説明

昆虫型飛翔玩具の翼体、及び当該翼体を備える昆虫型飛翔玩具

【課題】昆虫の翅の厚さや模様等がそっくりな昆虫型飛翔玩具の翼体及び、当該翼体を設けて飛翔する昆虫型飛翔玩具を提供することを目的とする。
【解決手段】厚さ1000μm以下のSi又はSi化合物のシリコン基板15よりなり、昆虫の翅を模した外形を有するとともに、表面をエッチング処理して前記昆虫の翅脈を模した凹凸模様10を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫型飛翔玩具及び昆虫型飛翔玩具に用いられる翼体に係わり、より詳しくは、昆虫の翅の翅脈を模した設けた翼体及び当該翼体を設けた昆虫型飛翔玩具に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の翅は、厚さの薄い部分は数μmで、模様となる翅脈の厚さは10〜1000μmである。
従来からある模型用の昆虫の翼体は、布や合成樹脂製のシートなどの材料を使用し、この布などのシートに翅脈の模様を印刷するなどして外観上、昆虫の形状を似せて形成していた。しかし、それらの翼体は、模様等を全体的に似せているが、翼体自体の厚さはmmオーダであり、厚さが数μmである昆虫の翅を再現したものはなかった。
また、従来の模型用の昆虫の翼体は、翼体の厚さが1mm程度の金属、合成樹脂、布などの薄いシート材が用いられている。そして、金属、合成樹脂、木等で昆虫の翅脈に似せて形成した骨枠に、前記シート材を張り合わせて翼体を形成していた。
【0003】
例えば、特許文献1記載の昆虫模型は、カブトムシ等の甲虫の形状をした本体に、蝶の一対の翅を模した翼体を備えさせ、実際には存在しない昆虫を模型として構成している。また、翼体は、0.5mm程度の厚さの塩化ビニール板から構成されている。
【0004】
一方、近年、計測技術やシミュレーション技術の発展に伴い、昆虫の翅の形状を正確に計測する研究、翅を羽ばたかした時の翅の強度、翅周りの空気力学的な影響をシミュレーションする研究が報告されている。
また、半導体の製造技術ではナノオーダの計測技術と加工技術によりLSIの製造が行われている。これらの技術を利用して微小な構造物、機械部品などを製作する研究が行われマイクロマシン(MEMS)と呼ばれ、研究開発が行われている。
昆虫の翅の計測技術、シミュレーション技術に関しての研究が報告されている(非特許文献1参照。)。
また、ハエの拡大模型を用いて、ハエのホバリングには失速遅れ以外に回転循環と後流捕獲が存在していることが提案されている(非特許文献2参照。)。
また、微小な生物の泳ぎのメカニズムの解明を行い、昆虫サイズの飛翔では、非常に薄くギザギザで反りのついた翼断面が使われ、この形状の翼が昆虫のサイズでは優れていることが提案されている(非特許文献3参照。)。
また、シミュレーション技術により流体力学的な解析も行われている(非特許文献4参照。)。
また、蝶の羽ばたきについてシミュレーシンも行われている(非特許文献5参照。)。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3119367号
【非特許文献1】"Leading-edge vortices in insect flight" (Ellington C.P et al., Nature,vol.384,pp626-630 1996)
【非特許文献2】"Wing Rotation and the Aerodynamic Basis of Insect Flight", (Dickinson et al., 18 JUNE 1999 VOL284 SCIENCE)
【非特許文献3】"Airfoil section characteristics at a low Reynolds number", (Sunada, S. and Kawachi,:Journal of fluids enginieering.1997 March,VOL.284 SCIENCE)
【非特許文献4】"生物飛行のシミュレーションと小型飛翔体"(劉 浩、日本流体学会数値流体力学Web会誌、12巻第3号2005年1月 pp.139〜142)
