説明

新規洗浄溶媒を用いるオリゴヌクレオチド合成法

【課題】代替洗浄溶媒を用いるオリゴヌクレオチド合成法の提供。
【解決手段】ホスホロアミダイト法に基づくオリゴヌクレオチド固相合成法において、各反応工程終了時に洗浄溶媒としてアセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンを用いて固相担体を洗浄することを特徴とする、オリゴヌクレオチドの化学的合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代替洗浄溶媒を用いるオリゴヌクレオチド合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCR、アンチセンス技術、核酸構造解析、RNAi研究を含む広範な用途にオリゴヌクレオチドが広く用いられている。オリゴヌクレオチドの化学合成技術は、最初にKhoranaらのリン酸ジエステル法(非特許文献1)が開発され、その後、リン酸トリエステル法(非特許文献2、3)、ホスファイト法(非特許文献4)、ホスファイト法の改良法でありホスホロアミダイト化したより安定なヌクレオシド誘導体を用いるCaruthersらのホスホロアミダイト法(非特許文献5、6)、さらにH-ホスホネート法(非特許文献7)等が開発された。ホスホロアミダイト法の改良法としてKosterらによって開発されたβ-シアノエチルホスホロアミダイト法(非特許文献6)は、DNA/RNA自動合成装置において広く利用されている。
【0003】
これらのオリゴヌクレオチド合成技術に関しては、それぞれの反応に適した試薬や反応条件の検討、改良が詳細になされてきており、例えば1回のオリゴヌクレオチド鎖伸長反応(縮合反応)の収率として、リン酸トリエステル法ではおよそ90〜95%、β-シアノエチルホスホロアミダイト法等を含むホスファイト法ではおよそ98〜99%を達成している。
【0004】
これらのオリゴヌクレオチド合成法は、化学反応としては、ほぼ完成された方法とみなされているが、1回の縮合反応の収率が99%であっても50merを超えるような長鎖オリゴヌクレオチドを合成する場合には最終収率が大幅に減少することが依然として問題である。また従来のオリゴヌクレオチド合成法では、比較的高い純度でオリゴヌクレオチドを合成できるものの、合成反応が途中で停止したオリゴヌクレオチド等の不純物が合成産物中にある程度の量で生じるため、合成後に高速液体クロマトグラフィー等で精製を行う必要があり、この精製工程が最終収率をさらに低下させる要因にもなっていた。そこで、最終収率を向上させるため、例えば収率低下の要因となるヌクレオシド塩基部の脱保護工程を省略可能な無保護ヌクレオシドを用いた合成方法の開発も行われている(非特許文献8、特許文献1等)。しかしより簡便な操作でより収率の高いオリゴヌクレオチド合成法の開発がなおも望まれるところである。
【0005】
ところで、現在実用化されているホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド固相合成では、各反応工程終了後に各工程で用いた反応剤を除去するためにアセトニトリルを洗浄溶媒として用いて固相担体を洗浄している。アセトニトリルはアクリロニトリル製造時に生成する副産物であり、アクリロニトリルに対して3%の割合で生成される。近年、アセトニトリルは、オリゴヌクレオチドの固相合成のみならず、医薬品中間体製造やクロマトグラフィーなど広範な分野で用いられている。一方、アクリロニトリルが減産された場合にはアセトニトリルが供給不足となることが予想されるため、従来法と少なくとも同等程度の効率でオリゴヌクレオチドを合成可能な代替洗浄溶媒を用いた固相合成法を開発することが急務となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−99532号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P.T. Gilham, H.G. Khorana, J. Amer. Chem. Soc., (1958) 80, 6212
【非特許文献2】R.L. Letsinger, K.K. Ogilvie, J. Am. Chem. Soc. (1967) 89, 4801
【非特許文献3】H. Ito et al., Nucleic Acids Res. (1982) 10, 1755
【非特許文献4】R.L. Letsinger, W.B. Lundsford, J. Am. Chem. Soc. (1976) 98, p.3655
【非特許文献5】M.D. Matteucci, M.H. Caruthers, J. Amer. Chem. Soc. (1981) 103, 3185
【非特許文献6】N.D. Sinha, J. Biernat and H. Koster, Nucleic Acids Res. (1984) 12, 4539
【非特許文献7】B.C. Froehler et al., Nucleic Acids Res. (1986) 14, 5399
【非特許文献8】S.M. Gryaznov, R.L. Letsinger, Nucleic Acids Res. (1992) 20(8): 1879-1882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、代替洗浄溶媒を用いるオリゴヌクレオチド合成法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、オリゴヌクレオチド固相合成法においてアセトニトリルに代えてアセトニトリル−アセトン混液又はアセトンを洗浄溶媒として用いることにより優れた洗浄効果を達成でき、合成オリゴヌクレオチドを効率よく生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] ホスホロアミダイト法に基づくオリゴヌクレオチド固相合成法において、各反応工程終了時に洗浄溶媒としてアセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンを用いて固相担体を洗浄することを特徴とする、オリゴヌクレオチドの化学的合成方法。
【0011】
好ましい一実施形態では、アセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンとして、0%:100%〜95%:5%のアセトニトリル:アセトンの混合比のものを使用できる。
【0012】
さらに好ましい一実施形態では、アセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンとして、30%:70%〜70%:30%のアセトニトリル:アセトンの混合比のものを用いてもよい。
【0013】
上記方法において、ホスホロアミダイト法に基づくオリゴヌクレオチド固相合成法は、
(a) 固相担体上のヌクレオシドの5'水酸基を酸処理により除去する工程、
(b) ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を、酸触媒で活性化させ、縮合反応により固相担体上のヌクレオシドの5'水酸基と三価リン酸結合により連結させる工程、
(c) 未反応の該5'水酸基をキャッピングする工程、及び
(d) 該三価リン酸結合を酸化する工程
を含む反応サイクルを反復的に行うことを含むオリゴヌクレオチド固相合成法でありうる。
【0014】
上記方法では固相担体としてコントロールポアドグラス(CPG)又はポリスチレン(PS)を好適に使用することができる。
【0015】
[2] アセトニトリルとアセトンとの混合液、又はアセトンを有効成分として含む、オリゴヌクレオチド固相合成のための固相担体用の洗浄剤。
この洗浄剤の好ましい実施形態では、アセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンは、0%:100%〜95%:5%のアセトニトリル:アセトンの混合比のものを用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、アセトニトリルを洗浄溶媒として用いる従来の固相オリゴヌクレオチド合成法と同等の効率、及び同等又はそれ以上の純度での合成を達成可能なオリゴヌクレオチド合成の代替法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は洗浄溶媒としてアセトニトリルを用いて固相担体CPG上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図2】図2は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図3】図3は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(1:1(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図4】図4は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(3:7(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図5】図5は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(3:7