説明

昇華精製装置

【課題】 短時間で昇華精製可能な昇華精製装置を提供する。
【解決手段】 有機材料を昇華精製するための昇華精製装置において、材料を加熱して昇華させ、その析出時に、真空チャンバーの排気方向にノズル、或いは、オリフィスを配置し、その後に膨張空間を設けて、ジュールトムソン効果により排気を温度低下せしめることで、短時間で昇華物の析出を行うことが出来、材料の熱劣化の影響を少なくすることができる昇華精製装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料の昇華精製に用いる昇華精製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機材料の昇華精製は、例えば、図5に示す昇華精製装置を用いて行なっていた。
【0003】
図によれば、昇華精製装置60、加熱可能な真空糟61と、温度制御機器67に接続されたヒータ68と、真空糟を真空状態にするための真空ポンプ67によって構成されている。
【0004】
真空層61内には、ガラス製の昇華容器62が入れられており、その形状は、一方に蓋63が装着されており、その他方62aが開口を成す円筒状の昇華容器になっている。
【0005】
上記昇華容器62内には、図から解るように、試料65を乗せたボート64が置かれた状態になっている。
【0006】
以上の構成において、真空糟内を、真空ポンプ67によって予め真空状態にした後、ヒータ68の電源をONとして、真空糟の加熱を開始し、その熱伝導によって、真空糟内部にあるガラス管62が加熱されるようになる。
【0007】
さらに、ガラス管内のボート64に乗せられている試料65が、加熱されるという構成になっている。
【0008】
加熱された試料65は、ヒータ68の温度制御によって、所定の温度まで上昇し、その後は一定の温度に保たれる様になる。
【0009】
これにより、昇華ボート64上の試料65は、昇華ボート64の温度が、試料の昇華点付近に達した時から昇華し始め、真空ポンプの排気方向へ移動しながら、ガラス管内の熱勾配により、所定の析出温度で、ガラス管の内周面に、昇華精製された試料69が捕集される様になっている。
【0010】
図において、69aは、試料65が昇華し始めた状態を示し、69bは、ガラス管内の熱勾配により、析出が開始した状態を示している。
【0011】
したがって、所定の時間加熱した後、ヒータをOFFとし、さらに真空糟が自然冷却した後に、ガラス製の昇華容器62を取り出し、その内面に捕集された昇華精製物を回収して使用する、と言う物であった。
【0012】
そして昇華精製装置として例えば特許文献1や2がある。
【特許文献1】特開平05-116922号公報
【特許文献2】特開2001-019412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来例では、試料を、一回の昇華精製を行なうためには、試料の種類や量にもよるが、大抵の場合は、20時間程度の加熱を維持し、その後の自然冷却によって、ガラス管が常温になった後に、精製試料の取り出しを行なう、という状況であった。
【0014】
そのため、試料をボートに乗せてから、真空糟を真空引きして、その後のヒータONと、温調に入ってからの昇華の発生が始まる頃から、終了までの時間が、おおよそ24時間程度は必要になる場合がほとんどであった。
【0015】
さらに、昨今の有機材料開発では、例えば有機ELの発光層に用いる蛍光体の精製純度が注目されており、その純度が高い材料を用いた場合、その発光効率や寿命に寄与する傾向があることが解っている。
【0016】
ゆえに、昇華精製装置を用いて、より精製純度の高い昇華精製を行なうためには、上記の精製工程を2度、あるいは3度用いる必要があり、その為に、昇華精製に必要とされる時間も、当然2〜3倍、すなわち、48時間〜72時間程度となり、この状態では、精製にコストがかかりすぎてしまうばかりか、試料そのものの熱劣化の影響も無視できない状態になってしまう、という不具合があった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明は、上記の不具合点を鑑みて、考案されたものであり、
有機材料を昇華精製するための昇華精製装置であって、
かつ真空チャンバー内に熱源を有し、該有機材料を該熱源より加熱し昇華せしめる手段と、
昇華した有機材料を捕集する手段とを有することと、
該真空チャンバーは、略円筒形状を成し、また真空状態とする為のポンプに接続され、該ポンプの排気方向に、前記略円筒形状の円形断面の面積を徐々に小さくしてノズルを形成するか、あるいは、オリフィスを配置し、その後に元の大きさの円形断面積程度の大きさとし、該ポンプによる排気を膨張せしめる空間を有することと、
