新規セルラーゼ
【課題】植物由来のバイオマスの効率的な糖化を目指し、セルロースの分解性をさらに向上させた新規なセルラーゼを提供する。
【解決手段】A.aculeatus、好ましくはA.aculeatus No.F-50株由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメイン又はカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインと、当該ドメインのC末端側及び/又はN末端側に、リンカーを介してA.aculeatus、好ましくはA.aculeatus No.F-50株由来のセロビオハイドロラーゼIのセルロース結合ドメインを付加する。
【解決手段】A.aculeatus、好ましくはA.aculeatus No.F-50株由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメイン又はカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインと、当該ドメインのC末端側及び/又はN末端側に、リンカーを介してA.aculeatus、好ましくはA.aculeatus No.F-50株由来のセロビオハイドロラーゼIのセルロース結合ドメインを付加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規セルラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスから生産する燃料は環境への負荷が小さく、資源として豊富であり、地球上に植物が存在する限り消費しても再生可能な資源であるため、化石燃料に代わる有力な燃料として注目を集めている。特に植物由来のバイオマスに著量存在するセルロースからエタノール(バイオエタノール)を生産する方法は、その資源量が多いことやバイオマス資源として世界的に利用可能なこと、エタノールに変換する過程で生成する糖や副産物を用いて石油製品に代わるポリマーを合成できるなどの利点がある。
【0003】
植物由来のバイオマスからエタノールを生産する場合には、植物が持つセルロースを強酸やセルラーゼを用いて糖化し、その後酵母などによりアルコール発酵を行わせるのが一般的である。
【0004】
セルラーゼはセルロースを加水分解する酵素の総称で、セルラーゼはその性質により大きく3種類に分類される。1つ目は結晶セルロースに作用し、セルロース鎖の末端から二糖単位で分解するセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase:CBH)、2つ目は結晶セルロースを分解できないが、非結晶セルロース鎖をランダムに切断するエンドグルカナーゼ(endo-glucanase:EG)、そして3つ目が可溶化したセロビオース並びにセロオリゴ糖に作用し、グルコースを生成するβ−グルコシダーゼ(β−glucosidase:BGL)である。これらの酵素によるセルロース分解において、それぞれ単独の酵素による反応では非常に遅い反応となるが、これらの酵素が複合して作用する場合には、それぞれの酵素が協奏的に作用し、効率的な分解を行うことが知られている(非特許文献1)。
【0005】
ところで、セルロースはグルコースがβ−1、4結合で連なった直鎖状ポリマーであり、分子同士が互いに水素結合によって結合し強固な結晶構造をとっているため、セルラーゼによるセルロースの分解(糖化)は非常に遅い。また、結晶構造にもIαとIβという2相構造があることや、完全な結晶ではない非結晶領域(アモルファス)も含まれていることが知られており、これらに対するセルラーゼの反応性も異なる。さらに、セルロースは水溶性が低く、グルコースの重合度が6〜7程度のセルロースはほとんど水に溶けなくなるという性質もセルラーゼによる分解が困難な要因の一つとなっている。
【0006】
糸状菌Trichoderma. reeseiはセルロースを分解する酵素として古くから研究され、それが生産するセルラーゼは最強のセルラーゼと言われている。このセルラーゼは結晶性セルロースの分解には優れるものの、単糖を生成する力は弱く、糖化液中にはセロオリゴ糖(β−グルカンオリゴ糖)が多く残ってしまう。また、植物性バイオマスに含まれるような天然のセルロースはセルロース単独で存在することは少なく、ヘミセルロースやリグニンなどを伴うためセルロースを分解するにはまずこれらを除く必要がある。しかし、T.reeseiのセルラーゼはヘミセルラーゼ活性が弱いため、天然セルロースを効率的に分解することができない。
【0007】
T.reeseiのセルラーゼのこうした弱点を補い、かつT.reeseiのセルラーゼと強い相乗作用を示すセルラーゼ酵素群を生産する微生物として、A.aculeatus No.F-50株が知られている(非特許文献1)。この菌の生産するセルラーゼ酵素群は非常に強い単糖生成力を有することに加え、ヘミセルラーゼ活性も強く、セルロースだけでなくヘミセルロースを含めた植物性バイオマスの糖化に非常に有効である。A.aculeatusは基本的な上記3種類(3分類)のセルラーゼ(CBH、EG、BGL)を含む9種類のセルラーゼを生産する。A.aculeatusは3種類のBGLを持つが、いずれも糖転移反応を起こさず単糖のみを生成するというセルロース分解にとっては、非常に優れた特長を持つ(非特許文献2)。中でもBGL1は、セロビオースだけでなくセロペンタオースやセロヘキサオースなど比較的長鎖のセロオリゴ糖に対しても強い分解活性を有し、単糖のみを生成するためセルロースの糖化に重要な役割を果たす。BGL3はBGL1に比べセロビオースやセロトリオ―スのようなセロオリゴ糖基質に対する活性は低いものの、BGL1同様、糖転移反応を起こさず単糖のみを生成する。BGL2については、現段階では、BGL1と同一の遺伝子から発現するものであるが糖鎖修飾の違いにより別の酵素として取得されたものである、と考えられている。
【0008】
一方、EGの一種であるcarboxymethylcellulase1(CMC1)はA.aculeatusのセルラーゼの中でも発現量が多くセルロースの糖化に重要な役割を果たしていると考えられるが、セルロース結合ドメイン(CBD)を持たないため結晶セルロースに作用することができない。逆に、CMC2は、発現量は少ないがC末端側にセルロース結合ドメインを持ち、結晶セルロースに作用できるため、結晶セルロース中に部分的に含まれる非結晶部分を分解するのに重要な役割を果たしていると考えられる。
【0009】
Exo-glucanaseであるCBHについては、A.aculeatusは2種類のCBH(CBHI、CBHII)に加えてさらに1種類のハイドロセルラーゼ(HCase)を有する。HCaseはAvicelをほとんど分解しないものの、アルカリ膨潤セルロース(ASC)やリン酸膨潤セルロース(PSC)のような非結晶セルロースに対し高い活性を示す。CBHI及びCBHIIはいずれもCBDを持ち結晶セルロースを末端からセロビオース単位で分解するが、CBHIはセルロース鎖の還元末端側から分解するのに対し、CBHIIは非還元末端側から分解する。
【0010】
このように、セルラーゼ酵素群によるセルロースの分解においては、最強のセルラーゼ生産菌と言われているT.reeseiよりも有利であるとされるA.aculeatus No.F-50株においてさえ、単糖のみを生成しセルロースの加水分解にその重要な役割を果たすBGL1や発現量の多いCMC1はそれぞれセルロースに対する結合性が劣る。一方、セルロースに対する結合性が優れるCBHIやCBHIIはセロビオース単位でセルロースを加水分解するので、単糖まで分解されず、アルコール発酵に必要とされる単糖(グルコース)の生成効率が悪いという状況にある。
【0011】
かかる状況下、近年では、セルラーゼ酵素群中の各セルラーゼの最適な混合比を決定する、分子生物学的手法を用いて各セルラーゼの生産量を高める、各セルラーゼ自体の分解能や安定性を高める、異種セルラーゼタンパク質同士を融合させるなど、セルラーゼの機能を改善することについて様々な研究が行われている。この方法の一つとして、例えば、セルロース結合ドメイン(CBD)を利用してセルラーゼの特性、すなわちセルラーゼが不溶性セルロースへ吸着するように改良、改変することが、開示されている。例えば、特開2009−142260号公報(特許文献1)や特開2008−193990号公報(特許文献2)、特表2007−530054号公報(特許文献3)、特表2004−536593号公報(特許文献4)、特表2003−522517号公表(特許文献5)、特表2001−504352号公報(特許文献6)などに開示されている。
【0012】
CBDは、セルロース加水分解ドメイン(触媒ドメイン)とつながった一つのタンパク質として生産され、セルロースの加水分解に重要な役割を果たす。CBDはそれ自身分解活性を持たないが、単独でセルロースに結合する能力を有する。CBDの機能として、不溶性の基質に吸着することで、基質周辺におけるCBDに付随する触媒ドメインの濃度を上昇させてセルロースの分解速度を向上させたり、CBDの結合によってセルロース鎖間の水素結合を切り離して結晶構造を崩したりすることが知られている(非特許文献3、4)。また、結晶性セルロースを分解するセロビオヒドロラーゼ(CBH)からCBDを除くと可溶性基質に対する反応性は変わらないにも係わらず、結晶セルロースに対する分解活性や親和性が極端に低下することから、CBDは酵素が結晶セルロースに作用するために必要なドメインであると考えられている(非特許文献5)。逆に、本来CBDを持たないEGの一種にCBDを付加することで結晶セルロースへの親和性や分解能が上昇するという報告もある(非特許文献6)。
【0013】
しかしながら、これまでに数多くのCBDが見つかっており、現在ではそのアミノ酸配列の相同性によりCarbohydrate-binding module(CBM)familiyとして17種類のFamilyに分類されていることに鑑みると(非特許文献7)、CBDとセルラーゼの組み合わせが数多く考えられ、あるCBDを付加することによって、特定のセルラーゼ活性が向上することが必ずしも期待できるものでもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−142260号公報
【特許文献2】特開2008−193990号公報
【特許文献3】特表2007−530054号公報
【特許文献4】特表2004−536593号公報
【特許文献5】特表2003−522517号公表
【特許文献6】特表2001−504352号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Murao S. Kanamoto J. Arai M. Isolation and identification of a cellulolytic enzyme producing microorganisms. J. Ferment Techol.,57, 151, 1979
【非特許文献2】阪本禮一郎 Aspergillus aculeatus No. F-50 のセルラーゼ系に関する研究, 大阪府立大学大学院 博士論文, 1984
【非特許文献3】Bolam DN, Ciruela A, McQueen-Mason S, Simpson P, Williamson MP, Rixon JE, Boraston A, Hazlewood GP, Gilbert HJ Pseudomonas cellulose-binding domains mediate their effects by increasing enzyme substrate proximity. Biochem J 331 (Pt3) 775-781, 1998
【非特許文献4】DIN N, DAMUDE HG, GILKES NR, MILLER RC, WARREN RAJ, KILBURN DG : C1-Cx, revisited: Intramolecular synergism in a cellulose. Proc. Nati. Acad. Sci. USA Vol. 91, pp. 11383-11387, 1994
【非特許文献5】Riedel K, Ritter F, Bauer S, Bronnenmeier K : The modular cellulase CelZ of the thermophilic bacterium Clostridium stercorarium contains a thermostabilizing domain. FEMS Microbiology Letters, 164 261-267, 1998
【非特許文献6】Mahadevan SA, Wi SG, Lee DS, Bae HJ : Site-directed mutagenesis and CBM engineering of Cel5A (Thermotoga maritima). FEMS Microbiol Lett 287 : 205-211, 2008
【非特許文献7】http://www.cazy.org/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、植物由来のバイオマス資源の効率的な糖化を目指し、セルロースの分解性をさらに向上させた新規なセルラーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のセルラーゼは、Aspergillus aculeatus(A.aculeatus)由来のβ−グルコシダーゼ1(BGL1)の触媒ドメインを含む領域又はA.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1(CMC1)の触媒ドメインを含む領域と、当該領域にリンカーを介するかあるいはリンカーを介さずに付加されたA.aculeatus由来のセルロース結合ドメイン(CBD)を有するセルラーゼである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、CBDが付加された、不溶性セロオリゴ糖に対する分解活性の高いβ−グルコシダーゼ、及びCMCに対する分解活性の高いカルボキシメチルセルラーゼが提供される。この何れか又はその両方を使用することによって、植物由来のバイオマス資源の中心であるセルロースを、糖転移反応を起こすことなく、また、発酵プロセスで微生物により資化されないセロオリゴ糖などの分解産物を生じることなく、単糖であるグルコースにまで分解できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】BGL1にCBDが結合したタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだベクターの構築方法を示す図の一部である。
【図2】図1の続図である。
【図3】糸状菌用高発現ベクターpNAN8142の遺伝子構造を示す図である。Aはその制限酵素地図、Bは改変されたプロモーターの構造を示す。
【図4】PCR増幅産物の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はcbhl-LC、レーン2はcmc2-LC、レーン3はbgl1、レーン4はcbhII-CL、レーンMはλDNA Pst I digestである。
【図5】A、Bはそれぞれ細胞から遊離された粗タンパク質(酵素)の酵素活性を示す図である。
【図6】生産された粗タンパク質(酵素)の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はBGL1-CBDCBHI、レーン2はBGL1-CBDCMC2、レーン3はpNAN8142vector、レーン4はBGL1、レーン5はCBDCBHI-BGL1、レーン6はBGL1、レーン7は精製されたBGL1、レーンMは分子量マーカーである。
【図7】BGL1粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図8】BGL1-CBDCBHI粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図9】CBDCBHII-BGL1粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図10】CBDCBHII-BGL1-CBDCBHI粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図11】生産された精製タンパク質(酵素)の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1、3はCBDCBHII-BGL1、レーン2、4、7はBGL1-CBDCBHI、レーン5、6はBGL1、レーン8はBGL1-CBDCMC2である。
【図12】生産された精製タンパク質(酵素)のASCへの吸着を示すグラフである。
【図13】生産された精製タンパク質(酵素)の基質分解活性を示すグラフである。AはASCの分解を、BはICOSの分解を示す。
【図14】生産された精製タンパク質(酵素)の安定性を示すグラフである。Aは熱安定性を、BはpH安定性を示す。
【図15】生産された精製タンパク質(酵素)のASC分解活性を示すグラフである。
【図16】CMC1にCBDが結合したタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ大腸菌発現用ベクターの構築方法を示す図である。
【図17】CMC1にCBDが結合したタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだA.oryzae発現用ベクターの構築方法を示す図である。
【図18】PCR増幅産物の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はcmc1g、レーン2はcmc1c、レーン3はλDNA Pst I digestである。
【図19】大腸菌により生産されたタンパク質(酵素)の電気泳動(IPTG 0mM)による結果を示す画像である。Sは可溶性画分、Iは不溶性画分、Mは分子量マーカーである。
【図20】大腸菌により生産されたタンパク質(酵素)の電気泳動(IPTG 1mM)による結果を示す画像である。Sは可溶性画分、Iは不溶性画分、Mは分子量マーカーである。
【図21】A.oryzaeによる生産物の電気泳動の結果を示す画像である。レーン1はCMC1-CBDCBHI、レーン2はA.oryzae8142である。
【図22】大腸菌及びA.oryzaeによる生産物を分析した結果であって、Aはその酵素活性について示す図、Bはその電気泳動による結果を示す画像である。No.1−5はCMC-CBDCBHIを、No.6−9はCMC1-CBDCMC2、No10はpNAN8142vector、Mは分子量マーカーである。
【図23】CMC1-BCDCBHI粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図24】CMC1精製タンパク質(酵素)及びCMC1-BCDCBHI精製タンパク質(酵素)の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はCMC1-BCDCBHI、レーン2はCMC1、レーンMは分子量マーカーである。
【図25】CMC1精製タンパク及びCMC1-BCDCBHI精製タンパク質(酵素)の基質への吸着を示すグラフである。AはASCの吸着を、BはICOSの吸着を示す。
【図26】CMC1精製タンパク及びCMC1-BCDCBHI精製タンパク(酵素)の分解活性を示すグラフである。AはASCの分解を、BはICOSの分解を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のセルラーゼは、(1)Aspergillus aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1(BGL1)の触媒ドメインを含む領域と当該領域に間接又は直接に付加されたAspergillus aculeatus由来のセルロース結合ドメイン(以下、「CBD」という場合がある。)を有するセルラーゼ、又は(2)Aspergillus aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインを含む領域と当該領域に間接又は直接に付加されたAspergillus aculeatus 由来のCBDを有するセルラーゼである。本発明において、触媒ドメインとはいわゆる酵素としての活性ないし機能(酵素活性やセルロースに対する結合能)を発揮する最小限度のポリペプチドを意味する。また、CBDとは、それ自身分解活性を持たないが、単独でセルロースに結合する能力を有する最小限度のポリペプチドを意味する。従って、本発明においては、CBDに付随するリンカーに相当するポリペプチドはCBDには含まれない。
【0021】
本発明のセルラーゼはA.aculeatusが生産するセルラーゼのうち、CBDを有さないセルラーゼに対してCBDセルロース結合ドメインを付加し、結晶性セルロースないし不溶性セロオリゴ糖に対する分解性を向上させたセルラーゼである。A.aculeatusは3種類のβ−グルコシダーゼ(以下「BGL」と言う場合がある。)を生産するが、いずれも糖転移反応を起こさず単糖のみを生成するという非常に優れた特長を持つ。その中でもβ−グルコシダーゼ1(BGL1)は、セロビオースだけでなくセロペンタオースやセロヘキサオースなど比較的長鎖のオリゴ糖に対しても高い活性を持ち、単糖のみを生成する。本発明のセルラーゼ(1)は、このA.aculeatus由来のBGL1の特徴を利用したものであり、糖転移反応がなく、比較的長鎖のオリゴ糖に対しても高い活性を有するBGLを提供する。
【0022】
また、A.aculeatusは3種類のエンド−グルカナーゼであるカルボキシメチルセルラーゼ(以下「CMC」という場合がある。)を生産するが、その中でもカルボキシメチルセルラーゼ1(CMC1)は、A.aculeatusが生産するセルラーゼの中でも発現量が多くセルロースの糖化に重要な役割を果たしていると考えられる。本発明のセルラーゼ(2)はこの発現量の多いセルラーゼに着目したものであり、結晶セルロースに対する分解性を向上させたCMCである。
【0023】
A.aculeatusの菌株は適宜選択されるが、本発明においては、A.aculeatus No.F-50株が最も望ましく用いられる。この菌株は、他の菌株に比べ、非常に強い単糖生成力を有することに加え、ヘミセルラーゼ活性が強い酵素群を産生するので、セルロースだけでなくヘミセルロースも含有する植物性バイオマスの糖化に非常に有効であると考えられるからである。
【0024】
A.aculeatusが生産するBGL1及びCMC1は、それぞれセルロース結合ドメイン(以下「CBD」という場合がある。)を持たない。本発明のセルラーゼは、これらのBGL1及びCMC1に対してCBDを付加したものである。本発明において用いられるCBDの由来は問われないが、CBDとして、A.aculeatusが生産するエキソ−グルカナーゼであるハイドロセルラーゼ(以下「CBH」という場合がある。)が有するCBDが好ましく用いられる。A.aculeatusは2種類のCBHを生産し、その両者(CBHI、CBHII)はいずれもCBDを有し結晶セルロースを末端からセロビオース単位で分解するが、CBHIはセルロース鎖の還元末端側から分解するのに対し、CBHIIは非還元末端側から分解する。しかしながら、セルロースの酵素分解においては、BGL、CMC、CBHの3種類の酵素からなる複合系ではそれぞれの酵素が協奏的作用することが望まれるので、A.aculeatusが有する高いセルラーゼ活性に着目すると、A.aculeatusが有する唯一のCBDであるCBHのCBDが望ましいと言える。このCBHのCBDである限り、還元末端側から分解するCBHIのCBD及び非還元末端側から分解するCBHIIのCBDのいずれでも差し支えない。また、かかる観点から、本発明においては、CBDの由来であるA.aculeatusの菌株としても、A.aculeatus No.F-50株が最も望ましく用いられる。
【0025】
本発明において用いられるBGL1、CMC1のアミノ酸配列及びこれらのアミノ酸配列をコードする塩基配列は既に明らかにされている(BGL1:Kawaguchi T, et al., Gene. 1996 )ep 16;173(2):287-8.、CMC1:Ooi T, et al., Nucleic Acids Res., 18(19), 5884, 1990)。また、CBHIやCBHIIのCBDのアミノ酸配列及びこれらのアミノ酸配列をコードする塩基配列も既に明らかにされている(Takada G, Kawaguchi T, Sumitani J, Arai M, Cloning, nucleotide sequence, and transcriptional analysis of Aspergillus aculeatus No. F-50 cellobiohydrolase I (cbhI) gene. J Ferment Bioeng 85:1-9, 1998 31、内藤篤史, Aspergillus aculeatus由来cbhII型セルラーゼ遺伝子のクローニングと高発現. 大阪府立大学 学士論文, 2009)。本発明のセルラーゼにおいては、これらのポリペプチドが有する全てのアミノ酸配列を必ずしも備える必要はなく、いわゆる活性ないし機能(酵素活性やセルロースに対する結合能)を発揮するドメインを備えていればよい。また、当該活性ないし機能を発揮する限り、アミノ酸の一部が欠失、付加、置換、修飾されていても差し支えない。また、塩基配列においても、当該活性ないし機能を発揮する限り、塩基配列の全てを具備する必要はなく、80%の相同性、好ましくは85%、さらに好ましくは95%以上の相同性を有していればよい。
【0026】
本発明のセルラーゼ(1)は、A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメインを含む領域と当該領域に間接又は直接に付加されたA.aculeatus由来のCBDを有するBGLである。また、本発明のセルラーゼ(2)は、A.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1のドメイン領域と当該領域に間接又は直接に付加されたA.aculeatus由来のセルロース結合ドメインを有するCMCである。ここにおいて、間接とは、BGL1やCMC1の触媒ドメインを含む領域とCBDとの間にリンカーを有することを意味する。リンカーは1〜100程度のアミノ酸から構成される。リンカーはセルラーゼ活性等の酵素活性や機能を有しない部分であって、結合された触媒ドメインとCBDの間に生じる立体障害を防止する機能を有する。リンカーのアミノ酸配列は限定されるものではないが、ドメイン同士の立体的配置の自由度を増すようなアミノ酸配列が好ましく用いられる。自然界で見いだされるCBDにはリンカーが付随している。このようなリンカー、例えばCBHIやCBHIIのCBDに付随しているリンカー(ペプチド)がそのまま利用される。また、CBDに付随したリンカー(ペプチド)に、リンカーとして機能するペプチドが結合したペプチドもリンカーとして利用できる。直接とは、BGL1やCMC1の触媒ドメインを含む領域とCBDとの間にリンカーを介しないことを意味する。また、CBDの結合位置は、BGL1やCMC1のC末端側、N末端側のいずれの位置でもよく、また、それらのC末端側、N末端側双方の位置に付加されてもよい。
【0027】
本発明のセルラーゼは公知である種々の遺伝子工学的手法を用いて生産される。すなわち、セルラーゼ(1)の生産においては、少なくともBGL1の触媒ドメインをコードする塩基配列と少なくとも付加するCBDのドメイン領域をコードする塩基配列を含むようにして、必要であればリンカーをコードする塩基配列を介在させて両者を結合し、目的とするセルラーゼをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを作製する。また、セルラーゼ(2)の生産においては、少なくともCMC1の触媒ドメインをコードする塩基配列と少なくとも付加するCBDのドメインをコードする塩基配列を含むようにして、必要であればリンカーをコードする塩基配列を介在させて両者を結合し、目的とするセルラーゼをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを作製する。
【0028】
得られたポリヌクレオチドは、常法によって、プロモーター、ターミネーターなどが付加された発現ベクターに組み入れられる。そして、当該ベクターは宿主細胞に導入されて、セルラーゼ遺伝子が発現してセルラーゼの生産が行われる。この際、大腸菌などの原核細胞を宿主細胞とする場合には、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いればよい。また、Aspergillus属糸状菌などのように真核細胞を宿主細胞とする場合には前記ポリヌクレオチドにイントロン領域を挿入してもよい。宿主細胞が真核細胞である場合、イントロンがスプライシングされたメッセンジャーRNAができ、タンパク質の発現が行われやすいからである。このイントロンはコンセンサス配列を有し、イントロンとして機能する配列であればよく、具体的な配列は適宜決定される。さらに、必要に応じて宿主細胞において生産された酵素を細胞外に分泌するためのシグナル配列が付加される。当該シグナル配列も特定の塩基配列である必要はなく、その機能を発揮する限りにおいて任意的な配列であればよい。例えば、A.aculeatus由来のBGL1が備えているシグナル配列が用いられる。
