新規腫瘍マーカーとしてのGPIアンカー糖タンパク質ACA
【課題】先行技術の診断方法の不利な点を解消する癌の診断手段を提供すること。
【解決手段】以下の特徴:
(a)細胞表面にGPI-アンカーされている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から分離されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる、
を含む表面糖タンパク質。
【解決手段】以下の特徴:
(a)細胞表面にGPI-アンカーされている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から分離されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる、
を含む表面糖タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アセチル化イノシトール環およびアンカー(anchor)の脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられるGPIアンカーを有するGPIアンカー表面糖タンパク質に関する。本発明の特定の糖タンパク質、ACAは、黒色腫細胞、いくらかの白血病細胞および他の腫瘍細胞において強く発現され、従って上記腫瘍の診断の有用なマーカーである。本発明はまた、ACAの生物学的活性と実質的に同じスペクトラムを有するACAの塩、機能性誘導体および活性な画分に関する。本発明はまた、組換えDNA技術によるACAの精製方法、そのクローニング方法およびその産生方法に関する。さらに、抗-ACA-抗体またはACA-mRNAにハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドプローブを含有する診断組成物、およびACAの発現またはそのタンパク質の活性を低減しうる化合物を含有する医薬化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍形成は、遺伝子変化および環境因子が細胞増殖および分化を制御する細胞プロセスを規制撤廃すると考えられる複雑な多段階プロセスを表す。黒色腫は、世界中で最も一般的な癌の1つであり、黒色腫患者の死亡率は昨年230%増大した。このタイプの癌の診断およびモニタリングは、疾患の不均一性のために困難である。診断のために、種々の等級の悪性度がGleason-Score診断に従って区別される。この診断のために、組織サンプルがバイオプシーにより患者から採取され、組織の形態学が調査される。しかし、このアプローチは、病理学者の経験に依存する主観的な結果のみを生じる。要約すると、不幸なことに、現在使用されている診断方法は、特異性の欠如のために非常に感度が低く、しばしば偽陽性結果を生じる。さらに、現在の診断方法を使用することにより、悪性度の等級、腫瘍の進行およびその転移の可能性に関して何ら結論は導き出され得ない。従って、信頼できる診断用の分子マーカーの使用は、腫瘍、例えば、黒色腫の分子基礎の理解、良性組織と悪性組織との区別、および癌腫の等級付けおよび段階付け、特に非常に悪い予後を有する転移性黒色腫を有する患者の役に立ちうる。特に黒色腫の微小癌組織の転移に関する診断マーカーを有することは非常に役立ち、これは単一腫瘍患者における転移パターンに関する情報を提供する。これは診断を改善し、最適な化学療法の選択を可能にする。かかるマーカーは現在まで記述されていない。かかるマーカーは癌治療のための新規治療手段の開発に有用であることが予想されうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の基礎となる技術的課題は、先行技術の診断方法の不利な点を解消する癌の診断手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕以下の特徴:
(a)細胞表面にGPI-アンカーされている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から分離されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる、
を含む表面糖タンパク質、
〔2〕以下のさらなる特徴:
(d)pH 5.5の等電点を有する;
(e)前駆細胞、顆粒球、単球、B-細胞(T-細胞上にはない)、メラニン細胞、および他の細胞上に存在する;および
(f)細胞分裂の間および腫瘍細胞に優先的に発現される;
により特徴づけられる表面糖タンパク質ACA、またはその塩、機能性誘導体または活性な画分である〔1〕記載の表面タンパク質、
〔3〕(a)細胞を単離し、溶解すること;
(b)前記細胞のヘモグロビン遊離膜を単離、破壊およびペレット化すること;
(c)硫酸アンモニウムでの再懸濁した膜を繰り返し脱塩すること;
(d)工程(c)で調製されたタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)タンパク質のゲルバンドを短縮すること
によりヒト血液から得られうる〔2〕記載の表面糖タンパク質ACA、
〔4〕還元条件下でSDS PAGEに供された場合、約65または68kDの分子量を有する〔2〕または〔3〕記載の表面糖タンパク質ACA、
〔5〕以下のアミノ酸:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T
の少なくとも1つを含む〔2〕〜〔4〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACA、
〔6〕血液細胞から単離される〔2〕〜〔5〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACA、
〔7〕(a)ヒト血液から細胞を単離し溶解させる工程;
(b)該細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、破壊し、ペレット化する工程;
(c)硫酸アンモニウム(70%;40%)で再懸濁した膜の脱塩を繰り返す工程;
(d)工程(c)において沈殿したタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)65または68kDタンパク質のゲルバンドを単離する工程
を含む表面糖タンパク質ACAの単離方法、
〔8〕〔7〕記載の方法により産生された表面糖タンパク質ACA、
〔9〕組換えタンパク質である〔1〕〜〔6〕いずれか記載の表面糖タンパク質、
〔10〕哺乳動物細胞において産生される〔9〕記載の表面糖タンパク質、
〔11〕〔2〕〜〔7〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACAまたはその機能性誘導体もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を含有してなり、該表面糖タンパク質ACAが以下のアミノ酸配列:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
の少なくとも1つを含む、核酸分子、
〔12〕ヌクレオチド配列がゲノムDNA配列またはcDNA配列である〔11〕記載の核酸分子、
〔13〕〔11〕または〔12〕記載の核酸分子を含有してなる発現ベクター、
〔14〕〔12〕記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞、
〔15〕哺乳動物宿主細胞である〔14〕記載の宿主細胞、
〔16〕(a)適切な培養培地中で〔14〕または〔15〕記載の形質転換宿主細胞を培養する工程;および
(b)細胞または培養培地からタンパク質を単離する工程
を含む、表面糖タンパク質ACAの製造方法、
〔17〕〔1〕〜〔6〕または〔8〕〜〔10〕いずれか記載の表面糖タンパク質に対する抗体、
〔18〕モノクローナル抗体である〔17〕記載の抗体、
〔19〕(a)標的サンプルと、(i) 〔2〕〜〔6〕または〔8〕〜〔10〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACAに、または(ii) 〔11〕または〔12〕記載の核酸分子から転写されるmRNAに特異的に結合することができる化合物とを接触させ、ACAまたはACA mRNAのレベルを測定する工程;および
(b)工程(a)の化合物の使用により測定されるサンプルのACAタンパク質またはACA-mRNAのレベルを健康な個体から得られた対照サンプルと比較する工程、ここで表面糖タンパク質ACAまたは対応するmRNAのレベルの上昇は腫瘍の指標またはかかる腫瘍の素因を示す、ACAの過剰発現に関連する腫瘍またはかかる腫瘍の素因を診断する方法、
〔20〕化合物が〔17〕または〔18〕記載の抗体であるか、または〔11〕または〔12〕記載の核酸分子から転写されるmRNAにハイブリダイズすることがきるオリゴヌクレオチドである〔19〕記載の方法、
〔21〕(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物を含有してなる医薬組成物、
〔22〕癌の処置用または予防用の医薬の調製のための、(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物の使用、
〔23〕癌が黒色腫、白血病、腎臓癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、または癌の任意の他の型である〔19〕もしくは〔20〕記載の方法または〔22〕記載の使用、
〔24〕〔17〕もしくは〔18〕記載の抗体または〔11〕もしくは〔12〕記載の核酸から転写されたmRNAにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを含有してなるキット
に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、先行技術の診断方法の不利な点を解消する癌の診断手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1:ホスホリパーゼ作用の産物の同定 ACAのグリコシルホスファチジルイノシトールの脂質尾部の全加水分解を導く酵素反応およびグリセロール濃度の決定のための酵素反応。
【図2】図2:ACAの精製および単離 赤血球ゴースト硫酸アンモニウムタンパク質および精製ACAの電気泳動を4〜15%SDS-PAGE上で行った。(A)レーン1、2、3、種々のバッチの赤血球から得られた精製ACAタンパク質、レーン4、5、種々のバッチの赤血球膜から得られた40%硫酸アンモニウム沈殿タンパク質抽出物、レーン6、分子量マーカー。(B)精製ACAタンパク質は約65kDの分子量を有する
【図3】図3:ACAの等電点電気泳動 IEF-グラジエントゲル上の精製ACAの電気泳動を行った。(A)レーン1〜6:陽極から開始する、(B)陰極から開始する赤血球の種々のバッチから得られた種々の精製ACA。レーン7A:IEFブロードpI校正標準。
【図4】図4:ACAのトリプチックペプチドの配列
【図5】図5:ホスホリパーゼ消化タンパク質のSDS-PAGE分析 GPI-PLC、PI-PLCおよびGPI-PLDでの精製ACAの切断、(A)1、精製ACA;2、PI-PLCで処理したACA (B)1、精製ACA; 2、GPI-PLDで処理したACA;3、GPI-PLCで処理したACA。
【図6】図6:ACA上の「交差反応決定基」エピトープ 交差反応決定基(CRD)は、G/ PI-PLCの作用により生じる。(A)SDS-PAGE 1、精製された天然のACAタンパク質;2、GPI-PLC切断された精製ACA。(B)抗-CRD抗体での免疫ブロッティング;3、mf ACA(天然のタンパク質);4、種々の表面糖タンパク質(sVSG)のGPI-PLC消化型;5、GPI-PLCで消化されたACA;6、GPI-PLDで消化されたACA。
【図7】図7:アンカーの加水分解により生じた断片のシリカTLC分析 [125J]TID標識、精製タンパク質のサンプルをGPI-PLCで加水分解した。この反応の脂質産物を、高度に特異的なリパーゼでさらに加水分解した。放射性標識断片を抽出し、TLCで分析した。ミリスチン酸を標準として使用した。レーン1、対照として使用される市販のmf VSGを標識し、GPI-PLCで消化し、さらにACAについて記載されるように加水分解した;レーン2、消化され、さらに加水分解されたACAタンパク質GPI。
【図8】図8:抗-ACAポリクローナル抗体でのウエスタンブロッティング。タンパク質を還元条件下でSDS-PAGEに供し、ニトロセルロースにトランスファーし、ACAに対するマウス抗体で明らかにした。レーン1、赤血球膜から得られた粗タンパク質抽出物;レーン2、精製された赤血球ACAタンパク質;レーン3、赤血球ゴースト;レーン4、赤白血病細胞から調製されたゴースト。
【図9】図9:ヒト末梢血細胞集団におけるACA発現のフローサイトメトリー分析。健康なドナーの末梢血細胞を、ACAに対するマウスモノクローナル抗体+抗-マウス-IgG-FITCと共にインキュベートした。赤血球の溶解後、顆粒球、単球、リンパ球、および網状赤血球をSC/SSCによりゲートした(gate)。赤血球は別々に解析した。結果は、赤血球(b)、単球(c)、および部分的に白血球(d)におけるACAの発現を示す。赤血球(e)および網状赤血球(f)において発現は検出されなかった。無関係の対照抗体(a)を有する陰性対照が基準として取り込まれた。
【図10】図10:健康なドナーの末梢血液細胞におけるACA抗原の分布。この図は、特異的なマウスモノクローナル抗体を用いるフローサイトメトリーにより研究された20人の健康なドナーの末梢血液細胞におけるACA発現の分析から得られるデータの要約を表す。発現は各サブ集団:顆粒球、単球およびリンパ球についての陽性細胞のパーセンテージとして示される。
【図11】図11:ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCでの処理による顆粒球膜-結合ACAの除去。精製顆粒球をバッファー単独またはBacillus cereusに由来するPI-PLC、抗-ACA抗体または無関係のIgG(陰性対照)で染色し、記載されるように解析した。抗-ACAおよび抗-CD55抗体で染色した赤白血病(HEL)細胞を用いて、対照実験を同じ条件下で行った。別の対照を、ウシ血清GPI-ホスホリパーゼD、GPI-アンカータンパク質を可溶化することができない酵素で行った。ヒストグラムは、顆粒球におけるACA発現(a)、PI-PLCでの消化後に顆粒球におけるACA発現を廃止し、(b)GPI-PLDでの消化後に顆粒球におけるACA発現(c)、HEL細胞におけるACA発現(d)、PI-PLCでの処理によるHEL細胞におけるACA発現の破棄(e)、PI-PLCでの処理によるHEL細胞におけるCD55発現の破棄を示す。
【図12】図12:Bリンパ球におけるACAの発現およびホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCによるその切断。精製末梢Bリンパ球を、上昇した濃度の記載される細菌PI-PLCと共にインキュベートし、ACAに対するモノクローナル抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。ヒストグラムは:Bリンパ球におけるACA発現およびIgG適合陰性対照(a)、PI-PLCでの処理後のACA発現(b)を示す。第2の実験において、精製Bリンパ球をACAに対する抗体および典型的なB細胞マーカー(CD19、CD20)に対する抗体と共にインキュベートした。ドット-ブロット解析は:イソ型対照(c)、CD19-陽性細胞(d)およびCD20-陽性細胞におけるACA発現を示す。第3の実験において、PBMCは抗-ACA(FITC標識)および坑-CD19、-CD20抗体(PE標識)で標識された。ドットブロット分析は、イソ型対照(f)、末梢CD19陽性細胞に対するACA発現(g)、末梢CD20陽性細胞におけるACA発現(h)を示す。PBMCの10〜15%のパーセンテージはACAおよびB-細胞抗原の両方に対して陽性であった。
【図13】図13:正常およびEBV-形質転換PNH Bリンパ球におけるACAの発現。EBV-形質転換正常およびPNH Bリンパ球を上記のように生成し、抗-ACA抗体(FITC標識)で染色し、フローサイトメトリーにより分析した。無関係の対照抗体での染色を基準として取り込んだ(neg.ctr.)。ヒストグラムは:健康なドナーに由来するEBV-形質転換Bリンパ球におけるACA発現(a)、PNH患者に由来するEBV-形質転換Bリンパ球におけるACA発現(b)を示す。正常なB-細胞は、高レベルのACAを発現するが、PNH B細胞は抗原の有意に減少した発現を示す。
【図14】図14:Tリンパ球におけるACAの発現。Tリンパ球を記載のように精製し、ACA(FITC標識)およびCD3(b)、CD4(c)、またはCD8(d)(PE標識)に対するモノクローナル抗体で染色した。陰性対照(a)は無関係のPE-およびFITC-結合免疫グロブリンからなる。ACA-陽性細胞のパーセンテージはUR四分円に示される。第2の実験において、PBMCはACA (PE-標識)およびT-細胞マーカー(FITC-標識):CD2(f)、CD5(g)、γδ-TCR(h)に対する抗体(FITC-標識)で染色された。陰性対照(e)は、無関係のPE-およびFITC-結合免疫グロブリンからなる。ACA陽性T細胞はUR四分円で示される。
【図15】図15:PNHまたは悪性腫瘍を有する患者に由来するT-細胞クローンにおけるACA発現。 CD48(=GPI-連結タンパク質)について陰性(b)または陽性(c)のPNH患者から得られたT細胞クローンをCD48(FITC標識)およびACA(PE標識)に対する抗体で染色した。陰性対照は、無関係のPE-およびFITC-結合免疫グロブリンでの染色からなる(a)。さらなる実験ではT-細胞に由来する細胞株を、抗-ACA抗体(FITC標識)を用いて1色フローサイトメトリーにおいて解析した。陰性対照において、細胞を非反応性FITC-結合免疫グロブリンで染色した。ヒストグラムは、CEM細胞(d)、MOLT4細胞(e)、およびJurkat細胞(f)におけるACA発現を示す。
【図16】図16:末梢血液細胞サブ集団から可溶化されるACAの免疫検出。記載されるように2X106個の細胞のサンプル(a)または顆粒球培養物の上清(b)をSDS-PAGEに供し、タンパク質をニトロセルロースにトランスファーした。ACAを、以前に精製ヒト赤血球ACAタンパク質に対して惹起した抗体を用いて検出した。ブロット膜をAP-結合二次抗体およびBCIP/NTB基質で染色した。結果は、(a)分子量マーカー(MWM)(レーン1)、可溶化B細胞(レーン2)、可溶化顆粒球(レーン3)、可溶化赤血球(レーン4)、可溶化赤血球ゴースト(レーン5)、赤血球膜からの粗タンパク質抽出物(レーン6)を示す。(b)MWM(レーン1)、PI-PLC消化の前の顆粒球の上清(レーン2)、PI-PLC消化後の顆粒球の沈殿上清(レーン3)。
【図17】図17:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト皮膚の凍結切片。詳細については実施例1および13を参照。
【図18】図18:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト培養上皮メラニン細胞。詳細については実施例1および13を参照。
【図19−1】図19a、b:抗-ACA抗体で染色したヒト上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT(b)の正常培養物。詳細については実施例1および13を参照。 図19c:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト培養上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT。細胞非含有抽出物の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット分析は:黒色腫(レーン1および2)、ケラチノサイト(レーン3および4)、分子量マーカー(レーン5)を示す。詳細については実施例1および13を参照。
【図19−2】図19a、b:抗-ACA抗体で染色したヒト上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT(b)の正常培養物。詳細については実施例1および13を参照。 図19c:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト培養上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT。細胞非含有抽出物の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット分析は:黒色腫(レーン1および2)、ケラチノサイト(レーン3および4)、分子量マーカー(レーン5)を示す。詳細については実施例1および13を参照。
【図20】図20:先天性母斑 詳細については実施例1および13を参照。
【図21】図21:抗-ACA-抗体で染色したヒト黒色腫の凍結切片 詳細については実施例1および13を参照。
【図22】図22:抗-ACA-抗体で染色した黒色腫皮膚転移 詳細については実施例1および13を参照。
【図23】図23:抗-ACA-抗体で染色したヒトの凍結切片a)基底細胞腫、b)棘細胞癌
【図24】図24:抗-ACA-抗体で染色した正常皮膚および黒色腫腫瘍組織の免疫ブロット分析 均一化した正常な皮膚(a)、非免疫IgG(陰性対照)(b)、種々の患者から得られた均一化した黒色腫腫瘍組織
【図25】図25:抗-ACA-抗体を用いた均一化した腫瘍組織の免疫ブロット分析 腎臓癌(レーン1)、肺癌(レーン2)、乳癌(レーン3)、大腸癌(レーン4)、胃癌(レーン5)、黒色腫(レーン6)および骨髄腫(レーン7)。
【図26−1】図26:ACAは幹細胞において発現される 非免疫IgG(a)、CD34/CD38(b)、CD34/CD90(c)、CD34/CD117(d)、抗-ACA/CD38(e)、抗-ACA/CD90(f)、抗-ACA/CD117(g)、抗-ACA/HLA-DR(h)、非免疫IgG(i)、抗-ACA/CD13(j)、抗-ACA/CD33(k)、および抗-ACA/CD34(l)。
【図26−2】図26:ACAは幹細胞において発現される 非免疫IgG(a)、CD34/CD38(b)、CD34/CD90(c)、CD34/CD117(d)、抗-ACA/CD38(e)、抗-ACA/CD90(f)、抗-ACA/CD117(g)、抗-ACA/HLA-DR(h)、非免疫IgG(i)、抗-ACA/CD13(j)、抗-ACA/CD33(k)、および抗-ACA/CD34(l)。
【図27】図27:それぞれのヒストグラムは、ヒト白血球細胞株におけるACA発現を示す (a)HEL、(b)U-937、(c)HL-60、(d)K-562
【図28】図28:ヒト白血球細胞株の細胞非含有抽出物の抗ACA抗体を用いた免疫ブロット解析 (1)分子量マーカー、(2)ヒト慢性骨髄性白血病(K-562)、(3)ヒト骨髄球赤白血病(HL-60)、(4)ヒト赤白血病(HEL)、(5)ヒト組織球性リンパ腫(U-937)。
【図29−1】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図29−2】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図29−3】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図29−4】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図30】図30:ACAタンパク質の精製および単離 精製ACAタンパク質の電気泳動を4〜15%SDS-PAGEにおいて行った。レーン1:精製ACAタンパク質の精製主要形態、分子量65kD;レーン2:精製ACAタンパク質、分子量68kD
【図31】図31:単離されたACAタンパク質のUVスペクトル 精製された2つの型の赤血球ACAタンパク質のUVスペクトルをBeckman分光光度計において読み取った。A:精製65kD ACAタンパク質のUVスペクトル;B:68KD ACAタンパク質のUVスペクトル
【図32】図32:抗-ACAポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング タンパク質を還元条件下でSDS-PAGEに供し、ニトロセルロースに移し、ACAに対するマウス抗体で明らかにした。レーン1:精製65kD赤血球ACAタンパク質;レーン2:精製68kD赤血球ACAタンパク質
【図33】図33:アンカーの加水分解により生じる断片のシリカTLC分析 [125I]TID-標識精製タンパク質のサンプルをGPI-PLCで加水分解した。この反応の脂質産物を高度に特異的なリパーゼでさらに加水分解した。放射標識断片を抽出し、TLCにより解析した。ミリスチン酸を標準として使用した。レーン1:対照として使用した市販のmVSGを標識し、GPI-PLCで消化し、ACAについて記載されるようにさらに加水分解した;レーン2:GPI-PLCで消化し、さらに加水分解した65kD ACAタンパク質;レーン3:既に記載のように消化し、さらに加水分解した68kD分子量形態のACA。
【図34】図34:PNGaseFと共にインキュベーションした後の65および68kD赤血球ACAのSDS-PAGE解析 A:PNGaseFとの65kD赤血球ACAインキュベーションのSDS-PAGE解析 レーン1:0分間のPNGaseFとのインキュベーション後の精製65kD ACA;レーン2:10分間;レーン3:30分間;レーン4:90分間;レーン5:150分間;レーン6:一晩、PNGaseFと共にインキュベートした精製65kD ACA B:RNGaseFとの68kD赤血球ACAインキュベーションのSDS-PAGE解析 レーン1:0分間のPNGaseFとのインキュベーション後の精製68kD ACA;レーン2:10分間;レーン3:30分間;レーン4:90分間;レーン5:150分間;レーン6:一晩、PNGase Fと共にインキュベートした精製68kD ACAタンパク質
【図35】図35:精製65kD赤血球ACAの酵素的および化学的脱グリコシル化 精製65kD ACAタンパク質の電気泳動およびその酵素的および化学的脱グリコシル化の産物を4〜15%SDS-PAGE;A:レーン1:精製65kD ACA B:レーン1:シアリダーゼで処理した精製65kD ACA;レーン2;O-グリコシダーゼ;レーン3:PNGase F;レーン4:シアリダーゼO-グリコシダーゼおよびPNGaseFでの65kD赤血球ACAの引き続く処理 C:レーン1:TMSFを用いた化学的脱グリコシル化後の精製65kD ACAタンパク質
【発明を実施するための形態】
【0007】
上記技術的課題の解決手段は特許請求の範囲に特徴付けられる態様を提供することにより達成される。
【0008】
硫酸アンモニウム(40〜80%飽和)での塩析、続いて調製用SDS-PAGE、クロマトグラフィーおよびアセトン沈殿により、GPIアンカーを含有する新規膜糖タンパク質を単離し、均質に精製する方法が記述された。得られた調製物は、2-メルカプトエタノールでの還元後に0.1%のドデシル硫酸ナトリウムの存在下での電気泳動の間、均一であった。これは、その等電点(pH5.5)で可溶性であるタンパク質である。単離されたタンパク質は、精製されたホスホリパーゼCによる切断に感受性であるグリコシル-ホスファチジルイノシトールにより膜に連結される。タンパク質の糖脂質膜アンカーの疎水性部分は、光活性化された試薬3-(トリフルオロメチル)-3-(m-[125J]ヨードフェニル)ジアジリンで放射標識され、グリコシル-ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(GPI-PLC)で加水分解され、続いて残存する脂質の酵素的脱アセチル化された。薄層クロマトグラフィーは、生じる放射標識断片が同じ様式で得られたバリアント表面糖タンパク質と同じ移動度で移動することを示す。他のGPI-連結赤血球タンパク質とは対照的に、ACAのアンカーは、アンカーの脂質尾部としてアルキル-アシルグリセロールよりむしろ、非アセチル化イノシトール環およびジアシルグリセロールを有する。さらに、ACAの分布および膜アンカーを調査した。精製タンパク質に対するウサギポリクローナル抗体ならびにマウスモノクローナル抗体が産生され、1色および2色フローサイトメトリーによるヒトヒト末梢血細胞におけるACAの発現を解析するために使用された。結果は、このタンパク質が全ての顆粒球、単球およびBリンパ球上に均一に提示されるが、T-細胞上には提示されないことを示した。赤血球のフローサイトメトリー解析は非常に低い量の分子を示し、一方、高い感受性の免疫ブロット解析は、赤血球膜との両方のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の反応を示した。ACAはPI-PLC、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを特異的に加水分解することが知られている酵素での処理により顆粒球膜から除去された。顆粒球の上清の沈殿した可溶性形態のACAをイムノブロットし、抗-ACA抗体で検出した。B細胞は、おそらくイノシトール環の部分的アセチル化のためにPI-PLC消化に対する感受性が低かった。発作性夜間血色素尿症(PNH)(イノシトールグリカンにより膜にアンカーした全てのタンパク質の部分的または完全な欠陥により特徴付けられる疾患)患者から樹立されたエプスタイン-バーウイルス(EBV)-形質転換B細胞株は、健康なドナーのEBV細胞とは対照的にACA-陰性であった。最後に、ACAは黒色腫およびいくらかの白血球細胞において強く発現されることが見出され、このタンパク質の重要な調節機能を強く示唆する。2つの異なるモノクローナル抗-ACA-抗体は、免疫組織化学において原発性および転移性の黒色腫細胞の検出に有用であることが示されたそれらの両方で産生された。
【0009】
ACAと呼ばれる2つの形態の新規ヒトGPI-連結表面抗原が存在することが本発明者により認識されている。約68kDおよび約65kDのタンパク質が完全な(GPI)グリコシル-ホスファチジルイノシトールアンカーと共にヒト赤血球から単離された。両方のタンパク質の形態は、精製65kD分子量形態のACAに対して惹起されたモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体と反応する。タンパク質の特徴づけにおいて頻繁に、タンパク質が何らかのN-グリカンを有するか否かを決定すること、もし有する場合、いくつのN-グリカンがペプチド骨格に付着しているか、および糖タンパク質の全分子量への寄与を決定することは有用である。N-グリカンは比較的大きい構造であるので、広範な特異性のペプチド-N-グリコシダーゼでの処理の前後の還元条件下でのSDS-PAGE解析において糖タンパク質の見かけの分子量に大きく寄与する。これらの酵素は、N-グリカンとペプチドとの間のN-グリコシド結合を特異的に加水分解する。ACAタンパク質のサイズ不均一性を明らかにするために、これらのタンパク質のN-およびO-連結糖鎖はシアリダーゼ、エンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、ペプチド-N-グリコシダーゼFおよびO-グリコシダーゼでの消化により解析された。糖タンパク質からN-およびO-連結オリゴサッカライドを除去するグリコシダーゼとのこれらのタンパク質の引き続くインキュベーションにより、SDS-PAGEにより判定される約59kDの単一タンパク質種を導く。同じ結果が、無水トリフルオロメタンスルホン酸(TMSF)(これはO-、およびN-連結糖鎖を非選択的に除去する)による化学的脱グリコシル化により得られた。従って、N-グリコシル化の程度の差がACAの分子不均一性の主要な原因である。
【0010】
従って、ある局面では、本発明は、以下の特徴を有する表面糖タンパク質に関する:
(a)細胞表面にGPI-アンカー(anchor)されている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から除去されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる。
【0011】
好ましくは、他の脂肪酸のジアシルミリステートはその脂質尾部に存在する。
【0012】
好ましい態様では、上記表面糖タンパク質は、以下のさらなる特性により特徴付けられる表面糖タンパク質ACA、またはその塩、機能性誘導体もしくは活性画分である:
(a)pH5.5の等電点を有する;
(b)血液前駆細胞、顆粒球、単球、B細胞(T細胞上には発現されない)、メラニン細胞、および他の細胞上に発現される。
(c)細胞分裂の間、および腫瘍細胞において優先的に発現される。
【0013】
本明細書中で使用される用語「塩」は、カルボキシル基の両方の塩およびタンパク質分子のアミノ基の酸負荷塩をいう。タンパク質のC-末端が分子の末端にジアシルミリステートを有するGPI-アンカーに付着されるので、上記タンパク質のN-末端はブロック、おそらくはアセチル化される。それゆえ、塩は、天然の全長タンパク質のN-またはC-末端で形成され得ない。カルボキシル基の塩は、当該分野で公知の手段により形成され得、無機塩、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、第二鉄塩または亜鉛塩等、および例えばトリエタノールアミン、アルギニンまたはリジン等のアミン、ピペリジン、プロカイン等を伴って形成されるもの等の有機塩基を有する塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、塩酸または硫酸、および酢酸等の無機酸を有する塩、ならびに酢酸またはシュウ酸等の有機酸の塩が挙げられる。
【0014】
