説明

新規ジウレタン化合物、その製造法およびそれを含有するアクリルゴム組成物

【課題】架橋性基含有アクリルゴム用の新規加硫剤として用いられるジウレタン化合物、その製造法、およびそれを加硫剤として含有し、脂肪族ジアミンの有する良好な加硫速度および芳香族ジアミンの有する良好なスコーチ安定性を両立させ、しかも加硫物の加硫物性をも満足せしめるアクリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】4級ホスホニウム塩化合物 X-Ar3P+(CH2)nOH(Ar:芳香族基、X:Cl、Br、n:0、1、2)に2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5-トリオキサンを反応させ、-(CH2)nOH基を-(CH2)nOCOCl基に変換させた後、ジアミン化合物 NH2R1NH2(R1:2価アルキレン基、2価脂環式シクロアルキレン基、2価芳香族基)を縮合反応させ、ジウレタン化合物 X-Ar3P+(CH2)nOCONHR1NHCOO(CH2)nP+Ar3X-を製造する。このジウレタン化合物は、多価アミン架橋性基含有アクリルゴムに塩基性加硫促進剤と共に配合され、アクリルゴム組成物を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ジウレタン化合物、その製造法およびそれを含有するアクリルゴム組成物に関する。さらに詳しくは、架橋性基含有アクリルゴム用の新規加硫剤として用いられるジウレタン化合物、その製造法およびそれを含有するアクリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシル基含有アクリルゴムは、アクリルゴムの中でも特に耐熱性、耐圧縮永久歪特性にすぐれ、かつ金属への非腐食性、環境への配慮などがなされた非ハロゲンアクリルゴムであるため、近年ホース、シール材用途等への需要が増えている。しかしながら、加硫速度に対してスコーチタイムが短く、すなわち加硫速度を速くすればスコーチタイムが短かすぎ、加硫速度を遅くすればスコーチタイムは長くなるという傾向を有している。
【0003】
より具体的には、加硫速度を満足し得る速さにまで高めた場合、スコーチタイムが短く、生地流れの悪化を招き、成形不良となる。加硫速度を遅くした場合には、成形時間が長くなり、コストの上昇につながる。このことは、加硫速度が速く、スコーチタイムが長いという理想からいうと、成形性に劣るということになる。
【0004】
アクリルゴムの加硫成形方法としては、一般に型成形(射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等)と押出成形とが用いられており、現在は成形時の加硫速度とスコーチタイムとのバランスをとるために、下記2つの加硫系の流れがある。
(1) 脂肪族ジアミン(加硫剤)/グアニジン(加硫促進剤)/加硫遅延剤
(2) 芳香族ジアミン(加硫剤)/グアニジン(加硫促進剤)
【0005】
主に加硫速度を優先する金型成形用途に用いられる脂肪族ジアミン加硫系は、主にスコーチタイム(t5:10分以上)を優先する押出成形用途の芳香族ジアミン加硫系よりも、加硫速度は速いがスコーチタイムが短く、一方脂肪族ジアミン加硫系よりもスコーチタイムが長い芳香族ジアミン加硫系(加硫剤としては4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、メチレンジアニリン等が用いられる)は、加硫速度が遅いといった欠点がみられる。このように、高速加硫を可能とし、かつ非スコーチを両立することができる加硫系は未だ見出されていない。
【0006】
ここで、脂肪族ジアミン加硫系の加硫機構について考えてみるに、脂肪族ジアミンとしてはヘキサメチレンジアミンカーバメート(6-アミノヘキシルカルバミン酸)H3N+(CH2)6NHCOO-がカルボキシル基含有アクリルゴムや塩素基含有アクリルゴムの加硫に広く用いられており、その加硫反応はこの加硫剤化合物に熱が適用されることで、ヘキサメチレンジアミンのアミノ基の保護基が100℃付近から熱分解脱炭酸してヘキサメチレンジアミンとなり、アクリルゴム中の架橋性官能基であるカルボキシル基等と反応して、加硫反応が進行するという形をとっている。このため、スコーチタイムが短い(スコーチ安定性に劣る)という欠点を有する。また、ヘキサメチレンジアミンを炭酸塩としている理由の一つは、ヘキサメチレンジアミンは吸湿性が強くかつ気化し易いため、取扱いが困難であることによる。
【0007】
なお、カルボキシル基含有アクリルゴムとしては、カルボキシル基含有エチレンアクリレートゴム(デュポン社製品ベーマックG)、特定のカルボキシル基含有アクリルゴム(電気化学工業製品電化ER)等も含まれ、これらのカルボキシル基含有アクリルゴムについてもスコーチタイムが短いという問題がみられる。
【0008】
なお、特許文献1〜10中には、加硫速度が速く、スコーチタイムも長くなるものもあるが、これらの場合には耐圧縮永久歪特性の低下を免れないものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−255997号公報
【特許文献2】特開平11−100478号公報
【特許文献3】特開平11−140264号公報
【特許文献4】WO 2005/103143
【特許文献5】特開2001−181464号公報
【特許文献6】特開2001−316554号公報
