説明

新規免疫増強組成物

【課題】新規の免疫増強組成物を提供する。
【解決手段】有効成分として、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の免疫増強組成物に関する。本発明の免疫増強組成物は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料を含む)、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。更には、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。
【背景技術】
【0002】
キノコには種々の生理活性物質が含まれていることが知られており、例えば、特公昭57−1230号公報(特許文献1)及び特許第2767521号明細書(特許文献2)には、マツタケに含有される各種の抗腫瘍性物質が開示されている。前記特公昭57−1230号公報には、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水又は希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、及びエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示されている。また、前記特許第2767521号明細書には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量=10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、市販されている種々の食用キノコについて、その熱水抽出液の種々の生理活性を比較検討したところ、マツタケを含む多くの食用キノコにおいてサルコーマ180細胞の増殖抑制活性が認められたのに対して、免疫増強活性に関しては、マツタケだけが非常に高い活性を示すことを新たに見出した。また、マツタケ熱水抽出液だけでなく、マツタケのアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分も、免疫増強活性を示すことを新たに見出した。このようなマツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の免疫増強活性は、これまで全く知られておらず、本発明はこうした知見によるものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明は、マツタケ(Tricholoma matsutake)熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分に関する。
【0006】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、免疫増強組成物、キラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)組成物、腫瘍増殖抑制組成物、インターロイキン12誘導組成物、TGF−β活性抑制組成物、及び活性酸素捕捉組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、それ単独で、あるいは、所望により1又はそれ以上の食品成分と共に含有する、免疫増強機能性食品、キラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)機能性食品、腫瘍増殖抑制機能性食品、インターロイキン12誘導機能性食品、TGF−β活性抑制機能性食品、及び活性酸素捕捉機能性食品に関する。
【0008】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、免疫増強が必要な対象に、有効量で投与することを含む、免疫を増強する方法に関する。
【0009】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、キラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)が必要な対象に、有効量で投与することを含む、キラー活性(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性)を誘導する方法に関する。
【0010】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、腫瘍増殖抑制が必要な対象に、有効量で投与することを含む、腫瘍増殖を抑制する方法に関する。
【0011】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、インターロイキン12誘導が必要な対象に、有効量で投与することを含む、インターロイキン12を誘導する方法に関する。
【0012】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、TGF−β活性抑制が必要な対象に、有効量で投与することを含む、TGF−β活性を抑制する方法に関する。
【0013】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、活性酸素捕捉が必要な対象に、有効量で投与することを含む、活性酸素を捕捉する方法に関する。
【0014】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の、免疫増強組成物又は免疫増強機能性食品を製造するための使用に関する。
【0015】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の、キラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)組成物又はキラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)機能性食品を製造するための使用に関する。
【0016】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の、腫瘍増殖抑制組成物又は腫瘍増殖抑制機能性食品を製造するための使用に関する。
【0017】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の、インターロイキン12誘導組成物又はインターロイキン12誘導機能性食品を製造するための使用に関する。
