説明

既設鉄筋コンクリート壁の補強構造および既設鉄筋コンクリート壁の補強方法

【課題】せん断補強を行うとともに繰り返し荷重を受けることにより生じる主鉄筋の座屈を抑制させることを可能とした既設鉄筋コンクリート壁の補強構造および補強方法を提供する。
【解決手段】一面側から他面側に向けて削孔された有底の第一補強部材挿入孔20と、第一補強部材挿入孔20に挿入された第一補強部材30と、他面側から一面側に向けて削孔された有底の第二補強部材挿入孔40と、第二補強部材挿入孔40に挿入された第二補強部材50とを備え、第一補強部材挿入孔20の底面は他面側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも一面側に位置し、第一補強部材30は第一線材31と一面側の主鉄筋11に係止される第一係止部32とを有していて、第二補強部材挿入孔40の底面は一面側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも他面側に位置し、第二補強部材50は第二線材51と他面側の主鉄筋11に係止される第二係止部52とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設鉄筋コンクリート壁の補強構造および補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設鉄筋コンクリート壁の中には、大きな地震力を受けた場合に、せん断破壊に至る可能性が高いものがある。
近年、このような鉄筋コンクリート壁について、せん断破壊が生じることのないように補強を行う場合がある。
【0003】
従来の鉄筋コンクリート壁の補強方法としては、鉄筋コンクリート壁の表面に沿って主鉄筋及び配力鉄筋を配筋して、コンクリートを打設する増厚工法や、鉄筋コンクリート壁の表面に鋼板を配置して、鉄筋コンクリート壁と鋼板との隙間にモルタルや樹脂等の充填材を充填する鋼板補強工法等が採用されていた。
【0004】
しかし、これらの工法では、補強後に壁の厚さが増大して、躯体の内空断面が減少してしまう等、各種の不都合が生じてしまう(例えば、上下水道浄化施設の場合には、貯水能力や処理能力が減少してしまい、また地下鉄の場合には、建築限界を満足しなくなるため、使用不能となってしまう場合が生じる)。
【0005】
そのため、本出願人は、既設鉄筋コンクリート壁に適用可能なせん断補強方法として、既設鉄筋コンクリート壁の部材厚方向に補強部材挿入孔を削孔し、この補強部材挿入孔に両端に定着部材が固定されたせん断補強鉄筋を配置するとともに充填材を充填するせん断補強構造を開示し、実用化に至っている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
補強部材挿入孔は、既存の主鉄筋や配力鉄筋を傷付けることの無いように、隣り合う主鉄筋同士および配力鉄筋同士の中間となる位置(主鉄筋および配力鉄筋により囲まれた矩形状空間の中央)に形成されている。そのため、せん断補強鉄筋は、既存の主鉄筋または配力鉄筋に係止されることなく、主鉄筋や配力鉄筋とは独立した状態で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−105808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のせん断補強構造は、せん断補強鉄筋により主鉄筋の座屈が生じるまでの変形レベルと同等の変形性能は確保できるものの、せん断補強鉄筋が主鉄筋とは独立しているため、耐力が大きく低下する要因となる主鉄筋の座屈を抑制することはできなかった。
【0009】
このような観点から、本発明は、既設鉄筋コンクリート壁のせん断補強を行うとともに、繰り返し荷重を受けることにより生じる主鉄筋の座屈を抑制させることを可能とした既設鉄筋コンクリート壁の補強構造および補強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造は、壁の一面側と他面側とのそれぞれに主鉄筋および配力鉄筋が配筋された既設鉄筋コンクリート壁の補強構造であって、一面側から他面側に向けて削孔された有底の第一補強部材挿入孔と、前記第一補強部材挿入孔に挿入された第一補強部材と、前記第一補強部材挿入孔の内壁面と前記第一補強部材との隙間に充填された充填材と、他面側から一面側に向けて削孔された有底の第二補強部材挿入孔と、前記第二補強部材挿入孔に挿入された第二補強部材と、前記第二補強部材挿入孔の内壁面と前記第二補強部材との隙間に充填された充填材と、を備え、前記第一補強部材挿入孔の底面は、前記他面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも一面側に位置し、前記第一補強部材は、第一線材と、前記第一線材の一面側の端部に形成されて前記一面側の主鉄筋に係止される第一係止部とを有していて、前記第二補強部材挿入孔の底面は、前記一面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも他面側に位置し、前記第二補強部材は、第二線材と、前記第二線材の他面側の端部に形成されて前記他面側の主鉄筋に係止される第二係止部とを有していることを特徴としている。
