説明

方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】トランス、リアクトルなどの鉄心用として好適である高周波鉄損が低くさらには磁歪が小さい方向性珪素鋼板を提供する。
【解決手段】圧延方向と平行な方向に内部応力として、板厚中心部に70〜160MPaの圧縮応力、板表面に70〜160MPaの引張応力を有し、板厚中心部に積極的に大きな圧縮応力を付与して軟磁気特性を劣化させ、逆に表層部分には大きな引張応力を付与して軟磁気特性を改善することで、高周波での渦電流損が劇的に低減する。その結果、高周波鉄損が低く磁歪が小さくなる。また、内部応力を生じさせるのに必要な因子として、板厚方向のSi濃度プロファイルおよび浸珪開始以降の温度履歴が挙げられ、例えば、浸珪開始から600℃以下に冷却されるまでに鋼板が通過する炉内各ゾーンの温度と鋼板の滞在時間を所定の関係式において制御することで内部応力を形成するSi濃度プロファイルが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスやリアクトルなどの鉄心用として好適である高周波特性に優れた方向性高珪素鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、珪素鋼板が広く用いられているトランスやリアクトルにおいては、鉄心の小型化や高効率化を図るため、その駆動周波数が年々高周波化されてきている。しかし、珪素鋼板の鉄損は、励磁周波数が高くなると急激に上昇することが知られており、これに伴い、珪素鋼板の鉄損による鉄心の温度上昇や効率の低下が問題となるケースが増加し、珪素鋼板の高周波鉄損を低減するための対策が講じられてきた。
【0003】
珪素鋼板の高周波鉄損を低減する手法としては、従来、板厚を薄くすることにより渦電流損を低減する方法、Si含有量を高めて固有抵抗を高くすることで渦電流の発生量を抑える方法があり利用されている。
【0004】
ここで、板厚0.05〜0.1mmの無方向性電磁鋼板は、数百〜数kHzの周波数領域でモータコアやトランス、リアクトルの鉄心として用いられている。一方、板厚0.05〜0.1mmの方向性電磁鋼板は、磁束密度が高いため鉄心の小型化に有利な反面、薄手化しても磁区幅が広いために異常渦電流損が大きく、その高周波鉄損が無方向性電磁鋼板より劣る場合もある。
上記の高周波用極薄電磁鋼板のSi量を高めて材料の固有抵抗を増せば、高周波鉄損を更に低減することができるが、Si量の増加とともに鋼板は硬く脆くなり薄板の製造はきわめて困難となる。そのため、通常は4%を超えてSiを添加することはない。
【0005】
最近では10kHzあるいはそれ以上の周波数で使用可能なトランス、リアクトル用材料が望まれている。このような周波数領域は、従来、ソフトフェライト、金属圧粉体、アモルファスなどの材料が用いられてきた分野である。しかしながら、フェライトは磁束密度が低いため鉄心が大型化してしまう、アモルファスは低鉄損である反面、磁歪が大きく騒音が問題とされる、またビルディングファクターが珪素鋼板に比べて劣る、更にセンダスト合金粉は磁歪・鉄損とも低いが高価であり珪素鋼板に比べて飽和磁束密度も低いなど、それぞれ一長一短を有している。
【0006】
このような現状に対して、珪素鋼板の高周波鉄損を低減する手段として、いくつかの技術が開示されている。特許文献1では浸珪法による6.5%Si鋼板の製造が開示されている。特許文献1は、板厚0.05〜0.3mmの3%Si鋼板を高温で四塩化珪素ガスと反応させて鋼中Si濃度を高めるプロセスである。古くから知られているように6.5%Si鋼板は3%珪素鋼の約二倍の固有抵抗を有し渦電流損失を効果的に低減できるため、高周波用材料として有利である。また磁歪が実質的にゼロであるため、鉄心の低騒音化に優れた効果を発揮する。
【0007】
特許文献2では、浸珪プロセスにおいて表層Si濃度が6.5%となった時点でSi均一化拡散を中断することにより、板厚方向にSi濃度勾配が存在する鋼板を得、Si濃度勾配が存在する鋼板は、Siを均一化した場合より高周波での鉄損が低減できることが示されている。
【0008】
特許文献3では、板厚方向にSi濃度勾配を有する珪素鋼板に関して、高周波鉄損を低減するために板厚方向のSi濃度差(最大−最小)と表層Si濃度および鋼板表裏面のSi濃度差について規定している。とりわけ表層Si濃度が6.5%の場合に最も低い鉄損が得られるとしている。
【0009】
特許文献4には、方向性珪素鋼板を素材としてその板厚方向にSi濃度勾配をつける際、高周波鉄損を低減するための条件として表層Si濃度、濃化層の厚さ、および板厚中心付近のSi濃度が規定されている。特に、Si濃度5〜8%の領域が表層から板厚の10%以上の深さに存在していることが重要とし、いくつかの板厚Si濃度プロファイルの例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平6−4588公報
【特許文献2】特公平5−49744号公報
【特許文献3】特開2005−240185号公報
【特許文献4】特開2000−45053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
特許文献1に開示されている高珪素鋼板は、数百Hz〜数kHzの領域で現在使われており、10kHz以上の高周波域では、より鉄損の低いアモルファス、金属圧粉体が使われるケースが多い。ただし、これらの磁性材料は磁歪が極めて大きく、可聴域(400〜20kHz)で励磁する場合には鉄心に防音を施す等の騒音対策が必要となる。
特許文献2および3では、無方向性珪素鋼板の板厚方向にSi濃度勾配を付けることにより5〜10kHz以上の高周波領域において同板厚の6.5%珪素鋼板より低い鉄損が得られたとしている。しかしながらアモルファス等の競合材と比較して十分な低鉄損化が得られているとは言い難く、更なる低鉄損化が望まれている。
特許文献4に開示された板厚方向Si濃度分布を有する方向性高珪素鋼板は、10kHz以上の高周波域において6.5%Si鋼板や板厚Si濃度分布を有する無方向性高珪素鋼板より低い鉄損値が得られている。また素材として方向性珪素鋼板を用いているため、その磁束密度は他の高周波用材料と比べてきわめて高い値を有する。しかしながら、特許文献4の明細書に開示されている板厚方向Si濃度プロファイルを満たしていたとしても、その鉄損値に大きなばらつきが生じ、条件によってはSi濃度分布を均一化した材料より高い鉄損値を示すものもあった。すなわち、高周波鉄損を低減するためにはSi濃度プロファイルを適正化するだけでなく、Si濃度プロファイルに反映されない別の因子を規定する必要がある。