(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図6】図6は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図7】図7は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体ポリスチレン(PS)上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図8】図8は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(1:1(v/v))を用いて固相担体ポリスチレン(PS)上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図9】図9は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(3:7(v/v))を用いて固相担体ポリスチレン(PS)上で合成した配列1のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図10】図10は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列2のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図11】図11は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列2のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図12】図12は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列3のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図13】図13は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列3のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図14】図14は洗浄溶媒としてアセトニトリルを用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図15】図15は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(95:5(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図16】図16は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図17】図17は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図18】図18は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(1:1(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図19】図19は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(3:7(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図20】図20は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図21】図21は洗浄溶媒としてアセトンを用いて固相担体CPG上で合成した配列4のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図22】図22は洗浄溶媒としてアセトニトリルを用いて固相担体CPG上で合成した配列5のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図23】図23は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(95:5(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列5のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図24】図24は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列5のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図25】図25は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列5のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図26】図26は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(1:1(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列5のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図27】図27は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(3:7(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列5のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図28】図28は洗浄溶媒としてアセトニトリルを用いて固相担体CPG上で合成した配列6のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図29】図29は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列6のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【図30】図30は洗浄溶媒としてアセトニトリルを用いて固相担体CPG上で合成した配列7のオリゴヌクレオチド合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムを示す図である。
【図31】図31は洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液(7:3(v/v))を用いて固相担体CPG上で合成した配列7のオリゴヌクレオチド合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド合成法において、各工程終了時に用いる洗浄溶媒として、従来最も一般的に使用されてきたアセトニトリルに代えて、アセトニトリルとアセトンの混合液、又はアセトンを用いるオリゴヌクレオチドの化学合成法に関するものである。本発明の方法では、それらの代替洗浄溶媒を用いてなお、従来法と同様に成功裡にオリゴヌクレオチドを合成することができる。本発明において「オリゴヌクレオチド」とは、2塩基長(2mer又は2bp)以上の核酸、通常は2〜1000塩基長、より一般的には2〜500塩基長の核酸をいう。本発明における「オリゴヌクレオチド」はDNA(オリゴデオキシリボヌクレオチド)でもRNA(オリゴリボヌクレオチド)でもよい。
【0019】
本発明のオリゴヌクレオチド合成法は、合成サイクル数が増加しても合成産物の純度が低下しにくいため、長鎖オリゴヌクレオチドの合成にも適している。一般に、平均縮合収率が98%〜97%である場合、鎖長が延長されるにつれて目的鎖長(主生成物)とそれよりも塩基長が短い不完全鎖長の比率が、平均縮合収率99%以上の合成産物のものに比較して高くなり、結果的に純度が低下する。本法では、縮合を阻害する、縮合後に用いる固相担体表面に残存する試薬を、より効果的に除去することが可能となり、縮合効率が低下すること無く、目的とする最終鎖長まで高効率の縮合反応を維持できる。長鎖オリゴヌクレオチドのとりわけ好適な例としては、50mer〜100merのオリゴヌクレオチドを、効率よく生産することができる。
【0020】
本発明の方法の基礎として用いるホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド合成法は、基本的には、Caruthersらのホスホロアミダイト法、その改良法であるKosterらのβ-シアノエチルホスホロアミダイト法又はそれらの改良法である。これらの方法は、縮合反応に用いるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を、酸触媒を用いてそのN-N-ジイソプロピルアミノ基に対しプロトンを供与して活性化し、それにより固相担体上に固定された核酸(ヌクレオシド又はポリヌクレオチド)の5'-末端のヌクレオシドの5'-水酸基(5'-末端水酸基)との間で縮合反応を起こさせ、それらを三価リン酸結合により結合させること、及びその三価リン酸結合を酸化して安定な五価リン酸結合にすることに基づくものである。
【0021】