【0011】
かかる既設鉄筋コンクリート壁の補強構造によれば、第一補強部材および第二補強部材が既存の主鉄筋に係止されるように配置されているため、繰り返し荷重を受ける際に生じる主鉄筋の座屈を抑制することができる。
また、補強部材と既設鉄筋コンクリート壁は、充填材を介して一体化されているため、既設鉄筋コンクリート壁にせん断力が発生した場合に生じる斜め引張力に対して、一体となって抵抗することになり、せん断耐力が向上する。
【0012】
また、上下に隣り合う前記第一補強部材の間に前記第二補強部材が配置されていれば、一面側から挿入された第一補強部材と他面側から挿入された第二補強部材とを、互いに干渉させることなく、所定の位置に配置させることができる。
【0013】
また、前記第一補強部材は複数の前記第一線材を備えていて、前記複数の第一線材は、それぞれ異なる前記第一補強部材挿入孔に挿入されるとともに前記第一係止部を介して連結されており、前記第二補強部材は複数の前記第二線材を備えていて、前記複数の第二線材は、それぞれ異なる前記第二補強部材挿入孔に挿入されるとともに前記第二係止部を介して連結されていてもよい。
【0014】
また、前記第一係止部は、前記第一線材の基端に固定されたプレート材であり、前記第二係止部は、前記第二線材の基端に固定されたプレート材であってもよい。
さらに、前記プレート材の端部に爪部が形成されていてもよい。
【0015】
また、本発明の既設鉄筋コンクリート壁の補強方法は、壁の一面側と他面側とのそれぞれに主鉄筋および配力鉄筋が配筋された既設鉄筋コンクリート壁の補強方法であって、前記既設鉄筋コンクリート壁の一面側の被りコンクリートを前記一面側の主鉄筋が露出するまではつる第一はつり工程と、前記既設鉄筋コンクリート壁を一面側から他面側に向けて削孔して有底の第一補強部材挿入孔を形成する第一削孔工程と、前記第一補強部材挿入孔に第一補強部材を挿入するとともに充填材を充填する第一補強部材配置工程と、前記既設鉄筋コンクリート壁の一面側に第一断面修復材を設置する第一修復工程と、前記第一断面修復材の養生後、前記既設鉄筋コンクリート壁の他面側の被りコンクリートを前記他面側の主鉄筋が露出するまではつる第二はつり工程と、前記既設鉄筋コンクリート壁を他面側から一面側に向けて削孔して有底の第二補強部材挿入孔を形成する第二削孔工程と、前記第二補強部材挿入孔に第二補強部材を挿入するとともに充填材を充填する第二補強部材配置工程と、前記既設鉄筋コンクリート壁の他面側に第二断面修復材を設置する第二修復工程と、を備え、前記第一削孔工程では、前記第一補強部材挿入孔の底面が前記他面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも一面側に位置するように当該第一補強部材挿入孔を形成し、前記第二削孔工程では、前記第二補強部材挿入孔の底面が前記一面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも他面側に位置するように当該第二補強部材挿入孔を形成し、前記第一補強部材配置工程では、前記第一補強部材の一面側の端部に設けた第一係止部を前記一面側の主鉄筋に係止させるように当該第一補強部材を配置し、前記第二補強部材配置工程では、前記第二補強部材の他面側の端部に設けた第二係止部を前記他面側の主鉄筋に係止させるように当該第二補強部材を配置することを特徴としている。
【0016】
かかる既設鉄筋コンクリート壁の補強方法によれば、補強部材を主鉄筋に係止させた状態で配置することが可能となるため、繰り返し荷重を受けることによる主鉄筋のはらみ出しを防止することが可能となる。
また、被りコンクリートを取り除いたうえで、補強部材挿入孔を形成しているので、補強部材挿入孔を形成する際に既存の鉄筋を目視することが可能となる。したがって、既存の鉄筋を傷つけることなく、所望の位置に補強部材挿入孔を形成することが可能となる。
また、一面側からの施工が完了してから他面側からの施工を行うことで、既設鉄筋コンクリート壁の構造的な強度を維持させた状態での施工が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造および補強方法によれば、既設鉄筋コンクリート壁のせん断補強を行うとともに、繰り返し荷重を受けることにより生じる主鉄筋の座屈を抑制させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施の形態に係る既設鉄筋コンクリート壁の補強構造を示す平断面図である。
【図2】図1のX1−X1矢視図である。
