説明

新規スルホン化トリアリールアミンポリマーおよびその製造方法

【課題】 本発明の目的は、安価で工業的に安定的に得られる原料を用いて、少ない工程数で水やアルコールに溶け易い新規なスルホン化トリアリールアミンポリマーを製造する方法を提供することである。
【解決手段】 下記式(6)
【化1】


(式中、Arおよびmは一般式(1)のArおよびmと同意義を表す。)
で表されるトリアリールアミンポリマーに対し、スルホン化剤を塩基性極性溶媒中で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水またはアルコールに可溶且つ耐熱性に優れた新規スルホン化トリアリールアミンポリマーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三級アリールアミノ基が連続的に結合した構造を有するトリアリールアミンポリマーは、耐熱性、耐溶剤性に優れた構造材料として知られている(例えば、特許文献1参照)。また、耐熱安定性を向上させた有機EL材料としても有用である(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
ところで、近年、塗布性に優れる水分散性の向上した導電性高分子材料として、スルホン化ポリスチレンを含むポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)が、多く用いられている(例えば、特許文献3〜4参照)。一方、従来のスルホン化トリアリールアミンポリマーは、特殊な極性有機溶媒であるジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミドに、水またはメタノールを添加した溶媒系で使用可能となることが報告されている程度であり(例えば、特許文献5および非特許文献1参照)、汎用の極性溶媒である水またはアルコールへの溶解性は未だ不十分である。
【0004】
また、スルホン化トリアリールアミンポリマーの製造法としては、スルホン化したトリフェニルアミノ臭素化合物とトリフェニルアミノホウ素化合物とをカップリング反応で重合した例が開示されているが、上記の製造法は反応の工程数が多く、複雑で実用的とは言い難い(例えば、特許文献5および非特許文献1参照)。
【0005】
一方、一般的な芳香族アミン化合物のスルホン化方法としては、アミド硫酸、並びにN−アルキルスルファミド酸を用いてスルホン化芳香族アミン化合物を得る方法が知られている(例えば、非特許文献2〜3参照)。他に、三酸化硫黄と、ピリジン、またはトリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドのような塩基性溶剤との錯体をスルホン化剤として用いた例が報告されている(例えば、特許文献6参照)。しかし、これまでにトリアリールアミンポリマーを直接スルホン化した報告はない。
【0006】
以上のように、安価で工業的に安定的に得られる原料を用いて、少ない工程数でスルホン化トリアリールアミンポリマーを効率的に合成することは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−21349号公報
【特許文献2】特開2004−292782号公報
【特許文献3】特開平7−90060号公報
【特許文献4】特開2010−114066号公報
【特許文献5】中国特許第1,827,666号公報
【特許文献6】特開平10−110110号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry(2006),16(24),2387−2394頁
【非特許文献2】日本化学会編(丸善)、 新実験化学講座 14有機化合物の合成と反応III(1978),1780頁
【非特許文献3】Journal of Chemical Society Perkin Trans.1,(1972),2663−2666頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、安価で工業的に安定的に得られる原料を用いて、少ない工程数で製造できる、水およびアルコールに可溶となる新規なスルホン化トリアリールアミンポリマーおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に示すとおり、末端の窒素原子が1個のスルホン化芳香族基と結合した構造を有し、水およびアルコールに可溶となる新規なスルホン化トリアリールアミンポリマーおよびその製造方法に関するものである。尚、前記の製造方法(例えば、特許文献3および非特許文献1参照)では、末端の窒素原子が1個のスルホン化芳香族基と結合した構造とすることは難しい。
【0012】
[1]下記式(1)で表されることを特徴とするスルホン化トリアリールアミンポリマー。
【0013】
【化1】

(式中、Arは各々独立して置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。mは1以上の整数である。Xは水素原子、Li,K,Naのアルカリ金属、NH(Rで表されるアミン塩を表す。その際、Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはアリール基を表す。)
[2]一般式(1)において、Arは下記一般式(2)〜(5)で表される構造のいずれかであることを特徴とする上記[1]に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマー。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

(式中、RおよびRは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アリール基、アリールアミノ基またはヘテロアリール基であり、Rは他の置換基と縮合環を形成してもよい。AはS,O,SO,CO,CHまたはC(CHを表す。aは1〜4の整数、bは1〜3の整数である。)
[3]下記式(6)
【0018】
【化6】

