説明

方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】平坦化焼鈍時に懸念される磁気特性の劣化を効果的に抑制して、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】最終仕上げ焼鈍をコイルに巻き取った状態で行ったのち、絶縁張力コーティングを被覆して得た方向性電磁鋼板において、該絶縁張力コーティングにより、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での内面側の鋼板表面に付与される張力を、外面側の鋼板表面に付与される張力よりも0.5 MPa以上高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、特にコイルに巻き取った状態で最終仕上げ焼鈍を施した鋼板に絶縁張力コーティングを形成するに際し、該鋼板の表裏面に付与する張力に差異を設けることによって磁気特性の一層の向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電磁鋼板の表面には、絶縁性、加工性および防錆性等を付与するために表面被膜を形成する。かかる表面被膜は、最終仕上げ焼鈍時に形成されるフォルステライトを主体とする下地被膜と、その上に被成されるリン酸塩系の上塗り被膜とからなる。
これらの被膜は高温で成膜され、しかも地鉄に比較して低い熱膨張率を持つことから、室温まで降温したときの鋼板とコーティングの熱膨張率の違いにより鋼板に引張り応力(以下、単に張力という)が付与され、これが鉄損の低減に有効であるので、できるだけ高い張力を鋼板に付与することが望まれている。
【0003】
このような要請に応えるために、従来から種々の表面コーティングが提案されている。例えば、特許文献1には、リン酸マグネシウムとコロイド状シリカと無水クロム酸を主体とするコーティングが、また特許文献2には、リン酸アルミニウムとコロイド状シリカと無水クロム酸を主体とするコーティング等がそれぞれ提案されている。
【特許文献1】特公昭56−52117号公報
【特許文献2】特公昭53−28375号公報
【0004】
一方、鋼板そのものの改善策としては、特許文献3や特許文献4をはじめとして多数の提案がなされている。これら種々の取り組みにより、磁気特性は大きく改善されてきたものの、平坦化焼鈍時に何らかの原因で特性劣化が生じるという問題が散発していた。
そのため、上述のような技術を用いた場合であっても、必ずしも期待した効果が得られず、所期した特性が達成されないという問題があった。
【特許文献3】特開平6−88172号公報
【特許文献4】特開2002−220642号公報
【0005】
平坦化焼鈍に関する従来技術としては、例えば特許文献5に、平坦化焼鈍時のロールを千鳥状に配置して平坦化を促進する技術が、また特許文献6に、焼鈍炉内のガス中に水分を微量添加させる技術が報告されている。
しかしながら、近年の方向性電磁鋼板の磁気特性の改善に伴い、不可避的に仕上げ焼鈍後のコイル形状が乱れたり、下地被膜の膜が低下したりすることから、このような方法では必ずしも良好なコイルは得られにくくなってきている。
例えば、特許文献5の方法においては、仕上げ焼鈍後の形状の乱れたコイルでは鋼板が破断し易くなる上に、鋼板に歪が入ってかえって磁気特性が劣化するという問題が生じることもあった。また、特許文献6の方法では、鋼板が酸化されてかえって磁気特性が劣化するという問題が生じることもあった。
【特許文献5】特開昭60−262920号公報
【特許文献6】特開平2−4924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、仕上げ焼鈍済みのコイルに絶縁張力コーティングを形成するに際し、鋼板の表裏面に付与する張力に差異を設けることによって、平坦化焼鈍時に懸念された磁気特性の劣化を効果的に抑制した、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.最終仕上げ焼鈍をコイルに巻き取った状態で行ったのち、絶縁張力コーティングを被覆して得た方向性電磁鋼板であって、該絶縁張力コーティングにより、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での内面側の鋼板表面に付与される張力が、外面側の鋼板表面に付与される張力よりも0.5 MPa以上高いことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【0008】