本発明の方法では、アセトニトリルとアセトンの混合液又はアセトンである新規洗浄溶媒を用いる点以外は、公知のホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド合成法の各工程を実施すればよい。本発明の方法は、例えば、ヌクレオシドのβ-シアノエチルホスホロアミダイト体を用いるβ-シアノエチルホスホロアミダイト法において、アセトニトリルに代えて本発明に係る洗浄溶媒を用いることにより、好適に実施することができる。β-シアノエチルホスホロアミダイト法による典型的なオリゴヌクレオチド固相合成サイクルを以下に示す。下記の「CPG」は、固相合成としてのコントロールポアドグラス(CPG;後述)を表す。下記の「B」は、核酸塩基(通常は、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、又はウラシル)を表す。DMTrはジメトキシトリチル基を表す。
【0022】
【化1】

【0023】
本発明で洗浄溶媒として用いるアセトニトリルとアセトンの混合液(以下、アセトニトリル−アセトン混液とも記載する)又はアセトンは、アセトニトリル(CH3CN)とアセトン((CH3)2CO)とを、重量比で、0%:100%〜95%:5%のアセトニトリル:アセトンの比率で混合した溶媒であることが好ましい。ここでアセトニトリルとアセトンの混合比0%:100%の洗浄溶媒とは、すなわちアセトン100%の溶媒である。本発明で用いる洗浄溶媒のアセトニトリルとアセトンの混合比はまた、重量比で、0%:100%〜80%:20%であってよく、0%:100%〜70%:30%であってもよく、10%:90%〜70%:30%であってもよく、30%:70%〜70%:30%であってもよく、40%:60%〜60%:40%であってもよく、50%:50%であってもよい。合成反応完了時に得られる合成産物中の目的のオリゴヌクレオチドの純度を、洗浄溶媒としてアセトニトリルを用いたときと比較して向上させるためには、限定するものではないが、アセトニトリルとアセトンの混合比を、重量比で、30%:70%〜70%:30%とすることが好ましく、40%:60%〜60%:40%とすることがさらに好ましく、特に高純度な合成産物を得るためには、アセトニトリルとアセトンの混合比を、重量比で、50%:50%とすることがさらに好ましい。洗浄溶媒のアセトニトリルとアセトンの混合比は用いる固相担体や他の試薬、合成オリゴヌクレオチド長等に応じて適宜調整することができる。本発明に係る洗浄溶媒の固相担体への1回の洗浄当たりの添加量は、当業者であれば固相担体の量、使用するDNA/RNA自動合成装置、使用した試薬量等に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、通常は100μL〜10mLを用いればよい。
【0024】
本発明では、上記洗浄溶媒で洗浄する固体担体として、オリゴヌクレオチド固相合成に使用される任意の固体担体、例えばポリスチレン(PS)、シリカゲル、ポリエチレングリコール、製造法によりコントロールされた孔を有する多孔質ガラスビーズであるコントロールポアドグラス(CPG)等を用いることができる。実用上は、ポリスチレン(PS)又はコントロールポアドグラス(CPG)を使用するのが便利である。固相担体は、任意の形態で用いることができるが、DNA/RNA自動合成装置等では、カラム等の容器に充填した形態で用いることが好ましい。本発明では、限定するものではないが、合成すべきオリゴヌクレオチドの3'-末端の塩基を含むヌクレオシドの、好ましくは3'-水酸基にコハク酸が導入された誘導体等を固定した固体担体を、出発物質としてオリゴヌクレオチド合成反応に供することが好ましい。ヌクレオシドの固体担体上への固定は、常法により行うことができ、例えば好ましくはリンカーを介して行うことができる。具体的には、ヌクレオシドを固定した固体担体は、固体担体上のシラノール水酸基にアミノプロピル基等のアミノアルキル基が導入されたものにヌクレオシド-3'-O-サクシニル体が結合されたものでもよい。あるいは、保護ヌクレオシドにQリンカーを用いて固相担体に導入したものでもよいし、ヌクレオシドのアミダイト体を固相担体ユニバーサルサポートに導入したものも公知技術として本発明において利用できる。
【0025】
本発明の方法は、本発明の方法の基礎として用いるホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド合成法と同じく、ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を縮合反応に使用する。本発明においてヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体とは、オリゴヌクレオチド合成分野でのいわゆるアミダイト試薬をいい、具体的には糖部の3'-位がホスフィチレーション(phosphitylation)されたヌクレオチドを指す。
【0026】
本発明においてヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、デオキシリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体又はリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体であってよく、その官能基は保護されていても無保護であってもよい。本発明で用いるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、典型的には、以下の式(I)の化合物である。
【0027】
【化2】

(式中、Bは核酸塩基を表し、R1は水素原子、水酸基、又は水酸基の保護基を表し、R2は水酸基の保護基を表し、R3はリン酸の保護基を表し、R4は置換又は非置換のアミノ基を表す)
【0028】
このヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体の塩基部(式(I)中のB)のアミノ部位(アミノ基)は保護されていてもよい。本発明におけるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体では、塩基部のアミノ基は、限定するものではないが、操作容易性の点では、塩基性条件下で脱離する保護基、例えばアシル基等のアシル系保護基又はアミジン系保護基、具体例としてはベンゾイル基、イソブチリル基、アセチル基等で保護されていることが好ましい。限定するものではないが、Bがアデニン、シトシン、又はグアニンである場合には塩基部のアミノ部位が上記保護基で保護されていることがより好ましく、Bがチミン又はウラシルである場合には反応性が元々低いことから塩基部は無保護であってもよい。
【0029】
ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体の2'-位(式(I)中のR1)は、デオキシリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体の場合は水素原子であり、リボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体の場合は水酸基、又は水酸基を保護する保護基である。本発明で用いるリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体では、この2'-水酸基が保護されていることが好ましい。2'-水酸基の保護基としては、t-ブチルジメチルシリル基(TBDMS)、トリイソプロピルシリルオキシメチル基(TOM)、ビス(2-アセトキシエチルオキシ)メチル基(ACE)、2-シアノエトキシメチル基(CEM)等が挙げられる。
【0030】
本発明におけるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、その5'-末端に当たる糖部の5'-水酸基が保護されていることがより好ましい。その5'-水酸基の保護基(式(I)中のR2)は、選択的に(具体例としては酸性条件下で)容易に脱離し、その脱保護された保護基について吸光度測定が可能なものであることが好ましい。当該5'-水酸基の保護基の代表例としては4,4'-ジメトキシトリチル基(DMTr)又はその誘導体等が挙げられる。本発明に係るヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体の5'-水酸基の保護基は、蛍光色素、ビオチン、リン酸基、アミノ基等によりさらに修飾されていてもよい。
【0031】
本発明に係るヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体においてはリン酸基が保護基によって保護されていることが好ましい。そのリン酸基の保護基(式(I)中のR3)としては、限定するものではないが、β−シアノエチル基、ニトロフェニルエチル基、メチル基等が挙げられる。保護基の脱離容易性の点では、本発明におけるこのヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体のリン酸基の保護基としては、酸性条件下では脱離しないが塩基性条件下で容易に脱離する保護基、例えばβ−シアノエチル基はより好ましい。
【0032】
