説明

新規遺伝子、それを用いた形質転換体及びその利用

【課題】 生澱粉分解酵素であるアミラーゼの効率的、かつ安定的な供給手段を提供すること。
【解決手段】 ストレプトマイセスE−2248株からPCRによりアミラーゼ遺伝子を単離し、該酵素遺伝子の塩基配列を決定し、該酵素遺伝子を含んでなる酵母高発源ベクターを構築し、さらには該ベクターを含んでなるサッカロミセス・セレビシアエの形質転換体を構築することにより、該アミラーゼを高発現する該サッカロミセス・セレビシアエ菌株を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生澱粉分解酵素遺伝子及び該遺伝子を組み込んだ形質転換体を培養することによる生澱粉分解酵素の製造法に関し、該生澱粉分解酵素は、食品工業、繊維工業、医薬工業などの分野での利用が期待され、産業上極めて有益な酵素である。
【背景技術】
【0002】
本発明者は先に、本発明にかかわる酵素が生澱粉分解能を有し、かつ工業的にも充分な耐熱性を示す、産業上きわめて有益な酵素であることを見出した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005―143440
【0003】
しかしながら、従来、生澱粉分解酵素は、該生澱粉分解酵素を産生する菌株を培養して製造されているが、供給量、供給費用などの点で改善すべき問題が多くあった。
【0004】
とりわけ、該生澱粉分解酵素を産生する菌株は放線菌であり、かつ該酵素は誘導酵素であるがため、培養条件も種々の制約を受け、培養温度や培養時間の他、培養の際の通気量や培養液の撹拌の方法などのわずかな変化によって、菌体の生育が異なり、ひいては酵素生産量がばらつき、甚だしくは全く酵素を産生しない場合すらある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、産業上きわめて有益な酵素である該生澱粉分解酵素の効率的かつ安定的生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、生澱粉分解酵素をコードする遺伝子DNAを精製・単離し、その塩基配列を決定することに成功した。
【0007】
また、該遺伝子を酵母高発現プロモーターとともにベクターへ導入し、酵母発現ベクターを構築した。さらに該遺伝子を、最も培養の容易な宿主のひとつである酵母サッカロミセス・セレビシアエに組み込んだ形質転換体を得、かつ該形質転換体を培養することによって生澱粉分解酵素を効率よく製造する方法を完成した。
【0008】
即ち本発明は、請求項1に示すごとく、図1の塩基配列を有する遺伝子DNAを基本的技術とし、更に次のような態様を包含する。
【0009】
請求項1の配列を含んでなるサッカロミセス・セレビシアエのベクター(これを請求項2とする)。
請求項2のベクターをサッカロミセス・セレビシアエに移入してなる、アミラーゼ生産能を有する形質転換体(これを請求項3とする)。
請求項3を培養して得られるアミラーゼ(これを請求項4とする)。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐熱性かつ生澱粉分解性を有するアミラーゼをコードする遺伝子DNAが提供され、しかも該酵素を安定して高発現しうる酵母形質転換体の構築に成功した。該形質転換体を培養することで、該生澱粉分解酵素を多量に、かつ容易に製造することができる。このようにして製造された生澱粉分解酵素は、食品工業、繊維工業、医薬工業などの分野で利用でき、産業上に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0012】
請求項1に係わる本発明の塩基配列は、生澱粉分解酵素生産能を有する遺伝子供与体微生物から、遺伝子増幅(polymerase chain reaction 非特許文献1、以下単にPCR)により得られるDNAフラグメントを解析することにより明らかとなる。
【非特許文献1】Molecular Cloning 2nd ed.,14.2−14.4
【0013】
すなわち、GenBankなどの検索システムより、目的とする生澱粉分解酵素と、その塩基配列がきわめて類似すると思われるものをひとつ、もしくは複数選抜し、それらに共通する領域からPCR用プライマーを設定し、コロニーダイレクトPCR(非特許文献2)で得られるDNAフラグメントを解析する。
【非特許文献2】PCR Tips 秀潤社 102−108ページ
