説明

新規テルチオフェン誘導体およびその重合体

【課題】簡便かつ効率よく製造できる、優れた電子ドナー・アクセプター性を有する新規な高分子化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)


(式(1)中、R1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表される化合物およびこれを用いて得られる重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規テルチオフェン誘導体およびその重合体、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共役ポリマーは、高いキャリア移動を示すため、電子デバイスやポリマー太陽電池などの材料として応用されている。また、共役ポリマーは、共役部分の長さにより様々な色を有するため、有機ELなどの発光材料としても用いられている。
【0003】
共役ポリマーの中でもポリチオフェンは、分子の構造が高い平面性を有し、電子が豊富な構造をしているため、高い導電性を有する。従って、ポリチオフェンは、電子デバイスおよび太陽電池などの機能性ポリマー材料として有用とされており(特許文献1)、ポリチオフェンの原料としては、ジハロチオフェン誘導体が頻繁に用いられている。
【0004】
一方、近年、電子吸引性および電子供与性を有するモノマーとの共重合により得られる電子ドナー・アクセプター性ポリマーが、有機薄膜太陽電池の材料として用いられている。当該電子ドナー・アクセプター性ポリマーは、分子内間電荷移動錯体を形成し可視光の長波長側の光を吸収することが可能となり、太陽電池の変換効率を向上させることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−155648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの電子ドナー・アクセプター性ポリマーは、光変換効率の点で十分満足のいくものとはいえなかった。
本発明は、簡便かつ効率よく製造できる、優れた電子ドナー・アクセプター性を有する新規な高分子化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、ポリチオフェンについて鋭意検討したところ、テルチオフェン誘導体とシアノ化合物とを反応させることにより得られるジハロテルチオフェン骨格を有する特定の化合物と特定のトリアルキルスズ化合物とを、遷移金属触媒の存在下でスティルカップリングさせることにより、簡便かつ効率良く、優れた電子ドナー・アクセプター性を有する新規な共役ポリマーが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、1)本発明は、下記式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、R1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を提供するものである。
【0011】
2)また、本発明は、下記式(4)
【0012】
【化2】

【0013】
(式(4)中、R1、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示す。)
で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高分子化合物は、共役ポリマーであり、かつ優れた電子ドナー・アクセプター性を有する。従って、本発明によれば、優れた電子デバイス、ポリマー太陽電池、有機EL、色素増感太陽電池等の材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】化合物3の1H−NMR測定結果を示す図である。
【図2】化合物5の1H−NMRスペクトル1H−NMR測定結果を示す図である。
【図3】高分子化合物PT1のIRスペクトル測定結果を示す図である。
【図4】高分子化合物PT2のIRスペクトル測定結果を示す図である。
【図5】高分子化合物PT1の1H−NMR測定結果を示す図である。
【図6】高分子化合物PT2の1H−NMR測定結果を示す図である。
【図7】高分子化合物PT1のUV−visの測定結果を示す図である。
【図8】高分子化合物PT2のUV−visの測定結果を示す図である。
【図9】高分子化合物PT1およびPT2のTGA曲線の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
式(1)中、R1において「炭素数1〜20の炭化水素基」としては、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基、および炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられる。なお、炭化水素基は飽和であっても不飽和であってもよい。
【0017】
上記炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基等が挙げられ、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基としては、例えば、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルケニル基等が挙げられる。炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェントラニル基等が挙げられる。
【0018】
上記炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がさらに好ましい。当該炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0019】
前記炭素数2〜20のアルケニル基としては、炭素数2〜18のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜12のアルケニル基がより好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基がさらに好ましい。好適な具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられる。
【0020】
前記炭素数2〜20のアルキニル基としては、炭素数2〜18のアルキニル基が好ましく、炭素数2〜6のアルキニル基がより好ましい。好適な具体例としては、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
【0021】
前記炭素数3〜20のシクロアルキル基としては、炭素数3〜7のシクロアルキル基が好ましく、好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、前記炭素数5〜20のシクロアルケニル基としては、炭素数5〜7のシクロアルケニル基が好ましく、好適な具体例としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0022】
また、前記「炭素数1〜20の炭化水素基」に置換しうる基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基;アミノ基;オキソ基;tert−ブチルカルボニル基等の炭素数2〜10のアルキルカルボニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。これら置換基の数は、1またはそれ以上であり得、置換基を2以上有する場合、当該置換基は同一、または異なっていてもよい。
【0023】
1において、「アルコキシカルボニル基」としては、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素数2〜14のアルコキシカルボニル基がより好ましく、炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基がさらに好ましく、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基が特に好ましい。好適な具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等が挙げられ、このうち、メトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0024】
1において、「アルケニルオキシカルボニル基」としては、炭素数3〜20のアルケニルオキシカルボニル基が好ましく、炭素数3〜14のアルケニルオキシカルボニル基がより好ましく、炭素数3〜8のアルケニルオキシカルボニル基がさらに好ましい。好適な具体例としては、ビニルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、ブテニルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0025】
また、上記R1としては、反応効率および電子ドナー・アクセプター性の点で、シアノ基、アルコキシカルボニル基が好ましい。
【0026】
1およびX2において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、反応効率の点で、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
【0027】
また、式(1)において、テルチオフェンの置換基は、下記式(1−a)
【0028】
【化3】