さらに、特許文献2〜4のように、Siの濃度勾配が付与された場合、高Si材でありながらも、磁歪は3%Si無方向性電磁鋼板と同程度のレベルまで増大してしまう。このため、板厚方向にSi濃度勾配を有する電磁鋼板は、鉄損では6.5%珪素鋼板より優れているとしても、可聴域で励磁する場合は、騒音を低減する観点から6.5%珪素鋼板を選択するケースが少なくない。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、板厚方向にSi濃度分布を有する方向性珪素鋼板の低鉄損化や磁歪低減のメカニズムを明らかにし、トランス、リアクトルなどの鉄心用として好適である高周波鉄損が低く、さらには、圧延直角方向の磁歪が小さい方向性珪素鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、方向性電磁鋼板においては板厚方向の内部応力分布を適切な範囲に規定することで、高周波鉄損が飛躍的に低減することを見出した。さらに検討を進めたところ、このような鋼板では、圧延直角方向の磁歪が極めて小さくなることもわかった。そして、方向性電磁鋼板の結晶配向性(圧延方向と圧延直角方向の磁束密度の比)を規定することでも、高周波鉄損さらには圧延直角方向の磁歪が飛躍的に低減することを見出した。
特に、板厚方向にSi濃度分布を付与した場合、Si均一材に比べて圧延直角方向で磁歪が減少する現象は、無方向性電磁鋼板や方向性電磁鋼板の圧延方向に対しては認められなかった特異な現象である。
【0014】
以上のように、本発明は、上記知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.005%以下、Si:4〜7%、Mn:0.005〜2.5%、Sol.Al:0.0080%以下、S:0.003%以下、N:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板であって、Si濃度が板厚中心部より板表面において高くなるSi濃度勾配を有し、圧延方向と平行な方向に内部応力として、70〜160MPaの範囲で板厚中心部に圧縮応力、板表面に板厚中心部と同じ大きさの引張応力を有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
ここで板厚中心部および板表面の応力とは、実質的に反りのない平坦な板を幅30mm以下、長さ100mm以上に切断し、表裏面のうち片面のみ板厚の1/2深さまで化学研磨した際に生じる長手方向の反りの曲率半径から求めた値である。
[2]質量%で、C:0.005%以下、Si:4〜7%、Mn:0.005〜2.5%、Sol.Al:0.0080%以下、S:0.003%以下、N:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板であって、Si濃度が板厚中心部より板表面において高くなるSi濃度勾配を有し、圧延方向と圧延直角方向の1000A/mにおける磁束密度の比:B10(L)/B10(C)が1.2以上であり、かつ、圧延直角方向を1Tで励磁したときの磁歪振幅が1×10−6未満であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
ただし、B10(L):圧延方向の磁束密度、B10(C):圧延直角方向の磁束密度である。
[3]前記[1]または[2]において、さらに、質量%で、Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記方向性電磁鋼板の表裏面での引張応力の差が8MPa以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかにおいて、前記板厚中心部と前記板表面とのSi濃度差が質量%で1.5〜4.0%であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかにおいて、板厚が0.05〜0.25mmであることを特徴とする方向性電磁鋼板。
[8]質量%で、C:0.02%以下、Si:4〜7%、Mn:2.5%以下、Sol.Al: 0.0300%以下、S:0.006%以下、N:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、板厚0.05〜0.25mmであるフォルステライト被膜を有しない方向性電磁鋼板、または前記成分組成になる二次再結晶した方向性電磁鋼板を冷延し板厚0.05〜0.25mmとした鋼板のいずれかを、1000℃以上に加熱しSi系のガスと反応させることにより鋼板表面からSiを添加する浸珪処理を行うに際し、浸珪開始から600℃以下に冷却されるまでに鋼板が通過する炉内各ゾーンの温度をTk(K)、炉内各ゾーンでの鋼板の滞在時間をtk(秒)とした時、下記式(1)を満足することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
1.3×10-4≦(Σ tk×exp(-25000/Tk))/(d2 ×[質量%Si]add )≦ 2.2×10-4 ・・(1)
ただし、dは板厚(mm)、[質量%Si]addは浸珪によるSi添加量を示す。
[9]前記[8]において、さらに、成分組成として、質量%で、Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[10]前記[8]または[9]において、さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[11]前記[8]〜[10]のいずれかにおいて、浸珪処理後の方向性電磁鋼板表面に、乾燥・焼き付け炉温度:600℃未満で絶縁被膜を被覆することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[12]前記[8]〜[11]のいずれかに記載の浸珪処理後の方向性電磁鋼板を加工した後に鉄心に組み上げる鉄心組立工程において、600℃以上かつ下記式(2)を満足する温度および時間で歪取焼鈍を行うことを特徴とする鉄心の製造方法。
(Σ t'k×exp(-25000/T'k))/(d2 ×[質量%Si]add)≦ 0.2×10-4 ・・(2)
ただし、T'k(K)は歪取焼鈍の温度、t'k(秒)はその温度での保持時間を示す。
[13]前記[8]〜[11]のいずれかに記載の浸珪処理後の方向性電磁鋼板表面に、乾燥・焼き付け炉温度:600℃以上で絶縁被膜を被覆する被膜コーティングと、これを加工した後に鉄心に組み上げる鉄心組立工程で歪取焼鈍を行う鉄心の製造方法において、前記被膜コーティングでの熱処理と前記歪取焼鈍とを合わせて、下記式(2)を満足する温度および時間で行うことを特徴とする鉄心の製造方法。
(Σ t'k×exp(-25000/T'k))/(d2 ×[質量%Si]add)≦ 0.2×10-4 ・・(2)
ただし、T'k(K)は被膜コーティング及び歪取焼鈍の各工程で熱処理される温度、t'k(秒)はその温度での保持時間を示す。
【0015】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%、ppmは、すべて質量%、質量ppmである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高周波鉄損が低く、さらには、圧延直角方向の磁歪が小さい方向性珪素鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】表裏Si濃度差による板変形を示す図である。