本発明に係るヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、置換又は非置換のアミノ基(R4)を有する。この置換又は非置換のアミノ基としては、具体的には例えば、ジイソプロピルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、若しくはモルホリノ基等のアミン類を含むアミン誘導体が挙げられる。
【0033】
本発明で用いるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体としては、DNA合成の場合には、デオキシリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体、すなわち保護又は無保護デオキシアデノシン、保護又は無保護デオキシグアノシン、保護又は無保護デオキシシチジン、保護又は無保護チミジンの各々の3'-O-ホスホロアミダイト体を用いることができる。RNA合成の場合には、リボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体、すなわち保護又は無保護アデノシン、保護又は無保護グアノシン、保護又は無保護シチジン、保護又は無保護ウリジンの各々の3'-0-ホスホロアミダイト体を用いればよい。
【0034】
本発明の方法において縮合反応に用いるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、公知の方法により、例えば3'-水酸基遊離の部分保護又は塩基部無保護ヌクレオシドを(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンを用いて、又は保護ヌクレオシドをビス-(N,N-ジイソプロピルアミノ)-(2-シアノエチル)-ホスフィンを用いてアミダイト化することにより製造することができる。本発明においてヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体はまた、市販品を購入して用いることもできる。本発明で用いるヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、例えば和光純薬工業、GEヘルスケア、アプライドバイオシステムズ、Thremo Fisher、Glen Research Co., Ltd.、Proligo Co., Ltd.等の供給先から入手可能である。また保護ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、サーモフィッシャー社、アプライドバイオシステムズ社、プロリゴ社等からオリゴヌクレオチドの合成原料として入手することもできる。
【0035】
本発明の方法は、具体的には、ホスホロアミダイト法によるオリゴヌクレオチド合成法に基づき、(a) 固相担体上のヌクレオシドの5'-水酸基の保護基を酸処理により除去する工程(5'-位保護基除去工程)、(b) ヌクレオシド-3'-0-ホスホロアミダイト誘導体を、酸触媒で活性化させ、縮合反応により固相担体上のヌクレオシドの5'水酸基と三価リン酸結合により連結させる工程(縮合工程)、(c) 未反応の該5'-水酸基をキャッピングする工程(キャッピング工程)、及び(d) 該三価リン酸結合を酸化する工程(酸化工程)、を含む反応サイクルを反復的に(合成すべき鎖長に応じて、2回以上)行うことを含むオリゴヌクレオチド固相合成法であって、それらのうち少なくとも1つの工程の終了時(すなわち一の工程と次の工程の間)に、その反応系に残存した余剰試薬を除去するために本発明に係る洗浄溶媒を用いた固相担体の洗浄工程を行うことを特徴とするオリゴヌクレオチドの化学合成方法である。本発明の方法は、目的の鎖長の合成完了までの工程を室温(約20〜25℃)で行うことができる。本発明の方法では、DNAもRNAも合成可能である。本発明の方法は、DNA/RNA自動合成装置を用いて行うのに適している。
【0036】
より好ましい実施形態では、本発明の方法は、以下の工程(a)〜(d)及び洗浄工程(i)〜(iv)を含む、1塩基分のオリゴヌクレオチド鎖伸長反応を完了する過程を1サイクルとし、それを目的の鎖長に達するまで繰り返し行うことにより実施することができる。但し、用いる試薬に応じて不要となる工程及びその工程終了時の洗浄工程については、省略してもよい。
【0037】
(a) 5'-位保護基除去工程
本工程では固相担体上に固定された核酸(オリゴヌクレオチド又はヌクレオシド)を酸処理することにより、その核酸の5'-末端のヌクレオシドの5'-水酸基(以下、単に5'-水酸基とも呼ぶ)の保護基を酸性条件下で脱離(脱保護)させ、この5'-水酸基を遊離状態とすることにより、その5'-水酸基を除去する。5'-水酸基の保護基は、限定するものではないが、最も一般的にはジメトキシトリチル基(DMTr)である。5'-水酸基からのジメトキシトリチル基の脱離は、限定するものではないが、好適には、3%トリクロロ酢酸−ジクロロメタン溶液又は3%ジクロロ酢酸−ジクロロメタン溶液を用いることができる。これらの酸処理用試薬は、例えば和光純薬工業、GEヘルスケア、アプライドバイオシステムズ、Thremo Fisher、Glen Research Co., Ltd.、Proligo Co., Ltd.等多くの供給先から入手可能である。
【0038】
本発明において「固相担体上のヌクレオシド」とは固相担体上に固定されたオリゴヌクレオチドの5'-末端のヌクレオシド、又は固相担体上に固定されたヌクレオシドを指す。さらに「固相担体上のヌクレオシドの5'-水酸基」とは、固相担体上に固定されたオリゴヌクレオチドの5'-末端のヌクレオシド又は固相担体上に固定されたヌクレオシドの5’-位の水酸基をいう。
【0039】
(i) 洗浄工程−1
5'-位保護基除去工程の完了後、本発明に係る洗浄溶媒(アセトニトリル−アセトン混液又はアセトン)を固相担体に添加し、固相担体から酸処理用試薬等を洗い流す。この固相担体の洗浄操作は、1回でもよいが、好ましくは複数回、例えば2回行ってもよい。洗浄溶媒を固相担体に加えた後、フラッシュ操作により洗浄溶媒を効率良く除去することもできる。本発明においてフラッシュ操作とは、不活性ガス、例えばアルゴンガス又は窒素ガスを、カラムに送風する事によりカラム内容液を除去する操作をいう。この洗浄工程により、固相担体は十分に洗浄されるとともに脱水処理も同時にされることとなる。この脱水処理は、次の工程(b)でのヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体の不活性化を抑制するために必要である。
【0040】
(b) 縮合工程
5'-位保護基除去工程(a)及び洗浄工程(i)に続く本工程では、上記工程(a)で脱保護した5'水酸基を有する固相担体上の核酸に、次に該核酸に連結させるべきヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体と、活性化剤である酸触媒とを添加する。この結果、ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、酸触媒により活性化され、それに固相担体上の核酸の遊離5'水酸基が反応し両者は縮合反応により連結されることとなる。この縮合反応により生じる結合は三価のリン酸結合である。
【0041】
本工程において、ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体は、限定するものではないが、アセトニトリル等の溶媒中への溶解液として固相担体に添加することが好ましい。本発明の方法で使用可能なヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体については後述する。
【0042】
酸触媒としては、限定するものではないが、1H-テトラゾール、5'-エチルチオ-1H-テトラゾール、ベンチルチオ-1H-テトラゾール、ジシアノイミダゾール等の公知の酸触媒(活性化剤)を使用することができ、その一例としては1H-テトラゾールが挙げられる。酸触媒は、アセトニトリル等の溶媒に溶解させた溶液として添加することが好ましく、その酸触媒溶液は0.1M〜0.45M、好ましくは0.25M〜0.45Mで調製したものを用いることができるが、この濃度に限定されるものではなく当業者が適宜調節可能である。
【0043】
固相担体上に固定された核酸の脱保護された5'末端のヌクレオシドに対しては、通常はヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を含む溶解液を6〜12等量、酸触媒溶液を12〜24等量で加えることが好ましいが、これに限定されるものではない。反応時間は、限定されるものではないが、通常は30〜120秒とすることが好ましい。
【0044】
(ii) 洗浄工程−2
縮合工程(b)の完了後、本発明に係る洗浄溶媒(アセトニトリル−アセトン混液又はアセトン)を固相担体に添加し、固相担体から酸触媒及びヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体等の余剰試薬を洗い流す。洗浄溶媒を固相担体に加えた後、フラッシュ操作により洗浄溶媒を効率良く除去することもできる。この固相担体の洗浄操作は、1回でもよいが、好ましくは複数回、例えば2回行ってもよい。
【0045】
(c)キャッピング工程
縮合工程(b)及び洗浄工程(ii)に続いて、固相担体上のヌクレオシドの未反応の5'-水酸基を、工程(a)で脱保護するものとは別の保護基で保護することにより、不活性化(すなわち、キャッピング)することができる。
【0046】
