説明

新規有機化合物およびそれを有するエレクトロクロミック素子

【課題】酸化還元繰り返し特性に優れ、かつ消色時において高透明で可視光領域に光吸収を示さない新規エレクトロクロミック化合物の提供。
【解決手段】一般式[1]


[式中、AおよびA’はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基等を示し、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、シリル基を示し、nは、1または2である]で示される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規有機化合物およびそれを有するエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的な酸化還元反応により、物質の光学吸収の性質(呈色状態や光透過度)が変化するエレクトロクロミック(以下ECと省略する場合がある)材料としては種々の材料が報告されている。無機EC材料としては、WO等の金属酸化物を用いるものが知られているが、成膜方法が蒸着などに限られ大面積化に課題があった。
【0003】
有機EC材料としては、特許文献1に記載の導電性高分子を用いたEC素子や、特許文献2に記載のビオロゲン等の有機低分子を用いたEC素子などが知られている。
【0004】
特許文献1の導電性高分子は、モノマーの電解重合によりEC層を電極上に直接形成できる。EC層を形成するこれら導電性高分子としてはポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等が知られている。これら導電性高分子を電気化学的に酸化または還元すると、主鎖のπ共役鎖長が変わり、最高被占有分子軌道(HOMO)の電子状態が変化し、吸収波長が変化する。これら導電性高分子は、π共役系を持ち、中性状態で可視光領域に吸収を有するため着色しており、そして、酸化により吸収波長が長波長側(赤外領域側)へシフトする。赤外領域側へシフトすると、可視光領域に吸収を有さなくなるので、EC素子は消色する。
【0005】
一方、特許文献2のビオロゲン系化合物によるEC材料は、消色状態ではジカチオンが溶液に溶解しており、還元反応によりビオロゲンがラジカルカチオンとなり、電極上に析出し着色する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−67881号公報
【特許文献2】特開昭51−146253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EC材料は、安定性が低く、また消色状態においても消色が十分でない場合がある。
【0008】
特許文献1では一般的に不安定なラジカルカチオンを分子内で非局在化することで安定性を高めている。しかし、その安定性は十分ではなく、酸化還元反応を繰り返した場合、材料が劣化し性能が低下する課題がある。
【0009】
また、この導電性高分子は、中性状態で可視光に吸収帯を有する。そのため電気化学反応が不十分な部分がある場合は、消え残りが生じ、高透明性を発現することは困難である。
【0010】
また、特許文献2のビオロゲン系EC化合物においては、析出−溶解を繰り返すため劣化現象が起こる。これら劣化現象は不可逆な結晶化や重合による不溶化により起因すると考えられる。この劣化により消色状態においても透明にならない“消え残り”が生ずる。さらにビオロゲン系EC化合物においては、還元時に不安定なラジカルカチオンが生成するため、その安定性に課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、ラジカルカチオンおよび酸化還元繰り返し時の安定性を有し、かつ消色時にも可視光領域に光吸収を持たない高い透明性を有した有機化合物を提供することを目的とする。また、その有機化合物を有するEC素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって、本発明は下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
【0013】
【化1】

【0014】
一般式[1]において、AおよびA’はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基、アリール基から選ばれる。ただし、AとA’との少なくともいずれか一方は前記アルキル基または前記アルコキシ基または前記アリール基である。
【0015】
前記アリール基は炭素原子数1以上4以下のアルキル基または炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を置換基として有してよい。
【0016】
およびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、シリル基を表す。nは、1または2である。
【0017】
前記アリール基および前記アラルキル基および前記アミノ基および前記シリル基は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を置換基として有してよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化還元反応の繰り返しに対して高い安定性を有し、かつ電気的中性の状態で消色するため、可視光領域に消え残りを生じない高い透明性を有した有機化合物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る有機化合物の一例を分子モデルで示した図である。
【図2】例示化合物A−2の紫外可視吸収スペクトルを示した図である。
【図3】ジチエノチオフェンのサイクリックボルタモグラムを示した図である。
【図4】例示化合物A−17のサイクリックボルタモグラムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る有機化合物は下記一般式[1]で示される。
【0021】
【化2】