【0029】
のように、5位、3’位、5’’位にそれぞれ置換しているのが好ましい。
【0030】
本発明の式(1)で表される化合物は、次の反応式(A)に従って製造できる。
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、R2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、R1、X1およびX2は前記と同じ。)
【0033】
上記反応(A)は、テルチオフェン骨格を有する式(2)で表される化合物に式(3)で表されるシアノ化合物を反応させて、式(1)で表される本発明化合物を得る反応である。
【0034】
式(2)で表される化合物としては、目的とする式(1)で表される化合物に対応するX1およびX2を有する化合物であればよく、式(2)で表される化合物において、X1、X2および−CHOは、5’’位、5位、3’位にそれぞれ置換しているのが好ましい。
好適な具体例としては、5,5''-ジブロモ-2,2':5',2''-テルチオフェン-3'-カルバルデヒド、5,5''-ジヨード-2,2':5',2''-テルチオフェン-3'-カルバルデヒド等が挙げられる。
【0035】
また、式(3)中、R2において、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基」、「アルコキシカルボニル基」および「アルケニルオキシカルボニル基」としては、R1と同様のものが挙げられる。
式(3)で表される化合物としては、マロノニトリル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、2−シアノアクリル酸エチル、シアノ酢酸アリル等が挙げられ、得られる高分子化合物の電子ドナー・アクセプター性の点で、マロノニトリル、シアノ酢酸メチルが好ましい。式(3)で表される化合物の使用量は、式(2)で表される化合物に対し、1〜5モル当量が好ましく、1〜2モル当量がより好ましい。
なお、式(2)および式(3)で表される化合物は、単独または組み合わせて使用でき、いずれも公知の方法により製造することができる。
【0036】
また、上記反応(A)は、溶媒存在下、溶媒非存在下いずれでも行うことができるが、円滑な反応性の点で、溶媒存在下で行うことが好ましい。当該溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、エタノール、これらの混合溶媒等が挙げられ、アセトニトリルが特に好ましい。溶媒の使用量は、式(2)および(3)で表される化合物の濃度が0.05〜0.5mol/L程度となる量が好ましい。
【0037】
また、上記反応(A)は触媒存在下または非存在下で行うことができ、触媒存在下で行うのが好ましい。当該触媒としては、ピペリジン、トリフェニルポスフィン、エチレンジアミン等の塩基が挙げられ、ピペリジンが特に好ましい。触媒の使用量は、式(2)で表される化合物に対し、0.005〜0.1モル当量が好ましい。
【0038】
反応温度は、例えば、0〜200℃、好ましくは30〜100℃であり、反応時間は、例えば、5分〜12時間、好ましくは5分〜5時間である。
【0039】
かくして得られる式(1)で表される化合物は、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、各種溶媒による抽出、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて、反応系から、単離、精製することができる。
【0040】
式(4)で表される化合物は、次の反応式(B)のスティルカップリングにより製造できる。
【0041】
【化5】

