既存建物におけるスラブの補強構造
【課題】安価でかつ簡潔な既存建物におけるスラブの補強構造を提供するものである。
【解決手段】既存建物におけるスラブの補強構造1は、既存スラブ2の下面に圧縮材となる束材3が適宜間隔ごとに設置され、これらの束材3間にはスラブ下面から離間されて束材間引張材4が設置され、スラブ下面両端部に固定された金物に一端部が定着された斜材6を引張材とし、該斜材の他端部と束材間引張材4の端部とが束材3の下端部にボルト接合またはピン接合され、前記束材間引張材4が所定の力で緊張されて既存スラブ2に上向きの力が付与されたことである。
【解決手段】既存建物におけるスラブの補強構造1は、既存スラブ2の下面に圧縮材となる束材3が適宜間隔ごとに設置され、これらの束材3間にはスラブ下面から離間されて束材間引張材4が設置され、スラブ下面両端部に固定された金物に一端部が定着された斜材6を引張材とし、該斜材の他端部と束材間引張材4の端部とが束材3の下端部にボルト接合またはピン接合され、前記束材間引張材4が所定の力で緊張されて既存スラブ2に上向きの力が付与されたことである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既存建物におけるスラブの補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
老朽化してたわみの進行したスラブ、用途変更で積載荷重が増加するスラブ、耐力・剛性などの構造性能が不足するスラブ、振動・遮音性などの住居性能や要求性能の不足するスラブなどは様々な方法で補強されている。この既存建物のスラブの補強構造としては、例えば特公平5−42553号公報、実開平2−50409号公報および特開2001−336116号公報の発明がある。この特公平5−42553号公報の発明は、スラブ下面に設置した間隔保持材に補強線材を掛け渡し、この補強線材の両端部を梁に固定して所定の力で緊張することによりスラブに上向きの力を付与したものである。また実開平2−50409号公報の発明は、鉄筋コンクリート床板を支持するために平行な主桁の上フランジ同士をタイロッドで結合したものである。また特開2001−336116号公報の発明は、コンクリート床板の下面に設けた主桁間に横桁を設置し、該横桁とコンクリート床板との間に連結軸を設けたものである。
【特許文献1】特公平5−42553号公報
【特許文献2】実開平2−50409号公報
【特許文献3】特開2001−336116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の特公平5−42553号公報の発明は、補強線材を設置するための梁上部やスラブ端部における穿孔作業が大変でかつ煩雑な作業となっている。また実開平2−50409号公報の発明は、タイロッドをスラブと平行に設置しているため、スラブに与える上向きの力が弱いという問題があった。また特開2001−336116号公報の発明は、コンクリート床板の下面に設けた主桁がジャッキ機構になっているため高額であるという問題があった。
【0004】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価でかつ簡潔な既存建物におけるスラブの補強構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題を解決するための本願発明の既存建物におけるスラブの補強構造は、既存スラブの下面に圧縮材となる束材が適宜間隔ごとに設置され、これらの束材間にはスラブ下面から離間されて束材間引張材が設置され、スラブ下面両端部に固定された金物に一端部が定着された斜材を引張材とし、該斜材の他端部と束材間引張材の端部とが束材の下端部にボルト接合またはピン接合され、前記束材間引張材が所定の力で緊張されて既存スラブに上向きの力が付与されたことを特徴とする。また束材間引張材および斜材はPC鋼棒であることを含む。また束材間にこれらの束材よりも長い束材が設置され、該長い束材と他の束材との間に束材間引張材が設置されたことを含む。また束材は大梁間に形成された小梁の下面に設置されたことを含む。また束材は上端部側が互いに接続されてスラブの下面に設置されたことを含む。また束材の一方にはジャッキを仮置きするために仮置台が設けられ、該仮置台に束材間引張材の一端部が接続されたことを含む。また一方の束材にジャッキが設置され、該ジャッキの後部を吊り上げる吊上材が斜材に取り付けられたことを含む。また束材間引張材の一方の端部には複数の皿バネを設置して一定の軸力を束材間引張材内部に保持させることを含む。また束材間引張材はタイロッドで形成され、該タイロッドに設けられたターンバックルで緊張されたことを含む。また斜材は二枚の平板であることを含む。また束材の上部にはベースプレートが設置され、該ベースプレートとスラブの下面との間には固化剤が設けられたことを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