【特許文献7】特開2003−342437号公報
【特許文献8】特開2002−317091号公報
【特許文献9】特開2004−269873号公報
【特許文献10】再表2003−4563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、架橋性基含有アクリルゴム用の新規加硫剤として用いられるジウレタン化合物、その製造法、およびそれを加硫剤として含有し、スコーチ抑制による加硫速度の遅延を改善し、すなわち脂肪族ジアミンの有する良好な加硫速度および芳香族ジアミンの有する良好なスコーチ安定性を両立させ、しかも加硫物の加硫物性をも満足せしめるアクリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によって、一般式
X-Ar3P+(CH2)nOCONHR1NHCOO(CH2)nP+Ar3X-
(ここで、R1はC1〜C12の直鎖状または分岐状の2価アルキレン基、2価脂環式シクロアルキレン基または2価芳香族基であり、Arは芳香族基であり、Xは塩素原子または臭素原子であり、nは0、1または2である)で表わされるジウレタン化合物が提供される。
【0012】
かかるジウレタン化合物は、一般式
X-Ar3P+(CH2)nOH
(ここで、Arは芳香族基であり、Xは塩素原子または臭素原子であり、nは0、1または2である)で表わされる4級ホスホニウム塩化合物に2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5-トリオキサンを反応させ、-(CH2)nOH基を-(CH2)nOCOCl基に変換させた後、一般式
NH2R1NH2
(ここで、R1はC1〜C12の直鎖状または分岐状の2価アルキレン基、2価脂環式シクロアルキレン基または2価芳香族基である)で表わされるジアミン化合物を縮合反応させることにより製造される。
【0013】
このジウレタン化合物は、多価アミン架橋性基含有アクリルゴムに塩基性加硫促進剤と共に配合され、アクリルゴム組成物を形成させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るアクリルゴム組成物は、新規化合物であるジウレタン化合物および塩基性加硫促進剤よりなる加硫系を配合したアクリルゴム組成物であって、カルボキシル基含有アクリルゴムの通常の加硫剤による加硫反応が熱分解によって反応が進行するのとは異なり、ジウレタン化合物と同時に添加した塩基性加硫促進剤による分解作用で加硫反応が進行する点に特徴があり、そのため新規な加硫剤としてジウレタン化合物を用いても、塩基性加硫促進剤を併用しなければ加硫は全然進行しない。
【0015】
加硫剤として用いられるジウレタン化合物は、それ単独では180℃でも熱分解せず安定であるが、塩基性加硫促進剤の存在下で脱保護され、ヘキサメチレンジアミンが発生して加硫反応を進行させる。この結果、従来のジアミン加硫系では実現できなかった短時間射出成形などを可能とし、またスコーチの点で脂肪族ジアミン加硫系を使用できず、芳香族ジアミン加硫系を使用していた押出成形用途品の高速加硫(短時間加硫)、高温押出しが可能となる。なお、押出成形に要求されるスコーチタイムt5(125℃)は、10分以上でなければならないが、この点での要求も満足させる。
【0016】
このため、スコーチの抑制による加硫速度の遅延を改善することができ、射出成形時などに問題となっていたこの問題を解決することで、成形条件の設定範囲を広げることを可能としている。また、加硫物性、特に耐圧縮永久歪特性の低下もみられない。その結果、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等の型成形のみならず、押出成形法にも有効に適用することができ、オイルシール、ガスケット、Oリング等の各種シール類、ホース、ダイヤフラム、ロール、防振ゴム、工業用ゴム部品等の加硫成形として有効に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
新規加硫剤として用いられる、一般式
X-Ar3P+(CH2)nOCONHR1NHCOO(CH2)nP+Ar3X-
で表わされるジウレタン化合物は、次のような反応によって合成することができる。
【0018】
まず、一般式 X-Ar3P+(CH2)nOHで表わされる4級ホスホニウム塩化合物に2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5-トリオキサンを反応させ、-(CH2)nOH基を-(CH2)nOCOCl基に変換させる。Arは、芳香族基であり、好ましくはフェニル基(Ph基)である。Xは、塩素原子または臭素原子である。この反応は、トリクロロメタン等を溶媒として用い、トリエチルアミン等の三級アミン触媒の存在下で、約15〜25℃の温度で行われる。
【0019】
その後、一般式 NH2R1NH2で表わされるジアミン化合物と縮合反応が、トリクロロメタン等を溶媒として用い、トリエチルアミン等の三級アミン触媒の存在下で行われ、所望のジウレタン化合物が形成される。ここで、R1はC1〜C12の直鎖状または分岐状構造の2価の脂肪族アルキレン基、2価の脂環式シクロアルキル基または2価の芳香族基である。2価の脂肪族アルキレン基としては、例えば-(CH2)l- (l=2〜12)、-CH2C(CH3)2CH2-等が挙げられ、2価の脂環式シクロアルキル基としては、例えば

