説明

新規鳥類アストロウイルス

本発明は、獣医ウイルス学及び免疫学の分野に関する。特に、本発明は、新規鳥類アストロウイルス;この新規ウイルスに対する抗体もしくはその断片;新規鳥類アストロウイルスの、抗原調製物、タンパク質及びDNA分子;新規ウイルスもしくはその抗原性調製物、タンパク質又はDNAの、ワクチン;このようなワクチンの製造のための方法;及び診断キットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣医ウイルス学及び免疫学の分野に関する。特に、本発明は、新規鳥類アストロウイルス;新規ウイルスに対する抗体又はその断片;新規鳥類アストロウイルスの、抗原性調製物、タンパク質及びDNA分子;新規ウイルスもしくはその抗原性調製物、タンパク質又はDNAの、ワクチン;このようなワクチンの製造のための方法及び診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アストロウイルスは、プラスセンスの、1本鎖RNAゲノムを有する、小型で球形のエンベロープのないウイルスである。殆どのアストロウイルスは、下痢、嘔吐、吸収不良、全身的倦怠感及び成長遅延をもたらす、ある種の腸炎を引き起こすことに関連付けられてきた。感染は、幼若、老齢又は免疫不全個体など、体力がないヒト又は動物では致死となり得る。Matsui及びGreenberg(Fields virology、第3版、1996:B.Fieldsら編、ISBN:781702534、第26章)及び:Moser及びSchultz−Cherry(2005、Viral Immunology、vol.18、p.4−10)参照。
【0003】
また、アストロウイルス種又は株それ自身の間で毒性に差があるので、アストロウイルス誘発性病態の重症度は変動し得る。これにより、アストロウイルスのうち一部は第二の病原体として作用し、それら自身では無症候性の疾患しか引き起こさず、一方で、別の病原体からの疾患のさらなる原因がある場合のみ、疾患の完全な臨床兆候を呈すると考えられるようになった。
【0004】
アストロウイルス感染に対する免疫が達成される機構も完全には明確になっておらず;ウイルス中和抗体は、防御及び免疫学的記憶の一端を担っていると思われるが、おそらく、アストロウイルス感染に対する免疫反応の唯一のエフェクターではない。これは、M.Koci(2005、Viral Immunology、vol.18、p.11−16)により概説されている。
【0005】
アストロウイルスは、世界中で検出されており、多岐にわたる動物から単離された。同様に、ある一定の標的動物に感染するアストロウイルス種の中で、いくつかの血清型が述べられている。分類学的に、アストロウイルス科は、2種類の主要な属、哺乳動物アストロウイルス:Mamアストロウイルス及び鳥類アストロウイルス:Avアストロウイルスに分類される。現在のところ、Avアストロウイルス属は、正式に認識される種:鳥類腎炎ウイルス1及び2(ANV1、2)(ニワトリより)及びシチメンチョウアストロウイルス1及び2(TAstV1、2)を含む。
【0006】
いくつかのさらなる鳥類アストロウイルスが、アヒル、ニワトリ、ダチョウ及びシチメンチョウから単離されてきた。例えば、ニワトリアストロウイルス2(CAstV2)は、Baxendale及びMebatsion(2004、Avian pathology、vol.33、p.364−370;及び国際特許出願WO2004/027053)により記載されており、Toddらは、CAstV2と近縁であるCAstV3(WO2007/077464)について述べた。これらのアストロウイルスは、Koci及びSchulz−Cherry(2002、Avian pathology、vol.31、p.213−227)により概説されるように、まだ正式には分類されていない。
【0007】
アストロウイルスは、生活環境において非常に安定であり、例えばこれらは、通常の脂質−溶媒及び界面活性剤に耐性を有し得、幅広いpH耐性を有し、比較的温度に対して安定である。この事実から、それらの高い感染性及び糞口経路による易伝染性と組み合わせて、アストロウイルス又はそれらに対する抗体が非常に多くのヒト及び動物界で見出され得る理由が説明される。
【0008】
これらの小型RNAウイルスの分類及び命名は、新しい実験データに適合させるために改訂が必要とされた場合に頻繁に変更されてきた。例えば、アヒルアストロウイルス(DAstV)は、かつてはピコルナウイルスとして分類され、肝炎を引き起こすので、元来、アヒル肝炎ウイルスIIと呼ばれていた。同様に、ANV1は、以前、ピコルナウイルス、特にエンテロウイルスと記載されていたが、しかし、Avアストロウイルスと再分類された(Imadaら、2000、J.of Virology、vol.74、p.8487−8493)。ANV1はまた、ニワトリアストロウイルス1(CAstV1)とも呼ばれ、腎炎を引き起こす。
【0009】
ウイルスゲノムの配列及び構成における新しい情報の活用時に、これらのウイルスの再分類が求められた。特に、アストロウイルス科に対して、物理学的、電子顕微鏡的及び生化学的特徴が、ピコルナ−、カリシ−又はへぺウイルス科(E型肝炎様ウイルス)などのその他のいわゆる「小型球形ウイルス」又は「エンテロウイルス様ウイルス」から又はさらにはアストロウイルスの病徴とよく類似した病徴を引き起こす、レオ−、ロタ−又はコロナウイルスなどのエンベロープのあるRNAウイルスから、アストロウイルス科を区別するためには十分ではないことが多いことが分かった。これは、このような特性評価の結果が、使用される方法及び条件で変動するからである。従って、これらは、正しい決定を行うには十分に一貫していない。
【0010】
一方、免疫学的特性評価と組み合わせた、遺伝子型決定などの分子生物学的な特性評価は、正しい分類群に微生物を割り当てるのに十分詳しく、再現可能である(Van Regenmortelら、2000、Virus Taxonomy、7th Rreport of the ICTV、Academic Press、New York)。従って、理想的には、このような決定は、ヌクレオチド配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイ及び血清学的分類アッセイに基づく。
【0011】
アストロウイルス科のRNAゲノムは、概ね約7kbの大きさであり、このウイルス科に対して典型的であるゲノム構成を有する。Jiangら(1993、PNAS−USA、vol.90、p.10539−10543)及びKociら(2000、J.of Virology、vol.74、p.6173−6177)参照。現時点の理解によると、このゲノムは、5’から3’に向かって、3つの明らかに認識可能なオープンリーディングフレーム(ORF)を組み込む。
ORF1a:は、約3kBの大きさであり、セリンプロテアーゼモチーフを有する非構造タンパク質をコードする。
ORF1b:は、約1.5kBの大きさであり、ORF1aと部分的に重複し、非構造RNA依存性RNAポリメラーゼをコードする。
ORF2:は、約2kbサブゲノムRNAを介して、構造ウイルスタンパク質をコードする。発現されるポリタンパク質は、おそらく、ウイルスアセンブリ前により小さい部分に切断され、とりわけキャプシド又はコートタンパク質を含む。
【0012】
3つのORFのうち、ORF1bは、公開されているアストロウイルスヌクレオチド配列の中で比較して、最も保存されたヌクレオチド配列を有し、ORF2は配列中で最も変化しやすいORFである。
【0013】
オランダ、ドイツ及びアラブ首長国連邦での養鶏場において、ニワトリ及びシチメンチョウが、下痢、試料効率及び成長の低下ならびに肢の関節及び腱の腫脹及び疼痛を伴う問題を発現するという、ある特定の疾患問題が1987年から現在までの間、観察された。これらの問題は、様々な齢の、及び明らかな相互のつながりのない様々な農場の、ブロイラー、種畜及び産卵用鳥類で見られた。
【0014】
第1週齢から数ヶ月齢の鳥類において跛行が観察された。動物は、下肢の膝節(足首)関節及び腱シャフト(tendon shaft)の腫脹(両方とも、透明で僅かに粘性のある液体が過剰に貯留)及び関節炎の症状を呈した。飼料利用及び成長速度の低下がこれらの鳥類で観察されたが、これはおそらく、運動器官の問題の結果であろう。最悪の場合、鳥類はもはや動くことができず、それにより、摂餌又は摂水不可能となり、結果的に死亡した。これらの肢の異常は、体重がより重いブロイラー型の鳥類の行動で最も顕著であったが、しかし、持続的な経済的損失は全てのタイプの鳥類で深刻であった。
【0015】
さらにより問題であったのは、主に幼若鳥類で、また抱卵齢の鳥類でも観察された下痢であった。症状は、消化不良から明白な腸炎まで様々であり、その結果、飼料効率が低下し;成長が低下するか又はさらに体重が減少し;産卵数が減少し(「産卵減少」);低質の卵数が増加し;死亡率が上昇した。
【0016】
いくつかの農場で、数年にわたりその問題が観察され、その結果、明確な原因なく、低生産性状態が持続した。
【0017】
死後の検査時に、数例において、砂嚢のびらん又は肝臓の腫脹により示されるものなど、腸又は肢関節以外の身体部位も冒されていたことが分かった。
【0018】
これらの症状に対する原因を検出するために、管理及び食餌の点を調べたが、管理及び食餌は、これらの場合に観察された問題とは関連し得なかった。また、特にレオウイルス(このウイルスは、吸収不良及び関節の問題を引き起こすことが周知であるため)による感染に関与し得る病原体を調べた。しかし、様々なアッセイを使用したにもかかわらず、多くの場合において、レオウイルスは検出できなかった。
【0019】
細菌:サルモネラ、マイコプラズマ、ヘモフィルス及びパスツレラ;及びウイルス:アデノウイルス、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)、産卵低下症候群(EDS)及び鳥類インフルエンザウイルス(AIV)などの、同様の問題を引き起こすことが知られているものに対して、通常的に又は特異的に何れかでいくつかのその他の病原体も調べた。
【0020】
今日まで、どの原因物質も、重症度にかかわらず観察された肢及び腸の問題、動物の福祉に対する問題及び結果として生じるこれらの養鶏場の経済効率低下に関連し得なかった。
【0021】
結果的に、観察される疾患−症状に関連する物質を同定する、及び疾患の予防及び原因物質の同定をもたらす、ワクチン及び診断法を提供することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】国際公開第2004/027053号
【特許文献2】国際公開第2007/077464号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Matsui及びGreenberg、Fields virology、第3版、B.Fields他編、ISBN:781702534、1996年
【非特許文献2】Moser及びSchultz−Cherry、Viral Immunology、vol.18、2005年、p.4−10
【非特許文献3】M.Koci、Viral Immunology、vol.18、2005年、p.11−16
【非特許文献4】Baxendale及びMebatsion、Avian pathology、vol.33、2004年、p.364−370
【非特許文献5】Koci及びSchulz−Cherry、Avian pathology、vol.31、2002年、p.213−227
【非特許文献6】Imada他、J.of Virology、vol.74、2000年、p.8487−8493
【非特許文献7】Van Regenmortel他、Virus Taxonomy、7th Rreport of the ICTV、Academic Press、New York、2000年
【非特許文献8】Jiang他、PNAS−USA、vol.90、1993年、p.10539−10543
【非特許文献9】Koci他、J.of Virology、vol.74、2000年、p.6173−6177
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0024】
驚くべきことに、腸及び運動器官疾患に罹患しているニワトリ及びシチメンチョウにおいて新しいウイルスが発見された。様々な齢、型及び起源の罹患鳥類の、関節及び腱の両方から、ならびに様々な内部器官から、このウイルスを単離することができた。この単離ウイルスは、同様に、健康な試験動物の感染時に疾患の同様の症状を誘導し、罹患試験動物から再単離することができ、それによりコッホの条件を満たした。
【0025】
ウイルス及び家禽でそれが引き起こす疾患の問題、特に、関節及び腱の疾患ならびに胃腸管の疾患を検出及び治療するための、診断アッセイ及びワクチンを開発するために、この新しいウイルスを使用することができる。
【0026】
この新規ウイルスを多くの方法で分析し、驚くべきことにアストロウイルスとして同定された。ニワトリ及びシチメンチョウにおけるその罹患率のため、これは鳥類アストロウイルスとして仮に認定される。
【0027】
本明細書中に記載の新しいウイルスがエンベロープのないものであるという事実は、多くのその他の特性評価の中でも、クロロホルムでの2回の連続抽出を行い、その後、抽出されたウイルス試料が有胚ニワトリSPF卵において特異的な病原効果を依然として引き起こし得たという結果から得られた。
【0028】
この新しいウイルスにおけるRNAゲノムの存在は、さらなる分析に対して使用可能な核酸が、DNA単離及び通常のPCR後ではなく、RNA抽出及びRT−PCR後にのみ得ることができたという事実から示された。
【0029】
驚くべきことに、最も近縁(まだ区別可能である)種は、ANV1型のウイルスであることが分かり、従って本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスは、仮にANV3ウイルスとして分類される、鳥類腎炎ウイルスの新規の群に相当する。
【0030】
しかし、発明者らは、驚くべきことに、ANV1及びその他の(アストロ)ウイルスから本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスを区別し、それ自身の新規の別個の群に属するものとして新規鳥類アストロウイルスの異なる分離株の特徴を独自に示す、多くの特性を見出した。
【0031】
