説明

方法

ロイコトリエンC4シンターゼ(LTC4S)の活性を調節することが期待される化合物を選択し又は設計する方法であって、LTC4Sの触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する分子モデル化手段を使用する工程を含み、ここで、LTC4Sの触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が化合物の三次元構造と比較され、前記触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物が選択される方法である。選択された化合物は、「GSH基質結合キャビティ」(完全長ヒトLTC4Sの残基Arg51、Arg30、Arg104、Gln53、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Ile27、Pro37、Leu108又は均等な残基を含む残基によって形成される);「親油性基質結合クレバス」(Ala20、Leu24、Ile27、Tyr59、Trp116、Ala112、Leu115、Leu108、Tyr109、Leu62、Val119、Thr66、Val16及びLeu17、又は均等な残基を含む残基によって形成される);又は「触媒部位」(Arg104又はArg31、又は均等な残基を含む残基によって形成される)と称される構造領域の少なくとも一部に結合することを予想することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明はLTC4シンターゼのモジュレーターのスクリーニング方法に関する。LTC4シンターゼの三次元構造の確定及びそれに基づく方法に関連する。
【0002】
ロイコトリエンC4(LTC4)シンターゼ(LTC4S)は、炎症性及びアレルギー性疾患、特に気管支喘息の病態生理学に関与するパラクラインホルモンファミリーであるロイコトリエンの生合成における重要な酵素である(Samuelsson, B. Science 220, 568-75 (1983);及びLewis, R.A., Austen, K.F. & Soberman, R.J. N Engl J Med 323, 645-55 (1990))。ロイコトリエンは、種々の免疫学的及び非免疫学的な刺激に応答して、好中球、好酸球性、好塩基、マストセル及びマクロファージを含む免疫応答細胞によって形成される。これらの脂質メディエーターは、ケモタキシンLTB4及び収縮刺激性システイニル−ロイコトリエン(LTC4、LTD4及びLTE4)によって例証される2つの主要なクラスに分けられる。ロイコトリエン生合成は、アラキドン酸を不安定なエポキシドLTA4(ロイコトリエン・カスケードにおける中心的な中間体)に変換する酵素5−リポキシゲナーゼ(5−LO)によって誘導される。LTA4は次に、酵素LTA4ヒドロラーゼによってLTB4に加水分解される、又は、LTC4を形成するためにGSHと接合され、この反応は特異的なLTC4Sによって触媒される。細胞活性化の間、ロイコトリエン生合成における全ての鍵酵素(LTA4ヒドロラーゼ以外)は、核膜で構築される生合成複合体を形成し、このことはロイコトリエンが遺伝子調節又は細胞増殖に関連した未知の核内での機能を有することを示唆する(Serhan, C.N., Haeggstrom, J.Z. & Leslie, C.C. Faseb J 10, 1147-58 (1996))
【0003】
ロイコトリエンC4(LTC4Sの天然産物)は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びジペプチターゼによって、それぞれ産生LTD4及びLTE4に切断され得る。並んで、これらの3つのロイコトリエンは、以前ヒト呼吸器においてnM濃度のみで重大な効果を伴う強力な平滑筋収縮剤であるアナフィラキシーの遅反応性物質(SRS−A)として知られたものを構成しており、それは気管支収縮及び増加した漏出及び水腫形成を伴う微小循環を引き起こす(Samuelsson, B. Science 220, 568-75 (1983))。したがって、システイニル−ロイコトリエン(cys−LT)は、炎症及びアレルギーの主要なメディエーターとして考えられており、腎炎、皮膚炎、花粉症及び特に喘息及び肺線維症を含む多くの疾病に関与している(Lewis, R.A., Austen, K.F. & Soberman, R.J. N Engl J Med 323, 645-55 (1990); Beller, T. C. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101, 3047-52 (2004))。さらに、炎症及び喘息におけるcys−LTの役割は、cys−LTの生合成を阻害し、cys−LTのレセプターのアンタゴニストである分子の治療上の可能性及び臨床用途によって十分に確証されている(Drazen, J. M., Israel, E. & O'Byrne, P. Treatment of asthma with drugs modifying the leukotriene pathway. N. Engl. J. Med. 340, 197-206 (1999))。さらに、減少した炎症反応が、いくつかのロイコトリエン欠損動物モデルにおいて観察される(Chen, X.S., Sheller, J.R., Johnson, E.N. & Funk, C.D. Nature 372, 179-182 (1994); Griffiths, R.J., et al. Proc Natl Acad Sci U S A 92, 517-21 (1995);及びGriffiths, R.J., et al. J Exp Med 185, 1123-9 (1997))。さらに、例えばリンパ球の特異的な一部の障害、サイトカインの生産及びBリンパ球からの免疫グロブリンの解放によって、LTC4は免疫反応を調整する(Payan, D.G., Missirian-Bastian, A. & Goetzl, E.J. Proc Natl Acad Sci U S A 81, 3501-5 (1984); Rola-Pleszczynski, M. & Lemaire, I. J Immunol 135, 3958-61 (1985);及びYamaoka, K.A., Claesson, H.E. & Rosen, A. J Immunol 143, 1996-2000 (1989))。
【0004】
LTC4Sは不安定であることが知られる、18kDaの内在性膜酵素であり、KG−1及びTHP−1細胞から見かけ上均一に精製された(Penrose, J. F. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 11603-11606 (1992); Nicholson, D. W. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 2015-2019 (1993))。酵素のクローニング及び分子の特徴付けにより、LTC4S及びFLAPが相同タンパク質であることが予想外に明らかとなった(Lam, B. K., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 7663-7667 (1994); Welsch, D. J. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 9745-9749 (1994))。更なる調査により、LTC4Sがミクロソームのグルタチオン−S−転移酵素(MGST)、特にMGST2及びMGST3にもかすかに関連があることが示され、LT代謝との機能的関連が確立された。したがって、ヒトMGST2及びMGST3はLTC4シンターゼ活性を有しており、最近の研究によりヒト臍静脈内皮細胞における主要な、もしそうでなければ唯一のLTC4生成酵素はMGST2であることが示され、このことはこの酵素が血管壁におけるLTC4の経細胞生合成において役割を有することを示している(Jakobsson, P.-J., et al. Prot. Sci. 8, 689-692 (1998))。LTC4Sに相同な他の酵素は、炎症、熱及び痛みの重要なメディエーターである基質PGE2へのプロスタグランジンエンドペルオキシドの転換に触媒作用を及ぼすミクロソームのプロスタグランジン(PG)Eシンターゼ1型(mPGES−1)である(Jakobsson, P.J. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96,7220-7225 (1999))。並んで、LTC4S、FLAP、MGST1、MGST2、MGST3及びミクロソームのプロスタグランジン(PG)E2シンターゼは、MAPEG(エイコサノイド及びグルタチオン代謝における膜関連のタンパク質)と称される広範囲にわたるタンパク質スーパーファミリーに属する(Jakobsson, P.-J., et al. Prot. Sci. 8, 689-692 (1998))。
【0005】
現時点では、LTC4S又はMAPEGファミリーの他のメンバーについての詳細な構造情報は利用可能でない。大まかな構造情報は、X線結晶学と非常に異なり、原子分解能で構造を作成しない技術である電子顕微鏡法によって得られた。したがって、Schmidt-Krey等は、投影地図を算出可能なLTC4Sの2次元の結晶の生成について記載しており、四次構造(三量体)の画像及び膜貫通ヘリックスの基本的な相互関係を明らかにした(Structure 12, 2009-14 (2004))。解毒作用を有する肝酵素MGST−1の低解像度(3.2Å)構造も測定された(Holm et al (2006) J Mol Biol 360, 934-945.)しかしながら、よく認識されたニーズにもかかわらず、LTC4Sの三次元構造は未だ開示されていない。
【0006】
より具体的にはは、この種の測定を提示するために克服する必要がある課題が、手短に言うと以下のように説明される。更に以下に検討されるように、タンパク質分子の三次元構造を得るには2つの主要な問題が存在する。第1には、再生可能で、原子分解能(2.5Å以下)で回折する質の良い結晶を成長させることである。これは、少し記載するだけでも、例えばpH、温度、バッファーの性質、沈澱剤の性質などの結晶成長に影響するパラメータの綿密かつ煩雑な調査を意味する。基質類似体又はインヒビターのようなリガンドの添加、又は他の分子の添加は、良好な結晶を得るのに重要であり得る。結晶化プロセスの物理的な背景はほとんど理解されておらず、このことから特定のタンパク質に対する適切な結晶化条件の検索が固有であり、創造力及び直観力が必要であり、試行錯誤によって決定されることを意味する。タンパク質の純度もまた結晶化の重要なパラメーターであり、適切な純度の程度を実現するのは難しい、又は不可能である。適切な結晶が得られる以前に、可能であるという保証はない。
【0007】
全てのこれらの課題を膜タンパク質、特に膜内在性タンパク質に対して成し遂げるのは極めて困難であることが強調されるべきであり、十分に純粋なものを多く得るのは困難である。また、膜タンパク質は疎水性で、凝集する傾向があり、結晶化プロセスを妨げる様々な界面活性剤によって、溶液中に保たれなければならない。
【0008】
第2の主な問題点は、X線回折法に内在する位相問題を克服することに関連している。この課題を解決しうるために、例えば水銀、金又は白金化合物などの適切な重元素基質でタンパク質を置換する必要がある。結晶は多くの場合これらの化合物での処理に耐えられず、適切な置換の検索は単純ではなく、非常に広範囲となり得る。他の選択肢は、セレノメチオニン(Se−Met)残基で全てのメチオニンを置換することである。この方法は、非標準条件下で大腸菌の特殊な系統における組換えタンパク質の産生を必要とし、Se−Metを含有するタンパク質の新規の精製及び再結晶化が続く。
【0009】
Schmidt-Krey等が、LTC4シンターゼの2次元の結晶の生成を報告したにもかかわらず(つまり、LTC4シンターゼホモ三量体の単一の層又は10未満の少数の層)、これらの結晶は酵素の三次元構造の測定及びX線結晶学に使用できないことに留意することが重要である。現在の技術を用たX線結晶学には、当業者に周知であるように、LTC4シンターゼ・三量体の複数層の三次元結晶を得る必要がある。
【0010】
したがって、信頼性できるLTC4Sの三次元構造が確定すれば、例えばコンピューター・スクリーン上に分子の形状を視覚形態で表示可能とするので、上述した課題は解決され、例えばコンビナトリアルケミストリーと組み合わせて、ロイコトリエン・カスケードと関連している疾患において有用な新規の医薬の製造や、改変され有用な性質を持った新規な酵素変異体を作成するタンパク工学を目的とした理論的な構造ベースのドラッグデザインなどの全ての可能性が開かれる。
【0011】
LTC4Sは認識された重要な薬剤標的であるので、そのインヒビターが合成された(Hutchinson, J.H. et al J. Med. Chem. 38, 4538-4547 (1995); Gupta, N., Nicholson, D.W., Ford-Hutchinson, A.W. Can. J. Physiol. Pharmacol. 75, 1212-1219 (1997))。LTC4Sの三次元構造に関する利用可能な情報がないために、上記のように、先に述べたインヒビターのいずれも正確な構造に基づいて設計されなかった。したがって、LTC4Sのより強力かつ選択的なインヒビター、及びより有利な製薬特性を示す改変された構造を設計するために、LTC4Sの三次元構造を決定する分野においてニーズが存在する。
【0012】
この明細書における先に公開された文献の列挙又は検討は、必ずしもその文献が先行技術の一部であるか又は一般的常識であることを自認したものと解してはならない。
【0013】
我々はグルタチオン基質と複合体を形成せしめたLTC4Sを結晶化させ、その三次元構造を決定した。MAPEGファミリータンパク質メンバーの最初の高分解能の三次元構造であり、構造的基礎と触媒作用の分子機構の記述を可能にしている。また、構造情報は、酵素阻害剤の合理的設計を可能にし、臨床的に有用な抗炎症薬の開発につながりうる。
【0014】
本発明の第一の態様は、ロイコトリエンC4シンターゼ(LTC4S)の活性を調節することが期待される化合物を選択し又は設計するための方法を提供し、該方法は、LTC4Sの触媒部位又は基質結合領域 (活性部位と共に)と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する分子モデル化手段を使用する工程を含み、ここで、LTC4Sの触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が化合物の三次元構造と比較され、前記触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物が選択される。
【0015】
本発明は、表I又は表IIの座標±2.0Å未満、好ましくは1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質の骨格原子からの標準二乗偏差によって定まるLTC4S (タンパク質)の触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の構造を提供し;
候補調節因子(モジュレーター)分子の構造を提供し;
候補調節因子分子の構造をタンパク質の構造に適合させることを含む、合理的薬剤設計のコンピュータベースの方法を提供する。
【0016】