【図3】(a)は補強部材を示す斜視図、(b)および(c)は(a)の変形例である。
【図4】(a)〜(d)は既設鉄筋コンクリート壁の補強方法の各施工段階を示す平断面図である。
【図5】(a)は第二の実施の形態に係る既設鉄筋コンクリート壁の補強構造を示す平断面図、(b)は(a)のX2−X2矢視図である。
【図6】(a)は補強部材を示す斜視図、(b)は(a)の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一の実施の形態>
第一の実施の形態では、図1に示すように、構造壁である既設鉄筋コンクリート壁10の補強構造1について説明する。既設鉄筋コンクリート壁10(以下、単に「RC壁10」という)には、壁の一面側と他面側とのそれぞれに主鉄筋11および配力鉄筋12が配筋されている。
【0020】
主鉄筋11は、図2に示すように、RC壁10に配筋された縦筋であって、所定のピッチにより配筋されている。
また、配力鉄筋12は、RC壁10に配筋された横筋であって、所定のピッチにより配筋されている。
つまり、主鉄筋11,11,…および配力鉄筋12,12,…は、互いに組み合わせることにより格子状を呈している。
【0021】
補強構造1は、第一補強部材挿入孔20と、第一補強部材30と、第二補強部材挿入孔40と、第二補強部材50と、充填材60と、断面修復材70とを備えている。
【0022】
第一補強部材挿入孔20は、RC壁10の一面側(図1において右側)から他面側(図1において左側)に向けて削孔されることで形成されている。
【0023】
第一補強部材挿入孔20には、第一補強部材30が挿入されているとともに、第一補強部材挿入孔20の内壁面と第一補強部材30との隙間に充填材60が充填されている。
本実施形態では、充填材60として、セメント系モルタルを採用する。なお、充填材60を構成する材料は、限定されるものではない。
【0024】
第一補強部材挿入孔20は、第一補強部材30の先端定着部33の外径(幅)よりも大きな内径の円柱状を呈している。なお、第一補強部材挿入孔20の断面形状は限定されるものではない。また、第一補強部材挿入孔20は、必要に応じて部分的に拡径されていてもよい。
【0025】
第一補強部材挿入孔20は、有底であって、その底面は他面側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも一面側に位置している。
また、第一補強部材挿入孔20の開口端は、一面側の配力筋12付近に位置している。
【0026】
本実施形態では、複数の第一補強部材挿入孔20を、千鳥状に配置している(図2参照)。つまり、第一補強部材挿入孔20は、主鉄筋11および配力鉄筋12を格子状に組み合わせることにより形成された複数のマス目に対して、一つ置きに形成されている。
【0027】
また、第一補強部材挿入孔20は、第一補強部材30の後記する第一係止部32を主鉄筋11に係止させることが可能となる位置に形成されている。
【0028】
第一補強部材30は、図1に示すように、その一部が第一補強部材挿入孔20に挿入された状態で、RC壁10に配置されている。
複数の第一補強部材30は、図2に示すように、千鳥状に配置されている。本実施形態では、第一補強部材30は、主鉄筋11および配力鉄筋12を格子状に組み合わせることにより形成された複数のマス目に対して、一つ置きに配置されている。
【0029】
第一補強部材30は、図3の(a)に示すように、第一線材31と、第一線材31の一方の端部に形成された第一係止部32と、第一線材31の他方(第一係止部32と反対側)の端部に形成された先端定着部33とを備えている。
【0030】
第一線材31は、異形鉄筋により構成されており、第一補強部材挿入孔20に挿入される。なお、第一線材31を構成する材料は、RC壁10にせん断力が作用した際に生じる斜め引張に対して、十分な抵抗力を発現することが可能であれば、異形鉄筋に限定されるものではない。
【0031】
第一係止部32は、図3の(a)に示すように、第一線材31の基端に固定された鋼製のプレート材である。第一線材31は、第一係止部32の内面(主鉄筋11側の面)に固定されている。
第一係止部32を構成するプレート材は、第一線材31の外径よりも大きな幅寸法を有している。
【0032】
プレート材の表面積は、第一線材31の断面積よりも大きい。第一係止部32は、摩擦圧接機械を用いて摩擦圧接されている。
【0033】
本実施形態では、長方形状の第一係止部32の中心部(図心)よりも一方の短辺側に第一線材31を固定している。
なお、第一線材31の第一係止部32に対する固定箇所は限定されるものではない。
【0034】
第一係止部32と第一線材31との接合方法は摩擦圧接に限定されるものではなく、例えばガス圧接接合、アーク溶接接合など、一体化が可能であればよい。
