説明

旋回制御装置、旋回制御方法、および建設機械

【課題】 旋回体の静止状態を確実に維持できる旋回制御装置、旋回制御方法、および建設機械を提供すること。
【解決手段】 旋回制御装置100は、作業機を搭載した建設機械に適用されるとともに、電動モータ5で駆動される旋回体の旋回動作を制御するものであって、電動モータ5の制御指令の生成および出力を行う制御指令生成手段130と、旋回レバー10の操作量に基づいて生成される旋回体の目標速度が、旋回レバー10が中立位置にある場合に所定の閾値を下回ったかを判定する目標速度判定手段140と、目標速度判定手段140の判定結果に応じて、旋回制御装置100の制御系の変更を行う制御系変更手段150とを備え、制御系変更手段150は、制御系の変更として、制御指令生成手段130での速度ゲインを切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機を搭載した建設機械に適用されるとともに、電動モータで駆動される旋回体の旋回動作を制御する、旋回制御装置、旋回制御方法、および旋回体が電動モータによって旋回する建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、旋回体を電動モータで駆動し、他の作業機や走行体を油圧アクチュエータで駆動するハイブリットタイプの電動旋回ショベルが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
このような電動旋回ショベルでは、旋回体の旋回動作が電動モータで行われるため、油圧駆動されるブームやアームの上昇動作と同時に旋回体を旋回させても、旋回体の動作がブームやアームの上昇動作に影響されることがない。このため、旋回体をも油圧駆動する場合に比し、制御バルブ等でのロスを少なくでき、エネルギ効率が良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−11897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電動旋回ショベルにおいては、例えば傾斜地にあって、下方側に向けて旋回している旋回体を途中で止めようとしても、旋回体がブーやアームの重量に負けてしまって完全には静止できず、そのまま最下方位置までずるずると動いてしまう可能性がある。つまり、旋回体の静止状態を維持するために、旋回レバーを中立位置(ニュートラル)に戻しているにもかかわらず、旋回体が惰性的に動いてしまうのである。
【0005】
本発明の目的は、旋回体の静止状態を確実に維持できる旋回制御装置、旋回制御方法、および建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の旋回制御装置は、作業機を搭載した建設機械に適用されるとともに、電動モータで駆動される旋回体の旋回動作を制御する旋回制御装置であって、前記電動モータの制御指令の生成および出力を行う制御指令生成手段と、操作体の操作量に基づいて生成される前記旋回体の目標速度が、操作体が中立位置にある場合に所定の閾値を下回ったかを判定する目標速度判定手段と、前記目標速度判定手段の判定結果に応じて、前記旋回制御装置の制御系の変更を行う制御系変更手段とを備え、前記制御系変更手段は、前記制御系の変更として、前記制御指令生成手段での速度ゲインを切り換えることを特徴とする。
【0007】
本発明の旋回制御装置において、前記制御系変更手段は、前記速度ゲインをゲイン小からゲイン大へ切り換えることが望ましい。
【0008】
本発明の旋回制御方法は、作業機を搭載した建設機械に適用されるとともに、電動モータで駆動される旋回体の旋回動作を制御するための旋回制御方法であって、前記電動モータの制御指令の生成および出力を行うステップと、操作体の操作量に基づいて生成される前記旋回体の目標速度が、操作体が中立位置にある場合に所定の閾値を下回ったかを判定するステップと、この判定の結果、前記目標速度が所定の閾値を下回ったと判定された場合に、前記旋回制御方法の制御系の変更を行うステップとを備え、前記旋回制御方法の制御系の変更を行うステップは、前記制御系の変更として、前記制御指令の生成および出力を行うステップの速度ゲインを切り換えることを特徴とする。
【0009】
本発明の建設機械は、電動モータで旋回駆動される旋回体と、この旋回体を制御するための本発明の旋回制御装置とを備えていることを特徴とする。