主要な特徴的性質は、ヌクレオチド配列分析により及びPCRアッセイにより同定可能である特異的なヌクレオチド配列の存在に関する。
【0032】
胚の感染時に誘発される別個の病的症状もまた観察された。特異的な免疫学的相違は、VN−又はIFT−アッセイを用いた血清型決定により検出可能であった。これら全ては、実験結果及び詳細とともに下記で述べる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、選択されたいくつかの本発明による鳥類アストロウイルスの分離株からのORF1aの一部分のcDNA配列の多重アラインメントを示す。参照は分離株19からの配列である。外側参照は、ANV1参照ウイルスのゲノムのcDNA配列の対応部(配列番号1)である。囲み付きの部分は、ANV1 ORF1aに存在しない12個のヌクレオチド領域を示す。
【図1−1】図1−1は、選択されたいくつかの本発明による鳥類アストロウイルスの分離株からのORF1aの一部分のcDNA配列の多重アラインメントを示す。参照は分離株19からの配列である。外側参照は、ANV1参照ウイルスのゲノムのcDNA配列の対応部(配列番号1)である。囲み付きの部分は、ANV1 ORF1aに存在しない12個のヌクレオチド領域を示す。
【図2】図2は、図1で列挙されるcDNA配列のコンピュータ翻訳により作成された、推定アミノ酸配列の多重アラインメントを示す。囲み付きの部分は、ANV1のORF1aによりコードされるタンパク質に存在しない4個のアミノ酸を示す。
【図3】図3は、図1で与えられるヌクレオチド配列アラインメントの結果の樹状図を示す。
【図4】図4は、本発明の鳥類アストロウイルスに特有である12個のヌクレオチド領域(太字で表示)の位置に関する、プライマー配列番号30及び31のハイブリッド形成領域の図解である。
【図5】図5は、臭化エチジウム染色され、UV光で照射されたアガロースゲル(このゲル上でいくつかのcDNA試料におけるプライマー配列番号30及び31を用いたPCRアッセイ産物の電気泳動を行った。)の写真を示す。陽性PCRの予想産物であるおよそ260塩基対のバンドがレーン5でのみはっきりと見られた。配列番号3のプライマーを用いて、前進(proceeding)RT反応を行った。 レーン1:陰性対照(PCR反応においてcDNAなし)。 レーン2:未感染ニワトリからの肝臓ホモジェネート。 レーン3:ANV1;1991のGerman分離株、増幅1xCAM、4x卵黄嚢、尿膜腔液を回収。 レーン4:CAstV2;番号CNCM I−2932でCNCMに寄託されたウイルス由来、尿膜腔液。 レーン5:本発明による鳥類アストロウイルスの分離株19、尿膜腔液。 M:DNAサイズマーカーレーン:200、400、600、800、1000bpなどでのバンド。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、鳥類アストロウイルスのORF1aが、鳥類腎炎ウイルスのORF1aと比較した場合に、12個のヌクレオチドの挿入物(この挿入物は、配列番号1のヌクレオチド番号2485及び2486に対応するヌクレオチドの間に位置する。)を含有することを特徴とする、オープンリーディングフレーム(ORF)1aゲノム領域を有する、単離新規鳥類アストロウイルスに関する。
【0035】
好ましい「鳥類」生物は家禽であり;より好ましい鳥類生物は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル及びガチョウからなる群から選択される。最も好ましいのはニワトリである。
【0036】
「アストロウイルス」という用語は、本発明による新しいウイルスの群の、アストロウイルス科の分類学的ファミリーに属しているものとして現在記載されている及び/又は分類されているウイルスに対する関係を示す。しかし、当業者は、新しい知見により、新しい又はその他の分類群への再分類が行われ得るので、このような分類学的分類が、時を経て変化し得ることを認識しよう。しかし、これは、本発明によるウイルスの特徴を変更せず、その分類のみが変更されるので、このような再分類生物は、本発明の範囲内に留まる。
【0037】
特に、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスから亜種、株、分離株、遺伝子型、血清型、変異体又はサブタイプなどにさらに分類される全てのウイルスを包含する。
【0038】
従って、本発明の場合、「アストロウイルス」とは、アストロウイルスとして分類されるウイルスの特徴的特性を有するウイルスである。このような特徴的特性は、例えば、分子生物学的、生化学的及び生物学的特性;例えば、1a、1b及び2として同定可能なORFを含むプラスセンス1本鎖RNAゲノムを有すること;約28−30nmのエンベロープのないビリオンであること;及び腸炎を引き起こすことに関する。
【0039】
「ゲノム領域」という用語は、本発明による新規鳥類アストロウイルスの遺伝物質の一部を指すものとする。このような領域は、核酸からなり;本発明による新規鳥類アストロウイルスの場合、この核酸はRNAである。
【0040】
本発明による新規鳥類アストロウイルスのゲノムは、全てのその他のアストロウイルス科と同様に、ORF1a、1b及び2として認識可能であり、それに対応する領域を含む。
【0041】
しかし、驚くべきことに、新規鳥類アストロウイルスが、そのORF1aゲノム領域において、ANV1又は(鳥類)アストロウイルスの何らかのその他の型のORF1aには存在しないいくつかのヌクレオチドを有することが分かった。これらのヌクレオチドは、12個のヌクレオチドの直線状及び連続的ストレッチの形態で存在し、ANV1のORF1a配列と比較した場合、この領域への挿入物に相当する。この12個のヌクレオチド「挿入物」は、本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスの群の試験した全分離株のORF1aに存在した。
【0042】
本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスの分離株のORF1aにおいてこの12個のヌクレオチド挿入物が存在する場所は、Imadaら(2000、J.of Virology、vol.74、p.8487−8493)により記載された、参照ANV1株のゲノム配列に対して記載されるとおりの付番を参照することにより示される。このANV1株のゲノム配列のcDNA配列はまた、受入番号AB033998下でGenBankとして知られるAmerican National Institutes of Healthのインターネットのヌクレオチド−データベースからも利用可能であり、配列番号1として本明細書中で表される。
【0043】
本発明による新規鳥類アストロウイルスの全分離株に対して、ORF1aのこの12個のヌクレオチド挿入物は、配列番号1のヌクレオチド番号2485及び2486に対応するヌクレオチドの間にあった。
【0044】
現在のところ、ANV1のORF1aに存在しない本発明による新規鳥類アストロウイルスのORF1aのこの12個のヌクレオチド挿入物が、この新規鳥類アストロウイルスの挙動に影響するか否か、どのように影響するかは分かっていない。理論に縛られるものではないが、発明者らは、12個のヌクレオチド、従って、ORF1aインタクトの翻訳フレームを維持する4個のトリプレットの挿入物が存在するという事実により、コードされる4個のさらなるアミノ酸がORF1aから発現される非構造タンパク質において組み込まれるようになるということを推測する。ウイルスの病態生物学的な挙動、例えばその毒性及びその、腸ならびに肢、関節及び腱の疾患を引き起こす能力にこれが影響する可能性は大いにある。
【0045】
それにもかかわらず、これらの12個のヌクレオチドが本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスのORF1aゲノム領域に存在するが、ANV1又はその他の(鳥類)アストロウイルスのORF1aには存在しないということから、ウイルスのこの新規群に対する陽性遺伝子マーカーがもたらされる。
【0046】
当技術分野で周知のように、遺伝子マーカーは、生物の遺伝物質の特徴であり、ある一定のゲノム位置に存在し、これは、ある種の区別又は関係付けを行うために有用であり、技術的手段により検出可能である。この場合のように、同定しようとする群に特性が存在する場合、それは、その群に対する「陽性の」遺伝子マーカーである。
【0047】
本発明による新規鳥類アストロウイルスの特徴である12個のヌクレオチド挿入物のヌクレオチド配列は、本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスの全分離株に対して同一ではないが、大きさ及び位置は同一であった。この12個のヌクレオチド挿入物のヌクレオチド配列のコンセンサスは、5’−TCYGGDMARYYT−3’であり、配列番号2として本明細書中で表される。
【0048】
従って、好ましい実施形態において、本発明は、12個のヌクレオチドの挿入物が配列番号2で与えられるような核酸配列を有することを特徴とする。
【0049】
当業者は、配列番号2の配列がいわゆる「変性」プライマー配列であることを知っており、このことから、位置(ここで:Y、D、M及びR)があり、ここで、多くのヌクレオチドのうち1つが存在し得ることが示される。変性塩基を示すための一般に使用されるコードはIUPACコードであり(Biochem.J.、1985、vol.229、p.281−286で公開)、ここで:R=G又はA;Y=T又はC;M=A又はC;K=G又はT;S=G又はC;W=A又はT;H=A、C又はT;B=G、T又はC;V=G、C又はA;D=G、A又はT;及びN=G、A、T又はCである。
【0050】
本明細書中に記載の新規鳥類アストロウイルスに対して、この検出可能な遺伝子マーカーが存在することによって、例えばDNA配列決定又はPCRを介して検出することにより、新規ウイルス及びその新規群の同定が可能となる。
【0051】
DNA配列決定は周知の技術であり、標準的プロトコール及び例えば高速自動配列決定のための装置は広く利用可能である。最も一般的には、このようなプロトコールは、PCRに基づく「サイクル−配列決定」と、それに続いく高解像度の電気泳動を使用する。
【0052】
アストロウイルス科などのRNAウイルスの核酸配列決定に対して、RNA配列決定がまだ実行可能ではないので、調べようとする核酸は、コピーDNA(cDNA)の形態である必要がある。cDNAの調製に対して、多くの標準的プロトコール及び市販のキットが利用可能である。このようなプロトコールは、逆転写酵素を使用する。一般に、コピー作製プロセスを開始するためにプライマーが使用される。
【0053】
RT反応のための適切なプライマーの例は、本明細書中で配列番号3として与えられるDNAオリゴヌクレオチドであり、5’−TCG WTS CTA CYC−3’である。発明者らは、このプライマーをプライマー17と呼ぶ。
【0054】
このプライマーは、多くの鳥類アストロウイルスのゲノムの遠く離れた3’領域とハイブリッド形成する(配列番号1のヌクレオチド番号6731に相当するヌクレオチドから始まり、逆方向に進む。)。
【0055】
図1は、本発明による鳥類アストロウイルスの選択されたいくつかの分離株からの、ORF1aの一部分のcDNA配列の多重アラインメントを示す。これらは、配列番号1で表されるようなANV1参照ウイルスのゲノムの対応部分と並べられる。囲みのある領域で明らかに見られるように、全ての分離株は、ANV1 ORF1aには存在しない12個のヌクレオチド領域を保持する。本発明による鳥類アストロウイルスの分離株のORF1a cDNA配列の配列番号は表1で列挙する。
【0056】
同様に、図2は、図1で列挙されるcDNA配列のコンピュータ翻訳により作製されるような推定アミノ酸配列の多重アラインメントを示す。囲みのある領域で明らかに見られるように、本発明による鳥類アストロウイルスのORF1aによりコードされるタンパク質は、ANV1のORF1aによりコードされるタンパク質には存在しない4個のアミノ酸を含有する。本発明による鳥類アストロウイルスの分離株の翻訳ORF1a配列の配列番号を表1で列挙する。
【0057】
本発明による鳥類アストロウイルスの分離株に関して:上述のような肢及び/又は腸疾患に罹患しているニワトリ及びシチメンチョウから、長期間にわたり多数の野生分離株を回収した。これらの分離株のうち、多くを分析し、これが、本明細書中に記載のような鳥類アストロウイルスの新規群の発見に繋がった。しかし、その群で生じる天然の変異に関して新規鳥類アストロウイルスを定義するために、分析した全分離株のうち選択したもののみを本明細書中で示す。
【0058】
表1は、本明細書中に記載の本発明による鳥類アストロウイルスの分離株の説明を与える。また、表1で、分離株のうち選択されたもの由来のORF1a、1b及び2からのcDNA及び推定タンパク質配列の配列番号を列挙する。
【0059】
【表1】

【0060】
本発明による鳥類アストロウイルスの分離株は、1以上の器官から又は肢の関節もしくは腱からの試料を採取することによって、腸又は肢の問題がある鳥類から得ることができる。必要に応じてこの試料をホモジェナイズ処理し、例えば、適切な緩衝液、好ましくは抗生物質を含有する緩衝液と混合することができる。
【0061】
このような分離株のウイルス力価を増幅するために、鳥類細胞株又は有胚鳥類卵などの様々な基質を使用することができる。卵を使用する場合、縣濁液を有胚鳥類卵に接種し、そこで培養することができる。漿尿膜(CAM)において又は卵黄嚢への又は尿膜液腔へなど、様々な接種経路が可能である。好ましくは、接種の最初の数ラウンドは卵黄嚢に対して行い、以降の接種は(必要に応じて)、尿膜に行い得る。約5−7日有胚ニワトリSPF卵を使用することができる。このような技術は、全て、当業者にとって周知であり、適切な質及び齢のSPFニワトリ卵は、例えばSpafas(R)又はLohmann(R)から市販されている。
【0062】
適切な条件下で2−7日間温置した後、胚、CAM又は(好ましくは)尿膜腔液を回収し得る。必要に応じて、卵黄嚢又は尿膜腔液への接種により、卵での増幅のさらなるラウンドを行い得る。最後に、大量の本発明による鳥類アストロウイルスを含有する尿膜腔液を回収し得る。
【0063】
ORF1aの代表的部分の両鎖のPCR配列決定のために、次のプライマーを都合よく使用することができる:
配列番号28:5’−AAA GGK AAG ACD AAG ARR RAC MG−3’及び
配列番号29:5’−TCG CCT TCT GGA AGG TCT TCA−3’。
【0064】
発明者らは、これらの配列決定プライマーをそれぞれプライマー、F−II及びR−II−3と呼ぶ。配列番号28は、nt2171に対応するヌクレオチドから始まるさらに先の部分とハイブリッド形成し(配列番号1);配列番号29は、配列番号1のnt2640から始まり逆方向に進むヌクレオチドとハイブリッド形成する(表4参照)。このようにして、ANV1に存在しない12個のヌクレオチドを含む本発明による鳥類アストロウイルスのORF1aのゲノム領域が、配列決定されるORF1aの部分によりカバーされる。
【0065】
決定されたDNA配列のコンピュータ分析のために、これらは、プライマーそれ自身から、変性配列を含有しないようにトリミングされる。また、比較される配列は、代表的アラインメントを達成するために、同等な長さである必要がある。また、切り取られた配列の全長にわたりこのアラインメントが行われるべきである。これは、例えば、プライマー配列番号28及び29を使用する場合において、比較しようとする配列の長さが約400−425ヌクレオチドであることを意味する。
【0066】
このような操作及びアラインメントの都合の良いコンピュータプログラムは、CloneManagerTM(Scientific and EducationalソフトウェアTMによる。)であり、あるいは、多重アラインメントに対してインターネット:「ClustalW」及び翻訳に対して「Translate」を介して(両者とも、www.expasy.orgでアクセス可能)又はwww.ncbi.nlm.nih.govの「Blast」プログラムを介して利用可能である。好ましくは、初期設定スコアリングパラメータを使用する。
【0067】
本発明による鳥類アストロウイルスの多くの分離株に対して、プライマー配列番号28及び29を用いてcDNA配列決定を行った。結果として得られるトリミング処理済みヌクレオチド配列のうち選択されたものを、表1で表されるように、配列番号4、10、12、14、16、18、20、22、24及び26におけるものとして本明細書中で与える。
【0068】
参照として161319と付番されたニワトリからのある分離株(発明者らはこれを「分離株19と呼ぶ。」の配列を用いて、これらの配列を互いに整列(アライン)させた。また、GenBankで利用可能なその他のアストロウイルスからのORF1aの対応部分のいくつかのDNA配列を整列(アライン)させた:例えばANV1(AB033998、配列番号1)、シチメンチョウアストロウイルス1(TAstV1)(Y15936)、シチメンチョウアストロウイルス2(AF206663)、ヒツジアストロウイルス(Y15937)、ミンクアストロウイルス(AY179509)及びヒトアストロウイルス(Z25771);ハイフンの間は、個々のGenBank受入番号である。
【0069】
これらのその他のアストロウイルスORF1a配列のうち、ANV1のみが、特に配列番号1からのnt2213−2607の部分で、有意であった配列同一性を有した(これは、50%を優に越えるヌクレオチド配列同一性%を意味する。)。残りのその他のアストロウイルスのうち、TAstV1(GenBank受入番号:Y15936)のみが、ヌクレオチド番号2450−2856の一部において検出可能な配列同一性があったが、これはあまり顕著ではなかった。これを表2で表す。
【0070】
【表2】

【0071】
これらのヌクレオチド配列アラインメントの結果の樹状図を図3で示す。
【0072】
従って、驚くべきことに、本発明による新規鳥類アストロウイルス群は、全てのその他のアストロウイルス、鳥類又は哺乳類とは距離を置いていることが分かった(配列番号4に対応するORF1a DNA配列の領域と比較した場合、それらは88%以上のヌクレオチド配列同一性を有する。)。
【0073】
従って、好ましい実施形態において、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスのORF1aが配列番号4と少なくとも88%のヌクレオチド配列同一性を有する領域を含むことを特徴とする、本発明による鳥類アストロウイルスに関する。
【0074】
より好ましくは、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスのORF1aが、配列番号4と少なくとも89%のヌクレオチド配列同一性、さらにより好ましくは90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%(好ましい順に)の同一性を有する領域を含むことを特徴とする、本発明による鳥類アストロウイルスに関する。
【0075】
配列番号4の次に、配列番号10、12、14、16、18、20、22、24及び26で記載される部分的ORF1aヌクレオチド配列の何れか1つは、さらなる好ましい実施形態において、本発明による鳥類アストロウイルスの特徴を明らかにするために役立ち得る。
【0076】
表2で与えられるようなORF1aからのヌクレオチド配列の多重アラインメントと同様に、表2のトリミング済み核酸配列、配列番号4、10、12、14、16、18、20、22、24及び26からの推定アミノ酸配列のアラインメントを行うことができる。コンピュータにより翻訳された得られるアミノ酸配列は、本明細書中で配列番号5、11、13、15、17、19、21、23、25及び27として与えられる。参照配列は、配列番号5、分離株19のORF1aの一部の推定アミノ酸配列である。配列番号5の全長にわたり整列(アライン)させて、Align+プログラムを用いてアラインメントをまた行った。結果を表3で与える。
【0077】
【表3】

【0078】
詳細なアミノ酸アラインメントを図2で表す。
【0079】
このアミノ酸配列分析の結果は、表2の結果と同等の結果を示し、本発明による鳥類アストロウイルスの分離株からのアミノ酸配列は、その他の鳥類アストロウイルスと比較した場合より、それら自身の中で関連性が高い。配列番号5に対する本発明による鳥類アストロウイルスの様々な分離株のアミノ酸配列の同一性%は93から99%の間であり、一方、ANV1に対する同一性は88%とより低い。
【0080】
従って、好ましい実施形態において、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスのORF1aが、配列番号5と少なくとも93%のアミノ酸配列同一性を有する領域を含むアミノ酸配列をコードすることを特徴とする、本発明による鳥類アストロウイルスに関する。
【0081】
より好ましくは、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスのORF1aが、配列番号5と少なくとも94%のアミノ酸配列同一性、さらにより好ましくは95、96、97、98、99又は100%の同一性(望ましい順)を有する領域を含むアミノ酸配列をコードすることを特徴とする、本発明による鳥類アストロウイルスに関する。
【0082】
配列番号5の次に、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25及び27で記載される部分的ORF1a推定翻訳ヌクレオチド配列の何れか1つは、さらなる好ましい実施形態において、本発明による鳥類アストロウイルスの特徴を明らかにするために役立ち得る。
【0083】
ヌクレオチド配列決定及びアラインメントに加えて、本発明による鳥類アストロウイルスの陽性遺伝子マーカーは、例えば腸又は運動器官疾患に罹患している鳥類からの試料において、ANV1のORF1aには存在しない、本発明による鳥類アストロウイルスのORF1a領域における12個のヌクレオチドの存在を検出するためのPCR試験を用いることにより、同定することができる。
【0084】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明による鳥類アストロウイルスは、配列番号30及び31で表されるプライマーのセットを用いたPCRアッセイにおいて、その鳥類アストロウイルスのORF1aから、約260ヌクレオチドのPCR産物が生じ得ることを特徴とする。
【0085】
使用すべきPCRプライマーは、
配列番号30:5’−GTY CTY ACC GAR GAR GAR TAY C−3’
配列番号31:5’−AAD GTT ATY CTC CTA RGB TKH C−3’である。
【0086】
発明者らは、これらのプライマーをそれぞれプライマー29及び30と呼ぶ。これらのプライマーは、ANV1(配列番号1)ヌクレオチド番号2252以降に対応するヌクレオチドとハイブリッド形成し、ヌクレオチド番号2499から逆方向に進むものとハイブリッド形成する。
【0087】
生成されたPCR産物は、約260ヌクレオチドのバンドとしてゲル上で見ることができる(これは、プライマーそれら自身の長さを含んでいる。)。このバンドは、出発物質が本発明による鳥類アストロウイルスのORF1a領域を含むDNAを含有する場合のみ、生成されるが、これは、ただ、これらが、ANV1 ORF1aには存在しない12個のヌクレオチドを含むからである。12個のヌクレオチド領域の位置に関する、プライマー配列番号30及び31の特異的結合の図解を図4で与える。
【0088】
このようなPCRアッセイにおいて、特異性及び感度は、使用される特異的PCRプライマーにより、特にプライマーの配列及び長さにより、決定される。次に、当業者にとって周知であるように、温度及び反応段階の時間などの反応及びサイクリング条件を適応させることによって、選択性及び感度の最適化を達成することができる。
【0089】
これら及びその他の分子生物学的技術は、Sambrook及びRussell:「Molecular Cloning:a laboratory manual」(2001、Cold Spring Harbour Laboratory Press;ISBN:0879695773);Ausbelら、Current Protocols in Molecular Biology(J.Wiley and Sons Inc、NY、2003、ISBN:047150338X);C.Dieffenbach&G.Dveksler:「PCR Primers:a laboratory manual」(CSHL Press、ISBN 0879696540);及び「PCR protocols」:J.Bartlett及びD.Stirling(Humana press、ISBN:0896036421)のような標準的教科書で詳述されている。
【0090】
都合良く、cDNAを生成させるために必要なRT反応にプライマー配列番号30及び31を用いたPCR反応を組み合わせ、これに直接従い;実施例に記載のように、組み合わせアッセイをRT−PCRアッセイにする。
【0091】
記載のようなRT−PCRアッセイが発明者らにより様々な試料に適用され;本発明による新規鳥類アストロウイルスの分離株の試料を用いて、陽性の結果が得られ;「陽性」PCRの結果は、適切な陽性及び陰性対照試料に関連して、電気泳動後におよそ260塩基対の反応産物が見られるというものである。しかし、関連する鳥類アストロウイルスANV1及びニワトリアストロウイルス2(CAstV2)から調製されるRT−PCR試料は、一貫して配列番号30及び31のプライマーを用いたPCRにおいて陰性であることが分かった。
【0092】
このようなPCR試験結果の例は図5で表すが、これは、臭化エチジウム染色、UV光照射、アガロースゲル(このゲル上で、プライマー配列番号30及び31を用いたPCRのPCR産物を流した。)の写真を示す。分離株19の試料のみが陽性反応を示し、陰性対照と同じように、ANV1又はCAstV2を含有する試料は陰性であった。
【0093】
驚くべきことに、本発明による鳥類アストロウイルスでの有胚鳥類卵の感染及び温置時に非常に顕著で著しい病理学的効果が観察され:疾患に冒された胚は、肢及び翼端が鮮赤色になった。これは以前に観察又は記載されたことはなかった。さらに、感染した胚は、その他のしかしそれほど特徴的ではない特性:全身的に薄赤色になり、腹部の浮腫及び肝臓の著しい腫脹を示し、暗赤/紫色の変色が見られた。
【0094】
この特異的病理は、有胚SPFニワトリ卵の感染から約2−7日後に観察され、接種されたウイルス力価に依存して、殆ど必ず、胚の死亡を招いた。
【0095】
比較のために、同様の試験条件を用いて、有胚卵へのANV1の接種を同時に行った。ANV1もまた、肝臓の腫脹を誘発したが、この場合、肝臓はさらに暗い色で、胚の全体的な色は暗赤色となった。しかし、ANV1は、本発明による鳥類アストロウイルスの分離株に対して見られた肢及び翼端の特異的な鮮赤色を誘発しなかった。
【0096】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明による鳥類アストロウイルスは、約5−7日有胚ニワトリSPF卵に接種し、続いて2−7日間又は必要に応じてそれより長い温置を行った際に、ニワトリ胚の翼端の赤色変化を誘発することができることを特徴とする。
【0097】
記載のように、有胚SPFニワトリ卵及びそれらの温置のための装置が市販されている。通常、有胚ニワトリ卵の温置は、加湿雰囲気の孵化器中、約35−39℃で行われる。
【0098】
接種は、例えば、CAM、卵黄嚢又は尿膜経路など、何らかの都合の良い経路によるものであり得る。
【0099】
当業者が認めるように、例えば接種されたウイルス量が非常に少ない(ウイルスの「取り込み」ができない)かもしくは非常に多い(変色が起こり得る前に死亡)か、又は胚の質がウイルス複製を可能とするのに十分ではないという偶発的な例において、肢及び翼端の特異的な鮮赤色の変色を見ることができない場合があり得る。一般に、この特異的な鮮赤色の変色は、約10から約10^EID50/卵(EID50=卵感染性用量50%)の間の接種時に観察され得る。
【0100】