2.最終仕上げ焼鈍をコイルに巻き取った状態で行った方向性電磁鋼板の表面に、絶縁張力コーティング処理液を塗布したのち、乾燥・焼付けして絶縁張力コーティングを形成するに際し、該絶縁張力コーティングにより鋼板の表裏面に付与される張力について、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側の方が外面側よりも高くなるように形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0009】
3.上記2において、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側に付与される張力が、鋼板の外面側に付与される張力よりも0.5 MPa以上高いことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
4.上記2または3において、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側および外面側に付与する張力の調整手段が、絶縁張力コーティングの膜厚および/または組成の変更であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0011】
5.上記2乃至4のいずれかにおいて、最終仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に絶縁張力コーティング処理液を塗布し、乾燥したのち、平坦化焼鈍を行う場合に、平坦化焼鈍温度:850℃以下、平坦化焼鈍時に鋼板に付与する張力:15 MPa以下の条件で焼鈍することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
この発明に従い、絶縁張力コーティングにより鋼板の表裏面に張力を付与する場合に、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側の方の張力を外面側よりも高くすることによって、歪取り焼鈍時における磁気特性の劣化原因を排除することができ、その結果、優れた鉄損を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
発明者らは、平坦化焼鈍前後で鋼板の磁気特性が大きく劣化する場合が生じたことから、平坦化焼鈍中に何らかの外乱要因に起因して所望の特性が得られないのではないかと考え、この原因を解明するために数多くの実験と検討を重ねた。
その結果、平坦化焼鈍後でも鋼板中に歪が残留しており、これが磁気特性のばらつきの主原因になっていることを突き止めた。
以下、上記の知見を得るに至った実験について述べる。
【0014】
曲率半径:500mmの湾曲を付けて最終仕上げ焼鈍を施した0.3mm厚みの方向性電磁鋼板を、リン酸酸洗後、絶縁コーティング処理液として、リン酸マグネシウム:50質量%、コロイド状シリカ:40質量%、無水クロム酸:9.5質量%、シリカ粉末:0.5質量%の配合割合になる処理液を、乾燥重量で表裏面が各々5g/m2になるように塗布したのち、300℃で1分間の乾燥後、乾N2雰囲気中にて800℃,1分間、付与張力:4〜20 MPaの条件で平坦化焼鈍を行った。
かくして得られた鋼板の磁気特性を測定すると共に、鋼板の湾曲程度をJIS C 2550に準拠した巻きぐせ測定により、鋼板の反りを測定した。
得られた結果を図1に示す。
【0015】
同図から明らかなとおり、平坦化焼鈍時の張力を8MPa程度までに高めることによって鉄損は改善するが、これを超えて張力を付与すると逆に鉄損は急激に劣化する。また、湾曲の程度については、張力を高めるほど鋼板の反りは低下していき、14 MPa程度でほとんど湾曲は消失した。
【0016】
上記のような結果が得られた理由として、平坦化焼鈍時の張力により鉄損に最適値が生じることについては、張力が低すぎる場合はサンプルの湾曲が残るため、一方張力が高すぎる場合には張力によって歪が導入されるため、と考えられる。
しかしながら、今回の結果では、幾分湾曲が残った方が鉄損には有利な結果となった。すなわち、湾曲が完全になくなるまで平坦化させると、歪が入って磁気特性がかえって劣化することが判明した。
【0017】
以上の知見を基づけば、湾曲を完全に除去せずに磁気特性が劣化しない程度の張力に抑えることが考えられる。ただし、湾曲が残ると、これが磁気測定の際に歪の元となり鉄損の劣化原因となるため、やはり良好な結果は得られない。