本明細書中で使用される「機能性誘導体」は、当該分野で公知の手段により、側鎖として生じる官能基、残基またはN-またはC-末端基から調製されうるACAと実質的に同じ生物学的に活性を有する誘導体を含み、それらがタンパク質の活性を破壊せず、それを含有する組成物に毒性特性を付与しない限り本発明に含まれる。これらの誘導体としては、例えば、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアとのまたは第一アミンまたは第二アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル成分で形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基の誘導体(例えば、アルカノイルまたは炭素環式アロイル基)またはアシル成分で形成される遊離水酸基(例えば、セリルまたはスレオニル基のそれ)のO-アシル誘導体が挙げられる。
【0015】
本発明のACAの「活性画分」は、上記画分がACAの少なくとも1つの生物学的活性、例えば、シグナル伝達活性を有する条件下で、タンパク質分子単独または会合分子もしくはそこに連結された残基(例えば、糖またはホスフェート残基)を伴うタンパク質分子、またはタンパク質分子もしくは糖残基自身の凝集物のポリペプチド鎖の任意の断片または前駆体を含む。
【0016】
本発明の表面糖タンパク質ACAは、好ましくは、
(a)細胞、好ましくは赤血球を単離し、溶解する工程;
(b)上記細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、崩壊させ、ペレット化する工程;
(c)硫酸アンモニウム(70%; 40%飽和)での再懸濁された膜の塩析を繰り返す工程
(d)工程(c)の沈殿したタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)タンパク質のゲルバンドを単離する工程
によりヒト血液から得られうる。
【0017】
この方法の種々の工程は、標準的なプロトコル、例えば、以下の実施例に記載されるプロトコルに従って行われうる。
【0018】
好ましい態様では、本発明の表面糖タンパク質ACAは、還元条件下でSDS PAGEにより解析した場合、約65kDの分子量によりさらに特徴付けられる。
【0019】
さらに好ましい態様では、本発明の表面糖タンパク質ACAは、以下のアミノ酸配列の少なくとも1つを含む:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
【0020】
ACAのタンパク質配列データは、アクセッション番号83408の下でSWISS-PROTおよびTrEMBL知識ベースにおいて入手可能である。
【0021】
本発明はまた、以下を含む表面糖タンパク質ACAの単離のためのプロセスに関する:
a)ヒト血液由来の細胞、好ましくは赤血球を単離し、溶解させる工程;
b)上記細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、崩壊させ、ペレット化する工程;
c)硫酸アンモニウム(70%; 40%飽和)での再懸濁した塩の塩析を繰り返す工程;
d)工程(c)で調製されたタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
e)65kDタンパク質のゲルバンドを単離する工程。
【0022】
本発明はまた、好ましくは哺乳動物細胞において産生された組換え表面糖タンパク質ACAに関する。本発明の核酸分子を用いるACAの組換え産生方法が下記に記載される。
【0023】
本発明はさらに、本発明の表面糖タンパク質ACAまたはその機能性誘導体もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を含有する核酸分子、好ましくはDNA分子に関し、ここで上記表面糖タンパク質ACAは以下のアミノ酸配列の少なくとも1つを含む:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
【0024】
用語「DNA分子」は、ゲノムDNA、cDNA、合成DNAおよびその組み合わせを含む。
【0025】
ACAのクローニングは、種々の技術により行われうる。1つのアプローチによれば、ACAに対する特異的抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)が産生され、ACAをクローン化するために使用される。このアプローチは、以下の3つの工程に基づく:
(A)抗体の調製:抗-ACA-抗体が、本発明の実質的に精製されたACAを用いて、またはタンパク質の公知のアミノ酸配列に同一な1つ以上の合成ペプチドを用い、および大腸菌中で融合タンパク質A-ACAを発現させることにより産生されうる。適切な抗体の産生は以下に記載される。
【0026】
(B)ACA産生細胞のスクリーニング:ACAに対する抗体は免疫蛍光またはウエスタンブロットによりACA産生細胞を探索するために使用される。適切な細胞の例は以下の実施例に見出されうる。
【0027】
(C)産生細胞からのcDNAの調製:mRNAはACA産生細胞から抽出され、cDNAは逆転写酵素の使用により調製される。cDNAはλ-gT11、λ-"ZAP"(例えば、"UNI-ZAPTMXRカスタムcDNAライブラリー"; Stratagene, La Jolla, CA, USA)においてクローン化され、標準的な方法、例えば、"SEREX"-法(Sahinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol. 92, S.11810-11813, 1995)またはTureciらに記載された方法(Cancer Res. 56 (1996), 4766-4772)に従って調製される抗体の使用によりスクリーニングされる。溶解プラークにおいて発現される組換えタンパク質に結合する抗体は、例えば、アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG(例えば、DAKO, Glostrup, Danmarkから入手可能)とのインキュベーションにより検出され、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスファターゼおよびニトロブルーテトラゾリウムでの染色により可視化されうる。
【0028】
別のアプローチに次いで、配列がACAタンパク質の断片の配列に由来する合成オリゴヌクレオチドまたは合成オリゴヌクレオチドの混合物が生成され、このオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの混合物はACAタンパク質をコードするcDNAまたはゲノムDNAをクローニングするためのプローブとして使用される。ゲノムDNAは天然に存在するイントロンを含んでもよく、含まなくてもよい。それは、例えば当該分野で周知の手段による適切な細胞からの抽出および精製によって、得られ得る。ヒトゲノムDNA等の適切なDNA調製物は、制限酵素により酵素的に切断されるかランダムにせん断され、該断片は適切な組換えベクターに挿入されて遺伝子ライブラリーを形成する。かかるベクターは次いで、本発明のACAタンパク質をコードする配列を同定するために合成オリゴヌクレオチドプローブを用いてスクリーニングされ得る。
【0029】
あるいは、mRNAは本発明のACAタンパク質を発現する細胞から単離され、当該分野で周知の方法によりcDNAを生成するために使用される;例えば、Sambrookら, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, USAを参照のこと。このcDNAは、二本鎖型への変換後、クローニングされ得、得られたクローンは、所望の配列をコードするcDNAに対して適切なプローブを用いてスクリーニングされる。一旦所望のクローンが単離されると、cDNAはゲノムDNAと実質的には同じ様式で操作され得る。しかしながら、cDNAについては、イントロンまたは介在配列は存在しない。プローブとして使用されるオリゴヌクレオチドを設計するために、図4に示される部分的なアミノ酸配列を使用し得る。更に、完全なACAタンパク質の配列分析を実施すること、またはその更なるペプチド断片を得ることのいずれか、およびそれらのアミノ酸配列を特性付けることが可能である。ペプチド断片を得るために、精製されたタンパク質調製物は、例えば、当該分野で周知の方法、例えば以下の実施例に記載される方法により、トリプシン、キモトリプシンまたはパパイン等のプロテアーゼで分解することにより断片化に供される。分解により生成されたペプチド断片は逆相HPLCにより分離され、自動アミノ酸配列決定技術により配列決定される。
【0030】
一旦1以上の適切なペプチド断片が配列決定されるか、タンパク質の部分配列が決定されると、それらをコードすることが可能なDNA配列が試験される。遺伝的コードの縮重により、1より多いコドンが特定のアミノ酸をコードするために使用され得、それぞれがACAタンパク質ペプチド断片をコードすることが可能である1以上の異なるオリゴヌクレオチドが生成され得る。しかしながら、該セットの1つのメンバーのみが該遺伝子のヌクレオチド配列と同一であるヌクレオチド配列を含む。該セット内のその存在およびその該セットの他のメンバーの存在下でさえDNAにハイブリダイズするその能力は、該ペプチドをコードする遺伝子をクローン化するために単一のオリゴヌクレオチドを使用する同じ様式においてオリゴヌクレオチドの未分画セットを使用することを可能にする。ACAタンパク質遺伝子断片をコードすることが可能な理論的に「最ももっともらしい」配列を含むかかるオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセットの使用(標準的な文献に開示される「コドン使用頻度ルール」に従う)は、ACAタンパク質または少なくともその一部をコードする「最ももっともらしい」配列、またはかかる配列のセットにハイブリダイズすることが可能である相補的なオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセットの配列を同定することを可能にする。かかる相補的配列を含むこのオリゴヌクレオチドは、次いで合成され得、プローブとして本発明のACAタンパク質の遺伝子を同定および単離するために使用される。一旦、ACAタンパク質遺伝子の断片をコードすることが可能な(あるいは、かかるオリゴヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドのセットに対して相補的である)適切なオリゴヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドのセットが、上記の手順を用いて同定されると、それは合成され、DNAに、または好ましくは所望の遺伝子を発現することが可能な、細胞由来のcDNA調製物に、好ましくはcDNA源が所望の配列について富化された後に、例えば、高レベルの所望の遺伝子を生成する細胞からRNAを抽出し、次いで酵素逆転写酵素を使用することにより対応するcDNAにそれを変換することによりハイブリダイズされる。核酸のハイブリダイゼーションの手順は一般的に知られている。上記のオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドプローブのセットを用いたハイブリダイゼーションにより、cDNAまたはゲノムライブラリーにおいて、かかるハイブリダイゼーション可能なDNA配列を同定することが可能であり、それらは次いで分析され、それらが本発明のACAタンパク質に対するコード配列をどの程度含むかが決定される。
【0031】
あるいは、PCR反応のプライマーはACAの部分的なアミノ酸配列に基づいて設計され得、上記の細胞またはライブラリーを供給源として使用してACAまたはその一部をコードする遺伝子を単離するために使用される。最終的に、ACAの部分的なアミノ酸配列由来の核酸配列を基礎として、一般に利用可能な遺伝子バンク、例えばESTベースの遺伝子バンクがスクリーニングされ得る。
【0032】
本発明は更に、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。好ましくは、それらはプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージおよび通常遺伝子工学の分野で使用される他のベクターである。本発明における使用に適切なベクターとしては、これらに限定されないが、細菌における発現用のT7ベースの発現ベクター、哺乳動物細胞における発現用のpMSXND発現ベクターおよび昆虫細胞における発現用のバキュロウイルス由来ベクターが挙げられる。好ましくは、本発明の核酸分子は、翻訳され得る原核生物および/または真核生物細胞におけるRNAの転写および合成を保証する、本発明の組換えベクターにおける調節因子に作動可能に連結される。転写されるヌクレオチド配列はT7、メタロチオネインIまたはポリヘドリンプロモーターなどのプロモーターに作動可能に連結され得る。
【0033】
更なる態様において、本発明は、一過的にまたは安定して本発明の核酸分子またはベクターを含む組換え宿主細胞に関する。宿主細胞は、インビトロ組換えDNAを取り込むことが可能である生物であること、および、場合により、本発明の核酸分子によりコードされるACAタンパク質、断片等を合成することと理解される。好ましくは、これらの細胞は原核生物または真核生物細胞、例えば哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞または酵母細胞である。本発明の宿主細胞は、好ましくは本発明の導入された核酸分子のいずれかが形質転換細胞に関して異種である、すなわち、それはこれらの細胞において天然には存在しないか、または対応する天然に存在する配列とは異なるゲノムの場所に局在化しているという事実により特性付けられる。
【0034】
本発明の更なる態様は、本発明のACAタンパク質の組換え産生方法に関し、ここで、例えば本発明の宿主細胞はタンパク質の合成が行える条件下で培養され、該タンパク質はその後、培養細胞および/または培養液から単離される。組換え的に産生されたタンパク質の単離および精製は、モノクローナルまたはポリクローナル抗ACA抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを含む、調製クロマトグラフィー、ならびに親和性および免疫学的分離を含む従来手段により行われ得る。ACAタンパク質は好ましくは実質的に精製された形態にある。ACAの組換え的に産生されたバージョンは、SmithおよびJohnson, Gene 67:31-40 (1988)に記載されたワンステップの方法により実質的に精製され得る。
【0035】
本発明はまた、本発明の表面糖タンパク質ACAに対する抗体に関する。用語「抗体」は、好ましくは、種々のエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体、および別個のモノクローナル抗体調製物から本質的になる抗体に関する。モノクローナル抗体は、当業者に周知の方法により、本発明のタンパク質の断片を含む抗原から作製される(例えば、Kouhlerら, Nature 256 (1975), 495を参照のこと)。本明細書で使用される場合、用語「抗体」(Ab)または「モノクローナル抗体」(Mab)は、タンパク質に特異的に結合し得るインタクトな分子および抗体断片(例えば、FabおよびF(ab')2断片など)を含むことを意味する。Fv、FabおよびF(ab')2断片は、インタクトな抗体のFc断片を欠き、循環からより迅速に取り除かれ、インタクトな抗体よりも低い非特異的組織結合を有し得る(Wahlら, J. Nucl. Med. 24:316-325(1983))。従って、これらの断片、ならびにFabまたは他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物が好ましい。さらに、本発明の抗体としては、キメラ、単鎖、およびヒト化抗体が挙げられる。
【0036】
本発明はまた、ACAの過剰発現に関連する腫瘍またはかかる腫瘍の素因の診断のための方法に関し、該方法は、(i)本発明の表面糖タンパク質ACAまたは(ii)ACAコードDNA分子から転写されたmRNAに特異的に結合し得る化合物と標的試料を接触させる工程、ならびに(b)上記化合物の使用により測定された試料のACAタンパク質またはACA mRNAのレベルを健康な個体から得た対照試料と比較する工程であって、ここで、該表面糖タンパク質ACAまたは対応するmRNAの上昇したレベルが腫瘍またはかかる腫瘍の素因を示す、工程を含む。好ましくは、該化合物は抗ACA抗体、またはACAをコードするDNA配列から転写されたmRNAにハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドである。好ましくは、ACA DNAとハイブリダイズする該オリゴヌクレオチドの核酸配列は、少なくとも12、好ましくは少なくとも15、またはより好ましくは少なくとも20塩基長を有する。プローブとして使用されるオリゴヌクレオチドは、例えば、ラジオアイソトープ、生物発光化合物、化学発光化合物、蛍光化合物、金属キレート、または酵素を用いて検出可能に標識され得る。
【0037】
生物学的流体(例えば、血液)または組織中の標的細胞成分、ACAタンパク質またはACA-mRNAは、例えば、インサイチュハイブリダイゼーションにより直接インサイチュで検出され得るか、または、プローブと接触させる前に当業者に公知の一般的方法により他の細胞成分から単離され得る。検出方法としては、ノザンロット分析、RNase保護、インサイチュ方法、例えば、インサイチュハイブリダイゼーション、インビトロ増幅方法(PCR、LCR、QRNAレプリカーゼまたはRNA転写/増幅(TAS、3SR)、欧州特許第0 237 362号に開示されるリバースドットブロット)、免疫アッセイ、ウェスタンブロットおよび当業者に公知の他の検出アッセイが挙げられる。
【0038】
インビトロ増幅により得られた産物は、確立された方法により、例えば、アガロースゲル上で産物を分離することにより、およびその後の臭化エチジウムで染色することにより検出され得る。あるいは、増幅産物は、増幅用の標識プライマーまたは標識dNTPを使用することにより検出され得る。
【0039】
組織中のACAの発現は、古典的免疫組織学方法(Jalkanenら, J. Cell. Biol. 101 (1985), 976-985;Jalkanenら, J. Cell. Biol. 105 (1987), 3087-3096;Sobolら, Clin. Immunpathol. 24 (1982), 139-144;Sobolら, Cancer 65 (1985), 2005-2010)で研究され得る。タンパク質遺伝子発現を検出するのに有用な他の抗体ベース方法としては、免疫測定法(例えば、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)および放射免疫測定法(RIA)など)が挙げられる。適切な抗体アッセイ標識は当該分野で公知であり、酵素標識(例えば、グルコースオキシダーゼなど)、ラジオアイソトープ(例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(112In)およびテクネチウム(99mTc)など)、および蛍光標識(例えば、フルオレセインおよびローダミンなど)、およびビオチンが挙げられる。生物学的試料中でACAレベルをアッセイするのに加えて、タンパク質はまた、画像化によりインビボで検出され得る。タンパク質のインビボ画像化用の抗体標識またはマーカーとしては、X線撮影法、NMRまたはESRにより検出可能なものが挙げられる。X線撮影法について、適切な標識としては、検出可能な放射能を放射するが被験体に対して明白に有害ではないバリウムまたはセシウムなどのラジオアイソトープが挙げられる。NMRおよびESRに対する適切なマーカーとしては、関連性のあるハイブリドーマに対する栄養素の標識化により抗体に組み込まれ得るジュウテリウムなどの検出可能な特徴的なスピンを有するものが挙げられる。適切な検出可能な画像化部分(ラジオアイソトープ(例えば、131I、112In、99mTc)、放射線不透過性物質、または核磁気共鳴により検出可能な材料など)で標識されているタンパク質特異的抗体または抗体断片が、哺乳動物に(例えば、非経口、皮下、または腹腔内で)導入される。非験体のサイズおよび使用される画像化システムが診断画像を生ずるのに必要な画像化部分の量を決定することは当該分野で理解される。ラジオアイソトープ部分の場合、ヒト被験体について、注射される放射能の量は、通常、約5から20ミリキュリーの99mTcの範囲である。次いで、標識抗体または抗体断片は、好ましくは、特異的タンパク質を含有する細胞の位置で蓄積する。インビボ腫瘍画像化は、S.W. Burchielら,「Immunopharmacokinetics of Radiolabeled Antibodies and Their Fragments.」(第13章Tumor Imaging:The Radiochemical Detection of Cancer, S.W. BurchielおよびB.A. Rhodes,編, Masson Publishing Inc. (1982))に記載される。
【0040】
ACAの発現および/または活性を阻害することにより、黒色腫のような癌の有効治療が提供されることが結論付けられ得る。
【0041】
従って、本発明はまた、(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を減少または排除し得る化合物を含有する医薬組成物に関する。かかる試薬の例は、アンチセンスRNA、リボザイムまたはタンパク質の生物学的活性のインヒビター(例えば、特異的抗体)である。例えば、タンパク質に対する抗体の投与は、タンパク質の過剰産生を拘束し、減少し得る。
【0042】
本発明のアンチセンスRNA配列は、本発明の核酸分子から転写されたmRNAまたはその一部に相補的であり、該mRNAに選択的に結合し得ることを特徴とし、該配列は前記核酸分子にコードされるACAタンパク質の合成を阻害し得、リボザイムは、本発明の核酸分子から転写されたmRNAまたはその一部に相補的であり、該mRNAに選択的に結合し、切断し、従って、該核酸分子にコードされるACAタンパク質の合成を阻害し得ることを特徴とする。一本鎖RNAから構成されるリボザイムはRNA酵素、すなわち、触媒RNAであり、標的RNA、例えば、Trp遺伝子の一つから転写されたmRNAを分子間で切断し得る。リボザイムを構築することは現在可能であり、文献に記載のストラテジーに従うことで標的RNAを特異的部位で切断することが可能である(例えば、Tannerら:Antisense Research and Applications, CRC Press Inc. (1993), 415-426参照)。かかるリボザイムの2つの主な必要条件は、標的RNAに相補的であり、その基質への結合を可能にする触媒ドメインおよび領域であり、これは切断に欠くことはできない。該相補配列、すなわち、アンチセンスRNAまたはリボザイムは、例えば、黒色腫の治療の場合の、ACA発現の抑制に有用である。好ましくは、本発明のアンチセンスRNAおよびリボザイムは、mRNAのコード領域、例えば、コード領域の5'部分に相補的である。本発明の核酸分子の配列を提供された当業者は、上記アンチセンスRNAまたはリボザイムを生成および利用するための所を得ている。本発明の核酸分子から転写されたmRNAに相補性を示すアンチセンスRNAおよびリボザイムの領域はそれぞれ、好ましくは、少なくとも10、特に少なくとも15、特に好ましくは少なくとも50ヌクレオチド長を有する。
【0043】
ACAタンパク質に対するインヒビターは、例えば、アンタゴニストとして作用する対応のタンパク質の構造アナログであり得る。さらに、かかるインヒビターは、組換え生成タンパク質の使用により同定された分子を含み、例えば、組換え生成タンパク質を使用して、適切な条件下でタンパク質に結合するための潜在的なインヒビターの能力を利用することによりインヒビターをスクリーニングおよび同定し得る。インヒビターは、例えば、試験混合物を調製することにより同定され得、ここで、インヒビター候補物は、ACAが天然のコンホメーションであり得る適切な条件下でACAタンパク質とインキュベートされる。かかるインビトロ試験系は、当該分野で周知の方法により確立され得る。インヒビターは、例えば、組換え生成ACAタンパク質に結合する合成または天然に存在する分子のいずれかについて初めにスクリーニングし、次いで、次の工程で、少なくとも1つの生物学的活性の阻害により表されるようなACAタンパク質の阻害についての細胞アッセイでこの選択された分子を試験することにより同定され得る。ACAタンパク質を結合する分子についてのかかるスクリーニングは、例えば、合成および/または天然分子のライブラリーから候補分子をスクリーニングすることにより、容易に大規模に実施され得る。かかるインヒビターは、例えば、合成有機化学薬品、天然醗酵産物、微生物、植物または動物から抽出された基質、またはペプチドである。これらのインヒビターの特定の機能は、ACAの細胞から細胞への移動を遮断することである。インヒビターのさらなる例は特異的抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。さらに、本発明の核酸配列およびコードタンパク質を使用して、腫瘍発達および進行に関する更なる因子を同定し得る。さらに、本発明のタンパク質は、タンパク質/タンパク質相互作用に基づくスクリーニング方法(例えば、ツーハイブリッドシステム)を使用して、例えば、黒色腫に関連するさらなる(非関連)タンパク質を同定するために、例えば、使用され得る。
【0044】
投与のため、上記化合物は、好ましくは、適切な薬学的担体と組み合わせられる。適切な薬学的担体の例は当該分野で周知であり、リン酸緩衝化生理食塩水溶液、水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、種々の型の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。かかる担体は、従来の方法により製剤化され得、適切な用量で被験体に投与され得る。適切な組成物の投与は、種々の方法、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所または皮内投与により影響され得る。投与経路はもちろん、腫瘍の性質および医薬組成物に含まれる化合物の種類に依存する。投薬レジメンは、主治医および他の臨床因子により決定される。医学分野で周知なように、任意の一人の患者への投薬は、多くの因子(患者の大きさ、体表面積、年齢、性別、投与対象の特定の化合物、投与の時間および経路、腫瘍の種類および段階、一般的健康状態および同時投与される他の薬物が挙げられる)に依存する。
【0045】
本発明のアンチセンスRNAまたはリボザイムの送達は、直接適用により、または好ましくは、これらの化合物を含有するキメラウイルスなどの組換え発現ベクターまたはコロイド分散系を使用することにより達成され得る。所望の標的にこれらの核酸を送達することにより、ACAの細胞間発現および、従ってACAのレベルが減少し、例えば、黒色腫の転移形成に関するACAのネガティブ効果の阻害を生じ得る。
【0046】
標的部位への直接適用は、例えば、コロイド分散系の場合は、弾道(ballistic)送達により、または動脈内の部位へのカテーテルにより実施され得る。上記核酸の送達に使用され得るコロイド分散系としては、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズおよび脂質ベースの系(水中油型エマルジョン、(混合)ミセル、リポソームおよびリポプレックス(lipoplex)が挙げられる)が挙げられる。好ましいコロイド系はリポソームである。リポソームの組成物は、通常、リン脂質とステロイド、特にコレステロールの組み合わせである。当業者は、所望の核酸分子の送達に適切なかかるリポソームを選択するための所を得ている。器官特異的または細胞特異的リポソームは、所望の腫瘍のみへの送達を達成するために使用され得る。リポソームの標的化は、一般的な公知の方法を適用することによって当業者により実施され得る。この標的化としては、受動標的化(リポソームの洞様毛細血管を含む器官におけるRESの細胞に分布する天然の傾向を利用する)または活性標的化(例えば、周知の方法によりリポソームを特異的リガンド、例えば、抗体、レセプター、糖、糖脂質、タンパク質などに結合することによる)が挙げられる。本発明において、モノクローナル抗体は、好ましくは、特異的細胞表面リガンドを介してリポソームを特異的腫瘍に標的化するために使用される。
【0047】
遺伝子治療に有用な好ましい組換えベクターは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアまたはより好ましくはレトロウイルスなどのRNAウイルス)である。さらにより好ましくは、レトロウイルスベクターは、マウスまたは鳥類レトロウイルスの誘導体である。本発明に使用され得るかかるレトロウイルスベクターの例は:Moloneyマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、Harveyマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MuMTV)およびRous肉腫ウイルス(RSV)である。マウスベクターと比較して宿主範囲が広いという条件で、最も好ましくは、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)などの非ヒト霊長類レトロウイルスベクターが使用される。組換えレトロウイルスが欠損の場合、感染性粒子を生成するために補助が必要である。かかる補助は、例えば、LTR内の調節配列の制御下でレトロウイルスの構造遺伝子の全てをコードするプラスミドを含むヘルパー細胞系統を使用することにより提供され得る。適切なヘルパー細胞系統は当業者に周知である。前記ベクターは、選択可能マーカーをコードする遺伝子をさらに含み得、その結果、トランスダクションされた細胞が同定され得る。さらに、レトロウイルスベクターは、標的特異的にするような方法で修飾され得る。これは、例えば、糖、糖脂質またはタンパク質、好ましくは抗体をコードするポリヌクレオチドを挿入することにより、達成され得る。当業者は、標的特異的ベクターを作製するためのさらなる方法を知っている。インビトロまたはインビボ遺伝子治療にさらに適切なベクターおよび方法は、文献に記載され、当業者に公知である;例えば、WO 94/29469またはWO 97/00957参照。
【0048】
標的器官、すなわち処置対象の腫瘍においてのみ発現を達成するために、例えば、アンチセンスRNAまたはリボザイムをコードする核酸もまた、組織特異的プロモーターに作動可能に連結され、遺伝子治療に使用され得る。かかるプロモーターは当業者に周知である(例えば、Zimmermannら, (1994) Neuron 12, 11-24;Vidalら, (1990) EMBO J. 9, 833-840;Mayfordら, (1995), Cell 81, 891-904;Pinkertら, (1987) Genes & Dev. 1, 268-76参照)。
【0049】
上記で考察した診断研究における使用のため、本発明によりキットもまた提供される。かかるキットは、標的細胞成分(ACA、またはACAコードmRNA)の検出に有用である。このキットは、ACA、またはACAコードmRNAの検出用のプローブを含有する。プローブは検出可能に標識され得る。かかるプローブは特異的抗体または特異的オリゴヌクレオチドであり得る。好ましくは、ACA DNAとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの核酸配列は、少なくとも12、好ましくは少なくとも15、またはより好ましくは少なくとも20塩基長を有する。好ましい態様において、このキットは、抗ACA抗体を含み、例えばELISAによる診断を可能にし、当該分野で公知の技術を使用して固体支持体、例えば、ポリスチレンマイクロタイターディッシュまたはニトロセルロース紙に結合した抗体を含む。あるいは、このキットは、RIAに基づき、放射能同位体でマークされた抗体を含む。本発明のキットの好ましい態様において、抗体は、酵素、蛍光化合物、ルミネセンス化合物、強磁性プローブまたは放射性化合物で標識される。
【0050】
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例】
【0051】
実施例1:一般的方法
(A)タンパク質の精製および単離
健常なドナーから回収したヒト血液を1500g、4℃で10分間遠心分離した。血漿および軟膜を吸引により除去し、押し固まった細胞を150mM/15mMリン酸ナトリウム(pH7,6)中で2回洗浄し、CH3COOH/蒸留水中で溶解した。膜を10.000×gで15分間ペレット化し、抽出緩衝液、50mM Tris-HCl pH7.5、2mM DTT、1mM PMSF、1mM EDTA、0,25Mスクロースで洗浄した。この工程を血球影が残存ヘモグロビンの視覚形跡を示さなくなるまで繰り返した(3回洗浄が通常必要であった)。最終洗浄後、血球影を同じ緩衝液に再懸濁した。ペレットを15分間液体窒素中で凍結し、25℃で解凍した。この手順を3回繰り返す。次いで、ホモジェネートをKClに関して400mMに調整し、25.000gで60分間遠心分離した。上清を回収し、(NH4)2SO4(Sigma、Munchen、Germany)で70%飽和に調整し、30分間攪拌した。沈殿したタンパク質を遠心分離により回収し、抽出緩衝液に再溶解し、40%飽和の(NH4)2SO4で再度沈殿した(図2A)。沈殿したタンパク質を氷上で30分間再度攪拌し、抽出緩衝液中に再溶解し、貯蔵緩衝液(40mM Tris-HCl pH7.5、2mM DTT、1mM EDTA、0.25Mスクロース)に対して透析し、-20℃で貯蔵した。タンパク質の純粋な両親媒性形態を、SDSゲル電気泳動を含むさらなる調製工程により得た。タンパク質のゲルバンドを摘出し、25mM Tris-塩、192mMグリシンおよび0,035%SDS(pH8,3)中で砕き、上清を4℃での一晩インキュベーション後回収した。精製したタンパク質を貯蔵緩衝液(NH4)2CO3に対して透析し、氷冷アセトン含有エタノール/ドライアイス浴で沈殿させ、4℃で貯蔵した。タンパク質濃度を、Bradfordの方法(Anal. Biochem. 72 (1976), 284-254)により測定した。
【0052】
(B)電気泳動法