参照試料として使用し、寄託するために、分離株19と命名された本発明による鳥類アストロウイルスのある特定の分離株をさらに精製し増幅させた。ニワトリ胚肝臓(CEL)細胞での限界希釈により、この分離株を精製した。各時点で、CEL細胞においてcpeを依然として誘発する最大希釈物を継代した。次に、有胚SPFニワトリ卵の尿膜腔における3ラウンドのウイルス増幅によりこの精製ウイルスを増幅した。尿膜腔液を回収し、凍結保存した。有胚ニワトリSPF卵においてこの精製ウイルスの滴定を行い、6.1Log10 EID50/mLの力価を有することが分かった。この材料を標準的安定化緩衝液中で凍結乾燥させ、−20℃で保存した。無菌であることを確認した。次に、このウイルス材料の試料をInstitut Pasteur in Paris、Franceの「Collection Nationale de Cultures de Microorganismes」(CNCM)に、CNCM I−3895の寄託番号で2008年1月23日に寄託した。
【0101】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明による鳥類アストロウイルスは、番号CNCM I−3895でInstitut Pasteur in Paris、FranceのCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM)に寄託したようなウイルスである。
【0102】
精製し、増幅し、寄託した試料は、「分離株19」という名称の分離株であったが、しかし、表1に記載の本発明による鳥類アストロウイルスの分離株の何れか1つを本発明による鳥類アストロウイルスの新規群に対する参照試料として使用することができる。
【0103】
インビトロ培養に対して及び本発明による鳥類アストロウイルスの試験に対して、いくつかの培養系を使用することができ、例えば(鳥類)細胞株(CEL又はニワトリ胚腎臓(CEK)細胞のような初代細胞)が有利に使用され得る。有胚ニワトリSPF卵からのCEL又はCEK細胞培養の調製は当業者にとって周知である。
【0104】
特に、CEK細胞は、ウイルス増殖を監視し、ウイルス量及び生存能を測定するために非常に適している。本発明による鳥類アストロウイルスがこれらの細胞で生じさせる細胞変性効果(cpe)が不規則であるとしても、感染細胞は、単層から丸まり、細胞溶解へと進む球形の細胞として明確に見ることができる。
【0105】
従って、ウイルス試料の連続希釈及びcpeを依然として引き起こす最大ウイルス希釈物のスコア化を用いて、ウイルス滴定アッセイを考案することができる。次に、Spearman−Karber法(D.Finney:Statistical method in biological assay、C.Griffin & Co.、Londen、ISBN0195205677に記載)により計算した場合の組織培養感染用量50%(TCI50)/mLとしてウイルス力価を表すことができる。このような技術は全て当業者にとって周知である。
【0106】
このようにして、様々な試験及び目的に対して、本ウイルスを組織培養フラスコ又はマイクロタイタープレートで培養することができる。一般に、ウイルス試験又は滴定での使用前に、細胞上で数回の継代を行うことにより、野外から分離されたウイルスをこのような細胞上でのインビトロ培養に最初に適応させることは有利である。
【0107】
あるいは、有胚卵、好ましくはニワトリSPF卵において、試験及び滴定を行うことができる。6日有胚SPFニワトリ卵の卵黄嚢への希釈率漸増ウイルス試料の接種により、例えばウイルス滴定を行うことができる。感染したか又は死亡した胚の数をスコア化した後、例えばSpearman−Karber法(前出)を用いて、試験試料の得られた力価をEID50/mLで表すことができる。
【0108】
寄託ウイルスに対して、多くの実験的試験ニワトリにおいて、実験室条件下で、孵化したニワトリ及びシチメンチョウに対して病変を引き起こすその能力を確認した。複数経路:筋肉内、経口及び眼を介して接種を行った。接種されたニワトリののうち数羽が、疾患の重篤な徴候を発現し、一方で、擬似感染ニワトリは症状がなかった。観察された症状は、死亡、全身的機能低下及び軽度から重度の下痢であった。組織病理学において、腎炎及び腸炎が観察された。肢又は関節の疾患は観察されなかったが、これらの実験に対して使用されたニワトリは幼若すぎるか(3−6週)及び/又はこのような問題が顕在化するには十分に重くはなかったので(産卵SPFニワトリ)、これらの疾患はまた予想され得なかった。
【0109】
さらなる特性評価:ORF1b及びORF2のために、寄託ウイルスのうち、ゲノムのさらなる領域のヌクレオチド配列を本明細書中で与える。個々のヌクレオチド及び推定アミノ酸配列を配列番号5−8として本明細書中で与える(表1参照)。
【0110】
これらのさらなるヌクレオチド配列を決定するために使用された様々なプライマーを配列番号32−34として本明細書中で与え、表4で記載し;便宜上これらの表には、本明細書中に記載のその他のPCR−及び配列決定プライマーも含まれる。
【0111】
【表4】

【0112】
参照として寄託ウイルス試料を用いた、本発明による鳥類アストロウイルスのさらなる特性評価を行うためのさらなる方法は、血清型決定により、好ましくはVN−又はIFT−アッセイを用いることにより、その免疫学的特性を決定することによるものである。
【0113】
全ての試験において、様々なその他の鳥類ウイルス:レオウイルス、家禽アデノウイルス(1、2、4、5及び8型)、伝染性気管支炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、鳥類エンテロウイルス(分離株1821/9及びFP3)、産卵低下症候群及び鳥類インフルエンザウイルスに特異的な抗体により中和され得ず、この抗体と特異的に結合しなかったので、本新規鳥類アストロウイルスは、その他の鳥類ウイルスとは免疫学的に別個のものであることが証明された。これはまた、鳥類アストロウイルス、ANV1又はCAstV2に特異的な抗体に対する場合も当てはまり、一方で、これらの血清は、それらのドナーウイルス:ANV1及びCAstV2をそれぞれ、最大1:640又は1:10240の希釈率で、効果的に中和した。
【0114】
しかし、寄託分離株19ウイルスの試料は、分離株19ウイルスを実験的に感染させたSPFニワトリにおいて分離株19に対して作製されたニワトリ抗血清により効果的及び選択的に中和された。免疫促進接種を行った後、特異的抗血清を得ることができた。このアッセイでのウイルス中和に対して使用された読み出し情報は、中和による胚の病状の阻止であった。
【0115】
特異的抗体のみが本発明による鳥類アストロウイルスを認識し、中和したという免疫学的実験の結果から、これらのウイルスが新規の特有なウイルス血清型に属することが明らかとなる。
【0116】
これは、例えばさらに好ましい実施形態において実施され得、この場合、本発明による鳥類アストロウイルスは、ウイルス中和アッセイにおいて、Pasteur in Paris、FranceのCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM)に、番号CNCM I−3895のもと寄託されたようなアストロウイルスの試料に対する抗体によって中和され得ることを特徴とする。
【0117】
本発明による寄託ウイルスを用いた抗体の作製に対する代替的アプローチもまた可能である。例えば、本発明による鳥類アストロウイルスである(それ由来である)ことについて調べようとするウイルス−試料は、それ自身、抗体を誘導するために使用され得、次に、本発明による鳥類アストロウイルスへの抗体の結合又はさらに中和能について抗体を同様に試験し得る。都合良く、このような抗体は、本発明による寄託ウイルスの試料において試験することができる。
【0118】
この目的に対して、試験ウイルス又はその断片もしくは調製物を動物に接種することができる。このような抗体の作製のために使用される動物は、原理的に、あらゆる動物であり得るが、しかし好ましくはマウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ又はニワトリが使用される。例えば都合良く本発明による寄託ウイルスの試料をCNCMに注文することによって、本発明による鳥類アストロウイルスに対する結合又は中和について、このようにして作製される抗体を試験することができる。これを例えば卵、CEK又はCEL細胞又はその他の基質で培養し、最終的に試験ウイルス試料を用いて作製された抗体と温置し得る。例えばIFT又はVNアッセイによって、抗体結合の検出を行うことができる。
【0119】
従って、これは、本発明による鳥類アストロウイルスであるか又はそれ由来であるような、生もしくは不活性化ウイルス又はそれらの断片もしくは調製物の同定及び特性評価のための方法を構成する。
【0120】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明は、VNアッセイにおいて本発明による寄託アストロウイルスの試料を中和することができる抗体を誘導することができることを特徴とする、本発明による鳥類アストロウイルスを提供する。
【0121】
VNアッセイを設定するためのプロトコールは当技術分野で周知であり、当業者の通常の能力の範囲内である。VNアッセイに対する選択及び詳細は上記で記載されている。
【0122】
本発明による鳥類アストロウイルスに特異的な抗体を用いた免疫学的アッセイの結果から明らかなように、本発明はまた、本発明による鳥類アストロウイルスに結合することができ、中和することができる抗体も提供する。
【0123】
従って、本発明のその他の態様は、ウイルス中和アッセイにおいて本発明による鳥類アストロウイルスを中和することができる抗体又はその断片である。
【0124】
本発明によるこのような抗体は、当業者にとって全て周知であり利用可能な様々な方法において取得及び産生され得る。例えばこの抗体は、上述のような(反復)接種によって実験動物において産生され得る。
【0125】
あるいは、ハイブリドーマ技術におけるように、不死化B−リンパ球細胞により抗体が産生され得る。古典的ハイブリドーマ技術に対して現在、技術が向上したことにより、例えば融合前に所望の脾臓細胞の量を向上させることによって、正の選択(パニング)とそれに続くサイトカイン混合物との培養での増殖によって、この技術はより効率的及び高生産性になった。また、古典的なポリエチレングリコール融合から電気融合に変更することによって、融合技術も向上した。
【0126】
さらなる代替的アプローチにおいて、分子生物学的技術の使用及び組み換え発現系での発現を通じて、抗体を得ることができる。分子生物学的技術により、治療しようとする標的種からの抗体の特徴によりよく合致させるためのこのような抗体の適応又は異なる特異性を有する2つの結合領域を有する抗体の設計が可能となる。発現系の開発によって、植物での発現など、大量発現系発現系の設定が可能となる。
【0127】
組み換え発現系もまた当技術分野で周知であり、例えば、細菌(例えば大腸菌(エスケリキア・コリ(Escherichia coli))、サルモネラ(Salmonella)、バチルス(Bacillus)、カウロバクター(Caulobacter)など)、酵母(例えばサッカロミセス(Saccharomyces))、昆虫(スポドプテラ(Spodoptera)、トリコプルシア(Trichoplusia))、哺乳動物(例えばチャイニーズハムスター卵巣)又は植物(タバコ、ジャガイモなど)細胞を使用する。発現させようとする異種配列を有する発現コンストラクトでこれらの細胞を形質転換し得る。また、発現させようとする核酸を含む組み換え微生物を用いた複合系が知られており、ここで、微生物は、所望のタンパク質を所望の規模でインビトロで産生させるために細胞上で培養し得る。一例として、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系が挙げられる。最後に、いわゆる細胞不含発現系が、適切な組み換えDNA分子の細胞不含発現のために市販されている。
【0128】
「抗体又はその断片」という用語は、両方の完全な免疫グロブリン分子又はその一部が本発明による抗体の範囲内であるとみなされることを示すものとする。本発明による抗体の断片は、本発明による鳥類アストロウイルスのエピトープに依然として結合し得るタンパク質分子である。例としては、FAB、scFv、Fv、dAb又はFd断片(全て当技術分野で周知である。)が挙げられる。
【0129】
このような断片は、例えば化学的又は酵素消化により、無傷の抗体から得られ得る。あるいは、このような断片は、例えば、組み換え発現系、例えばファージディスプレイ系から得られ得る。
【0130】
当業者にとって周知であるように、ウイルスへの抗体又はその断片の結合は、ウイルス粒子におけるエピトープの認識を包含する。殆どの場合、これらのエピトープは、ウイルス粒子上で提示される分子の直線状又は三次元配置により形成される。結果として、これらの調製物又は断片が依然として正しい形態の正しいエピトープを含有し、提示する限り、ウイルス又はその断片の調製物は、本発明による抗体又はその断片により結合され得る。本発明による鳥類アストロウイルスの場合、免疫系に最も顕著に提示されるウイルスタンパク質は、ORF2からコードされるキャプシドタンパク質である。
【0131】
当業者にとってまた当然のことながら、本発明による抗体が動物の接種を介して作製される場合、得られる動物血清はポリクローナル抗血清であり、これは、抗血清が、多岐にわたるエピトープに結合し得る抗体の混合物を含有することを意味する。実際には、これは多重結合をもたらし、よって、これらが、無傷の生ウイルス粒子において通常利用可能である全てのエピトープを保持し得ないか又は正しく提示し得ないとしても、ウイルスタンパク質の調製物又は断片の効率的な結合が可能になる。
【0132】
あるいは、本発明による抗体は、例えばハイブリドーマ技術により作製されるように、モノクローナル抗体であり得るか又は本発明による抗体は、Fab断片などの抗体断片であり得る。この場合、本抗体又は断片は、それが通常は単一エピトープに特異的に結合するのみであるので、様々なエピトープを認識する能力が非常に低下している。その結果として、この特定のエピトープが存在しないか又はウイルス断片又は調製物上で提示されない場合、これは、このようなモノクローナル抗体又は抗体断片が全く結合し得ない。
【0133】
本発明による鳥類アストロウイルスの特性評価のために、診断のために、治療のために及び/又は品質保証目的のために、様々な方法で本発明による抗体を使用することができる。
【0134】