【0014】
ついでインバースPCR(非特許文献3)を行い、構造遺伝子のうち、コロニーダイレクトPCRでは解析不充分であった部分の塩基配列を明らかにする。
【非特許文献3】Biosci.Biotechnol.Biochem.,65(5),1054−1063、
【0015】
コロニーダイレクトPCR及びインバースPCR双方の解析結果を合わせ、構造遺伝子の全塩基配列が明らかとなる。
【0016】
この場合、遺伝子供与体としては、特に制限はなく、生澱粉分解酵素生産能を有するものであればよい。本発明においてはストレプトマイセス属に属する微生物が好適に用いられ、特にストレプトマイセスE−2248株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 寄託番号 FERM P―19581 以下、単にE―2248株)が好ましい。しかし、その他のストレプトマイセス属微生物、あるいはストレプトマイセス属以外の微生物であって、生澱粉分解酵素生産能を有するもの、さらにはプロモーター部位やリボゾーム結合部位の異常などにより、生澱粉分解酵素生産能を有しないが、そのDNA上に生澱粉分解酵素の構造遺伝子をコードする微生物であれば遺伝子供与体として使用可能である。また、遺伝子組換えなどにより生澱粉分解酵素の構造遺伝子を導入された形質転換微生物なども遺伝子供与体として使用することができる。
【0017】
遺伝子の増幅はDNAフラグメントが正確に増幅されるものであればいずれの方法でも良い。本発明においては、polymerase chain reaction、いわいるPCRと呼ばれる手段が好ましく、なかでも上記非特許文献1、Molecular Cloning 2nd ed.,14.2−14.4ページ記載の方法が標準的ではあるが、これに限定されるものではない。また、コロニーダイレクトでなく、遺伝子供与体からテンプレートDNAを精製してPCRを行う従来法でも充分に目的は達しうる。インバースPCRにおいても種々の方法、例えば非特許文献4などがあり、構造遺伝子のうち解析不充分であった塩基配列を補いうるものであればいずれの方法でも良く、さらにコロニーダイレクトPCRのみ、あるいは遺伝子供与体からテンプレートDNAを精製して行う従来法のPCRのみで構造遺伝子の塩基配列を充分に解析しうるものであれば、インバースPCRの行程は必須ではない。
【非特許文献4】J.Ferment.Bioeng.,86(5)434−439
【0018】
さらに目的とするDNAフラグメントが解析に足りる量を確保できるのであれば、遺伝子増幅自体不要であり、たとえばショットガンクローニング法、DNAライブラリーからのプローブによるクローニング法などであっても本発明の請求項1は実現しうる。
【0019】
DNAフラグメントの解析方法は、オートシーケンサーを用いたダイデオキシ法によるものが既に一般的で、簡便であるが、手分析によるダイデオキシ法でも本発明は遂行可能であり、マクサムギルバート法での解析であっても何ら問題はない。さらには、これら以外の方法であってもDNAの塩基配列を決定しうる方法であればいずれのものでも良い。
【0020】
請求項2に係わる本発明のサッカロミセス・セレビシアエのベクターは、サッカロミセス・セレビシアエを宿主として請求項1の遺伝子DNAを安定して高発現させるための組換えプラスミドであって、市販の自立複製型酵母発現ベクターを基本骨格とし、これの有する発現プロモーターを酵母高発現プロモーターと付け替え、その下流に上記請求項1の遺伝子DNAを挿入してなるベクターDNAである。
【0021】
すなわち該ベクターは、サッカロミセス・セレビシアエでの複製起点としてCEN4を、サッカロミセス・セレビシアエでのセントロメアとしてARS1を、サッカロミセス・セレビシアエでの選択マーカーとしてAur1−Cを、サッカロミセス・セレビシアエでの高発現のためにグリセルアルデヒド−3−燐酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターPGAP及び、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のターミネーターTADH1を有する。
【0022】
さらに該ベクターは、組換え作業の効率化のため、大腸菌での選択マーカーとしてAmpを、大腸菌での複製起点としてColE1のoriを有する。
【0023】
