説明

新規(メタ)アクリレート化合物及びその製造方法

【課題】高い屈折率を有しながら室温では液体であることにより、容易に光学部材を形成することのできる新規な(メタ)アクリレート化合物を提供。
【解決手段】フルオロベンゼンチオールに、発煙硫酸を加えジフルオロチアントレンを得る工程、ビス[(ヒドロキシアルキル)スルファニル]チアントレンを得る工程、及びビス[(ヒドロキシアルキル)スルファニル]チアントレンに(メタ)アクリル酸ハライドを反応させる工程を経て製造される、下記式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてレンズ等の光学部品の原料として用いるための新規(メタ)アクリレート化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラス等の無機材料からなるレンズに比べて、軽量で割れ難い等の特長を有するため、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の用途に広く用いられている。
近年、眼鏡レンズの中心厚が小さくなる傾向がある等の事情の下、プラスチックレンズの材料として、より高い屈折率を有する光学用樹脂が望まれている。
また、UV硬化材料は、無溶剤、低粘度のフォーミュレーションが可能なことから、高い生産性で複雑な形状を有する製品を製造する方法に用いるための材料として有用であり、近年、パソコン、液晶テレビ、携帯電話等のディスプレイ関連材料としても幅広く利用されている。プラスチック光学材料の需要が高まるにつれ、UV硬化樹脂には、従来の速硬化、高硬度、接着性等といった機能のほかに、硬化物の屈折率制御が求められてきている。
このような高い屈折率を有する光学用樹脂(重合体)を得るために、硫黄原子を含有する化合物を単量体として用いることが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−211021号公報
【特許文献2】特開平8−325337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、高い屈折率を有する重合体(硬化体)が得られる(メタ)アクリレート化合物は常温で固体又は高粘度の液体であるため、光学用樹脂調製時には多量の希釈モノマーが必要であり、希釈モノマーの屈折率が低いため、得られた樹脂組成物から形成された硬化体の屈折率は低くなってしまうという問題があった。
本発明は、高い屈折率を有しながら室温では液体であることにより、容易に光学部材を形成することのできる単量体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明者らは、高い屈折率を有する重合体(硬化体)を形成することができるという特性を有しながら室温では液体である化合物を鋭意探索し、特定の構造を有する新規な(メタ)アクリレート化合物を見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は下記の新規な(メタ)アクリレート化合物、及びその製造方法を提供する。
1.下記式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物。
【化1】

[式(1)中、R及びRは水素原子又はメチル基を示し、mはそれぞれ独立に1〜4の整数を示す。]
2.上記1に記載の(メタ)アクリレート化合物を重合させることにより得られる重合体。
3.フルオロベンゼンチオールに、発煙硫酸を加え、下記式(4)
【化2】

で示されるジフルオロチアントレンを得る工程、
ジフルオロチアントレンに、下記式(5)
HS−(CH−OH (5)
[式(5)中、mは式(1)の場合と同義である。]
で示される化合物を反応させて、下記式(6)
【化3】

[式(6)中、mは式(1)の場合と同義である。]
で示されるビス[(ヒドロキシアルキル)スルファニル]チアントレンを得る工程、及び
ビス[(ヒドロキシアルキル)スルファニル]チアントレンに(メタ)アクリル酸ハライドを反応させる工程
を有する、下記式(1)
【化4】

で表される(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
[式(1)中、R及びRは水素原子又はメチル基を示し、mはそれぞれ独立に1〜4の整数を示す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明の(メタ)アクリレート化合物によれば、高い屈折率を有する硬化体を形成することのできる、常温で液状の放射線硬化性組成物を調製することができる。
上記の液状の放射線硬化性組成物は、光学用部材の材料として用いることができ、具体的には、レンズ(例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ等)の材料、ナノインプリント用材料、光学接着剤等の用途、導波路、記録材料に用いることができる。
本発明の(メタ)アクリレート化合物の製造方法によれば、目的とする(メタ)アクリレート化合物を少ない工程数で短時間に容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の新規な(メタ)アクリレート化合物、及びその製造方法について具体的に説明する。
【0009】
本発明の(メタ)アクリレート化合物は下記式(1)で示される化合物である。
【化5】