【0010】
このような本発明によれば、操作体の操作量に基づいて生成される前記旋回体の目標速度が、所定の閾値を下回ったと判定された場合には、旋回制御装置の制御系の変更として制御パラメータを変更し、通常の制御の場合よりもより大きな制動トルクを生じさせるため、旋回体の静止状態が確実に維持されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】本発明の第1実施形態に係る建設機械が旋回体の正面を斜面の上方側に向けて置かれている状態を示す模式図。
【図1B】本発明の第1実施形態に係る建設機械が下方側に向けて旋回体を旋回させその途中で静止させた状態を示す模式図。
【図2】第1実施形態の建設機械を模式的に示す平面図。
【図3】前記第1実施形態に係る建設機械の全体構成を示す図。
【図4】前記第1実施形態の制御を説明するための図。
【図5】前記第1実施形態に係る旋回制御装置の制御構造を示すブロック図。
【図6】前記第1実施形態の制御を説明するための別の図。
【図7】前記第1実施形態のフローチャート。
【図8】第2実施形態であって参考例の制御を説明するための図。
【図9】第3実施形態に係る旋回制御装置の制御構造を示すブロック図。
【図10】前記第3実施形態の制御を説明するための図。
【図11】前記第3実施形態のフローチャート。
【図12】本発明の変形例の制御構造を示すブロック図。
【図13】本発明の変形例のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1実施形態〕
〔1−1〕全体構成
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1Aは、本実施形態に係る電動旋回ショベル(建設機械)1が、旋回体4の正面を斜面の上方側に向けて置かれている状態を示す模式図であり、図Bは、旋回体4を下方側に向けて旋回させてその途中(略90°の位置、図2参照)で静止させた状態を示す模式図である。図2は、電動旋回ショベル1を模式的に示す平面図である。また、図3は、電動旋回ショベル1の全体構成を示すブロック図、図4は、電動旋回ショベル1での旋回体4の制御を説明するための図である。
【0013】
図1A、図1B、および図2において、電動旋回ショベル1は、下部走行体2を構成するトラックフレーム上にスイングサークル3を介して設置された旋回体4を備え、この旋回体4がスイングサークル3と噛合する電動モータ5によって旋回駆動される。旋回体4には、ブームシリンダ21(図3参照)によって動作されるブーム6、アームシリンダ22(図3参照)によって駆動されるアーム7、およびバケットシリンダ23(図3参照)によって駆動されるバケット8が設けられておいる。そして、これらによって作業機9が構成されている。
【0014】
図3において、前述の各シリンダ21〜23は油圧シリンダであり、その油圧源は、後述するエンジン14で駆動される油圧ポンプ19である。従って、電動旋回ショベル1は、油圧駆動の作業機9と電気駆動の旋回体4とを備えたハイブリット建設機械である。
【0015】
また、図3に示すように、電動旋回ショベル1は、前述した構成の他、旋回レバー(操作体)10、燃料ダイヤル11、モード切換スイッチ12、目標速度設定装置13、エンジン14、発電モータ15、インバータ16、キャパシタ17、電動モータ5、回転速度センサ18、油圧制御バルブ20、右走行モータ24、左走行モータ25、および旋回制御装置100を備えている。
【0016】
燃料ダイヤル11はエンジンへの燃料供給(噴射)量を制御するためのダイヤル、モード切換スイッチ12は各種作業モードを切り換えるためのスイッチであり、電動旋回ショベル1の運転状況に応じて、オペレータが操作する。
目標速度設定装置13は、燃料ダイヤル11の設定状態、モード切換スイッチ12の設定状態、および旋回レバー10(通常はアーム7操作用の作業機レバーを兼用)の傾倒角度に基づいて、旋回体4の目標速度を設定し、旋回制御装置100に出力する。
【0017】
エンジン14は、各油圧シリンダ21〜23の油圧源となる油圧ポンプ19、および発電モータ15を駆動する。この油圧ポンプ19で発生した油圧を用いて、ブームシリンダ21はブーム6(図2参照)を、アームシリンダ22はアーム7(図2参照)を、そしてバケットシリンダ23はバケット8(図2参照)をそれぞれ駆動する。また、右走行モータ24および左走行モータ25は油圧モータであり、油圧ポンプ19はこの油圧源としても使用されている。