SDS-PAGEを、Laemmliの4〜15%ポリアクリルアミド含有不連続緩衝液の線形勾配ゲル上で実施した(Laemmli, Nature 227 (1970), 680-685)。試料を、電気泳動前に還元試料緩衝液中で2分間沸騰させた。タンパク質バンドを銀染色、またはCuCl2によるネガティブ染色により同定した。分子量を、Bio-Rad Laboratories(Munchen, Germany)から購入した分子量標準の位置と比較することにより評価した。ゲルをメタノール/酢酸またはエタノール/酢酸で固定し、クマシーブルーでまたは標準的な銀染色により視覚化した。
【0053】
(C)等電点電気泳動
1バンドあたり合計1〜5ngのタンパク質を、Pharmacia(Freiburg, Germany)から調達したPhastGel IEF勾配媒体に供した。試料を陰極から約10mmアプライした。さらなる対照をサンプルの次に陽極および陰極にアプライした。バンドを、製造業者の指示に従って銀染色法を使用して視覚化した。標準として、Pharmacia Broad pI Calibration KIT on PhastGel IEF 3-9を使用した。
【0054】
(D)化学的脱グリコシル化
一次構造解析用のACAタンパク質を調製するために、化学的脱グリコシル化を実施した。塩、金属イオンおよび洗剤を含まないタンパク質試料を、無水トリフルオロメタンスルホン酸(TMSF)(Oxford GlycoScience, UK)で4.5時間冷凍庫中で処理し、中和し、0,5%炭酸水素アンモニウム中で回復させた。次いで、中和した反応混合物を同じ緩衝液に対して透析し、沈殿した脱グリコシル化タンパク質を遠心分離により直接単離した。
【0055】
(E)タンパク質配列解析
化学的に脱グリコシル化されたタンパク質をトリプシンまたはAsp-Nで18時間37℃にて処理した。ペプチドを、C18逆相HPLCにより分離した。N末端配列を、気相シーケンサーを使用して自動化Edman分解により決定した。
【0056】
(F)無細胞抽出物
血球影の調製を、New York Blood Centerの倫理調査委員会により承認されたプロトコルに従って行った。簡単には、約2,3×106/mlの充填赤血球および赤白血病細胞(K-562)をPBS緩衝液で5分間5000rpmで一度洗浄した。上清を移動した後、1:20,5希釈のPBS含有蒸留水で細胞を溶解し、15.000rpmで10分間遠心分離した。上清を移動し、遠心分離チューブに接着した白血球の離散ペレットをまた除去した(Dodgeら, Arch. Biochem. Biophys. 100(1963), 119-130)。再懸濁した血球影を、白くふわふわになるまで、10mM Tris.HCl(pH7.8)で洗浄した。4,5積み重ねゲルおよび4〜15%分離ゲルを使用するSDS-PAGEに供する前に、等容積の単純緩衝液を添加し、2分間沸騰させた。
【0057】
あるいは、血球(2×106)含有PBSを等容積のPBSで5000rpmで5分間2回洗浄した。ペレットをPBS/水(1:20.5)に溶解し、氷上で10分間インキュベートし、遠心分離して、不溶性材料を除去した。上清を回収し貯蔵した。残存ペレットを10mM Tris-HCl(pH7.8)で抽出し、15分間15000gで遠心分離した。次いで、上清をSDS-PAGEおよび免疫ブロッティングで分析した。PI-PLCでの細胞の処理後、顆粒球の膜から放出されたタンパク質を、5容量の氷冷アセトンを添加し、ドライアイスエタノール浴中で30分間インキュベートすることにより沈殿させた。沈殿したタンパク質を10分間13500gで遠心分離し、ペレットから注意深くアセトンを除去し、残存アセトンが蒸発するまでペレットを空気乾燥した。回復したタンパク質をSDS-PAGEおよび免疫ブロッティングで分析した。
【0058】
正常皮膚および黒色腫腫瘍組織サンプルから膜タンパク質画分を調製するために、20個の凍結薄片20mμを氷上で緩衝液A(50mM Tris.HCl、pH7,5、25mm KCl、3mM MgCl2 0,25Mスクロース、1mM PMSF、2mMジチオスレイトール(dithiotheitol)、1mM EDTA)中で30分間インキュベートし、Ultra Turrax T8機械で均質化した。抽出物を1300rpm 10分間4℃で遠心分離し、不溶性材料を除去し、上清を回収し貯蔵した。残存ペレットを緩衝液Aでもう一度抽出し、遠心分離し、前の上清に添加した。上清中のタンパク質を5×容量の氷冷メタノールで沈殿し、サンプルを13.500rpmで遠心分離した。沈殿したタンパク質を緩衝液B(40mM Tris.HCl、pH7,5、2mM DTT、1mM EDTAおよび0,25スクロース)に溶解し、タンパク質濃度をBradfordの方法により測定した。
【0059】
(G)免疫ブロッティング
赤血球の血球影から調製した膜タンパク質(10〜30μg)および赤白血病(K-652)細胞の均質化組織を還元サンプル緩衝液と混合し、ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、次いで(than)に吐露セルロース膜に転写した。フィルターを3%BSA含有PBSでブロックし、抗体反応性を試験するために使用した。65kD GPIタンパク質に対するポリクローナルマウス血清を1:5000希釈で使用した。アルカリホスファターゼ(AP)とAPに対する色素発生基質としてのBCIP/NTB(Promega, USA)と結合体化した抗IgG二次抗体を使用して視覚化を実施した。
【0060】
あるいは、PI-PLC消化後の無細胞抽出物および上清を、還元条件下、4〜15%勾配ゲル上のSDS-PAGEに供し、次いでニトロセルロース上にブロットした。ニトロセルロース膜を、0.1%Tween-20および3%BSAを含有するTBSでブロックし、次いで、一次抗体と共に1時間インキュベートした。抗体を以下の濃度で使用した:1:1000希釈でモノクローナルマウス抗体(AC1、AB12)、1:500希釈でポリクローナルウサギ抗体(AL1)。二次抗体、アルカリホスファターゼ結合体化ヤギ抗マウスおよびヤギ抗ウサギIgG(Promega、Heidelberg、Germany)を1:10000希釈で使用した。5-ブロモ-4-クロロ-インドリルリン酸テトラゾリウム(BCIP/NTB)液体基質系(Boehringer Mannheim Gmbh、Germany)を、アルカリホスファターゼに対する色素発生基質として使用した。
【0061】
(H)ホスホリパーゼを用いる消化
Trypanosoma brucei由来のグリコシルホスファチジルイノシトール−ホスホリパーゼC(GPI-PLC)(Oxford GlycoScience, UK)を用いた消化を、1時間30℃で実施した。タンパク質のサンプルを、TBS(Tris緩衝化生理食塩水、20mM Tris-HCl、0,15M NaCl、0.1%のTriton X-114を含有、10mM TLCKおよび5mM EDTA)の添加によりさらに緩衝化し、5μl(25U/ml)の酵素とインキュベートした。5mUのホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC、(PI-PLC)(Bacillus cereus、Boehringer Mannheim Germany)とのインキュベーションを、トリエタノールアミン緩衝液(50mMトリエタノールアミン、10mM EDTA、および10mMアジ化ナトリウム、pH7.5)中で1時間37℃で実施した。アンカー特異的ホスホリパーゼD(ウシ血清EC3.1.4.50 Boehringer Mannheim)での消化を、20mM Tris-HCl pH7.4、0.1mM CaCl2Triton X-100 0.008%(w/vol.)中で60分間37℃で実施した。反応が終了した後、10μlの還元サンプル緩衝液を添加した。反応混合物を含有するチューブを沸騰水浴中に5分間配置し、続いて、サンプルのアリコートをSDS-PAGEおよび銀染色(PhastGel System、Pharmacia Biotech、Freiburg、Germany製)による分析に供した。
【0062】
あるいは、消化アッセイを、連続希釈(1〜5U/mL)グリコシルホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(GPI-PLC)(Bacillus thuringiensis、Oxford GlycoScience, UK)を含有し106精製顆粒球を含有する25μlのPBSを使用して、Tris-HCl緩衝液(pH7,4)中で37℃で1時間実施した。PI-PLC(Bacillus cereus、Boehringer Mannheim)を用いた可溶化を、0,5U酵素を用いて、200μl Tris.HCl緩衝液、10mM EDTA(pH7,8)中で37℃で1時間実施した。Bリンパ球上のACAの可溶化のため、Triton X-100を0,03%の濃度で後者に添加した。血球について記載したのと同じ反応条件下で、Bacillus cereus PI-PLCでの消化後、対照実験をHEL ACA陽性細胞上で同時に行った。ホスファチジルイノシトールホスホリパーゼD(GPI-PLD)(5mU)での消化を、精製顆粒球を用いて、20mmol/l Tris.HCl緩衝液(pH7.4)、0,1mmol/l CaCl2、0.008%Triton X-100中で37℃で60分間25μl反応容積で実施した。
【0063】
(I)抗CRD(交差反応決定基)アッセイ
GPI-PLC、PI-PLCおよびGPI-PLD切断タンパク質をSDS-PAGEに供し、ニトロセルロース上に移動した。ブロック後、抗原を、親和性精製抗CRD抗体(Oxford GlycoScience)を用いて視覚化した。洗浄後、結合した抗CRDを、ビオチン化ロバ抗ウサギIgGとのインキュベーションにより検出し、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼで視覚化した。陽性および陰性対象として、バリアント表面糖タンパク質の可溶性形態(sVSG)およびACAの膜形態を同時にブロットし、抗CRD抗体で現した。
【0064】
(J)ホスホリパーゼ作用の産物の同定
精製ACAタンパク質をPI-およびGPI-ホスホリパーゼCで消化し、トリアシルグリセロールアシルヒドロラーゼ(300U)(Rhizopus arrhizus EC 3.1.1.3.、Boehringer Mannheim、Germany)、続いて、カルボン酸(carboxylic)エステルヒドロラーゼ(30U)(ブタ肝臓由来EC3.1.1.1.、Boehringer Mannheim)を用いて、0.1mgドデシル硫酸ナトリウム/mlを含有する反応緩衝液中で25分間25℃でさらなる加水分解に供した。グリセロールを、購買者(Boehringer Mannheim)による記載のように、グリセロキナーゼ、(GK)ピルビン酸(pyrivate)キナーゼ、(PK)ならびに補助および指標酵素として乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(Boehringer Mannheim)を用いて測定した。リパーゼ、エストラーゼ、PK、LDH、GKはヘキソキナーゼ、ならびに他の干渉キナーゼおよびホスファターゼがなく、ATP(Boehringer Mannheim)は実質的にADPがなく、ホスホエノールピルビン酸PEP(Boehringer Mannheim)はピルビン酸がない。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の酸化による340nm、334および365nmでの吸光度の減少を測定した(図1)。
【0065】
(K)放射能標識
精製タンパク質を、RobertsおよびRosenberry(Biochemistry 25(1986), 3091-3098)に記載のように、3-(トリフルオロメチル)-3-(m-[125J]ヨードフェニル)ジアジリン([125J]TID)(Amersham)を用いて350nmで15分間の光分解により標識した。[125J]TID含有エタノール(5〜200μCi)のアリコート10μlを、1cm2ゴム栓付ホウケイ酸ガラス試験管中の500μlの緩衝化赤血球ACAタンパク質に添加し、穏やかにかき混ぜて、完全混合を確保した。光分解をBeckman分光光度計で、スリットを除去して20分間実施した。
【0066】
(L)薄相クロマトグラフィー(TLC)
GPI-PLCおよびPI-PLC切断[125J]TID標識タンパク質のサンプルを、トリアシルグリセロタンパク質アシルヒドロラーゼ、次いで、カルボン酸エステルヒドロラーゼを用いてさらなる加水分解に供し、この反応の脂質産物を、クロロホルム/メタノール/HCl(22:50:1)で抽出し、300gで15分間遠心分離した。下の相を除去し、窒素下で乾燥状態まで蒸発させた。残渣を、0.1mlのクロロホルム/メタノール(2:1)に再溶解し、これらの溶液をTLC板に定量的に塗布した。薄層クロマトグラフィーを、10×20cmシリカゲル板(Merck、Darmstadt、Germany)上で活性化せずに実施した。展開は、溶媒B[ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(60:30:1)]または溶媒A[ヘキサン/2-プロパノール(96:4)]のいずれかを用いた。放射性成分の位置を、Kodak XAR-5フィルムを用いる放射能写真により同定した。標準の位置を、乾燥させた板のヨウ素蒸気への曝露により捜し当てた。
【0067】
(M)ACAに対する抗体の生成
新規な赤血球膜タンパク質ACAを、上記のように正常なヒト赤血球から単離した。ラビットポリクローナル抗体(AL1)を、初回接種について100μg精製タンパク質を含有する完全Freundアジュバントおよびさらなる3度のブースターについて50μg抗原混合物を含有する不完全Freundアジュバントを用いる動物の免疫化により生成した。抗体力価を、ELISAならびに精製タンパク質および無細胞抽出物を用いる免疫ブロットにより測定した。2つのマウスモノクローナル抗体(AC1およびAB12)を、標準的なプロトコル(Fazekasら, J. Immunol. Methods 35(1981), 1-21)に従い作製した。簡単には、BALB/CマウスをACA含有Freundアジュバントで3回免疫化した。脾臓細胞を回収し、ハイブリドーマを作製し、クローニングした。抗体結合をELISAおよび免疫ブロットにより評価した。
【0068】
(N)細胞の分離
20人の健常なドナーのヘパリン化ヒト末梢血を開始材料として使用した。顆粒球を、Ficoll-Hypaque(Pharmacia、Freiburg、Germany)密度勾配上の遠心分離により血液から単離した。末梢血単核細胞(PBMC)を除去し、顆粒球を、30分室温でデキストラン/リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)溶液(Pharmacia)とインキュベーションした後、2000gで沈降させた。混入赤血球を低張溶解により除去した。TおよびBリンパ球を以前に記載した方法(Nicholson-Wellerら, Blood 65(1985), 1237-1244)により分離した。簡単には、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離により単離したPBMCを、RPMI 1640培地(GIBCO、Eggenstein、Germany)中に再懸濁し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)(GIBCO)を補充し、ノイラミニダーゼ処理ヒツジ赤血球とインキュベートした。BおよびTリンパ球を、ロゼット化リンパ球のFicoll勾配遠心分離後に分離した。細胞をPBSで2回洗浄し、使用まで4℃で維持した。各細胞集団の純度は>95%であった。トリパンブルーでの生体染色によって測定する場合、生存能は>95%であった。
【0069】
(O)抗体特徴付けのためのヒト細胞系統の生成
EBV形質転換PNH(GPI-欠損)Bリンパ球系統の生成のため、Ficoll-Hypaque分離PBMCを、CD48に対する抗体(GPIアンカー白血球マーカー)(Immunotech、Hamburg、Germany)とインキュベートし、続いて、ヒトAB血清を用いて相補溶解した(Taylorら, Biochem. J. 322(1997), 919-925;Tomita, Biochimica et Biophysica Acta 1455(1999), 269-286)。CD48および他のGPI連結表面抗原を欠損しているPNH細胞は、ヒトAB血清を用いて相補溶解した後も残っている(Taylorら, 1997)。正常なドナーから単離されたGPI陽性Bリンパ球およびPNH患者のGPI陰性Bリンパ球を、3時間37℃でEBV懸濁液と共にインキュベートし、フローサイトメトリーにより分析した。CD48-およびCD48+B細胞を、20%熱不活化胎仔ウシ血清(FBS)および2mmol/Lグルタミンを補充したDulbecco修飾Eagle培地(DMEM)(GIBCO)中で培養した。T細胞系統の生成のため、CD48-およびCD48+リンパ球の均質集団を、標準的な手順(Fleisher, J. Immunol. Methods 109(1988), 215;Hertensteinら, Blood 86(1995), 1487-1492)に従い限界希釈により得た。簡単には、PNH患者由来のPBMCを単離し、上記のようにTリンパ球を分離した。影響を受けたGPI-Tリンパ球を、Bリンパ球に対して前記のように富化した。細胞を、植物性赤血球凝集素で刺激したPBMCの供給層および上清として照射同種異系PBMC上の組織プレート(histoplate)(Nunc, Roskilde, Denmark)中で増殖させた。Tリンパ球を0,1、0,3および1,0細胞/ウェルで接種した。増殖クローンをより大きなウェルに移動し、すでに記載したように、照射PBMCで弱く再刺激した。16T細胞クローンを、7,5%ヒトAB血清および20U/mL組換えヒトインターロイキン2を補充したRPMI 1640培地(GIBCO)中で培養し、二色フローサイトメトリーにより分析した。MOLT 4、CEM、Jurkat J6のようなT細胞系統を、10%FBSおよび2mM/Lグルタミンを補充したRPMI 1640培地中で培養した。ヒト赤白血病(HEL)細胞系統を、2mMグルタミンおよび10%FBSを補充したRPMI 1640培養培地中で増殖させた。
【0070】
(P)フローサイトメトリー解析
(i)血液試料
全血のフローサイトメトリーを、別の文献に記載(Schrezenmeierら、Exp. Hematol. 23 (1995), 81-87)の2ステップ法を使用することにより行なった。簡単には、EDTA血100μlに、0.1%BSAおよび5%ウマ血清を含むPBS50μlを添加し、37℃で30分間インキュベートした。次いで、混合物を、マウスモノクローナルAC1またはAB12抗体2μl、または無関連イソタイプ対照、続いてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識ヤギ抗マウスIgG(Dako, ハンブルク, 独国)とともに室温で20分間インキュベートした。洗浄およびIMMUNO-LYSIS作用溶液(Coulter Clone, ハイアレア, フロリダ州)1mlとの2分間のインキュベション後、細胞を1%パラホルムアルデヒドで固定し、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson, ハイデルベルク, 独国)を用いて解析した。データを、LYSIS IIソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて解析した。蛍光強度を対数目盛り上に示した。顆粒球、単球およびリンパ球を、特徴的な前方直角光散乱により同定し、ゲート制御(gate)し、各試料について少なくとも10000事象を解析した。赤血球の解析には、静脈血試料2μlを、PBS/BSA/ウマ血清試薬200μlに添加し、37℃で30分間インキュベートした後、AC1、AB12または対照として同じサブクラスの無関連モノクローナル抗体とともに20分間インキュベートした。洗浄後、ペレットを二次抗体を含有するPBS/BSA200μl中に再懸濁し、室温で20分間のインキュベーション後、細胞を3回洗浄し、ペレットを0.1%BSAを含むPBS2ml中に再懸濁し、パラホルムアルデヒドを最終濃度2%まで添加した。赤血球を、ゲート制御無しで、10000個の細胞を測定することにより解析した。網状赤血球の解析には、0.1%BSAを含むPBS1mlおよびEDTA血2μlを、1mlのチアゾールオレンジ溶液(Retic-count)(Becton Dickinson)とともに室温で20分間インキュベートした。RNA用染料であるチアゾールオレンジによる網状赤血球の染色により、赤血球と網状赤血球との個別の解析が可能となった。二色解析を、特異的細胞マーカー(抗TCRおよびCD2;Coulter Immunotech, ハンブルク, 独国)、(CD19、CD20、CD38;Becton Dickinson)、(CD5;Dako, ハンブルク, 独国)に対する種々のFITCまたはフィコエリトリン(PE)で標識された市販のモノクローナル抗体を、製造業者が推奨する希釈率で使用した以外は上記のようにして第3工程として行なった。2つの検出器間の蛍光シグナルの交差部の色補正を至適解析のために調整した。一色および二色解析の両方において、陰性画分を陰性対照集団とほぼ同じ低強度を有する細胞として定義し、陽性画分を陽性対照集団と同様の強度を有する細胞として定義した。
【0071】
(ii)単離された血球および細胞株
単離された顆粒球、BおよびTリンパ球の免疫学的表現型解析を、上記のようにして行なった。簡単には、PBS中の細胞懸濁物100μlを、一次抗体AC1およびAB12または無関連モノクローナル抗体の適切な希釈物2μlとともに室温で20分間暗所にてインキュベートし、洗浄し、ヤギ抗マウスPEまたはFITC IgGとともにインキュベートした。二色解析を、CD19、CD20、CD3、CD4、CD8(Becton Dickinson)などの特異的細胞マーカーに対するFITCまたはPE標識モノクローナル抗体を、推奨された希釈率で直接用いることにより第3工程として行なった。2つの検出器間の蛍光シグナルの交差部の色補正を至適解析のために調整した。細胞を3回PBSで洗浄し、FACSバッファー(PBS中1%BSAおよび0.2%アジ化ナトリウム(natriumazide))中に106/mlで再懸濁させた後、細胞株の免疫蛍光解析を行なった。すべての染色工程は、氷上で行なった。種々の細胞を、一次抗体AC1、AB12(30μg/ml)またはCD55(Serotec, ウィースバーデン, 独国)とともに30分間インキュベートした後、FITC結合二次抗体とともにインキュベートした。細胞を3回FACSバッファー中で洗浄し、1%ホルムアルデヒドで固定した。PI−PLCによる切断に対する感受性を、以下に記載した細胞のインキュベーションにより評価した。細胞を洗浄し、記載のようにして染色し、フローサイトメトリーにより解析した。
【0072】
(Q)腫瘍組織および細胞株
ハイデルベルク大学の患者から切除した正常皮膚および皮膚メラニン細胞病変から代表的な組織試料を新たに得た。これらを液体窒素中でスナップ凍結し、切片作製まで−80℃で保存した。5μmクリオスタット切片を正常皮膚および異なる段階のメラニン細胞腫瘍進行を含む異なる皮膚腫瘍から切り出し、室温で一晩風乾し、試薬グレードの低温(−20℃)アセトンを含むCoplinジャー内で20分間固定した。次いで、スライドを室温で10分間乾燥し、染色チャンバ内でPBS、5%BSAとともに30分間インキュベートし、非特異的結合を排除し、次いで(than)、ACAに対する一次抗体(1:2000〜1:4000の希釈率)とともにインキュベートした。洗浄後、切片を、結合抗体(ビオチン化ウサギ抗マウス免疫グロブリン)、ストレプトアビジン−ビオチン複合体、増幅試薬およびストレプトアビジン−ペルオキシダーゼとともに逐次インキュベートした。結合したモノクローナル抗体を、赤色発色を生じるAECで検出した。切片をHarrisヘマトキシリンで対比染色し、最後に水性マウント培地に置いた。
【0073】
正常ヒト表皮メラニン細胞およびケラチノサイトをPromo-Cell(独国)から購入し、血清およびホルボールミリステート(myristat)アセテート(PMA)無含有メラニン細胞(ケラチノサイト)成長培地中で単層として培養した。免疫組織学的染色のため、細胞を、特別なチャンバ内で単層として成長させた。固定および染色は、前述の手順に従う。ヒト赤白血病(HEL)、ヒト細網肉腫(U937)、ヒト前骨髄性白血病(HL−60)およびヒト慢性骨髄性白血病(K562)細胞株を、2mMグルタミンおよび10%FBSを補充したRPMI 1640培養培地中で成長させた。細胞株の一色フローサイトメトリーを、上記の手順にしたがって行なった。
【0074】
実施例2: ACAの精製および精製ACAのアミノ酸配列決定
タンパク質の調製に2ステップ精製手順を適用した。第1工程は、ヘモグロビン無含有膜の破壊、続いて種々の飽和度の硫酸アンモニウムでの反復沈殿および調製用電気泳動(図2A)を含む。調製物の純度を、SDS−PAGE(図2、AおよびB)および等電点電気泳動(IEF)(図3、AおよびB)により評価した。調製物は、プールされたヒト赤血球の種々のバッチから得た。分解産物はいずれの調製においても同定されなかった。
【0075】
精製し、化学的に脱グリコシル化したACAを、N−末端アミノ酸配列決定に供した。配列が得られなかったことは、N−末端がブロックされていることを示す。したがって、タンパク質を不活化し、トリプシン処理し、11個の内部ペプチドについて配列を確立した(図4)。ペプチドAのみがスペクトリン(spectrin)の第1230〜第1248領域との相同性を示す。
【0076】
実施例3: ホスホリパーゼでの消化
さらに、このタンパク質、特にその脂質部分の生化学的特徴に着目し、これを、ヒト赤血球の表面上に発現されるいくつかの他のGPI結合分子と比較した。真核細胞の多くのタンパク質は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)への共有結合により膜にアンカーとして結合している。膜貫通ドメインを欠くこれらのタンパク質は、細胞質テイルを持たず、したがって、もっぱら原形質膜の細胞外側に位置する。グリコシル化ホスホイノシトールがアンカーされた分子は、構造が多様化した生体高分子のファミリーであり、このファミリーとしては、原生動物外被成分、活性化抗原、補体調節タンパク質、接着分子、膜結合酵素および多くの他の糖タンパク質が挙げられる。この型の細胞膜結合は、この抗原のタンパク質部分が、膜の外側に位置し、潜在的に高い側方移動度を有し、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)特異的ホスホリパーゼCの作用により細胞から放出され得ることを示唆する。GPIアンカーは、重要なエレメントが、原生動物寄生動物から哺乳動物までの広範囲の系統発生にわたって保存されるため、妥当に明確に定義づけられたクラスの構造とみなし得る。このアンカーは、エタノールアミン−PO4−6Manα1−2Manα1−6Manα1−4GlcNH2−α1−6myo−イノシトール−1−PO4−脂質の線状コアグリカン配列を含む。異なるGPIアンカー結合タンパク質間の不均一性は、主に、脂質組成物において生じる。VSGアンカーは、ジミリストイルホスファチジルイノシトールのみを含み、一方、リーシュマニアプロマスティゴート表面プロテイナーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼ(AchE)、崩壊促進因子(DAF)および反応性溶解の膜インヒビター(MIRL)のような赤血球上のものを含む多くの哺乳動物GPIアンカー結合タンパク質は、ほぼ排他的に1−アルキル−2−アシルイノシトールリン脂質(これは、一般的にヒトアンカーの特徴であると思われる)を含む(Ratnoffら, Clin. Exp. Immunol. 87 (1992), 415-421)。また、いくつかのGPIアンカーは、さらなる脂肪酸(パルミテート)を、イノシトール環にヒドロキシルエステル結合した状態(これにより、Trypanosoma brucei由来の細菌性ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI−PLC)およびGPI特異的ホスホリパーゼ(GPI−PLC)の作用に抵抗性となる)で含有する。このホスホリパーゼ抵抗性の理由は、最初にヒト赤血球アセチルコリンエステラーゼについて、その後、ヒト赤血球崩壊促進因子について記載された。イノシトール環の2位における置換の存在により、パルミトイル化アンカーのPI−PLC抵抗性が説明され得る。というのは、細菌PLC酵素が、イノシトール環の2位のヒドロキシル基によるリン原子の求核性攻撃により機能を果たすからである。この所見により、パルミテートによるmyo−イノシトールの2位のヒドロキシル基の占有が、自動的に、この酵素の作用を排除し得るという示唆がもたされた。DAFおよび他のいくつかのGPI結合タンパク質について示されたように、これらは、示差的イノシトールアセチル化を示し得、この構造バリエーションは、細胞特異的な様式で調節されるが、同時にタンパク質依存性でもあり得る(Chenら, PNAS USA 95 (1998), 9512-9517)。異なる血球型間でのGPIアンカー構造の多様性の生物学的関連は、完全に理解されていないままである。疎水性ドメイン内におけるさらなる脂肪酸鎖の存在(アシル化)は、おそらく、膜の外部リーフレットへの分子の結合を改善する。この赤血球結合アンカーにおけるイノシトール環上のアシル鎖の存在により、これらの構造を、精製したとき、PI−PLCによる切断に対して抵抗性となり、PI−PLD切断に対しては感受性が低くなる。ホスファチジル特異的ホスホリパーゼCの細胞溶解機構をブロックすること、またはアンカー特異的ホスホリパーゼDによるホスファチジル酸の切断後の膜結合を維持することのいずれかによる、ホスホリパーゼにより解除(release)される抵抗性は、これらのタンパク質の膜安定性を経時的に増強し得、これは、白血球と比べ、循環系における赤血球の寿命が長い(120日)ことと一致する。
【0077】
以下の実験は、主に、ACAの脂質構造の一次構造および分子パラメータを決定するため、およびこれらのパラメータを他のGPI結合タンパク質のものと比較するために行なった。細菌性ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼ(PI−PLC)による膜表面からの放出に対するタンパク質の感受性は、GPIアンカーの存在に対する独自の指標である。しかしながら、既に先に記載したように、一部のGPIアンカーは、赤血球膜タンパク質などの細菌性PI−PLCによる加水分解に対して抵抗性であり、この抵抗性は、イノシトール環上のさらなるアシル化に依存する。
【0078】
ACAが、グリコシルホスファチジルイノシトールへのC末端アミノ酸残基の共有結合による膜二重層内にアンカーとして結合しているか否かを調べるため、ホスファチジルイノシトールのホスホジエステル結合の特異的加水分解を、異なるアンカー分解酵素を用いて調べた。最初に、PI−PLCの赤血球膜タンパク質画分に対する影響は、非常に弱い電気泳動バンド(これは、後に、新規なヒト赤血球タンパク質として同定された)の消失をもたらすことが観察された。赤血球の表面上におけるこのタンパク質の存在量は非常に少ないため、この分子の脂質部分を、精製タンパク質にてさらに解析した。ホスホリパーゼCは、ホスホジエステル結合を加水分解し、1,2-ジアシルグリセロール、アルキルアシルグリセロールおよびリン酸化極性ヘッド基を生じ、一方、ホスホリパーゼDは、ホスホジエステル結合を加水分解し、リン酸化1,2-ジアシルグリセロールまたはアルキルアシルグリセロールおよびヒドロキシル基が露出した極性ヘッド基を生じる。図5Aに示すように、アンカー分解ホスホリパーゼに対する抵抗性が維持されたACAタンパク質の部分はなかった。天然のインタクトなタンパク質は、低速移動を示し、これは、界面活性剤ミセル会合を示す。PBC ACAのPIおよびGPI−PLC加水分解タンパク質は、界面活性剤無含有親水性種に特徴的な、より高速の移動を示した。
【0079】
グリコシル−ホスファチジルイノシトールホスホリパーゼDで処理したACAタンパク質は、天然タンパク質と比べると、電気泳動移動度の変化を示さない(図5B)。GPI−PLDで消化したタンパク質の電気泳動移動度が、GPI−PLCで消化したものと比べて低いことは、分解されたタンパク質のイノシトール環上にリン酸基(負電荷)がないことによる。
【0080】
実施例4: ACA上の交差反応決定基(CRD)エピトープの存在
可溶性形態のバリアント表面糖タンパク質(sVSG)に対して惹起させたポリクローナル抗体は、他の無関連GPIアンカータンパク質と交差反応する。この「交差反応決定基」(CRD)は、タンパク質が、細菌PI−PLCまたは真核生物GPI−PLCのいずれかの作用により親水性形態に変換されたときのみ露出される。可溶性形態のバリアント表面糖タンパク質(sVSG)の場合、3つの重複エピトープ、アンカーのホスホリパーゼC切断時に生じたイノシトール1,2-環状ホスフェート、非アセチル化グルコサミン残基および可変ガラクトース分枝が、この認識に関与する。また、哺乳動物タンパク質について、この認識に関与する主要エピトープがイノシトール1,2-環状ホスフェートであることが知られている。したがって、抗CRD抗体によるホスホリパーゼC切断後のタンパク質の認識は、GPI−アンカーの存在の最も強力な証拠である。次の一連の実験において、抗CRD抗体が可溶性形態の単離ACAタンパク質を認識するか否か調べようとした。ここに示すように、ヒト赤血球ACAは、ホスホリパーゼCの作用に対して>99%PI−PLC感受性を示す。グリコシルホスファチジルイノシトールホスホリパーゼCで消化したタンパク質を電気泳動させ、次いで(than)、抗CRD抗体を用いてウエスタンブロットに供した(図6)。陽性対照として、膜形態のバリアント表面糖タンパク質(mVSG)を、同じアンカー分解ホスホリパーゼで消化した。陰性対照として、天然型のACAおよびGPI−PLD切断タンパク質を同時にブロットし、抗CRD抗体で標識した。GPI−PLD切断分子は、抗CRD抗体と反応せず、これは、この酵素が、ホスホジアシルグリセロールおよび1,6 myo−イノシトールを反応生成物として生成させ、D−myo−イノシトール1,2−環状ホスフェートの形成を妨げることによりCRD抗原決定基を破壊することを示す。また、膜形態のACAを陰性対照として用いたが、予期した通り、抗CRD抗体により認識されなかった。