【非特許文献5】“小型はばたきロボットの実現を目指して”(菊池 耕生、日本流体学会数値流体力学Web会誌、12巻第3号2005年1月 pp.113〜122)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シート材を用いて翼体を構成するときには、昆虫の翅の最も厚い部分の翅脈とシート材の厚さとが同じになるときはあるが、昆虫の翅の薄い部分と比べるとシート材は明らかに厚いものであった。また、翼体の骨枠はシート材よりも厚く構成されているので、昆虫の翅の形状を精度良く再現しているとは言い難いものであった。
【0007】
また、昆虫の翅と同一サイズでそっくりな翼体を再現するには、昆虫の翅の形状と大きさμmの精度で計測し製作することが要求される。外観上そっくりな翼体を再現するには、薄膜構造で数μmオーダの高い精度が要求され、従来の工作機械では昆虫の翅にそっくりな翼体を製作すること困難であった。
以上のようなことから、従来からの昆虫の模型の翼体は、装飾、展示を主な目的としたものが一般的で、昆虫の模型に翼体を取り付けて、羽ばたかして飛翔をさせることを前提にはしておらず、昆虫の模型を前提にした昆虫そっくりの翼体はなかった。
【0008】
また、半導体製造技術を利用して微小な構造物、機械部品などを製作するマイクロマシン(MEMS)の研究開発が行われている。しかし、マイクロマシンの研究開発で報告されているものは、微小なアクチュエータ、光学部品、機械部品、燃料電池の電極などがほとんどであり、昆虫の模型に使用する外観上ほんものそっくりの翼体を製作した報告例はなかった。
【0009】
本発明は、係る問題に鑑み、昆虫の翅の厚さや模様等がそっくりな昆虫型飛翔玩具の翼体、及び当該翼体を設けて飛翔する昆虫型飛翔玩具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の課題解決のために、厚さ1000μm以下のSi又はSi化合物のシリコン基板よりなり、昆虫の翅を模した外形を有するとともに、表面をエッチング処理して前記昆虫の翅脈を模した凹凸模様を形成してなることを特徴とする昆虫型飛翔玩具の翼体を構成した。
したがって、昆虫の翅の翅脈の厚さとほぼ同じ厚さの凸部と、凸部より厚さの薄い凹部を備えた翼体を得ることができる。
【0011】
ここで、片面又は両面をポリマー保護膜で被覆したものが好ましい。
【0012】
また、前記エッチングが、前記昆虫の実際の翅脈の凹凸形状を測定したデータに基づいて作成した露光用フォトマスクを用いてパターニングしてなるものが好ましい。
【0013】
また本発明は、以上の翼体を複数設けてなる昆虫型飛翔玩具をも提供する。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本願発明に係る昆虫型飛翔玩具の翼体は、昆虫の翅の翅脈の厚さとほぼ同じ凸部とし、さらにシリコン基板の表面をエッチング処理して凹部を形成するので、昆虫の翅と同様な形状及び厚さの翼体を得ることができる。
【0015】
また、片面又は両面をポリマー保護膜で被覆したので、羽ばたき動作を行う駆動部材との接合強度を高めることができる。また、ポリマー保護膜で被覆した部分の翼体の強度を高めることができる。
【0016】
また、前記エッチングが、前記昆虫の実際の翅脈の凹凸形状を測定したデータに基づいて作成した露光用フォトマスクを用いてパターニングしてなるので、昆虫の翅脈とほぼ同様の模様の翼体を形成できる。
【0017】
そして、上述したような翼体を複数備えているので、リアリティーのある昆虫型飛翔玩具を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る昆虫型飛翔玩具の全体構成を示す図であり、図1〜2は代表的実施形態を示し、図中符号1は昆虫型飛翔玩具、2は翼体、3は支持軸、4は揺動支持軸、5は第1連結アーム、6は第2連結アーム、7は駆動手段、8はクランク部、9は本体をそれぞれ示している。
【0020】