LTC4Sなる用語には、Lam等(1994) Expression cloning of a cDNA for human leukotriene C4 synthase, an integral membrane protein conjugating reduced glutathione to leukotriene A4 PNAS 91, 7663-7667又はWelsch等(1994) Molecular cloning and expression of human leukotriene-C4 synthase PNAS 91, 9745-9749においてLTC4Sと命名されたポリペプチドが含まれる。LTC4SはEC番号4.4.1.20を有している。ヒトLTC4Sポリペプチド配列を以下に提供する。ここで使用される「LTC4S」なる用語は、このポリペプチド配列並びにその天然に生じる変異体を含む。更なる動物種はまたLTC4Sと均等なポリペプチドを有し、この用語の範囲に含まれる。好ましくは、LTC4Sによって以下に示すLTC4Sポリペプチド又はそれに対して少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95又は98%の同一性を有するポリペプチド配列を意味する。
..1 Met Lys Asp Glu Val Ala Leu Leu Ala Ala .10
.11 Val Thr Leu Leu Gly Val Leu Leu Gln Ala .20
.21 Tyr Phe Ser Leu Gln Val Ile Ser Ala Arg .30
.31 Arg Ala Phe Arg Val Ser Pro Pro Leu Thr .40
.41 Thr Gly Pro Pro Glu Phe Glu Arg Val Tyr .50
.51 Arg Ala Gln Val Asn Cys Ser Glu Tyr Phe .60
.61 Pro Leu Phe Leu Ala Thr Leu Trp Val Ala . .70
.71 Gly Ile Phe Phe His Glu Gly Ala Ala Ala .80
.81 Leu Cys Gly Leu Val Tyr Leu Phe Ala Arg .90
.91 Leu Arg Tyr Phe Gln Gly Tyr Ala Arg Ser 100
101 Ala Gln Leu Arg Leu Ala Pro Leu Tyr Ala 110
111 Ser Ala Arg Ala Leu Trp Leu Leu Val Ala 120
121 Leu Ala Ala Leu Gly Leu Leu Ala His Phe 130
131 Leu Pro Ala Ala Leu Arg Ala Ala Leu Leu 140
141 Gly Arg Leu Arg Thr Leu Leu Pro Trp Ala 150
【0017】
LTC4Sなる用語には、20まで、15まで、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1の保存的又は非保存的置換を持つヒト型と同じアミノ酸配列を有する任意の哺乳動物又は他のLTC4Sと称されるポリペプチドが含まれる。哺乳動物LTC4Sのアミノ酸配列は約90%の同一性である。よって、三次元構造もまた略同じ程度で同一であることが期待される。LTC4Sなる用語は、当業者には直ぐに理解されるように、FLAP、MGST−1、MGST−2、MGST−3又はMPGES−1のようなMAPEGファミリーの他のメンバーは包含しない。
【0018】
スクリーニング法又はアッセイで使用されるポリペプチド又は構造に関して、該用語は、当業者には知られているように、活性部位を含むその断片及び融合体もまた含む。LTC4Sは単一ドメイン酵素であるので、完全長LTC4S配列の広範な部分が失われている断片は触媒活性を保持していないであろうと考えられる。しかしながら、 完全長LTC4SのC末端アミノ酸(例えば、20、15、10、5、4、3、2又は1のアミノ酸までのC末端)が失われている断片は触媒活性を保持していると考えられる。LTC4Sの活性部位は2つの隣接モノマーからのアミノ酸からなる(表1及び2)ので、LTC4Sそのままの単一ポリペプチドは酵素活性には十分ではない。よって、触媒活性を示すためには、LTC4Sポリペプチドは、他のLTC4Sポリペプチド又は代替ポリペプチド、Lam BK等(1997) J. Biol. Chem. 272(21):13923-8)に記載されているような例えばFLAPポリペプチドと複合体を形成せしめなければならない。Lam等(1997)は、LTC4SポリペプチドとFLAPポリペプチドの融合物及びLTCSの内部セグメントがFLAPの対応するセグメントで置き換えられた融合物に対する触媒活性を報告している。野生型LTC4Sポリペプチドは自然に触媒的に活性な複合体に構築されると考えられる:LTC4S断片又は融合物がこの能力を保持しているのが好ましい。
【0019】
該構造は、典型的には(しかし必ずしもそうではない)LTC4S活性を保持するLTC4Sポリペプチドの構造(又は構造の一部分)である。例えば、三量体又は二量体の形態の場合、LTC4Sポリペプチドは典型的にはグルタチオンをロイコトリエンAに結合せしめうる。あるいは又は加えて、LTC4Sポリペプチドは脂肪酸ヒドロペルオキシダーゼ活性を保持していることが好ましい。
【0020】
次は、LTC4Sの作用を調節する、例えば阻害する化合物の能力を評価する際に使用できるアッセイの例である。該アッセイでは、LTCシンターゼが、基質LTAメチルエステルがLTCメチルエステルに転換される反応を触媒する。精製された組換えヒトLTCシンターゼ(例えば酵母中で発現される)を25mMのTris−バッファー(pH7.8)に溶解させ、−20℃で保存する。該アッセイは、5mMのグルタチオン(GSH)を補填したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)中で実施される。反応は、アセトニトリル/MeOH/酢酸(50/50/1)の添加により終了せしめられる。該アッセイは96ウェルプレート中で室温で実施される。生成したLTCメチルエステルの分析は、逆相HPLC(Onyx MonolithicのC18カラムを利用するWaters2795)で実施される。移動相は、pHがNHでpH5.6まで調節された1%の酢酸を有するアセトニトリル/MeOH/HO(32.5/30/37.5)からなり、吸光度は、Waters2487UV検出器を用いて280nmで測定される。
【0021】
次のものを各ウェルに連続して添加する:
1. 50μlのアッセイバッファー、5mMのGSHを含むPBS。
2. DMSO中の0.5μlの試験化合物。
3. PBS中の2μlのLTCシンターゼ。この溶液中の全タンパク質濃度は0.025mg/mlである。プレートを室温で10分間インキュベートする。
4. 0.5μlのLTAメチルエステル。プレートを室温で1分間インキュベートする。
5. 50μlの停止液。
80μlのインキュベーション混合物をHPLCで分析する。
【0022】
あるいは、脂肪酸ヒドロペルオキシダーゼ活性のアッセイを使用することができる。例えば、250pmolのヒドロペルオキシド(13−HPOD、又は5−HPETE)と共に1.5mMのGSHを含む50μlの0.1MのK−ホスフェート(pH7.5)中で室温にて10分間、0.1−0.2μgのLTC4Sをインキュベートする。150μlの停止液(MeCN:H2O:HOAc,50:25:0.2,v/v)を添加して反応を終了させる。MeCN:H2O:HOAc,60:40:0.1,v/vからなる移動相及び235nmに設定したUV検出器を使用して、上述のようにして、RP−HPLCによってヒドロペルオキシドの転換を分析する。
当業者にはよく知られているように、これらのアッセイ又は代替アッセイについて変形態様を使用することができる。
【0023】
我々は、N末端ヘキサヒスチジンタグを有するLTC4SがLTC4Sの構造を決定するために特に有益であることを見出した。この融合ポリペプチドは、例えばLTC4S活性及び有益な溶解性及び安定特性を有しており、これが、例えばX線結晶学法によって分析することができる結晶の形成のような構造研究にそれを特に適したものにする。異なったタイプのタグ又は異なった長さのヒスチジンタグ(例えばペンタヒスチジンタグ又はセプタヒスチジンタグ)を有する融合ポリペプチドは尚も有用でありうるが、ヘキサヒスチジンタグを有する融合ポリペプチドと同じほどには有用ではないようであると思われる。ヘキサヒスチジンタグのサイズ及び金属イオン座標特性がLTC4Sの良好に回折する結晶を形成するのに特に有益であると考えられる。ヘキサヒスチジンタグは、例えばニッケル又はコバルトイオンのような二価金属イオンを配位させると考えられる。結晶は、金属イオンに配位した一を越えるLTC4S三量体からの隣接するヘキサヒスチジンタグを含むと考えられる。従って、構造は、N末端ヘキサヒスチジンタグを有するLTC4Sに対して決定されたものでありうる。
【0024】
その構造は、実施例1に記載された方法によって決定可能なもの、例えば、界面活性剤を含む母液溶液を使用して得ることができる結晶のX線解析によって得ることができる構造であることが特に好ましい。適切な界面活性剤の例はドデシルマルトシド(DDM)である。他の適切な界面活性剤の例は次のものを含む:
【0025】
CYMAL(登録商標)−4
4−シクロヘキシル−1−ブチル−β−D−マルトシド
CAS番号:181135−57−9
CYMAL(登録商標)−5
5−シクロヘキシル−1−ペンチル−β−D−マルトシド
式分子量:494.5 C234211
n−ノニル−(登録商標)−D−マルトピラノシド,ANAGRADE(登録商標)
n−ノニル−(登録商標)−D−マルトシド
CAS番号:106402−05−5
【0026】
n−デシル−(登録商標)−D−マルトピラノシド,ANAGRADE(登録商標)
n−デシル−β−D−マルトシド
(低アルファ)
CAS番号:82494−09−5
式分子量:482.6 C224211
【0027】
n−ウンデシル−(登録商標)−D−マルトピラノシド,ANAGRADE(登録商標)
n−ウンデシル−β−マルトシド(低アルファ)
CAS番号:253678−67−0
n−オクチル−(登録商標)−D−グルコピラノシド,ANAGRADE(登録商標)
n−オクチル−(登録商標)−D−グルコシド
CAS番号:29836−26−8
式分子量:292.4 C1428
【0028】
結晶化及びX線解析の更に好ましい詳細は実施例1に記載する。
構造が、表I(グルタチオン;GSHの不存在下で決定した構造)又はII(GSHの存在下で決定した構造)に示される構造座標によって表されるもの、又は例えばタンパク質の骨格原子からの標準二乗偏差が2.0Å未満、好ましくは1.5Å、1.0又は0.5Å未満であるそのような構造又は座標に基づくか又はそれからモデル化された構造であることが特に好ましい。
本出願は、その基質の一つのグルタチオンと複合体を形成したヒトLTC4Sを定める座標を例示するリスト、並びに脂質基質ロイコトリエンA(LTA)に対して結合部位を定める界面活性剤分子を提供する。触媒作用におけるその役割に基づいて、グルタチオン及び界面活性剤に支配される二つの結合部位がLTC4Sの活性部位を定め、所望の性質を有する分子の設計のためのテンプレートとして使用することができる。そのような設計のための方法は以下に更に詳細に検討する。本発明による構造座標は、請求の範囲の直前に表IからIIとして「X線データ」と標記された別のセクションとして本明細書に含められる。これらはLTC4S単量体及び配位分子に対する座標である。表Iにおいて、原子番号1から原子番号1263が複合体のLTC4S部分を定める。表IIにおいて、原子番号1から原子番号1195がLTC4Sに関する一方、原子番号1233から1252がグルタチオンに関係する。LTC4Sに関する原子番号は2つの表において異なっているが、これは、第一の表にはより多くの可視できる残基があるためである;テイル部はX線構造では必ずしも可視できるとは限らない。ホモ三量体(又は二量体)内の活性部位は、ホモ三量体内の二つの隣接するサブユニットからの残基によって形成される。その決定の際に使用する条件は以下の実験セクションに詳細に記載する。
【0029】
当業者には分かるように、かかる座標は、通常、例えば熱運動及び結晶充填における僅かな差のため、ある程度の変動を示す。よって、タンパク質及び他の分子に関して表IからIIへのここでの言及は、同じ装置及び方法の使用によって決定される、同一条件下で分子のコンフォメーションを定める座標を示すことを単に意図している。
【0030】
構造は、LTC4Sとの既知の又は潜在的な相互作用物質又はLTC4S活性の調節因子(以下で更に検討する)の存在下での結晶化後に決定されるものでありうる。構造は、例えばグルタチオン(GSH)の不存在下又はGSHの存在下で決定可能なものでありうる。双方の実施例を実施例1に提供する。我々は、LTC4SがGSHの存在下で結晶化することを見出した。あるいは、GSHは最初の結晶化中にはあり得ず、ついで結晶が形成された後に結晶中に浸漬される。
【0031】
例えば、構造は、既知のLTC4S阻害剤、例えばGSH結合部位に結合すると信じられている阻害剤;又はLTA4結合部位に結合すると信じられている阻害剤、例えばシステイニル−ロイコトリエン類、LTC4、LTD4、又はLTE4、5−リポキシゲナーゼ阻害剤チオピラノール[2,3,4−c,d]インドール類及びL−699.333、FLAP阻害剤MK886、又はCysLTレセプターアンタゴニストMontelukastの存在下で結晶化後に決定されるものでありうる。共結晶は、実施例1において検討されるように、GSH基質結合キャビティに位置させられたGSHをそれぞれ移すことができる阻害剤;又は親油性基質結合クレバスに位置させられた界面活性剤;又は活性部位の触媒部に対して形成されうる。脂質基質及びGSHは活性部位に対して異なった親和性を有している。よって、共結晶は、100μM未満、例えば10μM未満又は1μM未満(例えば基質としてLTA/GSHを使用して測定)のIC50を有する資質結合部位を標的とした化合物を形成しうる一方、GSH結合部位を標的とした化合物は、10mM未満、例えば1mM未満又は100μM未満(例えばLTA/GSHを基質として測定)のIC50を有しうる。結晶化条件のある種の変更(例えば異なる母液)が異なった分子での共結晶化に必要とされうることは理解されるであろう。ここに提供された情報から出発して、それぞれの場合に適した結晶化条件を調査する技術は当業者にはよく知られている。一実施態様では、共結晶化は、ポリペプチドの結晶、例えば実施例1に設定されたようにして得られた結晶への共結晶化分子の拡散によって実施されうる。これは「浸漬」手順と称されうる。実施例1で検討されるように、活性部位に位置したGSH又は界面活性剤がある場合、拡散/浸漬による共結晶化は達成するのが容易であり得、例えば10μM未満、例えば1μM未満又は100nM未満のIC50の低濃度の阻害剤を必要としうる。
【0032】
LTC4Sに対して低親和性、例えばミリモル濃度範囲のIC50の分子を用いての共結晶化がまた可能であり有用でありうると考えられる。例えば、共結晶化は活性部位だけの部分と相互作用すると考えられる小分子(「断片」)を用いると有用でありうる。これらの小分子は、LTC4S阻害剤活性に対して低いIC50を有する大きな分子を設計/構築する際の分子として有用でありうる。
【0033】
本発明の更なる態様は、本発明の先の態様の何れか一つに関連して定義されたLTC4Sポリペプチド(すなわち、多層、例えば10層、好ましくは100層以上のLTC4Sホモ三量体)、例えばN末端ヘキサヒスチジンタグを有する完全長ヒトLTC4Sからなるポリペプチドの三次元結晶形態を提供する。三次元結晶形態は空間群F23に属しうる。実施例1において更に検討されるように(例えば各LTC4S三量体に対して3、又は各単位格子に対して12)、単位格子は48のLTC4S鎖を含み、及び/又は金属イオンが配位された複数の隣接するヒスチジンタグを有しうる。「三次元結晶形態」なる用語は当業者にはよく知られており、上掲のSchmidt-Krey等(1994)に記載されたもののような二次元(つまり、単一又は約10層までのLTC4Sホモ三量体)結晶形態を包含しない。
【0034】
