説明

新規乳酸菌、及びその利用

【課題】食品由来の素材であって、食品中の細菌の増殖を抑制し、変質、腐敗を防ぐために、食品保存効果の高い素材を提供する。
【解決手段】漬け物を細かく刻み、生理食塩水と混合したMRS培地から分離した、新規乳酸菌であるラクトバチルス・プランタラムMIB4409(FERM P−21820)株の培養上清を、食品中の細菌の増殖を効果的抑制に使用する。上記菌株自体、上記菌株の培養物、上記菌株の生産物、それらの粉末化物は、食品の保存剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の新規菌株、食品の保存剤、食品の保存方法、及び食品中の細菌の増殖抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品中の細菌の増殖を抑制し、変質、腐敗を防ぐために保存料が用いられている。現在、用いられている食品保存料として、安息香酸ナトリウム、ε−ポリリジン、しらこ蛋白抽出物、ソルビン酸カリウム又はナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、ツヤプリシン(ヒノキチオール)などが挙げられる。
しかし、合成された化合物は、安全性についての消費者のイメージが悪い。従って、長年食されてきた食品由来の素材であって、食品の変質、腐敗を効果的に抑制できる素材が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、食品由来の素材であって、食品保存効果の高い素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、乳酸菌の新規菌株であるラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) MIB4409(FERM P−21820)株の培養上清が、飲食品中の細菌の増殖を効果的に抑制できることを見出した。
【0005】
本発明は、上記知見に基づき、さらに研究を重ねて完成されたものであり、以下の、乳酸菌菌株、食品保存剤、食品の保存方法、食品中の細菌の増殖抑制方法を提供する。
項1. ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株。
項2. 以下の(a)〜(d)の何れかを含む食品保存剤。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物
項3. 以下の(a)〜(d)の何れかの存在下で食品を保存する、食品の保存方法。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物
項4. 以下の(a)〜(d)の何れかを食品に添加する、食品中の細菌の増殖抑制方法。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物
【発明の効果】
【0006】
乳酸菌の新規菌株であるラクトバチルス・プランタラム MIB4409株の菌体自体、培養物、生産物、又はそれらの乾燥物を、食品に添加することにより、細菌の増殖を効果的に抑制することができる。また、乳酸菌は、長年、乳製品などの成分として食されてきたため、安全性が高いと認識されている。特に植物性乳酸菌はプロバイオティクスの効果が注目されており、消費者に受け入れられ易い。従って、ラクトバチルス・プランタラム MIB4409株の菌体、培養物、生産物、及びそれらの乾燥物は、食品保存剤として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のラクトバチルス・プランタラム MIB4409株と、既知のラクトバチルス・プランタラムSFCB2−7c株、及びHDRS1株との間で、それぞれ、16SrRNA/DNAの塩基配列を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
(I)新規乳酸菌株
本発明の新規乳酸菌の菌株は、ラクトバチルス・プランタラム MIB4409株である。この菌株は、FERM P−21820株として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(郵便番号305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に寄託済みである(受託日:平成21年6月22日)。
【0009】
16SrRNA/DNAの塩基配列
この菌株の16SrRNAをコードするDNAの部分塩基配列を既知のラクトバチルス・プランタラム菌株である、SFCB2−7c株、及びHDRS1株との間でそれぞれ比較した結果を図1に示す。比較は、NCCB(オランダ)が行った。図1の上のアラインメント図がSFCB2−7c株との比較であり、下のアラインメント図がHDRS1株との比較である。また、各アラインメント図の上段がMIB4409株の塩基配列であり、下段が比較対照の塩基配列である。
図1に示される通り、MIB4409株の16SrRNAをコードするDNAは、既存のラクトバチルス・プランタラム菌株のそれと完全一致している。このことから、MIB4409株がラクトバチルス・プランタラムに属する菌株であることが分る。
【0010】
また、MIB4409株の形態、及び特性を以下に示す。
形態 桿菌
カタラーゼ −
グルコースからのガス生成 −
シュクロースからのデキストラン生成 −
15℃での生育 +
45℃での生育 −
生成乳酸の光学異性 DL
7.5%食塩での生育 +
10%食塩での生育 −
糖類の資化性
D−フルクトース +
ラクトース +
マルトース +
スクロース +
トレハロース +
デンプン −
【0011】
(II)食品保存剤
本発明の食品保存剤は、以下の(a)〜(d)の何れかを含むものである。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物
上記した本発明の菌株は、そのまま用いてもよいが、緩衝液や食塩水などに懸濁した懸濁液として用いてもよい。菌株は生菌の状態で用いればよい。