第一係止部32の形状は矩形に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、その他の多角形であってもよい。
【0035】
第一係止部32(プレート材)の内面には、爪部34が形成されている。
本実施形態では、第一係止部32の他方(第一線材31と反対側)の短辺の外縁に沿って爪部34を形成している。
【0036】
爪部34は、図1に示すように、主鉄筋11の外径と同程度の高さを有し、第一線材31の基端部と間隔をあけて配置されている。第一補強部材30は、第一線材31と爪部34とにより、主鉄筋11を挟むように配置されている。
【0037】
なお、爪部34の構成は限定されるものではなく、例えば、図3の(b)に示すように第一線材31よりも短い鉄筋を第一係止部32の内面に立設させることにより形成してもよいし、図3の(c)に示すようにプレート材の端部を内側に折り曲げることにより形成してもよい。また、爪部34は、必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【0038】
先端定着部33は、第一線材31の直径よりも大きな幅寸法を有している。本実施形態では、円形の鋼製プレートを第一線材31の先端部に接合することにより構成する。なお、先端定着部33の接合方法は限定されるものではなく、例えば摩擦圧接や溶接接合により行えばよい。
【0039】
また、先端定着部33の形状は限定されるものではなく、例えば、図3の(b)に示すように、矩形状の鋼製プレートを採用してもよい。また、先端定着部33として、第一線材31の先端に固定したナットを先端定着部33としてもよいし、鍛造により拡径した第一線材31の先端を線端定着部33としてもよく、先端定着部33の形成方法は限定されるものではない。
【0040】
第二補強部材挿入孔40は、図1に示すように、RC壁10の他面側(図1において左側)から一面側(図1において右側)に向けて削孔されることで形成されている。
【0041】
第二補強部材挿入孔40には、第二補強部材50が挿入されているとともに、第二補強部材挿入孔40の内壁面と第二補強部材50との隙間に充填材60が充填されている。
【0042】
第二補強部材挿入孔40は、有底であって、その底面は一面側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも一面側に位置している。
また、第二補強部材挿入孔40の他面側は、他面側の配力筋12付近に位置している。
【0043】
本実施形態では、複数の第二補強部材挿入孔40,40,…を、図2に示すように、千鳥状に配置している。つまり、第二補強部材挿入孔40は、主鉄筋11および配力鉄筋12を格子状に組み合わせることにより形成された複数のマス目に対して、一つ置きに形成されていて、上下左右が第一補強部材挿入孔20により囲まれている。
【0044】
また、第二補強部材挿入孔40は、第二補強部材50の後記する第二係止部52を主鉄筋11に係止させることが可能となる位置に形成されている。
【0045】
第二補強部材50は、図1に示すように、その一部が第二補強部材挿入孔40に挿入された状態で、RC壁10に配置されている。
【0046】
複数の第二補強部材50は、千鳥状に配置されている(図2参照)。本実施形態では、第二補強部材50を、主鉄筋11および配力鉄筋12を格子状に組み合わせることにより形成された複数のマス目に対して、一つ置きに配置されているとともに、第一補強部材30が配置されたマス目と異なるマス目に配置されている。すなわち、第二補強部材50は、上下に隣り合う第一補強部材30,30の間に配置されているとともに、左右に配置される第一補強部材30,30の間に配置されている。
【0047】
第二補強部材50は、図3の(a)に示すように、第二線材51と、第二線材51の一方の端部に形成された第二係止部52と、第二線材51の他方(第二係止部52と反対側)の端部に形成された先端定着部53とを備えている。
なお、第二補強部材50の詳細は、第一補強部材30と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0048】
断面修復材70は、主鉄筋11および配力鉄筋12の外面に塗着されたモルタルであって、施工時にはつり取られた被りコンクリートを復元するものである。
なお、断面修復材70を構成する材料は限定されるものではない。
【0049】
次に、第一の実施の形態に係るRC壁10の補強方法について説明する。
当該補強方法は、第一はつり工程と、第一削孔工程と、第一補強部材配置工程と、第一修復工程と、第二はつり工程と、第二削孔工程と、第二補強部材配置工程と、第二修復工程とを備えている。
【0050】
第一はつり工程は、図4の(a)に示すように、RC壁10の一面側の被りコンクリート13を一面側の主鉄筋11の少なくとも一部が露出するまではつる工程である。なお、本実施形態では、配力鉄筋12が露出するまではつるものとするが、配力鉄筋12は、必ずしも露出させなくてもよい。