【0042】
(式中、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示し、R1、X1およびX2は前記と同じ。)
【0043】
上記反応(B)は、ジハロテルチオフェン骨格を有する式(1)で表される化合物に、式(5)で表されるトリアルキルスズ化合物を、遷移金属触媒の存在下でスティルカップリングさせ、式(4)で表される高分子化合物を得る反応である。
【0044】
上記R3およびR4において、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基」、「アルコキシカルボニル基」および「アルケニルオキシカルボニル基」としては、R1と同様のものが挙げられる。
3およびR4としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基が好ましく、好適な具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられるが、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜18のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜12のアルキル基がさらに好ましい。
炭素数1〜20のアルキル基の好適な具体例としては、前記と同様のものが挙げられるが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基が好ましく、n−オクチル基が特に好ましい。
【0045】
上記R5およびR6において、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基」としては、R1と同様のものが挙げられる。
また、R5およびR6としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基が好ましく、好適な具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜16のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がさらに好ましい。炭素数1〜20のアルキル基の好適な具体例としては、前記と同様のものが挙げられるが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0046】
式(5)で表される化合物としては、2,5−ビス(トリメチルスタンニル)−3,4−ジオクチルチオフェン、2,5−ビス(トリブチルスタンニル)−3,4−ジオクチルチオフェン、等が挙げられる。式(5)で表される化合物の使用量は、式(1)で表される化合物に対し、0.1〜2モル当量が好ましく、0.5〜1モル当量がより好ましい。0.1モル当量以上、2モル当量以下の方が、共重合化が進行しやすくなる。
なお、式(5)で表される化合物は、単独または組み合わせて使用でき、いずれも公知の方法により製造することができる。
【0047】
上記反応(B)に用いる遷移金属触媒としては、パラジウムまたはパラジウム化合物、ニッケルまたはニッケル化合物、コバルトまたはコバルト化合物、鉄または鉄化合物が挙げられる。当該遷移金属触媒の使用量は、式(1)で表される化合物に対し、0.001〜0.5モル当量が好ましく、0.01〜0.05モル当量がより好ましい。
上記パラジウム化合物としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、酸化パラジウム、硫化パラジウム、セレン化パラジウム、二硫化パラジウム、四塩化パラジウム、水酸化パラジウム(II)、二塩化パラジウム、二テルル化パラジウム等が挙げられる。
【0048】
また、上記ニッケル化合物としては、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、シアン化ニッケル、ヨウ化ニッケル、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、二フッ化ニッケル、硫化ニッケル、ケイ化二ニッケル、ほう化ニッケル、ヒ化ニッケル、ブレイソープタイト、水素化ニッケル等が挙げられる。
【0049】
上記コバルト化合物としては、例えば、臭化第一コバルト、ジクロロコバルト(II)、コバルトヨージド、フッ化コバルト、コバルト(II)ジヒドロスルフィド、酒石酸コバルト(II)、シコポライト、ケイ化二コバルト、セレン化コバルト、リン化コバルト、水酸化コバルト、塩化コバルト(III)、コバルト(II)、コバルト(II)ジエトキシド、コハク酸コバルト(II)等が挙げられる。
【0050】
鉄化合物としては、例えば、シュウ酸鉄(II)、二ギ酸鉄(II)、塩化第二鉄、塩化鉄(II)、二臭化鉄、フッ化第二鉄、一酸化鉄、一硫化鉄、二酢酸鉄(II)、コハク酸鉄(II)、二ヨウ化鉄、二フッ化鉄、水酸化鉄、セレン化鉄(II)、リン化鉄、ゲータイト、ホウ化鉄等が挙げられる。
【0051】
反応(B)は、溶媒存在下、溶媒非存在下いずれでも行うことができるが、円滑な反応性の点で、溶媒存在下で行うことが好ましい。当該溶媒としては、特に限定されないが、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;THF等のエーテル系溶媒;これらの混合溶媒等が挙げられる。溶媒の使用量は、式(1)および(5)で表される化合物の濃度が0.01〜0.2mol/L程度となる量が好ましい。反応温度は、0〜200℃、特に50〜150℃が好ましい。
【0052】
反応(B)は、円滑なスティルカップリング促進の点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0053】
上記反応(B)により得られる式(4)で表される高分子化合物は、共役ポリマーである。
【0054】
本発明の高分子化合物は、さらに式(4)以外の構造単位を有する共重合体であってもよく、共重合モノマーとしては、例えば、カーバゾル、フルオレン、ピロール、フラン等が挙げられる。
【0055】
得られる式(4)で表される高分子化合物は、共役ポリマーであり、その重量平均分子量(Mw)は、1,000〜500,000、特に10,000〜100,000が好ましい。また、本発明の高分子化合物のMw/Mnとしては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。高分子化合物(1)は共役ポリマーであり、側鎖の置換基を変化させることにより、種々の色にすることができることから、有機ELなどの発光材料として、また電子デバイスなどにも応用可能である。
式(4)で表される高分子化合物は、優れた電子ドナー・アクセプター性を有する。従って、当該化合物は高い光変換効率を有し、色素増感太陽電池等として有用である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
合成例1 2,2':5',2''-テルチオフェン-3'-カルバルデヒド(化合物1)の合成
【0057】
【化6】