【0022】
一般式[1]において、AおよびA’はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、アリール基、アルコキシ基から選ばれる。ただし、AとA’との少なくともいずれか一方は前記アルキル基または前記アリール基または前記アルコキシ基である。
【0023】
前記アリール基は炭素原子数1以上4以下のアルキル基または炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を置換基として有してよい。
【0024】
およびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、シリル基を表す。nは、1または2である。
【0025】
前記アリール基および前記アラルキル基および前記アミノ基および前記シリル基は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を置換基として有してよい。
【0026】
AおよびA’で表される炭素原子数が1以上20以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、ビシクロオクチル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0027】
AおよびA’で表わされるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等となっていてもよい。さらに、アルキル基中の水素原子がフッ素原子に置換されて、例えば、トリフルオロメチル基等となっていてもよい。
【0028】
これらのアルキル基のうち、炭素原子数が小さいものが好ましく、合成容易性の観点から、メチル基、エチル基、イソプロピル基、またはターシャリーブチル基が好ましい。より好ましくは、メチル基またはエチル基またはイソプロピル基である。
【0029】
AおよびA’で表されるアリール基として、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。合成容易性の観点から、好ましくは、フェニル基またはビフェニル基である。
【0030】
上記アリール基がさらに有してもよい置換基として、ハロゲン原子、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、置換シリル基が挙げられる。アルキル基、アリール基の具体例は、上述したAおよびA’に導入される置換基であるアルキル基、アリール基の具体例と同様である。またアルキル基は、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0031】
AおよびA’の少なくとも一方は前記アルキル基または前記アリール基である。コアの光吸収部位となるジチエノチオフェン構造をAまたはA’が立体的に保護する効果を発揮するためには、AまたはA’の置換基は嵩高い置換基が好ましい。具体的にはフェニル基、ビフェニル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、ドデシル基が好ましい。フェニル基、ビフェニル基はアルキル基を置換基として有してよい。
【0032】
AおよびA’の少なくとも一方が前記アルキル基またはアリール基である場合、他方は水素原子でも構わない。
【0033】
およびRで表される置換基として、アルキル基、アリール基は、上述したAおよびA’に導入される置換基であるアルキル基、アリール基の具体例と同様である。他にRおよびRで表される置換基として、メトキシ基、エトキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等のアルコキシ基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基等の置換シリル基が挙げられる。
【0034】
これらの置換基のうち、電子供与性の置換基はコアのジチエノチオフェン部位の電子密度を高める効果がある。置換基の電子供与により酸化電位が低くなり、EC素子とした際の駆動電圧を低くする効果がある。そのため、RおよびRで表される置換基としては、特にメチル基、エチル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基が好ましい。これらの置換基は電子供与性が高いためである。
【0035】
また、これらRおよびRで表わされる置換基は、酸化還元に伴う電解重合等の副反応を抑制するために、ジチエノチオフェンと結合するフェニル基のパラ位に置換されていることがさらに好ましい。
【0036】
本発明に係る有機化合物は、光吸収部位となるコアのジチエノチオフェン構造と、ジチエノチオフェンの2位および6位にオルト位に置換基を有するフェニル基が導入された構造とから構成されている。
【0037】