【図2】表裏面のSi濃度が高く、板厚中心部のSi濃度が低い鋼板に働く内部応力を示す図である。
【図3】Si濃度分布と片面化学研磨前後の板形状を示す図である。
【図4】磁化挙動と渦電流損低減の模式図である。
【図5】圧延直角方向に励磁した際の磁束密度に対する磁歪の変化を示す図である。
【図6】方向性電磁鋼板の磁区構造を模式的に示した図である。
【図7】磁束密度B10の配向性(結晶配向性)と圧延直角方向の磁歪との関係を示す図である。
【図8】内部応力と圧延直角方向の磁歪との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を完成するに至った経緯も含め、詳細に説明する。
浸珪処理した鋼板で表裏面のSi濃度が異なる場合、図1に示すようにSi濃度の高い側が凹み、Si濃度の低い側が凸となる反りが発生する。これはSi濃度の高い側が縮もうとし、逆にSi濃度の低い側が伸びようとする力が働くためである。(このような応力の発生原因は、高Si部と低Si部の熱膨張差、格子定数の差、または浸珪反応による表層Fe原子の減少(FeCl2としてガス化)などが考えられる。)
また、鋼板を浸珪処理し、Siが拡散して板厚方向に均一化する前に炉から取り出し表裏面のSi濃度が高く、板厚中心部のSi濃度が低い試料を作製した場合、この試料に働く内部応力は、図2に示すように表層で引張、板厚中央で圧縮となることが予想される。
そこで実際に生じている応力を確認するため、フォルステライト被膜を除去した板厚0.21mmの方向性電磁鋼板を浸珪処理し、板厚方向にSi濃度勾配の有する幅30mm長さ280mm(長手が圧延方向)の試料を作製した。この試料に対して、単板測定器を用いて磁気特性を測定した。なお、磁気特性はJIS C 2556 電磁鋼板単板磁気特性試験方法に準じて行った。次に浸珪試料の片面のみフッ酸で板厚中心部まで化学研磨した後、鋼板の反り量を曲率半径rとして測定した。以上により得られた結果を図3に示す。なお、化学研磨前の試料には反りは殆ど認められなかった。
さらに、図3の結果を基に、上記で得られた曲率半径rから表層、板厚中心部の歪み量を計算し、化学研磨前に鋼板内部で生じている応力を次式のように定義して算出した。
表面に働く引張応力 = 板厚中心部に働く圧縮応力= E×d/(2r) [MPa]
ここでEは圧延方向のヤング率で、方向性電磁鋼板の場合、E100=140×103 [MPa]とした。dは板厚[mm]、rは片面化学研磨後の板の曲率半径[mm]である。厳密には表面と板厚中心部で必ずしも応力が一致するとは限らないが、ここでは板の反りから上述のように算出した値を内部応力と定義する。
以上により得られた高周波鉄損(W1/10k)と内部応力との関係を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より、内部応力を有する試料B〜Dの高周波鉄損W1/10kは、板厚方向にSiを均一化して内部応力を除去した比較材Gより低い値を示しているのがわかる。一方、表層(板厚中心部)の内部応力の大きさが160MPaを超える試料A、及び70MPa未満の試料E、Fでは、逆に比較材Gに比べて高い鉄損値を示している。
また、鉄損を履歴損と渦電流損に分離すると、内部応力の増加のともない履歴損は増加している。逆に渦電流損は、内部応力を付与すると低下する傾向を示し、とくに内部応力110MPa付近では、比較材の半分以下まで渦電流損が低下することがわかる。ただし内部応力が160MPaを超える試料Aでは履歴損が大きいため、全体の鉄損値も比較材より劣位となる。
以上の結果から、高周波鉄損を低減するには渦電流損を大幅に低減し、かつ履歴損の増大を適度に留めるような最適な内部応力とすることが必要と考えられる。
ここで、内部応力付与による高周波鉄損低減のメカニズムについて説明する。
方向性珪素鋼板は引張応力を加えると軟磁気特性が改善され鉄損が低下する傾向を示すが、逆に圧縮応力を加えた場合は軟磁気特性が著しく劣化し鉄損は大幅に増加する。従って、通常は、方向性珪素鋼板では内部応力とくに圧縮応力を残すことは極力回避される。
たとえば、方向性電磁鋼板の表面にセラミックス膜などの高張力被膜を形成すると鋼板には全体的に引張応力が働く。これにより方向性電磁鋼板の磁区を細分化して低鉄損化を図ると同時に、鉄心として組み上げた際に圧縮応力が加わった場合、予め付与した引張応力と相殺させることで顕著な鉄損増加を抑制する効果も期待されている。
これに対し、本発明は、通常の方向性珪素鋼板とは異なり、上記表1の結果を基に、方向性珪素鋼板の板厚中心部に積極的に大きな圧縮応力を付与して軟磁気特性を劣化させ、逆に表層部分には大きな引張応力を付与して軟磁気特性を改善することで、高周波での渦電流損を劇的に低減するものである。
図4に渦電流損低減の模式図を示す。本発明の材料を磁化した場合、板厚中心部は大きな圧縮応力がかかっているため殆ど磁化せず、引張応力のかかった表層部分が優先的に磁化する。その結果、磁束が表層部に集中する。そして、板厚全体で均一に同じ磁化量まで励磁した場合と比較すると、板厚中心部の磁束変化がほとんど無いため、板厚方向に均一に磁化される応力除去材に比べ本発明材の渦電流損は大幅に低下することになる。
このように、図4に示すように板厚中央部で磁束の変化がなく表層のみ磁化されるのが理想的であり、この場合、渦電流損(古典渦電流損)は板厚全体で均一に磁化される場合の半分となる。しかし、表1に示す渦電流損実測値には異常渦電流損も含まれているため、実際に古典渦電流損を半減するまでには至らないが、内部応力を付与した方向性電磁鋼板では磁区が細分化され異常渦電流損も低減する効果もあると考えられ、それも含めて表1の試料Cでは比較材Gに対して全体の渦電流損が半減したものと推察される。実際、内部応力70MPa以上の試料をビッター法により肉眼で磁区観察する限り、方向性電磁鋼板特有の180°磁区模様は全く認められなかった。
以上より、圧延方向と平行な方向に内部応力として、板厚中心部に圧縮応力、最表層に引張応力を有することとする。そして、本発明では、70〜160MPaの範囲で板厚中心部に圧縮応力、板表面に板厚中心部と同じ大きさの引張応力を有することとする。この内部応力が70MPa未満の場合、履歴損増大分を打ち消してトータルの鉄損を下げるほど十分な渦電流損の低減効果は得られず、また内部応力が160MPaを超えた場合も、履歴損増大に対して渦電流損の低減効果が低下するためトータル鉄損が増加してしまう。
【0021】
なお、鋼板に内部応力を付与する際には、表裏面の応力差を小さくすることが肝要である。表裏面の応力差が大きくなると内部応力の釣り合いを保つため鋼板が変形し反りが発生する。この場合においても、渦電流損低減効果が減少し履歴損が増加するため、高周波での鉄損は劣化することになる。表裏面の応力差が8MPa以下であれば鋼板の反りは僅かで鉄損上昇も僅かであるが、8MPaを超えると反りが顕在化し鉄損も大幅に増大する。よって、方向性電磁鋼板の表裏面での引張応力の差が8MPa以下であることが好ましい。