結晶形態は、共結晶化分子、例えばGSH又は界面活性剤又は他の既知の又は潜在的なLTC4Sとの相互作用物質又はLTC4S活性調節因子、又はそのLTC4Sに対する性質が知られていない試験化合物(例えば活性部位の一部のみと相互作用すると考えられる小分子)を更に含みうる。例えば、共結晶化分子、例えば試験化合物は、LTC4S又は他のMAPEGファミリーメンバー活性を調節することが知られている分子であり得;又はLTC模倣物又はLTA模倣物、又はLTCレセプターアゴニスト又はアンタゴニスト;又は脂肪酸ヒドロペルオキシド又はその模倣物、又は他の脂肪族化合物でありうる(Thoren S及びJakobsson PJ, Eur. J. Biochem. (2000) 267(21):6428-34;Schroder O等, Biochem. Biophys. Res Commun.. (2003), 312(2):271-6.)。既知のLTC4レセプターはCysLT1、CysLT2及びGPR−17を含む(Ciana P等 EMBO J (2006), 25(19):4615-27)。例えば、共結晶化分子は、100μM未満、典型的には10μM、1μM又は100nM未満のIC50をLTC4Sに対して持つ化合物でありうる。共結晶化分子は、以下に更に検討されるように、本発明のスクリーニング/設計方法によって同定される化合物でありうる。共結晶化分子は、活性部位の一部とのみ相互作用し、ミリモル濃度範囲のIC50を持つと考えられる小分子でありうる。
【0035】
本発明の更なる態様は、従って本発明の結晶化形態を調製するための、又は本発明の結晶形態を調製する試みのための方法であって、1)本発明の先の態様の何れかに関連して定義されたLTC4Sポリペプチドを提供し;2)本発明の選択/設計方法を使用して選択された(必ずではないが典型的には100μM、10μM、1μM又は100nM未満のLTC4S IC50を持つ)化合物を提供し;3)ポリペプチドと選択化合物を含有する組成物での結晶化試験を実施することを含む方法を提供する。
【0036】
本発明の更なる態様は、LTC4Sの三次元結晶又は活性部位又は基質結合領域(又はその何れかの少なくとも一部)の構造;又は試験化合物に結合したLTC4Sの三次元結晶又は活性部位又は基質結合領域(またはその何れかの少なくとも一部)の構造の作成における、本発明の先の態様の何れかに関連して定義されたポリペプチドの使用を提供する。試験化合物に対する優先性は上に示した通りである。
【0037】
結晶化形態は、例えば実施例1に記載されたものと同様な技術を使用して、当業者によく知られているように、X線回折データ及び構造を得るのに有用でありうる。例えばここに記載されたようなLTC4Sに対して決定された構造は、例えば実施例1に記載されたような、構造解析及び洗練において使用されうる。
【0038】
かかる共結晶化及び共結晶化分子から決定された構造は、分子モデルの際に、また相互作用に重要なポリペプチドと化合物の特徴を決定する際に有用でありうる。これは更なる試験化合物を設計し又は選択するのに有用でありうる。
【0039】
一実施態様では、モデル化された分子は、「GSH基質結合キャビティ」(完全長ヒトLTC4Sの残基Arg51、Arg30、Arg104、Gln53、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Ile27、Pro37、Leu108又は他のLTC4Sポリペプチドの等価な残基を含む残基によって形成されると思われる);「親油性基質結合クレバス」(Ala20、Leu24、Ile27、Tyr59、Trp116、Ala112、Leu115、Leu108、Tyr109、Leu62、Val119、Thr66、Val16及びLeu17、又は他のLTC4Sポリペプチドの均等な残基を含む残基によって形成される);又は「触媒部位」(Arg104又はArg31、又は他のLTC4Sポリペプチドの均等な残基を含む残基)と呼ばれる構造領域に結合することが予想されるのが好ましい。従って、該方法は、化合物の構造を、上述の領域(又はその領域と相互作用する領域)の一又は複数の構造と比較することを含みうる。
【0040】
(表1:グルタチオン結合キャビティに並ぶ残基)

表1において、Arg51、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Arg104、Arg30、及び Gln53は、MAPEGファミリーメンバーの間で高度に保存されたアミノ酸である。
【0041】
この部位において、GSHは、一つの単量体からのヘリックス1及び2と隣接する単量体からの3及び4の間の界面の極性ポケット中に深く結合している。GSH分子は活性部位を構成する両単量体からの残基に対して極性の相互作用をなす。GSHのカルボキシレート部分は、結合ポケットのベースにArg51’及びArg30に対する塩架橋を形成し、GSHを効果的に屈曲させそのチオール基を膜界面に向け、そこでArg104’と相互作用する。GSHに対する更なる極性相互作用は、Gln53、Asn55’、Glu58’、Tyr59’、Tyr93’及びTyr97’によって形成される。幾つかの非極性相互作用がまた形成され(Ile27、Pro37及びLeu108’)、GSHのその結合ポケットへの最適な適合をもたらす。
【0042】
(表2:ロイコトリエン結合部位におけるアミノ酸)

本アミノ酸は、LTAの良好な模倣物である界面活性剤DDMの脂肪族側鎖に結合する部位を定める。
【0043】
ここで、Trp116はポケットの屋根部を形成し、Tyr59、Ala20、及びLeu62は床部及び側壁を形成する一方、Leu115は、タンパク質中へのLTAのω端の更なる侵入を制限する底部をつくる。LTA4の反対の端部では、カルボキシル基が広い断面の基質結合間隙に位置している。
【0044】
(表3:LTC4Sの触媒ドメイン)

上記の表1−3において、LTC4Sのアミノ酸配列の番号付けは開始Metで開始し、よって配列番号1における番号付けと同一である。表1−3に列挙された残基は、相同な酵素、つまりMAPEGファミリーの他のメンバーに対して共通の活性部位を形成すると思われる。
【0045】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、全てが上で定義した通りの「GSH基質結合キャビティ」;「親油性基質結合クレバス」;及び/又は「触媒部位」又は相互作用領域の少なくとも一部の三次元構造であり、LTC4Sの上記「GSH基質結合キャビティ」;「親油性基質結合クレバス」;及び/又は「触媒部位」又は相互作用領域と相互作用することが予想される化合物が選択されるのが好ましい。あるいは、化合物は、例えば基質分子の結合又は触媒部位へのその接近性に干渉するようにLTC4Sの「GSH基質結合キャビティ」;「親油性基質結合クレバス」;及び/又は「触媒部位」又は相互作用領域ではない前記LTC4Sポリペプチドの一部に結合しうる。また更なる例では、化合物は、アロステリック効果により前記ポリペプチドの活性を減少させるようにLTC4Sの一部に結合しうる。このアロステリック効果は、LTC4Sの活性の自然の調節に関与するアロステリック効果でありうる。
【0046】
化合物は、ホモ三量体のサブユニット間の相互作用に関連するLTC4Sの一部に結合しうる。サブユニット間の相互作用に関連すると考えられる残基を次の表に示す。サブユニットはサブユニットA、B及びCとして示し、AとB及びAとCの相互作用を示す。
【0047】
(表4)




【0048】
よって、本発明の更なる態様は、ロイコトリエンC4シンターゼ(LTC4S)の活性を調節することが期待される化合物を選択し又は設計する方法であって、分子モデル化手段を使用して、LTC4Sのサブユニット相互作用領域と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する工程を含み、ここで、LTC4Sのサブユニット相互作用領域の少なくとも一部の三次元構造が、化合物の三次元構造と比較され、前記基質相互作用領域と相互作用することが予想される化合物が選択される方法を提供する。サブユニット相互作用領域に関与する残基は先の表4に示している。
【0049】
ある化合物は、LTC4Sの一を越える部分、例えばLTC4S活性部位の一を越える部分と相互作用することが予想される成分部分を有しうることが理解される。例えば、ある化合物は、上で検討したように、LTC4SのGSH基質結合キャビティと相互作用する成分部分と、LTC4Sの異なった部分、例えば「親油性基質結合クレバス」;及び/又は「触媒部位」、つまり活性部位の他の部分と相互作用する他の成分部分を有しうる。更なる試験のための化合物は、LTC4Sの異なった部分、例えばLTC4S活性部位の異なった部分に結合することが予想される成分部分(個別では非常に小さい場合がありうる)から「構築」されうる。
三次元構造は、例えばコンピュータスクリーン上で、二次元形態でコンピュータによって表示されうる。比較は、かかる二次元表示装置を使用して実施することができる。
【0050】
次のものは分子モデル化技術に関する:Blundell等(1996) Stucture-based drug design Nature 384, 23-26;Bohm (1996) Computational tools for structure-based ligand design Prog Biophys Mol Biol 66(3), 197-210;Cohen等(1990) J Med Chem 33, 883-894;Navia等 (1992) Curr Opin Struct Biol 2, 202-210。
【0051】
例えば次のコンピュータプログラムが本発明のこの態様の方法を実施する際に有用でありうる:GRID(Goodford (1985) J Med Chem 28, 849-857;Molecular Discovery, Pinner, UKから入手可能);MOE (Chemical Computing Group, Montreal, Quebec, Canada);AUTODOCK (Goodsell等(1990) Proteins: Structure, Function and Genetics 8, 195-202;Scripps Research Institute, La Jolla, CA, USAから入手可能);DOCK (Kuntz等 (1982) J Mol Biol 161, 269-288;University of California, San Francisco, CAから入手可能);LUDI (Bohm (1992) J Comp Aid Molec Design 6, 61-78;Accelrys, San Diego, CA, USAから入手可能);Sybyl (Tripos Associates, St Louis, MO, USA);Gaussian 03、例えば改訂版D(Gaussian, Inc., Pittsburgh, PA, USA);AMBER(University of California at San Francisco, San Francisco, CA, USA);QUANTA (Accelrys, San Diego, CA, USA);及びInsight II(Accelrys, San Diego, CA, USA)。プログラムは、例えば、Silicon Graphics(商標)、IBM RISC/6000(商標)、又はRed Hat Enterprise Linuxワークステーションで実行することができる。
【0052】
例えば実施例2に記載されたように、又はUnity(Tripos Associates, St Louis, MO, USA)又はChemFinder (CambridgeSoft, Cambridge, MA, USA)のようなプログラムを使用する新しいリガンドの部分構造サーチを経由して、幾つかのインシリコ法を用いることができる。天然リガンド(LTA又はGSH)又はLTC4Sに結合可能なその部分の基本的構造を取り出し(又は予想し)、その様々な構造的特徴(例えば疎水性及び荷電体)をプログラムに入力し、この部分構造を含む化学物質について化学会社のカタログの集合を検索する。例えば、GSHの末端の構造は、GSH結合ポケット又は触媒部位と相互作用しうる化合物を検索する際に有用でありうる一方、LTAの構造、例えばその長さは、親油性基質結合クレバスと相互作用する化合物の検索に有用でありうる。
【0053】
ついで、例えば大きすぎるか又は立体的又は電荷障害を有するために、触媒部位の一部、例えばGSH基質結合キャビティ(又は上で検討した他の部分)と相互作用し得ない基について、これらの化合物を、コンピュータを使用するか又は眼によって検索し、それを破棄する。残りの化学物質をPRODRGサーバーに入力し、これら化学物質に対するトポロジー/座標をつくる。これらの化学物質を構造としてモデル化し、それから、GSH基質結合キャビティ/親油性基質結合クレバス/触媒部位/相互作用領域におそらくは結合可能な化学物質を選択する。PRODRGプログラムの更なる詳細はhttp://davapc1.bioch.dundee.ac.uk/programs/prodrg/prodrg.htmlにおいて入手可能である。
【0054】
代替法は、GROMOS/MOL2/WHATIFトポロジー及び水素原子位置を小分子PDBファイルから作成するツールであるPRODRGを使用することである。天然リガンドから出発し、当業者は、タンパク質座標及びリガンド骨格座標を固定したままで、リガンド上の各部位の全ての可能な基を、様々な新しい基を用いて、コンピュータによって変化させることができる。ついで、結果について、障害、反発、誘引をスクリーニングすることができる。
【0055】
出発化合物は、LTC4S酵素活性(例えば基質としてLTAを使用)に対する効果をスクリーニングすることによって最初に選択し;ついで構造と比較し;更なる化合物の設計のための基礎として使用し;これをついで、以下に更に検討されるようにして、更なるモデル化及び/又は合成及び評価によって試験することができる。
ついで、選択された化合物を注文し又は合成し、LTC4Sに結合し及び/又はLTC4S活性を調節する一又は複数の能力について評価する。化合物はLTC4Sポリペプチドで結晶化させ、任意の複合体の構造を決定することができる。
【0056】
本発明の方法は、上述のように、コンピュータモデル化を使用して選択された化合物を提供し、合成し、精製し、及び/又は製剤化し;該化合物がLTC4Sの活性を調節するかどうかを評価する工程を更に含みうる。該化合物は、薬学的使用のため、例えば動物又はヒトにおけるインビボ治験に使用するために、処方されうる。
よって、本発明は、LTC4S阻害剤の構造ベースの設計方法を提供する。かかる方法は、強い特異的な結合特性を有する有利な阻害剤を合成するためのテンプレートとして、例えば本座標、又は好ましくは選択された領域を定める座標を使用することに基づく。より詳細には、かかる方法は、単独で又はコンビナトリアルケミストリーと組み合わせて、一般的な有機合成を最初に使用することができ、ここで、合成の生成物の構造を、酵素及び阻害剤の結晶化サイクルによって更に洗練し、他の化学合成を続け、その生成物を再び精製等する。
【0057】
LTC4Sの活性を調節する化合物を選択することができる。例えば、LTC4Sの活性を増加させる化合物を選択することができ、又はLTC4Sの活性を減少させる化合物を選択することができる。それぞれのタイプの化合物が有用でありうる(又はそのような化合物が更なる研究又は化合物設計のための出発点である)状況を以下に示す。
【0058】
