説明

新規製品及び方法

繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品の形にしたウールを処理する方法。洗濯中の縮充による縮みを防ぐためポリマーコーティングをプラズマ重合により適用する。この方法は、前処理工程、例えば、不活性ガスの連続プラズマの印加、繊維表面へのナノ粒子の適用、あるいは繊維表面をポリマーでコーティングすること、を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯性能を向上させるための、特に洗濯の際の縮充による縮みを減らすための、ウール及びウール混紡布帛の処理に関する。
【0002】
「ウール」という用語は、羊などのヤギ亜科から得られる繊維だけでなく、そのほかの特定の哺乳動物種、例えばヤギ、ラマ、アルパカ及びウサギなどの毛(例としてカシミヤ、モヘア、あるいはアンゴラ)をも包含するものである。
【背景技術】
【0003】
ウール繊維は、その外観と取り扱い性からも、またその断熱性からも、衣類全般を作るためのよく知られている材料である。ところが、ウール及びウール混紡品の不都合は、洗濯の際に縮むことがあることである。
【0004】
縮みの問題は、内側のコルテックスと外側表面のキューティクルからなる、ウール繊維の複雑な構造が原因の縮充によるものである。縮充による縮みを主として引き起こすものが、この外側表面のキューティクルである。
【0005】
キューティクルは、タンパク質表面に共有結合した脂質を含むエピクチクルを含み、そしてそれがいくらかの自然の撥水性をもたらす。キューティクルはまた、重なり合うスケールからなる硬質の表面構造を有するエクソキューティクルを含み、そしてそれがウール繊維を物理的なダメージから保護する。エクソキューティクルのこの硬質の表面構造が、洗濯時のウールの縮充を招く「方向性摩擦効果」(DFE)の原因となる。
【0006】
繊維を洗っているときに、それらは水と、熱と、機械的な攪拌にさらされて、これが繊維を絡み合わせる。エクソキューティクルの性質のために、繊維は一つの方向に他の方向よりも容易に滑動して、縮充を引き起こす優先単一方向の動きをもたらす。
【0007】
スケールと「一緒の」方向における摩擦係数は、スケール先端の硬さのためとそれが他の繊維と接触するときに変形可能でないために、スケールとは「反対の」方向におけるものより小さい。このDFEの結果、繊維は徐々にともに動かなくなり、糸が密集して布帛が不可逆的に縮むことになる。
【0008】
ウールを機械で洗うのを可能にするためのウールの主要な処理方法は、塩素−ハーコセット法であり、これは表面のスケールを「覆い滑らかにする」ことによりDFEをなくすのを目的としている。この方法は、一連の水性の浴を必要とし、酸性の塩素処理から始めてエピキューティクルを変性しそれにより湿潤性を付与し、反応性ポリマーとの結合のために反応官能性を生じさせ、そして表面エネルギーを上昇させてポリマーコーティングが広がるのを可能にする。その後の工程は、脱塩素化と中和であり、これにより反応性ポリマーとの結合のために更なる反応官能性を生じさせ、繊維から残留塩素を除去する。この工程に続いて、ポリマーを適用し、軟化処理し、乾燥する。
【0009】
ハーコセットポリマーは軟質のカチオン反応性エピクロロヒドリンポリアミドであり、これは負に帯電したウール繊維に付着し、繊維表面に共有結合する。それはスケールの端部を覆って、DFEをなくす。
【0010】
塩素−ハーコセット法は、T. Shaw & M.A. White, Chapter 5, p346 (1984), Handbook of Fiber Science & Fiber Technology, Vol. II, Chemical Processing of Fibers & Fabrics, Functional Finishes, Part B, Edited by M. Lewin & S.B. Sello, Marcel Dekker Inc., New York, ISBN 0−8247−7118に更に詳しく記載されている。塩素−ハーコセット法はまた、J. Lewis, Wool Science Review, 54, 2 (1977)にも、そしてH.J. Katz, G.F. Wood & M.T. Goldsmith, Textile Manufacturer, 95, 84 (1969)にも記載されている。
【0011】
塩素−ハーコセット法には、塩素化段階において吸着性の有機ハロゲン(AOX)が作られるという不都合があり、他の解決策を探し求める原因となっている。
【0012】
繊維を耐水性にするためそれらに耐久性のある撥水コーティング(DWR)を添加することが多く、例えばFluoropelとOlephobolが、撥水性を与えるため湿式の化学手法により適用される2つの代表的なフルオロポリマーコーティングである。耐久性の撥水コーティングは、E. Kissa, Chapter 2, p143 (1984), Handbook of Fiber Science & Fiber Technology, Vol. II, Chemical Processing of Fibers & Fabrics, Functional Finishes, Part B, Edited by M. Lewin & S.B. Sello, Marcel Dekker Inc., New York, ISBN 0−8247−7118、そしてまたF. Audenaert, H. Lens, D. Roily and P. Van der Elst, Fluorochemical Textile Repellents − Synthesis, and Applications: A 3M Perspective, J. Text. Inst., 90, 3, 76 (1999)で検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】T. Shaw & M.A. White, Chapter 5, p346 (1984), Handbook of Fiber Science & Fiber Technology, Vol. II, Chemical Processing of Fibers & Fabrics, Functional Finishes, Part B, Edited by M. Lewin & S.B. Sello, Marcel Dekker Inc., New York, ISBN 0−8247−7118
【非特許文献2】J. Lewis, Wool Science Review, 54, 2 (1977)
【非特許文献3】H.J. Katz, G.F. Wood & M.T. Goldsmith, Textile Manufacturer, 95, 84 (1969)
【非特許文献4】E. Kissa, Chapter 2, p143 (1984), Handbook of Fiber Science & Fiber Technology, Vol. II, Chemical Processing of Fibers & Fabrics, Functional Finishes, Part B, Edited by M. Lewin & S.B. Sello, Marcel Dekker Inc., New York, ISBN 0−8247−7118
【非特許文献5】F. Audenaert, H. Lens, D. Roily and P. Van der Elst, Fluorochemical Textile Repellents − Synthesis, and Applications: A 3M Perspective, J. Text. Inst., 90, 3, 76 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらのフルオロポリマーコーティングの撥水性は、フルオロカーボンポリマー鎖の再配向のために、洗濯後に低下する傾向があり、これは、疎水性のフッ素官能基が洗濯で使用される水から離れてコーティングの表面下へと「位置を変える」のを可能にするポリマーの移動により引き起こされる。布帛の加熱プレス(例えばアイロンかけ)あるいは高温乾燥が、撥水性を回復させるのに必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ポリマーコーティングを様々な表面に、特に布帛表面に被着させるのに、プラズマ被着技術が用いられている。この技術は、通常の湿式の化学的方法と比べ廃棄物をほとんど生じさせない清浄な乾式の技術であると認められている。この方法を使用する際には、電場にさらされる有機分子からプラズマを発生させる。これを基材の存在下で行うと、プラズマ中の化合物のラジカルが基材上で重合する。通常のポリマー合成はモノマー種に非常に似た繰り返し単位を含む構造を生じさせる傾向があるのに対し、プラズマを用いて生じさせたポリマー網状組織は非常に複雑になる可能性がある。その結果として得られたコーティングの特性は、基材の性質にも、また用いるモノマーの性質及び被着させる条件にも依存する可能性がある。
【0016】
本発明の第1の実施形態は、繊維、スライバー、糸、その繊維や糸を含む布帛又は衣料品の形をしたウールを処理して、洗濯中の縮充による縮みを防ぐ方法を提供し、この方法はポリマーコーティングをプラズマ重合により適用することを含む。
【0017】
スライバーは、カーディングしコーミングして繊維の管にしたウールである。繊維学会(Textile Institute)はスライバーを、よじれなしに連続の形をした繊維の集合体と定義している。
【0018】
繊維、糸、スライバー、布帛あるいは衣料品は、純粋なウール、又はウールとポリマーとの混紡品を含むことができる。
【0019】
プラズマ重合又は表面の変性を受けて適当なポリマーコーティング層を形成するいずれのモノマーも、好適に使用することができる。そのようなモノマーの例としては、当該技術分野においてプラズマ重合により基材上に疎水性ポリマーコーティングを生じさせることができるのが知られているものが挙げられ、例えば、反応性官能基を有する炭素系の化合物、特に実質的に−CF3が多数を占めるパーフルオロ化合物(国際公開第97/38801号パンフレット参照)、パーフルオロ化したアルケン(Wang et al., Chem Mater 1996, 2212−2214)、炭素原子数が少なくとも10のハロゲン原子を随意的に含む水素含有不飽和化合物又はパーハロゲン化有機化合物(国際公開第98/58117号パンフレット参照)、二重結合を2つ含む有機化合物(国際公開第99/64662号パンフレット)、ヘテロ原子を随意的に挿入された少なくとも炭素原子が5つの随意的に置換されたアルキル鎖を有する飽和有機化合物(国際公開第00/05000号パンフレット)、随意的に置換されているアルキン(国際公開第00/20130号パンフレット)、ポリエーテル置換のアルケン(米国特許第6482531号明細書)、及び少なくとも1つのへテロ原子を含む大環状化合物(米国特許第6329048号明細書)、が含まれ、それらの全てのものの内容は参照によってここに組み入れられる。
【0020】
本発明のコーティングを製造するのに用いることができる特定のグループのモノマーには、次式(I)、すなわち、
【0021】
【化1】