鋼板にこのような内部応力分布を形成させる手段としては様々な方法が考えられる。例えば、気相浸珪法で表層からSiを添加した後、均一化する前に低温まで冷却しSi濃度勾配を残して応力を発生させるのが一般的である。しかし、この方法に限定されず、Siを含む薬剤を鋼板表面に塗布した後、熱処理して鋼板内部へ浸透させる固相浸透プロセス、あるいは、Siを含む溶融塩に漬けて浸透させる液相浸透プロセスを用いることもできる。
ここで、気相浸珪法を利用する場合、発明者らは既に平均Si量が4〜7%でかつ表層と板厚中心部のSi濃度差を1.5〜4%となるような濃度分布を材料に形成することにより、高周波鉄損を効果的に低減できることを見出している。しかしながら、上述のようなSi濃度プロファイルを有する板厚0.2mmの方向性電磁鋼板であっても、剪断等の加工歪みを除去することを目的として800℃で1hrの歪取焼鈍を施しところ、濃度プロファイルは殆ど変化しないにもかかわらず、高周波鉄損は歪取焼鈍前よりも増加する傾向が認められた。このときの内部応力の変化を調査したところ、歪取焼鈍前に93MPaあった内部応力が歪取焼鈍後には55MPaまで低下していた。一方、同じSi濃度プロファイルを有する無方向性電磁鋼板においては、この程度の歪取焼鈍温度と時間で明確な鉄損増加は認められなかった。以上の結果より、方向性電磁鋼板においては、従来の無方向性電磁鋼板の例と異なり、高周波鉄損を低減するためには板厚方向のSi濃度分布を規定するだけでは不十分で、内部応力を適正化する必要があることがわかった。
【0022】
このように歪取焼鈍時にSi濃度勾配を有する方向性電磁鋼板が無方向性電磁鋼板に比べて高周波鉄損が劣化しやすい原因については、以下のように推測される。
無方向性電磁鋼板の場合、板厚方向にSi濃度勾配をつくり表層を軟磁気特性に優れた6.5%Siに近い組成とすることによって、材料を磁化した際に透磁率の極めて高い表層へ磁束を集中させ渦電流損を低減することができる。本発明で述べているように内部応力の効果もあると考えられるが、たとえ歪取焼鈍によって内部応力が緩和されたとしても、表層高Si部分と板厚中心部の低Si部分で透磁率が3倍以上の差を有しているため、表層が優先的に磁化する。
一方、方向性電磁鋼板の場合、元来圧延方向の軟磁気特性が優れているため、表層を6.5%Siとしてもその部分の透磁率増分は無方向性電磁鋼板の場合ほど顕著ではなく、磁束が表層に集中しにくい。実際に板厚方向にSi濃度勾配を有する方向性電磁鋼板の高周波鉄損が飛躍的に低減するのは、板厚中心部に極めて大きな圧縮応力がかかって透磁率が著しく低下し、その結果、表層部分に磁束が集中するためと考えられる。
すなわち、方向性電磁鋼板の場合、高周波鉄損を低減させているのは内部応力の存在であって、たとえSi濃度プロファイルが適正範囲であったとしても、600℃以上で熱処理された場合、内部応力が緩和されるのに伴い表層での磁束集中も緩和されて、渦電流損低減効果が薄れ高周波鉄損が上昇すると考えられる。このようなメカニズムに基づき、方向性電磁鋼板の高周波鉄損を効果的に低減するためには、Si濃度勾配、すなわち、Si濃度プロファイルのみならず、まず、内部応力の規定が必要との結論に達した。
【0023】
次に、方向性電磁鋼板およびそれを浸珪処理した試料を圧延直角方向に励磁した場合の磁歪を調査した。得られた結果を図5に示す。
従来から知られているように、方向性電磁鋼板(浸珪前)の圧延直角方向の磁歪は極めて大きな値を示す。これを浸珪して5.3%までSi量を高め均一拡散した場合、磁歪は浸珪前に比べて低下する。これはSi量増加により材料の磁歪定数λ100、λ111の大きさが減少したことによるもので、従来知見から想定される現象である。一方、5.3%までSi量を高めた後、均一拡散を途中で中止することにより板厚方向にSi濃度勾配を与えることによって内部応力を付与した試料では、驚くべきことに圧延直角方向の磁歪が極めて低い値となることがわかった。このような現象はこれまで見出されなかった特異な現象である。
【0024】
方向性電磁鋼板の板厚方向に内部応力を付与した場合に認められる圧延直角方向での磁歪低減現象は次のようなメカニズムによって生じるものと考えられる。
【0025】
方向性電磁鋼板はゴス方位、すなわち結晶の(110)面が圧延方向に平行で、〈100〉方向が圧延方向を向いた結晶の集まりであって、消磁状態のとき、ほとんどの磁気モーメントは圧延方向の磁化容易軸〈100〉を向いている。ここで、方向性電磁鋼板の圧延方向に圧縮応力をかけた場合、磁歪定数λ100は正のため、結晶の磁化容易軸は圧縮方向とは異なる方向の〈100〉軸に向こうとする。この圧縮応力によって生じた誘導磁気異方性により、材料の磁化容易軸は圧延方向に垂直で板面に対し、45°傾いた〈100〉軸となる。図6に圧延方向に圧縮応力をかける前と後での方向性電磁鋼板の磁区構造の比較を示す。
【0026】
板厚方向にSi濃度勾配を付与した場合は、表層部に引張り、板厚中心部に圧縮の内部応力が働く。そして、方向性電磁鋼板を浸珪処理して板厚方向に適当なSi濃度勾配を与えて内部応力を付与すると、板厚中心部では大きな圧縮応力がかかるため、図6(b)のような磁区構造となるものと考えられる。なお、実際には圧延直角方向にも圧縮応力がかかっているが、この方向に最も近い〈100〉軸は板面に対して約45°傾いており、圧延方向の〈100〉軸に比べて圧縮応力の影響を受けにくい。すなわち、結果的に圧延直角方向で圧延面に45°傾いた〈100〉軸が磁化容易軸となる。図6(b)の磁区構造を有する材料を圧延直角方向に磁化した場合、1.3T程度までは磁化容易軸に向いた磁区の180°反転で磁化が進行すると考えられ、磁歪はほとんど変化しない。すなわち、圧延直角方向の磁歪が極めて低くなる。
【0027】
なお、板厚方向に内部応力を有する鋼板は、表層部において引張応力が働くが、この領域はSi濃度が板厚中心部に比べて高く、磁歪の絶対値が小さいため、板内部ほど大きな影響は受けないものと考えられる。
【0028】
以上の検討の結果、方向性電磁鋼板において、内部応力を規定することで、高周波鉄損が効果的に低減するのみならず、圧延直角方向の磁歪も低減されることがわかった。
【0029】
さらに磁歪の低減を検討していく中で、材料の結晶配向性も重要な要件となることがわかった。