培養物は、上記した本発明の菌株を公知の培地を用いて培養した菌体、菌液、又は菌液の濃縮物とすることができる。このような公知の培地として、それには限定されないが、MRS培地(メルク社)、LBS培地(日本BD社、Rogosa社、Difco社)、GAMブイヨン(日水製薬)、TYG培地、ラクチック寒天培地、M17培地、グルコース酵母エキス寒天培地、酸性トマトブロス培地等が挙げられる。または、米、小麦、とうもろこし、馬鈴薯、大豆等の穀物類;トマト、人参、キャベツ、キュウリ、大根、白菜等の野菜類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉等の肉類;いわし、さんま、アジ、タイ、ブリ、太刀魚、カレイ、ヒラメ等の魚類;牛乳、チーズ、ヨーグルト等の乳製品類をそのまま、あるいはその粉砕物、ペースト、ジュース状にした物を培地として培養してもよい。穀物類、野菜類、肉類、魚類、乳製品類は単独で用いても、これらのブレンドを用いても構わない。上記培養物は、例えば、約15〜45℃で、約12時間〜10日間の培養により得られるものとすることができる。培養物は、加熱滅菌して用いることもできる。
【0012】
本発明の菌株の生産物としては、菌を増殖させた培養液の上清や、菌を緩衝液や培地などの液体中で生存させた後の液の上清などを用いることができる。菌株の生産物は、例えば、約15〜45℃で、約12時間〜10日間の菌の増殖培養又は生育により得られるものとすることができる。これらの上清中には本発明の菌株の生産物(例えば発酵生産物)が含まれる。菌株の生産物は、そのまま、又は濃縮して用いることができる。菌株の生産物は、加熱滅菌して用いることもできる。
保存剤は、上記(a)〜(d)だけを含んでいてもよいが、その他の添加物とともに液状または固形状の製剤としてもよい。液剤とする場合は、例えば、緩衝剤、増粘剤などとともに製剤化すればよい。
また、固形剤とする場合は、食品に通常用いられる賦形剤とともに錠剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤などの剤形に製剤化すればよい。賦形剤としては、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンのような結合剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコールのような潤沢剤;ジャガイモ澱粉のような崩壊剤;ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤等が挙げられる。
【0013】
(III)食品の保存方法
本発明の食品の保存方法は、上記した(a)〜(d)の何れかの存在下で食品を保存する方法である。
食品の種類は特に限定されず、固形状又は半固形状の食品の他、液状又は流動状の飲料も本発明における食品に含まれる。また、非加熱(生)食品の他、加熱済み食品も対象となる。
本発明の対象となる食品の具体例として、漬け物;弁当;米飯;餅;パン類;生又は半生の麺類;味噌、醤油、ソース、味醂、酢のような調味料;総菜類;佃煮、ふりかけ、塩昆布、レトルト食品、缶詰食品のような保存総菜;竹輪、蒲鉾、はんぺんのような魚練り製品;ハム、ソーセージのような食肉加工品;ジャム、ピーナツジャム、蜂蜜などのパン用調味料;バター、チーズ、ヨーグルトのような乳製品;和菓子、ケーキ、クッキー、飴のような菓子類;茶飲料、果汁飲料、乳飲料、スポーツドリンクのような飲料などが挙げられる。中でも、生食品であるために細菌が増殖し易い漬け物、生麺などが好適であり、中でも、比較的長期保存される点で、漬け物が好ましい。また、弁当や、それに含まれる総菜、米飯のように、常温保存される食品も好適な対象である。
上記した(a)〜(d)の成分の使用量、及び食品の保存期間は、食品の種類に応じて、所望の保存効果が得られる量、及び期間を適宜定めることができる。
【0014】
(IV)食品中の細菌の増殖抑制方法
本発明の食品中の細菌の増殖抑制方法は、食品に上記した(a)〜(d)の何れかを添加する方法である。
食品の種類、(a)〜(d)の成分の使用量は、「(III)食品の保存方法」の項目で述べた通りである。
本発明により、食品の変質、腐敗の原因となる細菌の増殖が抑制される。増殖の抑制には、完全に増殖させないことの他、増殖速度を低下させることも含まれる。
【実施例】
【0015】
以下に、実施例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)菌の取得
百貨店にて購入した漬け物を細かく刻み、生理食塩水と混合した。この混合物を、予めオートクレーブ滅菌したMRS培地(メルク社;1.5w/v%寒天含有)に混釈して、滅菌済みプレートに流し込み、固めた。次いで、30℃でインキュベートを開始し、1〜2日後に、ランダムに釣菌した。他細菌の増殖抑制作用を指標にしてスクリーニングを行い、ラクトバチルス・プランタラム MIB4409株を得た。
本菌株の性質については、前述した通りである。
【0016】
(2)細菌の増殖抑制作用
(2-1)使用菌株
被験乳酸菌として、以下の(i)〜(iii)の菌株を用いた。(i)は本発明の菌株であり、(ii)は、培養上清に含まれるナイシンに静菌効果が認められて、ナイシンが既に保存料として使用されている陽性対照菌株である。(iii)は、本発明の菌株と同種の公知菌株である。
(i)ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) MIB4409株
(ii)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)NBRC12007株
(iii) ラクトバチルス・プランタラムNBRC3070株
(2-2)方法
各菌株を5mlのMRS培地(メルク社)に植菌し、30℃で24時間培養して種培養を得た。種培養1mlを200mlのMRS培地に植菌し、30℃で72時間間培養した。次いで、培養液をオートクレーブ滅菌した。
培養液のpHの推移を以下の表1に示す。
【0017】
【表1】