等が挙げられ、2価芳香族基としては例えば



等が挙げられるが、好ましくはC4〜C10の直鎖状アルキレン基が用いられ、特に好ましくは-(CH2)6-基が用いられる。
【0020】
これら一連の反応は、Ar=Ph基の場合、次のような合成ルートによって行われる。

【0021】
得られたジウレタン化合物は、多価アミン架橋性基含有アクリルゴムに塩基性加硫促進剤と共に配合され、アクリルゴム組成物を形成させる。多価アミン架橋性基含有アクリルゴムとしては、カルボキシル基含有アクリルゴム、エポキシ基含有アクリルゴム、塩素基含有アクリルゴム等の多価アミンを加硫剤とするアクリルゴムが用いられるが、好ましくは脂肪族ジアミン加硫タイプカルボキシル基含有アクリルゴムが用いられる。
【0022】
カルボキシル基含有アクリルエラストマーとしては、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルアクリレートの少くとも1種類とカルボキシル基含有不飽和化合物とを共重合させたものが用いられる。
【0023】
アルキルアクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレートおよびこれらに対応するメタクリレートが用いられる。一般的に、アルキル基の鎖長が長くなると耐寒性の点では有利となるが、耐油性では不利となり、鎖長が短いとその逆の傾向がみられ、耐油性、耐寒性のバランス上からはエチルアクリレート、n-ブチルアクリレートが好んで用いられる。
【0024】
また、アルコキシアルキルアクリレートとしては、例えばメトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、n-ブトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート等が用いられ、好ましくは2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレートが用いられる。アルコキシアルキルアクリレートとアルキルアクリレートとは、それぞれ単独でも用いられるが、好ましくは前者が60〜0重量%、また後者が40〜100重量%の割合で用いられ、アルコキシアルキルアクリレートを共重合させた場合には耐油性と耐寒性のバランスが良好となり、ただしこれよりも多い割合で共重合させると常態物性と耐熱性が低下する傾向がみられるようになる。
【0025】
カルボキシル基含有不飽和化合物としては、マレイン酸またはフマル酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル等のモノアルキルエステル、イタコン酸またはシトラコン酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル等のモノアルキルエステル等が挙げられ、好ましくはマレイン酸モノn-ブチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、フマル酸モノn-ブチルエステルが用いられる。これら以外にも、アクリル酸やメタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸も用いられる。これらのカルボキシル基含有不飽和化合物は、カルボキシル基含有アクリルエラストマー中約0.5〜10重量%、好ましくは約1〜7重量%を占めるような共重合割合で用いられ、これよりも少ない共重合割合では加硫が不十分となって圧縮永久歪値が悪化し、一方これよりも共重合割合を多くするとスコーチし易くなる。なお、共重合反応は、重合転化率が90%以上となるように行われるので、仕込み各単量体重量比がほぼ生成共重合体の共重合組成重量比となる。
【0026】
カルボキシル基含有アクリルエラストマー中には、さらに他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、(メタ)アクリロニトリル、アクリル酸アミド、酢酸ビニル、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、エチレン、プロピレン、ピペリレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン等を、約50重量%以下の割合で共重合させることができる。
【0027】
