤を上手に利用した合成戦略を立てることが重要で,複雑な化合物の多段合成には保護剤の利用が不可欠である。有用な保護剤の条件としては,温和な条件下,高収率で保護したい官能基とのみ反応し,次いで行なわれる多くの化学反応に安定で,ある条件下で定量的に脱保護されて元の官能基を生じることなどが挙げられる。
一方,複雑な化合物の多段階合成としては天然物合成が挙げられる。そして,糖,ステロイド,プロスタノイドを始めとする天然物には1,2−あるいは1,3−ジオール構造を持つものが多く,それらの保護は極めて重要である。これら1,2−あるいは1,3−ジオールの保護剤としてアセタールが最も広く用いられている。アセタールは酸性条件下,1,2−あるいは1,3−ジオールと反応し,それぞれ1,3−ジオキソラン,1,3−ジオキサンを生成する。そして,これらの環状アセタールは酸性条件下で加水分解され,カルボニル化合物と元の1,2−あるいは1,3−ジオールに戻る。
【0003】
上記条件においては分子内に酸に弱い保護基や酸に弱い官能基が存在する場合,これらの保護基や官能基が酸の影響を受けることがある。そのため,より温和な条件下での脱保護が望まれており,脱保護法の改良やアセタール誘導体の開発が行われている。例えば,Lipshutzらはp−メトキシアセトフェノンジメチルアセタールを糖の4,6−位の水酸基の保護剤として用いている。そして,生成した環状アセタールは四塩化すず,次いでテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを作用させることで脱保護を行っている[J.Org.Chem.,46,2419(1981)]。また,Fukuyamaらは4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒド,あるいはそのジメチルアセタールを開発し,1,2−ジオールと反応させて2−[4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)フェニル−1,3−ジオキソラン誘導体としている。この1,3−ジオキソランはフッ素アニオン,次いで塩基で処理することで元の1,2−ジオールに戻ることを報告している[Tetrahedron Lett.,45,3817(2004)]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,Lipshutzらの脱保護法は20当量以上の四塩化すずを必要とし,次いで強塩基のテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを作用させなければならない。また,反応溶媒としてはハロゲン系の塩化メチレンのみが記載されている。塩化メチレンは環境等への影響からその使用が問題とされている。この方法は到底満足できるものではない。Fukuyamaらの4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒドジメチルアセタールを用いる方法は温和な条件下,1,2−ジオールから2−[4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)フェニル]−1,3−ジオキソラン誘導体に導くことができ,この環状アセタールはフッ素アニオン,次いで塩基で処理することで,元の1,2−ジオールを生成する優れた方法である。しかしながら,この脱保護法は,フッ素アニオンで,まず,2−[4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)フェニル]−1,3−ジオキソラン誘導体からt−ブチルジメチルシリルを脱離させ,次いで塩基性にして1,3−ジオキソランを加水分解する二段階の反応である。また,このアセタールは弱い酸性条件下,例えば,酢酸:THF:水(3:1:1)の混合溶媒中室温で脱保護され,酸性条件下では非常に弱い保護基である。塩基性条件下では安定で,かつある程度の酸性条件に耐えることができ,中性条件下で脱保護が行え,より簡便に,高い収率で1,2−あるいは1,3−ジオールを生成する保護剤が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで,発明者らは鋭意研究を重ね,本発明を完成するに至った。すなわち,本発明は下記構造式
【0006】
【化1】

【0007】
(式中,i−Prはイソプロピル基,R,Rはアルキル基,分枝アルキル基であって同一であっても異なっていてもよく,あるいはRとRが結合したアルキレンから選択される)で示される新規シリルアセトアルデヒドアセタールで,温和な条件下,1,2−あるいは1,3−ジオールと反応し,1,3−ジオキソラン,1,3−ジオキサンを生成する。そして,この環状アセタールはフッ素アニオンの存在下,加水分解を受け,元の1,2−あるいは1,3−ジオールとなる。上記アセタールは文献未載の新規化合物である。本発明の代表例として下記構造式1で示されるアセタールを取り上げ,その製造法を例示する。