【0018】
発電モータ15、インバータ16、キャパシタ17は、その組合せにより、電動モータ5の電力源となる。なお、発電モータ15は、電動モータを兼ねた発電機としても機能する。
電動モータ5は、スイングサークル3を介して旋回体4を旋回駆動する。また、電動モータ5には、回転速度センサ18が設置されている。回転速度センサ18は、電動モータ5の回転速度を検出し、その回転速度は旋回制御装置100へフィードバックされる。
【0019】
旋回制御装置100は、目標速度設定装置13により設定された旋回体4の目標速度と、回転速度センサ18により検出される電動モータ5の回転速度に基づいて、制御ゲインである速度ゲインKを用いたP制御(比例制御)で速度制御を行い、電動モータ5に対する制御指令であるトルク指令値を生成する。本実施形態の場合、旋回制御装置100はインバータであり、トルク指令値を電流値および電圧値に変換して電動モータ5に出力し、電動モータ5のトルク出力を制御する。
なお、旋回制御装置100は、例えばスイッチング等により電動モータを駆動する指令を行えるものであれば、インバータ以外のものであってもよい。
【0020】
ところで、速度制御を用いると、図1B、図2に示すように、電動旋回ショベル1が斜面上にあって、下方側に向けて旋回している旋回体4を途中で止めようとしても、旋回体がブーム6やアーム7の重量に負けてしまって完全には静止できず、そのまま最下方位置までずるずると動いてしまう可能性がある。これを、図4を用いて説明する。
【0021】
図4は、オペレータが旋回体4を停止させようと旋回レバー10をニュートラル位置に戻した場合の、レバー操作量、目標速度、および電動モータ5の実速度の関係を表している。オペレータが矢印Aの時点から旋回レバー10を戻し始めた場合(直線状の実線)、目標速度設定装置13は、これに若干遅れて追従するように目標速度を下げていく(二点鎖線)。さらに、旋回制御装置100の旋回体4の制御により、実速度も目標速度に若干遅れて追従する(曲線状の実線)。これは、目標速度と実速度との偏差に応じた制動トルクが電動モータ5から出力されているからである。
【0022】
そして、旋回レバー10が完全にニュートラルに戻り、操作量が「0(ゼロ)」になると、目標速度設定装置13は、矢印Bの時点で「0」となるような目標速度を設定する。これに伴って、旋回体4の実速度も「0」に向かう。ところが、前述の速度制御によれば、ブーム6やアーム7の重量が非常に大きいために、制動トルクに打ち勝って旋回体4がさらに下方に流れてしまい、一点鎖線で示す低速度で旋回してしまう。この場合、一点鎖線で示した実速度と目標速度「0」との僅かな偏差により、依然として制動トルクが発生しているのであるが、速度ゲインKが操縦性を考慮して比較的小さく設定されているために、この偏差での最大制動トルクを発生させても、制動トルクがブーム6やアーム7の重量に負けてしまうのである。
【0023】
そこで、本実施形態の旋回制御装置100では、目標速度が図4に示す速度閾値Vを下回った時点で(矢印C)、制御則を速度制御から位置制御に切り換える。つまり、少なくとも目標速度が「0」の時には、制御則が切り換わっており、これによって実速度を曲線状の実線で示すように「0」とし、旋回体4を確実に停止させるとともに、停止位置での静止状態を維持するようにしている。
【0024】
このため、本実施形態の旋回制御装置100は、図5に示すように、目標速度が図4に示す速度閾値Vを下回ったか否かを判定する目標速度判定手段140と、この判定結果に応じて、制御則を速度制御から位置制御に切り換える制御系変更手段150とを設けている。
【0025】
〔1−2〕旋回制御装置100の制御構造
次に、図5および図6を参照して、旋回制御装置100による旋回体4の制御構造について説明する。
旋回制御装置100は、旋回位置出力手段110、制御指令生成手段130、目標速度判定手段140、制御系変更手段150、基準位置記憶手段120、および基準位置更新手段160により構成される。
【0026】
旋回位置出力手段110は、回転速度センサ18から出力される電動モータ5の回転速度を積分し、旋回体4の旋回位置情報として出力する。