【0018】
上記した2つの相反する問題を解決するために、本発明者らは絶縁コーティングによる付与張力を利用して湾曲を矯正することに想い至った。
すなわち、絶縁張力コーティングは、鋼板に張力を付与する働きがあるが、湾曲した内面側のコーティングを外面側よりも強化して張力をより強くすれば湾曲を解消することができ、これにより磁気特性が改善されると考えられる。
【0019】
以下、この点に関する実験について述べる。
前述したところと同様の最終仕上げ焼鈍済み方向性電磁鋼板を、リン酸酸洗後、リン酸マグネシウム:50質量%、コロイド状シリカ:40質量%、無水クロム酸:9.5質量%、シリカ粉末:0.5質量%の配合割合になる絶縁コーティング処理液を塗布したのち、300℃で1 分間乾燥し、乾N2雰囲気中にて800℃,2分間、付与張力:6MPaの条件で平坦化焼鈍を行った。このとき、鋼板の表面側と裏面側のコーティング塗布量をそれぞれ1〜6g/m2の範囲で変更することにより、鋼板に付与する張力を3〜15MPaの範囲で変化させた。
かくして得られた鋼板の磁気特性を測定すると共に、鋼板の湾曲程度をJIS C 2550に準拠した巻きぐせ測定により、鋼板の反りを測定した。なお、コーティングの張力は片面のコーティングを除去したときの板の反りから換算した。
得られた結果を図2に示す。
【0020】
同図から明らかなように、湾曲内面の張力を外面の張力よりも高めることによって、コイルの湾曲程度は低下し、鉄損も改善されている。また、湾曲が低減された領域で鉄損の劣化もなく、平坦化焼鈍時の歪が磁気特性に悪影響をほとんど及ぼしていないことが確認された。
【0021】
上述したとおり、絶縁張力コーティングによる張力差を利用してコイルの湾曲矯正を行うことにより、鉄損特性を効果的に向上させることができたのである。
ここに、絶縁張力コーティングにより付与する内面側張力と外面側張力の差は、0.5MPa以上とすることが好ましいが、この差があまりに大きいと反対側に鋼板が湾曲し、やはり磁気特性が劣化するという弊害が生じるので、その上限は20MPa程度とすることが好ましい。
【0022】
次に、本発明の限定理由について述べる。
本発明の素材は、コイル焼鈍によって二次再結晶させた方向性電磁鋼板の最終仕上げ焼鈍板である。素材成分については特に限定されない。最終仕上げ焼鈍は、通常、数日にわたる長時間で行われるため、コイルに巻き取った状態のまま焼鈍されるのが定法であり、本発明でも従来どおりこの方法で行う。この仕上げ焼鈍済みのコイルは、絶縁張力コーティング処理液を塗布する前に、水洗やリン酸酸洗により表面を清浄化するが、これも従来どおりの方法でよい。
その後、絶縁張力コーティング処理液を塗布する。コーティングとしては、従来の張力付与型のコーティングでよいが、表裏面でコーティングにより鋼板に付与する張力を、巻き取った状態での外面側より内面側が高くなるようにすることが、本発明のポイントである。
【0023】
ここに、好適な張力付与型のコーティングを示すと、次のとおりである。
通常、最もよく用いられるコーティングは、リン酸塩−シリカ系のコーティングであるが、このときコーティング成分としては、固形分比率でコロイド状シリカ:20質量部に対し、Al,Mg,Ca,FeおよびMn等のリン酸塩のうちから選んだ一種または二種以上を10〜80質量部程度の配合とすることが好ましい。リン酸塩の割合が少なすぎると耐吸湿性が十分でなく、一方多すぎるとコロイド状シリカが相対的に少なくなるため、張力が低下して鉄損低減効果が低減する。また、これに、吸湿性の改善を目的として、無水クロム酸および/またはクロム酸化合物を合計で3〜20質量部配合してもよい。さらに、シリカやアルミナ等の無機鉱物粒子(粉末等)を配合すると、耐スティッキング性が改善されるので、これらを使用することも可能である。配合量は、占積率を低下させないために最大でも1質量部程度とするのが好ましい。
また、最近、環境調和型のコーティングとして、クロムを用いない技術も開発されているが、これを使用する場合には、無水クロム酸やクロム酸化合物の代りにMg,Al,Fe,Bi,Co,Mn,Zn,Ca,Ba,SrおよびNi等の金属硫酸塩、塩化物、コロイド状酸化物およびほう酸塩等を配合する。配合量は合計で3〜30質量部程度とするのが好ましい。
【0024】