【0008】
【化2】

【0009】
上記アセタールはアリルトリイソプロピルシランから下記反応式に従って2工程で合成することができる。
【0010】
【化3】

【0011】
(式中,R,Rはそれぞれ独立に水素原子,アルキル基,アリール基であって,同一であっても異なっていてもよい)第1工程はアリルトリイソプロピルシランにオゾンを加え,反応させ,オゾニドを生成させ,次いでこのオゾニドを還元的処理することでトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドが得られる。第2工程は得られたトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドをアセタールにする工程で,p−トルエンスルホン酸の存在下,オルトギ酸トリメチルを反応させる方法などが利用できる。
【0012】
第1工程で使用しうる溶媒は塩化メチレン,クロロホルム,酢酸エチル,メタノールなどから選択され,反応温度は−78℃から100℃の間で選択されるが好ましくは−20℃から室温の間である。還元的処理には亜鉛−酢酸,亜りん酸トリエチル,接触水素添加,ジメチルスルフィド,トリフェニルホスフィンなどから適宜選択される。第2工程はホルミル基をアセタールに変換する工程で,種々の方法が利用可能である。例えば,塩化水素−メタノール[A.F.B.Cameron,J.S.Hunt,J.F.Oughton,P.A.Wilkinson,B.M.Wilson,J.Chem.Soc.,3864(1953)],オルトギ酸トリメチル−トリフルオロ酢酸[A.Thurkaur,A.E.Jacobson,Synthesis,233(1988)],DCC−四塩化スズ−メタノール[N.H.Andersen,H.−S.Uh,Synth.Commun.,,125(1973)],オルトギ酸トリメチル−LaCl[A.L.Gemal,J.−L.Luche,J.Org.Chem.,44,4187(1979)],メトキシトリメチルシラン−トリメチルシリルトリフラート[M.Vandewalle,J.Vander Eycken,W.Oppolzer,C.Vullioud,Tetrahedron,42,4035(1986)],オルトギ酸トリメチル−p−トルエンスルホン酸[E.Wenkert,T.E.Goodwin,Synth.Commun.,7,409(1977)]などの方法が利用可能で,一部変形して,あるいはそのまま用いることができる。例示ではE.Wenkertらの方法を一部変形して用いた。
【0013】
上記反応式に従って得られたトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタールは1,2−あるいは1,3−ジオールの保護剤として極めて有用である。
【0014】
以下に参考例を用いて本発明化合物の一つであるトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタールの保護剤としての有用性を明らかにする。以下の参考例は例示であり,これに限定されるものではない。
参考例1メチル5−O−ベンゾイル−β−D−リボフラノシドの保護
【0015】
メチル5−O−ベンゾイル−β−D−リボフラノシド0.19mmol,トリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタール0.38mmolをベンゼン0.4mlに溶解させ,次いでp−トルエンスルホン酸0.019mmolを加え,室温で1時間撹拌した。飽和重曹水溶液を加え,酢酸エチルで抽出,抽出液を飽和食塩水で洗浄し,炭酸カリウムを加えて脱水し,ろ過した。ろ液から溶媒を留去し,残渣をカラム精製し,メチル5−O−ベンゾイル−2,3−O(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドの無色油物質を得た。収率は86%であった。
【0016】
得られたメチル5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドの物性を以下に示す。[α]25 −22(c0.40,CHCl);H NMR(300MHz,CDCl)δ8.02−7.96(2H,m),7.53−7.35(3H,m),5.03(1H,t,J=5.9Hz),4.97(1H,s),4.56(1H,d,J=6.2Hz),4.50(1H,dd,J=7.0,6.8Hz),4.46(1H,d,J=6.2Hz),4.32(1H,dd,J=11.4,7.0Hz),4.27(1H,dd,J=11.4,6.8Hz),3.27(3H,s),1.12(2H,d,J=5.9Hz),1.00−0.97(21 H,m);13C NMR(75MHz,CDCl)δ166.1,133.1,129.8,129.7(2C),128.4(2C),109.1,106.1,85.5,84.1,81.8,65.1,54.9,18.7(6C),15.2,11.2(3C);IR(neat,cm−1)1725;CI−MS m/z 451(M+H);HR−CI−MS 451.2513(C2439Siの理論値:451.2516)