基準位置記憶手段120は、RAM(Random Access Memory)が用いられ、旋回位置出力手段110の出力値を基準位置として記憶する。基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置は、目標速度判定手段140の判定結果に応じて、その時々の旋回体4の旋回位置により更新される。
【0027】
制御指令生成手段130は、電動モータ5の制御指令の生成および出力を行う。ここで、制御指令生成手段130は、図6に示すように、制御則を切り換えることで2つの異なった制御を実施する。一方の制御は、目標速度設定装置13で設定される旋回体4の目標速度および回転速度センサ18により検出される電動モータ5の回転速度に基づいて、P(Proportional:比例)制御を行う速度制御である。もう一方の制御は、旋回位置出力手段110の出力値および基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置に基づいて、P制御(比例制御)を行う位置制御である。制御指令生成手段130は、旋回体4の旋回を開始させる時、旋回途中で旋回速度を上げる時、旋回途中で旋回速度下げる時など、旋回体4を停止させる以外の操作において、速度制御を通常の制御として用いる。
【0028】
制御指令生成手段130の速度制御は、目標速度設定装置13で設定される目標速度と、旋回制御装置100にフィードバックされた電動モータ5の回転速度とを比較し、その偏差と速度ゲインKとの掛算により電動モータ5の制御指令であるトルク指令値を生成する。ここで、速度ゲインKは、電動旋回ショベル1の操縦性等を勘案して設定されるものであり、大きすぎるとトルクの出方が急となって旋回体4の動きがぎくしゃくし、小さすぎると旋回体4の旋回動作が緩慢になる。
【0029】
このように、電動モータ5のトルク指令値は、フィードバックされた電動モータ5の回転速度と目標速度との偏差に応じて生成されるため、旋回レバー10を大きく傾けても実速度が上がらない場合には、制御指令生成手段130がトルク指令値を大きくして目標速度に近づけるように制御する。ただし、このような制御は、一般的なP制御による速度制御である。
【0030】
一方、制御系変更手段150により制御則が切り換えられた場合、制御指令生成手段130は位置制御を行う。図6において、位置制御における速度ゲインKの値は、速度制御の場合と変わらないが、制御指令生成手段130は、旋回位置出力手段110からフィードバックされた旋回位置と基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置との偏差を、位置ゲインKpとの掛算により増幅し、目標速度設定装置13が生成するより大きな目標速度を生成する。これにより、制御指令生成手段130は、速度制御時よりも大きなトルク指令値を生成するため、電動モータ5で出力される制動トルクも大きくなる。このようにして、旋回制御装置100は、ブーム6やアーム7の重量分に対してその制動トルクで対抗させ、つり合わせることで、旋回体4の静止状態を維持することができる。
【0031】
目標速度判定手段140は、オペレータが旋回体4の停止を要求しているか否かを判定する。具体的に、目標速度判定手段140は、目標速度設定装置13が生成する電動モータ5の目標速度が、所定の閾値を下回ったか否かを判定する。
制御系変更手段150は、目標速度判定手段140の判定結果に応じて、旋回制御装置100の制御系の変更として制御指令生成手段130の制御則の切り換えを行う。
これらの目標速度判定手段140および制御系変更手段150による制御則の切り換えについては、後述する。
【0032】
基準位置更新手段160は、目標速度判定手段140の判定結果に応じて、基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置の更新を行う。すなわち、基準位置更新手段160は、旋回体4を停止させる以外のオペレータによる通常の操作において、基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置を、旋回位置出力手段110の出力値で更新する。一方、目標速度判定手段140により目標速度が「0」になったと判断された時点からは基準位置を更新せず、そのままの値を維持する。そして、この際の基準位置が、旋回体4を停止させるべき位置であり、目標旋回体位置となる。