【0018】
また、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の、TGF−β活性抑制組成物又はTGF−β活性抑制機能性食品を製造するための使用に関する。
【0019】
更に、本発明は、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の、活性酸素捕捉組成物又は活性酸素捕捉機能性食品を製造するための使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】吸着画分D2のH一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図2】吸着画分D2の13C一次元NMR測定により得られたスペクトルである。
【図3】吸着画分D2の円偏光二色性分析により得られたCDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
マツタケ(Tricholoma matsutake)から熱水抽出し、陰イオン交換樹脂吸着させて得ることのできる本発明の新規画分は、熱水抽出工程を経由するにもかかわらず、優れた免疫増強活性を示す。また、マツタケ熱水抽出液も優れた免疫増強活性を示す。更に、マツタケのアルカリ溶液抽出液も優れた免疫増強活性を示し、前記アルカリ溶液抽出液を、陰イオン交換樹脂吸着させて得ることのできる本発明の新規画分も優れた免疫増強活性を示す。
従って、本発明による免疫増強組成物は、(1)マツタケ熱水抽出液、(2)マツタケのアルカリ溶液抽出液、(3)マツタケ熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分、あるいは、(4)マツタケのアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、有効成分として含有し、更に、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体を含有する。
【0022】
本発明の免疫増強組成物における有効成分である、マツタケ熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、これに限定されるものではないが、例えば、マツタケを熱水で抽出し(以下、熱水抽出工程と称する)、得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させた後(以下、陰イオン交換樹脂吸着工程と称する)、適当な溶離液により吸着画分を溶出する(以下、溶出工程と称する)ことにより、得ることができる。
【0023】
熱水抽出工程に用いる前記マツタケとしては、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体若しくは培養物(Broth)を挙げることができる。培養に用いる前記マツタケとしては、例えば、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で樹立及び維持しているマツタケCM627−1株を挙げることができる。
前記マツタケとして子実体又は菌糸体を用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0024】
熱水抽出工程に用いる熱水の温度は、60〜100℃であることが好ましく、80〜98℃であることがより好ましい。また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、マツタケの状態(すなわち、子実体、菌糸体、又は培養物のいずれの状態であるか、あるいは、破砕物又は粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常、1〜6時間であり、2〜3時間であることが好ましい。
【0025】
熱水抽出工程で得られた抽出液は、不溶物が混在する状態で、そのまま、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることもできるが、不溶物を除去してから、あるいは、不溶物を除去し、更に、抽出液中の低分子画分を除去してから、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることが好ましい。例えば、不溶物が混在する熱水抽出液を遠心分離することにより不溶物を除去し、得られる上清のみを、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。あるいは、不溶物が混在する熱水抽出液を遠心分離して得られる前記上清を透析し、低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。
【0026】
陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることのできる陰イオン交換樹脂としては、公知の陰イオン交換樹脂を用いることができ、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)セルロース又はトリエチルアミノエチル(TEAE)セルロースを挙げることができる。
【0027】
溶出工程に用いる溶離液は、陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる陰イオン交換樹脂の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、塩化ナトリウム水溶液などを挙げることができる。
【0028】
溶出工程により溶出される画分は、そのまま、本発明の免疫増強組成物の有効成分として用いることができるが、通常、溶離液に由来する塩を含有するので、それを除去するために、更に透析を実施することが好ましい。
【0029】
本発明の免疫増強組成物における有効成分であるマツタケ熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、これに限定されるものではないが、例えば、以下に示す理化学的性質を有する。なお、以下に示す各数値は、マツタケ熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の一態様である、後述の実施例2で調製した吸着画分D2の理化学的性質であり、後述する実施例における「吸着画分D2の理化学的性質の検討」に記載の各測定方法に基づく数値である。