ホスホロアミダイト法はこれまでに開発されたリン酸エステル縮合反応の中では最も活性があり、液相では反応が100%完了するが、固相では相が不均一になりやすく反応効率がわずかに低下する。このため固相担体上には未反応の5'-水酸基を有するヌクレオシドが残存することになるが、これは次の鎖長伸長反応サイクルで伸長反応を生じると分離し難い不純物となるため、未反応の遊離な状態の5'-水酸基を持つ未反応のヌクレオシド又はヌクレオチドを次のサイクルに持ち越さないように、キャッピングにより未反応の5'-水酸基を不活性化して伸長反応を停止させることが好ましい。
【0047】
このキャッピングは、従来公知の方法で行うことができるが、塩基性条件下でのみ脱離する保護基を付加することによって行うことが好ましく、一般的には、その未反応の5'水酸基をアセチル化することにより行うことが好ましい。未反応の5'-水酸基のアセチル化は、限定するものではないが、無水酢酸又は無水フェノキシ酢酸によるアセチル化を利用することができる。未反応の5'-水酸基のキャッピングのためには、無水酢酸を含む溶液を、反応時に生じる酢酸と塩形成させるための塩基性触媒と共に固相担体に添加することが好ましい。無水酢酸を含む溶液と、塩基性触媒である1-メチルイミダゾール等を含む溶液は、別々に調製してキャッピング工程の際に用時調製することが好ましい。
【0048】
無水酢酸((CH3CO)2O又はAc2O)と共に添加する塩基性触媒としては、限定するものではないが、1-メチルイミダゾール(1-MeIm)、芳香族アミンであるピリジン(Pyr)、2,6-ルチジン(Lut)などが挙げられる。無水酢酸及び塩基性触媒は、それぞれ、適当な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等に溶解した溶液として添加すればよい。本工程で用いるこれら試薬(キャッピング試薬)は、例えば和光純薬工業、GEヘルスケア、アプライドバイオシステムズ、Thermo Fisher、Glen Research Co., Ltd.、Proligo Co., Ltd.等多くの供給先から入手可能である。本発明の方法において使用可能な固相担体に添加すべき無水酢酸溶液及び塩基性触媒溶液の組み合わせの例を、表1に挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
【表1】

【0050】
キャッピング試薬を添加し反応させた後、フラッシュ操作等の周知の操作により反応液を固相担体から除去することが好ましい。
【0051】
(iii) 洗浄工程−3
キャッピング工程(c)の完了後、本発明に係る洗浄溶媒(アセトニトリル−アセトン混液又はアセトン)を固相担体に添加し、固相担体から無水酢酸、塩基性触媒及びそれらを溶解した溶媒等の余剰のキャッピング試薬を洗い流す。洗浄溶媒を固相担体に加えた後、フラッシュ操作により洗浄溶媒を効率良く除去することもできる。この固相担体の洗浄操作は、1回でもよいが、複数回、例えば2回以上行ってもよい。
【0052】
(d) 酸化工程
キャッピング工程(c)及び洗浄工程(iii)に続き、縮合工程(b)で鎖伸長されたヌクレオチドの三価のリン酸結合を、酸化試薬を固相担体に添加することにより酸化し、安定な五価の正リン酸結合に変換する。三価のリン酸結合(三価リン酸トリエステル結合)は加水分解されやすく不安定なためである。酸化試薬としては、公知の酸化試薬を用いることができるが、例えばヨウ素を含む水性溶液又は過酸化物などを好適に使用することができる。具体例としては、0.1M ヨウ素−ピリジン溶液を水性溶媒又は有機溶媒に溶解した溶液、例えばヨウ素−ピリジン−水−テトラヒドロフラン溶液や、t−ブチルハイドロパーオキシド−メチレンクロリド等の過酸化物を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
(iv) 洗浄工程−4
酸化工程(d)の完了後、本発明に係る洗浄溶媒(アセトニトリル−アセトン混液又はアセトン)を固相担体に添加し、固相担体から酸化試薬等の余剰のキャッピング試薬を洗い流す。洗浄溶媒を固相担体に加えた後、フラッシュ操作により洗浄溶媒を効率良く除去することもできる。この固相担体の洗浄操作は、1回でもよいが、複数回、例えば2回以上行うことが好ましい。
【0054】
洗浄工程(iv)の完了後、合成オリゴヌクレオチドがまだ目的の鎖長に達していない場合には、5'-位保護基除去工程(a)に戻って上記サイクルを繰り返すことになる。
【0055】
本発明では、上記の工程(a)〜(d)及び洗浄工程(i)〜(iv)を含むサイクルを繰り返してオリゴヌクレオチドを合成することにより、従来と同等又はそれ以上のレベルでオリゴヌクレオチドを製造でき、さらに合成産物中の目的のオリゴヌクレオチドの純度を向上させることもできる。キャッピング工程及び/又は酸化工程で塩基性試薬を使用する場合には、合成産物中の目的のオリゴヌクレオチドの純度をとりわけ顕著に向上させることができる。
【0056】
(e)固相担体からの脱離工程及び脱保護工程
目的の鎖長のオリゴヌクレオチドの合成が完了した後、合成オリゴヌクレオチドの固相担体からの脱離工程、及びオリゴヌクレオチドのリン酸基やアミノ基の保護基を脱保護する工程を行うことができる。
【0057】
上記方法により合成されたオリゴヌクレオチドの固相担体からの脱離工程及び脱保護工程は、常法により行うことができる。合成されたオリゴデオキシリボヌクレオチドの固相担体からの脱離は、通常は合成オリゴデオキシリボヌクレオチドを担持する固相担体を、塩基性条件下に置くことによって行うことができる。好適には、例えば、合成オリゴデオキシリボヌクレオチドを担持する固相担体に、濃アンモニア水を添加して、15分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上放置して反応させることにより、固相担体から合成オリゴヌクレオチドを脱離させることができる。あるいは濃アンモニア水の添加後に加熱することにより固相担体からの合成オリゴデオキシリボヌクレオチドの脱離を促進することもできる。オリゴデオキシリボヌクレオチドのリン酸基やアミノ基の保護基の脱保護は、常法により行うことができる。典型的には、固相担体からの脱離工程において固相担体に塩基性試薬(例えば濃アンモニア水)を添加し一定時間反応させた後、加熱処理(例えば55℃〜60℃で1〜12時間の処理)することにより、ヌクレオチドに付加されているアミノ基やリン酸基の保護基を脱保護することができる。例えば、ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体由来のリン酸基保護基として用いられる3'-位のβ−シアノエチル基や、塩基部のアミノ酸保護基として通常使用されるベンゾイル基、イソブチリル基、フェノキシアセチル基、アセチル基等のアシル基は、塩基性溶媒中、例えばアンモニア水(特に好適には濃アンモニア水)や濃アンモニア水−40%メチルアミン水溶液混液で加熱処理することにより容易に脱保護することができる。ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体由来のリン酸基保護基としてメチル基を有する場合には、好ましくは固相担体からの脱離工程の前に、チオフェノールを用いて脱保護を行うことができる。
【0058】
合成オリゴリボヌクレオチドの固相担体からの脱離工程及び脱保護工程としては、固相担体に40%メチルアミン水溶液又はアンモニア−エタノール3:1混合液等の塩基性試薬を加え、例えばアンモニア−エタノール3:1混合液では55℃〜60℃で一定時間(例えば1〜12時間、好ましくは2〜3時間)加熱処理することにより、あるいは40%メチルアミン水溶液では室温で2時間(好ましくは3時間)処理することにより、固相担体からの脱離と塩基部等やリン酸の保護基であるβ-シアノエチル基の脱保護を同一工程で行う方法を用いてもよい。合成されたオリゴリボヌクレオチドに付加されている保護基の脱離も常法により行うことができる。例えば、合成されたオリゴリボヌクレオチドの2'-水酸基がt-ブチルジメチルシリル基などのシリル系保護基で保護されている場合、又は2-シアノエトキシエチル基で保護されている場合には、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド-テトラヒドロフラン溶液等のフッ素イオン化合物を用いて保護基を脱離させることができる。
【0059】
本発明のオリゴヌクレオチド合成法は、上記の工程(a)〜(e)及び洗浄工程(i)〜(iv)以外の工程をさらに含んでもよい。例えば、固相から脱離させた合成オリゴヌクレオチドを酸処理して5'-水酸基のDMTr基を脱離させてもよい。また、上記のオリゴヌクレオチド合成手順により得られた合成産物を、ゲル濾過、エタノール沈殿等の脱塩、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製、PAGE精製等でさらに精製してもよい。
【0060】