束材間引張材に引張力を導入することにより、スラブの固有振動数が上昇し、振動特性を改善することができる。また軸力の導入と共に、スラブは上方にむくり上がり、スラブの過大なたわみの解消に効果がある。また簡便な部材の構成で、同じ室内から束材間引張材の緊張状態を確認しながら床スラブの補強が可能となるので非常に経済的である。また束材間引張材が線状でありかつスラブ下面の接合部が点状であるため、スラブに設置されている設備用ダクトや配管類などをそのままにして補強することができる。また構成する部材や使用する機材が簡便かつ軽量であるため使用中の建物において、また狭隘部の多い案件に対しても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の既存建物におけるスラブの補強構造(以下補強構造という)の実施の形態を図面に基づいて説明する。また各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。この補強構造は、老朽化してたわみの進行したスラブ、用途変更で積載荷重が増加するスラブ、耐力・剛性などの構造性能の不足するスラブ、振動・遮音性などの住居性能や要求性能の不足するスラブなどを補強するものである。
【0008】
図1は第1の実施の形態の補強構造1であり、スラブ2の下面に適宜間隔をもって同じ長さの二本の束材3が設置され、この束材3間にPC鋼棒からなる束材間引張材4が設置されるとともに、束材3とスラブ2との端部、すなわち大梁5との境界部にわたって引張材としての斜材6が設置されて構成されている。この斜材6もPC鋼棒であり、一端部が連結部材7の連結片8にボルト接合され、他端部が大梁5との境界部における固定金物9の固定片10にボルト接合されている。また上記連結部材7は束材3にピン接合されている。
【0009】
一方、束材間引張材4も両端部が束材3の固定片10aにボルト接合され、所定の力で緊張されてスラブ2に上向きの力を付与している。この緊張は束材3の一方に設置したジャッキ11で束材間引張材4の一端部から行うものであり、緊張した後にはジャッキ11を束材3から取り外す。また束材3はベースプレート12でスラブ2の下面に設置され、二枚の縦板13の下部には固定片10aが設置されて形成されている。またベースプレート12とスラブ2の下面との間には緊張作業後に固化する固化剤14も充填されている。
【0010】
図3は、軽量コンクリートを使用した幅が0.65m、スパンが6mの両端を固定した一方向架構の中央スラブに上記の補強構造1、すなわち束材3をスラブ2の下面の2箇所に設置して補強した例である。これは束材3をスパンの1/3の位置、または1/4の位置に設置し、PC鋼棒を26mmφと17mmφとに変化させた場合の斜材における軸力と、上記の一方向スラブの一次固有振動数の関係を表示したものである。ここで26φ・1/3・1/3とは使用したPC鋼棒のサイズが26φであり、束材3の位置が左右ともスパンの3分点であることを示すものである。
【0011】
この図の(1)に示すように、本発明における束材間引張材4に引張力を導入するとスラブ2の固有振動数が上昇し、振動特性が改善できることを確認することができる。また同じく(2)に示すように、軸力の導入とともに、スラブ2は上方にむくり、スラブ2の過大なたわみの解消に効力があることも判明している。
【0012】
また図4は第2の実施の形態の補強構造15である。この補強構造15は二本の束材3のうちの一本を他の束材3よりも短くしたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。これはスラブ2の特定箇所に上向きの力を付与する場合に適用するものであり、長い束材3が設置された箇所に短い束材3が設置された箇所よりも大きな力が付与される。このようにスラブ2の状態に応じて束材3の長さを変えると異なった大きさの力をスラブ2に付与することができるようになり、スラブ上面に重量物が特定位置に載荷される場合に有効である。
【0013】
また図5は第3の実施の形態の補強構造16である。この補強構造16は二本の束材3の間に、これらの束材3よりも長い束材3を設置したものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。これはスラブ2の中央部、すなわち長い束材3を設置した箇所に上向きの力を付与する場合に適用するものであり、スラブが長大スパンで、上向きの押し上げ力を多数点で確保したい場合に有効な方法となる。
【0014】
また図6は第4の実施の形態の補強構造17である。この補強構造17は二本の束材3の上端部が接合されて下側に向かうにしたがって開いたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。この接合された上端部もベースプレート12でスラブ2下面に設置され、この上端部が設置された箇所に上向きの力が付与され、スパンが特に長くない場合に、2箇所の束材を一つにまとめることができて簡便となる。
【0015】
また図7は第5の実施の形態の補強構造18である。この補強構造18は大梁5間の二つの小梁19に束材3が設置されたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。このような構成のスラブ2にも束材3の長さを短くして設置することにより、対応することができる。これも第1の実施の形態の補強構造1と同じ効果を奏するものである。
【0016】
また図8は第6の実施の形態の補強構造20である。この補強構造20は束材間引張材4の一端部、すなわち束材3の外側に複数の皿バネ21を設置したものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。この皿バネ21は、中央の孔22にPC鋼棒の端部が挿入されて設置され、両端側の皿バネ21が内側を座金23側に向けて設置されるとともに、その他は内側を向かい合わせてソロバン珠のようにして設置されている。
【0017】