本発明において、張力の変更手段としては、コーティングの塗布量を変える方法、コーティングの種類を変更する方法などがある。コーティング塗布量は、従来、片面あたり2〜8g/m2、両面合計で4〜16g/m2程度塗布されていたが、塗布量を変える場合でも両面合計はこれと同様にすることが好ましい。多すぎると占積率が低下して磁気特性が劣化し、少なすぎると張力が低下してやはり良好な磁気特性が得られない。
【0025】
また、コーティングの種類を変更する方法としては、たとえば「IEEE Transactions on Magnetics,VoI.Mag−15,No.6,November1979」に開示されているとおり、リン酸塩の種類を変更したり、コーティングの配合比を変更したりする方法がある。
【0026】
このようなコーティングによる張力の変更は、コイル湾曲内面側が外面側よりも0.5MPa以上強くなるように行うことが好ましい。これにより、図2に示したように、コイル湾曲が効果的に矯正されるからである。
【0027】
このようにコーティングを塗布、乾燥した後、焼付けを兼ねて平坦化焼鈍を行う。その際、焼鈍温度は850℃以下、鋼板に付与する張力は15 MPa以下とするのが好適である。
通常は、処理温度や付与張力を低下させた条件で平坦化焼鈍を行うとコイルの湾曲が残るが、本発明ではこの程度の弱い条件で行い、不足分についてはコーティングによる付与張力で形状を矯正する。なお、焼鈍時間については従来どおり2〜120秒程度でよい。
上記の処理により、コイルの湾曲を解消すると共に、鋼板に不要な歪が入るのを防止して、良好な鉄損を得ることができる。
【実施例】
【0028】
実施例1
曲率半径:500mmの湾曲を付けて最終仕上げ焼鈍を施した0.3mm厚みの方向性電磁鋼板を、リン酸酸洗後、コイルに巻き取った状態での鋼板の内面側については、リン酸マグネシウム:50質量%、コロイド状シリカ:40質量%、無水クロム酸:9.5質量%、シリカ粉末:0.5質量%の配合割合になる絶縁張力コーティング処理液を、一方外面側については、リン酸アルミニウム:50質量%、コロイド状シリカ:40質量%、無水クロム酸:9.5質量%、シリカ粉末:0.5質量%の配合割合になる絶縁張力コーティング処理液をそれぞれ、乾燥質量で片面それぞれが5g/m2になるように塗布したのち、300℃で1分間の乾燥後、乾N2雰囲気中にて800℃,1分間、付与張力:8MPaの条件で平坦化焼鈍を行って、方向性電磁鋼板とした。
かくして得られた方向性電磁鋼板の内外面各々のコーティングによる付与張力は、内面側が7.5MPa、外面側が6.7MPaであった。
なお、比較例として、鋼板の両面とも、リン酸アルミニウム:50質量%、コロイド状シリカ:40質量%、無水クロム酸:9.5質量%、シリカ粉末:0.5質量%の配合割合になる絶縁張力コーティング処理液を、乾燥質量で片面それぞれ5g/m2になるように塗布したのち、同様の処理を行って、方向性電磁鋼板を作製した。
かくして得られた方向性電磁鋼板の磁気特性を測定すると共に、鋼板の湾曲程度をJIS C 2550に準拠した巻きぐせ測定により、反りで評価した。
得られた結果を、表1に示す。なお、絶縁コーティングによる付与張力は、別途設けた試料の両面に各絶縁コーティングを施し、片面のコーティングを除去したときの板の反りから換算した。
【0029】
【表1】

【0030】
同表に示したとおり、内外面とも同一の絶縁コーティングを施した比較例では、湾曲が残っており、また磁気特性も劣化傾向にあったのに対し、内面側と外面側とでコーティングを変更し、内面側の付与張力を外面側よりも大きくした発明例では、良好な鉄損特性を得ることができた。
【0031】
実施例2
曲率半径:500mmの湾曲を付けて最終仕上げ焼鈍を施した0.3mm厚みの方向性電磁鋼板を、リン酸酸洗後、絶縁コーティング処理液として、リン酸マグネシウム:50質量%、コロイド状シリカ:40質量%、無水クロム酸:9.5質量%、シリカ粉末:0.5質量%の配合割合になる処理液を、乾燥質量で鋼板内面側は6g/m2、外面側は2g/m2になるようにそれぞれ塗布したのち、300℃で1分間の乾燥後、乾N2雰囲気中での焼鈍温度および付与張力を種々に変更して平坦化焼鈍を行って、方向性電磁鋼板とした。このときの各絶縁コーティングによる付与張力は、内面側が9.6MPa、外面側が3.4MPaであった。
かくして得られた方向性電磁鋼板の磁気特性を測定すると共に、鋼板の湾曲程度をJIS C 2550に準拠した巻きぐせ測定により、反りで評価した。
得られた結果を、表2に示す。なお、絶縁コーティングによる付与張力は、別途設けた試料の両面に各絶縁コーティングを施し、片面のコーティングを除去したときの板の反りから換算した。