ゆえに請求項2に係わる本発明のサッカロミセス・セレビシアエのベクターは、サッカロミセス・セレビシアエと大腸菌とのシャトルベクターの形を有するが、この大腸菌での選択マーカー及び複製起点は作業の効率化のためのものであり、サッカロミセス・セレビシアエへ移入前の組換え作業の際に適宜削除したものであっても何ら差し支えはない。
【0024】
また、大腸菌を使用しないなどの方法で組換え作業を行うのであれば、この大腸菌での選択マーカー及び複製起点は全く不要である。
【0025】
上記複製起点CEN4およびセントロメアARS1は、本発明のサッカロミセス・セレビシアエのベクターを宿主酵母内で自立複製せしめるためのものであり、これ以外にも2μm、3μmのプラスミド、あるいは線状pGKLプラスミドに由来する複製起点などでも代用可能であり、さらには本発明を自立複製型としてではなく、宿主染色体組込型として使用するのであれば、これら複製起点やセントロメア部位はなくとも何ら差し障りはない。
【0026】
また選択マーカーも、本発明のAur1−CなるオーレオバシディンA耐性遺伝子以外に、カナマイシン耐性遺伝子やヒグロマイシン耐性遺伝子、シクロヘキシミド耐性遺伝子、その他の薬剤耐性遺伝子など代用可能である。また薬剤耐性遺伝子に代わり、LEU2、TRP1、URA3、その他の栄養要求マーカーなども選択マーカーとして本発明に用いることが可能である。
【0027】
酵母での発現プロモーター及びターミネーターにおいては、本発明のPGAP及びTADH1の他、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子、エノラーゼ遺伝子、ガラクトース代謝系遺伝子、酸性ホスファターゼ遺伝子などのプロモーター及びターミネーターが酵母高発現として知られており、これら以外のものであっても、請求項1の本発明に係わる遺伝子DNAを宿主酵母において発現しうるものであれば、いずれのプロモーター及びターミネーターでも代用可能である。
【0028】
請求項3に係わる本発明の形質転換体は、請求項1の遺伝子DNA上にコードされた生澱粉分解酵素活性を酵素蛋白として発現させるために、請求項2のベクターをサッカロミセス・セレビシアエの細胞内に移入してなる酵母組換え体である。
【0029】
すなわち該形質転換体はサッカロミセス・セレビシアエの実験室株BJ2168(MATa leu2 trp1 ura352 prb11122 pep43 prc1407 gal2 Yeast Genetic Stock Center, Berkeley, CA)を宿主細胞として、請求項2のベクターをエレクトロポレーション法により移入してのち、オーレオバシディンA耐性かつ色素澱粉分解性を指標として選抜する。
【0030】
この場合、BJ2168などの実験室株以外の宿主であっても、たとえば協会酵母あるいはそれ以外の清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母をはじめ焼酎酵母、パン酵母、アルコール製造用酵母などの工業用酵母、ないしは天然界から新たに獲得した酵母などであっても、オーレオバシディンA感受性であれば本発明に使用可能である。
【0031】
また、請求項2の選択マーカーとしてオーレオバシディンA以外の薬剤耐性遺伝子を用いるのであればそれに応じた薬剤感受性のサッカロミセス・セレビシアエを、また栄養要求性マーカーを用いて選択するのであればそれに応じた栄養要求株のサッカロミセス・セレビシアエを宿主細胞として代用可能である。
【0032】
ベクターの移入方法も、エレクトロポレーション法が一般的ではあるが、プロトプラスト法(非特許文献5)、リチウム法(非特許文献6)、ミニセル細胞融合法(非特許文献7)、その他の方法でも本発明は遂行可能であり、宿主細胞内にベクターを移入可能であればいずれの方法でも良い。
【非特許文献5】Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75(1978),1929−1933
【非特許文献6】J.Bacteriol.,153(1983),163−168
【非特許文献7】Mol.Cell.Biol.,6(1986),3295−3297
【0033】
移入して後の選抜方法も、オーレオバシディンAに関わる宿主ベクター系以外の薬剤耐性による系を使用したのであればそれぞれに応じた薬剤を、栄養要求性の宿主ベクター系であればそれぞれの要求する栄養素を指標に行えばよい。
【0034】
酵素活性による選抜も、色素澱粉を用いる方法が最も簡便であるが、生澱粉けん濁培地でのクリアハローによる選抜、ヨード法によるもの、その他の方法が行える。