【0051】
第一削孔工程は、図4の(b)に示すように、RC壁10を一面側から他面側に向けて削孔して有底の第一補強部材挿入孔20を形成する工程である。
【0052】
第一補強部材挿入孔20の削孔は、露出した主鉄筋11および配力鉄筋12の位置を目視で確認した上で、両鉄筋を傷つけることのないように注意しながら、主鉄筋11に近接して形成する。
また、第一補強部材挿入孔20は、その底面が他面側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも一面側に位置するように形成する。
【0053】
第一補強部材挿入孔20の削孔は、インパクト・ドリルやロータリーハンマー・ドリル、コア・ドリルなどの穿孔手段を用いて行う。本実施形態では、第一補強部材挿入孔20が水平となるように、RC壁10の壁面に対して垂直に削孔する。なお、第一補強部材挿入孔20は、必ずしも水平である必要は無いし、壁面に対して垂直に形成する必要も無い。
【0054】
第一補強部材配置工程は、図4の(c)に示すように、第一補強部材挿入孔20に第一補強部材30を挿入するとともに充填材60を充填する工程である。
【0055】
第一補強部材配置工程では、第一補強部材30の一面側の端部に設けた第一係止部32を一面側の主鉄筋11に係止させるように第一補強部材30を配置する。
【0056】
第一補強部材挿入孔20への充填材60の注入は、第一補強部材30を第一補強部材挿入孔20に挿入する前に行ってもよいし、第一補強部材挿入孔20に第一補強部材30を挿入してから行ってもよい。
【0057】
第一修復工程は、図4の(d)に示すように、RC壁10の一面側に断面修復材70(第一断面修復材71)を設置する工程である。
【0058】
第一断面修復材71の設置は、第一はつり工程において撤去した被りコンクリート13と同等の厚みとなるように、モルタルを塗着することにより行う。
【0059】
第一断面修復材71により、主鉄筋11、配力鉄筋12および第一補強部材30をRC壁10内に埋設した状態とする。
第一断面修復材71の塗着が完了したら、所定の強度が発現するまで養生する。
【0060】
第二はつり工程は、第一断面修復材71の養生後、RC壁10の他面側の被りコンクリート13を他面側の主鉄筋11が露出するまではつる工程である。第二はつり工程の詳細は、図4の(a)に示す第一はつり工程と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0061】
第二削孔工程は、RC壁10を他面側から一面側に向けて削孔して有底の第二補強部材挿入孔40を形成する工程である。
【0062】
第二補強部材挿入孔40の削孔は、露出した主鉄筋11および配力鉄筋12の位置を目視により確認した上で、両鉄筋を傷つけることのないように注意しながら、主鉄筋11に近接して形成する。
第二削孔工程では、第二補強部材挿入孔40の底面が一面側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも他面側に位置するように第二補強部材挿入孔40を形成する。
【0063】
第二補強部材挿入孔40の形成方法は、図4の(b)に示す第一補強部材挿入孔20の形成方法と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0064】
第二補強部材配置工程は、第二補強部材挿入孔40に第二補強部材50を挿入するとともに充填材60を充填する工程である。
第二補強部材配置工程では、第二補強部材50の他面側の端部に設けた第二係止部52を他面側の主鉄筋11に係止させるように第二補強部材50を配置する。
【0065】
この他、第二補強部材50および充填材60の配置方法は、図4の(c)に示す第一補強部材30および充填材60と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0066】
第二修復工程は、RC壁10の他面側に断面修復材70(第二断面修復材72)を設置する工程である。
【0067】
本実施形態の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造および既設鉄筋コンクリート壁の補強方法によれば、補強部材30,50を主鉄筋11に係止させるため、主鉄筋11のはらみだしを抑制することができる。つまり、補強部材30,50が、主鉄筋11を外側(壁の外面側)から拘束しているため、RC壁10に地震等による繰り返し荷重が作用したとしても、主鉄筋11の座屈が抑制される。そのため、RC壁10の耐力がより高くなる。
【0068】
また、補強部材30,50とRC壁10は、充填材60を介して一体化されているため、RC壁10にせん断力が発生した場合に生じる斜め引張力に対して、一体となって抵抗することになり、せん断耐力が向上する。