【0081】
実施例5: ACAアンカーの脂質置換基の同定
PI−およびGPI−PLCで消化した精製タンパク質を、トリアシルグリセロールアシル−ヒドロラーゼでさらに加水分解し、1,2ジグリセリドおよび脂肪酸を第1反応生成物として得た後、カルボン酸エステルヒドロラーゼ(可溶性グリセリドの特異的切断により完全加水分解を加速する酵素)により、グリセロールおよび脂肪酸を最終反応生成物として得た。次いで、グリセロールを、GK、PKおよびLDHを補助酵素および支持酵素として用い、酵素的に測定した。ACAアンカーの脂質テイルの完全加水分解をもたらす、すべての酵素反応およびグリセロールの測定のための酵素反応のスキームの概略を図1に示す。NADHの酸化による340nm、334nmおよび365nmにおける吸光度の減少を測定し、放出されたグリセロールをg/lで算出した。PIおよびGPIホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼによる加水分解、次いで特異的脱アセチル化により放出されたグリセロールの量は同程度であり、これは、ACAにおける両酵素の比活性が同じであることを示す(表I)。
【0082】
【表1】
【0083】
データは、ACA脂質テイルの完全加水分解後に放出されたグリセロールの量を示す。
【0084】
赤血球ACA内の疎水性ドメインの構造、特に脂肪酸組成をさらに調べるため、生成した断片を、アンカーの完全加水分解により解析した。使用した光活性化試薬[125J]TIDは、膜の脂質相に強く有利に分配されることが示された光生成カルベンであり、高度に選択的な様式で固有膜タンパク質の脂質基を標識する。[125J]TID標識された精製タンパク質の試料を、GPI−ホスホリパーゼCでの加水分解に供した。これらの反応の脂質生成物を、高度に特異的なリパーゼであるトリアシルグリセロールアシルヒドラーゼおよびカルボン酸エステルヒドラーゼで、実験手順に記載のようにして、さらに加水分解した。放出された放射性標識断片を抽出し、薄層クロマトグラフィーおよびオートラジオグラフィーにより解析した。trypanosoma brucei由来の膜形態のバリアント表面糖タンパク質(mfVSG)を、[125J]TID標識し、ACAと同様にして加水分解し、対照として薄層クロマトグラフィーに供した(図7)。
【0085】
ACAのアンカーの完全加水分解により得た主要な脂質種は、市販のVSGの標識脂肪酸テイルと同じ移動度を示し、これは、同じ1,2−ジアシルミリステート構造を示すが、アルキルアシルグリセロールおよび分子の脂質テイルとして異なる脂肪酸を有する他の赤血球GPI結合タンパク質とは異なる。
【0086】
実施例6: ACA特異的抗体の生成およびその赤血球における発現の検出
6匹のBALB/cマウスの免疫化に必要な大量のタンパク質を得るための精製方法を、標準プロトコルにしたがって確立した。この新規分子の理解を深めるため、まず、マウスポリクローナル抗体を作製し、その特異性を、粗製タンパク質抽出物、精製タンパク質、赤血球膜および細胞無含有抽出物の異なる試料を用いて試験した。ポリクローナル抗体の特異性は、種々のタンパク質画分を用い、ウエスタンブロットにおいて試験した。実施例1に記載のようにして赤血球膜から得た硫酸アンモニウムタンパク質抽出物を、保存バッファーに溶解し、同じバッファーに対して透析し、還元SDS−PAGEに供した。均一に精製したACAタンパク質および赤血球ゴーストから得たタンパク質抽出物およびヒト赤白血病細胞株(K−562)から得たゴーストを、SDS−PAGEに供し、次いで、ニトロセルロース膜に写した。ポリクローナルマウス血清は、ACAタンパク質に相当する65kDバンドと特異的に反応した(図8)。他のタンパク質との反応は観察されなかった。赤血球の粗製タンパク質抽出物の弱いバンドは、ヒト悪性血球と比較すると、この新規抗原に対して高特異性の抗体、および赤血球の原形質膜においてこの分子の非常に低い存在量を示す。
【0087】
実施例7: 末梢血球におけるACAの発現
種々の末梢血球におけるACAのインビボ発現を調べるため、フローサイトメトリー、およびACAタンパク質に指向されたモノクローナルAb(AC1およびAB12)ならびにポリクローナル抗体AL1を用いたイムノブロット解析を行なった。結果を、図9(a〜f)および図16(a,b)に示す。両方のモノクローナル抗体が、顆粒球、単球およびリンパ球の小数の亜集団と強く反応することがわかり、これは、これらの細胞におけるACAの発現を示す。20例の健常志願者の解析で得られた各集団における陽性細胞の割合を、図10に示す。
【0088】
実施例8: ACAのGPI−アンカー
ACAが膜脂質二重層に埋込まれた形態を調べるため、GPIアンカーを加水分解し、かつGPI結合タンパク質を細胞膜から除去する酵素であるホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI−PLC)での処理後に、健常志願者由来精製顆粒球およびリンパ球を解析した。1時間のPI−PLCへの曝露後、顆粒球はACA陰性となり、GPIアンカータンパク質の存在が認められた。顆粒球のPI−PLC処理の代表的なヒストグラムを図11bに示す。さらなる陰性対照を、精製顆粒球において、グリコシルホスファチジルイノシトールホスホリパーゼD(PI−PLD)を用いて行なった。この酵素は、GPI結合タンパク質と、イノシトール環がアセチル化(多くのタンパク質をPI−PLCの作用に対して抵抗性にする化学修飾)されたものとさえ反応することが知られている。しかしながら、この酵素は、インタクトな膜由来のGPIアンカータンパク質を可溶化することができないが、この膜由来のタンパク質が可溶化されたとしても、これらをそのアンカーから分離するにすぎない。健常ドナー由来の顆粒球をGPI−PLDで処理すると、予期した通り、ACAは、細胞表面から除去されなかった(図11c)。対照実験において、PI−PLCでの消化を、培養ヒト赤白血病(HEL)細胞株において行ない、ACAおよびGPIアンカーDAFタンパク質(CD55)の発現をモニターした。HEL細胞は、顆粒球で使用したものと同じ反応条件下におけるPI−PLCの作用後、ACA−およびCD55−陰性になる(図11d〜f)。
【0089】
実施例9: ACAは、末梢B細胞において発現する
図9に示すように、リンパ球の亜集団のみがACAを発現する。当該亜集団を特定するため、ACAの発現を精製末梢血Bリンパ球で解析した。第1の実験では、B細胞を健常ドナーからロゼット法により単離した。ACA特異的モノクローナル抗体を用いた一色解析において、単離細胞の90%超が、このタンパク質の発現を示した(図12a)。顆粒球の消化で用いたものとは若干異なる反応条件下で、PI−PLCを有する細胞の表面からACAを一部除去した。界面活性剤Triton X-100を酵素溶液に添加し、その比活性を増大させた。ACA抗体による染色は顕著に低下し、これは、この抗原もまたホスファチジルイノシトール(PI)に結合していることを示す(図12b)。しかしながら、より高濃度のPI−PLCでの処理は、ACA抗体の結合のさらなる減少をもたらさず、これは、すべての分子がこの酵素に対して感受性であるわけではないことを示す(図12b)。精製Bリンパ球の二色解析は、すべてのCD19およびCD20陽性細胞がACA陽性であったことを示し(図12c〜e)、末梢血リンパ球は、細胞の約10〜15%が、CD19、CD20およびBリンパ球亜集団に相当するACAを同時発現することを示す(図12f〜h)。
【0090】
実施例10: EBV形質転換された正常Bリンパ球および発作性夜行性血色素尿症(PNH)Bリンパ球におけるACAの発現
EBV形質転換された正常Bリンパ球およびPNH患者Bリンパ球におけるACAの発現をさらに解析した。発作性夜行性血色素尿症は、欠陥性GPIアンカータンパク質により引き起こされる補体媒介性溶血性貧血を特徴とする後天性の血液学的障害である。一色フローサイトメトリーにおいて、EBV形質転換されたPNH Bリンパ球は、抗ACA抗体を用いると、健常志願者から得たEBV形質転換Bリンパ球の場合(図13a)と比べ、有意に低減された蛍光を示す(図13b)。
【0091】
実施例11: ACAはT細胞において発現されない
T細胞におけるACAの発現を、ACA特異的抗体を用いた精製末梢血Tリンパ球の二重染色により解析した(図14)。T細胞を、材料および方法に記載のようにして末梢血から単離し、典型的なT細胞マーカー(CD3、CD4およびCD8)で二重染色した。精製Tリンパ球のうち95%超がACA陰性であった(図14a〜d)。さらに、PBMCの二色解析により、以前のデータを確認した。CD2およびCD5などの典型的なT細胞マーカーを発現する細胞は、ACA陰性であった(図14e〜h)。さらにまた、γδT細胞亜集団ですらACA陰性であった(図14f)。PNH患者から得たGPI陽性およびGPI陰性T細胞クローンを、二色フローサイトメトリーにより解析した。GPI結合CD48抗原を発現する細胞でさえ、完全にACA陰性であった。代表的なヒストグラムを図15a、b、cに示す。さらに、T細胞起源の悪性種由来の種々の細胞株(MOLT4、CEM、JURKAT J6)を解析した。これらは、いずれもACAの表面発現を示さなかった(図15d〜f)。この所見により、本発明者らは、ACAはB細胞において排他的に発現されると結論づけた。
【0092】
実施例12: 赤血球、顆粒球およびB細胞の可溶化膜におけるACAの検出
種々の末梢血球から得た可溶化ACAを、電気泳動により分離し、ニトロセルロースに写した。次いで、フィルターを抗ACA抗体で検索した。抗体は、可溶化された顆粒球およびB細胞において、ACAに相当する65kDのタンパク質を認識した(図16a)。さらにまた、ACAタンパク質は、PI−PLCでの処理後に顆粒球培養物の上清みにおいて免疫学的に検出されたが、処理前には検出されなかった(図16b)。赤血球におけるACA発現に関するフローサイトメトリーで得られた陰性結果(これらの細胞における該分子の非常に低い存在量を反映する所見)とは対照的に、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を用いたイムノブロッティングは、赤血球におけるACAの存在を明白に示す(図16)。
【0093】
実施例13: ACAは、黒色腫細胞および一部の白血病細胞において過剰発現される
癌発生中の特異的シグナル伝達経路におけるACAの考えられ得る役割を明らかにするため、広範な一連の良性および悪性細胞病変およびその転移を、ACAの発現および分布について調べた。
【0094】
結果
(A)正常皮膚におけるACAの分布
休止メラニン細胞における弱いACA発現
ACAは、正常皮膚の基底層全体に散在するメラニン細胞において発現される。基底層上部のランゲルハンス細胞(単球由来!)は染色されるが、程度は少ない(図17a、b)。
【0095】
分裂中のメラニン細胞における強いACA発現
メラニン細胞は、ACAに対するモノクローナル抗体により不均一に染色される。最も高いACA発現は、細胞が分裂したとき、すなわちG2期から有糸分裂に進行するときに見られた(図18a,b)。
【0096】
ケラチノサイトにおいてACA発現はない
始原ヒト表皮ケラチノサイトおよびケラチノサイト細胞株(HaCaT細胞)(ドイツ癌研究センターのFusenig教授よりご提供頂いた)は、免疫細胞学的染色(図19a、b)またはウェスタンブロッティング(図19c)においてACAの発現を示さない。
【0097】
(B)皮膚新生物におけるACAの発現
先天性母斑の分裂メラニン細胞における強いACA発現
基底表皮層およびその上部の先天性母斑メラニン細胞は、ACAに対する抗体と強く反応する。大きな先天性母斑の3分の1が、いわゆる増殖節に相当する、かなり色素沈着した細胞の小クラスターにおいてACAを発現した。真皮層内の同じ細胞型(主に、非分裂メラニン細胞!)は、染色されなかった。これらの結果は、分裂細胞におけるACAの優先的発現に関する以前の所見を確認するものであり、転移潜在性を有する細胞は、最高のACA発現を有することを示す(図20)。
【0098】
黒色腫細胞における強いACA発現
ACAの発現は、始原転移黒色腫において高度にアップレギュレーションされる(図21a、b)。したがって、ACAに対する抗体を黒色腫の転移の検出に使用することができる(図22a、b)。
【0099】
ACAは、基底細胞癌腫および有棘細胞癌腫においては発現されない
ACAの発現は、メラニン細胞病変および黒色種病変に特異的である。基底細胞癌腫および有棘細胞癌腫などの他の型の皮膚腫瘍は、ACA陰性である(図23a、b)。
【0100】
イムノブロッティングにより、黒色腫において高ACA発現が認められる
ACAに対するモノクローナル抗体を用いたホモジナイズした正常皮膚および黒色腫腫瘍組織のイムノブロット解析により、抗体の特異性、および正常組織と比べたときの黒色腫におけるこのタンパク質の発現増加が認められる(図24)。
【0101】
(C)他の腫瘍におけるACAの発現
ホモジナイズした新たな腫瘍組織のイムノブロット解析により、腎臓癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、黒色腫および骨髄腫におけるACA抗原の発現が示される(図25)。
【0102】
(D)造血細胞におけるACAの発現
ACAは正常ヒト前駆細胞において発現される
種々の細胞マーカーを用い、ACA同時発現に関して実施例1で記載した一色または二色フローサイトメトリーにより、精製骨髄前駆細胞調製物を解析した。図26b〜dは、本試験(CD34/CD38、CD34/CD90、CD34/CD117の同時発現)で用いた前駆細胞集団を解析したものである。図26e〜hは、CD34/CD38−、CD34/CD90−、CD34/CD117−、CD34/HLA−DR−陽性細胞におけるACAの同時発現を示す。図26j〜lは、以下の細胞マーカー:CD13(骨髄系マーカー)(図26j)、CD33(汎骨髄系マーカー)(図26k)、CD34(造血前駆細胞マーカー)(図26l)とのACAの同時発現を示す。図26a、iは陰性対照を示す。
【0103】
ACAは白血病細胞において発現される
一色フローサイトメトリーのヒストグラムは、ヒト赤白血病(HEL)(図27a)、ヒト前骨髄性白血病(HL−60)(図b)およびヒト慢性骨髄性白血病(K−562)(図27c)におけるACAの発現を示す。ヒト白血病細胞株の細胞無含有抽出物の抗ACA抗体を用いたイムノブロット解析により、ACA発現が認められ、ACAが、赤血球について初めに記載されたものと同じ分子サイズを有することが示される(図28)。
【0104】
発作性夜行性血色素尿症(PNH)患者由来の顆粒球におけるACAの発現
ACAは、PNH顆粒球において発現されるが、PNH Bリンパ球においては発現されないが、正常B細胞は、このタンパク質を発現する。PNHは、補体媒介性溶血、欠陥性造血および偶発する白血病を特徴とするクローン幹細胞障害である。PNHにおける生化学的障害は、GPIアンカーの欠陥性合成を伴う。この欠陥の結果、罹患細胞は、補体調節に関与するタンパク質、免疫学的レセプター、酵素および機能が未知のいくつかのものを含む、GPI結合を利用するすべての表面タンパク質を欠く。
【0105】
PNHに見られる分子欠陥は、GPIアンカー生合成の第1段階に関与するX連鎖遺伝子であるPIG−Aにおける1つ以上の後天的変異によるものである。ACAの異常発現パターンがPNH血球に見られた。PNH患者のEBV形質転換Bリンパ球は、劇的に低下したACA発現を有するが、PNH顆粒球は、この抗原の正常表面発現を示す(図29)。
【0106】
代表的なヒストグラムは、
PNH顆粒球におけるACAの正常表面発現(図29a、b)、
健常ドナー(レーン1)とPNH患者(レーン2)から得た顆粒球膜タンパク質画分の抗ACA抗体を用いたイムノブロット解析(図29c)、
ホスホリパーゼCでの処理の前と後でのPNH顆粒球膜タンパク質画分の抗ACA抗体を用いたイムノブロット解析(図29d)、
健常人(図29e)およびPNH患者(図29f)由来顆粒球の上清み液におけるACAの可溶性形態
を示す。
【0107】
PNH顆粒球におけるACAの存在は、おそらく、PIG−A変異に関連しない異常PNH顆粒球のいくつかの性質を説明し得る。これまで、異常PNH細胞は、骨髄および末梢血内でクローン優位を成すことが観察されている。PNHの患者の多くにおいて、その循環顆粒球および赤血球の80%超がGPI欠陥性であり、これは、異常PNHクローンが、正常前駆体よりも有利な成長を有することを示す。また、PNH細胞は、アポトーシスに対して相対的に抵抗性であり、この特徴は、PNH細胞が正常前駆体よりも成長の有利性を維持する主な機構であると思われ、この疾患がより攻撃的な血液学的障害に変換される傾向において、ある役割を果たし得る。細胞増殖を増強するシグナル、または、アポトーシスをブロックし、細胞の生存を増強するシグナルにより、非調節クローン成長が起こり得る。PNH顆粒球におけるACAの存在は、この増殖有利性を変異造血幹細胞に付与し得、白血病の発症に、ある役割を果たし得る。
【0108】
PIG−A変異にもかかわらず、ACAは、どのようにPNH顆粒球の表面上に発現され得たのであろうか。GPIアンカータンパク質がある細胞膜から別の細胞膜に移動する独自の潜在性は、既に示されている。GPIアンカータンパク質は、インタクトで機能性のまま移動することが示された。この現象の示唆は、疾患伝染(プリオン)、細胞保護(内皮細胞)または細胞表面のタンパク質工学(これは、遺伝子導入なしで細胞の表面タンパク質組成を操作し得る潜在的に効果的な技術である)を含む多くの領域に存在する。この観察は、GPI結合タンパク質が細胞上に「ペイント」される潜在性を示す(ペイントされない場合は、細胞は、外因性タンパク質を発現することができない場合がある)。また、アンカーを合成することができ、ACAの既に示された機能による別の細胞(おそらく、幹細胞!)からPIG−A変異PNH細胞内へのACA「ペイント」は、PNH顆粒球について既に記載したすべての異常性の原因であり得る可能性がある。
【0109】
正常皮膚および黒色腫におけるACAの発現は、同じ現象を示す。正常皮膚において、ACAは、基底層全体に散在するメラニン細胞において発現され、程度は少ないが、基底層上部においても発現される。ランゲルハンス細胞(単球由来!)において予期した発現は見られたが、抗ACA抗体のケラチノサイトとの別の反応(「消失性」)も見られた。培養中のケラチノサイトは、抗ACA抗体との反応を示さない。また、抗ACA抗体を用いたケラチノサイトのイムノブロット解析は陰性であった。これらのデータは、ACAが、おそらく、別の細胞から移動してきてケラチノサイト上にペイントされることを示す。抗ACA抗体で染色した始原黒色腫および黒色腫転移の凍結切片は、このタンパク質の非常に強い発現、および正常皮膚でも見られた同じ「消失性」を示す。
【0110】
先天性母斑は、基底膜よりもメラニン細胞においてACAの強い発現を示し、この場合もこの「消失性」現象を伴う。これらのすべてのデータは、ACAの細胞間の移動を可能にする一般的機構が存在することを強く示唆する。ACAが脂質テイルとしてジアシルミリステート(myristat)(DAG)(一部のプロテインキナーゼの強力なアクチベーターかつDNA合成のスティミュレーターとして知られる分子)を有するアンカーを有することを考慮すると、悪性黒色腫細胞(おそらく、アンカー上にいくらかの改変を伴っている!)から移動してくるACAが、制御されない成長に寄与する新しいメラニン細胞内に組み込まれるということが起こり得る。皮膚における転移の発生が極めて短期間であることは、ACAタンパク質のこの能力により説明され得る。
【0111】
実施例14: O−およびN−グリコシル化は、異なる分子量形態のヒト糖タンパク質ACAをもたらす
2つの異なる分子形態のACAの単離および精製は、既に実施例1(A)に記載のようにして行なった。
【0112】
電気泳動法は、実施例1(B)に記載のようにして行なった。
【0113】
2つのACAタンパク質による放射標識は、実施例1(K)に記載のようにして行なった。
【0114】
68kDおよび65kDの分子量形態のACAを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)は、実施例1(L)に記載のようにして行なった。
【0115】
ACAタンパク質のイムノブロッティングは、実施例1(G)に記載のようにして行なった。簡単には、均一に精製したタンパク質を、還元条件下、8.5%SDS−PAGEにて電気泳動させた。ブロッキングした後、均一に精製した65kD ACAに対して惹起させたマウスポリクローナル抗体に抗原を曝露した。洗浄後、結合した抗体を、ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体とのインキュベーションにより検出した。
【0116】
グリコシダーゼ処理:
シアリダーゼ処理では、40mM Tris−HCl;4mM CaCl2;pH7.8中の精製タンパク質10μgを、Vibrio cholerae(100mU)由来シアリダーゼ100mUとともに、37℃で16時間インキュベートし、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。
【0117】
ペプチド−N−(アセチル−βグリコサミニル)アスパラギンアミダーゼF(PNGアーゼF)処理では、100mMリン酸ナトリウムバッファー;25mM EDTA;pH7.2中の精製タンパク質10μgを、Flavobacterium meningosepticum由来PNGアーゼF 25mUにより37℃で16時間処理し、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。ポリペプチドに結合したN−グリカンの数を推測するため、経時的なPNGアーゼF加水分解を行ない、完全脱グリコシル化(declycosilation)を示す一定分子量が観察されるまで延長した。未処理タンパク質と完全脱グリコシル化タンパク質との間のSDS−PAGE上のバンドの数は、元の糖タンパク質上のN−グリカンのおよその数を示す(Alexander, SおよびElder, J (1989) Methods Enzymol. 179, 505-518)。
【0118】
エンドグルコサミニダーゼH処理では、0.01mg/ml SDSを含有する50mMリン酸ナトリウムバッファー;pH6.0中の精製タンパク質10μgを、合計容量0.1mlで、エンドグルコサミニダーゼH 5mUとともに、37℃で16時間インキュベートし、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。
【0119】
O−グリコシダーゼ処理では、100mM酢酸ナトリウムバッファー;pH5中の精製タンパク質10μgを、最終容量200μlで、後に、O−グリコシダーゼ5mUとともに、37℃で17時間インキュベートし、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。
【0120】
酵素による完全な脱グリコシル化では、タンパク質を、既に記載のようにして、後に、適切なバッファー中でシアリダーゼとともにインキュベートし、酢酸ナトリウムバッファーpH5.0に対して徹底的に透析し、O−グリコシダーゼとともにインキュベートし、100mMリン酸ナトリウムバッファーpH7.2に対して再度透析し、既に記載のようにして、PNGアーゼFとともにインキュベートした。
【0121】
ACAタンパク質の化学的脱グリコシル化は、実施例1(D)に記載のようにして行なった。
【0122】
結果:
2つの異なる分子量形態のヒト赤血球ACAの単離および精製
2つの異なる分子量形態を単離した。精製ACAタンパク質の電気泳動は、赤血球ACAが、65kD(主要形態)および68kDのタンパク質として存在することを示す(図30)。0.5%NaH CO3中1mg/mlの2つの単離されたタンパク質のUVスペクトルを、同じバッファーに対して、ベックマン分光測光器にて読み取ると、両方の単離された種が高純度であることが示される(図31aおよびb)。
【0123】
抗ACAポリクローナル抗体を用いた精製ACAタンパク質のイムノブロッティング: ウェスタンブロッティングを実施例1(G)にしたがって行なった。両方の分子形態のACAタンパク質は、均一に精製した65kDタンパク質に対して惹起させたマウスポリクローナル抗体により認識され、これは、程度の異なるグリコシル化がACAの微小不均一性をもたらし得ることを示す(図32)。
【0124】
アンカーの加水分解により生成した断片のシリカTLC解析: [125I]TID標識された精製タンパク質の試料を、GPI−PLCにより加水分解した。この反応の脂質生成物を、高度に特異的なリパーゼで、さらに加水分解した。放射性標識断片を抽出し、TLCにより解析した(実施例1(K)および(L)参照)。データは、赤血球ACAの両方の分子形態が、T. bruceiのmVSGのものと非常に類似の構造であるジアシルミリステートからなるPI−PLC感受性アンカーを有することを示す。
【0125】
ACAタンパク質の酵素による脱グリコシル化: 精製した65kDおよび68kDのタンパク質を、すべての型のアスパラギン結合N−グリカン(ただし、アミノ基およびカルボキシル基がペプチド結合中に存在するものとする)を切断することが知られた酵素であるPNGアーゼFで消化した。両タンパク質を用いた経時実験は、試料糖タンパク質と結合したN−グリカン鎖の数を推測するために行なう。続いて、両タンパク質を、25mUの酵素とともにインキュベートし、0.5、1、1.5、2、5.0時間後にアリコートをSDS−PAGEにて解析した。未処理タンパク質と完全脱グリコシル化タンパク質との間のSDS−PAGE上のバンドの数は、元の糖タンパク質上のN−グリカンのおよその数を示す。結果は、65kDタンパク質上に1つのN−グリカン鎖が存在するのに対し、68kDタンパク質が2つのN−グリカン鎖を有することを示す(図34)。
【0126】
続く65kD ACAの酵素による脱グリコシル化: 続くACA 65kD赤血球ACAのシアリダーゼ、O−グリコシダーゼおよびPNGアーゼFとのインキュベーションは、SDS−PAGEで測定すると約59kDの分子量を有するACAの単一タンパク質種をもたらした。O−およびN−結合炭化水素鎖を非選択的に除去する無水TMSFを用いた化学的脱グリコシル化により同じ結果が得られた(図35)。
【0127】
グリコシダーゼ消化実験は、ヒト赤血球ACAの分子不均一性が、主にN−グリコシル化の差によるものであることを明白に示す。この結果により、ヒト赤血球ACA(65kD)が、そのペプチド骨格に共有結合した複合体N−グリカンを1つ有し、一方、68kDヒト赤血球ACAは、複合体N−グリカンを2つ有すると結論付けることができる。データはまた、ACAタンパク質が、そのポリペプチド骨格の表面上に共有結合したO−およびN−グリカンを含有する、強固に末端にシアリル化されたGPI結合表面抗原であることを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アセチル化イノシトール環およびアンカー(anchor)の脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられるGPIアンカーを有するGPIアンカー表面糖タンパク質に関する。本発明の特定の糖タンパク質、ACAは、黒色腫細胞、いくらかの白血病細胞および他の腫瘍細胞において強く発現され、従って上記腫瘍の診断の有用なマーカーである。本発明はまた、ACAの生物学的活性と実質的に同じスペクトラムを有するACAの塩、機能性誘導体および活性な画分に関する。本発明はまた、組換えDNA技術によるACAの精製方法、そのクローニング方法およびその産生方法に関する。さらに、抗-ACA-抗体またはACA-mRNAにハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドプローブを含有する診断組成物、およびACAの発現またはそのタンパク質の活性を低減しうる化合物を含有する医薬化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍形成は、遺伝子変化および環境因子が細胞増殖および分化を制御する細胞プロセスを規制撤廃すると考えられる複雑な多段階プロセスを表す。黒色腫は、世界中で最も一般的な癌の1つであり、黒色腫患者の死亡率は昨年230%増大した。このタイプの癌の診断およびモニタリングは、疾患の不均一性のために困難である。診断のために、種々の等級の悪性度がGleason-Score診断に従って区別される。この診断のために、組織サンプルがバイオプシーにより患者から採取され、組織の形態学が調査される。しかし、このアプローチは、病理学者の経験に依存する主観的な結果のみを生じる。要約すると、不幸なことに、現在使用されている診断方法は、特異性の欠如のために非常に感度が低く、しばしば偽陽性結果を生じる。さらに、現在の診断方法を使用することにより、悪性度の等級、腫瘍の進行およびその転移の可能性に関して何ら結論は導き出され得ない。従って、信頼できる診断用の分子マーカーの使用は、腫瘍、例えば、黒色腫の分子基礎の理解、良性組織と悪性組織との区別、および癌腫の等級付けおよび段階付け、特に非常に悪い予後を有する転移性黒色腫を有する患者の役に立ちうる。特に黒色腫の微小癌組織の転移に関する診断マーカーを有することは非常に役立ち、これは単一腫瘍患者における転移パターンに関する情報を提供する。これは診断を改善し、最適な化学療法の選択を可能にする。かかるマーカーは現在まで記述されていない。かかるマーカーは癌治療のための新規治療手段の開発に有用であることが予想されうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の基礎となる技術的課題は、先行技術の診断方法の不利な点を解消する癌の診断手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕以下の特徴:
(a)細胞表面にGPI-アンカーされている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から分離されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる、
を含む表面糖タンパク質、
〔2〕以下のさらなる特徴:
(d)pH 5.5の等電点を有する;
(e)前駆細胞、顆粒球、単球、B-細胞(T-細胞上にはない)、メラニン細胞、および他の細胞上に存在する;および
(f)細胞分裂の間および腫瘍細胞に優先的に発現される;
により特徴づけられる表面糖タンパク質ACA、またはその塩、機能性誘導体または活性な画分である〔1〕記載の表面タンパク質、
〔3〕(a)細胞を単離し、溶解すること;
(b)前記細胞のヘモグロビン遊離膜を単離、破壊およびペレット化すること;
(c)硫酸アンモニウムでの再懸濁した膜を繰り返し脱塩すること;
(d)工程(c)で調製されたタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)タンパク質のゲルバンドを短縮すること
によりヒト血液から得られうる〔2〕記載の表面糖タンパク質ACA、
〔4〕還元条件下でSDS PAGEに供された場合、約65または68kDの分子量を有する〔2〕または〔3〕記載の表面糖タンパク質ACA、
〔5〕以下のアミノ酸:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T
の少なくとも1つを含む〔2〕〜〔4〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACA、
〔6〕血液細胞から単離される〔2〕〜〔5〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACA、
〔7〕(a)ヒト血液から細胞を単離し溶解させる工程;
(b)該細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、破壊し、ペレット化する工程;
(c)硫酸アンモニウム(70%;40%)で再懸濁した膜の脱塩を繰り返す工程;
(d)工程(c)において沈殿したタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)65または68kDタンパク質のゲルバンドを単離する工程
を含む表面糖タンパク質ACAの単離方法、
〔8〕〔7〕記載の方法により産生された表面糖タンパク質ACA、
〔9〕組換えタンパク質である〔1〕〜〔6〕いずれか記載の表面糖タンパク質、
〔10〕哺乳動物細胞において産生される〔9〕記載の表面糖タンパク質、
〔11〕〔2〕〜〔7〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACAまたはその機能性誘導体もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を含有してなり、該表面糖タンパク質ACAが以下のアミノ酸配列:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
の少なくとも1つを含む、核酸分子、
〔12〕ヌクレオチド配列がゲノムDNA配列またはcDNA配列である〔11〕記載の核酸分子、
〔13〕〔11〕または〔12〕記載の核酸分子を含有してなる発現ベクター、
〔14〕〔12〕記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞、
〔15〕哺乳動物宿主細胞である〔14〕記載の宿主細胞、
〔16〕(a)適切な培養培地中で〔14〕または〔15〕記載の形質転換宿主細胞を培養する工程;および
(b)細胞または培養培地からタンパク質を単離する工程
を含む、表面糖タンパク質ACAの製造方法、
〔17〕〔1〕〜〔6〕または〔8〕〜〔10〕いずれか記載の表面糖タンパク質に対する抗体、
〔18〕モノクローナル抗体である〔17〕記載の抗体、