本発明は、工業規模での本発明による鳥類アストロウイルスの作製を提供する。これは、インビボ又はインビトロ系で、宿主細胞においてこのウイルスを培養することにより達成され得る。インビトロ系は、初代又は不死化細胞株を含む。初代細胞の例は、CEK又はCEL細胞である。不死化細胞株の例はLMH細胞株である(Kawaguchiら、Cancer Res.、vol.47、p.4460−4464)。インビボ系の例は、有胚鳥類卵で又は接種済み鳥類での培養である。特に、細胞又は卵での培養は都合良く規模を拡大することができ;例えば細胞培養をフラスコ、ローラーボトル又はさらには発酵槽などの様々な大きさの容器で維持することができる。あらゆる規模の細胞培養技術のための技術及び装置が周知であり、市販業者から容易に入手可能である。
【0135】
従って、本発明は、さらなる態様において、本発明による鳥類アストロウイルスを感染させた宿主細胞を提供する。
【0136】
また、本発明は、適切な系における本発明による鳥類アストロウイルスの増殖及びウイルス材料を回収することを含む、本発明による鳥類アストロウイルスを産生させる方法を提供する。
【0137】
本発明による鳥類アストロウイルスの本明細書中に記載の特性評価は、無傷の複製可能な形態のこのような鳥類アストロウイルスを単に指すだけではない。当業者が認識するように、本発明は、多くの様々な形態のこのウイルスの調製物を提供する。これらには、例えば、本発明による鳥類アストロウイルスが不活性化されている調製物又はこのようなウイルスが、例えば抽出、溶解、消化、ホモジェナイズ処理又は超音波処理によって、1以上の方法で(生物)化学的又は物理的に断片化されている調製物が含まれる。
【0138】
ウイルスを不活性化するための方法は周知であり、例えば、ホルマリン、β−エタノールイミン又はβ−プロピオラクトン;また加熱及びUV光、X線又は放射活性放射線での照射による不活性化など、化学的又は物理的不活性化を含む。
【0139】
断片化のための方法もまた、例えば抽出又はTriton(R)X−100など界面活性剤での溶解;トリプシンでの消化;凍結融解又は加圧型細胞破壊装置によるホモジェナイズ処理;又は超音波による超音波処理など、数多く知られている。
【0140】
このような調製物の出発材料は、精製された(生又は不活性化)本発明による鳥類アストロウイルスと、それだけでなく本発明による宿主細胞又は、本発明による宿主細胞もしくは鳥類アストロウイルスを含む細胞培養物もしくはその一部であり得る。例えばこのような細胞培養物の一部は、遠心した細胞培養物の上清又はペレットであり得る。明らかに、これらの細胞培養物又はその一部は、それら自身、記載のような抽出物、溶解物、消化物、ホモジェネート又は超音波処理物などの調製物へ変換され得る。
【0141】
本発明による鳥類アストロウイルスのこのような調製物は、本発明による鳥類アストロウイルスの1以上の抗原及びエピトープを含有する。
【0142】
従って、さらなる態様において、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスから取得可能な抗原性調製物に関する。
【0143】
本発明による抗原性調製物は、本発明による抗体又はその一部により結合され得るか又はそれ自身、結合もしくは中和抗体又はその一部を誘発するために使用され得る。これは、下記に記載のように、ワクチン及び診断において有利に適用され得る。
【0144】
本発明による抗原性調製物は、例えば、本発明による鳥類アストロウイルスからのタンパク質又はこのようなタンパク質の一部である。これらのタンパク質又はその一部は、このようなウイルスからの単離により得ることができる。しかし、これらのタンパク質又はその一部は、都合良く、本発明による鳥類アストロウイルスからの核酸を用いて、組み換えDNA発現技術によっても作製され得る。例えば、配列番号4、10、12、14、16、18、20、22、24又は26の何れか1つで記載されるようなORF1a領域の一部の核酸配列が使用され得;記載のように、これらのcDNA配列は、配列番号4と少なくとも88%のヌクレオチド配列同一をそれらが有することに関連する。
【0145】
従って、本発明は、さらなる態様において、配列番号4と少なくとも88%のヌクレオチド配列同一性を有する領域を含むDNA分子を提供する。
【0146】
また、ORF1b又はORF2の核酸は配列番号6又は8に記載のように使用され得る。
【0147】
このような核酸配列及びcDNA断片は、当技術分野で周知のDNA技術を用いて、例えばさらなる操作のための組み換えDNA分子へのサブクローニングにより、クローニングされ、発現され得る。組み換えDNA分子は、細菌プラスミドなどのベクターであり得る。好ましくは、本発明による鳥類アストロウイルスからの核酸は、適切な宿主細胞又は発現系でのその発現を可能にするプロモーターなどの発現調節配列に操作可能に連結される。あるいは、本核酸、cDNA又は組み換えDNA分子は、細菌又はウイルスなどの生きている組み換え担体微生物に導入され得る。
【0148】
同様に、配列番号5、11、13、15、17、19、21、23、25及び27及びそれらの関連物に記載の推定アミノ酸配列に基づき、本発明は、さらなる態様において、配列番号5と少なくとも93%のアミノ酸配列同一性を有する領域を含むタンパク質を提供する。
【0149】
これらの実施形態は、下記に記載のようにワクチン及び診断の応用において非常に実用的で有利な有益性を有する。
【0150】
ウイルスなどの生又は不活性化微生物病原体から又はこのような微生物の断片から、ワクチンを調製することができる。このような微生物は、一般に、細胞、器官又は組織、有胚卵上で又は宿主動物において温置することによって、より小さいか又はより大きい体積で工業的に産生される。微生物を含む縣濁液を回収した後、ワクチンへとこの縣濁液を処方し、最終製品を包装する。品質、量及び無菌性に対する大規模な試験の後、このようなワクチン製品を販売開始する。
【0151】
ワクチン学における一般的な技術及び検討事項は当技術分野で周知であり、例えば政府規制において及び「Veterinary vaccinology」(P.Pastoretら編、1997、Elsevier、Amsterdam、ISBN:0444819681)及び「Remington:The science and practice of pharmacy」(2000、Lippincot、USA、ISBN:683306472)などのハンドブックにおいて記載されている。
【0152】
ワクチンは、当技術分野で、医薬的に許容可能な担体中に免疫原性化合物を含む医薬組成物を表すことが一般に知られている。免疫原性化合物は、標的の免疫系の活性化を誘導することができる、生又は不活性化微生物又はそれらのサブユニットである。
【0153】
驚くべきことに、本発明による鳥類アストロウイルス及び抗原性調製物、宿主細胞、抗体、核酸、タンパク質ならびにそれらの調製、培養、同定及び定量のための方法が、ワクチンにおいて又は診断目的に対して適用され得ることが分かった。このようなワクチンは、鳥類アストロウイルスによる感染から標的動物を保護するために又はこのウイルスの複製もしくはそれが引き起こす疾患の症状を軽減するために役立つ。このような診断アッセイにより、例えば動物の現地試料又はウイルス調製物におけるウイルス又はその抗原の検出が可能になる。
【0154】
ワクチン及び診断薬を組み合わせることで、本発明による鳥類アストロウイルスによる感染及び/又は疾患に対する同定及び防御が可能になる。
【0155】
本発明による鳥類アストロウイルスをニワトリに接種した、記載の動物実験により、ワクチン能が明らかになった。これにより、高特異性抗体が産生されるようになる。さらに、これらの抗体は、本発明による鳥類アストロウイルスを特異的に中和することができることが明らかになった。当技術分野で周知であるように、中和抗体の誘導は、有効で免疫防御的なワクチンの実現可能性において重要な段階である。
【0156】
試験動物の反復接種は、産生される抗体レベルに対する免疫促進を与えただけではなく、攻撃感染ともなり、この攻撃感染は、試験において多数の鳥により耐性が示され、克服され得た。
【0157】
従って、本発明による鳥類アストロウイルス又はその一部は、適切な医薬組成物中で処方され得、ワクチンとして鳥類に対して適用され得る。
【0158】
例えば、ワクチン接種反応の許容可能なレベルで十分な防御効果をワクチンが与えるように、ワクチンの効率及び安全性を微調整することによりこのワクチンをさらに最適化することは、当業者にとって実現可能である。これは、ワクチン用量を適応させることによって又は別の形態もしくは処方でワクチンを使用することによって又はワクチンのその他の構成物質(例えば安定化剤又はアジュバント)を適応させることによって又は異なる経路を介した適用によって、行うことができる。
【0159】
本発明に対するワクチンの周知の変異体は、例えば生きているか又は不活性化形態の新規鳥類アストロウイルスを使用し得;本発明による抗原性調製物及び/又はタンパク質を使用する場合、サブユニットワクチンであり得;本発明による抗体又はその断片を使用する場合、受動ワクチン(passive vaccine)の形態であり得るか;又は本発明によるDNA分子を使用する場合、DNAワクチンの形態であり得る。
【0160】
従って、本発明の別の態様は、鳥類アストロウイルス、抗体又はその断片、抗原性調製物、DNA分子又はタンパク質(全て本発明によるものである。)と、医薬的に許容可能な担体と、を含むワクチンを提供する。
【0161】
同様に、本発明は、家禽用ワクチンでの使用のための化合物又は組成物に対するさらなる態様に関し、この化合物又は組成物は、鳥類アストロウイルス、抗体もしくはその断片、抗原性調製物、DNA分子又はタンパク質(全て本発明によるものである。)である。
【0162】
さらなる態様において、本発明は、家禽用ワクチンの製造のための化合物又は組成物の使用に関し、この化合物又は組成物は、鳥類アストロウイルス、抗体もしくはその断片、抗原性調製物、DNA分子又はタンパク質(全て本発明によるものである。)である。
【0163】
さらなる態様において、本発明は、家禽用ワクチンの製造のための方法に関し、この場合、化合物又は組成物は、適切な医薬担体と混合され、この化合物又は組成物は、鳥類アストロウイルス、抗体もしくはその断片、抗原性調製物、DNA分子又はタンパク質(全て本発明によるものである。)である。
【0164】
「医薬的に許容可能な担体」は、例えば、目的に適切な、滅菌水、生理食塩水又は緩衝液であり得る。より複雑な形態において、担体は、それ自身、アジュバント、さらなる抗原、サイトカインなどのその他の化合物を含み得る。
【0165】
本発明によるワクチンは、予防的及び治療的処置両方のために使用され得る。
【0166】
「ワクチン」という用語は、本発明による鳥類アストロウイルスの免疫学的に有効な量の存在及び医薬的に許容可能な担体の存在を意味する。
【0167】
本発明によるワクチンに対する「免疫学的に有効な量」を構成するものは、所望の効果及び鳥類アストロウイルスの特徴及び標的生物に依存する。有効量の決定は、例えばワクチン接種後又は攻撃感染後に免疫学的反応を監視することにより、例えば、非ワクチン接種動物で見られる反応と比較して、標的の疾患の臨床兆候、血清型パラメーターを監視することにより、又は病原体を再分離することにより、十分に通常の実施者の技術の範囲内である。
【0168】
ワクチン中で、非常に大量の、本発明による、鳥類アストロウイルス、抗原性調製物、抗体もしくはその断片、DNA分子又はタンパク質を使用することは、免疫学的に非常に有効ではあるが、営利的な理由に対してあまり魅力的ではない。本発明によるワクチン中に含まれる本発明によるこれらの化合物又は組成物の何れかの好ましい量は、ワクチンの最終体積の0.1から90%の間である。より好ましくは、この量は、1から50%、1から25%及び1から10%の間である(好ましい順)。
【0169】
不活性化又はサブユニットワクチンの場合、本発明による化合物又は組成物は、ELISA単位で表され得る。有効であるELISA単位の量は、ある一定の効率を与える標準化試料のELISA単位に関連して決定される必要がある。
【0170】
本発明による生ワクチンの場合、鳥類アストロウイルスワクチン用量を定量する都合の良い方法であるものに依存して、pfu(プラーク形成単位)、cfu(コロニー形成単位)、TCID50、EID50又はELD50(胚致死量50%)の量を使用することができる。例えば、1から10^6EID50/ワクチン投与量の間の範囲の鳥類アストロウイルス生ワクチン用量を有利に使用することができ;好ましくは10から10^5 EID50/投与量の間、より好ましくは10^2から10^4 EID50/投与量の間の範囲である。
【0171】
好ましい実施形態において、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスが生きている形態である、本発明によるワクチンに関する。
【0172】
生ワクチンは、一般に、微生物それ自身が複製するので、僅かな量の接種材料しか必要としないという有利な特性がある。また、これは、一般に、正確な免疫学的記憶のある確固たる有効な免疫反応を誘導する。
【0173】
当技術分野で公知のように、生ワクチンは、都合良く、弱毒化生ワクチンとして適用され得、これは、元のウイルス分離株と比較して、ワクチンウイルスの毒性又は病原性が減弱させられていることを意味する。ウイルス弱毒化のための方法は当技術分野で公知であり、例えば動物を通じるか又は細胞培養にわたる連続的継代;化学的弱毒化;又は分子生物学的技術による弱毒化が含まれる。
【0174】
代替的な好ましい実施形態において、本発明は、本発明による鳥類アストロウイルスが不活性化されている本発明によるワクチンに関する。
【0175】
ウイルス不活性化のための方法及び材料は、上記で述べられている。このような不活性化ワクチンは一般に、何らかの潜在的に病原性のある、複製する生きている鳥類アストロウイルスに宿主を曝露しないので、生ワクチンよりも安全であるという長所を有する。
【0176】
さらに好ましい実施形態において、本発明によるワクチンはアジュバントをさらに含む。
【0177】
アジュバントは、非特異的な形式で宿主の免疫反応を促進する免疫刺激性物質である。多くの様々なアジュバントが当技術分野で公知である。よく使用されるアジュバントの例は、ムラミルジペプチド、リポ多糖類、いくつかのグルカン又はグリカン、Carbopol(R)、水酸化アルミニウム(Al(OH))である。これらは、油中水(w/o)エマルジョン、o/wエマルジョン及びw/o/w二重エマルジョンなどの様々なエマルジョンと組み合わせることができる。油性エマルジョンでの使用に適切な油性アジュバントは、例えば鉱物油又は代謝可能な油である。鉱物油は、例えばBayol(R)、Marcol(R)及びDrakeol(R)であり;代謝可能な油は、例えばピーナツ油、大豆油などの植物油又は魚油スクアレンなどの動物性の油である。あるいは、EP382,271に記載のようなビタミンE(トコフェロール)可溶化物が有利に使用され得る。