【0029】
配列番号1〜4に示された塩基配列は、本発明のセルラーゼを生産させるためのポリヌクレオチドの塩基配列の一例である。配列番号1〜4に示されたポリヌクレオチドはそれぞれ配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12に示されたアミノ酸配列を有するセルラーゼ(ポリペプチド)をコードし、A.aculeatus属糸状菌のような真核細胞を宿主細胞に用いて生産させるために用いられるポリヌクレオチドである。配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示されるポリヌクレオチドはシグナル配列を含まない。配列番号1に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドは、A.aculeatus由来BGL1のC末端側に制限酵素Nsi Iの認識部位とA.aculeatus由来のCBHIに付随するリンカー(ペプチド)を含むリンカーを介してA.aculeatus由来CBHIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。配列番号2に示された塩基配列は、A.aculeatus由来BGL1のN末端側にA.aculeatus由来のCBHIIに付属するリンカー(ポプチド)を介してA.aculeatus由来CBHIIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。配列番号3に示された塩基配列は、A.aculeatus由来BGL1のN末端側にA.aculeatus由来のCBHIIに付属するリンカー(ペプチド)を介してA.aculeatus由来CBHIIに付随したCBDが結合し、そのC末端側に制限酵素Nsi Iの認識部位とA.aculeatus由来のCBHIに付随するリンカー(ペプチド)を含むリンカーを介してA.aculeatus由来CBHIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。配列番号4に示された塩基配列は、A.aculeatus由来CMCIのN末端側に、制限酵素Nsi Iの認識部位とA.aculeatus由来のCBHIに付随するリンカー(ペプチド)を含むリンカーを介してA.aculeatus由来CBHIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。これら配列番号1から配列番号4までで示したポリヌクレオチドは、いずれもイントロンを含んでいる。
【0030】
本発明において用いるベクターや宿主細胞も限定されるものではないが、宿主細胞としては、原核細胞としては大腸菌や枯草菌などの細菌、また真核細胞としては酵母ないしAspergillus属やTrichoderma属の糸状菌、例えばA.aculeatus又はA.oryzaeが例示される。本発明においては、Aspergillus属の糸状菌が好ましい。Aspergillus属の糸状菌は、BGL1、CMC1及びCBHが由来するA.aculeatusと同属であり、本発明のセルラーゼが発現しやすいからである。また、A.aculeatusは本発明のセルラーゼだけでなく、セルロースの糖化に必要な他のセルラーゼ酵素群も同時に生産できるので宿主としてより好ましい。ベクターとしては公知の細菌用、糸状菌用、酵母用のものを用いることができる。公知のベクターとして大腸菌用としてpBR322、pKK233−2、糸状菌用としてはpAUR316、酵母用としてYip5、Yrp19などが例示される。
【0031】
また、形質転換の方法としても、粒子又は遺伝子銃、アルカリなどを利用した細胞壁の透過、プロトプラスト法、エレクトポレーションなどの公知の方法を用いることができる。
【0032】
宿主細胞において生産された酵素は、常法により菌体あるいは培養液から抽出される。また、細胞外に酵素が分泌される場合には、菌体あるいは培養液を直接植物系バイオマスの糖化に用いることができる。
【0033】
本発明の植物系バイオマスを糖化する方法は、上記で得られたセルラーゼ(1)及び/又はセルラーゼ(2)を用いて植物系バイオマスを糖化する方法である。また、本発明におけるセルラーゼ(1)をコードする塩基配列及び/又は本発明にセルラーゼ(2)をコードする塩基配列を有するベクターを形質転換した形質転換体を用いて植物系バイオマスを糖化することもできる。例えば、配列番号1〜4に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドでAspergillus属糸状菌、特にA.aculeatusを形質転換した場合には、形質転換された糸状菌を用いて糖化できる。
【0034】
植物系バイオマスは、草や木材、農業廃棄物、紙や食料廃棄物などいわゆるゴミのようなバイオマスが例示され、セルロースを含むものであれば特に限定されるものではない。バイオマスの糖化は公知の方法によればよく、バイオマスの粉砕、酸やアルカリを用いた前処理、高温高圧による前処理など各種前処理を経て、上記セルラーゼや形質転換体を用いてグルコースに糖化される。
【0035】
本発明のセルラーゼ(1)や(2)は、結晶セルロースに対するセルロース結合ドメインを有するので、より緩やかな条件、例えば低い温度における前処理などの場合でも十分に糖化を行える。また、バイオマスによっては前処理を行わずして糖化処理することも可能となる。特に本発明のセルラーゼ(1)は、糖転移反応が少なく、単糖まで十分に分解できる能力を備えているので、糖化処理後に行われるアルコール発酵工程には非常に有利である。
【0036】
次に、下記実施例に基づいて本発明について詳細に説明する。なお、下記実施例はあくまでも例示であって、本発明は下記の実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0037】
〔セルラーゼ(1)の作製〕
まず、A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1にリンカーを介してA.aculeatus由来のセロビオハイドラーゼI(CBHI)又はII(CBHII)のCBDを結合したセルラーゼを作製した。
【0038】
A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1として、既に塩基配列が決定されているA.aculeatusのF-50株由来のβ−グルコシダーゼ1を用いた。セルロース結合ドメインには、既に塩基配列が決定されているF-50株由来のCBHIのCBD及び/又は同CBHIIのCBD並びにCMC2のCBDを用いた。
【0039】
CBDを結合したセルラーゼとして、β−グルコシダーゼ1のC末端側にCBHIのCBDを結合したセルラーゼ(BGL1-CBDCBHI)、β−グルコシダーゼ1のN末端側にCBHIIのCBDを結合したセルラーゼ(CBDCBHII-BGL1)、β−グルコシダーゼ1のC末端側にCBHIのCBDを、N末端側にCBHIIのCBDを結合したセルラーゼ(CBDCBHII-BGL1-CBDCBHI)の3つのセルラーゼ(1)を作製した。セルラーゼ(BGL1-CBDCBHI)のアミノ酸配列は配列番号6に、セルラーゼ(CBDCBHII-BGL1)のアミノ酸配列は配列番号8に、セルラーゼ(CBDCBHII-BGL1-CBDCBHI)のアミノ酸配列は配列番号10に示される。また、CMCのN末側にCMC2のCBDを結合したセルラーゼ(BGL1-CBDCMC2)も併せて作製した。
【0040】
1.発現プラスミドの構築
BGL1にCBDを付加するため、PCRによって増幅したA.aculeatusのbgl1遺伝子と、cbhI、cbhII、cmc2からlinker領域とCBDをコードするDNA配列のそれぞれのうちいずれかをクローニングベクターpBluescript II KS (+)上で結合させ、BGL1のN末端側にCBHII由来のCBDとLinkerが、BGL1のC末端側にCBHIもしくはCMC2由来のLinkerとCBDが結合するようそれぞれの遺伝子を構築した(図1及び図2)。
【0041】
次に構築された遺伝子はそれぞれ、糸状菌用高発現ベクターpNAN8142(図3参照:大関(株)による)のプロモーター下流領域にbgl1遺伝子断片を挿入し、宿主であるAspergillus oryzae niaD300株の染色体上にniaD部位で相同組替えを行った。
【0042】
A.コンピテントセルの調製
Inoueらの方法(Inoue H、Nojima H、Okayama H:High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Gene 96:23-28, 1990)に従った。大腸菌(E.coli DH5αF´株)をLB培地plate(Ampicillin含まず)にストリークした後、37℃で一晩培養した。2L三角フラスコ中の250mLSOB培地に数コロニーを植菌し、OD660=0.4〜0.6になるまで18℃で振盪培養した。三角フラスコを氷上で10分間冷却した後、遠心分離(3000rpm、10min、4℃)を行った。上清をデカンテーションで除いた後、沈澱した大腸菌をもとの培地に対して1/3量(約84mL)の0℃に冷却したTransformation buffer(TB)(10mMPIPES、15mMCaCl2、15mMKCl、55mMMnCl2)に懸濁し氷上で10分間冷却した後、再び遠心分離(3000rpm、10min、4℃)を行い、上清を除いた。沈澱した大腸菌を20mLの0℃に冷却したTBに懸濁した後、終濃度7.5%になるようDMSO(Dimethyl Sulfoxide)を添加し氷上で10分間冷却した。その後エッペンチューブに200μLずつ分注し、液体窒素中で凍結させ、−80℃で保存した。
【0043】
B.大腸菌への形質転換
Cohenらの方法(Cohen SN、Chang AC、Hsu L:Nonchromosomal antibiotic resistance in bacteria : genetic transformation of Escherichia coli by R-factor DNA. Proc Natl AcadSci USA 69:2110-2114,1972)に従って行った。上記で調整されたコンピテントセルを氷上で溶解し、同じく氷上に静置した適量のプラスミド溶液もしくはライゲーション反応液を添加し、氷上で約30分間静置した。その後、42℃で45秒間のヒートショック後、氷上で約2分間静置した。1000μLの2×TY培地を加え、45分間、37℃で振盪培養した後、100μg/mLのAmpicillinを含むLB培地plateにスプレッドし、37℃で一晩培養した。
【0044】
C.プラスミドDNAの調製
Alkalinelysis法(Sambrook J.、Russell DW:Molecular Cloning :a laboratory manual. 1.31-1.34, 2001)に従った。LBplate上で生育したシングルコロニーを2×TY培地(Ampicillinを含む)1.7mLに爪楊枝を用いて接種し、37℃にて一晩振盪培養を行った。培養液をエッペンチューブに入れ、遠心分離(10000rpm、1min)により菌体を回収した。培養上清を取り除いた後、SolutionI(50mMGlucose、10mMEDTA、25mMTris-HCl(pH8.0))を100μL添加し菌体を懸濁した。そこにSolutionII(02NNaOH、1.0%SDS)を200μL添加し穏やかに撹拌した。5分間静置した後、SolutionIII(3MPotassium acetate(pH4.8))を150μL添加し、撹拌後、氷上で10分間静置した。遠心分離(15000rpm、10min)して上清を回収し、フェノール/クロロホルム抽出し、常温で遠心分離(15000rpm、5min)を行った。上清を別エッペンに分取し、2.5倍量のEtOH(ice cold)を加え、氷上で10分間放置した。4℃にて遠心分離(15000rpm、5min)を行い、上清を取り除いた後、70%EtOH(ice cold)にて洗浄後、再び4℃にて遠心分離(15000rpm、5min)を行い、上清を取り除いた後、真空乾燥させた。沈殿を約100μLのTEbuffer(10mMTris-HCl、1mMEDTA、pH8.0)に溶解し、10mg/mLRNase A2μLを添加し37℃で30分間放置し、これをプラスミド溶液とした。
【0045】
D.アガロースゲル電気泳動
制限酵素等で消化したDNA断片等を分析するためにアガロース電気泳動に供した。Agarose-LE Classic TypeをTAEbuffer(0.04Tris、0.02MAcetic acid、1mMEDTA、pH8.0)に0.7〜1.5%(w/v)となるように加熱融解し臭化エジジウムを0.5μg/mLになるように加えアガロースゲルとした。このゲルをTAEbufferで満たされたMupidミニゲル電気泳動装置(Advance社製)に置き、DNA溶液に対して1/10量の10×Loading Buffer(0.1%Bromophenol blue(BPB)、10%Glycerol、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、TEで容量を調節する)を加えアガロースゲルに負荷した。50Vもしくは100Vの定電圧下で泳動後、トランスイルミネーター(VILVERLOURMAT社製)上でDNAを観察した。
【0046】
E.制限酵素処理および修飾酵素処理
制限酵素処理および修飾酵素処理は基本的に添付のプロトコルに従って行った。必要時にフェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を行った。
【0047】
F.アガロースゲルからのDNA断片の回収
Wangらの方法に従った(Wang Z., Rossman TG : Isolation of DNA fragments from agarose gel by centrifugation. Nucleic Acids Research, Vol. 22, No. 14, 2862-2863,1994)。制限酵素処理もしくはPCRによって得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動に供し、目的の断片を含むゲルを切り出しそこから以下のステップで回収を行った。
【0048】
エッペンチューブの底に穴を開け、その穴を4mm径の濾紙(FILTER PAPER GA-100,ADVANTEC社製)で塞ぎ、SephadexG-10(TEbufferに膨潤させたもの)を300μL重層し、別のエッペンチューブにのせ遠心分離(15000rpm、1min)を行い、TEbufferを取り除いた。上部のエッペンチューブに切り出したアガロースゲルを入れ、新しいエッペンチューブにのせ遠心分離(15000rpm、10min、4℃)し、下部のエッペンに残ったDNA溶液に対してフェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出を行った後、エタノール沈澱(2.5倍量EtOH、1/10倍量3MSodium acetate(pH5.2)を添加)を行った。氷上で10分間静置した後遠心分離(15000rpm、10min、4℃)を行った。沈澱を70%EtOHで洗浄した後、真空乾燥を行い、適量のTEbufferに溶解しこれをDNA溶液とした。
【0049】
G.ライゲーション反応
プラスミドを制限酵素処理した後、電気泳動後アガロースゲルから回収を行い、プラスミドベクターとした。ライゲーション反応条件としてはDNA断片とベクターのモル比を3:1とし、そこに10×ligation bufferを全量の1/10量を加えて撹拌後、T4 DNA ligase(500unit/μL)を1μL添加し、16℃で3時間反応させた。
【0050】
H.PCR法を用いたDNA断片の増幅
PCR法にはPrime STARHS DNA polymerase(タカラバイオ社製)および各添付bufferを用いた。反応装置はTaKaRa Thermal cycler(タカラバイオ社製)を用いた。反応溶液の調製及び反応条件は以下に示した条件を基本とし、Template、primer対の組合せを表1に示した。但し、cbhIIかCBDとLinkerをコードするDNA配列を増幅する時のみ、伸長時間を30秒とした。また、各PCR産物をそれぞれbgl1、cbhI-LC、cmc2-LC、cbhIICL-1と命名した。
【0051】
(PCRreaction mixture)
Template(0.5ng/μL) 2
Fprimer(5μM) 2
Rprimer(5μM) 2
dNTP Mixture(2.5mMeach) 4
5×Prime STAR buffer 10
Prime STARHS DNA polymerase(0.625U/μL) 2
Distilled water 28
Total 50(μL)
(PCRcondition)
Denature 98℃ 0min 10sec
Anneal 55℃ 0min 5sec 30cycle
Extend 72℃ 3min 0sec
72℃ 10min 0sec 1cycle
【0052】
【表1】
【0053】
I.発現プラスミドの構築
上記のPCR法によって得られたPCR産物cbhI-LC、cmc2-LCをEcoR IとBamH Iで消化し、pBluescript II KS (+)(pBs)のマルチクローニングサイト内にあるEcoR IサイトとBamH Iサイトに挿入した(pBs-CBDcbhI、pBs-CBDcmc2)。さらに、PCR産物bgl1をNsi IとXho Iで消化し、pBs-CBDcbhI及びpBs-CBDcmc2のCBDの5´末端側に付加したNsi Iサイトと、さらにその上流にあるpBsのマルチクローニングサイト内のSal Iサイトに挿入した。これをbgl1の5´末端側に付加したNot Iサイトと、各CBDの3´末端側に付加したNde Iサイトで切断して目的遺伝子を切り出し、糸状菌用高発現ベクターpNAN8142のマルチクローニングサイト内にあるNot IサイトとNde Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpNAN-bgl1-CBDcbhI及びpNAN-bgl1-CBDcmc2とした。一方、BGL1のN末端側にCBDを付加させるため、PCR産物cbhII-CL1の5´末端側をXho Iで消化したものを、pH3Kのbgl1遺伝子の翻訳開始点より64bp上流にあるXho Iサイトと翻訳開始点から54bp下流にあるEco47 IIIサイトに挿入した。これにより、bgl1のシグナル配列(57bp)を除き、かつリンカーと触媒ドメインの間に1アミノ酸残基(アラニン)のみの挿入でBGL1のN末端側にCBDを付加させた。これをCBDの5´末端側に付加したXho Iサイトと、bgl1の終止コドンより319bp下流に存在するSph Iサイトで切り出し、pNAN8142のマルチクローニングサイト内にあるXho IサイトとSph Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpNAN-CBDcbhII-bgl1とし、それぞれ構築された計3種類のプラスミドをA.oryzaeの形質転換に用いた。
【0054】
BGL1のN末端及び/又はC末端にCBDを結合させるため、bgl1の開始コドンから終止コドンを除く2937bp(図1参照)と、cbhIの1384bp目から終止コドンまでの240bp(図1参照)、cmc2の1140bp目から終止コドンまでの327bp(図1参照)、及びcbhIIの開始コドンから377bp目(図1参照)までをPCRによって増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供することで正しい長さの断片が増幅されたことを確認した(図4)。また、これらを組み合わせて構築した発現プラスミドpNAN-bgl1-CBDcbhI、pNAN-bgl1-CBDcmc2、pNAN-CBDcbhII-bgl1は目的遺伝子を発現ベクターに挿入する際に用いたNot IとNde Iや、Pst I、Sal Iなどを用いて目的遺伝子が正しく挿入されていることを確認した(データを示さず)。
【0055】
J.使用試薬等
発現プラスミドの構築に使用した菌株、プラスミド、培地、プライマーなどは以下のとおりである。
a)使用菌株
Escherichia coli DH5αF´ F' / endA1 hsdR17(rK-mK+)supE44、thi-1、
recA1, gyrA (Nalr)、 relA1、
Δ(lacZYA-argF)U169 (m80lacZΔM15)
b)使用プラスミド
pNAN8142
pBluescript II KS (+)
pH3K
pUC118、bgl1
pNANBGL1 pNAN8142、bgl1
pGA1 pSL1180/1190、cbhI
pNANcbhII pNAN8142、cbhII
pGC2 pUC118/119、cmc2 genome
c)使用培地
大腸菌の培養には以下の培地を使用した。平板培地には1.5%濃度の寒天を加えた。必要に応じて、終濃度が100μg/mLとなるようにAmpicillinを添加した。
i)LB培地(pH7.0)
Polypepton 1.0%
Bacto-yeast extract(Difco社製) 0.5%
NaCl 0.5%
ii)2×TY培地(pH7.0)
Bacto-tryptone(Difco社製) 1.6%
Bacto-yeast extract(Difco社製) 1.0%
NaCl 0.5%
iii)SOB培地(pH7.0)
Bacto-tryptone(Difco社製) 2.0%
Bacto-yeast extract(Difco社製) 0.5%
NaCl 10mM
KCl 2.5mM
MgCl2 5mM
MgSO4 5mM
d)使用試薬
i)制限酵素、修飾酵素
制限酵素および修飾酵素は、ニッポンジーン社製、東洋紡社製、タカラバイオ社製、あるいはNEW ENGLAND BIOLABS(NEB)社製のものを使用し、それぞれの処理は各社のプロトコルに従った。
制限酵素:BamHI、Eco47III、EcoRI、NdeI、NotI、NsiI、SalI、XhoI
修飾酵素:T4 DNA ligase、Prime STARHS DNA polymelase
ii)プライマー
目的遺伝子の増幅には表2に示すプライマーを使用した。
iii)その他の試薬
その他は特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0056】
【表2】
【0057】
2.A.oryzaeにおける酵素発現
上記で構築した発現プラスミドをA.oryzaeに形質転換して、酵素を発現させた。
A.プロトプラスト調製
MM(NH4+)プレートに生育したA.oryzae niaD300株にTween80/Saline solution(0.01%Tween80、0.9%NaCl)12mLを加え、スプレッダーを用いて胞子を集めよく懸濁した。これを500mL容バッフル付き三角フラスコ中のMM(NH4+)150mLに5mL加え、30℃、160min-1で16〜20h振盪した。培養終了後、菌体をミラクロス上で集菌しProtoplasting Buffer(PB、0.8MNaCl、10mMNaH2PO4)で洗浄した。回収した菌体の一部を50mL容遠心チューブ中のYatalase40mg、Lysing Enzyme30mgの入ったPB10mLに懸濁し、30℃で120分間ゆっくりと振盪しながらインキュベートした。この間、30分毎にピペッティングによって菌体を穏やかにほぐした。反応後、菌糸などのかすを除くため反応液をミラクロスでろ過し、ろ液を4℃、2000rpmで5分間遠心した。沈殿をAspergillus Transformation Buffer(ATB、0.8MNaCl、10mMTris-HCl(pH7.5)、50mMCaCl2)約10mLに懸濁し4℃、2000rpmで5分間遠心した。沈殿を適量のATBに懸濁しプロトプラスト溶液とした。
【0058】
B. A.oryzaeの形質転換
プロトプラスト溶液100μL(1×10-9個-plotoplast/mL)に2×ATBを等量加えた各種プラスミド溶液(pNAN8142、pNAN-bgl1-CBDcbhI、pNAN-bgl1-CBDcmc2、pNAN-CBDcbhII-bgl1各10μg-DNA)を加えた。この溶液に対し20%量のPEG solution(60%PEG4000、10mMTris-HCl(pH7.5)、50mMCaCl2)を添加し、穏やかに混合した。氷上で10分間静置した後、PEG solution1mLを加えて緩やかに混和した。室温で10分間静置した後、10mLのATBを加えてよく混合し、4℃、2000rpmで5分間遠心した。沈殿を適量のATBに懸濁し、45℃に保温したTop Agar(RMに0.7%のAgaroseを溶解させたもの)5mLと混合し、RMプレート上に重層した。30℃で3日間培養し、それぞれの形質転換体を得た。なお、取得した菌株をそれぞれ以下のように命名した。
プラスミド 菌株名
pNAN8142 A.oryzae8142
pNAN-bgl1-CBDcbh1 A.oryzaeBGL1-CBDCBHI1
pNAN-bgl1-CBDcmc2 A.oryzaeBGL1-CBDCMC1
pNAN-CBDcbhII-bgl1 A oryzaeCBDCBHII-BGL1
【0059】
C.培養
目的タンパク質の発現を確認するため、取得された形質転換体をMM(NO3-)で培養した。MM(NO3-)のGlucoseを5%、NaNO3を1%にした培地10mLが入った太試験管に1白金耳ずつ植菌し、30℃、170min-1で3日間培養を行った。
【0060】
D.BGL1及びCBD結合型BGL1の遊離
BGL1は分泌後、菌体表層に結合することが知られている。そこで、菌体表層に結合したBGL1及び各種CBD結合型BGL1を遊離させるため、培養した形質転換体を以下のように処理した。
培養液を、菌体ごとろ紙を敷いたブフナー漏斗に流し込み、吸引ろ過して培地を除いた。ろ紙上に残った菌体を20mMAcetate buffer(pH5.0)150mLで洗浄し、培地成分を完全に除いた。得られた菌体を培地と等量の遊離バッファー(Cycloheximide20μg/mL、1mMPhenylmethylsulfonyl fluoride、0.2%TritonX-100、20mMAcetate buffer(pH5.0))に加え、30℃、160min-1で4日間振盪した。
【0061】
E.活性測定
BGL1の酵素活性測定は、pNP法により行った。基質として3mMp-Nitrophenyl-β-D-glucopyranoside(pNP -Glc)溶液(in 100mM Acetate buffer pH5.0)を用い、酵素溶液は100mMAcetate buffer(pH5.0)で適切な濃度に希釈して用いた。また、BGL1の安定化のため酵素溶液の希釈の際に、反応液中に10μgのオボアルブミンを含むように1mg/mLオボアルブミンを加えた。酵素反応は、5分間37℃でプレインキュベートした酵素溶液100μLに、同じくプレインキュベートした基質溶液100μLを加えてよく混合し、37℃にて10分間反応させることにより行った。反応後、2mLの1MNa2CO3を加え反応を停止させ、405nmの吸光度からp-Nitrophenol(pNP)の吸光係数を用いて遊離したpNP濃度を算出し、活性を求めた。ブランクには、酵素溶液の代わりに100mMAcetate buffer(pH5.0)100μLを用いて、基質溶液100μL、1MNa2CO32mLを加えたものを用いた。
【0062】
また、1unit(1U)は1分間に1μmolのpNPを遊離させる酵素量と定義し、以下の式により酵素活性を算出した。吸光係数は、ε(405)=0.0185mL/nmol・cm-1を用いた。
酵素活性(units/mL)=
x/18.5×2.2mL/(10min)×(1/0.1mL)×希釈率
x:A405(ただしtest値からblank値を引いた値とする)
【0063】
F.SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
SDS-PAGEはLeammliの方法(Laemmli UK : Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227 : 680-685、 1970)に従った。分離ゲルは9.0%、濃縮ゲルは5%の二層からなるポリアクリルアミドゲル(Acrylamide:N、N'-Methylene bisacrylamide=29.2:0.8)を作製した。試料酵素溶液に等量の2×Sample buffer(0.125MTris-HCl、20%Glycerol、2%SDS、2%1-Mercaptoethanol、0.001%Bromophenol blue、pH6.8)を添加し、100℃で10分間処理して試料とした。縦型スラブ電気泳動装置(ATTO社製)を用い、泳動用緩衝液(0.1%SDS、25mMTrisbase、192mMGlycine)中で20mAの定電流下で電気泳動を行った。
【0064】
G.使用試薬等
酵素発現のために使用した菌株、培地などは以下のとおりである。
a)使用菌株
A.oryzae niaD300(RIB40由来) ΔniaD
A.oryzae BGL1 bgl1