【0030】
(1)糖質含量:グルコース換算値として13%である。
(2)タンパク質含量:アルブミン換算値として86%である。
(3)糖組成:マンノース47.7μg/mg、ガラクトース32.43μg/mg、グルコース25.09μg/mg、アラビノース12.09μg/mg、リボース8.30μg/mg、キシロース3.75μg/mg、及びラムノース0.44μg/mgである。
【0031】
(4)アミノ酸組成:アスパラギン酸及びアスパラギン14.12mol%、トレオニン6.39mol%、セリン7.64mol%、グルタミン酸及びグルタミン13.83mol%、グリシン14.03mol%、アラニン7.77mol%、バリン5.36mol%、1/2−シスチン0.87mol%、メチオニン1.11mol%、イソロイシン3.70mol%、ロイシン5.20mol%、チロシン1.51mol%、フェニルアラニン2.28mol%、リシン4.05mol%、ヒスチジン1.67mol%、アルギニン2.52mol%、及びプロリン7.93mol%である。
(5)分子量分布:約4.5万〜100万の間に幅広く分布する。その中でピークトップが5つ存在し、それぞれの推定分子量は、約4.5万、約12万、約16万、約38万、及び100万以上である。
(6)等電点:等電点電気泳動法により、3本のピークが検出される。メインバンドは4.8付近(4.5〜5.2)であり、その他のバンドは、7.6付近(7.35〜8.0)及び9.2付近(8.65〜9.3)である。
【0032】
(7)紫外分光分析:240〜260nmにピークが見出された[測定条件は、後述の「吸着画分D2の理化学的性質の検討」(7)を参照のこと]。
(8)H一次元NMR分析:図1に示すスペクトル[測定条件は、後述の「吸着画分D2の理化学的性質の検討」(8)(i)を参照のこと]を示す。
(9)13C一次元NMR分析:図2に示すスペクトル[測定条件は、後述の「吸着画分D2の理化学的性質の検討」(8)(ii)を参照のこと]を示す。
(10)円偏光二色性分析:図3に示すスペクトル[測定条件は、後述の「吸着画分D2の理化学的性質の検討」(9)を参照のこと]を示す。Chenらの方法[Biochemistry,11,4120−4131(1972)]に従って2次構造を解析したところ、αヘリックス17%、βシート18%、及び不規則構造65%である。
【0033】
本発明の免疫増強組成物における有効成分である、マツタケのアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、これに限定されるものではないが、先に説明した、マツタケ熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の製造方法に準じた方法により得ることができる。すなわち、熱水の代わりにアルカリ溶液を用いること以外は、マツタケ熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分の前記製造方法と同様の方法により、調製することができる。例えば、マツタケをアルカリ溶液で抽出し(以下、アルカリ溶液抽出工程と称する)、得られた抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させた後(すなわち、陰イオン交換樹脂吸着工程)、適当な溶離液により吸着画分を溶出する(すなわち、溶出工程)ことにより、得ることができる。
【0034】
アルカリ溶液抽出工程に用いるアルカリ溶液としては、これに限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。前記アルカリ溶液のpHは、8〜13であることが好ましく、9〜12であることがより好ましい。アルカリ溶液抽出工程は、0〜20℃で実施することが好ましく、0〜15℃で実施することがより好ましい。アルカリ抽出工程で得られた抽出液は、中和処理を実施してから次の陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることができる。
【0035】
本発明の免疫増強組成物は、有効成分としてのマツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)に投与することができる。
【0036】
本発明の有効成分である、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、免疫増強活性、例えば、キラー活性(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性)の誘導活性、腫瘍増殖抑制活性、サイトカイン(特にはインターロイキン12)誘導活性、TGF−β活性抑制活性、又は活性酸素捕捉活性を有する。
【0037】
従って、本発明の有効成分である、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、免疫増強が必要な対象、例えば、キラー活性(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性)の誘導が必要な対象、腫瘍増殖抑制が必要な対象、サイトカイン(特にはインターロイキン12)誘導が必要な対象、TGF−β活性抑制が必要な対象、又は活性酸素捕捉が必要な対象に、有効量で投与することができる。
【0038】
また、本発明の有効成分である、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、免疫増強組成物又は免疫増強機能性食品、例えば、キラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)組成物若しくはキラー活性誘導(好ましくは腸管リンパ球のキラー活性誘導)機能性食品、腫瘍増殖抑制組成物若しくは腫瘍増殖抑制機能性食品、インターロイキン12誘導組成物若しくはインターロイキン12誘導機能性食品、TGF−β活性抑制組成物若しくはTGF−β活性抑制機能性食品、又は活性酸素捕捉組成物若しくは活性酸素捕捉機能性食品を製造するために使用することができる。
【0039】
本発明による免疫増強組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0040】
これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0041】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。