【0033】
〔1−3〕旋回制御装置100による制御作用
次に、図7に基づいて、旋回制御装置100の、特に目標速度判定手段140および制御系変更手段150による制御則の切り換えについて説明する。
目標速度判定手段140は、旋回レバー10が停止操作によってニュートラルに戻された場合、目標速度が速度閾値Vに達したか否かを判定する(ステップ11:図面上および以下においてはステップを単に「S」と略す)。これによって、オペレータによって旋回レバー10がニュートラルに戻されたか、すなわちオペレータが旋回体4の停止を要求しているか否かを判定する。
【0034】
目標速度が速度閾値Vに達した場合には、制御系変更手段150は、制御指令生成手段130での制御則を速度制御から位置制御に切り換える(S12)。なお、速度制御および位置制御による制御指令の作成については、図4に基づいて前段で説明した通りである。
この際、基準位置更新手段160は、基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置を維持する(S14)。
【0035】
一方、目標速度が速度閾値Vに達しない場合には、制御系変更手段150は、制御指令生成手段130での制御則を切り換えず、そのままの速度制御を維持する(S13)。また、旋回体4を旋回させる操作に入った場合には、再び位置制御から速度制御に戻す。
この際、基準位置更新手段160は、基準位置記憶手段120に記憶されている基準位置を更新する(S15)。
【0036】
〔1−4〕本実施形態による効果
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)電動旋回ショベル1において、旋回体4を停止させる際には、目標速度が速度閾値Vよりも小さいと判定された時点で、旋回制御装置100に設けられた制御系変更手段150が、制御則を速度制御から位置制御に切り換えるため、速度制御の場合よりも、電動モータ5に対してより大きな制動トルクを出力させることができ、旋回体4の静止状態を確実に維持できる。
【0037】
(2)電動モータ5で大きな制動トルク出力を生じさせるためには、速度ゲインKを大きくしている訳ではないから、通常の旋回動作において過大なトルク出力が発生することはなく、電動旋回ショベル1のぎくしゃくした動きを防止でき、乗り心地や操縦性を良好にできる。
【0038】
〔第2実施形態〕
図8には、本発明の第2実施形態であって参考例が示されている。本実施形態は本発明の参考例に係るものである。
本実施形態では、旋回制御装置100の制御系変更手段150が、旋回制御装置100の制御系の変更として、制御指令生成手段130の制御則をP制御の速度制御からPI(Proportional Integral:比例積分)制御の速度制御に切り換える。従って、本実施形態では位置制御を行わないため、前記第1実施形態における旋回位置出力手段、基準位置記憶手段、および基準位置更新手段は設けられていない。その他の構成は、前記第1実施形態と同じである。
【0039】
このような本実施形態によれば、目標速度が「0」になってからの目標速度と実速度との偏差は、通常のP制御による速度制御においては残留偏差として見なされるため、実速度が目標速度の「0」となることはなく、静止状態を維持することは困難であるが、制御指令生成手段130のPI制御による速度制御では、僅かの残留偏差を時間的に累積し、所定の大きさになった時点でトルク指令を加算して偏差を無くすように動作させる。従って、旋回制御装置100は、通常制御よりも大きな制動トルクを出力させることができ、旋回体4の静止状態を確実に維持できる。
しかも、速度ゲインKはそのままであるから、乗り心地や操縦性を良好に維持できる。
【0040】
〔第3実施形態〕
図9、図10には、本発明の第3実施形態が示されている。
本実施形態での旋回制御装置100の制御構造は、図9に示すように、操作状態判定手段170、制御指令生成手段130、目標速度判定手段140、制御系変更手段150、および制御ゲイン記憶手段190で構成される。
【0041】
本実施形態では、制御指令生成手段130の制御則を切り換えるのではなく、図10に示すように、制御ゲインである速度ゲインKをより大きな値に切り換えることにより、旋回体4の静止状態を維持させるように構成されている。このために、制御ゲイン記憶手段190には、この際の速度ゲインの切り換えに用いられる旋回体4の速度ゲインが、複数記憶されている。