【0022】
の化合物が含まれ、この式中のR1、R2、R3は水素、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、又は随意的にハロゲンで置換されたアリールから独立に選ばれ、R4は−X−R5基(この式のR5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合基、式−C(O)O−の基、式−C(O)O(CH2nY−の基(この式のnは1〜10の整数であり、Yはスルホンアミド基である)、又は−(O)p6(O)c(CH2t−の基(この式のR6はハロゲンで随意的に置換されたアリールであり、pは0か又は1、qは0か又は1、そしてtは0か又は1〜10の整数であるが、但しqが1の場合、tは0より大きい))である。
【0023】
ここで用いられる「ハロ」又は「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を指す。特に好ましいハロ基はフルオロ基である。「アリール」という用語は、フェニル又はナフチルなどの芳香族環状基、特にフェニル基を指す。「アルキル」という用語は、炭素原子の、好適には長さが最大で炭素原子20個までの、直鎖又は分岐鎖を指す。「アルケニル」という用語は、好適には2〜20の炭素原子を有する、線状の又は枝分かれした不飽和鎖を指す。「ハロアルキル」という用語は、ハロ置換基を少なくとも1つ含む上に定義したとおりのアルキル鎖を指す。
【0024】
1、R2、R3、R5にとって好適なハロアルキル基はフルオロアルキル基である。アルキル鎖は線状でも枝分かれしていてもよく、環状部分を含んでもよい。
【0025】
5については、アルキル鎖は2以上の炭素原子を含むのが好適であり、好適には2〜20の炭素原子、好ましくは4〜12の炭素原子を含む。
【0026】
1、R2、R3については、アルキル鎖は一般に、1〜6の炭素原子を有するのが好ましい。
【0027】
好ましくはR5はハロアルキルであり、より好ましくはパーハロアルキル基、とりわけ式Cm2m+1のパーフルオロアルキル基(mは1以上、好適には1〜20、好ましくは4〜12、例えば4、6又は8などの、整数である)である。
【0028】
1、R2、R3にとって好適なアルキル基は1〜6の炭素原子を有する。
【0029】
一つの態様では、R1、R2、R3のうちの少なくとも1つは水素である。特定の態様では、R1、R2、R3は全て水素である。とは言え、更なる態様では、R3はアルキル基、例えばメチル又はプロピルなどである。
【0030】
Xが−C(O)O(CH2nY−基の場合、nは好適なスペーサー基を提供する整数である。詳しくは、nは1〜5であり、好ましくは約2である。
【0031】
Yにとって好適なスルホンアミド基としては、式−N(R7)SO2-のもの(この式のR7は水素又はアルキル基、例えばC1-4アルキルなど、特にメチル又はエチル、である)が挙げられる。
【0032】
一つの態様では、式(I)の化合物は式(II)、すなわち、
CH2=CH−R5 (II)
の化合物である(この式中のR5は式(I)に関連して上で定義されているとおりである)。
【0033】
式(II)の化合物において、式(I)のX−R5基内のXは結合基である。
【0034】
とは言え、好ましい態様においては、式(I)の化合物は式(III)、すなわち、
CH2=CR7aC(O)O(CH2n5 (III)
のアクリレート(この式中のnとR5は式(I)に関連して上で定義されているとおりであり、R7aは水素、C1-10アルキル、又はC1-10ハロアルキルである)。とりわけ、R7aは水素又はC1-6アルキル、例えばメチルなど、である。式(III)の化合物の特別な例は、式(IV)、すなわち、
【0035】
【化2】

【0036】
の化合物(この式中のR7aは上で定義されているとおりであり、とりわけ水素であって、xは1〜9、例えば4〜9、好ましくは7の、整数である)である。その場合、式(IV)の化合物は1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレートである。
【0037】
特定の態様によれば、ポリマーコーティングは、繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を、少なくとも1種は2つの炭素−炭素二重結合を含む1種以上の有機モノマー化合物を含むプラズマにポリマー層が表面に形成するのを可能にするのに十分な時間暴露することによって形成される。
【0038】
好適には、2以上の二重結合を有する化合物は式(V)、すなわち、
【0039】
【化3】

【0040】
の化合物(この式中のR8、R9、R10、R11、R12、R13は全て、水素、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリールから独立に選ばれ、Zは橋架け基である)を含む。
【0041】
式(V)の化合物で使用するのに好適な橋架け基Zの例は、ポリマーの技術分野で知られているものである。とりわけ、それらには酸素原子を挿入されていてもよい随意的に置換されたアルキル基が含まれる。橋架け基Zにとっての好適な随意的置換基としては、パーハロアルキル基、特にパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0042】
特に好ましい態様においては、橋架け基Zとしては1以上のアシルオキシ又はエステル基が挙げられる。とりわけ、式Zの橋架け基は式(VI)、すなわち、
【0043】
【化4】

【0044】
の基(この式中のnは1〜10、好適には1〜3の整数であり、各R14及びR15は水素、ハロゲン、アルキル又はハロアルキルから独立に選ばれる)である。
【0045】
好適には、R8、R9、R10、R11、R12、R13はハロアルキル、例えばフルオロアルキルなど、又は水素である。とりわけ、それらは全てが水素である。
【0046】
好適には、式(V)の化合物は少なくとも1つのハロアルキル基、好ましくはパーハロアルキル基を含む。
【0047】
式(V)の化合物の特別な例として、次のもの、すなわち、
【0048】
【化5】

【0049】
(この式中のR14とR15は上で定義されているとおりであり、R14又はR15の少なくとも一方は水素以外である)が挙げられる。このような化合物の特別な例は、式B、すなわち、
【0050】
【化6】

【0051】
の化合物である。
【0052】
更なる態様では、ポリマーコーティングは、繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品をモノマーの飽和有機化合物を含むプラズマにポリマー層が表面に形成するのを可能にするのに十分な時間暴露することによって形成され、この化合物は随意的にヘテロ原子を挿入された炭素原子数が少なくとも5の随意的に置換されたアルキル鎖を含む。
【0053】
ここで使用する「飽和」(又は「飽和した」)という用語は、モノマーが芳香環の一部でない2つの炭素原子間に多重結合(すなわち二重結合又は三重結合)を含まないことを意味する。「ヘテロ原子」という用語は、酸素、イオウ、ケイ素又は窒素原子を包含する。アルキル鎖に窒素原子が挿入されている場合、それは第二アミン又は第三アミンを形成するように置換される。同様に、ケイ素は例えば2つのアルコキシ基により、適宜置換される。
【0054】
特に好適なモノマー有機化合物は、式(VII)、すなわち、
【0055】
【化7】