A.oryzae BGL1株は、A.aculeatusのbgl1を、pNAN8142ベクターを用いてA.oryzaeに組込んだ株であり、西槇らによって取得されたものである(西槇徹、Aspergillus aculeatus 由来b-glucosidase 1 遺伝子の Aspergillus oryzae における高発現、大阪府立大学大学院 修士論文、2003)。
b)使用培地
A.oryzaeの培養には以下の培地を使用した。平板培地には1.5%濃度の寒天を加えた。
i)Minimum medium(NO3-)(MM(NO3-))(pH6.5)
Salts solution※ 5.0%
Trace element mixture※※ 0.10%
Glucose 1.0%
NaNO3 0.3%
ii)Minimum medium(NH4+)(MM(NH4+))(pH6.5)
MM(NO3-)のNaNO3の代わりにAmmonium tartrate 0.18%を使用したもの。
iii)Regeneration Medium(RM) (pH6.5)
Salts solution※ 5.0%
Trace element mixture※※ 0.10%
Glucose 1.0%
NaNO3 0.3%
NaCl 4.68%
※Salts solution
KCl 2.6%
MgSO4・7H2O 2.6%
KH2PO4 7.6%
※※Trace element mixture
Mo7O24・4H2O 0.11%
H3BO3 0.11%
CoCl・6H2O 0.16%
CuSO4・5H2O 0.16%
EDTA 5.0%
FeSO4・7H2O 0.50%
MnCl2・4H2O 0.50%
ZnSO4・7H2O 2.2%
c)使用試薬
プロトプラスト調製のために、以下の酵素を使用した。
Yatalase(タカラバイオ社製)、Lysing Enzyme(Sigma社製)
d)その他の試薬
その他は特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
H.結果
上記で構築したpNAN-bgl1-CBDcbhI、pNAN-bgl1-CBDcmc2、pNAN-CBDcbhII-bgl1、及びインサートの入っていないpNAN8142ベクターを用いてA.oryzaeを形質転換した。モノスポア化を2〜3回繰り返し、最終的に得られた株はA.oryzae8142株が16株、A.oryzae BGL1-CBDCBHI株が8株、A.oryzae BGL1-CBDCMC2株が7株、A.oryzae CBDCBHII-BGL1株が8株となった。
【0065】
それぞれの株を複数株ずつ培養し、遊離操作を行ってpNP-Glcに対する活性を追跡したところ、A.oryzae8142株では活性がほとんど検出されなかったが、A.oryzae BGL1-CBDCBHI株とA.oryzae CBDCBHII-BGL1株ではA.oryzae BGL1株と同等の活性が検出された(図5)。また、SDS-PAGEによってBGL1よりサイズが僅かに大きい、それぞれBGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1と思われるタンパク質の存在を確認した(図6)。一方、A.oryzae BGL1-CBDCMC2株では他のCBD結合型BGL1に比べ遊離バッファー当たりの活性が低く酵素生産量も少なかった(図6)。
【0066】
3.酵素の精製
A.培養
上記1−2のC)の方法で種培養を行い、同培地200mLの入った500mL容バッフル付き三角フラスコに種培養した培養液全量を加え、さらに30℃、160min-1で3日間培養した。
【0067】
B.粗酵素液の調製
上記2.D.に示したように、培養した菌体を回収後、Triton X-100を含まない遊離バッファー(Cycloheximide 20μgmL、1mMPhenylmethylsulfonyl fluoride、20mM Acetate buffer(pH5.0))を用いて菌体表層から酵素を遊離させた(30℃、160min-1、4days)。次に、この溶液を菌体ごとストッキングで濾して菌体を大まかに除き、更にろ液を遠心分離(4℃、10800rpm、30min)して上清を取得することで菌体を完全に除いた。これを粗酵素液とし、以下の精製に用いた。
【0068】
C.精製
各酵素は以下の要領で精製した。
粗酵素液を20mM Acetate buffer(pH5.0)で平衡化したDEAE-TOYOPEARL650Mに吸着させ、0〜0.3MNaCl溶液(in20mM Acetate buffer(pH5.0))1Lのリニアグラジェントで溶出した後、pNP-Glcに対する分解活性を示す画分を回収した。次に、回収した活性画分に硫酸アンモニウムを30%飽和となるように加え、予め30%飽和硫酸アンモニウム溶液(in20mM Acetate buffer(pH5.0))で平衡化したButyl-TOYOPEARL650Mに吸着させ、30〜0%飽和の硫酸アンモニウム溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))1Lのリバースリニアグラジェントで溶出した。活性画分を回収し硫酸アンモニウムを加えて80%飽和とし、硫安塩析を行った。遠心分離(4℃、10800rpm、30min)によって沈殿を回収後、少量の20mM Acetate buffer(pH5.0)に溶解した。これを、透析膜(三光純薬社製)を用いて20mM Acetate buffer(pH5.0)中で一晩透析し精製サンプルとした。一方、BGL1-CBDCBHI、BGL1-CBDCMC2、CBDCBHII-BGL1は等量の99.5%エタノールを加えることによりエタノール沈殿を行った。沈殿を遠心分離(4℃、8000rpm、30min)によって回収し、50%エタノール溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))で洗い、遠心分離(4℃、8000rpm、30min)によって再び沈殿を分離した。この洗浄を2回行った後、上清を完全に除き、デシケーターを用いて減圧乾燥し、沈殿を適量の20mM Acetate buffer(pH5.0)に溶解させ精製サンプルとした。
【0069】
D.活性測定
上記2.E.活性測定と同様に行った。
【0070】
E.SDS-PAGE
上記2.F.活性測定と同様に行った。
【0071】
F.タンパク質量の測定
タンパク質量は280nmの吸光度から、各酵素の吸光係数を用いて算出した。
各酵素の吸光係数はGillらの方法(Gill SC, Hippel PH : Calculation of protein extinction coefficients from amino acid sequence data. Anal Biochem 182 : 319-326, 1989)を参考に、Trpのモル吸光係数を5690cm-1・M-1、Tyrを1280cm-1・M-1、Cysを120cm-1・M-1とし、アミノ酸の一次配列から推定した。
【0072】
G.結果
A.oryzaeで生産させたBGL1及びCBD結合型BGL1をDEAE-TOYOPEARL650MやButyl-TOYOPEARL650M、またはPhenyl-TOYOPEARL650Sを用いて精製した(図7〜9)。各種精製酵素をSDS-PAGEに供したところ、BGL1は約130kDa、BGL1-CBDCBHIは約140kDa、CBDCBHII-BGL1は約145kDa、BGL1-CBDCMC2は約130kDaの位置にそれぞれ単一のバンドが見られ、電気泳動的に均一なタンパク質として精製されたことが確認された。その結果を図11及び表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
4.酵素の性質
次に、上記で精製された酵素を用いてBGL1へのCBD結合による影響を調べた。
A.アルカリ膨潤セルロース(ASC)の調製
ASCはHashの方法(Hash JH, King KW : On the nature of the b-glucosidases of Myrothecium verrucaria. J Biol Chem, 232 : 381-393, 1958)を用いてフナセル(フナコシ社製)から調製した。フナセル6gを氷冷した35%NaOH200mL中に攪拌しながら徐々に加えて浸漬させ、30min静置した。その後、氷冷した蒸留水3Lを投入し、HClを加えてpH3.0に調整した。pH調整後、4℃で30〜40min静置することでASCを沈殿させ、デカンテーションで上清を除き、予め4℃で冷やしておいた蒸留水3Lを加えた。これを5回繰り返した後、ASCを遠心分離(10800rpm、30min、4℃)によって分離し、沈殿を再び蒸留水に懸濁した。これを5回繰り返した後、再び蒸留水に懸濁し、ULTRASONIC DISRUPTOR UD-201(TOMY社製)を用いて超音波破砕を行った(output8、duty50、10min、インターバル10min、6セット)。蒸留水を加えて全量約400mLとし、ASCのストック液とした。還元糖量及び全糖量(Dubois M, Gilles K., Hamilton JK, Rebers PA, Smith F : A colorimetric method for the determination of sugars. Anal Chem 28 (3), 350-356, 1956)を測定し平均重合度を算出した。また、酵素反応の基質としては全糖量から求めたストック液の濃度を元に、1%(w/v)ASC懸濁液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))として使用した。
【0075】
B.基質特異性の検討
a)pNP-Glcに対する活性
pNP-Glcに対する活性は上記2.E.活性測定と同様に行った。
b)Salicinに対する活性
Somogyi-Nelson法(福井作蔵:生物化学実験法1、還元糖の定量法、第2版、1990)により行った。適度に希釈した酵素溶液100μLl1%Salicin(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))100μLを混合し、37℃で10分間反応させた。Somogyi液500μLを加えることで反応を停止させ、蒸留水を加えて全量を1mLとし、沸騰水中で15分間煮沸した。煮沸後、流水で5分間冷やし、速やかにNelson液500μLを加えてよく混合した。20分間静置させた後、イオン交換水3.5mLを加えてよく混ぜ、500nmの波長の吸光度を測定した。得られた値を、グルコースを用いて得られたスタンダードカーブに代入し、還元糖量を算出した。1unitは1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素量と定義した。
【0076】
C.Cellobioseに対する活性
Glucose-oxidase法で行った。適度に希釈した酵素液100μLに1%Cellobiose(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))100μLを混合し、37℃で10分間反応させた。1MHCl50μLを加えることで反応を停止させ、5分間静置した後、中和液(1MTris:2MNaOH=8:2)50μLを加えた。この溶液から100μLを取り、発色試薬(グルコースCII-テストワコー(和光純薬社製))100μLと混合して30℃で15分間発色させ、500nmの波長の吸光度を測定した。得られた値を、グルコースを用いて得られたスタンダードカーブに代入し、生成グルコース量を算出した。1unitは1分間に2μmolのグルコースを生成する酵素量と定義した。
【0077】
D.ICOS分解のタイムコース
1%(w/v)ICOS懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0)各100μLに、適度に希釈した酵素液100μLずつを分注することで反応を開始した。反応開始から30分後、2時間後、4時間後、8時間後、16時間後にそれぞれ1MHCl50μLを加えて反応を停止させ、上記C.Cellobioseに対する活性と同様Glucose-oxidase法で生成グルコース量を算出した。但し、ICOSは不溶性のため、中和液を添加後、反応液をエッペンにとり、遠心分離(15000rpm、4℃、10min)して得た上清100μLを発色試薬100μLと混合することで発色させた。1unitの定義は1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量と定義した。また、雑菌の繁殖を防ぐため、ICOSの分解反応液中にはアジ化ナトリウムを0.02%加えて反応を行った。
【0078】
E.ASC分解のタイムコース
ASCの分解は上記D.ICOS分解のタイムコースと同様の方法で行った。但し、基質量を1%ASC懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))300μLとし、反応時間を30分、8時間、24時間、48時間とした。なお、全ての酵素反応において、GBL1及びCBD結合型BGL1の安定化のため反応液中に10μgのオボアルブミンを加えている。
【0079】
F.ASCに対する吸着
既知濃度の各酵素サンプルを任意の割合で希釈し、エッペン中で1mgのASCと混合(in 100mM Acetate buffer(pH5.0)、Total volume0.6mL)して氷上で120分間吸着させた。但し、吸着開始から30分後、1時間後に反応液を軽く振り混ぜた。反応終了後、遠心分離(15000rpm、4℃、1min)してASCとそれに結合した酵素を沈殿させ、上清500μLを取得した。得られた上清の吸光度A280から上清中の酵素濃度を算出し、初発酵素濃度との差を求めることで吸着した酵素量を算出した。
【0080】
G.熱安定性
酵素200μL(0.264μM、in 100mM Acetate buffer(pH5.0))をエッペンに取り、30〜75℃の任意の温度に設定したウォーターバス中で30分間インキュベートした。インキュベート後、氷中で急冷し、pNG-Glcに対し残存活性を測定した。測定は上記2.E.活性測定と同様にして行った。
【0081】
H.pH安定性
pHの調整は下記表4に示した各種60mMのbufferを用いて酵素液を10倍希釈することで行った。pH調整を行った酵素液100μL(1.32μM)をエッペンに取り、25℃のエアインキュベーター中で15時間静置した。静置後、速やかに100mM Acetate buffer(pH5.0)を加えて10倍に希釈することでpH5.0に戻し、pNP-Glcに対しする残存活性を測定した。測定は上記2.E.活性測定と同様にして行った。
【0082】
【表4】
【0083】
I.使用した試薬等
酵素の性質を調べるために使用した試薬は以下のとおりである。
i)使用試薬
a)不溶性セロオリゴ糖(ICOS)
ICOSは阪本らの方法(阪本禮一郎、Aspergillus aculeatus No. F-50 のセルラーゼ系に関する研究、 大阪府立大学大学院 博士論文、1984)を用いて仲谷らによってCellulosepowderD(ADVANTEC社製)から調製されたものを使用した。平均重合度は(全糖量)/(還元糖量)比から26.7と求められている。
b)Somogyi-Nelson試薬
Somogyi液
Na2SO4 18%
Na2CO3 2.4%
CuSO4・5H2O 0.4%
NaHCO3 1.6%
(CH(OH)COO)2KNa・4H2O 1.2%
Nelson液
(NH4)6Mo7O24・4H2O 5.0%
Na2HAsO4・7H2O 0.6%
H2SO4 4.6%
【0084】
J.結果
精製酵素を用いてASCに対する吸着検定を行ったところ、BGL1ではASCへの吸着が見られなかったが、BGL1-CBDCBHI及びCBDCBHII-BGL1では吸着が確認された(図12)。両逆数プロット(Seki H, Suzuki A, Maruyama H : Adsorption of egg albumin onto methylated yeast biomass. Journal of Colloid and Interface Science 270 : 304-308, 2004)をとり吸着定数(Ka)及び最大吸着量(Bmax)を求めたところ、BGL1-CBDCBHIとCBDCBHII-BGL1のKaはそれぞれ6.0×106M-1、8.7×106M-1とCBDCBHII-BGL1の方が僅かに高く、Bmaxはそれぞれ0.78×10-8mol/mg-ASC、0.64×10-9mol/mg-ASCとBGL1-CBDCBHIの方が僅かに高いという結果となった(表5)。なお、BGL1-CBDCMC2についてはASCへの吸着が見られなかったため、その他の性質検討は行わないこととした(データは示さず)。
【0085】
【表5】
【0086】
BGL1、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1について可溶性基質(Cellobiose、pNP-Glc、Salicin)に対する分解活性を調べたところ、BGL1と各種CBD結合型BGL1の間に差は見られなかった(表6)。一方、不溶性基質(ASC、ICOS)の分解においてはBGL1とCBD結合型BGL1との間に有意な差が見られた。ASCに対し37℃で48時間は反応させた時点での生成グルコース量を測定したところ、BGL1では11.1μg、BGL1-CBDCBHIでは18.1μg、CBDCBHII-BGL1では14.7μgとなり、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1はBGL1に対しそれぞれ1.6倍、1.3倍のグルコース量を生成した(図13A)。また、ICOSに対する分解では37℃、16時間の反応でBGL1では24.3μgのグルコースを生成したのに対し、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1ではそれぞれ37.0μg、36.1μgとなりBGL1に対し共に1.5倍のグルコースを生成した(図13B)。
【0087】
【表6】
【0088】
各種精製酵素の熱やpHに対する安定性を調べた。等濃度の酵素液200μLを30〜75℃の任意の温度で30分間インキュベートし、急冷後、pNP-Glcに対する残存活性を測定したところ、野生型BGL1とCBD結合型BGL1の間に差は見られなかった(図14A)。野生型、CBD結合型は共に65℃までは80%以上の活性を保持していたが、67.0℃で約50%の活性を失い、70℃ではほぼ完全に失活した。また、pH2.3〜10.1の任意のpHに25℃で15時間さらした後、pNP-Glcに対する残存活性を測定したところ、野生型、CBD結合型は共にpH2.7〜9.1の範囲では80%以上の活性を維持していたが、その範囲外では、活性が急激に低下した(図14B、表5)。
【0089】
今回精製したBGL1のサイズはSDS-PAGEで確認したところ約130kDaであった。これは以前の報告(西槇徹、Aspergillus aculeatus 由来β-グルコシダーゼ1のA.oryzaeにおける高発現、 大阪府立大学大学院 修士論文、2003)でA.oryzaeBGL1株から精製されたBGL1のサイズが約130kDaであったことと、またオーセンティックなBGL1は133kDaであること一致した。よって、今回精製されたBGL1はA.aculeatusのbgl1遺伝子から生産されたものであると断定した。
【0090】
これに対し各種CBD結合型BGL1はLinker及びCBDを結合させた分、分子サイズが大きくなることが予想された。結果、BGL1-CBDCBHIとCBDCBHII-BGL1はBGL1より大きい、それぞれ約140kDa、145kDaとなり、正しくLinker及びCBDが結合した形で精製されたと推定された。また、これらの酵素について可溶性基質に対する比活性を求めたところ、測定に用いた全ての基質において差は見られず、CBD付加によりBGL1の触媒活性が妨げられることはないとわかった。一方、BGL1-CBDCMC2はpNP-Glcに対する比活性はBGL1と同等であるが、SDS-PAGEによってBGL1と同じ約130kDaの位置にバンドが見られたため、Linker及びCBDが結合していないことが疑われた。そのため、BGL1-CBDCMC2についてASCに対する吸着を調べたところ、BGL1-CBDCBHIなら十分に結合が確認できる濃度(A280=0.256)で吸着させたにも関わらず、吸着量を表すA280差((初発A280)−(非吸着画分のA280))は僅か0.025となり、他のCBD結合型BGL1の20%以下であった。また、本酵素は精製ステップの初期である粗酵素液の段階で、既にSDS-PAGEによって約130kDaの位置にバンドが示されいることから(データ示さず)、遺伝子が正しく発現されていない、もしくはCBDCMC2またはLinker領域がプロテアーゼの作用を受けやすく、培養もしくは遊離処理の間に切断されてしまったのではないかと考えられる。以上のことからBGL1-CBDCMC2はCBDを結合した状態では精製されていないと判断し、以下の検討は行わないことにした。
【0091】
BGL1及びBGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1についてASCに対する吸着検定を行ったところBGL1では全く吸着がみられなかったのに対し、両CBD結合型BGL1はASCに吸着した。これにより、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1がCBDを結合した形で精製されていることが確認された。吸着定数や吸着最大量についてはそれぞれKa=6.0×106M-1、8.7×106M-1、Bmax=0.78×10-9mol/mg-ASC、0.64×10-9mol/mg-ASCとなった。T.reeseiのCBHI及びCBHIIのKa、Bmaxを参照すると、吸着温度4℃下でCBHI、CBHIIのAvicelに対するKaはそれぞれ0.93×106M-1、1.92×106M-1、Bmaxは0.74×10-9mol/mg、0.52×10-9mol/mgであった(Medve J, St_hlberg J, Tjerneld F : Isotherms for adsorption of cellobiohydrolase I and II from Trichoderma reesei on microcrystalline cellulose. Applied Biochemistry and Biotechnology 66:39-56,1997)。また、同CBHIのBMCCへの吸着のKaは8.33×106M-1、Bmaxは6.0×10-9mol/mgである(Reinikainen T, Teleman O, Teeri TT : Effects of pH and high ionic strength on the adsorption and activity of native and mutated cellobiohydrolase I from Trichoderma reesei. 22 : 392-403, 1995)。これらの値と比較すると、BGL1-CBDCBHI及びCBDCBHII-BGL1はT.reeseiのCBHIのAvicelへの吸着と同程度の親和性、最大吸着量を示しており、CBDが遜色なく機能していると考えられた。
【0092】
不溶性基質への分解に関しては、各CBD結合型BGL1の親和性の違いにより、CBD結合型BGL1の間でも差が見られると予想された。しかし、実際は同じ酵素量、同じ反応時間で測定した時、ICOSに対しBGL1-CBDCBHI及びCBDCBHII-BGL1は共にBGL1の1.5倍のグルコースを生成しているが、ASCに対してはBGL1-CBDCBHIとCBDCBHII-BGL1の間でも差がみられた。これはASCへの吸着検定においてKaがBGL1-CBDCBHIの方が大きいことから、よりASCを分解するだろうという予想に反するものであった。これについて考察すると、CBD結合型BGL1が不溶性基質のBGL1単独では分解できない部分を分解するには、まず不溶性基質への吸着が起こり、その後触媒ドメインが基質と結合し分解するという段階的な反応が起こっていると予想される(Igarashi K, Wada M, Hori R, Samejima M : Surface density of cellobiohydrolase on crystalline celluloses. A critical parameter to evaluate enzymatic kinetics at a solid-liquid interface. FEBS J 273 : 2869-2878, 2006)。そのため、基質への吸着から触媒ドメインの基質結合への移行がスムーズに行われるか否かも不溶性基質の分解速度に関わってくると考えられる。本研究においてはN末端もしくはC末端へのCBD付加という違いにより立体構造的にCBDと触媒部位との空間的位置関係が異なることが予想される。また、両者はLinkerの長さも異なる(CBDCBHII-BGL1の方が14アミノ酸残基長い)。これらの違いから、BGL1-CBDCBHIの方が吸着から分解への移行がスムーズに行われ、ASCに対しより高い活性を示したのではないかと思われる。一方で、ICOSの方は、ASC(DP=165)に対し平均重合度が低く(DP=26.7)、BGL1にとってASCより分解しやすい基質であるため差が見られないと考えら得る。
【0093】
K.ASCの分解試験
CBD結合の効果をより厳密に評価するため、さらに以下の試験を行った。なお、ここにおいては、上記と同様の手順にして作製及び精製されたCBDCBHII-BGL1-CBDCBHI(図10)についても評価を行った。
1%ASC懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))各300μlに、6.60μMBGL1の溶液100μlずつを分注し、37℃で16時間反応させた。続けて、6.60μMのBGL1溶液100μl、もしくは段階的に希釈した各種CBDが結合されたCBD結合型BGL1(0.0985−4.8μM)100μlを加えて37℃でさらに24時間反応させ、1MHCl125μlを加えて反応を停止させた。以下、Glucose-oxidase法で生成グルコース量を測定した。反応停止後、中和液(1MTris:2MNaOH=8:2混合液)125μlを加え、反応液全量をエッペンに取り13500rpm、4℃、10min遠心分離した上清を取得し、そのうちの100μlを96穴プレート中で発色試薬(グルコースCII テストワコー)100μlと混合し、30℃で15分間反応させ、波長500nmにおける吸光度を測定した。得られた値を、グルコースを用いて得られたスタンダードカーブに代入し、生成グルコース量を算出した。blankは前反応(BGL1だけを使用)16時間の時点で1MHCl100μlを加えて反応を停止させ、上記と同様の方法で生成グルコース量を算出した。但し、中和液の添加は100μlとした。各サンプル(16時間+24時間)の生成グルコース量から、blankの生成グルコース量(16時間)を差し引き、新たに酵素を添加した時点から新規に生成されたグルコース量を求めた。新たに添加した酵素量に対して新規生成グルコース量をプロットし、BGL1を添加したサンプルの新規生成グルコース量(6.97μg)を挟む直近の2点間の一次式からBGL1と等量のグルコースを生成するのに必要なCBD結合型BGL1量をそれぞれ算出した。なお、加水分解反応において、BGL1及びCBD結合型BGL1の安定化のため反応液中に10μgのオボアルブミンを加えた。また、雑菌の繁殖を防ぐため、ASCの分解反応液中に0.02%のアジ化ナトリウムを加えて反応を行った。この結果を図15及び表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
BGL1及びBGL1-CBDCBHI、BGL1-CBDCBHIについて可溶性基質(Cellobiose, pNP-Glc, Salicin)に対する分解活性を調べたところ、上記表6に示されたようにBGL1と各種CBD結合型BGL1の間に差は見られなかった。一方、不溶性基質(ASC, ICOS)の分解においてはBGL1とCBD結合型BGL1との間に有意な差が見られた。また、前反応として、BGL1を用いてASCを37℃で16時間分解したところへ、BGL1若しくは各種CBD結合型BGL1を加え、さらに37℃で24時間反応させ、新たに生成したグルコース量を測定した。その結果、BGL1を加えたものは新たに6.97μgのグルコースを生成し、これと等量のグルコースを生成するために必要な酵素量を算出した結果、それぞれBGL1-CBDCBHIは0.0299nmol、BGL1-CBDCBHIは0.0437nmol、CBDCBHII-BGL1-CBDCBHIは0.0504nmolとなり、BGL1(0.662nmol)と比べるとそれぞれ22.2倍、15.0倍、13.1倍となった。
【0096】
このように、A.aculeatus由来のBGL1のC末端側にCBHI由来のLinker及びCBDを、もしくはN末端側にCBHII由来のCBD及びLinkerを付加することによりBGL1本来の性質を残したまま、不溶性セルロースへの親和性を高め、飛躍的に分解活性を向上させることができた。
【実施例2】
【0097】
〔セルラーゼ(2)の作製〕