また、補強部材30,50をRC壁10の内部に埋設することにより、部材厚を増加させることなく、せん断耐力と靱性性能の増大を実現できる。
【0069】
また、主鉄筋11を増加させることがないため、曲げ耐力を増加させることなく、面外せん断耐力を向上させることができるので、曲げ・せん断先行破壊型の可能性があるRC構造体を曲げ先行破壊型に移行することができる。
【0070】
また、補強部材30,50の基端部に設けられている係止部32,52及び先端部に設けられている先端定着部33,53は、充分な定着効果が得られるとともに、面外せん断力が発生すると線材31,51に引張力が作用するために係止部32,52及び先端定着部33,53の間に支圧力が働き、内部コンクリートには圧縮応力場が形成される。そのため、せん断に対して内部コンクリート自身のせん断抵抗力が増大して効果的なせん断補強となる。
【0071】
また、補強部材挿入孔20,40は充填材60により充填されており、外面は断面修復材70により遮蔽されているため、補強後の耐久性の観点で劣化の抑制を期待できる。
【0072】
被りコンクリートを撤去して、主鉄筋11や配力鉄筋12を露出させた状態で、補強部材挿入孔20,40の削孔を行うため、補強部材挿入孔20,40の位置決めが容易である。
また、補強部材挿入孔20,40の底面が先端側の主鉄筋11および配力鉄筋12よりも基端側に位置しているため、先端側に配筋された既設の主鉄筋11や配力鉄筋12の位置がずれていたとしても、補強部材挿入孔20,40の削孔時に傷つけることがない。
【0073】
他面側の被りコンクリート13の撤去を、第一断面修復材71の養生後に実施するため、一面側と他面側との両側で被りコンクリート13が撤去された状態を形成することがなく、構造的な強度を維持したまま施工することができる。
【0074】
<第二の実施の形態>
第二の実施の形態では、図5の(a)に示すように、壁の一面側と他面側とのそれぞれに主鉄筋11および配力鉄筋12が配筋された構造壁である既設鉄筋コンクリート壁10の補強構造2について説明する。
【0075】
既設鉄筋コンクリート壁10(以下、「RC壁10」という)の構成は、第一の実施の形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0076】
補強構造2は、第一補強部材挿入孔20と、第一補強部材30と、第二補強部材挿入孔40と、第二補強部材50と、充填材60と、断面修復材70とを備えている。
【0077】
第一補強部材挿入孔20には、第一補強部材30が挿入されているとともに、第一補強部材挿入孔20の内壁面と第一補強部材30との隙間に充填材60が充填されている。
【0078】
本実施形態では、複数の第一補強部材挿入孔20が、主鉄筋11および配力鉄筋12を格子状に組み合わせることにより形成された複数のマス目に対して、一つ置きに形成されている(図5の(b)参照)。
つまり、1つの第一補強部材30に対応して形成された2本の第一補強部材挿入孔20,20は、2本の主鉄筋11,11を挟んだ状態で形成されている。また、各第一補強部材挿入孔20は、主鉄筋11に近接して形成されている。本実施形態では、1つの第一補強部材30に対応する第一補強部材挿入孔20,20を、左右に隣り合う2本の主鉄筋11,11を挟んだ状態で形成したが、1本あるいは3本以上の主鉄筋11を挟んだ状態で第一補強部材挿入孔20,20を形成してもよい。
【0079】
この他の第一補強部材挿入孔20の詳細は、第一の実施の形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0080】
第一補強部材30は、図5の(a)に示すように、左右に隣り合う第一補強部材挿入孔20,20にその一部が挿入された状態で、RC壁10に配置されている。すなわち、一つの第一補強部材30で、複数(本実施形態では2本)の主鉄筋11を拘束する。
【0081】
第一補強部材30は、図6の(a)に示すように、2本の第一線材31,31と、第一線材31の一方の端部に形成された第一係止部32と、各第一線材31の他方(第一係止部32と反対側)の端部に形成された先端定着部33,33とを備えている。
【0082】
2本の第一線材31,31は、それぞれ異なる第一補強部材挿入孔20,20に挿入されている。また、2本の第一線材31,31は、第一係止部32により連結されている。
なお、第一線材31の本数は限定されるものではない。
【0083】
この他の第一線材31の詳細は、第一の実施の形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
また、先端定着部33の詳細も、第一の実施の形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0084】
第一係止部32は、図6の(a)に示すように、各第一線材31の基端に固定された鋼製のプレート材32a,32aと、プレート材32a同士を連結する連結材32b,32bとを備えている。