のもの(この式中のR16、R17、R18、R19、R20は水素、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されているアリールから独立に選ばれ、R21はX−R22基(この式のR22はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合基又は式−C(O)O(CH2xY−の基(この式のxは1〜10の整数、Yは結合基又はスルホンアミド基である)、又は−(O)p23(O)s(CH2−基(この式のR23は随意的にハロゲンで置換されたアリールであり、pは0か又は1、sは0か又は1、そしてtは0か又は1〜10の整数であるが、但しsが1の場合、tは0より大きい)である)である。
【0056】
16、R17、R18、R19、R20にとっての好適なハロアルキル基はフルオロアルキル基である。アルキル鎖は線状であっても枝分かれしていてもよく、そして環式部分を含み、そして例えば1〜6の炭素原子を有することができる。
【0057】
22については、アルキル鎖は1以上の炭素原子、好適には1〜20の炭素原子、好ましくは6〜12の炭素原子を含むのが好適である。
【0058】
好ましくは、R22はハロアルキル、より好ましくはパーフルオロアルキル基、とりわけ式Cz2z+1のパーフルオロアルキル基(この式のzは1以上、好適には1〜20、好ましくは6〜12、例えば8又は10などの、整数である)である。
【0059】
Xが−C(O)O(CH2yY−基である場合、yは適当なスペーサー基をもたらす整数である。とりわけ、yは1〜5であり、好ましくは約2である。
【0060】
Yにとっての好適なスルホンアミド基としては、式−N(R23)SO2-のもの(この式のR23は水素、アルキル又はハロアルキル、例えばC1-4アルキルなど、特にメチル又はエチル、である)が挙げられる。
【0061】
用いられるモノマー化合物は、随意的にハロゲンで置換されたC6-25アルカン、とりわけパーハロアルカン、特にパーフルオロアルカン、を含むのが好ましい。
【0062】
別の実施形態によれば、ポリマーコーティングは、繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を随意的に置換されたアルキンを含むプラズマに、表面にポリマー層が形成するのを可能にするのに十分な時間暴露することによって形成される。
【0063】
好適には、用いられるアルキン化合物は、1以上の炭素−炭素三重結合を含む炭素原子鎖を含む。この鎖は、随意的にヘテロ原子が挿入されていてもよく、そして環とその他の官能基とを含む置換基を有することができる。線状であっても枝分かれしていてもよい好適な鎖は、2〜50の炭素原子、より好適には6〜18の炭素原子を有する。それらは、出発物質として用いられるモノマー中に存在していてもよく、あるいはプラズマの適用によってモノマー中で、例えば開環により、作られてもよい。
【0064】
特に好適なモノマー有機化合物は、式(VIII)、すなわち、
24−C≡C−X1−R25 (VIII)
のもの(この式中のR24は水素、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリールであり、X1は結合基又は橋架け基であり、R25はアルキル、シクロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリール基である)である。
【0065】
好適な結合基X1としては、式−(CH2s−、−CO2(CH2p−、−(CH2pO(CH2q−、−(CH2pN(R26)CH2q−、−(CH2pN(R26)SO2−の基(これらの式のsは0か又は1〜20の整数であり、pとqは1〜20の整数から独立に選ばれ、R26は水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールである)が挙げられる。R26にとっての特別なアルキル基としては、C1-6アルキル、とりわけメチル又はエチルが挙げられる。
【0066】
24がアルキル又はハロアルキルである場合、それは1〜6の炭素原子を有するのが一般に好ましい。
【0067】
24にとっての好適なハロアルキル基としては、フルオロアルキル基が挙げられる。アルキル鎖は、線状であっても枝分かれしていてもよく、そして環式の部分を含んでもよい。とは言え、R24は水素であるのが好ましい。
【0068】
好ましくは、R25はハロアルキルであり、より好ましくはパーハロアルキル基、とりわけ式Cr2r+1のパーフルオロアルキル基(この式のrは1以上、好適には1〜20、好ましくは6〜12、例えば8又は10などの、整数である)である。
【0069】
特別な態様においては、式(VIII)の化合物は式(IX)、すなわち、
CH≡C(CH2−R27 (IX)
の化合物(この式のsは上で定義されているとおりであり、R27はハロアルキル、特にパーハロアルキル、例えばC613のようなC6-12パーフルオロ基である)である。
【0070】
別の態様においては、式(VIII)の化合物は、式(X)、すなわち、
CH≡C(O)O(CH2p27 (X)
の化合物(この式のpは1〜20の整数であり、R27は上記の式(IX)に関連して上で定義されているとおりであり、とりわけC817基である)である。好ましくは、この場合、pは1〜6の整数であり、最も好ましくは約2である。
【0071】
式(I)の化合物のそのほかの例は、式(XI)、すなわち、
CH≡C(CH2pO(CH2q27 (XI)
の化合物(この式のpは上で定義されているとおりであるが、とりわけ1であり、qは上で定義されているとおりであるが、とりわけ1であり、R27は式(IX)に関連して定義されているとおりであるが、とりわけC613基である)であり、あるいは式(XII)、すなわち、
CH≡C(CH2pN(R26)(CH2q27 (XII)
の化合物(この式のpは上で定義されているとおりであるが、とりわけ1であり、qは上で定義されているとおりであるが、とりわけ1であり、R26は上で定義されているとおりであるが、とりわけ水素であり、R27は式(IX)に関連して上で定義されているとおりであるが、とりわけC715基である)であり、あるいは式(XIII)、すなわち、
CH≡C(CH2pN(R26)SO227 (XIII)
の化合物(この式のpは上で定義されているとおりであるが、とりわけ1であり、R26は上で定義されているとおりであって、とりわけエチルであり、R27は式(IX)に関連して上で定義されているとおりであり、とりわけC817基である)である。
【0072】
別の態様において、上記の方法で用いられるアルキンモノマーは式(XIV)、すなわち、
28C≡C(CH2nSiR293031 (XIV)
の化合物(この式のR28は水素、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリールであり、R29、R30、R31はアルキル又はアルコキシから独立に選択され、とりわけC1-6アルキル又はアルコキシである)である。
【0073】
好ましいR28基は水素又はアルキルであり、とりわけC1-6アルキルである。
【0074】
好ましいR29、R30、R31基はC1-6アルコキシ、とりわけエトキシである。
【0075】
一般には、処理すべき繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を、ガス状態の被着させるべき材料と一緒にプラズマチャンバー内に配置し、チャンバー内にグロー放電を生じさせ、好適な電圧を印加する。電圧印加はパルス化してもよい。
【0076】
ポリマーコーティングは、パルス状の被着条件下と連続波プラズマ被着条件下の両方で製造することができるが、コーティングのより精密な制御を容易にしより均一なポリマー構造の形成を容易にするのでパルス状のプラズマがより好ましかろう。
【0077】
ここで使用する「ガス状態」という表現は、単独であるかあるいは混合物での、ガス又は蒸気を指し、エーロゾルも指す。
【0078】
プラズマ重合を有効なやり方で行う正確な条件は、処理するポリマー、繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品の性質などの要因に依存していろいろであり、日常的な方法及び/又は手法を使って決められる。
【0079】
本発明の方法で使用するのに好適なプラズマとしては、高周波(RF)、マイクロ波又は直流(DC)によって発生されるものなどの非平衡プラズマが挙げられる。それらは、当該技術分野で知られているように大気圧又は大気圧より低い圧力で機能することができる。とは言え、それらは特に高周波(RF)により発生される。
【0080】
ガス状プラズマを発生させるのには様々な形態の装置を利用することができる。一般には、これらはプラズマを発生させることができる容器又はプラズマチャンバーを含む。そのような装置の特別な例は、例えば国際公開第2005/089961号パンフレット及び国際公開第02/28548号パンフレットに記載されているが、多くの他の通常のプラズマ発生装置が利用可能である。
【0081】
プラズマチャンバー内に存在するガスは、モノマー単独の蒸気を含むことができるが、必要な場合にはそれをキャリヤガス、特にヘリウム又はアルゴンなどの不活性ガスと一緒にしてもよい。特にヘリウムは、モノマーの断片化を最小限にすることができるので、好ましいキャリヤガスである。
【0082】
混合物として使用する場合は、キャリヤガスに対するモノマー蒸気の相対量を当該技術分野において慣用の手順に従って適切に決定する。加えるモノマーの量は、ある程度は、使用する特定のモノマーの特性、処理する基材の特性、プラズマチャンバーの大きさなどに依存する。一般に、慣用のプラズマチャンバーの場合、モノマーは50〜250mg/minの量で、例えば100〜150mg/minの流量で、送給される。とは言え、流量は選定した反応器の大きさと一度に処理することを求められる基材の数とに依存して様々であることが理解されよう。そしてこれは必要とされる年間処理能力と資本支出などの検討事項に依存する。
【0083】
ヘリウムなどのキャリヤガスは一定の流量で、例えば5〜90スタンダードcm3/min(sccm)の流量で、例として15〜30sccmで、供給するのが好適である。場合によっては、キャリヤガスに対するモノマーの比は100:0〜1:100の範囲内、例えば10:0〜1:100の範囲内、特におよそ1:0〜1:10の範囲内である。選ばれる正確な比は、プロセスにより必要とされる流量が得られるのを補償するようなものになる。
【0084】
場合によっては、予備的な連続出力のプラズマをチャンバー内で例えば15秒〜10分間、例として2〜10分間、生じさせる。これは表面の前処理工程として働いて、モノマー自体が表面に容易に付着し、その結果重合が起こるにつれて表面にコーティングが「成長」するのを確実にする。この前処理工程は、モノマーがチャンバー内に導入される前に、不活性ガスのみの存在下において行うことができる。一つの実施形態では、不活性ガスはアルゴンを含む。
【0085】
その後、少なくともモノマーが存在するときに、プラズマをパルスプラズマに切り換えて重合を進行させるのが好適である。
【0086】
全ての場合において、高周波電圧、例えば13.56MHzの電圧を印加して、グロー放電を生じさせるのが好適である。これは電極を使って印加され、電極はプラズマチャンバーの内部にあっても外部にあってもよいが、より大きなチャンバーの場合には一般に内部にある。
【0087】
好適には、ガス、蒸気又はガス混合物を少なくとも1スタンダードcm3/min(sccm)、好ましくは1〜100sccmの範囲の流量で供給する。
【0088】
モノマー蒸気の場合は、これを、モノマーの特性、チャンバーの大きさ、及びパルス電圧を印加しながらの特定の操業中の製品の表面積に依存して、80〜300mg/minの流量で、例えば約120mg/minで、供給するのが好適である。とは言うものの、規定の処理時間に関して様々でありそしてまたモノマーの特性と必要とされる技術的効果とに依存もする一定の総モノマー供給量であることが、工業規模の用途にとってはより適切であろう。
【0089】
ガス又は蒸気は、任意の慣用の方法を使ってプラズマチャンバーへ送給することができる。例えば、それらをプラズマ領域中へ引き寄せ、注入し、又はポンプで送り込むことができる。特に、プラズマチャンバーを使用する場合には、排気ポンプを使って引き起こされるチャンバー内の圧力の低下の結果としてチャンバー内に引き寄せてもよく、あるいは液体の取り扱いにおいて普通であるように、それらをチャンバー内にポンプで送り込み、スプレーし、滴下し、電気的に電離させ、又は注入してもよい。
【0090】
重合は、0.1〜400mtorr、好適には約10〜100mtorrの圧力に保持した、例えば式(I)の、化合物の蒸気を使って行うのが好適である。
【0091】
印加される場は、連続場又はパルス場として印加される、5〜500W、例えば20〜500Wの出力のもの、好適には約100Wピークのもの、であるのが好適である。使用する場合、パルスは好適には、非常に低い平均出力をもたらすシーケンスで、例えばオン時:オフ時の比が1:100〜1:1500の範囲である、例えば約1:650であるシーケンスで印加される。そのようなシーケンスの特定の例は、出力が20〜50μs間、例えば約30μs間オンであり、1000〜30000μs間、特に約20000μs間オフであるシーケンスである。このやり方で得られる典型的な平均出力は0.1〜0.2Wである。
【0092】
場は、式(I)の化合物の特性及び処理される繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品に応じて、30秒〜90分、好ましくは5〜60分、印加するのが好適である。
【0093】
プラズマチャンバーは、多数の繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を収容するのに十分な容積であるのが好適である。
【0094】
本発明によりコーティングした繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を製造するのに特に好適な装置と方法は、国際公開第2005/089961号パンフレットに記載されており、その内容は参照によってここに組み入れられる。
【0095】
特に、このタイプの容積の大きなチャンバーを使用する場合、プラズマはパルス場としての電圧を用いて、0.001〜500W/m3の平均出力で、例えば0.001〜100W/m3、好適には0.005〜0.5W/m3で、作られる。
【0096】
これらの条件は、大きなチャンバー内で、例えば、プラズマ帯域の容積が500cm3より大きい、例えば0.1m3以上、例として0.5m3〜10m3、好適には約1m3である、チャンバ内で、品質の良好な均一コーティングを被着させるのに特に適している。この方法で形成した層は機械的強度が良好である。
【0097】
チャンバーの寸法は、処理する特定の繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を収容するように選ばれる。例えば、一般に立方形のチャンバーは広範囲の用途に適しているが、必要ならば、細長い又は長方形の、あるいは実際のところ円筒状の、もしくは他の任意の適当な形状の、チャンバーを製作してもよい。
【0098】
チャンバーは、バッチ処理を可能にするよう、密閉可能な容器であってもよく、あるいはインライン装置として連続プロセスで利用するのを可能にするよう、繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品のための入口と出口を含んでもよい。特に後者の場合、チャンバー内でプラズマ放電を生じさせるために必要な圧力条件は、例えば「ホイッスル漏れ」のある装置で慣用的なように、高容量のポンプを使って維持される。しかし、繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品を大気圧で、又はそれに近い圧力で処理して「ホイッスル漏れ」の必要をなくすことも可能である。
【0099】
本発明の第2の実施形態は、ウールを含んでいる繊維、糸、当該繊維又は糸から作られたスライバー、布帛又は衣料品に対してプラズマ重合を行うことにより得られるポリマーコーティングを使用して洗濯時の縮充による縮みを軽減するものである。
【0100】
本発明の第3の実施形態は、ウールを含んでいる繊維、糸、当該繊維又は糸から作られたスライバー、布帛又は衣料品を提供するものであり、その繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品は洗濯時の縮充による縮みを防ぐため上記の方法により処理されている。
【0101】
本発明の第5の実施形態は、ウールを含んでいる繊維、糸、当該繊維又は糸から作られたスライバー、布帛又は衣料品に対してプラズマ重合を行うことにより得られるポリマーコーティングを、選択後の回復を必要としない撥水性及び/又は撥油性コーティングとして使用するものである。
【0102】
本発明のこれらの第2、第3、第4及び第5の実施形態の好ましい要件は、第1の実施形態に関連して先に説明したとおりでよい。
【0103】
この明細書と特許請求の範囲の全体を通して、「含む」や「含有する」という語の原語である“comprise”及び“contain”という語、及びこれらの語の変化形、例えば“comprising”及び“comprises”は、「……を含むがそれに限定はされない」ということを意味し、その他の部分(moiety)、添加剤、成分、整数又は工程を除外しない。
【0104】
この明細書と特許請求の範囲の全体を通して、原語の単数形は、文脈がそうでないことを要求しない限り、複数形を包含する。特に、不定冠詞を使用している場合、文脈がそうでないことを要求しない限り、本明細書は単数形のみならず複数形も想定しているものと解すべきである。
【0105】
本発明のこのほかの要件は、以下の例から明らかになる。一般的に言えば、本発明は、この明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含めて)に開示された要件のあらゆる新規なもの、あるいはあらゆる新規な組み合わせにまで及ぶ。よって、本発明の特定の実施形態、態様又は例に関連して説明した要件、整数、特徴、化合物、化学的部分又は原子団は、矛盾が生じない限り、ここに記載したあらゆる他の実施形態、態様又は例に適用可能であることを理解すべきである。
【0106】
更に、特に明記しない限り、ここに開示したあらゆる要件は、同じ又は同様の目的を果たす別の要件と置き換えてもよい。
【0107】
次に、本発明を実例により詳しく説明する。
【実施例】
【0108】
いろいろなフルオロポリマーコーティングがウール布帛及びウール混紡布帛に及ぼす効果を分析するために、3つの異なるウール含有布帛の試料を異なる表面処理に付した。その結果得られたコーティングした布帛を、次に撥水性と撥油性、フッ素含有量、及び機械的特性について試験した。
【0109】
試験した布帛試料は、未処理のウール、塩素−ハーコセット処理したウール、及び中空と中実のポリエステルフィラメントを含むポリエステル/ウール混紡布帛であった。これらの試料を、「伝統的な」フルオロカーボン技術とプラズマ重合装置とで処理した。次いで、得られたコーティングした試料を、洗濯、ドライクリーニング、及びフラットアブレーション後に撥液性について評価し、種々のフルオロカーボンコーティングの結果を比較した。
【0110】
3つの異なるウール含有布帛の試料は、100%ウールのボタニーサージ(190g/m2、ブラッドフォードのWhaleys社より供給される)、ブラッドフォードのBulmer & Lumb社より供給される平織りの塩素−ハーコセット処理したウール(100%ウール、210g/m2)、そしてやはりブラッドフォードのBulmer & Lumb社より供給される非染色ウール/ポリエステル(60/4)混紡布帛(番手60/2、160g/m2)であった。
【0111】
使用した「伝統的な」フルオロケミカル物質は、Ciba社の厚意で提供されたOleophobol SL−A 01と、Devan−PPT Limited社からのFluorepel OWSであった。(これらは標準的な市販のフルオロカーボンポリマー仕上剤である。)
【0112】
洗濯堅牢度試験の際には、蛍光増白剤なしのSDC ECEリン酸系基準洗剤を使用した。それは家庭での洗濯をシミュレートするためのISO C06洗濯堅牢度試験における基準洗剤であるため、それを粉末洗剤の添加時に使用した。
【0113】
仕上げの前に、ウール布帛を非イオン洗剤水溶液で洗って、その後の表面処理に潜在的に支障をきたす可能性のある不純物を除去し、次いで風乾した。
【0114】
試料に「伝統的な」フルオロカーボンを、次の方法によって適用した。布帛試料を、パッド・ドライ・キュア法を使用し50g/lのOleophobol SL−Aかあるいは50g/lのFluorepel OWSで処理した。パッド浴は6〜7のpHに設定し、ウェットピックアップは70%であった。パッド処理した布帛を100℃で2分間(100%ウール布帛)又は1分間(混紡布帛)乾燥させ、次いでウール及び混紡布帛についてそれぞれ150℃で5分間又は170℃で1分間キュアさせた。
【0115】
プラズマ重合コーティングを次の方法によって適用した。プラズマ重合実験を、誘導結合グロー放電反応器において、ベース圧力6.13×10-3mbar、6×10-9mol/sよりも良好な漏れ速度、及び4mg/min又は3.2mol/sのモノマー流量で行った。これを、液体窒素コールドトラップ、熱電対圧力計、及び1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレートモノマーを入れたモノマーチューブを介して2段のEdwardsロータリーポンプにつないだ。全ての接続をグリースなしで行った。L−Cマッチングユニットを使って、13.56MHz高周波(RF)発生器と放電部との間の伝達出力の定在波比(SWR)を最小限にした。パルスプラズマ被着実験の場合は、RF源を信号発生器により始動させ、オシロスコープを使ってパルス幅と振幅をモニターした。
【0116】
コーティングしようとする基材を反応器の中央に入れ、続いてベース圧力に至るまで排気した。次に、フルオロモノマー蒸気を約0.2mbarの一定圧力で導入し、系を5分間パージさせてから、グロー放電を発生させた。反応器出口の圧力は安定していることが分かり、これは十分なモノマー流量と呼応していた。先の試行に基づいて基材表面にフィルムを形成するのに十分な時間の後に、被着を終了させた。モノマー蒸気が基材上を通過するのを更に5分間継続させ、続いてプラズマチャンバーをベース圧力に下がるまで排気し、その後大気へ放出した。要因分析計画を使用し、続いてシンプレックス最適化法を使用して、最適なプラズマ化条件を求めた。その結果、プラズマポリマー被着のためのピーク出力(Pp=40W)、パルス適用時間(ton=30μs)、及びパルス非適用時間(toff=20000μs)を最適化して、板ガラス基材上でγc=4.3mN/mの臨界表面エネルギーを得た。
【0117】
更に、撥液性能を潜在的に向上させることを目的として、一部の試料をフルオロモノマープラズマ重合の前にアルゴンプラズマで前処理した。反応器を、アルゴン(BOC99.5%純度)を用いほぼ80mtorrの圧力で4分間パージし、その後300Wの連続波を使って試料を60、120、240及び480秒間処理した。
【0118】
塩素−ハーコセット法で処理した種々の布帛試料の撥水性と撥油性の両方を評価した。結果をそれぞれ表1と表2に示す。
【0119】
仕上げ処理した布帛の耐摩耗強さを、Martindale Wear & Abrasion Testerにより、BS 12947−2: 1999に従って測定し、3,000回の摩擦後の撥液特性を評価した。
【0120】
洗濯、ドライクリーニング、及びフラットアブレーション後のフルオロカーボンポリマー鎖の再配向を評価するため、Elnapress/SDLを使用し標準のウール温度設定で布帛をホットプレスした。結果を示す各表において、ホットプレス処理はHPとして示されている。
【0121】
布帛試料の撥水性を、一連の水/イソプロピルアルコール溶液を使用する3M撥水性試験を使用して測定した。
【0122】
下記の表1は、フルオロカーボンで処理した塩素−ハーコセット処理ウール布帛の3M撥水性分析の結果を示している。
【0123】
【表1】