【0058】
2,5-ジブロモ-3-チオフェンカルバルデヒド (2.00 g, 7.41 mmol)、2-トリブチルスズチオフェン(6.91 g, 18.53 mmol)およびトルエン(35 mL)を混合し、この混合液にPd(PPh3)4 (116mg, 0.01 mmol)を加え24時間還流した。得られた溶液の有機溶媒を留去し、次いで、短いシリカゲルカルムクロマトグラフィによりろ過し不溶物を除去した。得られたろ液について、溶媒を留去し、次いでシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)にて精製し、黄色い固体状の化合物1(1.65 g)を収率81%で得た。
【0059】
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 7.55 (dd, J = 3.6 and 4.8 Hz, th-H, 1H),7.17 (dd, J = 3.6 and 5.2 Hz, th-H, 1H), 7.23 (dd, J = 1.2 and 3.6 Hz, 1H), 7.30 (dd, J = 1.2 and 5.2 Hz, th-H, 1H), 7.32 (dd, J = 1.2 and 3.6 Hz, th-H, 1H), 7.51 (dd, J = 1.2 and 5.2 Hz, th-H, 1H), 7.57 (s, th-H, 1H), 10.09 (s, -CHO, 1H)
【0060】
合成例2 5,5''-ジブロモ-2,2':5',2''-テルチオフェン-3'-カルバルデヒド(化合物2)の合成
【0061】
【化7】

【0062】
前記化合物1 (3.50 g, 12.7 mmol)、N−ブロモシンクイミド(4.62 g, 26.0 mmol)およびクロロホルム(100 mL)を混合し、室温で18時間攪拌した。その後、この混合液にクロロホルム(200 mL)に注ぎ、得られた溶液を5%水酸化ナトリウム水溶液(50 mL)で2回洗浄し、次いで水(50 mL)で2回洗浄した。得られた溶液を静置させ有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた固体をクロロホルム/メタノール溶媒を用い再結晶にて黄色い固体状の化合物2(4.2 g)を収率76%で得た。
【0063】
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 6.97 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H),7.01 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H), 7.08 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 7.13 (d, J = 3.6 Hz, th-H, 1H), 7.48 (s, th-H, 1H), 10.02 (s, -CHO, 1H)
【0064】
合成例3 3'-(2,2-ジシアノエテニル)-5,5''-ジブロモ-2,2':5',2''-テルチオフェン(化合物3)の合成
【0065】
【化8】

【0066】
前記化合物2 (1.50 g, 3.45 mmol)、マロノニトリル(0.27 g, 4.15 mmol)およびアセトニトリル(40 mL)を混合し、この混合液にピぺリジン(5 uL)を加え30分間還流した。その後、室温まで温度を下げ、ろ過した。得られた固体をクロロホルム/メタノール溶媒を用いて再結晶し、赤い固体状の目的生成物である化合物3(1.40 g)を収率84%で得た。
【0067】
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 6.94 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H),7.03 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H), 7.04 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 7.19 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H), 7.77 (s, th-H, 1H), 7.94 (s, C=CH, 1H)
【0068】
合成例4 シアノ酢酸メチル(化合物4)の合成
【0069】
【化9】

【0070】
シアノ酢酸(5.00 g, 58.8 mmol)、トルエン(50 mL)およびメタノール(15 mL)を混合し、この混合液に硫酸(0.2 mL)を加え、ディーンスターク装置を用いて水を除去しながら16時間還流した。得られた溶液の溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:ヘキサン=1:2)にて精製し無色液体状の化合物4(4.8 g)を収率88%で得た。
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 3.48 (s, -CH2-, 2H),3.84 (s, -CH3, 3H)
【0071】
合成例5 2-シアノ-3-(5,5''-ジブロモ-2,2';5',2''-テルチオフェン-3'-イル)-アクリル酸メチル(化合物5)の合成
【0072】
【化10】

【0073】
前記化合物2(1.00 g, 2.30 mmol)、化合物4(0.30 g, 3.00 mmol)およびアセトニトリル(30 mL)を混合し、この混合液にピぺリジン(5 μL)を加え1時間還流した。得られた混合液の温度を室温まで下げ、ろ過した。得られた固体をクロロホルム/メタノール溶媒を用いて再結晶し、オレンジ色の固体状の化合物5(0.96 g)を収率81%で得た。
【0074】
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 3.94 (s, -CH3, 3H), 6.94 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H),7.02 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H), 7.03 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 7.15 (d, J = 4.0 Hz, th-H, 1H), 8.05 (s, th-H, 1H), 8.32 (s, C=CH, 1H)
【0075】
合成例6 高分子化合物PT1の合成
【0076】
【化11】