〔19〕(a)標的サンプルと、(i) 〔2〕〜〔6〕または〔8〕〜〔10〕いずれか記載の表面糖タンパク質ACAに、または(ii) 〔11〕または〔12〕記載の核酸分子から転写されるmRNAに特異的に結合することができる化合物とを接触させ、ACAまたはACA mRNAのレベルを測定する工程;および
(b)工程(a)の化合物の使用により測定されるサンプルのACAタンパク質またはACA-mRNAのレベルを健康な個体から得られた対照サンプルと比較する工程、ここで表面糖タンパク質ACAまたは対応するmRNAのレベルの上昇は腫瘍の指標またはかかる腫瘍の素因を示す、ACAの過剰発現に関連する腫瘍またはかかる腫瘍の素因を診断する方法、
〔20〕化合物が〔17〕または〔18〕記載の抗体であるか、または〔11〕または〔12〕記載の核酸分子から転写されるmRNAにハイブリダイズすることがきるオリゴヌクレオチドである〔19〕記載の方法、
〔21〕(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物を含有してなる医薬組成物、
〔22〕癌の処置用または予防用の医薬の調製のための、(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物の使用、
〔23〕癌が黒色腫、白血病、腎臓癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、または癌の任意の他の型である〔19〕もしくは〔20〕記載の方法または〔22〕記載の使用、
〔24〕〔17〕もしくは〔18〕記載の抗体または〔11〕もしくは〔12〕記載の核酸から転写されたmRNAにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを含有してなるキット
に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、先行技術の診断方法の不利な点を解消する癌の診断手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1:ホスホリパーゼ作用の産物の同定 ACAのグリコシルホスファチジルイノシトールの脂質尾部の全加水分解を導く酵素反応およびグリセロール濃度の決定のための酵素反応。
【図2】図2:ACAの精製および単離 赤血球ゴースト硫酸アンモニウムタンパク質および精製ACAの電気泳動を4〜15%SDS-PAGE上で行った。(A)レーン1、2、3、種々のバッチの赤血球から得られた精製ACAタンパク質、レーン4、5、種々のバッチの赤血球膜から得られた40%硫酸アンモニウム沈殿タンパク質抽出物、レーン6、分子量マーカー。(B)精製ACAタンパク質は約65kDの分子量を有する
【図3】図3:ACAの等電点電気泳動 IEF-グラジエントゲル上の精製ACAの電気泳動を行った。(A)レーン1〜6:陽極から開始する、(B)陰極から開始する赤血球の種々のバッチから得られた種々の精製ACA。レーン7A:IEFブロードpI校正標準。
【図4】図4:ACAのトリプチックペプチドの配列
【図5】図5:ホスホリパーゼ消化タンパク質のSDS-PAGE分析 GPI-PLC、PI-PLCおよびGPI-PLDでの精製ACAの切断、(A)1、精製ACA;2、PI-PLCで処理したACA (B)1、精製ACA; 2、GPI-PLDで処理したACA;3、GPI-PLCで処理したACA。
【図6】図6:ACA上の「交差反応決定基」エピトープ 交差反応決定基(CRD)は、G/ PI-PLCの作用により生じる。(A)SDS-PAGE 1、精製された天然のACAタンパク質;2、GPI-PLC切断された精製ACA。(B)抗-CRD抗体での免疫ブロッティング;3、mf ACA(天然のタンパク質);4、種々の表面糖タンパク質(sVSG)のGPI-PLC消化型;5、GPI-PLCで消化されたACA;6、GPI-PLDで消化されたACA。
【図7】図7:アンカーの加水分解により生じた断片のシリカTLC分析 [125J]TID標識、精製タンパク質のサンプルをGPI-PLCで加水分解した。この反応の脂質産物を、高度に特異的なリパーゼでさらに加水分解した。放射性標識断片を抽出し、TLCで分析した。ミリスチン酸を標準として使用した。レーン1、対照として使用される市販のmf VSGを標識し、GPI-PLCで消化し、さらにACAについて記載されるように加水分解した;レーン2、消化され、さらに加水分解されたACAタンパク質GPI。
【図8】図8:抗-ACAポリクローナル抗体でのウエスタンブロッティング。タンパク質を還元条件下でSDS-PAGEに供し、ニトロセルロースにトランスファーし、ACAに対するマウス抗体で明らかにした。レーン1、赤血球膜から得られた粗タンパク質抽出物;レーン2、精製された赤血球ACAタンパク質;レーン3、赤血球ゴースト;レーン4、赤白血病細胞から調製されたゴースト。
【図9】図9:ヒト末梢血細胞集団におけるACA発現のフローサイトメトリー分析。健康なドナーの末梢血細胞を、ACAに対するマウスモノクローナル抗体+抗-マウス-IgG-FITCと共にインキュベートした。赤血球の溶解後、顆粒球、単球、リンパ球、および網状赤血球をSC/SSCによりゲートした(gate)。赤血球は別々に解析した。結果は、赤血球(b)、単球(c)、および部分的に白血球(d)におけるACAの発現を示す。赤血球(e)および網状赤血球(f)において発現は検出されなかった。無関係の対照抗体(a)を有する陰性対照が基準として取り込まれた。
【図10】図10:健康なドナーの末梢血液細胞におけるACA抗原の分布。この図は、特異的なマウスモノクローナル抗体を用いるフローサイトメトリーにより研究された20人の健康なドナーの末梢血液細胞におけるACA発現の分析から得られるデータの要約を表す。発現は各サブ集団:顆粒球、単球およびリンパ球についての陽性細胞のパーセンテージとして示される。
【図11】図11:ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCでの処理による顆粒球膜-結合ACAの除去。精製顆粒球をバッファー単独またはBacillus cereusに由来するPI-PLC、抗-ACA抗体または無関係のIgG(陰性対照)で染色し、記載されるように解析した。抗-ACAおよび抗-CD55抗体で染色した赤白血病(HEL)細胞を用いて、対照実験を同じ条件下で行った。別の対照を、ウシ血清GPI-ホスホリパーゼD、GPI-アンカータンパク質を可溶化することができない酵素で行った。ヒストグラムは、顆粒球におけるACA発現(a)、PI-PLCでの消化後に顆粒球におけるACA発現を廃止し、(b)GPI-PLDでの消化後に顆粒球におけるACA発現(c)、HEL細胞におけるACA発現(d)、PI-PLCでの処理によるHEL細胞におけるACA発現の破棄(e)、PI-PLCでの処理によるHEL細胞におけるCD55発現の破棄を示す。
【図12】図12:Bリンパ球におけるACAの発現およびホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCによるその切断。精製末梢Bリンパ球を、上昇した濃度の記載される細菌PI-PLCと共にインキュベートし、ACAに対するモノクローナル抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。ヒストグラムは:Bリンパ球におけるACA発現およびIgG適合陰性対照(a)、PI-PLCでの処理後のACA発現(b)を示す。第2の実験において、精製Bリンパ球をACAに対する抗体および典型的なB細胞マーカー(CD19、CD20)に対する抗体と共にインキュベートした。ドット-ブロット解析は:イソ型対照(c)、CD19-陽性細胞(d)およびCD20-陽性細胞におけるACA発現を示す。第3の実験において、PBMCは抗-ACA(FITC標識)および坑-CD19、-CD20抗体(PE標識)で標識された。ドットブロット分析は、イソ型対照(f)、末梢CD19陽性細胞に対するACA発現(g)、末梢CD20陽性細胞におけるACA発現(h)を示す。PBMCの10〜15%のパーセンテージはACAおよびB-細胞抗原の両方に対して陽性であった。
【図13】図13:正常およびEBV-形質転換PNH Bリンパ球におけるACAの発現。EBV-形質転換正常およびPNH Bリンパ球を上記のように生成し、抗-ACA抗体(FITC標識)で染色し、フローサイトメトリーにより分析した。無関係の対照抗体での染色を基準として取り込んだ(neg.ctr.)。ヒストグラムは:健康なドナーに由来するEBV-形質転換Bリンパ球におけるACA発現(a)、PNH患者に由来するEBV-形質転換Bリンパ球におけるACA発現(b)を示す。正常なB-細胞は、高レベルのACAを発現するが、PNH B細胞は抗原の有意に減少した発現を示す。
【図14】図14:Tリンパ球におけるACAの発現。Tリンパ球を記載のように精製し、ACA(FITC標識)およびCD3(b)、CD4(c)、またはCD8(d)(PE標識)に対するモノクローナル抗体で染色した。陰性対照(a)は無関係のPE-およびFITC-結合免疫グロブリンからなる。ACA-陽性細胞のパーセンテージはUR四分円に示される。第2の実験において、PBMCはACA (PE-標識)およびT-細胞マーカー(FITC-標識):CD2(f)、CD5(g)、γδ-TCR(h)に対する抗体(FITC-標識)で染色された。陰性対照(e)は、無関係のPE-およびFITC-結合免疫グロブリンからなる。ACA陽性T細胞はUR四分円で示される。
【図15】図15:PNHまたは悪性腫瘍を有する患者に由来するT-細胞クローンにおけるACA発現。 CD48(=GPI-連結タンパク質)について陰性(b)または陽性(c)のPNH患者から得られたT細胞クローンをCD48(FITC標識)およびACA(PE標識)に対する抗体で染色した。陰性対照は、無関係のPE-およびFITC-結合免疫グロブリンでの染色からなる(a)。さらなる実験ではT-細胞に由来する細胞株を、抗-ACA抗体(FITC標識)を用いて1色フローサイトメトリーにおいて解析した。陰性対照において、細胞を非反応性FITC-結合免疫グロブリンで染色した。ヒストグラムは、CEM細胞(d)、MOLT4細胞(e)、およびJurkat細胞(f)におけるACA発現を示す。
【図16】図16:末梢血液細胞サブ集団から可溶化されるACAの免疫検出。記載されるように2X106個の細胞のサンプル(a)または顆粒球培養物の上清(b)をSDS-PAGEに供し、タンパク質をニトロセルロースにトランスファーした。ACAを、以前に精製ヒト赤血球ACAタンパク質に対して惹起した抗体を用いて検出した。ブロット膜をAP-結合二次抗体およびBCIP/NTB基質で染色した。結果は、(a)分子量マーカー(MWM)(レーン1)、可溶化B細胞(レーン2)、可溶化顆粒球(レーン3)、可溶化赤血球(レーン4)、可溶化赤血球ゴースト(レーン5)、赤血球膜からの粗タンパク質抽出物(レーン6)を示す。(b)MWM(レーン1)、PI-PLC消化の前の顆粒球の上清(レーン2)、PI-PLC消化後の顆粒球の沈殿上清(レーン3)。
【図17】図17:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト皮膚の凍結切片。詳細については実施例1および13を参照。
【図18】図18:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト培養上皮メラニン細胞。詳細については実施例1および13を参照。
【図19−1】図19a、b:抗-ACA抗体で染色したヒト上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT(b)の正常培養物。詳細については実施例1および13を参照。 図19c:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト培養上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT。細胞非含有抽出物の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット分析は:黒色腫(レーン1および2)、ケラチノサイト(レーン3および4)、分子量マーカー(レーン5)を示す。詳細については実施例1および13を参照。
【図19−2】図19a、b:抗-ACA抗体で染色したヒト上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT(b)の正常培養物。詳細については実施例1および13を参照。 図19c:抗-ACA-抗体で染色した正常なヒト培養上皮ケラチノサイト(a)およびケラチノサイト細胞株HaCaT。細胞非含有抽出物の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット分析は:黒色腫(レーン1および2)、ケラチノサイト(レーン3および4)、分子量マーカー(レーン5)を示す。詳細については実施例1および13を参照。
【図20】図20:先天性母斑 詳細については実施例1および13を参照。
【図21】図21:抗-ACA-抗体で染色したヒト黒色腫の凍結切片 詳細については実施例1および13を参照。
【図22】図22:抗-ACA-抗体で染色した黒色腫皮膚転移 詳細については実施例1および13を参照。
【図23】図23:抗-ACA-抗体で染色したヒトの凍結切片a)基底細胞腫、b)棘細胞癌
【図24】図24:抗-ACA-抗体で染色した正常皮膚および黒色腫腫瘍組織の免疫ブロット分析 均一化した正常な皮膚(a)、非免疫IgG(陰性対照)(b)、種々の患者から得られた均一化した黒色腫腫瘍組織
【図25】図25:抗-ACA-抗体を用いた均一化した腫瘍組織の免疫ブロット分析 腎臓癌(レーン1)、肺癌(レーン2)、乳癌(レーン3)、大腸癌(レーン4)、胃癌(レーン5)、黒色腫(レーン6)および骨髄腫(レーン7)。
【図26−1】図26:ACAは幹細胞において発現される 非免疫IgG(a)、CD34/CD38(b)、CD34/CD90(c)、CD34/CD117(d)、抗-ACA/CD38(e)、抗-ACA/CD90(f)、抗-ACA/CD117(g)、抗-ACA/HLA-DR(h)、非免疫IgG(i)、抗-ACA/CD13(j)、抗-ACA/CD33(k)、および抗-ACA/CD34(l)。
【図26−2】図26:ACAは幹細胞において発現される 非免疫IgG(a)、CD34/CD38(b)、CD34/CD90(c)、CD34/CD117(d)、抗-ACA/CD38(e)、抗-ACA/CD90(f)、抗-ACA/CD117(g)、抗-ACA/HLA-DR(h)、非免疫IgG(i)、抗-ACA/CD13(j)、抗-ACA/CD33(k)、および抗-ACA/CD34(l)。
【図27】図27:それぞれのヒストグラムは、ヒト白血球細胞株におけるACA発現を示す (a)HEL、(b)U-937、(c)HL-60、(d)K-562
【図28】図28:ヒト白血球細胞株の細胞非含有抽出物の抗ACA抗体を用いた免疫ブロット解析 (1)分子量マーカー、(2)ヒト慢性骨髄性白血病(K-562)、(3)ヒト骨髄球赤白血病(HL-60)、(4)ヒト赤白血病(HEL)、(5)ヒト組織球性リンパ腫(U-937)。
【図29−1】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図29−2】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図29−3】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図29−4】図29(a,b):PNH患者の末梢血液細胞をACAに対するマウスモノクローナル+抗-マウス-IgG FITCと共にインキュベートし、FACSにより解析した。赤血球の溶解後、顆粒球をFSC/SSCによりゲートした。(c):健康なドナー(レーン1)に対するPNH患者(レーン2)から得られた顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いた免疫ブロット分析 レーン3:分子量マーカー。(d):ホスホリパーゼCでの処理の前(レーン1)および後(レーン2)のPNH顆粒球膜画分の抗-ACA-抗体を用いる免疫ブロット解析 レーン3:分子量マーカー(e,f):ホスホリパーゼCの作用後の健康なドナー(d)およびPNH患者(e)に由来する顆粒球の上清中のACAの可溶性型の免疫ブロット解析。
【図30】図30:ACAタンパク質の精製および単離 精製ACAタンパク質の電気泳動を4〜15%SDS-PAGEにおいて行った。レーン1:精製ACAタンパク質の精製主要形態、分子量65kD;レーン2:精製ACAタンパク質、分子量68kD
【図31】図31:単離されたACAタンパク質のUVスペクトル 精製された2つの型の赤血球ACAタンパク質のUVスペクトルをBeckman分光光度計において読み取った。A:精製65kD ACAタンパク質のUVスペクトル;B:68KD ACAタンパク質のUVスペクトル
【図32】図32:抗-ACAポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティング タンパク質を還元条件下でSDS-PAGEに供し、ニトロセルロースに移し、ACAに対するマウス抗体で明らかにした。レーン1:精製65kD赤血球ACAタンパク質;レーン2:精製68kD赤血球ACAタンパク質
【図33】図33:アンカーの加水分解により生じる断片のシリカTLC分析 [125I]TID-標識精製タンパク質のサンプルをGPI-PLCで加水分解した。この反応の脂質産物を高度に特異的なリパーゼでさらに加水分解した。放射標識断片を抽出し、TLCにより解析した。ミリスチン酸を標準として使用した。レーン1:対照として使用した市販のmVSGを標識し、GPI-PLCで消化し、ACAについて記載されるようにさらに加水分解した;レーン2:GPI-PLCで消化し、さらに加水分解した65kD ACAタンパク質;レーン3:既に記載のように消化し、さらに加水分解した68kD分子量形態のACA。
【図34】図34:PNGaseFと共にインキュベーションした後の65および68kD赤血球ACAのSDS-PAGE解析 A:PNGaseFとの65kD赤血球ACAインキュベーションのSDS-PAGE解析 レーン1:0分間のPNGaseFとのインキュベーション後の精製65kD ACA;レーン2:10分間;レーン3:30分間;レーン4:90分間;レーン5:150分間;レーン6:一晩、PNGaseFと共にインキュベートした精製65kD ACA B:RNGaseFとの68kD赤血球ACAインキュベーションのSDS-PAGE解析 レーン1:0分間のPNGaseFとのインキュベーション後の精製68kD ACA;レーン2:10分間;レーン3:30分間;レーン4:90分間;レーン5:150分間;レーン6:一晩、PNGase Fと共にインキュベートした精製68kD ACAタンパク質
【図35】図35:精製65kD赤血球ACAの酵素的および化学的脱グリコシル化 精製65kD ACAタンパク質の電気泳動およびその酵素的および化学的脱グリコシル化の産物を4〜15%SDS-PAGE;A:レーン1:精製65kD ACA B:レーン1:シアリダーゼで処理した精製65kD ACA;レーン2;O-グリコシダーゼ;レーン3:PNGase F;レーン4:シアリダーゼO-グリコシダーゼおよびPNGaseFでの65kD赤血球ACAの引き続く処理 C:レーン1:TMSFを用いた化学的脱グリコシル化後の精製65kD ACAタンパク質
【発明を実施するための形態】
【0007】
上記技術的課題の解決手段は特許請求の範囲に特徴付けられる態様を提供することにより達成される。
【0008】
硫酸アンモニウム(40〜80%飽和)での塩析、続いて調製用SDS-PAGE、クロマトグラフィーおよびアセトン沈殿により、GPIアンカーを含有する新規膜糖タンパク質を単離し、均質に精製する方法が記述された。得られた調製物は、2-メルカプトエタノールでの還元後に0.1%のドデシル硫酸ナトリウムの存在下での電気泳動の間、均一であった。これは、その等電点(pH5.5)で可溶性であるタンパク質である。単離されたタンパク質は、精製されたホスホリパーゼCによる切断に感受性であるグリコシル-ホスファチジルイノシトールにより膜に連結される。タンパク質の糖脂質膜アンカーの疎水性部分は、光活性化された試薬3-(トリフルオロメチル)-3-(m-[125J]ヨードフェニル)ジアジリンで放射標識され、グリコシル-ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(GPI-PLC)で加水分解され、続いて残存する脂質の酵素的脱アセチル化された。薄層クロマトグラフィーは、生じる放射標識断片が同じ様式で得られたバリアント表面糖タンパク質と同じ移動度で移動することを示す。他のGPI-連結赤血球タンパク質とは対照的に、ACAのアンカーは、アンカーの脂質尾部としてアルキル-アシルグリセロールよりむしろ、非アセチル化イノシトール環およびジアシルグリセロールを有する。さらに、ACAの分布および膜アンカーを調査した。精製タンパク質に対するウサギポリクローナル抗体ならびにマウスモノクローナル抗体が産生され、1色および2色フローサイトメトリーによるヒトヒト末梢血細胞におけるACAの発現を解析するために使用された。結果は、このタンパク質が全ての顆粒球、単球およびBリンパ球上に均一に提示されるが、T-細胞上には提示されないことを示した。赤血球のフローサイトメトリー解析は非常に低い量の分子を示し、一方、高い感受性の免疫ブロット解析は、赤血球膜との両方のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の反応を示した。ACAはPI-PLC、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを特異的に加水分解することが知られている酵素での処理により顆粒球膜から除去された。顆粒球の上清の沈殿した可溶性形態のACAをイムノブロットし、抗-ACA抗体で検出した。B細胞は、おそらくイノシトール環の部分的アセチル化のためにPI-PLC消化に対する感受性が低かった。発作性夜間血色素尿症(PNH)(イノシトールグリカンにより膜にアンカーした全てのタンパク質の部分的または完全な欠陥により特徴付けられる疾患)患者から樹立されたエプスタイン-バーウイルス(EBV)-形質転換B細胞株は、健康なドナーのEBV細胞とは対照的にACA-陰性であった。最後に、ACAは黒色腫およびいくらかの白血球細胞において強く発現されることが見出され、このタンパク質の重要な調節機能を強く示唆する。2つの異なるモノクローナル抗-ACA-抗体は、免疫組織化学において原発性および転移性の黒色腫細胞の検出に有用であることが示されたそれらの両方で産生された。
【0009】
ACAと呼ばれる2つの形態の新規ヒトGPI-連結表面抗原が存在することが本発明者により認識されている。約68kDおよび約65kDのタンパク質が完全な(GPI)グリコシル-ホスファチジルイノシトールアンカーと共にヒト赤血球から単離された。両方のタンパク質の形態は、精製65kD分子量形態のACAに対して惹起されたモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体と反応する。タンパク質の特徴づけにおいて頻繁に、タンパク質が何らかのN-グリカンを有するか否かを決定すること、もし有する場合、いくつのN-グリカンがペプチド骨格に付着しているか、および糖タンパク質の全分子量への寄与を決定することは有用である。N-グリカンは比較的大きい構造であるので、広範な特異性のペプチド-N-グリコシダーゼでの処理の前後の還元条件下でのSDS-PAGE解析において糖タンパク質の見かけの分子量に大きく寄与する。これらの酵素は、N-グリカンとペプチドとの間のN-グリコシド結合を特異的に加水分解する。ACAタンパク質のサイズ不均一性を明らかにするために、これらのタンパク質のN-およびO-連結糖鎖はシアリダーゼ、エンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、ペプチド-N-グリコシダーゼFおよびO-グリコシダーゼでの消化により解析された。糖タンパク質からN-およびO-連結オリゴサッカライドを除去するグリコシダーゼとのこれらのタンパク質の引き続くインキュベーションにより、SDS-PAGEにより判定される約59kDの単一タンパク質種を導く。同じ結果が、無水トリフルオロメタンスルホン酸(TMSF)(これはO-、およびN-連結糖鎖を非選択的に除去する)による化学的脱グリコシル化により得られた。従って、N-グリコシル化の程度の差がACAの分子不均一性の主要な原因である。
【0010】
従って、ある局面では、本発明は、以下の特徴を有する表面糖タンパク質に関する:
(a)細胞表面にGPI-アンカー(anchor)されている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から除去されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる。
【0011】
好ましくは、他の脂肪酸のジアシルミリステートはその脂質尾部に存在する。
【0012】
好ましい態様では、上記表面糖タンパク質は、以下のさらなる特性により特徴付けられる表面糖タンパク質ACA、またはその塩、機能性誘導体もしくは活性画分である:
(a)pH5.5の等電点を有する;
(b)血液前駆細胞、顆粒球、単球、B細胞(T細胞上には発現されない)、メラニン細胞、および他の細胞上に発現される。
(c)細胞分裂の間、および腫瘍細胞において優先的に発現される。
【0013】
本明細書中で使用される用語「塩」は、カルボキシル基の両方の塩およびタンパク質分子のアミノ基の酸負荷塩をいう。タンパク質のC-末端が分子の末端にジアシルミリステートを有するGPI-アンカーに付着されるので、上記タンパク質のN-末端はブロック、おそらくはアセチル化される。それゆえ、塩は、天然の全長タンパク質のN-またはC-末端で形成され得ない。カルボキシル基の塩は、当該分野で公知の手段により形成され得、無機塩、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、第二鉄塩または亜鉛塩等、および例えばトリエタノールアミン、アルギニンまたはリジン等のアミン、ピペリジン、プロカイン等を伴って形成されるもの等の有機塩基を有する塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、塩酸または硫酸、および酢酸等の無機酸を有する塩、ならびに酢酸またはシュウ酸等の有機酸の塩が挙げられる。
【0014】
本明細書中で使用される「機能性誘導体」は、当該分野で公知の手段により、側鎖として生じる官能基、残基またはN-またはC-末端基から調製されうるACAと実質的に同じ生物学的に活性を有する誘導体を含み、それらがタンパク質の活性を破壊せず、それを含有する組成物に毒性特性を付与しない限り本発明に含まれる。これらの誘導体としては、例えば、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアとのまたは第一アミンまたは第二アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル成分で形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基の誘導体(例えば、アルカノイルまたは炭素環式アロイル基)またはアシル成分で形成される遊離水酸基(例えば、セリルまたはスレオニル基のそれ)のO-アシル誘導体が挙げられる。
【0015】
本発明のACAの「活性画分」は、上記画分がACAの少なくとも1つの生物学的活性、例えば、シグナル伝達活性を有する条件下で、タンパク質分子単独または会合分子もしくはそこに連結された残基(例えば、糖またはホスフェート残基)を伴うタンパク質分子、またはタンパク質分子もしくは糖残基自身の凝集物のポリペプチド鎖の任意の断片または前駆体を含む。
【0016】
本発明の表面糖タンパク質ACAは、好ましくは、
(a)細胞、好ましくは赤血球を単離し、溶解する工程;
(b)上記細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、崩壊させ、ペレット化する工程;
(c)硫酸アンモニウム(70%; 40%飽和)での再懸濁された膜の塩析を繰り返す工程
(d)工程(c)の沈殿したタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)タンパク質のゲルバンドを単離する工程
によりヒト血液から得られうる。
【0017】
この方法の種々の工程は、標準的なプロトコル、例えば、以下の実施例に記載されるプロトコルに従って行われうる。
【0018】
好ましい態様では、本発明の表面糖タンパク質ACAは、還元条件下でSDS PAGEにより解析した場合、約65kDの分子量によりさらに特徴付けられる。
【0019】
さらに好ましい態様では、本発明の表面糖タンパク質ACAは、以下のアミノ酸配列の少なくとも1つを含む:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
【0020】
ACAのタンパク質配列データは、アクセッション番号83408の下でSWISS-PROTおよびTrEMBL知識ベースにおいて入手可能である。
【0021】
本発明はまた、以下を含む表面糖タンパク質ACAの単離のためのプロセスに関する:
a)ヒト血液由来の細胞、好ましくは赤血球を単離し、溶解させる工程;
b)上記細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、崩壊させ、ペレット化する工程;
c)硫酸アンモニウム(70%; 40%飽和)での再懸濁した塩の塩析を繰り返す工程;
d)工程(c)で調製されたタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
e)65kDタンパク質のゲルバンドを単離する工程。
【0022】
本発明はまた、好ましくは哺乳動物細胞において産生された組換え表面糖タンパク質ACAに関する。本発明の核酸分子を用いるACAの組換え産生方法が下記に記載される。
【0023】
本発明はさらに、本発明の表面糖タンパク質ACAまたはその機能性誘導体もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を含有する核酸分子、好ましくはDNA分子に関し、ここで上記表面糖タンパク質ACAは以下のアミノ酸配列の少なくとも1つを含む:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
【0024】
用語「DNA分子」は、ゲノムDNA、cDNA、合成DNAおよびその組み合わせを含む。
【0025】
ACAのクローニングは、種々の技術により行われうる。1つのアプローチによれば、ACAに対する特異的抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)が産生され、ACAをクローン化するために使用される。このアプローチは、以下の3つの工程に基づく:
(A)抗体の調製:抗-ACA-抗体が、本発明の実質的に精製されたACAを用いて、またはタンパク質の公知のアミノ酸配列に同一な1つ以上の合成ペプチドを用い、および大腸菌中で融合タンパク質A-ACAを発現させることにより産生されうる。適切な抗体の産生は以下に記載される。
【0026】
(B)ACA産生細胞のスクリーニング:ACAに対する抗体は免疫蛍光またはウエスタンブロットによりACA産生細胞を探索するために使用される。適切な細胞の例は以下の実施例に見出されうる。
【0027】
(C)産生細胞からのcDNAの調製:mRNAはACA産生細胞から抽出され、cDNAは逆転写酵素の使用により調製される。cDNAはλ-gT11、λ-"ZAP"(例えば、"UNI-ZAPTMXRカスタムcDNAライブラリー"; Stratagene, La Jolla, CA, USA)においてクローン化され、標準的な方法、例えば、"SEREX"-法(Sahinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol. 92, S.11810-11813, 1995)またはTureciらに記載された方法(Cancer Res. 56 (1996), 4766-4772)に従って調製される抗体の使用によりスクリーニングされる。溶解プラークにおいて発現される組換えタンパク質に結合する抗体は、例えば、アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG(例えば、DAKO, Glostrup, Danmarkから入手可能)とのインキュベーションにより検出され、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスファターゼおよびニトロブルーテトラゾリウムでの染色により可視化されうる。
【0028】
別のアプローチに次いで、配列がACAタンパク質の断片の配列に由来する合成オリゴヌクレオチドまたは合成オリゴヌクレオチドの混合物が生成され、このオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの混合物はACAタンパク質をコードするcDNAまたはゲノムDNAをクローニングするためのプローブとして使用される。ゲノムDNAは天然に存在するイントロンを含んでもよく、含まなくてもよい。それは、例えば当該分野で周知の手段による適切な細胞からの抽出および精製によって、得られ得る。ヒトゲノムDNA等の適切なDNA調製物は、制限酵素により酵素的に切断されるかランダムにせん断され、該断片は適切な組換えベクターに挿入されて遺伝子ライブラリーを形成する。かかるベクターは次いで、本発明のACAタンパク質をコードする配列を同定するために合成オリゴヌクレオチドプローブを用いてスクリーニングされ得る。
【0029】