通常、無方向性電磁鋼板の板厚方向にSi濃度勾配を与えて内部応力を付与した場合、圧延方向も圧延直角方向もともに磁歪は大きな値を示す。たとえば表層Si量が6.7%、板厚中心部が4.2%の無方向性電磁鋼板を1Tまで励磁した場合、磁歪は3〜5×10−6と通常の3%Si電磁鋼板と同程度の値を示す。しかしながら、方向性電磁鋼板に対して同様の内部応力を付与すると圧延直角方向の磁歪は極めて小さな値となることが上述の検討結果から明らかとなった。これが図6で説明したメカニズムによるものと考えると、ある程度ゴス集積度が高くないと効果的な鉄損低減が望めないと考えられる。そこで、Si濃度勾配を有する材料の結晶配向性と圧延直角方向磁歪の関係を調査した。なお、結晶配向性は、磁化力1000A/mにおける磁束密度B10の、圧延方向と圧延直角方向との比:B10(L)/B10(C)(B10(L):圧延方向の磁束密度、B10(C):圧延直角方向の磁束密度)で表すこととする。得られた結果を図7に示す。図7に示すように、B10(L)/B10(C)の増加とともに圧延直角方向の磁歪が減少し、B10(L)/B10(C)≧1.2であれば、1Tで励磁したときの磁歪が1×10−6未満と、無方向性電磁鋼板に比べ、小さな値を示すことがわかった。特に、B10(L)/B10(C)が1.35とゴス集積度の高い材料においては、圧延直角方向の磁歪は0.3×10−6と極めて小さな値を示した。
【0030】
以上から、圧延直角方向の磁歪を1×10−6未満とするためには、B10(L)/B10(C)≧1.2とする必要がある。なお、このようなB10(L)/B10(C)≧1.2である方向性電磁鋼板とするためには、後述するように方向性電磁鋼板あるいは更にこの方向性電磁鋼板に1回以上の冷間圧延を施して得られた鋼板を出発素材として適正な浸珪処理を施すことが好ましい。
さらに、圧延直角方向の磁歪を低減する観点から適切な内部応力の範囲を調査するため、以下の実験を行なった。
まず、板厚0.23mmの方向性電磁鋼板の被膜を酸洗により除去して板厚0.21mmとした後、1100〜1200℃に加熱して四塩化珪素ガスを用いて浸珪処理を行い、Siが均一化する前に冷却して種々のSi濃度勾配を有する試料を作製した。次に圧延直角方向が長手方向となるように試料を切り出し、単板磁気試験機により圧延直角方向に磁化したときの磁歪および高周波鉄損を測定した。一方、同条件で作製した後、圧延方向を長手方向として切り出した各試料に対し、フッ酸溶液を用いて片面を板厚中心まで化学研磨し、その時の板の反り量から圧延方向にかかる内部応力を算出した。なお、浸珪処理後の材料の圧延方向と圧延直角方向の磁束密度の比B10(L)/B10(C)は1.31〜1.35であった。
【0031】
これらの試料の内部応力と磁歪および高周波鉄損の関係を図8に示す。図8より、内部応力が70MPa以上に増加すると圧延直角方向の磁歪は急激に低下するが、それ以上ではほとんど変化しない。
以上より、圧延直角方向の磁歪を低減する観点からも、内部応力は70MPa以上であるのが好ましい。
【0032】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の成分組成について説明する。本発明の方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以下、Si:4〜7%、Mn:0.005〜2.5%、Sol.Al: 0.0080%以下、S:0.003%以下、N:0.005%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる。なお、以下、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.005%以下
Cは磁気特性に対して有害な元素であり、とくに本発明のように内部応力が存在する材料においては、0.005%を超えると鉄損が著しく増大する。一方、Si含有量の高い電磁鋼板ではC量が0.005%未満となると粒界破壊しやすく製品加工性が低下する。したがってC量は0.005%以下とした。
Si:4〜7%
Siは、磁気特性を改善するのに有効な元素であるが、7%を超えると鉄心などに加工する際、割れや欠けが生じやすいため、平均濃度として4〜7%を含有させる。
Mn:0.005〜2.5%
Mnは熱間加工性を改善する元素であるが、0.005%未満では効果がなく、2.5%を超えると二次再結晶が困難となるため、0.005〜2.5%とする。なお、磁気特性改善の観点から0.01%以上とすることが好ましい。
Sol.Al:0.0080%以下
Sol.Alを上記の範囲に制御する方法は、特に限定しないが、製鋼段階でのAl添加量の制御および/または素材の方向性珪素鋼板を得るまでの途中工程における焼鈍での脱Al量制御が、工業生産性の観点から有利である。なお、浸珪処理前にSol.Alを0.0080%以下に制御することにより、続く冷間圧延、浸珪処理後の集合組織が著しく改善される。
S:0.003%以下
N:0.005%以下
S、Nは微細な析出物を形成したり粒界偏析して鉄損を増大させるため上記のように上限を定めた。
【0033】
Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有(好適)
方向性電磁鋼板に、さらに、Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有させると、その後の浸珪処理時や需要家での歪取焼鈍時に起こる鋼板への窒化による磁気特性の劣化を抑制できる。この効果を得るためには、Sbが0.005%以上、Snが0.005%以上、Biが0.001以上のいずれか1種以上が必要である。ただし、Sbが0.1%を、Snが0.5%を、Biが0.05%を超えると鋼板が脆化し、冷間圧延が困難になる。
【0034】
Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有(好適)
Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有させると、鋼板の比抵抗を高め、鉄損を低減する。この効果を得るためには、Crが0.01%以上、Niが0.010%以上のいずれか1種以上が必要である。ただし、Crが0.8%を超えると飽和磁束密度が低下し、Niが1.0%を超えると鋼板が硬化し、冷間圧延が困難になる。
【0035】
そして、本発明では、Si濃度が板厚中心部より板表面において高くなるSi濃度勾配を有する。なお、板厚中心部と板表面とのSi濃度差を1.5〜4.0%の範囲とすることが、必要となる内部応力を付与する観点から好ましい。
【0036】
また、板厚を0.05〜0.25mmとすることが好ましい。
板厚が0.05mm未満は製造コストや鉄心加工費の増大を招くため現実的ではない。一方、板厚0.25mmを超えるものは、既存の高周波用材料(板厚0.1mmの無方向6.5%電磁鋼板、リロールした板厚0.1mmの方向性電磁鋼板等)に比べて高周波鉄損が劣る傾向となる。
【0037】
ここで、浸珪に供するフォルステライト被膜を有しない方向性電磁鋼板や浸珪前の冷間圧延(リロール)に供する方向性電磁鋼板の製造方法については特に限定されないが、例えば以下に説明する方法で製造する。
【0038】
方向性電磁鋼板の出発成分となるスラブの成分組成は、例えば、質量%で、C:0.02〜0.07%、Si:2.5〜4%、Mn:0.05〜2.5%、S:0.003%以下、N:0.005%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる。なお、二次再結晶にインヒビターを利用する場合には、Al:0.0025〜0.030%、Se:0.001〜0.03%、S:0.001〜0.03%およびN:0.003〜0.013%から選ばれた少なくとも1種の元素を含有することができる。また、好適には、Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することができる。さらに好適には、Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することができる。