【0124】
表1の試験は、撥水性を付与するのに、塩素−ハーコセット法で処理したウール布帛に対して伝統的な湿式化学物質のフルオロカーボンの適用に比べフルオロモノマーのプラズマ重合が有効であることを示している。この表は、アルゴンプラズマ処理をそれぞれ1、2又は3分間適用した場合に結果が異なることを示している。プラズマ重合装置の前にアルゴンプラズマ前処理を行うと、室温ではるかに良好なポリマーの再配向がなされて、洗濯後に撥水性能を回復するためのホットプレスが必要なくなることが明らかである。
【0125】
同様に、ドライクリーニング後にやはりプラズマ重合装置の前にアルゴンプラズマ前処理を行うと、室温ではるかに良好なポリマーの再配向がなされて、有効な撥水性能を回復するための熱処理の必要がなくなるように見える。
【0126】
処理した布帛へのフラットアブレーションの効果は、撥水性を低下させるが、加熱による後処理はやはり撥水性を回復させる。
【0127】
ウールをアルゴンプラズマで前処理するのは、加熱での後処理の必要をなくしあるいは軽減する有益な効果があるが、アブレーション処理したプラズマ処理ウール布帛は、恐らくはより薄いPPコーティング層のために、伝統的なフルオロカーボン仕上げ剤に比べ撥水性能をいくらか失ったように見える。
【0128】
布帛の撥油性を、一連の8つの標準炭化水素溶液を使用するAATCC 118−2007の撥油性試験を使用して測定した。撥油性のグレードは、布帛表面を濡らさない一番大きい数の試験液である。下記の表2は、フルオロカーボンで処理した塩素−ハーコセット処理ウール布帛の3M撥油性分析の結果を示している。
【0129】
【表2】