本発明に係る有機化合物の構造のコアとなるジチエノチオフェン構造は、本発明に係る有機化合物における光吸収部位である。このジチエノチオフェン構造は、3つのチオフェン環が縮環した構造を有している。ジチエノチオフェンの繰り返し単位nが1または2の化合物は、導電性高分子と比較してπ共役系が短い。このπ共役系が短いことは吸収光のエネルギーが高いことを示し、エネルギーが高い光はその波長が短い。
【0038】
そのため、本発明に係る有機化合物は中性状態で紫外領域に光吸収を持ち、可視光領域に吸収を持たないので、高い透明性を示す。
【0039】
また、酸化状態においては可視光領域に光吸収を有し着色状態となる。これに対して導電性高分子の場合は中性状態で可視光領域に光吸収を有するため、酸化状態においても、電気化学反応が不十分な部分には可視光領域に吸収帯を有する“消え残り”が見られる。それに対して、本発明に係る化合物の場合は、電気化学反応が不十分な部分があったとしても可視光領域に吸収帯を有さない、高い透明性を維持できる。
【0040】
ジチエノチオフェンは分子平面性が高い。それゆえ共鳴構造により、酸化状態時に生成するラジカルカチオンの安定性を高める効果がある。
【0041】
しかし、ジチエノチオフェンのラジカルカチオンの安定性は十分ではない。
【0042】
そこで、本発明に係る化合物はジチエノチオフェンの2位および6位に、オルト位に置換基を有するフェニル基が導入した。
【0043】
置換基を有する嵩高いフェニル基を導入することで、ラジカルカチオンを生成するジチエノチオフェン骨格を上記オルト位に置換基を有するフェニル基が立体障害により保護する効果を有することを特徴としている。
【0044】
一般にラジカルカチオンの不安定性は、ラジカルの高い反応性によるラジカル同士の再結合や、ラジカルによる他分子の水素引き抜き等に起因する。つまり、ラジカルと他分子との接触によりラジカルが反応することに起因する。
【0045】
そのため、ジチエノチオフェンと結合するオルト位に置換を有するフェニル基による立体障害の効果がラジカルカチオンの安定性を高める効果は高い。なぜならば、立体障害基が他分子との接触を抑制するためである。
【0046】
例えば、ジチエノチオフェン骨格をその平面と考えると、上記オルト位に置換基を有するフェニル基はジチエノチオフェンの平面と垂直に交わる平面に存在する。従って、嵩高いオルト位に置換基を有するフェニル基が立体障害となることで、ジチエノチオフェン骨格は、他分子との接触が抑制される効果がある(ケージ効果)。
【0047】
図1は、本発明に係る有機化合物の中でAおよびA’がフェニル基の場合の分子の立体構造を示している。1はジチエノチオフェン骨格であり、2はフェニル基である。
【0048】
コアとなるジチエノチオフェン骨格は、AおよびA’のフェニル基によって、他分子との分子間接触が困難な構造となる。
【0049】
さらに、この立体障害性基AおよびA’を持つフェニル基の部位(ケージ部位)の構造は、酸化着色部位(コア部位)を他のエレクトロクロミック材料分子や不純物などとして存在する他の基質による攻撃から守る役割を持つので、コア部分を包摂するような分子形状がより望ましい。
【0050】
従って、フェニル基に導入する置換基はより嵩高いことが望ましい。メチル基よりも環構造を有する置換基のほうが望ましい。
【0051】
また、ケージ部位とコア部位に電子的な共鳴構造が少ないものが望ましく、ケージ部位に芳香環などπ電子系を持つ構造を用いる場合にはケージ部位とコア部位の電子共鳴効果を少なくすることで、コア部位に局在的に存在するHOMO(最高被占分子軌道)のケージ部位へのしみだしを減少させることができる。実際の分子においては量子化学的な揺らぎがあるので分子軌道は完全には断絶しないものの、ケージ部位とコア部位のπ電子の軌道が直交している場合には共鳴がないので、コア部位と連結するケージ部位であるフェニル基はコア部位の分子面に対しより直交していることが望ましい。この観点では該フェニル基の両オルト位を置換基で置換したものが片側置換の化合物に比べより望ましい。
【0052】
さらにこのケージ効果においては、酸化電位の低いコア部位に対して、酸化電位がコア部位より相対的に高く、酸化されにくいケージ部位が導入された構造がより望ましい。このような構成においては酸化時のラジカルおよびカチオンをコア部位に局在化させるため、分子外部からの攻撃を受けにくく、ラジカルカチオン状態の安定性を大幅に改善できると考えている。
【0053】
また、コア部位の電子密度を上げることでコア部位に生成したラジカルカチオンを安定化させることができるので、ケージ部位のフェニル基の置換基AおよびA’としては電子供与性の物がより望ましい。電子供与性が高く立体障害性が大きい置換基としてはイソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、エチルヘキシルオキシ基などが特に望ましい。
【0054】
以下に本発明に係る化合物の具体的な構造式を例示する。但し、本発明に係る化合物はこれらに限定されるものではない。
【0055】
【化3】