なお、以下の説明では、昆虫型の飛翔玩具として、トンボ型の飛翔玩具について説明するが他の昆虫の形状を模してもよい。例えば、蜂、虻、蝶、蛾、蝉などの形状を模した羽ばたき動作をする飛翔玩具であってもよい。
【0021】
本発明の昆虫型飛翔玩具の翼体2は、図2に示すように、厚さ1000μm以下のSi又はSi化合物のシリコン基板15(図5参照)よりなり、昆虫の翅を模した外形を有するとともに、表面をエッチング処理して前記昆虫の翅脈を模した凹凸模様10を形成してなることを特徴としており、実際の昆虫の翅の形状や翅脈を模しており、飛翔玩具として飛翔するという楽しみ以外にも、飛翔していない状態でも昆虫としてのリアルな形状を鑑賞して楽しむことができる。
【0022】
図1は、本発明の翼体2を設けた昆虫型飛翔玩具1を示しており、前後に長いトンボ形状の本体9には、前後に2対の翼体2a,2a,2b,2bを備え、翼体2には揺動支持軸4が設けられ、支持軸3に揺動可能に支持されている。また、翼体2は、揺動支持軸4に連結した第1連結アーム5と、揺動支持軸4より後方に連結された第2連結アーム6とによって揺動し、羽ばたき動作を行う。前記第1連結アーム5の一方端側は揺動支持軸4に連結され、他方端側はクランク部8に軸支され、第2連結アーム6の一方端側は翼体2に連結され、他方端側はクランク部8に軸支されているので、駆動手段7によってクランク部8を回転させることにより、翼体2を羽ばたかせることができる。そして、この羽ばたき動作による翼体2の揚力で飛翔する。
図1では、トンボを例にした駆動機構であったが、上述したように他の昆虫でも同様の機構で構成可能である。
なお、グライダーのように滑空させるものも含ませるため駆動手段7等を設けず翼体2を本体9に固定したものや、手動で翼体を揺動可能に備えたものであってもよい。
【0023】
昆虫のオニヤンマの場合、前翅の幅は約10mm、長さは約50mmであり、後翅の幅は約12.4mm、長さは約50mmである。そこで、本発明の翼体2も昆虫のオニヤンマと同様に、図2に示すように、前側の翼体2aの幅13Aを10mm、長さ13Bを50mmとし、後側の翼体2bの幅14Aを12.4mm、長さ14Bを50mmとする。さらに、凸部10aと凹部10bからなる翅脈模様10、翼体2の形状や翅脈模様10の形状も昆虫のオニヤンマの翅や翅脈の形状を測定し、この測定したデータに基づいて翼体2を作成する。
【0024】
昆虫の翅の形状の測定するには、顕微鏡により昆虫の翅を拡大してデジタル画像として記録する。そして、前記デジタル画像に対応させながら翅の表面の凹凸を距離センサあるいは顕微鏡の焦点深度機能により測定し、昆虫の翅の形状を3次元のデータとする。さらに、昆虫の翅の3次元データをもとに、昆虫の翅を昆虫型飛翔玩具1に取り付けて羽ばたかせた時に、翼体2に掛かる応力、羽ばたきによる空気の影響等をシミュレーションにより調べて形状の補正を行い、翼体2のデータを作成する。なお、シミュレーションの際には、翼体2を飛翔玩具1に取り付けるための取付部12等を備えた状態でシミュレーションを行う。
そして、このデータを後述するように、露光用のフォトマスクを作成する際に使用する。
【0025】
図3は、図2で示した翼体2の断面説明図であり、図5(a)に示すようなシリコン基板15の表面をエッチング処理し、翅脈模様10を模した凸部10aと凹部10bとが形成される。
シリコン基板15の材料としては、多結晶Siや単結晶Si、SiC等のエッチング可能なSi化合物であればいずれの材料であってもよい。
シリコン基板15の厚さとしては、1000μm以下であることが好ましく、これより厚い場合には生産性が悪く使用できない。また、後述するように、100μm〜150μm、300μmのように様々な厚さのシリコン基板15を用いることができるが、薄くなりすぎると強度が不足し、羽ばたき動作による飛翔が不可能となる。なお、羽ばたき動作を行うことなく観賞用の模型とする場合には、100μm未満の厚さであってもよい。
【0026】