LTA(5S,5,6−オキシド−7,9−trans−11,14−cisエイコサテトラエン酸)に対するLTC4Sの活性を調節する化合物の能力を評価することができる。かかる評価はまたマイクロタイタープレート形式又は高スループットスクリーニングに適した他の形式で実施することもできる。評価は、当業者によく知られ、以下に記載される酵素アッセイ技術を使用して実施することができる。このようなアッセイで使用されるLTC4Sポリペプチドは、上で検討したように、LTC4S活性を保持しているLTC4Sポリペプチドでありうる。例えば、当業者には明らかなように、完全長ヒトLTC4Sを含んでなるか又はヒトLTC4Sの断片、例えばC末端の20、10、5、4、3、2又は1までのアミノ酸を欠く断片を含んでなるポリペプチドを使用することができる。任意のそのようなコンピテントな断片は、活性部位が二つの隣接するサブユニットからの残基からなるので、活性な二量体又は三量体を形成するために相補的断片と一緒に存在していなければならない:そのような二量体又は三量体への構築は自然に生じるが、タンパク質工学における標準的技術を使用して、それらをまたリンカーによって連結してもよい。
【0059】
LTC4Sの作用を調節する、例えば阻害する化合物の能力を評価する際に使用することができるアッセイの例は上に記載している。
あるいは、LTC4Sの脂肪酸ヒドロペルオキシダーゼ活性を調節する化合物の能力を測定することができる。適切なアッセイの例は上に記載している。
【0060】
LTC4Sの活性部位に結合する化合物はLTC4SのLTC4S活性(例えばLTAに対する作用によって評価される)を調節することが予期される一方、LTC4Sの他の活性又は性質、例えばサブユニット相互作用又は他のポリペプチド(例えば他のMAPEGファミリーメンバー、例えばFLAP)との相互作用、リン酸化(Gupta N等 FEBS Lett. (1999) 449(1):66-70)、又は二価陽イオンの効果(Nicholson DW等 Eur. J. Biochem. (1992) 209(2):725-34)、又は分子内相互作用又は他のLTC4S又はFLAP単量体又は二量体との相互作用(Mandal AK等 Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2004) 101(17):6587-92)が調節されうることはありうる。
【0061】
上で指摘したように、選択され又は設計された化合物は、合成され(まだ合成されていない場合)又は精製され、LTC4S(又はLTC4S活性を有する断片、変異体又は融合物)に対するその効果、例えばLTC4S活性に対するその効果について試験されうる。化合物は、LTC4Sポリペプチド又はLTC4Sが存在している細胞又は組織に対するその効果についてのインビトロスクリーニングで試験することができる。細胞又は組織は、内因性LTC4Sを含み得、及び/又は外因性LTC4S(LTC4Sをコードする内因性核酸の操作の結果として発現されるLTC4Sを含む)を含みうる。化合物は、トランスジェニック動物又は組織を使用してもよいエキソビボ又はインビボスクリーニングで試験することができる。該化合物はまた、例えばLTC4S遺伝子の一又は複数のコピーのノックアウト又はノックダウンのためにLTC4Sを含まない(又は低減量のLTC4Sを含む)細胞、組織又は生物において比較のために試験することもできる。適切な試験は当業者には明らかであり、例には炎症の動物又はエキソビボモデルにおける効果の評価が含まれる。適切なモデルの例には、ザイモサン誘導腹膜炎及びアレルギー性喘息モデルとしての卵白アルブミン感作マウスが含まれる。化合物は、例えばヒト末梢血又はヒト臍帯血で、又はヒト末梢血又はヒト臍帯血から単離された細胞、例えば白血球、例えば好中球、好酸球、又は肥満細胞での炎症のヒトエキソビボモデルにおいて試験することができる。
【0062】
当業者にはよく知られているように、化合物に例えば毒性試験又は代謝試験のような他の試験をまた施してもよい。
親油性基質結合クレバスに結合する化合物は、例えば肥満細胞のような細胞においてLTC4S産物に対するレセプター、つまりLTCレセプターにまた結合することができる化合物でありうる。LTCレセプターの例にはCysLT1、CysLT2及びGPR−17が含まれる。よって、かかる化合物は、LTCアンタゴニスト又はアゴニストとして有用でありうる。適切な試験をまた実施してその通りであるかどうかを決定することができる。
【0063】
LTC4Sは、上で参照したLTC4S配列のアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその天然に生じるアレル変異体からなるポリペプチドであることが好ましい。天然に生じるアレル変異体は哺乳動物、好ましくはヒトであることが好ましい。LTC4Sは融合ポリペプチド、例えば上で検討したような、N末端ヘキサヒスチジンタグ又はFLAPとのものでありうる。
【0064】
LTC4Sの変異体又は断片又は誘導体又は融合物、又は変異体又は断片又は誘導体の融合物は、LTAのグルタチオンコンジュゲーションに対して完全長ヒトLTC4Sの酵素活性の少なくとも30%を有していることが必須ではないが特に好ましい。前記LTC4Sの変異体又は断片又は誘導体又は融合物、又は変異体又は断片又は誘導体の融合物は、LTAのグルタチオンコンジュゲーションに対してLTC4Sの酵素活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%を有していることがより好ましい。しかし、酵素活性を欠く変異体又は融合物又は誘導体又は断片は、例えば他のポリペプチドと相互作用することによって尚も有用でありうる。よって、酵素活性を欠く変異体又は融合物又は誘導体又は断片は、結合アッセイで有用であり得、これは、例えば、本発明の変異LTC4Sと化合物の相互作用の調節が測定される本発明の方法において使用することができる。
【0065】
ポリペプチドの「変異体」には、保存的であれ非保存的であれ、挿入、欠失及び置換が含まれる。特に、そのような変化が前記ポリペプチドの活性、例えば上述したLTC4SのLTC4S活性を実質的に変化させないポリペプチドの変異体が含まれる。
「保存的置換」には、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;及びPhe、Tyrのような組合せが意図される。
【0066】
IUPAC−IUB生化学命名委員会の一及び三文字アミノ酸コードがここで使用される。特に、Xaaは任意のアミノ酸を表す。Xaaは天然に生じるアミノ酸を表すのが好ましい。アミノ酸はL−アミノ酸であることが好ましい。
LTC4S変異体は、上で参照されるLTC4Sのアミノ酸配列(例えば上掲のLam等(1994))と少なくとも65%の同一性、より好ましくは少なくとも70%、71%、72%、73%又は74%、更になお好ましくは少なくとも75%、また更により好ましくは少なくとも80%、更になお好ましくは少なくとも85%、更になお好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%又は97%の上述のアミノ酸配列との同一性を有しているアミノ酸配列を有している。
【0067】
2つのポリペプチド間のパーセント配列同一性は、適切なコンピュータプログラム、例えばウイスコンシン大学遺伝子計算グループのGAPプログラムを使用して決定することができ、パーセント同一性が、配列が最適に整列されたポリペプチドに関して計算されることが理解される。
整列は、別法では、Clustal Wプログラム(Thompson等(1994) Nucl Acid Res 22, 4673-4680)を使用して実施することができる。使用されるパラメータは次の通りでありうる:
高速対整列パラメータ:K組(ワード)サイズ;1、ウインドウサイズ;5、ギャップペナツティ;3、トップダイアゴナル数;5。スコアリング法:xパーセント。
多重整列パラメータ:ギャップオープンペナルティ;10、ギャップエキステンションペナルティ;0.05。スコアリングマトリックス:BLOSUM。
【0068】
Arg104又はArg31;及び/又はArg51、Arg30、Arg104、Gln53、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Ile27、Pro37、Leu108(GSH基質結合キャビティ残基);及び場合によってはまたAla20、Leu24、Ile27、Tyr59、Trp116、Ala112、Leu115、Leu108、Tyr109、Leu62、Val119、Thr66、Val16及びLeu17(親油性基質結合クレバス残基)と等価である同一又は保存された残基を有していることが好ましい。残基が同一であるか又は保存されていることが望ましい他の残基は、上の表1、2、3又は4に列挙された他の残基を含む。
【0069】
本発明の更なる態様は、完全長ヒトLTC4SのArg51、Arg30、Arg104、Gln53、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Ile27、Pro37、Leu108、Ala20、Leu24、Ile27、Tyr59、Trp116、Ala112、Leu115、Leu108、Tyr109、Leu62、Val119、Thr66、Val16及びLeu17又はArg31に等価な一又は複数の残基が変異されている変異LTC4Sポリペプチドを提供する。
【0070】
本発明は、変異形態が次の表5−7(ここで、アミノ酸は一文字コードで与えられている)に定義された変異の一又は複数を含むLTC4Sの変異形態に関する。よって、R51G/A/V/L/I/S/T/D/E/N/Q/H/K/P/C/M/F/Y/Wは、、LTC4S番号付けスキームを使用して残基アルギニン51がアラニン、バリン、ロイシン等々に修飾されることを示している。
(表5:活性部位における変異(GSH結合部位))

(表6:活性部位における変異(LTA4結合部位))

【0071】
より詳細には、この実施態様は、少なくとも2つの変異アミノ酸、又は上述の変異配列の何れか一、又は配列番号(5)1−9,6(1−5)からなる群から選択される何れかの別個の一アミノ酸変異を含む変異に関する。
変異LTC4SはLTC4Sのどこで興味あるポリペプチド又は化合物が相互作用するかを決定するのに有用でありうる。例えば、変異及び未変異LTC4Sに結合するか、又はLTC4Sの活性を調節する化合物(ポリペプチドを含む)の能力を測定し、比較することができる。
【0072】
本発明の更なる態様は、本発明の変異LTC4Sポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のまた更なる態様は、本発明の変異LTC4Sを発現するのに適した組換えポリヌクレオチドを提供する。本発明のまた更なる態様は、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
本発明の更なる態様は、本発明の変異LTC4Sを作製する方法を提供し、該方法は、前記変異LTC4Sを発現する本発明の宿主細胞を培養し、前記変異LTC4Sを単離することを含む。
【0073】
本発明の更なる態様は、上記方法によって得ることができる変異LTC4Sを提供する。
本発明のこれらの態様の例は、当業者によって常套的な方法を使用して調製することができる。
例えば、上記変異LTC4Sは、例えば分子生物学の方法又は自動化学ペプチド合成法を使用して、当該分野でよく知られている方法によって作製することができる。
【0074】
ペプチド模倣化合物もまた有用でありうることが理解される。よって、「ポリペプチド」又は「ペプチド」では、アミノ酸残基がペプチド(−CO−NH−)結合によって結合される分子ばかりでなく、ペプチド結合が逆にされる分子もまた含む。ペプチド模倣化合物を設計し作製する方法は当業者に知られている。
本発明は、LTC4Sの活性を調節する化合物を同定し又は特徴付ける方法であって、本発明の前記変異LTC4SのLTC4S活性、又はそれに結合する化合物の能力に対する化合物の効果を決定する工程を含む方法を更に提供する。
【0075】
本方法は、前記残基において変異していないLTC4SのLTC4S活性、又はそれに結合する化合物の能力に対する化合物の効果を決定することを更に含みうる。
例えば、当業者には明らかであるように、化合物が予想通りに結合していることを確認等するために、野生型(未変異型) LTC4S及び残基(例えばコンピュータモデル化研究から試験化合物が相互作用することが予想される残基)が変異している変異LTC4Sに対する化合物の効果を比較することは有用でありうる。
LTC4S又は変異LTC4Sが、実施例1に記載されるように、例えば精製又は結晶化を助けるためにタグ、例えばヘキサヒスチジンタグを含む融合タンパク質でありうることは理解されるであろう。
【0076】
本発明の更なる態様は、(1)本発明の変異LTC4Sと(2)そのように変異されていない対応のLTC4Sを含む本発明の先の態様に係る方法を実施するのに有用なパーツのキットを提供する。
化合物(これはポリペプチドでありうる)との相互作用又は結合に関する前記LTC4Sポリペプチドの能力は、以下で更に検討するように、タンパク質/タンパク質相互作用又は他の化合物/タンパク質相互作用を検出/測定する任意の方法によって測定することができる。適切な方法には、例えば酵母ツーハイブリッド相互作用、同時精製、ELISA、共免疫沈降及び表面プラズモン共鳴法のような方法が含まれる。よって、LTC4Sポリペプチドは、LTC4Sポリペプチドと化合物又はポリペプチドの間で相互作用がELISA、共免疫沈降及び表面プラズモン共鳴法又は酵母ツーハイブリッド相互作用又は同時精製法によって検出される場合には、ポリペプチド又は他の化合物に結合し、又は相互作用することができると考えられうる。相互作用は表面プラズモン共鳴法を使用して検出することができることが好ましい。表面プラズモン共鳴法は当業者にはよく知られている。技術は例えば、O'Shannessy DJ Determination of kinetic rate and equilibrium binding constants for macromolecular interactions: a critique of the surface plasmon resonance literature. Curr Opin Biotechnol. 1994 Feb;5(1):65-71;Fivash M, Towler EM, Fisher RJ BIAcore for macromolecular interaction.Curr Opin Biotechnol. 1998 Feb;9(1):97-101;Malmqvist M BIACORE: an affinity biosensor system for characterization of biomolecular interactions. Biochem Soc Trans. 1999 Feb;27(2):335-40に記載されている。
【0077】
LTC4SのLTC4S活性に対する化合物の効果を、上に示したように、評価することができる。LTC4SのLTC4S活性を減少させる化合物を選択することができる。よって、かかる化合物は、例えばLTC、LTD又はLTEの形成が阻害され又は減少させられることが必要とされる症状の治療において、あるいはCys−LTレセプター(例えばCys−LT又はCys−LT)の活性化が阻害され又は減弱されることが必要とされる場合に有用でありうる。本発明の化合物はまたミクロソームグルタチオンS−トランスフェラーゼ(MGSTs)、例えばMGST−I、MGST−II及び/又はMGST−IIIを阻害し、よってLTD、LTE又は、特にLTCの形成を阻害し又は減少させうる。
【0078】
よって、かかる化合物は、ロイコトリエン(例えばLTC)の生産(つまり、合成及び/又は生合成)の阻害から恩恵を受けうる疾患、例えば呼吸器疾患及び/又は炎症の治療に有用であることが期待される。当業者によく知られているように、かかる疾患及び/又は炎症の治療のための化合物の適合性を評価するために更なる試験を実施することができる。
【0079】