【0130】
表2の試験は、撥油性を付与するのに、塩素−ハーコセット法で処理したウール布帛に対して伝統的な湿式化学物質のフルオロカーボンの適用に比べフルオロモノマーのプラズマ重合が有効であることを示している。
【0131】
プラズマ重合装置の前にアルゴンプラズマ前処理を行うと、室温ではるかに良好なポリマーの再配向がなされて、洗濯後に撥油性能を回復するためのホットプレスが必要なくなることも明らかである。それにひきかえ、伝統なフルオロカーボンでの仕上げでは洗濯サイクル後に撥油性を回復するためにホットプレスが必要である。
【0132】
ドライクリーニングに関しては、両方の系の性能は似通っているが、アルゴンプラズマ前処理はやはり性能を向上させ、有効な撥油性能を回復するための熱処理の必要をなくす。
【0133】
フラットアブレーションの効果は、伝統的な湿式化学物質のフルオロカーボンの撥油性を低下させることであるが、この場合もやはり熱処理は撥油性を回復させる。ウールをアルゴンプラズマで前処理することには、熱処理の必要をなくす有益な効果がある。(フラットアブレーションを行った結果、プラズマ処理を受けた試料では撥油性は低下しなかった。)
【0134】
ウール混紡布帛試料について種々の試験を繰り返した。結果を下記の表7〜10に示す。
【0135】
【表3】