[式(1)中、R及びRは水素原子又はメチル基を示し、mはそれぞれ独立に1〜4の整数を示す。]
【0010】
本発明の(メタ)アクリレート化合物を下記式(2)で示される2,7−ビス[(2−アクリロイルエチル)スルファニル]チアントレンを例にとって説明する。
【化6】

上記式(2)で示される本発明のアクリレート化合物は、チアントレンを有し、硫黄含有率が高いため、これを重合させてなる重合体は高屈折率となる。
上記式(2)で示されるアクリレート化合物は、常温で液体であり、光学用樹脂調製時に希釈モノマーや溶剤を用いる必要が無いため、これを重合して得られる硬化体の屈折率を高く保持することができる。
【0011】
上記式(2)で示されるアクリレート化合物は合成例1〜3に記載の方法で製造することができる。本発明の(メタ)アクリレート化合物の製造方法によれば、目的とする(メタ)アクリレート化合物を少ない工程数で短時間に容易に得ることができる。
【0012】
合成例1で使用する4−フルオロベンゼンチオールの置換基の位置が異なる化合物を原料とすることで、チアントレン環上に結合する置換基の位置を変更することができる。
【0013】
合成例2で使用するメルカプトエタノールを下記式(5)で示される化合物とすることで、mの異なる化合物を得ることが可能となる。
HS−(CH−OH (5)
式(5)中の、mも式(1)の場合と同義で、1〜4の整数である。mが5以上では、得られる式(1)の(メタ)アクリレート化合物に含まれる硫黄の含有量が低くなり、式(1)の(メタ)アクリレート化合物から得られる重合体の屈折率が低下する得られなくなるため好ましくない。
尚、上記式(5)の化合物は、1種のみで使用してもよいし、鎖長の異なる複数種の化合物を混合して使用してもよい。
【0014】
本発明の(メタ)アクリレート化合物の重合は、通常、放射線照射によって行う。
ここで放射線とは、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等をいう。紫外線を1000〜5000mJ/cm照射することにより重合体(硬化物)が得られる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0016】
[合成例1]2,7−ジフルオロチアントレンの合成
【化7】

【0017】
攪拌機及び窒素導入管を備えた反応容器に、4−フルオロベンゼンチオール(25.16g、0.196mol)に発煙硫酸290〜350mLを加え、室温で12〜24時間反応させた。反応液を500mLの冷水に注ぎ、析出物をジクロロメタンで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾別後、ジクロロメタンを減圧留去し、得られた固体を500mLの熱酢酸に溶解させた。この溶液に亜鉛粉末(11.5g)を加え18時間加熱還流した。亜鉛粉末を濾別し、溶液に500mLの水を添加し固体を析出させた。得られた白色の固体はエタノールを用いて再結晶し精製した。
融点:156.2℃(DSC)
FT−IR(KBr、cm−1):1592.9、1454.1、1253.5、1207.2、894.8、856.2、802.2
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):6.96−7.03(m、2H)、7.22−7.25(m、2H)、7.41−7.45(m、2H)
【0018】
[合成例2]2,7−ビス[(2−ヒドロキシエチル)スルファニル]チアントレンの合成
【化8】

【0019】
攪拌機、還流冷却器、及び窒素導入管を備えた反応容器にメルカプトエタノール(4.25g,54.5mmol)、t−ブトキシドカリウム(6.12g、54.5mmol)、DMF(50mL)を加え、室温で1時間攪拌した。その後、合成例1で合成した2,7−ジフルオロチアントレン(5.5g、21.8mmol)を加え、120℃で12時間加熱攪拌した。反応後、溶液を冷水に注ぎ、析出した固体を濾取、水洗した。得られた固体はトルエンで再結晶し精製した。
収量6.0g
収率74.6%
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):7.40(s、2H)、7.36(d、2H)、7.17(d、2H)、3.44(m、4H)、2.96(t、4H)
【0020】
[合成例3]2,7−ビス[(2−アクリロイルエチル)スルファニル]チアントレンの合成
【化9】