【0056】
【化4】

【0057】
【化5】

【0058】
【化6】

【0059】
【化7】

【0060】
【化8】

【0061】
例示化合物のうちA群に示す化合物は、一般式[1]のAおよびA’が共に同一のアルキル基またはアリール基である。これらAおよびA’で示される構造は置換フェニル基のオルト位に存在するため、コアのジチエノチオフェン構造を立体障害で保護する骨格となっている。よって、これらの化合物をEC材料として用いたEC素子では、酸化還元反応の繰り返しに対する耐久性が高い。
【0062】
例示化合物のうちB群に示す化合物は、一般式[1]のAおよびA’のうち、一方が水素原子であり、もう一方がアルキル基またはアリール基である。この場合、上記アルキル基またはアリール基は、嵩高い構造もしくは長いアルキル鎖長を有しているため、AおよびA’のうち一方の置換基のみでも、コアのジチエノチオフェンを保護する効果がある。
【0063】
A群に示される化合物の中でも下記一般式[2]で示される化合物が特に好ましい。
【0064】
【化9】

【0065】
一般式[2]において、Aは同一の置換基を表し、メチル基またはフェニル基である。Rは同一の置換基を表し、水素原子または炭素原子数が1以上4以下のアルキル基から選ばれる。
【0066】
前記フェニル基は炭素原子数が1以上4以下のアルキル基を置換基として有してよい。
nは1または2である。
【0067】
本発明に係る化合物は、下記式[3]で示される反応を用いて合成できる。式中Xはハロゲン原子である。ジチエノチオフェンのハロゲン体とオルト位に置換基を有するフェニル基のボロン酸もしくはボロン酸エステル化合物の組み合わせ、またはジチエノチオフェンのボロン酸もしくはボロン酸エステル化合物とオルト位に置換基を有するフェニル基のハロゲン体との組み合わせで、Pd触媒によるカップリング反応で合成することができる。
【0068】
【化10】

【0069】
次に、本実施形態に係るEC素子について説明する。
【0070】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子の第一の態様は、一対の電極と前記一対の電極の間に配置されるエレクトロクロミック層および電解質層とを有する素子である。このエレクトロクロミック層が本発明に係る有機化合物を有する。
【0071】
本実施形態に係るEC素子は、電極基板上に本発明に係る有機化合物を成膜することにより得ることができる。成膜法としては特に限定されないが、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)や、真空蒸着、イオン化蒸着、スパッタリング、プラズマなどにより薄膜を形成することができる。
【0072】
溶液による塗布の方法において用いられる溶媒としては、EC化合物を溶解し、塗布後揮発により除去されうるものであれば、特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジメトキシエタン、アセトニトリル、プロピオンニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、クロロホルム、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0073】
イオン伝導層に用いるイオン伝導性物質としては、イオン解離性の塩で、溶液に良好な溶解性、あるいは固体電解質に高い相溶性を示し、EC化合物の着色を確保できる程度に電子供与性を有するアニオンを含む塩であれば特に限定されない。例えば液系イオン伝導性物質、ゲル化液系イオン伝導性物質あるいは固体系イオン伝導性物質等を用いることができる。
【0074】
上記液系イオン伝導性物質としては、溶媒に塩類、酸類、アルカリ類等の支持電解質を溶解したもの等を用いることができる。上記溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に極性をするものが好ましい。具体的には水や、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオンニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジオキソラン等の有機極性溶媒が挙げられる。
【0075】
支持電解質としての塩類は、特に限定されず、各種のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機イオン塩や4級アンモニウム塩や環状4級アンモニウム塩などがあげられ、具体的にはLiClO、LiSCN、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiPF、LiI、NaI、NaSCN、NaClO、NaBF、NaAsF、KSCN、KCl等のLi、Na、Kのアルカリ金属塩等や、(CHNBF、(CNBF、(n−CNBF、(CNBr、(CNClO、(n−CNClO等の4級アンモニウム塩および環状4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0076】
上記ゲル化液系イオン伝導性物質としては、上記液系イオン伝導性物質に、さらにポリマーやゲル化剤を含有させたりして粘稠性が高いもの若しくはゲル状としたもの等を用いることができる。上記ポリマー(ゲル化剤)としては、特に限定されず、例えばポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。
【0077】
上記固体系イオン伝導性物質としては、室温で固体であり、かつイオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、ポリエチレンオキサイド、オキシエチレンメタクリレートのポリマー、ナフィオン(登録商標)、ポリスチレンスルホン酸などが挙げることができる。
【0078】
これらの電解質材料は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0079】
電極材料としては、例えば、酸化インジウムスズ合金(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化銀、酸化バナジウム、酸化モリブデン、金、銀、白金、銅、インジウム、クロムなどの金属や金属酸化物、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系材料、カーボンブラック、グラファイト、グラッシーカーボン等の炭素材料などを挙げることができる。また、ドーピング処理などで導電率を向上させた導電性ポリマー(例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸の錯体など)も好適に用いられる。
【0080】
本実施形態に係る光学フィルタにおいては、光学フィルタとしての透明性も必要とされるため、可視光領域に光吸収を示さないITO、IZO、NESA、導電率を向上させた導電性ポリマーが特に好ましく用いられる。これらはバルク状、微粒子状など様々な形態で使用できる。尚、これらの電極材料は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0081】
本実施形態に係るEC素子の形成方法は特に限定されず、電極基板上にEC層を成膜し、該基板とシールされた対向電極基板との間に設けた間隙に、真空注入法、大気注入法、メニスカス法等によって注入する方法や、電極基板またはEC層を成膜した電極基板上にイオン伝導性物質の層を形成した後、対向電極基板を合わせる方法や、フィルム状のイオン導電性物質を用いて合わせる方法等を用いることができる。
【0082】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子の第二の態様としては、一対の電極とこれら一対の電極の間に配置されたエレクトロクロミック層および電解質層が溶液層である素子である。
【0083】
この場合の溶液層はエレクトロクロミック材料が溶解するとともに、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に極性を有する(誘電率が高い)ものが好ましい。
【0084】
具体的には水や、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオンニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジオキソラン等の有機極性溶媒が挙げられる。
【0085】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、耐久性、および消色時の高透明性に優れるため、カメラ等の撮像素子への入射光量の制御および入射波長分布特性の制御に好適に用いることができる。入射波長分布の制御は撮像時の色温度変換に有効である。
【0086】
すなわち、EC素子を撮像素子につながる光学系(レンズ系)の光路内に設置することにより、撮像素子が受光する光量もしくは入射波長分布特性を制御することができる。EC素子が消色状態では高透明性を発揮できるので入射光に対して充分な透過光量が得られ、また着色状態では入射光を確実に遮光及び変調した光学的特性が得られる。また酸化還元繰り返し特性に優れ、長寿命化を達成することができる。
【実施例】
【0087】
[実施例1]
<例示化合物A−2の合成>
【0088】
【化11】