滅菌した培養液を遠心分離(6000rpm×10分間)して、上澄み液を回収した。上澄み液を滅菌水道水で5倍希釈した液を以下の実験に用いた。また、陰性対照として、オートクレーブ滅菌したMRS培地も実験に用いた。
滅菌容器に入れた上記上澄み液の5倍希釈液100mlに、キュウリ片10gを入れて密封し、30℃でインキュベートを開始した。経時的に、上澄み液又は希釈液の一般生菌数をペトリフィルム(3M社)を用いて、その添付マニュアルに従って測定した。結果を以下の表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から明らかなように、培養上清に静菌効果が確認されているラクトコッカス・ラクティスNBRC12007株の培養上清を用いても細菌の増殖が抑制できない条件下で、本発明のラクトバチルス・プランタラムMIB4409株は、培養開始24時間後には著しく生菌数を減少させた。即ち、細菌増殖を抑制しただけでなく、殺菌作用を示した。
また、本発明の菌株と同菌種の公知菌株であるラクトバチルス・プランタラムNBRC3070は細菌の増殖を抑制できなかったが、本発明の菌株は、生菌数を減少させた。
また、前掲の表1から明らかなように、本発明の菌株の細菌増殖抑制作用は、菌液のpH変化によるものではない。従って、本発明の菌株の細菌増殖抑制作用は、培養上清に含まれる成分によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の新規菌株、その培養物、及びその生産物は、食品に添加する保存剤として有用である。
【受託番号】
【0021】
Lactobacillus plantarum MIB4409 FERM P−21820

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株。
【請求項2】
以下の(a)〜(d)の何れかを含む食品保存剤。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物
【請求項3】
以下の(a)〜(d)の何れかの存在下で食品を保存する、食品の保存方法。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物
【請求項4】
以下の(a)〜(d)の何れかを食品に添加する、食品中の細菌の増殖抑制方法。
(a) ラクトバチルス・プランタラム MIB4409(FERM P−21820)株
(b) (a)の菌株の培養物
(c) (a)の菌株の生産物
(d) (a)〜(c)の何れかの乾燥物

【図1】
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【公開番号】特開2011−24437(P2011−24437A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171069(P2009−171069)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(591018534)奥本製粉株式会社 (20)
【Fターム(参考)】