【0136】
【表4】

【0137】
【表5】

【0138】
【表6】

【0139】
同様の傾向が、純粋なウールでのようにウール/ポリエステル混紡布帛で観測されたが、水での洗濯後の撥水性の低下はより少なくて、これはポリエステル混紡構成材のもともとの撥水性に関係しているのかもしれない。それにひきかえ、プラズマ処理した混紡布帛についての繰り返しのドライクリーニング後の撥水性能及び撥油性能は、伝統的なフルオロカーボンで仕上げた布帛よりも有意に良好である。
【0140】
種々のフルオロカーボンで処理した塩素−ハーコセット法処理布帛の試料を、X線光電子分光法(XPS)と飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)の両方を使って表面分析した。
【0141】
ToF−SIMS分析は、4.0×10-8Torr未満のベース圧力で作動するPHI 7000計器を使って行った。この計器は、リフレクトロン分析器、Cs+イオン源(8keV、パルス長さ1.25ns)、及び電荷比較のためのパルス均一電子面線源(50〜70eV)を装備していた。正負両方の二次イオン質量スペクトルを、0〜2000の質量範囲にわたり250μm×250μmの面積から得た。おのおのの試料の分析について、合計の一次イオン照射量は1×1012イオン/cm2未満であり、これは静的SIMSの限界値の1×1013イオン/cm2より少なかった。
【0142】
塩素−ハーコセット法で処理したウール布帛の調査から、負イオンスペクトルにおけるm/z=341-の18−メチルエイコサン酸の信号の喪失が示され、18−MEAの化学的分断とポリマーコーティングの上層の存在との組み合わせが示唆される。(塩素−ハーコセット法の酸塩素化段階はエピキューティクルから共有結合した親水性の18−メチルエイコサン酸(18−MEA)を除去する)。しかし、m/z=42-のアミドの信号はなおもはっきりしているが、それはポリマーと、ことによっては何らかのコーティングされていない露出したウールのタンパク質とに由来するものである。それにひきかえ、タンパク質によるm/z=32-のイオウの信号の減少は強度が低下し、ポリマーコーティングが下層のタンパク質を覆い隠したことを示唆している。ToF−SIMSの負イオンスペクトルで明らかな他の種は、m/z=265-、293-、311-、325-、そして339-にあり、アルキル硫酸塩及び線状アルキルベンゼン硫酸塩界面活性剤に起因している。更に、正イオンスペクトルには、m/z=494+[N+(CH32(C16332]、522-[N+(CH32(C1633)(C1837)]、及び550+[N+(CH32(C18372]でより弱い信号が検出される。
【0143】
プラズマ重合で処理したウールの試験では、負イオンスペクトルにF-に由来のm/z=19-の強い信号が示され、そして正イオンスペクトルでは複雑なポリマーフラグメンテーションパターンが観測され、ヘプタデカフルオロデシルアクリレートのポリマー重合プロセスの不均一性を反映している。プラズマプロセスの間に、モノマーはフラグメンテーションを受けることがあり、そして再生成プロセスが複雑なポリマー構造を生じさせる。それでもなお。一連の特徴的な正イオン、すなわちC35+、C352+、C45+、C57+、C59+、C713+、C817+、C817CH2CH2+、C10152+などが明らかである。
【0144】
A1 Kα−アルファX線源を備えたKratos Axis Ultra XPS計器を使って、XPスペクトルを得た。試料(300×800μm)を両面接着剤でサンプルバーに取り付けた。80eVの通過エネルギーで幅広いスキャンスペクトルを記録した。20eVの通過エネルギーで、S(2p)、C(1s)、N(1s)、O(1s)、及びF(1s)領域の高解像度のスペクトルが得られた。分析中の編織布の絶縁問題を克服するために、電荷中和器のフラッドガンにより電荷の蓄積を中和する目的で一定の電子の流れを供給した。285.0eVでのC(1s)光電子ピークに対する結合エネルギーの値を計算した。試料表面の元素組成と原子比を、Casa XPSソフトウェアとワグナーの感度計数により得た。
【0145】
XPS分析の結果を表3に示す。
【0146】
【表7】

【0147】
プラズマ処理した試料のXPS(X線光電子分光法)データは、アルゴンでの前処理を使用した場合、フルオロカーボンが繊維表面に明らかに取り込まれており、フッ素含有量が47%まで上昇したことを示している。
【0148】
洗濯、ドライクリーニング及びフラットアブレーション後には、表面のフッ素は減少するが、その後の熱処理でフルオロポリマーの再配向が引き起こされることが明らかである。
【0149】
アルゴンプラズマで処理した試料でも、この挙動を示したが、とは言え洗濯し加熱はしなかった試料の撥水性能と撥油性能は比較的少しだけ低下した。
【0150】
興味深いことに、フルオロポリマーPP布帛のXPSスペクトルは表面に窒素がないことを示しており、表面のフルオロカーボンの上層が窒素を含有しているハーコセットポリマーを覆い隠していることがうかがえる。
【0151】
布帛の引張特性を、BS 13934−1:1999の試験方法により、Instronモデル5564でゲージ長さ100mm、クロスヘッド速度50mm/minにて測定した。提示する各値は10回の測定値の平均である。
【0152】
処理前と処理後の両方での布帛の機械的(取り扱いに関する)特性への処理の影響を、川端の評価システム(KES)を使って客観的に評価した。20×20cmの試料を20℃、65%相対湿度で状態調節してから、引張特性、剪断特性、及び曲げ特性を試験した。
【0153】
表4は、プラズマとフルオロカーボンで処理したウール布帛の引張強さを示しており、表5は塩素−ハーコセット法で処理したウール布帛の選択した機械的特性のKES−F分析の結果を示している。
【0154】
【表8】

【0155】
【表9】

【0156】
フルオロカーボンでの処理が布帛の引張強さに与える影響はわずかではあるが、興味深いことに、アルゴンプラズマ処理した試料の一部について強さが少し向上しており、これは表面の摩擦が増加することに関係があるのかもしれない。
【0157】
フルオロポリマーを繊維表面上でプラズマ重合させると、フルオロカーボン表面コーティングの潤滑効果が引張強さを低下させる。この潤滑効果は、5°での剪断ヒステリシスである2HG5が1.38から0.94へと低下するKES−Fデータでも観測される。2HG5は、糸間摩擦の指標であり、ウール表面へのあらゆる損傷がこの値を増加させ、逆に潤滑はこの値を低下させる。フルオロカーボンでの処理が全体として、布帛の取り扱いを少し強化する。
【0158】
ウール布帛の縮充による縮みを、Wascator FOM 71Pを使用し、標準の5A洗濯プログラムで測定した。布帛の縮みを、新しい布帛の面積を測定しそれを最初の面積の値と比較することにより各洗濯サイクル後に求めた。布帛試料をBS EN ISO 3175:1998の試験方法に従い、AmbergateのPPT Companyでドライクリーニングし、1サイクル後及び3サイクル後にそれらの撥液性能を測定した。結果を表6に示す。
【0159】
【表10】