さらに、必要に応じて、混練加工性や押出加工性などを改善する目的で、側鎖にグリコール残基を有する多官能性(メタ)アクリレートまたはオリゴマー、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール等のアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、3-アクリロイルオキシグリセリンモノメタクリレート等をさらに共重合して用いることもできる。
【0028】
エポキシ基含有ゴムとしては、カルボキシル基含有アクリルゴム中のカルボキシル基含有不飽和化合物の代りに、エポキシ基含有不飽和化合物、例えばビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等を、エポキシ基含有アクリルエラストマー中約0.5〜10重量%、好ましくは約1〜5重量%を占めるような共重合割合で共重合させたものが用いられる。
【0029】
また、塩素基含有アクリルゴムとしては、カルボキシル基含有アクリルゴム中のカルボキシル基含有不飽和化合物の代りに、塩素基含有不飽和化合物、例えばクロロエチルビニルエーテル、クロロエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロロアセテート、アリルクロロアセテート等を、塩素基含有アクリルゴム中約0.1〜15重量%、好ましくは約0.3〜5重量%を占めるような共重合割合で共重合させたものが用いられる。これらの塩素基含有不飽和化合物の内、ビニルクロロアセテート等を共重合させたものは、活性塩素基含有アクリルゴムを形成させる。
【0030】
これらの多価アミン架橋性基含有アクリルエラストマー100重量部当り、加硫剤としてのジウレタン化合物が約0.1〜10重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の割合で用いられる。この加硫剤の使用割合がこれよりも少ないと、加硫が不十分となり、引張強さ、圧縮永久歪などの点で十分な物性が得られない。一方、これよりも多い割合で用いられると、破断伸びの低下や圧縮永久歪の悪化を招くようになる。
【0031】
ジウレタン化合物加硫剤には、塩基性加硫促進剤が併用される。塩基性加硫促進剤としては、グアニジン化合物あるいは1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン-7または1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン-5等が用いられる。
【0032】
グアニジンとしては、グアニジンまたはその置換体、例えばアミノグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、n-ドデシルグアニジン、メチロールグアニジン、ジメチロールグアニジン、1-フェニルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、1-ベンジル-2,3-ジメチルグアニジン、シアノグアニジン等が用いられ、この他1,6-グアニジノヘキサン、グアニル尿素、ビグアニド、1-o-トリルビグアニド等も用いられる。
【0033】
塩基性加硫促進剤としてのグアニジンは、多価アミン架橋性基含有アクリルゴム100重量部当り約0.1〜10重量部、好ましくは約0.3〜6重量部の割合で用いられ、前記ジアザ化合物は約0.01〜1重量部、好ましくは約0.03〜0.5重量部の割合で用いられる。塩基性加硫促進剤の添加割合がこれも少ないと、ジウレタン化合物加硫剤を用いても加硫が進行せず、一方これ以上の割合で用いられる、スコーチが短くなり好ましくない。
【0034】
このような新たな加硫系を用いた加硫反応について検討する。本発明のジウレタン化合物は、従来用いられていたヘキサメチレンジアミンカーバメートの脱保護反応が進行する温度である100℃では分解されず、塩基性加硫促進剤の作用によって分解する。
【0035】
より具体的には、アルキレンジアミン化合物、好ましくはH2N(CH2)nNH2(n=4〜6)、特に好ましくはn=6のヘキサメチレンジアミンにX-Ar3P+(CH2)nCOOHを反応させ、ヘキサメチレンジアミンのアミノ基を2-トリフェニルホスホニウムエトキシカルボニル基〔Peoc基〕で保護した誘導体を加硫剤として単独で用いた場合、ヘキサメチレンジアミンカーバメートの脱炭酸温度では加硫が進行せず、従来カルボキシル基含有アクリルゴムの加硫促進剤として用いられていた塩基性加硫促進剤の作用によって加硫は進行し、ヘキサメチレンジアミンを発生させる。したがって、塩基性加硫促進剤の配合量を適宜調節することにより、所望の加硫物物性を維持したまま、高速加硫、耐スコーチ性を実現させることが可能となる。
【0036】
その反応機構は、次式の如くであると考えられる。