翼体2に設けられた凹凸模様10は、図2及び図3に示すように、片面(図3では上面)のみに形成されているが、両面に凹凸模様10を形成してもよい。この場合、両側にエッチングを施すことのほか、たとえば片面に凹凸模様10を施したものを2枚作成し、これらを互いに凹凸模様が外側になるように重ねて接合することにより両面に凹凸模様10を備えた翼体2として構成することもできる。また、図2では、取付部12以外のほぼ全ての上面に凹凸模様10を形成しているが、一部のみに凹凸模様10を形成してもよい。
なお、翅脈を模した凹凸模様10は、実際の翅脈と同じでなくてもよく、翼体2に係る応力やエッチング容易性や美観等を考慮して、凸部10aや凹部10bを増減したり、位置を変更したり、形状を変更したりしてもよい。
【0027】
また、図3では、翼体2の上面はエッチング処理により凹凸模様10が形成され、下面はポリマー保護膜18で被覆し、翼体2の強度を高めている。ポリマー保護膜18としては、サイトップ(登録商標)等の透明フッ素樹脂を用いるが他の樹脂であってもよい。特に透明フッ素樹脂は、透明であることから翼体2の美観を損なうことがなく好ましい。
ポリマー保護膜18を翼体2の下面側、つまり、前記揺動支持軸4及び第2連結アーム6と接合する面にポリマー保護膜18を設けることで、翼体2と揺動支持軸4及び第2連結アーム6との接合強度を高めることができる。さらに、接合強度が高まることで、翼体2に高周期の羽ばたきを実現させることができる。
また、揺動支持軸4と翼体2の接合部分や、第2連結アーム6と翼体2との接合部分には、絹布やポリマー樹脂等の接合材19を設けて接合強度を高めてもよい。
さらに、翼体2の前端部11は、羽ばたき動作のときに大きな力がかかるため、当該前端部11にポリマー保護膜18を塗布し、強度を高めてもよい。
なお、図示していないが、エッチング処理を終了した後にエッチング面(図3では上面)をポリマー保護膜18で被覆してもよい。また、ポリマー保護膜18による被覆を行わなくてもよい。
【0028】
以下に、図5に基づき翼体表面の凹凸形状のエッチング工程について説明する。
まず、図5(a)に示すように、ウエハ状のシリコン基板15を用意する。シリコン基板15の厚さは、完成した翼体2の厚さにも関係するが、1000μm以下の基板を使用する。
前記ウエハ状のシリコン基板15を熱処理して、図5(b)に示すように、シリコン酸化膜16(SiO2膜)を上面及び下面に形成する。そして、図5(c)に示すように、アルミ薄膜17をスパッタリングして形成し、図5(d)に示すように、ポリマー保護膜18をスピンコーティングにより塗布する。
そして、図5(e)に示すように、レジスト溶液を塗布した後に、上述した昆虫の翅を基に作成した翼体2のデータをレジストの露光用のフォトマスクとして使用し、昆虫の翅を模したパターニングを施し、レジスト膜20を作成する。
さらに、レジスト膜20が形成された面を図5(f)に示すように、エッチング処理する。詳しくは、アルミ薄膜17をICP−REI(誘導結合型反応性イオンエッチング)にてエッチングした後に、BHF(バッファードフッ酸)にて熱酸化膜16(SiO2)をエッチングし、さらにシリコン基板15をRIE(反応性イオンエッチング)にてエッチングする。
最後に、図5(g)に示すように、レジスト膜20を除去して、凸部10a及び凹部10bを形成する。
このようにして、エッチング処理された翼体2を、ウエハ状のシリコン基板15から切断し、昆虫型飛翔玩具1に取り付ける。
【0029】
以上、本発明の翼体2のエッチング処理の工程について説明したが、これら以外の工程でエッチングを行ってもよし、他のエッチング技術を用いてもよい。
例えば、シリコン基板15は、RIEにてエッチングしているが、ICP−REIにてエッチングしてもよい。また、SiO2(熱酸化膜16)は、BHFでエッチングしているが、RIEやICP−RIEでエッチングしてもよい。
【0030】
(実施例1)
厚さ100〜150μmのウエハ状のシリコン基板15の両面を1050℃、約3時間の熱処理により0.6μmの熱酸化膜16(SiO2)を形成する。表面に0.2μmのアルミ薄膜17をスパッタリング500W、7分間で形成する。また、裏面に0.2μmのアルミ薄膜17をスパッタリング500W、7分間で形成する。
さらに、表面にサイトップ(登録商標)を2000rpm、20秒間でスピンコーティングにより膜厚1μm塗布し、ポリマー保護膜18を形成する。