このように複数の皿バネ21を組み合わせることにより、所定の変位に対して要求する反力を得ることができる。そのときのバネ定数比をPC鋼棒に比べて低くすることができるので、皿バネ21を設置したPC鋼棒において、PC鋼棒の軸力を低下させるような変位が生じても、その変位の大半は、皿バネ21の弾性変位に吸収されて軸力低下が軽減される。
【0018】
したがって、図9に示すように、PC鋼棒単独時に比べて、バネ定数が小さい皿バネ群をその端部に挿入すると、PC鋼棒の緩みが皿バネ群の伸びとして吸収され、そのバネ定数の小ささ故に、PC鋼棒のゆるみ量に対しての皿バネ群の反力低下は小さくて済む。
【0019】
このような複数の皿バネ21を組み合わせる構成は、第1の実施の形態の補強構造1の他に、第2〜第5の実施の形態の補強構造15、16、17、18にも適用される。
【0020】
また図10は第7の実施の形態の補強構造24である。この補強構造24は束材3がスラブ2の下面にピン接合されるとともに、斜材6も二枚の平板になって大梁5との境界部にピン接合され、この斜材6にはジャッキ11の後部を吊り上げる吊上材25が取り付けられたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。
【0021】
このように束材3の上端部がベースプレート12のガセット26に、また斜材6の一端部も大梁5との境界部におけるガセット26にそれぞれピン接合され、斜材6と束材3ともピン接合されたことによりリンク機構を構成している。一方、束材間引張材4であるPC鋼棒にはジャッキ11で所定の力が付与され、このジャッキ11の後部が斜材6からの吊上材25で吊り上げられている。
【0022】
また図11は第8の実施の形態の補強構造27である。この補強構造27は一方の束材3にジャッキ11を仮置きする仮置台28を設け、これに束材間引張材4であるPC鋼棒を接続したものであり、これ以外は第7の実施の形態の補強構造24と同じ構成である。この仮置台28は、束材3に上面が開口した長細い函体29が一体的に接合されて形成され、前面板30にPC鋼棒の一端部がボルト接合されている。
【0023】
また図12は第9の実施の形態の補強構造31である。この補強構造31は束材間引張材4をPC鋼棒に代えてタイロッド32にし、該タイロッド32をターンバックル33で緊張してスラブ2に上向きの力を付与するものであり、これ以外は第7の実施の形態の補強構造24と同じ構成である。これはタイロッド32をターンバックル33で緊張するため、上記のような仮置台28や吊上材25は不要となる。
【0024】
このように束材3の上端部がベースプレートのガセット26に、また平板の斜材6の一端部も大梁との境界部におけるガセット26にそれぞれピン接合され、また平板の斜材6と束材3ともピン接合された構成は、第1〜第6の実施の形態の補強構造1、15、16、17、18、20にも適用できる。
【0025】
また第5の実施の形態の補強構造18のように、二本の束材3が大梁5間の二つの小梁19に設置される構成は、第1〜第4、第6〜第9の実施の形態の補強構造1、15、16、17、20、24、27、31にも適用でき、第6の実施の形態の補強構造20のように、束材間引張材4の一端部に複数の皿バネ21を設置する構成は、第7〜第9の補強構造24、27、31にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施の形態の補強構造であり、(1)は断面図、(2)は束材の正面図、(3)は同斜視図である。
【図2】第1の実施の形態の補強構造の底面図である。
【図3】(1)はスラブの一次振動数を表したグラフ図、(2)はむくり変位を表したグラフ図である。
【図4】第2の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図5】第3の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図6】第4の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図7】第5の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図8】第6の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)は束材の正面図、(3)は同斜視図である。
【図9】(1)および(2)は皿バネによるリラクゼーション緩和効果を表したグラフ図である。
【図10】第7の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)および(3)は束材の斜視図である。
【図11】第8の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)は束材の斜視図である。
【図12】第9の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)は束材の正面図、(3)は同斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1、15、16、17、18、20、24、27、31 補強構造
2 スラブ
3 束材
4 束材間引張材
5 大梁
6 斜材
7 連結部材
8 連結片
9 固定金物
10、10a 固定片
11 ジャッキ
12 ベースプレート
13 縦板
14 固化剤
19 小梁
21 皿バネ
22 孔
23 座金
25 吊上材