例えば、注射剤の調製においては、有効成分としての前記画分の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
また、本発明による免疫増強組成物は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明による免疫増強組成物をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療又は予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0042】
本発明による免疫増強組成物は、これに限定されるものではないが、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
本発明による免疫増強組成物を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
【0043】
また、形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料を含む)、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。更には、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を、添加剤(例えば、食品添加剤)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤等に添加することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
《実施例1:キノコ熱水抽出液の生物活性試験》
(1)キノコ熱水抽出液の調製
市販の岩手県産マツタケ子実体250gを凍結乾燥して水分を除去した後、粉砕して粉末35gを得た。
1リットル容量のビーカーに、前記粉末の一部(20g)と純水800mLとを加え、スターラー撹拌下、93〜98℃のウオーターバス中で3時間抽出した。抽出終了後、室温まで冷却し、遠心分離(12000rpm,20分間)により、上清を得た。
上清を得た後の沈殿部には、純水500mLを加え、前記と同様の処理を行なった。この操作を計3回行ない、各操作で得られた上清と、先に得られた上清とを一緒にした後、分子量3500分画の透析膜(Spectra/Por3 Membrane;Spectrum,米国)に入れ、水道水の流水中で2日間透析した。透析膜内液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮した後、凍結乾燥を行ない、粉末1.12gを得た。
更に、市販食用キノコ13種類につき、前記と同様の処理を行ない、それぞれ、粉末を得た。キノコの種類と収率(対乾燥菌体質量%)を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
(2)キノコ熱水抽出液の生物活性検定
前項(1)で粉体として得られた食用キノコ抽出液を、マウスに経口投与し、腸管リンパ球のキラー活性誘導に及ぼす影響を検討した。すなわち、腫瘍細胞を盲腸壁に移植したマウスから、腸間膜リンパ節細胞を取り出し、試験管内で前記腫瘍細胞で再刺激した時のキラー活性を測定することにより、生物活性を検定した。用いた腫瘍細胞は、マウス白血病細胞P815及びB7/P815細胞であり、これらは九州大学生体防御医学研究所原田守博士から供与された細胞株を、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地中で、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で継代維持している。動物は日本SLCから購入した雌性DBA/2マウスであり、予備飼育した後、8週齢で実験に用いた。
【0048】
予め、ペントバルビタール(大日本製薬)50mg/kgを腹腔内投与して麻酔状態にしたマウスを固定し、その腹部をはさみとピンセットとで開き、盲腸部を取り出し、1/8Gの歯科用注射針(旗印本木注射針)を装着した1mL容注射筒を用いて、B7/P815細胞(1×10個/50μL)を盲腸壁下に移植し、解剖用ホッチキスを用いて腹部を閉じた。麻酔からさめたマウスを飼育ケージに入れ、通常の飼育環境下で飼育した。そして、腫瘍細胞移植翌日から、経口投与用ゾンデを用いて、各サンプル500mg/kg/日を連日10日間経口投与した(1群当たり5〜10匹)。
【0049】
最終投与の翌日にマウスを屠殺し、腸間膜リンパ節を無菌的に取り出し、ハンクス平衡塩類溶液(Hanks Balanced Salt Solution)を入れた無菌シャーレに移した。はさみとピンセットとでリンパ節をほぐした後、メッシュを通してリンパ球の単細胞液を調製した。10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で細胞を3回洗浄した後、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)、5×10−5mol/Lの2−メルカプトエタノール、20mmol/Lの4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸、及び30μg/mLゲンタマイシンをそれぞれ添加したRPMI1640培地で、細胞濃度を5×10個/mLに調整し、エフェクター細胞として用いた。
【0050】
一方、刺激細胞は、以下の手順で調製した。すなわち、P815細胞又はB7/P815細胞を10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地中に5×10個/mLになるように懸濁し、マイトマイシンC(シグマ)を50μg/mLになるように加え、5%炭酸ガス培養器中で30分間反応させた後、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で細胞を3回洗浄し、細胞濃度を1×10個/mLに調整した。
【0051】
混合リンパ球・腫瘍細胞反応(Mixed Lymphocyte Tumor cell Reaction)は、以下の条件で検討した。