「炎症」という用語は、上で述べたもののような身体外傷、感染、慢性疾患によって誘発されうる局所的又は全身性保護反応、及び/又は外部刺激に対する化学的及び/又は生理学的反応(例えばアレルギー反応の一部として)によって特徴付けられる任意の症状を含むと当業者に理解される。有害な薬剤と傷ついた組織の双方を破壊、希釈又は隔離する作用をするあらゆるそのような応答は、例えば発熱、腫れ、痛み、発赤、血管拡張及び/又は血流増加、白血球の罹患領域への侵入、機能喪失及び/又は炎症症状に伴うことが知られている任意の他の徴候に顕れうる。
【0080】
よって、「炎症」という用語は、任意の炎症疾患、障害又は症状自体、それを伴う炎症要素を持つ任意の症状、及び/又はとりわけ急性、慢性、潰瘍、特異性、アレルギー性及び壊死性炎症、及び当業者に知られている炎症の他の形態を含む、徴候として炎症を特徴とする任意の症状を含むものとまた理解される。よって、その用語はまた本発明の目的に対して炎症痛、疼痛一般及び/又は発熱を含む。
【0081】
従って、かかる化合物は、アレルギー性疾患、喘息、小児喘鳴、慢性閉塞性肺疾患、気管支肺異形成症、嚢胞性線維症、間質性肺疾患(例えば、サルコイドーシス、肺線維症、強皮症肺疾患、及び通常型間質性肺炎)、耳鼻咽喉科疾患(例えば、鼻炎、鼻ポリープ及び中耳炎)、眼科疾患(例えば、結膜炎及び巨大乳頭結膜炎)、皮膚疾患(例えば、乾癬、皮膚炎、及び湿疹)、リウマチ疾患(例えば、関節リウマチ、関節症、乾癬性関節炎、変形性関節症、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症)、脈管炎(例えばヘノッホ・シェーンライン紫斑病、レフラー症候群及び川崎病)、循環器疾患(例えばアテローム性動脈硬化症)、消化器疾患(例えば、消化器系における好酸球性疾患、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、結腸炎、腹腔及び胃出血)、泌尿器疾患(例えば、糸球体腎炎、間質性膀胱炎、腎炎、腎症、ネフローゼ症候群、肝腎障害症候群、及び腎臓毒性)、中枢神経系疾患(例えば、脳虚血、脊髄損傷、偏頭痛、多発性硬化症、及び睡眠呼吸障害)、内分泌疾患(例えば自己免疫甲状腺炎、糖尿病関連炎症)、蕁麻疹、アナフィラキシー、血管性浮腫、クワシオルコル浮腫、月経困難症、火傷誘発酸化損傷、多発外傷、疼痛、毒性オイル症候群、内毒素性ショック、敗血症、細菌感染症(例えば、ヘリコバクター・ピロリ、緑膿菌又はシゲラ・ディゼンテリエ)、真菌感染症(例えば、外陰膣カンジダ症)、ウイルス感染症(例えば、肝炎、髄膜炎、パラインフルエンザ及び呼吸器合胞体ウイルス)、鎌状赤血球貧血、好酸球増多症候群、及び悪性腫瘍(例えば、ホジキンリンパ腫、白血病(例えば、好酸球性白血病及び慢性骨髄性白血病)、肥満細胞症、真性多血症、及び卵巣癌)の治療に有用でありうる。特に、本発明の化合物は、アレルギー性疾患、喘息、鼻炎、結膜炎、COPD、嚢胞性線維症、皮膚炎、蕁麻疹、好酸球性胃腸病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、変形性関節症及び疼痛を治療する際に有用でありうる。
かかる化合物は上述の症状の治癒的及び/又は予防的処置に対して有用でありうる。
【0082】
LTC4SのLTCシンターゼ活性を増加させる化合物は、LTC、LTD及び/又はLTEの生産の亢進が有用である状況、例えば免疫応答障害の患者における免疫応答を向上させる際に有用でありうる。
本発明は、LTC4SのLTC4S活性を調節し、例えば向上させ又は阻害するのに有用でありうる薬剤を同定する試みに使用されるスクリーニングアッセイを提供すると理解される。該方法で同定される化合物はそれ自体薬剤として有用であり得、又はそれらはより効能のある化合物の設計と合成のためのリード化合物となりうる。
該化合物は、化合物を同定する上記各方法に対する薬物様化合物の開発のための薬物様化合物又はリード化合物でありうる。前記方法は、当業者によく知られているように、薬学的化合物の開発におけるスクリーニングアッセイとして有用でありうるものと理解される。
【0083】
「薬物様化合物」という用語は、当業者によく知られており、医薬品としての使用にそれを適するものにする特性、例えば、医薬品における有効成分としての特性を有する化合物の意味を含みうる。よって、例えば、薬物様化合物は、有機化学の技術によるか、それより好ましくはないが、分子生物学又は生化学の技術により合成されうる分子であり得、5000ダルトン未満、より好ましくは1000、750又は500ダルトン未満でありうる。薬物様化合物は、特定のタンパク質又はタンパク質群との選択的相互作用の特徴を更に示し、生物学的に利用可能であり、及び/又は細胞膜を貫通可能であってもよいが、これらの特徴は必須ではないことは理解されるであろう。
【0084】
「リード化合物」という用語は、同様に当業者によく知られており、それ自体薬物としての使用に適さない(例えば、その所期の標的に対して弱い効力を示すに過ぎず、その作用が非選択的で、不安定で、合成が困難であり又は不十分な生物学的利用能を有する)が、その化合物がより望ましい特性を有しうる他の化合物の設計の出発点を与えるものであるという意味を含みうる。
【0085】
LTC4Sの活性をインビボで調節しうる化合物を同定することが望ましいことが理解される。よって、該方法において使用される試薬及び条件は、例えばLTC4Sと基質との間の相互作用がヒトLTC4Sと天然に生じる基質(例えば、LTA)との間の作用と同様であるように選択されうる。当業者にはよく知られているように、アッセイの簡便さ又はLTC4Sに対する効果の特異性が最適化されうる幾つかの場合では、異なったアッセイ系を化合物の評価に使用することができる一方、他の場合では、例えば全細胞における化合物の効果を評価することによって、インビボ関連性を最適化できる。
該アッセイ又はLTC4SのLTC4S活性を調節する化合物の能力が測定されうる他のアッセイのスクリーニング方法で試験される化合物は、例えばコンピュータ技術を使用し、分子モデル化技術を使用して選択され及び/又は設計(修飾を含む)された化合物でありうる。
【0086】
本発明はまた関連タンパク質(以下では標的タンパク質と称される)のホモロジーモデリングのための手段を提供する。「ホモロジーモデリング」とは、表IからIIの座標データの操作に基づいて、X線結晶学的データか構造のコンピュータ支援デノボ予測の何れかに基づく関連MAPEGファミリーメンバー構造の予測を意味する。
「ホモロジーモデリング」は、その構造が添付の実施例において決定されているヒトTC4Sタンパク質に関連している標的MAPEGタンパク質まで拡張される。それはまたLTC4S変異体まで拡張される。
【0087】
一般に、該方法は、アミノ酸配列を比較することにより、表I又はIIのLTC4Sタンパク質のアミノ酸配列を標的MAPEGファミリーメンバータンパク質と比較することを含む。ついで、配列中のアミノ酸を比較し、相同である(「対応領域」と称される)アミノ酸のグループが一緒にグループ化される。この方法はポリペプチドの保存領域を同定し、アミノ酸挿入又は欠失を明らかにする。LTC4Sから得られた構造情報に鑑みたMAPEGファミリー配列の整列は実施例1で検討し、整列を図6に示す。
アミノ酸配列間のホモロジーは、別法では又は加えて、上で検討したように、商業的に利用可能なアルゴリズムを使用して決定することができる。既知の構造及び未知の構造のポリペプチドのアミノ酸配列をひとたび整列させると、既知の構造のポリペプチドのコンピュータ表示中の保存アミノ酸の構造を、標的タンパク質の対応アミノ酸に移す。例えば、既知の構造のアミノ酸配列中のチロシンを、標的タンパク質のアミノ酸配列中の対応する相同アミノ酸であるフェニルアラニンによって置き換えられうる。
【0088】
非保存領域に位置するアミノ酸の構造は、標準的なペプチド幾何学を使用することによって又は分子シミュレーション技術、例えば分子力学によって手作業で決定されうる。該プロセスの最終工程は、分子力学及び/又はエネルギー極小化を使用して全体構造を精密にすることによって達成することができる。
かかるホモロジーモデリングは、当業者によく知られている技術である(例えばGreer, Science, Vol. 228, (1985), 1055、及びBlundell等, Eur.J. Biochem, Vol. 172, (1988), 513を参照のこと)。これらの文献に記載されている技術、並びに当該分野で一般的に利用できる他のホモロジーモデリング技術を、本発明を実施する際に使用することができる。
【0089】
よって、本発明の更なる態様は、標的LTC4Sタンパク質又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体(標的タンパク質)の三次元構造を予想する方法であって、標的タンパク質のアミノ酸配列の提示を、2.0Å以下、好ましくは1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIのLTC4Sのアミノ酸配列、又はその選択された座標と整列させ、アミノ酸配列の相同領域を一致させ;2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å以下の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIによって定義されたLTC4S構造の対応領域、又はその選択された座標で前記標的タンパク質の一致した相同領域の構造をモデル化し;前記一致した相同領域の構造を実質的に保存する前記標的タンパク質に対するコンフォメーションを決定する工程を含む方法を提供する。
【0090】
好ましくは、該方法はコンピュータモデル化を使用して実施される。
MAPEGファミリーメンバーは、FLAP、MGST1、MGST2、MGST3、MPGES−1又はLTC4Sタンパク質でありうる。典型的には、MAPEGファミリーメンバーの構造は、未知であるか又は低分解能、例えば2.5Å未満の分解能でのみ知られている。予想される構造は、上に記載したように、例えば、FLAPポリペプチドとのLTC4Sポリペプチドのヘテロ多量体(ヘテロ二量体)又はLTCSの内部セグメントがFLAPの対応するセグメントで置き換えられている融合物に対して予想される構造でありうる。
【0091】
本発明の更なる態様は、標的LTC4Sタンパク質又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体(標的タンパク質)の構造を得る方法であって、前記標的タンパク質の結晶を提供し;前記結晶のX線回折パターンを得、表I又はIIのLTC4S構造±2.0Å未満、好ましくは1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質の骨格原子からの標準二乗偏差、又はその選択された座標で前記標的タンパク質の構造をモデル化することによって、前記標的タンパク質の三次元原子座標構造を計算する工程を含む方法を提供する。
よって、本LTC4S構造は、関連ポリペプチドからX線回折データを解釈するのに有用でありうる。
【0092】
本発明の更なる態様では、ここで提供されるLTC4Sの3D構造は、2D結晶から構造を作成するために電子結晶学的データを解釈するために使用することができる。本発明の更なる態様は、標的LTC4Sタンパク質又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体(標的タンパク質)の構造を得る方法であって、前記標的タンパク質の結晶を提供し;前記結晶の電子回折パターンを得;表I又はIIのLTC4S構造±2.0Å未満、好ましくは1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子からの標準二乗偏差、又はその選択された座標で前記標的タンパク質の構造をモデル化することによって、前記標的タンパク質の三次元原子座標構造を計算する工程を含む方法を提供する。結晶は2D結晶でありうる。
【0093】
本発明の更なる態様は、MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の活性を調節することが予期される化合物を選択し又は設計する方法であって、MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する分子モデル化手段を使用する工程を含み、ここで、MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造を化合物の三次元構造と比較し、前記触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物を選択し、ここで、MAPEGタンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、本発明の先の3通りの態様に係る方法によって予想され又は得られる三次元構造(又はその一部)である方法を提供する。
【0094】
化合物を選択し又は設計するための本発明の方法において、適合される分子構造がファルマコフォアモデルの形態でありうる。
本発明の更なる態様は、合理的薬剤設計のコンピュータベースの方法において、(a)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIで定義されたLTC4Sの座標又はその選択された座標を提供し;(b)複数の分子断片の構造を提供し;(c)分子断片の各々の構造を選択された座標に一致させ;(d)分子断片を単一の分子に組み立てて候補調節因子分子を形成することを含む方法を提供する。
【0095】
該方法は、(a)分子断片又は調節因子分子を取得し又は合成し;(b)分子断片又は調節因子分子をLTC4Sと接触させて、LTC4Sと相互作用する分子断片又は調節因子分子の能力を決定する工程を更に含みうる。
【0096】
選択された座標は、活性部位を定める座標、例えば上で検討されたような基質結合領域又は触媒部位でありうる。断片は、例えば活性部位の異なった部分に適合され得、ついで当業者によく知られている技術を使用して一緒に組み立てられ得る。例えば、Hajduk及びGreer (2007) Nature Reviews Drug Discovery 6, 211-219を参照のこと。
【0097】
本発明の更なる態様は、LTC4Sの三次元構造の提示を得る方法であって、2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIのデータ又はその選択された座標を提供し、前記座標を表す三次元構造を構築することを含む方法を提供する。
【0098】
該構造は、例えば(a)ワイヤ−フレームモデル;(b)チキン−ワイヤモデル;(c)ボール&スティックモデル;(d)空間充填モデル;(e)スティックモデル;(f)リボンモデル;(g)スネークモデル;(h)アローシリンダーモデル;(i)電子密度マップ;(j)分子表面モデルとして提示されうる。
【0099】
本発明の更なる態様は、LTC4S又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体、LTC4S又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体と化合物との複合体と相互作用する化合物の構造を作成し及び/又は化合物の最適化を実施するためのコンピュータ可読の格納媒体又はコンピュータシステムであって、(a)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIのLTC4S座標データ又はその選択された座標であって、LTC4Sの三次元構造を定める前記データ又はその前記選択された座標;(b)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIの座標データ又はその選択された座標に基づく標的の相同モデル化によって作成された標的MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の原子座標データ;(c)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIの座標データ又はその選択された座標を参照してX線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することによって作成された標的MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の原子座標データ;(d)(b)又は(c)の原子座標データから誘導できる構造因子データ;及び(e)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIの原子座標データ又はその選択された座標の一又は複数を含む格納媒体又はコンピュータ可読データを含むシステムを提供する。