(式中、Arおよびmは一般式(1)のArおよびmと同意義を表す。)
で表されるトリアリールアミンポリマーに対し、スルホン化剤を塩基性極性溶媒中で反応させることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法。
【0019】
[4]スルホン化剤が、アミド硫酸、三酸化硫黄からなる群より選択される化合物を含むことを特徴とする上記[3]に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法。
【0020】
[5]塩基性極性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミンからなる群より選択される化合物を含むことを特徴とする上記[3]または[4]に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーは、従来にない新規なスルホン化トリアリールアミンポリマーであり、スルホン酸基を分子内に有することから水またはアルコールに可溶であり、且つ耐熱性に優れる自己ドープ型の導電性高分子である。また、本発明の製造方法によれば、安価で工業的に安定的に得られる原料を用いて、少ない工程数でスルホン化トリアリールアミンポリマーを効率的に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】合成例1で得られたトリアリールアミンポリマーのIRチャートを示す。
【図2】実施例1で得られたスルホン化トリアリールアミンポリマーのIRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーは、一般式(1)で表される化合物であり、一般式(1)において、Arは置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族基であり、その中でも特に、一般式(2)〜(5)で表される構造のいずれかであることが好ましい。
【0025】
一般式(2)におけるRは、上記の定義に該当すれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えば水素原子の他;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、2−エチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、シクロヘキシル基、n−へプチル基、シクロヘキシルメチル基、n−オクチル基、トリフルオロメチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−エチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等のアルコキシ基;エテニル基、2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、4−ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−(トリフルオロメトキシ)フェニル基等のアリール基;ジフェニルアミノ基、ジ−p−トリルアミノ基等のアリールアミノ基;および2−チエニル基、2−ピリジル基等のヘテロアリール基を挙げることができる。より好ましくは、水素原子、アルキル基、アリールアミノ基のいずれかである。また、Rは他の置換基と縮合環を形成してもよい。
【0026】
また、一般式(3)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アリール基、アリールアミノ基またはヘテロアリール基であり、具体的には上記Rと同じものを挙げることができ、その中でも水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のメチル基、エチル基、n−プロピル基等のアルキル基、アルコキシ基、アリールアミノ基またはヘテロアリール基が好ましく、特に水素原子、炭素数1〜3のメチル基、エチル基、n−プロピル基等のアルキル基、アルコキシ基のいずれかであることが好ましい。
【0027】
一般式(1)におけるXは、水素原子、Li,K,Naのアルカリ金属、NH(Rで表されるアミン塩であり、Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはアリール基を表し、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基等のアリール基である。そして、任意に置換していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトリル基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。
【0028】
ここで、アミン塩を形成する第一級アミンの具体例としては特に限定されないが、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、2−アミノエタノール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、3−アミノプロピロニトリル、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、グリシン、タウリン、O−ホスホリルエタノールアミン等が挙げられる。より好ましくはメチルアミン、エチルアミン、2−アミノエタノール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノールである。
【0029】
また、アミン塩を形成する第二級アミンの具体例としては特に限定されないが、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。より好ましくはジメチルアミン、ジエチルアミンである。
【0030】
さらに、アミン塩を形成する第三級アミンの具体例としては特に限定されないが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン等が挙げられる。より好ましくはトリメチルアミン、トリエチルアミンである。
【0031】
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーは、上記の定義に該当すれば特に限定はなく、下記一般式(7)〜(10)で表されるものが好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

(式中、mおよびXは一般式(1)のmおよびXと同意義を表し、Aは一般式(4)のAと同意義を表し、Rは一般式(3)のRと同意義を表し、bは一般式(2)のbと同意義を表す。)
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーは、特に以下の化合物が好ましい。
【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
【化14】

【0040】
【化15】

【0041】
【化16】

本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーの重量平均分子量は、ポリスチレン換算で500〜500,000の範囲が好ましく、より好ましくは1,000〜10,000の範囲である。
【0042】
次に、本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法について説明する。
【0043】
本発明の一般式(1)で表されるスルホン化トリアリールアミンポリマーは、下記一般式(6)
【0044】
【化17】