【0035】
請求項4に係わる本発明のアミラーゼは請求項3の形質転換体(FERM P−20567)を培養し、その培養上清より得られる。
【0036】
この場合、形質転換体の培養は、基本的にはサッカロミセス・セレビシアエの培養に用いられる培地並びに培養条件に従って行えばよいが、通常はYPD培地(酵母エキス1%、ペプトン2%、ブドウ糖2%)を用いて30Cでの振とう培養で行われる。
【0037】
サッカロミセス・セレビシアエの培地以外にも適当な栄養素を含み、酵母が増殖しうるものであればいずれのものでも使用可能であり、たとえば清酒もろみや麦汁などの穀類糖化液、焼酎もろみや芋飴原液などの芋類糖化液、その他の澱粉質糖化液、ブドウやリンゴ、桃、スモモなどの果汁、サトウキビや砂糖大根などの搾汁液、蜂蜜希釈液、廃糖蜜などの工場廃液 蔗糖やブドウ糖など糖類の溶液、これらの混合液、酵素処理液さらには補糖液などの処理を施したものなど、いずれのものであっても酵母が増殖可能であれば本発明を遂行しうる。
【0038】
培養温度も30Cが望ましいが、それ以下あるいはそれ以上であっても酵母が増殖可能な温度帯であればよく、さらに培養温度は一定である必要はなく、温度が変動するものであっても何ら差し障りはない。また培養方法も振とう培養あるいはジャーファーメンターなどによる方法が望ましいが、タンク培養や静置培養であっても本発明は達成しうる。
【0039】
また請求項4に係わる本発明においては、上記請求項3の選抜方法に準じて、選抜用薬剤や、要求する栄養素など添加するのが望ましくはあるが、これら薬剤や栄養素などを添加せずとも本発明に差し障りはない。
【0040】
本発明のアミラーゼは、上記培養物を、例えば濾過や遠心分離などの固―液分離手段により菌体などの固形物を除いて得た上清、すなわち粗酵素液として得られるが、目的に応じて澱粉吸着法(非特許文献8)やゲル濾過法などの部分精製など行えばさらに望ましく、それ以外にも硫安沈殿法、アルコールその他の有機溶媒沈殿法、イオン交換クロマトグラフ法、疎水クロマトグラフ法、逆相クロマトグラフ法などの一般的な手法に従って精製すれば良く、それぞれに応じてカラムを用いての精製やバッチ法での処理などが可能である。
【非特許文献8】Agr.Biol.Chem.,40(5),935−941
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示すことで本発明を詳細に説明するが、使用した菌株、培地、培養方法、プラスミド、プライマー、その他試薬類、実施方法などは一例として挙げたものであり、本発明を実施できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
該酵素をコードする遺伝子の塩基配列は以下の通り決定した。
【0043】
即ち、該ストレプトマイセスE―2248株の生産する生澱粉分解酵素が分子量約50kDaと推定された(特許文献1)ことから、同程度の分子量である放線菌由来のアミラーゼのうち、その塩基配列が既知のもの三種(Streptomyces sp.TO1(GenBank Y13332)、S.albus(U51129)、S.thermoviolaceus(M34957)のコンセンサス配列より、PCRプライマー(ACCAAGGACGTCACCGCSGACCTCTTCGAG 及び GGCCAGCATGAAGACGTTCGCSAGGGTGTA)を推定した。
【特許文献2】特開2005−143440
【0044】
本プライマーを用いてE−2248株より定法通りコロニーダイレクトPCR(アニーリング温度50C、25サイクル)を行ったところ、約800bpのDNAフラグメントを得た。本フラグメントの塩基配列をオートシーケンサーで解析した(解析結果1)。解析の結果、本フラグメントが制限酵素KpnIで切断されないことがわかった。
【0045】
他方、E−2248株の染色体DNAをKpnIで完全に加水分解した後、これをT4リガーゼでセルフライゲーションさせ、環状化した。この反応液をテンプレート溶液として、PCRプライマー(GCACTCCTTGGCCACCGAGGCGTAGTTCCA 及び AGCGCAACGGCAGCACGCTGAACTACAAGA)を用いてインバースPCR(アニーリング温度39C、25サイクル)を行ったところ、内部にKpnIサイトを1ヶ所もつ、約4kbpのDNAフラグメントを得た。本フラグメントの塩基配列をオートシーケンサーで解析した(解析結果2)。