【0089】
(1)50mLの反応容器で、XX−1(ジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]チオフェン)300mg(1.53mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶解し、−78℃に冷却した。次いで、窒素雰囲気下、n−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液)を1.2ml(3.06mmol)を滴下した。反応溶液を−78℃のまま1時間保った後、2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン1.56ml(7.65mmol)を添加し、さらに30分後、反応溶液を室温に戻し、そのまま室温で16時間撹拌した。少量の水を加え反応を停止した後、ジエチルエーテルで抽出・水洗し、エーテル層を減圧濃縮し粗生成物を得た。シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)により分離精製し、白色固体粉末のXX−2を得た(155mg、収率23%)。
【0090】
(2)50mlの反応容器で、XX−2:109mg(0.243mmol)、XX−3:190.4mg(0.535mmol)を、トルエン/エチルアルコール(3ml/1.5ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。尚、XX−3はThe Journal of Organic Chemistry,51,3162(1986)に従って合成した化合物である。次にPd(PPh:14.0mg(0.01215mmol)および2M炭酸セシウム水溶液:1.5mlを窒素雰囲気下添加した後、85℃に加熱し12時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン=3/1)により分離精製し、白色固体粉末のA−2を得た(35mg、収率17%)。
【0091】
マススペクトル(MS)測定及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定の測定により、化合物A−2の構造確認を行った結果、分子量およびNMRピーク積分値の比がその構造と良く一致した。具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法マススペクトル(MALDI−MS)測定により、この化合物のMである846を確認した。また核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR(THF−d)σ(ppm):7.52(t,2H),7.42(d,4H),7.38(d,2H),7.25(m,8H),7.19−7.11(m,12H),6.70(s,2H).
13C−NMR(THF−d)σ(ppm):142.31,140.43,139.64,139.51,139.24,130.03,129.25,128.29,127.93,127.16,126.39,125.24,124.45,121.91,119.25.
得られた例示化合物A−2をクロロホルムに溶解し、この溶液について紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて測定した吸収スペクトル図を図2に示す。
【0092】
吸収ピークが最大強度となるλmaxは紫外領域である321.5nmであった。例示化合物A−2は可視光領域全体にわたって吸収を持たないので、透明な材料である。
【0093】
[実施例2]
<例示化合物A−17の合成>
【0094】
【化12】