【0178】
非常に適切なo/wエマルジョンは、例えば5−50%w/w水相及び95−50%w/w油性アジュバントから始まって得られ、より好ましくは20−50%w/w水相及び80−50%w/w油性アジュバントが使用される。
【0179】
添加されるアジュバント量は、アジュバントそれ自身の性質及び製造者により提供されるこのような量に関する情報に依存する。
【0180】
不活性化ワクチンと組み合わせてアジュバントを使用することが一般的な方法である一方で、いくつかの生ワクチンは、アジュバントを含むことからの利益も得られることが示されている。従って、この実施形態もまた本発明の範囲内である。
【0181】
さらに好ましい実施形態において、本発明によるワクチンは、安定化剤をさらに含む。
【0182】
例えば、分解から本発明によるワクチンを保護するために、品質保持期限を延長するために又は凍結乾燥効率を向上させるために、本発明によるワクチンに安定化剤を添加し得る。有用な安定化剤は、とりわけSPGA(Bovarnikら、1950、J.Bacteriology、vol.59、p.509)、脱脂粉乳、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、炭水化物(例えばソルビトール、マンニトール、トレハロース、デンプン、スクロース、デキストラン又はグルコース)、タンパク質(アルブミン又はカゼインなど)又はその分解産物、緩衝液(アルカリ金属リン酸塩など)及びポリアミン(スペルミンなど)である。
【0183】
また、チメロサール、メルチオレート又はゲンタマイシンなど、保存料も添加し得る。
【0184】
さらに、本ワクチンは、1以上の適切な界面活性化合物又は乳化剤、例えばSpan(R)又はTween(R)を含み得る。
【0185】
本ワクチンはまたいわゆる「ビヒクル」も含み得る。ビヒクルは、それに共有結合されずに、本発明によるポリペプチド又はタンパク質が付着する化合物である。このようなビヒクルは、とりわけ、バイオマイクロカプセル、マイクロアルギン酸塩、リポソーム及びマクロゾル(macrosol)(全て当技術分野で公知)である。このようなビヒクルの特別な形態は、免疫刺激性複合体(ISCOM)である。
【0186】
言うまでもないが、その他の安定化剤、担体、希釈剤、エマルジョンなどを本発明によるワクチンと混合することもまた本発明の範囲内である。このような添加物は、「Remington」及び「Veterinary Vaccinology」(両者とも前出)などの周知のハンドブックに記載されている。
【0187】
複数の免疫学的物質がこのようにして一度に投与され得るので(時間が短縮され、労働コストが低下し、ワクチン接種される標的動物の不快感が減少する。)、混合ワクチンとして本発明によるワクチンを処方することは非常に有効である。
【0188】
このような混合ワクチンは、本発明によるワクチンを、(生又は不活性化)ウイルス、細菌、寄生生物又はその一部(タンパク質、炭水化物又は抗原をコードすることが可能な核酸など)などの別の抗原性化合物と組み合わせることにより達成される。本発明によるワクチンは鳥類標的動物を対象とするので、これは、その他の家禽病原体であるか又はそれ由来であるさらなる抗原と有利に組み合わせられる。
【0189】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明によるワクチンは、家禽に対して病原性のある微生物から得ることができる少なくとも1つのさらなる抗原を含んでいる。
【0190】
多くの鳥類病原が知られているが、より関連する獣医学−経済的病原体の一部は、
ウイルス:伝染性気管支炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、鳥類インフルエンザ、アデノウイルス、産卵低下症候群ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(即ちガンボロウイルス)、ニワトリ貧血ウイルス、鳥類脳脊髄炎ウイルス、家禽ポックスウイルス、シチメンチョウ鼻気管炎ウイルス、アヒルペストウイルス(アヒルウイルス性腸炎)、ハトポックスウイルス、マレック病、鳥類白血病ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、鳥類肺炎ウイルス及びレオウイルス;
細菌:大腸菌(エスケリキア・コリ(Escherichia coli))、サルモネラ種、オルニトバクテリウム・リニトラキアレ(Ornitobacterium rhinitracheale)、ヘモフィリス・パラガリナルム(Haemophilis paragallinarum)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、エリシペロスリクス・ルシオパチエ(Erysipelothrix rhusiopathiae)、エリシペラス種、マイコプラズマ種及びクロストリジウム種;
寄生生物:エイメリア;
真菌:例えばアスペルギルス
などである。
【0191】
また、例えば本発明による鳥類アストロウイルスの変異体に対してより広く有効である混合ワクチンを形成するための、2以上の本発明による鳥類アストロウイルスの本発明によるワクチンにおける組み合わせも考えられる。混合ワクチンを形成するために使用され得る鳥類アストロウイルスの例は、表1に記載の分離株である。
【0192】
本発明によるワクチンは、家禽への投与に適切であり、所望の適用経路及び所望の効果と合致する何らかの形態を取り得る。
【0193】
本発明によるワクチンの調製は、当業者とって周知の手段により行われる。好ましくは、本発明によるワクチンは、縣濁液、溶液、分散液、エマルジョンなどの注射に適切な形態で処方される。一般に、このようなワクチンは滅菌調製される。
【0194】
多くの投与方法(全て当技術分野で公知)が適用され得る。本発明によるワクチンは、不活性化される場合、好ましくは注射により投与され、生ワクチンである場合、好ましくは食餌、噴霧又は飲用水を介してなど、大量適用の方法により投与される。
【0195】
本発明によるワクチンの投与のためのプロトコールは、理想的には、その他のワクチンの既存のワクチン接種スケジュールに組み込まれる。
【0196】
本発明によるワクチンに対する好ましい標的は、鳥類動物である。より好ましい標的は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル及びガチョウからなる群から選択される。最も好ましい標的はニワトリである。
【0197】
本発明によるワクチンを標的生物に適用するための投与スキームは、ワクチンの処方と適合する方式で及び免疫学的に有効となるような量での、単回又は複数回投与(これは同時に又は連続的に投与され得る。)であり得る。
【0198】
齢、体重、性別、免疫学的状況及びワクチン接種しようとする鳥類標的のその他のパラメーターは重要ではないが、健康な標的にワクチン接種すること及び飼育現場での感染を予防するためにできるだけ早急にワクチン接種することは明らかに有利である。従って、例えば、孵化した日又はさらに早く、孵化の3−4日前に;例えばニワトリに対して胚発生(ED)第18日又はシチメンチョウに対して第24日EDで、まだ卵内にいる間に、家禽にワクチン接種することができる。
【0199】
安定性の又は経済的理由から、本発明によるワクチンは凍結乾燥され得る。一般に、これにより0℃以上の温度、例えば4℃で長期保存できるようになる。凍結乾燥のための手順は当業者にとって公知であり、様々な規模の凍結乾燥のための装置が市販されている。
【0200】
従って、好ましい実施形態において、本発明によるワクチンは凍結乾燥形態である。
【0201】
凍結乾燥ワクチン組成物を再構成するために、生理学的に許容可能な希釈剤中でこれを懸濁する。このような希釈剤は、例えば滅菌水又は生理食塩水((リン酸緩衝)食塩水など)のような単純なものであり得るか、又は、希釈剤は、EP382,271に記載のような、トコフェロールなどの補助的化合物を既に含有し得る。より複雑な形態において、本凍結乾燥ワクチンは、例えばEP1,140,152に記載のようなエマルジョン中で懸濁され得る。
【0202】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明は、本発明による凍結乾燥ワクチンの再構成によって得ることができるワクチン組成物に関する。
【0203】
ワクチンにおける本発明による化合物及び組成物の様々な使用に加えて、これらはまた、例えば動物の現地試料又はウイルス調製物において、本発明によるウイルス又はその抗原又は核酸を検出するために、診断にも有利に適用され得る。
【0204】
これはまた、上述のようなIFT及びVNアッセイによる血清型決定実験の結果によっても明らかにされ、この実験において、本発明の範囲内に包含されるウイルス(表1に記載のような分離株)とそうではないもの(中でも:ANV1、CAstV2、レオウイルスなど)との間で差別化するために、本発明による寄託鳥類アストロウイルスに対する抗血清が適用された。同様に、記載のPCR実験によって、本発明による鳥類アストロウイルスの選択的同定能が明らかになった。
【0205】
当業者が認識するように、これは、本発明による抗体に適用されるだけでなく、本発明によるその他の化合物及び組成物にも適用される。このような診断アッセイは、例えば、抗原について試験するために本発明による抗体又はその断片を使用するか又はそれに対する抗体について試験するために抗原(本発明による、ウイルス、抗原性調製物又はタンパク質)を使用するか又はハイブリッド形成又はPCRアッセイを設定するために核酸(ウイルスからのRNA又は本発明によるDNA分子)を使用する。
【0206】
従って、さらなる態様において、本発明は、鳥類アストロウイルス、抗原性調製物、抗体又はその断片、DNA分子又はタンパク質(全て本発明によるもの)を含む診断キットに関する。
【0207】
「診断キット」という用語は、例えば、多くの成分及び診断テストを行うための消耗品及び説明書を含む(全て市販可能な包装形態)、市販用の包装に関する特性を指す。
【0208】
従って、このような診断キットは、例えば、抗体ELISAに必要とされる材料を含む。このような試験において、例えば、ELISAプレートのウェルは、本発明による鳥類アストロウイルス又はその調製物もしくはタンパク質に対する抗体の検出用の、抗体ELISAキットを形成するために、本発明による鳥類アストロウイルスで被覆されている。試験試料との温置後、(存在するならば)この試験試料の免疫グロブリンに反応性がある標識化抗体をウェルに添加する。次に、呈色反応により、試験試料中の特異的抗体の有無が明らかになる。
【0209】
同様に、例えば本発明によるウイルス、抗原性調製物又はタンパク質で被覆されたマイクロタイタープレートを含む、抗原ELISAキットが考案され得る。
【0210】
このような免疫アッセイの設計は変更され得る。例えば、この免疫アッセイは、直接結合の代わりに競合に基づき得る。さらに、このような試験はまた、装置の固体支持体の代わりに、粒子状物質又は細胞性物質も使用し得る。この試験で形成される抗体−抗原複合体の検出で使用されるのは、標識化抗体のみであり得、この標識は、例えば、酵素又は蛍光、化学発光、放射活性又は色素分子であり得る。
【0211】
有利に、本発明によるワクチン及び診断法は、ここで、ある一定の領域又は動物集団における本発明による鳥類アストロウイルスの根絶のためのアプローチを考案するために連携して使用され得る。
【0212】
ここで、次の非限定実施例を参照して、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0213】
(実施例1)
現地試料からの鳥類アストロウイルスの単離
本発明による鳥類アストロウイルスの多くの分離株を、オランダ及びドイツの様々な農場からのニワトリ及びシチメンチョウから単離した。典型例として、試料番号161319(「分離株19」)の単離をここで詳述する。
【0214】
餌消費の低下、産卵低下及び2級卵の増加を示す、オランダの農場の36週齢の4羽の産卵雌ニワトリ由来の気管のプールから、分離株19アストロウイルスを単離した。これらはまた、全般的に、消化不良、下痢及び運動性の問題があった。
【0215】
4羽のニワトリの気管のプール組織(0.5−1.0g)を「ライジング液(rising −medium)」(500mL HBSS[ハンクス基本塩類溶液]+2mLベンジルペニシリンナトリウム(1.000.000I.E/mL)+8mLストレプトマイシン(250mg/mL)+0,5mLファンギゾン(2.000μg/mL)+NaHCO 2mL 7.5%含有)約10mLと混合し、2分間ストマッカーを用いてホモジェナイズ処理した。2−8℃で2000xgで15分間、縣濁液を遠心した。次に、450nmフィルターを用いて上清をろ過した。
【0216】
得られた液体を4羽の8−9日有胚ニワトリSPF卵(1mL/卵)の尿膜腔、4羽の5−6日有胚SPF卵(1mL/卵)の卵黄及び4羽の9日有胚SPF卵(0.5mL/卵)のCAMに接種し、36.5から38.5℃で40から55%湿度で温置した。この卵を毎日光に透かして調べた。接種1日以内に起こる胚の死亡は非特異的とみなした。
【0217】
卵黄嚢接種卵の胚は、接種後第7日で何ら異常は示さなかった。そうではあるが、卵黄液を回収し、2回目の継代に使用した。
【0218】
1回目の継代から回収した卵黄液4mL(1mL/卵)を「継代液(HBSS 90mL+2mLベンジルペニシリンナトリウム(1.000.000I.E/mL)+8mLストレプトマイシン(250mg/mL)+0,5mLファンギゾン(2.000μg/mL)+NaHCO 2mL 7.5%含有)0.5mLと混合した。この混合液から、1mL/卵を5羽の5日有胚SPF卵の卵黄に接種し、36.5から38.5℃で40から55%湿度で温置した。これらの卵を毎日光に透かして調べた。
【0219】
接種後第6日目に、1個の胚が死亡し、身体の赤みが見られた。寒天ゲル沈降(AGP)アッセイでこの卵からの尿膜腔液をレオウイルスに対して試験し;それは、レオウイルスに対して陰性であった。