そして、上記の成分組成を有するスラブに熱間圧延を施し、その後必要に応じて熱延板焼鈍を施してから、1回若しくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、次いで必要に応じて脱炭焼鈍そして焼鈍分離剤の塗布を行ってから二次再結晶焼鈍を施すことによって方向性電磁鋼板を得る。その際、焼鈍分離剤を用いないか、その組成を調整することによりフォルステライトの形成を抑制する、もしくはフォルステライト被膜を除去することにより、フォルステライト被膜を有さない方向性電磁鋼板とする。
【0039】
本発明の方向性電磁鋼板は、上記の方向性電磁鋼板、あるいは更にこの方向性電磁鋼板に1回以上の冷間圧延を施して得られた鋼板を出発素材とし、これらに対し、1000℃以上に加熱しSi系のガスと反応させることにより鋼板表面からSiを添加する浸珪処理を行うことで製造することができる。この時、浸珪開始から600℃以下に冷却されるまでに鋼板が通過する炉内各ゾーンの温度をTk(K)、炉内各ゾーンでの鋼板の滞在時間をtk(秒)とした時、下記式(1)を満足することとする。
1.3×10-4≦(Σ tk×exp(-25000/Tk))/(d2 ×[質量%Si]add )≦ 2.2×10-4 ・・(1)
ただし、dは板厚(mm)、[質量%Si]addは浸珪によるSi添加量を示す。
以下、詳細に説明する。
【0040】
浸珪処理
気相浸珪法によってSiを添加する場合、Si系の反応ガスが十分に供給されているものとし、浸珪開始から浸珪終了して冷却されるまでの温度履歴(炉内各ゾーンの温度と板の滞在時間)が定まれば、板厚とSi添加量(浸珪量)に対応して板厚方向のSi濃度プロファイルはほぼ一義的に決まる。Si量が2.5〜4%の方向性電磁鋼板を浸珪処理する場合、以下のような条件で実施したとき、方向性電磁鋼板の高周波鉄損を大幅に低減するSi濃度プロファイルが得られる。以下の式(1)は、気相浸珪法によって板表面から供給されたSiを所定の濃度分布となるよう内部まで拡散させるための処理温度と時間の関係を示すものである。ゆえに、式(1)によって示されるものは気相浸珪法で適切なSi濃度分布を形成するための熱処理パラメータとなり、この値を制御することで鋼板内に適切な内部応力を与えるようなSi濃度分布を形成し高周波鉄損を低減することができる。
1.3×10-4≦(Σ tk×exp(-25000/Tk))/(d2 ×[質量%Si]add )≦ 2.2×10-4・・(1)
ここでTkは浸珪開始後に鋼板が通過する炉内各ゾーンの温度、tkは炉内各ゾーンでの鋼板の滞在時間を示す。また、dは板厚(mm)、[質量%Si]addは浸珪によるSi添加量(板厚方向Si平均濃度の増加量)を示す。
なお炉内温度が連続的に変化する場合は、Σ tk×exp(-25000/Tk)が同じとなるように一定温度、一定時間で熱処理したものとみなすものとする。例えば、1200℃から700℃まで5分間で冷却される場合、Σ(tk×exp(-25000/Tk))〜1.9×10-6であるから、これは1200℃で45秒間熱処理されたものとみなす。
【0041】
上記式(1)の値が1.3×10-4より小さい場合でも、歪取焼鈍などの後工程で比較的高い温度で焼鈍してSi濃度分布を適正化することが可能であるが、実際は表層のSi濃度が高くなりすぎると浸珪処理の際に板変形を生じたり、その後の加工の際、剪断部に割れや欠けが発生しやすくなるため、実質的な下限として上記の値を定めた。一方、上記式(1)の値が2.2×10-4より大きい場合はSiの拡散・均一化が進み、内部応力が低下して高周波鉄損低減効果が失われてしまう。
【0042】
また連続ラインで浸珪処理する場合は、700℃以下の温度域でSi濃度プロファイルは短時間では変化しないため、(1)式の計算は実質的に700℃までとしてもよい。
【0043】
なお、先に特許文献4として記載した特開2000−45053号にいくつかの板厚Si濃度プロファイルの例が示されている。しかしながら、特許文献4では、浸珪処理および拡散処理後に絶縁被膜の形成(塗布焼き付け)や歪取焼鈍が行われており、本発明ではこのような浸珪後の熱処理条件に留意する必要があるが、特許文献4における高周波鉄損は同じ板厚について、本発明で得られる鉄損を上回っていることから、いずれも本発明の上記式(1)や(2)を満足するものではなく、本発明で所期する内部応力分布は得られていないことを述べておく。
【0044】
絶縁被膜を被覆
浸珪処理した方向性電磁鋼板は、絶縁被膜を塗布された後、乾燥・焼き付け工程を通る。この時、乾燥・焼き付け炉温度は600℃未満が好ましい。600℃未満であれば、応力緩和が起こらず高周波鉄損は上昇しない。
しかしながら、例えば、設計的事項等の条件により600℃以上で熱処理される場合がある。このような場合は、時間とともに内部応力が緩和していくため高周波鉄損は上昇する。そこで400〜800℃の範囲で最適Si濃度の試料を熱処理したところ、以下の条件を満たしていれば600℃以上で熱処理したとしても同板厚、同Si量の均一材より低鉄損化であることが分かった。これより、下記式(2)を満足する温度および時間で行うことで、同板厚、同Si量の均一材より低鉄損化の方向性電磁鋼板が得られることになる。
(Σ t'k×exp(-25000/T'k))/(d2 ×[質量%Si]add)≦ 0.2×10-4 ・・式(2)
ここでT'k(K)鋼板が熱処理される温度、t'kはその温度での保持時間を示す。
なお連続的に温度が変化する場合は、Σ t'k×exp(-25000/T'k)が等しくなるように一定温度で一定時間保持するものとみなす。
【0045】
歪取焼鈍
浸珪処理した方向性電磁鋼板は、スリット、剪断、プレス等の様々な加工工程を経て鉄心として組み立てられるが、その際に歪取焼鈍が施されることがある。この場合も600℃以上での焼鈍で内部応力が緩和するため、上述の式(2)を満たすように歪取焼鈍温度と時間を定める必要がある。
また絶縁被膜の乾燥・焼き付けを600℃以上で行い、加工後に歪取焼鈍を施す場合は、被膜の熱処理工程と歪取焼鈍工程を合わせて式(2)を満たすような温度、時間を設定する必要がある。
【実施例1】
【0046】
表2に示す成分組成からなる鋼スラブを1400℃に加熱後、熱間圧延し2.5mmの熱延コイルとした。次いで、1000℃で1分間の熱延板焼鈍を施し、その後、一回目の冷間圧延(1.5mm厚までの圧延)、1100℃で1分間の中間焼鈍、二回目の冷間圧延(0.21mm厚までの圧延)を施して、製品板厚とした。