次に、A.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1にリンカー領域を介してA.aculeatus由来のセロビオハイドラーゼI又はIIのセルロース結合ドメインを結合したセルラーゼを作製した。
【0098】
A.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1として、既に塩基配列が決定されているA.aculeatusのF-50株由来のカルボキシメチルセルラーゼ1を用いた。セルロース結合ドメインには、既に塩基配列が決定されているF-50株由来のセロビオハイドラーゼIのCBD又は同セロビオハイドラーゼIIのCBDを用いた。
【0099】
CBDを結合したセルラーゼとして、カルボキシメチルセルラーゼ1のC末端側にCBHIのCBDを結合したセルラーゼ(CMC1-CBDCBHI)、βカルボキシメチルセルラーゼ1のC末端側にCBHIIのCBDを結合したセルラーゼ(CMC1-CBDCBHI)の2つのセルラーゼを作製した。これらのセルラーゼは、大腸菌及びA.oryzaeの別々の宿主で発現させた。
【0100】
1.発現プラスミドの構築
大腸菌用にはcmc1のcDNAからシグナル配列と終止コドンを除いた666bpをA.oryzae用にはcmc1ゲノム遺伝子の開始コドンから終止コドン直前までの895bp(配列番号5)をPCRによって増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供することで正しい長さの断片が増幅されたことを確認した(図18)。また、PCR産物cmc1g及びcmc1cを実施例1の1.発現プラスミドの項で構築したpBs-CBDcbhI、pBs-CBDCMC2の各cbdの5´側に挿入することでCMC1のC末端側にCBHIもしくはCMC2由来のLinker及びCBDが結合するよう遺伝子を構築した。これを発現ベクターpET20b (+)もしくはpNAN8142に組み込むことで、大腸菌用発現プラスミドpET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2及び糸状菌用発現プラスミドpNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2を得た。また、インサートを発現ベクターに挿入する際に用いたNot I、Nde Iや、EcoR I、Hinc IIなどを用いて目的遺伝子が正しく挿入されていることを確認した(データ示さず)。
【0101】
A.PCR法を用いたDNA断片の増幅
実施例1の1.発現プラスミドの構築における方法と同様の条件で行った。また、各PCR産物をそれぞれcmc1g、cmc1cと命名した。Template、primer対の組合せを表8に示した。
【0102】
【表8】
【0103】
B.発現プラスミドの構築
CBD結合型CMC1は、大腸菌、A.oryzaeの二通りの宿主で発現させるために、以下の要領でそれぞれの発現プラスミドを構築した。
a)大腸菌用発現プラスミドの構築
上記のPCR法によって得られたPCR産物cmc1cをXho IとNsi Iで消化し、Sal IとNsi Iで消化したpBs-CBDcbhI及びpBs-CBDcmc2に挿入した。これをcmc1cの5´末端側に付加したNde Iサイトと、各CBDの3´末端側に付加したBgl IIサイトで切断して目的遺伝子を切り出し、pET20b(+)のマルチクローニングサイト内にあるNde IサイトとBamH Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2とし、E.coli JM109(DE3)の形質転換に用いた(図16)。
b)糸状菌用高発現プラスミドの構築
上記のPCR法によって得られたPCR産物cmc1gをXho IとNsi Iで消化し、Sal IとNsi Iで消化したpBs-CBDcbhI及びpBs-CBDcmc2に挿入した。これをcmc1gの5´末端側に付加したNot Iサイトと、各CBDの3´末端側に付加したNde Iサイトで切断して目的遺伝子を切り出し、糸状菌用高発現ベクターpNAN8142のマルチクローニングサイト内にあるNot IサイトとNde Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2としA.oryzaeの形質転換に用いた(図17)。
【0104】
C.その他遺伝子工学的操作
実施例1の1.発現プラスミドの構築と同様に行った。
【0105】
D.使用試薬等
発現プラスミドの構築に使用した菌株、プラスミド、培地、プライマーなどは以下のとおりである。
a)使用菌株
実施例1の1.発現プラスミドの構築に用いたものと同じである。
b)使用プラスミド
pNAN8142
pET20b(+)
pCMG14 pUC18、cmc1(genome)
pCMC31 pUC13、cmc1(cDNA)
及び実施例1で構築したpBs-CBDcbhI、pBs-CBDcmc2
c)使用培地
実施例1の1.発現プラスミドの構築で用いたものと同じである。
d)使用試薬
i)制限酵素、修飾酵素
制限酵素および修飾酵素は、ニッポンジーン社製、東洋紡社製、タカラバイオ社製、あるいは NEW ENGLAND BIOLABS (NEB) 社製のものを使用し、それぞれの処理は各社のプロトコルに従った。
制限酵素:BamH I、Bgl II、Nde I、Not I、Nsi I、Sal I、Xho I
修飾酵素:T4 DNA ligase、PrimeSTAR HS DNA polymelase
ii)プライマー
目的遺伝子の増幅には表9に示すプライマーを使用した。
iii)その他の試薬
その他は特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0106】
【表9】
【0107】
2.酵素発現
2−1.Escherichia coliにおける酵素発現
A.E. coli JM 109(DE3)株の形質転換
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様の方法で行った。但し、プラスミド溶液はpET20b (+)、pET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2を使用した。また、これにより得られた株をそれぞれE. coli pET株、E. coli CMC1c-CBDCBHI株、E. coli CMC1c-CBDCMC2株と命名し、以下の実験に用いた。
【0108】
B.その他遺伝子工学的操作
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様の方法で行った。
【0109】
C.培養
LBplate上で生育した大腸菌のシングルコロニーを2×TY培地(Ampicillinを含む) 1.7mLに爪楊枝を用いて接種し、30℃、130min-1で15時間種培養を行った。培養液を、新しい2×TY培地(Ampicillinを含む)1.7mL/本×6本にそれぞれ17μLずつ植菌し、3本は37℃で、残り3本は30℃でさらに6時間培養を続けた。6時間後、各温度3本ずつある培養液に0.1M Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)をそれぞれ0μL(無添加)、1.7μL、17μL加え、同じ温度でさらに6時間培養を続けた。
【0110】
D.菌体抽出液の調製
上記の、菌株、培養温度、IPTG濃度の違う計18種類の培養液をそれぞれエッペンに移し、遠心分離(4℃、10000rpm、1min)して上清を除き、菌体を回収した。そこへ20mM Acetate buffer (pH5.0)1mLを加えて菌体を懸濁し、氷水中でよく冷却しながらHandy Sonic UR-20P(TOMY SEIKO社製)を用いて超音波破砕を行った(30sec、Power7、4セット)。破砕後、遠心分離(4℃、15000rpm、10min)して得られた上清を可溶性画分として取得した。沈殿は20mM Acetate buffer (pH5.0)1mLに懸濁し不溶性画分とした。
【0111】
E.SDS-PAGEによる発現確認
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様に行った。ただし、分離ゲルの濃度は15%のものを使用した。
【0112】
F.使用試薬等
形質転換のために使用した菌株、培地などは以下のとおりである。
a)使用菌株
Escherichia coli JM109(DE3)
endA1、 recA1、 gyrA96、 thi、 hsdR17 (rk- mk+)、 relA1、 supE44、
Δ(lac-proAB)、[F'、traD36、proAB、lacIqZΔM15]、λ(DE3)
b)使用プラスミド
pET20b (+)、pET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2
c)使用培地
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換で使用したものと同じである。
d)使用試薬
特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0113】
G.結果
上記で構築したpET-CMC1c-CBDcbhI、pET-CMC1c-CBDcmc2及びインサートの入っていないベクターpET20b (+) を用いてE. coli JM109(DE3)を形質転換した。取得した各菌株が目的遺伝子を持つことは、培養した形質転換体からプラスミド抽出を行い、制限酵素処理及びアガロースゲル電気泳動により確認した(データは示さず)。目的タンパク質の生産を確認するため、それぞれの形質転換体を培養温度とIPTG濃度を変えて培養し、菌体破砕液の可溶性画分と不溶性画分をそれぞれSDS-PAGEに供した(図19及び図20)。タンパク質CMC1-CBDCBHI及びCMC1-CBDCMC2のアミノ酸は配列から推定される平均分子量はそれぞれ32100、35200であったが、CMC1-CBDCBHIにおいてはどの培養条件においても目的タンパク質の生産は見られなかった。一方、CMC1-CBDCMC2においては各温度及びIPTG濃度全ての培養条件において目的タンパク質と思われるバンド(約35kDa)が確認されたが、いずれも可溶性画分には全く見られず、不溶性画分にのみ存在が確認された。これは、糸状菌由来の酵素のLinker領域には通常、O−結合型糖鎖が多く付加されるが(Reinikainen T, Teleman O, Teeri TT : Effects of pH and high ionic strength on the adsorption and activity of native and mutated cellobiohydrolase I from Trichoderma reesei. 22 : 392-403, 1995)、大腸菌では糖鎖付加が行われないため、タンパク質の相対的な疎水性が高まり凝集したと考えられる。図21には、大腸菌及びA.oryzaeによる生産物を分析した結果を示す。
【0114】
2−2Aspergillus oryzaeにおける発現
A.A.oryzaeの形質転換
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様に行った。また、取得した菌株をそれぞれ以下のように命名した。
プラスミド 菌株名
pNAN-cmc1g-CBDcbhI A.oryzae CMC1-CBDCBHI
pNAN-cmc1g-CBDCMC2 A.oryzae CMC1-CBDCMC2
【0115】
B.培養
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様に行った。但し、培養は6日間行い、培養3日目に20% Glucose溶液1mLを添加した。
【0116】
C.活性測定
基質は0.625% Carboxymethyl cellulose(CMC)溶液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))を用いた。基質400μLに酵素液100μLを加えて混合し、37℃で10分間反応させた。以下、実施例1の4.B.b)Salicinに対する活性の項で示した通り生成還元糖量をSomogyi-Nelson法により測定した。ただし、OD500の測定はイオン交換水3.5mLを加えて混合した後、遠心分離(4℃、2000rpm、10min)して不溶性成分を分離した上清について行った。
【0117】
D.SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
実施例1の2.E.SDS-PAGEと同様に行った。但し、分離ゲルの濃度は15%のものを使用した。
【0118】
E.使用試薬等
酵素発現のために使用した菌株、培地などは以下のとおりである。
a)使用菌株及びプラスミド
菌株: A.oryzae niaD300 ΔniaD
プラスミド pNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2
b)使用培地
実施例1の2.A.oryzaeにおける酵素発現で用いたものと同じである。
c)使用試薬
実施例1の2.A.oryzaeにおける酵素発現で用いたものと同じである。
d)その他の試薬
その他の試薬は特に示さない限り、和光純薬工業社製およびナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0119】
F.結果
上記で構築したpNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2を用いてA.oryzaeを形質転換した。モノスポア化を2〜3回繰り返し、最終的に得られた株はA.oryzae CMC1-CBDCBHIが5株、A.oryzae CMC1-CBDCMC2が7株であった。目的タンパク質の生産を確認するため、得られた各菌株を複数株ずつ培養し、培養上清を用いてCMCに対する活性測定及びSDS-PAGEを行ったところ、A.oryzae CMC1-CBDCBHI株のうちの1株が他の株に比べ培養液当たり約4倍の活性(6日目で20.8unit/mL)を示し、約45kDaの位置に酵素活性に比例した強度のバンドが検出された(図21)。よって、この株をA.oryzae CMC1-CBDCBHI株を代表し以下の実験に用いることとした。一方、A.oryzae CMC1-CBDCMC2株においては、いずれも培養液当たりの活性が低く(6日目で2.82unit/mL)、SDS-PAGEにおいてCMC1-CBDCMC2と思われるタンパク質の生産も確認できなかったため(データは示さず。)、今回は大量生産が確認されたCMC1-CBDCBHIのみを精製し、以下の性質の検討に用いることとした。
【0120】
4.酵素の精製
A.粗酵素液の調製
実施例1の3.A.酵素の精製と同様の方法で種培養を3日間行った後、本培養を4日間行った。但し、本培養の3日目に栄養源の枯渇によるプロテアーゼの生産を抑えるため20% Glucose/5%NaNO3溶液を培地の1/4量加えた。培養後、培養液を菌体ごとストッキングで濾して菌体を大まかに除き、ろ液を遠心分離(4℃、10800rpm、30min)して上清を取得することで菌体を完全に除いた。これを粗酵素液とし、以下の精製に用いた。
【0121】
B.精製
CMC1-CBDCBHIの精製は以下の要領で行った。
粗酵素液に硫酸アンモニウムを加えて30%飽和とし、予め30%飽和硫酸アンモニウム溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))で平衡化したButyl-TOYOPEARL 650 Mに吸着させ、30〜0%飽和の硫酸アンモニウム溶液1Lのリバースリニアグラジェントで溶出した。CMCに対し活性を有する画分を回収し、回収した活性画分に硫酸アンモニウム80%飽和として硫安塩析を行った。遠心分離(4℃、10800rpm、30min)により沈殿を回収後、少量の20mMGlycine-HCl buffer(pH3.5)に溶解し、予め20mM Glycine-HCl buffer(pH3.5)で平衡化したBio-Gel P-2に通して脱塩した。脱塩後、活性画分を回収し、予め20mM Glycine-HCl buffer(pH3.5)で平衡化したSP-TOYOPEARL 650Mに吸着させ、0〜0.3MNaCl 1Lのリニアグラジェントによって溶出した。活性画分を回収後、再び硫酸アンモニウム80%飽和として硫安塩析を行い、遠心分離(4℃、10800rpm、30min)により沈殿を回収後、少量の20mMAcetate buffer(pH5.0)に溶解し、Viva Spin 20を用いて脱塩した。このようにして得られた溶液を精製サンプルとした。
【0122】
C.活性測定
実施例1の2.E.活性測定と同様に行った。
【0123】
D.SDS-PAGE
【0124】
実施例1の2.F.SDS-PAGEと同様に行った。但し、分離ゲルの濃度は12.5%のものを用いた。
【0125】
E.タンパク質量の測定
実施例1の3.F.タンパク質量と同様に行った。
【0126】
F.使用試薬等
酵素の精製に使用した菌株などは次のとおりである。
a)使用菌株
A.oryzae CMC1-CBDCBHI、A.oryzae 8142
b)使用培地
実施例2の2.酵素発現に用いたものと同様である。
c)使用試薬
特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0127】
5.酵素の性質
A.基質特異性の検討
酵素反応後の生成還元糖量を上記実施例2の5.A.基質特異性の検討と同様Somogyi-Nelson法によって測定した。1unitは、1分間当たりに1μmolの還元糖を生成する酵素量と定義した。
a)CMCに対する活性
実施例2の2−2、C.活性測定の項と同様の方法で行った。
b)ASCに対する活性
0.5%ASC懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0)100μLに酵素液100μLを加え、37℃で1時間反応させた。
c)ICOSに対する活性
0.5%ICOS懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))100μLに酵素液100μLを加え、37℃で4時間反応させた。
d)Avicelに対する活性
1%Avicel懸濁液200μLに、それぞれΔOD500値が同じ値を示すように希釈した酵素液500μLを加え、37℃で24時間反応させた。
【0128】
B.不溶性基質に対する吸着
a)ASCに対する吸着
実施例2の5.A.基質特異性の検討と同様の方法で行った。
b)Avicelに対する吸着
ASCに対する吸着と同様に行った。ただし、吸着に用いるAvicel量は10mgとした。
【0129】
C.熱安定性試験
実施例2の5.A.基質特異性の検討と同様の方法で行った。但し、酵素液は0.685μMのものを200μL使用し、残存活性はCMCに対する活性を実施例2の2−2、C.活性測定の項と同様の方法で行った。
【0130】
D.pH安定性
pHの調整は実施例1の5.H.pH安定性の項に示したbufferに加え、下記表10に示したbufferを用いて酵素液を10倍希釈することで行った。pH調整を行った酵素液200μL(1.37μM)をエッペンに取り、25℃のエアインキュベーター中で4時間静置した。静置後、pH2.3〜9.6までのものには100mM Acetate buffer(pH5.0)を加えて10倍に希釈することでpH5.0に戻した。一方、pH10.1以上のものについては200 mM Acetate buffer(pH5.0)を加えて7倍に希釈することでpH5.0に戻し、それぞれCMCに対する残存活性を上記実施例2の5.と同様の方法で測定した。
【0131】
【表10】
【0132】
E.使用試薬等
酵素の性質に使用した菌株などは次のとおりである。
a)使用酵素
CMC1、CMC1-CBDCBHI
CMC1は、A.aculeatusのcmc1をpNAN8142ベクターを用いてA.oryzaeで発現させたものであり、小林ら(小林恵理子 : Aspergillus aculeatus No. F-50株由来セルラーゼ成分の再構成系による相乗効果の検証, 大阪府立大学 学士論文, 2005)によって精製されたものである。
b)その他の試薬
実施例1の4.酵素の性質で用いたものと同じである。
【0133】
F.結果
A.oryzaeで生産させたCMC1-CBDCBHIをButyl-TOYOPEARL 650M及びSP-TOYOPEARL 650Mを用いて精製した(図23、表11)。精製したCMC-CBDCBHIをSDS-PAGEに供したところ、約45kDaの位置に単一のバンドが観察され、電気泳動的に均一なタンパク質として精製されたことが確認された(図24)。このサイズはアミノ酸配列から推定される平均分子量32100よりかなり大きいが、これはLinker領域への糖鎖付加によるものと考えられる(Srisodsuk M, Reinikainen T, Penttila M, Teeri TT : Role of the interdomain linker peptide of Trichoderma reesei cellobiohydrolase I in its interaction with crystalline cellulose. Journal of Biological Chemistry 268 : 20756-20761, 1993)。よって、これを精製CMC1-CBDCBHIとし、既に精製されているCMC1(小林恵理子 : Aspergillus aculeatus No. F-50株由来セルラーゼ成分の再構成系による相乗効果の検証, 大阪府立大学 学士論文, 2005)を用い、以下の性質検討を行うこととした。
【0134】
【表11】
【0135】
不溶性セルロースに対する吸着を調べるため、ASCとAvicelに対して吸着検定を行った。その結果、野生型のCMC1はASCに対し、僅かな吸着しか見られなかったが、CMC1-CBDCBHIではCMC1と比べ明らかに吸着量が増加した。また、Avicelに対する吸着では、CMC1はほとんど吸着が見られなかったが、CMC1-CBDCBHIではどちらの高い吸着活性を示した(図25)。両逆数プロットをとって、吸着定数Ka及び吸着最大量Bmaxを算出したところ、ASCに対するKa及びBmaxはそれぞれ、CMC1では0.77×106M-1、0.32×10-9mol/mg-ASCとなったのに対し、CMC1-CBDCBHIでは27×106M-1、0.97×10-9mol/mg-ASCとなり、親和性が約35倍に、最大吸着量が約3倍に高まった。さらに、Avicelに対する吸着においてはCMC1ではほとんど吸着が見られなかったのに対し、CMC1-CBDCBHIではKaが1.2×106M-1、Bmaxが0.13×10-9mol/mg-Avicelとなった。これらの結果より、CBD付加により不溶性基質への親和性が向上したことが確認された(表12)。
【0136】
次に、両酵素の基質特異性を調べた。可溶性基質であるCMCに対する両酵素の比活性には、ほとんど差がみられなかった。一方、不溶性基質であるICOS、ASC、Avicelに対する活性はCMC1とCMC1-CBDCBHIの間に有意な差が見られた。ASCを基質として37℃で1時間反応させ、酵素活性を算出したところ、CMC1及びCMC1-CBDCBHIの活性はそれぞれ5.79unit/μmol、6.65unit/μmolとなり、CMC1-CBDCBHIはCMC1の1.2倍となった。また、ICOSに対し37℃で4時間反応させ、酵素活性を算出したところCMC1及びCMC1-CBDCBHIの活性はそれぞれ1.54unit/μmol、2.78unit/μmolとなり1.8倍の活性となった。さらに、結晶セルロースであるAvicelに対して、等濃度の還元糖量を生成するようCMC1及びCMC1-CBDCBHIの酵素濃度を調整し、37℃で24時間反応させたところ、CMC1では0.00597unit/μmolとなったのに対し、CMC1-CBDCBHIでは0.0263nit/μmolとなり、4.4倍の活性が得られた(表13)。これら不溶性基質に対する分解活性の向上は、CBDが付加されたことによる不溶性基質への親和性の増加によって、触媒ドメインが基質に作用できる領域が増加したことに起因すると考えられた。
【0137】
精製されたCMC1-CBDCBHI及びCMC1について酵素の安定性について調べたところ、CMC1に比べCMC1-CBDCBHIの熱安定性が僅かに低下していた(図26A)。等モル濃度に調製した両酵素を30〜67.5の任意の温度で30分間インキュベートし、急冷後、CMCに対する活性を測定した。その結果、野生型CMC1は62.5℃まで80%以上の活性を保持していたのに対し、CMC1-CBDCBHIは同温度での残存活性は32%となった。この熱安定性の低下は触媒ドメインのC末端へのCBD付加により、耐熱性酵素によく見られるN末端とC末端の結合やルーズエンド構造の固定(Voutilainen SP, Boer H, Alapuranen M, Janis J, Vehmaanpera J, Koivula A : Improving the thermostability and activity of Melanocarpus albomyces cellobiohydrolase Cel7B. Appl Microbiol Biotechnol 83 : 261-272, 2009)のような活性部位を安定化するような構造に変化をもたらし、熱安定性が低下したものと考えられる。一方、pH安定性については両酵素の間に差は見られなかった。任意のpHで25℃、4時間インキュベートし、pH5.0に戻してCMCに対する残存活性を測定したところ、両者は共にpH2〜9.5の間で安定であり、pH10以上で不安定化した(図26B、表12)。
【0138】
【表12】
【0139】
【表13】
【0140】
以上の結果より、CMC1にCBHI由来のLinker及びCBDを付加することにより不溶性基質への親和性の向上、および分解活性の向上が達成され、CMC1の高機能化が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によると、セルロース結合ドメインを有し、セルラーゼ活性の高い新規なセルラーゼが提供される。このセルラーゼを用いることによって従来よりもさらに効率的なバイオマスの糖化を行うことができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は新規セルラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスから生産する燃料は環境への負荷が小さく、資源として豊富であり、地球上に植物が存在する限り消費しても再生可能な資源であるため、化石燃料に代わる有力な燃料として注目を集めている。特に植物由来のバイオマスに著量存在するセルロースからエタノール(バイオエタノール)を生産する方法は、その資源量が多いことやバイオマス資源として世界的に利用可能なこと、エタノールに変換する過程で生成する糖や副産物を用いて石油製品に代わるポリマーを合成できるなどの利点がある。
【0003】
植物由来のバイオマスからエタノールを生産する場合には、植物が持つセルロースを強酸やセルラーゼを用いて糖化し、その後酵母などによりアルコール発酵を行わせるのが一般的である。
【0004】
セルラーゼはセルロースを加水分解する酵素の総称で、セルラーゼはその性質により大きく3種類に分類される。1つ目は結晶セルロースに作用し、セルロース鎖の末端から二糖単位で分解するセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase:CBH)、2つ目は結晶セルロースを分解できないが、非結晶セルロース鎖をランダムに切断するエンドグルカナーゼ(endo-glucanase:EG)、そして3つ目が可溶化したセロビオース並びにセロオリゴ糖に作用し、グルコースを生成するβ−グルコシダーゼ(β−glucosidase:BGL)である。これらの酵素によるセルロース分解において、それぞれ単独の酵素による反応では非常に遅い反応となるが、これらの酵素が複合して作用する場合には、それぞれの酵素が協奏的に作用し、効率的な分解を行うことが知られている(非特許文献1)。
【0005】
ところで、セルロースはグルコースがβ−1、4結合で連なった直鎖状ポリマーであり、分子同士が互いに水素結合によって結合し強固な結晶構造をとっているため、セルラーゼによるセルロースの分解(糖化)は非常に遅い。また、結晶構造にもIαとIβという2相構造があることや、完全な結晶ではない非結晶領域(アモルファス)も含まれていることが知られており、これらに対するセルラーゼの反応性も異なる。さらに、セルロースは水溶性が低く、グルコースの重合度が6〜7程度のセルロースはほとんど水に溶けなくなるという性質もセルラーゼによる分解が困難な要因の一つとなっている。
【0006】
糸状菌Trichoderma. reeseiはセルロースを分解する酵素として古くから研究され、それが生産するセルラーゼは最強のセルラーゼと言われている。このセルラーゼは結晶性セルロースの分解には優れるものの、単糖を生成する力は弱く、糖化液中にはセロオリゴ糖(β−グルカンオリゴ糖)が多く残ってしまう。また、植物性バイオマスに含まれるような天然のセルロースはセルロース単独で存在することは少なく、ヘミセルロースやリグニンなどを伴うためセルロースを分解するにはまずこれらを除く必要がある。しかし、T.reeseiのセルラーゼはヘミセルラーゼ活性が弱いため、天然セルロースを効率的に分解することができない。