あるいは、mRNAは本発明のACAタンパク質を発現する細胞から単離され、当該分野で周知の方法によりcDNAを生成するために使用される;例えば、Sambrookら, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY, USAを参照のこと。このcDNAは、二本鎖型への変換後、クローニングされ得、得られたクローンは、所望の配列をコードするcDNAに対して適切なプローブを用いてスクリーニングされる。一旦所望のクローンが単離されると、cDNAはゲノムDNAと実質的には同じ様式で操作され得る。しかしながら、cDNAについては、イントロンまたは介在配列は存在しない。プローブとして使用されるオリゴヌクレオチドを設計するために、図4に示される部分的なアミノ酸配列を使用し得る。更に、完全なACAタンパク質の配列分析を実施すること、またはその更なるペプチド断片を得ることのいずれか、およびそれらのアミノ酸配列を特性付けることが可能である。ペプチド断片を得るために、精製されたタンパク質調製物は、例えば、当該分野で周知の方法、例えば以下の実施例に記載される方法により、トリプシン、キモトリプシンまたはパパイン等のプロテアーゼで分解することにより断片化に供される。分解により生成されたペプチド断片は逆相HPLCにより分離され、自動アミノ酸配列決定技術により配列決定される。
【0030】
一旦1以上の適切なペプチド断片が配列決定されるか、タンパク質の部分配列が決定されると、それらをコードすることが可能なDNA配列が試験される。遺伝的コードの縮重により、1より多いコドンが特定のアミノ酸をコードするために使用され得、それぞれがACAタンパク質ペプチド断片をコードすることが可能である1以上の異なるオリゴヌクレオチドが生成され得る。しかしながら、該セットの1つのメンバーのみが該遺伝子のヌクレオチド配列と同一であるヌクレオチド配列を含む。該セット内のその存在およびその該セットの他のメンバーの存在下でさえDNAにハイブリダイズするその能力は、該ペプチドをコードする遺伝子をクローン化するために単一のオリゴヌクレオチドを使用する同じ様式においてオリゴヌクレオチドの未分画セットを使用することを可能にする。ACAタンパク質遺伝子断片をコードすることが可能な理論的に「最ももっともらしい」配列を含むかかるオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセットの使用(標準的な文献に開示される「コドン使用頻度ルール」に従う)は、ACAタンパク質または少なくともその一部をコードする「最ももっともらしい」配列、またはかかる配列のセットにハイブリダイズすることが可能である相補的なオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセットの配列を同定することを可能にする。かかる相補的配列を含むこのオリゴヌクレオチドは、次いで合成され得、プローブとして本発明のACAタンパク質の遺伝子を同定および単離するために使用される。一旦、ACAタンパク質遺伝子の断片をコードすることが可能な(あるいは、かかるオリゴヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドのセットに対して相補的である)適切なオリゴヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドのセットが、上記の手順を用いて同定されると、それは合成され、DNAに、または好ましくは所望の遺伝子を発現することが可能な、細胞由来のcDNA調製物に、好ましくはcDNA源が所望の配列について富化された後に、例えば、高レベルの所望の遺伝子を生成する細胞からRNAを抽出し、次いで酵素逆転写酵素を使用することにより対応するcDNAにそれを変換することによりハイブリダイズされる。核酸のハイブリダイゼーションの手順は一般的に知られている。上記のオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドプローブのセットを用いたハイブリダイゼーションにより、cDNAまたはゲノムライブラリーにおいて、かかるハイブリダイゼーション可能なDNA配列を同定することが可能であり、それらは次いで分析され、それらが本発明のACAタンパク質に対するコード配列をどの程度含むかが決定される。
【0031】
あるいは、PCR反応のプライマーはACAの部分的なアミノ酸配列に基づいて設計され得、上記の細胞またはライブラリーを供給源として使用してACAまたはその一部をコードする遺伝子を単離するために使用される。最終的に、ACAの部分的なアミノ酸配列由来の核酸配列を基礎として、一般に利用可能な遺伝子バンク、例えばESTベースの遺伝子バンクがスクリーニングされ得る。
【0032】
本発明は更に、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。好ましくは、それらはプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージおよび通常遺伝子工学の分野で使用される他のベクターである。本発明における使用に適切なベクターとしては、これらに限定されないが、細菌における発現用のT7ベースの発現ベクター、哺乳動物細胞における発現用のpMSXND発現ベクターおよび昆虫細胞における発現用のバキュロウイルス由来ベクターが挙げられる。好ましくは、本発明の核酸分子は、翻訳され得る原核生物および/または真核生物細胞におけるRNAの転写および合成を保証する、本発明の組換えベクターにおける調節因子に作動可能に連結される。転写されるヌクレオチド配列はT7、メタロチオネインIまたはポリヘドリンプロモーターなどのプロモーターに作動可能に連結され得る。
【0033】
更なる態様において、本発明は、一過的にまたは安定して本発明の核酸分子またはベクターを含む組換え宿主細胞に関する。宿主細胞は、インビトロ組換えDNAを取り込むことが可能である生物であること、および、場合により、本発明の核酸分子によりコードされるACAタンパク質、断片等を合成することと理解される。好ましくは、これらの細胞は原核生物または真核生物細胞、例えば哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞または酵母細胞である。本発明の宿主細胞は、好ましくは本発明の導入された核酸分子のいずれかが形質転換細胞に関して異種である、すなわち、それはこれらの細胞において天然には存在しないか、または対応する天然に存在する配列とは異なるゲノムの場所に局在化しているという事実により特性付けられる。
【0034】
本発明の更なる態様は、本発明のACAタンパク質の組換え産生方法に関し、ここで、例えば本発明の宿主細胞はタンパク質の合成が行える条件下で培養され、該タンパク質はその後、培養細胞および/または培養液から単離される。組換え的に産生されたタンパク質の単離および精製は、モノクローナルまたはポリクローナル抗ACA抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを含む、調製クロマトグラフィー、ならびに親和性および免疫学的分離を含む従来手段により行われ得る。ACAタンパク質は好ましくは実質的に精製された形態にある。ACAの組換え的に産生されたバージョンは、SmithおよびJohnson, Gene 67:31-40 (1988)に記載されたワンステップの方法により実質的に精製され得る。
【0035】
本発明はまた、本発明の表面糖タンパク質ACAに対する抗体に関する。用語「抗体」は、好ましくは、種々のエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体、および別個のモノクローナル抗体調製物から本質的になる抗体に関する。モノクローナル抗体は、当業者に周知の方法により、本発明のタンパク質の断片を含む抗原から作製される(例えば、Kouhlerら, Nature 256 (1975), 495を参照のこと)。本明細書で使用される場合、用語「抗体」(Ab)または「モノクローナル抗体」(Mab)は、タンパク質に特異的に結合し得るインタクトな分子および抗体断片(例えば、FabおよびF(ab')2断片など)を含むことを意味する。Fv、FabおよびF(ab')2断片は、インタクトな抗体のFc断片を欠き、循環からより迅速に取り除かれ、インタクトな抗体よりも低い非特異的組織結合を有し得る(Wahlら, J. Nucl. Med. 24:316-325(1983))。従って、これらの断片、ならびにFabまたは他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物が好ましい。さらに、本発明の抗体としては、キメラ、単鎖、およびヒト化抗体が挙げられる。
【0036】
本発明はまた、ACAの過剰発現に関連する腫瘍またはかかる腫瘍の素因の診断のための方法に関し、該方法は、(i)本発明の表面糖タンパク質ACAまたは(ii)ACAコードDNA分子から転写されたmRNAに特異的に結合し得る化合物と標的試料を接触させる工程、ならびに(b)上記化合物の使用により測定された試料のACAタンパク質またはACA mRNAのレベルを健康な個体から得た対照試料と比較する工程であって、ここで、該表面糖タンパク質ACAまたは対応するmRNAの上昇したレベルが腫瘍またはかかる腫瘍の素因を示す、工程を含む。好ましくは、該化合物は抗ACA抗体、またはACAをコードするDNA配列から転写されたmRNAにハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドである。好ましくは、ACA DNAとハイブリダイズする該オリゴヌクレオチドの核酸配列は、少なくとも12、好ましくは少なくとも15、またはより好ましくは少なくとも20塩基長を有する。プローブとして使用されるオリゴヌクレオチドは、例えば、ラジオアイソトープ、生物発光化合物、化学発光化合物、蛍光化合物、金属キレート、または酵素を用いて検出可能に標識され得る。
【0037】
生物学的流体(例えば、血液)または組織中の標的細胞成分、ACAタンパク質またはACA-mRNAは、例えば、インサイチュハイブリダイゼーションにより直接インサイチュで検出され得るか、または、プローブと接触させる前に当業者に公知の一般的方法により他の細胞成分から単離され得る。検出方法としては、ノザンロット分析、RNase保護、インサイチュ方法、例えば、インサイチュハイブリダイゼーション、インビトロ増幅方法(PCR、LCR、QRNAレプリカーゼまたはRNA転写/増幅(TAS、3SR)、欧州特許第0 237 362号に開示されるリバースドットブロット)、免疫アッセイ、ウェスタンブロットおよび当業者に公知の他の検出アッセイが挙げられる。
【0038】
インビトロ増幅により得られた産物は、確立された方法により、例えば、アガロースゲル上で産物を分離することにより、およびその後の臭化エチジウムで染色することにより検出され得る。あるいは、増幅産物は、増幅用の標識プライマーまたは標識dNTPを使用することにより検出され得る。
【0039】
組織中のACAの発現は、古典的免疫組織学方法(Jalkanenら, J. Cell. Biol. 101 (1985), 976-985;Jalkanenら, J. Cell. Biol. 105 (1987), 3087-3096;Sobolら, Clin. Immunpathol. 24 (1982), 139-144;Sobolら, Cancer 65 (1985), 2005-2010)で研究され得る。タンパク質遺伝子発現を検出するのに有用な他の抗体ベース方法としては、免疫測定法(例えば、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)および放射免疫測定法(RIA)など)が挙げられる。適切な抗体アッセイ標識は当該分野で公知であり、酵素標識(例えば、グルコースオキシダーゼなど)、ラジオアイソトープ(例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(112In)およびテクネチウム(99mTc)など)、および蛍光標識(例えば、フルオレセインおよびローダミンなど)、およびビオチンが挙げられる。生物学的試料中でACAレベルをアッセイするのに加えて、タンパク質はまた、画像化によりインビボで検出され得る。タンパク質のインビボ画像化用の抗体標識またはマーカーとしては、X線撮影法、NMRまたはESRにより検出可能なものが挙げられる。X線撮影法について、適切な標識としては、検出可能な放射能を放射するが被験体に対して明白に有害ではないバリウムまたはセシウムなどのラジオアイソトープが挙げられる。NMRおよびESRに対する適切なマーカーとしては、関連性のあるハイブリドーマに対する栄養素の標識化により抗体に組み込まれ得るジュウテリウムなどの検出可能な特徴的なスピンを有するものが挙げられる。適切な検出可能な画像化部分(ラジオアイソトープ(例えば、131I、112In、99mTc)、放射線不透過性物質、または核磁気共鳴により検出可能な材料など)で標識されているタンパク質特異的抗体または抗体断片が、哺乳動物に(例えば、非経口、皮下、または腹腔内で)導入される。非験体のサイズおよび使用される画像化システムが診断画像を生ずるのに必要な画像化部分の量を決定することは当該分野で理解される。ラジオアイソトープ部分の場合、ヒト被験体について、注射される放射能の量は、通常、約5から20ミリキュリーの99mTcの範囲である。次いで、標識抗体または抗体断片は、好ましくは、特異的タンパク質を含有する細胞の位置で蓄積する。インビボ腫瘍画像化は、S.W. Burchielら,「Immunopharmacokinetics of Radiolabeled Antibodies and Their Fragments.」(第13章Tumor Imaging:The Radiochemical Detection of Cancer, S.W. BurchielおよびB.A. Rhodes,編, Masson Publishing Inc. (1982))に記載される。
【0040】
ACAの発現および/または活性を阻害することにより、黒色腫のような癌の有効治療が提供されることが結論付けられ得る。
【0041】
従って、本発明はまた、(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を減少または排除し得る化合物を含有する医薬組成物に関する。かかる試薬の例は、アンチセンスRNA、リボザイムまたはタンパク質の生物学的活性のインヒビター(例えば、特異的抗体)である。例えば、タンパク質に対する抗体の投与は、タンパク質の過剰産生を拘束し、減少し得る。
【0042】
本発明のアンチセンスRNA配列は、本発明の核酸分子から転写されたmRNAまたはその一部に相補的であり、該mRNAに選択的に結合し得ることを特徴とし、該配列は前記核酸分子にコードされるACAタンパク質の合成を阻害し得、リボザイムは、本発明の核酸分子から転写されたmRNAまたはその一部に相補的であり、該mRNAに選択的に結合し、切断し、従って、該核酸分子にコードされるACAタンパク質の合成を阻害し得ることを特徴とする。一本鎖RNAから構成されるリボザイムはRNA酵素、すなわち、触媒RNAであり、標的RNA、例えば、Trp遺伝子の一つから転写されたmRNAを分子間で切断し得る。リボザイムを構築することは現在可能であり、文献に記載のストラテジーに従うことで標的RNAを特異的部位で切断することが可能である(例えば、Tannerら:Antisense Research and Applications, CRC Press Inc. (1993), 415-426参照)。かかるリボザイムの2つの主な必要条件は、標的RNAに相補的であり、その基質への結合を可能にする触媒ドメインおよび領域であり、これは切断に欠くことはできない。該相補配列、すなわち、アンチセンスRNAまたはリボザイムは、例えば、黒色腫の治療の場合の、ACA発現の抑制に有用である。好ましくは、本発明のアンチセンスRNAおよびリボザイムは、mRNAのコード領域、例えば、コード領域の5'部分に相補的である。本発明の核酸分子の配列を提供された当業者は、上記アンチセンスRNAまたはリボザイムを生成および利用するための所を得ている。本発明の核酸分子から転写されたmRNAに相補性を示すアンチセンスRNAおよびリボザイムの領域はそれぞれ、好ましくは、少なくとも10、特に少なくとも15、特に好ましくは少なくとも50ヌクレオチド長を有する。
【0043】
ACAタンパク質に対するインヒビターは、例えば、アンタゴニストとして作用する対応のタンパク質の構造アナログであり得る。さらに、かかるインヒビターは、組換え生成タンパク質の使用により同定された分子を含み、例えば、組換え生成タンパク質を使用して、適切な条件下でタンパク質に結合するための潜在的なインヒビターの能力を利用することによりインヒビターをスクリーニングおよび同定し得る。インヒビターは、例えば、試験混合物を調製することにより同定され得、ここで、インヒビター候補物は、ACAが天然のコンホメーションであり得る適切な条件下でACAタンパク質とインキュベートされる。かかるインビトロ試験系は、当該分野で周知の方法により確立され得る。インヒビターは、例えば、組換え生成ACAタンパク質に結合する合成または天然に存在する分子のいずれかについて初めにスクリーニングし、次いで、次の工程で、少なくとも1つの生物学的活性の阻害により表されるようなACAタンパク質の阻害についての細胞アッセイでこの選択された分子を試験することにより同定され得る。ACAタンパク質を結合する分子についてのかかるスクリーニングは、例えば、合成および/または天然分子のライブラリーから候補分子をスクリーニングすることにより、容易に大規模に実施され得る。かかるインヒビターは、例えば、合成有機化学薬品、天然醗酵産物、微生物、植物または動物から抽出された基質、またはペプチドである。これらのインヒビターの特定の機能は、ACAの細胞から細胞への移動を遮断することである。インヒビターのさらなる例は特異的抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。さらに、本発明の核酸配列およびコードタンパク質を使用して、腫瘍発達および進行に関する更なる因子を同定し得る。さらに、本発明のタンパク質は、タンパク質/タンパク質相互作用に基づくスクリーニング方法(例えば、ツーハイブリッドシステム)を使用して、例えば、黒色腫に関連するさらなる(非関連)タンパク質を同定するために、例えば、使用され得る。
【0044】
投与のため、上記化合物は、好ましくは、適切な薬学的担体と組み合わせられる。適切な薬学的担体の例は当該分野で周知であり、リン酸緩衝化生理食塩水溶液、水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、種々の型の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。かかる担体は、従来の方法により製剤化され得、適切な用量で被験体に投与され得る。適切な組成物の投与は、種々の方法、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所または皮内投与により影響され得る。投与経路はもちろん、腫瘍の性質および医薬組成物に含まれる化合物の種類に依存する。投薬レジメンは、主治医および他の臨床因子により決定される。医学分野で周知なように、任意の一人の患者への投薬は、多くの因子(患者の大きさ、体表面積、年齢、性別、投与対象の特定の化合物、投与の時間および経路、腫瘍の種類および段階、一般的健康状態および同時投与される他の薬物が挙げられる)に依存する。
【0045】
本発明のアンチセンスRNAまたはリボザイムの送達は、直接適用により、または好ましくは、これらの化合物を含有するキメラウイルスなどの組換え発現ベクターまたはコロイド分散系を使用することにより達成され得る。所望の標的にこれらの核酸を送達することにより、ACAの細胞間発現および、従ってACAのレベルが減少し、例えば、黒色腫の転移形成に関するACAのネガティブ効果の阻害を生じ得る。
【0046】
標的部位への直接適用は、例えば、コロイド分散系の場合は、弾道(ballistic)送達により、または動脈内の部位へのカテーテルにより実施され得る。上記核酸の送達に使用され得るコロイド分散系としては、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズおよび脂質ベースの系(水中油型エマルジョン、(混合)ミセル、リポソームおよびリポプレックス(lipoplex)が挙げられる)が挙げられる。好ましいコロイド系はリポソームである。リポソームの組成物は、通常、リン脂質とステロイド、特にコレステロールの組み合わせである。当業者は、所望の核酸分子の送達に適切なかかるリポソームを選択するための所を得ている。器官特異的または細胞特異的リポソームは、所望の腫瘍のみへの送達を達成するために使用され得る。リポソームの標的化は、一般的な公知の方法を適用することによって当業者により実施され得る。この標的化としては、受動標的化(リポソームの洞様毛細血管を含む器官におけるRESの細胞に分布する天然の傾向を利用する)または活性標的化(例えば、周知の方法によりリポソームを特異的リガンド、例えば、抗体、レセプター、糖、糖脂質、タンパク質などに結合することによる)が挙げられる。本発明において、モノクローナル抗体は、好ましくは、特異的細胞表面リガンドを介してリポソームを特異的腫瘍に標的化するために使用される。
【0047】
遺伝子治療に有用な好ましい組換えベクターは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアまたはより好ましくはレトロウイルスなどのRNAウイルス)である。さらにより好ましくは、レトロウイルスベクターは、マウスまたは鳥類レトロウイルスの誘導体である。本発明に使用され得るかかるレトロウイルスベクターの例は:Moloneyマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、Harveyマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MuMTV)およびRous肉腫ウイルス(RSV)である。マウスベクターと比較して宿主範囲が広いという条件で、最も好ましくは、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)などの非ヒト霊長類レトロウイルスベクターが使用される。組換えレトロウイルスが欠損の場合、感染性粒子を生成するために補助が必要である。かかる補助は、例えば、LTR内の調節配列の制御下でレトロウイルスの構造遺伝子の全てをコードするプラスミドを含むヘルパー細胞系統を使用することにより提供され得る。適切なヘルパー細胞系統は当業者に周知である。前記ベクターは、選択可能マーカーをコードする遺伝子をさらに含み得、その結果、トランスダクションされた細胞が同定され得る。さらに、レトロウイルスベクターは、標的特異的にするような方法で修飾され得る。これは、例えば、糖、糖脂質またはタンパク質、好ましくは抗体をコードするポリヌクレオチドを挿入することにより、達成され得る。当業者は、標的特異的ベクターを作製するためのさらなる方法を知っている。インビトロまたはインビボ遺伝子治療にさらに適切なベクターおよび方法は、文献に記載され、当業者に公知である;例えば、WO 94/29469またはWO 97/00957参照。
【0048】
標的器官、すなわち処置対象の腫瘍においてのみ発現を達成するために、例えば、アンチセンスRNAまたはリボザイムをコードする核酸もまた、組織特異的プロモーターに作動可能に連結され、遺伝子治療に使用され得る。かかるプロモーターは当業者に周知である(例えば、Zimmermannら, (1994) Neuron 12, 11-24;Vidalら, (1990) EMBO J. 9, 833-840;Mayfordら, (1995), Cell 81, 891-904;Pinkertら, (1987) Genes & Dev. 1, 268-76参照)。
【0049】
上記で考察した診断研究における使用のため、本発明によりキットもまた提供される。かかるキットは、標的細胞成分(ACA、またはACAコードmRNA)の検出に有用である。このキットは、ACA、またはACAコードmRNAの検出用のプローブを含有する。プローブは検出可能に標識され得る。かかるプローブは特異的抗体または特異的オリゴヌクレオチドであり得る。好ましくは、ACA DNAとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの核酸配列は、少なくとも12、好ましくは少なくとも15、またはより好ましくは少なくとも20塩基長を有する。好ましい態様において、このキットは、抗ACA抗体を含み、例えばELISAによる診断を可能にし、当該分野で公知の技術を使用して固体支持体、例えば、ポリスチレンマイクロタイターディッシュまたはニトロセルロース紙に結合した抗体を含む。あるいは、このキットは、RIAに基づき、放射能同位体でマークされた抗体を含む。本発明のキットの好ましい態様において、抗体は、酵素、蛍光化合物、ルミネセンス化合物、強磁性プローブまたは放射性化合物で標識される。
【0050】
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例】
【0051】
実施例1:一般的方法
(A)タンパク質の精製および単離
健常なドナーから回収したヒト血液を1500g、4℃で10分間遠心分離した。血漿および軟膜を吸引により除去し、押し固まった細胞を150mM/15mMリン酸ナトリウム(pH7,6)中で2回洗浄し、CH3COOH/蒸留水中で溶解した。膜を10.000×gで15分間ペレット化し、抽出緩衝液、50mM Tris-HCl pH7.5、2mM DTT、1mM PMSF、1mM EDTA、0,25Mスクロースで洗浄した。この工程を血球影が残存ヘモグロビンの視覚形跡を示さなくなるまで繰り返した(3回洗浄が通常必要であった)。最終洗浄後、血球影を同じ緩衝液に再懸濁した。ペレットを15分間液体窒素中で凍結し、25℃で解凍した。この手順を3回繰り返す。次いで、ホモジェネートをKClに関して400mMに調整し、25.000gで60分間遠心分離した。上清を回収し、(NH4)2SO4(Sigma、Munchen、Germany)で70%飽和に調整し、30分間攪拌した。沈殿したタンパク質を遠心分離により回収し、抽出緩衝液に再溶解し、40%飽和の(NH4)2SO4で再度沈殿した(図2A)。沈殿したタンパク質を氷上で30分間再度攪拌し、抽出緩衝液中に再溶解し、貯蔵緩衝液(40mM Tris-HCl pH7.5、2mM DTT、1mM EDTA、0.25Mスクロース)に対して透析し、-20℃で貯蔵した。タンパク質の純粋な両親媒性形態を、SDSゲル電気泳動を含むさらなる調製工程により得た。タンパク質のゲルバンドを摘出し、25mM Tris-塩、192mMグリシンおよび0,035%SDS(pH8,3)中で砕き、上清を4℃での一晩インキュベーション後回収した。精製したタンパク質を貯蔵緩衝液(NH4)2CO3に対して透析し、氷冷アセトン含有エタノール/ドライアイス浴で沈殿させ、4℃で貯蔵した。タンパク質濃度を、Bradfordの方法(Anal. Biochem. 72 (1976), 284-254)により測定した。
【0052】
(B)電気泳動法
SDS-PAGEを、Laemmliの4〜15%ポリアクリルアミド含有不連続緩衝液の線形勾配ゲル上で実施した(Laemmli, Nature 227 (1970), 680-685)。試料を、電気泳動前に還元試料緩衝液中で2分間沸騰させた。タンパク質バンドを銀染色、またはCuCl2によるネガティブ染色により同定した。分子量を、Bio-Rad Laboratories(Munchen, Germany)から購入した分子量標準の位置と比較することにより評価した。ゲルをメタノール/酢酸またはエタノール/酢酸で固定し、クマシーブルーでまたは標準的な銀染色により視覚化した。
【0053】
(C)等電点電気泳動
1バンドあたり合計1〜5ngのタンパク質を、Pharmacia(Freiburg, Germany)から調達したPhastGel IEF勾配媒体に供した。試料を陰極から約10mmアプライした。さらなる対照をサンプルの次に陽極および陰極にアプライした。バンドを、製造業者の指示に従って銀染色法を使用して視覚化した。標準として、Pharmacia Broad pI Calibration KIT on PhastGel IEF 3-9を使用した。
【0054】
(D)化学的脱グリコシル化
一次構造解析用のACAタンパク質を調製するために、化学的脱グリコシル化を実施した。塩、金属イオンおよび洗剤を含まないタンパク質試料を、無水トリフルオロメタンスルホン酸(TMSF)(Oxford GlycoScience, UK)で4.5時間冷凍庫中で処理し、中和し、0,5%炭酸水素アンモニウム中で回復させた。次いで、中和した反応混合物を同じ緩衝液に対して透析し、沈殿した脱グリコシル化タンパク質を遠心分離により直接単離した。
【0055】
(E)タンパク質配列解析
化学的に脱グリコシル化されたタンパク質をトリプシンまたはAsp-Nで18時間37℃にて処理した。ペプチドを、C18逆相HPLCにより分離した。N末端配列を、気相シーケンサーを使用して自動化Edman分解により決定した。
【0056】
(F)無細胞抽出物
血球影の調製を、New York Blood Centerの倫理調査委員会により承認されたプロトコルに従って行った。簡単には、約2,3×106/mlの充填赤血球および赤白血病細胞(K-562)をPBS緩衝液で5分間5000rpmで一度洗浄した。上清を移動した後、1:20,5希釈のPBS含有蒸留水で細胞を溶解し、15.000rpmで10分間遠心分離した。上清を移動し、遠心分離チューブに接着した白血球の離散ペレットをまた除去した(Dodgeら, Arch. Biochem. Biophys. 100(1963), 119-130)。再懸濁した血球影を、白くふわふわになるまで、10mM Tris.HCl(pH7.8)で洗浄した。4,5積み重ねゲルおよび4〜15%分離ゲルを使用するSDS-PAGEに供する前に、等容積の単純緩衝液を添加し、2分間沸騰させた。
【0057】
あるいは、血球(2×106)含有PBSを等容積のPBSで5000rpmで5分間2回洗浄した。ペレットをPBS/水(1:20.5)に溶解し、氷上で10分間インキュベートし、遠心分離して、不溶性材料を除去した。上清を回収し貯蔵した。残存ペレットを10mM Tris-HCl(pH7.8)で抽出し、15分間15000gで遠心分離した。次いで、上清をSDS-PAGEおよび免疫ブロッティングで分析した。PI-PLCでの細胞の処理後、顆粒球の膜から放出されたタンパク質を、5容量の氷冷アセトンを添加し、ドライアイスエタノール浴中で30分間インキュベートすることにより沈殿させた。沈殿したタンパク質を10分間13500gで遠心分離し、ペレットから注意深くアセトンを除去し、残存アセトンが蒸発するまでペレットを空気乾燥した。回復したタンパク質をSDS-PAGEおよび免疫ブロッティングで分析した。
【0058】
正常皮膚および黒色腫腫瘍組織サンプルから膜タンパク質画分を調製するために、20個の凍結薄片20mμを氷上で緩衝液A(50mM Tris.HCl、pH7,5、25mm KCl、3mM MgCl2 0,25Mスクロース、1mM PMSF、2mMジチオスレイトール(dithiotheitol)、1mM EDTA)中で30分間インキュベートし、Ultra Turrax T8機械で均質化した。抽出物を1300rpm 10分間4℃で遠心分離し、不溶性材料を除去し、上清を回収し貯蔵した。残存ペレットを緩衝液Aでもう一度抽出し、遠心分離し、前の上清に添加した。上清中のタンパク質を5×容量の氷冷メタノールで沈殿し、サンプルを13.500rpmで遠心分離した。沈殿したタンパク質を緩衝液B(40mM Tris.HCl、pH7,5、2mM DTT、1mM EDTAおよび0,25スクロース)に溶解し、タンパク質濃度をBradfordの方法により測定した。
【0059】
(G)免疫ブロッティング
赤血球の血球影から調製した膜タンパク質(10〜30μg)および赤白血病(K-652)細胞の均質化組織を還元サンプル緩衝液と混合し、ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、次いで(than)に吐露セルロース膜に転写した。フィルターを3%BSA含有PBSでブロックし、抗体反応性を試験するために使用した。65kD GPIタンパク質に対するポリクローナルマウス血清を1:5000希釈で使用した。アルカリホスファターゼ(AP)とAPに対する色素発生基質としてのBCIP/NTB(Promega, USA)と結合体化した抗IgG二次抗体を使用して視覚化を実施した。
【0060】
あるいは、PI-PLC消化後の無細胞抽出物および上清を、還元条件下、4〜15%勾配ゲル上のSDS-PAGEに供し、次いでニトロセルロース上にブロットした。ニトロセルロース膜を、0.1%Tween-20および3%BSAを含有するTBSでブロックし、次いで、一次抗体と共に1時間インキュベートした。抗体を以下の濃度で使用した:1:1000希釈でモノクローナルマウス抗体(AC1、AB12)、1:500希釈でポリクローナルウサギ抗体(AL1)。二次抗体、アルカリホスファターゼ結合体化ヤギ抗マウスおよびヤギ抗ウサギIgG(Promega、Heidelberg、Germany)を1:10000希釈で使用した。5-ブロモ-4-クロロ-インドリルリン酸テトラゾリウム(BCIP/NTB)液体基質系(Boehringer Mannheim Gmbh、Germany)を、アルカリホスファターゼに対する色素発生基質として使用した。
【0061】
(H)ホスホリパーゼを用いる消化
Trypanosoma brucei由来のグリコシルホスファチジルイノシトール−ホスホリパーゼC(GPI-PLC)(Oxford GlycoScience, UK)を用いた消化を、1時間30℃で実施した。タンパク質のサンプルを、TBS(Tris緩衝化生理食塩水、20mM Tris-HCl、0,15M NaCl、0.1%のTriton X-114を含有、10mM TLCKおよび5mM EDTA)の添加によりさらに緩衝化し、5μl(25U/ml)の酵素とインキュベートした。5mUのホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC、(PI-PLC)(Bacillus cereus、Boehringer Mannheim Germany)とのインキュベーションを、トリエタノールアミン緩衝液(50mMトリエタノールアミン、10mM EDTA、および10mMアジ化ナトリウム、pH7.5)中で1時間37℃で実施した。アンカー特異的ホスホリパーゼD(ウシ血清EC3.1.4.50 Boehringer Mannheim)での消化を、20mM Tris-HCl pH7.4、0.1mM CaCl2Triton X-100 0.008%(w/vol.)中で60分間37℃で実施した。反応が終了した後、10μlの還元サンプル緩衝液を添加した。反応混合物を含有するチューブを沸騰水浴中に5分間配置し、続いて、サンプルのアリコートをSDS-PAGEおよび銀染色(PhastGel System、Pharmacia Biotech、Freiburg、Germany製)による分析に供した。