【0220】
異常胚があったこの卵の卵黄約4から5mLを回収し2回目の継代と同じようにさらなる継代に使用した。
【0221】
3回目の継代において、接種後第5日目に、3つの胚が死亡し、それらのうち2つで身体の赤みが見られた。プールした尿膜腔液はレオウイルス及びアデノウイルス1型に対してAGPで陰性であった。
【0222】
さらなる継代において、胚が死亡するか又は接種後により早く症状を発現したので、分離株の力価が上昇した。6回目及び7回目の継代で、肢及び翼端の典型的な鮮赤色染色が明らかになった。
【0223】
一貫して、尿膜腔液は、IBDV、レオウイルス、アデノウイルス、NDV、AIV及びIBVに対するHA又はAGP試験で陰性であった。また、IBDVに対するPCRアッセイも陰性であった。
【0224】
回収したCAM及び尿膜腔液を−80℃で凍結保存し、さらなる特徴評価のために使用した。
【0225】
(実施例2)
ウイルスRNA単離:
トータルウイルスRNAの単離のために、製造者の説明書に従い、QIAamp(R)Viral RNAミニキット(QiaGenTM)を使用した。簡単に説明すると、尿膜腔液又は組織又は胚ホモジェネート(通常、5−50%w/vの間の量)などの140μLウイルス含有液を予め調製した抽出緩衝液及び担体RNAと混合した。室温で10分間、これを温置した。次に、純エタノール(96−100%)を添加し、混合し、混合物をQIAampミニスピンカラム(2mL回収チューブ中)に入れた。1分間、6000xgでこれを遠心した。フロースルーを廃棄した。純エタノールを含有する洗浄緩衝液でこのカラムを洗浄した。最後に、60μL溶出緩衝液でこのカラムを溶出した。一般に、RNA単離の後、直接、RT反応を介してcDNAの産生を行った。
【0226】
標準的アガロース/ホルムアミドRNAゲル−電気泳動によりアストロウイルスRNAの存在を確認した。
【0227】
(実施例3)
RT反応を介したcDNAの産生
製造者の説明書に従い、Amersham−PharmaciaTMReady−To−Go(R)You−Prime First−Strand Beadsを用いて、第一鎖cDNA合成を行った。簡単に述べると、トータルウイルスRNA単離物からの溶出RNA29μLを65℃で10分間及び氷上で2分間、変性させた。2個のビーズを含有するチューブにこれを添加し、10μMプライマー17(配列番号3)4μLを添加し、33μLの最終体積とした。これを室温で1分間温置し、慎重にピペット操作することによって混合し、37℃で1時間温置した。さらなる使用まで、cDNAを−20℃以下で凍結保存した。
【0228】
(実施例4)
PCR反応
RT反応からのcDNAから2本鎖(ds)DNAを調製するために、PCRを使用した。また、本発明による鳥類アストロウイルスが試料中に存在するか否かを特異的に同定するために、診断型の検出アッセイとしてPCRを使用した。
【0229】
PCR反応成分は、HT BiotechnologyTMLtd.から得た:Supertaq(R)緩衝液(10x濃縮液)を1x濃縮で使用し;Supertaq(R)Plusポリメラーゼ酵素(5U/μL)を1U/μLで使用し、予混合dNTP(10mM)を2mMで使用。RNAse不含蒸留水中でこれらを混合した。
【0230】
使用したプライマーは、表4で列挙されるようなものであった。プライマーはInvitrogenTM(オランダ)により合成され、TE緩衝液(pH8.0)中で100μMのプライマー保存溶液を調製し、希釈標準保存溶液は、直接使用するために10μM希釈液であった。
【0231】
標準的PCRに対して、次の成分を使用した:27μL Aqua dest.、5μL 10xSupertaq Plus緩衝液;1μL(=1単位)Supertaq Plus酵素;5μL 2mM dNTP混合液;フォワード及びリバースプライマー各5μL(10μM);及び最後に、RT反応混合物からのcDNA2μL;50μLの総体積に達した。
【0232】
例えばプライマーF−II及びR−II−3(配列番号28、29)でORF1aを増幅するための又はプライマー20及び21(配列番号32、33)を用いることによりORF1bを増幅するための典型的な反応条件は、
95℃で−1分、
94℃で30秒間;48℃で1分;及び72℃で40秒を40サイクル
72℃で10分間
20℃で保持
であった。
【0233】
NB:全てのPCR温度は±約1℃である。
【0234】
最適化中、いくつかの変更を行った:40サイクルの代わりに45サイクルとし、アニーリング温度に対する変更及びサイクル段階の時間に対する変更:30秒又は1分間の長さで、46から53℃の間の温度を使用した。
【0235】
本発明による鳥類アストロウイルスの特異的検出のために、プライマー29及び30(配列番号30、31)を用いて、サイクル相に対して使用される最適条件は、51℃で30秒間のアニーリング温度で45サイクルであった。その他の条件は、プライマー20/21反応に対するものと同じであった。
【0236】
サイクル配列決定反応のためのPCR反応は、基本的に異なる設定であった:96℃で10秒間;50℃で5秒間;及び60℃で2分間を25サイクル、下記参照。
【0237】
(実施例5)
アガロースゲル−電気泳動によるDNA分析、精製及びサブクローニング:
産生されたPCR産物の検出及び視覚化のために、アガロースゲル−電気泳動を使用した。また、これは、切り出し及び抽出によりPCR産物を精製するために役立ち、これらの単離されたPCR産物の配列決定又はサブクローニングが可能になった。
【0238】
簡単に述べると、100mLアガロース溶液あたり0.5mg/mL臭化エチジウム溶液約50μLを含有するTAE緩衝液(pH8.0)中で0.8%アガロース(低電気浸透タイプ)ゲルを作製した。PCR産物の試料を標準的試料ローディング緩衝液(グリセロール/SDS//ブロモフェノールブルー)と1:10で混合した。典型的に、EurogentecTMからのSmartLadder(R)を用いたマーカーレーンが含まれた。通常は20x20x1cmゲルに対して100Vで1時間又は青色色素が寒天の端に到達するまで、TAE緩衝液中に浸して電気泳動を行った。UV光により可視化した。デジタルカメラでゲルの写真を撮影した。
【0239】
切り出され精製されたバンドのDNAの濃度を評価するために、DNAマーカーラダーの様々な量を保持するいくつかのレーンの横で試料を電気泳動する場合にも、寒天ゲル電気泳動を使用した。
【0240】
微量遠心又はQIAvac(R)真空マニホールドの何れかを用いて、製造者の説明書に従い、QIAquick(R)ゲル抽出キット(QiaGenTM)を用いて、アガロースゲルから、PCR産物の特異的バンドの精製を行った。
【0241】
アガロースゲルから切り出し、精製したDNAバンドを、クローニング、配列決定、発現又はハイブリッド形成−検出アッセイなどのさらなる使用のために細菌プラスミドにサブクローニングした。製造者の説明書に従い、TOPO−TA(R)ベクター及びTOPO−TA(R)クローニングキット(InvitrogenTM)を用いて、プラスミドPCR2.1にDNA断片をクローニングした。
【0242】
(実施例6)
DNA配列決定
Big Dye(R)Terminator Ready Reaction Mix(ABI PrismTM)及びABI PrismTM310自動配列決定装置を用いて、全て製造者の説明書に従い、標準的PCRサイクル配列決定により、DNA配列決定を行った。
【0243】
一般的には、配列決定反応において、20μLの総体積まで、蒸留水中で8μL Big Dye(R)Terminator Ready Reaction Mixture、10μMプライマー1μLとともに、DNA(精製PCR産物又はベクター中のクローニング断片)20から70ngを使用した。配列決定のために使用したプライマーは、通常、cDNAからdsDNA産物を調製するためにPCRで使用されたものと同じであった。
【0244】
サイクル配列決定PCRは、96℃で10秒間、50℃で5秒間、60℃で2分間を25サイクル行うことによるものであった。
【0245】
PCR後、Eppendorf(R)チューブ及び微量遠心を用いて、製造者の説明書に従い、Dye−Terminatoを除去するために、DyeEx(R)スピンカラム(QiaGenTM)を用いて試料を精製した。40μLの総体積になるように、最終溶出物を蒸留水により1:2で再懸濁した。
【0246】
次に、Data Collectionバージョン1.0.4及びSequence Analysisバージョン3ソフトウェアを用いて、ABI Prism(R)310 Genetic Analyzerでの分析により、配列決定を行った。
【0247】
いくつかのプログラムを用いて配列分析を行ったが、最もよく使用したものは、Sequencher(R)(Gene CodesTM)及びCloneManager(R)(Sci.Ed.SoftwareTM)であった。使用した変性PCRプライマーに基づき導入されたヌクレオチド読み取りを除去するために、最初と最後の配列を切り取った。
【0248】
配列番号4−26(偶数)で本明細書中で与えられるDNA配列は、多重配列決定反応由来のコンセンサス配列である。大抵の場合、この配列はまた、フォワード及びリバース配列決定プライマーを用いて2本鎖の両方からも読み取り;配列番号8のみ、一方の鎖のみから決定した。平均重複性はヌクレオチド個あたり約4xであった。
【0249】
(実施例7)
有胚ニワトリ卵におけるアストロウイルスの滴定
23G1”針を用いて、6日有胚SPFニワトリ卵の卵黄嚢にアストロウイルス縣濁液の連続10倍希釈液を接種した。続いて、37℃で7日間、孵卵器中でこの卵を温置した。
【0250】
この卵を毎日、光に透かして調べた。接種後24時間以内に起こる死亡は非特異的とみなし、従って、初期に死亡した胚を含有するこのような卵を廃棄し、感染性力価の計算から除外した。
【0251】
接種後2から7日までに死亡した胚を本発明によるアストロウイルスでの感染に対する病変の特徴の有無について調べた(これは、死亡した胚が鮮赤色の肢及び翼端及び腫脹した暗赤色の肝臓を呈したか否かということであった。)。Spearman及びKarberの方法に基づくコンピュータプログラムを用いて、感染性力価を計算し、ELD50/mLで表した。
【0252】
(実施例8)
有胚ニワトリ卵におけるアストロウイルスの産生
9日有胚SPFニワトリ卵の卵黄嚢に22G1 1/2”針を用いて、卵1個あたりアストロウイルス10^5 ELD50を接種した。続いて、孵卵器でこの卵を37℃温置した。
【0253】
温置24時間後に、この卵を光に透かして調べた。24時間以内に起こった死亡は非特異的とみなし、これらの卵を除外した。
【0254】
温置48時間後に、残っている全ての卵の尿膜腔液を回収した。この尿膜腔液を−60℃以下で凍結保存した。
【0255】
上述のような有胚ニワトリ卵中で又は細胞での滴定により、感染性力価を明らかにした。
【0256】
(実施例9)
初代細胞の作製
胚から肝臓を単離することによって、14−16日有胚SPFニワトリ卵からCEL細胞を調製した。PBS/フェノールレッドで肝臓を洗浄し、PBS中にトリプシンを含有する溶液中で室温で8−10分間温置した。100μmガーゼを通して上清を回収した。これを2回以上繰り返し、次に、遠心により細胞を回収し、5%ウシ胎仔血清(FCS)を含有する適切な富化培地中で再懸濁した。
【0257】
約18日SPFニワトリ胚からの腎臓を用いて、同様にCEK細胞を調製した。この腎臓の外皮を穏やかに剥ぎ、洗浄し、室温で20分間、1回トリプシン処理した。次にCEK細胞をろ過し、培地+FCS中で処理した。
【0258】
(実施例10)
IFTアッセイ
ある一定の抗血清の異種間の特異性を調べるために、ならびにウイルス滴定のために、免疫蛍光試験(IFT)を使用した。通常、マイクロタイタープレート中で初代細胞においてIFTを行った。
【0259】
CEK細胞をIFTに対して使用した場合、96ウェルマイクロタイタープレートのウェル中で10^5細胞/100μLでこれらを播種した。この細胞を2%FCS及び抗生物質入りの標準的な富化培地中に入れ、これを5%CO雰囲気中、37℃で温置した。翌日、細胞上にウイルスを接種した。
【0260】
滴定の目的で、ウイルスの連続希釈液を使用した。次に、さらに2日間プレートを温置した。次いで、上清を除去し、細胞を−70℃の純エタノールで固定した。このプレートを使用まで−20℃で保存し得た。滴定に対してウイルスを可視化するために、特異的抗血清でこのプレートを染色した。従って、このプレートを室温に順応させ、アルコールを捨てて、このプレートをPBSで洗浄した。良好な蛍光を与えるがバックグラウンドが強すぎないことが知られている強度で抗−アストロウイルス血清の希釈液を調製した。次に、この第一の抗血清をプレートに添加し、加湿雰囲気中、37℃で1時間温置した。次いで、PBSで3回、このプレートを洗浄した。次に、第二の抗体結合物を調製した(ヤギ抗−ニワトリIgG−FITC結合物(NordicTM))。これを必要とされる希釈でプレートに添加し、37℃で1時間再び温置した。この温置後、プレートを再びPBSで3回洗浄し、その後、PBS:グリセロールの1:1混合物を添加した。次に、蛍光顕微鏡による読み取りまで、4℃にて暗所でプレートを保存した。陽性シグナルは、細胞層でのcpeの兆候に相互に関連する、特異的蛍光の検出である。
【0261】
血清の特徴評価及び種の交差反応試験のために、CEK又はCEL細胞を用いて、同様にしてマイクロタイタープレートを調製した。翌日、試験しようとする様々なウイルス、例えば本発明によるアストロウイルス分離株、またANV1及びCAstV2ならびにその他の鳥類病原体:レオウイルス、IBV、NDV、FPV、アデノウイルス、AIVなど、をこれらに感染させた。ウイルス量は、固定量又は希釈液(都合の良いあらゆるもの)であった。このプレートを2−3日間温置した。
【0262】
ある一定の抗血清の様々なウイルスへの結合能を試験するために、血清をこのプレート上で温置し、結合物と温置することによってシグナルを増強させた。結合−対−バックグラウンドシグナルの最適化のために、様々なウイルスの様々な希釈液においてPBS中の抗血清のいくつかの希釈液を試験した。
【0263】
(実施例11)
アストロウイルスでのニワトリの感染