【0007】
T.reeseiのセルラーゼのこうした弱点を補い、かつT.reeseiのセルラーゼと強い相乗作用を示すセルラーゼ酵素群を生産する微生物として、A.aculeatus No.F-50株が知られている(非特許文献1)。この菌の生産するセルラーゼ酵素群は非常に強い単糖生成力を有することに加え、ヘミセルラーゼ活性も強く、セルロースだけでなくヘミセルロースを含めた植物性バイオマスの糖化に非常に有効である。A.aculeatusは基本的な上記3種類(3分類)のセルラーゼ(CBH、EG、BGL)を含む9種類のセルラーゼを生産する。A.aculeatusは3種類のBGLを持つが、いずれも糖転移反応を起こさず単糖のみを生成するというセルロース分解にとっては、非常に優れた特長を持つ(非特許文献2)。中でもBGL1は、セロビオースだけでなくセロペンタオースやセロヘキサオースなど比較的長鎖のセロオリゴ糖に対しても強い分解活性を有し、単糖のみを生成するためセルロースの糖化に重要な役割を果たす。BGL3はBGL1に比べセロビオースやセロトリオ―スのようなセロオリゴ糖基質に対する活性は低いものの、BGL1同様、糖転移反応を起こさず単糖のみを生成する。BGL2については、現段階では、BGL1と同一の遺伝子から発現するものであるが糖鎖修飾の違いにより別の酵素として取得されたものである、と考えられている。
【0008】
一方、EGの一種であるcarboxymethylcellulase1(CMC1)はA.aculeatusのセルラーゼの中でも発現量が多くセルロースの糖化に重要な役割を果たしていると考えられるが、セルロース結合ドメイン(CBD)を持たないため結晶セルロースに作用することができない。逆に、CMC2は、発現量は少ないがC末端側にセルロース結合ドメインを持ち、結晶セルロースに作用できるため、結晶セルロース中に部分的に含まれる非結晶部分を分解するのに重要な役割を果たしていると考えられる。
【0009】
Exo-glucanaseであるCBHについては、A.aculeatusは2種類のCBH(CBHI、CBHII)に加えてさらに1種類のハイドロセルラーゼ(HCase)を有する。HCaseはAvicelをほとんど分解しないものの、アルカリ膨潤セルロース(ASC)やリン酸膨潤セルロース(PSC)のような非結晶セルロースに対し高い活性を示す。CBHI及びCBHIIはいずれもCBDを持ち結晶セルロースを末端からセロビオース単位で分解するが、CBHIはセルロース鎖の還元末端側から分解するのに対し、CBHIIは非還元末端側から分解する。
【0010】
このように、セルラーゼ酵素群によるセルロースの分解においては、最強のセルラーゼ生産菌と言われているT.reeseiよりも有利であるとされるA.aculeatus No.F-50株においてさえ、単糖のみを生成しセルロースの加水分解にその重要な役割を果たすBGL1や発現量の多いCMC1はそれぞれセルロースに対する結合性が劣る。一方、セルロースに対する結合性が優れるCBHIやCBHIIはセロビオース単位でセルロースを加水分解するので、単糖まで分解されず、アルコール発酵に必要とされる単糖(グルコース)の生成効率が悪いという状況にある。
【0011】
かかる状況下、近年では、セルラーゼ酵素群中の各セルラーゼの最適な混合比を決定する、分子生物学的手法を用いて各セルラーゼの生産量を高める、各セルラーゼ自体の分解能や安定性を高める、異種セルラーゼタンパク質同士を融合させるなど、セルラーゼの機能を改善することについて様々な研究が行われている。この方法の一つとして、例えば、セルロース結合ドメイン(CBD)を利用してセルラーゼの特性、すなわちセルラーゼが不溶性セルロースへ吸着するように改良、改変することが、開示されている。例えば、特開2009−142260号公報(特許文献1)や特開2008−193990号公報(特許文献2)、特表2007−530054号公報(特許文献3)、特表2004−536593号公報(特許文献4)、特表2003−522517号公表(特許文献5)、特表2001−504352号公報(特許文献6)などに開示されている。
【0012】
CBDは、セルロース加水分解ドメイン(触媒ドメイン)とつながった一つのタンパク質として生産され、セルロースの加水分解に重要な役割を果たす。CBDはそれ自身分解活性を持たないが、単独でセルロースに結合する能力を有する。CBDの機能として、不溶性の基質に吸着することで、基質周辺におけるCBDに付随する触媒ドメインの濃度を上昇させてセルロースの分解速度を向上させたり、CBDの結合によってセルロース鎖間の水素結合を切り離して結晶構造を崩したりすることが知られている(非特許文献3、4)。また、結晶性セルロースを分解するセロビオヒドロラーゼ(CBH)からCBDを除くと可溶性基質に対する反応性は変わらないにも係わらず、結晶セルロースに対する分解活性や親和性が極端に低下することから、CBDは酵素が結晶セルロースに作用するために必要なドメインであると考えられている(非特許文献5)。逆に、本来CBDを持たないEGの一種にCBDを付加することで結晶セルロースへの親和性や分解能が上昇するという報告もある(非特許文献6)。
【0013】
しかしながら、これまでに数多くのCBDが見つかっており、現在ではそのアミノ酸配列の相同性によりCarbohydrate-binding module(CBM)familiyとして17種類のFamilyに分類されていることに鑑みると(非特許文献7)、CBDとセルラーゼの組み合わせが数多く考えられ、あるCBDを付加することによって、特定のセルラーゼ活性が向上することが必ずしも期待できるものでもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−142260号公報
【特許文献2】特開2008−193990号公報
【特許文献3】特表2007−530054号公報
【特許文献4】特表2004−536593号公報
【特許文献5】特表2003−522517号公表
【特許文献6】特表2001−504352号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Murao S. Kanamoto J. Arai M. Isolation and identification of a cellulolytic enzyme producing microorganisms. J. Ferment Techol.,57, 151, 1979
【非特許文献2】阪本禮一郎 Aspergillus aculeatus No. F-50 のセルラーゼ系に関する研究, 大阪府立大学大学院 博士論文, 1984
【非特許文献3】Bolam DN, Ciruela A, McQueen-Mason S, Simpson P, Williamson MP, Rixon JE, Boraston A, Hazlewood GP, Gilbert HJ Pseudomonas cellulose-binding domains mediate their effects by increasing enzyme substrate proximity. Biochem J 331 (Pt3) 775-781, 1998
【非特許文献4】DIN N, DAMUDE HG, GILKES NR, MILLER RC, WARREN RAJ, KILBURN DG : C1-Cx, revisited: Intramolecular synergism in a cellulose. Proc. Nati. Acad. Sci. USA Vol. 91, pp. 11383-11387, 1994
【非特許文献5】Riedel K, Ritter F, Bauer S, Bronnenmeier K : The modular cellulase CelZ of the thermophilic bacterium Clostridium stercorarium contains a thermostabilizing domain. FEMS Microbiology Letters, 164 261-267, 1998
【非特許文献6】Mahadevan SA, Wi SG, Lee DS, Bae HJ : Site-directed mutagenesis and CBM engineering of Cel5A (Thermotoga maritima). FEMS Microbiol Lett 287 : 205-211, 2008
【非特許文献7】http://www.cazy.org/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、植物由来のバイオマス資源の効率的な糖化を目指し、セルロースの分解性をさらに向上させた新規なセルラーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のセルラーゼは、Aspergillus aculeatus(A.aculeatus)由来のβ−グルコシダーゼ1(BGL1)の触媒ドメインを含む領域又はA.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1(CMC1)の触媒ドメインを含む領域と、当該領域にリンカーを介するかあるいはリンカーを介さずに付加されたA.aculeatus由来のセルロース結合ドメイン(CBD)を有するセルラーゼである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、CBDが付加された、不溶性セロオリゴ糖に対する分解活性の高いβ−グルコシダーゼ、及びCMCに対する分解活性の高いカルボキシメチルセルラーゼが提供される。この何れか又はその両方を使用することによって、植物由来のバイオマス資源の中心であるセルロースを、糖転移反応を起こすことなく、また、発酵プロセスで微生物により資化されないセロオリゴ糖などの分解産物を生じることなく、単糖であるグルコースにまで分解できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】BGL1にCBDが結合したタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだベクターの構築方法を示す図の一部である。
【図2】図1の続図である。
【図3】糸状菌用高発現ベクターpNAN8142の遺伝子構造を示す図である。Aはその制限酵素地図、Bは改変されたプロモーターの構造を示す。
【図4】PCR増幅産物の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はcbhl-LC、レーン2はcmc2-LC、レーン3はbgl1、レーン4はcbhII-CL、レーンMはλDNA Pst I digestである。
【図5】A、Bはそれぞれ細胞から遊離された粗タンパク質(酵素)の酵素活性を示す図である。
【図6】生産された粗タンパク質(酵素)の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はBGL1-CBDCBHI、レーン2はBGL1-CBDCMC2、レーン3はpNAN8142vector、レーン4はBGL1、レーン5はCBDCBHI-BGL1、レーン6はBGL1、レーン7は精製されたBGL1、レーンMは分子量マーカーである。
【図7】BGL1粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図8】BGL1-CBDCBHI粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図9】CBDCBHII-BGL1粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図10】CBDCBHII-BGL1-CBDCBHI粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図11】生産された精製タンパク質(酵素)の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1、3はCBDCBHII-BGL1、レーン2、4、7はBGL1-CBDCBHI、レーン5、6はBGL1、レーン8はBGL1-CBDCMC2である。
【図12】生産された精製タンパク質(酵素)のASCへの吸着を示すグラフである。
【図13】生産された精製タンパク質(酵素)の基質分解活性を示すグラフである。AはASCの分解を、BはICOSの分解を示す。
【図14】生産された精製タンパク質(酵素)の安定性を示すグラフである。Aは熱安定性を、BはpH安定性を示す。
【図15】生産された精製タンパク質(酵素)のASC分解活性を示すグラフである。
【図16】CMC1にCBDが結合したタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ大腸菌発現用ベクターの構築方法を示す図である。
【図17】CMC1にCBDが結合したタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだA.oryzae発現用ベクターの構築方法を示す図である。
【図18】PCR増幅産物の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はcmc1g、レーン2はcmc1c、レーン3はλDNA Pst I digestである。
【図19】大腸菌により生産されたタンパク質(酵素)の電気泳動(IPTG 0mM)による結果を示す画像である。Sは可溶性画分、Iは不溶性画分、Mは分子量マーカーである。
【図20】大腸菌により生産されたタンパク質(酵素)の電気泳動(IPTG 1mM)による結果を示す画像である。Sは可溶性画分、Iは不溶性画分、Mは分子量マーカーである。
【図21】A.oryzaeによる生産物の電気泳動の結果を示す画像である。レーン1はCMC1-CBDCBHI、レーン2はA.oryzae8142である。
【図22】大腸菌及びA.oryzaeによる生産物を分析した結果であって、Aはその酵素活性について示す図、Bはその電気泳動による結果を示す画像である。No.1−5はCMC-CBDCBHIを、No.6−9はCMC1-CBDCMC2、No10はpNAN8142vector、Mは分子量マーカーである。
【図23】CMC1-BCDCBHI粗タンパク質(酵素)の精製の際におけるカラムクロマトグラムであって、AはDEAE-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラム、BはButyl-TOYOPEARL650Mを用いたクロマトグラムである。
【図24】CMC1精製タンパク質(酵素)及びCMC1-BCDCBHI精製タンパク質(酵素)の電気泳動による結果を示す画像である。レーン1はCMC1-BCDCBHI、レーン2はCMC1、レーンMは分子量マーカーである。
【図25】CMC1精製タンパク及びCMC1-BCDCBHI精製タンパク質(酵素)の基質への吸着を示すグラフである。AはASCの吸着を、BはICOSの吸着を示す。
【図26】CMC1精製タンパク及びCMC1-BCDCBHI精製タンパク(酵素)の分解活性を示すグラフである。AはASCの分解を、BはICOSの分解を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のセルラーゼは、(1)Aspergillus aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1(BGL1)の触媒ドメインを含む領域と当該領域に間接又は直接に付加されたAspergillus aculeatus由来のセルロース結合ドメイン(以下、「CBD」という場合がある。)を有するセルラーゼ、又は(2)Aspergillus aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインを含む領域と当該領域に間接又は直接に付加されたAspergillus aculeatus 由来のCBDを有するセルラーゼである。本発明において、触媒ドメインとはいわゆる酵素としての活性ないし機能(酵素活性やセルロースに対する結合能)を発揮する最小限度のポリペプチドを意味する。また、CBDとは、それ自身分解活性を持たないが、単独でセルロースに結合する能力を有する最小限度のポリペプチドを意味する。従って、本発明においては、CBDに付随するリンカーに相当するポリペプチドはCBDには含まれない。
【0021】
本発明のセルラーゼはA.aculeatusが生産するセルラーゼのうち、CBDを有さないセルラーゼに対してCBDセルロース結合ドメインを付加し、結晶性セルロースないし不溶性セロオリゴ糖に対する分解性を向上させたセルラーゼである。A.aculeatusは3種類のβ−グルコシダーゼ(以下「BGL」と言う場合がある。)を生産するが、いずれも糖転移反応を起こさず単糖のみを生成するという非常に優れた特長を持つ。その中でもβ−グルコシダーゼ1(BGL1)は、セロビオースだけでなくセロペンタオースやセロヘキサオースなど比較的長鎖のオリゴ糖に対しても高い活性を持ち、単糖のみを生成する。本発明のセルラーゼ(1)は、このA.aculeatus由来のBGL1の特徴を利用したものであり、糖転移反応がなく、比較的長鎖のオリゴ糖に対しても高い活性を有するBGLを提供する。
【0022】
また、A.aculeatusは3種類のエンド−グルカナーゼであるカルボキシメチルセルラーゼ(以下「CMC」という場合がある。)を生産するが、その中でもカルボキシメチルセルラーゼ1(CMC1)は、A.aculeatusが生産するセルラーゼの中でも発現量が多くセルロースの糖化に重要な役割を果たしていると考えられる。本発明のセルラーゼ(2)はこの発現量の多いセルラーゼに着目したものであり、結晶セルロースに対する分解性を向上させたCMCである。
【0023】
A.aculeatusの菌株は適宜選択されるが、本発明においては、A.aculeatus No.F-50株が最も望ましく用いられる。この菌株は、他の菌株に比べ、非常に強い単糖生成力を有することに加え、ヘミセルラーゼ活性が強い酵素群を産生するので、セルロースだけでなくヘミセルロースも含有する植物性バイオマスの糖化に非常に有効であると考えられるからである。
【0024】
A.aculeatusが生産するBGL1及びCMC1は、それぞれセルロース結合ドメイン(以下「CBD」という場合がある。)を持たない。本発明のセルラーゼは、これらのBGL1及びCMC1に対してCBDを付加したものである。本発明において用いられるCBDの由来は問われないが、CBDとして、A.aculeatusが生産するエキソ−グルカナーゼであるハイドロセルラーゼ(以下「CBH」という場合がある。)が有するCBDが好ましく用いられる。A.aculeatusは2種類のCBHを生産し、その両者(CBHI、CBHII)はいずれもCBDを有し結晶セルロースを末端からセロビオース単位で分解するが、CBHIはセルロース鎖の還元末端側から分解するのに対し、CBHIIは非還元末端側から分解する。しかしながら、セルロースの酵素分解においては、BGL、CMC、CBHの3種類の酵素からなる複合系ではそれぞれの酵素が協奏的作用することが望まれるので、A.aculeatusが有する高いセルラーゼ活性に着目すると、A.aculeatusが有する唯一のCBDであるCBHのCBDが望ましいと言える。このCBHのCBDである限り、還元末端側から分解するCBHIのCBD及び非還元末端側から分解するCBHIIのCBDのいずれでも差し支えない。また、かかる観点から、本発明においては、CBDの由来であるA.aculeatusの菌株としても、A.aculeatus No.F-50株が最も望ましく用いられる。
【0025】
本発明において用いられるBGL1、CMC1のアミノ酸配列及びこれらのアミノ酸配列をコードする塩基配列は既に明らかにされている(BGL1:Kawaguchi T, et al., Gene. 1996 )ep 16;173(2):287-8.、CMC1:Ooi T, et al., Nucleic Acids Res., 18(19), 5884, 1990)。また、CBHIやCBHIIのCBDのアミノ酸配列及びこれらのアミノ酸配列をコードする塩基配列も既に明らかにされている(Takada G, Kawaguchi T, Sumitani J, Arai M, Cloning, nucleotide sequence, and transcriptional analysis of Aspergillus aculeatus No. F-50 cellobiohydrolase I (cbhI) gene. J Ferment Bioeng 85:1-9, 1998 31、内藤篤史, Aspergillus aculeatus由来cbhII型セルラーゼ遺伝子のクローニングと高発現. 大阪府立大学 学士論文, 2009)。本発明のセルラーゼにおいては、これらのポリペプチドが有する全てのアミノ酸配列を必ずしも備える必要はなく、いわゆる活性ないし機能(酵素活性やセルロースに対する結合能)を発揮するドメインを備えていればよい。また、当該活性ないし機能を発揮する限り、アミノ酸の一部が欠失、付加、置換、修飾されていても差し支えない。また、塩基配列においても、当該活性ないし機能を発揮する限り、塩基配列の全てを具備する必要はなく、80%の相同性、好ましくは85%、さらに好ましくは95%以上の相同性を有していればよい。
【0026】
本発明のセルラーゼ(1)は、A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメインを含む領域と当該領域に間接又は直接に付加されたA.aculeatus由来のCBDを有するBGLである。また、本発明のセルラーゼ(2)は、A.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1のドメイン領域と当該領域に間接又は直接に付加されたA.aculeatus由来のセルロース結合ドメインを有するCMCである。ここにおいて、間接とは、BGL1やCMC1の触媒ドメインを含む領域とCBDとの間にリンカーを有することを意味する。リンカーは1〜100程度のアミノ酸から構成される。リンカーはセルラーゼ活性等の酵素活性や機能を有しない部分であって、結合された触媒ドメインとCBDの間に生じる立体障害を防止する機能を有する。リンカーのアミノ酸配列は限定されるものではないが、ドメイン同士の立体的配置の自由度を増すようなアミノ酸配列が好ましく用いられる。自然界で見いだされるCBDにはリンカーが付随している。このようなリンカー、例えばCBHIやCBHIIのCBDに付随しているリンカー(ペプチド)がそのまま利用される。また、CBDに付随したリンカー(ペプチド)に、リンカーとして機能するペプチドが結合したペプチドもリンカーとして利用できる。直接とは、BGL1やCMC1の触媒ドメインを含む領域とCBDとの間にリンカーを介しないことを意味する。また、CBDの結合位置は、BGL1やCMC1のC末端側、N末端側のいずれの位置でもよく、また、それらのC末端側、N末端側双方の位置に付加されてもよい。
【0027】
本発明のセルラーゼは公知である種々の遺伝子工学的手法を用いて生産される。すなわち、セルラーゼ(1)の生産においては、少なくともBGL1の触媒ドメインをコードする塩基配列と少なくとも付加するCBDのドメイン領域をコードする塩基配列を含むようにして、必要であればリンカーをコードする塩基配列を介在させて両者を結合し、目的とするセルラーゼをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを作製する。また、セルラーゼ(2)の生産においては、少なくともCMC1の触媒ドメインをコードする塩基配列と少なくとも付加するCBDのドメインをコードする塩基配列を含むようにして、必要であればリンカーをコードする塩基配列を介在させて両者を結合し、目的とするセルラーゼをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを作製する。
【0028】
得られたポリヌクレオチドは、常法によって、プロモーター、ターミネーターなどが付加された発現ベクターに組み入れられる。そして、当該ベクターは宿主細胞に導入されて、セルラーゼ遺伝子が発現してセルラーゼの生産が行われる。この際、大腸菌などの原核細胞を宿主細胞とする場合には、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いればよい。また、Aspergillus属糸状菌などのように真核細胞を宿主細胞とする場合には前記ポリヌクレオチドにイントロン領域を挿入してもよい。宿主細胞が真核細胞である場合、イントロンがスプライシングされたメッセンジャーRNAができ、タンパク質の発現が行われやすいからである。このイントロンはコンセンサス配列を有し、イントロンとして機能する配列であればよく、具体的な配列は適宜決定される。さらに、必要に応じて宿主細胞において生産された酵素を細胞外に分泌するためのシグナル配列が付加される。当該シグナル配列も特定の塩基配列である必要はなく、その機能を発揮する限りにおいて任意的な配列であればよい。例えば、A.aculeatus由来のBGL1が備えているシグナル配列が用いられる。
【0029】
配列番号1〜4に示された塩基配列は、本発明のセルラーゼを生産させるためのポリヌクレオチドの塩基配列の一例である。配列番号1〜4に示されたポリヌクレオチドはそれぞれ配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12に示されたアミノ酸配列を有するセルラーゼ(ポリペプチド)をコードし、A.aculeatus属糸状菌のような真核細胞を宿主細胞に用いて生産させるために用いられるポリヌクレオチドである。配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11に示されるポリヌクレオチドはシグナル配列を含まない。配列番号1に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドは、A.aculeatus由来BGL1のC末端側に制限酵素Nsi Iの認識部位とA.aculeatus由来のCBHIに付随するリンカー(ペプチド)を含むリンカーを介してA.aculeatus由来CBHIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。配列番号2に示された塩基配列は、A.aculeatus由来BGL1のN末端側にA.aculeatus由来のCBHIIに付属するリンカー(ポプチド)を介してA.aculeatus由来CBHIIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。配列番号3に示された塩基配列は、A.aculeatus由来BGL1のN末端側にA.aculeatus由来のCBHIIに付属するリンカー(ペプチド)を介してA.aculeatus由来CBHIIに付随したCBDが結合し、そのC末端側に制限酵素Nsi Iの認識部位とA.aculeatus由来のCBHIに付随するリンカー(ペプチド)を含むリンカーを介してA.aculeatus由来CBHIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。配列番号4に示された塩基配列は、A.aculeatus由来CMCIのN末端側に、制限酵素Nsi Iの認識部位とA.aculeatus由来のCBHIに付随するリンカー(ペプチド)を含むリンカーを介してA.aculeatus由来CBHIのCBDが結合したセルラーゼをコードする。これら配列番号1から配列番号4までで示したポリヌクレオチドは、いずれもイントロンを含んでいる。
【0030】
本発明において用いるベクターや宿主細胞も限定されるものではないが、宿主細胞としては、原核細胞としては大腸菌や枯草菌などの細菌、また真核細胞としては酵母ないしAspergillus属やTrichoderma属の糸状菌、例えばA.aculeatus又はA.oryzaeが例示される。本発明においては、Aspergillus属の糸状菌が好ましい。Aspergillus属の糸状菌は、BGL1、CMC1及びCBHが由来するA.aculeatusと同属であり、本発明のセルラーゼが発現しやすいからである。また、A.aculeatusは本発明のセルラーゼだけでなく、セルロースの糖化に必要な他のセルラーゼ酵素群も同時に生産できるので宿主としてより好ましい。ベクターとしては公知の細菌用、糸状菌用、酵母用のものを用いることができる。公知のベクターとして大腸菌用としてpBR322、pKK233−2、糸状菌用としてはpAUR316、酵母用としてYip5、Yrp19などが例示される。
【0031】
また、形質転換の方法としても、粒子又は遺伝子銃、アルカリなどを利用した細胞壁の透過、プロトプラスト法、エレクトポレーションなどの公知の方法を用いることができる。
【0032】
宿主細胞において生産された酵素は、常法により菌体あるいは培養液から抽出される。また、細胞外に酵素が分泌される場合には、菌体あるいは培養液を直接植物系バイオマスの糖化に用いることができる。
【0033】