すなわち、96ウエルの細胞培養用平底マイクロプレート(Falcon 3072;Becton Dickinson Labware,米国)に、前記エフェクター細胞及び/又は刺激細胞を0.1mLずつ加え、5%炭酸ガス培養器中で3日間培養し、細胞をフィルター上に回収した。なお、エフェクター細胞及び刺激細胞の両方を加える場合には、両者の細胞数比を12.5(エフェクター細胞数/刺激細胞数)とした。本測定系においては、前記エフェクター細胞が、混合リンパ球・腫瘍細胞反応における「リンパ球」として機能し、前記刺激細胞が「腫瘍細胞」として機能する。培養終了の24時間前に、プレートの各ウエルにH−チミジン(アマシャムジャパン)37kBqを加えた。回収した細胞を5%トリクロロ酢酸で充分に洗浄した後、乾燥し、液体用バイアルに入れ、液体シンチレーターを加え、液体シンチレーションカウンターで、放射能活性を測定した。
【0052】
スティミュレーション・インデックス(Stimulation Index;S.I.)は、式:
[S.I.]=(Bmix−Bs)/(Be−Bs)
[式中、Bmixは、エフェクター細胞及び刺激細胞混合培養群の放射能活性(単位=Bq)であり、Bsは、刺激細胞単独培養群の放射能活性(単位=Bq)であり、Beは、エフェクター細胞単独培養群の放射能活性(単位=Bq)である]
により算出した。
【0053】
一方、リンパ球・腫瘍細胞の混合培養による細胞傷害活性誘導反応(Lymphocyte Tumor cell Mixed culture−induced Cytotoxicity)は、以下の条件で検討した。
すなわち、24ウエルの細胞培養用マイクロプレート(Culture Clastar)(Costar 3524;Corning Inc.,米国)に、前記エフェクター細胞及び刺激細胞(エフェクター細胞数/刺激細胞数=12.5)を1.0mLずつ加え、37℃の5%炭酸ガス培養器中で3日間培養した。培養終了後、細胞を回収し、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で3回洗浄した。顕微鏡を用いて、細胞懸濁液中のエフェクター細胞数のみを計数し、エフェクター細胞数を2.5×10個/mLに調整した。
一方、別に用意したP815細胞をクロム酸ナトリウム(アマシャムジャパン)と37℃で20分間反応させた。未結合の放射性物質を10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で3回洗浄することにより除去し、放射性クロム標識腫瘍細胞を5×10/mLに調整した。
【0054】
前記エフェクター細胞又はその2倍希釈系列と放射性クロム標識腫瘍細胞とを試験管に0.1mLずつ加え、37℃の5%炭酸ガス培養器中で4時間反応させた。反応終了後、10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地をそれぞれの試験管に1.5mLずつ加え、ミキサーでよく混合した後、遠心分離(1200rpm,5分間,4℃)して上清を分離し、放射能活性をガンマカウンターを用いて測定した。
【0055】
特異的傷害率[Specific Lysis;S.L.(単位=%)]は式:
[S.L.(%)]={(B−Bf)/(Bmax−Bf)}×100
[式中、Bは実験群上清の放射能活性(単位=Bq)であり、Bfは自然遊離群上清の放射能活性(単位=Bq)であり、Bmaxは最大遊離群の放射能活性(単位=Bq)である]
により算出した。なお、自然遊離群とは、放射性クロム標識腫瘍細胞単独培養群を意味し、最大遊離群とは、トリトン(Triton)処置放射性クロム標識腫瘍細胞群を意味する。
【0056】
前項(1)で調製したサンプルの混合リンパ球・腫瘍細胞反応、あるいは、リンパ球・腫瘍細胞の混合培養による細胞傷害活性誘導反応に及ぼす影響を測定した結果(エフェクター細胞数/腫瘍細胞数が12.5の時の値)を表2に示す。マツタケ子実体由来のサンプルで有意の増強がみられた。なお、コントロール群には純水0.2mLを経口投与した。表2において、*はコントロール群に対してp<0.05で有意差のあることを示す。
【0057】
【表2】

【0058】
《実施例2:マツタケ熱水抽出液及びその陰イオン交換樹脂吸着画分の調製》
呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で樹立及び維持しているマツタケCM627−1株菌糸体を滅菌済み培地(3%グルコース,0.3%酵母エキス,pH6.0)100mLの入った500mL容三角フラスコ10本に接種し、22℃で250rpmの振盪培養機で4週間培養を行なった。得られた培養物をホモゲナイザーにかけた後、スターラー撹拌下、93〜98℃のウオーターバス中で3時間抽出した。抽出終了後、室温まで冷却し、遠心分離(12000rpm,20分間,4℃)により、上清を得た。
沈殿部には純水500mLを加え、前記と同様の処理を行なった。この操作を計3回行ない、全ての上清を合わせて、透析膜(Spectra/Por3 Membrane,分子量3500分画)に入れ、水道水の流水中で3日間透析した。透析膜内液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥を行ない、粉末(画分D)3.9gを得た。
【0059】
次に、前記粉末(画分D)を50mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、予め前記緩衝液で平衡化させておいたジエチルアミノエチル(DEAE)セルロースカラム(口径=2cm,高さ=20cm)にアプライし、次いで、前記緩衝液100mLを流し、非吸着画分D1(以下、単に「D1画分」と称することがある)を得た。次いで、前記緩衝液に1mol/L塩化ナトリウムを加えた溶液200mLを調製し、前記カラムにかけ、吸着物を溶出し、吸着画分D2(以下、単に「D2画分」と称することがある)を得た。得られた非吸着画分及び吸着画分溶液をそれぞれ、透析膜(Spectra/Por3 Membrane,分子量3500分画)に入れ、純水中で3日間透析した。透析膜内液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥を行ない、非吸着画分D1粉末1.9g及び吸着画分D2粉末1.5gを得た。
【0060】
前記「キノコ熱水抽出液の生物活性試験」(2)と同様の方法によりそれぞれの画分の免疫活性を調べたところ、表3に示すように、吸着画分D2に活性が確認された。なお、表3において、*はコントロール群に対してp<0.01で有意差のあることを示し、**はコントロール群に対してp<0.05で有意差のあることを示す。また、画分Dは、DEAEセルロースカラムにかける前の画分を意味する。