前記排気が、前記膨張空間にて膨張する際にジュール・トムソン効果により、温度低下せしめることを特徴とする昇華精製装置とすることと、
上記の昇華精製装置で、該真空チャンバーのポンプの排気方向において、
該ノズルあるいはオリフィスの上流に、熱源を配し、該有機材料を該熱源より加熱し昇華せしめる手段を設け、該ノズルあるいはオリフィスの下流に、昇華した有機材料を捕集する手段を設けたことを特徴とする、昇華精製装置とすることと、
昇華精製装置内に、真空チャンバーと材料を昇華せしめるための熱源があり、
該真空チャンバー内には、昇華容器を配置する構成であって、
該昇華容器は、真空ポンプによる排気方向に、排気の絞り込みを行なうノズルあるいはオリフィスが設けられていることを特徴とする、昇華容器とすることと、
昇華精製装置内において、上記の昇華容器を、排気方向に、任意の個数を直列に並べて配置し、最上流の1個目の昇華容器内の排気が、該昇華容器内の排気の絞り込みを行なうノズルあるいはオリフィスを流れて、その次に配置する2個目の昇華容器に流れることで、排気の膨張空間を形成し、さらにこの昇華容器内のノズルあるいはオリフィスによって、排気が絞り込まれるという行程を繰り返すことを特徴とする、昇華容器および昇華精製装置とすることと、
上記の昇華容器及びその配置であって、直列に配置した各々の昇華容器内に、昇華物の捕集手段を設けたことを特徴とする、昇華容器及び昇華精製装置とすること、
によって、達成される。
【発明の効果】
【0018】
1)材料を加熱して昇華させ、その析出時に、ジュールトムソン効果による温度の降下を行なうことで、短時間で昇華物の析出を行なうことが出来る。
【0019】
2)材料を加熱して昇華させ、その析出時に、ジュールトムソン効果による温度の降下を行なうことで、短時間で昇華物の析出を行なうことが出来ることによって、材料の熱劣化の影響を少なくすることができる。
【0020】
3)複数のノズルと膨張空間とで構成される管を、直列に連結して用いることで、複数回の昇華―析出サイクルを得ることが出来、より短時間で、複数回の昇華精製を行なうことできる。
【0021】
4)複数のノズルと膨張空間とで構成される管を、直列に連結して用いることで、複数回の昇華―析出サイクルを得ることが出来、より短時間で、複数回の昇華精製を行なうことで、材料の熱劣化の影響が極めて少ない、昇華精製を行なうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明によれば、昇華精製装置で、真空排気を行なうためのポンプを配置した構成にて、その排気方向に、ノズルまたはオリフィスを設け、その下流に前記排気の膨張空間を設け構成になっている。
【0023】
この排気を一旦ノズルまたはオリフィスで排気体積の絞り込みを行なって、その後に急激に、排気が膨張できる空間に放出することで、ジュールトムソン効果によって、その排気の温度の低下を見ることができる。
【0024】
このジュールトムソン効果が、真空ポンプによる排気で得られるので、この装置内で用いる昇華容器は、上記ノズルまたはオリフィスの上流に試料用ボートを配置し、予めこのボートに積載している試料の加熱を行なう。
【0025】
その後、試料の温度が、その試料の昇華温度に達すると、昇華が始まる。その一方で、真空ポンプによる排気によって、この昇華された試料は、その排気方向に移動する。
【0026】
この移動にともなって、昇華した試料は、上記ノズルあるいはオリフィスを通り、その後の膨張空間において、急激に膨張する。
【0027】
この時に、ジュールトムソン効果によって、上記昇華した試料は、急峻に温度がさがり、その試料の析出温度にまで低下する。
【0028】
この時、捕集器により、析出した試料の回収を行なえば、従来よりも短時間で、材料の昇華、そして捕集、といった過程が行えることになる。
【0029】
また、上記の昇華容器を直列に所定の個数、たとえば4〜5個を連結して用いたとすると、ヒータによって加熱された試料が、まず昇華し、その下流のノズルまたはオリフィスを排気圧によって通過し、その後の膨張空間にて一旦温度が下がり、昇華容器の壁面に析出する。これで1回の昇華精製が行なわれたことであるが、その後直ちにその位置に配置しているヒータによって、この一旦析出した材料が、昇華し始め、引き続き下流方向に排気圧によって、2番目の昇華容器に設けられているノズルまたはオリフィスを通過する。
【0030】
その後直ちに、昇華容器の膨張空間で、昇華物質を含む排気が膨張し、その温度が低下するということになる。