裏面には、レジスト溶液(例えば、シプレイ社製:S1830)を用いて、膜厚4μmをスピンコーティングにより塗布し、露光用のフォトマスクを使用しフォトリソグラフィにより昆虫の翅を模したパターニングを施す。そして、裏面のアルミ薄膜17をClガス、ArによるICP−RIEにてエッチングする。その後、熱酸化膜16(SiO2)をBHFにてエッチングする。
さらに裏面からシリコン基板15をSF6ガスにてRIEで100μm〜150μmの深度まで除去し(つまり、100μm〜150μmのシリコン基板15を取り除き)、図3に示す断面構造の翼体2を製作する。
最後にウエハ状のシリコン基板15から、翼体2を切断する。
なお、図3では、シリコン基板15の厚さと同様の厚みのエッチングを行っているが、図6(a)に示すように、シリコン基板15の厚さよりも浅いエッチングを行ってもよい。
【0031】
(実施例2)
ウエハ状のシリコン基板15から、翼体2を構成する内部側のフォトマスクと、翼体2を取り外すための取り外し用フォトマスクとを用意し、2回に分けてエッチング処理をする。
最初に、厚さ300μmのウエハ状のシリコン基板15の両面を1140℃、約3時間20分の熱処理により約1μmの熱酸化膜16(SiO2)を形成する。表面にサイトップ(登録商標)を2700rpm、20秒間でスピンコーティングにより4層の膜厚3.0μm塗布し、ポリマー保護膜18を形成する。一方、裏面にTi、Pt、Tiをそれぞれ膜厚5nm、200nm、10nmとなるように、スパッタリング400W、200W、400Wでそれぞれ成膜する。
翼体2の取り外し部分をエッチングするために、シリコン基板15にレジスト溶液(例えば、シプレイ社製:S1830)を、2500rpmで120秒間塗布し、取り外し用フォトマスクを使用しフォトリソグラフィにより取り外し部分を露光する。
ICP−RIE(Cl:25、Ar:28、真空度:0.58Pa、ICP:500W,BIAS:125W)にて5分間、前記Ti/Pt/Ti薄膜をエッチングして除去する。その後、SiO2をBHFにてエッチングし、1070nm〜740nmのSiO2を除去する。さらに、RIE(SF6、O2、真空度:1.33×104Pa(100toor)、RF:100W)にて80〜90分間エッチングし、70μmから80μmのシリコン基板15を除去する。その後、レジスト膜20を除去する。
さらに、当該シリコン基板15に、レジスト溶液(例えば、シプレイ社製:S1830)を、2500rpm、200〜240秒のスピンコーティングにて塗布する。翼体内部側のフォトマスクを使用しフォトリソグラフィにより、翼体内部のパターンを露光し、昆虫の翅を模したパターニングを施す。
ICP−RIEにて5分間、前記Ti/Pt/Ti薄膜をエッチングして除去する。その後、SiO2をBHFにてエッチングし、1070nm〜740nmのSiO2を除去する。さらに、RIEにてシリコン基板15をエッチングして除去する。その後、レジスト膜20を除去する。
【0032】
(実施例3)
ウエハ状のシリコン基板15から、翼体2を構成する内部側のフォトマスクと、翼体2を取り外すための取り外し用フォトマスクとを用意し、2回に分けてエッチング処理をする。
最初に厚さ1000μmのウエハ状のシリコン基板15の両面を1140℃、約3時間20分の熱処理により約1μmの熱酸化膜16(SiO2)を形成する。表面にサイトップ(登録商標)を2700rpm、20秒間でスピンコーティングにより4層の膜厚3.0μmを塗布し、ポリマー保護膜18を形成する。裏面に、Ti、Pt、Tiをそれぞれ膜厚5nm、200nm、10nmとなるように、スパッタリング400W、200W、400Wでそれぞれ成膜する。
翼体2の取り外し部分をエッチングするために、シリコン基板15にレジスト溶液(例えば、シプレイ社製:S1830)を、2500rpmで120秒間塗布し、取り外し用フォトマスクを使用しフォトリソグラフィにより取り外し部分を露光する。