【0046】
解析結果1及び2より、開始コドンATGから終止コドンTGAまでの1377塩基がMetから始まる本酵素458アミノ酸残基をコードしていることを見出した。結果を図1の配列表に示す。
【0047】
[実施例2]
該酵素遺伝子を含んでなる、サッカロミセス・セレビシアエの高発現ベクターは以下の通り構築した。
【0048】
即ち、配列表(図1)の上流に制限酵素KpnIサイトを持つプライマー(GGAAGGTACCATGGCACGCAGAACCCTCCC)及び配列表(図1)の下流に制限酵素SacIサイトを持つプライマー(AGACGAGCTCTCAGCAGCTCGACTTGCCGG)を用いてE−2248株より定法通りコロニーダイレクトPCR(アニーリング温度54C、25サイクル)を行ったところ、本生澱粉分解酵素の構造遺伝子を含み、上流側に制限酵素KpnIサイト、下流側に制限酵素SacIサイトを持つ約1.4kbpのDNAフラグメント(ORFフラグメント)を得た。
【0049】
また、酵母での高発現のためグリセルアルデヒド−3−燐酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GAP)のプロモーター(PGAP)を得るために以下のPCRを行った。即ちPGAPの上流に制限酵素BamHIサイトを持つプライマー(CTTTGGATCCTCGAGTTTATCATTATCAAT)及び下流に制限酵素KpnIサイトを持つプライマー(CAACGGTACCCATTTTGTTTATTTATGTGT)を用いてサッカロミセス・セレビシアエBJ2168(Yeast Genetic Stock Center, Berkeley, CA)より定法通りコロニーダイレクトPCR(アニーリング温度37C、25サイクル)を行ったところ、上流側にBamHIサイト、下流側にKpnIサイトを持つ約700bpのフラグメント(PGAPフラグメント)を得た。
【0050】
市販の酵母発現ベクターpAUR123(TaKaRa Code3602)のアルコールデヒドロゲナーゼプロモーター(PADH1、BamHI−KpnI)を上記のPGAPフラグメントと置き換え、更にマルチクローニングサイトのKpnI−SacI上に、本酵素の構造遺伝子をコードするところの、先に述べたORFフラグメントを挿入し、本酵素高発現用サッカロミセス・セレビシアエのベクターpGAPRSA約8.5kbpを得た。該ベクターpGAPRSAの模式図を図2に示す。
【0051】
[実施例3]
アミラーゼ生産性形質転換体は以下の通り獲得した。即ち、前述のサッカロミセス・セレビシアエBJ2168を宿主とし、高発現ベクターpGAPRSAをエレクトロポレーション法(非特許文献9)にしたがって、日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ社のジーンパルサーシステム及び0.2cmギャップのセルを用いて、1.5kV、25μF、200Ωのパルスにて移入した。選択用平板培地には抗生物質オーレオバシディンA(TaKaRa Code 9000)を培地1mlあたり0.2μgと、色素澱粉(Starch Azure, SIGMA Code S−7629)を0.2%加えて使用した。形質転換効率は、プラスミドDNA1μgあたり約10cfuであったが、色素澱粉のクリアハローにより、形質転換体を効率よく検出した。該形質転換体を独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターへ寄託した。(寄託番号 FERM P−20567)
【非特許文献9】Short Protocols in Molecular Biology 3rd ed.,13−34
【0052】
[実施例4]
該形質転換体を、オーレオバシディンAを培地1mlあたりそれぞれ0、0.25、0.5μg含むYPD培地(イーストエキス2%、ペプトン1%、ブドウ糖1%)を用いて、30C5日間培養した。培養期間中、随時培養上清の生澱粉分解活性(酵素力価、生コーンスターチを基質として、37C下1分間に1μmoleのグルコース相当の還元力を生じ得る力価を1Uとした。還元力はソモギーネルソン法にて測定した)を測定した。結果を図3に示す。
【0053】
いずれのものもE−2248株と同程度の酵素生産量を示し、かつ、E−2248株が4日目以降に最大生産量を示すのに対し、該形質転換体は2日目で最大となった。即ち、該形質転換体は日数あたりの酵素生産量はE−2248株のほぼ2倍であった。