【0031】
したがって、この昇華容器を、上記の様に直列に配置することで、その最上流に配置した試料が昇華し、その後のジュールトムソン効果によって、冷却され析出する。という過程を、配置した昇華容器の数だけ行なうことが出来、従来同じ時間で複数回の昇華過程を行なうことができ、高い昇華効率を得ることが出来る。
【実施例1】
【0032】
図1に、本発明の実施例1の昇華精製装置1を示す。
【0033】
図において、真空容器は、真空排気を行なうポンプ6の排気方向に対して、上流部2と下流部3とからなる。
【0034】
この上流部2と下流部3との間には、テーパ部2aによって導かれたノズル2bがある。
【0035】
さらに図において、他の構成を説明すると、真空容器2及び3は、排気ポンプ6によって、真空状態へ排気可能になっている。
【0036】
真空容器2は、蓋10があり、この蓋10を取り外して、ボート9上に搭載した、試料4を投入出来る構成になっている。
【0037】
真空容器2内には、ボート9が配置されており、そこに試料4が積載可能になっている。
【0038】
また、真空容器2の外周部には、ヒータ7があり、このヒータ7は温度制御装置8が接続されていて、真空容器2内には、不図示の温度検知センサがあり、試料の昇華に必要な任意の温度に制御可能になっている。
【0039】
真空容器3は、上述の様に、真空容器2からのテーパ部2aとその下流のノズル2bとによって、真空容器として接続されている。
【0040】
真空容器3は、ノズル2bの下流に、膨張空間3aを有し、その下流に捕集器5が配置している。そして、その下流に、排気ポンプ6が接続された構成になっている。
【0041】
また、捕集器5を取り出すためには、取り外し可能な蓋12があり、この開閉によって行える様になっている。さらに蓋12は、Oリング13によって、容器3とのシールを行える様になっている。
【0042】
次に、本発明の昇華精製装置の動作について説明する。
【0043】
図1において、ボート9に、昇華精製を行なう試料4を搭載しておく。このボートを真空容器2の不図示の開閉口から投入し、前記不図示の開閉口を閉める。
【0044】
排気ポンプ6を起動し、真空容器2及び3を、真空状態に保つ。
【0045】
次に、ヒータ7の電源をONとし、試料4が昇華する温度になるまで、真空容器2の加熱を行なう。
【0046】
試料の4の温度が所定の温度かどうかを、不図示の温度検知センサーで検知を行ない、その後は、温度制御装置8によって、真空容器内の温度を一定に保つ様にする。
【0047】
上記の状態によって、試料4は、徐々に昇華するようになり、図の様に、昇華物4aとして上昇し、さらにポンプの排気圧によって、真空容器のテーパ部2aに習って、ノズル2bへと流れる様になる。
【0048】
昇華物4aは、上記のノズル2bを通過する際に、圧縮され、かつヒータによって真空容器2全体が温度制御装置によって、一定の温度に暖められているので、その圧縮は断熱的に行なわれていることになる。
【0049】
その後、ノズル2bを通過した、昇華物4aは、真空容器3の内部へと流入し、この時、膨張空間3aによって、急激に膨張する。
【0050】
上記の膨張によって、昇華物4aは、ジュールトムソン効果によって、温度が低下し、その温度低下によって、昇華状態から固体へ戻る過程へ移行する。
【0051】
この時、捕集器5によって、析出した精製物を捕集し、一連の昇華精製を行なうことが可能になっている。
【0052】
以上説明したように、本実施例1では、試料を昇華精製する際に、昇華物の析出は、ジュールトムソン効果による温度低下を利用して析出を行なう構成になっている。
【0053】
これにより、従来は、昇華容器内のヒータの位置と、その位置からの距離による温度勾配によって、所定の析出温度になった場所で析出を行なっていたが、本実施例1では、その析出温度をジュールトムソン効果によって、得ることが出来ることで、従来よりも短時間で、昇華から析出までの過程を行なうことが出来る。
【0054】
また、ジュールトムソン効果によって、排気の温度が低下する度合いは、ノズルに対して上流の真空容器の体積、排気圧、下流の真空容器内の膨張空間の大きさを変えることよって、所定の温度を得ることが出来る。
【0055】
以上が、本実施例1であるが、これに用いた構成は、本発明の一例であって、真空容器の形状やボートの位置など、他の構成であっても、ジュールトムソン効果による温度低下により、昇華物の析出を促進するものであれば、差し支えない。
【0056】
さらに、本実施例では、排気の絞り込みにノズルを用いたが、オリフィスなどを用いても全く同様な効果が得られることがわかっている。