【0061】
【表3】

【0062】
[吸着画分D2の理化学的性質の検討]
D2画分の理化学的性質を検討した。測定方法及びその結果を以下に示す。
【0063】
(1)糖質の定量
フェノール硫酸法を用いる比色により定量した。D2画分の糖質含量は、グルコース換算値として13%であった。
【0064】
(2)タンパク質の定量
銅フォリン法を用いる比色により定量した。D2画分のタンパク質含量は、アルブミン換算値として86%であった。
【0065】
(3)糖質の組成分析
封入管にD2画分1.0mgと2mol/Lトリフルオロ酢酸0.2mLとを入れ、100℃で6時間加水分解した後、エバポレーターで減圧乾固し、残渣を得た。残渣を純水500μLに溶解し、純水で2倍又は10倍希釈した。この溶液50μLに内部標準物質ヘプトース500ngを添加し、カラムTSK−gel Sugar AXGLC−9A 15cm×4.6mmID(東ソー)と検出器分光光度計RF−535(島津製作所)とを装着した高速液体クロマト装置LC−9A(島津製作所)にアプライした。カラム温度は70℃であり、移動相及びその流速は0.5Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.7)及び0.4mL/分であった。ポストカラム標識の条件は、反応試薬として1%アルギニン/3%ホウ酸を用い、流速は0.5mL/分であり、反応温度は150℃であり、検出波長はEX320nm及びEM430nmである。
糖組成は、多い方から順に、マンノース47.7μg/mg、ガラクトース32.43μg/mg、グルコース25.09μg/mg、アラビノース12.09μg/mg、リボース8.30μg/mg、キシロース3.75μg/mg、及びラムノース0.44μg/mgであった。
【0066】
(4)アミノ酸組成分析
封入管にD2画分1.0mgと6mol/L塩酸0.1mLとを入れ、110℃で22時間加水分解した後、エバポレーターで減圧乾固し、残渣を得た。残渣を純水1.0mLに溶解し、その50μLをアミノ酸分析に用いた。装置は日立L−8500型アミノ酸分析計(日立製作所)であり、ニンヒドリン発色により定量した。
アミノ酸組成は、アスパラギン酸及びアスパラギン14.12mol%、トレオニン6.39mol%、セリン7.64mol%、グルタミン酸及びグルタミン13.83mol%、グリシン14.03mol%、アラニン7.77mol%、バリン5.36mol%、1/2−シスチン0.87mol%、メチオニン1.11mol%、イソロイシン3.70mol%、ロイシン5.20mol%、チロシン1.51mol%、フェニルアラニン2.28mol%、リシン4.05mol%、ヒスチジン1.67mol%、アルギニン2.52mol%、及びプロリン7.93mol%であった。
【0067】
(5)分子量分布の測定
D2画分1.0mgを純水1.0mLに溶解した後、0.22μmのフィルターで濾過し、濾液を得た。この濾液を、カラムAsahipak GS−620 50cm×7.6mmID(旭化成)、示差屈折計検出器RID−6A(島津製作所)、及び紫外部検出器SPD−6A(島津製作所)を装着した高速液体クロマト装置LC−9A(島津製作所)にアプライした。カラム温度は室温であり、移動相及びその流速は純水及び0.5mL/分であった。
分子量分布は、約4.5万〜100万の間に幅広く分布した。その中でピークトップが5つ見いだされ、それぞれの推定分子量は、約4.5万、約12万、約16万、約38万、及び100万以上であった。
【0068】
(6)等電点分析
D2画分190μgを純水20μLに溶解した後、その半量に40%(体積/体積)程度のサッカロースを加え、電気泳動を実施した。電気泳動の条件は以下のとおりである。ゲル:IEF−PAGEmini(4%,pH3〜10;テフコ社)
泳動用緩衝液:(陰極)0.04mol/L水酸化ナトリウム溶液、(陽極)0.01mol/Lリン酸溶液
泳動条件:100Vで30分間泳動を行ない、続いて、300Vで20分間泳動を行ない、更に、500Vで40分間泳動を行なった。
PIマーカー:各バンドが1.35g(ファルマシア)
【0069】
3本のブロードなピークが検出された。メインバンドは4.8付近(4.5〜5.2)で、その他に7.6付近(7.35〜8.0)と9.2付近(8.65〜9.3)にバンドがあった。
【0070】
(7)紫外分光分析(UV)
純水に溶解し、0.5mg/10mL濃度で測定した。装置として、2500PC(島津製作所)を使用した。240〜260nmにピークが見出された。
【0071】
(8)核磁気共鳴分析(NMR)
測定条件は以下のとおりである。
(i)H一次元NMR測定
測定装置としては、UNITY INOVA−500型(Varian社)を使用した。溶媒としてD化塩酸グアニジウムDO溶液を使用した。濃度は4mol/Lであり、内部標準としてDSSを用い、温度は23℃で測定を実施した。
【0072】
得られたスペクトルを図1に示す。糖の1位のプロトンに特徴的な4.5ppm〜5.0ppm付近に、ガラクトース又はグルコースのα1位と考えられるピークが観測された。また、5.0〜5.2ppm付近に、ガラクトース又はグルコースのβ1位と考えられるピークが観測された。
【0073】
(ii)13C一次元NMR測定
観測周波数は150.8MHzで測定した。濃度は20.3mg/0.75mLであり、内部標準は重メタノール(3%重水溶液,δ=49ppm)であり、温度は45℃であり、デカップリングはH完全デカップリングである条件で測定を実施した。
結果を図2に示す。103〜104ppm付近のブロードなピークは、ガラクトース又はグルコースの1位の炭素で、β型でグルコシド結合したものと考えられる。102.96ppm及び102.51ppmの各ピークは、それぞれマンノースのα1位とβ1位でクルコシド結合したものと考えられる。99.17ppmのピークは、ガラクトース又はグルコースのα1位で、やはりグルコシド結合したものと考えられる。
【0074】
1位以外については、60〜80ppmのピークの化学シフトを解析した。各単糖の化学シフトを比較すると、ガラクトース又はグルコースのβ2位の炭素、あるいは、マンノースの2位(α,β)の炭素が変化していると考えられた。また、ガラクトース又はグルコースのα型の炭素については、化学シフトが単糖と比較して変化しているものが見当たらないので、6位が変化し、マンノースの4位のシグナル(67.8ppm)と重なっていると推定した(このピークの強度が大きいことから推測した)。以上のことから、1位以外で結合に関与していると推定される糖の位置は、ガラクトース又はグルコースの2位(β型)と6位(α型)、あるいは、マンノースの2位(α、β型)である。但し、ピークが全般的にブロードで、S/Nも悪いため、解析の精度は高くない。