その後、850℃の湿H2中で脱炭・一次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面に、MgOを主成分とし、塩化マグネシウム1wt%と塩化アンチモン1wt%を含有させた焼鈍分離剤をスラリー塗布し、最終仕上げ焼鈍を施した。最終仕上げ焼鈍は、850℃で15時間保持した後、1200℃に昇温して、乾H2中で純化処理を行う方法を採った。以上により、表面のフォルステライト被膜が剥落した被膜なし方向性電磁鋼板を作製した。この鋼板はGoss方位からなる2次再結晶組織を呈し、B8=1.78〜1.92Tであり、Al量は0.003〜0.006%であった。
得られた方向性電磁鋼板に対して、窒素雰囲気中、昇温速度15℃/secで1200℃まで加熱した後、同温度で四塩化珪素濃度18%を含む窒素ガスを供給して90秒浸珪処理し、続いて1200℃で160秒拡散処理を行った後、600℃以下まで2分間で冷却した。このときSi添加量は1.4質量%で、式(1):(Σ tk×exp(-25000/Tk))/(d2 ×[質量%Si]add)は1.8×10-4となった。また試料断面のSi濃度分布をEPMAにて確認したところ、表層と板厚中央部のSi濃度差は2.6%であった。
さらに、上記方向性電磁鋼板から30×280mmの試験片をレーザー加工機にて切り出し、N2中で表3に示す条件で熱処理(歪取焼鈍)をした後、JIS C 2556の方法に準じて、高周波鉄損W1/10k、1T励磁した時の磁歪振幅等の磁気特性を測定した。また、試料の内部応力は、磁気測定終了後に試料の片面のみ板厚中心部まで化学研磨して反った板の曲率半径から算出した。得られた結果を成分組成と併せて表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表2より、本発明例では、きわめて低い高周波鉄損を示しているのがわかる。また、磁歪も小さくなっている。
一方、条件から外れた場合、Siを均一化して内部応力を除去した比較材と比べて高周波鉄損W10/1kが増加することがわかる。なお800℃×5hrの歪取焼鈍後の試料表層と板厚中央部のSi濃度差は2.5%であり、焼鈍前のSi濃度プロファイルと比べて大きな違いは認められなかった。
【実施例2】
【0050】
表2記載の鋼種Bを用い、実施例1に従って板厚0.21mmの方向性電磁鋼板を作製した後、これを冷間圧延して板厚0.10mm、0.05mmのリロール板を作製した。この試料を100%N2中で15℃/sで1100℃まで加熱し60秒保持したところ、Goss方位からなる100μm未満の再結晶組織が得られ、板厚0.10mmではB8=1.74T、板厚0.075mmでは1.79Tを示した。このように二次再結晶後に冷間圧延して得られた方向性電磁鋼板(リロール板)を、窒素雰囲気中、昇温速度15℃/secで1100℃まで加熱した後、同温度で四塩化珪素濃度15%を含む窒素ガスを供給し、浸珪時間、拡散温度および時間を変化させて種々の浸珪試料を作製した。
【0051】
以上により得られた試料をレーザー加工機にて長手が圧延方向となるように30×280mmの試験片に切り出し、歪取焼鈍相当の熱処理を施した後、磁気特性はJIS C 2556 電磁鋼板単板磁気特性試験方法に準じて行った。
試料の内部応力は、磁気測定終了後に試料の片面のみ板厚中心部まで化学研磨して反った板の曲率半径から算出した。
得られた結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4より、本発明例では極めて低い高周波鉄損を示す。これは、浸珪条件として式(1)(2)を満足することでより効果的に内部応力が形成されていることによるものであり、その結果として、極めて低い高周波鉄損を示したといえる。
一方、条件を外れたものは、同程度のSi量を含むSi均一材(内部応力除去材)と同等か、より高い鉄損を示した。
【実施例3】
【0054】
C:0.07%、Si:3.2%、Mn:0.08%、Al:0.025%、N:0.008%、Se:0,02%、Sb:0.03%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、1400℃に加熱後、熱間圧延し2.5mmの熱延コイルとした。次いで、1000℃で1分間の熱延板焼鈍を施し、その後、一回目の冷間圧延(1.5m厚までの圧延)、1100℃で1分間の中間焼鈍、二回目の冷間圧延(0.23mm厚までの圧延)を施して、製品板厚とした。
【0055】
その後、850℃の湿H2中で脱炭・一次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面に、MgOを主成分とし、塩化マグネシウム1wt%と塩化アンチモン1wt%を含有させた焼鈍分離剤をスラリー塗布し、最終仕上げ焼鈍を施した。最終仕上げ焼鈍は、850℃で15時間保持した後、1200℃に昇温して、乾H2中で純化処理を行う方法を採った。かくして表面のフォルステライト被膜が剥落した膜なし珪素鋼板を作製した。この鋼板はゴス方位からなる2次再結晶組織を呈し、B8=1.86Tであった。
【0056】
以上により得られた試料を、窒素雰囲気中、昇温速度15℃/Secで1200℃まで加熱した後、1200℃で四塩化珪素濃度18%を含む窒素ガスを供給して浸珪・拡散処理し、種々のSi濃度分布を有する試料を得た。なお浸珪後の試料の平均Si濃度は浸珪前後の重量減少率から求め、表層および板厚中心部のSi濃度は断面EPMAから求め、圧延方向の内部応力は図3に示す方法により求めた。
次いで、磁気特性を測定した。磁気特性は圧延方向及び圧延直角方向が長手となるようにそれぞれ30×280mmの板を切り出して単板磁気試験機にて測定した。なお結晶配向性を示す圧延方向及び圧延直角方向の磁束密度の比B10(L)/B10(C)は、1.32〜1.37であった。圧延直角方向の高周波鉄損W1/10kおよび1T励磁した時の磁歪振幅とともに各試料の特性を表5示す。なお試料9、10は板厚0.2mmの無方向性6.5%Si鋼板および板厚0.2mmのSi濃度勾配を有する無方向性5.5%Si鋼板の特性であり、比較のために示したものである。
【0057】
【表5】

【0058】
表5より、内部応力が70MPa未満の比較例では、圧延直角方向の高周波鉄損は高く、磁歪も極めて高い。
一方、内部応力が70MPa以上の本発明例では、圧延直角方向に磁化した場合、低鉄損かつ低磁歪を示す。
内部応力が160MPaを超える場合は鉄損が増大し、比較材として挙げた板厚0.2mの6.5%Si鋼板より劣位となった。
【実施例4】
【0059】
実施例3にて得られた板厚0.23mmの一方向性電磁鋼板の表面を洗浄した後、冷間圧延して板厚0.075mmとした。次いで、この試料を1100℃以上の温度で種々の時間焼鈍し、圧延方向のB8として1.65〜1.85Tを示す材料が得られた。これらの試料を窒素雰囲気中、昇温速度15℃/Secで1100℃まで加熱し、1100℃で四塩化珪素濃度15%を含む窒素ガスを供給し、90秒浸珪処理し、160秒拡散処理して取り出した。浸珪処理後の試料を圧延方向、圧延直角方向が長手となるようにそれぞれ切り出し、結晶配向性を表すB10(L/C)を評価したところ、1.09〜1.33の値が得られた。