【0021】
攪拌機、還流冷却器、及び窒素導入管を備えた反応容器に合成例2で合成した2,7−ビス[(2−ヒドロキシエチル)スルファニル]チアントレン(1.84g、5.0mmol)、乾燥THF(30mL)、N,N−ジメチルアニリン(1.82g、15.0mmol)を加え、0℃まで冷却した。この溶液にTHF(10mL)で希釈したアクリル酸クロライド(1.81g、20.0mmol)を滴下した。滴下後、室温で24時間攪拌し、反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止させた。反応液を水で希釈し、クロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、淡黄色の油状物質を得た。
収量1.56g
収率65.5%
H―NMR(300MHz、DMSO―d、ppm):7.59(s,2H)、7.48(d、2H)、7.35(d、2H)、6.25(d、2H)、6.08(m、2H)、5.87(d、2H)、4.28(t、4H)、3.32(t、4H)
【0022】
[新規アクリレート化合物の特性評価]
液屈折率の測定
株式会社アタゴ製アッベ屈折計NAR-4Tを用いて25℃にて測定を行った。その結果、合成例3で得られた化合物(本発明のアクリレート化合物)の波長589nmにおける屈折率は、1.635であった。
【0023】
<重合体の製造>
実施例1
合成例3で得られた化合物に光ラジカル開始剤(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)1wt%を添加し、100ミクロン厚のアプリケーターバーを用いてガラス板上に塗布し、これを窒素下で1J/cmのエネルギーの紫外線を照射し硬化させ試験用透明フィルムを得た。
【0024】
<重合体からなる膜の特性評価>
実施例1で得られた重合体フィルムについて下記特性を評価した。
【0025】
(1)屈折率(n25)の測定
JIS K7105に従い、(株)アタゴ製アッベ屈折計を用いて、25℃における波長589nmでの屈折率を測定したところ、1.675であった。
【0026】
(2)透過率(%)
スガ試験機(株)社製カラーヘーズメーターSC−3Hを使用して、上記で得られた硬化膜の膜厚100μmの全光線透過率(%)を測定した結果、95%であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の新規(メタ)アクリレート化合物は常温で液体であり、希釈モノマーを使用せずに重合することができるため、これを原料として製造される重合体(所望の形状を有する硬化体)は高い屈折率を有することができる。
本発明の新規(メタ)アクリレート化合物を重合させて得られる重合体(硬化体)は、高屈折率であると同時に高アッベ数であるため、光学用部材の製造材料として好適である。具体的には、レンズ(例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ等)の材料、ナノインプリント用材料、光学接着剤等の用途、導波路、記録材料等の光学部材の材料として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物。
【化10】

[式(1)中、R及びRは水素原子又はメチル基を示し、mはそれぞれ独立に1〜4の整数を示す。]
【請求項2】
請求項1に記載の(メタ)アクリレート化合物を重合させることにより得られる重合体。
【請求項3】
フルオロベンゼンチオールに、発煙硫酸を加え、下記式(4)
【化11】

で示されるジフルオロチアントレンを得る工程、
ジフルオロチアントレンに、下記式(5)
HS−(CH−OH (5)
[式(5)中、mは式(1)の場合と同義である。]
で示される化合物を反応させて、下記式(6)
【化12】

[式(6)中、mは式(1)の場合と同義である。]
で示されるビス[(ヒドロキシアルキル)スルファニル]チアントレンを得る工程、及び
ビス[(ヒドロキシアルキル)スルファニル]チアントレンに(メタ)アクリル酸ハライドを反応させる工程
を有する、下記式(1)
【化13】

で表される(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
[式(1)中、R及びRは水素原子又はメチル基を示し、mはそれぞれ独立に1〜4の整数を示す。]


【公開番号】特開2011−168526(P2011−168526A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33325(P2010−33325)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】