飼育現場で観察される疾患症状を再現するため及びこれらの二次感染動物から微生物を再単離するための実験設定において、ニワトリで、本発明による鳥類アストロウイルスを試験した。これは、試験される分離株を、病原性及び毒性が強い微生物及び観察される飼育現場での症状の原因となる感染因子として確立するために、コッホの条件に適合させるのに役立つ。
【0264】
また、続く攻撃感染に対して、生の接種材料によるワクチン接種効率を試験するために、ニワトリを繰り返し感染させた。
【0265】
最後に、接種されたアストロウイルスに対する特異的なポリクローナル抗血清を得るために、実験的に感染させたニワトリから総血清を分離した。
【0266】
この目的に対して、白色レグホン品種のSPF産卵ニワトリ及び雄雌両方を3週齢で陰圧アイソレーターに移した。無作為選択により動物を処置群に割り当て、二重の翼バンドにより個々に標識した。標準的な餌及び飲用水を自由に摂取できるようにした。
【0267】
免疫状態を調べるために、一定間隔で実験を通じて、また第0日にも、血液試料を採取した。次に、15羽のニワトリに3種類の経路:10^5 EID50/0.2mL用量及び10^5.4 EID50/0.5mL用量で、眼内経路により及び筋肉内経路により各0.2mL、ならびに経口経路により0.5mLを接種した。接種材料は、注射用水中で再懸濁した、寄託したような分離株19アストロウイルスであった。対照及びセンチネルとして使用するために、同じアイソレーターに入れた5羽のニワトリには接種しなかった。疾患の臨床兆候又は死亡について、動物を毎日調べた。
【0268】
接種後(p.i.)第20日に、何羽かのニワトリの採血を行い、死後組織病理試験に供した。p.i.第23日に、接種材料の同様の用量を用いてその他の(既に接種済み)ニワトリに免疫促進を行った。さらに23日後、実験を終了し、生存動物から採血し、試験した。
【0269】
一部のニワトリには最初に接種を行わなかったが、接種/感染ニワトリと同じアイソレーター中で飼育し、予想通り、これらのニワトリはアストロウイルスの水平伝播を通じて感染した。
【0270】
(実施例11a)
組織病理学的結果
動物試験の組織病理学的結果は次のとおりであった:2羽のニワトリが死亡し、5羽のニワトリ(そのうち3羽が対照)が下痢を発症した。組織病理学において、数羽のニワトリが、既にp.i.第7日から、程度の差はあれ、腎臓及び腸管に対する重度の病変を示した。腎臓では、最も顕著な兆候として、重度の間質性腎炎及び尿細管変性が見られた。胸腺及び嚢ではリンパ球溶解が見られ;膵臓では、アポトーシス及び腺房萎縮が見られ;十二指腸では絨毛が鈍化し融合していた。
【0271】
未接種対照ニワトリの水平感染から、アストロウイルス接種材料の毒性及び感染性が明らかになった。
【0272】
(実施例11b)
PCRの結果
本発明による鳥類アストロウイルスの兆候について、PCRにより、全ニワトリの腎臓試料を試験した。ホモジェナイズ処理及びRNA単離後、RT試料を調製した。配列番号30及び31のプライマーを用いて、PCRによりこれらを試験した。感染動物の全試料は、本発明による鳥類アストロウイルスを同定する特異的な260bpバンドを提示したことから、試験において陽性となった。適切な陽性及び陰性対照が含まれた。
【0273】
これにより、死亡及び組織病理学的兆候の原因物質が本発明による鳥類アストロウイルスであったことが分かった。観察された症状、腎炎及び下痢は、飼育現場で見られたものと一致した。肢に対する問題は再現することができず;おそらく、使用した鳥がこのような問題を発現するには痩せすぎており及び/又はアイソレーターにおけるSPFニワトリの状態が、飼育現場の鳥が直面する多重感染圧を十分に模していなかったからであろう。
【0274】
(実施例11c)
VNの結果
p.i.第0日、第20日及び第46日から、37℃で1時間、ニワトリ抗血清とともにアストロウイルス分離株19の固定量を温置した。次に、6日有胚SPF卵にこれらのウイルス試料を接種し、数日間温置した。卵接種後第4日に、第0日血清で処置したウイルスを接種した胚が死亡し、本発明による鳥類アストロウイルスによる感染の典型的兆候を示した。
【0275】
しかし、第20日又は第46日に採取された血清と温置したウイルスは、胚に影響を与えなかった。これにより、分離株19ウイルスが特異的ニワトリ抗血清により効果的に中和され得ることが分かる。
【0276】
また、これは、本発明による鳥類アストロウイルスでの生接種において、VN能を有する有効な抗血清がニワトリにおいて誘導され得ることを証明する。
【0277】
(実施例11d)
IFTの結果
ニワトリポリクローナル抗血清を用いた交差反応IFTアッセイの結果から、抗−分離株19抗血清が、本発明による鳥類アストロウイルスのウイルス分離株以外、ウイルスを何も認識しなかったことが明らかになった。
【0278】
同様に、ANV1又はCAstV2に特異的な抗血清は、同様にそれらが作製された特異的ウイルスのみを認識した。同様に、抗−ANV1も抗−ChAstV2血清も本発明による鳥類アストロウイルスのウイルス分離株に結合しなかったことは重要であった。これは、試験された最大抗体量(希釈率が最小の試料)にさえも当てはまった。
【0279】
また、その他の鳥類病原体、最も重要なものとしてはレオウイルス、に対する抗血清は、本発明による鳥類アストロウイルスのウイルス分離株に結合できず、本発明による鳥類アストロウイルスのウイルス分離株に対する抗血清もその他の鳥類病原体に結合できなかった。
【0280】
これにより、本発明による鳥類アストロウイルスがそれ自身の新規の特有な血清型であることが明らかとなり、従って、特有な分子生物学的差異が同定されたことが確認された。
【0281】
CEK細胞が入ったプレートに、分離株19アストロウイルス、第3継代、ウイルスの連続10倍希釈物を感染させた。2日後、このプレートを固定し、様々な抗血清で染色した。
【0282】
−接種後第33日からの抗分離株19血清プール、PBS中で1:20
−ニワトリにおいて作製された抗ANV1(SE−027/2株)、PBS中1:20(このANV1はGerman ANV1分離株であり、特異的領域のDNA配列決定において、本明細書中で使用されるGenBankからの参照ANV1配列と非常に近縁であると思われる。)。
【0283】
−ニワトリにおいて作製された抗CAstV2(TS9L株)、PBS中1:500(このCAstV/1は、寄託番号I−2932でParis、FranceのCNCMに寄託された試料由来であった。)。
【0284】
−陰性対照、PBSのみ。
【0285】
【表5】

【0286】
(実施例12)
さらなるワクチン接種試験
不活性化ワクチン:
抗原用量を最適化するために、不活性化された本発明によるアストロウイルスのアジュバント付加ワクチンで、シチメンチョウ及びニワトリにワクチン接種する。
【0287】
記載のようにアストロウイルス分離株19をCEL上で培養し、標準的プロトコールに従い、温度及びpH調節下でβ−プロピオラクトン(BPL)を用いて不活性化する。標準的プロトコールを用いて、軽油及び適切な乳化剤からなる標準的w/oエマルジョンへと、不活性化アストロウイルスをホモジェナイズ処理する。
【0288】
シチメンチョウ及びニワトリを隔離ユニットで飼育する:各群に20羽の動物が含有されるように、それらが手に寄って来たとおりに、120羽の2週齢の在来シチメンチョウを6つの個別の群(群1−6)に割り当てる。3週齢で、不活性化アストロウイルス分離株19を含有するw/oエマルジョンワクチンで、第1−4群のシチメンチョウに筋肉内経路によりワクチン接種する。同じw/oエマルジョンワクチンで、第5群のシチメンチョウに皮下経路によりワクチン接種し、第6群のシチメンチョウはワクチン接種せず、対照として使用する。
【0289】
同様に、各群に20羽のニワトリが含有されるように、それらが手に寄って来たとおりに、180羽の1週齢SPF産卵ニワトリを9つの個別の群(第7−15群)に割り当てる。3週齢で、不活性化アストロ3型ウイルスを含有するw/oエマルジョンワクチンで、第7−10群のニワトリに筋肉内経路によりワクチン接種する。同じワクチンで、第11−14群のニワトリに皮下経路によりワクチン接種し、第15群のニワトリはワクチン接種せず、対照として使用する。
【0290】
実験開始前及びワクチン接種後第4、8及び12週に、全てのシチメンチョウ及びニワトリから血液試料を採取する。CEL細胞上でのIFTにより、又はVNアッセイにより、本発明によるアストロウイルスに対して特異的な抗体の有無及びそれらの力価について血清を調べる。
【0291】
例えば、さらに6−12ヶ月アイソレーター中でワクチン接種鳥類を維持することによって、適切であれば免疫試験の持続時間を含むように、このプロトコールを容易に改変することができ、次に、感染に従うアストロウイルスでの攻撃感染を適用する。
【0292】
生ワクチン:
本発明による生アストロウイルスの用量でニワトリにワクチン接種し、続いてアストロウイルス生ワクチンに対する適用経路を最適化するために、アストロウイルスを用いて病原体接種を行う。
【0293】
各群に20羽のニワトリが含有されるように、100羽の1日齢の市販のMDA+(母性由来抗体陽性)種畜ニワトリを5つの個別群に割り当てる。1日齢で、点眼、散霧、エアロゾル噴霧又は飲用水を介して、尿膜腔液からの生アストロウイルス分離株19で、第1−4群のニワトリにワクチン接種する。第5群のニワトリはワクチン接種せず、非ワクチン接種対照として使用する。ワクチン接種後第4週に、全てのニワトリに対して本発明によるアストロウイルスにより病原体接種を行う。アストロウイルス感染に特徴的な臨床兆候及び/又は死亡の発生について、病原体接種後3週間の間、全ニワトリを毎日観察する。病原体接種から21日後、残った全ニワトリを屠殺し、組織病理学試験に供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類アストロウイルスのORF1aが、鳥類腎炎ウイルス1のORFと比較した場合、12個のヌクレオチドの挿入物を含有し、該挿入物が配列番号1のヌクレオチド番号2485及び2486に対応するヌクレオチドの間に位置することを特徴とする、オープンリーディングフレーム(ORF)1aゲノム領域を有する鳥類アストロウイルス。
【請求項2】
12個のヌクレオチドの挿入物が配列番号2で与えられるような核酸配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の鳥類アストロウイルス。
【請求項3】
前記鳥類アストロウイルスのORF1が、配列番号4と少なくとも88%のヌクレオチド配列同一性を有する領域を含むことを特徴とする、請求項1から請求項2に記載の鳥類アストロウイルス。
【請求項4】
鳥類アストロウイルスのORF1aから、配列番号30及び31で表されるプライマーのセットを用いてPCRアッセイにおいて約260ヌクレオチドのPCR産物が産生され得ることを特徴とする、請求項1から請求項3に記載の鳥類アストロウイルス。
【請求項5】
Institut Pasteur in Paris、FranceのCollection Nationale de Cultures de Micro−organismes(CNCM)で番号CNCM I−3895下で寄託されるようなウイルスである、請求項1から請求項4に記載の鳥類アストロウイルス。
【請求項6】
ウイルス中和アッセイにおいて請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルスを中和し得る、抗体又はその断片。
【請求項7】
請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルスから取得可能な抗原性調製物。
【請求項8】
配列番号4と少なくとも88%のヌクレオチド配列同一性を有する領域を含む、DNA分子。
【請求項9】
配列番号5と少なくとも93%のアミノ酸配列同一を有する領域を含む、タンパク質。
【請求項10】
請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルス、請求項6に記載の抗体もしくはその断片、請求項7に記載の抗原性調製物、請求項8に記載のDNA分子又は請求項9に記載のタンパク質と、医薬的に許容可能な担体と、を含む、ワクチン。
【請求項11】
家禽に対して病原性のある微生物から取得可能な少なくとも1つのさらなる抗原を含む、請求項10に記載のワクチン。
【請求項12】
請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルス、請求項6に記載の抗体もしくはその断片、請求項7に記載の抗原性調製物、請求項8に記載のDNA分子又は請求項9に記載のタンパク質である、家禽用ワクチンにおける使用のための化合物又は組成物。
【請求項13】
化合物又は組成物が、請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルス、請求項6に記載の抗体もしくはその断片、請求項7に記載の抗原性調製物、請求項8に記載のDNA分子又は請求項9に記載のタンパク質である、家禽用ワクチンの製造のための化合物又は組成物の使用。
【請求項14】
化合物又は組成物が適切な医薬担体と混合され、該化合物又は組成物が、請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルス、請求項6に記載の抗体もしくはその断片、請求項7に記載の抗原性調製物、請求項8に記載のDNA分子又は請求項9に記載のタンパク質である、家禽用ワクチンの製造のための方法。
【請求項15】
請求項1から請求項5に記載の鳥類アストロウイルス、請求項6に記載の抗体もしくはその断片、請求項7に記載の抗原性調製物、請求項8に記載のDNA分子又は請求項9に記載のタンパク質を含む、診断キット。

【図1】
image rotate

【図1−1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−520430(P2011−520430A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506669(P2011−506669)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055036
【国際公開番号】WO2009/133054
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】