【0037】
アクリルゴム組成物の調製は、カルボキシル基含有アクリルゴムおよびゴムの配合剤等として一般に用いられているカーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、滑剤、老化防止剤、その他必要な配合剤をバンバリーミキサ等の密閉型混練機で混練した後、加硫剤および加硫促進剤を加え、オープンロールを用いて混合することにより行われる。調製されたアクリルゴム組成物は、一般に約150〜200℃、約1〜60分間のプレス加硫によって加硫され、必要に応じて約150〜200℃、約1〜10時間のオーブン加硫が行われる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0039】
実施例1
容量2000mlの丸底フラスコ中に、トリクロロメタン600mlおよび2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5-トリオキサン41.4g(0.14モル)およびトリエチルアミン0.1mlを仕込み、0℃に冷却して1時間攪拌した。そこに、15〜25℃の温度を保ちながら、トリクロロメタン600mlに溶解させた2-ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウムクロライド120g(0.35モル)を90分間かけて滴下し、滴下終了後高速液体クロマトグラフィーで反応の進行を確認した後窒素を吹き込み、余剰のホスゲンを除去した。
【0040】
この反応混合物に、ヘキサメチレンジアミン20g(0.17モル)のトリクロロメタン溶液200mlおよびトリエチルアミン21g(0.2モル)のトリクロロメタン溶液150mlを滴下し、1時間反応させた。反応終了後、反応混合物を約500mlまで濃縮し、第3ブチルメチルエーテル250mlを加え、ろ過した後、減圧乾燥することで、目的とする化合物80g(収率84%)を得た。
【0041】
得られた固体状生成物〔HMDA-Peoc〕の構造は、1HNMRにより同定された。

1H NMR:(a)4.4ppm (t 4H)
(b)4.0ppm (t 4H)
(c)3.2ppm (br 2H)
(d)3.7ppm (m 4H)
(e)1.3ppm (m 4H)
(f)1.1ppm (m 4H)
Aromatic H:7.6〜7.8ppm (m 4H)
【0042】
実施例2
脂肪族ジアミン加硫タイプカルボキシル基含有アクリルゴム 100重量部
(ユニマテック製品ノックスタイトPA-522HF)
FEFカーボンブラック(N550) 60 〃
ステアリン酸 1 〃
4,4′-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン 2 〃
(大内新興化学製品ノクラックCD)
HMDA-Peoc 2.3 〃
1,3-ジ-o-トリルグアニジン(大内新興化学製品ノクセラーDT) 0.5 〃
【0043】
以上の各成分の内、加硫剤および加硫促進剤を除く各成分をバンバリーミキサで混練した後、オープンロールを用いて加硫剤および加硫促進剤の添加が行われた。このようにして調製されたアクリルゴム組成物は、180℃で8分間のプレス加硫および175℃、4時間のオーブン加硫によって加硫された。
【0044】
アクリルゴム組成物である生地の加硫特性および加硫物物性の測定が、次のようにして行われた。
ムーニー・スコーチ試験:JIS K6300-1準拠(125℃)
MLminの値が低い程、フロー特性にすぐれている
t5の値(単位:分)は長い程成形時の生地ヤケの懸念が少 なく、ヤケに起因する不良が少ない
一般には、t5の値が10分以上であれば、射出成形、圧縮 成形、押出成形でのヤケに起因する不良が少なくなる
加硫試験:JIS K6300-2準拠(180℃、12分間)
東洋精機製ロータレスレオメーターRLR-3使用
加硫速度の評価は、加硫試験のtc10、tc90およびME(MH-ML)で判断でき 、tc10およびtc90が短くかつMEが大きい程加硫速度は速い
常態値:JIS K6251、JIS K6253準拠
圧縮永久歪:JIS K6262準拠(150℃または175℃、70時間)
【0045】
実施例3
実施例2において、1,3-ジ-o-トリルグアニジン量が1重量部に変更された。
【0046】
実施例4
実施例2において、1,3-ジ-o-トリルグアニジン量が2重量部に変更された。
【0047】
実施例5
実施例2において、1,3-ジ-o-トリルグアニジンの代りに、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン-7が0.2重量部用いられた。
【0048】
比較例1
実施例4において、HMDA-Peocの代りに、0.5重量部のヘキサメチレンジアミンカーバメート(ユニマテック製品ケミノックスAC-6)が用いられた。
【0049】
比較例2
実施例4において、HMDA-Peocの代りに、0.5重量部の4,4-ジアミノジフェニルエーテルが用いられた。
【0050】
比較例3
比較例1において、1,3-ジ-o-トリルグアニジンが用いられなかった。
【0051】
比較例4
実施例2において、1,3-ジ-o-トリルグアニジンが用いられなかった。
【0052】
以上の実施例2〜5および比較例1〜4で得られた結果は、次の表に示される。