本発明の植物系バイオマスを糖化する方法は、上記で得られたセルラーゼ(1)及び/又はセルラーゼ(2)を用いて植物系バイオマスを糖化する方法である。また、本発明におけるセルラーゼ(1)をコードする塩基配列及び/又は本発明にセルラーゼ(2)をコードする塩基配列を有するベクターを形質転換した形質転換体を用いて植物系バイオマスを糖化することもできる。例えば、配列番号1〜4に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドでAspergillus属糸状菌、特にA.aculeatusを形質転換した場合には、形質転換された糸状菌を用いて糖化できる。
【0034】
植物系バイオマスは、草や木材、農業廃棄物、紙や食料廃棄物などいわゆるゴミのようなバイオマスが例示され、セルロースを含むものであれば特に限定されるものではない。バイオマスの糖化は公知の方法によればよく、バイオマスの粉砕、酸やアルカリを用いた前処理、高温高圧による前処理など各種前処理を経て、上記セルラーゼや形質転換体を用いてグルコースに糖化される。
【0035】
本発明のセルラーゼ(1)や(2)は、結晶セルロースに対するセルロース結合ドメインを有するので、より緩やかな条件、例えば低い温度における前処理などの場合でも十分に糖化を行える。また、バイオマスによっては前処理を行わずして糖化処理することも可能となる。特に本発明のセルラーゼ(1)は、糖転移反応が少なく、単糖まで十分に分解できる能力を備えているので、糖化処理後に行われるアルコール発酵工程には非常に有利である。
【0036】
次に、下記実施例に基づいて本発明について詳細に説明する。なお、下記実施例はあくまでも例示であって、本発明は下記の実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0037】
〔セルラーゼ(1)の作製〕
まず、A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1にリンカーを介してA.aculeatus由来のセロビオハイドラーゼI(CBHI)又はII(CBHII)のCBDを結合したセルラーゼを作製した。
【0038】
A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1として、既に塩基配列が決定されているA.aculeatusのF-50株由来のβ−グルコシダーゼ1を用いた。セルロース結合ドメインには、既に塩基配列が決定されているF-50株由来のCBHIのCBD及び/又は同CBHIIのCBD並びにCMC2のCBDを用いた。
【0039】
CBDを結合したセルラーゼとして、β−グルコシダーゼ1のC末端側にCBHIのCBDを結合したセルラーゼ(BGL1-CBDCBHI)、β−グルコシダーゼ1のN末端側にCBHIIのCBDを結合したセルラーゼ(CBDCBHII-BGL1)、β−グルコシダーゼ1のC末端側にCBHIのCBDを、N末端側にCBHIIのCBDを結合したセルラーゼ(CBDCBHII-BGL1-CBDCBHI)の3つのセルラーゼ(1)を作製した。セルラーゼ(BGL1-CBDCBHI)のアミノ酸配列は配列番号6に、セルラーゼ(CBDCBHII-BGL1)のアミノ酸配列は配列番号8に、セルラーゼ(CBDCBHII-BGL1-CBDCBHI)のアミノ酸配列は配列番号10に示される。また、CMCのN末側にCMC2のCBDを結合したセルラーゼ(BGL1-CBDCMC2)も併せて作製した。
【0040】
1.発現プラスミドの構築
BGL1にCBDを付加するため、PCRによって増幅したA.aculeatusのbgl1遺伝子と、cbhI、cbhII、cmc2からlinker領域とCBDをコードするDNA配列のそれぞれのうちいずれかをクローニングベクターpBluescript II KS (+)上で結合させ、BGL1のN末端側にCBHII由来のCBDとLinkerが、BGL1のC末端側にCBHIもしくはCMC2由来のLinkerとCBDが結合するようそれぞれの遺伝子を構築した(図1及び図2)。
【0041】
次に構築された遺伝子はそれぞれ、糸状菌用高発現ベクターpNAN8142(図3参照:大関(株)による)のプロモーター下流領域にbgl1遺伝子断片を挿入し、宿主であるAspergillus oryzae niaD300株の染色体上にniaD部位で相同組替えを行った。
【0042】
A.コンピテントセルの調製
Inoueらの方法(Inoue H、Nojima H、Okayama H:High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Gene 96:23-28, 1990)に従った。大腸菌(E.coli DH5αF´株)をLB培地plate(Ampicillin含まず)にストリークした後、37℃で一晩培養した。2L三角フラスコ中の250mLSOB培地に数コロニーを植菌し、OD660=0.4〜0.6になるまで18℃で振盪培養した。三角フラスコを氷上で10分間冷却した後、遠心分離(3000rpm、10min、4℃)を行った。上清をデカンテーションで除いた後、沈澱した大腸菌をもとの培地に対して1/3量(約84mL)の0℃に冷却したTransformation buffer(TB)(10mMPIPES、15mMCaCl2、15mMKCl、55mMMnCl2)に懸濁し氷上で10分間冷却した後、再び遠心分離(3000rpm、10min、4℃)を行い、上清を除いた。沈澱した大腸菌を20mLの0℃に冷却したTBに懸濁した後、終濃度7.5%になるようDMSO(Dimethyl Sulfoxide)を添加し氷上で10分間冷却した。その後エッペンチューブに200μLずつ分注し、液体窒素中で凍結させ、−80℃で保存した。
【0043】
B.大腸菌への形質転換
Cohenらの方法(Cohen SN、Chang AC、Hsu L:Nonchromosomal antibiotic resistance in bacteria : genetic transformation of Escherichia coli by R-factor DNA. Proc Natl AcadSci USA 69:2110-2114,1972)に従って行った。上記で調整されたコンピテントセルを氷上で溶解し、同じく氷上に静置した適量のプラスミド溶液もしくはライゲーション反応液を添加し、氷上で約30分間静置した。その後、42℃で45秒間のヒートショック後、氷上で約2分間静置した。1000μLの2×TY培地を加え、45分間、37℃で振盪培養した後、100μg/mLのAmpicillinを含むLB培地plateにスプレッドし、37℃で一晩培養した。
【0044】
C.プラスミドDNAの調製
Alkalinelysis法(Sambrook J.、Russell DW:Molecular Cloning :a laboratory manual. 1.31-1.34, 2001)に従った。LBplate上で生育したシングルコロニーを2×TY培地(Ampicillinを含む)1.7mLに爪楊枝を用いて接種し、37℃にて一晩振盪培養を行った。培養液をエッペンチューブに入れ、遠心分離(10000rpm、1min)により菌体を回収した。培養上清を取り除いた後、SolutionI(50mMGlucose、10mMEDTA、25mMTris-HCl(pH8.0))を100μL添加し菌体を懸濁した。そこにSolutionII(02NNaOH、1.0%SDS)を200μL添加し穏やかに撹拌した。5分間静置した後、SolutionIII(3MPotassium acetate(pH4.8))を150μL添加し、撹拌後、氷上で10分間静置した。遠心分離(15000rpm、10min)して上清を回収し、フェノール/クロロホルム抽出し、常温で遠心分離(15000rpm、5min)を行った。上清を別エッペンに分取し、2.5倍量のEtOH(ice cold)を加え、氷上で10分間放置した。4℃にて遠心分離(15000rpm、5min)を行い、上清を取り除いた後、70%EtOH(ice cold)にて洗浄後、再び4℃にて遠心分離(15000rpm、5min)を行い、上清を取り除いた後、真空乾燥させた。沈殿を約100μLのTEbuffer(10mMTris-HCl、1mMEDTA、pH8.0)に溶解し、10mg/mLRNase A2μLを添加し37℃で30分間放置し、これをプラスミド溶液とした。
【0045】
D.アガロースゲル電気泳動
制限酵素等で消化したDNA断片等を分析するためにアガロース電気泳動に供した。Agarose-LE Classic TypeをTAEbuffer(0.04Tris、0.02MAcetic acid、1mMEDTA、pH8.0)に0.7〜1.5%(w/v)となるように加熱融解し臭化エジジウムを0.5μg/mLになるように加えアガロースゲルとした。このゲルをTAEbufferで満たされたMupidミニゲル電気泳動装置(Advance社製)に置き、DNA溶液に対して1/10量の10×Loading Buffer(0.1%Bromophenol blue(BPB)、10%Glycerol、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、TEで容量を調節する)を加えアガロースゲルに負荷した。50Vもしくは100Vの定電圧下で泳動後、トランスイルミネーター(VILVERLOURMAT社製)上でDNAを観察した。
【0046】
E.制限酵素処理および修飾酵素処理
制限酵素処理および修飾酵素処理は基本的に添付のプロトコルに従って行った。必要時にフェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を行った。
【0047】
F.アガロースゲルからのDNA断片の回収
Wangらの方法に従った(Wang Z., Rossman TG : Isolation of DNA fragments from agarose gel by centrifugation. Nucleic Acids Research, Vol. 22, No. 14, 2862-2863,1994)。制限酵素処理もしくはPCRによって得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動に供し、目的の断片を含むゲルを切り出しそこから以下のステップで回収を行った。
【0048】
エッペンチューブの底に穴を開け、その穴を4mm径の濾紙(FILTER PAPER GA-100,ADVANTEC社製)で塞ぎ、SephadexG-10(TEbufferに膨潤させたもの)を300μL重層し、別のエッペンチューブにのせ遠心分離(15000rpm、1min)を行い、TEbufferを取り除いた。上部のエッペンチューブに切り出したアガロースゲルを入れ、新しいエッペンチューブにのせ遠心分離(15000rpm、10min、4℃)し、下部のエッペンに残ったDNA溶液に対してフェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出を行った後、エタノール沈澱(2.5倍量EtOH、1/10倍量3MSodium acetate(pH5.2)を添加)を行った。氷上で10分間静置した後遠心分離(15000rpm、10min、4℃)を行った。沈澱を70%EtOHで洗浄した後、真空乾燥を行い、適量のTEbufferに溶解しこれをDNA溶液とした。
【0049】
G.ライゲーション反応
プラスミドを制限酵素処理した後、電気泳動後アガロースゲルから回収を行い、プラスミドベクターとした。ライゲーション反応条件としてはDNA断片とベクターのモル比を3:1とし、そこに10×ligation bufferを全量の1/10量を加えて撹拌後、T4 DNA ligase(500unit/μL)を1μL添加し、16℃で3時間反応させた。
【0050】
H.PCR法を用いたDNA断片の増幅
PCR法にはPrime STARHS DNA polymerase(タカラバイオ社製)および各添付bufferを用いた。反応装置はTaKaRa Thermal cycler(タカラバイオ社製)を用いた。反応溶液の調製及び反応条件は以下に示した条件を基本とし、Template、primer対の組合せを表1に示した。但し、cbhIIかCBDとLinkerをコードするDNA配列を増幅する時のみ、伸長時間を30秒とした。また、各PCR産物をそれぞれbgl1、cbhI-LC、cmc2-LC、cbhIICL-1と命名した。
【0051】
(PCRreaction mixture)
Template(0.5ng/μL) 2
Fprimer(5μM) 2
Rprimer(5μM) 2
dNTP Mixture(2.5mMeach) 4
5×Prime STAR buffer 10
Prime STARHS DNA polymerase(0.625U/μL) 2
Distilled water 28
Total 50(μL)
(PCRcondition)
Denature 98℃ 0min 10sec
Anneal 55℃ 0min 5sec 30cycle
Extend 72℃ 3min 0sec
72℃ 10min 0sec 1cycle
【0052】
【表1】
【0053】
I.発現プラスミドの構築
上記のPCR法によって得られたPCR産物cbhI-LC、cmc2-LCをEcoR IとBamH Iで消化し、pBluescript II KS (+)(pBs)のマルチクローニングサイト内にあるEcoR IサイトとBamH Iサイトに挿入した(pBs-CBDcbhI、pBs-CBDcmc2)。さらに、PCR産物bgl1をNsi IとXho Iで消化し、pBs-CBDcbhI及びpBs-CBDcmc2のCBDの5´末端側に付加したNsi Iサイトと、さらにその上流にあるpBsのマルチクローニングサイト内のSal Iサイトに挿入した。これをbgl1の5´末端側に付加したNot Iサイトと、各CBDの3´末端側に付加したNde Iサイトで切断して目的遺伝子を切り出し、糸状菌用高発現ベクターpNAN8142のマルチクローニングサイト内にあるNot IサイトとNde Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpNAN-bgl1-CBDcbhI及びpNAN-bgl1-CBDcmc2とした。一方、BGL1のN末端側にCBDを付加させるため、PCR産物cbhII-CL1の5´末端側をXho Iで消化したものを、pH3Kのbgl1遺伝子の翻訳開始点より64bp上流にあるXho Iサイトと翻訳開始点から54bp下流にあるEco47 IIIサイトに挿入した。これにより、bgl1のシグナル配列(57bp)を除き、かつリンカーと触媒ドメインの間に1アミノ酸残基(アラニン)のみの挿入でBGL1のN末端側にCBDを付加させた。これをCBDの5´末端側に付加したXho Iサイトと、bgl1の終止コドンより319bp下流に存在するSph Iサイトで切り出し、pNAN8142のマルチクローニングサイト内にあるXho IサイトとSph Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpNAN-CBDcbhII-bgl1とし、それぞれ構築された計3種類のプラスミドをA.oryzaeの形質転換に用いた。
【0054】
BGL1のN末端及び/又はC末端にCBDを結合させるため、bgl1の開始コドンから終止コドンを除く2937bp(図1参照)と、cbhIの1384bp目から終止コドンまでの240bp(図1参照)、cmc2の1140bp目から終止コドンまでの327bp(図1参照)、及びcbhIIの開始コドンから377bp目(図1参照)までをPCRによって増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供することで正しい長さの断片が増幅されたことを確認した(図4)。また、これらを組み合わせて構築した発現プラスミドpNAN-bgl1-CBDcbhI、pNAN-bgl1-CBDcmc2、pNAN-CBDcbhII-bgl1は目的遺伝子を発現ベクターに挿入する際に用いたNot IとNde Iや、Pst I、Sal Iなどを用いて目的遺伝子が正しく挿入されていることを確認した(データを示さず)。
【0055】
J.使用試薬等
発現プラスミドの構築に使用した菌株、プラスミド、培地、プライマーなどは以下のとおりである。
a)使用菌株
Escherichia coli DH5αF´ F' / endA1 hsdR17(rK-mK+)supE44、thi-1、
recA1, gyrA (Nalr)、 relA1、
Δ(lacZYA-argF)U169 (m80lacZΔM15)
b)使用プラスミド
pNAN8142
pBluescript II KS (+)
pH3K
pUC118、bgl1
pNANBGL1 pNAN8142、bgl1
pGA1 pSL1180/1190、cbhI
pNANcbhII pNAN8142、cbhII
pGC2 pUC118/119、cmc2 genome
c)使用培地
大腸菌の培養には以下の培地を使用した。平板培地には1.5%濃度の寒天を加えた。必要に応じて、終濃度が100μg/mLとなるようにAmpicillinを添加した。
i)LB培地(pH7.0)
Polypepton 1.0%
Bacto-yeast extract(Difco社製) 0.5%
NaCl 0.5%
ii)2×TY培地(pH7.0)
Bacto-tryptone(Difco社製) 1.6%
Bacto-yeast extract(Difco社製) 1.0%
NaCl 0.5%
iii)SOB培地(pH7.0)
Bacto-tryptone(Difco社製) 2.0%
Bacto-yeast extract(Difco社製) 0.5%
NaCl 10mM
KCl 2.5mM
MgCl2 5mM
MgSO4 5mM
d)使用試薬
i)制限酵素、修飾酵素
制限酵素および修飾酵素は、ニッポンジーン社製、東洋紡社製、タカラバイオ社製、あるいはNEW ENGLAND BIOLABS(NEB)社製のものを使用し、それぞれの処理は各社のプロトコルに従った。
制限酵素:BamHI、Eco47III、EcoRI、NdeI、NotI、NsiI、SalI、XhoI
修飾酵素:T4 DNA ligase、Prime STARHS DNA polymelase
ii)プライマー
目的遺伝子の増幅には表2に示すプライマーを使用した。
iii)その他の試薬
その他は特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0056】
【表2】
【0057】
2.A.oryzaeにおける酵素発現
上記で構築した発現プラスミドをA.oryzaeに形質転換して、酵素を発現させた。
A.プロトプラスト調製
MM(NH4+)プレートに生育したA.oryzae niaD300株にTween80/Saline solution(0.01%Tween80、0.9%NaCl)12mLを加え、スプレッダーを用いて胞子を集めよく懸濁した。これを500mL容バッフル付き三角フラスコ中のMM(NH4+)150mLに5mL加え、30℃、160min-1で16〜20h振盪した。培養終了後、菌体をミラクロス上で集菌しProtoplasting Buffer(PB、0.8MNaCl、10mMNaH2PO4)で洗浄した。回収した菌体の一部を50mL容遠心チューブ中のYatalase40mg、Lysing Enzyme30mgの入ったPB10mLに懸濁し、30℃で120分間ゆっくりと振盪しながらインキュベートした。この間、30分毎にピペッティングによって菌体を穏やかにほぐした。反応後、菌糸などのかすを除くため反応液をミラクロスでろ過し、ろ液を4℃、2000rpmで5分間遠心した。沈殿をAspergillus Transformation Buffer(ATB、0.8MNaCl、10mMTris-HCl(pH7.5)、50mMCaCl2)約10mLに懸濁し4℃、2000rpmで5分間遠心した。沈殿を適量のATBに懸濁しプロトプラスト溶液とした。
【0058】
B. A.oryzaeの形質転換
プロトプラスト溶液100μL(1×10-9個-plotoplast/mL)に2×ATBを等量加えた各種プラスミド溶液(pNAN8142、pNAN-bgl1-CBDcbhI、pNAN-bgl1-CBDcmc2、pNAN-CBDcbhII-bgl1各10μg-DNA)を加えた。この溶液に対し20%量のPEG solution(60%PEG4000、10mMTris-HCl(pH7.5)、50mMCaCl2)を添加し、穏やかに混合した。氷上で10分間静置した後、PEG solution1mLを加えて緩やかに混和した。室温で10分間静置した後、10mLのATBを加えてよく混合し、4℃、2000rpmで5分間遠心した。沈殿を適量のATBに懸濁し、45℃に保温したTop Agar(RMに0.7%のAgaroseを溶解させたもの)5mLと混合し、RMプレート上に重層した。30℃で3日間培養し、それぞれの形質転換体を得た。なお、取得した菌株をそれぞれ以下のように命名した。
プラスミド 菌株名
pNAN8142 A.oryzae8142
pNAN-bgl1-CBDcbh1 A.oryzaeBGL1-CBDCBHI1
pNAN-bgl1-CBDcmc2 A.oryzaeBGL1-CBDCMC1
pNAN-CBDcbhII-bgl1 A oryzaeCBDCBHII-BGL1
【0059】
C.培養
目的タンパク質の発現を確認するため、取得された形質転換体をMM(NO3-)で培養した。MM(NO3-)のGlucoseを5%、NaNO3を1%にした培地10mLが入った太試験管に1白金耳ずつ植菌し、30℃、170min-1で3日間培養を行った。
【0060】
D.BGL1及びCBD結合型BGL1の遊離
BGL1は分泌後、菌体表層に結合することが知られている。そこで、菌体表層に結合したBGL1及び各種CBD結合型BGL1を遊離させるため、培養した形質転換体を以下のように処理した。
培養液を、菌体ごとろ紙を敷いたブフナー漏斗に流し込み、吸引ろ過して培地を除いた。ろ紙上に残った菌体を20mMAcetate buffer(pH5.0)150mLで洗浄し、培地成分を完全に除いた。得られた菌体を培地と等量の遊離バッファー(Cycloheximide20μg/mL、1mMPhenylmethylsulfonyl fluoride、0.2%TritonX-100、20mMAcetate buffer(pH5.0))に加え、30℃、160min-1で4日間振盪した。
【0061】
E.活性測定
BGL1の酵素活性測定は、pNP法により行った。基質として3mMp-Nitrophenyl-β-D-glucopyranoside(pNP -Glc)溶液(in 100mM Acetate buffer pH5.0)を用い、酵素溶液は100mMAcetate buffer(pH5.0)で適切な濃度に希釈して用いた。また、BGL1の安定化のため酵素溶液の希釈の際に、反応液中に10μgのオボアルブミンを含むように1mg/mLオボアルブミンを加えた。酵素反応は、5分間37℃でプレインキュベートした酵素溶液100μLに、同じくプレインキュベートした基質溶液100μLを加えてよく混合し、37℃にて10分間反応させることにより行った。反応後、2mLの1MNa2CO3を加え反応を停止させ、405nmの吸光度からp-Nitrophenol(pNP)の吸光係数を用いて遊離したpNP濃度を算出し、活性を求めた。ブランクには、酵素溶液の代わりに100mMAcetate buffer(pH5.0)100μLを用いて、基質溶液100μL、1MNa2CO32mLを加えたものを用いた。
【0062】
また、1unit(1U)は1分間に1μmolのpNPを遊離させる酵素量と定義し、以下の式により酵素活性を算出した。吸光係数は、ε(405)=0.0185mL/nmol・cm-1を用いた。
酵素活性(units/mL)=
x/18.5×2.2mL/(10min)×(1/0.1mL)×希釈率
x:A405(ただしtest値からblank値を引いた値とする)
【0063】
F.SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
SDS-PAGEはLeammliの方法(Laemmli UK : Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 227 : 680-685、 1970)に従った。分離ゲルは9.0%、濃縮ゲルは5%の二層からなるポリアクリルアミドゲル(Acrylamide:N、N'-Methylene bisacrylamide=29.2:0.8)を作製した。試料酵素溶液に等量の2×Sample buffer(0.125MTris-HCl、20%Glycerol、2%SDS、2%1-Mercaptoethanol、0.001%Bromophenol blue、pH6.8)を添加し、100℃で10分間処理して試料とした。縦型スラブ電気泳動装置(ATTO社製)を用い、泳動用緩衝液(0.1%SDS、25mMTrisbase、192mMGlycine)中で20mAの定電流下で電気泳動を行った。
【0064】
G.使用試薬等
酵素発現のために使用した菌株、培地などは以下のとおりである。
a)使用菌株
A.oryzae niaD300(RIB40由来) ΔniaD
A.oryzae BGL1 bgl1
A.oryzae BGL1株は、A.aculeatusのbgl1を、pNAN8142ベクターを用いてA.oryzaeに組込んだ株であり、西槇らによって取得されたものである(西槇徹、Aspergillus aculeatus 由来b-glucosidase 1 遺伝子の Aspergillus oryzae における高発現、大阪府立大学大学院 修士論文、2003)。
b)使用培地
A.oryzaeの培養には以下の培地を使用した。平板培地には1.5%濃度の寒天を加えた。
i)Minimum medium(NO3-)(MM(NO3-))(pH6.5)
Salts solution※ 5.0%
Trace element mixture※※ 0.10%
Glucose 1.0%
NaNO3 0.3%
ii)Minimum medium(NH4+)(MM(NH4+))(pH6.5)
MM(NO3-)のNaNO3の代わりにAmmonium tartrate 0.18%を使用したもの。
iii)Regeneration Medium(RM) (pH6.5)
Salts solution※ 5.0%
Trace element mixture※※ 0.10%
Glucose 1.0%
NaNO3 0.3%
NaCl 4.68%
※Salts solution
KCl 2.6%
MgSO4・7H2O 2.6%
KH2PO4 7.6%
※※Trace element mixture
Mo7O24・4H2O 0.11%
H3BO3 0.11%
CoCl・6H2O 0.16%
CuSO4・5H2O 0.16%
EDTA 5.0%
FeSO4・7H2O 0.50%
MnCl2・4H2O 0.50%
ZnSO4・7H2O 2.2%
c)使用試薬
プロトプラスト調製のために、以下の酵素を使用した。
Yatalase(タカラバイオ社製)、Lysing Enzyme(Sigma社製)
d)その他の試薬
その他は特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
H.結果
上記で構築したpNAN-bgl1-CBDcbhI、pNAN-bgl1-CBDcmc2、pNAN-CBDcbhII-bgl1、及びインサートの入っていないpNAN8142ベクターを用いてA.oryzaeを形質転換した。モノスポア化を2〜3回繰り返し、最終的に得られた株はA.oryzae8142株が16株、A.oryzae BGL1-CBDCBHI株が8株、A.oryzae BGL1-CBDCMC2株が7株、A.oryzae CBDCBHII-BGL1株が8株となった。
【0065】
それぞれの株を複数株ずつ培養し、遊離操作を行ってpNP-Glcに対する活性を追跡したところ、A.oryzae8142株では活性がほとんど検出されなかったが、A.oryzae BGL1-CBDCBHI株とA.oryzae CBDCBHII-BGL1株ではA.oryzae BGL1株と同等の活性が検出された(図5)。また、SDS-PAGEによってBGL1よりサイズが僅かに大きい、それぞれBGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1と思われるタンパク質の存在を確認した(図6)。一方、A.oryzae BGL1-CBDCMC2株では他のCBD結合型BGL1に比べ遊離バッファー当たりの活性が低く酵素生産量も少なかった(図6)。
【0066】
3.酵素の精製
A.培養
上記1−2のC)の方法で種培養を行い、同培地200mLの入った500mL容バッフル付き三角フラスコに種培養した培養液全量を加え、さらに30℃、160min-1で3日間培養した。
【0067】
B.粗酵素液の調製
上記2.D.に示したように、培養した菌体を回収後、Triton X-100を含まない遊離バッファー(Cycloheximide 20μgmL、1mMPhenylmethylsulfonyl fluoride、20mM Acetate buffer(pH5.0))を用いて菌体表層から酵素を遊離させた(30℃、160min-1、4days)。次に、この溶液を菌体ごとストッキングで濾して菌体を大まかに除き、更にろ液を遠心分離(4℃、10800rpm、30min)して上清を取得することで菌体を完全に除いた。これを粗酵素液とし、以下の精製に用いた。