かかるコンピュータシステムは本発明の選択又は設計方法を実施するのに有用でありうる。
【0100】
「コンピュータ可読格納媒体」なる用語は当業者にはよく知られており、コンピュータによって直接読むことができアクセスできる任意の媒体又は媒体群を含む。かかる媒体には、限定されるものではないが、磁気格納媒体、例えばフロッピーディスク(登録商標)、ハードディスク格納媒体及び磁気テープ;光学格納媒体、例えば光学ディスク又はCD−ROM;電気格納媒体、例えばRAM及びROM;及びこれらのカテゴリーの混成品、例えば磁気/光学格納媒体が含まれる。
【0101】
「コンピュータシステム」なる用語はまた当業者にはよく知られており、本発明の原子座標データを解析するために使用されるハードウェア手段、ソフトウェア手段及びデータ格納手段を含む。本発明のコンピュータベースのシステムの最小のハードウェア手段は、典型的には中央演算装置(CPU)、ワーキングメモリー及びデータ格納手段、及び例えば入力手段、出力手段等々を含む。モニターをまた設けて構造データを可視化することができる。データ格納手段はRAM又は本発明のコンピュータ可読媒体にアクセスするための手段でありうる。かかるシステムの例は、シリコン・グラフィックス社から入手可能なマイクロコンピュータワークステーション及びサン・マイクロシステムズ製Unixベース、Linuxベース、ウインドウズNT又はIBMのOS/2オペレーティングシステムである。本発明の方法は、例えばインターネットを使用して、本発明の原子座標データに遠隔からアクセスすることによって実施してもよいことが理解される。
【0102】
ここで言及される全ての文献は出典明示によってここに援用する。
以下、本発明を次の非限定的な図面及び実施例を参照して更に詳細に説明する。以下と本明細書の先の部分に与えた全ての文献は出典明示によってここに援用する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】ロイコトリエン生合成におけるキー酵素及び中間体。
【図2A】LTCシンターゼの全体構造。a)左側:ヘリックス1からヘリックス5を示すリボン描画でのLTCシンターゼプロモータの正面図。最後の残基(GSH−複合体構造中の最後の4つ)を除くLTCシンターゼポリペプチド全体は、電子密度マップにおいてトレース可能である。右側:ホモ三量体。結合したグルタチオンは、ボール&スティック描画において活性部位の位置を示す。おおよその膜の位置は黒い線で示している。
【図2B】b)三量体のサイトゾル図で、3つの活性部位の位置を示し、ループ1は各結合ポケットを覆っている。グルタチオンはモデル化した界面活性剤と共にボール&スティック描画で示す。
【図3】基質−及び脂質−タンパク質相互作用。a)三量体タンパク質の表面描画。タンパク質表面を裏打ちする炭素鎖のボール&スティック描画を含む。界面活性剤分子が示され、下方に、結合したグルタチオンが垣間見られる。b)a)に示したLTCシンターゼのサイトゾル側からの断面で、GSHの極性結合ポケットと脂肪族補助基質が結合する間隙を明らかにしている。破線の結合は界面活性剤分子の第二ピラノシドの部分的な占有を強調している。
【図4A】グルタチオン結合。a)ボール&スティック描画で示した結合グルタチオンの電子密度マップ(2F−F,3σで輪郭描画し、精密化前にアポ構造とフェーズ化)。よって、相互作用側鎖を標識する。グルタチオンに対する化学結合は破線で示す。配位した水分子は球として示す。
【図4B】b)アポ及びグルタチオン結合構造における活性部位の重ね合わせ。グルタチオンはスティック描画で示し、アポ構造からのサルフェート分子を示す。
【図5】疎水性結合クレバス及び提案された基質結合と触媒作用の概略機構。a)相互作用し境界にくる残基をスティックとして示して、2つの単量体間の界面を示す。球はシステイニル硫黄が位置している領域を示す。結合した界面活性剤はボール&スティックモデルとして示す。b)a)に対して反時計回りに90°回転させた基質結合領域の側面図。明確にするために、Trp116’クレバスを持つ単量体のみを示す。取り除いた単量体は、疎水性残基を脂質結合間隙に、極性残基をグルタチオンに寄与させる。c)提案された基質結合及びコンジュゲーションの概略図。
【図6】MAPEGファミリーの配列アラインメント。マウス(m)、ラット(r)、ウシ(c)及びニワトリ(ch)由来の他のMAPEGメンバーに整列化させたヒト(h)LTC4Sの一次配列。大文字のGは構造中のGSHに結合している残基を示す。これらの残基の保存を強調している。ヘリックスは対応するヘリックス番号を用いて示している。
【図7】LTCシンターゼによって触媒される反応の概略図。左側のLTAとグルタチオンが非可逆反応で結合されてLTCを形成する。
【図8】金属配位及び結晶充填。a)一つの金属の一つの三量体による完全な配位とヘキサ−ヒスチジンタグによる3つの金属(ドット)の部分的配位を示す核周囲図。b)a)に示されるN末端を配位する十二量体当たり全8金属の金属クラスターによって主に支配されている結晶対称。
【図9】グルタチオン結合。ボール&スティック描画で示した結合グルタチオンに対する電子密度マップ(2F−F,3σで輪郭描画し、精密化前にアポ構造とフェーズ化)を示す活性部位の立体図。よって、相互作用側鎖を単量体によって着色し、標識する。グルタチオンに対する化学結合は破線で示す。
【図10】タンパク質リガンド相互作用の概略図。破線として結合長及び相互作用を示すグルタチオン及び相互作用残基のLIGPLOT。暗い破線はArg104’とシステイニル硫黄の間の相互作用を示す。
【実施例】
【0104】
実施例1:LTC4Sの結晶化及び構造決定
(材料及び方法)
イミダゾール、トリス・ベース、NaCl、KCl、トリトンX−100、デオキシコール酸ナトリウム、S−へキシルグルタチオンアガロース、プロベネシド、還元グルタチオン(GSH)及び2‐メルカプトエタノールは、Sigmaから得られた。ドデシル・マルトシドは、Anatraceから得られた。
【0105】
ヒトLTC4Sは、酵母のヘキサ−ヒスチジン構築物として発現された。膜からの抽出は、トリトンX−100及びトリトン−DOC混合液を用いて行われた。タンパク質は2つのアフィニティークロマトグラフィ・ステップを用いて精製され、ゲル濾過によって最終精製され、界面活性剤をn−ドデシル−D−マルトシドに交換可能とした。
【0106】
(クローニング及びプラスミド構造)
ヒトLTC4ScDNA(I.M.A.G.E. cDNA clone 5277851, MRC geneservice, Cambridge, UK)は、pPICZA(Invitrogen)にサブクローニングされた。His6タグをコード化するN末端配列を追加された両方のcDNA及びベクターはPCRで増幅され、その産物はCaCl2−コンピテント大腸菌(TOP10、Invitrogen)に同時形質転換され、断片を再び結合するために大腸菌の内因性のリコンビナーゼ活性を利用した。結果として生じるプラスミド(pPICZ−hisLTC4S)のタンパク質コード化部分は、DNA塩基配列決定によって確認された。
【0107】
(タンパク質発現及び精製)
発現ベクターはPichia EasyComp Transformationキット(Invitrogen)を用いて、P. pastoris KM71H細胞に形質転換された。組換え細胞は、バッフルフラスコにおいてグリセロール(Invitrogen)が入った2.5Lの最少酵母培地で27℃で培養された。OD600が8−10に達した場合、細胞は0.5%メタノールが入った0.5Lの最少酵母培地中に再懸濁された。細胞は、72時間後、遠心(2500xg、7分)により採取され、50mMトリス−塩酸、pH7.8、100mMKCl及び10%グリセロール中に再懸濁された。細胞は、ガラスビーズ(0.5mm)でホモジナイズされ、スラリーはナイロンネットフィルター(180μm、Millipore)で濾過され、遠心分離された(1500xg、10分)。上清中の膜に結合したタンパク質は、氷上で1時間撹拌しながらトリトンX−100(1%、v/v)及びデオキシコール酸ナトリウム(0.5%、w/v)を用いて可溶化された。遠心(10000xg、10分)の後、上清に10mMイミダゾールを追加し、Ni−セファロースFast Flow(GE Healthcare)にロードされた。カラムは、20mMイミダゾール及び0.1MNaClを追加されたバッファA(25mMトリス−塩酸、pH7.8、10%グリセロール、0.1%トリトンX−100及び5mM2‐メルカプトエタノール)で洗浄され、続いて40mMイミダゾール及び0.5M NaClを含有するバッファAで洗浄した。LTC4シンターゼは、バッファAの300mMイミダゾール、0.5MNaCl及び0.1mMGSHで溶出された。
【0108】
精製の最終ステップは、3mLのS−へキシルグルタチオンアガロースで充填されるカラムで行われた。カラムは0.5M NaCl及び0.1mM GSHを追加されたバッファAで洗浄された。純粋なLTC4シンターゼは、25mMトリス−塩酸、pH7.8、0.1%トリトンX−100、30mMプロベネシド、5mM2−メルカプトエタノール及び0.1mMGSHで溶出された。精製されたタンパク質は、−20℃で凍結保存されるか、又は0.03%w/vDDM(w/v)、20mMトリスpH8.0、300mMNaCl及び0,5mMTCEPで平衡化されたSuperdex200 16/60(GE Healthcare)上でバッファー交換ステップにおいて更に直接ポリッシュされた。LTC4シンターゼを含む画分は、限外濾過によって3.1mg/mlに濃縮された。
【0109】
(結晶化)
結晶は、シッティングドロップ蒸気拡散技術を用いて、3.1mg/mlの膜タンパク質溶液から4℃又は20℃のいずれかで成長させた。結晶は通常は3−4日間後に見られ、およそ7日間後に最適のサイズに到達した。
【0110】
20mMトリスpH8.0、300mMNaCl、0.03%(w/v)DDMを含むタンパク質溶液は、天然タンパク質には200mMNaCl、100mMNaカコジラートpH6.5、2MAmmonium Sulphate(AmSO);GSH誘導体には2%PEG400、100mMHEPES Na、pH7.5、2MAmSO、又は重原子浸漬には100mMビス−トリスpH5.5、2MAmSOのいずれかを含むリザーバー溶液と1:1で混合した。後者では、結晶は20℃で成長させ、2.5mMPtCN中で2時間浸漬し、人工母液において溶解した。
【0111】
GSH誘導体は、同量の6mMGSHを母液に溶解し、タンパク質と混合することにより得て、4℃で24時間浸漬した。
【0112】
全ての結晶は、冷凍保護のために25%グリセロールを追加した対応のリザーバ溶液に移され、液体窒素で急速冷凍された。
【0113】
全てのX線データは、欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)で、ビームラインID14−4及びID23−2について集められた。天然の結晶及びGSHに浸漬された結晶の回折データは、Mosflm及びSCALAを用いて処理され、測定されたが、重原子MADデータ・セットの処理及び測定のためにXDSセットが用いられた。
【0114】
3つの高度に重複した3.2Åのデータセットは、結晶から集められるX線蛍光スペクトルに基づいて、PtLIII端周辺で集められた。XPREP及びSHELXE28のローカル・スケーリングにより正しいことが確認された後、一つのプラチナ・サイトはSHELXDを用いてピークのデータセットにおいて観察される異常な相違に基づいて位置を決定した。望ましい実験的なMAD(多波長異常回折)相は、プログラムSHARP29を用いて得られ、それぞれ非中心性/中心性の反射として0.41/0.26の総合的な性能指数(FOM、overall figure of merit)を生じた。これらの位相はSOLOMON30中の75%溶媒含量を用いて更に改良され、0.88の総合的な性能指数を生じた。
【0115】
モデルは、更にCoot32を用いて構築され、より高い分解能のapo構造及びGSHに結合された構造の、Phaser33との分子置換のために用いられた。タンパク質モデルは、Cootにおいて構築され、Refmac34を用いてRwork/Rfreeがapoモデルは17.6/21.2%、GSHに結合された構造は18.3/22.0%まで改良された。全ての結晶は、80%の溶媒含量を有する非対称の単位につき、一つの単量体を含む、近似のa=b=c=170Å及びα=β=γ=90°の格子寸法の空間群F23から属した。
【0116】
全ての画像は、LIGPLOT36で作製された図10以外はPymol35を用いて用意をされた。
(表8:データ収集、位相整合及び修正統計値)

【0117】
(結果及び考察)
(LTC4構築物及び膜相互作用)
我々は、それぞれ2.0及び2.15Åの分解能でapo及びGSH複合型のヒトLTC4シンターゼの結晶構造を決定した。全てのLTC4Sポリペチドは、最後の残基(GSH複合型構造では最後から4つ目)を除いて、電子密度地図においてトレースできる。さらに、精製のために用いられるN末端6−Hisタグは、明らかに可視であり、8つの金属を配位結合させている12の結晶学的に関連したヘキサ−ヒスチジン・タグ(図8)から成る固有の金属を配位結合させたクラスターを形成する。正しく並んだ界面活性剤又は脂質に由来する多くの伸長された密度が、地図において確認され、精製において用いられる界面活性剤ドデシル・マルトシド(DDM)又は仮想の脂肪族鎖として結晶学的改良に導入された。この種の脂肪族鎖の顕著なクラスターが、ヘリックス5の高い疎水性を強調するヘリックス1、3及び5をパックし、前半はほとんどが疎水性の残基のから成る(図3a)。その天然の膜環境において、界面表面ヘリックスとして、ヘリックス5がわずかに脂質二重層に組み込まれるように方向を変えることは、もっともらしい。
【0118】
LTC4Sは5つの長いα−ヘリックスから成る−最初の4つ(ヘリックス1−4)が膜貫通セグメントを形成するが、ヘリックス5は膜平面の外まで伸長する(図2)。結晶構造は緻密な三量体タンパク質を明らかにし、結晶学的三回軸は3つのサブユニットに関連する。3つのTMヘリックス接続ループのうちの2つは短く(ループ2及び3)、一方、ヘリックス1及び2に接続しているループ1はより長く、11の残基によって構成される。ループ1は、隣接した単量体の上に折りたたまれており、三量体におけるサブユニット相互作用に寄与する(図2)。ヘリックス4及び5はターンを含む短いプロリンによって接続され、ヘリックス5はヘリックス4の延長と見られる。
【0119】
結合したGSHによって同定されるLTC4Sの活性部位は、ループ1が配置される膜表面の近くの2つの隣接した単量体の境界に埋設される。それは、おそらく、タンパク質のこの部分が核の外膜の細胞質内側に面するということである。合成経路の前及び後の工程が膜のサイトゾル側で行われるので、基質と産物の解放及び送達が容易となる。結晶のコンタクトは、C末端のヘリックス、タンパク質の核周囲側のN末端6−Hisタグ、更に、サイトゾル側のループ1及び3によって媒介される。結晶には20%以下のみのタンパク質が含まれるが、高分解能で回折するのは希である。しかしながら、それは、高対称性空間群(F23)及び内部結晶学的322の左右対称を含む興味深い6−His多核金属クラスターによって説明され得る。(図8)。
【0120】