(式中、Arおよびmは一般式(1)のArおよびmと同意義を表す。)
で表されるトリアリールアミンポリマーに対し、スルホン化剤を塩基性極性溶媒中で反応させることで得ることができる。
【0045】
原料であるトリアリールアミンポリマーとしては、下記一般式(17)〜(20)表されるものが特に好ましい。
【0046】
【化18】

【0047】
【化19】

【0048】
【化20】

【0049】
【化21】

(式中、mは一般式(1)のmと同意義を表し、Aは一般式(4)のAと同意義を表し、Rは一般式(3)のRと同意義を表し、bは一般式(2)のbと同意義を表す。)
トリアリールアミンポリマーの製造方法としては特に限定はなく、例えば特開2004−292782号公報に記載の方法により合成することができる。即ち、ジハロゲン化芳香族、アニリン、ナトリウム−tert−ブトキシドおよびo−キシレンをパラジウム錯体触媒およびトリターシャリーブチルホスフィン溶液を添加して反応させた後、アニリンをさらに反応させて下記一般式(21)で表されるトリアリールアミンポリマーを得ることができる。
【0050】
【化22】

(式中、Arおよびmは一般式(1)のArおよびmと同意義を表す。)
本反応に用いるスルホン化剤としては、例えばアミド硫酸、三酸化硫黄からなる群より選択される化合物が挙げられ、単一でも混合して使用してもよい。
【0051】
また、スルホン化剤の使用量としては特に限定されるものではなく、原料であるトリアリールアミンポリマーの繰り返し単位中のベンゼン環(ポリスチレン換算での数平均分子量Mnから推定)に対し、5〜100倍モルの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50倍モルの範囲である。
【0052】
本反応に用いる塩基性溶剤としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミンが挙げられるが、臭気等の操作性からN,N−ジメチルホルムアミドおよびN−メチル−2−ピロリドンが好ましく、単一でも混合して使用してもよい。
【0053】
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造は、好ましくは常圧下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施し、仮に加圧条件であっても実施することが可能である。
【0054】
本反応において反応温度は、スルホン化トリアリールアミンポリマーを製造することが可能な反応温度であれば特に限定するものではなく、0〜200℃が好ましく、さらに好ましくは20〜180℃、特に好ましくは20〜150℃の範囲である。
【0055】
また、本発明であるスルホン化トリアリールアミンポリマーのアンモニウム塩もしくはアミン塩は、一般式(1)で表されるスルホン化トリアリールアミンポリマー(Xが水素原子である。)を、無溶媒または極性溶媒中で、アンモニアまたは第一級アミン,第二級アミン,第三級アミン等のアミン類と反応させることで得ることができる。
【0056】
本発明においてアミン類の使用量としては特に限定されるものではなく、所望のスルホン化トリアリールアミンポリマーの塩が得られれば任意に調整可能であり、スルホン化トリアリールアミンポリマーの繰り返し単位中のスルホン酸基に対し、0.1〜100倍モルの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜50倍モルの範囲であり、特に好ましくは1.0〜20倍モルの範囲である。
【0057】
本反応において使用される溶剤としては、スルホン化トリアリールアミンポリマーが溶解する溶媒であれば特に限定はなく、水やアルコールなどの極性溶媒が挙げられる。
【0058】
本反応において反応温度は、スルホン化トリアリールアミンポリマーのアミン塩を製造することが可能な反応温度であれば特に限定するものではなく、0〜150℃が好ましく、さらに好ましくは20〜100℃、特に好ましくは20〜60℃の範囲である。
【0059】
本反応において、スルホン化トリアリールアミンポリマーのアミン塩の単離方法は、特に制限はなく、反応後に溶媒や低沸点成分を留去し、必要に応じて溶媒で洗浄した後、乾燥する方法が挙げられる。また、用途によっては必ずしも精製や単離をする必要はなく、例えば、スルホン化トリアリールアミンポリマーの水溶液またはアルコール溶液に、アンモニアやアミン類を添加した溶液を塗布液として使用することもできる。さらに、必ずしもすべてのスルホン酸基を中和する必要はなく、任意に添加量を変えることで部分的にスルホン酸基の中和量を制御でき、それによってpHの調整などが可能である。