【0068】
C.精製
各酵素は以下の要領で精製した。
粗酵素液を20mM Acetate buffer(pH5.0)で平衡化したDEAE-TOYOPEARL650Mに吸着させ、0〜0.3MNaCl溶液(in20mM Acetate buffer(pH5.0))1Lのリニアグラジェントで溶出した後、pNP-Glcに対する分解活性を示す画分を回収した。次に、回収した活性画分に硫酸アンモニウムを30%飽和となるように加え、予め30%飽和硫酸アンモニウム溶液(in20mM Acetate buffer(pH5.0))で平衡化したButyl-TOYOPEARL650Mに吸着させ、30〜0%飽和の硫酸アンモニウム溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))1Lのリバースリニアグラジェントで溶出した。活性画分を回収し硫酸アンモニウムを加えて80%飽和とし、硫安塩析を行った。遠心分離(4℃、10800rpm、30min)によって沈殿を回収後、少量の20mM Acetate buffer(pH5.0)に溶解した。これを、透析膜(三光純薬社製)を用いて20mM Acetate buffer(pH5.0)中で一晩透析し精製サンプルとした。一方、BGL1-CBDCBHI、BGL1-CBDCMC2、CBDCBHII-BGL1は等量の99.5%エタノールを加えることによりエタノール沈殿を行った。沈殿を遠心分離(4℃、8000rpm、30min)によって回収し、50%エタノール溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))で洗い、遠心分離(4℃、8000rpm、30min)によって再び沈殿を分離した。この洗浄を2回行った後、上清を完全に除き、デシケーターを用いて減圧乾燥し、沈殿を適量の20mM Acetate buffer(pH5.0)に溶解させ精製サンプルとした。
【0069】
D.活性測定
上記2.E.活性測定と同様に行った。
【0070】
E.SDS-PAGE
上記2.F.活性測定と同様に行った。
【0071】
F.タンパク質量の測定
タンパク質量は280nmの吸光度から、各酵素の吸光係数を用いて算出した。
各酵素の吸光係数はGillらの方法(Gill SC, Hippel PH : Calculation of protein extinction coefficients from amino acid sequence data. Anal Biochem 182 : 319-326, 1989)を参考に、Trpのモル吸光係数を5690cm-1・M-1、Tyrを1280cm-1・M-1、Cysを120cm-1・M-1とし、アミノ酸の一次配列から推定した。
【0072】
G.結果
A.oryzaeで生産させたBGL1及びCBD結合型BGL1をDEAE-TOYOPEARL650MやButyl-TOYOPEARL650M、またはPhenyl-TOYOPEARL650Sを用いて精製した(図7〜9)。各種精製酵素をSDS-PAGEに供したところ、BGL1は約130kDa、BGL1-CBDCBHIは約140kDa、CBDCBHII-BGL1は約145kDa、BGL1-CBDCMC2は約130kDaの位置にそれぞれ単一のバンドが見られ、電気泳動的に均一なタンパク質として精製されたことが確認された。その結果を図11及び表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
4.酵素の性質
次に、上記で精製された酵素を用いてBGL1へのCBD結合による影響を調べた。
A.アルカリ膨潤セルロース(ASC)の調製
ASCはHashの方法(Hash JH, King KW : On the nature of the b-glucosidases of Myrothecium verrucaria. J Biol Chem, 232 : 381-393, 1958)を用いてフナセル(フナコシ社製)から調製した。フナセル6gを氷冷した35%NaOH200mL中に攪拌しながら徐々に加えて浸漬させ、30min静置した。その後、氷冷した蒸留水3Lを投入し、HClを加えてpH3.0に調整した。pH調整後、4℃で30〜40min静置することでASCを沈殿させ、デカンテーションで上清を除き、予め4℃で冷やしておいた蒸留水3Lを加えた。これを5回繰り返した後、ASCを遠心分離(10800rpm、30min、4℃)によって分離し、沈殿を再び蒸留水に懸濁した。これを5回繰り返した後、再び蒸留水に懸濁し、ULTRASONIC DISRUPTOR UD-201(TOMY社製)を用いて超音波破砕を行った(output8、duty50、10min、インターバル10min、6セット)。蒸留水を加えて全量約400mLとし、ASCのストック液とした。還元糖量及び全糖量(Dubois M, Gilles K., Hamilton JK, Rebers PA, Smith F : A colorimetric method for the determination of sugars. Anal Chem 28 (3), 350-356, 1956)を測定し平均重合度を算出した。また、酵素反応の基質としては全糖量から求めたストック液の濃度を元に、1%(w/v)ASC懸濁液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))として使用した。
【0075】
B.基質特異性の検討
a)pNP-Glcに対する活性
pNP-Glcに対する活性は上記2.E.活性測定と同様に行った。
b)Salicinに対する活性
Somogyi-Nelson法(福井作蔵:生物化学実験法1、還元糖の定量法、第2版、1990)により行った。適度に希釈した酵素溶液100μLl1%Salicin(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))100μLを混合し、37℃で10分間反応させた。Somogyi液500μLを加えることで反応を停止させ、蒸留水を加えて全量を1mLとし、沸騰水中で15分間煮沸した。煮沸後、流水で5分間冷やし、速やかにNelson液500μLを加えてよく混合した。20分間静置させた後、イオン交換水3.5mLを加えてよく混ぜ、500nmの波長の吸光度を測定した。得られた値を、グルコースを用いて得られたスタンダードカーブに代入し、還元糖量を算出した。1unitは1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素量と定義した。
【0076】
C.Cellobioseに対する活性
Glucose-oxidase法で行った。適度に希釈した酵素液100μLに1%Cellobiose(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))100μLを混合し、37℃で10分間反応させた。1MHCl50μLを加えることで反応を停止させ、5分間静置した後、中和液(1MTris:2MNaOH=8:2)50μLを加えた。この溶液から100μLを取り、発色試薬(グルコースCII-テストワコー(和光純薬社製))100μLと混合して30℃で15分間発色させ、500nmの波長の吸光度を測定した。得られた値を、グルコースを用いて得られたスタンダードカーブに代入し、生成グルコース量を算出した。1unitは1分間に2μmolのグルコースを生成する酵素量と定義した。
【0077】
D.ICOS分解のタイムコース
1%(w/v)ICOS懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0)各100μLに、適度に希釈した酵素液100μLずつを分注することで反応を開始した。反応開始から30分後、2時間後、4時間後、8時間後、16時間後にそれぞれ1MHCl50μLを加えて反応を停止させ、上記C.Cellobioseに対する活性と同様Glucose-oxidase法で生成グルコース量を算出した。但し、ICOSは不溶性のため、中和液を添加後、反応液をエッペンにとり、遠心分離(15000rpm、4℃、10min)して得た上清100μLを発色試薬100μLと混合することで発色させた。1unitの定義は1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量と定義した。また、雑菌の繁殖を防ぐため、ICOSの分解反応液中にはアジ化ナトリウムを0.02%加えて反応を行った。
【0078】
E.ASC分解のタイムコース
ASCの分解は上記D.ICOS分解のタイムコースと同様の方法で行った。但し、基質量を1%ASC懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))300μLとし、反応時間を30分、8時間、24時間、48時間とした。なお、全ての酵素反応において、GBL1及びCBD結合型BGL1の安定化のため反応液中に10μgのオボアルブミンを加えている。
【0079】
F.ASCに対する吸着
既知濃度の各酵素サンプルを任意の割合で希釈し、エッペン中で1mgのASCと混合(in 100mM Acetate buffer(pH5.0)、Total volume0.6mL)して氷上で120分間吸着させた。但し、吸着開始から30分後、1時間後に反応液を軽く振り混ぜた。反応終了後、遠心分離(15000rpm、4℃、1min)してASCとそれに結合した酵素を沈殿させ、上清500μLを取得した。得られた上清の吸光度A280から上清中の酵素濃度を算出し、初発酵素濃度との差を求めることで吸着した酵素量を算出した。
【0080】
G.熱安定性
酵素200μL(0.264μM、in 100mM Acetate buffer(pH5.0))をエッペンに取り、30〜75℃の任意の温度に設定したウォーターバス中で30分間インキュベートした。インキュベート後、氷中で急冷し、pNG-Glcに対し残存活性を測定した。測定は上記2.E.活性測定と同様にして行った。
【0081】
H.pH安定性
pHの調整は下記表4に示した各種60mMのbufferを用いて酵素液を10倍希釈することで行った。pH調整を行った酵素液100μL(1.32μM)をエッペンに取り、25℃のエアインキュベーター中で15時間静置した。静置後、速やかに100mM Acetate buffer(pH5.0)を加えて10倍に希釈することでpH5.0に戻し、pNP-Glcに対しする残存活性を測定した。測定は上記2.E.活性測定と同様にして行った。
【0082】
【表4】
【0083】
I.使用した試薬等
酵素の性質を調べるために使用した試薬は以下のとおりである。
i)使用試薬
a)不溶性セロオリゴ糖(ICOS)
ICOSは阪本らの方法(阪本禮一郎、Aspergillus aculeatus No. F-50 のセルラーゼ系に関する研究、 大阪府立大学大学院 博士論文、1984)を用いて仲谷らによってCellulosepowderD(ADVANTEC社製)から調製されたものを使用した。平均重合度は(全糖量)/(還元糖量)比から26.7と求められている。
b)Somogyi-Nelson試薬
Somogyi液
Na2SO4 18%
Na2CO3 2.4%
CuSO4・5H2O 0.4%
NaHCO3 1.6%
(CH(OH)COO)2KNa・4H2O 1.2%
Nelson液
(NH4)6Mo7O24・4H2O 5.0%
Na2HAsO4・7H2O 0.6%
H2SO4 4.6%
【0084】
J.結果
精製酵素を用いてASCに対する吸着検定を行ったところ、BGL1ではASCへの吸着が見られなかったが、BGL1-CBDCBHI及びCBDCBHII-BGL1では吸着が確認された(図12)。両逆数プロット(Seki H, Suzuki A, Maruyama H : Adsorption of egg albumin onto methylated yeast biomass. Journal of Colloid and Interface Science 270 : 304-308, 2004)をとり吸着定数(Ka)及び最大吸着量(Bmax)を求めたところ、BGL1-CBDCBHIとCBDCBHII-BGL1のKaはそれぞれ6.0×106M-1、8.7×106M-1とCBDCBHII-BGL1の方が僅かに高く、Bmaxはそれぞれ0.78×10-8mol/mg-ASC、0.64×10-9mol/mg-ASCとBGL1-CBDCBHIの方が僅かに高いという結果となった(表5)。なお、BGL1-CBDCMC2についてはASCへの吸着が見られなかったため、その他の性質検討は行わないこととした(データは示さず)。
【0085】
【表5】
【0086】
BGL1、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1について可溶性基質(Cellobiose、pNP-Glc、Salicin)に対する分解活性を調べたところ、BGL1と各種CBD結合型BGL1の間に差は見られなかった(表6)。一方、不溶性基質(ASC、ICOS)の分解においてはBGL1とCBD結合型BGL1との間に有意な差が見られた。ASCに対し37℃で48時間は反応させた時点での生成グルコース量を測定したところ、BGL1では11.1μg、BGL1-CBDCBHIでは18.1μg、CBDCBHII-BGL1では14.7μgとなり、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1はBGL1に対しそれぞれ1.6倍、1.3倍のグルコース量を生成した(図13A)。また、ICOSに対する分解では37℃、16時間の反応でBGL1では24.3μgのグルコースを生成したのに対し、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1ではそれぞれ37.0μg、36.1μgとなりBGL1に対し共に1.5倍のグルコースを生成した(図13B)。
【0087】
【表6】
【0088】
各種精製酵素の熱やpHに対する安定性を調べた。等濃度の酵素液200μLを30〜75℃の任意の温度で30分間インキュベートし、急冷後、pNP-Glcに対する残存活性を測定したところ、野生型BGL1とCBD結合型BGL1の間に差は見られなかった(図14A)。野生型、CBD結合型は共に65℃までは80%以上の活性を保持していたが、67.0℃で約50%の活性を失い、70℃ではほぼ完全に失活した。また、pH2.3〜10.1の任意のpHに25℃で15時間さらした後、pNP-Glcに対する残存活性を測定したところ、野生型、CBD結合型は共にpH2.7〜9.1の範囲では80%以上の活性を維持していたが、その範囲外では、活性が急激に低下した(図14B、表5)。
【0089】
今回精製したBGL1のサイズはSDS-PAGEで確認したところ約130kDaであった。これは以前の報告(西槇徹、Aspergillus aculeatus 由来β-グルコシダーゼ1のA.oryzaeにおける高発現、 大阪府立大学大学院 修士論文、2003)でA.oryzaeBGL1株から精製されたBGL1のサイズが約130kDaであったことと、またオーセンティックなBGL1は133kDaであること一致した。よって、今回精製されたBGL1はA.aculeatusのbgl1遺伝子から生産されたものであると断定した。
【0090】
これに対し各種CBD結合型BGL1はLinker及びCBDを結合させた分、分子サイズが大きくなることが予想された。結果、BGL1-CBDCBHIとCBDCBHII-BGL1はBGL1より大きい、それぞれ約140kDa、145kDaとなり、正しくLinker及びCBDが結合した形で精製されたと推定された。また、これらの酵素について可溶性基質に対する比活性を求めたところ、測定に用いた全ての基質において差は見られず、CBD付加によりBGL1の触媒活性が妨げられることはないとわかった。一方、BGL1-CBDCMC2はpNP-Glcに対する比活性はBGL1と同等であるが、SDS-PAGEによってBGL1と同じ約130kDaの位置にバンドが見られたため、Linker及びCBDが結合していないことが疑われた。そのため、BGL1-CBDCMC2についてASCに対する吸着を調べたところ、BGL1-CBDCBHIなら十分に結合が確認できる濃度(A280=0.256)で吸着させたにも関わらず、吸着量を表すA280差((初発A280)−(非吸着画分のA280))は僅か0.025となり、他のCBD結合型BGL1の20%以下であった。また、本酵素は精製ステップの初期である粗酵素液の段階で、既にSDS-PAGEによって約130kDaの位置にバンドが示されいることから(データ示さず)、遺伝子が正しく発現されていない、もしくはCBDCMC2またはLinker領域がプロテアーゼの作用を受けやすく、培養もしくは遊離処理の間に切断されてしまったのではないかと考えられる。以上のことからBGL1-CBDCMC2はCBDを結合した状態では精製されていないと判断し、以下の検討は行わないことにした。
【0091】
BGL1及びBGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1についてASCに対する吸着検定を行ったところBGL1では全く吸着がみられなかったのに対し、両CBD結合型BGL1はASCに吸着した。これにより、BGL1-CBDCBHI、CBDCBHII-BGL1がCBDを結合した形で精製されていることが確認された。吸着定数や吸着最大量についてはそれぞれKa=6.0×106M-1、8.7×106M-1、Bmax=0.78×10-9mol/mg-ASC、0.64×10-9mol/mg-ASCとなった。T.reeseiのCBHI及びCBHIIのKa、Bmaxを参照すると、吸着温度4℃下でCBHI、CBHIIのAvicelに対するKaはそれぞれ0.93×106M-1、1.92×106M-1、Bmaxは0.74×10-9mol/mg、0.52×10-9mol/mgであった(Medve J, St_hlberg J, Tjerneld F : Isotherms for adsorption of cellobiohydrolase I and II from Trichoderma reesei on microcrystalline cellulose. Applied Biochemistry and Biotechnology 66:39-56,1997)。また、同CBHIのBMCCへの吸着のKaは8.33×106M-1、Bmaxは6.0×10-9mol/mgである(Reinikainen T, Teleman O, Teeri TT : Effects of pH and high ionic strength on the adsorption and activity of native and mutated cellobiohydrolase I from Trichoderma reesei. 22 : 392-403, 1995)。これらの値と比較すると、BGL1-CBDCBHI及びCBDCBHII-BGL1はT.reeseiのCBHIのAvicelへの吸着と同程度の親和性、最大吸着量を示しており、CBDが遜色なく機能していると考えられた。
【0092】
不溶性基質への分解に関しては、各CBD結合型BGL1の親和性の違いにより、CBD結合型BGL1の間でも差が見られると予想された。しかし、実際は同じ酵素量、同じ反応時間で測定した時、ICOSに対しBGL1-CBDCBHI及びCBDCBHII-BGL1は共にBGL1の1.5倍のグルコースを生成しているが、ASCに対してはBGL1-CBDCBHIとCBDCBHII-BGL1の間でも差がみられた。これはASCへの吸着検定においてKaがBGL1-CBDCBHIの方が大きいことから、よりASCを分解するだろうという予想に反するものであった。これについて考察すると、CBD結合型BGL1が不溶性基質のBGL1単独では分解できない部分を分解するには、まず不溶性基質への吸着が起こり、その後触媒ドメインが基質と結合し分解するという段階的な反応が起こっていると予想される(Igarashi K, Wada M, Hori R, Samejima M : Surface density of cellobiohydrolase on crystalline celluloses. A critical parameter to evaluate enzymatic kinetics at a solid-liquid interface. FEBS J 273 : 2869-2878, 2006)。そのため、基質への吸着から触媒ドメインの基質結合への移行がスムーズに行われるか否かも不溶性基質の分解速度に関わってくると考えられる。本研究においてはN末端もしくはC末端へのCBD付加という違いにより立体構造的にCBDと触媒部位との空間的位置関係が異なることが予想される。また、両者はLinkerの長さも異なる(CBDCBHII-BGL1の方が14アミノ酸残基長い)。これらの違いから、BGL1-CBDCBHIの方が吸着から分解への移行がスムーズに行われ、ASCに対しより高い活性を示したのではないかと思われる。一方で、ICOSの方は、ASC(DP=165)に対し平均重合度が低く(DP=26.7)、BGL1にとってASCより分解しやすい基質であるため差が見られないと考えら得る。
【0093】
K.ASCの分解試験
CBD結合の効果をより厳密に評価するため、さらに以下の試験を行った。なお、ここにおいては、上記と同様の手順にして作製及び精製されたCBDCBHII-BGL1-CBDCBHI(図10)についても評価を行った。
1%ASC懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))各300μlに、6.60μMBGL1の溶液100μlずつを分注し、37℃で16時間反応させた。続けて、6.60μMのBGL1溶液100μl、もしくは段階的に希釈した各種CBDが結合されたCBD結合型BGL1(0.0985−4.8μM)100μlを加えて37℃でさらに24時間反応させ、1MHCl125μlを加えて反応を停止させた。以下、Glucose-oxidase法で生成グルコース量を測定した。反応停止後、中和液(1MTris:2MNaOH=8:2混合液)125μlを加え、反応液全量をエッペンに取り13500rpm、4℃、10min遠心分離した上清を取得し、そのうちの100μlを96穴プレート中で発色試薬(グルコースCII テストワコー)100μlと混合し、30℃で15分間反応させ、波長500nmにおける吸光度を測定した。得られた値を、グルコースを用いて得られたスタンダードカーブに代入し、生成グルコース量を算出した。blankは前反応(BGL1だけを使用)16時間の時点で1MHCl100μlを加えて反応を停止させ、上記と同様の方法で生成グルコース量を算出した。但し、中和液の添加は100μlとした。各サンプル(16時間+24時間)の生成グルコース量から、blankの生成グルコース量(16時間)を差し引き、新たに酵素を添加した時点から新規に生成されたグルコース量を求めた。新たに添加した酵素量に対して新規生成グルコース量をプロットし、BGL1を添加したサンプルの新規生成グルコース量(6.97μg)を挟む直近の2点間の一次式からBGL1と等量のグルコースを生成するのに必要なCBD結合型BGL1量をそれぞれ算出した。なお、加水分解反応において、BGL1及びCBD結合型BGL1の安定化のため反応液中に10μgのオボアルブミンを加えた。また、雑菌の繁殖を防ぐため、ASCの分解反応液中に0.02%のアジ化ナトリウムを加えて反応を行った。この結果を図15及び表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
BGL1及びBGL1-CBDCBHI、BGL1-CBDCBHIについて可溶性基質(Cellobiose, pNP-Glc, Salicin)に対する分解活性を調べたところ、上記表6に示されたようにBGL1と各種CBD結合型BGL1の間に差は見られなかった。一方、不溶性基質(ASC, ICOS)の分解においてはBGL1とCBD結合型BGL1との間に有意な差が見られた。また、前反応として、BGL1を用いてASCを37℃で16時間分解したところへ、BGL1若しくは各種CBD結合型BGL1を加え、さらに37℃で24時間反応させ、新たに生成したグルコース量を測定した。その結果、BGL1を加えたものは新たに6.97μgのグルコースを生成し、これと等量のグルコースを生成するために必要な酵素量を算出した結果、それぞれBGL1-CBDCBHIは0.0299nmol、BGL1-CBDCBHIは0.0437nmol、CBDCBHII-BGL1-CBDCBHIは0.0504nmolとなり、BGL1(0.662nmol)と比べるとそれぞれ22.2倍、15.0倍、13.1倍となった。
【0096】
このように、A.aculeatus由来のBGL1のC末端側にCBHI由来のLinker及びCBDを、もしくはN末端側にCBHII由来のCBD及びLinkerを付加することによりBGL1本来の性質を残したまま、不溶性セルロースへの親和性を高め、飛躍的に分解活性を向上させることができた。
【実施例2】
【0097】
〔セルラーゼ(2)の作製〕
次に、A.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1にリンカー領域を介してA.aculeatus由来のセロビオハイドラーゼI又はIIのセルロース結合ドメインを結合したセルラーゼを作製した。
【0098】
A.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1として、既に塩基配列が決定されているA.aculeatusのF-50株由来のカルボキシメチルセルラーゼ1を用いた。セルロース結合ドメインには、既に塩基配列が決定されているF-50株由来のセロビオハイドラーゼIのCBD又は同セロビオハイドラーゼIIのCBDを用いた。
【0099】
CBDを結合したセルラーゼとして、カルボキシメチルセルラーゼ1のC末端側にCBHIのCBDを結合したセルラーゼ(CMC1-CBDCBHI)、βカルボキシメチルセルラーゼ1のC末端側にCBHIIのCBDを結合したセルラーゼ(CMC1-CBDCBHI)の2つのセルラーゼを作製した。これらのセルラーゼは、大腸菌及びA.oryzaeの別々の宿主で発現させた。
【0100】
1.発現プラスミドの構築
大腸菌用にはcmc1のcDNAからシグナル配列と終止コドンを除いた666bpをA.oryzae用にはcmc1ゲノム遺伝子の開始コドンから終止コドン直前までの895bp(配列番号5)をPCRによって増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供することで正しい長さの断片が増幅されたことを確認した(図18)。また、PCR産物cmc1g及びcmc1cを実施例1の1.発現プラスミドの項で構築したpBs-CBDcbhI、pBs-CBDCMC2の各cbdの5´側に挿入することでCMC1のC末端側にCBHIもしくはCMC2由来のLinker及びCBDが結合するよう遺伝子を構築した。これを発現ベクターpET20b (+)もしくはpNAN8142に組み込むことで、大腸菌用発現プラスミドpET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2及び糸状菌用発現プラスミドpNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2を得た。また、インサートを発現ベクターに挿入する際に用いたNot I、Nde Iや、EcoR I、Hinc IIなどを用いて目的遺伝子が正しく挿入されていることを確認した(データ示さず)。
【0101】
A.PCR法を用いたDNA断片の増幅
実施例1の1.発現プラスミドの構築における方法と同様の条件で行った。また、各PCR産物をそれぞれcmc1g、cmc1cと命名した。Template、primer対の組合せを表8に示した。
【0102】
【表8】
【0103】
B.発現プラスミドの構築
CBD結合型CMC1は、大腸菌、A.oryzaeの二通りの宿主で発現させるために、以下の要領でそれぞれの発現プラスミドを構築した。
a)大腸菌用発現プラスミドの構築
上記のPCR法によって得られたPCR産物cmc1cをXho IとNsi Iで消化し、Sal IとNsi Iで消化したpBs-CBDcbhI及びpBs-CBDcmc2に挿入した。これをcmc1cの5´末端側に付加したNde Iサイトと、各CBDの3´末端側に付加したBgl IIサイトで切断して目的遺伝子を切り出し、pET20b(+)のマルチクローニングサイト内にあるNde IサイトとBamH Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2とし、E.coli JM109(DE3)の形質転換に用いた(図16)。
b)糸状菌用高発現プラスミドの構築
上記のPCR法によって得られたPCR産物cmc1gをXho IとNsi Iで消化し、Sal IとNsi Iで消化したpBs-CBDcbhI及びpBs-CBDcmc2に挿入した。これをcmc1gの5´末端側に付加したNot Iサイトと、各CBDの3´末端側に付加したNde Iサイトで切断して目的遺伝子を切り出し、糸状菌用高発現ベクターpNAN8142のマルチクローニングサイト内にあるNot IサイトとNde Iサイトに挿入した。このようにして得られたプラスミドをpNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2としA.oryzaeの形質転換に用いた(図17)。