電子密度地図は、結合した界面活性剤と脂質分子(図2a)に由来し得る多くの伸長された電子密度を明らかにする。GSHに浸漬した構造において、1つの仮説のDDM分子は、あるサブユニットのヘリックス1と隣接したサブユニットのヘリックス3との間に形成されるクレバスにおいて、結合したGSHの近くにモデル化される(活性部位をマーク、下記参照)。apo−LTC4Sの構造では、2つのDDM分子がこの領域においてモデル化される。
【0121】
大部分の付加的な脂肪族鎖は、TM領域の核周囲側の半分にも見られ、三量体構造の安定に重要と思われる三量体の中心に見られる一つの伸長鎖を含む。一般に、活性部位ポケットを含む分子の細胞質内側の半分は、より極性がある。酵素の細胞質ゾル側の半分における活性部位の位置は、LTC4Sの補助基質を産生する5−LOと一致しており、サイトゾルにおいて見いだされる。トポロジーは、LTC4SのS28をリン酸化することが知られているプロテインキナーゼC(Gupta N et al. FEBS Lett. (1999) 449(1): 66-70)がサイトゾルにおいて見いだされることとも一致している。
【0122】
LTA4Sの4−ヘリックスTMトポロジーは、LTC4Sの低分解能電子回折画像によっても裏づけられる(Schmidt-Krey et al., 2004, supra)。4つのヘリックスTM構造は、遠縁のMGST1の低分解能電子結晶学構造においても見られた(Holm et al 2006, supra)。
【0123】
(活性部位構造と基質結合)
LTC4シンターゼの活性部位の位置は、明瞭に結合したGSHによって明らかにされた。酵素の活性部位は、ループ1が位置する場所である、一つの単量体のヘリックス1及び2と隣接した単量体のヘリックス3及び4との間の膜表面の近くの隣接した2つの単量体の境界面に埋設している。おそらく、タンパク質のこの部分が核の外膜の細胞質内側に面しているということである。合成経路の前及び後の工程が膜のサイトゾル側で行われるので、基質と産物の解放及び送達が容易となる。GSHは、一つの単量体のヘリックス1及び2と隣接した単量体のヘリックス3及び4の間の境界面において極性のポケットの深部で馬蹄形のコンフォメーションをとる(図2b、3b)。GSHのカルボキシレート部分は基質タンパク質に面する一方、チオール基はDDM分子が結合した膜層に向けられている(図2b)。極性相互作用は、活性部位を構成する両方のサブユニットの残基によって、GSHにおいて形成される(図4a,b)。結合ポケットの基部において、Arg51’とArg30はGSHの2つのカルボキシレートと塩橋を作り、効果的にGSHを折り曲げて、Arg104と相互作用し、結合したDDM分子の近くに位置する膜境界面にそのチオール基を向ける(図3b、4a)。GSHへの付加的な極性相互作用は、Gln53、Asn55’、Glu58’、Tyr59’、Tyr93’及びTyr97’により形成される。いくつか非極性相互作用もまた形成され(Ile27、Pro37、Leu 108’)、その結合ポケットへGSHに望ましい適合を提供する。GSH−結合の詳細な概要について、図10を参照されたい。
【0124】
LTC4Sの構造はGSHを含まないapo型でも決定され、仮想の硫酸イオンはGSHポケットにおいて見いだされる。GSHが結合したLTC4S構造とapo−LTC4S構造との比較により、極性アミノ酸側鎖の局在調整のみがGSH結合により形成されることが明らかとなった(図4b)。GSHと相互作用を示す疎水性の残基と芳香族の残基は2つの構造において非常に類似した位置に存在するのに対して、大部分の極性の残基はGSHの結合でコンフォメーションを変える。ループ1は、少なくとも部分的に、その結合ポケットへのGSHの接近をカバーするように見える(図2b、4b)。したがって、ループ1のフレキシビリティーは反応サイクルにおいて必要かもしれず、GSHの結合においてこのループの構造再配置と一致している(図4)。
【0125】
(親油性LTA4基質の認識)
親油性基質との複合体の酵素の構造は珍しく、事実、その脂質基質と複合した膜内在性酵素又はその望ましい類似体の文献において、電子担体を除いて、直接の構造的情報は利用可能でない(http://blanco.biomol.uci.edu/Membrane_Proteins_xtal.html)。その共存基質LTA4とLTC4Sの結晶学的研究は、化合物を含むエポキシドの寿命が短いため(〜10秒)困難である。GSH複合型LTC4S構造において、疎水性分子は活性部位領域にすでに結合され、脂肪族鎖の長さ及びその頭部の見かけの構造に基づいて、この分子はDDMと配置され、末端糖類の大部分は不規則である(図4a)。12−炭素鎖と一番糖類は、しかしながら、電子密度において明確であり、LTAに重要な構造的類似点を有するように、この結合した界面活性剤が酵素へのLTAの結合に対して望ましいモデルとして役立つかもしれないことを提唱する。脂肪族鎖が酵素脂質境界面上の細長いキャビティにおいて結合すると、この親油性化合物の結合形態は、ω−末端から数えて原子15、GSHチオール基の上に位置しており、LTAがLTA基質のC6の位置でGSHと接合していることと一致している。LTAの提唱された結合キャニオンは、したがって、疎水性の残基により形成される狭く細長いクレバスによって構成される(図4a)。界面活性剤の疎水性のテイル部は、一つのサブユニットのAla20、Leu 24、Ile27と、隣接したサブユニットのTyr59’、Trp116’、Ala112’、Leu115’、Leu108’及びTyr109’に覆われる。基質のω−末端の上に蓋を形成する場合、Trp116’は脂肪族鎖を配置する際に重要な役割を担う。Trp116’ポケットは、脂質のω−末端の位置を固定するための精巧な形態を構成し、GSHチオールでLTAのC6の適切なポジショニングのために効果的に定規としての機能を果たす。GSHのないapo−LTC4S構造において、DDM分子はタンパク質のこの領域にも結合するが、GSH複合型構造(図5b)のDDMと比較すると、界面活性剤分子はさらに脂質二重層中に移入される。この移動の効果は、LTA4のC6に対応する界面活性剤の原子の位置が、GSH構造においてGSHチオールが位置するところから8Å以上のところに見出されるということである。さらに、apo−LTC4S構造における界面活性剤は、そのω−末端と共にTrp116ポケットに留めないが、その代わりにこの末端はポケットの外に位置する。これは、Trp116がLTC4Sの活性部位におけるLTA4の脂肪族鎖のアラインメントにおいて重要な役割を担うという事実の更なるサポートとなる。それは、おそらく活性部位の荷電群をカバーし、脂質と相互作用する表面を伸長することによって、結合GSHが適当な脂質結合クレバスの形成をアシストし、LTAがLTC4Sの活性部位の有効な結合形態となることをも示唆する。
【0126】
GSH結合反応を促進するために、GSHチオールの求核性は、酵素によって強化される可能性が高い。Arg104は、その正電荷によりGSHチオールのpKaシフトを促進するために理想的に配置され、η−窒素の一つは、GSH硫黄(3.2Å)との極性相互作用を媒介し得る。かすかに関連したMGST−123に示唆されるように、この付加的な水素結合アクセプターの欠如に伴う異常に短い硫黄−窒素の距離により、酵素結合チオール基が結晶構造におけるアニオン性チオール酸であることが示唆される。GSHチオールは、LTA4のオキシラン環のアリルC6への求核攻撃のためには良い位置に存在する37。活性部位に位置している明らかな酸残基がなく、このことが基質のCO基にプロトンを供給し得る。それは、おそらくしたがって、基質のオキシアニオンが酵素への水素結合することによって安定するということである。Arg104は、基質のC5の予想される位置の近くに位置しており、したがって、基質のアニオンが安定することをアシストし得る。さらに、Arg31は基質の遠位側に位置しており、この構造においてフレキシブルであるにもかかわらず、この残基は基質アニオンの安定化をもアシストしているようである。結果として生じるSN2機構のキラリティは、活性部位のエポキシドの有効な結合によって特徴付けられる。反応において、LTAのエポキシド酸素の6Sの立体化学がLTCのグルタチオン部分の6R立体構造に完全に変わるように、エポキシドの開口部はキラルの逆転を起こす。
【0127】
図5cは、LTCシンターゼの基質結合及び産物生成の提唱された機構の模式的な概要を表す。提唱された結合スキームにおいて、GSHは、サイトゾルからその結合ポケットに入り、それにより前は脂質膜に存在していたLTAの結合を可能にする。LTAへの親水性の付加は、LTCがサイトゾルの外に移動することを可能にして、おそらくループ1のフレキシビリティに依存する。
【0128】
LTCシンターゼの構造的情報、特にTMセグメントの位置と活性部位残基の位置の構造的情報は、MAPEGファミリーの構造ベースのアラインメントを可能にする(図6)。前の配列アラインメントは、ヒトMAPEGメンバーの共通の進化の起源を示唆し、それは配列保存は低いが、2つの中心TM・セグメント、ヘリックス2及びヘリックス3において有意である14。末端TMセグメント、ヘリックス1及びヘリックス4の配列は、しかしながら、より分岐しており、明確な類似点はサブファミリーのみで見られる。構造ベースのアラインメントにおいて、ヘリックス1の起こりうるアラインメントによって、更なる保存がMAPEGファミリーの活性部位領域に付加される。最初の3つのヘリックスのアラインメントは、大部分のGSHを配位している残基が全てのGSH依存MAPEGメンバーにおいて保存されていることを強く裏づける(FLAP以外の全てのMAPEGメンバーが、GSH依存反応を触媒することは公知である)。これらのヘリックスからGSHを配位している8つの極性残基のうち、5つはGSH依存酵素において完全に保存されているのに対して、残りの3つは主に保存的アミノ酸置換を有する。我々のヘリックス4のアラインメントは、より不確かなものである。ここで提唱される重要な触媒残基であるArg104は、他のGSH依存MAPEGメンバーのヘリックス4のN末端に存在すると予測されるアルギニンと配置される。MGST−1におけるこの潜在的触媒Arg(Arg130)の位置は、MGST−119の低分解能構造と一致しているように見える。GSHを配位しているアミノ酸がMAPEGファミリーにおいて高度に保存されるのに対して、提唱されたLTA4結合クレバスに並んでいる残基はそうでない。大部分の対応している残基が他のファミリーにおいて疎水性であるにもかかわらず、サイズ及び芳香組成は異なる。これは、どのようにMAPEGメンバーが同じポケットにおける異なる脂質基質の結合を認識するために進化したか示しているのかもしれない。しかしながら、それは、例えばMGST−1が非常に非特異的進化したことなど、脂質認識が他のファミリーメンバーでは異なって起こることも示唆し得る。さらに、LTAの頭部の性質は酵素活性の損失なしに可変的であることが示された38,39。頭部への主要な特異性の欠如は、この領域のかなり広い分野で説明され得、カルボキシレートに異なる結合ポケットを供給しないということである(図3a、5a)。
【0129】
結論として、GSHの馬蹄形の結合形態は、GSH依存MAPEGファミリーメンバーの全体にわたって保存され、潜在的に、GSH活性化の構造的基礎が関連しているように見える。LTC4シンターゼでは、位置104のアルギニンは、LTAエポキシドへの求核攻撃のGSHチオール活性化における重要な役割を演じそうである。興味深いLTCシンターゼの脂質結合ポケットが、LTAをTrp116クレバスによって活性部位に適合させ、GSHとの結合のために基質のC6を効果的に配置させる。脂質基質認識のこの原理が主に頭部の性質よりむしろ脂肪族の鎖長に基づくことは、もっともらしい。これは、他の膜内在性酵素における基質認識とも関連しているかもしれない。
【0130】
実施例2:コンピュータによる化合物スクリーニング
構造ベースのドラッグデザインは、最終的に疾患修飾剤(薬剤)となり得る分子を理論的に設計するために、ガイドとして既知の標的の三次元構造を利用する。標的の構造は、X線結晶学又は他の三次元構造決定方法から得られてもよい。
【0131】
好ましくは、結晶は、標的に対する推定上の薬剤の、関連する結合形態及び所望の相互作用を表す標的−リガンド複合体に含まれる。最も好適には、複合型リガンドが標的に対するリード化合物の複数の系列のメンバーとなるように、一連の標的−リガンド複合体は用意される。これは、一以上の所望の標的への特異性を改良するために、他の分子(例えば標的酵素と基質を共有する他の酵素)への結合を減少させるためのリガンド設計を含む。
【0132】
一つ以上の標的−リガンド複合体の三次元構造の試験は、リガンドの結合形態及びリガンドが存在する場合の標的の結合キャビティの理解を高めるであろう。この情報は、結合能を変調させる又は薬剤としての用途に好適な他の特徴を改善し得るリガンドへの改変のための仮説をたてるために、薬品化学又は計算機化学における一以上のツールによって利用することができる。
【0133】
薬品化学のツール及び構造ベースのドラッグデザインの計算機化学は、分子モデリング、仮想スクリーニング及びドッキング、集約コンビナトリアルケミストリーライブラリー、デノボ・リガンド設計、三次元構造決定のための付加的な候補化合物へのガイド及び観察された構造活性相関の合理化を含むが、これに限定されるものではない。
【0134】
医薬の及び計算ツールの応用を通して方向付けられる、又は示唆される潜在的改変は、標的との特異的な相互作用を調節又は確立するためのリガンドの合成、重要でない、又は標的への所望の結合能を損なっていると考えられる群のリガンドからの除去、他の標的に対して相対特異性を調節するリガンドの改変及び標的への結合能へ許容できない効果を及ぼすことのない薬剤のような特性を改良するたまのリガンドの合成を含む。
【0135】
実施例において、酵素活性のスクリーニングにおいて阻害活性を有するとして同定された小分子化合物の構造は、Sybyl(Tripos Inc., 1699 South Hanley Rd., St. Louis, Missouri, 63144, USA)分子モデリング・ソフトウェアを用いてモデル化することができ、Coot(Emsley and Cowtan, Acta Crystallographica D, 2004, 60, 2126-2132)結晶学的モデル設定ソフトウェアを用いて酵素の活性部位領域において同一又は類似の分子のX線結晶構造と比較される。比較に基づいて、酵素の抑制を高める又は弱めるために、構造比較を基礎として、Sybylでモデル化された化合物に変化を起こすことができる。これらのモデルに基づく新規化合物は、合成され、酵素活性スクリーンにおける効果が測定される。おそらく、例えば異なるラウンドで分子/酵素の異なる部分又は化合物の異なる性質に焦点をあて、上記のようにこのプロセスを繰り返すことができる。
【0136】
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【0137】
(X線データ)
表I−GSHなし

























【0138】
表II−GSH配位
























【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコトリエンC4シンターゼ(LTC4S)の活性を調節することが期待される化合物を選択し又は設計するための方法において、LTC4Sの触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する分子モデル化手段を使用する工程を含み、ここで、LTC4Sの触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が化合物の三次元構造と比較され、前記触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物が選択される方法。