【0060】
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーのアンモニウム塩およびアミン塩の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で500〜500,000の範囲が好ましく、より好ましくは1,000〜10,000の範囲である。
【0061】
本発明における水またはアルコールに対する良好な溶解性とは、25℃で0.5重量%以上溶解することであり、好ましくは2重量%以上溶解することである。
【0062】
本発明における良好な耐熱性とは、大気中、室温から100℃付近までに水や低沸点成分や溶媒等を除いた後、100〜150℃の範囲で重量減少が1%以下であることを示す。好ましくは100〜200℃で重量減少が1%以下である。
【0063】
本発明であるスルホン化トリアリールアミンポリマーは、水またはアルコールなどの極性溶媒に可溶であることから、極めて良好な成膜性を有している。よって、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコード法、ロールコート法などの従来公知の塗布法が利用できる。
【実施例】
【0064】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。なお、本実施例における生成物の収率は、単離重量で確認した。また、物性値の測定は下記の機器を用いて実施した。
【0065】
[NMR測定]
装置:VARIAN製、Gemini−200
[紫外可視分光]
装置:島津製作所製、紫外可視分光光度計 UV−3100
[赤外分光分析]
装置:パーキンエルマー製、System2000 FT−IR
測定方法:KBr法
[GPC測定]
装置:東ソー製、HLC−8200、
カラム:東ソー製、G4000HXL−G3000HXL−G2000HXL
[表面抵抗測定]
装置:三菱油化製、Loresta IP MCP−250
[膜厚測定]
装置:ミツトヨ製、マイクロメーター MDC−25L
合成例1
トリアリールアミンポリマー(22)の合成
冷却管、温度計を装着した1000mlの四つ口丸底フラスコに、室温下、4,4’−ジヨードビフェニル 20.30g(0.05mol)、アニリン 5.12g(0.055mol)、97%ナトリウム−tert−ブトキシド 11.53g(0.12mol;ヨウ素原子に対して1.2当量)およびo−キシレン 400.16gを仕込んだ。この混合液に、予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体 0.23g(0.25mol;ヨウ素原子に対して0.25mol%)およびトリターシャリーブチルホスフィン 1.6ml(パラジウム原子に対して原子4当量)のo−キシレン(31ml)溶液を添加した。その後、窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で過熱撹拌しながら17時間熟成した。17時間後、アニリン 0.9g(0.01mol)を添加し、さらに3時間反応を行った。反応終了後、この反応混合物を約80℃まで冷却した後、水 50.1gを添加し、さらに90%アセトン水溶液(1650ml)の撹拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥し、淡黄色粉体 11.8gを得た(94%)。得られた粉体をTHF系GPCで分析した結果、ポリスチレン換算で重量平均分子量5,200および数平均分子量3,000(分散度1.7)であった。また、得られたポリマーをH−NMR、13C−NMRおよび赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(22)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。H−NMR、13C−NMRおよび赤外分光分析の測定結果をそれぞれ表1および図1に示す。特に赤外分光分析では、3300cm−1付近にNH基の吸収が見られた。
【0066】
【化23】