【0104】
C.その他遺伝子工学的操作
実施例1の1.発現プラスミドの構築と同様に行った。
【0105】
D.使用試薬等
発現プラスミドの構築に使用した菌株、プラスミド、培地、プライマーなどは以下のとおりである。
a)使用菌株
実施例1の1.発現プラスミドの構築に用いたものと同じである。
b)使用プラスミド
pNAN8142
pET20b(+)
pCMG14 pUC18、cmc1(genome)
pCMC31 pUC13、cmc1(cDNA)
及び実施例1で構築したpBs-CBDcbhI、pBs-CBDcmc2
c)使用培地
実施例1の1.発現プラスミドの構築で用いたものと同じである。
d)使用試薬
i)制限酵素、修飾酵素
制限酵素および修飾酵素は、ニッポンジーン社製、東洋紡社製、タカラバイオ社製、あるいは NEW ENGLAND BIOLABS (NEB) 社製のものを使用し、それぞれの処理は各社のプロトコルに従った。
制限酵素:BamH I、Bgl II、Nde I、Not I、Nsi I、Sal I、Xho I
修飾酵素:T4 DNA ligase、PrimeSTAR HS DNA polymelase
ii)プライマー
目的遺伝子の増幅には表9に示すプライマーを使用した。
iii)その他の試薬
その他は特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0106】
【表9】
【0107】
2.酵素発現
2−1.Escherichia coliにおける酵素発現
A.E. coli JM 109(DE3)株の形質転換
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様の方法で行った。但し、プラスミド溶液はpET20b (+)、pET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2を使用した。また、これにより得られた株をそれぞれE. coli pET株、E. coli CMC1c-CBDCBHI株、E. coli CMC1c-CBDCMC2株と命名し、以下の実験に用いた。
【0108】
B.その他遺伝子工学的操作
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様の方法で行った。
【0109】
C.培養
LBplate上で生育した大腸菌のシングルコロニーを2×TY培地(Ampicillinを含む) 1.7mLに爪楊枝を用いて接種し、30℃、130min-1で15時間種培養を行った。培養液を、新しい2×TY培地(Ampicillinを含む)1.7mL/本×6本にそれぞれ17μLずつ植菌し、3本は37℃で、残り3本は30℃でさらに6時間培養を続けた。6時間後、各温度3本ずつある培養液に0.1M Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)をそれぞれ0μL(無添加)、1.7μL、17μL加え、同じ温度でさらに6時間培養を続けた。
【0110】
D.菌体抽出液の調製
上記の、菌株、培養温度、IPTG濃度の違う計18種類の培養液をそれぞれエッペンに移し、遠心分離(4℃、10000rpm、1min)して上清を除き、菌体を回収した。そこへ20mM Acetate buffer (pH5.0)1mLを加えて菌体を懸濁し、氷水中でよく冷却しながらHandy Sonic UR-20P(TOMY SEIKO社製)を用いて超音波破砕を行った(30sec、Power7、4セット)。破砕後、遠心分離(4℃、15000rpm、10min)して得られた上清を可溶性画分として取得した。沈殿は20mM Acetate buffer (pH5.0)1mLに懸濁し不溶性画分とした。
【0111】
E.SDS-PAGEによる発現確認
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様に行った。ただし、分離ゲルの濃度は15%のものを使用した。
【0112】
F.使用試薬等
形質転換のために使用した菌株、培地などは以下のとおりである。
a)使用菌株
Escherichia coli JM109(DE3)
endA1、 recA1、 gyrA96、 thi、 hsdR17 (rk- mk+)、 relA1、 supE44、
Δ(lac-proAB)、[F'、traD36、proAB、lacIqZΔM15]、λ(DE3)
b)使用プラスミド
pET20b (+)、pET-cmc1c-CBDcbhI、pET-cmc1c-CBDcmc2
c)使用培地
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換で使用したものと同じである。
d)使用試薬
特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0113】
G.結果
上記で構築したpET-CMC1c-CBDcbhI、pET-CMC1c-CBDcmc2及びインサートの入っていないベクターpET20b (+) を用いてE. coli JM109(DE3)を形質転換した。取得した各菌株が目的遺伝子を持つことは、培養した形質転換体からプラスミド抽出を行い、制限酵素処理及びアガロースゲル電気泳動により確認した(データは示さず)。目的タンパク質の生産を確認するため、それぞれの形質転換体を培養温度とIPTG濃度を変えて培養し、菌体破砕液の可溶性画分と不溶性画分をそれぞれSDS-PAGEに供した(図19及び図20)。タンパク質CMC1-CBDCBHI及びCMC1-CBDCMC2のアミノ酸は配列から推定される平均分子量はそれぞれ32100、35200であったが、CMC1-CBDCBHIにおいてはどの培養条件においても目的タンパク質の生産は見られなかった。一方、CMC1-CBDCMC2においては各温度及びIPTG濃度全ての培養条件において目的タンパク質と思われるバンド(約35kDa)が確認されたが、いずれも可溶性画分には全く見られず、不溶性画分にのみ存在が確認された。これは、糸状菌由来の酵素のLinker領域には通常、O−結合型糖鎖が多く付加されるが(Reinikainen T, Teleman O, Teeri TT : Effects of pH and high ionic strength on the adsorption and activity of native and mutated cellobiohydrolase I from Trichoderma reesei. 22 : 392-403, 1995)、大腸菌では糖鎖付加が行われないため、タンパク質の相対的な疎水性が高まり凝集したと考えられる。図21には、大腸菌及びA.oryzaeによる生産物を分析した結果を示す。
【0114】
2−2Aspergillus oryzaeにおける発現
A.A.oryzaeの形質転換
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様に行った。また、取得した菌株をそれぞれ以下のように命名した。
プラスミド 菌株名
pNAN-cmc1g-CBDcbhI A.oryzae CMC1-CBDCBHI
pNAN-cmc1g-CBDCMC2 A.oryzae CMC1-CBDCMC2
【0115】
B.培養
実施例1のB. A.oryzaeの形質転換と同様に行った。但し、培養は6日間行い、培養3日目に20% Glucose溶液1mLを添加した。
【0116】
C.活性測定
基質は0.625% Carboxymethyl cellulose(CMC)溶液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))を用いた。基質400μLに酵素液100μLを加えて混合し、37℃で10分間反応させた。以下、実施例1の4.B.b)Salicinに対する活性の項で示した通り生成還元糖量をSomogyi-Nelson法により測定した。ただし、OD500の測定はイオン交換水3.5mLを加えて混合した後、遠心分離(4℃、2000rpm、10min)して不溶性成分を分離した上清について行った。
【0117】
D.SDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
実施例1の2.E.SDS-PAGEと同様に行った。但し、分離ゲルの濃度は15%のものを使用した。
【0118】
E.使用試薬等
酵素発現のために使用した菌株、培地などは以下のとおりである。
a)使用菌株及びプラスミド
菌株: A.oryzae niaD300 ΔniaD
プラスミド pNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2
b)使用培地
実施例1の2.A.oryzaeにおける酵素発現で用いたものと同じである。
c)使用試薬
実施例1の2.A.oryzaeにおける酵素発現で用いたものと同じである。
d)その他の試薬
その他の試薬は特に示さない限り、和光純薬工業社製およびナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0119】
F.結果
上記で構築したpNAN-cmc1g-CBDcbhI、pNAN-cmc1g-CBDcmc2を用いてA.oryzaeを形質転換した。モノスポア化を2〜3回繰り返し、最終的に得られた株はA.oryzae CMC1-CBDCBHIが5株、A.oryzae CMC1-CBDCMC2が7株であった。目的タンパク質の生産を確認するため、得られた各菌株を複数株ずつ培養し、培養上清を用いてCMCに対する活性測定及びSDS-PAGEを行ったところ、A.oryzae CMC1-CBDCBHI株のうちの1株が他の株に比べ培養液当たり約4倍の活性(6日目で20.8unit/mL)を示し、約45kDaの位置に酵素活性に比例した強度のバンドが検出された(図21)。よって、この株をA.oryzae CMC1-CBDCBHI株を代表し以下の実験に用いることとした。一方、A.oryzae CMC1-CBDCMC2株においては、いずれも培養液当たりの活性が低く(6日目で2.82unit/mL)、SDS-PAGEにおいてCMC1-CBDCMC2と思われるタンパク質の生産も確認できなかったため(データは示さず。)、今回は大量生産が確認されたCMC1-CBDCBHIのみを精製し、以下の性質の検討に用いることとした。
【0120】
4.酵素の精製
A.粗酵素液の調製
実施例1の3.A.酵素の精製と同様の方法で種培養を3日間行った後、本培養を4日間行った。但し、本培養の3日目に栄養源の枯渇によるプロテアーゼの生産を抑えるため20% Glucose/5%NaNO3溶液を培地の1/4量加えた。培養後、培養液を菌体ごとストッキングで濾して菌体を大まかに除き、ろ液を遠心分離(4℃、10800rpm、30min)して上清を取得することで菌体を完全に除いた。これを粗酵素液とし、以下の精製に用いた。
【0121】
B.精製
CMC1-CBDCBHIの精製は以下の要領で行った。
粗酵素液に硫酸アンモニウムを加えて30%飽和とし、予め30%飽和硫酸アンモニウム溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))で平衡化したButyl-TOYOPEARL 650 Mに吸着させ、30〜0%飽和の硫酸アンモニウム溶液1Lのリバースリニアグラジェントで溶出した。CMCに対し活性を有する画分を回収し、回収した活性画分に硫酸アンモニウム80%飽和として硫安塩析を行った。遠心分離(4℃、10800rpm、30min)により沈殿を回収後、少量の20mMGlycine-HCl buffer(pH3.5)に溶解し、予め20mM Glycine-HCl buffer(pH3.5)で平衡化したBio-Gel P-2に通して脱塩した。脱塩後、活性画分を回収し、予め20mM Glycine-HCl buffer(pH3.5)で平衡化したSP-TOYOPEARL 650Mに吸着させ、0〜0.3MNaCl 1Lのリニアグラジェントによって溶出した。活性画分を回収後、再び硫酸アンモニウム80%飽和として硫安塩析を行い、遠心分離(4℃、10800rpm、30min)により沈殿を回収後、少量の20mMAcetate buffer(pH5.0)に溶解し、Viva Spin 20を用いて脱塩した。このようにして得られた溶液を精製サンプルとした。
【0122】
C.活性測定
実施例1の2.E.活性測定と同様に行った。
【0123】
D.SDS-PAGE
【0124】
実施例1の2.F.SDS-PAGEと同様に行った。但し、分離ゲルの濃度は12.5%のものを用いた。
【0125】
E.タンパク質量の測定
実施例1の3.F.タンパク質量と同様に行った。
【0126】
F.使用試薬等
酵素の精製に使用した菌株などは次のとおりである。
a)使用菌株
A.oryzae CMC1-CBDCBHI、A.oryzae 8142
b)使用培地
実施例2の2.酵素発現に用いたものと同様である。
c)使用試薬
特に示さない限り、和光純薬工業社製、またはナカライテスク社製の特級試薬を用いた。
【0127】
5.酵素の性質
A.基質特異性の検討
酵素反応後の生成還元糖量を上記実施例2の5.A.基質特異性の検討と同様Somogyi-Nelson法によって測定した。1unitは、1分間当たりに1μmolの還元糖を生成する酵素量と定義した。
a)CMCに対する活性
実施例2の2−2、C.活性測定の項と同様の方法で行った。
b)ASCに対する活性
0.5%ASC懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0)100μLに酵素液100μLを加え、37℃で1時間反応させた。
c)ICOSに対する活性
0.5%ICOS懸濁液(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))100μLに酵素液100μLを加え、37℃で4時間反応させた。
d)Avicelに対する活性
1%Avicel懸濁液200μLに、それぞれΔOD500値が同じ値を示すように希釈した酵素液500μLを加え、37℃で24時間反応させた。
【0128】
B.不溶性基質に対する吸着
a)ASCに対する吸着
実施例2の5.A.基質特異性の検討と同様の方法で行った。
b)Avicelに対する吸着
ASCに対する吸着と同様に行った。ただし、吸着に用いるAvicel量は10mgとした。
【0129】
C.熱安定性試験
実施例2の5.A.基質特異性の検討と同様の方法で行った。但し、酵素液は0.685μMのものを200μL使用し、残存活性はCMCに対する活性を実施例2の2−2、C.活性測定の項と同様の方法で行った。
【0130】
D.pH安定性
pHの調整は実施例1の5.H.pH安定性の項に示したbufferに加え、下記表10に示したbufferを用いて酵素液を10倍希釈することで行った。pH調整を行った酵素液200μL(1.37μM)をエッペンに取り、25℃のエアインキュベーター中で4時間静置した。静置後、pH2.3〜9.6までのものには100mM Acetate buffer(pH5.0)を加えて10倍に希釈することでpH5.0に戻した。一方、pH10.1以上のものについては200 mM Acetate buffer(pH5.0)を加えて7倍に希釈することでpH5.0に戻し、それぞれCMCに対する残存活性を上記実施例2の5.と同様の方法で測定した。
【0131】
【表10】
【0132】
E.使用試薬等
酵素の性質に使用した菌株などは次のとおりである。
a)使用酵素
CMC1、CMC1-CBDCBHI
CMC1は、A.aculeatusのcmc1をpNAN8142ベクターを用いてA.oryzaeで発現させたものであり、小林ら(小林恵理子 : Aspergillus aculeatus No. F-50株由来セルラーゼ成分の再構成系による相乗効果の検証, 大阪府立大学 学士論文, 2005)によって精製されたものである。
b)その他の試薬
実施例1の4.酵素の性質で用いたものと同じである。
【0133】
F.結果
A.oryzaeで生産させたCMC1-CBDCBHIをButyl-TOYOPEARL 650M及びSP-TOYOPEARL 650Mを用いて精製した(図23、表11)。精製したCMC-CBDCBHIをSDS-PAGEに供したところ、約45kDaの位置に単一のバンドが観察され、電気泳動的に均一なタンパク質として精製されたことが確認された(図24)。このサイズはアミノ酸配列から推定される平均分子量32100よりかなり大きいが、これはLinker領域への糖鎖付加によるものと考えられる(Srisodsuk M, Reinikainen T, Penttila M, Teeri TT : Role of the interdomain linker peptide of Trichoderma reesei cellobiohydrolase I in its interaction with crystalline cellulose. Journal of Biological Chemistry 268 : 20756-20761, 1993)。よって、これを精製CMC1-CBDCBHIとし、既に精製されているCMC1(小林恵理子 : Aspergillus aculeatus No. F-50株由来セルラーゼ成分の再構成系による相乗効果の検証, 大阪府立大学 学士論文, 2005)を用い、以下の性質検討を行うこととした。
【0134】
【表11】
【0135】
不溶性セルロースに対する吸着を調べるため、ASCとAvicelに対して吸着検定を行った。その結果、野生型のCMC1はASCに対し、僅かな吸着しか見られなかったが、CMC1-CBDCBHIではCMC1と比べ明らかに吸着量が増加した。また、Avicelに対する吸着では、CMC1はほとんど吸着が見られなかったが、CMC1-CBDCBHIではどちらの高い吸着活性を示した(図25)。両逆数プロットをとって、吸着定数Ka及び吸着最大量Bmaxを算出したところ、ASCに対するKa及びBmaxはそれぞれ、CMC1では0.77×106M-1、0.32×10-9mol/mg-ASCとなったのに対し、CMC1-CBDCBHIでは27×106M-1、0.97×10-9mol/mg-ASCとなり、親和性が約35倍に、最大吸着量が約3倍に高まった。さらに、Avicelに対する吸着においてはCMC1ではほとんど吸着が見られなかったのに対し、CMC1-CBDCBHIではKaが1.2×106M-1、Bmaxが0.13×10-9mol/mg-Avicelとなった。これらの結果より、CBD付加により不溶性基質への親和性が向上したことが確認された(表12)。
【0136】
次に、両酵素の基質特異性を調べた。可溶性基質であるCMCに対する両酵素の比活性には、ほとんど差がみられなかった。一方、不溶性基質であるICOS、ASC、Avicelに対する活性はCMC1とCMC1-CBDCBHIの間に有意な差が見られた。ASCを基質として37℃で1時間反応させ、酵素活性を算出したところ、CMC1及びCMC1-CBDCBHIの活性はそれぞれ5.79unit/μmol、6.65unit/μmolとなり、CMC1-CBDCBHIはCMC1の1.2倍となった。また、ICOSに対し37℃で4時間反応させ、酵素活性を算出したところCMC1及びCMC1-CBDCBHIの活性はそれぞれ1.54unit/μmol、2.78unit/μmolとなり1.8倍の活性となった。さらに、結晶セルロースであるAvicelに対して、等濃度の還元糖量を生成するようCMC1及びCMC1-CBDCBHIの酵素濃度を調整し、37℃で24時間反応させたところ、CMC1では0.00597unit/μmolとなったのに対し、CMC1-CBDCBHIでは0.0263nit/μmolとなり、4.4倍の活性が得られた(表13)。これら不溶性基質に対する分解活性の向上は、CBDが付加されたことによる不溶性基質への親和性の増加によって、触媒ドメインが基質に作用できる領域が増加したことに起因すると考えられた。
【0137】
精製されたCMC1-CBDCBHI及びCMC1について酵素の安定性について調べたところ、CMC1に比べCMC1-CBDCBHIの熱安定性が僅かに低下していた(図26A)。等モル濃度に調製した両酵素を30〜67.5の任意の温度で30分間インキュベートし、急冷後、CMCに対する活性を測定した。その結果、野生型CMC1は62.5℃まで80%以上の活性を保持していたのに対し、CMC1-CBDCBHIは同温度での残存活性は32%となった。この熱安定性の低下は触媒ドメインのC末端へのCBD付加により、耐熱性酵素によく見られるN末端とC末端の結合やルーズエンド構造の固定(Voutilainen SP, Boer H, Alapuranen M, Janis J, Vehmaanpera J, Koivula A : Improving the thermostability and activity of Melanocarpus albomyces cellobiohydrolase Cel7B. Appl Microbiol Biotechnol 83 : 261-272, 2009)のような活性部位を安定化するような構造に変化をもたらし、熱安定性が低下したものと考えられる。一方、pH安定性については両酵素の間に差は見られなかった。任意のpHで25℃、4時間インキュベートし、pH5.0に戻してCMCに対する残存活性を測定したところ、両者は共にpH2〜9.5の間で安定であり、pH10以上で不安定化した(図26B、表12)。
【0138】
【表12】
【0139】
【表13】
【0140】
以上の結果より、CMC1にCBHI由来のLinker及びCBDを付加することにより不溶性基質への親和性の向上、および分解活性の向上が達成され、CMC1の高機能化が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によると、セルロース結合ドメインを有し、セルラーゼ活性の高い新規なセルラーゼが提供される。このセルラーゼを用いることによって従来よりもさらに効率的なバイオマスの糖化を行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメインを含む領域又はA.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインを含む領域と、当該領域に直接的又は間接的に付加されたA.aculeatus由来のセルロース結合ドメインを有するセルラーゼ。
【請求項2】
前記セルロース結合ドメインが、A.aculeatus由来のセロビオハイドロラーゼI又はA.aculeatus由来のセロビオハイドロラーゼIIのセルロース結合ドメインである請求項1に記載のセルラーゼ。
【請求項3】
前記セルロース結合ドメインが、A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメインを含む領域又はA.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインを含む領域のC末端側及び/又はN末端側に付加された請求項1又は2のセルラーゼ。
【請求項4】
前記A.aculeatusは、A.aculeatus No.F-50株である請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルラーゼ。
【請求項5】
配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、ないし当該アミノ酸配列において1ないし数個の欠失・置換・付加されたアミノ酸配列を有しかつセルラーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号1〜4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11の何れかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6及び請求項7に記載の配列を有するポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターで形質転換された形質転換細胞。
【請求項10】
前記形質転換細胞が、大腸菌、枯草菌、糸状菌、酵母の何れかである請求項9に記載の形質転換細胞。
【請求項11】
請求項1〜4の何れか1項に記載のセルラーゼ、又は請求項9若しくは10に記載された形質転換細胞を用いて植物系バイオマスを糖化する方法。
【請求項1】
A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメインを含む領域又はA.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインを含む領域と、当該領域に直接的又は間接的に付加されたA.aculeatus由来のセルロース結合ドメインを有するセルラーゼ。
【請求項2】
前記セルロース結合ドメインが、A.aculeatus由来のセロビオハイドロラーゼI又はA.aculeatus由来のセロビオハイドロラーゼIIのセルロース結合ドメインである請求項1に記載のセルラーゼ。
【請求項3】
前記セルロース結合ドメインが、A.aculeatus由来のβ−グルコシダーゼ1の触媒ドメインを含む領域又はA.aculeatus由来のカルボキシメチルセルラーゼ1の触媒ドメインを含む領域のC末端側及び/又はN末端側に付加された請求項1又は2のセルラーゼ。
【請求項4】
前記A.aculeatusは、A.aculeatus No.F-50株である請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルラーゼ。
【請求項5】
配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、ないし当該アミノ酸配列において1ないし数個の欠失・置換・付加されたアミノ酸配列を有しかつセルラーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号1〜4、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11の何れかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6及び請求項7に記載の配列を有するポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターで形質転換された形質転換細胞。
【請求項10】
前記形質転換細胞が、大腸菌、枯草菌、糸状菌、酵母の何れかである請求項9に記載の形質転換細胞。
【請求項11】
請求項1〜4の何れか1項に記載のセルラーゼ、又は請求項9若しくは10に記載された形質転換細胞を用いて植物系バイオマスを糖化する方法。
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図1】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2011−223962(P2011−223962A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99291(P2010−99291)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り A.第9回糸状菌分子生物学コンファレンス (1)刊行物名 第9回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集 (2)発行日 平成21年10月23日 (3)発行者 糸状菌分子生物学研究会 (4)該当ページ 第61ページ (5)公開者 尾山真一、谷修治、炭谷順一、川口剛司 B.日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会[東京] (1)刊行物名 日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集 (2)発行日 2010年3月5日 (3)発行者 社団法人 日本農芸化学会 (4)該当ページ 第219ページ (5)公開者 尾山真一、谷修治、炭谷順一、川口剛司
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り A.第9回糸状菌分子生物学コンファレンス (1)刊行物名 第9回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集 (2)発行日 平成21年10月23日 (3)発行者 糸状菌分子生物学研究会 (4)該当ページ 第61ページ (5)公開者 尾山真一、谷修治、炭谷順一、川口剛司 B.日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会[東京] (1)刊行物名 日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集 (2)発行日 2010年3月5日 (3)発行者 社団法人 日本農芸化学会 (4)該当ページ 第219ページ (5)公開者 尾山真一、谷修治、炭谷順一、川口剛司
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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