本発明はさらに、アセトニトリルとアセトンとの混合液、又はアセトンを、有効成分として含む、オリゴヌクレオチド固相合成のための固相担体用の洗浄剤も提供する。この洗浄剤の有効成分は、限定するものではないが、アセトニトリル:アセトンの混合比が重量比で0%:100%〜95%:5%のアセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンであってよい。さらに、この洗浄剤の有効成分におけるアセトニトリル:アセトンの混合比は、重量比で、0%:100%〜80%:20%であってよく、0%:100%〜70%:30%であってもよく、10%:90%〜70%:30%であってもよく、30%:70%〜70%:30%であってもよく、40%:60%〜60%:40%であってもよく、50%:50%であってもよい。本発明に係るオリゴヌクレオチド固相合成のための固相担体用の洗浄剤は水分を含まないことが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
DNA/RNA自動合成装置(アプライドバイオシステムズModel 392又は3900)を用い、下記のように洗浄溶媒としてアセトニトリル−アセトン混液又はアセトンを用いること以外は従来通りのホスホロアミダイト法に基づいて、表2に示すオリゴヌクレオチド(配列1〜7)のDNA又はRNA合成を行った。対照実験としてアセトニトリルを洗浄溶液として用いる従来のホスホロアミダイト法も行った。
【0062】
本発明の方法により合成したオリゴヌクレオチド配列(表2)は、ヘアピンループ、二重鎖などの構造多型を取らず、キャピラリー電気泳動におけるエレクトログラムで純度が明確に判断可能となる配列であると予測されたものである。
【0063】
【表2】

【0064】
本実施例のオリゴヌクレオチド合成には、固相担体として多孔質ガラスであるコントロールポアドグラス(CPG)(Proligo社製)又はポリスチレン樹脂(PS)を使用した、ヌクレオシド-3'-CPG又はヌクレオシド-3'-PSを用いた。反応は全て室温(約20〜25℃)で行った。
【0065】
本実施例で合成原料として用いたヌクレオシド誘導体は、下記に示す常法により製造された、以下の保護ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体(以下、単にアミダイト体とも称することがある)の市販品である。
【0066】
(a)保護アデノシン-又は保護デオキシアデノシン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体
DNA合成用には、保護デオキシアデノシン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、2'-デオキシアデノシンに塩基部のアミノ基の保護基としてベンゾイル基等のアシル系保護基又はアミジン系保護基を導入後、5'-水酸基の保護基としてジメトキシトリチル基を導入し、3'-水酸基遊離のヌクレオシドを調製後、それについて(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0067】
RNA合成用には、保護アデノシン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、予めアデノシンの塩基部をベンゾイル基等のアシル系保護基又はアミジン系保護基を用いて保護し、かつ、5'-水酸基をジメトキシトリチル基で保護し、2'-水酸基をt-ブチルジメチルシリル基等で保護した3'-水酸基遊離の5'-保護ヌクレオシドについて、(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0068】
(b)保護グアノシン-又は保護デオキシグアノシン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体
DNA合成用には、保護デオキシグアノシン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、2'-デオキシグアノシンに塩基部のアミノ基の保護基としてイソブチリル基等のアシル系保護基又はアミジン系保護基を導入後、5'-水酸基の保護基としてジメトキシトリチル基を導入し、3'-水酸基遊離のヌクレオシドを調製後、それについて(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0069】
RNA合成用には、保護グアノシン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、予めグアノシンの塩基部をイソブチリル基等のアシル系保護基又はアミジン系保護基を用いて保護し、かつ、5'-水酸基をジメトキシトリチル基で保護し、2'-水酸基をt-ブチルジメチルシリル基等で保護した3'-水酸基遊離の5'-保護ヌクレオシドについて、(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0070】
(c)保護シチジン-又は保護デオキシシチジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体
DNA合成用には、保護デオキシシチジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、2'-デオキシシチジンに塩基部のアミノ基の保護基としベンゾイル基等のアシル系保護基を導入後、5'-水酸基の保護基としてジメトキシトリチル基を導入し、3'-水酸基遊離のヌクレオシドを調製後、それについて(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0071】
RNA合成用には、保護シチジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、予めシチジンの塩基部をベンゾイル基等のアシル系保護基を用いて保護し、かつ、5'-水酸基をジメトキシトリチル基で保護し、2'-水酸基をt-ブチルジメチルシリル基等で保護した3'-水酸基遊離の5'-保護ヌクレオシドについて、(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0072】
(d)保護チミジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体
DNA合成用に、保護チミジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、チミジンに5'-水酸基の保護基としてジメトキシトリチル基を導入し、3'-水酸基遊離のヌクレオシドを調製後、それについて(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0073】
(e)保護ウリジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体
RNA合成用に、保護ウリジン-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を用いた。このアミダイト体は、ウリジンの5'-水酸基をジメトキシトリチル基で保護し、2'-水酸基をt-ブチルジメチルシリル基等で保護した3'-水酸基遊離の5'-保護ヌクレオシドについて、(2-シアノエチル)(N,N-ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンによりホスフィチレーションを行って3'-ホスホロアミダイト体を調製することにより得られたものである。
【0074】
オリゴヌクレオチド合成は、合成すべき各オリゴヌクレオチドの塩基配列に従って3'末端からヌクレオシド誘導体を1残基ずつ逐次結合させることにより行った。
【0075】
具体的には、オリゴデオキシリボヌクレオチドを合成する場合には、3'-末端側に2'-デオキシリボヌクレオシド-3'-O-サクシネート体が結合された結合固相担体を用意した。この固相担体と保護デオキシリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体(アミダイト体)を用いて、以下の工程A〜Dを繰り返し行うことにより、固相担体上に固定されているヌクレオシド誘導体に保護デオキシリボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を1残基ずつステップワイズで結合させた。
【0076】
一方、オリゴリボヌクレオチドを合成する場合には、3'-末端側に2'-位保護リボヌクレオチド-3'-O-サクシネート体が結合された結合固相担体を用意して用いた。この固相担体と保護リボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体(アミダイト体)を用いて、以下の工程A〜Dを繰り返し行うことにより、固相担体上に固定されているヌクレオシド誘導体に保護リボヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を1残基ずつステップワイズで結合させる工程を実施した。
【0077】
工程A:5'-位保護基除去工程
5'-水酸基(5'-末端水酸基)の除去(脱保護)のため、ヌクレオシド-3'-O-サクシネート結合固相担体を充填したカラムに3%トリクロロ酢酸−ジクロロメタン溶液140μLを加えて酸処理した。これにより固相担体上のヌクレオシド誘導体から5'末端の保護基DMTrを脱離させ、ヌクレオシド誘導体の5'-水酸基を遊離状態とした。同様の酸処理操作をさらに2回行った。次いで使用した3%トリクロロ酢酸−ジクロロメタン溶液をフラッシュ操作により除去した。
【0078】