26 ガセット
28 仮置台
29 函体
30 前面板
32 タイロッド
33 ターンバックル
【技術分野】
【0001】
本発明は既存建物におけるスラブの補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
老朽化してたわみの進行したスラブ、用途変更で積載荷重が増加するスラブ、耐力・剛性などの構造性能が不足するスラブ、振動・遮音性などの住居性能や要求性能の不足するスラブなどは様々な方法で補強されている。この既存建物のスラブの補強構造としては、例えば特公平5−42553号公報、実開平2−50409号公報および特開2001−336116号公報の発明がある。この特公平5−42553号公報の発明は、スラブ下面に設置した間隔保持材に補強線材を掛け渡し、この補強線材の両端部を梁に固定して所定の力で緊張することによりスラブに上向きの力を付与したものである。また実開平2−50409号公報の発明は、鉄筋コンクリート床板を支持するために平行な主桁の上フランジ同士をタイロッドで結合したものである。また特開2001−336116号公報の発明は、コンクリート床板の下面に設けた主桁間に横桁を設置し、該横桁とコンクリート床板との間に連結軸を設けたものである。
【特許文献1】特公平5−42553号公報
【特許文献2】実開平2−50409号公報
【特許文献3】特開2001−336116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の特公平5−42553号公報の発明は、補強線材を設置するための梁上部やスラブ端部における穿孔作業が大変でかつ煩雑な作業となっている。また実開平2−50409号公報の発明は、タイロッドをスラブと平行に設置しているため、スラブに与える上向きの力が弱いという問題があった。また特開2001−336116号公報の発明は、コンクリート床板の下面に設けた主桁がジャッキ機構になっているため高額であるという問題があった。
【0004】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価でかつ簡潔な既存建物におけるスラブの補強構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題を解決するための本願発明の既存建物におけるスラブの補強構造は、既存スラブの下面に圧縮材となる束材が適宜間隔ごとに設置され、これらの束材間にはスラブ下面から離間されて束材間引張材が設置され、スラブ下面両端部に固定された金物に一端部が定着された斜材を引張材とし、該斜材の他端部と束材間引張材の端部とが束材の下端部にボルト接合またはピン接合され、前記束材間引張材が所定の力で緊張されて既存スラブに上向きの力が付与されたことを特徴とする。また束材間引張材および斜材はPC鋼棒であることを含む。また束材間にこれらの束材よりも長い束材が設置され、該長い束材と他の束材との間に束材間引張材が設置されたことを含む。また束材は大梁間に形成された小梁の下面に設置されたことを含む。また束材は上端部側が互いに接続されてスラブの下面に設置されたことを含む。また束材の一方にはジャッキを仮置きするために仮置台が設けられ、該仮置台に束材間引張材の一端部が接続されたことを含む。また一方の束材にジャッキが設置され、該ジャッキの後部を吊り上げる吊上材が斜材に取り付けられたことを含む。また束材間引張材の一方の端部には複数の皿バネを設置して一定の軸力を束材間引張材内部に保持させることを含む。また束材間引張材はタイロッドで形成され、該タイロッドに設けられたターンバックルで緊張されたことを含む。また斜材は二枚の平板であることを含む。また束材の上部にはベースプレートが設置され、該ベースプレートとスラブの下面との間には固化剤が設けられたことを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
束材間引張材に引張力を導入することにより、スラブの固有振動数が上昇し、振動特性を改善することができる。また軸力の導入と共に、スラブは上方にむくり上がり、スラブの過大なたわみの解消に効果がある。また簡便な部材の構成で、同じ室内から束材間引張材の緊張状態を確認しながら床スラブの補強が可能となるので非常に経済的である。また束材間引張材が線状でありかつスラブ下面の接合部が点状であるため、スラブに設置されている設備用ダクトや配管類などをそのままにして補強することができる。また構成する部材や使用する機材が簡便かつ軽量であるため使用中の建物において、また狭隘部の多い案件に対しても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の既存建物におけるスラブの補強構造(以下補強構造という)の実施の形態を図面に基づいて説明する。また各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。この補強構造は、老朽化してたわみの進行したスラブ、用途変更で積載荷重が増加するスラブ、耐力・剛性などの構造性能の不足するスラブ、振動・遮音性などの住居性能や要求性能の不足するスラブなどを補強するものである。
【0008】
図1は第1の実施の形態の補強構造1であり、スラブ2の下面に適宜間隔をもって同じ長さの二本の束材3が設置され、この束材3間にPC鋼棒からなる束材間引張材4が設置されるとともに、束材3とスラブ2との端部、すなわち大梁5との境界部にわたって引張材としての斜材6が設置されて構成されている。この斜材6もPC鋼棒であり、一端部が連結部材7の連結片8にボルト接合され、他端部が大梁5との境界部における固定金物9の固定片10にボルト接合されている。また上記連結部材7は束材3にピン接合されている。