【0042】
また、本実施形態では、図9に示すように、操作状態判定手段170が設けられ、旋回レバー10の操作量が「0」であるか、すなわちニュートラル位置にあるか否かを判定する。これにより、オペレータの操作が旋回体4を確実に停止させる操作であることを判断している。
【0043】
また、本実施形態の電動旋回ショベル1(図2参照)には、図9に示すように、傾斜出力手段180が設けられており、電動旋回ショベル1が作業を行っている傾斜面の傾斜度合いについての情報を、制御系変更手段150に出力する。
【0044】
そして、制御系変更手段150は、操作状態判定手段170および目標速度判定手段140の判定結果に応じて、旋回制御装置100の制御系の変更として、速度ゲインの切り換えを行う。その際、制御系変更手段150は、傾斜出力手段180の出力信号により、傾斜度合いに応じた速度ゲインKの値を、制御ゲイン記憶手段190から呼び出して切り換える。つまり、制御ゲイン記憶手段190には、傾斜度合いと速度ゲインとを対応付けるテーブル、あるいはマップ等が記憶されている。
【0045】
なお、制御指令生成手段130は、前記第1実施形態における制御指令生成手段130の速度制御と同じであり、目標速度判定手段140についても、前記第1実施形態と同じであるため、ここでの説明を省略する。また、本実施形態では位置制御を行わないため、前記第1実施形態における旋回位置出力手段、基準位置記憶手段、および基準位置更新手段は設けられていない。
【0046】
次に、図11に基づいて、旋回制御装置100、特に目標速度判定手段140、操作状態判定手段170、および制御系変更手段150の作用について説明する。
図11において、操作状態判定手段170は、旋回レバー10からのレバー操作量を示す信号(図9参照)が「0」で、旋回レバー10がニュートラルにあると判定し(S31)、かつ目標速度判定手段140が目標速度は速度閾値Vを下回ったと判定した場合に(S32)、制御系変更手段150は、傾斜出力手段180からの出力信号に基づいて通常の速度ゲインKを大きなゲインに切り換える(S33)。また、S31、S32において、旋回レバー10がニュートラルにないか、または目標速度が速度閾値Vを下回っていない場合には、停止操作以外の旋回操作と判断され、制御系変更手段150は速度ゲインKを切り換えない(S34)。
【0047】
以上の本実施形態においても、停止判定が行われた場合には、制御系変更手段150が速度ゲインKを大きい値に切り換えるので、より大きな制動トルクを出力でき、旋回体4の静止状態を維持できる。
また、停止判定がなされた場合にのみ、速度ゲインKが大きい値に切り換えられるため、停止以外の旋回時には、速度ゲインKを小さいままに維持でき、乗り心地や操縦性を損なう心配がない。
さらに、本実施形態の特有な構成により、以下の効果がある。
【0048】
(3)停止時に切り換えられる速度ゲインKは、斜面の傾斜の度合いに応じて異なる値が用いられるため、大きな傾斜の時には、より大きな値の速度ゲインKを呼び出して適用でき、小さな傾斜の時には、必要最小限のわずかに大きな値の速度ゲインKで対応できるため、傾斜に応じた緻密な制御を実現できる。
【0049】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記各実施形態では、目標速度が速度閾値Vを下回ったと目標速度判定手段140が判定した時に、制御則または速度ゲインの切り換えを行うようになっていたが、図12に示すように、目標速度判定手段140の代わりに、タイマー時間設定手段200およびタイマー時間判定手段210を設けてもよい。
【0050】
この場合、図13に示すように、タイマー時間判定手段210は、旋回レバー10がニュートラルにある時から一定時間以上経過したか否かをタイマーの時間で判定し(S42)、一定時間以上経過したと判定した場合に、制御系変更手段が制御則や速度ゲインを切り換える(S43)。なお、タイマーの時間設定は、タイマー時間判定手段210の判定結果に応じて、タイマー時間設定手段200が行う(S45,S46)。