【0062】
あるいは、消化アッセイを、連続希釈(1〜5U/mL)グリコシルホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(GPI-PLC)(Bacillus thuringiensis、Oxford GlycoScience, UK)を含有し106精製顆粒球を含有する25μlのPBSを使用して、Tris-HCl緩衝液(pH7,4)中で37℃で1時間実施した。PI-PLC(Bacillus cereus、Boehringer Mannheim)を用いた可溶化を、0,5U酵素を用いて、200μl Tris.HCl緩衝液、10mM EDTA(pH7,8)中で37℃で1時間実施した。Bリンパ球上のACAの可溶化のため、Triton X-100を0,03%の濃度で後者に添加した。血球について記載したのと同じ反応条件下で、Bacillus cereus PI-PLCでの消化後、対照実験をHEL ACA陽性細胞上で同時に行った。ホスファチジルイノシトールホスホリパーゼD(GPI-PLD)(5mU)での消化を、精製顆粒球を用いて、20mmol/l Tris.HCl緩衝液(pH7.4)、0,1mmol/l CaCl2、0.008%Triton X-100中で37℃で60分間25μl反応容積で実施した。
【0063】
(I)抗CRD(交差反応決定基)アッセイ
GPI-PLC、PI-PLCおよびGPI-PLD切断タンパク質をSDS-PAGEに供し、ニトロセルロース上に移動した。ブロック後、抗原を、親和性精製抗CRD抗体(Oxford GlycoScience)を用いて視覚化した。洗浄後、結合した抗CRDを、ビオチン化ロバ抗ウサギIgGとのインキュベーションにより検出し、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼで視覚化した。陽性および陰性対象として、バリアント表面糖タンパク質の可溶性形態(sVSG)およびACAの膜形態を同時にブロットし、抗CRD抗体で現した。
【0064】
(J)ホスホリパーゼ作用の産物の同定
精製ACAタンパク質をPI-およびGPI-ホスホリパーゼCで消化し、トリアシルグリセロールアシルヒドロラーゼ(300U)(Rhizopus arrhizus EC 3.1.1.3.、Boehringer Mannheim、Germany)、続いて、カルボン酸(carboxylic)エステルヒドロラーゼ(30U)(ブタ肝臓由来EC3.1.1.1.、Boehringer Mannheim)を用いて、0.1mgドデシル硫酸ナトリウム/mlを含有する反応緩衝液中で25分間25℃でさらなる加水分解に供した。グリセロールを、購買者(Boehringer Mannheim)による記載のように、グリセロキナーゼ、(GK)ピルビン酸(pyrivate)キナーゼ、(PK)ならびに補助および指標酵素として乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(Boehringer Mannheim)を用いて測定した。リパーゼ、エストラーゼ、PK、LDH、GKはヘキソキナーゼ、ならびに他の干渉キナーゼおよびホスファターゼがなく、ATP(Boehringer Mannheim)は実質的にADPがなく、ホスホエノールピルビン酸PEP(Boehringer Mannheim)はピルビン酸がない。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の酸化による340nm、334および365nmでの吸光度の減少を測定した(図1)。
【0065】
(K)放射能標識
精製タンパク質を、RobertsおよびRosenberry(Biochemistry 25(1986), 3091-3098)に記載のように、3-(トリフルオロメチル)-3-(m-[125J]ヨードフェニル)ジアジリン([125J]TID)(Amersham)を用いて350nmで15分間の光分解により標識した。[125J]TID含有エタノール(5〜200μCi)のアリコート10μlを、1cm2ゴム栓付ホウケイ酸ガラス試験管中の500μlの緩衝化赤血球ACAタンパク質に添加し、穏やかにかき混ぜて、完全混合を確保した。光分解をBeckman分光光度計で、スリットを除去して20分間実施した。
【0066】
(L)薄相クロマトグラフィー(TLC)
GPI-PLCおよびPI-PLC切断[125J]TID標識タンパク質のサンプルを、トリアシルグリセロタンパク質アシルヒドロラーゼ、次いで、カルボン酸エステルヒドロラーゼを用いてさらなる加水分解に供し、この反応の脂質産物を、クロロホルム/メタノール/HCl(22:50:1)で抽出し、300gで15分間遠心分離した。下の相を除去し、窒素下で乾燥状態まで蒸発させた。残渣を、0.1mlのクロロホルム/メタノール(2:1)に再溶解し、これらの溶液をTLC板に定量的に塗布した。薄層クロマトグラフィーを、10×20cmシリカゲル板(Merck、Darmstadt、Germany)上で活性化せずに実施した。展開は、溶媒B[ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(60:30:1)]または溶媒A[ヘキサン/2-プロパノール(96:4)]のいずれかを用いた。放射性成分の位置を、Kodak XAR-5フィルムを用いる放射能写真により同定した。標準の位置を、乾燥させた板のヨウ素蒸気への曝露により捜し当てた。
【0067】
(M)ACAに対する抗体の生成
新規な赤血球膜タンパク質ACAを、上記のように正常なヒト赤血球から単離した。ラビットポリクローナル抗体(AL1)を、初回接種について100μg精製タンパク質を含有する完全Freundアジュバントおよびさらなる3度のブースターについて50μg抗原混合物を含有する不完全Freundアジュバントを用いる動物の免疫化により生成した。抗体力価を、ELISAならびに精製タンパク質および無細胞抽出物を用いる免疫ブロットにより測定した。2つのマウスモノクローナル抗体(AC1およびAB12)を、標準的なプロトコル(Fazekasら, J. Immunol. Methods 35(1981), 1-21)に従い作製した。簡単には、BALB/CマウスをACA含有Freundアジュバントで3回免疫化した。脾臓細胞を回収し、ハイブリドーマを作製し、クローニングした。抗体結合をELISAおよび免疫ブロットにより評価した。
【0068】
(N)細胞の分離
20人の健常なドナーのヘパリン化ヒト末梢血を開始材料として使用した。顆粒球を、Ficoll-Hypaque(Pharmacia、Freiburg、Germany)密度勾配上の遠心分離により血液から単離した。末梢血単核細胞(PBMC)を除去し、顆粒球を、30分室温でデキストラン/リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)溶液(Pharmacia)とインキュベーションした後、2000gで沈降させた。混入赤血球を低張溶解により除去した。TおよびBリンパ球を以前に記載した方法(Nicholson-Wellerら, Blood 65(1985), 1237-1244)により分離した。簡単には、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離により単離したPBMCを、RPMI 1640培地(GIBCO、Eggenstein、Germany)中に再懸濁し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)(GIBCO)を補充し、ノイラミニダーゼ処理ヒツジ赤血球とインキュベートした。BおよびTリンパ球を、ロゼット化リンパ球のFicoll勾配遠心分離後に分離した。細胞をPBSで2回洗浄し、使用まで4℃で維持した。各細胞集団の純度は>95%であった。トリパンブルーでの生体染色によって測定する場合、生存能は>95%であった。
【0069】
(O)抗体特徴付けのためのヒト細胞系統の生成
EBV形質転換PNH(GPI-欠損)Bリンパ球系統の生成のため、Ficoll-Hypaque分離PBMCを、CD48に対する抗体(GPIアンカー白血球マーカー)(Immunotech、Hamburg、Germany)とインキュベートし、続いて、ヒトAB血清を用いて相補溶解した(Taylorら, Biochem. J. 322(1997), 919-925;Tomita, Biochimica et Biophysica Acta 1455(1999), 269-286)。CD48および他のGPI連結表面抗原を欠損しているPNH細胞は、ヒトAB血清を用いて相補溶解した後も残っている(Taylorら, 1997)。正常なドナーから単離されたGPI陽性Bリンパ球およびPNH患者のGPI陰性Bリンパ球を、3時間37℃でEBV懸濁液と共にインキュベートし、フローサイトメトリーにより分析した。CD48-およびCD48+B細胞を、20%熱不活化胎仔ウシ血清(FBS)および2mmol/Lグルタミンを補充したDulbecco修飾Eagle培地(DMEM)(GIBCO)中で培養した。T細胞系統の生成のため、CD48-およびCD48+リンパ球の均質集団を、標準的な手順(Fleisher, J. Immunol. Methods 109(1988), 215;Hertensteinら, Blood 86(1995), 1487-1492)に従い限界希釈により得た。簡単には、PNH患者由来のPBMCを単離し、上記のようにTリンパ球を分離した。影響を受けたGPI-Tリンパ球を、Bリンパ球に対して前記のように富化した。細胞を、植物性赤血球凝集素で刺激したPBMCの供給層および上清として照射同種異系PBMC上の組織プレート(histoplate)(Nunc, Roskilde, Denmark)中で増殖させた。Tリンパ球を0,1、0,3および1,0細胞/ウェルで接種した。増殖クローンをより大きなウェルに移動し、すでに記載したように、照射PBMCで弱く再刺激した。16T細胞クローンを、7,5%ヒトAB血清および20U/mL組換えヒトインターロイキン2を補充したRPMI 1640培地(GIBCO)中で培養し、二色フローサイトメトリーにより分析した。MOLT 4、CEM、Jurkat J6のようなT細胞系統を、10%FBSおよび2mM/Lグルタミンを補充したRPMI 1640培地中で培養した。ヒト赤白血病(HEL)細胞系統を、2mMグルタミンおよび10%FBSを補充したRPMI 1640培養培地中で増殖させた。
【0070】
(P)フローサイトメトリー解析
(i)血液試料
全血のフローサイトメトリーを、別の文献に記載(Schrezenmeierら、Exp. Hematol. 23 (1995), 81-87)の2ステップ法を使用することにより行なった。簡単には、EDTA血100μlに、0.1%BSAおよび5%ウマ血清を含むPBS50μlを添加し、37℃で30分間インキュベートした。次いで、混合物を、マウスモノクローナルAC1またはAB12抗体2μl、または無関連イソタイプ対照、続いてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識ヤギ抗マウスIgG(Dako, ハンブルク, 独国)とともに室温で20分間インキュベートした。洗浄およびIMMUNO-LYSIS作用溶液(Coulter Clone, ハイアレア, フロリダ州)1mlとの2分間のインキュベション後、細胞を1%パラホルムアルデヒドで固定し、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson, ハイデルベルク, 独国)を用いて解析した。データを、LYSIS IIソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて解析した。蛍光強度を対数目盛り上に示した。顆粒球、単球およびリンパ球を、特徴的な前方直角光散乱により同定し、ゲート制御(gate)し、各試料について少なくとも10000事象を解析した。赤血球の解析には、静脈血試料2μlを、PBS/BSA/ウマ血清試薬200μlに添加し、37℃で30分間インキュベートした後、AC1、AB12または対照として同じサブクラスの無関連モノクローナル抗体とともに20分間インキュベートした。洗浄後、ペレットを二次抗体を含有するPBS/BSA200μl中に再懸濁し、室温で20分間のインキュベーション後、細胞を3回洗浄し、ペレットを0.1%BSAを含むPBS2ml中に再懸濁し、パラホルムアルデヒドを最終濃度2%まで添加した。赤血球を、ゲート制御無しで、10000個の細胞を測定することにより解析した。網状赤血球の解析には、0.1%BSAを含むPBS1mlおよびEDTA血2μlを、1mlのチアゾールオレンジ溶液(Retic-count)(Becton Dickinson)とともに室温で20分間インキュベートした。RNA用染料であるチアゾールオレンジによる網状赤血球の染色により、赤血球と網状赤血球との個別の解析が可能となった。二色解析を、特異的細胞マーカー(抗TCRおよびCD2;Coulter Immunotech, ハンブルク, 独国)、(CD19、CD20、CD38;Becton Dickinson)、(CD5;Dako, ハンブルク, 独国)に対する種々のFITCまたはフィコエリトリン(PE)で標識された市販のモノクローナル抗体を、製造業者が推奨する希釈率で使用した以外は上記のようにして第3工程として行なった。2つの検出器間の蛍光シグナルの交差部の色補正を至適解析のために調整した。一色および二色解析の両方において、陰性画分を陰性対照集団とほぼ同じ低強度を有する細胞として定義し、陽性画分を陽性対照集団と同様の強度を有する細胞として定義した。
【0071】
(ii)単離された血球および細胞株
単離された顆粒球、BおよびTリンパ球の免疫学的表現型解析を、上記のようにして行なった。簡単には、PBS中の細胞懸濁物100μlを、一次抗体AC1およびAB12または無関連モノクローナル抗体の適切な希釈物2μlとともに室温で20分間暗所にてインキュベートし、洗浄し、ヤギ抗マウスPEまたはFITC IgGとともにインキュベートした。二色解析を、CD19、CD20、CD3、CD4、CD8(Becton Dickinson)などの特異的細胞マーカーに対するFITCまたはPE標識モノクローナル抗体を、推奨された希釈率で直接用いることにより第3工程として行なった。2つの検出器間の蛍光シグナルの交差部の色補正を至適解析のために調整した。細胞を3回PBSで洗浄し、FACSバッファー(PBS中1%BSAおよび0.2%アジ化ナトリウム(natriumazide))中に106/mlで再懸濁させた後、細胞株の免疫蛍光解析を行なった。すべての染色工程は、氷上で行なった。種々の細胞を、一次抗体AC1、AB12(30μg/ml)またはCD55(Serotec, ウィースバーデン, 独国)とともに30分間インキュベートした後、FITC結合二次抗体とともにインキュベートした。細胞を3回FACSバッファー中で洗浄し、1%ホルムアルデヒドで固定した。PI−PLCによる切断に対する感受性を、以下に記載した細胞のインキュベーションにより評価した。細胞を洗浄し、記載のようにして染色し、フローサイトメトリーにより解析した。
【0072】
(Q)腫瘍組織および細胞株
ハイデルベルク大学の患者から切除した正常皮膚および皮膚メラニン細胞病変から代表的な組織試料を新たに得た。これらを液体窒素中でスナップ凍結し、切片作製まで−80℃で保存した。5μmクリオスタット切片を正常皮膚および異なる段階のメラニン細胞腫瘍進行を含む異なる皮膚腫瘍から切り出し、室温で一晩風乾し、試薬グレードの低温(−20℃)アセトンを含むCoplinジャー内で20分間固定した。次いで、スライドを室温で10分間乾燥し、染色チャンバ内でPBS、5%BSAとともに30分間インキュベートし、非特異的結合を排除し、次いで(than)、ACAに対する一次抗体(1:2000〜1:4000の希釈率)とともにインキュベートした。洗浄後、切片を、結合抗体(ビオチン化ウサギ抗マウス免疫グロブリン)、ストレプトアビジン−ビオチン複合体、増幅試薬およびストレプトアビジン−ペルオキシダーゼとともに逐次インキュベートした。結合したモノクローナル抗体を、赤色発色を生じるAECで検出した。切片をHarrisヘマトキシリンで対比染色し、最後に水性マウント培地に置いた。
【0073】
正常ヒト表皮メラニン細胞およびケラチノサイトをPromo-Cell(独国)から購入し、血清およびホルボールミリステート(myristat)アセテート(PMA)無含有メラニン細胞(ケラチノサイト)成長培地中で単層として培養した。免疫組織学的染色のため、細胞を、特別なチャンバ内で単層として成長させた。固定および染色は、前述の手順に従う。ヒト赤白血病(HEL)、ヒト細網肉腫(U937)、ヒト前骨髄性白血病(HL−60)およびヒト慢性骨髄性白血病(K562)細胞株を、2mMグルタミンおよび10%FBSを補充したRPMI 1640培養培地中で成長させた。細胞株の一色フローサイトメトリーを、上記の手順にしたがって行なった。
【0074】
実施例2: ACAの精製および精製ACAのアミノ酸配列決定
タンパク質の調製に2ステップ精製手順を適用した。第1工程は、ヘモグロビン無含有膜の破壊、続いて種々の飽和度の硫酸アンモニウムでの反復沈殿および調製用電気泳動(図2A)を含む。調製物の純度を、SDS−PAGE(図2、AおよびB)および等電点電気泳動(IEF)(図3、AおよびB)により評価した。調製物は、プールされたヒト赤血球の種々のバッチから得た。分解産物はいずれの調製においても同定されなかった。
【0075】
精製し、化学的に脱グリコシル化したACAを、N−末端アミノ酸配列決定に供した。配列が得られなかったことは、N−末端がブロックされていることを示す。したがって、タンパク質を不活化し、トリプシン処理し、11個の内部ペプチドについて配列を確立した(図4)。ペプチドAのみがスペクトリン(spectrin)の第1230〜第1248領域との相同性を示す。
【0076】
実施例3: ホスホリパーゼでの消化
さらに、このタンパク質、特にその脂質部分の生化学的特徴に着目し、これを、ヒト赤血球の表面上に発現されるいくつかの他のGPI結合分子と比較した。真核細胞の多くのタンパク質は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)への共有結合により膜にアンカーとして結合している。膜貫通ドメインを欠くこれらのタンパク質は、細胞質テイルを持たず、したがって、もっぱら原形質膜の細胞外側に位置する。グリコシル化ホスホイノシトールがアンカーされた分子は、構造が多様化した生体高分子のファミリーであり、このファミリーとしては、原生動物外被成分、活性化抗原、補体調節タンパク質、接着分子、膜結合酵素および多くの他の糖タンパク質が挙げられる。この型の細胞膜結合は、この抗原のタンパク質部分が、膜の外側に位置し、潜在的に高い側方移動度を有し、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)特異的ホスホリパーゼCの作用により細胞から放出され得ることを示唆する。GPIアンカーは、重要なエレメントが、原生動物寄生動物から哺乳動物までの広範囲の系統発生にわたって保存されるため、妥当に明確に定義づけられたクラスの構造とみなし得る。このアンカーは、エタノールアミン−PO4−6Manα1−2Manα1−6Manα1−4GlcNH2−α1−6myo−イノシトール−1−PO4−脂質の線状コアグリカン配列を含む。異なるGPIアンカー結合タンパク質間の不均一性は、主に、脂質組成物において生じる。VSGアンカーは、ジミリストイルホスファチジルイノシトールのみを含み、一方、リーシュマニアプロマスティゴート表面プロテイナーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼ(AchE)、崩壊促進因子(DAF)および反応性溶解の膜インヒビター(MIRL)のような赤血球上のものを含む多くの哺乳動物GPIアンカー結合タンパク質は、ほぼ排他的に1−アルキル−2−アシルイノシトールリン脂質(これは、一般的にヒトアンカーの特徴であると思われる)を含む(Ratnoffら, Clin. Exp. Immunol. 87 (1992), 415-421)。また、いくつかのGPIアンカーは、さらなる脂肪酸(パルミテート)を、イノシトール環にヒドロキシルエステル結合した状態(これにより、Trypanosoma brucei由来の細菌性ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI−PLC)およびGPI特異的ホスホリパーゼ(GPI−PLC)の作用に抵抗性となる)で含有する。このホスホリパーゼ抵抗性の理由は、最初にヒト赤血球アセチルコリンエステラーゼについて、その後、ヒト赤血球崩壊促進因子について記載された。イノシトール環の2位における置換の存在により、パルミトイル化アンカーのPI−PLC抵抗性が説明され得る。というのは、細菌PLC酵素が、イノシトール環の2位のヒドロキシル基によるリン原子の求核性攻撃により機能を果たすからである。この所見により、パルミテートによるmyo−イノシトールの2位のヒドロキシル基の占有が、自動的に、この酵素の作用を排除し得るという示唆がもたされた。DAFおよび他のいくつかのGPI結合タンパク質について示されたように、これらは、示差的イノシトールアセチル化を示し得、この構造バリエーションは、細胞特異的な様式で調節されるが、同時にタンパク質依存性でもあり得る(Chenら, PNAS USA 95 (1998), 9512-9517)。異なる血球型間でのGPIアンカー構造の多様性の生物学的関連は、完全に理解されていないままである。疎水性ドメイン内におけるさらなる脂肪酸鎖の存在(アシル化)は、おそらく、膜の外部リーフレットへの分子の結合を改善する。この赤血球結合アンカーにおけるイノシトール環上のアシル鎖の存在により、これらの構造を、精製したとき、PI−PLCによる切断に対して抵抗性となり、PI−PLD切断に対しては感受性が低くなる。ホスファチジル特異的ホスホリパーゼCの細胞溶解機構をブロックすること、またはアンカー特異的ホスホリパーゼDによるホスファチジル酸の切断後の膜結合を維持することのいずれかによる、ホスホリパーゼにより解除(release)される抵抗性は、これらのタンパク質の膜安定性を経時的に増強し得、これは、白血球と比べ、循環系における赤血球の寿命が長い(120日)ことと一致する。
【0077】
以下の実験は、主に、ACAの脂質構造の一次構造および分子パラメータを決定するため、およびこれらのパラメータを他のGPI結合タンパク質のものと比較するために行なった。細菌性ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼ(PI−PLC)による膜表面からの放出に対するタンパク質の感受性は、GPIアンカーの存在に対する独自の指標である。しかしながら、既に先に記載したように、一部のGPIアンカーは、赤血球膜タンパク質などの細菌性PI−PLCによる加水分解に対して抵抗性であり、この抵抗性は、イノシトール環上のさらなるアシル化に依存する。
【0078】
ACAが、グリコシルホスファチジルイノシトールへのC末端アミノ酸残基の共有結合による膜二重層内にアンカーとして結合しているか否かを調べるため、ホスファチジルイノシトールのホスホジエステル結合の特異的加水分解を、異なるアンカー分解酵素を用いて調べた。最初に、PI−PLCの赤血球膜タンパク質画分に対する影響は、非常に弱い電気泳動バンド(これは、後に、新規なヒト赤血球タンパク質として同定された)の消失をもたらすことが観察された。赤血球の表面上におけるこのタンパク質の存在量は非常に少ないため、この分子の脂質部分を、精製タンパク質にてさらに解析した。ホスホリパーゼCは、ホスホジエステル結合を加水分解し、1,2-ジアシルグリセロール、アルキルアシルグリセロールおよびリン酸化極性ヘッド基を生じ、一方、ホスホリパーゼDは、ホスホジエステル結合を加水分解し、リン酸化1,2-ジアシルグリセロールまたはアルキルアシルグリセロールおよびヒドロキシル基が露出した極性ヘッド基を生じる。図5Aに示すように、アンカー分解ホスホリパーゼに対する抵抗性が維持されたACAタンパク質の部分はなかった。天然のインタクトなタンパク質は、低速移動を示し、これは、界面活性剤ミセル会合を示す。PBC ACAのPIおよびGPI−PLC加水分解タンパク質は、界面活性剤無含有親水性種に特徴的な、より高速の移動を示した。
【0079】
グリコシル−ホスファチジルイノシトールホスホリパーゼDで処理したACAタンパク質は、天然タンパク質と比べると、電気泳動移動度の変化を示さない(図5B)。GPI−PLDで消化したタンパク質の電気泳動移動度が、GPI−PLCで消化したものと比べて低いことは、分解されたタンパク質のイノシトール環上にリン酸基(負電荷)がないことによる。
【0080】
実施例4: ACA上の交差反応決定基(CRD)エピトープの存在
可溶性形態のバリアント表面糖タンパク質(sVSG)に対して惹起させたポリクローナル抗体は、他の無関連GPIアンカータンパク質と交差反応する。この「交差反応決定基」(CRD)は、タンパク質が、細菌PI−PLCまたは真核生物GPI−PLCのいずれかの作用により親水性形態に変換されたときのみ露出される。可溶性形態のバリアント表面糖タンパク質(sVSG)の場合、3つの重複エピトープ、アンカーのホスホリパーゼC切断時に生じたイノシトール1,2-環状ホスフェート、非アセチル化グルコサミン残基および可変ガラクトース分枝が、この認識に関与する。また、哺乳動物タンパク質について、この認識に関与する主要エピトープがイノシトール1,2-環状ホスフェートであることが知られている。したがって、抗CRD抗体によるホスホリパーゼC切断後のタンパク質の認識は、GPI−アンカーの存在の最も強力な証拠である。次の一連の実験において、抗CRD抗体が可溶性形態の単離ACAタンパク質を認識するか否か調べようとした。ここに示すように、ヒト赤血球ACAは、ホスホリパーゼCの作用に対して>99%PI−PLC感受性を示す。グリコシルホスファチジルイノシトールホスホリパーゼCで消化したタンパク質を電気泳動させ、次いで(than)、抗CRD抗体を用いてウエスタンブロットに供した(図6)。陽性対照として、膜形態のバリアント表面糖タンパク質(mVSG)を、同じアンカー分解ホスホリパーゼで消化した。陰性対照として、天然型のACAおよびGPI−PLD切断タンパク質を同時にブロットし、抗CRD抗体で標識した。GPI−PLD切断分子は、抗CRD抗体と反応せず、これは、この酵素が、ホスホジアシルグリセロールおよび1,6 myo−イノシトールを反応生成物として生成させ、D−myo−イノシトール1,2−環状ホスフェートの形成を妨げることによりCRD抗原決定基を破壊することを示す。また、膜形態のACAを陰性対照として用いたが、予期した通り、抗CRD抗体により認識されなかった。
【0081】
実施例5: ACAアンカーの脂質置換基の同定
PI−およびGPI−PLCで消化した精製タンパク質を、トリアシルグリセロールアシル−ヒドロラーゼでさらに加水分解し、1,2ジグリセリドおよび脂肪酸を第1反応生成物として得た後、カルボン酸エステルヒドロラーゼ(可溶性グリセリドの特異的切断により完全加水分解を加速する酵素)により、グリセロールおよび脂肪酸を最終反応生成物として得た。次いで、グリセロールを、GK、PKおよびLDHを補助酵素および支持酵素として用い、酵素的に測定した。ACAアンカーの脂質テイルの完全加水分解をもたらす、すべての酵素反応およびグリセロールの測定のための酵素反応のスキームの概略を図1に示す。NADHの酸化による340nm、334nmおよび365nmにおける吸光度の減少を測定し、放出されたグリセロールをg/lで算出した。PIおよびGPIホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼによる加水分解、次いで特異的脱アセチル化により放出されたグリセロールの量は同程度であり、これは、ACAにおける両酵素の比活性が同じであることを示す(表I)。
【0082】
【表1】
【0083】
データは、ACA脂質テイルの完全加水分解後に放出されたグリセロールの量を示す。
【0084】
赤血球ACA内の疎水性ドメインの構造、特に脂肪酸組成をさらに調べるため、生成した断片を、アンカーの完全加水分解により解析した。使用した光活性化試薬[125J]TIDは、膜の脂質相に強く有利に分配されることが示された光生成カルベンであり、高度に選択的な様式で固有膜タンパク質の脂質基を標識する。[125J]TID標識された精製タンパク質の試料を、GPI−ホスホリパーゼCでの加水分解に供した。これらの反応の脂質生成物を、高度に特異的なリパーゼであるトリアシルグリセロールアシルヒドラーゼおよびカルボン酸エステルヒドラーゼで、実験手順に記載のようにして、さらに加水分解した。放出された放射性標識断片を抽出し、薄層クロマトグラフィーおよびオートラジオグラフィーにより解析した。trypanosoma brucei由来の膜形態のバリアント表面糖タンパク質(mfVSG)を、[125J]TID標識し、ACAと同様にして加水分解し、対照として薄層クロマトグラフィーに供した(図7)。
【0085】
ACAのアンカーの完全加水分解により得た主要な脂質種は、市販のVSGの標識脂肪酸テイルと同じ移動度を示し、これは、同じ1,2−ジアシルミリステート構造を示すが、アルキルアシルグリセロールおよび分子の脂質テイルとして異なる脂肪酸を有する他の赤血球GPI結合タンパク質とは異なる。
【0086】
実施例6: ACA特異的抗体の生成およびその赤血球における発現の検出
6匹のBALB/cマウスの免疫化に必要な大量のタンパク質を得るための精製方法を、標準プロトコルにしたがって確立した。この新規分子の理解を深めるため、まず、マウスポリクローナル抗体を作製し、その特異性を、粗製タンパク質抽出物、精製タンパク質、赤血球膜および細胞無含有抽出物の異なる試料を用いて試験した。ポリクローナル抗体の特異性は、種々のタンパク質画分を用い、ウエスタンブロットにおいて試験した。実施例1に記載のようにして赤血球膜から得た硫酸アンモニウムタンパク質抽出物を、保存バッファーに溶解し、同じバッファーに対して透析し、還元SDS−PAGEに供した。均一に精製したACAタンパク質および赤血球ゴーストから得たタンパク質抽出物およびヒト赤白血病細胞株(K−562)から得たゴーストを、SDS−PAGEに供し、次いで、ニトロセルロース膜に写した。ポリクローナルマウス血清は、ACAタンパク質に相当する65kDバンドと特異的に反応した(図8)。他のタンパク質との反応は観察されなかった。赤血球の粗製タンパク質抽出物の弱いバンドは、ヒト悪性血球と比較すると、この新規抗原に対して高特異性の抗体、および赤血球の原形質膜においてこの分子の非常に低い存在量を示す。
【0087】
実施例7: 末梢血球におけるACAの発現
種々の末梢血球におけるACAのインビボ発現を調べるため、フローサイトメトリー、およびACAタンパク質に指向されたモノクローナルAb(AC1およびAB12)ならびにポリクローナル抗体AL1を用いたイムノブロット解析を行なった。結果を、図9(a〜f)および図16(a,b)に示す。両方のモノクローナル抗体が、顆粒球、単球およびリンパ球の小数の亜集団と強く反応することがわかり、これは、これらの細胞におけるACAの発現を示す。20例の健常志願者の解析で得られた各集団における陽性細胞の割合を、図10に示す。
【0088】
実施例8: ACAのGPI−アンカー
ACAが膜脂質二重層に埋込まれた形態を調べるため、GPIアンカーを加水分解し、かつGPI結合タンパク質を細胞膜から除去する酵素であるホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI−PLC)での処理後に、健常志願者由来精製顆粒球およびリンパ球を解析した。1時間のPI−PLCへの曝露後、顆粒球はACA陰性となり、GPIアンカータンパク質の存在が認められた。顆粒球のPI−PLC処理の代表的なヒストグラムを図11bに示す。さらなる陰性対照を、精製顆粒球において、グリコシルホスファチジルイノシトールホスホリパーゼD(PI−PLD)を用いて行なった。この酵素は、GPI結合タンパク質と、イノシトール環がアセチル化(多くのタンパク質をPI−PLCの作用に対して抵抗性にする化学修飾)されたものとさえ反応することが知られている。しかしながら、この酵素は、インタクトな膜由来のGPIアンカータンパク質を可溶化することができないが、この膜由来のタンパク質が可溶化されたとしても、これらをそのアンカーから分離するにすぎない。健常ドナー由来の顆粒球をGPI−PLDで処理すると、予期した通り、ACAは、細胞表面から除去されなかった(図11c)。対照実験において、PI−PLCでの消化を、培養ヒト赤白血病(HEL)細胞株において行ない、ACAおよびGPIアンカーDAFタンパク質(CD55)の発現をモニターした。HEL細胞は、顆粒球で使用したものと同じ反応条件下におけるPI−PLCの作用後、ACA−およびCD55−陰性になる(図11d〜f)。
【0089】
実施例9: ACAは、末梢B細胞において発現する
図9に示すように、リンパ球の亜集団のみがACAを発現する。当該亜集団を特定するため、ACAの発現を精製末梢血Bリンパ球で解析した。第1の実験では、B細胞を健常ドナーからロゼット法により単離した。ACA特異的モノクローナル抗体を用いた一色解析において、単離細胞の90%超が、このタンパク質の発現を示した(図12a)。顆粒球の消化で用いたものとは若干異なる反応条件下で、PI−PLCを有する細胞の表面からACAを一部除去した。界面活性剤Triton X-100を酵素溶液に添加し、その比活性を増大させた。ACA抗体による染色は顕著に低下し、これは、この抗原もまたホスファチジルイノシトール(PI)に結合していることを示す(図12b)。しかしながら、より高濃度のPI−PLCでの処理は、ACA抗体の結合のさらなる減少をもたらさず、これは、すべての分子がこの酵素に対して感受性であるわけではないことを示す(図12b)。精製Bリンパ球の二色解析は、すべてのCD19およびCD20陽性細胞がACA陽性であったことを示し(図12c〜e)、末梢血リンパ球は、細胞の約10〜15%が、CD19、CD20およびBリンパ球亜集団に相当するACAを同時発現することを示す(図12f〜h)。