【0009】
一方、束材間引張材4も両端部が束材3の固定片10aにボルト接合され、所定の力で緊張されてスラブ2に上向きの力を付与している。この緊張は束材3の一方に設置したジャッキ11で束材間引張材4の一端部から行うものであり、緊張した後にはジャッキ11を束材3から取り外す。また束材3はベースプレート12でスラブ2の下面に設置され、二枚の縦板13の下部には固定片10aが設置されて形成されている。またベースプレート12とスラブ2の下面との間には緊張作業後に固化する固化剤14も充填されている。
【0010】
図3は、軽量コンクリートを使用した幅が0.65m、スパンが6mの両端を固定した一方向架構の中央スラブに上記の補強構造1、すなわち束材3をスラブ2の下面の2箇所に設置して補強した例である。これは束材3をスパンの1/3の位置、または1/4の位置に設置し、PC鋼棒を26mmφと17mmφとに変化させた場合の斜材における軸力と、上記の一方向スラブの一次固有振動数の関係を表示したものである。ここで26φ・1/3・1/3とは使用したPC鋼棒のサイズが26φであり、束材3の位置が左右ともスパンの3分点であることを示すものである。
【0011】
この図の(1)に示すように、本発明における束材間引張材4に引張力を導入するとスラブ2の固有振動数が上昇し、振動特性が改善できることを確認することができる。また同じく(2)に示すように、軸力の導入とともに、スラブ2は上方にむくり、スラブ2の過大なたわみの解消に効力があることも判明している。
【0012】
また図4は第2の実施の形態の補強構造15である。この補強構造15は二本の束材3のうちの一本を他の束材3よりも短くしたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。これはスラブ2の特定箇所に上向きの力を付与する場合に適用するものであり、長い束材3が設置された箇所に短い束材3が設置された箇所よりも大きな力が付与される。このようにスラブ2の状態に応じて束材3の長さを変えると異なった大きさの力をスラブ2に付与することができるようになり、スラブ上面に重量物が特定位置に載荷される場合に有効である。
【0013】
また図5は第3の実施の形態の補強構造16である。この補強構造16は二本の束材3の間に、これらの束材3よりも長い束材3を設置したものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。これはスラブ2の中央部、すなわち長い束材3を設置した箇所に上向きの力を付与する場合に適用するものであり、スラブが長大スパンで、上向きの押し上げ力を多数点で確保したい場合に有効な方法となる。
【0014】
また図6は第4の実施の形態の補強構造17である。この補強構造17は二本の束材3の上端部が接合されて下側に向かうにしたがって開いたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。この接合された上端部もベースプレート12でスラブ2下面に設置され、この上端部が設置された箇所に上向きの力が付与され、スパンが特に長くない場合に、2箇所の束材を一つにまとめることができて簡便となる。
【0015】
また図7は第5の実施の形態の補強構造18である。この補強構造18は大梁5間の二つの小梁19に束材3が設置されたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。このような構成のスラブ2にも束材3の長さを短くして設置することにより、対応することができる。これも第1の実施の形態の補強構造1と同じ効果を奏するものである。
【0016】
また図8は第6の実施の形態の補強構造20である。この補強構造20は束材間引張材4の一端部、すなわち束材3の外側に複数の皿バネ21を設置したものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。この皿バネ21は、中央の孔22にPC鋼棒の端部が挿入されて設置され、両端側の皿バネ21が内側を座金23側に向けて設置されるとともに、その他は内側を向かい合わせてソロバン珠のようにして設置されている。
【0017】
このように複数の皿バネ21を組み合わせることにより、所定の変位に対して要求する反力を得ることができる。そのときのバネ定数比をPC鋼棒に比べて低くすることができるので、皿バネ21を設置したPC鋼棒において、PC鋼棒の軸力を低下させるような変位が生じても、その変位の大半は、皿バネ21の弾性変位に吸収されて軸力低下が軽減される。
【0018】
したがって、図9に示すように、PC鋼棒単独時に比べて、バネ定数が小さい皿バネ群をその端部に挿入すると、PC鋼棒の緩みが皿バネ群の伸びとして吸収され、そのバネ定数の小ささ故に、PC鋼棒のゆるみ量に対しての皿バネ群の反力低下は小さくて済む。
【0019】
このような複数の皿バネ21を組み合わせる構成は、第1の実施の形態の補強構造1の他に、第2〜第5の実施の形態の補強構造15、16、17、18にも適用される。
【0020】
また図10は第7の実施の形態の補強構造24である。この補強構造24は束材3がスラブ2の下面にピン接合されるとともに、斜材6も二枚の平板になって大梁5との境界部にピン接合され、この斜材6にはジャッキ11の後部を吊り上げる吊上材25が取り付けられたものであり、これ以外は第1の実施の形態の補強構造1と同じ構成である。