本変形例の場合、勿論、一定時間経過した後において、目標速度が「0」に向かうことが前提であるが、S41において、旋回レバー10がニュートラルであることを判断することで、この前提を満足させている。なお、タイマー時間判定手段は、目標速度を直接監視しているわけではないが、旋回体4に対する目標速度が所定の閾値を下回ったことを、時間の経過によって間接的に判定しているといえ、本発明に係る判定手段に相当する。
【0051】
また、前記各実施形態では、制御パラメータを切り換える例として、制御ゲインである速度ゲインKの値を変更する場合について述べたが、これに限定されない。例えば、機械式のブレーキ装置を備えている電動旋回ショベル1において、通常の制御では、速度目標が「0」になってから5秒以上経過した後に、ブレーキ装置発動指令を自動的に出力するように制御されているところを、傾斜面にあっては、より早いタイミング(例えば2秒以下)で発動指令を出力するように出力タイミングのパラメータを変更してもよい。なお、この場合には、傾斜出力手段180を設けることで、タイミングの変更を行うか否かを判定したり、さらには、傾斜の度合いに応じてタイミングを変更することも可能である。
【0052】
そして、切り換え後の制御則、切り換え可能な制御パラメータ、切り換えのタイミングを図る方法などは、以上に説明した組み合わせに限らず、その実施にあたって任意の組み合わせを適用できる。
【0053】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、旋回体が電動モータで旋回駆動されるあらゆる建設機械に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…電動旋回ショベル(建設機械)、4…旋回体、5…電動モータ、10…旋回レバー(操作体)、100…旋回制御装置、130…制御指令生成手段、140…目標速度判定手段、150…制御系変更手段、K…速度ゲイン(制御ゲイン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を搭載した建設機械に適用されるとともに、電動モータで駆動される旋回体の旋回動作を制御する旋回制御装置であって、
前記電動モータの制御指令の生成および出力を行う制御指令生成手段と、
操作体の操作量に基づいて生成される前記旋回体の目標速度が、操作体が中立位置にある場合に所定の閾値を下回ったかを判定する目標速度判定手段と、
前記目標速度判定手段の判定結果に応じて、前記旋回制御装置の制御系の変更を行う制御系変更手段とを備え、
前記制御系変更手段は、前記制御系の変更として、前記制御指令生成手段での速度ゲインを切り換える
ことを特徴とする旋回制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の旋回制御装置において、
前記制御系変更手段は、前記速度ゲインをゲイン小からゲイン大へ切り換える
ことを特徴とする旋回制御装置。
【請求項3】
作業機を搭載した建設機械に適用されるとともに、電動モータで駆動される旋回体の旋回動作を制御するための旋回制御方法であって、
前記電動モータの制御指令の生成および出力を行うステップと、
操作体の操作量に基づいて生成される前記旋回体の目標速度が、操作体が中立位置にある場合に所定の閾値を下回ったかを判定するステップと、
この判定の結果、前記目標速度が所定の閾値を下回ったと判定された場合に、前記旋回制御方法の制御系の変更を行うステップとを備え、
前記旋回制御方法の制御系の変更を行うステップは、前記制御系の変更として、前記制御指令の生成および出力を行うステップの速度ゲインを切り換える
ことを特徴とする旋回制御方法。
【請求項4】
建設機械において、
電動モータで旋回駆動される旋回体と、
この旋回体を制御するための請求項1に記載の旋回制御装置とを備えている
ことを特徴とする建設機械。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−122327(P2012−122327A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24366(P2012−24366)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【分割の表示】特願2006−513561(P2006−513561)の分割
【原出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】