【0077】
化合物6(0.32 g, 0.50 mmol)、化合物3(0.24 g, 0.50 mmol)およびPd(PPh3)4(11.6 mg, 0.010 mmol)を混合し、この混合物を10分間真空中で乾燥した。その後、この混合物にトルエン(10 mL)とDMF(2.5 mL)を加えて10分間アルゴンガスでバブリングした後、120℃で48時間攪拌した。混合液の温度を室温に戻し300mLのヘキサンで再沈殿を行った。再沈殿により得られた沈殿をろ過により回収し、次いでシリガゲルを用いたカラムクロマトグラフィ―(溶離液:THF)により精製することで、目的の高分子化合物PT1(0.19 g)を黒色固体として収率61%で得た。
【0078】
Mw 2.2×104, Mw/Mn 3.3
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 0.89 (br, -CH3, 6H), 1.18-1.49 (br, -CH2-, 16H),1.55-1.80 (br, -CH2-, 8H), 2.51-2.79 (m, -CH2-, 4H), 6.90-7.26 (m, th-H, 4H), 7.91 (br, th-H, 1H), 8.02 (br, C=CH, 1H)
【0079】
合成例7 高分子化合物PT2の合成
【0080】
【化12】

【0081】
化合物6 (0.32 g, 0.50 mmol)、化合物4 (0.26 g, 0.50 mmol)およびPd(PPh3)4 (11.6 mg, 0.010 mmol) を混合し、この混合物を10分間真空中で乾燥した。得られた混合物にトルエン(10 mL)とDMF(2.5 mL)を加え、この溶液を10分間アルゴンガスでバブリングした後、120℃で48時間攪拌した。その後、溶液を室温に戻し300mLのヘキサンで再沈殿を行った。再沈殿により得られた沈殿をろ過により回収し、次いでシリガゲルを用いたカラムクロマトグラフィ―(溶離液:THF)により精製することで、目的の高分子化合物PT2(0.21 g)を黒色固体として収率63%で得た。
【0082】
Mw 2.3×104, Mw/Mn 3.8
1H NMR (CDCl3): δ (ppm) 0.88 (br, -CH3, 6H), 1.15-1.52 (br, -CH2-, 16H),1.68 (br, -CH2-, 8H), 2.51-2.85 (m, -CH2-, 4H), 3.95 (s, -CH3, 3H), 6.90-7.24 (m, th-H, 4H), 8.10 (br, th-H, 1H), 8.48 (br, C=CH, 1H)
【0083】
このようにして得られた高分子化合物PT1またはPT2の1.0×10-5Mクロロホルム溶液を調製し、JASCO V570 スペクトルメーターでIRスペクトル測定を行った。クロロホルム溶液中で紫外可視吸収スペクトル測定結果、高分子化合物PT1が439nm、PT2が452nmに最大吸収波長が観測された。結果を図3及び4に示す。
【0084】
また、上記高分子化合物PT1,PT2の10mg/mL濃度のクロロホルム溶液を調整しガラス基板上に垂らした後、スピンコーターを用いて製膜した。得られた膜をJASCO V570スペクトルメーターでUV-vis測定を行った。フィルムの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ最大吸収波長は高分子化合物PT1が474nm、高分子化合物PT2が466nmに観測された。そして、600nmと560nmに肩ピークがそれぞれ観測された。結果を図7及び8に示す。
【0085】
UV-vis測定条件を以下に記す。
ポリマー溶液の測定条件
溶媒:クロロホルム
濃度:1.0X10-5M
測定装置: JASCO V570 spectrometer
ポリマー膜の測定条件
溶媒:クロロホルム
濃度:10mg/mL
製膜方法:スピンコーターによる製膜(700 rpmで10秒、3000rpmで60秒)
測定装置:JASCO V570 spectrometer
【0086】
ポリマー膜について、熱重量分析(TGA)を行った。TGAは、セイコーインスツルメント社製TG−DTA6200により、アルミパンを用いて、50mL/minの窒素気流中10℃/minで昇温させて測定した。測定結果を図9に示す。
TGA測定結果、高分子化合物PT1は405℃、高分子化合物PT2は319℃にTd5(5%重量減少温度)が観測された。そして、二つのポリマーは250℃まで熱分解せず安定であることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表される化合物。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

(式(2)中、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表される化合物と、下記式(3)
【化3】

(式(3)中、R2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示す。)
で表される化合物とを反応させる工程を含む請求項1記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
下記式(4)
【化4】

(式(4)中、R1、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示す。)
で表される繰り返し単位を有する高分子化合物。
【請求項4】
下記式(1)
【化5】

(式(1)中、R1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、X1およびX2はそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表される化合物と、下記式(5)
【化6】

(式(5)中、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基またはアルケニルオキシカルボニル基を示し、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。)
で表される化合物とを反応させる工程を含む請求項3記載の高分子化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−144156(P2011−144156A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8446(P2010−8446)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】