【0075】
(10)円偏光二色性分析(CD)
測定条件は以下のとおりである。
測定装置としてJASCOJ−500Aを使用し、溶媒として水を使用した。タンパク質濃度は0.125mg/mLであり、波長範囲は200〜250nmであり、セル長は1mmであり、温度は室温(24℃)であり、積算回数は8回である条件で測定を実施した。
【0076】
得られたCDスペクトルを図3に示す。CD値(縦軸)は、平均残基楕円率[θ]で示した。[θ]の単位はdeg・cm・decimol−1となる。[θ]に換算する際の平均残基分子量は103.45を用いた(アミノ酸分析から求めた)。2次構造の解析は、Chenらの方法に従って算出したところ、αヘリックス17%、βシート18%、及び不規則構造65%であった。
【0077】
[吸着画分D2の生物活性評価例]
(1)吸着画分D2のサルコーマ180腫瘍増殖抑制活性
動物としては、日本クレア(株)から購入した雌性ICRマウスを用い、腫瘍としては、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で雌性ICRマウスの腹腔内で継代維持しているサルコーマ180細胞を用いた。すなわち、5週齢の雌性ICRマウスの腋窩部皮下に、サルコーマ180細胞を10個移植した(1群=10匹)。移植後翌日から、前記実施例2で得られた吸着画分D2の所定量(1.0mg/kg,10mg/kg,又は50mg/kg)を隔日に10回、腹腔内投与し、移植後25日目にマウスを屠殺して腫瘍結節を摘出し、重量を測定した。対照としては生理食塩水投与群を設けた。
【0078】
増殖抑制率(単位=%)は、式:
[増殖抑制率(%)]={(Wc−W)/Wc}×100
[式中、Wはサンプル処置群の平均結節重量(単位=g)であり、Wcは生理食塩水処置群の平均結節重量(単位=g)である]
により算出した。
結果を表4に示す。なお、*はコントロール群に対してp<0.05で有意差のあることを示す。表4から明らかなように、D2画分投与により有意の増殖抑制がみられた。
【0079】
【表4】

【0080】
(2)吸着画分D2のサイトカイン誘導活性
8週齢の雌性DBA/2マウスを屠殺後脱血し、腸間膜リンパ節を無菌的に取り出し、ハンクス平衡塩類溶液を入れた無菌シャーレに移した。はさみとピンセットとでリンパ節をほぐした後、メッシュを通してリンパ球の単細胞液を調製した。10%牛胎児血清(56℃で30分間の熱処理済み)添加RPMI1640培地で細胞を3回洗浄した後、細胞数を2×10個/mLに調整した。前記実施例2で得られた吸着画分D2を培地に溶解し、フィルターで除菌し、サンプル溶液250μg/mLを調製した。96ウエルの細胞培養用平底マイクロプレート(Falcon 3072;Becton Dickinson Labware,米国)に、前記細胞及びサンプルを0.1mLずつ加え、37℃の5%炭酸ガス培養器中で18時間培養した後、遠心分離により、上清を分離した。そして、培養上清中の総(total)インターロイキン12含量を、市販測定キット(Intertest 12X;Genzyme社,米国)を用いて測定した。結果を表5に示す。表5から明らかなように、D2画分には、インターロイキン12誘導活性が認められた。
【0081】
【表5】

【0082】
(3)吸着画分D2の免疫抑制物質TGF−β結合活性
タンパク質吸着の少ないポリプロピレンチューブ(マルチシリコナイズチューブ,Safe Seal Microcentrifuge Tube;フナコシ)中で、ヒト遺伝子組み替えトランスフォーミング増殖因子β[Transforming Growth Factor−β(以下、TGF−β);フナコシ]標品を2%アルブミン含有リン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、100ng/mL溶液に調整した。一方、前記実施例2で得られた吸着画分D2を2%アルブミン含有リン酸緩衝液に溶解させ、2mg/mL濃度に調整した。前記TGF−β溶液とD2画分溶液とを0.5mLずつ、タンパク質吸着の少ないチューブに入れ、22℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液中のTGF−β含量を、市販の測定キット(Quantikine Human TGF β ELISA Kit;フナコシ)を用いて測定した。
【0083】
結合率(単位=%)は、式:
[結合率(%)]={(Tc−T)/Tc}×100
[式中、TはD2画分添加群のTGF−β実測値(単位=ng/mL)であり、Tcは2%アルブミン含有リン酸緩衝液添加群のTGF−β実測値(単位=ng/mL)である]
により算出した。
結果を表6に示す。D2画分添加群では、D2画分とTGFβとの結合が認められた。
【0084】
【表6】

【0085】
(4)吸着画分D2の活性酸素捕捉活性
3.0mol/Lヒポキサンチン溶液1000μL、2U/mLキサンチンオキシダーゼ(ベーリンガーマンハイム)溶液5μL、8mg/mL−D2画分500μL、及びRPMI1640培地495μLを試験管に入れた後、270μmol/Lの2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾ−[1,2−α]ピラジン−3−オン(CLA−phenyl;東京化成)溶液120μLを添加した。続いて、反応槽を37℃に保ったケミルミネッセンスメーター(アロカ)に入れ、30分間反応させ、発生するケミルミネッセンス量を経時的に測定した。
【0086】
捕捉活性(単位=%)は、式:
[捕捉活性(%)]={(Cc−C)/Cc}×100
[式中、CはD2画分添加群のケミルミネッセンス量であり、Ccはリン酸緩衝液添加群(対照群)のケミルミネッセンス量である]
により算出した。結果を表7に示す。表7から明らかなように、D2画分に活性酸素捕捉活性が認められた。
【0087】
【表7】

【0088】
(5)吸着画分D2の抗腫瘍活性