【実施例2】
【0057】
図2及び図3に、実施例2を示す。
【0058】
図2について説明を行なう。図2は、昇華精製装置内で使用するための、昇華容器20の詳細を示す図である。
【0059】
昇華容器20は、フランジ部21、テーパ部22、ノズル23とから成るガラス製の容器である。
【0060】
次に、図3について説明を行なう。図3は、図2の昇華容器20を、昇華精製装置30に使用した構成である。
【0061】
昇華精製装置30は、真空容器31、真空排気を行なうための排気ポンプ38、試料の昇華を行なうためのヒータ39からなる。
【0062】
真空容器31は、昇華容器及び試料の出し入れのための開閉部31aが設けられている。
【0063】
真空容器31の内部には、排気ポンプ38の排気方向に対して、最上流に、昇華容器32があり、この昇華容器32には、フランジ部32c、テーパ部32a、ノズル32bを持つ形状となっており、材質は、昇華容器20と同じガラスを用いている。
【0064】
さらに昇華容器32には、蓋33が、フランジ部32cに勘合している。
【0065】
また、昇華容器32には、ボート34が配置され、その上に昇華精製を行なうものとして試料35が置かれている。
【0066】
昇華容器32の下流には、図からわかるように、4個の昇華容器20が直列に連結されている。
【0067】
昇華容器20は、図2にて説明を行なったように、フランジ部21,テーパ部22、ノズル23とからなり、フランジ部21にて、4個の容器が各々勘合している様になっている。
【0068】
4個の昇華容器20の下流には、容器36があり、フランジ部36a、排気口36bがあり、材質にはガラスを用いている。
【0069】
さらに、容器36の内部には、捕集器37が設けられている。
【0070】
真空容器31の外周部には、5組のヒータ39が設けられている。このヒータ39には、各々に温度制御装置40が接続されていて、真空容器31内には、不図示の温度検知センサがあり、試料の昇華に必要な任意の温度に制御可能になっている。
【0071】
以上によって、実施例2の昇華精製装置30は構成されている。
【0072】
次に、昇華精製装置30の動作について説明を行なう。
【0073】
図3において、ボート34に、昇華精製を行なう試料35を搭載しておく。このボートを真空容器31の開閉口31aから投入し、さらに、蓋33を一旦外して、昇華容器32内に設置する。その後、蓋33を昇華容器32に元の位置に戻して栓をし、開閉口31aを閉める。
【0074】
排気ポンプ38を起動し、真空容器31を、真空状態に保つ。
【0075】
次に、ヒータ39の電源をONとし、試料35が昇華する温度になるまで、真空容器31の加熱を行なう。
【0076】
試料の35の温度が所定の温度かどうかを、不図示の温度検知センサーで検知を行ない、その後は、温度制御装置40によって、真空容器内の温度を一定に保つ様にする。
【0077】
上記の状態によって、試料35は、徐々に昇華するようになり、昇華物として上昇し、さらにポンプの排気圧によって、昇華容器32のテーパ部32aに習って、ノズル32bへと流れて圧縮される様になる。
【0078】
ノズル32bを通過した昇華物は、昇華容器20内へ流入する。そして、この昇華容器20内が、膨張空間20aとなり、ジュールトムソン効果によって、昇華物の温度が低下し、一旦析出し、昇華容器20の内面に捕集される。
【0079】
しかし、図からわかるように、真空容器31は多数のヒータ39によって、少なくとも昇華容器32及び4個の昇華容器20が配置している部位が、一定の温度に暖められている状態になっている。
【0080】
このことによって、上記昇華容器20内面に捕集された析出物が、上記ヒータによって、再び加熱されることで昇華し、その昇華物が、さらに下流方向へと排気圧によって搬送される。
【0081】
この昇華物の搬送によって、昇華物は、この1個めに配置された真空容器20のノズル23を通過して圧縮され、さらにその下流である2個めの真空容器20内に流入した際の膨張空間20aで膨張し、上記と同じくジュールトムソン効果によって、昇華物の温度が低下し、一旦析出し、昇華容器20の内面に捕集される。
【0082】
上記の過程を、3個めの昇華容器20においても同様に行なわれ、さらに4個めの昇華容器20においても同様に昇華から捕集までの過程が繰り返されることになる。
【0083】
以上によって、ボート34上に搭載した試料35は、ヒータ39からの熱によって、一旦昇華し、その後の析出という過程を、ノズル32b及び4個のノズル23の計5個のノズルを通過する際に行なわれるので、合計5回の昇華精製過程を経て、最終的には、最下流の容器36の膨張空間36aに析出し、捕集器37に捕集されるようになっている。