続いて、洗浄操作として、固相担体が充填されているカラムに、洗浄溶媒を280μL送液し、さらにフラッシュ操作を行って、固相担体に付着したトリクロロ酢酸を除去した。この洗浄溶媒としては、各種混合比率で調製したアセトニトリル−アセトン混液又はアセトンを用いた(表3、後述)。同じ洗浄操作を再度繰り返した。この洗浄操作により、固相担体からトリクロロ酢酸を完全に除去し、同時に脱水処理も行った。
【0079】
工程B:縮合工程
工程Aにより5'-水酸基(5'-末端水酸基)を遊離状態としたヌクレオシド誘導体を担持する固相担体に、0.05M〜0.1M アミダイト溶解液(結合させるアミダイト体を溶解させたアセトニトリル溶液)45μLと、活性化剤(酸触媒)溶液(0.45M 1H-テトラゾール、0.25M 2,5-ジシアノイミダゾール、0.25M 5-エチルチオ-1H-テトラゾール、又は0.25M 5-ベンジルチオ-1H-テトラゾールのいずれかを活性化剤として含むアセトニトリル溶液)65μLを加えて60秒間静置した。これにより、添加したアミダイト体は活性化され、固相担体上のヌクレオシド誘導体の遊離5'-水素基との間で縮合反応を生じて、固相担体上でのオリゴヌクレオチド鎖伸長をもたらす。次いでフラッシュ操作により固相担体から反応溶液を除去した。
【0080】
続いて、洗浄操作として、この固相担体が充填されているカラムに、工程Aで用いたのと同じアセトニトリル−アセトン混液又はアセトンを洗浄溶媒として280μL送液し、さらにフラッシュ操作を行って、反応溶液を除去した。この洗浄操作により、固相担体から未反応のアミダイト体と活性化剤を除去し、同時に脱水処理も行った。
【0081】
工程C:キャッピング工程(アセチル化)
上記フラッシュ操作後、固相担体上のヌクレオチド誘導体の未反応の5'水酸基をアセチル化して保護(キャップ化)するため、固相担体が充填されているカラムに、キャップ化試薬として、無水酢酸−ピリジン−テトラヒドロフラン1:1:8混液(アプライドバイオシステムズ社製)30μLと10%1−メチルイミダゾール−テトラフラン混液(アプライドバイオシステムズ社製)30μLを送液した。その後、フラッシュ操作を行い反応溶液の除去を行った。
【0082】
次いで、次工程の前に、洗浄操作として、工程Aで用いたのと同じアセトニトリル−アセトン混液またはアセトン(280μL)を、その固相担体が充填されているカラムに洗浄溶媒として送液し、さらにフラッシュ操作を行って、反応溶液を除去した。この洗浄操作により、固相担体からアセチル化試薬を除去した。
【0083】
工程D:酸化工程
上記のようにして固相担体上で伸長されたオリゴヌクレオチド鎖を酸化により安定化させるため、酸化試薬として、0.02M ヨウ素溶液(テトラヒドロフラン−ピリジン−水溶液;テトラヒドロフラン:ピリジン:水=70:28:2(v/v)の混合溶液中にヨウ素濃度が0.02Mとなるように調製されたもの。和光純薬工業製)90μLを送液した。その後、フラッシュ操作を行い反応溶液の除去を行った。
【0084】
次いで、次工程の前に、洗浄操作として、工程Aで用いたのと同じアセトニトリル−アセトン混液またはアセトン(280μL)を、上記の固相担体が充填されているカラムに洗浄溶媒として送液し、固相担体に付着した試薬を洗い流した。アセトニトリル−アセトン混液またはアセトン(280μL)を再び送液し、さらにフラッシュ操作を行うことにより、固相担体から酸化試薬を除去した。
【0085】
以上の工程A〜Dを1回行うことにより固相担体上ではジヌクレオチド鎖が合成された。そこで、引き続き工程A〜Dを1サイクルとする同様の合成反応を繰り返し行って、目的のオリゴヌクレオチド鎖を合成した。
【0086】
オリゴデオキシリボヌクレオチドの脱保護工程
各オリゴデオキシリボヌクレオチドの合成反応完了後、合成オリゴデオキシリボヌクレオチドを担持する固相担体に濃アンモニア水(飽和アンモニア水)を添加し、1時間室温に放置することにより、固相担体から合成オリゴデオキシリボヌクレオチドを脱離させた。次いでその反応液を55℃で8時間加温処理することによりヌクレオチドの塩基部及びリン酸基の保護基を脱保護した。この脱保護操作後、アンモニアを減圧留去した。続いて得られた反応産物を再び蒸留水に溶解し、ジエチルエーテルを加えて抽出することにより、脱保護によって生じたカルボン酸アミド類及びアクリロニトリルを除去した。このようにして、表2に示す各オリゴデオキシリボヌクレオチド(DNA)をそれぞれ含む合成産物を取得した。
【0087】
オリゴリボヌクレオチドの脱保護工程
各オリゴリボヌクレオチドの合成反応完了後、メチルアミン水溶液(0.7mL)を、合成オリゴリボヌクレオチドを担持する固相担体(CPGカラム)に注入した後、2時間静置した。その後、該カラムよりメチルアミン水溶液を流出させた。その後、エタノール−アセトニトリル−水混液(3:1:1(v/v))を該カラムに注入して、カラム内の固相担体を洗浄した。この洗浄液と溶出液(流出液)を減圧濃縮した。
【0088】
減圧濃縮後、トリエチルアミントリハイドロフルオライド100μLを添加して溶解させた。溶解後、室温で12時間静置した。12時間経過後、ブタノール400μLを加えてボルテックスミキサーで攪拌を行った。その後、遠心分離器で5分間、遠心(3000回転)を行った。上清を廃棄して、ペレットを滅菌水に溶解して簡易逆相クロマトグラフィーにより脱塩と簡易精製を行った。このようにして、表2に示す各オリゴリボヌクレオチド(RNA)をそれぞれ含む合成産物を取得した。
【0089】
[実施例2]
実施例1で得られたそれぞれのオリゴヌクレオチド合成産物について、キャピラリー電気泳動装置(Beckman Coulter P/ACE)を用いたキャピラリー電気泳動を行った。その電気泳動結果(エレクトログラム)に基づき、異なる洗浄溶媒組成及び/又は固相担体を用いた合成産物間での純度比較を行った。
【0090】
さらに、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI Tof MS、アプライドバイオシステムズ社のVoyager)を用いて、合成産物の質量分析を行い、得られた合成産物に含まれるオリゴヌクレオチドの分子量確認も行った。
【0091】
表3には、各オリゴヌクレオチド合成産物の合成に用いた洗浄溶媒組成、固相担体、吸光度(O.D.値)を示す。表3には、各合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラムとMALDI Tof MSスペクトラムを示した図との対応も示す。表3中、「CH3CN:(CH3)2CO (v/v)」は、洗浄溶媒の組成を、混合したアセトニトリル(CH3CN)とアセトン((CH3)2CO)の重量比率で示したものである。吸光度は各合成産物における核酸収率を示す。
【0092】
【表3】

【0093】
図1〜9は配列1のオリゴヌクレオチドの合成産物の分析結果を示している。洗浄溶媒にアセトニトリル(100%;アセトンを含まない)を用いた従来法(対照実験)では、キャピラリー電気泳動のエレクトログラムにおいて、異なる鎖長のオリゴヌクレオチドの多少の混在が確認されたものの(図1のa)、配列1のオリゴヌクレオチドは十分なレベルで成功裡に合成された(図1のb)ことが示された(図1)。一方、洗浄溶媒として、アセトニトリル−アセトン混液(7:3 (V/V))(図2)、アセトニトリル−アセトン混液(1:1 (V/V))(図3)若しくはアセトニトリル−アセトン混液(3:7 (V/V))(図4)、又はアセトン(100%)(図6)を使用(固相担体としてはコントロールポアドグラス(CPG)を使用)したところ、驚くべきことに、洗浄溶媒としてアセトニトリル(100%)を用いた従来法と遜色ないレベルで、配列1のオリゴヌクレオチドを合成できたことが示された。さらに、アセトニトリル−アセトン混液(7:3 (V/V))(図2)及びアセトニトリル−アセトン混液(1:1 (V/V))(図3)を用いた場合には、従来法で見られた合成産物中の他の鎖長のオリゴヌクレオチドの混在(図1のa)が顕著に低減され、配列1のオリゴヌクレオチドを非常に高い純度で含む合成産物が得られたことが示された。ここで得られた純度は、その後の精製工程が不要になる程まで高いものであった。アセトニトリル−アセトン混液(3:7 (V/V))(図4)及びアセトン(100%)(図6)を用いた場合にも、合成産物中の配列1のオリゴヌクレオチドの純度は従来法と同等又はそれ以上であった。なお合成産物中に混在する他の鎖長のオリゴヌクレオチドは、そのほとんどが、鎖伸長の途中で合成を停止した不完全合成オリゴヌクレオチドである。また合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを示す図5からは、配列1から予測される通りの分子量を有するオリゴヌクレオチドが確かに合成されたこと、すなわち副反応を伴うことなく合成反応が進行したことが示された。
【0094】
さらに、固相担体としてポリスチレン(PS)を用いて同様に異なる比率のアセトニトリル−アセトン混液を用いて合成を行った場合も、図7〜9に示される通り、洗浄溶媒としてアセトニトリル(100%)を用いた従来法と遜色ないレベルで配列1のオリゴヌクレオチドを合成できた。さらにアセトニトリル−アセトン混液(1:1 (V/V))を用いた場合には、従来法で見られた合成産物中の他の鎖長のオリゴヌクレオチドの混在(図1のa)が顕著に低減され、配列1のオリゴヌクレオチドを非常に高純度で含む合成産物が得られたことが示された(図8)。アセトニトリル−アセトン混液(3:7 (V/V))を用いた場合にも、合成産物中の配列1のオリゴヌクレオチドの純度は従来法よりもかなり向上した(図9)。アセトニトリル−アセトン混液(7:3 (V/V))(図7)を用いた場合にも、合成産物中の配列1のオリゴヌクレオチドの純度は従来法と同等又はそれ以上であった。