【0095】
50mlの反応容器で、XX−4(2,6−ジブロモジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]チオフェン):200mg(0.565mmol)、2,4,6−トリメチルフェニルボロン酸:232mg(1.413mmol)をテトラヒドロフラン/エチルアルコール(8ml/4ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(PPh:32mg(0.0285mmol)および2M水酸化ナトリウム水溶液:4mlを窒素雰囲気下添加した後、80℃に加熱し12時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン)により分離精製し、白色固体粉末のA−17を得た(28mg、収率12%)。
【0096】
マススペクトル(MS)測定及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定の測定により、化合物の構造確認を行った。具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法マススペクトル(MALDI−MS)測定により、この化合物のMである433を確認した。また核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)σ(ppm):7.02(s,2H),6.98(s,4H),2.35(s,6H),2.21(s,12H).
13C−NMR(CDCl)σ(ppm):142.02,140.04,138.58,138.51,131.20,130.88,128.19,120.01,29.73,20.78.
得られた例示化合物A−17をクロロホルムに溶解し、この溶液について実施例1と同様に紫外可視分光光度計で測定した結果、吸収ピークが最大強度となるλmaxは紫外領域である307.7nmであり、可視光領域全体にわたって吸収を持たないことから、透明な材料であることが示された。
【0097】
[実施例3および比較例1]
<酸化還元サイクルの安定性>
実施例1で得られた化合物A−2、実施例2で得られた化合物A−17、および比較例として嵩高い置換基を導入していないDTT(ジチエノ[3,2−b:2’,3’−d]チオフェン)について、サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定を行った。測定は、作用電極にグラッシーカーボン、対向電極に白金、参照電極に銀を用い、支持電解質としてのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩のジクロロメタン溶液(0.1mol/L)中、A−17を溶解(1.0×10−4mol/L)し、掃引速度20mV/sで行った。溶解する化合物をA−17またはDTTに変更する以外は同様にしてCV測定を行った。例示化合物A−17のCV測定結果を図3に、比較例のDTTのCV測定結果を図4に示す。
【0098】
例示化合物A−17の場合(図3)、繰り返し掃引を行ってもCV曲線は変化せず、可逆的な酸化還元サイクルを示した。これは酸化還元の繰り返しに対して高い安定性を有していることを示している。この例示化合物A−17のCV測定においては、酸化に伴い黄緑色に着色するとともに、還元により無色透明に戻り、酸化還元に伴うエレクトロクロミック特性が確認された。この酸化還元に伴う変化を、紫外可視分光光度計で測定した結果、実施例2で示したように中性状態では吸収ピークのλmaxは307.7nmであったのに対し、酸化状態では新たな吸収ピーク(λmax=430.0nm)が出現し、さらに還元に伴いこの酸化吸収ピークは消失し、オリジナルの中性状態の吸収スペクトルに戻り、可逆的な酸化還元特性が示された。
【0099】
また、例示化合物A−2についても、A−17と同様、繰り返し掃引を行ってもCV曲線は変化せず、可逆的な酸化還元サイクルを示すことが確認された。
【0100】
一方、図4に示すように、比較例DTTの場合は、1.15V(vs.Ag/Ag+)付近の酸化ピークが掃引サイクルの回数が増加するに伴い矢印の方向に変化し、酸化還元の繰り返しにより不安定性があることが示された。
【0101】
これら酸化還元繰り返し特性における本発明の化合物が優れている結果は、比較例のDTTに比べ、本発明の例示化合物A−2やA−17においては、嵩高いターフェニル基やメシチル基がDTT部位を立体的に保護しているため、酸化時に生成するDTTのラジカルカチオンの副反応や劣化反応を抑制し、安定性が高められているためであると考えられる。さらに、化合物A−17においては、式[1]で示される置換基Bが、芳香環のパラ位にメチル基として存在するために、酸化還元時により高い安定性を示すと考えられる。
【0102】
[実施例4]
<化合物XX−6の合成>
【0103】
【化13】