参考例23−フェニル−1,2−プロパンジオールの保護
【0017】
参考例1のメチル5−O−ベンゾイル−β−D−リボフラノシドを3−フェニル−1,2−プロパンジオールに,反応温度を室温からベンゼンの還流に替えて行い,4−ベンジル−2−トリメチルシリルメチル−1,3−ジオキソランを収率100%で得た。
【0018】
得られた4−ベンジル−2−トリメチルシリルメチル−1,3−ジオキソランは1:1のジアステレオマー混合物である。その物性を以下に示す。H NMR(300MHz,CDCl)δ7.24−7.13(5H,m),5.14(1/2H,t,J=6.1Hz),5.02(1/2H,t,J=5.8Hz),4.29−4.10(1/2H,m),4.19−4.10(1/2H,m),3.98(1/2H,dd,J=8.1,6.2Hz),3.74(1/2H,t,J=7.7Hz),3.57(1/2H,dd,J=7.7,6.4Hz),3.46(1/2H,t,J=8.1Hz),2.95(1/2H,dd,J=9.2,6.4Hz),2.90(1/2H,dd,J=9.2,6.4Hz),2.72(1/2H,dd,J=12.1,6.4Hz),2.67(1/2H,dd,J=12.1,6.4Hz),1.11−0.93(23H,m);13C NMR(75MHz,CDCl) δ138.2,138.0,129.6(2C),129.5(2C),129.0,128.8(2C),128.8(2C),126.8,104.4,103.6,77.8,77.5,40.7,40.0,19.1(6C),18.4(6C),16.6,16.5,12.3(3C),11.6(3C);CI−MS m/z 335(M+H);HR−CI−MS 335.2399(C2035Siの理論値:335.2406)
参考例3(1R,3S)−1,3−フェニル−1,3−プロパンジオールの保護
【0019】
参考例1のメチル5−O−ベンゾイル−β−D−リボフラノシドを(1R,3S)−1,3−フェニル−1,3−プロパンジオールに替えて行い,(4R,6S)−2−イソプロピルシリルメチル−4,6−ジフェニル−1,3−ジオキサンを収率94%で得た。
【0020】
得られた(4R,6S)−2−イソプロピルシリルメチル−4,6−ジフェニル−1,3−ジオキサンの物性を以下に示す。H NMR(300MHz,CDCl)δ7.30−7.13(10H,m),5.04(1H,t,J=5.9Hz),4.71(2H,dd,J=11.0,2.6Hz),1.89(1H,dt,J=13.2,2.6Hz),1.75(1H,dt,J=13.2,11.0Hz),1.26(2H,d,J=5.9Hz),1.03−0.90(21H,m);13C NMR(75MHz,CDCl)δ141.7(2C),128.2(4C),127.5(4C),125.8(2C),101.7,78.6(2C),40.8,18.8(6C),17.5,11.3(3C);MS m/z 411(M+1);HR−FAB−MS 411.2712(C2639Siの理論値:411.2719)
参考例4メチルα−D−マンノピラノシドの4,6−位水酸基の選択的保護
【0021】
参考例1のメチル5−O−ベンゾイル−β−Dリボフラノシドをメチルα−D−マンノピラノシドに反応時間を1時間から23時間に替えて行い,メチル4,6−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−α−D−マンノシドを収率68%で得た。
【0022】
得られたメチル4,6−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−α−D−マンノシドの物性を以下に示す。H NMR(300MHz,CDCl)δ4.79(1H,t,J=6.0Hz),4.72(1H,d,J=1.5Hz),4.07(1H,dd,J=9.5,3.7Hz),4.00(1H,dd,J=3.7,1.5Hz),3.98−3.94(1H,m),3.87−3.54(3H,m),3.36(3H,s),1.07−1.01(23H,m);13C NMR(75MHz,CDCl)δ102.4,101.2,78.3,70.8,68.9,68.3,62.9,55.0,17.7,12.3,11.2;IR(neat,cm−1)3436;MS m/z 377(M+H);HR−Cl−MS 377.2361(C1837Siの理論値:559.3850)