実施例1
スルホン化トリアリールアミンポリマー(23)の合成
冷却管、温度計を装着した500mlの四つ口丸底フラスコに、室温下、合成例1で得られたトリアリールアミンポリマー 2.50g(ポリスチレン換算で数平均分子量3,000)、アミド硫酸 43.70g(0.45mol;N−フェニルN−ビフェニルアミンを繰り返し単位とした場合の推定分子数に対して45当量)、およびN−メチルピロリドン 100mlを仕込んだ。この混合液を窒素雰囲気下、温度130℃で1時間加温した。反応終了後、N−メチルピロリドンを減圧留去しながら濃縮し、水(100ml)に希釈溶解させ、99%アセトン水溶液(1800ml)の撹拌溶液へゆっくり加えた。その後、デカンテーションにより上澄み液をろ過し、水(100ml)に再溶解させ、アセトン(1800ml)を添加して上澄み液をろ過する操作を繰り返し、析出物がタール状から沈殿固体となるまで行った。引き続き、水(100mL)に再溶解させた溶液をアセトン(1800ml)に添加して再沈させ、ろ過により固体をろ別回収した。さらに、水(100ml)に再溶解した後、アセトン(400ml)とメタノール(1400ml)の混合液で再沈殿させ、ろ過により析出物を除去した。得られた溶液を粗濃縮し、アセトン(1800ml)の撹拌溶液へゆっくり加えて、再沈殿した固体をろ別回収した。さらに、メタノール(50ml)に溶解させ、析出物をろ過によりろ別除去した。得られた溶液を濃縮、減圧乾燥、真空乾燥することにより黒色固体 2.7gを得た。この固体はH−NMR、13C−NMRおよび赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(22)で表されるスルホン化トリアリールアミンポリマーであることが確認された。H−NMR、13C−NMRおよび赤外分光分析の測定結果をそれぞれ表1および図2に示す。特に赤外分光分析では、1000〜1100cm−1付近の大きなピークはスルホン基由来の吸収と推定される。さらに、H−NMRによるピークが全体的に低磁場へシフトし、13C−NMRにより合成例1で示された118ppm付近のアニリン基のp位の炭素原子に由来すると推定されるピークの消失が確認された。得られたスルホン化トリアリールアミンポリマー約120mgをメノウ乳鉢で微粉末化し、圧縮成型器を用いて直径13mmのペレットを作製した。このペレットの膜厚と表面抵抗(四探針法)を測定した結果から、導電率は1.0×10−5S/cm(表面抵抗1.4×10Ω/□、膜厚706μm)であり、導電性を示すことを確認した。
【0067】
【化24】

比較例1
冷却管、温度計を装着した50mlのナス型フラスコに、室温下、窒素雰囲気で合成例1で得られたトリアリールアミンポリマー 0.03g(ポリスチレン換算で数平均分子量3,000)、60%発煙硫酸 0.18g(0.61mmol;N−フェニルN−ビフェニルアミンを繰り返し単位とした場合の推定分子数に対して61当量)を仕込んだ。この混合液を窒素雰囲気下、25℃で24時間撹拌した。反応終了後、アセトン 20mlを添加し単離したが、水またはメタノールに不溶な黒変物であり、目的物は得られなかった。
【0068】
尚、表1に、合成例1、実施例1、並びに比較例1で得られた化合物の水およびメタノールへの溶解性(3重量%)の比較も併せて示した。それらの結果から、実施例1で得られたスルホン化トリアリールアミンポリマーは水およびメタノールに可溶であることが分かる。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のスルホン化トリアリールアミンポリマーは、従来にない新規なスルホン化トリアリールアミンポリマーであり、汎用の極性溶媒である水またはアルコールに可溶且つ耐熱性に優れるという特徴を有し、本発明の製造方法によれば、安価で工業的に安定的に得られる原料を用いて、少ない工程数でスルホン化トリアリールアミンポリマーを効率的に合成することができる。
【0071】
この新規なスルホン化トリアリールアミンポリマーは、スルホン酸基による酸性が弱められているため、装置等への腐食を回避することができる。そして、これらは構造材料、有機EL材料、導電性高分子、帯電防止剤等への利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするスルホン化トリアリールアミンポリマー。
【化1】

(式中、Arは各々独立して置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。mは1以上の整数である。Xは水素原子、Li,K,Naのアルカリ金属、NH(Rで表されるアミン塩を表す。その際、Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはアリール基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)において、Arは下記一般式(2)〜(5)で表される構造のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマー。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式中、RおよびRは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アリール基、アリールアミノ基またはヘテロアリール基であり、Rは他の置換基と縮合環を形成してもよい。AはS,O,SO,CO,CHまたはC(CHを表す。aは1〜4の整数、bは1〜3の整数である。)
【請求項3】
下記式(6)
【化6】

(式中、Arおよびmは一般式(1)のArおよびmと同意義を表す。)
で表されるトリアリールアミンポリマーに対し、スルホン化剤を塩基性極性溶媒中で反応させることを特徴とする請求項1または2に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法。
【請求項4】
スルホン化剤が、アミド硫酸、三酸化硫黄からなる群より選択される化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法。
【請求項5】
塩基性極性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミンからなる群より選択される化合物を含むことを特徴とする請求項3または4に記載のスルホン化トリアリールアミンポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28689(P2013−28689A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164833(P2011−164833)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】