【0084】
以上が、実施例2の昇華精製装置の構成及び動作説明である。
【0085】
実施例2は、ノズルを持った昇華容器32および20を合計5個を、排気方向に直列に配置した例である。
【0086】
この構成によって、5回の昇華精製を行える様になっている。このことで、従来では、1回の昇華精製を行なうだけであったが、これとほぼ同等の時間及び装置規模で、5回の昇華精製を行えることを達成している。
【0087】
これにより、実施例2では、5個の昇華容器を用いた例を示したが、この個数に限定させる物ではなく、使用する材料によって必要な精製回数分だけの個数を用いるか、あるいは、真空容器の大きさによって、適宜必要な個数を選択すればよい。
【0088】
また、昇華容器20のフランジ部21は、容器の外形よりも大きな内径をとする形状として、このフランジ部が容器の外形部に勘合する形状としたが、これに限定される物ではなく、ねじ込み式や、他の締結部品、すなわちボルトや板ナット等を用いて結合を行なっても良い。
【実施例3】
【0089】
図4に実施例3の昇華精製装置を示す。
【0090】
この実施例では、図3の実施例2の昇華精製装置の構成部品と同じ物を用いている部位があり、その部位に関しては同じ番号を付し、説明は適宜省略して行なう。
【0091】
図において、昇華精製装置45は、真空容器31内に、複数の昇華容器32及び20が置かれている。
【0092】
ボート34には、昇華精製を行なう試料47が搭載されている。実施例2と異なるところは、昇華容器20内に、捕集管46、47、48及び49が配置した構成になっていることと、ヒータ39、50、51、52及び53が、それぞれ独立に温度制御が可能となっている。その為に温度制御部も各々40、54、55、56及び57となっている。
【0093】
したがって、捕集管が、各昇華容器に内にあるため、昇華精製をこの装置としては、5回可能であるが、例えば、使用する試料によっては、3回の昇華精製を行なうだけでよい、という場合は、ヒータ52及び53の電源をOFFとし、3回目以降は、加熱しない構成とすると、3個目のノズル23aから噴出した昇華物が、捕集管48近傍で膨張し、ジュールトムソン効果によって、その温度が低下し、捕集管48の内面に精製物が析出する、という構成になっている。
【0094】
よって、精製回数が1回の場合は、ヒータ50,51,52及び53をOFFとし、捕集管46で捕集。
【0095】
精製回数が2回の場合は、ヒータ51,52及び53をOFFとし、捕集管47で捕集。
【0096】
精製回数が3回の場合は、ヒータ52及び53をOFFとし、捕集管48で捕集。
【0097】
精製回数が4回の場合は、ヒータ53をOFFとし、捕集管49で捕集。
【0098】
精製回数が5回の場合は、ヒータすべてをONとし、捕集器37で捕集。
という動作を行なうことで、使用する試料に対して、最適な昇華精製回数を簡便に設定し、行なうことが出来る。
【0099】
本実施例では、5個の昇華容器を用いた例を示したが、この個数に限定させる物ではなく、真空容器の大きさによって、適宜必要な個数を選択すればよい。
【実施例4】
【0100】
本実施例1の昇華精製装置を用いて、実際に昇華精製を行なった結果を以下に示す。昇華用材料は有機ELのホール輸送材料として使われるDFLDPBi を用いた。DFLPBi の化学構造は式1示す。
【0101】
【化1】

DFLDPBiは融点が263℃の白色粉末である。DFLDPBi 3.0gを本実施例1の9に入れ真空度6x10-6Torr,昇華部2を320度に昇温した。10時間保持した後、真空を解除し捕集部を窒素でパージし捕集器5aに堆積した昇華物を回収したところ2.65gのDFLDPBiを得た。
【0102】
図6にDFLDPBiの昇華精製後のTGDTAデータを示す。図7に未昇華精製DFLDPBiのTGDTAを示す。図8に昇華DFLDPBiの高速液体クロマトグラフィーを、図9に未昇華DFLDPBiの高速液クロマトグラフィーのデータ-を示す。図10に未精製DFLDPBi高速液体クロマトグラフィーデータ-を示す。図10から判るように未精製品は不純物ピークが多くその純度は95%しかない。さらに、この未製製品をシリカゲルカラム精製にかけたものの液体クロマトグラフィーデーター(図9)でも不純物ピークは観測されている(ピーク1 0.066 %、ピーク2 0.286 %)。この液体クロマトグラフィー分析にかけたサンプルのTCDTAデータ-(図7)分析を行ったところ溶媒とみられる重量減少(0.97%)が観測された。このような溶媒を含有している材料は有機EL素子の寿命および特性に大きな悪影響を及ぼすことが知られている。一方、本発明の昇華精製装置により精製したDFLDPBiの高速液体クロマトグラフィーのデータ-(図6)では未昇華精製サンプルに比べると僅かではあるが不純物ピークは小さくなり(ピーク1 0.012 %、ピーク2 0.096 %)、さらにそのTGDTAデータ-(図8)で含有溶媒とみられる重量減少は殆ど無い。