呉羽化学工業株式会社生物医学研究所において50mL容の細胞培養用フラスコ(3014;Becton−Dickinson社)中で継代維持しているスイスアルビノ3T3株及びSV40形質転換3T3細胞株[大日本製薬株式会社ラボラトリープロダクツ部(大阪)より入手]を、0.125%トリプシン溶液(シグマ社)で数分間処理することによりフラスコ器壁から遊離させた。洗浄後、10%ウシ胎児血清(56℃で30分間処理したもの)含有DMEM(Dulbecco’s Modification of Eagle’s Medium)培地に懸濁し、2×10個/mLに調整した後、0.1mLずつ、96ウエルの細胞培養用平底マイクロテストプレート(3072;Becton−Dickinson社)の各ウエルに分注した。
【0089】
37℃の5%炭酸ガス培養容器内で24時間培養した後、前記実施例2で得られた吸着画分D2の所定量又は培地0.1mLを加え、更に24時間培養した。なお、培養終了6時間前に、H−チミジン(アマシャムジャパン)1μCi/ウエルを添加した。培養終了後、細胞を濾紙上に回収し、5%三塩化酢酸で充分に洗浄した後、乾燥させ、細胞に取り込まれた放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した。吸着画分D2の50%阻止濃度(LD50)は、SV40形質転換3T3細胞株で約50μg/mLであり、スイスアルビノ3T3株で約40μg/mLであった。また、MTT法によりLD50を測定したところ、H−チミジン法により得られた前記結果とほぼ同様の結果が得られた。
【0090】
《実施例3:マツタケアルカリ溶液抽出液及びその陰イオン交換樹脂吸着画分の調製》
前記実施例2と同様の方法で調製したマツタケCM627−1株菌糸体培養物を、ホモゲナイザーにかけた後、全体の濃度が0.1mol/Lになるまで水酸化ナトリウム溶液を添加した。スターラー撹拌下、22℃で1時間抽出した。抽出終了後、遠心分離(12000rpm,20分間,4℃)により、上清を得た。
沈澱部に0.3mol/L水酸化ナトリウム溶液を加え、前記と同様の処理を行ない、上清を得た。更に、沈澱部に0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液を加え、前記と同様の処理を行ない、上清を得た。全ての上清を合わせて、前記上清に1mol/L塩酸を加え、pHを7.0に調整した後、透析膜(Spectra/Por3 Membrane,分子量3500分画)に入れ、水道水の流水中で3日間透析した。透析膜内液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥を行ない、粉末(以下、画分Aと称する)4.3gを得た。
【0091】
次に、前記粉末(画分A)を50mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、予め前記緩衝液で平衡化させておいたジエチルアミノエチル(DEAE)セルロースカラム(口径=2cm,高さ=20cm)にアプライし、次いで、前記緩衝液100mLを流し、非吸着画分A1(以下、単に「A1画分」と称することがある)を得た。次いで、前記緩衝液に1mol/L塩化ナトリウムを加えた溶液200mLを調製し、前記カラムにかけ、吸着物を溶出し、吸着画分A2(以下、単に「A2画分」と称することがある)を得た。得られた非吸着画分及び吸着画分溶液をそれぞれ、透析膜(Spectra/Por3 Membrane,分子量3500分画)に入れ、純水中で3日間透析した。透析膜内液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、凍結乾燥を行ない、非吸着画分A1粉末及び吸着画分A2粉末を得た。
【0092】
[画分Aの生物活性評価例]
前記「キノコ熱水抽出液の生物活性試験」(2)と同様の方法によりT細胞増強活性を評価したところ、画分A投与群(投与量=250mg/kg)の活性は、混合リンパ球・腫瘍細胞反応において130%(コントロール群に対する%)であり、リンパ球・腫瘍細胞混合培養による細胞傷害活性誘導反応において131%(コントロール群に対する%)であった。
また、前記「吸着画分D2の生物活性評価例」(2)と同様の方法によりサイトカイン誘導活性を評価したところ、培地コントロール群の総インターロイキン12含量が検出限界以下であったのに対して、画分A添加群の総インターロイキン12含量は69pg/mLであった。
更に、前記「吸着画分D2の生物活性評価例」(3)と同様の方法によりTGF−β結合活性を評価したところ、画分Aの結合活性は26%であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の免疫増強組成物によれば、免疫能を増強することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、免疫増強(但し、腫瘍増殖抑制を除く)組成物。
【請求項2】
前記免疫増強が、キラー活性誘導、インターロイキン12誘導、TGF−β活性抑制、又は活性酸素捕捉である、請求項1に記載の免疫増強組成物。
【請求項3】
マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、キラー活性誘導組成物。
【請求項4】
マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、インターロイキン12誘導組成物。
【請求項5】
マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、TGF−β活性抑制組成物。
【請求項6】
マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液、あるいは、マツタケ熱水抽出液又はマツタケアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、薬剤学的に許容することのできる担体とを含有する、活性酸素捕捉組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−209151(P2009−209151A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141764(P2009−141764)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【分割の表示】特願2001−549675(P2001−549675)の分割
【原出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】