参考例5メチルα−D−マンノピラノシドの2,3−位,4,6−位水酸基の保護
【0023】
メチルα−D−マンノピラノシド0.50mmol,トリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタール2.0mmolをベンゼン1.0mlに溶解させ,次いでp−トルエンスルホン酸0.050mmolを加え,12時間還流した。冷却後,重曹,次いで飽和重曹水溶液を加え,酢酸エチルで抽出,抽出液を飽和食塩水で洗浄し,炭酸カリウムを加えて脱水し,ろ過した。ろ液から溶媒を留去し,残渣をカラム精製し,メチル2,3,4,6−O−ビス[(2−トリイソプロピル)エチリデン]−α−D−マンノシドを収率68%で得た。
【0024】
得られたメチル2,3,4,6−O−ビス[(2−トリイソプロピル)エチリデン]−α−D−マンノシドは3:4のジアステレオマー混合物である。その物性を以下に示す。H NMR(300MHz,CDCl)δ5.51(3/7H,t,J=6.0Hz),5.22(4/7H,t,J=6.0Hz),4.91(4/7H,s),4.86(3/7H,s),4.80(3/7H,t,J=5.9Hz),4.75(4/7H,t,J=5.9Hz),4.28(3/7H,dd,J=8.1,5.1Hz),4.13−1.07(1H,m),4.00(4/7H,dd,J=8.1,6.1Hz),3.67−3.40(4H,m),3.37(12/21H,s),3.36(9/21H,s),1.23−1.05(46H,m);13C NMR(75MHz,CDCl)δ104.5,103.5,102.1(2C),99.2,98.8,80.8,77.8,76.3,75.2,74.8,73.6,68.4,68.3,60.3,60.2,55.0,54.9,31.9,29.7,18.7(6C),17.9(6C),17.7(6C),17.6(6C),16.6,12.3,12.2(3C),11.4(3C),11.2(3C),11.2(3C);MS m/z 559(M+H);HR−CI−MS 559.3856(C2959Siの理論値:559.3850)
参考例6pHによる保護基の安定性
【0025】
pH1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13の緩衝液とジオキサンの混合溶液を用意し,それぞれの混合溶液にメチル5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−Dリボフラノシドを加え,安定性を観察した。
その結果,pH1,2の強酸性条件下では1時間でアセタールは脱保護されジオール体を与えた。pH3では加水分解の速度は遅く,5時間で脱保護された。pH4以上ではアセタールは加水分解に対して安定であった。なお,pH13以上ではベンゾエートが加水分解された。
参考例7弱酸性条件下での保護基の安定性
【0026】
0.05M p−トルエンスルホン酸のメタノール溶液,0.05Mピリジニウムp−トルエンスルホナートのメタノール溶液,0.5M酢酸のTHF−水混合溶液,酢酸のそれぞれにメチル5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドを加え室温で4時間作用させ,安定性を観察した。
その結果,0.05M p−トルエンスルホン酸のメタノール溶液では,速やかに脱保護された。しかし,0.05Mピリジニウムp−トルエンスルホナートのメタノール溶液,0.5M酢酸のTHF−水混合溶液では安定であり,定量的にメチル5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−Dリボフラノシドを回収することができた。また,酢酸中80℃に加熱しても影響を受けず,定量的にメチル5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドを回収することができた。
参考例85−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドの脱保護
【0027】
水溶液中ではほぼ中性を示し,シリルエーテルの脱保護に用いられるリチウムテトラフルオロボラートをアセタール保護基の脱保護に用いた。まず,5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシド1mmolをアセトニトリル10mlに溶解させ,次いでこの溶液にリチウムテトラフルオロボラートを加え,70℃で15時間加熱撹拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し,水,飽和食塩水で洗浄後,無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去し,残渣を酢酸エチル/ヘキサン=1/1によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し,メチル5−O−ベンゾイル−β−Dリボフラノシドを収率81%で得た。