【0103】
本実験の測定は以下の条件で行った。
【0104】
高速液体クロマトグラフィー:カラムはSHODEX PACK F-411、移動相:メタノール/クロロホルム 9/1、移動層流量 1 ml/min、試料注入:10ul、試料濃度5 mg/ml クロロホルム、検出器:励起光波長366 nm,
検出波長 417 nm。
【0105】
TGDTA:窒素雰囲気化、昇温速度 10℃/min。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施例1の昇華精製装置の説明図。
【図2】実施例2の昇華精製容器の詳細図。
【図3】実施例2の昇華精製装置の説明図。
【図4】実施例3の昇華精製装置及び捕集管の説明図。
【図5】従来例の昇華精製装置の説明図。
【図6】DFLDPBi昇華精製後のTGDTA。
【図7】DFLDPBi未昇華精製のTGDTA。
【図8】DFLDPBi昇華精製後のHPLC。
【図9】DFLDPBi未昇華精製のHPLC。
【図10】DFLDPBi未精製のHPLC。
【符号の説明】
【0107】
1、30,45,60 昇華精製装置
2、3、31,61 真空容器
2b、23、23a、32b ノズル
7、39、50、51、52、53、68 ヒータ
8、40、54、55、56、57、67 温度制御装置
9、34、64 ボート
4、35、47、65 試料
20、32 昇華容器
5、37 捕集器
46、47、48、49 捕集管
6、38、67 排気ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料を昇華精製するための昇華精製装置であって、
かつ真空チャンバー内に熱源を有し、該有機材料を該熱源より加熱し昇華せしめる手段と、
昇華した有機材料を捕集する手段とを有することと、
該真空チャンバーは、略円筒形状を成し、また真空状態とする為のポンプに接続され、該ポンプの排気方向に、前記略円筒形状の円形断面の面積を徐々に小さくしてノズルを形成するか、あるいは、オリフィスを配置し、その後に元の大きさの円形断面積程度の大きさとし、該ポンプによる排気を膨張せしめる空間を有することと、
前記排気が、前記膨張空間にて膨張する際にジュール・トムソン効果により、温度低下せしめることを特徴とする昇華精製装置。
【請求項2】
請求項1記載の昇華精製装置で、該真空チャンバーのポンプの排気方向において、
該ノズルあるいはオリフィスの上流に、熱源を配し、該有機材料を該熱源より加熱し昇華せしめる手段を設け、該ノズルあるいはオリフィスの下流に、昇華した有機材料を捕集する手段を設けたことを特徴とする、昇華精製装置。
【請求項3】
昇華精製装置内に、真空チャンバーと材料を昇華せしめるための熱源があり、
該真空チャンバー内には、昇華容器を配置する構成であって、
該昇華容器は、真空ポンプによる排気方向に、排気の絞り込みを行なうノズルあるいはオリフィスが設けられていることを特徴とする、昇華容器。
【請求項4】
昇華精製装置内において、請求項3記載の昇華容器を、排気方向に、任意の個数を直列に並べて配置し、最上流の1個目の昇華容器内の排気が、該昇華容器内の排気の絞り込みを行なうノズルあるいはオリフィスを流れて、その次に配置する2個目の昇華容器に流れることで、排気の膨張空間を形成し、さらにこの昇華容器内のノズルあるいはオリフィスによって、排気が絞り込まれるという行程を繰り返すことを特徴とする、昇華容器および昇華精製装置。
【請求項5】
請求項4記載の昇華容器及びその配置であって、直列に配置した各々の昇華容器内に、昇華物の捕集手段を設けたことを特徴とする、昇華容器及び昇華精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−44592(P2007−44592A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229719(P2005−229719)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】