【請求項2】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、N末端ヘキサヒスチジンタグを含むLTC4Sポリペプチドに対して決定された三次元構造 (又はその一部) である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、ヒトLTC4Sポリペプチドに対して決定された三次元構造 (又はその一部) である請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、界面活性剤を含む母液溶液を使用して得ることができる結晶のX線解析により得ることができる三次元構造 (又はその一部)である請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
界面活性剤がドデシルマルトシド(DDM)である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
母液溶液が、グルタチオン(GSH)を含有する請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、表Iに示される構造座標(又はその一部分)によって表されるもの、又はそのような構造座標±2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子からの標準二乗偏差でモデル化された構造である請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、表IIに示される構造座標(又はその一部分)によって表されるもの、又はそのような構造座標±2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子からの標準二乗偏差でモデル化された構造である請求項1から4又は6の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
選択された化合物が、「GSH基質結合キャビティ」(完全長ヒトLTC4Sの残基Arg51、Arg30、Arg104、Gln53、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Ile27、Pro37、Leu108又は均等な残基を含む残基によって形成される);「親油性基質結合クレバス」(Ala20、Leu24、Ile27、Tyr59、Trp116、Ala112、Leu115、Leu108、Tyr109、Leu62、Val119、Thr66、Val16及びLeu17、又は均等な残基を含む残基によって形成される);又は「触媒部位」(Arg104又はArg31、又は均等な残基を含む残基によって形成される)と称される構造領域の少なくとも一部をブロックし又はそれに結合することが予想される請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
選択された化合物を合成し、精製し、及び/又は製剤化する工程を更に含む請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
化合物がLTC4Sの活性を調節するかどうかを評価し、活性を調節する化合物を選択する工程を含む請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
化合物が全細胞、組織又は生物中におけるLTC4シグナル伝達を調節するかどうかを評価し、活性を調節する化合物を選択する工程を含む請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
化合物が全細胞、組織又は生物中におけるLTC4Sの活性を調節するかどうかを評価し、活性を調節する化合物を選択する工程を更に含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
選択された化合物を合成し、精製し、及び/又は製剤化する工程を更に含む請求項10から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
LTC4Sの活性を調節する化合物の製造方法であって、1)請求項1から14の何れか一項に記載の方法を実施し、2)選択された化合物を合成し、精製し、及び/又は製剤化することを含む方法。
【請求項16】
完全長ヒトLTC4SのArg51、Arg30、Arg104、Gln53、Asn55、Glu58、Tyr59、Tyr93、Tyr97、Ile27、Pro37、Leu108、Ala20、Leu24、Ile27、Tyr59、Trp116、Ala112、Leu115、Leu108、Tyr109、Leu62、Val119、Thr66、Val16及びLeu17又はArg31に等価な一又は複数の残基が変異されている変異LTC4Sポリペプチド。
【請求項17】
請求項16に記載の変異LTC4Sをコードするポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項16に記載の変異LTC4Sを発現させるのに適した請求項17に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項17又は18に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項20】
請求項16に記載の変異LTC4Sの製造方法であって、前記変異LTC4Sを発現する請求項19に記載の宿主細胞を培養し、前記変異LTC4Sを単離することを含む方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法によって得ることができる変異LTC4S。
【請求項22】
LTC4Sの活性を調節する化合物を同定し又は特徴付けする方法であって、請求項16又は21の何れかに記載の変異LTC4Sの活性に対する化合物の効果、又はそれに対する化合物の結合能を決定する工程を含む方法。
【請求項23】
請求項16又は21に記載の通りに変異されていないLTC4Sの活性に対する化合物の効果、又はそれに対する化合物の結合能を決定する工程を更に含む請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(1)請求項16又は21に記載の変異LTC4S、(2)請求項16又は21に記載されたように変異されていない対応するLTC4Sを含有するパーツのキット。
【請求項25】
請求項1から3の何れか一項に記載のポリペプチドの三次元結晶形態。
【請求項26】
空間群F23に属し、及び/又は48LTC4S鎖を含む単位格子を有し、及び/又は金属イオンが配位した複数の隣接ヒスチジンタグ(例えば各LTC4S三量体に対して3又は各単位格子に対して12)を含む請求項25に記載の結晶形態。
【請求項27】
結晶形態が共結晶化分子を更に含む請求項25又は26に記載の三次元結晶形態。
【請求項28】
共結晶化分子がGSH又はDDMのような界面活性剤である請求項27に記載の三次元結晶形態。
【請求項29】
共結晶化分子がLTC4S活性を調節する請求項27又は28に記載の三次元結晶形態。
【請求項30】
1)請求項1から3の何れか一項に記載のポリペプチドを提供し;2)請求項1から14の何れか一項に記載の方法を使用して選択される化合物を提供し;3)請求項1から3の何れか一項に記載のポリペプチドと選択された化合物を含有する組成物で結晶化試験を実施することを含む、請求項25から29の何れか一項に記載の結晶形態を調製し又は調製を試みる方法。
【請求項31】
LTC4Sの活性部位又は基質結合領域(又はその一部)の結晶又は構造;又は試験化合物に結合したLTC4Sの活性部位又は基質結合領域(又はその一部)の結晶又は構造の生成における請求項1から3の何れか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項32】
請求項1から3の何れか一項に記載のポリペプチドと選択された化合物を含有する組成物で結晶化試験を実施する工程を更に含む請求項1から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
標的LTC4Sタンパク質又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体(標的タンパク質)の三次元構造を予想する方法であって、標的タンパク質のアミノ酸配列の提示を、2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å以下の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIのLTC4Sのアミノ酸配列、又はその選択された座標と整列させ、アミノ酸配列の相同領域を一致させ;2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å以下の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIによって定義されたLTC4Sの対応領域、又はその選択された座標で前記標的タンパク質の一致した相同領域の構造をモデル化し;前記一致した相同領域の構造を実質的に保存する前記標的タンパク質に対するコンフォメーションを決定する工程を含む方法。
【請求項34】
標的LTC4Sタンパク質又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体(標的タンパク質)の構造を得る方法であって、前記標的タンパク質の結晶を提供し;前記結晶のX線回折パターンを得、表I又はIIのLTC4S構造±2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質の骨格原子からの標準二乗偏差、又はその選択された座標で前記標的タンパク質の構造をモデル化することによって、前記標的タンパク質の三次元原子座標構造を計算する工程を含む方法。
【請求項35】
MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の活性を調節することが予期される化合物を選択し又は設計する方法であって、MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する分子モデル化手段を使用する工程を含み、ここで、MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造を化合物の三次元構造と比較し、前記触媒部位又は基質結合領域と相互作用することが予想される化合物を選択し、ここで、MAPEGタンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の触媒部位又は基質結合領域の少なくとも一部の三次元構造が、請求項33、34又は44に記載の方法によって予想され又は得られる三次元構造(又はその一部)である方法。
【請求項36】
適合される分子構造がファルマコフォアモデルの形態である請求項1から14又は35の何れか一項に記載の方法。
【請求項37】
合理的薬剤設計のコンピュータベースの方法において、(a)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIで定義されたLTC4Sの座標又はその選択された座標を提供し;(b)複数の分子断片の構造を提供し;(c)分子断片の各々の構造を選択された座標に一致させ;(d)分子断片を単一の分子に組み立てて候補調節因子分子を形成することを含む方法。
【請求項38】
(a)分子断片又は調節因子分子を取得し又は合成し;(b)分子断片又は調節因子分子をLTC4Sと接触させて、LTC4Sと相互作用する分子断片又は調節因子分子の能力を決定する工程を更に含む請求項37に記載の方法。
【請求項39】
LTC4Sの三次元構造の提示を得る方法において、2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIのデータ又はその選択された座標を提供し、前記座標を表す三次元構造を構築することを含む方法。
【請求項40】
構造が、(a)ワイヤ−フレームモデル;(b)チキン−ワイヤモデル;(c)ボール&スティックモデル;(d)空間充填モデル;(e)スティックモデル;(f)リボンモデル;(g)スネークモデル;(h)アローシリンダーモデル;(i)電子密度マップ;(j)分子表面モデルとして提示される請求項39に記載の方法。
【請求項41】
LTC4S又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体、LTC4S又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体と化合物との複合体と相互作用する化合物の構造を作成し及び/又はその最適化を実施するためのコンピュータシステムであって、(a)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIのLTC4S座標データ又はその選択された座標であって、LTC4Sの三次元構造を定める前記データ又はその前記選択された座標;(b)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIの座標データ又はその選択された座標に基づく標的の相同モデル化によって作成された標的MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の原子座標データ;(c)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIの座標データ又はその選択された座標を参照してX線結晶学的データ又はNMRデータを解釈することによって作成された標的MAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体の原子座標データ;(d)(b)又は(c)の原子座標データから誘導できる構造因子データ;及び(e)2.0Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子の標準二乗偏差だけ変動してもよい表I又はIIの原子座標データ又はその選択された座標の一又は複数を含むコンピュータ可読データを含むシステム。
【請求項42】
前記原子座標データが、請求項9に列挙された残基によって提供される原子の少なくとも一つに対するものである請求項41に記載のコンピュータシステム。
【請求項43】
ロイコトリエンC4シンターゼ(LTC4S)の活性を調節することが期待される化合物を選択し又は設計する方法であって、LTC4Sのサブユニット相互作用領域と相互作用することが予想される化合物を選択し又は設計する分子モデル化手段を使用する工程を含み、ここで、LTC4Sのサブユニット相互作用領域の少なくとも一部の三次元構造が化合物の三次元構造と比較され、前記基質相互作用領域と相互作用することが予想される化合物が選択される方法。
【請求項44】
標的LTC4Sタンパク質又は他のMAPEGファミリーメンバータンパク質又はそのホモ-又はヘテロ多量体(標的タンパク質)の構造を得る方法であって、前記標的タンパク質の結晶を提供し;前記結晶の電子回折パターンを得;表I又はIIのLTC4S構造±2.0Å未満、好ましくは1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満のタンパク質骨格原子からの標準二乗偏差、又はその選択された座標で前記標的タンパク質の構造をモデル化することによって、前記標的タンパク質の三次元原子座標構造を計算する工程を含む方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−527246(P2010−527246A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508893(P2010−508893)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001584
【国際公開番号】WO2008/142366
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509318918)バイオリポックス エービー (1)
【Fターム(参考)】