【0021】
このように束材3の上端部がベースプレート12のガセット26に、また斜材6の一端部も大梁5との境界部におけるガセット26にそれぞれピン接合され、斜材6と束材3ともピン接合されたことによりリンク機構を構成している。一方、束材間引張材4であるPC鋼棒にはジャッキ11で所定の力が付与され、このジャッキ11の後部が斜材6からの吊上材25で吊り上げられている。
【0022】
また図11は第8の実施の形態の補強構造27である。この補強構造27は一方の束材3にジャッキ11を仮置きする仮置台28を設け、これに束材間引張材4であるPC鋼棒を接続したものであり、これ以外は第7の実施の形態の補強構造24と同じ構成である。この仮置台28は、束材3に上面が開口した長細い函体29が一体的に接合されて形成され、前面板30にPC鋼棒の一端部がボルト接合されている。
【0023】
また図12は第9の実施の形態の補強構造31である。この補強構造31は束材間引張材4をPC鋼棒に代えてタイロッド32にし、該タイロッド32をターンバックル33で緊張してスラブ2に上向きの力を付与するものであり、これ以外は第7の実施の形態の補強構造24と同じ構成である。これはタイロッド32をターンバックル33で緊張するため、上記のような仮置台28や吊上材25は不要となる。
【0024】
このように束材3の上端部がベースプレートのガセット26に、また平板の斜材6の一端部も大梁との境界部におけるガセット26にそれぞれピン接合され、また平板の斜材6と束材3ともピン接合された構成は、第1〜第6の実施の形態の補強構造1、15、16、17、18、20にも適用できる。
【0025】
また第5の実施の形態の補強構造18のように、二本の束材3が大梁5間の二つの小梁19に設置される構成は、第1〜第4、第6〜第9の実施の形態の補強構造1、15、16、17、20、24、27、31にも適用でき、第6の実施の形態の補強構造20のように、束材間引張材4の一端部に複数の皿バネ21を設置する構成は、第7〜第9の補強構造24、27、31にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施の形態の補強構造であり、(1)は断面図、(2)は束材の正面図、(3)は同斜視図である。
【図2】第1の実施の形態の補強構造の底面図である。
【図3】(1)はスラブの一次振動数を表したグラフ図、(2)はむくり変位を表したグラフ図である。
【図4】第2の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図5】第3の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図6】第4の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図7】第5の実施の形態の補強構造の断面図である。
【図8】第6の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)は束材の正面図、(3)は同斜視図である。
【図9】(1)および(2)は皿バネによるリラクゼーション緩和効果を表したグラフ図である。
【図10】第7の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)および(3)は束材の斜視図である。
【図11】第8の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)は束材の斜視図である。
【図12】第9の実施の形態の補強構造の断面図であり、(1)は断面図、(2)は束材の正面図、(3)は同斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1、15、16、17、18、20、24、27、31 補強構造
2 スラブ
3 束材
4 束材間引張材
5 大梁
6 斜材
7 連結部材
8 連結片
9 固定金物
10、10a 固定片
11 ジャッキ
12 ベースプレート
13 縦板
14 固化剤
19 小梁
21 皿バネ
22 孔
23 座金
25 吊上材
26 ガセット
28 仮置台
29 函体
30 前面板
32 タイロッド
33 ターンバックル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存スラブの下面に圧縮材となる束材が適宜間隔ごとに設置され、これらの束材間にはスラブ下面から離間されて束材間引張材が設置され、スラブ下面両端部に固定された金物に一端部が定着された斜材を引張材とし、該斜材の他端部と束材間引張材の端部とが束材の下端部にボルト接合またはピン接合され、前記束材間引張材が所定の力で緊張されて既存スラブに上向きの力が付与されたことを特徴とする既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項2】
束材間引張材および斜材はPC鋼棒であることを特徴とする請求項1に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項3】
束材間にこれらの束材よりも長い束材が設置され、該長い束材と他の束材との間に束材間引張材が設置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項4】