参考例94−ベンジル−2−トリメチルシリルメチル−1,3−ジオキソランの脱保護
【0028】
参考例8の5−O−べンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドを4−ベンジル−2−トリメチルシリルメチル−1,3−ジオキソランに,反応時間を15時間から11時間に替えて行い,3−フェニル−1,2−プロパンジオールを収率85%で得た。
参考例10(4R,6S)−2−イソプロピルシリルメチル−4,6−ジフェニル−1,3−ジオキサンの脱保護
【0029】
参考例8の5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドを(4R,6S)−2−イソプロピルシリルメチル−4,6−ジフェニル−1,3−ジオキサンに,反応温度を70℃から50℃に,反応時間を15時間から20時間に替えて行い(1R,3S)−1,3−フェニル−1,3−プロパンジオールを収率73%で得た。
参考例11メチル2,3−O−イソプロピリデン−4,6−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−α−D−マンノシドの脱保護
【0030】
参考例8の5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−β−D−リボフラノシドをメチル2,3−O−イソプロピリデン−4,6−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−α−D−マンノシドに,反応時間を15時間から4時間に替えて行い,メチル2,3−O−イソプロピリデン−α−D−マンノピラノシドを収率88%で得た。
参考例12メチル2,3,4,6−O−ビス[(2−トリイソプロピル)エチリデン]−α−D−マンノシドの選択的脱保護
【0031】
窒素雰囲気下,メチル2,3,4,6−O−ビス[(2−トリイソプロピル)エチリデン]−α−D−マンノシド20mg(0.036mmol)とアセトニトリル0.4mlの溶液にリチウムテトラフルオロボラート6.7mg(0.072mmol)を加えた。室温で22時間撹拌後,反応物を酢酸エチルで希釈し,水,飽和食塩水で洗い,無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濃縮し,酢酸エチル/ヘキサン=6/4によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して,メチル2,3−O−(2−トリイソプロピル)エチリデン−α−D−マンノシド10.3mgを無色油状物質として得た。収率は74%であった。
【0032】
得られたメチル5−O−ベンゾイル−2,3−O−(2−トリイソプロピルシリル)エチリデン−α−D−マンノシドは3:2のジアステレオマー混合物である。その物性を以下に示す。H NMR(300MHz,CDCl)δ5.43(2/5H,t,J=5.9Hz),5.24(3/5H,t,J=6.2Hz),4.96(3/5H,s),4.90(2/5H,s),4.76(3/5H,dd,J=12.1,4.4Hz),4.76−4.69(2/5H,m),4.51(3/5H,dd,J=12.1,2.6Hz),4.57−4.50(2/5H,m),4.30−4.26(2/5H,m),4.13−4.08(3/5H,m),4.02(2/5H,d,J=5.5Hz),3.99(3/5H,d,J=5.9Hz),3.90−3.82(1H,m),3.71−3.60(1H,m),3.42(9/15H,s)13.41(6/15H,s),1.17−1.00(23H,m);13C NMR(75MHz,CDCl)δ104.7,103.5,98.8,98.2,78.7,77.2,77.1,74.7,69.9,68.6,68.0,66.3,64.1,64.0,55.0(2C),18.7(6C),17.8(6C),17.3,17.2,11.2(3C),11.1(3C);IR(neat,cm−1)3436;MS m/z377(M+H);HR−CS−MS 377.2356(C1837Si理論値:377.2356)
【0033】