ICP−RIE(Cl:25、Ar:28、真空度:0.58Pa、ICP:500W,BIAS:125W)にて5分間、前記Ti/Pt/Ti薄膜をエッチングして除去する。その後、SiO2をBHFにてエッチングし、1070nm〜740nmのSiO2を除去する。さらに、RIE(SF6、O2、真空度:1.33×104Pa(100toor)、RF:100W)にて80〜90分間エッチングし、70μmから80μmのシリコン基板15を除去する。その後、レジスト膜20を除去する。
さらに、当該シリコン基板15に、レジスト溶液(例えば、シプレイ社製:S1830)を、2500rpm、200〜240秒のスピンコーティングにて塗布する。翼体内部側のフォトマスクを使用しフォトリソグラフィにより、翼体内部のパターンを露光し、昆虫の翅を模したパターニングを施す。
ICP−RIEにて5分間、前記Ti/Pt/Ti薄膜をエッチングして除去する。その後、SiO2をBHFにてエッチングし、1070nm〜740nmのSiO2を除去する。さらに、RIEにてシリコン基板15をエッチングして除去する。その後、レジスト膜20を除去する。
【0033】
上述した以外にも、シリコン基板15へのエッチングを段階的に停止し、ハードマスクをパターンからカットし、エッチングを再開する。これを繰り返すことにより、図6(b)に示すように、凸部10aが異なった高さになるように翼体2を形成してもよい。これによって、昆虫の翅の翅脈をよりリアルに表現することができ、より美観性に優れた翼体2を得ることができる。
【0034】
また、図3〜図5、図6(a)〜(b)では、RIEをシリコン基板15に対して垂直にしてエッチングをしていたが、シリコン基板15の法線に対して所定の傾きを設け、斜め方向にエッチングを行ってもよい。これにより図6(c)に示すように、凸部10aと凹部10bとの境界部21は、滑らかに形成され、昆虫の翅の翅脈をよりリアルに表現することができ、美観性に優れた翼体2を得ることができる。また、凸部10a下部から凹部10bにかけて滑らかに形成されているので、凸部10aと凹部10bとの接合強度も高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】昆虫型飛翔玩具の説明図である。
【図2】(a)は昆虫型飛翔玩具の前側の翼体であり、(b)は昆虫型飛翔玩具の後側の翼体の説明図である。
【図3】翼体の断面図である。
【図4】接合材を備えた翼体の断面図である。
【図5】翼体のエッチング処理の工程を説明した図である。
【図6】別実施例の翼体の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 昆虫型飛翔玩具
2 翼体
3 支持軸
4 揺動支持軸
5 第1連結アーム
6 第2連結アーム
7 駆動手段
8 クランク部
9 本体
10 凹凸模様、翅脈模様
10a 凸部
10b 凹部
11 前端部
12 取付部
13A 前側翼体の幅
13B 前側翼体の長さ
14A 後側翼体の幅
14B 後側翼体の長さ
15 シリコン基板
16 シリコン酸化膜
17 アルミ薄膜
18 ポリマー保護膜
19 接合材
20 レジスト膜
21 境界部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1000μm以下のSi又はSi化合物のシリコン基板よりなり、昆虫の翅を模した外形を有するとともに、表面をエッチング処理して前記昆虫の翅脈を模した凹凸模様を形成してなることを特徴とする昆虫型飛翔玩具の翼体。
【請求項2】
片面又は両面をポリマー保護膜で被覆した請求項1記載の昆虫型飛翔玩具の翼体。
【請求項3】
前記エッチングが、前記昆虫の実際の翅脈の凹凸形状を測定したデータに基づいて作成した露光用フォトマスクを用いてパターニングしてなる請求項1又は2記載の昆虫型飛翔玩具の翼体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の翼体を複数設けてなる昆虫型飛翔玩具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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