【0090】
実施例10: EBV形質転換された正常Bリンパ球および発作性夜行性血色素尿症(PNH)Bリンパ球におけるACAの発現
EBV形質転換された正常Bリンパ球およびPNH患者Bリンパ球におけるACAの発現をさらに解析した。発作性夜行性血色素尿症は、欠陥性GPIアンカータンパク質により引き起こされる補体媒介性溶血性貧血を特徴とする後天性の血液学的障害である。一色フローサイトメトリーにおいて、EBV形質転換されたPNH Bリンパ球は、抗ACA抗体を用いると、健常志願者から得たEBV形質転換Bリンパ球の場合(図13a)と比べ、有意に低減された蛍光を示す(図13b)。
【0091】
実施例11: ACAはT細胞において発現されない
T細胞におけるACAの発現を、ACA特異的抗体を用いた精製末梢血Tリンパ球の二重染色により解析した(図14)。T細胞を、材料および方法に記載のようにして末梢血から単離し、典型的なT細胞マーカー(CD3、CD4およびCD8)で二重染色した。精製Tリンパ球のうち95%超がACA陰性であった(図14a〜d)。さらに、PBMCの二色解析により、以前のデータを確認した。CD2およびCD5などの典型的なT細胞マーカーを発現する細胞は、ACA陰性であった(図14e〜h)。さらにまた、γδT細胞亜集団ですらACA陰性であった(図14f)。PNH患者から得たGPI陽性およびGPI陰性T細胞クローンを、二色フローサイトメトリーにより解析した。GPI結合CD48抗原を発現する細胞でさえ、完全にACA陰性であった。代表的なヒストグラムを図15a、b、cに示す。さらに、T細胞起源の悪性種由来の種々の細胞株(MOLT4、CEM、JURKAT J6)を解析した。これらは、いずれもACAの表面発現を示さなかった(図15d〜f)。この所見により、本発明者らは、ACAはB細胞において排他的に発現されると結論づけた。
【0092】
実施例12: 赤血球、顆粒球およびB細胞の可溶化膜におけるACAの検出
種々の末梢血球から得た可溶化ACAを、電気泳動により分離し、ニトロセルロースに写した。次いで、フィルターを抗ACA抗体で検索した。抗体は、可溶化された顆粒球およびB細胞において、ACAに相当する65kDのタンパク質を認識した(図16a)。さらにまた、ACAタンパク質は、PI−PLCでの処理後に顆粒球培養物の上清みにおいて免疫学的に検出されたが、処理前には検出されなかった(図16b)。赤血球におけるACA発現に関するフローサイトメトリーで得られた陰性結果(これらの細胞における該分子の非常に低い存在量を反映する所見)とは対照的に、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を用いたイムノブロッティングは、赤血球におけるACAの存在を明白に示す(図16)。
【0093】
実施例13: ACAは、黒色腫細胞および一部の白血病細胞において過剰発現される
癌発生中の特異的シグナル伝達経路におけるACAの考えられ得る役割を明らかにするため、広範な一連の良性および悪性細胞病変およびその転移を、ACAの発現および分布について調べた。
【0094】
結果
(A)正常皮膚におけるACAの分布
休止メラニン細胞における弱いACA発現
ACAは、正常皮膚の基底層全体に散在するメラニン細胞において発現される。基底層上部のランゲルハンス細胞(単球由来!)は染色されるが、程度は少ない(図17a、b)。
【0095】
分裂中のメラニン細胞における強いACA発現
メラニン細胞は、ACAに対するモノクローナル抗体により不均一に染色される。最も高いACA発現は、細胞が分裂したとき、すなわちG2期から有糸分裂に進行するときに見られた(図18a,b)。
【0096】
ケラチノサイトにおいてACA発現はない
始原ヒト表皮ケラチノサイトおよびケラチノサイト細胞株(HaCaT細胞)(ドイツ癌研究センターのFusenig教授よりご提供頂いた)は、免疫細胞学的染色(図19a、b)またはウェスタンブロッティング(図19c)においてACAの発現を示さない。
【0097】
(B)皮膚新生物におけるACAの発現
先天性母斑の分裂メラニン細胞における強いACA発現
基底表皮層およびその上部の先天性母斑メラニン細胞は、ACAに対する抗体と強く反応する。大きな先天性母斑の3分の1が、いわゆる増殖節に相当する、かなり色素沈着した細胞の小クラスターにおいてACAを発現した。真皮層内の同じ細胞型(主に、非分裂メラニン細胞!)は、染色されなかった。これらの結果は、分裂細胞におけるACAの優先的発現に関する以前の所見を確認するものであり、転移潜在性を有する細胞は、最高のACA発現を有することを示す(図20)。
【0098】
黒色腫細胞における強いACA発現
ACAの発現は、始原転移黒色腫において高度にアップレギュレーションされる(図21a、b)。したがって、ACAに対する抗体を黒色腫の転移の検出に使用することができる(図22a、b)。
【0099】
ACAは、基底細胞癌腫および有棘細胞癌腫においては発現されない
ACAの発現は、メラニン細胞病変および黒色種病変に特異的である。基底細胞癌腫および有棘細胞癌腫などの他の型の皮膚腫瘍は、ACA陰性である(図23a、b)。
【0100】
イムノブロッティングにより、黒色腫において高ACA発現が認められる
ACAに対するモノクローナル抗体を用いたホモジナイズした正常皮膚および黒色腫腫瘍組織のイムノブロット解析により、抗体の特異性、および正常組織と比べたときの黒色腫におけるこのタンパク質の発現増加が認められる(図24)。
【0101】
(C)他の腫瘍におけるACAの発現
ホモジナイズした新たな腫瘍組織のイムノブロット解析により、腎臓癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、黒色腫および骨髄腫におけるACA抗原の発現が示される(図25)。
【0102】
(D)造血細胞におけるACAの発現
ACAは正常ヒト前駆細胞において発現される
種々の細胞マーカーを用い、ACA同時発現に関して実施例1で記載した一色または二色フローサイトメトリーにより、精製骨髄前駆細胞調製物を解析した。図26b〜dは、本試験(CD34/CD38、CD34/CD90、CD34/CD117の同時発現)で用いた前駆細胞集団を解析したものである。図26e〜hは、CD34/CD38−、CD34/CD90−、CD34/CD117−、CD34/HLA−DR−陽性細胞におけるACAの同時発現を示す。図26j〜lは、以下の細胞マーカー:CD13(骨髄系マーカー)(図26j)、CD33(汎骨髄系マーカー)(図26k)、CD34(造血前駆細胞マーカー)(図26l)とのACAの同時発現を示す。図26a、iは陰性対照を示す。
【0103】
ACAは白血病細胞において発現される
一色フローサイトメトリーのヒストグラムは、ヒト赤白血病(HEL)(図27a)、ヒト前骨髄性白血病(HL−60)(図b)およびヒト慢性骨髄性白血病(K−562)(図27c)におけるACAの発現を示す。ヒト白血病細胞株の細胞無含有抽出物の抗ACA抗体を用いたイムノブロット解析により、ACA発現が認められ、ACAが、赤血球について初めに記載されたものと同じ分子サイズを有することが示される(図28)。
【0104】
発作性夜行性血色素尿症(PNH)患者由来の顆粒球におけるACAの発現
ACAは、PNH顆粒球において発現されるが、PNH Bリンパ球においては発現されないが、正常B細胞は、このタンパク質を発現する。PNHは、補体媒介性溶血、欠陥性造血および偶発する白血病を特徴とするクローン幹細胞障害である。PNHにおける生化学的障害は、GPIアンカーの欠陥性合成を伴う。この欠陥の結果、罹患細胞は、補体調節に関与するタンパク質、免疫学的レセプター、酵素および機能が未知のいくつかのものを含む、GPI結合を利用するすべての表面タンパク質を欠く。
【0105】
PNHに見られる分子欠陥は、GPIアンカー生合成の第1段階に関与するX連鎖遺伝子であるPIG−Aにおける1つ以上の後天的変異によるものである。ACAの異常発現パターンがPNH血球に見られた。PNH患者のEBV形質転換Bリンパ球は、劇的に低下したACA発現を有するが、PNH顆粒球は、この抗原の正常表面発現を示す(図29)。
【0106】
代表的なヒストグラムは、
PNH顆粒球におけるACAの正常表面発現(図29a、b)、
健常ドナー(レーン1)とPNH患者(レーン2)から得た顆粒球膜タンパク質画分の抗ACA抗体を用いたイムノブロット解析(図29c)、
ホスホリパーゼCでの処理の前と後でのPNH顆粒球膜タンパク質画分の抗ACA抗体を用いたイムノブロット解析(図29d)、
健常人(図29e)およびPNH患者(図29f)由来顆粒球の上清み液におけるACAの可溶性形態
を示す。
【0107】
PNH顆粒球におけるACAの存在は、おそらく、PIG−A変異に関連しない異常PNH顆粒球のいくつかの性質を説明し得る。これまで、異常PNH細胞は、骨髄および末梢血内でクローン優位を成すことが観察されている。PNHの患者の多くにおいて、その循環顆粒球および赤血球の80%超がGPI欠陥性であり、これは、異常PNHクローンが、正常前駆体よりも有利な成長を有することを示す。また、PNH細胞は、アポトーシスに対して相対的に抵抗性であり、この特徴は、PNH細胞が正常前駆体よりも成長の有利性を維持する主な機構であると思われ、この疾患がより攻撃的な血液学的障害に変換される傾向において、ある役割を果たし得る。細胞増殖を増強するシグナル、または、アポトーシスをブロックし、細胞の生存を増強するシグナルにより、非調節クローン成長が起こり得る。PNH顆粒球におけるACAの存在は、この増殖有利性を変異造血幹細胞に付与し得、白血病の発症に、ある役割を果たし得る。
【0108】
PIG−A変異にもかかわらず、ACAは、どのようにPNH顆粒球の表面上に発現され得たのであろうか。GPIアンカータンパク質がある細胞膜から別の細胞膜に移動する独自の潜在性は、既に示されている。GPIアンカータンパク質は、インタクトで機能性のまま移動することが示された。この現象の示唆は、疾患伝染(プリオン)、細胞保護(内皮細胞)または細胞表面のタンパク質工学(これは、遺伝子導入なしで細胞の表面タンパク質組成を操作し得る潜在的に効果的な技術である)を含む多くの領域に存在する。この観察は、GPI結合タンパク質が細胞上に「ペイント」される潜在性を示す(ペイントされない場合は、細胞は、外因性タンパク質を発現することができない場合がある)。また、アンカーを合成することができ、ACAの既に示された機能による別の細胞(おそらく、幹細胞!)からPIG−A変異PNH細胞内へのACA「ペイント」は、PNH顆粒球について既に記載したすべての異常性の原因であり得る可能性がある。
【0109】
正常皮膚および黒色腫におけるACAの発現は、同じ現象を示す。正常皮膚において、ACAは、基底層全体に散在するメラニン細胞において発現され、程度は少ないが、基底層上部においても発現される。ランゲルハンス細胞(単球由来!)において予期した発現は見られたが、抗ACA抗体のケラチノサイトとの別の反応(「消失性」)も見られた。培養中のケラチノサイトは、抗ACA抗体との反応を示さない。また、抗ACA抗体を用いたケラチノサイトのイムノブロット解析は陰性であった。これらのデータは、ACAが、おそらく、別の細胞から移動してきてケラチノサイト上にペイントされることを示す。抗ACA抗体で染色した始原黒色腫および黒色腫転移の凍結切片は、このタンパク質の非常に強い発現、および正常皮膚でも見られた同じ「消失性」を示す。
【0110】
先天性母斑は、基底膜よりもメラニン細胞においてACAの強い発現を示し、この場合もこの「消失性」現象を伴う。これらのすべてのデータは、ACAの細胞間の移動を可能にする一般的機構が存在することを強く示唆する。ACAが脂質テイルとしてジアシルミリステート(myristat)(DAG)(一部のプロテインキナーゼの強力なアクチベーターかつDNA合成のスティミュレーターとして知られる分子)を有するアンカーを有することを考慮すると、悪性黒色腫細胞(おそらく、アンカー上にいくらかの改変を伴っている!)から移動してくるACAが、制御されない成長に寄与する新しいメラニン細胞内に組み込まれるということが起こり得る。皮膚における転移の発生が極めて短期間であることは、ACAタンパク質のこの能力により説明され得る。
【0111】
実施例14: O−およびN−グリコシル化は、異なる分子量形態のヒト糖タンパク質ACAをもたらす
2つの異なる分子形態のACAの単離および精製は、既に実施例1(A)に記載のようにして行なった。
【0112】
電気泳動法は、実施例1(B)に記載のようにして行なった。
【0113】
2つのACAタンパク質による放射標識は、実施例1(K)に記載のようにして行なった。
【0114】
68kDおよび65kDの分子量形態のACAを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)は、実施例1(L)に記載のようにして行なった。
【0115】
ACAタンパク質のイムノブロッティングは、実施例1(G)に記載のようにして行なった。簡単には、均一に精製したタンパク質を、還元条件下、8.5%SDS−PAGEにて電気泳動させた。ブロッキングした後、均一に精製した65kD ACAに対して惹起させたマウスポリクローナル抗体に抗原を曝露した。洗浄後、結合した抗体を、ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体とのインキュベーションにより検出した。
【0116】
グリコシダーゼ処理:
シアリダーゼ処理では、40mM Tris−HCl;4mM CaCl2;pH7.8中の精製タンパク質10μgを、Vibrio cholerae(100mU)由来シアリダーゼ100mUとともに、37℃で16時間インキュベートし、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。
【0117】
ペプチド−N−(アセチル−βグリコサミニル)アスパラギンアミダーゼF(PNGアーゼF)処理では、100mMリン酸ナトリウムバッファー;25mM EDTA;pH7.2中の精製タンパク質10μgを、Flavobacterium meningosepticum由来PNGアーゼF 25mUにより37℃で16時間処理し、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。ポリペプチドに結合したN−グリカンの数を推測するため、経時的なPNGアーゼF加水分解を行ない、完全脱グリコシル化(declycosilation)を示す一定分子量が観察されるまで延長した。未処理タンパク質と完全脱グリコシル化タンパク質との間のSDS−PAGE上のバンドの数は、元の糖タンパク質上のN−グリカンのおよその数を示す(Alexander, SおよびElder, J (1989) Methods Enzymol. 179, 505-518)。
【0118】
エンドグルコサミニダーゼH処理では、0.01mg/ml SDSを含有する50mMリン酸ナトリウムバッファー;pH6.0中の精製タンパク質10μgを、合計容量0.1mlで、エンドグルコサミニダーゼH 5mUとともに、37℃で16時間インキュベートし、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。
【0119】
O−グリコシダーゼ処理では、100mM酢酸ナトリウムバッファー;pH5中の精製タンパク質10μgを、最終容量200μlで、後に、O−グリコシダーゼ5mUとともに、37℃で17時間インキュベートし、アリコートをSDS−PAGEにて解析した。
【0120】
酵素による完全な脱グリコシル化では、タンパク質を、既に記載のようにして、後に、適切なバッファー中でシアリダーゼとともにインキュベートし、酢酸ナトリウムバッファーpH5.0に対して徹底的に透析し、O−グリコシダーゼとともにインキュベートし、100mMリン酸ナトリウムバッファーpH7.2に対して再度透析し、既に記載のようにして、PNGアーゼFとともにインキュベートした。
【0121】
ACAタンパク質の化学的脱グリコシル化は、実施例1(D)に記載のようにして行なった。
【0122】
結果:
2つの異なる分子量形態のヒト赤血球ACAの単離および精製
2つの異なる分子量形態を単離した。精製ACAタンパク質の電気泳動は、赤血球ACAが、65kD(主要形態)および68kDのタンパク質として存在することを示す(図30)。0.5%NaH CO3中1mg/mlの2つの単離されたタンパク質のUVスペクトルを、同じバッファーに対して、ベックマン分光測光器にて読み取ると、両方の単離された種が高純度であることが示される(図31aおよびb)。
【0123】
抗ACAポリクローナル抗体を用いた精製ACAタンパク質のイムノブロッティング: ウェスタンブロッティングを実施例1(G)にしたがって行なった。両方の分子形態のACAタンパク質は、均一に精製した65kDタンパク質に対して惹起させたマウスポリクローナル抗体により認識され、これは、程度の異なるグリコシル化がACAの微小不均一性をもたらし得ることを示す(図32)。
【0124】
アンカーの加水分解により生成した断片のシリカTLC解析: [125I]TID標識された精製タンパク質の試料を、GPI−PLCにより加水分解した。この反応の脂質生成物を、高度に特異的なリパーゼで、さらに加水分解した。放射性標識断片を抽出し、TLCにより解析した(実施例1(K)および(L)参照)。データは、赤血球ACAの両方の分子形態が、T. bruceiのmVSGのものと非常に類似の構造であるジアシルミリステートからなるPI−PLC感受性アンカーを有することを示す。
【0125】
ACAタンパク質の酵素による脱グリコシル化: 精製した65kDおよび68kDのタンパク質を、すべての型のアスパラギン結合N−グリカン(ただし、アミノ基およびカルボキシル基がペプチド結合中に存在するものとする)を切断することが知られた酵素であるPNGアーゼFで消化した。両タンパク質を用いた経時実験は、試料糖タンパク質と結合したN−グリカン鎖の数を推測するために行なう。続いて、両タンパク質を、25mUの酵素とともにインキュベートし、0.5、1、1.5、2、5.0時間後にアリコートをSDS−PAGEにて解析した。未処理タンパク質と完全脱グリコシル化タンパク質との間のSDS−PAGE上のバンドの数は、元の糖タンパク質上のN−グリカンのおよその数を示す。結果は、65kDタンパク質上に1つのN−グリカン鎖が存在するのに対し、68kDタンパク質が2つのN−グリカン鎖を有することを示す(図34)。
【0126】
続く65kD ACAの酵素による脱グリコシル化: 続くACA 65kD赤血球ACAのシアリダーゼ、O−グリコシダーゼおよびPNGアーゼFとのインキュベーションは、SDS−PAGEで測定すると約59kDの分子量を有するACAの単一タンパク質種をもたらした。O−およびN−結合炭化水素鎖を非選択的に除去する無水TMSFを用いた化学的脱グリコシル化により同じ結果が得られた(図35)。
【0127】
グリコシダーゼ消化実験は、ヒト赤血球ACAの分子不均一性が、主にN−グリコシル化の差によるものであることを明白に示す。この結果により、ヒト赤血球ACA(65kD)が、そのペプチド骨格に共有結合した複合体N−グリカンを1つ有し、一方、68kDヒト赤血球ACAは、複合体N−グリカンを2つ有すると結論付けることができる。データはまた、ACAタンパク質が、そのポリペプチド骨格の表面上に共有結合したO−およびN−グリカンを含有する、強固に末端にシアリル化されたGPI結合表面抗原であることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴:
(a)細胞表面にGPI-アンカーされている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から分離されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる、
を含む表面糖タンパク質。
【請求項2】
以下のさらなる特徴:
(d)pH 5.5の等電点を有する;
(e)前駆細胞、顆粒球、単球、B-細胞(T-細胞上にはない)、メラニン細胞、および他の細胞上に存在する;および
(f)細胞分裂の間および腫瘍細胞に優先的に発現される;
により特徴づけられる表面糖タンパク質ACA、またはその塩、機能性誘導体または活性な画分である請求項1記載の表面タンパク質。
【請求項3】
(a)細胞を単離し、溶解すること;
(b)前記細胞のヘモグロビン遊離膜を単離、破壊およびペレット化すること;
(c)硫酸アンモニウムでの再懸濁した膜を繰り返し脱塩すること;
(d)工程(c)で調製されたタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)タンパク質のゲルバンドを短縮すること
によりヒト血液から得られうる請求項2記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項4】
還元条件下でSDS PAGEに供された場合、約65または68kDの分子量を有する請求項2または3記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項5】
以下のアミノ酸:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T
の少なくとも1つを含む請求項2〜4いずれか記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項6】
血液細胞から単離される請求項2〜5いずれか記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項7】
(a)ヒト血液から細胞を単離し溶解させる工程;
(b)該細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、破壊し、ペレット化する工程;
(c)硫酸アンモニウム(70%;40%)で再懸濁した膜の脱塩を繰り返す工程;
(d)工程(c)において沈殿したタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)65または68kDタンパク質のゲルバンドを単離する工程
を含む表面糖タンパク質ACAの単離方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により産生された表面糖タンパク質ACA。
【請求項9】
組換えタンパク質である請求項1〜6いずれか記載の表面糖タンパク質。
【請求項10】
哺乳動物細胞において産生される請求項9記載の表面糖タンパク質。
【請求項11】
請求項2〜7いずれか記載の表面糖タンパク質ACAまたはその機能性誘導体もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を含有してなり、該表面糖タンパク質ACAが以下のアミノ酸配列:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
の少なくとも1つを含む、核酸分子
【請求項12】
ヌクレオチド配列がゲノムDNA配列またはcDNA配列である請求項11記載の核酸分子。
【請求項13】
請求項11または12記載の核酸分子を含有してなる発現ベクター。
【請求項14】
請求項12記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項15】
哺乳動物宿主細胞である請求項14記載の宿主細胞。
【請求項16】
(a)適切な培養培地中で請求項14または15記載の形質転換宿主細胞を培養する工程;および
(b)細胞または培養培地からタンパク質を単離する工程
を含む、表面糖タンパク質ACAの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜6または8〜10いずれか記載の表面糖タンパク質に対する抗体。
【請求項18】
モノクローナル抗体である請求項17記載の抗体。
【請求項19】
(a)標的サンプルと、(i)請求項2〜6または8〜10いずれか記載の表面糖タンパク質ACAに、または(ii)請求項11または12記載の核酸分子から転写されるmRNAに特異的に結合することができる化合物とを接触させ、ACAまたはACA mRNAのレベルを測定する工程;および
(b)工程(a)の化合物の使用により測定されるサンプルのACAタンパク質またはACA-mRNAのレベルを健康な個体から得られた対照サンプルと比較する工程、ここで表面糖タンパク質ACAまたは対応するmRNAのレベルの上昇は腫瘍の指標またはかかる腫瘍の素因を示す、ACAの過剰発現に関連する腫瘍またはかかる腫瘍の素因を診断する方法。
【請求項20】
化合物が請求項17または18記載の抗体であるか、または請求項11または12記載の核酸分子から転写されるmRNAにハイブリダイズすることがきるオリゴヌクレオチドである請求項19記載の方法。
【請求項21】
(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物を含有してなる医薬組成物。
【請求項22】
癌の処置用または予防用の医薬の調製のための、(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物の使用。
【請求項23】
癌が黒色腫、白血病、腎臓癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、または癌の任意の他の型である請求項19もしくは20記載の方法または請求項22記載の使用。
【請求項24】
請求項17もしくは18記載の抗体または請求項11もしくは12記載の核酸から転写されたmRNAにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを含有してなるキット。
【請求項1】
以下の特徴:
(a)細胞表面にGPI-アンカーされている;
(b)PI-PLCでの処理により細胞膜から分離されうる;および
(c)そのGPI-アンカーが非アセチル化イノシトール環およびアンカーの脂質尾部としてのジアシルグリセロールにより特徴付けられる、
を含む表面糖タンパク質。
【請求項2】
以下のさらなる特徴:
(d)pH 5.5の等電点を有する;
(e)前駆細胞、顆粒球、単球、B-細胞(T-細胞上にはない)、メラニン細胞、および他の細胞上に存在する;および
(f)細胞分裂の間および腫瘍細胞に優先的に発現される;
により特徴づけられる表面糖タンパク質ACA、またはその塩、機能性誘導体または活性な画分である請求項1記載の表面タンパク質。
【請求項3】
(a)細胞を単離し、溶解すること;
(b)前記細胞のヘモグロビン遊離膜を単離、破壊およびペレット化すること;
(c)硫酸アンモニウムでの再懸濁した膜を繰り返し脱塩すること;
(d)工程(c)で調製されたタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)タンパク質のゲルバンドを短縮すること
によりヒト血液から得られうる請求項2記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項4】
還元条件下でSDS PAGEに供された場合、約65または68kDの分子量を有する請求項2または3記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項5】
以下のアミノ酸:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T
の少なくとも1つを含む請求項2〜4いずれか記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項6】
血液細胞から単離される請求項2〜5いずれか記載の表面糖タンパク質ACA。
【請求項7】
(a)ヒト血液から細胞を単離し溶解させる工程;
(b)該細胞のヘモグロビン非含有膜を単離し、破壊し、ペレット化する工程;
(c)硫酸アンモニウム(70%;40%)で再懸濁した膜の脱塩を繰り返す工程;
(d)工程(c)において沈殿したタンパク質を還元条件下で調製用SDS-PAGEに供する工程;および
(e)65または68kDタンパク質のゲルバンドを単離する工程
を含む表面糖タンパク質ACAの単離方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により産生された表面糖タンパク質ACA。
【請求項9】
組換えタンパク質である請求項1〜6いずれか記載の表面糖タンパク質。
【請求項10】
哺乳動物細胞において産生される請求項9記載の表面糖タンパク質。
【請求項11】
請求項2〜7いずれか記載の表面糖タンパク質ACAまたはその機能性誘導体もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を含有してなり、該表面糖タンパク質ACAが以下のアミノ酸配列:
(a)D-L-V-P-L-E-D-K-V-T-I-L-G-M-T-A;
(b)K-L-A-L-S-A-D-D-P-G-F-H-N-F-S-H-Q-R-Q-T;
(c)D-Q-Q-T-T-S-H-S-S;
(d)V-L-E-I-M-L-P;
(e)F-Q-D-E-S-E-A-N-K;
(f)M-K-Y-V-N-F-K-F-Y-F;
(g)N-L-D-F-M-T-W-G-V-T-K-V-T-Y-I-G-Q-P-T-G-G;
(h)L-L-M-D-N-N-E-A-V-H;
(i)F-D-Q-A-W-A-D-T-A-H-T-W;
(j)K-L-D-D-I-Q-K-D-M-Y-S-Q-Q-D-T;または
(k)G-V-W-I-M-K-N-Q-I-T。
の少なくとも1つを含む、核酸分子
【請求項12】
ヌクレオチド配列がゲノムDNA配列またはcDNA配列である請求項11記載の核酸分子。
【請求項13】
請求項11または12記載の核酸分子を含有してなる発現ベクター。
【請求項14】
請求項12記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項15】
哺乳動物宿主細胞である請求項14記載の宿主細胞。
【請求項16】
(a)適切な培養培地中で請求項14または15記載の形質転換宿主細胞を培養する工程;および
(b)細胞または培養培地からタンパク質を単離する工程
を含む、表面糖タンパク質ACAの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜6または8〜10いずれか記載の表面糖タンパク質に対する抗体。
【請求項18】
モノクローナル抗体である請求項17記載の抗体。
【請求項19】
(a)標的サンプルと、(i)請求項2〜6または8〜10いずれか記載の表面糖タンパク質ACAに、または(ii)請求項11または12記載の核酸分子から転写されるmRNAに特異的に結合することができる化合物とを接触させ、ACAまたはACA mRNAのレベルを測定する工程;および
(b)工程(a)の化合物の使用により測定されるサンプルのACAタンパク質またはACA-mRNAのレベルを健康な個体から得られた対照サンプルと比較する工程、ここで表面糖タンパク質ACAまたは対応するmRNAのレベルの上昇は腫瘍の指標またはかかる腫瘍の素因を示す、ACAの過剰発現に関連する腫瘍またはかかる腫瘍の素因を診断する方法。
【請求項20】
化合物が請求項17または18記載の抗体であるか、または請求項11または12記載の核酸分子から転写されるmRNAにハイブリダイズすることがきるオリゴヌクレオチドである請求項19記載の方法。
【請求項21】
(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物を含有してなる医薬組成物。
【請求項22】
癌の処置用または予防用の医薬の調製のための、(a)表面糖タンパク質ACAをコードする核酸配列の発現および/または(b)ACAの生物学的活性を低減または排除することができる化合物の使用。
【請求項23】
癌が黒色腫、白血病、腎臓癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、または癌の任意の他の型である請求項19もしくは20記載の方法または請求項22記載の使用。
【請求項24】
請求項17もしくは18記載の抗体または請求項11もしくは12記載の核酸から転写されたmRNAにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを含有してなるキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19−1】
【図19−2】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26−1】
【図26−2】
【図27】
【図28】
【図29−1】
【図29−2】
【図29−3】
【図29−4】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19−1】
【図19−2】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26−1】
【図26−2】
【図27】
【図28】
【図29−1】
【図29−2】
【図29−3】
【図29−4】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2010−154859(P2010−154859A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21504(P2010−21504)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【分割の表示】特願2004−526897(P2004−526897)の分割
【原出願日】平成15年8月6日(2003.8.6)
【出願人】(505047474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【分割の表示】特願2004−526897(P2004−526897)の分割
【原出願日】平成15年8月6日(2003.8.6)
【出願人】(505047474)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]