【0104】
50mlの反応容器で、XX−4:177.05mg(0.50mmol)、XX−5:588.6mg(1.50mmol)を、トルエン/エチルアルコール(6ml/2ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。尚、XX−5はWO2005/054212に従って合成した化合物である。次にPd(PPh:57.8mg(0.05mmol)および2M炭酸セシウム水溶液:1.0mlを窒素雰囲気下添加した後、85℃に加熱し17時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン=5/1)により分離精製し、白色固体粉末のXX−6を得た(125mg、収率29%)。
【0105】
マススペクトル(MS)測定及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定の測定により、化合物XX−6の構造確認を行った結果、分子量およびNMRピーク積分値の比がその構造と良く一致した。具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法マススペクトル(MALDI−MS)測定により、この化合物のMである724を確認した。また核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)σ(ppm):7.56(d,2H),7.43(dd,2H),7.34(s,2H),7.31(s,2H),7.30(s,2H),7.22(s,2H),7.21(s,2H),6.82(s,2H),1.39(s,18H),1.31(s,18H).
13C−NMR(CDCl)σ(ppm):150.42,149.42,144.63,140.35,138.00,137.90,132.64,130.97,130.80,129.26,129.06,128.25,127.75,125.29,125.11,120.22,34.61,34.54,31.40,31.35.
得られた化合物XX−6をクロロホルムに溶解し、この溶液について実施例1と同様に紫外可視分光光度計で測定した結果、吸収ピークが最大強度となるλmaxは紫外領域である358.5nmであり、可視光領域全体にわたって吸収を持たないことから、透明な材料であることが示された。
【0106】
[実施例5および比較例2]
<酸化還元サイクルの耐久安定性>
実施例2で得られた化合物A−17、実施例4で得られた化合物XX−6、実施例6で得られた化合物XX−8、実施例7で得られた化合物A−1、および比較例として本発明の置換基より立体障害が小さいtert−ブチル基を置換基としてDTTに導入した化合物(XX−7)について、酸化還元サイクル耐久性の測定を行った。尚、比較例の化合物はtert−ブチルブロミド(2−ブロモ−2−メチルプロパン)とDTTとのフリーデルクラフツ反応により合成した。構造式を下記に示す。
【0107】
【化14】

【0108】
耐久性の測定は、作用電極にグラッシーカーボン、対向電極に白金、参照電極に銀を用い、支持電解質としてのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩のジクロロメタン溶液(0.1mol/L)中、各化合物を溶解(1.0×10−4mol/L)した溶液で行った。この溶液について、化合物の酸化電位以上である+1.1V(vs.Ag/Ag+)/3秒間の定電位酸化と、0V(vs.Ag/Ag+)/3秒間の定電位還元からなる矩形波電位プログラムを20000回繰り返した。20000回の酸化還元サイクル前および後のCV測定における酸化ピーク電流量の変化を表1にまとめた。ここで酸化ピーク電流変化率とは、初期の電流量を100%としてそこからの変動量を加算して示したものである。
【0109】
【表1】

【0110】
比較例2の化合物XX−7においては、20000回の酸化還元サイクル後には酸化ピーク電流量が減少し劣化が示唆されたのに対して、実施例2、4、6、および7の化合物(A−17、XX−6、XX−8、A−1)においては、20000回の酸化還元サイクル後も酸化電流量に殆ど変化は見られなかった。これら酸化還元サイクルの耐久安定性における本発明の化合物が優れている結果は、比較例2のXX−7に比べ、本発明の化合物A−17、XX−6、XX−8、A−1においては嵩高い置換基がDTT部位を立体的に保護しているため、酸化時に生成するDTTのラジカルカチオンの副反応や劣化反応を抑制し、結果として耐久安定性が高められているためであると考えられる。
【0111】
[実施例6]
<化合物XX−8の合成>
【0112】
【化15】

【0113】
50mlの反応容器で、XX−4:177.05mg(0.50mmol)、2−イソプロポキシ−6−メトキシフェニルボロン酸:420mg(2.0mmol)を、トルエン/テトラヒドロフラン(6ml/3ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(OAc):2.3mg(0.01mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos):10.3mg(0.025mmol)およびりん酸三カリウム:575.7mg(2.5mmol)を窒素雰囲気下添加し、110℃にて加熱還流し8時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム=1/2)により分離精製し、白色固体粉末のXX−8を得た(187mg、収率71%)。
【0114】
マススペクトル(MS)測定及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定の測定により、化合物XX−8の構造確認を行った結果、分子量およびNMRピーク積分値の比がその構造と良く一致した。具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法マススペクトル(MALDI−MS)測定により、この化合物のMである524を確認した。また核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)σ(ppm):7.72(s,2H),7.22(t,2H),6.68(d,2H),6.65(d,2H),4.59(m,2H),3.88(s,6H),1.36(s,6H),1.35(s,6H).
13C−NMR(CDCl)σ(ppm):157.98,156.07,139.80,134.87,131.70,128.52,122.26,114.16,107.54,104.23,71.62,55.98,22.15.
得られた化合物XX−8をクロロホルムに溶解し、この溶液について実施例1と同様に紫外可視分光光度計で測定した結果、吸収ピークが最大強度となるλmaxは紫外領域である364.5nmであり、可視光領域全体にわたって吸収を持たないことから、透明な材料であることが示された。
【0115】
[実施例7]
<例示化合物A−1の合成>
【0116】
【化16】