【0060】
次に、これら結晶配向性の異なる試料の圧延直角方向について、高周波鉄損W1/10kおよび1T励磁での磁歪振幅を測定した。なお、各測定方法は、実施例3と同様である。得られた結果を表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
表6より、B10(L)/B10(C)の値が1.2未満の比較例では高い磁歪を示すのに対し、内部応力が70〜160MPaであり、B10(L)/B10(C)の値が1.2以上の本発明例では磁歪振幅が1×10−6未満と極めて低い磁歪を示した。また高周波鉄損もB10(L)/B10(C)の値が1.2以上の場合、同板厚の6.5%Si鋼板より低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方向性電磁鋼板は、高周波特性に優れるため、変圧器、モータ、リアクトル等を中心に鉄心材料として多様な用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005%以下、Si:4〜7%、Mn:0.005〜2.5%、Sol.Al:0.0080%以下、S:0.003%以下、N:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板であって、Si濃度が板厚中心部より板表面において高くなるSi濃度勾配を有し、圧延方向と平行な方向に内部応力として、70〜160MPaの範囲で板厚中心部に圧縮応力、板表面に板厚中心部と同じ大きさの引張応力を有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
ここで板厚中心部および板表面の応力とは、実質的に反りのない平坦な板を幅30mm以下、長さ100mm以上に切断し、表裏面のうち片面のみ板厚の1/2深さまで化学研磨した際に生じる長手方向の反りの曲率半径から求めた値である。
【請求項2】
質量%で、C:0.005%以下、Si:4〜7%、Mn:0.005〜2.5%、Sol.Al:0.0080%以下、S:0.003%以下、N:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板であって、Si濃度が板厚中心部より板表面において高くなるSi濃度勾配を有し、圧延方向と圧延直角方向の1000A/mにおける磁束密度の比:B10(L)/B10(C)が1.2以上であり、かつ、圧延直角方向を1Tで励磁したときの磁歪振幅が1×10−6未満であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
ただし、B10(L):圧延方向の磁束密度、B10(C):圧延直角方向の磁束密度である。
【請求項3】
さらに、質量%で、Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記方向性電磁鋼板の表裏面での引張応力の差が8MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記板厚中心部と前記板表面とのSi濃度差が質量%で1.5〜4.0%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
板厚が0.05〜0.25mmであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
質量%で、C:0.02%以下、Si:4〜7%、Mn:2.5%以下、Sol.Al: 0.0300%以下、S:0.006%以下、N:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、板厚0.05〜0.25mmであるフォルステライト被膜を有しない方向性電磁鋼板、または前記成分組成になる二次再結晶した方向性電磁鋼板を冷延し板厚0.05〜0.25mmとした鋼板のいずれかを、1000℃以上に加熱しSi系のガスと反応させることにより鋼板表面からSiを添加する浸珪処理を行うに際し、浸珪開始から600℃以下に冷却されるまでに鋼板が通過する炉内各ゾーンの温度をTk(K)、炉内各ゾーンでの鋼板の滞在時間をtk(秒)とした時、下記式(1)を満足することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
1.3×10-4≦(Σ tk×exp(-25000/Tk))/(d2 ×[質量%Si]add )≦ 2.2×10-4 ・・(1)
ただし、dは板厚(mm)、[質量%Si]addは浸珪によるSi添加量を示す。
【請求項9】
さらに、成分組成として、質量%で、Sb:0.005〜0.1%、Sn:0.005〜0.5%、Bi:0.001〜0.05%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.01〜0.8%、Ni:0.01〜1.0%のうちから選ばれた少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項8または9に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
浸珪処理後の方向性電磁鋼板表面に、乾燥・焼き付け炉温度:600℃未満で絶縁被膜を被覆することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の浸珪処理後の方向性電磁鋼板を加工した後に鉄心に組み上げる鉄心組立工程において、600℃以上かつ下記式(2)を満足する温度および時間で歪取焼鈍を行うことを特徴とする鉄心の製造方法。
(Σ t'k×exp(-25000/T'k))/(d2 ×[質量%Si]add)≦ 0.2×10-4 ・・(2)
ただし、T'k(K)は歪取焼鈍の温度、t'k(秒)はその温度での保持時間を示す。
【請求項13】
請求項8〜11のいずれかに記載の浸珪処理後の方向性電磁鋼板表面に、乾燥・焼き付け炉温度:600℃以上で絶縁被膜を被覆する被膜コーティングと、これを加工した後に鉄心に組み上げる鉄心組立工程で歪取焼鈍を行う鉄心の製造方法において、前記被膜コーティングでの熱処理と前記歪取焼鈍とを合わせて、下記式(2)を満足する温度および時間で行うことを特徴とする鉄心の製造方法。
(Σ t'k×exp(-25000/T'k))/(d2 ×[質量%Si]add)≦ 0.2×10-4 ・・(2)
ただし、T'k(K)は被膜コーティング及び歪取焼鈍の各工程で熱処理される温度、t'k(秒)はその温度での保持時間を示す。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−263782(P2009−263782A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80768(P2009−80768)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】