塩素−ハーコセット法で処理したウール布帛は機械での洗濯が可能であり、縮まないが、未処理のウールは布帛の構造と処理とに依存して大きく縮む。表6の調査は、未処理のウール布帛は5×5A洗濯サイクル後の63.4%の収縮率まで漸進的に縮むことを示している。伝統的なフルオロカーボンコーティングは、縮充を減らすのに有益な効果がないが、それにひきかえフルオロモノマーをプラズマ重合させたウール試料は縮充による縮みがはるかに少ない。縮充の減少は非常に心強いものであり、組み合わせの撥液性と機械での洗濯が可能であることの二重効果を達成する機会を潜在的に作り出す。
【0160】
伝統的なフルオロカーボンコーティングでの、及びプラズマ重合させた(PP)フルオロポリマーでのウール布帛の処理は、布帛に撥水性と撥油性とを付与することになり、両者の仕上げ処理の初期性能は似通っている。その後洗濯を繰り返し、あるいはドライクリーニングサイクルを繰り返すと、撥液性が低下することになるが、これは、表層境界面でフルオロポリマーの分子を再配向させる熱処理後に回復させることができる。
【0161】
PP試料は伝統的なフルオロカーボンコーティングよりも良好な自然乾燥での再配向をもたらすとは言え、PPに先立ちアルゴンプラズマで前処理するとこの撥液性回復性能は更に向上する。この効果は、プラズマコーティングとの最適な表層境界面化学作用がもたらされ、フルオロポリマーの再配向に必要なエネルギーを最小限にすることに関係している。処理した布帛の外側1〜10nmの特徴を、感度のよい表面分析技術、例えばXPS、ToF−SIMSなどで調べて、表面のフッ素含有量が増加していることがはっきりと実証された。ホットプレス後のポリマーの再配向は、XPSを使用して、表面のフッ素濃度が増加していることにより実証される。プラズマ重合した布帛表面の分析から、19−MEAが喪失しており、イオウと窒素の含有量が減少していることが示され、フルオロポリマーの上層が下層のタンパク質あるいはハーコセットポリマーを覆い隠していることをうかがわせた。PP布帛のToS−SIMSスペクトルも、特徴的なパーフルオロイオンの存在することを示している。
【0162】
塩素−ハーコセット法で処理したウールは機械で洗濯することができ、PP処理はこの重要な性能基準に影響を及ばさない。興味深いことに、未処理のウール布帛は洗濯の繰り返しにより面積で63%まで縮み、Oleophobol及びFluorepelコーティングは縮充によるこのレベルの縮みに影響を及ぼさない。それにひきかえ、フルオロポリマーPP処理は、縮充による縮みを有意に減少させる。フルオロカーボンでの処理が布帛の引張強さに及ぼす影響はわずかであるが、布帛のKES−F分析からOleophobol及びFluorepelでの仕上げは一部の布帛に強さを付与し、その一方PPでの処理は混紡布帛の取り扱いに有益な効果を及ぼすように見えるということが示された。
【0163】
下記で詳しく説明するように、シリカナノ粒子のウールへの影響も測定した。シリカナノ粒子を、フルオロポリマーコーティングを加える前にウール試料に適用した。次いで、ウール試料の縮み、撥水性、撥油性、色と、KES−F分析の試験を行った。
【0164】
ウール試料は100%ウールのボタニーサージ(190g/m2)で、ブラッドフォードのWhaleys社より供給を受けた。使用した「伝統的な」フルオロ化学物質はチバ社のOleophobol SL−A 0であり、縮み防止ポリマーのSynthapretはバイエル社から供給を受けた。堅牢度試験を行う際、SDC ECE非リン酸塩基準洗剤をO.B.Aなしに使用した。
【0165】
1H,1H,2H,2H−ヘプタデカルオロデシルアクリレート(H2C=CHCO2CH2CH2(DF2)7CF3)(Fluorochem、98%純度、多段凍結融解サイクルを使って更に精製)を、プラズマ反応器での原料モノマーとして使用した。
【0166】
ナノ粒子を布帛重量に対し0.3%(o.w.f.)及び5ml/lのイソプロパノールを含有している浴で、布帛試料をウェットピックアップ70%にてパディングした。種々の大きさのナノ粒子を表11に示す。パディングした布帛を100℃で2分間乾燥させ、その後140℃で4分間キュアした。
【0167】
布帛試料を、パッド・ドライ・キュア法を使用し、18g/lのSynthapret BAP、24g/lのOleophobol SL−A、布帛重量に対し0.3%(o.w.f.)のナノ粒子、及び5ml/lのイソプロパノールを用いて、「伝統的な」フルオロケミカルで処理した。
【0168】
パッド浴は酢酸を使ってpHを6〜7に設定し、ウェットピックアップは70%であった。パディングした布帛を100℃で2分間乾燥させ、その後140℃で4分間キュアした。
【0169】
布帛試料を、上述のようにプラズマ重合でも処理した。
【0170】
【表11】

【0171】
Wascoater FOM 71Pを用い、上述の標準の5A洗濯プログラムを使って、ウール布帛の縮充による縮みを測定した。表12は、種々のフルオロポリマーコーティングを用いシリカナノ粒子でコーティングしたウールについての布帛の縮みを示している。試験は、染色した試料と染色していない試料の両方について繰り返し行った。
【0172】
表6の結果に見られるように、フルオロポリマーのプラズマ重合は縮充縮みの軽減に有益な効果があった。
【0173】
表12は、種々の処理と組み合わせてのシリカナノ粒子の縮充縮みに対する効果を示している。
【0174】
【表12】

【0175】
【表13】

【0176】
表12の調査は、ナノ粒子をSynthapret BAP/Oleophobol SL−A配合物に取り入れると縮充による縮みが更に少なくなるが、この効果はその後のフルオロポリマープラズマ重合後に初めて十分発現する、ということを示している。
【0177】
この効果は、恐らくフルオロポリマープラズマコーティングが表面の突出部を滑らかにするためと思われる。同様に、ナノ粒子を覆うフルオロカーボンをプラズマ重合させると、縮充による縮みが減少する。意外にも、一般により大きなナノ粒子がより良好な効果をもたらすように見え、これはそれらの粒子が独立した保護メカニズムをもたらすことに関連しているのかもしれない。
【0178】
布帛試料を、3M撥水性分析とAATCC撥油性分析とにかけた。「伝統的な」フルオロカーボン処理の試料についての結果を表13、14に示し、プラズマ処理試料についての結果を表15、16に示す。
【0179】
【表14】

【0180】
【表15】

【0181】
【表16】

【0182】
【表17】

【0183】
伝統的フルオロカーボン仕上げ剤のOleophobol SLにナノ粒子を組み入れた布帛の撥水性能及び撥油性能の調査から、ナノ粒子は撥液性能の向上に比較的ほとんど効果がないことが示された。同様に、フルオロポリマープラズマ重合系にナノ粒子を組み入れることの効果は、前処理した布帛に沿ってナノ粒子上に直接プラズマ重合を行った試料(表中強調表示)を除いて、わずかである。
【0184】
Datacolor社の反射分光光度計を使用して布帛の色を測定した。試料を四つ折りし、4つの値の平均を使って平均値を求めた。結果を表17、18に示す。
【0185】
【表18】