束材は大梁間に形成された小梁の下面に設置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項5】
束材は上端部側が互いに接続されてスラブの下面に設置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項6】
束材の一方にはジャッキを仮置きするために仮置台が設けられ、該仮置台に束材間引張材の一端部が接続されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項7】
一方の束材にジャッキが設置され、該ジャッキの後部を吊り上げる吊上材が斜材に取り付けられたことを特徴とする請求項1〜6に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項8】
束材間引張材の一方の端部には複数の皿バネを設置して一定の軸力を束材間引張材内部に保持させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項9】
束材間引張材はタイロッドで形成され、該タイロッドに設けられたターンバックルで緊張されたことを特徴とする請求項1に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項10】
斜材は二枚の平板であることを特徴とする請求項1、3〜9のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項11】
束材の上端部にはベースプレートが設置され、該ベースプレートとスラブの下面との間には固化剤が設けられたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項1】
既存スラブの下面に圧縮材となる束材が適宜間隔ごとに設置され、これらの束材間にはスラブ下面から離間されて束材間引張材が設置され、スラブ下面両端部に固定された金物に一端部が定着された斜材を引張材とし、該斜材の他端部と束材間引張材の端部とが束材の下端部にボルト接合またはピン接合され、前記束材間引張材が所定の力で緊張されて既存スラブに上向きの力が付与されたことを特徴とする既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項2】
束材間引張材および斜材はPC鋼棒であることを特徴とする請求項1に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項3】
束材間にこれらの束材よりも長い束材が設置され、該長い束材と他の束材との間に束材間引張材が設置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項4】
束材は大梁間に形成された小梁の下面に設置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項5】
束材は上端部側が互いに接続されてスラブの下面に設置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項6】
束材の一方にはジャッキを仮置きするために仮置台が設けられ、該仮置台に束材間引張材の一端部が接続されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項7】
一方の束材にジャッキが設置され、該ジャッキの後部を吊り上げる吊上材が斜材に取り付けられたことを特徴とする請求項1〜6に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項8】
束材間引張材の一方の端部には複数の皿バネを設置して一定の軸力を束材間引張材内部に保持させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項9】
束材間引張材はタイロッドで形成され、該タイロッドに設けられたターンバックルで緊張されたことを特徴とする請求項1に記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項10】
斜材は二枚の平板であることを特徴とする請求項1、3〜9のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【請求項11】
束材の上端部にはベースプレートが設置され、該ベースプレートとスラブの下面との間には固化剤が設けられたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の既存建物におけるスラブの補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−191960(P2007−191960A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12411(P2006−12411)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(000207621)大日本土木株式会社 (13)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(000207621)大日本土木株式会社 (13)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】
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