【0085】
プレート材32aは、長方形状の鋼板であって、第一線材31の外径よりも大きな幅寸法を有している。本実施形態では、摩擦圧接により、第一線材31にプレート材32aを固定するが、プレート材32aの固定方法は限定されるものではない。例えばガス圧接接合、アーク溶接接合など、一体化が可能であればよい。
【0086】
本実施形態では、長方形状のプレート材32aの中心部よりも一方の短辺側に第一線材31を固定している。なお、プレート材32aは、他方の短辺側に爪部が形成されていてもよい。
【0087】
プレート材32a同士は、隙間をあけた状態で、連結材32b,32bを介して連結されている。プレート材32aは、第一線材31が固定されていない側の短辺同士を向き合わせた状態で連結されている。
【0088】
連結材32bは、丸鋼により構成されていて、プレート材32a,32aの側端面(長辺側の側面)に溶接接合されている。なお、連結材32bを構成する材料は限定されるものではなく、例えば、角鋼材や鉄筋であってもよい。
本実施形態の連結材32bは、第一線材31同士の間隔よりも長く、プレート部材32a,32aに固定された状態で、先端が第一線材31の外側に位置している。このようにすることで、第一線材31,31と第一係止部32との応力の伝達性能が向上する。
【0089】
なお、第一補強部材30の構成は、前記の構成に限定されるものではなく、適宜形成すればよい。例えば、図6の(b)に示すように、第一係止部32として、1枚のプレート材により構成してもよい。
【0090】
第二補強部材挿入孔40は、図5の(a)に示すように、RC壁10の他面側(図5の(a)において左側)から一面側(図5の(a)において右側)に向けて削孔されることで形成されている。
【0091】
第二補強部材挿入孔40には、第二補強部材50が挿入されているとともに、第二補強部材挿入孔40の内壁面と第二補強部材50との隙間に充填材60が充填されている。
【0092】
本実施形態では、複数の第二補強部材挿入孔40,40,…が、図5の(b)に示すように主鉄筋11および配力鉄筋12を格子状に組み合わせることにより形成された複数のマス目に対して、一つ置きに形成されている。
つまり、1つの第二補強部材50に対応して形成された2本の第二補強部材挿入孔40,40は、2本の主鉄筋11,11を挟んだ状態で形成されている。また、各第二補強部材挿入孔40は、主鉄筋11に近接して形成されているとともに、第一補強部材挿入孔20とは接しない位置に形成されている。
【0093】
この他の第二補強部材挿入孔40の詳細は、第一の実施の形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0094】
第二補強部材50は、図5の(a)に示すように、左右に隣り合う第第二補強部材挿入孔40,40にその一部が挿入された状態で、RC壁10に配置されている。すなわち、一つの第二補強部材50で、複数(本実施形態では2本)の主鉄筋11を拘束する。
【0095】
第二補強部材50は、図6の(a)に示すように、2本の第二線材51,51と、第二線材51の一方の端部に形成された第二係止部52と、各第二線材51の他方(第二係止部52と反対側)の端部に形成された先端定着部53,53とを備えている。
なお、第二補強部材50の詳細は、第一補強部材30と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0096】
充填材60および断面修復材70の詳細は、第一の実施の形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
また、第二の実施の形態に係る補強構造2の構築するための各手順(RC壁10の補強方法)は、第一の実施の形態で示したRC壁10の補強方法と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0097】
以上、第二の実施の形態に係るRC壁10の補強構造2によれば、第一の実施の形態の補強構造1と同様の作用効果を得ることができる。
また、同時に複数のせん断補強鉄筋(線材31,51)を配置することが可能なため、施工性に優れている。
【0098】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,2 補強構造
10 RC壁(既設鉄筋コンクリート壁)
11 主鉄筋
12 配力鉄筋
13 被りコンクリート
20 第一補強部材挿入孔
30 第一補強部材
31 第一線材
32 第一係止部
34 爪部
40 第二補強部材挿入孔
50 第二補強部材
51 第二線材
52 第二係止部
54 爪部
60 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁の一面側と他面側とのそれぞれに主鉄筋および配力鉄筋が配筋された既設鉄筋コンクリート壁の補強構造であって、