実施例 比較例
測定項目
ムーニー・スコーチ試験
MLmin (pts) 35 37 37 35 41 38 42 42
t5 (分) >60 31.2 12.4 >60 4.7 8.9 5.5 >60
加硫試験
tc10 (分) 3.28 1.55 0.76 1.60 0.53 1.31 0.68 1.12
tc90 (分) 9.81 7.89 4.07 8.04 3.73 8.21 6.85 9.03
ML (N・m) 0.15 0.14 0.16 0.13 0.17 0.17 0.18 0.14
MH (N・m) 0.40 0.66 0.70 0.71 0.83 0.64 0.52 0.14
ME(MH-ML) (N・m) 0.25 0.52 0.54 0.58 0.66 0.47 0.34 0
常態値
硬さ (デュロA) 65 66 65 63 64 69 60 成
100%引張応力(MPa) 2.3 3.3 3.4 2.2 3.7 4.1 2.3 形
引張強さ (MPa) 8.8 9.5 9.7 9.6 10.5 10.9 9.0 不
破断伸び (%) 320 280 280 270 250 280 310 可
圧縮永久歪
150℃、70時間 (%) 10 8 8 13 8 12 21
175℃、70時間 (%) 18 12 10 18 11 17 35

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
X-Ar3P+(CH2)nOCONHR1NHCOO(CH2)nP+Ar3X-
(ここで、R1はC1〜C12の直鎖状または分岐状の2価アルキレン基、2価脂環式シクロアルキレン基または2価芳香族基であり、Arは芳香族基であり、Xは塩素原子または臭素原子であり、nは0、1または2である)で表わされるジウレタン化合物。
【請求項2】


で表わされる請求項1記載のジウレタン化合物。
【請求項3】
一般式
X-Ar3P+(CH2)nOH
(ここで、Arは芳香族基であり、Xは塩素原子または臭素原子であり、nは0、1または2である)で表わされる4級ホスホニウム塩化合物に2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5-トリオキサンを反応させ、-(CH2)nOH基を-(CH2)nOCOCl基に変換させた後、一般式
NH2R1NH2
(ここで、R1はC1〜C12の直鎖状または分岐状の2価アルキレン基、2価脂環式シクロアルキレン基または2価芳香族基である)で表わされるジアミン化合物と縮合反応させることを特徴とする請求項1記載のジウレタン化合物の製造法。
【請求項4】
多価アミン架橋性基含有アクリルゴム、加硫剤としての請求項1記載のジウレタン化合物および塩基性加硫促進剤を含有してなるアクリルゴム組成物。
【請求項5】
多価アミン架橋性基含有アクリルゴムがカルボキシル基含有アクリルゴム、エポキシ基含有アクリルゴムまたは塩素基含有アクリルゴムである請求項4記載のアクリルゴム組成物。
【請求項6】
ジウレタン化合物が

である請求項4記載のアクリルゴム組成物。
【請求項7】
多価アミン架橋性基含有アクリルゴム100重量部当り、加硫剤としてのジウレタン化合物が0.1〜10重量部、塩基性加硫促進剤としてのグアニジン化合物が0.1〜10重量部の割合で用いられた請求項4記載のアクリルゴム組成物。
【請求項8】
多価アミン架橋性基含有アクリルゴム100重量部当り、加硫剤としてのジウレタン化合物が0.1〜10重量部、塩基性加硫促進剤としての1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン-7または1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン-5が0.01〜1重量部の割合で用いられた請求項4記載のアクリルゴム組成物。
【請求項9】
請求項4記載のアクリルゴム組成物から型成形された加硫成形品。
【請求項10】
請求項4記載のアクリルゴム組成物から押出成形された加硫成形品。

【公開番号】特開2010−241706(P2010−241706A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90125(P2009−90125)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】