【0032】
【表2】

【0033】
同表から明らかなように、平坦化焼鈍時における平坦化焼鈍温度が850℃以下で、かつ平坦化焼鈍時に鋼板に付与する張力が15 MPa以下の場合に、良好な鉄損特性が得られている。
【0034】
実施例3
曲率半径:500mmの湾曲を付けて最終仕上げ焼鈍を施した0.3mm厚みの方向性電磁鋼板を、リン酸酸洗後、絶縁コーティング処理液として、リン酸マグネシウム:30〜80質量部、コロイド状シリカ:40質量部、無水クロム酸:9.5質量部、シリカ粉末:0.5質量部の各配合割合になるコーティング剤を、鋼板の湾曲内面側と外面側でリン酸マグネシウムが種々の割合になるように各面5g/m2づつ塗布したのち、300℃で1分間の乾燥後、乾N2雰囲気中にて800℃、1分間、付与張力:8MPaの条件で平坦化焼鈍を行って、方向性電磁鋼板とした。
かくして得られた方向性電磁鋼板の絶縁コーティングによる付与張力と磁気特性を測定すると共に、鋼板の湾曲程度をJIS C 2550に準拠した巻きぐせ測定により、反りで評価した。
得られた結果を、表3に示す。なお、絶縁コーティングによる付与張力は、別途設けた試料の両面に各絶縁コーティングを施し、片面のコーティングを除去したときの板の反りから換算した。
【0035】
【表3】

【0036】
同表に示したとおり、コイル内面側の鋼板表面に付与される張力が、外面側に付与される張力よりも低くなると磁気特性が著しく劣化する。
これに対し、コイル内面側における付与張力が外面側よりも0.5MPa以上高くなっている場合には、磁気特性が大幅に改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】平坦化焼鈍時に鋼板に付与する張力が、鋼板の鉄損および反りに及ぼす影響を示したグラフである。
【図2】鋼板の内外面に付与した張力差(内面側張力−外面側張力)と鋼板の鉄損および反りとの関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終仕上げ焼鈍をコイルに巻き取った状態で行ったのち、絶縁張力コーティングを被覆して得た方向性電磁鋼板であって、該絶縁張力コーティングにより、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での内面側の鋼板表面に付与される張力が、外面側の鋼板表面に付与される張力よりも0.5 MPa以上高いことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
最終仕上げ焼鈍をコイルに巻き取った状態で行った方向性電磁鋼板の表面に、絶縁張力コーティング処理液を塗布したのち、乾燥・焼付けして絶縁張力コーティングを形成するに際し、該絶縁張力コーティングにより鋼板の表裏面に付与される張力について、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側の方が外面側よりも高くなるように形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側に付与される張力が、鋼板の外面側に付与される張力よりも0.5 MPa以上高いことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3において、最終仕上げ焼鈍時にコイルに巻き取った状態での鋼板の内面側および外面側に付与する張力の調整手段が、絶縁張力コーティングの膜厚および/または組成の変更であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかにおいて、最終仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に絶縁張力コーティング処理液を塗布し、乾燥したのち、平坦化焼鈍を行う場合に、平坦化焼鈍温度:850℃以下、平坦化焼鈍時に鋼板に付与する張力:15 MPa以下の条件で焼鈍することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−235472(P2009−235472A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81914(P2008−81914)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】