一面側から他面側に向けて削孔された有底の第一補強部材挿入孔と、
前記第一補強部材挿入孔に挿入された第一補強部材と、
前記第一補強部材挿入孔の内壁面と前記第一補強部材との隙間に充填された充填材と、
他面側から一面側に向けて削孔された有底の第二補強部材挿入孔と、
前記第二補強部材挿入孔に挿入された第二補強部材と、
前記第二補強部材挿入孔の内壁面と前記第二補強部材との隙間に充填された充填材と、を備え、
前記第一補強部材挿入孔の底面は、前記他面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも一面側に位置し、
前記第一補強部材は、第一線材と、前記第一線材の一面側の端部に形成されて前記一面側の主鉄筋に係止される第一係止部とを有していて、
前記第二補強部材挿入孔の底面は、前記一面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも他面側に位置し、
前記第二補強部材は、第二線材と、前記第二線材の他面側の端部に形成されて前記他面側の主鉄筋に係止される第二係止部とを有していることを特徴とする、既設鉄筋コンクリート壁の補強構造。
【請求項2】
上下に隣り合う前記第一補強部材の間に前記第二補強部材が配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造。
【請求項3】
前記第一補強部材は、複数の前記第一線材を備えていて、
前記複数の第一線材は、それぞれ異なる前記第一補強部材挿入孔に挿入されるとともに前記第一係止部を介して連結されており、
前記第二補強部材は、複数の前記第二線材を備えていて、
前記複数の第二線材は、それぞれ異なる前記第二補強部材挿入孔に挿入されるとともに前記第二係止部を介して連結されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造。
【請求項4】
前記第一係止部は、前記第一線材の基端に固定されたプレート材であり、
前記第二係止部は、前記第二線材の基端に固定されたプレート材であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造。
【請求項5】
前記プレート材の端部に爪部が形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の既設鉄筋コンクリート壁の補強構造。
【請求項6】
壁の一面側と他面側とのそれぞれに主鉄筋および配力鉄筋が配筋された既設鉄筋コンクリート壁の補強方法であって、
前記既設鉄筋コンクリート壁の一面側の被りコンクリートを前記一面側の主鉄筋が露出するまではつる第一はつり工程と、
前記既設鉄筋コンクリート壁を一面側から他面側に向けて削孔して有底の第一補強部材挿入孔を形成する第一削孔工程と、
前記第一補強部材挿入孔に第一補強部材を挿入するとともに充填材を充填する第一補強部材配置工程と、
前記既設鉄筋コンクリート壁の一面側に第一断面修復材を設置する第一修復工程と、
前記第一断面修復材の養生後、前記既設鉄筋コンクリート壁の他面側の被りコンクリートを前記他面側の主鉄筋が露出するまではつる第二はつり工程と、
前記既設鉄筋コンクリート壁を他面側から一面側に向けて削孔して有底の第二補強部材挿入孔を形成する第二削孔工程と、
前記第二補強部材挿入孔に第二補強部材を挿入するとともに充填材を充填する第二補強部材配置工程と、
前記既設鉄筋コンクリート壁の他面側に第二断面修復材を設置する第二修復工程と、を備え、
前記第一削孔工程では、前記第一補強部材挿入孔の底面が前記他面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも一面側に位置するように当該第一補強部材挿入孔を形成し、
前記第二削孔工程では、前記第二補強部材挿入孔の底面が前記一面側の主鉄筋および配力鉄筋よりも他面側に位置するように当該第二補強部材挿入孔を形成し、
前記第一補強部材配置工程では、前記第一補強部材の一面側の端部に設けた第一係止部を前記一面側の主鉄筋に係止させるように当該第一補強部材を配置し、
前記第二補強部材配置工程では、前記第二補強部材の他面側の端部に設けた第二係止部を前記他面側の主鉄筋に係止させるように当該第二補強部材を配置することを特徴とする、既設鉄筋コンクリート壁の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211440(P2012−211440A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76729(P2011−76729)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000194756)成和リニューアルワークス株式会社 (32)
【Fターム(参考)】