【0186】
【表19】

【0187】
布帛構造中にナノ粒子を組み入れることの布帛白色度と黄色度への影響は、粒子の大きさに依存する。粒子寸法が大きくなると漂白効果が明らかになり、そして明らかにこれはいずれの有色製品にも影響を及ぼす。それにひきかえ、より小さいナノ粒子の場合は、色を薄くする効果が比較的小さい。
【0188】
最後に、機械的性質も試験した。結果を表19に示す。
【0189】
【表20】

【0190】
ナノ粒子が処理した布帛の機械的性質に及ぼす効果は様々である。単独で適用し又は単独で適用して次にプラズマ重合プロセスを行うと、2HG5の値(糸間摩擦と柔軟さの指標)が大きくなり、これは恐らく突出している粒子が摩擦の相互作用を引き起こすためである。それにひきかえ、ナノ粒子を縮み防止又は撥水・撥油性仕上げ剤と併用すると、機械的性質は対照の布帛と同様になる。
【0191】
ウール布帛に適用したフルオロカーボン系へナノ粒子を取り入れると、撥水性と撥油性に関して得られる利益はわずかなものに過ぎないが、この性能はアルゴンプラズマでの前処理で向上する。ウール布帛の、特にプラズマ重合後の、縮充による縮みは、ナノ粒子をコーティング中に取り入れることにより減少し、恐らくは繊維のスケールが関与することのできない独立したメカニズムが関係している。布帛を取り扱うことへのナノ粒子の影響は、適用条件に依存して様々である。しかし、ナノ粒子が比較的「露出」されている場合は、表面の突出部が糸間摩擦を増加させて布帛の取り扱いを厳しくするように見える。SEM分析から、ナノ粒子の分布は不均一であり、スケールの端部に位置しているか、あるいはフルオロポリマーの膜内に位置していることが示された。アルゴンプラズマでの前処理は、ウール布帛上のナノ粒子の分布を改善する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、糸、前記繊維もしくは糸を含むスライバー、布帛又は衣料品の形をしたウールを処理して、洗濯中の縮充による縮みを防止する方法であって、ポリマーコーティングをプラズマ重合により適用することを含む処理方法。
【請求項2】
前記ポリマーがフルオロポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマ重合より先の予備工程において、不活性ガスの存在下で連続出力プラズマを印加する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記不活性ガスがアルゴンを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品が繊維表面をポリマーでコーティングするための前処理を受ける、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記前処理が塩素−ハーコセットプロセスを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品にケイ素ナノ粒子を適用することを更に含む、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記プラズマがプラズマ重合を受けてポリマーを生成するモノマー化合物を含み、該モノマー化合物は次の式(I)、すなわち、
【化1】

(この式中のR1、R2、R3は水素、アルキル、ハロアルキル、又は随意的にハロゲンで置換されたアリールから独立に選ばれ、R4は−X−R5基(この式のR5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合基、式−C(O)O−の基、式−C(O)O(CH2nY−の基(この式のnは1〜10の整数であり、Yはスルホンアミド基である)、又は−(O)p6(O)(CH2t−の基(この式のR6はハロゲンで随意的に置換されたアリールであり、pは0か又は1、qは0か又は1、そしてtは0か又は1〜10の整数であるが、但しqが1の場合、tは0より大きい))である)
の化合物である、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記式(I)の化合物が次の式(II)、すなわち、
CH2=CH−R5 (II)
(この式中のR5は式(I)に関連して上で定義されているとおりである)
の化合物であるか、あるいは前記式(I)の化合物が次の式(III)、すなわち、
CH2=CR7aC(O)O(CH2n5 (III)
(この式中のnとR5は式(I)に関連して上で定義されているとおりであり、R7aは水素、C1-10アルキル、又はC1-10ハロアルキルであり、特にR7aは水素又はC1-6アルキル、例えばメチルなど、である)
のアクリレートである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記式(III)の化合物が、次の式(IV)、すなわち、
【化2】

(この式中のR7はであり、式中のR7は水素又はアルキルであり、xは1〜9の整数である)の化合物である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記式(IV)の化合物が1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレートである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記プラズマがプラズマ重合を受けてポリマーを生成するモノマー化合物を含み、該モノマー化合物は、次の式(V)、すなわち、
【化3】

(この式中のR8、R9、R10、R11、R12、R13は全て、水素、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリールから独立に選ばれ、Zは橋架け基である)
の化合物であるか、又は次の式(VII)、すなわち、
【化4】

(この式中のR16、R17、R18、R19、R20は水素、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されているアリールから独立に選ばれ、R21はX−R22基(この式のR22はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合基、式−C(O)O(CH2xY−の基(この式のxは1〜10の整数、Yは結合基又はスルホンアミド基である)、又は−(O)p23(O)s(CH2−基(この式のR23は随意的にハロゲンで置換されたアリールであり、pは0か又は1、sは0か又は1、そしてtは0か又は1〜10の整数であるが、但しsが1の場合、tは0より大きい)である)
の化合物であるか、又は次の式(VIII)、すなわち、
24−C≡C−X1−R25 (VIII)
(この式中のR24は水素、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリールであり、X1は結合基又は橋架け基であり、R25はアルキル、シクロアルキル又は随意的にハロゲンで置換されたアリール基である)の化合物である、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
プラズマ堆積チャンバーで実施され、該チャンバー内でグロー放電を生じさせ、パルス場として電圧を印加する、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
印加電圧が5〜500Wの出力である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記電圧を、オン時:オフ時の比が1:500〜1:1500の範囲であるシーケンスでパルス化する、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
前記電圧を、出力が20〜50μs間オンであり、1000〜30000μs間オフであるシーケンスでパルス化する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記電圧を30秒〜90分間、パルス場として印加する、請求項13〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
前記繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品が100%ウールを含む、請求項1〜17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
前記繊維、糸、スライバー、布帛又は衣料品がウール/ポリマー混合物を含む、請求項1〜18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
ウールを含有している繊維、糸、前記繊維又は糸から作られたスラーバー、布帛又は衣料品上でのプラズマ重合により得られたポリマーコーティングの、洗濯中の縮充による縮みを減らすことへの利用。
【請求項21】
前記ポリマーがフルオロポリマーである、請求項19記載の利用。
【請求項22】
前記ポリマーコーティングが、前記布帛又はそれを構成する糸を次の式(I)、すなわち、
【化5】

(この式中のR1、R2、R3は水素、アルキル、ハロアルキル、又は随意的にハロゲンで置換されたアリールから独立に選ばれ、R4はX−R5基(この式のR5はアルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合基、式−C(O)O−の基、−C(O)O(CH2nY−の基(この式のnは1〜10の整数であり、Yは結合基又はスルホンアミド基である)、又は−(O)p6(O)(CH2t−の基(この式のR6はハロゲンで随意的に置換されたアリールであり、pは0か又は1、qは0か又は1、そしてtは0か又は1〜10の整数であるが、但しqが1の場合、tは0より大きい))である)
の化合物に、該布帛又は糸の表面に保護ポリマー層を形成させるのに十分な時間暴露することにより形成される、請求項20又は21記載の利用。
【請求項23】
ウールを含有している繊維、糸、前記繊維又は糸から作られたスラーバー、布帛又は衣料品上でのプラズマ重合により得られたポリマーコーティングの、洗濯後のリフレッシュを必要としない撥水性及び/又は撥油性コーティングとしての利用。
【請求項24】
ウールを含有している繊維、糸、前記繊維又は糸から作られたスラーバー、布帛又は衣料品であって、当該繊維、糸、スラーバー、布帛又は衣料品は洗濯中の縮充による縮みを防ぐため請求項1〜19のいずれかに記載の方法により処理されている、ウールを含有している繊維、糸、前記繊維又は糸から作られたスラーバー、布帛又は衣料品。

【公表番号】特表2013−512352(P2013−512352A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540495(P2012−540495)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051619
【国際公開番号】WO2011/064562
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(508216699)ピーツーアイ リミティド (12)
【Fターム(参考)】