上記参考例1,2,3,4に示すように,トリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタールは1,2−ジオール,1,3−ジオールと反応し,1,3−ジオキソラン,1,3−ジオキサンを生成する。このジオール保護の反応は一部を除き室温で進行し,極めて容易に環状アセタールを生成する。また,参考例4から1,2−ジオール,1,3−ジオールが分子内に共存する場合,1,3−ジオールのみを選択的に保護することができ,参考例5に示すように過剰量のトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタールを用いることにより,1,2−ジオール,1,3−ジオールの保護を同時に行うことができる。このように条件を選択することで選択的な保護が可能である。保護基の安定性は参考例6,7に示した。保護基はpH3以下で脱保護され,pH4以上で安定である。また,従来の脱保護条件である酢酸中加熱条件でも脱保護されない。脱保護はテトラフルオロボレートアニオンの存在下,中性条件で容易に脱保護ができ,高収率で元の1,2−ジオール,1,3−ジオールが得られる。また,1,3−ジオキソラン,1,3−ジオキサンの共存下では,1,3−ジオキサンが選択的に脱保護され,1,3−ジオールをほぼ定量的に得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上ように本発明化合物である新規トリイソプロピルシリルアセトアルデヒドアセタールは温和な条件下,1.2−ジオール,1,3−ジオールと反応し,安定な1,3−ジオキソラン,1,3−ジオキサンを生成する。そして,この環状アセタールは,テトラフルオロボレートアニオンの存在下,中性条件で脱保護ができ,しかも,高い収率で元の1,2−ジオール,1,3−ジオールを生成できる。このように,この新規トリイソプロピルシリルアセトアルデヒドアセタールは,分子内に酸に弱い保護基や官能基が存在する場合にも利用可能な極めて有用な保護剤と言える。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の好ましい実施例を記載するが,これは例示であり,本発明を制限するものではない。本発明の範囲内では変形が可能なことは当業者には明らかであろう。
【実施例1】
【0036】
アリルトリイソプロピルシラン6.76g(34mmol)と塩化メチレン170mlの溶液を−10℃に冷却し,オゾンを吹き込んだ。ジメチルスルフィド8.5g(136mmol)を加え,室温に戻した。さらに,トリフェニルホスフィン6.2g(24mmol)を少しずつ加え完全にオゾニドを分解した後,水を加え,ヘキサンで2回抽出し,無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮後蒸留精製し,トリイソプロピルシリルアセトアルデヒド5.42gを無色油状物質として得た。収率は80%であった。
【0037】
得られたトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドの物性を以下に示す。Bp.80−83℃/2.2mmHg,H−NMR(300MHz,CDCl)δ9.79(1H,t,J=4.4Hz),2.30(2H,d,J=4.4Hz),1.11−1.06(21H,m).
【実施例2】
【0038】
窒素雰囲気下,トリイソプロピルシリルアセトアルデヒド5.42g(27mmol)とオルトギ酸トリメチル27mlの溶液に,無水p−トルエンスルホン酸482mg(2.7mmol)を加え,室温で15時間撹拌した。重曹,続いて飽和重曹水溶液を加えた後,酢酸エチルで抽出し,水,飽和食塩水で洗い,無水炭酸カリウムで乾燥させた。溶媒を留去後蒸留精製し,トリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタール4.90gを無色油状物質として得た。収率は74%であった。
【0039】
得られたトリイソプロピルシリルアセトアルデヒドジメチルアセタールの物性を以下に示す。
Bp.73−75℃/1.0mmHg,H−NMR(300MHz,C)δ4.70(1H,t,J=5.9Hz),3.15(6H,s),1.16(2H,d,J=5.9Hz),1.10−1.04(21H,m),13C−NMR(75MHz,C)δ128.8,51.4,18.9,18.2,11.6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式
【化1】

(式中,i−Prはイソプロピル基,R,Rはアルキル基,分枝アルキル基であって同一であっても異なっていてもよく,あるいはRとRが結合したアルキレンから選択される)で示される新規シリルアセトアルデヒドアセタール。

【公開番号】特開2006−241126(P2006−241126A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92677(P2005−92677)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(591105993)東京化成工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】