【0054】
該形質転換体の培養上清より、澱粉吸着法にて該生澱粉分解酵素を回収した。即ち遠心除菌した培養上清にコーンスターチ粉末を3%(W/V)となるよう加え、4C、1時間撹拌し、酵素を澱粉に吸着させた。遠心分離により上清を除き、沈降した澱粉を回収した。この澱粉を、上記培養液の1/10の液量の1%β−サイクロデキストリン水溶液に充分に分散させて酵素を溶出させた。溶出後、遠心して澱粉を除去し、上清(酵素溶液)を回収した。該酵素溶液はSDS−PAGEでほぼ単一バンドを示し(図4)、ゲル濾過分析の結果でも極めて高純度のものであった(図5)。
【0055】
即ち、該形質転換体を培養し、澱粉吸着処理を行うことによって、高純度の該生澱粉分解酵素を短期間に効率よく製造可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、耐熱性かつ生澱粉分解性を有するアミラーゼをコードする遺伝子が提供され、しかも該酵素を高発現しうる酵母形質転換体の構築に成功した。該形質転換体を培養することで、該生澱粉分解酵素を多量に、かつ容易に製造することができる。このようにして製造された生澱粉分解酵素は、食品工業、繊維工業、医薬工業などの分野で利用でき、産業上に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】該遺伝子の塩基配列を示す配列表である。
【図2】該遺伝子を含んでなるサッカロミセス・セレビシアエのベクターの模式図である。
【図3】該ベクターを含んでなる形質転換体により生産された酵素量を示すグラフである。
【図4】該形質転換体により製造され、部分精製された酵素のSDS−PAGEの結果を示す写真図である。
【図5】該形質転換体により製造され、部分精製された酵素のゲル濾過分析の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
図2中、BamHI、KpnI、SacIはそれぞれの制限酵素切断部位を示す。Ampは大腸菌での選択マーカーを、oriは大腸菌での複製起点を、CEN4はサッカロミセス・セレビシアエでの複製起点を、ARS1はサッカロミセス・セレビシアエでのセントロメアを、Aur1−Cはサッカロミセス・セレビシアエでの選択マーカーを、PGAPはサッカロミセス・セレビシアエのグリセルアルデヒド−3−燐酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターを、TADH1はサッカロミセス・セレビシアエのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のターミネーターをそれぞれ示す。
図3中、△はオーレオバシディンAを含まないYPD培地(酵母エキス1%、ペプトン2%、ブドウ糖2%)、□はオーレオバシディンAを培地1mlあたり0.25μg含むYPD培地、◆はオーレオバシディンAを培地1mlあたり0.5μg含むYPD培地を用いて、該形質転換体を30Cで振とう培養した結果、生産した酵素量を示す。*は生澱粉培地(コーンスターチ1%(別滅菌)、酵母エキス0.5%、ペプトン0.5%、KHPO 0.1%、MgSO・7HO 0.02%)を用いて、ストレプトマイセスE−2248を30Cで振とう培養した結果、生じた酵素量を示す。
図5中、◆は280nmの吸光度を、■はソモギーネルソン法での520nmの吸光度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1の塩基配列を有する遺伝子DNA。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子DNAを含んでなるサッカロミセス・セレビシアエのベクター。
【請求項3】
請求項2のベクターをサッカロミセス・セレビシアエに移入してなる、アミラーゼ生産能を有する形質転換体(FERM P−20567)。
【請求項4】
請求項3を培養して得られるアミラーゼ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−20487(P2007−20487A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208480(P2005−208480)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】