【0117】
50mlの反応容器で、実施例1で合成したXX−2:526.2mg(1.17mmol)、XX−3:1071.2mg(3.0mmol)を、トルエン/エチルアルコール/テトラヒドロフラン(6ml/3ml/8ml)混合溶媒中、実施例1と同様に反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム=3/2)により分離精製し、白色固体粉末のA−1を得た(72mg、収率9.4%)。
【0118】
マススペクトル(MS)測定及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定の測定により、化合物A−1の構造確認を行った結果、分子量およびNMRピーク積分値の比がその構造と良く一致した。具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法マススペクトル(MALDI−MS)測定により、この化合物のMである652を確認した。また核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR(THF−d)σ(ppm):7.60(t,2H),7.50(d,4H),7.31−7.25(m,20H),6.71(s,2H).
得られた例示化合物A−1をクロロホルムに溶解し、この溶液について実施例1と同様に紫外可視分光光度計で測定した結果、吸収ピークが最大強度となるλmaxは紫外領域である355nmであり、可視光領域全体にわたって吸収を持たないことから、透明な材料であることが示された。
【0119】
例示化合物A−1の酸化時の吸収ピークは、480nmの可視部位の吸収が得られる。
【0120】
[実施例8]
<化合物XX−9の合成>
【0121】
【化17】

【0122】
50mlの反応容器で、XX−4:176.2mg(0.5mmol)、2,5−ジメトキシフェニルボロン酸:294.9mg(1.62mmol)を、トルエン/エチルアルコール/テトラヒドロフラン(4ml/2ml/4ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(PPh:57.8mg(0.05mmol)および2M炭酸セシウム水溶液:1.0mlを窒素雰囲気下添加した後、89℃に加熱し10時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:トルエン/クロロホルム=1/1)により分離精製し、白色固体粉末のXX−9を得た(152.8mg、収率65.2%)。
【0123】
マススペクトル(MS)測定及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定の測定により、化合物XX−9の構造確認を行った結果、分子量およびNMRピーク積分値の比がその構造と良く一致した。具体的には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法マススペクトル(MALDI−MS)測定により、この化合物のMである468を確認した。また核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)σ(ppm):7.74(s,2H),7.24(d,2H),6.95(d,2H),6.84(dd,2H),3.94(s,6H),3.84(s,6H).
得られた化合物XX−9をクロロホルムに溶解し、この溶液について実施例1と同様に紫外可視分光光度計で測定した結果、吸収ピークが最大強度となるλmaxは紫外領域である390nmであり、可視光領域全体にわたって吸収を持たないことから、透明な材料であることが示された。
【0124】
以上のように本発明に係る有機化合物は、中性で透明であり、酸化還元繰り返しに対する耐久性が高い材料であり、EC素子に用いた場合、消色時に可視光領域に光吸収を示さず高透明で、耐久性に優れた安定なEC素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0125】
1 ジチエノチオフェン骨格
2 フェニル基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】


一般式[1]において、AおよびA’はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基、アリール基から選ばれる。ただし、AとA’との少なくともいずれか一方は前記アルキル基または前記アルコキシ基または前記アリール基である。
前記アリール基は炭素原子数1以上4以下のアルキル基または炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を置換基として有してよい。
およびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子数1以上20以下のアルキル基、炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、シリル基を表す。nは、1または2である。
前記アリール基および前記アラルキル基および前記アミノ基および前記シリル基は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を置換基として有してよい。
【請求項2】
前記AおよびA’はいずれも前記フェニル基または前記メチル基のいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項3】
前記AおよびA’がいずれも前記メチル基であることを特徴とする請求項2に記載の有機化合物。
【請求項4】
前記AおよびA’の少なくともいずれか一方は炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項5】
前記AおよびA’の少なくともいずれか一方は炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基であることを特徴とする請求項4に記載の有機化合物。
【請求項6】
前記AおよびA’の少なくともいずれか一方はメトキシ基またはイソプロポキシ基であることを特徴とする請求項5に記載の有機化合物。
【請求項7】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置されるエレクトロクロミック層およびイオン伝導層とを有し、
前記エレクトロクロミック層は請求項1乃至6に記載の有機化合物を有することを特徴とするエレクトロクロミック素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−180333(P2012−180333A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64398(P2011−64398)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】