【0095】
以上の結果から、従来のアセトニトリル(100%)に代えて洗浄溶媒として新たに使用したアセトニトリル−アセトン混液又はアセトンは、固相担体がCPGであれポリスチレン(PS)であれ、従来のアセトニトリルと同等又はそれ以上の優れた洗浄特性を有すること、そしてその結果、アセトニトリル−アセトン混液又はアセトンを固相核酸合成法において洗浄溶媒として用いることによりオリゴヌクレオチドを高効率で合成できることが示された。さらに、アセトニトリルとアセトンの混合比が3:7(30%:70%)〜7:3(70%:30%)のアセトニトリル−アセトン混液を用いた場合には、合成産物中の配列1のオリゴヌクレオチドの純度が向上する傾向が示されたが、これは、活性化剤(酸触媒)によるアミダイト体の活性化及び縮合反応の後の工程で用いた塩基性試薬(1-メチルイミダゾール、ピリジンなど)が、洗浄溶媒として用いた上記アセトニトリル−アセトン混液によって効果的に除去されたために、次の鎖伸長サイクルで塩基性試薬による酸触媒の活性阻害が抑制され、その結果、より高効率で鎖伸長が起こったことを示唆していた。さらに、アセトニトリル−アセトン混液が固相担体上に存在する水分と混和されて、より効果的に脱水効果が得られたものと考察された。
【0096】
さらに、図10及び11には、配列1とは異なりアデニン、シトシン、グアニン及びチミンの4種の塩基を含む配列2のオリゴヌクレオチドを、代替洗浄溶媒としてアセトン(100%)を用いて合成した合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラム及びMALDI Tof MSスペクトラムをそれぞれ示す。図10及び11は、従来法と遜色ないレベルで、配列2のオリゴヌクレオチドを確かに合成できたこと、合成されたオリゴヌクレオチドの純度が従来法と比べて向上したことを示している。
【0097】
同様に図12及び13は、配列1とは異なりアデニン、シトシン、グアニン及びチミンの4種の塩基を含む配列3のオリゴヌクレオチドを、代替洗浄溶媒としてアセトン(100%)を用いて合成した合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラム及びMALDI Tof MSスペクトラムを示す。図12及び13も、従来法と遜色ないレベルで、配列2のオリゴヌクレオチドを確かに合成できたことを示している。
【0098】
図14及び13は、配列1とは異なりアデニン、シトシン、グアニン及びチミンの4種の塩基を含む配列3のオリゴヌクレオチドを、代替洗浄溶媒としてアセトン(100%)を用いて合成した合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラム及びMALDI Tof MSスペクトラムを示す。図12及び13も、従来法と遜色ないレベルで、配列3のオリゴヌクレオチドを確かに合成できたことを示している。
【0099】
また、60merの長鎖オリゴヌクレオチドである配列4について、同様に異なる比率のアセトニトリル−アセトン混液を洗浄溶媒に用いた合成により得られた合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラム(図15〜16、18〜20)及びMALDI Tof MSスペクトラム(図17、21)も、従来法(図14)と遜色ないレベルで、配列4のオリゴヌクレオチドを確かに合成できたことを示している。このことから、本発明の方法により60merという長鎖のオリゴヌクレオチドも合成可能であることが示された。
【0100】
さらに、80merの長鎖オリゴヌクレオチドである配列5について、同様に異なる比率のアセトニトリル−アセトン混液を洗浄溶媒に用いた合成により得られた合成産物のキャピラリー電気泳動のエレクトログラム(図23〜24、26〜27)及びMALDI Tof MSスペクトラム(図25)も、従来法(図22)と遜色ないレベルで、配列5のオリゴヌクレオチドを確かに合成できたことを示している。このことから、本発明の方法により80merというさらに長鎖のオリゴヌクレオチドも合成可能であることが示された。
【0101】
一方、DNAである配列1〜5とは異なりRNAである配列6について、同様にアセトニトリル−アセトン混液を洗浄溶媒に用いた合成により得られた合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを図29に示す。配列6のオリゴヌクレオチド(RNA)もまた、従来法(図28)と遜色ないレベルで配列6のオリゴヌクレオチドを確かに合成することができ、その純度も向上したことが示された。このことから、本発明の方法によりRNAも合成可能であることが示された。
【0102】
同様に、RNAである配列7について、アセトニトリル−アセトン混液を洗浄溶媒に用いた合成により得られた合成産物のMALDI Tof MSスペクトラムを図31に示す。配列7のオリゴヌクレオチド(RNA)もまた、従来法(図30)と遜色ないレベルで配列7のオリゴヌクレオチドを確かに合成することができ、その純度も向上したことが示された。このことから、本発明の方法によりRNAも各種配列で合成可能であることが示された。
【0103】
以上の結果は、固相核酸合成法において用いられるアセトニトリルの代替洗浄溶媒として、アセトニトリル−アセトン混液及びアセトンが有効であることを示した。特にアセトニトリル−アセトン混液は、合成されるオリゴヌクレオチドの純度を向上させるという予想外の効果も発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0104】
アセトン又はアセトニトリル−アセトン混液をアセトニトリルの代替洗浄溶媒として用いる本発明のオリゴヌクレオチド固相合成法は、供給量が少ないアセトニトリルの使用量を低減しながら、従来法と同等又はより高い純度で同等又はそれ以上の効率で目的のオリゴヌクレオチドを合成するために用いることができる。特に高純度でオリゴヌクレオチドを合成できる条件で行う本発明の方法は、従来必要としていた合成後の精製工程を簡略化又は省略したオリゴヌクレオチド合成系により、従来の精製品と同等の品質の製品を提供するために使用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0105】
配列番号1〜5は合成DNAである。
配列番号6及び7は合成RNAである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホロアミダイト法に基づくオリゴヌクレオチド固相合成法において、各反応工程終了時に洗浄溶媒としてアセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンを用いて固相担体を洗浄することを特徴とする、オリゴヌクレオチドの化学的合成方法。
【請求項2】
アセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンが、0%:100%〜95%:5%のアセトニトリル:アセトンの混合比のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンが、30%:70%〜70%:30%のアセトニトリル:アセトンの混合比のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ホスホロアミダイト法に基づくオリゴヌクレオチド固相合成法が、
(a) 固相担体上のヌクレオシドの5'水酸基を酸処理により除去する工程、
(b) ヌクレオシド-3'-O-ホスホロアミダイト誘導体を、酸触媒で活性化させ、縮合反応により固相担体上のヌクレオシドの5'水酸基と三価リン酸結合により連結させる工程、
(c) 未反応の該5'水酸基をキャッピングする工程、及び
(d) 該三価リン酸結合を酸化する工程
を含む反応サイクルを反復的に行うことを含むオリゴヌクレオチド固相合成法である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
固相担体がコントロールポアドグラス(CPG)又はポリスチレン(PS)である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
アセトニトリルとアセトンとの混合液、又はアセトンを有効成分として含む、オリゴヌクレオチド固相合成のための固相担体用の洗浄剤。
【請求項7】
アセトニトリルとアセトンとの混合液又はアセトンが、0%:100%〜95%:5%のアセトニトリル:アセトンの混合比のものである、請求項6記載の洗浄剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2010−248084(P2010−248084A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96251(P2009−96251)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(301074757)インビトロジェン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】